JP2019521205A - 水熱炭化されたリグニンを含むタイヤ - Google Patents

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Abstract

本発明は、乗物用ニューマチックタイヤ、かかるタイヤを製造するための方法に関し、タイヤは、硬化の手段によって一緒に結合された金属構成部分とテキスタイル構成部分と硬化されたゴム系構成部分とを含み、硬化されたゴム系構成部分は、水熱炭化によって処理されたリグニンを含む。さらに、本発明は、ニューマチックタイヤのゴム系構成部分への水熱炭化によって処理されたリグニンの使用に関する。【選択図】図1

Description

本発明は、乗物用ニューマチックタイヤ、このタイヤを製造するための方法、および乗物用ニューマチックタイヤへの水熱炭化によって処理されたリグニンの使用に関し、ニューマチックタイヤは、水熱炭化によって処理されたリグニンを含むゴム系構成部分を含む。
ニューマチックタイヤは乗物および自動車の種々の種類に用いることができる。ニューマチックタイヤは、ひとたびリムにマウントおよび充気されると、平坦でない道路上を動いているときの衝撃を吸収することができる。それゆえに、乗物の下にマウントされた充気されたニューマチックタイヤは乗物にとっての充気式緩衝材としての用をなす。
およそ十億個に近いニューマチックタイヤが世界的に毎年製造されている。一般的には、ニューマチックタイヤは、ゴム系構成部分などの種々の異なる材料を含む。一般的には、ゴム系構成部分は、タイヤがタイヤ製造過程の間に硬化されたときに種々のタイヤ材料同士を一緒につなぎ合わせる。一般的には、ニューマチックタイヤのゴム系構成部分は天然ゴムおよび/または合成ゴムを含む。一般的には、より高い補強特性を有するゴムを得るために、ゴムはカーボンブラックと混合される。
各タイヤ構成部分は、特定の目的のために設計されるうる。例えば、一般的に道路と接触するニューマチックタイヤのトレッド部構成部分は、タイヤの非トレッド部構成部分とは異なる特性を要求し得る。ゴム系構成部分の組成はタイヤの粘弾性的および機械的性能に役割を果たす。ゴム系構成部分の組成に用いられる材料の量および種類は、例えばタイヤのトラクション、トレッド摩耗、および転がり抵抗に効果を有し得る。
転がり抵抗は、タイヤが回転し道路表面と接触するときのタイヤの変形をいう。概ね、抵抗はタイヤの粘弾性挙動を原因とする。転がり抵抗は、燃料駆動の乗物の燃料消費のかなりの割合を占める。転がり抵抗は、乗物の他の種類、例えばハイブリッド技術または電気を用いるもののエネルギー消費にもまた役割を果たす。トラクションおよびトレッド摩耗は、タイヤの挙動および耐久性にもまた影響する性能パラメータである。トラクションは一般的には望ましいが、タイヤのトレッド摩耗および転がり抵抗は望ましくない。1つのパラメータの最適化は、多くの場合、他の望まれる特性についてはネガティブな結果に至り得るため、タイヤ性能最適化は難問となる。
耐久性、補強効果、または粘弾性挙動などのタイヤ特性は、ゴム系構成部分中のカーボンブラックなどのフィラー材料の割合に関係する。ニューマチックタイヤは、補強フィラー材料としてのカーボンブラックの高い量、例えば40wt.%以上を含み得る。今日のカーボンブラックの最も通常の使用の1つは、自動車タイヤの顔料および補強フィラー材料としてである。カーボンブラックは、ほとんどが元素状炭素からなる。一般的には、カーボンブラックは、化石炭素源から製造される。一般的には、ゴムグレードカーボンブラックは、特定のグレードで製造され、各グレードは所定の特性、例えばASTM規格D1765−14に従うサイズ分布および比表面積を有する。タイヤの最終的な特性は、硬化されたタイヤから決定される。硬化は、一般的には加硫手段によってなされる。
転がり抵抗は、タイヤのトレッド部に位置するゴム系構成部分中にシリカなどの無機フィラー材料を追加することによって、低減され得る。シリカ(SiO)は、種々のグレードおよび形態で、例えば沈降シリカとして存在する化学化合物である。
カーボンブラックおよびシリカなどの従来のフィラー材料は、そのまま用いられるときには比較的不活性である。カーボンブラックは、ゴム系構成部分中においては主に物理的相互作用によって相互作用する。他方で、シリカは、ひとたびシラン系カップリング剤によってタイヤ構成部分中に結合されたときにのみ相互作用する。
従来のタイヤ材料は、多くの難問を呈する。タイヤ製造産業は、ゴム系構成部分に用いられる材料の主要な消費者である。ニューマチックタイヤは、タイヤの総重量から計算されたときに80wt.%以上のゴム系構成部分を含み得る。化石炭素源を起源とする材料のタイヤへの莫大な使用は、問題である。従来のタイヤの複雑な材料組成は、それらをリサイクルすることを困難にする。タイヤゴム製造過程には、例えばゴム構成部分の剛性を増大させるための危険材料の使用が関わり得る。シリカは比較的高価である。シリカの使用にもかかわらず、従来のフィラー材料はタイヤが用いられるときにタイヤの発熱および屈曲疲労のかなりの量をなお引き起こし、これは望ましくない。
急速に現れてくる環境的な局面、例えば自動車産業における燃料消費およびノイズレベルの低減努力は、タイヤ製造者にもまた新たな要件を課す。タイヤの再生可能性要件および環境的な局面は、タイヤ原材料の選択にますます重要な役割を果たす。改善された性能特性、およびより良好な環境的持続可能性を有するタイヤを生産する必要がある。
いくつかの説明は乗物用ニューマチックタイヤに関し、ニューマチックタイヤは水熱炭化によって処理されたリグニンを含む。いくつかの説明は乗物用ニューマチックタイヤの製造方法に関し、ニューマチックタイヤは水熱炭化によって処理されたリグニンを含む。いくつかの説明は、乗物用ニューマチックタイヤへの水熱炭化によって処理されたリグニンの使用に関する。
リグニンは、再生可能で環境的に持続可能な原材料であり、これはニューマチックタイヤに好適な材料に変換され得る。リグニン含有材料は、産業目的のためには容易に大量に入手可能である。リグニンは、パルプ・紙産業の主要な副産物である。紙は、針葉樹材および広葉樹材から製造され、これらは有意な量のリグニンを含有する。リグニン含有材料の一般的な例は、パルプ工場黒液などのバイオマス分画からの廃液である。農作物残材は、リグニン含有材料の別の例である。
一般的に、リグニンは、比較的高量の官能基を含有する。リグニンは、化学反応に関与および化学結合を形成し得る官能基を含有する。リグニン中に一般的に存在する官能基は、例えばカルボニル基、脂肪族ヒドロキシル基、およびフェノール性ヒドロキシル基を含む。リグニンの官能基は、化学的パルプ化過程の後でさえも黒液中において検出可能である。リグニン含有材料の、特に木材を起源とするリグニンのさらなる加工は、機能的特性を有するリグニン誘導体を提供する、環境的で費用効果的なやり方であり、これはニューマチックタイヤのための再生可能な原材料のソースとして用いられ得る。
リグニンの水熱炭化処理は、水系懸濁液中におけるリグニン含有材料の熱化学的変換工程をいう。リグニンの水熱炭化処理は、高い炭素含量および官能基を有するリグニン誘導体を生ずる。以下では、HTCリグニンとして示される、水熱炭化によって処理されたリグニンは、タイヤ性能を改善するための費用効果的な手段を提供する。水熱炭化によって処理されたリグニンは、木材起源のリグニンを含み得る。トウヒ材またはマツ材などの針葉樹材を起源とするHTCリグニンは、特に好適な分子構造を含有することが見出されており、これはニューマチックタイヤのゴム系構成部分の特性を改善し得る。ニューマチックタイヤのゴム系構成部分中のHTCリグニンは、ニューマチックタイヤの環境的持続可能性を改善し得る。
HTCリグニンは、タイヤ産業において一般的に用いられるゴム化合物、例えば天然ゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、および/またはポリイソプレンゴムと混合されて、ゴム組成物を製造し得る。HTCリグニンは、表面活性官能基を含有する。HTCリグニンは、ゴム組成物中に存在する他の化合物と化学結合を形成するように構成され得る。それゆえに、HTCリグニンを含むゴム系構成部分は、特定の特性を含むように構成され得る。HTCリグニンは、改善された性能を有するタイヤ構成部分が製造され得るように、ゴム組成物の特性を選択するために用いられ得る。それゆえに、HTCリグニンは、ニューマチックタイヤの性能を改善するように調えられ得る。
HTCリグニンは、例えばニューマチックタイヤのゴム系構成部分に好適である炭素含量、表面化学、粒子サイズ、粒子サイズ分布、および/または粒子の形態を含むように調えられ得る。
リグニンの水熱炭化処理は、リグニン分子構造を断片化する効果を有する。一般的に、HTCリグニンの比表面積は、バージン材料といわれるゴムと混合されていない材料から水熱炭化処理の後にASTM D6556−10に従って測定されたときには、10〜150m/gの範囲となり得る。一般的に、HTCリグニンの吸油量は、バージン材料といわれるゴムと混合されていない材料から水熱炭化処理の後にASTM D2414−09に従って測定されたときには、60〜130mL/100gの範囲となり得る。
リグニンの水熱炭化処理は、リグニン含有材料の炭素含量を増大させる効果を有する。HTCリグニンは、例えば40から65wt.%の範囲の、またはさらにより高い、高い炭素含量、一般的には40wt.%以上を有する。
リグニンの水熱炭化処理は、リグニンの官能基を維持するように調えられ得る。それゆえに、HTCリグニンは、上に開示されているようにニューマチックタイヤのゴム組成物中に存在する他の化合物と化学反応によって結合することができる官能基を含み得る。HTCリグニンは、ニューマチックタイヤのゴム系構成部分中における物理的相互作用および化学結合の両方の能力を有する。HTCリグニンは、ニューマチックタイヤのゴム系構成部分中における物理的および化学的相互作用の両方に好適な分子構造を有するように調えられ得る。物理的相互作用および化学結合の両方の能力を有するHTCリグニンは、ニューマチックタイヤの性能特性を改善するために用いられ得る。
リグニンの水熱炭化処理は、顕著な特性を有するリグニン誘導体を生ずる効果を有する。HTCリグニンの分子構造は、タイヤのゴム系構成部分に用いられる従来の材料、例えばカーボンブラックまたはシリカとは異なる。リグニンの水熱炭化処理は、2−メトキシフェノール官能基などの石炭酸官能基を含有するHTCリグニンを生ずるように調えられ得る。2−メトキシフェノール官能基を含有するHTCリグニンは、特に針葉樹材起源のリグニンから生じ得る。各種分析方法が、ニューマチックタイヤの硬化されたゴム構成部分中のリグニン誘導体の存在を決定するために用いられ得る。少数を挙げると、ニューマチックタイヤの硬化されたゴム構成部分中のリグニン誘導体の存在の決定に好適な分析方法は、例えば、熱分解−ガスクロマトグラフィー/質量分光(GC/MS)分析、熱分解−フーリエ変換赤外分光(pyro−FTIR)分析、熱重量分析、またはこれらの組み合わせである。例えば、HTCリグニンを含有するニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分は、熱分解され得、それによって、熱分解生成物といわれる材料を生ずる。好適な熱分解温度は、規格ASTM D3452−06に従って実施されたときには約550℃となり得る。熱分解−ガスクロマトグラフィー/質量分光分析は、HTCリグニン中の明確な化合物または誘導体、例えば2−メトキシフェノールの存在を決定するための手段として用いられ得る。熱分解生成物は、熱分解−フーリエ変換赤外分光によってさらに分析され得、この方法は、官能基を含むHTCリグニンに特異的な吸収ピーク域および強度レベルを検出する。
ニューマチックタイヤのゴム系構成部分に好適なHTCリグニンは、ASTM D6556−10に従って多点窒素吸着によって決定され、シリカおよび/またはカーボンブラックのみを含む硬化されたゴム系構成部分と比較されたときに、比表面積分析においては異なって作用する。600℃で熱分解されたときに、HTCリグニンを含む硬化されたゴム系構成部分は、同じ目的のためにニューマチックタイヤに一般的に用いられるであろうシリカおよび/またはカーボンブラックのみを含む硬化されたゴム系構成部分よりも、高い表面積を有する熱分解生成物を生ずる。
タンジェント・デルタ値は、損失対貯蔵弾性率の比を示し、これはタイヤの転がり抵抗を表現するために一般に用いられる。実験的な試験結果は、HTCリグニンがニューマチックタイヤの発熱および屈曲疲労を低減するために用いられ得るということを実証している。HTCリグニンを含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分は、カーボンブラックまたはシリカのどちらかを含む硬化されたゴム系構成部分よりも低いタンジェント・デルタ値を有し得る。HTCリグニンは、シラン系カップリング剤を用いて、または用いずに、ニューマチックタイヤの発熱および屈曲疲労を低減するために用いられ得る。2−メトキシフェノール官能基を有するHTCリグニンを含有するニューマチックタイヤのゴム系構成部分は、ニューマチックタイヤのタンジェント・デルタ、発熱、および/または屈曲疲労を低減することに特に好適であることが認められている。
