JP6065649B2 - ラッカーゼ活性を有するタンパク質の高活性化変異体、及びこれをコードする核酸分子、及びその利用 - Google Patents

ラッカーゼ活性を有するタンパク質の高活性化変異体、及びこれをコードする核酸分子、及びその利用 Download PDF

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Description

本発明は、ラッカーゼ活性を有するタンパク質の高活性化変異体、及びこれをコードする核酸分子、及びその利用に関する。詳細には、ラッカーゼ活性を有するタンパク質の高活性化変異体、当該高活性化変異体をコードする遺伝子、当該遺伝子を含むベクター、当該ベクターを含む宿主細胞、当該高活性化変異体の製造方法、及び当該高活性化変異体を利用するバイオ電池、バイオセンサー、及びフェノール類化合物の検出方法に関する。
酵素は、生体内の化学反応(代謝)を進行させる生体触媒であり、アミノ酸の鎖からなるタンパク質を基本構造とする。酵素の特性としては、(1)常温、常圧付近の温和な条件で触媒作用を示す、(2)特定の基質にのみ作用する基質特異性と、特定の化学反応に対して触媒作用を示し、副反応を起こさない反応特異性とを併せ持つ、ことが挙げられる。酵素の中でも、生体内の酸化還元を触媒する酵素を、酸化還元酵素という。特に、基質を酸化させる酵素を酸化酵素といい、基質を還元させる酵素を還元酵素という。電極表面にある種の酸化還元酵素を固定すると、酵素の触媒作用によって電極上で特定の酸化還元反応のみが選択的に進行し、酸化還元反応による物質の変化を電極により電気信号に変換することができる。このような電極は酵素電極と呼ばれており、バイオ電池の電極等に利用されている。
近年、炭酸ガス増加による地球温暖化や化石燃料枯渇など地球規模の課題が表面化しており、その対応の方向として、再生可能エネルギーの利用、CO2を原料とした物質変換による、炭素循環サイクルの適正化が求められている。そのような将来の低炭素社会の実現には、再生可能エネルギーの大量導入やSmart grid技術で、化石燃料に依存していたエネルギーバランスを改善(エネルギーの地産地消)する必要がある。再生可能エネルギーの中でも特に、バイオマス発電は安定したエネルギー源で大型設備が不要なため地産地消に適している。バイオマスエネルギー利用技術として、生物の酵素反応を利用したクリーンで安価な発電技術であるバイオ電池は、高効率、低コストで安全性が高く小型の移動型電源に適している。
そして、ラッカーゼも前記酸化還元酵素の一つである。基質酸化活性を有し、フェノール類化合物であるo-, p-ジフェノール、p-フェニレンジアミン、アスコルビン酸などを酸化する反応を触媒するマルチ銅酸化酵素である。ラッカーゼは、計4個の銅イオンが結合した活性中心を有し、それらの機能は、基質から電子を引き抜き(電子受容部位)、その電子を用いて酸素を水に還元する反応を触媒する。電子供与体との反応サイト(タイプI銅部位)と、電子受容体との反応サイトが異なる特徴をもつ。このようなマルチ銅酸化酵素であるラッカーゼの触媒能力は、種々の化学反応に応用可能である。例えば、毒性の強いフェノール類化合物や芳香族アミンを含む廃液の処理、パルプ製造処理等におけるリグリンの除去、電極触媒、人工漆の製造、有機化合物の合成、紅茶の褐変処理、化粧品用メラニン製造、食品のゲル化剤、臨床検査試薬、漂白剤としての利用等、多くの産業分野への利用が期待されている。また、ラッカーゼは電極を電子供与体とすることが知られており、カーボン基材等の適当な電極基材との組合せにより、バイオ電池のカソード(酸素還元極)用の電極触媒やバイオセンサー用の電極触媒としての産業利用が期待されている。
ラッカーゼをはじめとするマルチ銅酸化酵素は、微生物、菌類、植物等に広く存在することが知られており、多種多様の生物から単離されている(非特許文献1等)。非特許文献1には、ラッカーゼに関する特許総説であり、種々のラッカーゼの特性が開示されている。なかでも、大腸菌(非特許文献2等)、枯草菌Bacillus subtillis(非特許文献3等)、クワ暗斑病菌Myrothecium verrucaria(非特許文献4等)、サーマス・サーモフィラスThermus thermophilus(非特許文献5、6等)等に由来するマルチ銅酸化酵素の研究が特に進められている。非特許文献2には、大腸菌の銅排出系に関与するマルチ銅酸化酵素(CueO)が報告され、CueOが他のマルチ銅酸化酵素とは異なる基質特異性を示す等、その特性が開示されている。非特許文献3には、枯草菌の芽胞外殻タンパク質(CotA)がラッカーゼ活性を有し、非常に安定した活性を示すことが報告されている。非特許文献4には、クワ暗斑病菌由来のビリルビンオキシダーゼが報告され、高い熱安定性、pH安定性を示す等、その特性が開示されている。非特許文献5、6には、サーマス・サーモフィラスのHB27株由来のラッカーゼが報告され、高い熱安定性を有する等、その生物学的特性等の特性が開示されている。特に非特許文献6には、その電気化学的特性が開示されている。また、非特許文献2に記載の大腸菌由来のCueOの高活性化変異体について報告されている(非特許文献7)。
また、環境試料中から微生物の分離培養を介さずに調製されたメタゲノムからもマルチ銅酸化酵素は単離されている(特許文献1、特許文献2等)。特許文献1に開示のラッカーゼは以前に本発明者らによって見出されたものであり、至適温度が高く、至適pHも5.0と酸性領域であり、熱安定性及びpH安定性が優れる等、その特性が報告されている。特許文献2には、活性汚泥から調製されたメタゲノム由来のラッカーゼが報告されている。そして、広範な基質特異性、熱安定性、界面活性剤及びキレート剤耐性を示し、また至適pHがアルカリ性である等、その特性が開示されている。
特開2011-87474号公報(特願2009-241586) 特願2009-201481号公報(特願2008-50087)
Adinarayana Kunamneni他著、"Laccases and Their Applications: A Patent Review(ラッカーゼ及びそれらの出願:特許総説)" Recent Patents on Biotechnology、2008年、第2巻、第1号、第10〜24頁、ISSN:1872-2083 Kataoka K.他著、"Four-Electron Reduction of Dioxygen by a Multicopper Oxidase, CueO, and Roles of Asp112 and Glu506 Located Adjacent to the Trinuclear Copper Center(マルチ銅酸化酵素、CueOによる酸素分子の4電子還元、及び三核銅センター近傍に位置するAsp112及びGlu506の役割)"、J. Biol. Chem.、2009年、第284巻、第21巻、第14405〜14413頁 Ligia O. Martins 他著、"Molecular and Biochemical Characterization of a Highly Stable Bacterial Laccase That Occurs as a Structural Component of the Bacillus subtilis Endospore Coat(枯草菌の芽胞外殻の構造的成分として存在する非常に安定なバクテリアラッカーゼの分子的及び生化学的特性)"、J Biol Chem.、2002年、第277巻、第21号、第18849〜18859頁 アマノエンザイム社製試薬Bilirubin Oxidase"Amano" 3(Myrothecium sp.)データシート Miyazaki K.他著、"A hyperthermophilic laccase from Thermus thermophilus HB27.(サーマス・サーモフィラスHB27株由来の超好熱性ラッカーゼ)" Extremophiles : life under extreme conditions." Extremophiles、2005年、第9巻、第6号、第415〜425頁 Liu X.他著、"Electrochemical properties and temperature dependence of a recombinant laccase from Thermus thermophilus.(Thermus thermophilus HB27由来の組換えラッカーゼの電気化学的性質および温度依存性)"、Anal. Bioanal. Chem.、2011年、第399巻、第1号、第361〜366頁 Kataoka K.他著、Enhancement of laccase activity through the construction and breakdown of a hydrogen bond at the type I copper center in Escherichia coli CueO and the deletion mutant Δα5-7 CueO.(大腸菌CueO中のタイプIの銅中心における水素結合の構築及び破壊を通したラッカーゼ活性の増強、および欠失変異体Δα57 CueO)"Biochemistry、2011年、第50巻、第4号、第558〜565頁
しかしながら、上記した通り、多種多様の生物からラッカーゼ活性を有するタンパク質が単離されているが、バイオ電池やバイオセンサーの電極触媒等としての実用化のためには、触媒活性の更なる向上が望まれていた。触媒活性の向上は、バイオ電池の出力向上やバイオセンサーの感度向上等につながり、当該分野における技術発展を促進する。そこで、本発明は、既知のラッカーゼ活性を有するタンパク質に比べ、優れた基質触媒活性を有する高活性化変異体の提供を目的とする。また、電極への優れた直接的な電子伝達効率及び安定した触媒機能を有し、電極触媒としての利用に適した高活性化変異体の提供を目的とする。
そこで、本発明者らは上記目的を達成するべく、鋭意研究を行った結果、既知の野生型ラッカーゼの立体構造を構成するアミノ酸の中のある特定のアミノ酸残基が比活性に影響を与えることを見出した。そして、これを他のアミノ酸残基に置換することにより比活性が向上し、野生型との比較でラッカーゼ活性の最大処理能力を3〜4倍向上させることができることを見出した。更に、N末端側の一部領域のアミノ酸群を欠失させることによって、電極への直接的な電子伝達効率及び触媒機能の安定性を向上できることを見出した。これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
即ち、以下の〔1〕〜〔15〕に示す発明を提供する。
〔1〕以下からなる群より選択されるタンパク質。
(a)配列番号2のアミノ酸配列の第308番目のメチオニンが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号2のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されており、そして配列番号2のアミノ酸配列の308番目に相当する位置のアミノ酸残基がメチオニン以外であるアミノ酸配列を含み、配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質と比較して向上したラッカーゼ活性を有するタンパク質
〔2〕前記他のアミノ酸が、アルギニンである。
〔3〕以下からなる群より選択される本発明のタンパク質。
(a)配列番号4のアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号4のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されており、そして配列番号4のアミノ酸配列の308番目に相当する位置のアミノ酸残基がアルギニンであるアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質と比較して向上したラッカーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号5のアミノ酸配列からなるタンパク質
(d)配列番号5のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されており、そして配列番号5のアミノ酸配列の308番目に相当する位置のアミノ酸残基がアルギニンであるアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質と比較して向上したラッカーゼ活性を有するタンパク質
〔1〕〜〔3〕の構成によれば、野生型と比べてラッカーゼ活性が向上した新規な高活性化変異体を提供する。当該高活性化変異体は、ラッカーゼ活性における最大処理能力(Vmax値)が3〜4倍向上する等、優れた基質触媒能力を有する。したがって、当該高活性化変異体は、医療、食品、環境分野等の様々な産業分野において、フェノール類化合物の酸化還元反応を要する技術に適用することができる。特に、優れた基質触媒能力が要求されるバイオ電池やバイオセンサーの電極触媒としての利用が期待される。
〔4〕以下からなる群より選択されるタンパク質。
(a)配列番号25のアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号25のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されており、そして配列番号25のアミノ酸配列の241番目に相当する位置のアミノ酸残基がアルギニンであるアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質と比較して向上したラッカーゼ活性、及び配列番号4又は5のアミノ酸配列からなるタンパク質と比較して向上した直接電子伝達活性を有するタンパク質
(c)配列番号27のアミノ酸配列からなるタンパク質
(d)配列番号27のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されており、そして配列番号27のアミノ酸配列の268番目に相当する位置のアミノ酸残基がアルギニンであるアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質と比較して向上したラッカーゼ活性、及び配列番号4又は5のアミノ酸配列からなるタンパク質と比較して向上した直接電子伝達活性を有するタンパク質
上記〔4〕の構成によれば、野生型と比べてラッカーゼ活性が向上すると共に、電子伝達効率及び性能安定性が向上したN末端側切断型の高活性化変異体を提供する。当該高活性化変異体は、改変の基礎とした野生型に比べて、そのラッカーゼ活性を3〜4倍向上できると共に、既存のラッカーゼ活性を有するタンパク質と比べて電子伝達機能が3〜4倍以上向上している。そして、N末端側切断前の本発明の高活性化変異体、例えば、配列番号4又は5のアミノ酸配列からなるタンパク質、と比べても電子伝達機能を4〜5倍以上向上させることができる等、優れた電極触媒性能を有する。詳細には、本発明のN末端側切断型の高活性化変異体を電極触媒として利用し場合に、電極との直接電子移動が可能であり、高い触媒電流を得ることができる。したがって、当該N末端側切断型の高活性化変異体は、医療、食品、環境分野等の様々な産業分野において、フェノール類化合物の酸化還元反応を要する技術に適用することができる。特に、優れた基質触媒能力及び電極触媒能力が要求されるバイオ電池やバイオセンサーの電極触媒としての利用が期待される。
〔5〕上記タンパク質(高活性化変異体)をコードする核酸分子。
〔6〕上記核酸分子を含有する組換えベクター。
〔7〕上記組換えベクターを有する形質転換体。
