JP6816536B2 - 乳酸酸化酵素、乳酸酸化酵素をコードする核酸分子、乳酸酸化酵素を用いた乳酸測定方法、乳酸センサー、及びバイオ燃料電池 - Google Patents

乳酸酸化酵素、乳酸酸化酵素をコードする核酸分子、乳酸酸化酵素を用いた乳酸測定方法、乳酸センサー、及びバイオ燃料電池 Download PDF

Info

Publication number
JP6816536B2
JP6816536B2 JP2017014636A JP2017014636A JP6816536B2 JP 6816536 B2 JP6816536 B2 JP 6816536B2 JP 2017014636 A JP2017014636 A JP 2017014636A JP 2017014636 A JP2017014636 A JP 2017014636A JP 6816536 B2 JP6816536 B2 JP 6816536B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
lactic acid
lactate
oxidase
lactate oxidase
present
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2017014636A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2018121545A (ja
Inventor
康司 重森
康司 重森
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Aisin Corp
Original Assignee
Aisin Seiki Co Ltd
Aisin Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Aisin Seiki Co Ltd, Aisin Corp filed Critical Aisin Seiki Co Ltd
Priority to JP2017014636A priority Critical patent/JP6816536B2/ja
Publication of JP2018121545A publication Critical patent/JP2018121545A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP6816536B2 publication Critical patent/JP6816536B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Images

Classifications

    • YGENERAL TAGGING OF NEW TECHNOLOGICAL DEVELOPMENTS; GENERAL TAGGING OF CROSS-SECTIONAL TECHNOLOGIES SPANNING OVER SEVERAL SECTIONS OF THE IPC; TECHNICAL SUBJECTS COVERED BY FORMER USPC CROSS-REFERENCE ART COLLECTIONS [XRACs] AND DIGESTS
    • Y02TECHNOLOGIES OR APPLICATIONS FOR MITIGATION OR ADAPTATION AGAINST CLIMATE CHANGE
    • Y02EREDUCTION OF GREENHOUSE GAS [GHG] EMISSIONS, RELATED TO ENERGY GENERATION, TRANSMISSION OR DISTRIBUTION
    • Y02E60/00Enabling technologies; Technologies with a potential or indirect contribution to GHG emissions mitigation
    • Y02E60/30Hydrogen technology
    • Y02E60/50Fuel cells
    • YGENERAL TAGGING OF NEW TECHNOLOGICAL DEVELOPMENTS; GENERAL TAGGING OF CROSS-SECTIONAL TECHNOLOGIES SPANNING OVER SEVERAL SECTIONS OF THE IPC; TECHNICAL SUBJECTS COVERED BY FORMER USPC CROSS-REFERENCE ART COLLECTIONS [XRACs] AND DIGESTS
    • Y02TECHNOLOGIES OR APPLICATIONS FOR MITIGATION OR ADAPTATION AGAINST CLIMATE CHANGE
    • Y02PCLIMATE CHANGE MITIGATION TECHNOLOGIES IN THE PRODUCTION OR PROCESSING OF GOODS
    • Y02P70/00Climate change mitigation technologies in the production process for final industrial or consumer products
    • Y02P70/50Manufacturing or production processes characterised by the final manufactured product

Landscapes

  • Apparatus Associated With Microorganisms And Enzymes (AREA)
  • Enzymes And Modification Thereof (AREA)
  • Measuring Or Testing Involving Enzymes Or Micro-Organisms (AREA)
  • Micro-Organisms Or Cultivation Processes Thereof (AREA)
  • Inert Electrodes (AREA)