一般には、硬化されたゴム系化合物の弾性は、300%モジュラス試験によって分析される。300%モジュラス試験は、一軸引張試験においてサンプルの300%伸長を生ずるために要求されるメガパスカル(Mpa)の応力を決定するための方法である。実験的な試験結果は、HTCリグニンを含む硬化されたゴム系構成部分が、ニューマチックタイヤの補強能力を改善するために用いられ得るということを実証している。HTCリグニンを含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分は、カーボンブラックを含む硬化されたゴム系構成部分よりも高いモジュラス値(300%モジュラス試験)を有し得る。HTCリグニンを含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分は、水熱炭化によって処理されていないリグニンを含む硬化されたゴム系構成部分よりも、有意に高いモジュラス値(300%モジュラス)を有する。このようなリグニンは、例えばパルプ工場黒液中に存在するリグニンである。
HTCリグニンは、生態学的に持続可能な原材料である。HTCリグニンは、再生可能な原材料としてニューマチックタイヤのゴム系構成部分に用いられ得る。HTCリグニンは、ニューマチックタイヤのゴム系組成物中において補強剤として作用し得る。HTCリグニンは、ニューマチックタイヤ中の従来のカーボンブラックの量を低減または代替するために用いられ得る。HTCリグニンは、ニューマチックタイヤ中のシリカを低減または代替するために用いられ得る。それゆえに、HTCリグニンを含むゴム系構成部分は、ニューマチックタイヤ中の化石炭素系材料の含量を低減するための手段を提供する。
HTCリグニンを含むゴム系構成部分は、ニューマチックタイヤの特性および性能を改善することができる。HTCリグニンを含むゴム系構成部分は、ニューマチックタイヤの転がり抵抗を低減することに好適である。HTCリグニンを含むゴム系構成部分は、ゴム系構成部分がゴム系構成部分の10重量%以上の量のHTCリグニンを含むときに、ニューマチックタイヤの転がり抵抗を低減することに特に好適である。ゴム系構成部分は、ニューマチックタイヤのトレッド部構成部分または非トレッド部構成部分となり得る。非トレッド部構成部分は、ニューマチックタイヤの、例えばサイドウォール部構成部分またはビード部構成部分をいう。
ニューマチックタイヤのゴム系構成部分は、化学結合および物理的相互作用によってゴム化合物に結合されたHTCリグニンを含み得る。ニューマチックタイヤのゴム系構成部分は、メチレンドナー化合物と反応させられたHTCリグニンを含み得る。HTCリグニンがメチレンドナー化合物と一緒にニューマチックタイヤのゴム系構成部分に用いられるときには、組み合わせは、網状構造を形成することができる硬化剤として作用する。HTCリグニンおよびメチレンドナーの組み合わせは、ニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分の剛性を増大させるために用いられ得る。このような組み合わせは、フェノール樹脂を代替するために用いられ得る。ゴム化合物に一般的に用いられるフェノール樹脂は、メチレンドナー化合物と相互作用するときにメチレン架橋結合を提供する。ゴム化合物に一般的に用いられるフェノール樹脂は、危険材料である。それゆえに、HTCリグニンを含むゴム系構成部分は、タイヤ中のフェノール樹脂の含量を低減するための手段を提供する。
第1の態様によれば、乗物用ニューマチックタイヤが提供され、このタイヤは、金属構成部分と、テキスタイル構成部分と、硬化されたゴム系構成部分とを含み、構成部分同士は硬化手段によって一緒に結合されて、硬化されたゴム系構成部分は、水熱炭化によって処理されたリグニンを含む。
第2の態様によれば、乗物用ニューマチックタイヤの製造方法が提供され、この方法は、水熱炭化によって処理されたリグニンを含むゴム系構成部分を得て、ゴム系構成部分を成型ドラム上に配置し管状プリフォームを形成し、管状プリフォームを膨張させてニューマチックタイヤのプリフォームを形成し、金属構成部分およびテキスタイル構成部分をタイヤのプリフォーム上に配置し、それによって、水熱炭化によって処理されたリグニンを含むゴム系構成部分、金属構成部分、およびテキスタイル構成部分を含むニューマチックタイヤのプリフォームを製造し、ニューマチックタイヤのプリフォームを硬化し、それによって、硬化手段によって構成部分同士を一緒に結合し、それによって、乗物用ニューマチックタイヤを製造し、それによって、タイヤは硬化されたゴム系構成部分を含むことと、を備える。
第3の態様によれば、ニューマチックタイヤの性能を改善するための水熱炭化によって処理されたリグニンの種々の使用が提供される。
第4の態様によれば、ニューマチックタイヤの性能を改善するための水熱炭化によって処理されたリグニンを含む硬化されたゴム系構成部分の種々の使用が提供される。
本発明はさらに、本発明の詳細な記載ならびに独立および従属請求項において提示される。
一例としての乗物用ニューマチックタイヤの説明図。 一例としてのHTCリグニンの官能基の異なる型であり、化学反応に利用可能であり得る官能基の説明図。 一例としての、HTCリグニンとゴムとを一緒にカップリングするためのカップリング剤として有機分子を用いる概念の説明図。 一例としての、TESPTなどのシラン系カップリング剤がHTCリグニンとゴムとを一緒にカップリングするために用いられる求核置換反応の説明図。 一例としての、複数の別個のHTCリグニン粒子同士を一緒に結合するためにヘキサ(メトキシメチル)メラミンなどのメチレンドナー化合物を用いる概念の説明図。 一例としての、ニューマチックタイヤのゴム系構成部分中の架橋結合された構造を形成するために、HTCリグニンのフェノール基をメチレンドナー化合物と用いる概念の説明図。 一例としての、ニューマチックタイヤサンプルのおよそ850〜1950cm−1の波数域における熱分解−フーリエ変換赤外分光(pyro−FTIR)スキャンの結果を表す図。 一例としての、ニューマチックタイヤサンプルの中赤外域における熱分解−フーリエ変換赤外分光(pyro−FTIR)スキャンの結果を表す図。 一例としての、HTCリグニンを含む熱分解サンプルのGCクロマトグラムを表し、13.5分前後の保持時間を有するスペクトルピークを表す図。 一例としての、リグニンを含む熱分解サンプルのGCクロマトグラムを表し、13.5分前後の保持時間を有する有意により小さいスペクトルピークを表す図。 一例としての、カーボンブラックを含む熱分解サンプルのGCクロマトグラムを表し、13.5分前後の保持時間を有するスペクトルピークを表さない図。 一例としての、13.5分前後の保持時間を有するスペクトルピークが2−メトキシフェノールに対応することを証明する質量分析法相関データを表す図。 一例としての、13.5分前後の保持時間を有するスペクトルピークが2−メトキシフェノールに対応することを証明する質量分析法相関データを表す図。 一例としての、時間の関数として硬化されたゴム系構成部分から測定された熱重量曲線および示差熱重量曲線を表す図。 一例としての、時間の関数として硬化されたゴム系構成部分から測定された熱重量曲線および示差熱重量曲線を表す図。 一例としての、時間の関数として硬化されたゴム系構成部分から測定された熱重量曲線および示差熱重量曲線を表す図。 一例としての、時間の関数としてHTCリグニンのサンプルから測定された熱重量曲線および示差熱重量曲線を表す図。 一例としての、硬化されたゴム系構成部分のタンジェント・デルタ値の比較を表す図。 一例としての、硬化されたゴム系構成部分のタンジェント・デルタ値の他の比較を表す図。 一例としての、硬化されたゴム系構成部分のモジュラス300%値の比較を表す図。
[ニューマチックタイヤ]
この文脈におけるニューマチックタイヤは、発動機駆動の乗物に用いられるラジアルタイヤをいう。ニューマチックタイヤの一般的な例は、乗用車、SUV、VAN、バス、および/またはトラックのタイヤである。ヘビータイヤといわれるニューマチックタイヤは、採鉱、港湾、および林業用途にもまた用いられ得る。
乗物用ニューマチックタイヤの製造方法は、一般的にはニューマチックタイヤのプリフォームを製造することを含み、これは次いで硬化される。ニューマチックタイヤのプリフォームの製造は、ゴム系構成部分を得ることと、ゴム系構成部分を成型ドラム上に配置して管状プリフォームを形成することと、を含み得る。管状プリフォームが膨張させられるときに、ニューマチックタイヤのプリフォームが得られる。一般的には、金属構成部分およびテキスタイル構成部分がタイヤのプリフォーム上に配置される。
それゆえに、ニューマチックタイヤのプリフォームは、金属構成部分、テキスタイル構成部分、およびゴム系構成部分を含み得る。一般的には、この方法は、さらにニューマチックタイヤのプリフォームを硬化することを含む。硬化は、加硫工程であり得、プリフォームは、一般的には200℃未満の温度で、例えば150から200℃の範囲で加熱される。硬化反応の間に、ゴム系構成部分中に存在する硫黄含有化合物は、架橋結合反応を受ける。形成された架橋結合された構造は、タイヤ構成部分同士を堅く一緒に結合する。硬化の継続時間は変わり得る。一般的には、乗用車タイヤは、数分から半時間まで、例えば5から30分の範囲で硬化される。ヘビータイヤは、数時間硬化され得る。
図1を参照する。図1は、中央線Ax1までのニューマチックタイヤTYR1の断面図である。中央線Ax1は、タイヤTYR1の断面幅を、等しい幅の2つの半分に分ける。方向SXおよびSZは直交方向を示している。SXは、断面幅と平行でタイヤTYR1の回転の面と垂直な方向である。SZは、中央線Ax1と平行な方向である。
一般的には、乗物用ニューマチックタイヤTYR1は、複数の構成部分1〜15から製造され、種々の材料、例えば金属、テキスタイル、およびゴム系構成部分の複数の種類を有する。一般的に、ニューマチックタイヤTYR1は、補強テキスタイルの1つ以上の層、例えばラジアルプライ8のためのポリエステルまたはナイロンと、ナイロンベルト4、5と、を有し得る。ニューマチックタイヤTYR1は、補強目的のための1つ以上の金属構成部分、例えば弾力性のスチールベルト6、7と、ビードワイヤー9と、を有し得る。
金属構成部分およびテキスタイル構成部分は、タイヤが硬化されるときに1つ以上のゴム系構成部分によって弾性的にタイヤに結合される。ニューマチックタイヤの高い複雑さ、および用いられる異なる材料によって、タイヤの種々の場所に用いられる各ゴム系構成部分の組成は、タイヤの性能に有意な効果を有し得る。タイヤに用いられる各ゴム系構成部分は、タイヤ上において特定の特性を提供するように調えられ得る。ニューマチックタイヤTYR1のゴム系構成部分は、トレッド部構成部分および非トレッド部構成部分に分けられ得る。
タイヤの外側はタイヤカーカスと呼ばれ、タイヤを取り囲む厚い形材をいう。タイヤカーカスのトレッド部構成部分は、タイヤと道路との間の接点を提供する。それゆえに、トレッド部構成部分は、道路と接触するように設計される構成部分である。道路表面と接触するように設計されるタイヤの部位は、クラウンとしてもまた示され得る。トレッド部構成部分は、耐摩耗性およびトラクションを有するように構成される。硬質のトレッド部構成部分は、タイヤのより少ない摩耗を提供し、転がり抵抗を低減し得る。軟質のトレッド部構成部分は、より良好なトラクションを提供し得る。トレッド部のゴム系構成部分は、トレッド1、トレッドベース2、アンダートレッド3、およびショルダー15などの構成部分を有し得る。トレッドパターンは、表面偏差、例えばリブ、ブロック、グルーブ、および/またはサイプを有するように構成されたトレッド表面をいい、これはタイヤTYR1のノイズ、ハンドリング、トラクション、または摩耗に効果を有し得る。トレッド1は、金属スタッドなどの追加の構造要素を含み得る。ショルダー15は、トレッド部の両側の部位をいい、これはトレッドから延びてトレッドスカートで終わる。トレッドスカートは、トレッド部とサイドウォール部との交点を定める。場合によっては、ショルダー15は、ショルダーウェッジまたはトレッドウイングといわれ得る。
非トレッド部構成部分は、タイヤTYR1のサイドウォールおよびビード部の構成部分をいう。ニューマチックタイヤTYR1のサイドウォール部構成部分は、トレッドおよびビード部の間の構成部分をいい、例えばサイドウォール12を含む。一般的には、サイドウォールは、屈曲に耐えプライ8に保護を提供するように構成される。ニューマチックタイヤTYR1のビード部構成部分は、例えばクリンチ13、エイペックス10、およびビードベース14を含み得る。クリンチ13およびエイペックス10は、サイドウォールおよびビード部両方にオーバーラップし得、それゆえに、サイドウォールおよびビード部構成部分の両方に属する。エイペックス10は、ビード部および下部サイドウォール部を満たすように構成される。エイペックス10は、剛直なビード部からより柔軟なサイドウォール部へのより滑らかな移行を提供する効果を有する。クリンチ13は、ビードと下部サイドウォールとの間の補強構成部分となるように構成される。クリンチ13は、固定構成部分として作用する。クリンチ13は、リム擦れに抵抗する効果を有する。クリンチ13は、剛直なビード部からより柔軟なサイドウォール部へのより滑らかな移行を提供する。クリンチ13は、リムフランジへのビードベース14の適切な据え付けを可能にし、それによって、リムフランジによるタイヤの密な封止を可能にする。ビードベース14は、ビードトゥからビードヒールに延び、リムフランジと接触するときに封止物として作用するように構成され、その結果、インナーライナー11とリムとの間の空間は圧縮空気によって満たされ得る。インナーライナー11は、ゴムまたはゴム系構成部分の層(単数または複数)をいう。インナーライナー11は、空気拡散に抵抗するように構成されたゴム組成物を含む。リムとニューマチックタイヤとの間の空間が高圧空気によって充気されるときに、インナーライナー構成部分は、タイヤの空気透過性を低減する。
