JP2009207372A - 糖類の脱水素酵素及びその利用方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】耐熱性に優れ、かつ複数の糖類を基質として反応できるPQQ依存型の脱水素酵素、当該酵素をコードする遺伝子を単離し、前述の目的とする理化学的性質を備えた当該酵素を組換え体として取得し、遺伝子工学的手法による当該酵素の大量生産技術の提供、更に、当該酵素の特性を活用した燃料電池及び糖類センサーの提供。
【解決手段】
下記(1)〜(2)の理化学的性質を有するタンパク質。
(1)ピロロキノリンキノンを補酵素として要求し、グルコースからグルコノラクトン生成する脱水素反応を触媒する
(2)60 ℃以上の温度で安定に活性を示し、至適温度が80〜100℃である
【選択図】なし

Description

本発明は、糖類の脱水素酵素及びその利用方法に関する。より詳細には、本発明は、耐熱性に優れ、かつ糖基質に対して広い基質特異性を有するピロロキノリンキノン依存型脱水素酵素、当該酵素を含む燃料電池及び糖類センサーに関する。
近年、バイオ資源を利用したバイオ燃料電池が、その高いエネルギー効率及び低い環境負荷から次世代のエネルギーとして提案されている。微生物を始めとする生物は、酵素等の生体触媒により、炭水化物、タンパク質、脂質等を酸化分解する生体内代謝過程において、ATP等の高エネルギー物質を生成して、生命活動に必要なエネルギーを獲得している。バイオ燃料電池は、かかる生体内代謝過程において発生するエネルギーを電気エネルギーとして電極に取り出す発電装置である。
酵素の触媒機能を利用した燃料電池の実用化に当たっては、酵素の選択がその成否を左右する。酵素は、酵素の反応部位と基質が相補的に結合することによってその触媒作用を示すことから、一般的に、特定の化合物にのみ作用するという点で基質特異性が非常に厳密である。また、酵素は、生体が生存可能な緩和な条件下でその触媒活性を発揮するものであることから、その活性は温度等に依存し、一般的に熱安定性が低い。燃料電池への適用に際しては、多様な環境において安定して活性を保持できる酵素が不可欠であり、特に、酵素寿命に対して相関があるといわれる熱安定性の向上が要求される。また、燃料電池の利便性向上等の観点からは、様々な燃料に対応できることが望ましく、そのためには複数種の物質を基質として反応できる酵素の使用が要求される。
バイオ燃料電池としては、特に、自然界に多く存在し、エネルギー変換効率も高いグルコースを燃料とするバイオ燃料電池の構築が実用性の高い技術として注目されている。ここで、グルコースを酸化する酵素としては、グルコース酸化酵素、グルコース脱水素酵素等が知られている。しかし、グルコース酸化酵素は電子供与体として酸素と反応するため、グルコース酸化酵素によって触媒されるグルコース酸化エネルギーを電気エネルギー変換する上では、反応液中の溶存酸素をあらかじめ除去する必要があった。一方、グルコース脱水素酵素は、グルコース酸化酵素とは異なり酸素との反応性を有しないため、電気エネルギー変換に際して、反応液中の溶存酸素の影響を受けないとの利点を有する。
グルコース脱水素酵素としては、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(以下、「NAD+」と略する場合がある。)ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(以下、「NADP+」と略する場合がある。)を補酵素として機能するものが広く知られていた。このようなNAD(P)+依存型グルコース脱水素酵素は、多種多様の生物から単離されている。そして、比較的高温で活性を保持できるNAD(P)+依存型グルコース脱水素酵素についても報告されている。クリプトコッカス・ユニグツラタス(Cryptococcus uniguttulatus)由来のグルコース脱水素酵素(例えば、特許文献1参照)は、至適温度が60〜70℃で、至適pHがpH5〜10を示す。また、バチラス・メガテリウム(Bacillus magaterium)由来のグルコース脱水素酵素を改変することにより耐熱性及び耐塩基性が向上した変異体が得られ、至適pHがpH9で、66℃の8時間の加熱によっても60 %の酵素活性の残存が確認されたことが報告されている(例えば、特許文献2参照。)。
しかしながら、例えば、クリプトコッカス・ユニグツラタス由来のNAD(P)+依存型グルコース脱水素酵素は、グルコース−6−リン酸に対する活性はグルコースに対する活性の10分の1であることも報告されている。このように既知のNAD(P)+依存型グルコース脱水素酵素について、耐熱性がある程度改善されたものも報告されているが、いずれも基質に対して非常に特異的に作用するものであった。つまり、これらは複数の糖類に反応性を示すものではなかった。更に、NAD(P)+依存型グルコース脱水素酵素の場合、グルコースの酸化により還元されたNAD(P)+を電極反応と共役させるようとすると、ジアホラーゼ等の追加コンポーネントが必要となり、電極構造が複雑化するとの問題もあった。
近年、ピロロキノリンキノン(以下「PQQ」と略する場合がある。)が、グルコース脱水素酵素の新たな補酵素として見出された。PQQを補酵素として機能するPQQ依存型グルコース脱水素酵素は、酵素から電極へ直接電子移動が可能であるとされ、燃料電池の構築にあたって構造の簡素化の点で有利である。このようなPQQ依存型酵素として、大腸菌(Escherichia coli)由来のPQQ依存型アルドース糖脱水素酵素が報告されているが、(例えば、非特許文献1参照。)。これは、pH 8.75付近に活性極大を持つ耐塩基性酵素であり、しかも、グルコース、マルトース、アラビトース及び、マルトトリオースに対して反応性を有する。しかしながら、この大腸菌由来のPQQ依存型アルドース糖脱水素酵素は、高温条件で安定に作用するという報告はなく、用途が制限されるという問題点があった。
また、チトクロームCを電子伝達タンパク質として含むグルコース脱水素酵素がブルクホルデリア(Burkhorderia)属細菌から単離されたことが報告されている(例えば、特許文献3参照。)。かかる酵素における活性の至適温度は45 ℃(一次極大)と75 ℃(二次極大)であり、ある程度の耐熱性を示す。しかしながら、グルコースに対する特異性のみであり、複数の糖に対する反応性に関しては報告されていなかった。
したがって、より高温条件下で安定的に作用し、かつ複数種の糖に対して反応できる基質特異性の広い脱水素酵素の提供が依然と望まれていた。
特開2007-125047号公報 特開2006-262767号公報 特開2003-310274号公報 Stacey M.他著、"Soluble Aldose Sugar Dehydrogenase from Escherichia coli (大腸菌由来の可溶性アルドース糖脱水素酵素)"、JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY、2006年10月、第281巻、第41号
そこで、本発明は、上記問題点を解決すべく、耐熱性に優れ、かつ複数の糖類を基質として反応できるPQQ依存型の脱水素酵素の提供を目的とする。また、本発明は、当該酵素をコードする遺伝子を利用して目的とする理化学的性質を備えた当該酵素を組換え体として取得し、遺伝子工学的手法による当該酵素の大量生産技術の提供をも目的とする。更に、本発明は、当該酵素の特性を活用した燃料電池及び糖類センサーの提供を目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく研究を重ねた結果、高温下で生育可能な高度好熱菌に着目し、かかる高度好熱菌の一種であるThermus thermophilusのゲノムDNAよりグルコース脱水素酵素をコードすると思われる領域をクローニングした。更に、遺伝子工学的手法を用いて組換えタンパク質を産生させたところ、耐熱性に優れ、かつ複数の糖類を基質として反応できるPQQ依存型の脱水素酵素が生産できることを見出した。また、かかる酵素の理化学的性質を活用することにより、産業上利用価値の高い燃料電池及び糖類センサーを構築できることを見出した。そして、本発明者らは、これらの知見に基づき本発明を完成するに至った。
