以下、樹脂部品の一実施形態について説明する。
図1〜図3に示すように、ラジエータサポート20は、車両のフレーム部材(図示略)の締結固定に利用されるインサートナット30を複数(本実施形態では、10個)有している。なお、図1〜図3にはインサートナット30を1つのみ図示している。本実施形態では、ラジエータサポート20が樹脂部品に相当し、フレーム部材が締結固定部材に相当し、インサートナット30が雌ねじ部材に相当する。
インサートナット30は、金属材料によって形成されるとともに中心に雌ねじ31を有するナット部32と、合成樹脂材料によって形成されるとともに上記ナット部32の周囲全周を覆うねじ本体部33とを有している。ナット部32は汎用品のナットであり、詳しくは、雌ねじ31の締結方向における一方の端部32A(図3における上端)にフランジが設けられるとともに同フランジの外面にローレット加工が施された、いわゆるローレットナットである。インサートナット30は、金型の内部に上記ナット部32を挿入した状態で合成樹脂材料を注入して同ナット部32とねじ本体部33とを一体成形する、いわゆるインサート成形によって形成されている。本実施形態では、インサートナット30が汎用品のローレットナットを用いて安価に製造されている。
インサートナット30は、ねじ本体部33の外面(図3における上面)に対してナット部32の端部32Aが若干突出した状態になっており、且つ、同ナット部32の端部32Aが外部に露出した状態になっている。具体的には、ナット部32の端部32Aの外面とねじ本体部33の外面とが共に平面状に形成されており、ナット部32の端部32Aの外面がねじ本体部33の外面よりも若干(例えば、数百μm)外方側に配置されている。
ラジエータサポート20の部品本体50は、合成樹脂材料によって、右壁と上壁と左壁とを有する門型に形成されている。部品本体50は複数(本実施形態では、10個)の貫通孔(取付孔51)を有している。そして、取付孔51にはそれぞれ、インサートナット30が挿入された状態で取り付けられている。詳しくは、図2および図3に示すように、インサートナット30の外周面に形成された係合凹部35と部品本体50の取付孔51の内周面に形成された係合凸部52との係合を通じて、インサートナット30は部品本体50の取付孔51内に係止されている。
インサートナット30が部品本体50に係止された状態(図3に示す状態)では、部品本体50の外面(図3における上面)に対してインサートナット30のナット部32の端部32Aの外面(図3における上面)が若干突出している。また、この状態では、ナット部32の端部32Aが外部に露出している。具体的には、ナット部32の端部32Aの外面と部品本体50の外面における取付孔51の周辺部分とが共に平面状に形成されている。そして、ナット部32の端部32Aの外面が部品本体50の外面における取付孔51の周辺部分よりも若干(例えば、数百μm)外方側に配置されている。
以下、インサートナット30の構造について詳細に説明する。
図4〜図6に示すように、インサートナット30の軸部分を構成する中央筒部36は略円筒状をなしている。中央筒部36の内周部分は上記ナット部32によって構成されており、中央筒部36の中心には雌ねじ31が形成されている。なお、雌ねじ31は右ねじである。
中央筒部36における外方側(図5の上方側)の端部には、外周側に突出する4つの羽根部37が設けられている。これら羽根部37は、上記中央筒部36の周囲方向において等間隔で並ぶように配置されている。各羽根部37は、上記中央筒部36の周囲方向において一定の厚さの円弧状で延びている。
4つの羽根部37のうちの上記雌ねじ31を間に挟む2つの羽根部37には、ラチェットアーム38が一体に設けられている。ラチェットアーム38は、中央筒部36の中心線Lを中心とする円弧状に延びる態様で羽根部37の外周側の端部から時計回り方向に突出して、中央筒部36の外周面と間隔を置いた位置において同外周面に沿って延びている。ラチェットアーム38は、一方の端部(基端部38A)が羽根部37の外周側の端部に支持されるとともに他方の端部(先端部38B)が羽根部37に支持されない自由な状態にされた構造(いわゆる片持ち構造)になっている。そして、ラチェットアーム38は、基端部38Aを支点に、中心線L方向や雌ねじ31の径方向に揺動可能になっている。またラチェットアーム38における基端部38A側の部分は先端部38Bと比較して薄くなっている。これにより、ラチェットアーム38は弾性変形(揺動)し易い構造になっている。