図1を参照し上述されているように、ゴム化合物を含む各タイヤ構成部分は、異なる目的のために設計され得る。ゆえに、各構成部分は、タイヤに特定の性能特性を提供するように設計されたゴム化合物を含み得る。
タイヤ構造および材料は、ひとたび組み立てられ硬化されると、一緒になってタイヤの性能特性を定める。タイヤの異なるパーツに用いられるゴム組成は変えられ得る。軟度(consistency)もまたタイヤの種類に依存して変わり得る。サマータイヤのゴム系構成部分の軟度は、ウィンタータイヤのゴム系構成部分の軟度とは異なり得る。ゴム系構成部分の軟度は、スパイクタイヤとオールシーズンタイヤとの間で変わり得る。
[カーボンブラック]
カーボンブラックは、ニューマチックタイヤに引張強度および耐摩耗性を提供するために一般的に用いられる。カーボンブラックは、重質石油産物などの化石炭素源の不完全燃焼によって得られ得る。カーボンブラックを製造する最も一般的な方法は、炉内における酸素による化石油またはガスの燃焼であり、その結果、微視的炭素粒子が形成される。炉反応器内において、反応速度は一般的にはクエンチによってコントロールされ、これは炭素粒子中への水蒸気または水の噴霧をいう。
ニューマチックタイヤのゴム構成部分に用いられる従来のカーボンブラックは、主に元素状炭素であり、カーボンブラックの個々の粒子のサイズは、10から500ナノメートルの範囲である。炉条件および用いられる化石炭素源に依存して、カーボンブラックの個々の粒子は、類似のサイズの他のものに物理的に固着し得、それによってカーボンブラック粒子のクラスターを形成する。一般的には、カーボンブラック粒子のクラスターは、一緒に集塊化した球形粒子同士からなる。粒子は、液を吸収してゴムなどの材料を補強することができる構造である。吸液量は、一般的には吸油量といわれ、カーボンブラックのフタル酸ジブチル吸収の尺度である(mL/100g)。カーボンブラックの補強効果は、主として粒子の形態的特性を原因とし、ニューマチックタイヤのゴム系化合物の物理的相互作用を可能にする。元素状炭素に加えて、カーボンブラックは非常に小量の他の元素を含有し得る。
例えば、カーボンブラックは、ゴムグレードカーボンブラックの分類に用いられるASTM D1765−14に基づいてグレード分けされ得る。規格は、4文字命名システムを用い、第1文字は硬化速度に及ぼす影響を示し、グループ番号を示す第2文字はカーボンブラックの比表面積の情報を与える。最後の2文字は恣意的に割り当てられる。例えば、N330は、第1文字の字Nが通常の硬化速度を生ずるカーボンブラックを表し、第2文字の3が一般的には70から99m/gの範囲の比表面積を表すカーボンブラックを示す。一般的に、N100からN300グレードカーボンブラックはN500からN900グレードカーボンブラックの比表面積よりも大きい比表面積を有する。一般的には、N500からN900グレードカーボンブラックは、70m/g未満の比表面積を有する。比表面積の決定は、規格ASTM D6556−10に従ってなされ得る。一般的には、ニューマチックタイヤへの使用に好適なカーボンブラックは、150m/g以下の比表面積を有する。グループ番号は、さらに平均粒子サイズと相関する。一般的には、カーボンブラックの表面積が低いほど、コストは低く、後の、材料の補強ポテンシャルは不十分である。
例えば、沈降またはフュームドシリカが、タイヤのためのゴム組成物中の補強材料としてのカーボンブラックの代替物として用いられてきたが、このような原材料は、カーボンブラックと比較してこれまでのところ非常に高価である。
[ニューマチックタイヤのための機能的で再生可能な材料のソースとしてのリグニン]
HTCリグニンとして示される水熱炭化によって処理されたリグニンは、タイヤ性能を改善するための新たな手段を提供する。HTCリグニンは、リグニン含有材料から製造され得る。
リグニンは、維管束植物に存在する高度に重合した分枝式の混成高分子のある部類を示す。リグニンは、維管束植物の細胞壁に堅さおよび強度を与える。植物リグニンは、針葉樹材(裸子植物)リグニン、広葉樹材(被子植物)リグニン、および一年生植物(草本)リグニンを含む、3つの一般的部類に分けられ得る。一般的には、針葉樹材または広葉樹材の乾燥重量の少なくとも15wt.%がリグニンである。異なる樹木種では、木材リグニン含量は一般的には15wt.%から40wt.%の範囲で変わり得る。トウヒ材およびマツ材は、リグニンの高い含量を有する針葉樹材ソースの具体例である。木材系リグニンは、パルプ・紙産業の副産物として入手可能である。ゆえに、水熱炭化によって処理されたリグニンは、木材起源のリグニン、特に針葉樹材起源のリグニンを含み得る。HTCリグニンは、さらにバイオリファイナリーにおいて製造され得る。
自然形態のリグニンは、非常に高い分子量を有する。リグニンの分子構造は、フェニルプロパン(C)ユニットを含み、それらは一般的には炭素−炭素(C−C)および/またはエーテル(C−O−C)結合を介して互いに結合されている。それゆえに、リグニンの分子構造は、モノリグノールとして示されるリグニン前駆体ユニットを含む。互いに繋げられたときに、モノリグノール同士は、リグニンといわれるバイオポリマーを形成する。リグニン前駆体ユニットは、モノリグノールの異なる種類、例えばコニフェリルアルコール、シナピルアルコール、および/またはp−クマリルアルコールを含む。グアイアシルリグニンは、主としてコニフェリルアルコールの前駆体ユニットを含むリグニンである。シリンギルは、コニフェリルアルコールおよびシナピルアルコールの両方の前駆体ユニットを含むリグニンである。一般的には、針葉樹材リグニンは、主としてグアイアシルを含む。一般的には、広葉樹材リグニンは、グアイアシルおよびシリンギルの両方を含む。
[リグニンの水熱炭化のための方法]
上述のように、水熱炭化処理は、リグニンの高分子構造を壊すために用いられ得る。HTCリグニンとして示される水熱炭化によって処理されたリグニンは、材料の再生可能なソースを提供し、これはニューマチックタイヤのゴム化合物に用いられ得る。
リグニンの水熱炭化は、リグニン含有材料を得ることと、高められた圧力および温度において水系懸濁液中のリグニン含有材料を処理することと、を含む方法をいう。それゆえに、リグニンの水熱炭化は、リグニン含有材料が液体環境中において熱による部分的分解に付される段階を含む。リグニンの水熱炭化は、リグニン含有媒体を実質的に均一品質のリグニン誘導体に変換するように構成された熱化学的工程をいい、リグニン誘導体は官能基を含有する。この方法は、顕著な特性を有するリグニン誘導体が得られ得るように、リグニン含有材料を処理するための熱化学的変換プロセス条件を選択することを含み得る。リグニン誘導体に一般的な特性は、ニューマチックタイヤのゴム系構成部分から決定され得る。
リグニンの水熱炭化のための方法は、さらにリグニン含有材料の少なくとも部分的な精製を含む。一般的には、リグニンは、少なくとも部分的に炭化され得る。水熱炭化処理の間に、リグニンは水によって取り囲まれている。水熱炭化によるリグニンの分解の程度は、例えばプロセス温度、圧力によって、および/または水懸濁液のpHを選択することによって調節され得る。リグニンの水熱炭化のための方法は、水熱炭化の反応条件を選択することを含み得、それによって、所定の特性を有するHTCリグニンを形成する。この方法は、異なる特性を有するHTCリグニンが得られるように、周囲媒体のパラメータ、例えばpHおよび圧力、投入材料の極大温度および/または滞留時間を選択することを含み得る。
リグニンの水熱炭化は、反応器内で行われ得る。例えば、反応器は、化学反応に好適な回分反応器であり得る。単回回分プロセスなどの回分プロセスは、水熱炭化処理のプロセス条件をコントロールするための便利なやり方の例である。リグニンの水熱炭化のための方法は、反応器内の水が水熱炭化の間に液体状態に維持されるように反応器の内部圧力をコントロールすることを含み得る。水熱炭化反応の間の反応器の内部圧力は、10から40barの範囲になり得、好ましくは15bar以上となり得る。リグニンの水熱炭化のための方法は、リグニンがより小さい断片に崩壊し始めるように、リグニンを含有する水系懸濁液の温度をコントロールすることを含み得る。水熱炭化反応の温度は、150℃よりも高くなり得る。一般的には、水熱炭化反応の温度は、より少なく300℃、例えば150から250℃の範囲である。水熱炭化反応の温度は、水熱炭化反応の間の反応器容器内の水系懸濁液の温度をいう。
リグニンの水熱炭化のための方法は、リグニンを含有する水系懸濁液のpHをコントロールすることを含み得る。リグニンは、アルカリ条件において非常に可溶性である。水熱炭化処理におけるリグニンを含有する懸濁液のpHは、形成されるリグニン誘導体の粒子サイズに効果を有する。リグニンの水熱炭化のための方法は、リグニンを含有する懸濁液のpHを7よりも上のpH値に、好ましくはpH値8よりも上に調節することを含み得る。リグニンを含有する水系懸濁液のpHは、水熱炭化処理前に調節され得る。アルカリ懸濁液中において、一般的には10以上のpHでは、リグニンの重合は抑制され得る。HTCリグニンの粒子サイズは、水熱炭化処理のために選ばれるpHに依存する。リグニンの水熱炭化のための方法は、リグニンを含有する水系懸濁液の水素イオン(H)濃度を水熱炭化に先立って低減することを含み得、それによって、形成されるHTCリグニンの粒子サイズを低減する。リグニンの水熱炭化のための方法は、リグニンを含有する水系懸濁液の水素イオン(H)濃度を水熱炭化に先立って増大させることを含み得、それによって、形成されるHTCリグニンの粒子サイズを増大させる。HTCリグニンの粒子サイズは、水熱炭化処理後の平均粒子サイズをいう。HTCリグニンの平均粒子サイズは、上述のとおり、カーボンブラックの平均粒子サイズと同じ手段によって決定され得る。HTCリグニンの比表面積は、上述のとおり、規格ASTM D6556−10に従って決定され得る。
[ニューマチックタイヤに好適なHTCリグニンの特性]
HTCリグニン粒子はポリマー構造を含み、これはシリカまたはカーボンブラックよりも柔軟であるフィラー材料を提供するように調えられ得る。分子鎖中のフェノール基および芳香族アルコールは、ゴム系構成部分の構造に堅さを与えるように調えられ得る。HTCリグニン粒子のポリマー構造によって、フィラー材料とゴムとの間の距離であるリンクは延ばされ得る。それゆえに、リンカーは、他の従来のフィラー材料、例えばシリカよりも長くなる。ゆえに、HTCリグニンを含むゴム系構成部分は、積極的に、より高い引張強度、より高い引き裂き抵抗を与え、および/または摩耗抵抗を改善し得る。
一般的に、ニューマチックタイヤのゴム系構成部分に好適なHTCリグニンは、ASTM D6556−10に従って決定されたときに、150m/g未満の比表面積を有し得、比表面積は、多点窒素吸着に基づく総表面積をいう。一般的には、ニューマチックタイヤのゴム系構成部分に好適なHTCリグニンは、100m/g未満の、例えば10から100m/gの範囲の比表面積を有する。
ニューマチックタイヤのゴム系構成部分に好適なHTCリグニンは、ASTM D2414−09に従って測定されたときに130mL/100g未満の吸油量を有し得る。一般的には、ニューマチックタイヤのゴム系構成部分に好適なHTCリグニンは、120mL/100g未満の、例えば60〜100mL/100gの範囲の吸油量を有し得る。吸油量は、材料が内部吸収し得る液の量と相関し、材料の補強能力に比例する。
一般的には、HTCリグニンの基礎的な組成は、大きい量の元素状炭素を含む。HTCリグニンは、40wt.%以上の、例えば40から65wt.%の範囲の、またはさらにより大きい量の元素状炭素を含有し得る。HTCリグニンは、30wt.%未満の、一般的には15および20wt.%の範囲の酸素を含有し得る。HTCリグニンは、20wt.%未満の、一般的には3から6wt.%の範囲の窒素を含有し得る。HTCリグニンは、任意に少量の、例えば2wt.%以下のナトリウムを含有し得る。HTCリグニンは、任意に少量の、例えば3%以下の硫黄を含有し得る。炭素含量を包含するHTCリグニンの基礎的な組成は、欧州バイオ炭認証(European Biochar certificate)(4.1版、2014年3月4日)に従うバイオ炭分析のための分析方法によって決定され得る。
[HTCリグニン官能基]
HTCリグニンの化学構造は、異なる種類の官能基を含み得る。一般的には、HTCリグニンの化学構造は、ヒドロキシル、カルボキシル、メトキシ、および/またはフェノール性ヒドロキシル基などの官能基を含む。HTCリグニンに存在する官能基を検出するための方法は、HTCリグニンをフーリエ変換赤外分光(FTIR)、リンの核磁気共鳴(31P−NMR)、または異種核一量子相関(HSQC)分光などの分析方法によって分析することを含み得る。一般的には、このような分析方法は、これら方法に好適な分析装置によって製造者の説明に従って実施される。
HTCリグニンは、物理的相互作用および化学結合の両方によってゴム系構成部分を補強する能力を有する分子構造を有する。HTCリグニンの分子構造は、例えばカーボンブラックなどの従来のフィラーの構造よりも大分複雑である。HTCリグニンは、未加工のリグニンよりも少ない脂肪族ヒドロキシル基を含有する。未加工のリグニンは、自然形態のリグニンである。