〔8〕上記形質転換体を10〜20℃で培養する工程、及び得られた培養物からラッカーゼ活性を示すタンパク質を採取する工程を含む、上記タンパク質を製造する方法。
〔5〕〜〔8〕の構成によれば、野生型と比べてラッカーゼ活性が向上した新規な高活性化変異体をコードする核酸分子、組換えベクター、形質転換体、及び当該高活性化変異体を製造する方法を提供する。また、当該高活性化変異体をコードする塩基配列が判明したことから、遺伝子工学的手法により低コストかつ工業的に当該高活性化変異体を大量生産することができる。これにより、当該高活性化変異体の産業上の利用価値をさらに高めることができる。
〔9〕上記タンパク質(高活性化変異体)を固定化した電極を、カソード側電極として備えるバイオ電池。
〔10〕上記タンパク質(N末端側切断型の高活性化変異体)を電気伝導性の多孔性材料を介して固定化した電極を、カソード側電極として備える。
〔11〕前記多孔性材料が、直径20〜40nmの細孔を有する多孔性カーボンである。
〔9〕の構成によれば、野生型と比べてラッカーゼ活性が向上した新規な高活性化変異体をカソード側電極として利用したバイオ電池を提供する。当該バイオ電池は、カソード側電極触媒として利用される当該高活性化変異体が優れた基質触媒能力を有することから、カソード側電極上での酸化還元反応が高効率に進められ、その結果、得られる電気エネルギーが増加し高出力かつ安定した発電が可能となる。これにより高性能で実用性の高いバイオ電池を構築することができる。
特に〔10〕〜〔11〕の構成によれば、上記〔4〕の本発明のN末端側切断型の高活性化変異体を多孔性材料の細孔内に電極との直接電子移動ができる形で固定することができ、これにより直接電子移動型の優れた触媒電流性能を有する電極として構成することができる。そして、細孔内に充填することにより電極上での本発明のN末端側切断型の高活性化変異体の触媒機能等の性能低下を低減でき電極の安定性が向上するとの利点もある。これにより、更なる高出力かつ安定した発電が可能となり、高性能で実用性の高いバイオ電池を構築することができる。
〔12〕上記タンパク質(高活性化変異体)を固定化した電極を、基質認識部位として備えるバイオセンサー。
〔13〕上記のタンパク質(N末端側切断型の高活性化変異体)を電気伝導性の多孔性材料を介して固定化した電極を備える。
〔14〕前記多孔性材料が、直径20〜40nmの細孔を有する多孔性カーボンである。
〔12〕の構成によれば、野生型と比べてラッカーゼ活性が向上した新規な高活性化変異体を基質認識部位として利用したバイオセンサーを提供する。基質認識部位として利用される当該高活性化変異体は、優れた基質触媒能力を有することから、基質認識部位である作用電極上で、検出対象物質である基質の酸化還元反応が高効率で進む。その結果、電気信号の高出力化により検出感度の向上を図ることができる。これにより、高性能で実用性の高いバイオセンサーを構築することができる。したがって、当該バイオセンサーは当該高活性化変異体の基質であるフェノール類化合物を検出するためのフェノールセンサーとして、医療、食品、環境分野等、種々の産業分野において利用可能である。
特に〔13〕〜〔14〕の構成によれば、上記〔4〕の本発明のN末端側切断型の高活性化変異体を多孔性材料の細孔内に電極との直接電子移動ができる形で固定することができ、これにより直接電子移動型の優れた触媒電流性能を有する電極として構成することができる。そして、電極上での本発明のN末端側切断型の高活性化変異体の性能低下を低減できるとの利点もある。これにより、更なる電気信号の高出力化により検出感度の向上を図ることができ、高性能で実用性の高いバイオセンサーの構築に貢献できる。
〔15〕上記タンパク質(高活性化変異体)と被検試料とを接触させ、ラッカーゼ活性の変化を測定することによりフェノール類化合物を検出する、フェノール類化合物の検出方法。
〔15〕の構成によれば、野生型と比べてラッカーゼ活性が向上した新規な高活性化変異体を利用して、フェノール類化合物を検出する方法を提供する。フェノール類化合物は当該高活性化変異体の基質であり、当該高活性化変異体がもつ優れた基質触媒能力を利用してフェノール類化合物を検出する。検出対象物質である基質の酸化還元反応が高効率で行われるため、検出感度の向上を図ることができる。したがって、当該フェノール類化合物の検出方法は高精度で実用性が高く、医療、食品、環境分野等、種々の産業分野において利用可能である。
変異体No.3の構築の基礎とした野生型MELACの塩基配列を示す図。 変異体No.3の構築の基礎とした野生型MELACのアミノ酸配列を示す図。 変異体No.3の塩基配列を示す図。 変異体No.3のアミノ酸配列を示す図。 実施例1のステップ4において、野生型MELACを基に作成した変異体のラッカーゼ活性を測定した結果を示す図。 実施例4において、実施例1のステップ4で取得した変異体(変異体No.3)の組換え合成及び精製を確認した結果を示す電気泳動図。 実施例1のステップ4で取得した各変異体のラッカーゼ活性を比較した実施例4の結果を示すグラフ。 実施例4において高活性化変異体であると確認された変異体No.3のラッカーゼ活性のPH依存性(pH3.5〜5.5)を確認した実施例5の結果を示すグラフ。 変異体No.3のラッカーゼ活性のPH依存性(pH5.5〜8.0)を確認した実施例5の結果を示すグラフ。 実施例6において、変異導入部位のラッカーゼ活性向上に対する影響を調べるために、変異体No.3の二箇所の変異導入部位のうちの一箇所のみ変異を導入した変異体(変異体Q225R、変異体M308R)の組換え合成及び精製を確認した結果を示す電気泳動図。 変異体No.3において、変異導入部位のラッカーゼ活性向上に対する影響を確認した実施例6の結果を示すグラフ。 変異体No.3、変異体M308R、野生型MELACのラッカーゼ活性の基質濃度依存性(0〜2000μM)を確認した実施例7の結果を示すグラフ。 変異体No.3、変異体M308R、野生型MELACのラッカーゼ活性の基質濃度依存性(1000〜4500μM)を確認した実施例7の結果を示すグラフ。 実施例9にて構築した野生型MELACの立体構造モデルを示す図であり、Ball&Stick表示によりM308及びタイプIの銅の位置を示す。 実施例9にて構築した野生型MELACの類似酵素Mv.BOの立体構造モデルを示す図であり、Ball&Stick表示により基質結合に関与すると推定されるアミノ酸群を示す。 実施例9にて構築した図9Aと図9Bの立体構造モデルを重ね合わせた図。 野生型MELAC亜種の配列特定を行った実施例10の結果を示すアライメント図(その1)。 野生型MELAC亜種の配列特定を行った実施例10の結果を示すアライメント図(その2)。 野生型MELAC亜種の配列特定を行った実施例10の結果を示すアライメント図(その3)。 変異体M308Rのラッカーゼ活性を電気化学的に測定より電極触媒活性として確認した実施例11の結果を示すグラフ。 酵素改変の検討を行った実施例12の結果を示す図であり、変異体M308Rとサーマス・サーモフィラスHB27株由来の耐熱性ラッカーゼとのアミノ酸配列比較の結果を示す。 酵素改変の検討を行った実施例12の結果を示す図であり、変異体M308Rと変異体M308R-Del68との構造モデルの比較を表す。 改変酵素の作製を行った実施例13において、作製した変異体M308R-Del68の基礎とした変異体M308Rの塩基配列と、変異体M308R-Del68作製、変異体M308R-Del41、変異体M308R-Del77のための欠失部位を示す図。 改変酵素の作製を行った実施例13において、作製した変異体M308R-Del68の基礎とした変異体M308Rのアミノ酸配列と、変異体M308R-Del68変異体M308R-Del41、変異体M308R-Del77作製のための欠失部位を示す図。 改変酵素の作製を行った実施例13において、作製した変異体M308R-Del68の塩基配列を示す図。 改変酵素の作製を行った実施例13において、作製した変異体M308R-Del68のアミノ酸配列を示す図。 改変酵素の作製を行った実施例13の結果を示す電気泳動図であり、電気泳動によるタンパク質の確認結果を示す。 ラッカーゼ活性の測定により変異体の活性確認を行った実施例14の結果を示すグラフ。 実施例13で作製した変異体の電極触媒活性の比較により変異体の活性確認を行った実施例15の結果を示すグラフ。 既存の酵素との電極触媒活性の比較により変異体M308R-Del68の活性確認を行った実施例16の結果を示すグラフ。 多孔性カーボン電極を作製する際のカーボンゲル細孔径の最適化を固定化量により検討した実施例17の結果を示すグラフ。 多孔性カーボン電極を作製する際のカーボンゲル細孔径の最適化を電極触媒活性により検討した実施例17の結果を示すグラフ。 既存の酵素との電極触媒活性の比較により変異体M308R-Del68の活性確認を行った実施例18の結果を示すグラフ。 既存の酵素との耐久性の比較により変異体M308R-Del68の活性確認を行った実施例19の結果を示すグラフであり、変異体M308R-Del68の溶媒中での耐久性を検討した結果を示す。 既存の酵素との耐久性の比較により変異体M308R-Del68の活性確認を行った実施例19の結果を示すグラフであり、既存の酵素の溶媒中での耐久性を検討した結果を示す。
以下、本発明について詳細に説明する。
1.本発明のラッカーゼ活性を有するタンパク質の高活性化変異体
本発明のラッカーゼ活性を有するタンパク質の高活性化変異体(以下、本明細書において「高活性化変異体」と称する場合がある。)は、天然に存在する野生型のラッカーゼ活性を有するタンパク質(以下、本明細書において「野生型ラッカーゼ」と称する場合がある。)のアミノ酸配列において、少なくとも1つの位置のアミノ酸の欠失、置換、付加或いは挿入により改変されており、そして、野生型ラッカーゼに比べてその触媒活性が向上している。ここで、「少なくとも1つの位置のアミノ酸の欠失、置換、付加或いは挿入により改変」とは、改変の基礎となるタンパク質をコードする遺伝子に対して、公知のDNA組換え技術、及び点変異導入方法等によって、欠失、置換、付加或いは挿入することができる程度の数のアミノ酸が、欠失、置換、付加或いは挿入されることを意味し、これらの組み合わせをも含む。したがって、高活性化変異体は、これらの改変を1つ有するものであっても、また2つ以上が組み合わされたものであってもよい。このような改変は、自然界において非意図的に生じることもあるが、人為的に導入したものであることが好ましい。
ここで、ラッカーゼとは、基質酸化反応の触媒能力を有する酸化酵素であり、その触媒中心に4個の銅イオンが結合したマルチ銅酸化酵素である。つまり、ラッカーゼ活性とは基質酸化活性であり、具体的には、フェノール類化合物であるo-, p-ジフェノール、p-フェニレンジアミン、アスコルビン酸などの酸化が挙げられ、その触媒機能は、基質から電子を引き抜き(電子受容部位)、その電子を用いて酸素を水に還元することにより発揮される。そして、電子供与体との反応部位(タイプI銅部位)と、電子受容体との反応部位が異なることが知られている。基質としては、例えば、2,2'-アジノ-ビス-(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸(2,2'-azino-bis-(3-ethylbenzothiazoline-6-sulfonate (以下、「ABTS」と略する)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メチルアニリン(以下、「TOOS」と略する)、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、N,N-ジメチル-p-フェニレンジアミン、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、フェノール、グアヤコール、ピロガロール、p-ヒドロキシ安息香酸、カフェイン酸、ヒドロカフェイン酸、o-クレゾール、p-トルイジン、o-クロロフェノール、m-クロロフェノール、p-クロロフェノール、2,4-ジクロロフェノール、2,6-ジクロロフェノール、2,4,6-トリクロロフェノール、2,6-ジメトキシフェノール、p-フェニレンジアミン、没食子酸プロピル等が例示でき、特にABTSが好ましく利用できる。
そして、「高活性化」とは、ラッカーゼ活性が、野生型のラッカーゼよりも向上した活性を示すことを意味し、野生型ラッカーゼよりも少なくとも2倍以上の活性を示すことを意味し、好ましくは3〜3.5倍以上の活性を示すことを意味する。活性の確認は、ラッカーゼ活性を公知方法により測定し改変部位を有しない野生型ラッカーゼと比較して、活性が向上しているか否かを確認することによって行うことができる。したがって、基質であるフェノール類化合物に対する酸化活性を測定することにより行うことができる。例えば、活性の向上は、酵素の最大処理能力を示す最大反応速度(Vmax値)の比較等により確認することができる。具体的には、フェノール類化合物の酸化還元反応を触媒する酵素の活性測定法として知られる方法をいずれをも利用して行うことができる。例えば、ABTSを基質とし、基質の酸化反応に伴う418nmにおける吸光度変化を測定し、かかる吸光度変化をもって当該酵素の活性とすることができる。したがって、ABTSの酸化速度を418 nmでの吸光度の変化から算出することができる。
野生型ラッカーゼとは、自然界より分離された ラッカーゼ活性を有するタンパク質のアミノ酸配列、及び該タンパク質をコードする核酸分子の塩基配列が、一般的には、意図的もしくは非意図的に改変が生じている改変部位を有していないことを意味する。ただし、Hisタグ等のタグペプチド等のタンパク質の機能に変化を与えないことが明らかな改変は許容される。また、野生型ラッカーゼの由来は特に制限されない。ラッカーゼ活性を有するタンパク質を生産する能力を有する生物体である限り、いずれの生物体に由来するものであってもよい。特には細菌由来である。好ましくは、堆肥等の環境試料中に存在する生物体に由来する。たとえば、環境試料から調製されたメタゲノムDNAより発現させたタンパク質から、ラッカーゼ活性を有するタンパク質をスクリーニングすることにより取得することができる。特に好ましくは、野生型ラッカーゼとして、環境試料からのメタゲノム由来の配列番号2(図1B)に示すタンパク質や当該タンパク質にタグペプチドを付加した配列番号22に示すタンパク質を用いることができる。なお、本明細書においては、これを「MELAC」と称する場合があり、また「MELAC」をコードする核酸分子を「melac」と称する場合がある。野生型「MELAC」は、常温域で活性化する共に耐熱性に優れたラッカーゼである。したがって、これを基礎として高活性化変異体を作製することは、高い活性を持ち、かつ耐熱性に優れた利用価値の高い変異体の構築が可能となり、特に好ましい。
野生型ラッカーゼとしてはそのアミノ酸組成の違いにより異なる分子量を有していてもよいが、好ましくは比較的小さな分子量を有していることが望ましい。ラッカーゼが特に適用が期待されるバイオ電池やバイオセンサー等の電極は、出力向上の観点から触媒酵素を導電性部材上に高密度かつ大量に固定化して構成されることが要求される。そのため、低分子量の物質は、導電性部材の面積あたりの分子の担持量を高めることができ、電流密度を向上させることができる。上記MELAC は約47.5kDa とラッカーゼとしては比較的小さな分子量を有するため、バイオ電池やバイオセンサーの高性能化を期待できる。そのため、これを基礎として高活性化変異体を作製することは、高い活性を持ち、かつ分子量が小さな利用価値の高い変異体の構築が可能となり、特に好ましい。