ラチェットアーム38の先端部38Bにおける外方側(図5の上方側)の面は、ねじ本体部33の外方側の面と略同一平面上において延びている。一方、ラチェットアーム38の先端部38Bにおける内方側(図5の下方側)の面には、断面鋸歯状の3つの歯を有するラチェット歯39が設けられている。他方、ラチェットアーム38の先端部38Bにおける外周面には、平面視(図4参照)で略三角状の係合突起40が外周側に突出する態様で設けられている。この係合突起40の外周側の面はラチェットアーム38の先端から基端に向かうに連れて外周側の位置になるように傾斜しており、同係合突起40の基端部38A側の面(基端面40A)は雌ねじ31の径方向に延びている。
中央筒部36の外周面には、溝状をなす2つの前記係合凹部35が上記中央筒部36の周囲方向において等間隔で並ぶように設けられている。これら係合凹部35は、周方向に延びる係合溝41と中心線L方向に延びる案内溝43とによって構成されている。案内溝43は、上記係合溝41の一方の端部(詳しくは、インサートナット30を平面視で時計回り方向に回転させた場合における回転方向前側の端部)から中央筒部36の内方側の端部まで延びている。上記係合溝41の他方の端部(詳しくは、上記回転方向後ろ側の端部)は、中央筒部36の外周壁における係合凹部35が形成されていない部分(隔壁部44(図5))によって塞がれた形状になっている。また、係合溝41の内面のうちの内方側に配置される面(以下、接触面35A)は、取付孔51の深さ方向に延びる直線(具体的には、中央筒部36の中心線L)を螺旋軸とする右回りの仮想螺旋面に沿って延びている。上記案内溝43の平面視における断面形状は、上記中央筒部36の中心線Lを中心とする円弧状になっている。また、中央筒部36の内方側の端部は、先細のテーパ形状になっている。
以下、ラジエータサポート20の部品本体50の構造について詳細に説明する。
図7〜図9に示すように、部品本体50に設けられた前記取付孔51は、外方側が内径の大きい大径部53をなすとともに内方側が内径の小さい小径部54をなす段付きの貫通孔である。なお、図7〜図9には部品本体50に設けられた複数の取付孔51のうちの1つのみを図示している。
部品本体50における取付孔51の周縁部分のうちの内方側(図8の右側)の端部(筒状部55)は、取付孔51の内周壁が内方側に延伸される態様で突出する筒状になっている。この取付孔51には、インサートナット30が挿入されて取り付けられる。この状態(図3に示す状態)では、部品本体50の取付孔51の周縁部分における上記インサートナット30を挿入する方向の前側の端部(上記筒状部55)が、同インサートナット30の外面に沿って延びる筒状になる。
取付孔51の小径部54の内径はインサートナット30の中央筒部36の外径よりも若干大きくなっている。小径部54の内周面には2つの前記係合凸部52が突設されている。これら係合凸部52は、平面視(図7参照)で円弧状であり、取付孔51の周囲方向において等間隔で並ぶように配置されている。本実施形態では、係合凸部52の平面形状(円弧状)は、インサートナット30の案内溝43の平面視における断面形状(円弧状)よりも小さくなっている。
図10〜図12に示すように、インサートナット30は部品本体50の取付孔51に挿入される。その際には、平面視でインサートナット30の係合凹部35の案内溝43と部品本体50の取付孔51の係合凸部52とが重なるように、インサートナット30が部品本体50の外方側に配置される。そして、この状態(図10に示す状態)でインサートナット30が内方側に押圧される。これにより、部品本体50の取付孔51内面の係合凸部52がインサートナット30外面の案内溝43の内部を通過して、同取付孔51にインサートナット30が挿入された状態(図11に示す状態)になる。
図7〜図9に示すように、各係合凸部52の外面のうちの内方側(図8の右側)の面(以下、接触面52A)は、取付孔51に挿入された状態の中央筒部36(図1参照)の中心線Lを螺旋軸とする右回りの仮想螺旋面に沿って延びている。本実施形態では、図3に示すように、部品本体50の係合凸部52の外面のうちの内方側(図3の下方側)の接触面52Aと前記インサートナット30の係合溝41の内面のうちの内方側(図3の下方側)の接触面35Aとが略同一の形状に形成されている。