リグニンの水熱炭化のための方法は、リグニンの炭素含量の濃縮を含む。それゆえに、リグニンの水熱炭化には、投入材料の炭素含量を増大させるように構成されている反応が関係する。水熱炭化によって処理されたリグニンの炭素含量の濃縮は、脱水および脱炭酸などによって起こり得、これは二酸化炭素(CO)の形成、酸素および水素の開裂をもたらす。より低い温度では脱水が優勢であり、より高い温度では脱炭酸が優勢である。それゆえに、より高い温度では、より多くの炭素が切り離される。より高い温度では、脱水および脱炭酸反応の両方がより急速に進行する。よって、リグニンの水熱炭化のための方法は、反応温度を増大させることを含み得、それによって、滞留時間を低減する。
リグニンの水熱炭化処理は、投入リグニン含有材料の表面活性官能基を少なくともある程度まで維持する効果を有する。それゆえに、HTCリグニンは、化学反応によって他の化合物と結合することができる官能基を含む。リグニンの水熱炭化は、比較的高い量の表面活性官能基を有する材料を提供する。比較的高い量の表面活性官能基によって、リグニンの水熱炭化後に、脂肪族ヒドロキシル基などの官能基の量がリグニンの水熱炭化前の官能基の量未満となり得るということが意味される。しかしながら、官能基の量は、例えばカーボンブラックよりもかなり高い。
リグニンの水熱炭化のための方法は、リグニン誘導体として示されるリグニンの分解断片を生ずることを含む。それゆえに、水熱炭化プロセスによって処理されたリグニンはリグニン誘導体を含む。リグニン誘導体の例は、2−メトキシフェノールであり、o−グアイアコールともまたいわれる。水熱炭化処理の条件および継続時間をコントロールすることによって、生ずるリグニン誘導体の特性が影響され得る。例えば、リグニン誘導体は、互いに結合するように調えられ得る。このような結合は、例えば脱離および/または縮合反応によって起こり得る。
[HTCリグニンを含むゴム化合物の化学結合]
HTCリグニン中の官能基は、化学結合を形成することができる。HTCリグニンを含むニューマチックタイヤのゴム系構成部分は、化学結合を形成し得る。HTCリグニンは、異なる種類の反応機構によってゴム化合物と反応し得る。
図2および3を参照すると、HTCリグニンORG1は、種々の異なる種類の官能基Rを含み得る。HTCリグニンORG1は、いくつもの官能基Rを含み得る。各官能基Rは独立して、例えば、
− ヒドロキシル基(−OH)、
− カルボキシル基(−COOH)、
− ベンジルヒドロキシル基(−CO)、または
− フェノール性ヒドロキシル基(−COH)、
であり得る。
官能基Rは、カップリング剤の官能基Rと反応することができる表面活性基である。カップリング剤は、HTCリグニンORG1の官能基Rとの共有結合を形成することができる第1の官能基Rと、ゴム化合物RUB1との共有結合を形成することができる第2の官能基Rと、を有する有機分子AGT1をいう。有機分子AGT1の第1の官能基Rおよび第2の官能基Rは、有機スペーサーSPC1によって離間され得る。
有機分子AGT1の第1の官能基Rは、独立して例えばある基、エポキシ基、ベータ−ケトエステル基、フェノールヒドロキシル基、またはシラノール基であり得る。有機分子AGT1の第2の官能基Rは、独立して例えばビニル基(−CH=CH)、チオール基(−SH)、または硫黄鎖(−S−(S)−S−)であり得、nは硫黄原子の数に相当する。硫黄原子の数は、一般的には20以下、例えば1と20との間である。有機スペーサーSPC1は、様々な長さの炭化水素鎖であり得る。スペーサーSPC1は、直鎖式、分岐式、または環式構造を有し得る。スペーサーSPC1は、飽和および/または不飽和結合を含有し得る。スペーサーSPC1は、窒素、酸素、または硫黄などのヘテロ原子を含有し得る。
HTCリグニンは、化学反応機構が起こることを可能にする1つ以上の明確な構造的特徴を含むように調えられ得る。このようなHTCリグニンは、ニューマチックタイヤのゴム系構成部分中における化学的相互作用に好適である。HTCリグニンは、石炭酸官能基を含むように調えられ得る。この文脈において、石炭酸はフェノールをいう。
HTCリグニンは高分子であり、これはフェノール環を含むように調えられ得、少なくともいくつかのフェノール環は、フェノール環上の自由なオルト位を含有する。フェノール環上の自由なオルト位は、芳香族求電子置換反応を可能にする。芳香族求電子置換反応の例は、ヘキサメチレンテトラミンまたはヘキサ(メトキシメチル)メラミンなどのメチレンドナーとのHTCリグニンの反応である。
フェノール環上の自由なオルト位を有する化合物の例は、2−メトキシフェノールである。ニューマチックタイヤのゴム系構成部分は、HTCリグニン、および2−メトキシフェノールを含み得る。ニューマチックタイヤのゴム系構成部分は、HTCリグニンを含み得、HTCリグニン高分子は自由なフェノール性ヒドロキシル基による芳香族反応性を有するように構成される。HTCリグニンは、2−メトキシフェノールがHTCリグニンの高分子構造に共有結合された構造を含み得る。この文脈においては、このようなHTCリグニンは、2−メトキシフェノール官能基を有するHTCリグニンといわれる。2−メトキシフェノールは、2−メトキシフェノールの自由なフェノール性ヒドロキシル基がパラ位であるように、HTCリグニンに結合され得る。加えて、ゴム系構成部分は、2−メトキシフェノールが芳香油などの別個の物質として存在するように、HTCリグニン、および2−メトキシフェノールを含有するように調えられ得る。芳香油は、一般的には揮発性であり、蒸発するときには明確な匂いを発生し得る。ゴム系構成部分中の2−メトキシフェノール官能基の存在は、共有結合された構造としてまたは揮発性物質として存在するときの両方で検出され得る。2−メトキシフェノールの存在は、例えばニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分の熱分解生成物から検出され得る。2−メトキシフェノールおよび/または2−メトキシフェノール官能基を含有するHTCリグニンは、ニューマチックタイヤのゴム系構成部分への使用に特に好適であることが認められている。
HTCリグニンは、フェノール環を有するように調えられ得、フェノール環の少なくともいくつかは、フェノキシドイオンを含有する。フェノキシドイオンは、求電子的攻撃の方に非常に反応性を有する。自由なオルト位を有するフェノール環は、ペヒマン縮合によってβ−ケトエステルと反応してクマリン型構造を形成し得る。
HTCリグニンは、ヒドロキシル基を有するように調えられ得る。1つ以上のヒドロキシル基を有するHTCリグニンは、異なる化学反応機構によって反応するように調えられ得る。HTCリグニンは、ヒドロキシル基を有し得、それらは脂肪族性、フェノール性、または両方の組み合わせである。脂肪族ヒドロキシル基は、第一級および/または第二級ヒドロキシル基であり得る。ヒドロキシル基を含むHTCリグニンは、異なる種類の化学反応に関与するように調えられ得る。HTCリグニンのヒドロキシル基は、トシルによって活性化される反応、エポキシドによる開環反応、カルボン酸および無水物によるエステル化、またはシランによるシリル化反応に関与し得る。例えば、HTCリグニンのヒドロキシル基は、求核置換によってアルキルトシラートを含有するカップリング剤と反応し得、S2機構といわれる。あるいは、HTCリグニンのヒドロキシル基は、エポキシド環を含有するカップリング剤と反応し得、それによって、エポキシド環が開環することを引き起こし、共有結合がHTCリグニンとカップリング剤との間に形成されることを可能にする。HTCリグニンは、エステルを含有するカップリング剤と反応し得、エステルのカルボニル炭素は、付加反応によって求核剤として作用するアルコキシドイオンまたはフェノール性ヒドロキシル基によって攻撃され得、次にまた別のアルコキシドイオンまたはアルコールの脱離をし、それによって、HTCリグニンとカップリング剤との間に共有結合を形成する。HTCリグニンは、ベータ−ケトエステルを含有するカップリング剤と反応し得、その結果、エステル化反応が起こり、次に閉環およびラクトン形成をし、それによって、HTCリグニンとカップリング剤との間に共有結合を形成する。上の各例において、カップリング剤は、第1の官能基に加えて、HTCリグニンおよびゴムがカップリング剤によって一緒に架橋結合され得るようにゴム化合物との共有結合を形成することができる第2の官能基を含み得る。カップリング剤は、HTCリグニンおよびゴム化合物をカップリングするための手段として用いられ得、それによって、ゴム系構成部分の粘弾性特性を改変する。
図4を参照すると、HTCリグニンORG1は、求核置換反応によってカップリング剤と反応し得る。求核置換の例は、ビス−[3−(トリエトキシシリル)−プロピル]−テトラスルフィドとHTCリグニンORG1との間の反応である。以下では、TESTPといわれるビス−[3−(トリエトキシシリル)−プロピル]−テトラスルフィドは、シラン系カップリング剤の例である。TESPTのシラノール基、すなわちトリエトキシシリル基は、ヒドロキシル基を含有するHTCリグニンと反応することができる。HTCリグニンの構造は、カルボキシル基および/またはフェニル基を含有し得、これら両方はヒドロキシル基を含有する。カルボキシル基およびフェニル基の両方は、独立してカップリング剤のシラノール基との反応に好適である。TESPTのシラノール基は、合成または天然ゴム、かかるスチレン−ブタジエンゴムとさらに反応し得る。カップリング剤として作用するときに、TESPTは、HTCリグニンとの第1の化学結合およびゴムとの第2の化学結合を形成し得、それによって、HTCリグニンおよびゴムがカップリング剤によって一緒に架橋結合された構造をゴム系構成部分中に形成する。ゆえに、TESPTは、ゴム系構成部分中のHTCリグニンとゴムとの間の接点カップリング層として作用し得る。
HTCリグニンは、メチレンドナー化合物と一緒にニューマチックタイヤのゴム系構成部分に用いられて、高いモジュラス、剛性、および補強を有する構成部分を提供し得る。一般的には、メチレンドナー化合物は加熱に付されたときにホルムアルデヒドを発生することができる。従来、高いモジュラス、剛性、および補強を有するゴム系構成部分は、メチレンドナー化合物およびフェノール性樹脂を混合することによって得られてきた。フェノール性樹脂は、加硫プロセスの間にメチレンドナー化合物と反応し、それによって、硬化されたゴム系構成部分に網状補強構造を作り出す。同時に、硬化されたゴム系構成部分の脆性および硬さは非常に増大し、弾性は非常に減少する。高い剛性のための代替として、ゴム系構成部分は、多量の補強フィラー、および硫黄または硫黄ドナーなどの硬化薬品を含み得る。しかしながら、補強効果は、メチレンドナー化合物とフェノール性樹脂によるほど高くはない。HTCリグニンは、メチレンドナー化合物と相互作用し得、それによって、ニューマチックタイヤのゴム系構成部分を補強する能力を有する架橋結合されたポリマー構造を提供する。組み合わせは、網状構造を形成することができる補強剤として作用する。ゴム系構成部分が、ゴム系構成部分の10重量%未満の量の、例えばゴム系構成部分の総重量の0.5から9.5wt.%の範囲の、好ましくは2から9wt.%の範囲のHTCリグニンを含むときには、HTCリグニンを含むゴム系構成部分はメチレンドナー化合物とあわせて特に好適である。HTCリグニンおよびメチレンドナー化合物を含むゴム系構成部分は、好ましくは非トレッド部構成部分、例えばニューマチックタイヤのサイドウォール部構成部分またはビード部構成部分である。特にサイドウォールは、屈曲に耐えることを必要とする。
HTCリグニンとあわせての使用に好適なメチレンドナー化合物は、水熱炭化によって処理されたリグニンとの網状構造を形成することができる化合物である。メチレンドナー化合物の例は、ポリアミン系硬化性樹脂である。ポリアミン系硬化性樹脂は、HTCリグニンとの自己縮合反応を受け得る化合物をいう。このような化合物は、水熱炭化によって処理されたリグニンとの網状構造を酸性条件下において形成することができる。「酸性条件下において」によって、HTCリグニンとあわせての使用に好適なメチレンドナー化合物が、HTCリグニンとの網状構造を形成するための親和力を有するということが意味され、これはコントロールされた条件下において例えば研究室内実験によって実証され得る。HTCリグニンは、化学結合を形成することができる1つ以上の官能基を有し、これはかかるメチレンドナー化合物との網状構造を形成するように調えられ得る。ポリアミン系硬化性樹脂の例は、一般的にはそれぞれHMTおよびHMMMと略されるヘキサメチレンテトラミン、およびヘキサ(メトキシメチル)メラミンなどの化合物である。HTCリグニンおよびポリアミン系硬化性樹脂の組み合わせは、ニューマチックタイヤのゴム系構成部分の摩耗抵抗および初期引裂強度を改善するために用いられ得る。
HTCリグニンと一緒に用いられるべきメチレンドナー化合物の量は、メチレンドナー化合物の化学的組成に依存して選択され得る。一般的には、反応におけるHTCリグニンのフェノール基(自由なオルト位を有する)およびメチレンドナーのアミノ基の濃度比は、化学量論的であり得る。しかしながら、望まれる場合には、メチレンドナーの量は、HTCリグニンのフェノール基の量よりも少なくまたは多くなり得る。特に、メチレンドナー量がより少ないときには、形成される架橋結合された補強ポリマー構造の脆性は、高すぎない。メチレンドナー化合物とHTCリグニンの比は、重量比として特定されると、範囲1:20から10:1、好ましくは1:10から3:1の範囲となり得る。HTCリグニンおよびメチレンドナーによる反応は、フェノール樹脂系網状構造を有するゴム系構成部分と比較したときに、ゴム系構成部分の破壊ひずみおよび弾性に有意に影響することなしに、ゴム系構成部分の剛性および強度を増大し、ならびに発熱を減少させる。
図5を参照すると、有機分子は、ヘキサ(メトキシメチル)メラミンなどのメチレンドナー化合物MET1であり得、複数の別個のHTCリグニン分子、例えば第1のHTCリグニン分子ORG1および第2のHTCリグニン分子ORG11を一緒に結合し、それによって、架橋結合構造がゴム系構成部分中に形成されることを可能にする。