ここで、改変としては、好ましくは他のアミノ酸への置換である。そして、他のアミノ酸としては、置換前のアミノ酸以外の何れもが含まれる。しかしながら、タンパク質機能改変の観点から極性、電荷、親水性、若しくは疎水性等の点で置換前のアミノ酸と異なる性質を有するアミノ酸であることが好ましい。例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファンは、共に非極性アミノ酸に分類されるため、互いに似た性質を有するが、これら以外のアミノ酸への置換はタンパク質機能へ影響を与えることが考えられる。また、非荷電性アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミンが挙げられる。また、酸性アミノ酸としては、アスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられる。また、塩基性アミノ酸としては、リシン、アルギニン、ヒスチジンが挙げられる。これらの各グループ内以外へのアミノ酸置換は、タンパク質の機能が改変されることが特に予想されるが、これに制限されるものではない。好ましくは、野生型MELACを示す配列番号2のアミノ酸配列において第308位に対応する位置におけるメチオニンの他のアミノ酸残基への置換が例示され、特に好ましくはアルギニンへの置換が例示される。そのアミノ酸配列を配列番号5に示す。かかるタンパク質は、耐熱性及びpH安定性が高く、かつ分子量の小さな野生型MELACを基礎に高活性化を目指して構築されたものであることから、高いラッカーゼ活性を有すると共に野生型MELACの優れた性質を有する。そして、このタンパク質は、前述の非特許文献2に記載の大腸菌由来ラッカーゼとは21%、非特許文献3の枯草菌由来のラッカーゼとは16%、非特許文献4のクワ暗斑病菌由来のラッカーゼとは18%、特許文献2に記載の環境試料のメタゲノム由来のラッカーゼとは13%程度のアミノ酸配列相同性しか示さず、新規なラッカーゼ活性を有するタンパク質である。
ここで、配列番号2に示すアミノ酸配列は、環境試料からのメタゲノム由来の野生型ラッカーゼのアミノ酸配列であるが、他の生物由来の当該酵素のホモログについても同様の位置が改変されたものも本発明の高活性化変異体に含まれる。
また、前述の高活性化変異体の性質を保持している限り、更に特定のアミノ酸に改変が生じている改変部位を有するアミノ酸配列を含むものであってもよい。例えば、野生型MELACの場合、配列番号2のアミノ酸配列において、第308位に対応する位置のメチオニンが他のアミノ酸に置換されている限り、他の位置のアミノ酸の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されていても、高活性化変異体の性質を保持している限り本発明に含まれる。例えば、配列番号2のアミノ酸配列の第308番目に対応する位置のメチオニンがアルギニンへ置換されており、かつ配列番号2のアミノ酸配列と70%、好ましくは80%、特に好ましくは90%以上の相同性を有するものが例示される。特に好ましくは、配列番号5に示すアミノ酸配列を有するタンパク質を例示することができる。また、好ましくは、配列番号2のアミノ酸配列の第308番目に対応する位置のアミノ酸残基の置換に加え、第255番目のグルタミンが他のアミノ酸に置換されたものが例示され、特に好ましくはアルギニンに置換された配列番号4(図1D)に示すアミノ酸配列を有するタンパク質を例示することができる。当業者はアミノ酸配列の改変に際して本発明の高活性化変異体の高活性化されたラッカーゼ活性を保持する改変を容易に予測することができる。具体的には、例えばアミノ酸置換の場合には、タンパク質構造保持の観点から極性、電荷、親水性、若しくは疎水性等の点で置換前のアミノ酸と類似した性質を有するアミノ酸に置換することができる。このような類似した性質のアミノ酸への置換は保守的置換として当業者には周知であり、タンパク質の機能が維持されるとして許容される。また、その後の精製、固相への固定化等の便宜のため、アミノ酸配列のN、又はC末端にヒスチジンタグ(以下、「Hisタグ」と略する)ペプチド、FLAGタグペプチド等を付加したものも好適に例示される。このようなタグペプチドの導入は常法により行なうことができる。また、本発明の酵素活性の喪失を引き起こさない範囲内で、C末端側若しくはN末端側のアミノ酸残基を切断した切断型でもよい。更に、グルコシル化等の化学修飾を付加してもよい。
特に、上記高活性化変異体のN末端側の1〜68個のアミノ酸を欠失させたN末端側切断型の高活性化変異体が例示できる。例えば、配列番号2のアミノ酸配列において、第308番目に対応する位置のメチオニンが他のアミノ酸配列に置換され、かつ、N末端から連続する第1〜68番目までのアミノ酸の1以上のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列を有するN末端側切断型の高活性化変異体も本発明に含まれる。好ましくは、配列番号2のアミノ酸配列において、第308番目に対応する位置のメチオニンが他のアミノ酸配列に置換され、第1〜68番目までの68個のアミノ酸が欠失した配列を有するものが好ましく例示される。また、好ましくは、配列番号2のアミノ酸配列において、第308番目に対応する位置のメチオニンが他のアミノ酸配列に置換され、第1〜41番目までの41個のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列を有するものが好ましく例示される。なお、一番目のアミノ酸メチオニンは開始コドンにより付加されたものであるので、見かけ上は、N末端から第2〜68番目の連続するアミノ酸又は第2〜41番目の連続するアミノ酸を欠失させたと表現することもできる。当然ながら、配列番号4及び5のアミノ酸配列のうち、上記の部位に相当するアミノ酸が欠失したアミノ酸配列を有するものも本発明に含まれる。ここで、他のアミノ酸への置換としては、アルギニンが特に好ましく例示される。具体的には、配列番号5のアミノ酸配列の第1〜68番目の連続するアミノ酸を欠失させた配列番号25のアミノ酸配列(第1番目にメチオニンが付加)、及び配列番号5のアミノ酸配列の第1〜41番目の連続するアミノ酸を欠失させた配列番号27に示すアミノ酸配列(第1番目にメチオニンが付加)を有するものが特に好ましい。
そして、本発明のN末端側切断型の高活性化変異体は、前述のN末端側切断型でない高活性化変異体と同様に、野生型に比べてラッカーゼ活性が向上している。したがって、本願明細書において、単に「高活性化変異体」と称する場合には、N末端側切断型の高活性化変異体とN末端側切断型でない高活性化変異体の双方を含むものとする。更に、N末端側切断型の高活性化変異体は、電極触媒と使用した場合に電極への電子伝達効率が向上している。ここで、電子伝達効率の向上とは、好ましくは、既存のラッカーゼ活性を有する酵素比べて電子伝達効率が3〜4倍程度向上していることを意味する。そして、N末端側切断前の本発明の高活性化変異体、例えば、配列番号4又は5のアミノ酸配列からなるタンパク質、と比べても電子伝達機能を4〜5倍程度向上させることができる等、優れた電極触媒性能を有することを意味する。ここで、ラッカーゼは、電極を電子供与体とすることが判明しており、適当なカーボン電極との組合せにより、バイオ燃料電池やバイオセンサー用の電極触媒として産業利用が期待されているものである。そして、本発明のN末端側切断型の高活性化変異体は、カーボンゲル等の多孔性材料に固定して電極を構成したときに、電子伝達効率を向上させることができるものである。つまり、本発明のN末端側切断型の高活性化変異体は、多孔性材料の細孔内に電極との直接電子移動ができる形で固定することができ、これにより直接電子移動型の優れた触媒電流性能を有する電極として構成することができる。そして、細孔内に充填することにより電極上での本発明のN末端側切断型の高活性化変異体の性能低下を低減できるとの利点もある。したがって、本発明のN末端側切断型の高活性化変異体を、バイオ電池やバイオセンサー等の電極触媒に応用することにより、それらの性能向上に貢献することができる。
そして、配列番号2のアミノ酸配列の第308番目に対応する位置のメチオニンが他のアミノ酸に置換され、かつ、N末端側の1〜68個のアミノ酸うちの1以上のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列を有するもののうち、前述のN末端側切断型の高活性化変異体の性質を保持している限り、他の位置のアミノ酸の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されていてもよい。つまり、配列番号2のアミノ酸配列の第308番目に対応する位置のメチオニンがアルギニンへ置換されており、かつN末端側の1〜68個のアミノ酸の1以上のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列に対して、70%、好ましくは80%、特に好ましくは90%以上の相同性を有するものが例示される。当然ながら、配列番号25及び27に示すアミノ酸配列に対して、70%、好ましくは80%、特に好ましくは90%以上の相同性を有するものも本発明に含まれる。アミノ酸配列の改変については、前述の通りである。この場合も、配列番号2の第308番目に対応する位置のメチオニンはアルギニンに置換させていることが好ましく、配列番号25では第241番目、配列番号27では第268番目である。
本発明の高活性化変異体は公知の方法によって取得することができる。例えば、改変の基礎となる野生型ラッカーゼをコードする遺伝子に対して改変を施し、得られた改変型遺伝子を用いて宿主細胞を形質転換し、かかる形質転換体の培養物から上記活性を有するタンパク質を採取することによって取得することができる。
改変の基礎となる野生型ラッカーゼをコードする遺伝子は、公知の遺伝子クローニング技術を用いて取得することができる。例えば、GenBank等の公知のデータベースを検索することによって取得することができる遺伝子情報を基にしてプライマーを設計し、ラッカーゼ活性を有するタンパク質を産生し得る生物体から抽出したゲノムDNAを鋳型としてPCRを行うことにより取得することができる。また公知の遺伝子情報に基づいて、常法のホスホルアミダイト(phosphoramidite)法等の核酸合成法により合成することによっても取得するができる。ここで、本発明の改変型の基礎として好適なラッカーゼの遺伝子配列情報として、野生型MELACの塩基配列を配列表の配列番号1、図1Aに示す。これは、上記配列番号2に示す野生型MELACをコードする。また、配列番号2にタグ配列を付加した配列番号22のアミノ酸配列をコードする配列番号21の塩基配列も好適に利用できる。
野生型ラッカーゼをコードする遺伝子に改変を施す方法としては、特に制限はなく、当業者に公知の改変タンパク質作製のための変異導入技術を利用することができる。例えば、部位特異的突然変異誘発法、PCR法等を利用して変異を導入するPCR突然誘発法、あるいは、トランスポゾン挿入突然変異誘発法などの公知の変異導入技術を利用することができる。また、市販の変異導入用キット(例えば、QuikChange(登録商標) Site-directed Mutagenesis Kit(Stratagene社製))を利用してもよい。
特には、野生型ラッカーゼをコードするDNAを鋳型として、所望の改変を施した配列を含むオリゴヌクレオチドをプライマーとしてPCRを行うことによって取得することが、好ましく例示される。ここで、本発明の高活性化変異体の調製において、PCRを利用する場合に用いられるプライマーは、野性型ラッカーゼをコードする核酸分子と相補的な配列を含み、かつ所望の改変が生じるように設計されたものであり、常法に基づいて調製することができる。例えば、ホスホルアミダイト法等に基づく化学合成法等が利用可能である。化学合成法に基づきプライマーを調製する場合には、合成に先立って標的核酸の配列情報に基づいて設計される。プライマーの設計は、所望の領域を増幅するように、例えばプライマー設計支援ソフト等を利用して設計することができる。プライマーは合成後、HPLC等の手段により精製される。また、化学合成を行う場合には市販の自動合成装置を利用することも可能である。このようなプライマーとしては、10以上、好ましくは15以上、更に好ましくは約20〜50の塩基からなるオリゴヌクレオチドが例示される。
また、目的とする高活性化変異体のアミノ酸配列が定まると、それをコードする適当な塩基配列を決定でき、常法のホスホルアミダイト法等の核酸合成技術を利用して本発明の高活性化変異体をコードするDNAを化学的に合成することができる。
また、このような本発明の高活性化変異体は自然又は人工の突然変異により生じた突然変異体の中から前述のラッカーゼ活性が向上したタンパク質をスクリーニングすることにより取得できるが、人工の突然変異導入を施すことが好ましい。
2.本発明の高活性化変異体をコードする核酸分子
本発明の高活性化変異体をコードする核酸分子は、前述のラッカーゼ活性が向上した全ての高活性化変異体をコードするものを包含する。例えば、配列番号4、及び5に記載されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする全てのポリヌクレオチドであり、一具体例としては、配列番号4のアミノ酸配列をコードする配列番号3に示す塩基配列、配列番号5のアミノ酸配列をコードする配列番号23、配列番号25のアミノ酸配列をコードする配列番号24、配列番号27のアミノ酸配列をコードする配列番号26を含む核酸分子が挙げられるが、これに限定するものではない。ここで、本発明における核酸分子は、DNA及びRNAの双方が含まれ、DNAである場合には、一本鎖であると、二本鎖であるとは問わない。
本発明の高活性化変異体をコードする核酸分子は、本明細書においてその塩基配列が明確になったことから、かかる配列情報に基づいて、常法のホスホルアミダイト法等のDNA合成法を利用して化学的に合成することができる。また、改変の基礎となる野生型MELACをコードするDNAに対して改変を施すことによっても製造することができる。なお、詳細については前述した。
3.本発明の組換えベクター
本発明の組換えベクターは、適当なベクターに本発明の高活性化変異体をコードする核酸分子を組み込ことによって構築することができる。利用可能なベクターとしては、外来DNAを組み込め、かつ宿主細胞中で自律的に複製可能なものであれば特に制限はない。したがって、ベクターは、本発明の高活性化変異体をコードする核酸分子を挿入できる少なくとも1つの制限酵素部位の配列を含むものである。例えば、プラスミドベクター(pEX系、pUC系、及びpBR系等)、ファージベクター(λgt10、λgt11、及びλZAP等)、コスミドベクター、ウイルスベクター(ワクシニアウイルス、及びバキュロウイルス等)等が包含される。
そして、本発明の組換えベクターは、本発明の高活性化変異体をコードする核酸分子がその機能を発現できるように組み込まれている。したがって、核酸分子の機能発現に必要な他の既知の塩基配列が含まれていてもよい。例えば、プロモータ配列、リーダー配列、シグナル配列、並びにリボソーム結合配列等が挙げられる。プロモータ配列としては、例えば、宿主が大腸菌の場合にはlacプロモータ、trpプロモータ等が好適に例示される。しかしながら、これに限定するものではなく既知のプロモータ配列を利用できる。更に、本発明の組換えベクターには、宿主において表現型選択を付与することが可能なマーキング配列等をも含ませることができる。このようなマーキング配列としては、薬剤耐性、栄養要求性などの遺伝子をコードする配列等が例示される。具体的には、カナマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子等が例示される。