即ち、上記目的を達成するため、以下の[1]〜[11]に示す発明を提供する。
[1]下記(1)、及び(2)の理化学的性質を有するタンパク質。
(1)ピロロキノリンキノンを補酵素として要求し、グルコースからグルコノラクトン生成する脱水素反応を触媒する
(2)60 ℃以上の温度で安定に活性を示し、至適温度が80〜100℃である
[2]下記(3)の理化学的性質を有する上記[1]のタンパク質
(3)前記グルコースに加えて、他の還元糖の脱水素反応を触媒する
[3]前記還元糖が、マルトース、マルトトリオース、ガラクトース、フルクトース、キシロース、ラクトースから選択される1以上の糖である上記[2]のタンパク質。
[4]下記(a)又は(b)のアミノ酸配列を含む上記[1]〜[3]のタンパク質。
(a)配列番号2に示すアミノ酸配列
(b)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1又は複数のアミノ酸の欠失、置換、挿入および付加から選択される1以上の改変が生じたアミノ酸配列
[5]上記[1]〜[4]のいずれかのタンパク質をコードする単離核酸分子。
[6]下記(c)又は(d)のポリヌクレオチドからなる上記[5]の単離核酸分子。
(c)配列番号1に示す塩基配列を含むポリヌクレオチド
(d)配列番号1に示す塩基配列を含むポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
[7]上記[5]又は[6]の遺伝子を含有する組換えベクター
[8]上記[7]の組換えベクターを含有する形質転換体。
[9]上記[8]の形質転換体を培養し、得られた培養物から糖の脱水素反応を触媒する能力を有するタンパク質を採取する糖の脱水素酵素の製造方法。
上記[1]〜[9]の構成によれば、新規なPQQ依存型脱水素酵素の提供が可能となる。本発明によって提供されるPQQ依存型脱水素酵素は、極めて高い熱安定性を示す。また、糖基質に対して広い基質特異性を示し、従来のPQQ依存型脱水素酵素にはない理化学的性質を備える。したがって、医療、食品、環境分野等の様々な産業分野における糖類の脱水素反応を要する技術に適用できる。また、本発明のPQQ依存型脱水素酵素のアミノ酸配列、並びに塩基配列を利用して、遺伝子工学的手法により低コストかつ工業的に当該酵素を大量生産することが可能となった。更には、本発明のPQQ依存型脱水素酵素は熱安定性が高いため、その製造においても加熱処理により容易に夾雑タンパク質を不溶性画分として容易に除去できるため簡便に調製が容易である。例えば、遺伝子工学的手法により製造する場合においても、宿主由来のその他のタンパク質を容易に除去することができる。したがって、精製度を向上させることができ、信頼性の高い酵素を製造できるという利点がある。
[10]上記[1]〜[4]のいずれかのタンパク質を含み、前記タンパク質の糖類の酸化反応に伴って生成する電子を受け取るアノード極、酸素に電子を伝達することのできる触媒および酵素のいずれかを保持するカソード極を備え、前記アノード極と前記カソード極とが電気的に結合されている燃料電池。
上記[10]の構成によれば、本発明のPQQ依存型脱水素酵素の触媒能力を利用した燃料電池が提供できる。PQQ依存型脱水素酵素は、電極と直接反応できることから電極反応、引いては電極構造を簡素化することができる。特に、本発明のPQQ依存型脱水素酵素は、熱安定性が高いことから、持続的に発電を行なうことが可能となり、燃料電池の性能向上を図れる。更に、本発明のPQQ依存型脱水素酵素は、糖基質に対して広い基質特異性を示すことから、様々な種類の糖類を燃料として利用でき、資源の有効利用が図れると共に、精製度の低い糖燃料であっても発電効率は低下せず、コスト削減効果をも奏することができる
[11]上記[1]〜[4]のいずれかのタンパク質を電極上に固定化した持続測定型の糖類検出用のバイオセンサー。
上記[11]の構成によれば、本発明のPQQ依存型脱水素酵素の触媒能力を利用した糖類検出用のバイオセンサーが提供できる。本発明のPQQ依存型脱水素酵素は、熱安定性が高いことから、酵素の触媒能力の劣化を招くことなく連続的な測定が可能であり、医療、食品、環境分野等、様々な分野に利用することができる。
以下、本発明について詳細に説明する。
(本発明のPQQ依存型脱水素酵素の性質)
本発明のPQQ依存型脱水素酵素の理化学的性質は以下の通りである。
(1)作用
本発明のPQQ依存型脱水素酵素は、グルコースの脱水素反応を触媒する能力を有し、以下のように、補酵素ピロロキノリンキノンの存在下に、グルコースに作用してグルコノラクトンを生成する反応を触媒する。
D-グルコース + 電子受容体 → D-グルコノ-1,5-ラクトン + 還元型電子受容体
更に、本発明のPQQ依存型脱水素酵素は、糖基質に対して幅広い基質特異性を示し、グルコース以外の単糖類、二以上の単糖が結合したオリゴ糖類にも反応性を示す。単糖類としては、キシロース等の5炭糖、ガラクトース、フルクトース、ショ糖等の6炭糖等が例示される。オリゴ糖類としては、マルトース、ラクトース、トレハロース等の二糖類、マルトトリオース等の三糖類が例示され、特にグルコースをその構成要素とするものが例示される。オリゴ糖類の場合、1種類の単糖から構成されるホモオリゴ糖であると、2種以上の単糖から構成されるヘテロオリゴ糖であってもよく、また、単糖間の結合は、グルコシド結合等が例示されるがその結合形態は問わない。また、デオキシ糖、糖アルコール等、糖の誘導体に対して反応性を有していてもよい。これらの糖基質に対する触媒活性は、グルコースに対する活性を100とした場合の相対活性において、50以上、更には60以上、特には80以上であることが好ましい。
そして、特には、還元末端を持つ分子である還元糖に対して活性を示し、一方、還元末端を持たない分子である非還元糖に対しては活性が低いことが好ましい。つまり、本発明のPQQ依存型脱水素酵素は、いわゆる還元糖を比較的基質としてよく認識できるが、非還元糖に対しては反応性が低いことが好ましい。ここで、還元糖とは、還元末端を持つ糖、つまり、アルドースの1位、又はケトースの2位、すなわちアノマー炭素が置換を受けていない糖であり、単糖類、二以上の単糖が結合したオリゴ糖類等の別は問わない。還元糖は、溶液中で直鎖構造と種々の環状構造との間で平衡状態をとり、環状構造を形成した際に、アノマー炭素位の水酸基は反応性に富み、容易に置換され得るという性質を有しる。そして、フェーリング反応を利用することにより還元糖か否かを確認することができる。
(2)熱安定性
本発明のPQQ依存型脱水素酵素は、非常に優れた熱安定性を示す。 具体的には、本発明のPQQ依存型脱水素酵素は、60 ℃以上で安定した活性を示し、至適温度は80 ℃以上であることが好ましい。特には、pH 7.5の反応緩衝液中での80 ℃〜100 ℃での熱処理に対しても実質的にその活性が低下しないことが好ましい。実質的に活性が低下しないとは、測定誤差範囲を考慮し、80 %以上、好ましくは90 %以上、特に好ましくは95 %以上の活性が残存する場合をいう。
本発明のPQQ依存型脱水素酵素は熱安定性が高いことから、様々な産業分野における糖の脱水素反応を利用する技術に適用できる。更に、本発明のPQQ依存型脱水素酵素を組み換え体として遺伝子工学的手法により大量に合成した場合等においても、加熱処理により容易に宿主由来の夾雑タンパク質を不溶性画分として容易に除去できる。したがって、精製に際して、その精製度を向上させることができ、信頼性の高い酵素を製造できるという利点がある。