Description

本発明は、乳酸酸化酵素、乳酸酸化酵素をコードする核酸分子、乳酸酸化酵素を用いた乳酸測定方法、乳酸センサー、及びバイオ燃料電池に関する。つまり、既知の乳酸酸化酵素とは異なるアミノ酸配列を有する乳酸酸化酵素、及びその利用方法に関する。
L-乳酸の酸化還元反応に関与する酵素としては、乳酸脱水素酵素(L-lactate dehydrogenase)及び乳酸酸化酵素(L-lactate oxidase)等が挙げられる。
乳酸脱水素酵素は乳酸とピルビン酸との間の酸化還元反応を触媒する酵素の総称であり、細菌、酵母から哺乳類に至るまで広く存在しており、多様な生物由来のものが報告されている。酵母由来の乳酸脱水素酵素が代表的であり、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来の乳酸脱水素酵素(Accession No:P00175、591アミノ酸、65.5kDa)、及びハンセヌラ・アノマラ(Hansenula anomala)由来の乳酸脱水素酵素(Accession No:P09437、573アミノ酸、64.2kDa)等が例示される。
乳酸酸化酵素は、下記反応式に示す通り乳酸酸化反応を触媒し、酸素の存在下でL-乳酸に作用してピルビン酸及び過酸化水素を生成する反応を触媒する(反応式 : L-乳酸 + 酸素 → ピルビン酸 + 過酸化水素)。乳酸酸化酵素は乳酸菌由来のものが代表的である。エンテロコッカス(Enterococcus) 属細菌由来の乳酸酸化酵素(Accession No:WP_010738027、368アミノ酸、40.0kDa)、及びエロコッカス・ビリダンス(Aerococcus viridians)由来の乳酸酸化酵素(Accession No:WP_003142047、374アミノ酸、40.9kDa)等が例示される。
また、特許文献1には、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)から新規な乳酸酸化酵素を単離したことが報告されている。詳細には、菌体より抽出した染色体DNAから乳酸酸化酵素をコードする遺伝子を分離したこと、当該遺伝子を発現させ新規な乳酸酸化酵素を取得したことが記載されている。更に、当該遺伝子の全塩基配列を決定し、当該酵素を遺伝子工学的手法により高生産させることに成功し、高純度な当該酵素を安価に大量供給することを可能にしたことが記載されている。ここで、当該乳酸酸化酵素のアミノ酸配列を配列番号3として示すが、相同性検索によりエンテロコッカス属細菌由来の乳酸酸化酵素のアミノ酸配列とほぼ一致するとの結果が得られた。両者は共在菌であることから、特許文献1に示す新規な乳酸酸化酵素はエンテロコッカス属細菌由来の可能性がある。
乳酸酸化酵素は、試料中の乳酸を測定するために利用することができる。例えば、生体試料中の乳酸値は、心筋梗塞や心不全、呼吸不全等の循環不全、肝不全等の肝障害、尿毒症、インスリン分泌不全を伴う糖尿病、細菌やウイルス感染症等の種々の病態の指標として利用することができる。また、激しい短期間の筋肉の運動等により筋肉中に乳酸が過剰に蓄積し、その結果、運動機能の低下や筋肉疲労を引き起こすことが知られている。したがって、生体試料中の乳酸値は、身体活動制御のための指標としても利用することができる。更に、食品試料中の乳酸値は、発酵食品製造過程や腐敗等の食品の品質管理等の指標として利用することができる。
試料中の乳酸を測定する装置として、乳酸酸化酵素を検知素子として利用した乳酸センサーが報告されている。乳酸酸化酵素の反応場に、電子伝達物質・メディエータと当該メディエータと電子を授受する導電基材が近接して存在すると、当該酵素による乳酸酸化反応からの電子は酸素でなくメディエータに授受され導電基材に伝えることができる。乳酸センサーは、かかる乳酸酸化酵素の物性を利用したものである。しかしながら、乳酸酸化酵素を利用した従来の乳酸センサーは、計測シグナルとなる電流値が低いことから、これを改善するため電気化学的な反応性を高めるための技術が研究されている。
例えば、特許文献2には、乳酸センサーにおける作用電極及び対向電極からなる電極系の上に形成された乳酸酸化酵素を含む試薬層に、マレイン酸、クエン酸、又は、γ−アミノ酪酸等の添加物を加えることにより、計測シグナルである電流値が向上したことが報告されている。そして、特許文献2には、特許文献1で報告された乳酸酸化酵素を利用した乳酸センサーが上記添加物の含有により電流値が3倍程度向上したことが記載されている。
ここで、血液や尿、唾液、汗等の生体試料中に含まれる乳酸濃度は、一般に、5〜10 mM 以下程度と低い。これに対して、特許文献1に記載の乳酸酸化酵素は、その理化学的物性として、本明細書の実施例7に示す通り、10 mM 以下の低濃度の乳酸との親和性が急落する。そのため、低濃度乳酸の測定精度の低下が生じることが予想される。当該乳酸酸化酵素の測定様式を乳酸センサーとして構築した場合においても、当該酵素の物性に起因して電流値の低下による低濃度乳酸の測定精度の低下を招くことが予想される。特許文献2に記載の乳酸センサーとして構築した場合にも、マレイン酸等の添加物の作用により電化応答での計測系の感度は向上するが、当該添加物の含有によっても当該酵素の理化学的物性は変化しないため、低濃度乳酸の測定精度の向上は期待できないと予想される。
特開平10-248574号 特開2010-271154号
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、既知の乳酸酸化酵素とは異なる乳酸酸化酵素の提供を目的とする。特には、低濃度乳酸に対しても高い親和性を有する乳酸酸化酵素の提供を目的とする。また、本発明は、当該乳酸酸化酵素の理化学的物性を利用した技術の提供をも目的とする。詳細には、当該乳酸酸化酵素をコードする遺伝子を単離し、目的とする理化学的物性を備えた当該乳酸酸化酵素を組換え体として取得し、遺伝子工学的手法による大量生産技術の提供を目的とする。更に、本発明は、当該乳酸酸化酵素の理化学的物性を利用した乳酸測定方法、乳酸センサー、及びバイオ燃料電池の提供を目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、環境試料中に含まれる生物の培養及び増殖を経ずに直接的に生物由来のゲノムDNAを単離し、かかるゲノムDNAの塩基配列を網羅的解析しデータベースを構築するメタゲノム解析を利用して、既知の酵素とは異なるアミノ酸配列を有する乳酸酸化酵素を見出した。当該乳酸酸化酵素は、既知の乳酸酸化酵素と比較して低濃度乳酸に対する親和性が特に優れていることを見出した。当該乳酸酸化酵素の塩基配列及びアミノ酸配列を決定したことから、遺伝子工学的手法を利用した大量生産が可能となった。更に、当該乳酸酸化酵素を利用することにより、より実用面において有利な乳酸センサー及びバイオ燃料電池を提供できることをも見出した。本発明者らはこれらの知見に基づき本発明を完成するに至った。
上記の目的を達成するため、下記の〔1〕〜〔10〕の構成からなる発明を提供する。
〔1〕以下の(a)〜(c)の何れかのアミノ酸配列からなり、酸素の存在下でL-乳酸に作用してピルビン酸及び過酸化水素を生成する乳酸酸化活性を有する乳酸酸化酵素。
(a)配列番号2に示すアミノ酸配列
(b)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び付加の少なくとも1つからなる改変を有するアミノ酸配列
(c)配列番号2に示すアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列
〔2〕10 mM以下の乳酸に対し、親和性を有する上記乳酸酸化酵素。
上記〔1〕〜〔2〕の構成によれば、新規なアミノ酸配列を有する乳酸酸化酵素を提供できる。上記〔1〕〜〔2〕の構成の乳酸酸化酵素は高い乳酸酸化活性を有していることから、多種多様な分野での利用が期待される。例えば、生体や食品、環境中の乳酸を高感度に測定することに利用することができ、乳酸測定用試薬や乳酸センサーとして好適に利用することができる。バイオ燃料電池の負極側の電極触媒として利用することができ、電池出力等の電池性能の向上に寄与することができる。上記〔2〕の構成の乳酸酸化酵素は、低濃度乳酸に対し、親和性を有していることから、既知の乳酸酸化酵素では困難であった低濃度乳酸を高精度に測定することができ、乳酸測定用試薬や乳酸センサーの実用性を向上させることができる。このように、本発明の乳酸酸化酵素は、医療、生物化学、食品、環境分野等の様々な産業分野における乳酸の酸化反応を要する技術に適用できる。
〔3〕上記乳酸酸化酵素をコードする単離核酸分子。
〔4〕以下の(d)〜(f)の何れかの塩基配列を有する上記単離核酸分子。
(d)配列番号1に示す塩基配列
(e)配列番号1に示す塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入及び付加の少なくとも1つからなる改変を有する塩基配列
(f)配列番号1に示す塩基配列と少なくとも95%の配列同一性を有する塩基配列
〔5〕上記単離核酸分子を含有する組換えベクター。
〔6〕上記組換えベクターを含有する形質転換体。
〔7〕上記形質転換体を培養する工程、及び得られた培養物から乳酸酸化反応を触媒する能力を有するタンパク質を採取する工程を含む、乳酸酸化酵素の製造方法。
上記〔3〕〜〔7〕の構成によれば、新規な乳酸酸化酵素をコードする核酸分子、当該核酸分子を含む発現ベクター、及び当該発現ベクターを含む形質転換体、当該形質転換体を利用した乳酸酸化酵素の製造方法を提供できる。つまり、実用性の高い本発明の乳酸酸化酵素の塩基配列情報を提供することができる。これにより、遺伝子工学的手法を利用して組換え体として本発明の乳酸酸化酵素を低コストかつ工業的に大量生産することが可能となる。
〔8〕上記乳酸酸化酵素の触媒活性を利用して試料中に含まれる乳酸を測定する乳酸測定方法。
上記〔8〕の構成によれば、本発明の乳酸酸化酵素の触媒活性を利用して試料中に含まれる乳酸を測定する乳酸測定方法が提供でき、医療、生物化学、食品、環境分野等、様々な分野に利用することができる。本発明の乳酸酸化酵素は、乳酸酸化活性、特には低濃度乳酸に対し、親和性を有していることから測定感度及び測定精度の向上を図ることができる。特に、生体試料中に含まれる乳酸等の低濃度乳酸の高精度な測定は既知の乳酸酸化酵素では困難であったが、本発明の乳酸酸化酵素の触媒活性を利用することにより高精度に測定することができる。
〔9〕上記乳酸酸化酵素を電極上に固定化した乳酸センサー。
上記〔9〕の構成によれば、本発明の乳酸酸化酵素の触媒能力を利用した乳酸測定用の乳酸センサーが提供でき、医療、生物化学、食品、環境分野等、様々な分野に利用することができる。本発明の乳酸センサーは、検知素子として本発明の乳酸酸化酵素を利用するものであり、本発明の乳酸酸化酵素は、乳酸酸化活性、特には低濃度乳酸に対し、親和性を有していることから測定感度及び測定精度の向上を図ることができる。特に、生体試料中に含まれる乳酸は低濃度であることから既知の乳酸酸化酵素で高精度な測定が困難であったが、本発明の乳酸酸化酵素の触媒活性を利用することにより高精度に測定することができる。本発明の乳酸センサーは、刺針採血等を伴わない皮膚上の汗に含まれる乳酸濃度の測定等の非侵襲測定に好適に利用することができる。これにより連続的かつリアルタイムに乳酸濃度を測定することができる。
〔10〕上記乳酸酸化酵素を含み、前記乳酸酸化酵素の乳酸の酸化反応に伴って生成する電子を受け取る負極、酸素に前記電子を伝達することのできる正極を備え、前記負極と前記正極とが電気的に結合されているバイオ燃料電池。
上記〔10〕の構成によれば、本発明の乳酸酸化酵素の触媒能力を利用したバイオ燃料電池が提供できる。本発明のバイオ燃料電池は、電極触媒として本発明の乳酸酸化酵素を利用するものであり、本発明の乳酸酸化酵素は乳酸酸化活性、特には低濃度乳酸に対し、親和性を有していることから、電池出力の向上が期待でき電池性能の向上を図ることができる。
既知の乳酸脱水素酵素と乳酸酸化酵素のアミノ酸配列の類似性を比較検討した実施例1の結果を示す図。 既知の乳酸脱水素酵素の発現と大量生産の検討を行った実施例2の結果を示す電気泳動図。 既知の乳酸酸化酵素の発現と大量生産の検討を行った実施例3の結果を示す電気泳動図。 自然界の試料に含まれる乳酸酸化酵素の探索及び取得検討を行った実施例4の結果を示す図であり、サッカロマイセス・セレビシエ由来の乳酸酸化酵素との類似性を検討したものであり、縦軸はヒット領域のアミノ酸数を、横軸は類似性(%)を示す。 自然界の試料に含まれる乳酸酸化酵素の探索及び取得検討を行った実施例4の結果を示す図であり、エンテロコッカス属細菌由来の乳酸酸化酵素との類似性を検討したものであり、縦軸はヒット領域のアミノ酸数を、横軸は類似性(%)を示す。 候補酵素10種の発現と大量生産の検討を行った実施例5の結果を示す電気泳動図であり、形質転換体を得ることができなかった1種を除いた9種の候補酵素(No.1〜No.9)の結果を示す。 候補酵素10種の発現と大量生産の検討を行った実施例5の結果を示す電気泳動図であり、図6のNo.6の候補酵素(eLact-No.6)をアフィニティ精製に供した結果を示す。 eLact-No.6と既知の乳酸酸化酵素及び乳酸脱水素酵素とのアミノ酸配列の類似性の検討を行った実施例6の結果を示す図。 eLact-No.6の酵素反応速度の乳酸濃度の依存性の検討を行った実施例7の結果を示すグラフであり、eLact-No.6及び既知のエンテロコッカス属細菌由来の乳酸酸化酵素について酵素反応速度と乳酸濃度(0〜50 mM)の関係を検討した結果を示すものであり、縦軸は乳酸酸化活性(波長570 mMでの吸光度の変化量)を、横軸は乳酸濃度(mM)を示す。 eLact-No.6の酵素反応速度の乳酸濃度の依存性の検討を行った実施例7の結果を示すグラフであり、eLact-No.6について酵素反応速度と乳酸濃度(0.1〜1 mM)の関係を検討した結果を示すものであり、縦軸は乳酸酸化活性(波長570 mMでの吸光度の変化量)を、横軸は乳酸濃度(mM)を示す。 eLact-No.6の酵素反応速度の乳酸濃度の依存性の検討を行った実施例7の結果を示す電気泳動図であり、eLact-No.6及び既知のエンテロコッカス属細菌由来の乳酸酸化酵素についてのSDS-PAGEの結果を示す。 eLact-No.6のバイオ燃料電池の負極用酵素触媒として電池性能検討を行った実施例8の結果を示すグラフであり、縦軸が電力(mW)を、横軸が電流(mA)を示す。
以下、具体的な本発明の実施の形態について説明するが、これはあくまでも本発明を例示するに留まり、本発明を限定するものではない。
(本発明の乳酸酸化酵素)
本発明の乳酸酸化酵素は、乳酸酸化活性を有する酵素である。詳細には、以下の反応式に示す通り、酸素の存在下でL-乳酸に作用してピルビン酸及び過酸化水素を生成する反応を触媒する。当該触媒活性には補因子としてフラビンモノヌクレオチド(FMN)又はフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)が要求される。なお、本明細書において、特に注記がない場合には、「乳酸」は「L-乳酸」を指すものとする。
反応式 :
L-乳酸(C3H6O3) + 酸素(O2) → ピルビン酸(C3H4O3) + 過酸化水素(H2O2