図7および図8に示すように、取付孔51における大径部53と小径部54との間の段部56には、9つの歯を有する断面鋸歯状のラチェット歯57が2つ設けられている。各ラチェット歯57は、9つの歯が中心線Lを中心とする円弧状で並ぶように設けられている。2つのラチェット歯39は、取付孔51の周囲方向において等間隔で並ぶように配置されている。ラチェット歯57は、インサートナット30を取付孔51に挿入した状態(図12に示す状態)ではラチェットアーム38(ラチェット歯39)と係合しない位置に設けられている。またラチェット歯57は、インサートナット30を取付孔51に挿入した後に時計回り方向に90度ほど回転させた状態(図1に示す状態)ではラチェットアーム38と係合する位置に設けられている。本実施形態では、取付孔51の段部56におけるラチェット歯57が設けられた部分がラチェット凹部58に相当する。
本実施形態では、インサートナット30のラチェットアーム38(ラチェット歯39)と部品本体50のラチェット凹部58(ラチェット歯57)とがラチェット機構を構成している。このラチェット機構により、ラチェット歯39,57が係合した状態では、部品本体50に対するインサートナット30の平面視での時計回り方向の回転が許容されるとともに同反時計回り方向の回転が規制されるようになっている。
また図12に示すように、取付孔51の大径部53の内周面は、取付孔51に挿入した状態のインサートナット30を中心線L周りにおいて回転させた場合における上記羽根部37の移動軌跡よりも外周側で延びている。この大径部53の内周面には、外周側に窪んだ形状の2つの逃げ凹部59が設けられている。これら逃げ凹部59は、周方向において等間隔で並ぶように配置されている。各逃げ凹部59における平面視で時計回り方向の前側の端部は、前側に向かうほど外周方向における深さが浅くなるように傾斜した傾斜面59Aになっている。また大径部53の内周面には、外周側に窪んだ形状の2つの収容凹部60が設けられている。これら収容凹部60は、平面視の断面形状が円弧状であり、上記逃げ凹部59と異なる位置に周方向において等間隔で並ぶように配置されている。
上記逃げ凹部59は、インサートナット30が取付孔51に挿入された状態(図12に示す状態)で、ラチェットアーム38の係合突起40が収容されるようになる位置に設けられている。一方、上記収容凹部60は、インサートナット30を取付孔51に挿入した後に平面視で時計回り方向に90度ほど回転させた状態(図1に示す状態)で、ラチェットアーム38の係合突起40が収容されるようになる位置に設けられている。
以下、インサートナット30を部品本体50に取り付ける作業について、本実施形態のラジエータサポート20の作用効果とともに説明する。
インサートナット30の部品本体50への取り付けは、同インサートナット30を門型の部品本体50に対して外方側から内方側に移動させる態様で行われる。具体的には、部品本体50の右壁への取り付けに際してはインサートナット30を左側に移動させる態様で、部品本体50の上壁への取り付けに際してはインサートナット30を下方に移動させる態様で、同インサートナット30の取り付けは行われる。また部品本体50の左壁への取り付けに際してはインサートナット30を右側に移動させる態様で、同インサートナット30の取り付けは行われる。こうしたインサートナット30の取り付け作業は、ロボットアームを用いた自動装置によって行われる。
この作業では先ず、インサートナット30の外方側(図2の上方側)の端部において羽根部37およびラチェットアーム38が配置されていない部分、すなわち中心線L側に窪んでいる部分を摘むように、インサートナット30がロボットアームによって把持される。これにより、インサートナット30を把持しているロボットアームの先端ともども、同インサートナット30を部品本体50の取付孔51内に挿入することが可能になっている。
そして、図10および図12に示すように、部品本体50の係合凸部52とインサートナット30の係合凹部35の案内溝43とが平面視で重なる位置まで、同インサートナット30が移動される。その後、図11および図12に示すように、インサートナット30が部品本体50の取付孔51内に押し込まれる。これにより、部品本体50の係合凸部52がインサートナット30の係合凹部35(詳しくは、案内溝43)の内部を通過して同インサートナット30が内方側に移動するようになって、部品本体50の取付孔51にインサートナット30が挿入されるようになる。なお本実施形態では、インサートナット30の中央筒部36の内方側の端部が先細のテーパ形状になっている。そのため、中央筒部36を部品本体50の取付孔51に挿入する際に同中央筒部36が取付孔51の内縁に突き当たってその挿入が妨げられることが抑えられるようになる。したがって、インサートナット30を部品本体50に取り付ける作業を容易に行うことができるようになる。