(3)pH安定性
本発明のPQQ依存型脱水素酵素は、pH 6.5〜7.5の範囲で安定した活性を示し、至適pHは、pH 7.0である。また、pH 6.0〜8.0程度までの範囲で活性を保持できることが好ましい。
(4)分子量
本発明のPQQ依存型脱水素酵素は、そのアミノ酸組成の違いにより異なる分子量を有していてもよいが、好ましくは、単量体で約37kDaの分子量を有する。なお、本発明のPQQ依存型脱水素酵素は、ダイマー等の2以上の分子が重合した重合体であってもよく、ホモ重合体であるか、他の分子とのヘテロ重合体であるかをも問わない。
本発明のPQQ依存型脱水素酵素の由来は、前述の本発明のPQQ依存型脱水素酵素の理化学的性質を具備している限り制限はない。例えば、前述の理化学的性質を有するPQQ依存型脱水素酵素を生産する能力を有する生物体であり、いずれの生物体に由来するものであってもよいが、特には細菌由来であり、好ましくは好熱菌由来である。ここで、好熱菌とは、一般に55 ℃以上の高温環境下で生育する細菌である。特に、75 ℃までの温度で生育する細菌を中等度好熱菌と、75 ℃以上で生育する細菌を高度好熱菌と、また、90 ℃以上で生育する細菌は超好熱菌と分類される。本発明においては、いずれをも含むが、特には高度好熱菌、および超好熱菌を意味する。好熱菌は、温泉、熱水域、深海熱水鉱床、工場排水等の人工的熱水環境等から多種分類されている。つまり、本発明のPQQ依存型脱水素酵素の産生菌は、好ましくは高温条件に耐え得る生化学資質を有する細菌である。
具体的には、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)、サーマス・アクアティカス(Thermus aquaticus)等のサーマス(Thermus)属に属する細菌、ピロコッカス・ホリコシ(Pyrococcus horikoshii)ピロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)等のピロコッカス(Pyrococcus)属に属する細菌、スルフォロバス・アシドカルダリウス(Sulfolobus acidocaldarius)、スルフォロバス・トコダイ(Sulfolobus tokodaii)等のスルフォロバス(Sulfolobus)属に属する細菌、サーモプラズマ・アシドフィラム(Thermoplasma acidophilam)等のサーモプラズマ(Thermoplasma)属に属する細菌、及びバチルス・ステアモサーモフィリス(Bacillus steamothermophilus)等の属に属する好熱性の細菌等が例示される。特に好ましくは、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)である。
(本発明のPQQ依存型脱水素酵素のアミノ酸配列)
また、本発明のPQQ依存型脱水素酵素として、これに限定されるものではないが、配列番号2のアミノ酸配列を含むものが好適に例示される。更に、前述のPQQ依存型脱水素酵素の理化学的性質を保持している限り、配列番号2のアミノ酸配列において、特定のアミノ酸に改変が生じている改変部位を有するアミノ酸配列を含むものであってもよい。改変とは、改変の基礎となるタンパク質のアミノ酸配列のうち、1又は複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入および付加の少なくとも1つからなる改変が生じていることを意味する。そして、「1又は複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び付加の少なくとも1つからなる改変」とは、改変の基礎となるタンパク質をコードする遺伝子に対する公知のDNA組換え技術、点変異導入方法等によって、欠失、置換、挿入又は付加することができる程度の数のアミノ酸が、欠失、置換、挿入又は付加されることを意味し、これらの組み合わせをも含む。例えば、このような改変体は、配列番号2で示すアミノ酸配列に対して、アミノ酸レベルで70%以上、好ましくは80% 以上、更に好ましくは90%以上の相同性を保持するものとすることができる。
このような改変体は自然又は人工の突然変異により生じた突然変異体の中から当該活性を有するタンパク質をスクリーニングすることにより取得できる。或いは、下記で説明する本発明のPQQ依存型脱水素酵素をコードする核酸分子に対して改変を施すことによっても取得できる。核酸分子に改変を施す方法としては、特に制限はなく、当業者に公知の改変タンパク質作製のための変異導入技術を利用することができる。例えば、部位特異的突然変異誘発法、PCR等を利用して点変異を導入するPCR突然誘発法、あるいは、トランスポゾン挿入突然変異誘発法などの公知の変異導入技術を利用することができる。市販の変異導入用キット(例えば、QuikChange(登録商標) Site-directed Mutagenesis Kit(Stratagene社製)等を利用してもよい。また、常法のホスホルアミダイト法等のDNA合成法を利用して、所望の改変を施した核酸分子を構築することによっても調製することができる。
当業者は、アミノ酸配列の改変に際して本発明のPQQ依存型脱水素酵素のその酵素活性を保持する改変を容易に予測することができる。具体的には、例えばアミノ酸置換の場合には、タンパク質構造保持の観点から極性、電荷、親水性、若しくは疎水性等の点で置換前のアミノ酸と類似した性質を有するアミノ酸に置換することができる。このような置換は保守的置換として当業者には周知である。具体例を挙げると、例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファンは、共に非極性アミノ酸に分類されるため、互いに似た性質を有する。また、非荷電性アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミンが挙げられる。また、酸性アミノ酸としては、アスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられる。また、塩基性アミノ酸としては、リジン、アルギニン、ヒスチジンが挙げられる。これらの各グループ内のアミノ酸置換は、タンパク質の機能が維持されるとして許容される。また、その後の精製、固相への固定化等の便宜のため、アミノ酸配列のN、又はC末端にHis-tag、FLAG-tag等を付加したものも好適に例示される。このようなTagペプチドの導入は常法により行なうことができる。また、酵素活性の消失を引き起こさない範囲内で、C末端側若しくはN末端側のアミノ酸残基を切断した切断型でもよい。更に、グルコシル化等の化学修飾を付加してもよい。
本発明のPQQ依存型脱水素酵素のアミノ酸配列の配列情報に基づいて、本発明のPQQ依存型脱水素酵素を製造することができる。例えば、配列番号2に示すアミノ酸配列の一部又は全部をコードする塩基配列を基にして作成したDNAプローブとして用いるハイブリダイゼーション法により、前述の理化学的性質を保持し得るPQQ依存型脱水素酵素を発現し得る細菌のゲノムDNAから本発明のPQQ依存型脱水素酵素をコードする核酸分子を調製することができる。また、配列番号2のアミノ酸配列をコードする塩基配列の一部をプライマーとして用いるPCRによっても同様に、前述の理化学的性質を保持し得るPQQ依存型脱水素酵素を発現し得る細菌のゲノムDNAを鋳型として本発明のPQQ依存型脱水素酵素をコードする核酸分子を調製することができる。さらに、常法のホスホルアミダイト法等のDNA合成法を利用して、本発明のPQQ依存型脱水素酵素をコードする核酸分子を化学的に合成することができる。そして、得られた核酸分子を下記で詳細に説明する遺伝子組換え技術により本発明のPQQ依存型脱水素酵素を製造することができる。