本発明の乳酸酸化酵素は、自然界の土壌や堆肥等の環境試料由来である。当該環境試料中に含まれる生物の培養及び増殖を経ずに、直接的に当該生物由来のゲノムDNAを単離し、かかるゲノムDNAの塩基配列を網羅的解析しデータベースを構築するメタゲノム解析を利用し、目的とする乳酸酸化酵素をコードする塩基配列情報を抽出し人工的に遺伝子を合成し、複数選抜した酵素群の中から所望の機能を有したものを取得したものである。
本発明の乳酸酸化酵素は、既知の乳酸酸化酵素とは異なるアミノ酸配列を有する新規な酵素である。更に本発明の乳酸酸化酵素は、既知の乳酸酸化酵素とは異なる理化学的物性を有し、既知の乳酸酸化酵素との比較で乳酸酸化活性が向上している。特には、低濃度乳酸に対し、親和性を有している。
ここで、「乳酸酸化活性が向上している」とは、本発明の乳酸酸化酵素のVmaxが、既知の乳酸酸化酵素に対して1.5〜5倍、特に好ましくは1.5〜2倍以上有していることを意味する。既知の乳酸酸化酵素は、好ましくは、エンテロコッカス属細菌、特に好ましくは、配列番号4に示すアミノ酸配列からなるエンテロコッカス属細菌由来の乳酸酸化酵素(Accession No:WP_010738027)、ラクトコッカス属細菌、又はアエロコッカス属細菌等由来の乳酸酸化酵素である。例えば、一定温度下で乳酸濃度を段階的に高くしたときに、本発明の乳酸酸化酵素と既知の乳酸酸化酵素の単位時間当たりの乳酸酸化の酵素反応速度が一定となったときの両者の酵素反応速度を比較し、既知の乳酸酸化酵素の酵素反応速度(活性値)を1として、本発明の乳酸酸化酵素の活性値の比が好ましくは1.5〜5倍、特に、好ましくは1.5〜2倍である場合に、乳酸酸化活性が向上していると判断できる。
また、「低濃度」とは、好ましくは、乳酸の濃度が5 mM、又は、10 mM以下であり、特に好ましくは、0.5〜10 mM、又は、0.5〜5 mMを意味する。「低濃度乳酸に対し、親和性を有している」とは、既知の乳酸酸化酵素に対して、低濃度乳酸に対する親和性が、好ましくは1.5〜30倍、特に好ましくは2〜5倍以上有していることを意味する。例えば、所定の濃度の乳酸存在下での既知の乳酸酸化酵素の一定温度での単位時間あたりの酵素反応速度(活性値)を1として、同一条件下の本発明の乳酸酸化酵素の活性値の比が好ましくは1.5〜30倍、更に好ましくは2〜5倍である場合に、低濃度乳酸に対し、親和性を有していると判断できる。特に好ましくは、乳酸濃度5 mMで、本発明の乳酸酸化酵素の活性値の比が3〜5倍である場合に、低濃度乳酸に対し、親和性を有していると判断することができる。
本発明の乳酸酸化酵素は、配列番号2に示すアミノ酸配列からなる乳酸酸化酵素、及び、その改変体を包含する。好ましくは、下記(a)、(b)、又は(c)のアミノ酸配列からなり、乳酸酸化活性を有する乳酸酸化酵素である。
(a)配列番号2に示すアミノ酸配列
(b)配列番号2に示すアミノ酸配列の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び付加の少なくとも1つからなる改変を有するアミノ酸配列
(c)配列番号2に示すアミノ酸配列と少なくとも一定割合の配列同一性を有するアミノ酸配列
ここで、「1又は複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び付加の少なくとも1つからなる改変」とは、改変の基礎となるタンパク質をコードする核酸分子に対する公知のDNA組換え技術、点変異導入方法等によって、欠失、置換、挿入又は付加することができる程度の数のアミノ酸が、欠失、置換、挿入又は付加されることを意味し、これらの組み合わせをも含む。例えば、このような改変は、配列番号2で示すアミノ酸配列に対して、アミノ酸レベルで少なくとも一定割合の配列同一性を有するものとできる。
また、「少なくとも一定割合の配列同一性」とは、好ましくは70、75、80、又は85%以上、更に好ましくは90%以上、特に好ましくは95、96、97、98、又は99%以上の配列同一性を保持することを意味する。
アミノ酸配列の改変に際しては、当業者は、乳酸酸化酵素の上記した理化学的物性を保持する改変を容易に予測することができる。具体的には、例えばアミノ酸置換の場合には、タンパク質構造保持の観点から極性、電荷、親水性、若しくは疎水性等の点で置換前のアミノ酸と類似した性質を有するアミノ酸に置換することができる。このような置換は保守的置換として当業者には周知である。具体例を挙げると、例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファンは、共に非極性アミノ酸に分類されるため、互いに似た性質を有する。また、非荷電性アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミンが挙げられる。また、酸性アミノ酸としては、アスパラギン酸及びグルタミン酸が挙げられる。また、塩基性アミノ酸としては、リジン、アルギニン、ヒスチジンが挙げられる。これらの各グループ内のアミノ酸置換は、タンパク質の機能が維持されるとして許容される。また、その後の精製、固相への固定化等の便宜のため、アミノ酸配列のN、又はC末端にヒスチジンタグ(His-tag)、FLAGタグ(FLAG-tag)等を付加したものも好適に例示される。このようなタグペプチドの導入は常法により行なうことができる。また、酵素活性の消失を引き起こさない範囲内で、C末端側若しくはN末端側のアミノ酸残基を切断した切断型でもよい。更に、グルコシル化等の化学修飾を付加してもよい。
本発明の乳酸酸化酵素は、そのアミノ酸配列及び理化学的物性が確認されたことから、自然界をスクリーニングすることにより取得することができる。好ましくは、遺伝子クローニング技術を用いて、本発明の乳酸酸化酵素をコードする核酸分子を取得し、得られた核酸分子を用いて宿主細胞を形質転換し、かかる形質転換体の培養物から上記の本発明の乳酸酸化酵素の理化学的物性、つまり、乳酸酸化反応を触媒する能力を有し、好ましくは、低濃度乳酸に対し、親和性を有しているとの理化学的物性を有するタンパク質を採取することによって取得することができる。かかる理化学的物性の確認は、乳酸酸化活性の測定により行うことができ、測定方法については下記で詳述する。
改変体についても、自然又は人工の突然変異により生じた突然変異体の中から上記理化学的物性を有するタンパク質をスクリーニングすることにより取得できる。若しくは、配列番号2に示すアミノ酸配列からなる本発明の乳酸酸化酵素をコードする核酸分子に対して公知の方法で改変を施すことによっても取得できる。
例えば、改変の基礎とする配列番号2に示すアミノ酸配列からなる乳酸酸化酵素をコードする核酸分子、好ましくは、配列番号1に示す塩基配列からなる核酸分子に対して、下記で詳述するように改変を施し、得られた改変型核酸分子を用いて宿主細胞を形質転換し、かかる形質転換体の培養物から上記の本発明の乳酸酸化酵素の理化学的物性、つまり、乳酸の酸化反応を触媒する能力を有し、好ましくは、低濃度乳酸に対し、親和性を有しているとの理化学的物性を有するタンパク質を採取することによって取得することができる。かかる理化学的物性の確認は、乳酸酸化活性の測定により行うことができる。
以上の通り、本発明の乳酸酸化酵素は、既知の乳酸酸化酵素とは異なる新規なアミノ酸配列を有する新規な乳酸酸化酵素である。また、本発明の乳酸酸化酵素は高い乳酸酸化活性を有していることから、多種多様な分野での利用が期待される。例えば、生体や食品、環境中の乳酸を高感度に測定することに利用することができ、乳酸測定用試薬や乳酸センサーとして好適に利用することができる。バイオ燃料電池の負極側の電極触媒として利用することができ、電池出力等の電池性能の向上に寄与することができる。好ましくは、本発明の乳酸酸化酵素は、低濃度乳酸に対し、親和性を有していることから、既知の乳酸酸化酵素では困難であった低濃度乳酸を高精度に測定することができ、乳酸測定用試薬や乳酸センサーの実用性を向上させることができる。また、本発明の乳酸酸化酵素は、医薬品製造等で重要なキラル化合物の出発物質として有用なD-乳酸を、ラセミ体であるDL-乳酸から選択的に取得するために利用することができる。このように、本発明の乳酸酸化酵素は、医療、生物化学、食品、環境分野等の様々な産業分野における乳酸の酸化反応を要する技術に適用できる。
乳酸酸化酵素の一部には、以下の反応式に示す乳酸-2-モノオキシゲナーゼ活性というピルビン酸及び過酸化水素を生成する活性とは異なる活性をも保持しているものも存在する。かかる活性を酵素の改変を通して完全に欠如することにより、ピルビン酸及び過酸化水素生成経路の乳酸酸化酵素活性、及び、低濃度乳酸への親和性を更に向上させることが可能になる予想される。
反応式:
L-乳酸(C3H6O3)+ 酸素(O2)⇔
酢酸(C2H4O3)+ 二酸化炭素(CO2)+ 水(H2O)
(本発明の乳酸酸化酵素をコードする核酸分子)
本発明の乳酸酸化酵素をコードする遺伝子は、上記の本発明の乳酸酸化酵素の理化学的物性を有するすべての乳酸酸化酵素をコードするものを包含する。つまり、配列番号2に示すアミノ酸配列からなる乳酸酸化酵素及びその改変体をコードする全ての核酸分子である。
好ましくは、本発明の乳酸酸化酵素をコードする核酸分子は、配列番号1に示す塩基配列からなる核酸分子、及び、その改変体を包含する。特に好ましくは、以下の(d)〜(f)の何れかの塩基配列からなる核酸分子である。
(d)配列番号1に示す塩基配列
(e)配列番号1に示す塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入及び付加の少なくとも1つからなる改変を有する塩基配列
(f)配列番号1に示す塩基配列と少なくとも一定割合の配列同一性を有する塩基配列
ここで、本発明の乳酸酸化酵素をコードする核酸分子にはDNA及びRNAの双方が含まれ、DNAである場合には、一本鎖であると、二本鎖であるとは問わない。
ここで、「1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入及び付加の少なくとも1つからなる改変」とは、改変の基礎となる核酸分子に対する公知のDNA組換え技術、点変異導入方法等によって、欠失、置換、挿入又は付加することができる程度の数の塩基が、欠失、置換、挿入又は付加されることを意味し、これらの組み合わせをも含む。配列番号1に示す塩基配列の3'、又は5'末端にタグペプチドをコードする塩基配列が付加したものや、エキソヌクレアーゼを作用させることによって塩基配列が欠失したものが好適に例示される。また、このような改変は、配列番号1で示す塩基配列に対して、塩基レベルで少なくとも一定割合の配列同一性を有するものとできる。
また、「少なくとも一定割合の配列同一性」とは、好ましくは70、75、80、又は85%以上、更に好ましくは90%以上、特に好ましくは95、96、97、98、又は99%以上の配列同一性を保持することを意味する。
更に、コードされるタンパク質が上記の本発明の乳酸酸化酵素の理化学的物性を保持している限り、配列番号1に示す塩基配列からなる核酸分子と相補的な核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子も本発明に含まれる。
ここで、ストリンジェントな条件とは、塩基配列において、60 %以上、好ましくは70 %、より好ましくは80 %以上、特に好ましくは90 %、95 %以上の同一性を有するDNA同士が優先的にハイブリダイズし得る条件をいう。ストリンジェンシーは、ハイブリダイゼーションの反応や洗浄の際の塩濃度及び温度を適宜変化させることによって調製することができる。例えば、Sambrook他著、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、(1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor、New York等に記載のサザンハイブリダイゼーションのための条件等が挙げられる。
より具体的には、50 %(v/v) ホルムアミド、5×SSC中で、42 ℃にて16時間のハイブリダイゼーションが例示される。ここで、1×SSCは、0.15 M NaCl、0.015 M クエン酸ナトリウム、pH 7.0である。また、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を0.1〜1.0 %(v/v)、変性非特異的DNAを0〜200 μl含んでいてよい。そして、洗浄条件としては、2×SSC、0.1 % SDS中の5 ℃にて5分間の洗浄、及び0.1×SSC、0.1 % SDS中の65 ℃にて30分間〜4時間の洗浄が例示される。また、これらと同等の条件も当業者は容易に理解できるであろう。
本発明の乳酸酸化酵素をコードする核酸分子は、本明細書において、その塩基配列が明確になったことから、かかる配列情報に基づいて、公知の遺伝子工学的手法に基づいて調製することができ、また、公知のホスホアミダイト法等のDNA合成法を利用して化学的に合成することもできる。
例えば、配列番号2に示すアミノ酸配列を有する乳酸酸化酵素をコードする核酸分子は、公知の遺伝子クローニング技術を用いて取得することができる。例えば、配列番号2に示すアミノ酸配列からなる乳酸酸化酵素をコードする核酸分子の塩基配列、好ましくは配列番号1に示す塩基配列を基にして作製したDNAをプローブとして用いるハイブリダイゼーション法により、生物体由来のゲノムDNA、全RNAから逆転写反応によって合成したcDNA等から所望の乳酸酸化酵素をコードする核酸分子を調製することができる。ここで用いられるプローブは、所望の乳酸酸化酵素をコードする核酸分子と相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドであり、常法に基づいて調製することができる。例えば、ホスホアミダイト法等に基づく化学合成法、既に標的となる核酸が取得されている場合にはその制限酵素断片等が利用可能である。このようなプローブとしては、所望の乳酸酸化酵素をコードする核酸分子の塩基配列に基づき、この塩基配列の連続する10以上、好ましくは15以上、更に好ましくは約20〜50の塩基からなるオリゴヌクレオチドが例示される。そして、プローブは必要に応じて適当な標識が付されていてよく、このような標識として放射線同位体、蛍光色素等が例示される。
また、配列番号2に示すアミノ酸配列を有する乳酸酸化酵素をコードする核酸分子の塩基配列、好ましくは配列番号1に示す塩基配列を基にして作製したプライマーとして用いるPCRによっても同様に、生物体由来のゲノムDNA、cDNAを鋳型として所望の乳酸酸化酵素をコードする核酸分子を調製することができる。PCRを利用する場合に用いられるプライマーは、所望の乳酸酸化酵素をコードする核酸分子と相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドであり、常法に基づいて調製することができる。例えば、ホスホアミダイト法等に基づく化学合成法、既に標的となる核酸が取得されている場合にはその制限酵素断片等が利用可能である。化学合成法に基づきプライマーを調製する場合には、合成に先立って標的核酸の配列情報に基づいてプライマーの設計を行う。プライマーの設計は、所望の領域を増幅するように、例えばプライマー設計支援ソフト等を利用して設計することができる。プライマーは合成後、HPLC等の手段により精製される。また、化学合成を行う場合には市販の自動合成装置を利用することも可能である。このようなプライマーとしては、所望の増幅領域を挟んで設計され、10以上、好ましくは15以上、更に好ましくは約20〜50の塩基からなるオリゴヌクレオチドが例示される。