ベクターへの本発明の高活性化変異体をコードする核酸分子等の挿入は、例えば、適当な制限酵素で本発明の核酸分子を切断し、適当なベクターの制限酵素部位、又はマルチクローニング部位に挿入して連結する方法などを用いることができるが、これに限定されない。連結に際しては、DNAリガーゼを用いる方法等、既知の方法を利用できる。また、DNA Ligation Kit(タカラバイオ社)等の市販のライゲーションキットを利用することもできる。
4.本発明の形質転換体
本発明の形質転換体は、適当な細胞を本発明の高活性化変異体をコードする核酸分子を含む組換えベクターで形質転換することによって構築することができる。ここで、宿主となる細胞としては、本発明の高活性化変異体を効率的に発現できる宿主細胞であれば、特に制限はない。原核生物を好適に利用でき、特には大腸菌を利用することができる。その他、枯草菌、バシラス属細菌、シュードモナス属細菌等をも利用できる。大腸菌としては、例えば、E.coli DH5α、E.coli BL21、E.coli JM109等を利用できる。更に、原核生物に限定されず真核生物細胞を利用することが可能である。例えば、サッカロマイセス・セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等の酵母、Sf9細胞等の昆虫細胞、CHO細胞、COS-7細胞等の動物細胞等を利用することも可能である。形質転換法としては、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソームフェクション法、マイクロインジェクション法等の既知の方法を利用することができる。
5.本発明の高活性化変異体の製造方法
本発明の高活性化変異体の製造方法は、前述4の項で説明した本発明の形質転換体を培養し、得られた培養物からラッカーゼ活性を有するタンパク質を採取することにより行なうことができる。即ち、前述の本発明の形質転換体を培養する培養工程と、前記培養工程で発現した前記タンパク質を回収する回収工程とを備える。このように、適当な宿主で発現させることによって、低コストで本発明の高活性化変異体の大量生産が可能となる。
培養工程は、本発明の形質転換体を適当な培地に接種し、常法に準じて培養することにより行なわれる。本発明の形質転換体の培養は、宿主細胞の栄養生理学的性質を勘案して、培養条件を選択すればよい。使用される培地としては、宿主細胞が資化し得る栄養素を含み、形質転換体におけるタンパク質の発現を効率的に行えるものであれば特に制限はない。したがって、宿主細胞の生育に必要な炭素源、窒素源その他必須の栄養素を含む培地であることが好ましく、天然培地、合成培地の別を問わない。
培養工程は、本発明の形質転換体を適当な培地に接種し、常法に準じて培養することにより行なわれる。本発明の形質転換体の培養は、宿主細胞の栄養生理学的性質を勘案して、培養条件を選択すればよい。使用される培地としては、宿主細胞が資化し得る栄養素を含み、形質転換体におけるタンパク質の発現を効率的に行えるものであれば特に制限はない。したがって、宿主細胞の生育に必要な炭素源、窒素源その他必須の栄養素を含む培地であることが好ましく、天然培地、合成培地の別を問わない。例えば、炭素源として、グルコース、デキストラン、デンプン等が、また、窒素源としては、アンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、ペプトン、カゼイン等が挙げられる。他の栄養素としては、所望により、無機塩類、ビタミン類、抗生物質等とを含ませることができる。宿主細胞が大腸菌の場合には、LB培地、M9培地等が好適利用できる。また、培養形態についても特に制限はないが、大量培養の観点から液体培地が好適に利用できる。
なお、高活性化変異体の好適例として示した配列番号4、5、25及び27に示すタンパク質を大腸菌細胞内で発現させる場合には、培養条件として20℃以下の温度で行うことが好ましく、大腸菌の成長及びタンパク質産生を阻害しない程度の低い温度で培養することができる。例えば、10〜20℃の範囲内で培養することが好ましく、特には15〜20℃の範囲内で行うことが好ましい。
本発明の組換えベクターを保持する宿主細胞の選別は、例えば、マーキング配列の発現の有無により行なうことができる。例えば、マーキング配列として薬剤耐性遺伝子を利用する場合には、薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤含有培地で培養することによって行うことができる。
精製工程は、前述の培養工程において得られた形質転換体の培養物からの本発明の高活性化変異体を回収、即ち、単離精製することによって行えばよい。本発明の高活性化変異体の存在する画分に応じて、一般的なタンパク質の単離精製方法に準じた手法を適用すればよい。具体的には、本発明の高活性化変異体が宿主細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離、濾過等の手段により宿主細胞を除去して培養上清を得る。続いて、培養上清に、既知のタンパク質精製方法を適宜選択することにより、本発明のタンパク質を単離精製することができる。例えば、硫酸アンモニウム沈殿、透析、SDS-PAGE電気泳動、ゲル濾過、疎水、陰イオン、陽イオン、アフィニティークロマトグラフィ等の各種クロマトグラフィ等の既知の単離精製技術を単独、又は適宜組み合わせて適用することができる。特にアフィニティークロマトグラフィを利用する場合、本発明のタンパク質をHis タグ等のタグペプチドとの融合タンパク質として発現させて、かかるタグペプチドに対する親和性を利用することが好ましい。
一方、本発明の高活性化変異体が宿主細胞内で産生される場合には、培養物を遠心分離、濾過等の手段により宿主細胞を回収する。続いて、リゾチーム処理などの酵素的破砕方法、又は超音波処理、凍結融解、浸透圧ショック等の物理的破砕方法等により、宿主細胞を破砕する。破砕後、遠心分離、濾過等の手段により可溶化画分を収集する。得られた可溶化画分を、前述の細胞外に生産する場合と同様に処理することにより単離精製することができる。
本発明の高活性化変異体が、高い触媒活性に加え、耐熱性が高い場合には、前述の単離、精製工程において熱処理を併用することが有用かつ便利である。培養物から得られた宿主細胞及び培養上清には、当該宿主細胞由来の様々なタンパク質を含有する。しかし、熱処理を行なうことにより、宿主細胞由来の夾雑タンパク質は変性し凝縮沈殿する。これに対して、耐熱性の高いタンパク質は生じないことから、遠心分離等により宿主由来の夾雑タンパク質と容易に分離できる。また、培養液をそのまま、若しくは粗抽出液を使用する場合においても、熱処理を行なうことにより、他のタンパク質が失活することから、実質的に目的とする高活性化変異体のみを含むタンパク質溶液として使用することができる。このように、高活性化変異体を遺伝子工学的手法により製造する場合においても、宿主由来のその他のタンパク質を容易に除去することができる。したがって、精製度を向上させることができ、信頼性の高いタンパク質を製造できるという利点がある。
そして、精製された高活性化変異体が所望の改変が生じている変異部位を有するか否かの確認は、その理化学的性質や配列の分析によって行うことができる。理化学的性質の分析による場合、得られたタンパク質のラッカーゼ活性を公知方法により測定し改変部位を有しない野生型MELACと比較して、活性が向上しているか否かを確認することによって行うことができる。したがって、基質であるフェノール類化合物に対する酸化活性を測定することにより行うことができる。活性の測定は、フェノール類化合物の酸化還元反応を触媒する酵素の活性測定法として知られる方法をいずれをも利用して行うことができる。例えば、ABTSを基質とし、基質の酸化反応に伴う418nmにおける吸光度変化をもって測定し、かかる吸光度変化をもって当該タンパク質の活性とすることができる。したがって、ABTSの酸化速度を418 nmでの吸光度の変化速度から算出することができる。配列の分析による場合には、得られたタンパク質のアミノ酸配列を公知のアミノ酸分析法によって行うことができる。例えば、エドマン分解法に基づく自動アミノ酸決定法が利用できる。
6.本発明の高活性化変異体の利用
本発明の高活性化変異体は、高いラッカーゼ活性を有することから、種々の産業分野において利用することができる。その利用形態を以下に説明するが、しかしながらこれらに限定されるものではない。
6−1.酵素電極
本発明の高活性化変異体を、酵素電極の触媒として利用することができる。好ましくは、本発明の高活性化変異体を外部回路に接続した導電性基材上に固定化することにより構築することができ、構築された電極をバイオ電池やバイオセンサーなどに利用することができる。
導電性基材としては、グラファイト、グラッシーカーボン等のカーボン材、アルミニウム、銅、金、白金、銀、ニッケル、パラジウム等の金属又は合金、SnO2、In2O3、WO3、TiO2等の導電性酸化物等、従来公知の材質の導電性物質を使用することができる。また、これを単層又は2種以上の積層構造をもって構成してもよい。電極の大きさ及び形状等は特に限定されるものではなく、使用目的に応じて適宜調整することができる。
上述の本発明のN末端側切断型の高活性化変異体は、多孔性材料の細孔内に電極との直接電子移動ができる形で固定することができ、これにより直接電子移動型の優れた触媒電流性能を有する電極として構成することができる。そして、細孔内に充填することにより電極上での本発明のN末端側切断型の高活性化変異体の性能低下を低減できるとの利点もある。つまり、電極の安定性が向上するとの利点もある。
ここで多孔性材料とは、多数の細孔を有する材料を意味し、その表面に多数の細孔を有する電気伝導性(導電性)物質である限り特に制限なく使用することができる。そして、多孔性材料としては、好ましくは多孔性カーボンであり、特にはカーボンゲル等のカーボン微粒子が好ましい。具体的には、カーボンゲル等のカーボン微粒子をカーボンペーパー等の導電性基材に塗布して構成することが好ましい。導電性基材としては、上述したような公知の基材を用いることができる。例えば、実施例15の方法で調製することができる。ここで、カーボンゲルとは、レゾルシノールとホルムアルデヒドの重合によってできる多孔性炭素素材であり、メソ細孔を持つ導電性材料であることから、触媒担体やキャパシタ素材、バイオ電池の酵素電極用基材としての利用が期待されている。
多孔性カーボンの細孔の大きさは、固定化する本発明のN末端側切断型の高活性化変異体に応じて適宜設定される。つまり、細孔の大きさは、固定化するタンパク質サイズに合った最適値があり、細孔径が固定化対象の本発明のN末端側切断型の高活性化変異体よりも小さいと当該高活性化変異体は細孔に入ることができず、高密度な固定化を実現できない。一方、細孔径が本発明のN末端側切断型の高活性化変異体より大きいと当該高活性化変異体は細孔に入ることができ、電極との間で高効率な電子伝達反応ができその触媒機能を発揮できるようになる。しかしながら、細孔径が大きすぎる場合にも、固定された高活性化変異体と電極との間に余分な空間でき、直接電子伝達効率が低下する等の不具合が生じるため好ましくない。つまり、酵素上の電子の授受を行う部位が、適当な配向性をもって多孔性カーボンと接触する必要がある。したがって、例えば、配列番号25のN末端側切断型の高活性化変異体の場合には、細孔の直径を20〜40nm、好ましくは20〜35nm、特には22〜22.2nmに構成することができ、最適な細孔の直径は、22.2nmである。
導電性基材及び多孔性材料上へのタンパク質の固定化は、公知の方法によって行うことができる。例えば、物理的吸着、イオン結合,共有結合を介して固定化する担体結合法を利用することができる。例えば、物理的吸着による固定化の場合、本発明の高活性化変異体を含む溶液に導電性基材を接触させ、これを乾燥させることによって簡便に固定できる。また、グルタルアルデヒドなどの二価性官能基をもつ架橋試薬で架橋固定する架橋法をも利用できる。更には、アルギン酸,カラギーナン等の多糖類、導電性ポリマー、酸化還元ポリマー、光架橋性ポリマー等の網目構造をもつポリマー、透析膜等の半透性膜内に封入して固定化する包括法等をも利用することができる。また、これらを組み合わせて用いてもよい。
6−2.バイオ電池
本発明の高活性化変異体は、バイオ電池の構築に利用することができ、かかるバイオ電池も本発明の一部を構成する。本発明のバイオ電池は、例えば、酸化反応を行うアノード側電極と、還元反応を行うカソード側電極から構成され、必要に応じてアノード側電極とカソード側電極を隔離する電解質層を含んで構成され、好ましくは、6−1の項で説明した本発明の高活性化変異体を外部回路に接続した導電性基材上に固定化した電極を備える。また、高活性化変異体を適当な緩衝液中に溶解させた形態で供給してもよい。固定化に際しては、高活性化変異体は、銅原子を含むホロ酵素の状態で固定化することが好ましい。しかしながら、アポ酵素の形態で固定化し、銅原子を別の層として、又は、適当な緩衝液に溶解させた形態で供給してよい。また、その他の酵素の触媒活性の発現のために必要な物質を、別の層として、又は、適当な緩衝液に溶解させた形態で供給してよい。
そして、好ましくは、高活性化変異体を外部回路に接続した導電性基材上に固定化した電極はカソード側電極として構築する。カソード側電極で、本発明の活性化変異体は、アノード側電極からの電子を受け取り、酸素を水に還元する反応を触媒する。詳細には、負極で発生した電子を用いて分子状酸素を4電子還元し水分子を生成する反応を触媒する。
好ましくは、アノード側電極は、炭素電極とし、炭素電極と高活性化変異体との間で直に電子のやり取りを行うように構成する。また、炭素電極と高活性化変異体の間に、酸化還元物質を介在させるように構成してもよい。例えば、アノード側電極として、グルコースデヒドロゲナーゼ等の酸化還元酵素を固定化した電極を使用することができる。また、必要に応じて、酵素反応と電極間の電子伝達を媒介する電子メディエーターを用いる。メディエーターは、特に限定されるものではないが、例えば、キノン類、シトクロム類、ビオロゲン類、フェナジン類、フェノキサジン類、フェノチアジン類、フェリシアン化物、フェレドキシン類、フェロセンおよびその誘導体等が例示される。
本発明のバイオ電池は、高いラッカーゼ活性を発揮するという優れた基質触媒能力を有する本発明の高活性化変異体を利用することから、カソード側電極上での酸化還元反応が高効率に進められる。その結果、得られる電気エネルギーが増加し、高出力、かつ安定した発電が可能となる。これによりバイオ電池の高性能化を図ることができる。
上述したとおり、本発明のN末端側切断型の高活性化変異体は、多孔性材料の細孔内に電極との直接電子移動ができる形で固定することができ、これにより直接電子移動型の優れた触媒電流性能を有する電極として構成することができる。そして、細孔内に充填することにより電極上での本発明のN末端側切断型の高活性化変異体の性能低下を低減できるとの利点もある。つまり、電極の安定性が向上する。これにより、更なる高出力かつ安定した発電が可能となり、高性能で実用性の高いバイオ電池を構築することができる。
6−3.バイオセンサー
本発明の高活性化変異体は、バイオセンサーの構築に利用することができ、かかるバイオセンサーも本発明の一部を構成する。本発明のバイオセンサーは、6−1の項で説明した高活性化変異体を外部回路に接続した導電性基材上に固定化した電極を備える。例えば、この電極を基質認識部位となる作用電極とし、その対極を設けて構成される。必要に応じて、測定精度の信頼性を高める観点から、銀-塩化銀などの参照極を設けた三電極方式として構成してもよい。このように構成することにより、ラッカーゼの基質となる何れの化合物を検出することができる。特にはフェノール類化合物の検出に好ましく利用でき、フェノールセンサーとして実用的に利用可能である。