ここで、ハイブリダイゼーション及びPCRの鋳型となるゲノムDNAは、前述の理化学的性質を保持し得るPQQ依存型脱水素酵素を発現し得る細菌由来のゲノムDNAである。好ましくは、好塩菌、特には、高度好塩菌由来のゲノムDNAである。例えば、上記したサーマス(Thermus)属細菌、ピロコッカス(Pyrococcus)属細菌、スルフォロバス(Sulfolobus)属細菌、サーモプラズマ(Thermoplasma)属細菌、及び(Bacillus)属の好熱性細菌等が例示される。特には、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)である。しかしながら、これに限定されるものではない。
そして、本発明のPQQ依存型脱水素酵素の製造において、ハイブリダイゼーションを利用する場合に用いられるプローブは、本発明のPQQ依存型脱水素酵素と相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドであり、常法に基づいて調製することができる。例えば、ホスホアミダイト法等に基づく化学合成法、既に標的となる核酸が取得されている場合にはその制限酵素断片等が利用可能である。このようなプローブとしては、本発明のPQQ依存型脱水素酵素をコードする核酸分子の塩基配列に基づき、この塩基配列の連続する10以上、好ましくは15以上、更に好ましくは約20〜50の塩基からなるオリゴヌクレオチドが例示される。そして、プローブは必要に応じて適当な標識が付されていてよく、このような標識として放射線同位体、蛍光色素等が例示される。
また、本発明のPQQ依存型脱水素酵素の製造において、PCRを利用する場合に用いられるプライマーは、本発明のPQQ依存型脱水素酵素と相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドであり、常法に基づいて調製することができる。例えば、ホスホアミダイト法等に基づく化学合成法、既に標的となる核酸が取得されている場合にはその制限酵素断片等が利用可能である。化学合成法に基づきプライマーを調製する場合には、合成に先立って標的核酸の配列情報に基づいて設計される。プライマーの設計は、所望の領域を増幅するように、例えばプライマー設計支援ソフト等を利用して設計することができる。プライマーは合成後、HPLC等の手段により精製される。また、化学合成を行う場合には市販の自動合成装置を利用することも可能である。このようなプライマーとしては、本発明のPQQ依存型脱水素酵素をコードする核酸分子の塩基配列に基づき、所望の増幅領域を挟んで設計され、10以上、好ましくは15以上、更に好ましくは約20〜50の塩基からなるオリゴヌクレオチドが例示される。
ここで、相補的とは、プライマーと標的核酸とが塩基対合則に従って特異的に結合し安定な二重鎖構造を形成できることを意味する。ここで、完全な相補性のみならず、プライマーと標的核酸が互いに安定な二重鎖構造を形成し得るのに十分である限り、いくつかの核酸塩基のみが塩基対合則に沿って適合する部分的な相補性であっても許容される。その塩基数は、標的核酸を特異的に認識するために十分に長くなければならないが、長すぎると逆に非特異的反応を誘発するので好ましくない。したがって、適当な長さはGC含量等の標的核酸の配列情報、並びに、反応温度、反応液中の塩濃度等のハイブリダイゼーション反応条件など多くの因子に依存して決定されるが、好ましくは、20〜50塩基長である。
更には、本発明のPQQ依存型脱水素酵素は、化学的合成技術によっても製造することができる。例えば、配列番号2に示されるアミノ酸配列の全部、又は一部を、ペプチド合成機を用いて合成し、得られるポリペプチドを適当な条件の下で、再構築することにより調製することができる。
(本発明のPQQ依存型脱水素酵素をコードする核酸分子)
本発明のPQQ依存型脱水素酵素をコードする核酸分子は、前述の理化学的性質を有するすべてのPQQ依存型脱水素酵素をコードするものを包含する。例えば、配列番号2に記載されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチドであり、一具体例としては、配列番号1に示す塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。ここで、本発明におけるポリヌクレオチドにはDNA及びRNAの双方が含まれ、DNAである場合には、1本鎖であると、二本鎖であるとは問わない。
更に、前述の本発明のPQQ依存型脱水素酵素の性質を保持している限り、配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを含むものも本発明に含まれる。このようなポリヌクレオチドは、公知の変異導入技術を利用することにより作製できる。例えば、部位特異的突然変異誘発法、PCR等を利用して点変異を導入するPCR突然誘発法、あるいは、トランスポゾン挿入突然変異誘発法などの公知の変異導入技術を利用することができる。市販の変異導入用キット(例えば、QuikChange(登録商標)Site-directed Mutagenesis Kit(Stratagene社製)等を利用してもよい。また、常法のホスホルアミダイト法等のDNA合成法を利用して、所望の改変を施したPQQ依存型脱水素酵素をコードする核酸分子を構築することによって行なうことができる。もしくは、配列番号1の塩基配列を有するポリヌクレオチドに対してエキソヌクレアーゼを作用させることによって取得することができる。このようなポリヌクレオチドとしては、配列番号1の塩基配列において1又は複数の塩基が欠失、置換、付加もしくは挿入されたものも含まれる。したがって、配列番号1の塩基配列の3'、又は5'末端にHis-Tag配列をコードする塩基配列が付加したものも好適に例示される。
ここで、ストリンジェントな条件とは、塩基配列において、60 %以上、好ましくは70 %、より好ましくは80 %以上、特に好ましくは90 %以上の同一性を有するDNA同士が優先的にハイブリダイズし得る条件をいう。ストリンジェンシーは、ハイブリダイゼーションの反応や洗浄の際の塩濃度及び温度を適宜変化させることによって調製することができる。例えば、Sambrook他著、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、(1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor、New York等に記載のサザンハイブリダイゼーションのための条件等が挙げられる。
より具体的には、50 %(v/v) ホルムアミド、5×SSC中で、42 ℃にて16時間のハイブリダイゼーションが例示される。ここで、1×SSCは、0.15 M NaCl、0.015 M クエン酸ナトリウム、pH 7.0である。また、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を0.1〜1.0 %(v/v)、変性非特異的DNAを0〜200 μl含んでいてよい。そして、洗浄条件としては、2×SSC、0.1 % SDS中の5℃にて5分間の洗浄、及び0.1×SSC、0.1 % SDS中の65℃にて30分間〜4時間の洗浄が例示される。また、これらと同等の条件も当業者は容易に理解できるであろう。