ここで、相補的とは、プローブ又はプライマーと標的核酸分子とが塩基対合則に従って特異的に結合し安定な二重鎖構造を形成できることを意味する。ここで、完全な相補性のみならず、プローブ又はプライマーと標的核酸分子が互いに安定な二重鎖構造を形成し得るのに十分である限り、いくつかの核酸塩基のみが塩基対合則に沿って適合する部分的な相補性であっても許容される。その塩基数は、標的核酸分子を特異的に認識するために十分に長くなければならないが、長すぎると逆に非特異的反応を誘発するので好ましくない。したがって、適当な長さはGC含量等の標的核酸の配列情報、並びに、反応温度、反応液中の塩濃度等のハイブリダイゼーション反応条件等多くの因子に依存して決定される。
また、塩基配列情報に基づいて、常法のホスホアミダイト(phosphoramidite)法等の核酸合成法により合成することによっても取得することができる。
また、配列番号2に示すアミノ酸配列からなる乳酸酸化酵素の改変体をコードする核酸分子は、公知の変異導入技術を利用して取得することができる。具体的には、配列番号2に示すアミノ酸配列からなる乳酸酸化酵素をコードする核酸分子、好ましくは配列番号1に示す塩基配列からなる核酸分子に変異部位を挿入することによって行うことができる。変異部位を挿入する方法としては、特に制限はなく、当業者に公知の変異型タンパク質作製のための変異導入技術を利用することができる。例えば、部位特異的突然変異誘発法、PCR法等を利用して変異を導入するPCR突然誘発法、あるいは、トランスポゾン挿入突然変異誘発法等の公知の変異導入技術を利用することができる。また、市販の変異導入用キット(例えば、QuikChange(登録商標) Site-directed Mutagenesis Kit(Stratagene社製))を利用してもよい。
特には、配列番号2に示すアミノ酸配列からなる乳酸酸化酵素をコードする核酸分子(DNA)、好ましくは配列番号1に示す塩基配列からなる核酸分子(DNA)を鋳型として、所望の改変(欠失又は置換)を施した配列を含むオリゴヌクレオチドをプライマーとしてPCRを行うことによって取得することが、好ましく例示される。ここで、改変体の調製において、PCRを利用する場合に用いられるプライマーは、配列番号2に示すアミノ酸配列からなる乳酸酸化酵素をコードする核酸分子、好ましくは配列番号1に示す塩基配列からなる核酸分子と相補的な配列を含み、かつ所望の変異が挿入できるように設計されたものであり、常法に基づいて調製することができる。例えば、ホスホアミダイト法等に基づく化学合成法等が利用可能である。化学合成法に基づきプライマーを調製する場合には、合成に先立って標的核酸の配列情報に基づいて設計される。プライマーの設計は、所望の領域を増幅するように、例えばプライマー設計支援ソフト等を利用して設計することができる。プライマーは合成後、HPLC等の手段により精製される。また、化学合成を行う場合には市販の自動合成装置を利用することも可能である。このようなプライマーとしては、10以上、好ましくは15以上、更に好ましくは約20〜50の塩基からなるオリゴヌクレオチドが例示される。
また、目的とする改変を有するアミノ酸配列が定めれば、それをコードする適当な塩基配列を決定でき、常法のホスホアミダイト法等の核酸合成技術を利用して、改変体を化学的に合成することができる。或いは、配列番号2に示すアミノ酸配列からなる乳酸酸化酵素をコードする塩基配列からなる核酸分子、好ましくは配列番号1に示す塩基配列からなる核酸分子に対してエキソヌクレアーゼを作用させることによって取得することができる。
(本発明の組換えベクター)
本発明の組換えベクターは、適当なベクターに本発明の乳酸酸化酵素をコードする核酸分子を組み込むことによって構築することができる。利用可能なベクターとしては、外来DNAを組み込め、かつ宿主細胞内で自律的に複製可能なものであれば特に制限はない。したがって、ベクターは、本発明の乳酸酸化酵素をコードする核酸分子を挿入できる少なくとも1つの制限酵素部位の配列を含むものである。例えば、プラスミドベクター(pEX系、pUC系、及びpBR系等)、ファージベクター(λgt10、λgt11、及びλZAP等)、コスミドベクター、ウイルスベクター(ワクシニアウイルス、及びバキュロウイルス等)等が包含される。
本発明の組換えベクターは、本発明の乳酸酸化酵素をコードする核酸分子がその機能を発現できるように組み込まれている。したがって、核酸分子の機能発現に必要な他の公知の塩基配列が含まれていてもよい。例えば、プロモータ配列、リーダー配列、シグナル配列、並びにリボソーム結合配列等が挙げられる。プロモータ配列としては、例えば、宿主が大腸菌の場合にはlacプロモータ、trpプロモータ等が好適に例示される。しかしながら、これに限定するものではなく公知のプロモータ配列を利用できる。更に、本発明の組換えベクターには、宿主において表現型選択を付与することが可能なマーキング配列等をも含ませることができる。このようなマーキング配列としては、薬剤耐性、栄養要求性等の遺伝子をコードする配列等が例示される。具体的には、カナマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子等が例示される。
ベクターへの本発明の乳酸酸化酵素をコードする核酸分子等の挿入は、例えば、適当な制限酵素で本発明の遺伝子を切断し、適当なベクターの制限酵素部位、又はマルチクローニング部位に挿入して連結する方法等を用いることができるが、これに限定されない。連結に際しては、DNAリガーゼを用いる方法等、公知の方法を利用できる。また、DNA Ligation Kit(Takara-bio社)等の市販のライゲーションキットを利用することもできる。
(本発明の形質転換体)
本発明の形質転換体は、適当な細胞を、本発明の乳酸酸化酵素をコードする核酸分子を含む組換えベクターで形質転換することによって構築することができる。ここで、宿主となる細胞としては、本発明の乳酸酸化酵素をコードする核酸分子を効率的に発現できる宿主細胞であれば、特に制限はない。原核生物を好適に利用でき、特には大腸菌を利用することができる。その他、枯草菌、バシラス属細菌、シュードモナス属細菌等をも利用できる。大腸菌としては、例えば、E.coli DH5α、E.coli BL21、E.coli JM109等を利用できる。更に、原核生物に限定されず真核生物細胞を利用することが可能である。例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等の酵母、Sf9細胞等の昆虫細胞、CHO細胞、COS-7細胞等の動物細胞等を利用することも可能である。形質転換法としては、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソームトランスフェクション法、マイクロインジェクション法等を公知の方法を利用することができる。
(本発明の乳酸酸化酵素の製造方法)
本発明の乳酸酸化酵素の製造方法は、上記の本発明の形質転換体を培養し、得られた培養物から乳酸酸化反応を触媒する能力を有するタンパク質を採取することにより行うことができる。好ましくは、低濃度乳酸に対する親和性が既知の乳酸酸化酵素に比べて向上しているとの理化学的物性を有するタンパク質を採取することにより行なう。即ち、上記の本発明の形質転換体を培養する培養工程と、前記培養工程で発現した前記タンパク質を回収する回収工程とを備える。このように、適当な宿主で発現させることによって、低コストで本発明の乳酸酸化酵素の大量生産が可能となる。
培養工程は、本発明の形質転換体を適当な培地に接種し、常法に準じて培養することにより行なわれる。本発明の形質転換体の培養は、宿主細胞の栄養生理学的特性を勘案して、培養条件を選択すればよい。使用される培地としては、宿主細胞が資化し得る栄養素を含み、形質転換体におけるタンパク質の発現を効率的に行えるものであれば特に制限はない。したがって、宿主細胞の生育に必要な炭素源、窒素源その他必須の栄養素を含む培地であることが好ましく、天然培地、合成培地の別を問わない。例えば、炭素源として、グルコース、デキストラン、デンプン等が、また、窒素源としては、アンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、ペプトン、カゼイン等が挙げられる。他の栄養素としては、所望により、無機塩類、ビタミン類、抗生物質等とを含ませることができる。宿主細胞が大腸菌の場合には、LB培地、M9培地等が好適利用できる。また、培養形態についても特に制限はないが、大量培養の観点から液体培地が好適に利用できる。
本発明の組換えベクターを保持する宿主細胞の選別は、例えば、マーキング配列の発現の有無により行なうことができる。例えば、マーキング配列として薬剤耐性遺伝子を利用する場合には、薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤含有培地で培養することによって行うことができる。
精製工程は、上記の培養工程において得られた形質転換体の培養物からの乳酸酸化酵素を回収、即ち、単離精製することによって行えばよい。本発明の酵素の存在する画分に応じて、一般的なタンパク質の単離精製方法に準じた手法を適用すればよい。具体的には、乳酸酸化酵素が宿主細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離、濾過等の手段により宿主細胞を除去して培養上清を得る。続いて、培養上清に、公知のタンパク質精製方法を適宜選択することにより、本発明の酵素を単離精製することができる。例えば、硫酸アンモニウム沈殿、透析、SDS-PAGE電気泳動、ゲル濾過、疎水、陰イオン、陽イオン、アフィニティークロマトグラフィ等の各種クロマトグラフィ等の公知の単離精製技術を単独、又は適宜組み合わせて適用することができる。特にアフィニティークロマトグラフィを利用する場合、本発明の乳酸酸化酵素をHis Tag等のタグペプチドとの融合タンパク質として発現させて、かかるタグペプチドに対する親和性を利用することが好ましい。また、本発明の乳酸酸化酵素が宿主細胞内で産生される場合には、培養物を遠心分離、濾過等の手段により宿主細胞を回収する。続いて、リゾチーム処理等の酵素的破砕方法、又は超音波処理、凍結融解、浸透圧ショック等の物理的破砕方法等により、宿主細胞を破砕する。破砕後、遠心分離、濾過等の手段により可溶化画分を収集する。得られた可溶化画分を、上記の細胞外に生産できる場合と同様に処理することにより単離精製することができる。
精製された乳酸酸化酵素が、本発明の乳酸酸化酵素であるか否かの確認は、その理化学的物性や配列の分析によって行うことができる。理化学的物性の分析による場合、上記の通り、乳酸酸化活性、特には低濃度乳酸を基質とした場合の乳酸酸化活性を測定することにより確認することができる。
乳酸酸化活性の測定は、乳酸に作用しピルビン酸及び過酸化水素を生成する反応を触媒する酵素の活性測定法として知られる方法を何れをも利用して行うことができる。好ましくは、酸化還元試薬の呈色反応等により酵素活性を測定することができる。例えば、ジクロロインドフェノール(以下、「DCIP」と略する。)や、ニトロテトラゾリウムブルー(以下、「NTB」と略する。)等を利用することができる。本発明の乳酸酸化酵素をフェナジンメタンスルフェート(以下「PMS」と略する。)等の電子伝達メディエータの共存下で、当該酵素の基質である乳酸と反応させる。乳酸の酸化に伴って還元型PMSが生成し、続いて、還元型PMSによるDCIPの還元脱色反応を波長600 nmで、又は、還元型PMSによるNTBの還元により生成するホルマザン色素由来の発色シグナルを波長570nmで分光光度法により測定することにより行うことができる。かかる吸光度変化をもって当該酵素の活性とすることができる。具体的には、本願明細書の実施例7に示す方法に準じて行うことができる。また、酵素活性の測定は、乳酸に乳酸酸化酵素を作用させることにより生成する過酸化水素やピルビン酸を測定することによっても行ってもよく、他の酵素の活性を利用して測定してもよい。例えば、過酸化水素をペルオキシダーゼの存在下で4-アミノアンチピリンとN-エチル-N-(3-メチルフェニル)-N’-アセチルエチレンジアミン(以下「EMAE」と略する)とに反応させ、生じる赤紫色キノン色素を比色測定することにより行うことができる。吸光度変化の測定は公知の手法により行うことができ、例えば、マイクロプレートリーダー等を利用することができる。
また、配列分析による場合には、公知のアミノ酸分析法によって行うことができる。例えば、エドマン分解法に基づく自動アミノ酸決定法等を利用することができる。
以上の通り、本発明は、新規な乳酸酸化酵素をコードする核酸分子、当該核酸分子を含む発現ベクター、及び当該発現ベクターを含む形質転換体、当該形質転換体を利用した乳酸酸化酵素の製造方法を提供できる。つまり、実用性の高い本発明の乳酸酸化酵素の塩基配列情報を提供することができる。これにより、遺伝子工学的手法を利用して組換え体として本発明の乳酸酸化酵素を低コストかつ工業的に大量生産することが可能となる。
(本発明の乳酸測定方法)
本発明の乳酸酸化酵素は、試料中の乳酸測定のために利用することができる。乳酸測定は、例えば、基質である乳酸に対する酸化反応を触媒する本発明の乳酸酸化酵素の活性を測定することにより行うことができる。
本発明の乳酸測定方法における乳酸酸化酵素の活性は、乳酸に作用しピルビン酸及び過酸化水素を生成する反応を触媒する酵素の活性測定法として知られる方法を何れをも利用して行うことができる。例えば、上記の通り、ホルマザン色素やキノン系色素の形成を指標として測定することができる。本発明の乳酸測定方法で用いられる乳酸酸化酵素量は、測定対象である試料の種類や容量、測定原理等に応じて適宜変更することができる。適当な試験条件が選択されていれば、指標値の変化は、測定しようとする酵素の活性に直線的に比例する。このとき、あらかじめ目的濃度範囲内における標準濃度の乳酸溶液により標準曲線を作成することにより、得られた指標値に基づいて試料中の乳酸濃度を求めることができる。
ここで、試料としては、乳酸等、本発明の乳酸酸化酵素の基質となり得る化合物の存在が予想されるすべての試料を対象とすることができる。例えば、汗、血液(血漿や血清、全血等)、組織間液、尿、唾液、涙液等の生物体由来の生体試料、食品試料、環境試料等が例示されるがこれに限定されるものではない。また、必要に応じて、これらの試料に適当な処理を行った試料をも含み得る。
乳酸は解糖系の最終産物で、嫌気的条件下で糖類から乳酸が生成され、好気的条件下では嫌気的解糖系のピルビン酸からの乳酸生成経路がアセチルCoAの生成に切り替わりTCA回路等を経て糖類が二酸化炭素及び水に分解される。乳酸は、主に骨格筋や赤血球、脳、皮膚、及び腸管等で産生され、肝臓や腎臓等で代謝される。しかしながら、何らかの要因により乳酸が過剰に蓄積したり減少したりする場合がある。例えば、心筋梗塞や心不全、呼吸不全等の循環不全、肝不全等の肝障害、尿毒症、インスリン分泌不全を伴う糖尿病、細菌やウイルス感染症等の種々の病態等により低酸素状態やミトコンドリアの異常等により嫌気的解糖系が亢進し体内に乳酸が過剰に蓄積する。したがって、生体試料中の乳酸を測定することにより種々の病態の指標とすることができる。