また、上述の本発明のN末端側切断型の高活性化変異体は、多孔性材料の細孔内に電極との直接電子移動ができる形で固定することができ、これにより直接電子移動型の高触媒電流性能を有する電極として構成することができる。そして、かかる電極を備えたバイオセンサーも本発明の一部として含まれ、更なるバイオセンサーの性能向上に貢献することができる。
本発明のバイオセンサーによる測定は、被検試料を当該センサーと接触させ、電極上の本発明の高活性化変異体と基質の酸化反応により生じた変化を電気信号に変換し、これを検知することで行われる。得られた電気信号を処理することにより、被検試料中の基質の存在の有無若しくは濃度を測定することができる。このとき、あらかじめ目的濃度範囲内における標準濃度の基質溶液により作製した標準曲線を作成することにより、得られた電流値に基づいて基質濃度を求めることができる。ここで、試料としては、基質の存在が予想されるすべての試料を対象とすることができる。例えば、血液、尿、唾液等の生物体由来の生物試料、食品試料、土壌や河川水、湖沼水、海水等の水等の環境試料等が例示されるがこれに限定されるものではない。また、必要に応じてこれらの試料に適当な処理を行った試料をも含み得る。そして、本発明のバイオセンサーは、ラッカーゼの基質となることができる全ての物質の検出に利用可能である。更に、本発明のバイオセンサーは、高いラッカーゼ活性を発揮するという優れた基質触媒能力を有する本発明の高活性化変異体を利用することから、作用電極上で酸化還元反応が高効率で進み、その結果、電気信号の高出力化により検出感度の向上を図ることができる。これにより、高性能で実用性の高いバイオセンサーを構築することができる。したがって、医療、食品、環境分野等、種々の産業分野において利用可能である。
6−4.フェノール類化合物の検出方法
本発明の高活性化変異体は、試料中のラッカーゼの基質となり得る全ての化合物の検出のために利用することができる。特には、フェノール類化合物の検出のために利用することができる。フェノール類化合物の検出は、検出対象となるフェノール類化合物に対する活性の変化を測定することにより行うことができる。活性の測定は、フェノール類化合物の酸化還元反応を触媒する酵素の活性測定法として知られる方法をいずれをも利用して行うことができる。例えば、本発明の高活性化変異体を測定対象となる試料と反応させ、フェノール類化合物の酸化反応に伴う吸光度変化を測定し、かかる吸光度変化をもってフェノール類化合物の存在を検出することができる。そして、一旦、適当な試験条件が選択されていれば、この吸光度変化は測定しようとする酵素活性に直線的に比例する。したがって、あらかじめ目的濃度範囲内における標準濃度のフェノール類化合物溶液により標準曲線を作成することにより、得られた吸光度変化値に基づいてフェノール類化合物濃度を求めることができる。
ここで、被検試料としては、フェノール類化合物等、ラッカーゼ活性を有する酵素の基質となり得る化合物の存在が予想されるすべての試料を対象とすることができる。例えば、血液、尿、唾液等の生物体由来の生物試料、食品試料、土壌や河川や湖沼、海水等の水等の環境試料等が例示されるがこれに限定されるものではない。また、必要に応じて、これらの試料に適当な処理を行った試料をも含み得る。特に、本発明の高活性化変異体は、優れた基質触媒能力を有することから測定対象物質である基質に対する酸化還元反応が高効率に行われる。その結果、検出感度が向上し、高精度に試料の分析を行うことができる。つまり、測定精度の向上を図れ、また、ラッカーゼ使用量を軽減できることからコスト削減効果をも奏することができる。
以下、実施例において、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
なお、実施例1〜11は、配列番号4、及び5に示すアミノ酸配列を有するラッカーゼ活性を有するタンパク質に関連する発明について記載する。実施例12〜19は、特には配列番号25及び27に示すアミノ酸配列を有するラッカーゼ活性を有するタンパク質に関連する発明について記載する。しかしながら、本発明を、これらの例に限定する意図はない。
〔実施例1〕分子進化工学的手法を用いた酵素改変
分子進化工学的手法と称される酵素改変手法を利用して、高活性化変異体を探索するため野生型ラッカーゼにランダム変異を導入した。ここでは、野生型ラッカーゼとして、配列番号2のアミノ酸配列(図1B)を有する野生型MELACにHisタグを結合させた配列番号22のアミノ酸配列を野生型MELACとして改変の基礎として用いた。
ステップ1:野生型MELAC遺伝子のタンパク質発現プラスミドの構築
大腸菌タンパク質発現ベクターpET-22b(+)のマルチクローニングサイトNdeI/HindIIIに、野生型MELACをコードする遺伝子をクローニングし、タンパク質発現プラスミドを構築した。ここで使用した野生型MELACをコードする遺伝子は、配列番号22のアミノ酸配列をコードする配列番号21に示す塩基配列を有する。
ステップ2:変異遺伝子ライブラリーの構築
野生型MELACの変異遺伝子ライブラリーを作製するために、エラープローンPCR法を用いて野生型MELAC遺伝子にランダム変異を導入した。具体的には、DNAポリメラーゼのヌクレオチドの取り込み間違い頻度を促進させるために、マグネシウム濃度とマンガン濃度を[Mg, Mn]=[5, 0.5] mMに調製し、分子内の塩基配列上に1〜2箇所の変異を導入したライブラリーを作製した。エラープローンPCR反応条件は、50μlの反応系に、2.5 unitのTaq DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社製)、0.5μMのプライマー1及びプライマー2、10 mM トリス塩酸Buffer(pH8.3)、50 mM KCl、5.0 mM MgCl2、0.5 mM MnCl2を混合し反応液を調製した。PCR反応温度プログラムは、98℃で10秒、68℃で60秒での反応を1サイクルとして、これを30サイクル行なった。
次に、ランダム変異を導入した遺伝子断片と、変異導入しない遺伝子断片を連結するために、オーバーラッピングPCR法を行った。具体的には、まず変異導入しない遺伝子断片を得るために、ステップ1で作製した発現ベクターを鋳型にして、プライマー3及びプライマー4を用いてPCR増幅を行った。ここで、PCR反応条件は、PrimeSTAR GXL DNA Polymerase(タカラバイオ製)を使用し、プライマー濃度を各0.2μMに調製した。PCR反応温度プログラムは、98℃で10秒、68℃で60秒での反応を1サイクルとして、これを20サイクル行なった。続いて、増幅断片を、DNA精製キット(GEヘルスケア製)を用いて精製した。得られた変異導入した遺伝子断片と変異導入しない遺伝子断片の両方を鋳型にして、プライマー2とプライマー3を用いてPCR増幅を行った。増幅後、DNA精製キット(GEヘルスケア製)を用いて増幅断片を精製した。続いて、得られたMELAC遺伝子をコードするDNA断片の両末端に、1分子PCR用のプライマー配列を付加するために、プライマー5及びプライマー6を用いてPCR増幅を行った。増幅後、DNA精製キットを用いて増幅DNA断片を精製し、TE Bufferを加えてDNA溶液とした。このようにして、野生型MELACをコードする遺伝子において、当該アミノ酸領域Ile250 ? Leu500に相当する塩基配列にランダム変異を導入した変異遺伝子ライブラリーを作製した。
ここで使用したプライマーの塩基配列情報を示す。
プライマー1:5'- GCCAACAAACCAGCAGAATCCGGATAACCTGGTGCGCACG -3' (配列番号6)
プライマー2 :5'- TCCGGATATAGTTCCTCCTTTCAG -3' (配列番号7)
プライマー3:5'- ATCTCGATCCCGCGAAATTAATAC -3' (配列番号8)
プライマー4:5'- CGTGCGCACCAGGTTATCCGGATTCTGCTGGTTTGTTGGC -3' (配列番号9)
プライマー5:5'- GGAGCTAGGGTTTACGAGTGGAATG-ATCTCGATCCCGCGAAATTAATAC -3' (配列番号10)
プライマー6:5'- GGAGCTAGGGTTTACGAGTGGAATG-TCCGGATATAGTTCCTCCTTTCAG -3' (配列番号11)
ステップ3:変異タンパク質ライブラリーの構築
上述のステップ2で得た変異遺伝子ライブラリーのDNA溶液を、0.5%ブルーデキストランを含むTE Bufferで希釈し、濃度1.5 DNA分子/μl(計算上)のDNA溶液を作製した。次に、1分子PCR増幅を行うために、希釈したDNA溶液を、384ウェルのPCRプレートに分注し、続いて、プライマー7を用いてPCR増幅を行った。PCR反応温度プログラムは、98℃で10 秒、68℃で60秒での反応を1サイクルとして、これを70サイクル行い、68℃にて10分間の最終反応により増幅反応を終えた。
次に、得られた増幅DNA断片を鋳型にして、大腸菌の無細胞タンパク質合成系で変異タンパク質ライブラリーを作製した。具体的には、5μlを384ウェルプレートの各ウェルに分注し、続いて1.5μlのPCR反応液を分注した。そして、市販の無細胞タンパク質合成系(ラビットトランスレーションシステム:RTS 100、E.coli HY Kit)を用いて、製造業者の取扱説明書に従い、反応時間4時間、反応温度30℃で、384ウェルプレート内でタンパク質の合成反応を行った。次に、合成したタンパク質(アポ型)を活性化(ホロ化)するために、8μlのタンパク質合成液に、15μlの1 mM のCuSO4溶液を加えて、4℃で4時間反応させた。
ここで使用したプライマーの塩基配列情報を示す。
プライマー7:5'- GGAGCTAGGGTTTACGAGTGGAATG -3' (配列番号12)
ステップ4:ラッカーゼ活性の測定と高活性化変異体の選抜
ステップ3で合成しホロ化したタンパク質のラッカーゼ活性についてスクリーニングした。ラッカーゼ活性の測定は、まず、50 mM リン酸Buffer pH7、1.0 mM ABTS、1.0 mM CuSO4により活性測定液80μlを調製し、これを384ウェルプレートに分注した。続いて、各ウェルに2μlのタンパク質合成液を加えてラッカーゼ活性を測定することにより行った。測定は、ABTSを基質とし、基質の酸化に伴う418nmでの吸光度の変化をプレートリーダーにより測定する比色法により行った。
ここで、本実施例において作製した変異体の塩基変異数、アミノ酸変異数、アミノ酸変異部位を下記の表1に示す。表中における「アミノ酸変異部位」において、例えば「R287H」との表記は、野生型MELACのアミノ酸配列である配列番号22における第287番目のアルギニン(R)がヒスチジン(H)に置換されたことを表す。尚、本明細書においては、アミノ酸の位置は開始コドンであるメチオニンを1として番号付けしている。
スクリーニング結果を図2に示す。その結果、野生型MELACよりも高いラッカーゼ活性を示す変異体を取得できたことが判明した。特に、表1中の「変異体No.3」と称する変異体が、野生型MELACよりも3.43倍のラッカーゼ活性を示した。この変異体No.3は、表1に示す通りQ255R及びM308Rの変異を有する。そして、遺伝子レベルでは764; A->G、923; T->Gのヌクレオチド変異を有する。ここで、ヌクレオチド変異において、例えば「764; A->G」との表記は、野生型MELACの塩基配列である配列番号1における第764番目のアデニン(A)をグアニン(G)に置換されたことを表す。ここで得られた変異体No.3の塩基配列とその推定アミノ酸配列を夫々配列番号3と4に、そして図1C、Dに示す。
〔実施例2〕タンパク質の発現プラスミドの作製
実施例1で得られた野生型MELAC又はMELAC変異体をコードする遺伝子を大腸菌に形質転換し、大腸菌細胞内で発現させて組み換えタンパク質を製造するための発現プラスミドを作製した。
タンパク質発現は、野生型MELAC又はMELAC変異体をコードする遺伝子を、大腸菌タンパク質発現ベクターpET22bのマルチクローニングサイトに、タンパク質のC末端にHisタグが融合したタンパク質として発現するようにクローニングした。続いて、この発現プラスミドを大腸菌BL21(DE3)pLysSに形質転換し、遺伝子導入プラスミドを選択した。
具体的には、実施例1で得られた遺伝子の部分配列(N末端領域をコードする5'端配列末端及びC末端領域をコードする3'末端配列)に対する特異的プライマー8及びプライマー9を用いてPCR増幅を行った。得られた増幅産物をアガロースゲル電気泳動に供し分析及び精製を行い、精製後のDNA断片を大腸菌発現用ベクターであるpET22b Vectorのマルチクローニングサイト(NdeI-HindIII)に、クローニングキット(In-Fusion Advantage PCRクローニングキット)を用いてクローニングした。ベクターとインサートの末端に設定する相同な配列(15塩基:それぞれ、5'側の15塩基)間を下線で示す。このとき、ラッカーゼ遺伝子のC末端にあるストップコドンを除き、pET22bのNdeI/HindIIIサイトにクローニングし、C末端側にヒスチジンを含んだペプチド(L-A-A-A-L-E-H-H-H-H-H-H(配列番号13):H-H-H-H-H-HはHisタグ)との融合タンパク質の発現プラスミドを構築した。これを大腸菌DH5α株に形質転換し、遺伝子導入プラスミドを選択した。
ここで使用したプライマーの塩基配列情報を示す。
プライマー8:5'- GAAGGAGATATACATATGGAAGATTCCAGACGGCATGG -'3 (配列番号14)
プライマー9:5'- GAGTGCGGCCGCAAGCTTCACAACCTCGATGATGCCCA -'3 (配列番号15)
〔実施例3〕大腸菌でのタンパク質の発現と精製
実施例2で選択したタンパク質発現プラスミドを大腸菌に形質転換し、大腸菌細胞内で発現させて組み換えタンパク質を製造した。
実施例2で選択したタンパク質発現プラスミドを、大腸菌BL21(DE3)pLysS株に形質転換した。続いて、このタンパク質発現プラスミドを導入した大腸菌を培養し、イソプロピル 1-チオ-β-D-ガラクトピラノシド(isopropyl thio-β-galactoside:以下、「IPTG」と略する)の添加により、上記融合タンパク質を誘導し発現させた。具体的には、大腸菌を吸光度OD600が約0.2になるまで37℃で培養し、更に0.1mMのIPTG、0.5mM CuCl2を加えて20℃で20時間培養した。培養後、培養液を遠心分離することにより大腸菌を回収し、次の実験まで凍結させた。
タンパク質を発現した菌体を10mM トリス塩酸Buffer、1mM EDTA, pH7.4に懸濁し、0.4%の界面活性剤(Brij58)を加え、氷中で30分間放置した。次に、超音波菌体破砕器にて菌体を破砕し、菌体破砕液を40,000 ×g で30分間遠心して不溶物を遠心分離により除き細胞破砕液を分取した。次に、得られた細胞破砕液に対して、ヒスチジンタグ融合タンパク質精製用金属アフィニティー担体(TALON:クロンテック社製)による精製を行った。具体的には、担体をオープンカラムに適当量充填し、20 mM リン酸ナトリウム、5 mMイミダゾール、0.5 M NaCl溶液で前洗浄後、上記で得られた細胞破砕液に最終濃度が0.5 MになるようにNaClを加え、これをカラムにアプライした。続いて、20 mM リン酸ナトリウム、10 mMイミダゾール、0.5 M NaCl溶液で洗浄後、20mM リン酸ナトリウム、 150 mMイミダゾール、0.5M NaCl溶液でタンパク質を溶出した。溶出後、溶出液に対して、25 mM トリス塩酸Buffer(pH7.4)、1 mM CuCl2を外液として透析を一晩行った。これにより、溶出に用いたイミダゾールやNaCl等の塩類の除去、並びにタンパク質に銅イオンを取り込ませホロ化させることができる。