図6を参照すると、HTCリグニンのフェノール基は、メチレンドナー化合物、この場合においては、ヘキサメチレンテトラミンと反応し得る。反応は、酸触媒反応によって起こり得る。酸性条件下における平衡反応によって形成されるメチン基が、HTCリグニンのフェノール環のオルト位に反応する。その後の反応によって、イミニウムイオンを持つヘテロ環式の環構造が形成される。形成されたイミニウムイオンは、さらに芳香族求電子置換によって別のHTCリグニン分子のフェノール環と反応する。それゆえに、ヘキサメチレンテトラミンは、別個のHTCリグニン分子同士を一緒に結合し、それによって、架橋結合構造がゴム系構成部分中に形成されることを可能にする。HTCリグニンは、一般的にフェノール樹脂またはノボラックといわれるフェノール−ホルムアルデヒド樹脂と類似の様式で、ヘキサメチレンテトラミンなどのメチレンドナー化合物と反応するように構成され得る。それゆえに、HTCリグニンは、ニューマチックタイヤのゴム系構成部分中のフェノール樹脂を代替するために用いられ得る。
[ニューマチックタイヤのゴム系構成部分中のHTCリグニン量]
例えば、タイヤのゴム系構成部分の特性は、前記ゴム系構成部分に用いられるHTCリグニン含量、粒子形態、粒子サイズ、および/または平均粒子サイズ分布を選択することによって選ばれ得る。カーボンブラックを代替する目的のためには、一般的には、ニューマチックタイヤのゴム系構成部分は、ゴム系構成部分の総重量の75wt.%以下の量の、例えば1から70wt.%の範囲のHTCリグニンを含み得る。
所定の補強効果を有するカーボンブラックの所定のグレードを代替するためには、ゴム組成物中に追加されるべきHTCリグニンは、HTCリグニンの比表面積が、代替されようとするカーボンブラックグレードの補強効果に対応する補強効果を生ずるように選択され得る。乗物用ニューマチックタイヤの製造方法は、HTCリグニンを含むゴム系構成部分を得ることを含み得る。この方法は、ポリマー追加後にHTCリグニンがゴムと混合されたゴム系構成部分を得ることを含み得る。ゴム系構成部分の他の原材料は、好ましくは、HTCリグニンがゴムと混合された後に、遅れて追加されている。好ましくは、HTCリグニンは、130℃から170℃の範囲の温度においてゴムと混合されている。130℃よりも低い温度は、HTCリグニンのカップリング剤との化学結合を達成するために高さが十分ではない。170℃よりも高い温度では、ニューマチックタイヤのゴム組成物中に一般的に追加されるポリマー化合物は崩壊し得、これはHTCリグニンを含むゴム系構成部分の特性の低減に至り得る。
タイヤ構成部分中のゴム組成物の特性は、さらにHTCリグニンおよびカップリング剤の組み合わせによって影響され得る。ゴム系構成部分がさらにシラン系カップリング剤を含むとき、HTCリグニンは、好ましくは130℃から160℃の範囲の温度においてゴムと混合されている。カップリング剤がビス−[3−(トリエトキシシリル)−プロピル]−テトラスルフィド(TESPT)であるとき、HTCリグニンは、好ましくは130℃から160℃の範囲の温度においてゴムと混合されている。160℃よりも高い温度はTESPTのポリスルフィド鎖の崩壊を引き起こし得、それによって早期加硫を引き起こす。
ニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分は、75wt.%以下の量の、好ましくは1から70wt.%の範囲のHTCリグニンを含み得る。10wt.%以上の量のHTCリグニンを含む硬化されたゴム系構成部分は、特にゴム系構成部分がタイヤの非トレッド部、例えばサイドウォールまたはビード部構成部分に位置するときに、ニューマチックタイヤの転がり抵抗を低減するために特に有益であると考えられる。ニューマチックタイヤの転がり抵抗を低減するために用いられるときに、好ましくは、硬化されたゴム系構成部分は、硬化されたゴム系構成部分の総重量の10wt.%以上の、例えば20から60wt.%の範囲のHTCリグニンを含み得る。
ゴム系構成部分がカップリング剤との組み合わせでタイヤのトレッドまたは非トレッド部に位置するとき、ゴム系構成部分は上述されている同じ量のHTCリグニンを含み得る。ゴム系構成部分中のHTCリグニンは、シリカの量を低減するために用いられ得る。ゴム系構成部分中のHTCリグニンは、シリカ全体を代替し得る。ゴム化合物とのフィラーの物理的および化学的相互作用の量が調節され得るので、HTCリグニンは、従来のカーボンブラックまたはシリカと比較して新規の特性を有する。ゴム化合物とのフィラーの物理的および化学的相互作用の量は、例えばカップリング剤およびカップリング剤の量を選択することによって調節され得る。
[ニューマチックタイヤのゴム系構成部分からHTCリグニンの官能基を検出するための方法]
図7を参照する。リグニンおよびリグニン誘導体の官能基は、各種分析方法によって硬化されたゴム系構成部分から検出され得る。図7は、規格ASTM D3677−10に従って3つのタイヤサンプルCMP1、CMP2、およびCMP3に実施した熱分解−フーリエ変換赤外分光(pyro−FTIR)分析の結果を表すダイアグラムである。FTIR装置はダイヤモンドATRユニット付きのNicolet−iS10(サーモフィッシャーサイエンティフィック)であり、製造者の説明に従って用いた。
硬化されたゴム系構成部分の各サンプルCMP1、CMP2、CMP3を、600℃において熱分解した。この温度において、各サンプルは、熱分解生成物に変換された。サンプルCMP1は、水熱炭化によって処理されていないリグニンの46phrを含む硬化されたゴム系構成部分であった。サンプルCMP2は、水熱炭化によって処理されたリグニンであるHTCリグニンの46phrを含む硬化されたゴム系構成部分であった。サンプルCMP3は、N660グレードカーボンブラックの46phrを含む硬化されたゴム系構成部分であった。サンプルCMP3は参照サンプルであり、これはいずれかの形態のリグニンを含有しなかった。
FTIR分析は、サンプルが各波長において赤外放射をどれほど良く吸収するかの尺度である。FTIRダイアグラムは、選択された波長域における吸光度シグナルのスペクトルに相当する。中赤外域は、およそ4000から400cm−1の範囲内の波数に対応し、基本振動と付随する回転−振動構造とを研究するために用いられ得る。図8では、縦軸は、反射率Rの対数のユニット(log[1/R])で測定された吸光度シグナルを表す。横軸は、波数(cm−1)を表す。異なる化学結合は、所定の波数における特定の振動特性を有し、それらは検出され得るので、FTIRは硬化されたゴム構成部分の定性的分析を可能にする。
FTIR分析の結果は、サンプルCMP1が1259から1269cm−1の範囲の赤外分光測色法吸収バンドを含むことを示している。バンドは2つのピークを含み、ピーク最大として示されるより高い吸光度を有するピークは、1269cm−1前後に位置する。1269cm−1前後に位置するピーク最大における吸光度強度レベルは、およそ0.09であった。この強度レベルは、隣接範囲のベースライン強度レベルとは明らかに異なる。FTIR分析の結果は、サンプルCMP2もまた1259から1269cm−1の波数域の赤外分光測色法吸収バンドを含むということをさらに示している。バンドは、2つのピークをもまた含み、ピーク最大として示されるより高い吸光度を有するピークは1259cm−1前後に位置する。1259cm−1前後に位置するピーク最大における吸光度強度レベルは、およそ0.07であった。この強度レベルは、隣接範囲のベースライン強度レベルとは明らかに異なる。1259から1269cm−1の範囲の前記波数バンドは、フェノール基ならびに/またはヒドロキシル、カルボキシル、および/もしくはメトキシ基を含む芳香族構造のC−O結合に特徴的である。このような基は、水熱炭化によって処理されたリグニンにおいて一般的である。サンプルCMP3は、1259から1269cm−1の範囲の赤外分光測色法吸収バンドを含まない。1259から1269cm−1の範囲における吸光度強度レベルは、およそ0.04であった。この強度レベルは、隣接範囲のベースライン強度レベルと有意には異ならない。それゆえに、HTCリグニンは、規格ASTM D3677−10に従って600℃で熱分解されたときには、1259cm−1前後の赤外分光測色法吸収ピーク最大を有する。したがって、この範囲のFTIR吸収は、タイヤの硬化されたゴム系構成部分中のリグニンまたはリグニン誘導体の存在を検出するための特異的な指標手段として用いられ得る。
FTIR分析の結果は、リグニンまたはHTCリグニンを含むサンプルCMP1、CMP2と、いずれかのリグニン誘導体を含まないサンプルCMP3との間における吸光度強度レベルの違いをさらに示している。1200から1250cm−1の第1の波数域RNG1において、サンプルCMP1は、対数の吸光度ユニット(log[1/R])では0.08に近い吸光度強度レベルAB1を有し、サンプルCMP2は、対数の吸光度ユニット(log[1/R])では0.06に近い吸光度強度レベルAB2を有し、サンプルCMP3は、対数の吸光度ユニット(log[1/R])では0.04に近い吸光度強度レベルAB2を有する。この吸光度強度レベルの違いは、おそらく、リグニン誘導体のエーテルおよびエステル中のC−O−C結合の非対称的な伸縮振動に関係し、これらはサンプルCMP1およびCMP2に存在し得る。リグニンまたはHTCリグニンを含むサンプルCMP1、CMP2といずれかのリグニン誘導体を含有しないサンプルCMP3との間における類似の吸光度強度レベルの違いが、1515cm−1前後の第2の波数域RNG2において示されている。したがって、第1および第2域RNG1、RNG2の第1のものまたは両方どちらかにおけるFTIR吸収強度レベルは、タイヤの硬化されたゴム系構成部分からリグニンまたはリグニン誘導体の存在を決定するための特異的な指標手段として用いられ得る。
図8は、上述のように、規格ASTM D3677−10に従ったサンプルCMP1、CMP2、およびCMP3の中赤外域の熱分解−フーリエ変換赤外分光(pyro−FTIR)分析を表すダイアグラムである。FTIR分析の結果は、リグニンまたはHTCリグニンを有するサンプルCMP1、CMP2といずれかのリグニン誘導体を含有しないサンプルCMP3との間におけるさらなる吸光度強度レベルの違いを示している。3600から3100cm−1の第3の波数域RNG3において、サンプルCMP3は、リグニンを含むサンプルCMP1またはHTCリグニンを含むサンプルCMP2どちらかの吸光度強度レベルよりも低い吸光度強度レベルを有する。この吸光度強度レベルの違いは、おそらく、サンプルCMP1およびCMP2に存在し得るリグニン誘導体のヒドロキシル基の振動に関係する。
[pyro−GC−MS分析によってニューマチックタイヤのゴム系構成部分からHTCリグニンを検出するための方法]
図9、10、および11を参照する。水熱炭化処理は、ニューマチックタイヤの硬化されたゴム構成部分から検出され得る顕著な特性を有するリグニン誘導体を生ずる。それゆえに、HTCリグニンの存在は、pyro−GC−MSと略される熱分解−ガスクロマトグラフィー−質量分析法として公知の分析方法によって、ニューマチックタイヤのゴム系構成部分から検出され得る。pyro−GC−MSは、サンプルが熱分解される化学的分析方法であり、それによって、ニューマチックタイヤの硬化されたゴム構成部分の熱分解生成物を生ずる。加硫ゴム製品などの硬化されたゴム系構成部分に対して熱分解−ガスクロマトグラフィー−質量分析法分析を実施するとき、硬化されたゴム系構成部分は、第1にアセトンによって処理される。アセトン処理は、一般的にはアセトン抽出といわれ、ゴム樹脂、遊離の硫黄、アセトン可溶性可塑剤、加工助剤、ミネラルオイルまたはワックス、アセトン可溶性酸化防止剤および有機促進剤またはそれらの分解生成物、ならびに脂肪酸を除去する。これは、瀝青系物質、加硫油、高分子質量炭化水素、および石鹸の一部をもまた除去する。硬化されたゴム系構成部分から抽出された部分は、一般的にアセトン抽出物と呼ばれる。硬化されたゴム系構成部分に好適なアセトン抽出物処理は、規格D297−93(2006年再承認)の18および19項に記載されている。アセトン抽出処理後に、熱分解−ガスクロマトグラフィー−質量分析法分析が、硬化されたゴム系構成部分の残りの一部に対して実施され得る。熱分解は、不活性雰囲気または真空中における材料の熱分解をいう。熱分解生成物は、より小さい分子を含み、それらはガスクロマトグラフィーによってさらに分離される。一般的に、熱分解生成物の各分離されたより小さい分子は、ガスクロマトグラフィーカラムのサンプル注入からサンプル溶出までの時間をいう特定の保持時間を有する。特定の保持時間を有する各分離されたより小さい分子は、ガスクロマトグラフィーカラムの下流において、質量分析法を用いてさらに同定され得る。図9、10、および11では、縦軸は、パーセンテージ単位(%)による各ピークに対するGC検出器ユニットのレスポンスを表す。横軸は、分によるサンプル注入からの保持時間を表す。分は、百分の一までの離散的な分として表示している。