また、激しい短期間の筋肉の運動等においては嫌気的解糖系が 嫌気的解糖が亢進し、筋肉中に乳酸が過剰に蓄積し、その結果、筋肉を酸性化して、運動機能の低下や筋肉疲労を引き起こすことが知られている。したがって、生体試料中の乳酸を測定することにより、身体活動制御のための指標とすることができる。例えば、健常人の休息時の乳酸の血中濃度は、約1〜2 mMであるが、運動開始時には8 mMに上昇する。更に、8〜10 mMを超えると筋肉疲労が引き起こされる。また、汗に含まれる乳酸濃度は血中濃度に依存し、血中濃度が上昇することにより汗に含まれる乳酸濃度も上昇する。なお、汗腺機能が糖をエネルギー源とするためその代謝産物の乳酸が汗に分泌されるため、汗に含まれる乳酸濃度は0.1〜150 mMであると言われている。
更に、乳酸を産生する乳酸菌等は、発酵食品の製造に利用される等の有用な側面と、食品等の腐敗や汚染を引き起こす等の側面がある。したがって、食品試料中の乳酸を測定することにより、発酵食品製造過程や腐敗等の食品の品質管理等の指標とすることができる。
本発明の乳酸測定方法は、本発明の乳酸酸化酵素の触媒活性を利用して試料中に含まれる乳酸を測定するものであり、医療、生物化学、食品、環境分野等、様々な分野に利用することができる。本発明の乳酸酸化酵素は、乳酸酸化活性、特には低濃度乳酸に対し、親和性を有していることから測定感度及び測定精度の向上を図ることができる。特に、生体試料中に含まれる乳酸等の低濃度乳酸の高精度な測定は既知の乳酸酸化酵素では困難であったが、本発明の乳酸酸化酵素の触媒活性を利用することにより高精度に測定することができる。また、乳酸測定方法は、本発明の乳酸酸化酵素を検知素子として利用する乳酸センサーを構築して行うこともできる。
(本発明の乳酸センサー)
本発明は、本発明の乳酸酸化酵素を利用する乳酸測定用の乳酸センサーを提供する。当該乳酸センサーは、電極材上に本発明の乳酸酸化酵素が固定化した作用電極、及びその対向電極(対極)を設けて構成することができる。必要に応じて、参照電極を設けて三電極方式として構成してもよい。電極材としては、カーボン、金、白金等を用いることができる。例えば、対極として白金電極、参照電極としてAg/AgCl電極を用いて構成することができる。
電極材上への乳酸酸化酵素の固定化量は、測定対象である試料の種類や容量、電極系の種類や容量、並びに、測定方式等に応じて適宜変更することができる。また、電極材への乳酸酸化酵素の固定化は、既知の方法によって行うことができる。例えば、物理的吸着、イオン結合,共有結合を介して固定化する担体結合法を利用することができる。また、グルタルアルデヒド等の二価性官能基をもつ試薬で架橋固定する架橋法をも利用でき、更には、アルギン酸,カラギーナン等の多糖化合物、ポリアクリルアミド等の網目構造をもつゲルや、半透性膜の中に閉じて固定化する包括法等をも利用することができる。そして、補因子等の酵素がその触媒活性を発揮するための物質、及び、キノン類やフェナジン類をはじめとする電子伝達メディエータ等の酵素の触媒反応と電極反応と共役させるための物質を必要に応じて電極材上に固定化することができる。また、測定対象である乳酸が透過でき、その透過量が調節できる各種の透過膜類を含んでもよく、また、汗等の試料と乳酸センサーの検知素子である本発明の乳酸酸化酵素との接触性を向上させるための織布等を含めて構成してもよい。
本発明の乳酸センサーによる乳酸濃度の測定方式は、クロノアンペロメトリー等の電流応答を利用してもよいし、クロノクーロメトリーや電流積分等の電荷応答を利用してもよいが、センサーの簡素化や連続測定等の観点から電流応答を利用するものが好ましい。例えば、電極系に一定に電圧を印加し、電流が定常値になった後、乳酸センサーの反応部と測定対象の試料を接触させる。試料を接触させると試料中の乳酸が作用極上に固定された本発明の乳酸酸化酵素と反応する。この酸化還元反応と電極反応を組み合わせ、得られる電流値の変化により試料中の乳酸を測定することができる。このとき、あらかじめ目的濃度範囲内における標準濃度の乳酸溶液により標準曲線を作成することにより、得られた電流値に基づいて乳酸の濃度を求めることができる。
ここで、試料としては、本発明の乳酸酸化酵素の基質となり得る乳酸の存在が予想されるすべての試料を対象とすることができる。詳細については上記した。
本発明の乳酸センサーは、本発明の乳酸酸化酵素の触媒能力を利用した乳酸測定用のバイオセンサーであり、医療、生物化学、食品、環境分野等、様々な分野に利用することができる。本発明の乳酸センサーは、検知素子として本発明の乳酸酸化酵素を利用するものであり、本発明の乳酸酸化酵素は、乳酸酸化活性、特には低濃度乳酸に対し、親和性を有していることから測定感度及び測定精度の向上を図ることができる。特に、生体試料中に含まれる乳酸は低濃度であることから既知の乳酸酸化酵素での高精度な測定が困難であったが、本発明の乳酸酸化酵素の触媒活性を利用することにより高精度に測定することができる。本発明の乳酸センサーは、刺針採血等を伴わない皮膚上の汗に含まれる乳酸濃度の測定等の非侵襲測定に好適に利用することができる。これにより連続的かつリアルタイムに乳酸濃度を測定することができる。
(本発明のバイオ燃料電池)
本発明は、本発明の乳酸酸化酵素を利用するバイオ燃料電池を提供する。本発明のバイオ燃料電池は、例えば、酸化反応を行う負極(アノード)と、還元反応を行う正極(カソード)を含んで構成される。正極と負極が隔膜を挟んで対向するように配置され、正極と負極は外部回路によって接続される。正極では、本発明の乳酸酸化酵素が燃料である乳酸を酸化することによって生じた電子を電極に取り出すと共に、プロトンを発生する。一方、カソード側では、アノード側で発生したプロトンが酸素と反応することによって水を生成するように構成される。
電極としては、外部回路に接続可能で電子を伝達できる導電性の基材であれば特に制限はない。カーボンクロス、カーボンペーパー、グラファイト、及びグラッシーカーボン等のカーボン材、アルミニウム、銅、金、白金、銀、ニッケル、パラジウム等の金属又は合金、SnO2、In2O3、WO3、TiO2等の導電性酸化物等が例示できるが、これらに限定するものではない。既知の材質の導電性の基材を使用することができる。
また、これを単層又は2種以上の積層構造をもって構成してもよい。また、導電性向上のため、市販のケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭粉末等の導電性カーボン微粒子を基材に塗布してもよい。その際に、PVDF等のバインダーを使用してもよい。電極材の大きさ及び形状等は特に限定されるものではなく、使用目的に応じて適宜調整することができる。マイクロメートルオーダーに電極面積を小さくした微小電極として構成することができる。
負極側の電極材には、本発明の乳酸酸化酵素が供給され、適当な緩衝液中に溶解させた形態で供給してもよいが、電極材上に固定化されることが好ましい。電極材上に固定化する場合の乳酸酸化酵素の固定化量は、燃料である乳酸の形態や容量、電極系の種類や容量、発電方式等に応じて適宜変更することができる。正極側の電極材は、酸素に電子を伝達することのできる酵素等の触媒を必要に応じて供給してよい。例えば、ラッカーゼやビリルビンオキシダーゼ等のマルチ銅オキシダーゼ等の酵素触媒や白金等の金属触媒を利用することができる。
電極材上への酵素の固定化は、公知の方法によって行うことができる。例えば、物理的吸着、イオン結合,共有結合を介して固定化する担体結合法を利用することができる。また、グルタルアルデヒド等の二価性官能基をもつ試薬で架橋固定する架橋法をも利用でき、更には、アルギン酸,カラギーナン等の多糖化合物、ポリアクリルアミド等の網目構造をもつゲルや、半透性膜の中に閉じて固定化する包括法等をも利用することができる。
電極材には、酵素がその触媒活性を発揮し、電極材と電子の授受を行うのに必要な物質を供給することができ、電極触媒である酵素と共に固定化してもよい。例えば、酵素の触媒活性の発揮に補因子等を要求する酵素の場合には、活性化に必要な物質を電極材上に酵素と共に固定化することができる。一方、電極材上に酵素のみを固定化した場合には、活性化に必要な物質を電極材上に固定化された酵素に供給する手段を設けてもよい。また、補因子を要求する酵素については、固定化される酵素は、アポ形態及びホロ形態の別を問わないが、電極反応に際しては活性を発揮できるように構成する必要がある。したがって、アポ形態として電極材上に保持した場合には、電極材上に固定化された酵素に補因子を供給する手段を設ける等、アポ形態の酵素を活性型のホロ形態に変換するための手段を設けることが必要となる。更に、前記電極材には、触媒反応と電極との間の電子授受を媒介する電子伝達メディエータを酵素と共に固定化してもよい。
電子伝達メディエータは上記性質を有する限り、特に制限はない。例えば、フェロセン、フェリシアン化物、キノン類、シトクロム類、ビオロゲン類、フェナジン類、フェノキサジン類、フェノチアジン類、フェレドキシン類及びその誘導体等が例示されるが、電極触媒の種類に応じて最適な物質を選択すればよい。負極には、本発明の乳酸酸化酵素の物理的特性から、1,4-ナフトキノンの選択が好ましく、正極触媒としてビリルビンオキシダーゼを使用する場合には2,2'-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸アンモニウム)の選択が好ましい。
隔膜は、プロトン等を透過できるイオン伝導性を有すると共に、プロトン等のイオン以外の負極側の構成成分及び正極側の構成成分を透過させないという性質を有する限り、その素材及び形状等に制限はない。例えば、セルロース膜等を利用することができ、また、固体電解質膜を利用することができる。固体電解質膜としては、スルホン基、リン酸基、ホスホン基、及びホスフィン基等の強酸基、カルボキシル基等の弱酸基、及び極性基を有する有機高分子等のイオン交換機能を有する固体膜等が例示されるが、これらに限定するものではない。具体的にはセルロース膜、及びテトラフルオロエチレンとパーフルオロ〔2−(フルオロスルフォニルエトキシ)プロピルビニルエーテル〕:tetrafluoroethyleneとperfluoro[2-(fluorosulfonylethoxy)propylvinyl ether]の共重合体であるナフィオン(登録商標)等のパーフルオロカーボンスルホン酸(PFS)系の樹脂膜を利用することができる。
燃料である乳酸は、好ましくは、適当な溶媒に溶解させた燃料溶液として供給されるが、ゲル等の形態で供給してもよい。溶媒は、水性媒体であり、蒸留水の他、適当な緩衝液であってもよい。緩衝液に含まれる緩衝液成分としては、例えば、リン酸カリウム等のリン酸塩、イミダゾール、炭酸塩、ホウ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)、4-(2-ヒドロキシエチル)−ピペラジン-1-エタン スルホン酸(HEPES)、3-モルフォリノプロパン スルホン酸(MOPS)等を例示することができる。これらは単独で用いてもよいが、2種以上を組み合わせて使用することができる。燃料液中の乳酸量については、燃料の形態、電極系の種類や容量、発電方式等に応じて適宜変更することができる。
燃料溶液には、上記した補因子等の酵素がその触媒活性を発揮するのに必要な物質、及び電子伝達メディエータ等の酵素の触媒反応と電極反応と共役させるために必要な物質を含めてもよい。
燃料溶液は、バイオ電池内部に配置された負極上の酵素に供給される。燃料溶液の供給は、燃料溶液を負極上の酵素に供給できる限り、その形態に制限はない。
以上のように構成することにより、燃料である乳酸を酸化する際に生じた電子がアノード極に電子を受け渡す。そして、アノード極に渡された電子は、外部回路を経てカソード極に到達することで電流が発生する。
本発明のバイオ燃料電池は、電極触媒として本発明の乳酸酸化酵素を利用するものであり、本発明の乳酸酸化酵素は乳酸酸化活性、特には低濃度乳酸に対し、親和性を有していることから、電池出力の向上が期待でき電池性能の向上を図ることができる。ひいては、酵素使用量を軽減できることからコスト削減効果をも奏することができる。卓上電卓等の携帯型機器や心臓ペースメーカー等の体内埋め込み式機器等の小型電子機器の電源等への応用が可能である。
以下に実施例を示し、更に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)乳酸脱水素酵素と乳酸酸化酵素のアミノ酸配列の類似性の検討
本実施例では、公知の乳酸脱水素酵素(EC 1.1.2.3)と乳酸酸化酵素(EC 1.13.12.4)のアミノ酸配列の類似性を比較検討した。
(方法)
乳酸脱水素酵素(国際生化学分子生物学連合の酵素委員会による酵素番号:EC 1.1.2.3)として、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来の乳酸脱水素酵素(Accession No:P00175、アミノ酸配列:配列番号5のアミノ酸1〜555位)、及び、ハンセヌラ・アノマラ(Hansenula anomala)由来の乳酸脱水素酵素(Accession No:P00175、アミノ酸配列:配列番号6のアミノ酸1〜534位)を用い、両者のアミノ酸配列を比較した。また、乳酸酸化酵素(EC 1.13.12.4)として、エンテロコッカス属(Enterococcus sp.)細菌由来の乳酸酸化酵素(Accession No:WP_010738027、アミノ酸配列:配列番号4)、及び、エロコッカス・ビリダンス(Aerococcus viridians)由来の乳酸酸化酵素(Accession No:WP_003142047、アミノ酸配列:配列番号7のアミノ酸1〜319位)を用い、両者のアミノ酸配列を比較した。
(結果)
結果を図1に示す。図1のAは、サッカロマイセス・セレビシエとハンセヌラ・アノマラ由来の乳酸脱水素酵素のアミノ酸配列を比較した結果であり、図1のBは、エンテロコッカス属細菌とエロコッカス・ビリダンス由来の乳酸酸化酵素のアミノ酸配列を比較した結果である。これらの結果から、同じ酵素番号に属する乳酸脱水素酵素間及び乳酸酸化酵素間では、高い類似性を示すアミノ酸配列を有していることが理解できる。
(実施例2)乳酸脱水素酵素の発現と大量生産の検討
本実施例では、大腸菌タンパク質発現系を利用して乳酸脱水素酵素(EC 1.1.2.3)を発現させて、乳酸脱水素酵素の大量生産について検討した。
(方法)
実施例1にて検討を行ったサッカロマイセス・セレビシエ由来の乳酸脱水素酵素をコードする遺伝子にHis Tagコード配列を乳酸脱水素酵素のN末端又はC末端に連結するように融合させた。得られた融合遺伝子を、大腸菌タンパク質発現系の発現ベクターpET22bにクローニングし、大腸菌株BL21DE3pLysSを形質転換した。
得られた形質転換体をLB培地(200 mL)にてO.D.600=0.3になるまで37℃で前培養した。イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を終濃度0.2 mMで添加してタンパク質発現誘導を行った。発現誘導後、25℃で12時間の本培養を行った。続いて、培養液中の菌体を遠心分離(5,000 × g、15分間)にて回収した。回収した菌体を緩衝液(10 mM Tris-HCl(pH 7.4)、40 mL)に懸濁し、界面活性剤(0.4 % Brij-58)を加えて30分間溶菌させ、超音波破砕により菌体を破砕した。続いて、菌体破砕液を遠心分離(42,000 × g、30分間)して上澄み液を分取した。上澄み液のアリコート(2 μL)をドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に供した。電気泳動後のゲルをクマシーブリリアントブルー(CBB)染色し、乳酸脱水素酵素の発現を確認した。