本発明のPQQ依存型グルコース脱水素酵素をコードする核酸分子は、本発明の核酸分子の塩基配列に基づいて作成することができる。例えば、配列番号1に示す塩基配列の一部又は全部を基にして作成したDNAプローブとして用いるハイブリダイゼーション法により、前述の理化学的性質を保持し得るグルコース脱水素酵素を発現し得る細菌のゲノムDNAから本発明のPQQ依存型脱水素酵素をコードする核酸分子を調製することができる。また、配列番号1の塩基配列の一部をプライマーとして用いるPCRによっても同様に、前述の理化学的性質を保持し得るグルコース脱水素酵素を発現し得る細菌のゲノムDNAを鋳型として本発明のPQQ依存型脱水素酵素をコードする核酸分子を調製することができる。また、実施例1に示す通り、既知のPQQ依存型脱水素酵素の配列情報から構築されたプライマーを用いたPCRにより、前述の理化学的性質を保持し得るPQQ依存型脱水素酵素を発現し得る細菌のゲノムDNAをクローニングすることによって取得することができる。さらに、常法のホスホルアミダイト法等のDNA合成法を利用して、本発明のPQQ依存型グルコース脱水素酵素をコードする核酸分子を化学的に合成することができる。詳細については前述した。
(本発明の組換えベクター)
そして、本発明の組換えベクターは、適当なベクターに本発明のPQQ依存型脱水素酵素をコードする核酸分子を組み込むことによって構築することができる。利用可能なベクターとしては、外来DNAを組み込め、かつ宿主細胞中で自律的に複製可能なものであれば特に制限はない。したがって、ベクターは、本発明のPQQ依存型脱水素酵素をコードする核酸分子を挿入できる少なくとも1つの制限酵素部位の配列を含むものである。例えば、プラスミドベクター(pEX系、pUC系、及びpBR系等)、ファージベクター(λgt10、λgt11、及びλZAP等)、コスミドベクター、ウイルスベクター(ワクシニアウイルス、及びバキュロウイルス等)等が包含される。
そして、本発明の組換えベクターは、本発明のPQQ依存型脱水素酵素をコードする核酸分子がその機能を発現できるように組み込まれている。したがって、核酸分子の機能発現に必要な他の公知の塩基配列が含まれていてもよい。例えば、プロモータ配列、リーダー配列、シグナル配列、並びにリボソーム結合配列等が挙げられる。プロモータ配列としては、例えば、宿主が大腸菌の場合にはlacプロモータ、trpプロモータ等が好適に例示される。しかしながら、これに限定するものではなく公知のプロモータ配列を利用できる。更に、本発明の組換えベクターには、宿主において表現型選択を付与することが可能なマーキング配列等をも含ませることができる。このようなマーキング配列としては、薬剤耐性、栄養要求性などの遺伝子をコードする配列等が例示される。具体的には、カナマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子等が例示される。
ベクターへの本発明のPQQ依存型脱水素酵素をコードする核酸分子等の挿入は、例えば、適当な制限酵素で本発明の遺伝子を切断し、適当なベクターの制限酵素部位、又はマルチクローニング部位に挿入して連結する方法などを用いることができるが、これに限定されない。連結に際しては、DNAリガーゼを用いる方法等、公知の方法を利用できる。また、DNA Ligation Kit(Takara-bio社)等の市販のライゲーションキットを利用することもできる。
(本発明の形質転換体)
本発明の形質転換体は、細胞を本発明のPQQ依存型脱水素酵素をコードする核酸分子を含む組換えベクターで形質転換することによって構築することができる。ここで、宿主となる細胞としては、本発明のPQQ依存型脱水素酵素をコードする核酸分子を効率的に発現できる宿主細胞であれば、特に制限はない。原核生物を好適に利用でき、特には大腸菌を利用することができる。その他、枯草菌、バシラス属細菌、シュードモナス属細菌等をも利用できる。大腸菌としては、例えば、E.coli DH5α、E.coli BL21、E.coli JM109等を利用できる。更に、原核生物に限定されず真核生物細胞を利用することが可能である。例えば、Saccharomyces cerevisiae等の酵母、Sf9細胞等の昆虫細胞、CHO細胞、COS-7細胞等の動物細胞等を利用することも可能である。形質転換法としては、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソームトランスフェクション法、マイクロインジェクション法等を公知の方法を利用することができる。
(本発明のPQQ依存型脱水素酵素の製造方法)
本発明のPQQ依存型脱水素酵素の製造方法は、前述の本発明の形質転換体を培養し、得られた培養物から糖の脱水素反応を触媒する能力を有するタンパク質を採取することにより行なう。即ち、前述の本発明の形質転換体を培養する培養工程と、前記培養工程で発現した前記タンパク質を回収する回収工程とを備える。このように、適当な宿主で発現させることによって、低コストで本発明のPQQ依存型脱水素酵素の大量生産が可能となる。
培養工程は、本発明の形質転換体を適当な培地に接種し、常法に準じて培養することにより行なわれる。本発明の形質転換体の培養は、宿主細胞の栄養生理学的性質を勘案して、培養条件を選択すればよい。使用される培地としては、宿主細胞が資化し得る栄養素を含み、形質転換体におけるタンパク質の発現を効率的に行えるものであれば特に制限はない。したがって、宿主細胞の生育に必要な炭素源、窒素源その他必須の栄養素を含む培地であることが好ましく、天然培地、合成培地の別を問わない。例えば、炭素源として、グルコース、デキストラン、デンプン等が、また、窒素源としては、アンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、ペプトン、カゼイン等が挙げられる。他の栄養素としては、所望により、無機塩類、ビタミン類、抗生物質等とを含ませることができる。宿主細胞が大腸菌の場合には、LB培地、M9培地等が好適利用できる。また、培養形態についても特に制限はないが、大量培養の観点から液体培地が好適に利用できる。
本発明の組換えベクターを保持する宿主細胞の選別は、例えば、マーキング配列の発現の有無により行なうことができる。例えば、マーキング配列として薬剤耐性遺伝子を利用する場合には、薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤含有培地で培養することによって行うことができる。
精製工程は、前述の培養工程において得られた形質転換体の培養物からの本発明のPQQ依存型脱水素酵素を回収、即ち、単離精製することによって行えばよい。本発明の酵素の存在する画分に応じて、一般的なタンパク質の単離精製方法に準じた手法を適用すればよい。具体的には、本発明のPQQ依存型脱水素酵素が宿主細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離、濾過等の手段により宿主細胞を除去して培養上清を得る。続いて、培養上清に、公知のタンパク質精製方法を適宜選択することにより、本発明の酵素を単離精製することができる。例えば、硫酸アンモニウム沈殿、透析、SDS-PAGE電気泳動、ゲル濾過、疎水、陰イオン、陽イオン、アフィニティークロマトグラフィ等の各種クロマトグラフィ等の公知の単離精製技術を単独、又は適宜組み合わせて適用することができる。特にアフィニティークロマトグラフィを利用する場合、本発明の酵素をHis Tag等のタグペプチドとの融合タンパク質として発現させて、かかるタグペプチドに対する親和性を利用することが好ましい。また、本発明のPQQ依存型脱水素酵素が宿主細胞内で産生される場合には、培養物を遠心分離、濾過等の手段により宿主細胞を回収する。続いて、リゾチーム処理などの酵素的破砕方法、又は超音波処理、凍結融解、浸透圧ショック等の物理的破砕方法等により、宿主細胞を破砕する。破砕後、遠心分離、濾過等の手段により可溶化画分を収集する。得られた可溶化画分を、前述の細胞外に生産できる場合と同様に処理することにより単離精製することができる。ここで、本発明で得られるPQQ依存型脱水素酵素は、熱安定性が高いことから、前述の単離、精製工程において熱処理を併用することが有用かつ便利である。培養物から得られた宿主細胞及び培養上清には、当該宿主細胞由来の様々なタンパク質を含有する。しかし、熱処理を行なうことにより、宿主細胞由来の夾雑タンパク質は変性し凝縮沈殿する。これに対して、本発明の酵素は、耐熱性を有するため変性を生じないことから、遠心分離等により宿主由来の夾雑タンパク質と容易に分離できる。また、培養液をそのまま、若しくは粗抽出液を使用する場合においても、熱処理を行なうことにより、他のタンパク質が失活することから、実質的に本発明のPQQ依存型脱水素酵素のみの酵素液として使用することができる。したがって、本発明のPQQ依存型脱水素酵素を遺伝子工学的手法により製造する場合においても、宿主由来のその他のタンパク質を容易に除去することができる。したがって、精製度を向上させることができ、信頼性の高い酵素を製造できるという利点がある。そして、単離精製されたタンパク質の性能確認は、その理化学的性質や配列の分析によって行うことができ、例えば、実施例3〜6に記載の方法等で行うことができる。