〔実施例4〕各変異体のラッカーゼ活性の比較
実施例3において、実施例1で得られた16種のMELAC変異体を大腸菌に形質転換することにより組換え合成した。続いて、本実施例において、夫々の変異体のラッカーゼ活性の測定を行い、その活性を比較した。
実施例1のスクリーニングで得られた16種のMELAC変異体について、実施例2及び3の方法に基づいて、夫々組換えタンパク質として発現及び精製を行った。なお、タンパク質の発現と精製を確認するために、得られた精製タンパク質の適量にタンパク質可溶化液を加えて95℃で熱処理した後、12.5%アクリルアミドゲルでの電気泳動に供してCBB染色法(和光純薬社製)によりタンパク質を可視化した。結果を図3に示す。この結果、野生型MELAC及び16種類の変異体の1つである変異体No.3の双方共にタンパク質のシングルバンドが確認でき、タンパク質の精製が成功裏に終了したことを示す。ここで得られた精製タンパク質を以下のラッカーゼ活性の確認実験に使用した。
ラッカーゼ活性の測定は、実施例1のステップ4の方法に準じて行った。具体的には、まず、50 mM リン酸Buffer、3.0 mM ABTS、1.0 mM CuSO4により活性測定液200μlを調製した。このとき、リン酸Bufferは、pH6.0、6.5及び7.0の3種類を調製した。活性測定液に上記で調製した1.0μgの精製タンパク質を夫々加えてラッカーゼ活性を測定することにより行った。測定は、ABTSを基質とし、基質の酸化反応に伴う単位時間当たりの418nmでの吸光度変化量を測定した。
各変異体のラッカーゼ活性測定の結果を図4に示す。各pH条件下における野生型MELACのラッカーゼ活性の値を1とし、各変異体における相対活性の変化を比較した結果である。この結果から、変異体No.3が、野生型MELACに対して比活性が3倍前後向上し、そして、かかる活性向上は検討した全てのpH条件下で確認できた。したがって、変異体No.3は、野生型MELACの高活性化変異体であることが判明した。なお、図中に測定結果が示されていない5種の変異体(変異体No.6、7、12、14、15)については、タンパク質の発現及び精製には成功したが、ラッカーゼ活性がほぼ消失することが判明した。
〔実施例5〕変異体の活性確認1−pH依存性
野生型MELACの高活性化変異体であることが確認された変異体No.3の各pHにおけるラッカーゼ活性を確認した。
実施例3にて精製した野生型MELACと変異体No.3の各pHにおけるラッカーゼ活性を比較した。ラッカーゼ活性の測定は、実施例1及び4の測定方法に準じて行った。具体的には、まず、pH3.5〜8に調整された50 mMの緩衝液、3.0 mM ABTS、1.0 mM CuSO4を含む200μLの活性測定液を調製した。緩衝液としては、pH 3.5〜5.5は酢酸ナトリウムBuffer、pH 5.5〜7.0はリン酸ナトリウムBuffer、pH 7.5〜8.0はトリス塩酸Bufferを用いた。続いて、活性測定液に0.1μgの野生型MELACと変異体No.3を加えてラッカーゼ活性を測定した。測定は、ABTSを基質とし、基質の酸化反応に伴う単位時間(1分間)当たりの418nmでの吸光度変化量から比活性値を算出することにより行った。具体的には、ABTSのモル吸光度係数を36,000/M/cmとして、酸化されたABTSの量を算出することで、1分間に1 μmolのABTSを酸化する酵素量を求めた。
また、コントロールとして、ビリルビンオキシダーゼ(天野エンザイム社製:以下「Mv.BO」)についても、同様にして比活性値を算出した。
ラッカーゼ活性の測定結果を図5A及び図5Bに示す。図5Aは、緩衝液として酢酸ナトリウムBufferを用いてpH 3.5〜5.5におけるラッカーゼ活性を測定した結果を示す。一方、図5Bは、緩衝液としてリン酸ナトリウムBufferを用いてpH 5.5〜7.0におけるラッカーゼ活性を測定した結果、及びにトリス塩酸Bufferを用いてpH 7.5〜8.0におけるラッカーゼ活性を測定した結果を示す。図中、野生型MELACの結果を白丸、変異体No.3の結果を黒丸、Mv.BOの結果を白三角で示す。これらの結果から、野生型MELACとの比較で、変異体No.3は検討した各pH条件下いずれにおいても比活性が向上していることが判明した。
〔実施例6〕変異体の活性確認2−変異導入部位の活性向上に対する影響
野生型MELACの高活性化変異体であることが確認された変異体No.3における、変異導入部位が活性向上に与える影響を検討した。
変異体No.3は2箇所のアミノ酸変異(Q255R, M308R)を有する。これらのアミノ酸変異の活性向上への影響を調べるために、夫々一箇所のアミノ酸変異のみを有する変異体を作製した。即ち、野生型MELACを示すアミノ酸配列2の255番目のグルタミンがアルギニンに置換された変異体(以下、「変異体Q255R」と称する:配列番号16)、同308番目のメチオニンがアルギニンに置換された変異体(以下、「変異体M308R」と称し、配列番号5)である。そして、これらのラッカーゼ活性を測定し、野生型MELAC及び変異体No.3と比較した。具体的には、2つの変異体を作製するために、アミノ酸変異Q255Rをコードするプライマー10及びプライマー11、アミノ酸変異M308Rをコードするプライマー12とプライマー13を作製した。続いて、部位特異変異導入キット(PrimeSTAR Mutagenesis Basal Kit:タカラバイオ製)を用いて、製造業者による反応プロトコルに従い、実施例1のステップ1で作製した野生型MELACのタンパク質発現プラスミドを鋳型にして、上記で調製したプライマー用いてPCR増幅することにより変異導入操作を行った。
ここで使用したプライマーの塩基配列情報を示す。
プライマー10:5'- CAGTTGCGGCCGACCATCCGCATGCGA -'3 (配列番号17)
プライマー11:5'- GGTCGGCCGCAACTGGCCGTTGATCGT -'3 (配列番号18)
プライマー12:5'- CAGCTGAGGATGGGGCCGGGAGAGCGC -'3 (配列番号19)
プライマー13:5'- CCCCATCCTCAGCTGGAAATCGGACAC -'3 (配列番号20)
作製した変異体遺伝子の塩基配列を解読し、そのコード配列が野生型MELACのアミノ酸配列の255番目のグルタミンがアルギニン(変異体Q255R:配列番号16)に、アミノ酸配列の308番目のメチオニンがアルギニン(変異体M308R:配列番号5)に置換されていることを確認した。次に、実施例2に準じた方法で、得られた変異体遺伝子を用いて変異体Q255Rと変異体M308Rのタンパク質発現プラスミドを作製した。続いて、実施例3の方法と同様に、タンパク質の発現と精製を行った。そして、実施例4の方法と同様に、タンパク質の発現と精製を確認した。
得られた精製タンパク質を電気泳動に供しCBB染色法によりタンパク質を可視化した結果を図6に示す。図6中、レーン1は野生型MELAC、レーン2は変異体No.3、レーン3は変異体Q255R、レーン4は変異体M308R、レーン5はタンパク質の分子量マーカーを示す。この結果、いずれにおいてもタンパク質のシングルバンドが確認でき、タンパク質の精製が成功裏に終了したことを示す。ここで得られた精製タンパク質を以下のラッカーゼ活性の確認実験に使用した。
次に、これらの精製タンパク質を同量用いてラッカーゼ活性の比較を行った。ラッカーゼ活性の測定は、実施例4と同じ方法で行った。緩衝液としては、pH5.5、 6.0、6.5、7.0の四種類のリン酸Bufferを調製した。
各変異体のラッカーゼ活性測定の結果を図7に示す。各pH条件下における野生型MELACのラッカーゼ活性の値を1とし、各変異体における相対活性の変化を比較した。また、コントロールとして、いずれのタンパク質も添加せずにラッカーゼ活性を測定した結果を示す。この結果から、変異体No.3と変異体M308Rが共に、野生型MELACに対して2〜3.5倍程度の比活性の向上が確認できた。一方、変異体Q255Rは野生型MELACよりも活性が低くかった。このことから、変異体No.3の2つのアミノ酸変異の両方が活性向上に影響しているのではなく、アミノ酸変異M308Rのみが比活性の向上に寄与していることが判明した。そして、かかる活性向上は検討した全てのpH条件下で同様の傾向を示した。つまり、MELACの立体構造を形成する約500個のアミノ酸の中で、その比活性の向上に影響を与えるアミノ酸は1個であったことが導ける。
〔実施例7〕変異体の活性確認3−基質濃度依存性
野生型MELACの高活性化変異体であることが確認された変異体No.3と、変異体No.3の2箇所のアミノ酸変異のうちの何れか一箇所の変異のみを有する変異体M308Rの各基質濃度におけるラッカーゼ活性を確認した。
実施例4で精製した変異体No.3、及び実施例6で精製した変異体(変異体M308R)において、基質濃度が反応速度に与える影響を検討した。基質としてはABTSを用いた。ラッカーゼ活性の測定は、実施例1のステップ4及び実施例4〜6の方法に準じて行った。具体的には、まず、50 mM リン酸Buffer(pH6.0)、 ABTS、0.5mM CuSO4により活性測定液200μlを調製した。このとき、基質であるABTSは0〜2000μMの範囲に調整されたものと、1000〜4000μMの範囲に調整したものを作製した。活性測定液に、0.3μgの野生型MELAC、0.1μgの変異体No.3、0.1μgの変異体M308Rを夫々加えてラッカーゼ活性を測定することにより行った。測定は、ABTSを基質とし、基質の酸化反応に伴う単位時間当たりの418nmでの吸光度変化量を測定した。
ラッカーゼ活性の測定結果を図8A、図8Bに示す。図8Aは、基質濃度0〜2000μMの範囲内でラッカーゼ活性を測定した結果を示す。一方、図8Bは、基質濃度1000〜4500μMの範囲内でラッカーゼ活性を測定した結果を示す。図中、変異体No.3の結果を●、変異体M308Rの結果を■、野生型MELACの結果を○で示す。これらの結果から、野生型MELACは、基質濃度5000μMまでは濃度依存的に活性向上すること、及び変異体のアミノ酸変異によっては、基質の親和性は野生型と大きくは変化しないことが判明した。
〔実施例8〕変異体No.3の活性向上メカニズムの推定
変異体No.3の活性向上メカニズムを、立体構造解析に基づいて推定を行った。
変異体No.3の改変の基礎とした野生型MELACのアミノ酸配列につき、立体構造が既知なタンパク質群に対して相同性検索を行った。その結果、Thermus thermophilus 由来耐熱性ラッカーゼ(PDB ID; 2XU9)と相同性が最も高く32%であった。そこで、このThermus thermophilus 由来耐熱性ラッカーゼを参照構造として、Discovery studio 3.0(アクセルリス社製)を用いて、ホモロジーモデリング(Homology modeling)により、野生型MELACの立体構造モデルを構築した。図9Aは、野生型MELAC立体構造モデルを示し、変異部位(M308)とタイプIの銅の位置をball & stick表示で示す。この結果、変異部位は、電子受容部位 にあるタイプ1の銅の近傍には無いことが推測された。なお、この構造モデルは、上記Thermus thermophilus 由来耐熱性ラッカーゼに基づいて構築したものであるので、野生型MELACとの対応のアミノ酸配列が存在しない、N末端側の約50〜57番目のアミノ酸配列(図12を参照のこと)に相当する構造については示していない。
そして、図9Bに、ラッカーゼの類似酵素であるMyrothecium verrucaria由来Bilirubin oxidase(以下、「Mv.BO」と略する)の立体構造上の推定結合ポケットの位置を示す。これはMv.BO の立体構造に関する論文(Cracknell, J. A., et al., Dalton Trans , 40, 6668-6675 (2011) )に記載に基づいて、基質結合に関与すると推定されるアミノ酸群をball & stick表示で示したものである。
次に、図9Cに、図9Aと図9Bを、配列アライメントに基づき主鎖を重ね合わせした図を示す。これによると、野生型MELAC上のM308は、タイプIの銅の近傍にはないが、Mv.BO の基質結合に関与すると推定されるアミノ酸群の近傍に位置していた。以上のことから、M308Rの変異により、電子移動に変化が生じた可能性があり、その結果中性領域での活性が向上したと推測された。
〔実施例9〕野生型MELAC亜種の配列特定
野生型MELACの亜種のアミノ酸配列を特定し、変異体No.3が天然に存在する野生型MELACの亜種に含まれるか否かを検討した。
天然に存在するタンパク質には、タンパク質をコードする塩基配列の僅かな違いにより、異なるアミノ酸配列を有する亜種が多数存在することが知られている。そこで、野生型MELACを単離した環境試料(千葉市緑区の牧場より採取した堆肥)からのメタゲノム試料(特開2011-87474号公報を参照のこと)に対して、野生型MELACの亜種の探索を行った。具体的には、上記メタゲノム試料を鋳型としてPCR増幅することにより、野生型MELACの亜種を得た。そして、得られた亜種の配列を特定した。
野生型MELAC亜種のアミノ酸配列の特定した結果を図10A、図10B、図10Cに示す。図中、野生型MELACと相同なアミノ酸残基をボックスで囲んだ。この結果、高活性化が確認された変異体M308Rの変異導入部位である第308番目のアミノ酸残基は、今回特定された亜種では変異が生じていなかった。したがって、変異体M308Rは、この亜種の中には含まれておらず、天然には見出されないタンパク質である可能性が極めて高いことが判明した。
〔実施例10〕変異体の活性確認4−反応速度
野生型MELACの高活性化変異体であることが確認された変異体No.3と、変異体No.3の2箇所のアミノ酸変異のうちの何れか一箇所の変異のみを有する変異体Q255R及び変異体M308Rの反応速度定数を求めた。
実施例4で精製した変異体No.3、及び実施例6で精製した各変異体(変異体Q255R、変異体M308R)において、基質濃度を変化させて、酵素反応の初期速度のラインウェーバーバークプロットにより、酵素反応の速度定数(Km、Vmax、kcat)を求めた。基質としてはABTSを用い、25℃、pH6.0におけるABTSに対する速度定数を求めた。
その結果、野生型MELACのABTSに対するKmは400μM、Vmaxは13 U/mg protein、kcatは691であった。また、変異体No.3に対するKmは400μM、Vmaxは52 U/mg protein、kcatは2853であった。変異体Q255Rに対するKmは400μM、Vmaxは17 U/mg protein、kcatは934であった。変異体M308Rに対するKmは400μM、Vmaxは61 U/mg protein、kcatは3384であった。これにより、M308Rの変異によりVmaxが4〜5倍程度向上することが判明した。
〔実施例11〕変異体の活性確認5−電気化学測定による電極触媒活性の比較
野生型MELACの高活性化変異体であることが確認された変異体M308Rを電極触媒とした酵素固定化電極の触媒機能を電気化学測定により評価し、野生型MELACとの比較を行った。