(結果)
結果を図2に示す。レーン1は、His Tagコード配列を乳酸脱水素酵素のN末端に融合させた結果であり、レーン2は、His Tagコード配列を乳酸脱水素酵素のC末端に融合させた結果を示す。何れにおいても乳酸脱水素酵素の発現を示すシグナル(矢印の位置)は確認できなかった。これら結果から大腸菌タンパク質発現系を使った乳酸脱水素酵素の発現は困難であり、定法での大量生産には不向きであることが判明した。
(実施例3)乳酸酸化素酵素の発現と大量生産の検討
本実施例では、大腸菌タンパク質発現系を利用して乳酸酸化酵素(EC 1.13.12.4)を発現させて、当該乳酸酸化酵素の大量生産について検討を行った。
(方法)
実施例1にて検討を行ったエンテロコッカス属細菌由来の乳酸脱水素酵素をコードする遺伝子にHis Tagコード配列を乳酸脱水素酵素のN末端に連結するように融合させた。得られた融合遺伝子を、大腸菌タンパク質発現系の発現ベクターpET22bにクローニングし、大腸菌株BL21DE3pLysSを形質転換した。実施例2と同様にして、乳酸酸化酵素を発現させて、SDS-PAGEにより組換え乳酸酸化酵素の発現を確認した。
また、SDS-PAGEに先立って、菌体破砕液の上澄み液に終濃度0.3 MのNaClを加え、ヒスチジンタグ融合タンパク質精製用金属アフィニティ担体カラム(4mLのTALONを充填)に投入し、50 mMのリン酸カリウム(pH7.4)、5 mMのイミダゾール、0.3 MのNaCl溶液で洗浄後、50 mMのリン酸ナトリウム、150 mMのイミダゾール、0.3 MのNaCl溶液でタンパク質を溶出した。溶出液を、限外濾過カラムを用いた希釈法で、緩衝液(50 mM PIPES(pH7.4))に置換し酵素溶液を得た(最終液量500 μL)。菌体破砕液の上澄み液をカラムに投入したときに出てくる素通り画分のアリコート(2 μL)、及び、最終の酵素溶液のアリコート(2 μL)をSDS-PAGEに供した。
(結果)
結果を図3に示す。レーン1は、菌体破砕液の上澄み液の結果であり、レーン2は、菌体破砕液の上澄み液をカラムに投入したときの素通り画分の結果であり、レーン3は、最終の酵素溶液の結果である。何れにおいても乳酸酸化酵素の発現を示すバンド(矢印の位置)を確認することができた。特に、アフィニティ精製により、乳酸酸化酵素由来の濃いバンドを確認することができた(レーン3)。これら結果から、乳酸菌の1種であるエンテロコッカス属細菌由来の乳酸酸化酵素は、大腸菌タンパク質発現系を使った大量発現が可能であり、常法での大量生産が可能であることが判明した。
(実施例4)自然界の試料に含まれる乳酸酸化酵素の探索及び取得の検討
本実施例では、環境試料由来のゲノムDNAを解析することにより、乳酸酸化酵素の探索及び取得を検討した。
(方法)
環境試料としては木材堆肥を使用した。木材堆肥は、千葉県内の牧場から木材成分を酸化分解する細菌を多く含む牧場堆肥を採取し、以下のようにして作製した。間伐材や剪定材を粉砕機で粉砕して木材チップを製造した。当該木材チップと発酵菌を含有する牛糞とを体積比が約1:1になるように混合した後、堆肥切り返し機を用いて7〜10日に一度の割合で混合し、50〜70℃で高温発酵させた。
木材堆肥からメタゲノムDNAを抽出するためのサンプリングは、木材堆肥直後に行った。サンプリングした2〜6g(湿重量)の木材堆肥から、PowerMax Sori DNA isolation kit(MO BIO Laboratories社製)を用いて、製造業者の指示に従ってメタゲノムDNAの抽出を行った。抽出したメタゲノムDNAは最終的に5 mLのTris緩衝液に溶解させた。
続いて、メタゲノムDNAの配列解析を行い、得られたメタゲノム遺伝子情報ライブラリーを活用して、実施例1等で検討したサッカロマイセス・セレビシエとエンテロコッカス属細菌由来の乳酸酸化酵素のアミノ酸配列と比較し、アミノ酸配列の類似性を指標に、乳酸酸化酵素として有望な候補酵素を選抜した。
(結果)
結果を図4及び図5に示す。図4は、サッカロマイセス・セレビシエ由来の乳酸酸化酵素との類似性を検討した結果であり、図5は、エンテロコッカス属細菌由来の乳酸酸化酵素との類似性を検討した結果である。図4及び図5の縦軸は、類似性を示す領域(ヒット領域)のアミノ酸数を示し、横軸は、アミノ酸配列の類似性の割合(%)を示す。ここで、ヒット領域のアミノ酸数は、選抜対象とした各配列が、比較対象の乳酸酸化酵素(図4はサッカロマイセス・セレビシエ由来、図5はエンテロコッカス属細菌由来)の全長アミノ酸のうち、どの程度をカーバーしているのかの目安となる。
ヒット領域のアミノ酸数が多く、かつ、アミノ酸配列類似性をも有する最も有望な候補酵素群を丸で囲んだ。図4及び図5において、丸で囲んだ10種の候補酵素のアミノ酸配列は同一であることを確認し、これらを最終的な候補酵素として選抜した。
(実施例5)候補酵素10種の発現と大量生産の検討
本実施例では、実施例4で選抜した10種の候補酵素を発現させ、当該候補酵素の大量生産を検討した。
(方法)
実施例4で選抜した10種の候補酵素について、それぞれをコードする遺伝子にHis Tagコード配列を候補酵素のC末端に連結するように融合させた。得られた融合遺伝子を、大腸菌タンパク質発現系の発現ベクターpET22bにクローニングし、大腸菌株BL21DE3pLysSを形質転換した。実施例2と同様にして、候補酵素を発現させ、SDS-PAGEにより候補酵素の発現を確認した。
(結果)
結果を図6に示す。1種の候補酵素については形質転換体を得ることができなかったが、この1種を除いた9種の候補酵素(No.1〜No.9)は、大腸菌タンパク質発現系を使って発現を確認した(レーン1〜9)。その結果、候補酵素No.6、No.7、No.8、No.9で発現が確認できた(レーン6〜9)。
発現が確認された4種の候補酵素のうちNo.6について、実施例3と同様にして、SDS-PAGEに先立ってアフィニティ精製を行った結果を図7に示す。レーン1は、菌体破砕液の上澄み液の結果であって図6のレーン6に対応し、レーン2は、菌体破砕液の上澄み液のカラムに投入したときの素通り画分の結果であり、レーン3は、最終の酵素溶液の結果である。レーン3のシグナル強度は、計算上の大腸菌タンパク質発現系での最大の発現量のシグナル強度にほぼ匹敵するものであった。これらの結果から、候補酵素No.6は、大腸菌タンパク質発現系を使った大量発現が可能であり、常法での大量生産が可能であることが判明した。本実施例で取得した候補酵素No.6を「eLact-No.6」と命名した。
(実施例6)eLact-No.6と既知の乳酸酸化酵素及び乳酸脱水素酵素とのアミノ酸配列の類似性の検討
本実施例では、実施例5で取得した候補酵素であるeLact-No.6のアミノ酸配列を、既知の乳酸酸化酵素及び乳酸脱水素酵素のアミノ酸配列との類似性をそれぞれ検討した。
(方法)
実施例5で取得した候補酵素であるeLact-No.6のアミノ酸配列と、既知の乳酸酸化酵素及び乳酸脱水素酵素のアミノ酸配列とを、それぞれアミノ酸配列の類似性を比較検討した。ここで、既知の乳酸酸化酵素としては、実施例1で検討したエンテロコッカス属細菌とエロコッカス・ビリダンス由来のものを使用し、既知の乳酸脱水素酵素としては、実施例1で検討したサッカロマイセス・セレビシエ及びハンセヌラ・アノマラ由来のものを使用した。
(結果)
結果を図8に示す。図8のAは、乳酸酸化酵素とのアミノ酸配列と比較した結果であり、図2のBは、乳酸脱水素酵素のアミノ酸配列と比較した結果である。eLact-No.6は、検討した何れの既知の酵素ともアミノ酸配列の類似性は約30%程度と低く(A及びB)、新規なアミノ酸配列を有する酵素であることが判明した。詳細には、eLact-No.6は、エンテロコッカス属細菌由来の乳酸酸化酵素とは423個のアミノ酸中で125個が相同であり約29%の類似性であり、エロコッカス・ビリダンス由来の乳酸酸化酵素とは423個のアミノ酸中で125個が相同であり約29%の類似性であった。
(実施例7)eLact-No.6の酵素反応速度の乳酸濃度の依存性の検討
本実施例では、eLact-No.6の乳酸濃度を変化させたときの酵素反応速度の変化について、既知の乳酸酸化酵素と比較し検討を行った。
eLact-No.6及び既知のエンテロコッカス属細菌由来の乳酸酸化酵素について、酵素反応液中の乳酸濃度を変化させたときの酵素反応速度の変化について検討した。酵素溶液は、eLact-No.6は実施例5で、既知のエンテロコッカス属細菌由来の乳酸酸化酵素は実施例3で取得されたものを使用した。酵素反応速度の変化は、NBT還元法を用い、酵素の乳酸酸化反応に伴うNBTの還元により生成されるブルーホルマザンの蓄積により測定した。詳細には、酵素反応液(200μL)として、×1 リン酸緩衝液(SIGMA、P5493)、0.05 mM(終濃度)のmPMS、×4 DCIP/NBT溶液(Wako、022-16231)、50 ngの酵素溶液(eLact-No.6又は既知のEnterococcus属細菌由来の乳酸酸化酵素)に、0〜50 mM(終濃度)のL-乳酸を加えたものを調製した。酵素反応液は25℃で2分間反応させた。当該酵素反応液の吸光度変化を蛍光プレートリーダーで測定(波長570 nm)することにより、単位時間(反応時間:1〜2分間)当たりの吸光度変化と乳酸濃度の関係を検討した。
eLact-No.6については、0.1〜1 mM(終濃度)のL-乳酸を加えた酵素反応液も調製し、上記の通り酵素反応速度と乳酸濃度の関係を検討した。
また、測定に利用した酵素溶液と同一のものを実施例2等の手順に準じて、SDS-PAGEに供し、ゲルをCBB染色し、染色されたバンドの濃淡を確認した。
(結果)
結果を図9〜11に示す。図9は、eLact-No.6及び既知のエンテロコッカス属細菌由来の乳酸酸化酵素について酵素反応速度と乳酸濃度(0〜50 mM)の関係を検討した結果を示すものであり、縦軸は乳酸酸化活性(波長570 mMでの吸光度の変化量)を、横軸は乳酸濃度(mM)を示す。図10は、eLact-No.6について酵素反応速度と乳酸濃度(0.1〜1 mM)の関係を検討した結果を示すものであり、縦軸は乳酸酸化活性(波長570 mMでの吸光度の変化量)を、横軸は乳酸濃度(mM)を示す。図11は、eLact-No.6及び既知のエンテロコッカス属細菌由来の乳酸酸化酵素についてのSDS-PAGEの結果を示す。これらの結果から、既知のエンテロコッカス属細菌由来の乳酸酸化酵素では、乳酸濃度10 mM以下で酵素との親和性が急落する(図9)。一方、本発明者が取得したeLact-No.6では乳酸濃度0.5 mM程度まで、おおよそ最大活性を発揮できることを確認した(図9及び図10)。また、酵素の比活性についても、eLact-No.6は、既知のエンテロコッカス属細菌由来の乳酸酸化酵素と比較し、約2倍高いことを確認した(図9及び図10)。なお、上記で得られた乳酸酸化酵素の理化学的物性に関する結果は、SDS-PAGEで確認されたバンドの濃淡より、両酵素がほぼ同一量での比較であったことが理解できる(図11)。
以上の結果から、本発明者らが取得したeLact-No.6の酵素反応速度の乳酸濃度の依存性に関する物性は、当該酵素を乳酸センサーの酵素電極の触媒として利用した場合に、電流(クロノアンペロメトリー)応答の測定系において、より低濃度の乳酸を精度よく測定する場合に有利であることが理解できる。
(実施例8)eLact-No.6のバイオ燃料電池の負極用酵素触媒として電池性能検討
本実施例では、eLact-No.6をバイオ燃料電池の負極用触媒として使い、乳酸を燃料とした場合の電池セルの発電を確認した。
(方法)
本実施例で構築したバイオ燃料電池は、負極を電極材、メディエータ、酵素の各部材から構成し、当該負極に緩衝液を含む燃料液(L-乳酸溶液)を供給して、正極反応と組み合わせることで、発電させるものである。
(1)電池セルの作製
本実施例で作製したバイオ燃料電池の電池セルの各構成部材及びその作製手順について詳細に説明する。
a.電極材
a−1.負極材の作製
炭素微粒子(0.4 g)、20%PVDF溶液(0.8 g、KFポリマー、クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン)、N-メチル-2-ピロリドン(8 mL)を混合し、超音波処理をして炭素インクを作製した。電極材(日本カーボンBF-20、4 cm × 4 cm)を炭素インクに浸して引き揚げ、乾熱乾燥(60℃)させたものを負極材とした。
a−2.正極材の作製
炭素微粒子(0.4 g)、PTFE(0.4g、PTFE 6J、三井・デュポンフロロケミカル)、イソプロパノール(8 mL)を混合し、超音波処理をして炭素インクを作製した。電極材(日本カーボンBF-20、4 cm × 4 cm)を炭素インクに浸して引き揚げ、乾熱乾燥(60℃)させたものを正極材とした。
b.メディエータ
b−1.負極側
1,4-ナフトキノンを使用した。1,4-ナフトキノン 32 mgをアセトニトリル2.0 mLに溶解した溶液を、上記で作成した負極材に滴下して減圧下で乾燥固定化した。
b−2.正極側
2,2'-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸アンモニウム)(以下、「ABTS」と称する)を使用した。ABTS 20 mgをMilli-Q 水2.0 mLに溶解した溶液を、上記で作製した正極材に滴下して、乾燥固定化した。
c.電池セルの組み立て
上記で作製したメディエータを固定化した負極材に、実施例5で調製したeLact-No.6溶液(100μL:0.02 mg/cm2、1Mリン酸カリウム(pH 7.0))と任意量のL-乳酸を含浸させたものを負極とした。上記で作製したメディエータを固定化した正極材にビリルビンオキシダーゼ溶液(50μL:1.0 mg/cm2、1Mリン酸カリウム(pH 7.0))を含浸させたものを正極とした。負極と正極の間にセルロース膜を挟み込んで負極/セルロース膜/負極の順に積層し、電池セルの筐体の電極部に入れた。
(2)性能評価
負極に電極緩衝液(500 mMのL-乳酸を含む1 Mリン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)1.6 mL)を染み込ませて、電子負荷装置を使用して電力・電流特性を測定した。また、負極に電極緩衝液として、L-乳酸を含まない電極緩衝液(1 Mリン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)1.6 mL)を染み込ませた電池セルについても、同様にして電力・電流特性を測定した。
(結果)
結果を図12に示す。縦軸は電力(mV)を、横軸は電流(mA)を示す。波形1は、L-乳酸を含む電極緩衝液を使用した結果を示し、波形2はL-乳酸を含まない電極緩衝液を使用した結果を示す。これらの結果から、本発明者が取得したeLact-No.6は、メディエータ(1,4-ナフトキノン)と組み合わせた場合に、乳酸を燃料にしたバイオ燃料電池で発電することが可能であることを確認した。
医療分野、生物化学分野、環境分野、食品分野等において実用価値が高く、新たなアミノ酸配列及び理化学的物性を有する乳酸酸化酵素を提供する。