(糖類の検出方法)
本発明のPQQ依存型脱水素酵素は、試料中の糖類の検出のために利用することができる。糖類の検出は、糖基質に対してPQQ依存的に脱水素反応を触媒する当該酵素の活性を測定することにより行うことができる。酵素の活性は、PQQ依存的に糖類の脱水素反応を触媒する酵素の活性測定法として知られる方法をいずれも利用して行うことができる。例えば、本発明のPQQ依存型脱水素酵素を測定対象となる試料と反応させ、当該酵素の働きにより還元されたジクロロインドフェノール(以下「DCIP」と略する。)の電極酸化電流を測定することにより行うことができる。この場合は、かかる電極酸化電流をもって当該酵素の活性とすることができ、ひいては糖類の存在を検出することができる。また、当該酵素の触媒反応に伴って還元されるPQQの量を酸化還元試薬の呈色反応により定量することができる。例えば、ジクロロインドフェノール(dichloroindophenol:DCIP)を利用することもでき、これは還元されると600nmの吸光度が減少することから、かかる吸光度変化をもって当該酵素の活性とすることができ、ひいては糖類の存在を検出することができる。吸光度の測定は、既知のマイクロプレートリーダー(モレキュラーデバイス社製)を用いることができる。また、そして、適当な試験条件が選択されていれば、前述の電極酸化電流及び吸光度の変化は、測定しようとする酵素活性に直線的に比例する。このとき、あらかじめ目的濃度範囲内における標準濃度の糖基質溶液により作製した標準曲線を作成することにより、得られた変化値に基づいて糖基質濃度を求めることができる。
(本発明の燃料電池)
本発明は、本発明のPQQ依存型脱水素酵素を利用する燃料電池を提供する。本発明の燃料電池は、例えば、酸化反応を行うアノード極と、還元反応を行うカソード極から構成され、必要に応じてアソードとカソードを隔離する電解質層を含んで構成される。そして、アノード電極側では、本発明のPQQ依存型脱水素酵素が糖基質を酸化することによって生じた電子を電極に取り出すと共に、プロトンを発生する。一方、カソード側では、アノード側で発生したプロトンが酸素と反応することによって水を生成するように構成される。電極としては、カーボン、金、白金等を用いることができる。アノード極側には本発明のPQQ依存型脱水素酵素が供給され、適当な緩衝液中に溶解させた形態で供給してもよいが、電極上に固定化されることが好ましい。このとき、PQQ依存型脱水素酵素は、好ましくはPQQと共に固定化されることが好ましく、特にはPQQと結合したホロ酵素の形態で固定化されることが好ましい。また、アポ酵素の形態で固定化し、PQQを適当な緩衝液に溶解させた形態で供給してよい。カソード極側には、酸素に電子を伝達することのできる触媒および酵素を必要に応じて供給してよい。電極材上への酵素の固定化は、公知の方法によって行うことができる。例えば、物理的吸着、イオン結合,共有結合を介して固定化する担体結合法を利用することができる。また、グルタルアルデヒドなどの二価性官能基をもつ試薬で架橋固定する架橋法をも利用でき、更には、アルギン酸,カラギーナン等の多糖類、ポリアクリルアミド等の網目構造をもつゲルや、半透性膜の中に閉じて固定化する包括法等をも利用することができる。
以上のように構成することにより、本発明の脱水素酵素が作用しえる糖を燃料として、かかる糖基質を酸化する際に生じた電子がアノード極に電子を受け渡す。そして、アノード極に渡された電子は、外部回路を経てカソード極に到達することで電流が発生する。燃料となる糖基質としては、本発明のPQQ依存型脱水素酵素の基質となり得る糖であれば制限はない。
本発明の燃料電池は、熱安定性が高い本発明のPQQ依存型脱水素酵素の触媒能力を利用することから、持続的に発電を行なうでき、高性能の燃料電池として構築することができる。また、PQQ依存型脱水素酵素は、糖基質に対して広い基質特異性を有することから、様々な種類の糖類を利用でき、資源の有効利用が図れる。更に、精製度の低い糖燃料であっても発電効率は低下せず、コスト削減効果をも奏することができる。
(糖類センサー)
本発明は、本発明のPQQ依存型脱水素酵素を利用する糖類センサーを提供する。糖類センサーは、電極材上にPQQ依存型脱水素酵素が固定化した作用電極、及びその対極を設けて構成される。必要に応じて、参照電極を設けて三電極方式として構成してもよい。このとき、本発明のPQQ依存型脱水素酵素は、好ましくはPQQと共に固定化されることが好ましく、特にはPQQと結合したホロ酵素の形態で固定化されることが好ましい。電極としては、カーボン、金、白金等を用いることができる。電極材上への酵素の固定化は、公知の方法によって行うことができる。例えば、物理的吸着、イオン結合,共有結合を介して固定化する担体結合法を利用することができる。また、グルタルアルデヒドなどの二価性官能基をもつ試薬で架橋固定する架橋法をも利用でき、更には、アルギン酸,カラギーナン等の多糖類、ポリアクリルアミド等の網目構造をもつゲルや、半透性膜の中に閉じて固定化する包括法等をも利用することができる。
糖類の測定は、例えば、測定対象となる試料を接触させると、試料中に含まれる糖基質が作用極上に固定された本発明のPQQ依存型脱水素酵素と反応し、続いて電子メディエーターが還元される。そして、電極系に電圧を印加して電子受容体の還元体を酸化し、得られる酸化電流値の変化により試料中の糖基質を検出することができる。このとき、あらかじめ目的濃度範囲内における標準濃度の糖基質溶液により作製した標準曲線を作成することにより、得られた酸化電流値に基づいて糖基質濃度を求めることができる。
本発明の糖類検出用のバイオセンサーは、熱安定性が高い本発明のPQQ依存型脱水素酵素の触媒能力を利用することから、当該酵素の触媒能力が劣化することなく連続的な測定が可能なバイオセンサーとして構築できる。ここで、試料としては、糖類の存在が予想されるすべての試料を対象とすることができる。例えば、血液、尿、唾液等の生物体由来の生物試料、食品試料、環境試料等が例示されるがこれに限定されるものではない。したがって、本発明の糖類検出用バイオセンサーは、糖類の検出を要する全ての分野で利用可能であり、特に、医療、食品、環境分野において利用可能である。また、必要に応じてこれらの試料に適当な処理を行った試料をも含み得る。
〔実施例1〕遺伝子クローニング
サーマス サーモフィラス(Thermus thermophilus)のゲノムDNAからグルコース脱水素酵素をコードする核酸分子を、PCRを利用してクローニングした。