その後、インサートナット30が平面視で時計回り方向に回転される。このとき、インサートナット30は、外周面の係合凹部35(詳しくは、係合溝41)と部品本体50の取付孔51内面の係合凸部52との係合を通じて案内される。本実施形態では、係合凸部52の外面における内方側の面(接触面52A)と係合凹部35の内面における内方側の面(接触面35A)とが共に、中心線Lを螺旋軸とする仮想螺旋面に沿って延びている。そのため、係合凸部52と係合凹部35とが係合した状態でインサートナット30を平面視で時計回り方向に回転させることによって、図13(a)および図13(b)に一例を示すように、係合凸部52および係合凹部35の接触面52A,35Aが接触する。そして、インサートナット30をさらに回転させると、それら接触面52A,35Aの面圧が高くなる。本実施形態では、接触面52A,35Aの面圧が所定値以上になると、インサートナット30(具体的には、ロボットアーム)の回転が停止されるようになっている。
本実施形態では、このようにして係合凸部52および係合凹部35の接触面52A,35Aの面圧を高くすることにより、部品本体50の取付孔51の内部にインサートナット30が係止されるようになる。そして、この場合には、係合凸部52および係合凹部35の接触面52A,35Aに作用する高い面圧によってインサートナット30のガタつきが抑えられるようになる。
なお本実施形態では、製造公差の範囲内であるとはいえ、部品本体50の係合凸部52が薄くなったりインサートナット30の係合凹部35の幅が広くなったりする。そして、この場合には係合凸部52の接触面52Aと係合凹部35の接触面35Aとの接触面圧が高くなり難くなる。そのため、係合凸部52と係合凹部35とが係合した状態でインサートナット30を平面視で時計回り方向に回転させたときにおいて接触面52A,35Aの面圧が所定値以上にならない場合がある。
この点、本実施形態では、図14(a)および図14(b)に示すように、インサートナット30が一定量だけ回転すると、インサートナット30の隔壁部44に部品本体50の係合凸部52が突き当たるようになる。そのため、インサートナット30が回転し過ぎることが抑えられるようになる。しかも、このときには係合凸部52の接触面52Aと係合凹部35の接触面35Aとの接触面圧(ただし、面圧<所定値)が高くなることに加えて、係合凸部52の回転方向前側の端部とインサートナット30の隔壁部44とが接触(当接)した状態になる。そのため、インサートナット30のガタつきが抑えられるようになる。
このように本実施形態では、部品本体50の取付孔51にインサートナット30を挿入して周方向に回転させることによって、取付孔51の内周面の係合凸部52とインサートナット30の外周面の係合凹部35とを係合させることができる。これにより、部品本体50にインサートナット30を取り付けることができる。本実施形態では、図3に示すように、インサートナット30の挿入方向(図3の上下方向)において対向する係合凸部52の接触面52Aと係合凹部35の接触面35Aとが接触する状態で、同インサートナット30が部品本体50に取り付けられる。そのため、部品本体50の取付孔51からインサートナット30を外方側に引き抜くように作用する力(引き抜き荷重)に対して高い強度が得られる態様で、インサートナット30を部品本体50に取り付けることができる。
また、本実施形態では、インサートナット30のラチェットアーム38と部品本体50のラチェット凹部58とを有するラチェット機構を有している。このラチェット機構は、部品本体50に対するインサートナット30の平面視で時計回り方向の回転を許容する構造になっている。そのため、図15に示すように、インサートナット30を平面視で時計回り方向(図15中に矢印Rで示す方向)に回転させた場合には、インサートナット30のラチェットアーム38と部品本体50のラチェット凹部58とが係合するようになる。