Claims (10)

  1. 以下の(a)〜(c)の何れかのアミノ酸配列からなり、酸素の存在下でL-乳酸に作用してピルビン酸及び過酸化水素を生成する乳酸酸化活性を有する乳酸酸化酵素。
    (a)配列番号2に示すアミノ酸配列
    (b)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び付加の少なくとも1つからなる改変を有するアミノ酸配列
    (c)配列番号2に示すアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列
  2. 10 mM以下の乳酸に対し、親和性を有する請求項1に記載の乳酸酸化酵素。
  3. 請求項1又は2に記載の乳酸酸化酵素をコードする単離核酸分子。
  4. 以下の(d)〜(f)の何れかの塩基配列からなる請求項3に記載の単離核酸分子。
    (d)配列番号1に示す塩基配列
    (e)配列番号1に示す塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入及び付加の少なくとも1つからなる改変を有する塩基配列
    (f)配列番号1に示す塩基配列と少なくとも95%の配列同一性を有する塩基配列
  5. 請求項3又は4に記載の単離核酸分子を含有する組換えベクター。
  6. 請求項5に記載の組換えベクターを含有する形質転換体。
  7. 請求項6に記載の形質転換体を培養する工程、及び、得られた培養物から乳酸酸化反応を触媒する能力を有するタンパク質を採取する工程を含む、乳酸酸化酵素の製造方法。
  8. 請求項1又は2に記載の乳酸酸化酵素の触媒活性を利用して試料中に含まれる乳酸を測定する乳酸測定方法。
  9. 請求項1又は2に記載の乳酸酸化酵素を電極上に固定化した乳酸センサー。
  10. 請求項1又は2に記載の乳酸酸化酵素を含み、前記乳酸酸化酵素の乳酸の酸化反応に伴って生成する電子を受け取る負極、酸素に前記電子を伝達することのできる正極を備え、前記負極と前記正極とが電気的に結合されているバイオ燃料電池。
JP2017014636A 2017-01-30 2017-01-30 乳酸酸化酵素、乳酸酸化酵素をコードする核酸分子、乳酸酸化酵素を用いた乳酸測定方法、乳酸センサー、及びバイオ燃料電池 Active JP6816536B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2017014636A JP6816536B2 (ja) 2017-01-30 2017-01-30 乳酸酸化酵素、乳酸酸化酵素をコードする核酸分子、乳酸酸化酵素を用いた乳酸測定方法、乳酸センサー、及びバイオ燃料電池