鋳型として、サーマス サーモフィラスHB8(Thermus thermophilus HB8)のゲノムDNA(タカラバイオ:カタログ番号No.3071)を用いた。プライマーは、サーマス サーモフィラス HB8由来のPQQ依存型グルコース脱水素酵素のオープンリーディングフレーム(以下、「ORF」と称する)の塩基配列(YP_143836)に基づいて、ORFの開始コドンと終始コドンの間の領域が増幅されるように設計した。このとき、開始コドン側のプライマーtth_gdh_f1には、ベクター連結用の制限酵素NdeI認識配列(CATATG)を導入して設計した。また、終始コドン側のプライマーtth_gdh_r1 及びプライマーtth_gdh_r2には、同様にベクター連結用の制限酵素HindIII認識配列(AAGCTT)を導入して設計した。なお、プライマーtth_gdh_r1は、元の終止コドン(ATG)にそのまま対応するものであるが、プライマーtth_gdh_r2は、カルボキシル末端に精製用のHis tag標識を付加させるため終止コドンをグリシン(GCC)に対応するよう設計した。そして、〔プライマーtth_gdh_f1 − プライマーtth_gdh_r1〕の組み合わせと、〔プライマーtth_gdh_f1 − プライマーtth_gdh_r2〕の組み合わせで、2種類の増幅産物を作製した。
具体的な配列情報は以下の通りである。
プライマーtth_gdh_f1
5'-ACATTCATATGGACCGGAGGCGCTTTCTCGT-3' (配列番号3)
プライマーtth_gdh_r1
5'-ATACCAAGCTTCTAAAGGAGGCGTAGCACCCGGTC-3' (配列番号4)
プライマーtth_gdh_r2
5'-ATACCAAGCTTGCCAAGGAGGCGTAGCACCCGGTC-3' (配列番号5)
PCR反応液の組成、及びPCRプログラムは、以下の通りである。
PCR反応液の組成:
1×KOD plus buffer(東洋紡)、
0.4 mM dNTPs、
0.5 μM プライマーtth_gdh_f1、
0.5 μM プライマーtth_gdh_r1、又は、0.5 μM プライマーtth_gdh_r1、
10 %(v/v) ジメチルスルフォキシド、
1.25 mM MgSO4
0.5 unit KOD plus(東洋紡)、
5 ng Thermus thermophilus HB8ゲノムDNA。
反応プログラム:
98 ℃ 1分→、
〔98 ℃ 10 秒→(65 ℃−0.5 ℃ / 2サイクル)→68 ℃ 1分〕× 35 サイクル→
68 ℃ 1分。
PCR増幅後、約1 kbpのDNAの増幅断片を精製した。精製後の増幅断片、及びプラスミドベクターpET22b(Novagen)を、それぞれ制限酵素NdeI及びHindIIIで消化した。続いて、増幅断片とプラスミドベクターpET22bとを混合し、連結反応を行った。なお、連結反応は、DNA ligation kit(タカラバイオ)を用いた。連結後の反応液を、大腸菌XL1-Blue(Stratagene)に導入し、形質転換させた。続いて、抗生物質アンピシリン含有LB寒天培地のプレート上に接種し培養した。培養後、プレート上に形成されたXL1-Blueの単一コロニーを選択し、このコロニーを、少量の培地(1.5 ml)で培養した。次いで、培養菌体から、プラスミドをplasmid mini kit(QIAGEN)にて精製し、プラスミドに挿入された断片の塩基配列をチェーンターミネーター法で決定した。その塩基配列、及び推定アミノ酸配列を図1に示すと共に、配列表の配列番号1、2にそれぞれ示す。ここで、増幅されたDNA断片の塩基配列は、YP_143836の塩基配列と一致し、PQQ依存型グルコース脱水素酵素をコードする核酸分子がクローニングされたことが確認された。以下、本実施例で得られたサーマス・サーモフィラス由来のPQQ依存型グルコース脱水素酵素をコードする核酸分子を「tth_gdh遺伝子」と、また、それがコードするグルコース脱水素酵素を「Tth GDH」と称するものとする。
更に、既知のグルコースに作用し脱水素反応を触媒する酵素とのアミノ酸配列アラインメントを図2に示す。大腸菌由来の可溶性アルドース糖脱水素酵素(Stacey M.他著、JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY、2006年10月、第281巻、第41号)をアラインメントの対象とした。図2中、大腸菌由来の可溶性アルドース糖脱水素酵素を「E.coli ADH」と略し、配列表に配列番号6として示す。また、右端の数字はアミノ酸の番号を表し、「*」は両者で一致するアミノ酸、「:」又は「.」は類似するアミノ酸を示し、該当するアミノ酸が存在しない場合は「-」(ギャップ)で示した。アライメントの結果、一致するアミノ酸は119個(全352アミノ酸の33.8 %に該当)であることが判明した。
〔実施例2〕形質転換体の製造、及び組換えタンパク質の製造
tth_gdh遺伝子により大腸菌を形質転換し、大腸菌細胞内でtth_gdh遺伝子を発現させ組み換えTth GDHを製造した。
大腸菌BL21(DE3)株を、pET22bにtth_gdh遺伝子を導入したプラスミドで形質転換した後、LB培地(0.2 μg/ml アンピシリン、0.02 %(w/v)グルコース、0.5%(w/v)ラクトース含有)で37 ℃にて20 時間培養し、導入遺伝子の発現を誘導させた。菌体を遠心分離で回収して超音波破砕処理に供し、処理後の可溶画分を回収した。可溶画分をHis tag 精製レジンであるTALON(タカラバイオ)レジンと混合してHis tagが付加されたTth GDHをレジンに吸着させた後、イミダゾールで溶出してTth GDHを含む溶出画分を回収した。そして、回収したTth GDHの溶出画分を、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で解析した。
結果を図3に示す。図3中、レーン1は分子量マーカー、レーン2は破砕処理後の可溶画分、レーン3はレジンからの溶出画分の泳動結果である。図3の結果から、レジンからの溶出画分において、約37 kDaの位置にシングルバンドを確認することができた。
〔実施例3〕組換えTth GDH の活性測定−1
組換えTth GDHのグルコースに対する触媒活性を測定した。本実施例においては、pHが活性に与える影響を確認した。
Tth GDHの酵素活性測定は、当該脱水素酵素の働きによりグルコースから奪われた水素がジクロロインドフェノール(以下「DCIP」と略する。)を還元する反応を利用して行った。
ここで、活性測定の対象として、実施例2でレジンによって精製されたTth GDHを用い、反応液中に100 nMとなるように、14μg / μlを2μl添加した。反応液(1.5 ml)は、20 mM グリシン、100 mM グルコース、1mM CaCl2、0.1 mM PQQ、10 μM DCIPで、60 ℃に保温したものを使用した。添加後、φ 3 mmグラッシーカーボン作用電極、Ag / AgCl参照電極、白金補助電極の3電極系で、0.1 V(vs. Ag / AgCl)の電位を印加し、酵素反応により還元されたDCIPの電極酸化電流をアンペロメトリーで測定した。このとき、NaOHを反応液に滴下しながらpHメーターでpHをモニターし、各pHにおける電極酸化電流を測定することで、各pHにおける酵素活性を測定した。
結果を図4に示す。図4は、測定された電流を縦軸に、pHを横軸にとったグラフである。図4の結果から、pH 6〜8において安定した活性を、pH 6.5〜7.5においては更に安定した活性を示し、pH 7付近で酵素活性の極大が認められた。かかる結果より、Tth GDHがpH 7において高い活性を有することが判明した。
〔実施例4〕組換えTth GDH の活性測定−2
実施例3に続き、組換えTth GDHのグルコースに対する触媒活性を測定した。本実施例においては、Tth GDHの熱安定性を確認した。
実施例3と同様、実施例2で得られたTth GDHを、反応液中に100nMとなるように14μg /μlを2μl添加した。反応液(1.5 ml)は、20 mM HEPES-NaOH、pH 7.5、100 mM NaCl、100 mM グルコース、1mM CaCl2、0.1 mM PQQ、10μM DCIPとして調製したものを使用した。添加後、実施例3と同様の手順で、酵素反応により還元されたDCIPの電極酸化電流をアンペロメトリーで測定した。このとき、反応液の温度を変化させながら測定し、酵素を添加せず反応液のみで測定した電極酸化電流値を減ずることで、正味の酵素による電極酸化電流値を算出し、酵素活性とした。