図9は、上述のように、アセトン抽出処理後のHTCリグニンを含むニューマチックタイヤの、硬化されたゴム系構成部分からの第1のサンプルの熱分解GCクロマトグラムを表す。サンプルは、水熱炭化によって処理されたリグニンであるHTCリグニンの46phrを含む硬化されたゴム系構成部分であり、FTIR分析のサンプルCMP2に対応した。サンプルを規格ASTM D3452−06に従って550℃で熱分解し、それによって、熱分解生成物といわれる材料を生じた。熱分解生成物をクロマトグラフィーカラムに注入し、溶出した。熱分解生成物は、13.5分前後の保持時間を有するガスクロマトグラフィースペクトルピークを生じた。GC検出器ユニットのレスポンスは、60%前後であった。これは、図9の時間軸の中ほどのより高いピークとして示されており、13分半前後の時点にピーク最大を有する保持時間に対応する。
図10は、上述のように、アセトン抽出処理後のリグニンを含むニューマチックタイヤの、硬化されたゴム系構成部分からの第2のサンプルの熱分解GCクロマトグラムを表す。サンプルは、水熱炭化によって処理されていないリグニンであるリグニンの46phrを含む硬化されたゴム系構成部分であり、FTIR分析のサンプルCMP1に対応した。サンプルは上述のように調製し、熱分解生成物をクロマトグラフィーカラムに注入し、溶出した。熱分解生成物は13.5分前後の保持時間を有するガスクロマトグラフィースペクトルピークを生じた。これは、図10の時間軸の中ほどのより高いピークとして示されており、13分半前後の時点にピーク最大を有する保持時間に対応する。GC検出器ユニットのレスポンスは、20%前後であった。HTCリグニンを含有する第1のサンプルのスペクトルピーク高さと、水熱炭化によって処理されていないリグニンを含有する第2のサンプルのスペクトルピーク高さとの比は、3:1の範囲であった。それゆえに、リグニンを含む硬化されたゴム系構成部分はGC検出器ユニットの有意により低いレスポンスを生じた。違いは、図9および10のスペクトルピーク高さを比較するときに視覚的に検出可能である。
図11は、上述のように、アセトン抽出処理後のニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分からの第3のサンプルの熱分解GCクロマトグラムを表し、このサンプルはリグニンを含まなかった。サンプルは、N660グレードカーボンブラックの46phrを含む硬化されたゴム系構成部分であり、FTIR分析の参照サンプルCMP3に対応した。サンプルは上述のように調製し、熱分解生成物をクロマトグラフィーカラムに注入し、溶出した。熱分解生成物は、13.5分前後の保持時間を有するガスクロマトグラフィースペクトルピークを生じなかった。GC検出器ユニットは、10%よりも低い実質的に平らなベースラインレベルを有した。
結果は、ガスクロマトグラフィーが、ニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分の熱分解生成物からHTCリグニンの存在を検出するために用いられ得るということを実証している。HTCリグニンは、13.5分前後の保持時間を有する溶出断片を生ずる。溶出断片は、カーボンブラックのみを含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分中には存在しない。
図12および13を参照する。HTCリグニンを含有するサンプルからの13.5分前後の保持時間を有する溶出断片を、ガスクロマトグラフィーの下流の質量分析計によって分析した。縦軸は、強度(%)を表す。横軸は、質量対電荷(m/z)を表す。図12は、HTCリグニンを含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分の熱分解生成物からの、13.5分前後の保持時間を有する溶出断片の質量スペクトルを表す。図13は、2−メトキシフェノールの質量スペクトルを表す。HTCリグニンを含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分の熱分解生成物からの13.5分前後の保持時間を有する溶出断片の質量スペクトルは、2−メトキシフェノールの質量スペクトルに一致する。
上記で実証されているように、2−メトキシフェノールを含有するHTCリグニンの存在は、pyro−GC−MS分析によってニューマチックタイヤのゴム系構成部分から決定され得る。
[熱重量分析によるニューマチックタイヤのゴム系構成部分からのHTCリグニンの検出]
ニューマチックタイヤのゴム系構成部分中のHTCリグニンの存在は、TGAと略される熱重量分析によって決定され得る。HTCリグニンは、ニューマチックタイヤのゴム系化合物に従来用いられるカーボンブラックよりも低い温度において燃焼し始める。硬化されたゴム系構成部分、例えば加硫ゴム製品に対して熱重量分析を実施するときには、構成部分は上述のように、第1にアセトンによって処理される。
HTCリグニンを含む硬化されたゴム系構成部分は、燃焼性の条件下において、550℃以下の温度における第2の質量変化の一次微分曲線ピークを生じ得る。硬化されたゴム系構成部分が規格ASTM D6370−09に従って10℃/分の加熱速度で20℃および800℃の間の温度範囲の熱重量分析に付されたときに、硬化されたゴム系構成部分の熱重量分析は、規格D297−93(2006)に従うアセトン抽出処理後に、550℃以下の温度における第2の質量変化の一次微分曲線ピークを生ずる。第1の質量変化の一次微分TGA曲線ピークは、例えば440から550℃の範囲の温度となり得る。比較として、カーボンブラックのみを含む硬化されたゴム系構成部分は、一般的には、HTCリグニンを含む硬化されたゴム系構成部分よりも高い温度における第1の質量変化の一次微分TGA曲線ピークを有する。
HTCリグニンを含むゴム系化合物中の有機物含量の量は、カーボンブラックおよび/またはシリカなどの従来のフィラーのみを含むゴム系化合物中の有機物含量の量よりも多くなり得る。熱重量分析後に残る残留質量の量、主として灰分は、カーボンブラックのみを含む従来の構成部分よりも、HTCリグニンを含む硬化されたゴム系構成部分ではより高くなり得る。例えば、HTCリグニンを含む硬化されたゴム系構成部分の残留物は、硬化されたゴム系構成部分の2.5重量%から10重量%の範囲となり得る。
図14、15、16、および17を参照する。TGAは、コントロールされた雰囲気において温度または時間の関数としてサンプルの質量の変化量および速度を測定するために用いられ得る。図14、15、および16は、ゴム系構成部分を規格ASTM D6370−09に従って20℃から800℃の温度範囲に渡って分あたり10℃の一定速度で加熱したときに、上述のようにアセトン抽出処理後のゴム系構成部分の質量変化を示すTGA結果である。用いた装置は、Proteusソフトウェア付きのネッチTG209F1−Libraであった。図17は、同じ様式で分析されたときのHTCリグニンの質量変化を示すTGA結果である。各分析における雰囲気プロファイルは、N/O/N/Nであった。各分析のルツボは、酸化アルミニウム(Al)であった。各ダイアグラムの左側の縦軸は、パーセンテージによる質量変化(TG/%)を表す。各ダイアグラムの右側の縦軸は、示差質量変化(DTG/(%/min))を表す。各ダイアグラムの横軸は、分による時間を表す。各ダイアグラムの連続的な線は、時間に対してサンプル質量を示す熱重量曲線である。各ダイアグラムの点線は、一次微分TGA曲線ともいわれる示差熱重量曲線であり、時間に対してサンプル質量損失の速度を示している。0から85分の範囲の時間帯の間における各ダイアグラムの第1の質量変化は、アセトン抽出処理後に残るサンプルの有機物含量を表す。85から138分の範囲の時間帯の間における各ダイアグラムの第2の質量変化は、酸素によるカーボンブラックの燃焼を表す。各ダイアグラムの残留質量はサンプルの灰分含量を表し、灰分含量は、例えば酸化亜鉛および/またはシリカを含み得る。90分前後の時点で、TGAの雰囲気が酸素を含有するときに、サンプルの酸化反応を原因とするサンプル質量の少しの増大が検出され得る。一般的には、サンプル質量のこのような増大は、酸化され得る金属の存在を示している。
図14は、水熱炭化によって処理されていないリグニンの46phrを含む硬化されたゴム系構成部分のサンプルのTGA結果を開示しており、FTIR分析の参照サンプルCMP1に対応した。TGA分析の始まりにおける質量である初期サンプル質量は、およそ14.5ミリグラムであった。TGA結果は、リグニンを含有するサンプルが、第1の質量変化を受けるということを示しており、サンプル質量の89.96%が失われる。リグニンを含有するサンプルは、446.5℃の温度、44.2分の時点において、第1の質量変化の一次微分TGA曲線ピークを有する。TGA結果は、リグニンを含有するサンプルが、その後、酸素を含有する雰囲気下において第2の質量変化を受けるということをさらに示しており、サンプル質量の7.44%が失われる。リグニンを含有するサンプルは、472.0℃の温度、104.7分の時点において、第2の質量変化の一次微分TGA曲線ピークを有する。リグニンを含有するサンプルは、2.31%の残留質量を有する。
図15は、N660グレードカーボンブラックの46phrを含む硬化されたゴム系構成部分のサンプルのTGA結果を示しており、FTIR分析の参照サンプルCMP3に対応した。TGA分析の始まりにおける質量である初期サンプル質量は、およそ14.4ミリグラムであった。TGA結果は、カーボンブラックを含有するサンプルが、第1の質量変化を受けるということを示しており、サンプル質量の69.96%が失われる。カーボンブラックを含有するサンプルは、458.6℃の温度、45.4分の時点において、第1の質量変化の一次微分TGA曲線ピークを有する。TGA結果は、カーボンブラックを含有するサンプルが、その後、酸素を含有する雰囲気下において第2の質量変化を受けるということをさらに示しており、サンプル質量の27.62%が失われる。カーボンブラックを含有するサンプルは、635.5℃の温度、121.1分の時点において、第2の質量変化の一次微分TGA曲線ピークを有する。カーボンブラックを含有するサンプルは、2.19%の残留質量を有する。
図16は、水熱炭化によって処理されたリグニンであるHTCリグニンの46phrを含む、硬化されたゴム系構成部分のサンプルのTGA結果を開示しており、FTIR分析のサンプルCMP2に対応した。TGA分析の始まりにおける質量である初期サンプル質量は、およそ14.5ミリグラムであった。TGA結果は、HTCリグニンを含有するサンプルが、第1の質量変化を受けるということを示しており、サンプル質量の81.29%が失われる。HTCリグニンを含有するサンプルは、450.5℃の温度、44.6分の時点において、第1の質量変化の一次微分TGA曲線ピークを有する。TGA結果は、HTCリグニンを含有するサンプルが、その後、酸素を含有する雰囲気下において第2の質量変化を受けるということをさらに示しており、サンプル質量の14.77%が失われる。HTCリグニンを含有するサンプルは、420.3℃の温度、99.5分の時点において、第2の質量変化の一次微分TGA曲線ピークを有する。HTCリグニンを含有するサンプルは、3.64%の残留質量を有する。
図17は、水熱炭化によって処理されたリグニンであるHTCリグニンのサンプルのTGA結果を開示しており、これはニューマチックタイヤのためのゴム系構成部分を製造するためにゴムと混合され得る。分析の始まりにおける質量である初期サンプル質量は、およそ11.7ミリグラムであった。TGA結果は、HTCリグニンを含有するサンプルが第1の質量変化を受けるということを示しており、サンプル質量の40.03%が失われる。HTCリグニンを含有するサンプルは、370.1℃の温度、38.0分の時点において、第1の質量変化の一次微分TGA曲線ピークを有する。TGA結果は、HTCリグニンを含有するサンプルが、その後、酸素を含有する雰囲気下において第2の質量変化を受けるということをさらに示しており、サンプル質量の58.61%が失われる。HTCリグニンを含有するサンプルは、403.7℃の温度、96.4分の時点において、第2の質量変化の一次微分TGA曲線ピークを有する。HTCリグニンを含有するサンプルは1.23%の残留質量を有する。
[ニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分からのHTCリグニンの比表面積を決定するための方法]
比表面積は、ASTM D6556−10に従って決定され得、比表面積は、多点窒素吸着に基づく総表面積をいい、NSAとして示される。NSAは、B.E.T理論に基づき、これは、2nm(20Å)未満の細孔直径を有するマイクロ細孔込みの総表面積を包含する。多点窒素吸着に基づく比表面積は、カーボンブラックおよびカーボンブラック型材料の総および外表面積を決定するために広く用いられる。この文脈におけるHTCリグニンは、カーボンブラック型材料をいう。
一般的に、ニューマチックタイヤのゴム系構成部分に好適なHTCリグニンは、バージン材料といわれるゴムと混合されていない材料からASTM D−6556−10に従って測定されたときに、150m/g未満の比表面積を有し得る。
ニューマチックタイヤのゴム系構成部分に好適なHTCリグニンの比表面積は、ニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分から測定されたときには、異なる。HTCリグニンの比表面積は、同じ規格(ASTM D6556−10)に従って硬化されたゴム系構成部分のサンプルから測定され得る。HTCリグニンの比表面積を決定するための方法は、カーボンブラックおよび/またはHTCリグニンを含むフィラー材料を、硬化されたゴム系構成部分から分離することを含む。Rapra Review Reports (Rubber Analysis: Polymers, Compounds and Products, Volume 12, Number 7, 2001 p. 22)は、硬化されたゴム系構成部分からのカーボンブラック型材料の分離に好適な方法を開示している。この文脈における熱分解されたHTCリグニンは、カーボンブラック型材料をいう。文献に開示されている方法は、サンプルの熱分解が600℃において実施され、それによってサンプルを熱分解生成物に変換するという点で改変される。比表面積は、同じ規格(ASTM D6556−10)に従って熱分解生成物の分離されたカーボンブラック型材料から測定される。600℃における熱分解の間に、HTCリグニンを含むサンプルは、HTCリグニンのさらなる分解を受け得、それによって、サンプルは比表面積が増大する。かかる熱分解生成物の比表面積は、ゴムと混合されていないバージンHTCリグニン材料の比表面積よりもかなり高い。