変異体M308Rのバイオ電池の電極触媒としての利用を想定し、酵素固定化電極を作製し、野生型MELACとの比較によりその触媒機能を評価した。バイオ電池は、丸形カーボン電極((有)バイオデバイステクノロジー社製、型名DEP-EP-N)を利用して構築した。具体的な仕様は、3電極系:固定化用印刷電極、作用極の材質:カーボン、寸法:12.5×4mm×t0.3、作用極面積2.64mm2、サンプル量:20〜40μlである。固定化方法としては、光架橋性ポリマーを用いる方法で選択し酵素固定化電極を作製した。具体的には、電気化学検出のバイオセンサーの初期検討に最適な実験キットである酵素固定化キット(東洋合成工業製)を用いて、その製造業者の反応プロトコルに従い、酵素固定化用ポリマーBIOSURFINEにより固定化した。このとき、変異体M308R及び野生型MELACは50μg固定化した。続いて、ポテンショスタットを用いて酵素固定化電極の評価を行った。反応条件は、反応混合液を、50 mM リン酸Buffer pH6.0、1.0 mM CuSO4、4.0 mM ABTSに調製し、作用電極としての酵素固定化電極、対極(カーボン)および参照電極(銀塩化銀)を反応混合液に浸して、メディエーターABTS(酸化還元電位:0.5V)の還元反応に伴う電流応答を測定した。また、コントロールとして、何れのタンパク質も加えずに作製した電極についても同様に電流応答を測定した。
そして、酵素固定化電極上では以下に示す電流応答が生じ、電流を発生する。
4ABTS + O2 + 4H+ → 4ATBS・- + 2H2O
ATBS・- + e- → ATBS
以下に、ポテンショスタットのCA測定条件を示す。
・Init E (V) = 0 (開回路電位)、
・High E (V) = +0.1、Low E (V) = 0
・Init P/N = N、
・Step = 1、
・Pulse Width (sec) = 30、
・Sample Interval (s) = 0.01、
・Quiet Time (sec) = 2
電流応答の測定結果を図11に示す。これらの結果から、変異体M308Rを電極触媒に用いることで、野生型MELACを用いた場合よりも、高い触媒電流値が得られることが確認された。したがって、変異体M308Rは、バイオ電池の電極触媒としても非常に有用であることが判明した。
〔実施例12〕酵素改変の検討
本実施例では、上記実施例で得られた野生型MELACの高活性化変異体に更なる酵素改変を加えるべく検討を行った。
改変の基礎として、上記実施例にて野生型MELACの高活性化変異体であることが確認された変異体M308Rを用いた。まず、変異体M308Rのアミノ酸構造中、触媒活性を低下させずに欠失可能な領域の選択を行った。具体的には、当該変異体とアミノ酸配列の相同性が最も高く(約32%の相同性)、かつX線構造解析により触媒活性に重要なアミノ酸が判明しているサーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)HB27株由来の耐熱性ラッカーゼ(PDB ID:2XU9、アミノ酸相同性32%)とのアミノ酸配列比較を行った。
アミノ酸配列比較の結果を図12に示す。図中、矢印は触媒活性に重要なアミノ酸の位置を示す。矢印で示した活性中心アミノ酸は大きく4領域に分かれており、それぞれ銅イオンを配位している。この4領域の近傍を欠失させると活性低下が生じる可能性がある。したがって、それらを外した領域として、N末端側アミノ酸の120個程度、または中央領域の180個程度は、欠失させてもその触媒活性に影響を与えないとして欠失検討の候補とできると考えた。ただし、中央領域については、欠失後の抜けた空間への構造最適化が困難なため、N末端側アミノ酸を検討対象とすることとした。そこで、変異体M308RのN末端側の約100アミノ酸程度は削除しても、その触媒活性を維持できると考え、以下の実験を行った。
そして、かかるN末端側のアミノ酸を欠失させることによる構造変化の予測結果を図13に示す。ここで構築した構造モデルの構築条件は、解析ソフトとしてDiscovery studio 3.0 Homology modelingを使用して、上記でアミノ酸配列比較を行ったサーマス・サーモフィラス由来の耐熱性ラッカーゼ(PDB ID:2XU9))を参照構造とし、銅結合アミノ酸の距離拘束条件を入れて、構造モデルを構築した。そして、かかる構造モデルにつき、同様にして構築した変異体M308Rの構造モデルと比較を行った。ここでは、変異体M308Rの構造モデルについて、図9Aにおいて明確に開示していなかったN末端側のアミノ酸配列に相当する部分の構造をも含めて推定を行った。
この比較結果から、変異体M308RのN末端には、長く安定せずに揺れ動く、所謂ふらふらした状態のアミノ酸ループ構造があり、変異体M308R-Del68はそのループ構造が削除された構造であると推定された。そして、かかるループ構造がTypeI銅を介する電極との直接電子移動を邪魔する可能性が示唆された。
〔実施例13〕改変酵素の作製
本実施例では、上記実施例12の酵素改変の検討結果に基づいて、野生型MELACの高活性化変異体に更なる酵素改変を加えた変異体を作製した。
改変酵素としては、変異体M308RのN末端からの連続する40アミノ酸が欠失した変異体(配列番号27、以下、「変異体M308R-Del41」と称する。開始コドンに対応するメチオニンが付加)、N末端側の連続する68アミノ酸が欠失した変異体(配列番号25、以下、「変異体M308R-Del68」と称する。開始コドンに対応するメチオニンが付加)、及びN末端側の連続する77アミノ酸が欠失した変異体(配列番号28、以下、「変異体M308R-Del77」と称する。開始コドンに対応するメチオニンが付加)を作製した。なお、変異体M308Rからの変異体68M308R-Del68の構築については図14A〜Dに示す。
ステップ1:発現プラスミドの構築
PCRによる遺伝子増幅法を用いて、上記改変酵素をコードするDNA断片を作製した。詳細には、変異体M308R遺伝子を挿入した発現ベクターを鋳型として、PCR増幅を行った。ここで使用したプライマーの配列情報は以下の通りである。
M308R-Del41作製用プライマー
プライマー14:5'-CATATGTATATCTCCTTCTTAAAGTTAAAC-3'(配列番号29)
プライマー15:5'-GAAGGAGATATACATATG-CACCACTCCCACGATGCCACGCCAGTGTCT-3'
(配列番号30)
M308R-Del68作製用プライマー
プライマー14:5'-CATATGTATATCTCCTTCTTAAAGTTAAAC-3'(配列番号29)
プライマー16: 5'-GAAGGAGATATACATATG-GGGCAGGATCTGGTTCAGCCCGAAATGAGG-3'
(配列番号31)
M308R-Del77作製用プライマー
プライマー14:5'-CATATGTATATCTCCTTCTTAAAGTTAAAC-3'(配列番号29)
プライマー17:
5'-GAAGGAGATATACATATG-AGGGAAAGCATCGATGGCGTGCTTGAAACC-3'
(配列番号32)
得られたPCR増幅DNA断片を、アガロース電気泳動で分離し、ゲルから切り出し精製を行った。得られたDNA断片には、末端に下線部で示す18bpの大腸菌発現用ベクターpET22b(NdeI-HindIII切断断片)の両端配列に相同は配列が含まれている。この配列を用いてpET22bのマルチクローニングサイト(NdeI-HindIII)にクローニングキット(In-fusion cloning kit)を用いて連結した。このとき、C末端Hisタグ融合タンパク質として上記改変酵素が発現するにように設計した。続いて、大腸菌JM109株に形質転換して、夫々の改変酵素をコードするタンパク質発現プラスミドを構築した。
ステップ2.大腸菌でのタンパク質の発現と精製
上記ステップ1で構築した発現プラスミドを、大腸菌BL21(DE3)pLysS株に形質転換した。この発現プラスミドを導入した大腸菌を37 ℃で培養し、イソプロピル1-チオ-β-D-ガラクトピラノシド(isopropyl thio-β-galactoside:IPTG) 添加して20 ℃で培養することで、上記タンパク質を誘導し発現させた。具体的には、大腸菌を吸光度OD600=0.2になるまで37 ℃で培養し、更に、0.2 mM IPTG、0.5 mM CuCl2を加えて20 ℃で20時間培養した。培養後、培養液を遠心分離することにより発現菌体を回収し、次の実験まで凍結させた。
そして、発現菌体を10 mM Tris-HCl, 1 mM EDTA、pH7.4に懸濁し、0.4 % 界面活性剤Brij58を加えて、氷中で30分間放置した。次に、菌体を超音波菌体破砕器にて超音波破砕した後42,000 ×gで30分間遠心して不溶物を遠心分離により除き上澄み液を分取し細胞破砕液を得た。
得られた細胞破砕液に対して、ヒスチジンタグ融合タンパク質精製用金属アフィニティー担体(TALON:クロンテック社製)による精製を行った。具体的には、担体をオープンカラムに適当量充填し、20 mM リン酸ナトリウム、5 mMイミダゾール、0.5 M NaCl溶液で前洗浄後、上記で得られた細胞破砕液に最終濃度が0.5 MになるようにNaClを加え、これをカラムにアプライした。続いて、20 mM リン酸ナトリウム、10 mMイミダゾール、0.5 M NaCl溶液で洗浄後、20mM リン酸ナトリウム、 150 mMイミダゾール、0.5M NaCl溶液でタンパク質を溶出した。溶出後、溶出液に対して、25 mM トリス塩酸Buffer(pH7.4)、1 mM CuCl2を外液として透析を一晩行った。これにより、溶出に用いたイミダゾールやNaCl等の塩類の除去、並びにタンパク質(ラッカーゼ)に銅イオンを取り込ませホロ化させることができる。
同様にして、野生型MELAC及び変異体M308Rについても、タンパク質を発現させ精製を行った。
次に、得られた精製タンパク質の確認を行った。具体的には、透析後の精製タンパク質を適量採取し、タンパク質可溶化剤を加えて95℃で加熱処理した。続いて、12.5%のアクリルアミドゲル電気泳動に供し、電気泳動後にCBB染色法(和光純薬社製)にて、タンパク質を可視化した。
結果を図15に示す。図中、レーン1は野生型MELAC、レーン2は変異体M308R、レーン3は変異体M308R-Del41、レーン4は変異体M308R-Del68、レーン5は変異体M308R-Del77の結果を示す。なお、レーンMは分子量マーカーである。この結果より、いずれのタンパク質も大腸菌により発現誘導することができ、そして、凝集等によるタンパク質の変性が生じていないことが確認できた。
なお、ここでは詳細な説明を省略するが、MELACのN末端から110アミノ酸の欠失では、タンパク質を発現させることができなかった。
〔実施例14〕変異体の活性確認6−ラッカーゼ活性の測定
本実施例では、実施例13で得られた3つのN末端側切断型変異体のラッカーゼ活性を測定した。
上記実施例13で得られた3つの変異体である変異体M308R-Del41、変異体M308R-Del68、変異体M308R-Del77のラッカーゼ活性を測定した。活性測定は、1×マックバイン緩衝液(McIlvain buffer、pH 5.0)、3.0 mM ABTS、0.5 mM CuSO4を含む測定液200μlに、上記で得られた変異体タンパク質50 ngを加え、ABTSの酸化反応に伴う1分間当たりの波長419nmでの吸光度の変化量を測定した。
同様にして、野生型MELAC及び変異体M308Rについても、活性測定を行った。
結果を図16に示す。図中、縦軸はABTSの酸化反応に伴う単位時間当たりの419nmでの吸光度変化量(A419nm/分)によりラッカーゼ活性を表すものであり、変異体M308Rを100%としたときの各変異体の相対ラッカーゼ活性(%)を示す。この結果より、変異体M308R-Del41及び変異体M308R-Del68は、変異体MELACM308Rと同等、若しくはそれ以上の活性を示したが、変異体M308R-Del77の活性は著しく低下することが判明した。野生型MELACとの比較によっては、4〜5倍程度のラッカーゼ活性の向上が認められた。
したがって、MELACの高活性化変異体M308Rは、N末端側の連続する68アミノ酸までは、当該高活性化変異体の触媒活性を低下させることなく欠失できることが確認できた。そこで、変異体M308R-Del68を選択して以下の実験を行った。
〔実施例15〕変異体の活性確認7−電気化学的測定による電極触媒活性の比較−1
上記実施例14により高活性化変異体であると確認された、変異体M308R-Del68を電極触媒として酵素固定化電極の触媒機能を電気化学的測定により評価した。
ステップ1:変異体M308R-Del68のカーボン電極基材への固定化
変異体M308R-Del68を、多孔性のカーボン電極基材に吸着させた。ここで、用いたカーボン電極基材は、カーボンペーパー(以下、「CP」と称する)にカーボンゲル(以下、「CG」と称する)を塗布した多孔性の電極基材である。
カーボンゲルは、以下の通り調製することができる。
レゾルシノール(和光純薬)22 gおよび炭酸ナトリウム0.106 gをミリQ(Milli-Q)水66 mlに溶解した後、37 %ホルムアルデヒド溶液32.4 mlを加えて撹拌した。この混合液から、未希釈、水で50 %希釈、40 %、33.3 %希釈したものを調製した。これは、希釈率によるカーボンゲル細孔の孔径を調整するためである。夫々の溶液を、順次25 ℃で24時間、50 ℃で24時間、90 ℃で72時間静置して反応させて水和溶液(有機ゲル)を得た。次にアセトン中に有機ゲルを浸漬してゲル中の水分をアセトン置換した。この操作を数回繰り返した。アセトン置換後の有機ゲル8gを超臨界乾燥機を使い、18 ℃で1時間 L-CO2洗浄、35 ℃で1時間SC-CO2洗浄し、乾燥有機ゲルを得た。続いて、乾燥有機ゲルをセラミクス電気管状炉で、窒素気流下(流量500 ml/分)で、 順次250℃で1時間、500 ℃で1時間、1,000 ℃で1時間加熱し炭化させることにより、カーボンゲルを作製した。なお、カーボンゲルは40〜50 μmの粒径を有していた。
そして、カーボンゲル電極基材は以下の通り調製することができる。
上記で得られたカーボンゲル50 mgと、10 % PVDF(ポリフッ化ビニリデン:polyvinylidene difluoride、平均分子量534 k、溶媒はN-メチルピロリドン(N-methylpyrrolidone))0.45 mlをメノウ乳鉢中で混合しペースト状にした。さらに、N-メチルピロリドン 1.2 ml加え、スラリー状になるまで混合した。続いて、これをカーボンペーパーの両面に塗布し、60 ℃で4時間乾燥させることで、カーボンゲル電極基材を調製した。
そして、上記で調製したカーボン電極基材に変異体M308R-Del68を吸着固定させ、酵素固定化電極を作製した。具体的には、乾燥させたカーボンゲル電極基材(5mm×5mm)をエタノールに軽く浸した後、ミリQ水で洗浄した。続いて、1mg/mlの変異体M308R-Del68溶液(25 mM Tris-HCl、0.1 mM CuSO4 pH 7.0)に浸漬し、4 ℃で一晩静置することで固定した。
同様にして、変異体M308Rを吸着固定した酵素固定化電極も作製した。
ステップ2:電気化学的測定法による電極触媒活性の測定
ステップ1で作製した酵素固定化電極の触媒電流をサイクリックボルタメトリー(以下、「CV」と称する)測定した。
CV測定条件は以下の通りである。
電気化学測定装置(BAS600C)を使用し、参照電極として銀・塩化銀電極(3 M NaCl)、対極として白金ワイヤー(φ0.5 mm)、作用電極は上記酵素固定化電極を白金ワイヤーで挟んで測定を行った。測定液としてマックバイン緩衝液(pH 5.0)を用い、測定は酸素雰囲気下及び窒素雰囲気下で行った。
測定パラメーターは以下の通りである。