比較例として、市販の既知のPQQ依存型グルコース脱水素酵素(東洋紡:カタログNo.GLD-321)についても同様に酵素活性を求めた。かかる酵素は、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)由来のPQQ依存型グルコース脱水素酵素の一部改変型タンパク質である。
結果を図5に示す。図5は、測定した温度範囲内における極大活性を100として、その他の温度における活性を相対値として示した。そして、相対活性を縦軸に、温度を横軸にとり、菱形印(◆)はTth GDHの活性を、四角印(■)は既知のグルコース脱水素酵素の活性を示す。図5の結果から、Tth GDHは、60 ℃以上で安定した活性を示し、80 ℃以上で特に安定して活性を維持できることが認められた。また、40 ℃程度でも活性は残存し、失活することはなかった。一方、既知のグルコース脱水素酵素は、50 ℃以上の温度では急速に活性が低下することが認められた。
〔実施例5〕
実施例3、及び4に続き、組換えTth GDHの酵素活性を測定した。本実施例においては、Tth GDHの基質特異性について確認した。
実施例3、及び4と同様、実施例2で得られたTth GDHを、反応液中に100nMとなるように14 ng /μlを3μl添加した。反応液(1.5 ml)は、20 mM HEPES-NaOH、pH 7.5、100 mM NaCl、100 mM 基質、1mM CaCl2、1μM PQQ、10 μM DCIPで、45 ℃に保温して使用した。なお、基質として、グルコース、マルトース(二糖類:グルコース+グルコース(α1,4結合))、マルトトリオース(三糖類)のいずれかを含んで調製した。添加後、実施例3と同様の3電極系で、発電位-0.1 V終電位0.1 V(vs. Ag / AgCl)、走査速度2 mV / sで、リニアスイープボルタンメトリーを行い、酵素反応により還元されたDCIPの電極酸化電流を測定した。そして、0.05 V〜0.1 V の範囲で検出された定常電流値から、反応液のみで検出された値を減ずることで、正味の酵素による電極酸化電流値を算出し、酵素活性(kcat)とした。
比較として、基質特異性が広いことが報告されている大腸菌由来のアルドース糖脱水素酵素(以下、「E.coli ADH」と略する。)の活性についての文献値(Stacey M.他著、JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY、2006年10月、第281巻、第41号)を提示する。
結果を図6に示す。図6は、グルコースに対する活性を100として各糖基質に対する相対活性を示すグラフである。詳細には、基質を横軸に、相対活性を縦軸にとり、本発明のTth GDHの活性につき白抜き棒グラフで表し、E.coli ADHの活性の文献値に基づいた相対値につき影付き棒グラフで表している。
図6の結果から、本発明のTth GDHが、グルコースだけでなく、マルトース、及びマルトトリオースをも基質として作用することが確認された。したがって、本発明のTth GDHが、幅広い基質特異性を示すと報告されているE.coli ADHと同様、幅広い基質特性を示す糖脱水素酵素であることが確認された。
〔実施例6〕
実施例3、4及び5に続き、Tth GDHの酵素活性を測定した。本実施例においては、実施例5と同様Tth GDHの基質特異性について確認した。
実施例5と同様にして、グルコース、ガラクトース、フルクトース、キシロース、スクロース(二糖類:グルコース+フルクトース(α1,4結合))、マルトース、ラクトース(がラクトース+グルコース(β1,4結合))、トレハロース(グルコース+グルコース(α1,1結合))、マルトトリオースを基質とした場合の酵素活性を測定した。
結果を図7に示す。図7は、グルコースに対する活性を100として各糖基質に対する相対活性を示すグラフである。詳細には、基質を横軸に、相対活性を縦軸にとり、本発明のTth GDHの活性を棒グラフで表している。
図7の結果から、本発明のTth GDHは、実施例5で確認されたグルコース、マルトース、マルトトリオースに加え、ガラクトース、フルクトース、キシロース、ラクトースをも基質として作用するものであることが確認された。したがって、本発明のTth GDHは、極めて広い基質特異性を有することが判明した。
本発明は、糖類の脱水素酵素及びその利用方法に関し、医療、食品、環境分野等の様々な産業分野において利用可能である。
本発明のtth GDH遺伝子の塩基配列及び推定アミノ酸配列を示す図 既知のグルコースに対する脱水素活性を有する酵素とのアミノ酸配列アラインメント 本発明のTth GDHの合成を確認した実施例2の結果を示す図 組換えTth GDHの活性(pH安定性)を確認した実施例3の結果を示す図 組換えTth GDHの活性(熱安定性)を確認した実施例4の結果を示す図 組換えTth GDHの活性と既知酵素の活性(基質特異性)を比較した実施例5の結果を示す図 組換えTth GDHの活性(基質特異性)を確認した実施例6の結果を示す図

Claims (11)

  1. 下記(1)、及び(2)の理化学的性質を有するタンパク質。
    (1)ピロロキノリンキノンを補酵素として要求し、グルコースからグルコノラクトンを生成する脱水素反応を触媒する
    (2)60 ℃以上の温度で安定に活性を示し、至適温度が80〜100℃である
  2. 下記(3)の理化学的性質を有する請求項1に記載のタンパク質。
    (3)前記グルコースに加えて、他の還元糖の脱水素反応を触媒する
  3. 前記還元糖が、マルトース、マルトトリオース、ガラクトース、フルクトース、キシロース、ラクトースから選択される1以上の糖である請求項2に記載のタンパク質。
  4. 下記(a)又は(b)のアミノ酸配列を含む請求項1〜3のいずれか一項に記載のタンパク質。
    (a)配列番号2に示すアミノ酸配列
    (b)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1又は複数のアミノ酸の欠失、置換、挿入および付加から選択される1以上の改変が生じたアミノ酸配列
  5. 請求項1〜4のいずれか一項に記載のタンパク質をコードする単離核酸分子。
  6. 下記(c)又は(d)のポリヌクレオチドからなる請求項5に記載の単離核酸分子。
    (c)配列番号1に示す塩基配列を含むポリヌクレオチド
    (d)配列番号1に示す塩基配列を含むポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
  7. 請求項5又は6に記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
  8. 請求項7に記載の組換えベクターを含有する形質転換体。
  9. 請求項8に記載の形質転換体を培養し、得られた培養物から糖の脱水素反応を触媒する能力を有するタンパク質を採取する糖の脱水素酵素の製造方法。
  10. 請求項1〜4のいずれか一項に記載のタンパク質を含み、前記タンパク質の糖類の酸化反応に伴って生成する電子を受け取るアノード極、酸素に電子を伝達することのできる触媒および酵素のいずれかを保持するカソード極を備え、前記アノード極と前記カソード極とが電気的に結合されている燃料電池。
  11. 請求項1〜4のいずれか一項に記載のタンパク質を電極上に固定化した持続測定型の糖類検出用のバイオセンサー。
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