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2017014636A JP6816536B2 (ja) 2017-01-30 2017-01-30 乳酸酸化酵素、乳酸酸化酵素をコードする核酸分子、乳酸酸化酵素を用いた乳酸測定方法、乳酸センサー、及びバイオ燃料電池

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2018121545A JP2018121545A (ja) 2018-08-09
JP6816536B2 true JP6816536B2 (ja) 2021-01-20

Family

ID=63108702

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2017014636A Active JP6816536B2 (ja) 2017-01-30 2017-01-30 乳酸酸化酵素、乳酸酸化酵素をコードする核酸分子、乳酸酸化酵素を用いた乳酸測定方法、乳酸センサー、及びバイオ燃料電池

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP6816536B2 (ja)

Families Citing this family (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
TWI827165B (zh) * 2022-07-28 2023-12-21 聚碩生技股份有限公司 乳酸氧化酶變異體及其在乳酸檢測的用途

Also Published As

Publication number Publication date
JP2018121545A (ja) 2018-08-09

Similar Documents

Publication Publication Date Title
US8354112B2 (en) Glucose dehydrogenase/cytochrome fusion protein
US9873864B2 (en) Cellobiose dehydrogenase
JP6084981B2 (ja) フラビンアデニンジヌクレオチド依存型グルコース脱水素酵素活性を有するタンパク質
EP2753690B1 (fr) Mutants de la glucose oxydase de penicillium amagasakiense
CN101421396A (zh) 吡咯并喹啉醌依赖性可溶性葡萄糖脱氢酶的改良突变体
JP5740754B2 (ja) 酵素結晶固定化電極及び酵素結晶固定化電極の製造方法、並びに酵素結晶固定化電極を備えるバイオ電池及びバイオセンサー
JP6065649B2 (ja) ラッカーゼ活性を有するタンパク質の高活性化変異体、及びこれをコードする核酸分子、及びその利用
US9617577B2 (en) Bacillus pumilus bilirubin oxidase and applications thereof
JP6816536B2 (ja) 乳酸酸化酵素、乳酸酸化酵素をコードする核酸分子、乳酸酸化酵素を用いた乳酸測定方法、乳酸センサー、及びバイオ燃料電池
JP6870172B2 (ja) フラビンアデニンジヌクレオチド依存性ギ酸オキシダーゼ変異体、核酸分子、酵素電極、バイオ電池、及び、バイオセンサー
JP2012039949A (ja) ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ変異体、及びその利用
CN109206505B (zh) 变异型细胞色素蛋白及其应用
JP6295630B2 (ja) バイオ燃料電池
JP2021078427A (ja) D−乳酸脱水素酵素変異体、d−乳酸脱水素酵素変異体を備えたバイオ燃料電池、及び、バイオセンサ
JP2020018221A (ja) 糖類酸化方法、糖類酸化酵素剤、及び、糖類酸化酵素電極
JP6520106B2 (ja) 変異型ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素、変異型ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素をコードする単離核酸分子、変異型ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を固定した酵素電極、酵素電極を備えたバイオ電池、及びバイオセンサー
JP2020036544A (ja) 新規なピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素、バイオセンサー、及び、バイオ電池
US20230365944A1 (en) Engineered stable lactate oxidoreductases, compositions, devices, kits and uses thereof
US9506043B2 (en) Diaphorase
JP6264602B2 (ja) グルコース多段階酸化系酵素電極、当該酵素電極の製造方法、及び当該酵素電極を利用したバイオ燃料電池
WO2021210282A1 (ja) 変異型フラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼおよびその製造方法
WO2024020909A1 (en) Lactate oxidase variants and their uses for lactate detection
JP2010022328A (ja) 補酵素結合型酵素の安定化方法、当該安定化方法を利用して調製した組成物、酵素センサー、及び燃料電池

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20191210

TRDD Decision of grant or rejection written
A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20201118

A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20201124

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20201207

R151 Written notification of patent or utility model registration

Ref document number: 6816536

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R151