モード:サイクリック・ボルタンメトリー
初期電位:0.7 V
高電位:0.7 V
低電位:0 V
電位走査速度:0.02 V/sec
結果を図17に示す。図中、横軸は電圧(V)を、縦軸は電流(mA)を示す。なお、ラッカーゼ活性による触媒電流は、溶存酸素の還元反応に伴うカーボン電極基材から酵素への直接電子伝達によるものであり、マイナス電流値として検出される。図中の波形を示した酵素固定化電極及び測定条件を下記表2に示す。
この結果より、変異体M308R-Del68を、カーボンゲルを塗布した多孔性カーボン電極に吸着固定して酸素雰囲気下で測定した結果を示す波形4において、0.5 V付近に酸素還元電流の発生が確認できた。そして、0.4V付近からの酸素供給律速を示す跳ね上がりの波形が認められる。つまり、0.4V付近で観察される触媒電流応答の低下は電極への酸素供給律速よって生じるものである。これらの知見は、MELAC-Del68が電極との直接電子伝達が可能であることを示すものである。一方、変異体M308Rを、カーボンゲルを塗布した多孔性カーボン電極に吸着固定して酸素雰囲気下で測定した結果を示す波形3では、波形4のような酸素還元電流発生が確認できなかった。これは、変異体M308R固定化電極は、変異体M308R-Del68固定化電極よりも触媒電流応答が小さいことを意味する。この要因として、カーボンゲルへの吸着効率、若しくは電極と変異体との直接電子伝達効率が低いことが推定できる。
詳細には、変異体M308R-Del68固定化電極の結果を示す波形4において、ベースラインとなる0.52V付近の電流値は-0.64mAであり、0.42V付近では-1.73mAであることから、約-1.1mAの電流値が得られた。それに対して、変異体M308R固定化電極の結果を示す波形3において、ベースラインとなる0.52V付近の電流値は-0.73mAであり、0.42V付近では-0.93mAであることから電流値は約-0.2mAであった。つまり、変異体M308R-Del68固定化電極は、変異体M308R固定化電極の約4〜5倍以上の触媒電流応答が得られることが判明した。
以上の結果から、変異体M308R-Del68は、カーボン電極基材に固定したときに、電極との直接電子伝達効率が大幅に向上することが判明した。つまり、本発明のN末端側切断型の高活性化変異体は直接電子伝達機能に優れていることが理解できる。
〔実施例16〕変異体の活性確認8−既存の酵素との電極触媒活性の比較1
上記実施例15により、変異体M308R-Del68は多孔性カーボン電極に固定したときに、電極との直接電子伝達効率が大幅に向上することが判明したが、本実施例は、既存の酵素との比較で評価した。
ここで比較の対象としたのは、枯草菌由来のラッカーゼ(以下、「CotA」と称する)であり、MELACと同様にマルチ銅酸化酵素である。変異体M308R-Del68及びCotAを、カーボンゲルを塗布することにより調製した多孔性カーボン電極に吸着固定し、酸素雰囲気下で実施例15と同様にして電極触媒活性を測定した。
結果を図18に示す。図中、横軸は電圧(V)を、縦軸は電流(mA)を示す。この結果から、CotAは耐熱性を示すことが知られているが、電極との直接電子伝達が変異体M308R-Del68と比較して顕著に低いことが判明した。したがって、本発明のN末端側切断型の高活性化変異体は、既存の酵素に比べて直接電子伝達機能に優れていることが理解できる。
〔実施例17〕カーボンゲル細孔径の最適化
実施例15、及び16において、多孔質カーボンであるカーボンゲルを利用した電極で、変異体M308R-Del168の電極触媒活性を測定した。ここでは、かかるカーボンゲルの細孔径が電極触媒活性に与える影響を検討し、細孔径の最適化を図った。
カーボンペーパーに上記実施例15で調製した各種細孔の直径(11.1、22.0、22.2、35.3、54.3 nm)のカーボンゲルを塗布したカーボン電極基材を用いて検討を行った。具体的には、カーボンペーパーにカーボンゲルを塗布して調製したカーボン電極基材に、1.0 mg/mlの変異体M308R-Del68溶液(25 mM Tris-HCl、0.5 mM CuSO4 pH 7.0)に浸し4 ℃で一晩静置した。そして、投入量からカーボン基材を取り出した後の残存量を差し引いた変異体M308R-Del68量を固定化量として見積もった。コントロールとして、カーボンゲルを塗布せずに変異体M308R-Del68を固定化した場合についても同様に検討した。
結果を図19に示す。図中、横軸はカーボンゲルの細孔の直径(nm)を、横軸は変異体M308R-Del68吸着量(A280nm)である。この結果から、カーボンゲルを塗布しないコントロールと比較して、カーボンゲルを塗布することにより変異体M308R-Del68の固定化量が増大することが確認できた。そして、細孔径の拡大に伴って固定化量が大きくなることがわかった。計算上は表面積が同じになるようにカーボンゲルを塗布しているが、細孔径が大きい方がカーボンゲルによって作られる三次元細孔の奥まで変異体M308R-Del68が入り込んでいるためであると考えられる。
次に、作用電極として、各種細孔径のカーボン電極基材に変異体M308R-Del68を固定した酵素固定化電極を用いて、実施例15のステップ2の手順に基づいて触媒電流をCV測定した。
なお、測定パラメーターは以下の通りである。
モード:サイクリック・ボルタンメトリー
初期電位:0.7 V
開始前静止時間:10秒
高電位:0.7 V
低電位:0 V
電位走査速度:50mV/秒
結果を図20に示す。図中、横軸はカーボンゲルの細孔の直径(nm)である。縦軸は、細孔の直径22.2nmの酵素固定化電極の相対電流を100%とし、各細孔径の酵素固定化電極の相対電流(%)であり、電流応答の0.5-0.4Vの差分値をグラフ化したものである。この結果から、カーボンゲルの細孔の直径が22.2 nmのときに触媒電流が大きくなり、それより大きな細孔径では変異体M308R-Del68の固定化量に反して触媒電流が小さくなることが確認できた。この要因として、変異体M308R-Del68は細孔に入るものの、変異体M308R-Del68と電極との間に余分な空間でき、直接電子伝達効率が低下したことが考えられる。
したがって、カーボンゲルの細孔径は固定化する酵素サイズに合った最適値があることが理解できる。つまり、カーボンゲルの細孔径が酵素より小さい場合に酵素は細孔内に入ることができず、その触媒活性を発揮することができない。一方、細孔径が酵素より大きい場合には酵素は細孔内に入ることができ、電極と酵素の間で高効率な電子伝達反応ができ酵素のその触媒活性を発揮できるようになる。しかしながら、細孔径が大きすぎると、酵素と電極との間に余分な空間でき、直接電子伝達効率が低下する。このことから、変異体M308R-Del68をカーボンゲルに固定化した電極を構築する場合には、カーボンゲルの細孔の直径を20〜40nm、好ましくは20〜35nm、特には22〜22.2nm、特に好ましくは22.2nmとすることが好ましい。そして、細孔径11.1nm以下では、変異体M308R-Del68は細孔内に入りにくく、変異体M308R-Del68固定のためのカーボンゲルとしては好ましくないことが判明した。
〔実施例18〕変異体の活性確認9−既存の酵素との電極触媒活性の比較2
上記実施例15により、高い電極触媒機能を有することが判明した変異体M308R-Del68の電極触媒機能を、既存の酵素との比較により電気化学的測定により評価した。
ここで、比較の対象としたのは、従来において、最高の触媒電流を発揮することが知られているクワ暗斑病菌(Myrothecius verruvcaria)由来のビリルビンオキシダーゼ(以下、「Amano-BOD」と称する)であり、MELACと同様にマルチ銅酸化酵素である。
変異体M308R-Del68とAmano-BODを、夫々同量入れた測定液に、細孔径22.2 nmのカーボンゲルを塗布したグラッシーカーボン電極基材を浸すことで吸着固定し酵素固定化電極を作製した。そして、実施例17と同様の電気化学測定条件でCV測定を行った。
結果を図21に示す。図中、横軸は電圧(V)を、横軸は電流(mA)を示し、波形1はAmano-BODの結果を、波形2は変異体M308R-Del68の結果を示す。この結果から、変異体M308R-Del68はAmano-BODと比較して、約3〜4倍の触媒電流応答が得られることが確認できた。詳細には、0.35 V付近の酸素還元電流値の比較により3〜4倍の触媒電流応答が得られることが理解できる。また変異体M308R-Del68の結果では、電圧0.2Vより負からシグナルのオシレーション現象が認められることから、酸素還元反応への酸素の供給不足によるものと推定でき、より高濃度の酸素供給によって、更に高い触媒電流が得られる可能性が示唆された。
〔実施例19〕変異体の活性確認9−既存の酵素との耐久性の比較
上記実施例15により、高い電極触媒活性を有することが判明した変異体M308R-Del68の耐久性を、既存の酵素との比較により評価した。
ここで、比較の対象としたのは、実施例18と同様、Amano-BODである。
バイオ電池において汎用される緩衝液であるリン酸緩衝液(pH7.0)、イミダゾール緩衝液(pH7.0)中での耐久性について、変異体M308R-Del68とAmano-BODとを比較した。具体的には、200mM リン酸緩衝液(pH7.0)と200mM イミダゾール緩衝液(pH7.0)に、1.0mg/ml 変異体 M308R-Del68を加えて、室温で0、2、3、7、8、9、10、及び15日間放置した後に残存するラッカーゼ活性を測定した。ラッカーゼ活性の測定は実施例14の手順に準じて行った。
結果を図22に示す。図22Aは変異体 M308R-Del68の結果を示し、図22BはAmano-BODの結果を示し、夫々横軸は放置日数(日)を、縦軸は0日後のラッカーゼ活性を100%とした場合の各放置日数後のラッカーゼ活性の相対活性(%)を示す。これらの結果から、変異体M308R-Del68はAmano-BODと比較して、バイオ電池の緩衝液中でも耐久性を有していることが確認できた。一方、Amano-BODでは、リン酸緩衝液では8日、イミダゾール緩衝液では2日程度で酵素活性が80%まで低下することが確認できた。
本実施例では、変異体M308R-Del68の耐久性を電気化学特性の指標での評価は行っていない。しかしながら、電極に固定し酵素固定化電極とした場合に、酵素単体の活性低下は酵素固定化電極の性能低下に大きく影響するものあることから、変異体M308R-Del68を電極触媒として使用することで、既存の電極よりも高い活性及び耐久性を有する高性能な電極を構築することができることが理解できる。
本発明は、新規なラッカーゼ活性を有するタンパク質及び、それをコードする核酸分子、並びにその利用に関し、ラッカーゼ活性の利用が要求される全ての分野で利用可能であり、特に、医療、食品、環境分野、電気化学分野等、種々の産業分野において利用可能である。

Claims (14)

  1. 以下からなる群より選択されるタンパク質。
    (a)配列番号2のアミノ酸配列の第308番目のメチオニンがアルギニンに置換されたアミノ酸配列を含むタンパク質
    (b)配列番号2のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されており、そして配列番号2のアミノ酸配列の308番目に相当する位置のアミノ酸残基がアルギニンであるアミノ酸配列を含み、配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質と比較して向上したラッカーゼ活性を有するタンパク質
  2. 以下からなる群より選択される請求項1に記載のタンパク質。
    (a)配列番号4のアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号4のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されており、そして配列番号4のアミノ酸配列の308番目に相当する位置のアミノ酸残基がアルギニンであるアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質と比較して向上したラッカーゼ活性を有するタンパク質
    (c)配列番号5のアミノ酸配列からなるタンパク質
    (d)配列番号5のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されており、そして配列番号5のアミノ酸配列の308番目に相当する位置のアミノ酸残基がアルギニンであるアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質と比較して向上したラッカーゼ活性を有するタンパク質
  3. 以下からなる群より選択されるタンパク質。
    (a)配列番号25のアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号25のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されており、そして配列番号25のアミノ酸配列の241番目に相当する位置のアミノ酸残基がアルギニンであるアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質と比較して向上したラッカーゼ活性、及び配列番号4又は5のアミノ酸配列
    からなるタンパク質と比較して向上した直接電子伝達活性を有するタンパク質
    (c)配列番号27のアミノ酸配列からなるタンパク質
    (d)配列番号27のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されており、そして配列番号27のアミノ酸配列の268番目に相当する位置のアミノ酸残基がアルギニンであるアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質と比較して向上したラッカーゼ活性、及び配列番号4又は5のアミノ酸配列からなるタンパク質と比較して向上した直接電子伝達活性を有するタンパク質
  4. 請求項1〜のいずれか一項に記載のタンパク質をコードする核酸分子。
  5. 請求項に記載の核酸分子を含有する組換えベクター。
  6. 請求項に記載の組換えベクターを有する形質転換体。
  7. 請求項に記載の形質転換体を10〜20℃で培養する工程、及び得られた培養物からラッカーゼ活性を示すタンパク質を採取する工程を含む、請求項1又は2に記載のタンパク質を製造する方法。
  8. 請求項1〜のいずれか一項に記載のタンパク質を固定化した電極を、カソード側電極として備えるバイオ電池。
  9. 請求項に記載のタンパク質を電気伝導性の多孔性材料を介して固定化した電極を、カソード側電極として備える請求項9に記載のバイオ電池。
  10. 前記多孔性材料が、直径20〜40nmの細孔を有する多孔性カーボンである請求項に記載のバイオ電池。
  11. 請求項1〜のいずれか一項に記載のタンパク質を固定化した電極を、基質認識部位として備えるバイオセンサー。
  12. 請求項に記載のタンパク質を電気伝導性の多孔性材料を介して固定化した電極を備える請求項11に記載のバイオセンサー。
  13. 前記多孔性材料が、直径20〜40nmの細孔を有する多孔性カーボンである請求項12に記載のバイオセンサー。
  14. 請求項1〜のいずれか一項に記載のタンパク質と被検試料とを接触させ、ラッカーゼ活性の変化を測定することによりフェノール類化合物を検出する、フェノール類化合物の検出方法。
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