HTCリグニンを含む硬化されたゴム系構成部分は、600℃で熱分解されたときには、200m/g以上の比表面積を有する熱分解生成物に変換され得る。熱分解生成物の比表面積は300m/g以上であり、さらに400m/g以上となり得る。熱分解生成物の比表面積は、例えば200から400m/gの範囲、または300から400m/gの範囲となり得る。このような高い比表面積は、水熱炭化によって処理されたリグニンを含む硬化されたゴム系構成部分に特徴的である。カーボンブラックのみを含有するサンプルを熱分解するときに、表面積の増大は観察されなかった。これは、それをHTCリグニンを含む硬化されたゴム系構成部分の顕著な特徴にしている。
それゆえに、HTCリグニンを含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分は、600℃で熱分解されるときに熱分解生成物に変換され得、カーボンブラック型フィラー材料は、ひとたび熱分解生成物から分離されると、ASTM D6556−10に従って決定されたときに200m/g以上の比表面積を有し得る。比表面積は、多点窒素吸着に基づく総表面積であり、カーボンブラック型フィラー材料は、カーボンブラックおよび/またはHTCリグニンである。
[HTCリグニンを含むニューマチックタイヤの転がり抵抗]
ゴム系構成部分は、弾性的および粘性的な品質の両方を有する。一般的には、タイヤの転がり抵抗は、tanδと略されるタンジェント・デルタによって特徴付けされ得る。タンジェント・デルタは、損失弾性率対貯蔵弾性率の比である。貯蔵弾性率は、貯蔵エネルギーを測定し、弾性部分に相当する。損失弾性率は、熱として放散されるエネルギーを測定し、粘性部分に相当する。タンジェント・デルタは、未硬化状態のゴム系構成部分の加工性と関連する。タンジェント・デルタは、ニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分のヒステリシスによる公知の発熱と関連する。より低いタンジェント・デルタ値は、低減された材料の発熱特性を反映している。
タンジェント・デルタは、ニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分の弾力性と逆比例の関係を有する。より高いモジュラスを有する構成部分は、より弾力性である。弾力材料は、より少ない屈曲疲労を有する。タイヤの弾力性は、300%モジュラス試験によって測定され得、これは特定の伸長における引張強度の尺度である。換言すると、タイヤの300%モジュラスは、一軸引張試験において300%伸長を生ずるために要求される応力の尺度である。タンジェント・デルタは、DMAとして公知の動的機械分析によって決定され得る。300%モジュラス試験値は、一軸引張試験機によって決定され得る。以下では、300%モジュラス試験値は、別様に明記されない限りモジュラス値という。
タイヤの発熱および屈曲疲労は、ASTM D623−99に従って測定され得る。動的機械分析では、正弦波力(応力σ)が材料にかけられ、もたらされる変位(ひずみ)が測定される。
HTCリグニンを含む硬化されたゴム系構成部分を含むニューマチックタイヤは、タイヤの転がり抵抗を低減する特性を有するように構成され得る。HTCリグニンは、損失弾性率と貯蔵弾性率の比を減少させるために、ニューマチックタイヤのゴム系構成部分に用いられ得る。上述のHTCリグニンの記載を参照すると、HTCリグニンは、シラン系カップリング剤などのカップリング剤を用いて、または用いずに、ニューマチックタイヤのゴム系構成部分に用いられ得る。HTCリグニンは、ニューマチックタイヤのゴム系構成部分の非トレッド部、例えばサイドウォールまたはビード部構成部分に用いられ得る。HTCリグニンは、ニューマチックタイヤのゴム系構成部分のトレッド部に用いられ得る。
硬化されたゴム系構成部分のタンジェント・デルタは、DTMAとして示される動的熱機械分析器によって、例えば10Hz周波数において50℃から70℃の範囲の温度で、好ましくは60℃の温度で測定され得、これはタイヤの転がり抵抗の予測に一般的に用いられている。
ニューマチックタイヤのタンジェント・デルタおよびモジュラス値へのHTCリグニンの効果を、さらに下記に例として示す。
図18を参照する。60℃温度における10Hz周波数でのDTMAを用いるタンジェント・デルタ値を、独立して3つのニューマチックタイヤサンプルREF10、REF20、SMP10から決定した。各サンプルは、非トレッド部構成部分に相当し、全てのサンプルは同一の寸法を有した。サンプルSMP10は、カップリング剤なしのHTCリグニンを含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分に相当した。ニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分中のHTCリグニンの量は、46phrであった。第1の参照サンプルREF10は、カーボンブラックを含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分に相当した。ニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分中のカーボンブラックの量は、46phrであった。カーボンブラックは、N660グレードであり、30から40m/gの範囲の比表面積を有した。第2の参照サンプルREF20は、シリカおよびシラン系カップリング剤を含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分に相当した。図18の縦軸は、各サンプルのタンジェント・デルタ(tanδ)の相対値を表す。値は、参照サンプルREF20に対して相対的であり、これには100の指数値を与えた。この文脈において、100よりも高い相対値はタンジェント・デルタ(tanδ)値の減少を表す。ゆえに、より高い相対値は、より低いタンジェント・デルタ値に対応している。翻って、より低いタンジェント・デルタ値は、より低い転がり抵抗に対応している。HTCリグニンを含むサンプルSMP10は、126の相対値を有する。カーボンブラックを含む参照サンプルREF10は、77の相対値を有する。ゆえに、HTCリグニンを含むサンプルSMP10は、シリカを含む参照サンプルREF20よりも26%低いタンジェント・デルタ値を有する。HTCリグニンを含むサンプルSMP10は、カーボンブラックを含む参照サンプルREF20よりも64%低いタンジェント・デルタ値を有する。
図19を参照する。60℃温度における10Hz周波数でのDTMAを用いるタンジェント・デルタ値を、独立して3つのニューマチックタイヤサンプルREF11、REF21、SMP11から決定した。各サンプルは、非トレッド部構成部分に相当し、全てのサンプルは同一の寸法を有した。サンプルSMP11は、HTCリグニンおよびシラン系カップリング剤を含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分に相当した。ニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分中のHTCリグニンの量は、46phrであった。参照サンプルREF11は、カーボンブラックの46phrを含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分に相当した。カーボンブラックは、N660グレードであり、30から40m/gの範囲の比表面積を有した。参照サンプルREF21は、シリカおよびシラン系カップリング剤を含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分に相当した。図19の縦軸は、各サンプルのタンジェント・デルタ(tanδ)の相対値を表す。値は、参照サンプルREF21に対して相対的であり、これには上述のように100の指数値を与えた。HTCリグニンを含むサンプルSMP11は、118の相対値を有する。カーボンブラックを含む参照サンプルREF11は、95の相対値を有する。HTCリグニンおよびシラン系カップリング剤を含むサンプルSMP11は、シリカおよびシラン系カップリング剤を含む参照サンプルREF21よりも18%低いタンジェント・デルタ値を有する。HTCリグニンおよびシラン系カップリング剤を含むサンプルSMP11は、カーボンブラックを含む参照サンプルREF21よりも24%低いタンジェント・デルタ値を有する。
結果は、HTCリグニンを含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分が、カーボンブラックまたはシリカを含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分のタンジェント・デルタ値よりも、低いタンジェント・デルタ値を有し得るということを実証している。HTCリグニンを含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分のタンジェント・デルタ値は、シリカおよび/またはカーボンブラックを含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分のタンジェント・デルタ値の、18%以下となり得る。HTCリグニンを含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分のタンジェント・デルタ値は、シリカおよび/またはカーボンブラックを含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分のタンジェント・デルタ値の25%以下となり得る。HTCリグニンを含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分のタンジェント・デルタ値は、シリカおよび/またはカーボンブラックを含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分のタンジェント・デルタ値よりも64%まで低くなり得る。
HTCリグニンを含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分のタンジェント・デルタは、tanδHTC1として示され得る。HTCリグニンおよびシラン系カップリング剤を含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分のタンジェント・デルタは、tanδHTC2として示され得る。カーボンブラックを含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分のタンジェント・デルタは、tanδCBとして示され得る。シリカを含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分のタンジェント・デルタは、tanδSIとして示され得る。
一実施形態によれば、tanδHTC1は、tanδCBよりも少なくとも5%低くなり得る。tanδHTC1は、tanδCBよりも少なくとも10%低く、例えばtanδCBよりも少なくとも20%低くなり得る。比tanδHTC1/tanδCBは、例えば0.95から0.6の範囲となり得る。
一実施形態によれば、tanδHTC2は、tanδCBよりも少なくとも5%低くなり得る。tanδHTC2は、tanδCBよりも少なくとも10%低く、例えばtanδCBよりも少なくとも20%低くなり得る。比tanδHTC2/tanδCBは、例えば0.95から0.8の範囲となり得る。
図20を参照する。300%伸長を生ずるために要求される引張強度を300%モジュラス試験によって測定した。モジュラス値は、300%モジュラス試験の値をいい、4つのニューマチックタイヤサンプルREF12、REF22、SMP32、REF32について独立して一軸引張試験機によって決定した。各サンプルは、非トレッド部構成部分に相当し、全てのサンプルは、同一の寸法を有した。サンプルSMP32は、HTCリグニンの46phrを含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分に相当した。ニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分は、HTCリグニンおよびシラン系カップリング剤を含んだ。参照サンプルREF12は、カーボンブラックの46phrを含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分に相当した。カーボンブラックは、N660グレードであり、30から40m/gの範囲の比表面積を有した。参照サンプルREF22は、シリカおよびシラン系カップリング剤を含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分に相当した。参照サンプルREF32は、リグニンおよびシラン系カップリング剤の46phrを含む、ニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分に相当し、リグニンは水熱炭化によって処理されていなかった。図20の縦軸は、相対的モジュラス値を表し、これはサンプルの300%伸長を生ずるために要求される相対的な引張強度をいう。この文脈において、100よりも高い相対的モジュラス値は、サンプルの300%伸長を生ずるために要求される、より高い引張強度を表す。翻って、より高い引張強度は、増大した弾力性に対応する。値は、カーボンブラックを含む参照サンプルREF12に対して相対的であり、これには100の指数値を与えた。シリカを含む参照サンプルREF22は、112の相対値を有する。HTCリグニンを含むサンプルSMP32は、114の相対値を有する。水熱炭化によって処理されていないリグニンを含む参照サンプルREF32は、53の相対値を有する。HTCリグニンおよびシラン系カップリング剤を含むサンプルSMP32は、カーボンブラックを含む参照サンプルREF12よりも14%高いモジュラス300%値を有する。HTCリグニンおよびシラン系カップリング剤を含むサンプルSMP32は、シリカおよびシラン系カップリング剤を含む参照サンプルREF22よりも2%高いモジュラス300%値を有する。HTCリグニンおよびシラン系カップリング剤を含むサンプルSMP32は、リグニンが水熱炭化によって処理されていないリグニンおよびシラン系カップリング剤を含む参照サンプルREF32よりも216%高いモジュラス300%値を有する。
結果は、HTCリグニンを含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分が、カーボンブラックまたはシリカを含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分のモジュラス値よりも、高いモジュラス値を有し得るということを実証している。HTCリグニンおよびシラン系カップリング剤を含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分のモジュラス値は、シリカを含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分のモジュラス値以上となり得る。HTCリグニンおよびシラン系カップリング剤を含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分のモジュラス値は、カーボンブラックを含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分のモジュラス値の14%以上となり得る。HTCリグニンおよびシラン系カップリング剤を含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分のモジュラス値は、リグニンが水熱炭化によって処理されていないリグニンおよびシラン系カップリング剤を含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分のモジュラス値の200%以上となり得る。
HTCリグニンおよびシラン系カップリング剤を含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分のモジュラス値は、MODHTC2として示され得る。カーボンブラックを含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分のモジュラス値は、MODCBとして示され得る。シリカを含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分のモジュラス値は、MODSIとして示され得る。リグニンが水熱炭化によって処理されていないリグニンおよびシラン系カップリング剤を含むニューマチックタイヤの硬化されたゴム系構成部分のモジュラス値は、MODLIGとして示され得る。
一実施形態によれば、MODHTC2は、MODCBよりも少なくとも5%高くなり得る。MODHTC2は、MODCBよりも少なくとも10%高く、例えばMODCBよりも少なくとも14%高くなり得る。比MODHTC2/MODCBは、例えば1.05から1.14の範囲、またはより高くなり得る。
一実施形態によれば、MODHTC2は、MODSI以上になり得る。MODHTC2は、MODSIよりも少なくとも2%高くなり得る。比MODHTC2/MODSIは、例えば1.00から1.02の範囲、またはより高くなり得る。
一実施形態によれば、MODHTC2は、MODLIGよりも少なくとも100%高くなり得る。MODHTC2は、MODCBよりも少なくとも200%高く、例えばMODCBよりも少なくとも216%高くなり得る。比MODHTC2/MODCBは、例えば1.50から2.16の範囲、またはより高くなり得る。
結果は、カーボンブラックがニューマチックタイヤの非トレッド部構成部分、例えばサイドウォールまたはビード部構成部分中のHTCリグニンによって代替されるときに、ニューマチックタイヤの転がり抵抗が減少し得るということを実証している。結果は、シリカがニューマチックタイヤの非トレッド部構成部分、例えばサイドウォールまたはビード部構成部分中のHTCリグニンによって代替されるときに、ニューマチックタイヤの転がり抵抗が減少し得るということをさらに実証している。結果は、HTCリグニンの使用が、シラン系カップリング剤とともに用いられるときに、ニューマチックタイヤの転がり抵抗を低減し得るということを実証している。結果は、カップリング剤なしで用いられるときに、HTCリグニンの使用がニューマチックタイヤの転がり抵抗をさらにより多く低減し得るということを実証している。HTCリグニンによって代替されるカーボンブラックの量は、カーボンブラックの重量の例えば75wt.%以上であり、例えば1から70wt.%の範囲、好ましくは20から60wt.%の範囲、最も好ましくは30から50wt.%の範囲となり得る。
上に列記されている実施例および実施形態は限定しない例示を示している。上に列記されている例において開示されているHTCリグニンの量は、変更され得る。ニューマチックタイヤのゴム系構成部分は、例えば46phr以下の量のHTCリグニンを含み得る。ニューマチックタイヤのゴム系構成部分は、例えば46phr以上の量のHTCリグニンを含み得る。
当業者にとっては、本発明に係るニューマチックタイヤおよび方法の改変および変形が認識可能であるということは明らかであろう。図は、概念的である。図は、本発明の例示の実施形態の例示的な表現であることが意味されている。特に、図1〜6は、なんらかの特定の縮尺ではない。略語であるwt.%は、別様に明記されない限り、重量パーセンテージをいう。略語であるphrは、パーツ・パー・ハンドレッド・ゴムをいい、ゴム製造産業において広く用いられる用語である。
添付図面の参照によって上述されている具体的な実施形態は、単に例示であり、添付の請求項によって定められる本発明の範囲を限定することは意味していない。

Claims (19)

  1. 乗物用ニューマチックタイヤであって、
    前記タイヤは、金属構成部分と、テキスタイル構成部分と、硬化されたゴム系構成部分と、を含み、前記構成部分同士は硬化手段によって一緒に結合され、
    前記硬化されたゴム系構成部分は、水熱炭化によって処理されたリグニンを含む、乗物用ニューマチックタイヤ。
  2. 乗物用ニューマチックタイヤの製造方法であって、
    水熱炭化によって処理されたリグニンを含むゴム系構成部分を得て、
    前記ゴム系構成部分を成型ドラム上に配置し管状プリフォームを形成し、
    前記管状プリフォームを膨張させてニューマチックタイヤのプリフォームを形成し、
    金属構成部分およびテキスタイル構成部分をタイヤのプリフォーム上に配置し、それによって、前記水熱炭化によって処理されたリグニンを含むゴム系構成部分、前記金属構成部分、および前記テキスタイル構成部分を含むニューマチックタイヤのプリフォームを製造し、
    前記ニューマチックタイヤのプリフォームを硬化し、それによって、硬化手段によって構成部分同士を一緒に結合し、それによって、前記乗物用ニューマチックタイヤを製造し、前記ニューマチックタイヤは硬化されたゴム系構成部分を含む、乗物用ニューマチックタイヤの製造方法。
  3. 前記硬化されたゴム系構成部分が2−メトキシフェノールを含有し、前記2−メトキシフェノールの存在は、規格ASTM D3452−06に従って550℃で熱分解されたときに、前記硬化されたゴム系構成部分から熱分解−ガスクロマトグラフィー/質量分光分析の手段によって決定可能である、請求項1に記載のニューマチックタイヤまたは請求項2に記載のニューマチックタイヤの製造方法。
  4. 前記硬化されたゴム系構成部分が、規格ASTM D3677−10に従って600℃で熱分解されたときに、1259cm−1前後のピーク最大値を有する赤外分光測色法吸収バンドを有する熱分解生成物を生ずる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のニューマチックタイヤまたはニューマチックタイヤの製造方法。
  5. 前記硬化されたゴム系構成部分が、600℃で熱分解されたときに、200m/g以上の比表面積を有する熱分解生成物を生じ、前記比表面積は、熱分解生成物から分離されるカーボンブラック型フィラー材料のASTM D6556−10に従う多点窒素吸着に基づく総表面積である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のニューマチックタイヤまたはニューマチックタイヤの製造方法。
  6. 前記硬化されたゴム系構成部分が規格ASTM D6370−09に従って10℃/分の加熱速度で20℃と800℃との間の熱重量分析温度範囲に付されたときに、前記硬化されたゴム系構成部分が、規格D297−93に従うアセトン抽出処理の後に、550℃以下の温度における第2の質量変化の一次微分曲線ピークを生ずる、請求項1〜5のいずれか1項に記載のニューマチックタイヤまたはニューマチックタイヤの製造方法。
  7. 前記ゴム系構成部分が、前記ゴム系構成部分の総重量の75wt.%以下の量の、好ましくは10から70wt.%の範囲の、最も好ましくは20から60wt.%の範囲の、水熱炭化によって処理されたリグニンを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載のニューマチックタイヤまたはニューマチックタイヤの製造方法。
  8. 前記ゴム系構成部分が、前記ゴム系構成部分の総重量の10wt.%未満の量の、好ましくは0.5から9.5wt.%の範囲の、最も好ましくは2から9wt.%の範囲の、水熱炭化によって処理されたリグニンを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載のニューマチックタイヤまたはニューマチックタイヤの製造方法。
  9. 前記ゴム系構成部分が、
    水熱炭化によって処理されたリグニンと、
    メチレンドナー化合物と、
    を含む、
    請求項1〜8のいずれか1項に記載のニューマチックタイヤまたはニューマチックタイヤの製造方法。
  10. 前記メチレンドナー化合物が、ヘキサメチレンテトラミン、またはヘキサ(メトキシメチル)メラミンなどのポリアミン系硬化性樹脂である、
    請求項9に記載のニューマチックタイヤまたはニューマチックタイヤの製造方法。
  11. 前記ゴム系構成部分が、さらにビス−[3−(トリエトキシシリル)−プロピル]−テトラスルフィドなどのシラン系カップリング剤などのカップリング剤を含み、前記カップリング剤が化学反応によってタイヤの合成または天然ゴムなどのゴム化合物と結合することができる、請求項1〜10のいずれか1項に記載のニューマチックタイヤまたはニューマチックタイヤの製造方法。
  12. 前記水熱炭化によって処理されたリグニンが、木材起源のリグニンを含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載のニューマチックタイヤまたはニューマチックタイヤの製造方法。
  13. 前記ゴム系構成部分が、
    クリンチもしくはエイペックスなどのサイドウォールもしくはビード部構成部分などの非トレッド部構成部分、または
    トレッド、トレッドベース、アンダートレッド、もしくはショルダーなどのトレッド部構成部分、である、
    請求項1〜12のいずれか1項に記載のニューマチックタイヤまたはニューマチックタイヤの製造方法。
  14. 請求項2〜13のいずれか1項に記載の方法によって得られる、乗物用ニューマチックタイヤ。
  15. ニューマチックタイヤのゴム系構成部分への、硬化性樹脂としてのメチレンドナー化合物との組み合わせでの、水熱炭化によって処理されたリグニンの使用。
  16. ニューマチックタイヤのゴム系構成部分への、シラン系カップリング剤などのカップリング剤と一緒での、水熱炭化によって処理されたリグニンの使用。
  17. ニューマチックタイヤの非トレッド部構成部分、例えばサイドウォールまたはビード部構成部分への、水熱炭化によって処理されたリグニンの使用。
  18. ニューマチックタイヤのトレッド部構成部分への、水熱炭化によって処理されたリグニンの使用。
  19. ニューマチックタイヤのゴム系構成部分中の再生可能なフィラー材料としての、水熱炭化によって処理されたリグニンの使用。
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