このラチェット機構は、インサートナット30のラチェットアーム38と部品本体50のラチェット凹部58とが係合した状態では、部品本体50に対するインサートナット30の平面視で反時計回り方向の回転を規制する構造になっている。したがって、インサートナット30を部品本体50に取り付ける際にラチェット機構が係合状態になった後においては、インサートナット30が不要に反時計回り方向に回転して緩むことが抑えられるようになる。
さらに本実施形態では、図12に示すように、部品本体50へのインサートナット30の取り付けに際して同インサートナット30を平面視で時計回り方向に回転させる前においては、ラチェットアーム38の係合突起40が部品本体50の大径部53の逃げ凹部59内に収容された状態になっている。そして、インサートナット30を平面視で時計回り方向に回転させると、ラチェットアーム38が逃げ凹部59の傾斜面59Aによって案内されて中心線L側に弾性変形して、同ラチェットアーム38の係合突起40が逃げ凹部59の内部から脱出した状態になる。さらにインサートナット30を回転させると、ラチェットアーム38の係合突起40が部品本体50の大径部53の収容凹部60の中心線L側の位置になる。このときラチェットアーム38が弾性変形前の形状に復元して、ラチェットアーム38の係合突起40が収容凹部60内に収容された状態(図1に示す状態)になる。そのため、一旦インサートナット30が部品本体50取り付けられた後においては、仮にインサートナット30が緩んだ場合(平面視で反時計回りに回転した場合)であっても、係合突起40の基端面40Aと収容凹部60の端面60Aとが突き当たるようになる。したがって、それ以上のインサートナット30の回転が規制されるようになり、これによっても、インサートナット30が緩むことが抑えられるようになる。
ここで、金属材料によって形成されたラジエータサポートにおいては、フレーム部材の固定に用いる金属ナットをラジエータサポートに直接固定(溶接)することができる。また、こうしたラジエータサポートでは、廃棄に際して金属ナットを取り外す必要がないためリサイクルを容易に行うことができる。
一方、合成樹脂材料によって形成されたラジエータサポートでは、金属ナットを溶接することはできない。こうしたラジエータサポートでは、かしめ加工によって雌ねじ部材(例えばポップナット)を固定することはできる。しかしながら、このラジエータサポートでは、かしめ加工用の高価な工具が必要になるばかりか、リサイクルや補修に際して雌ねじ部材を取り外す作業に非常に手間がかかる構造になってしまう。
また、合成樹脂材料によって形成されたラジエータサポートにおいては、その裏面にナットを配置することにより、ナットとボルトとの間にラジエータサポートおよびフレーム部材を挟み込む態様で固定することができる。そのため、ラジエータサポートを高い引き抜き荷重に耐えうる構造にすることができる。ただし、このラジエータサポートでは、ナットの取り付けを自動装置で行う場合に、エンジンルーム内部におけるラジエータサポート内方の狭いスペースにロボットアームを侵入させる必要があるため、同ナットの取り付け作業が困難な作業になる。
本実施形態のラジエータサポート20では、自動装置のロボットアームを用いて、インサートナット30をラジエータサポート20(部品本体50)の外方側から高い引き抜き荷重に耐えうる態様で容易に取り付けることができる。しかも、そうしたインサートナット30を平面視で反時計回りに回転させることによって部品本体50から取り外すことができるため、ラジエータサポート20のリサイクルや補修を容易に行うこともできる。
図16に示すように、ラジエータサポート20へのフレーム部材21の固定は、上記インサートナット30の雌ねじ31と締結固定用のボルト22とを利用して行われる。具体的には、上記ボルト22が、フレーム部材21の挿通孔21Aに挿通された状態でインサートナット30の雌ねじ31に螺合される。
本実施形態では、部品本体50の外面(図16における上面)に対してインサートナット30のナット部32の端部32Aの外面(図16における上面)が若干突出した状態になっている。また、ナット部32の端部32Aがラジエータサポート20の外部に露出した状態になっている。そのため、ラジエータサポート20へのフレーム部材21の固定に際して同フレーム部材21を正規の位置(図16に示す位置)に配置することにより、フレーム部材21とナット部32の端部32Aとが接触した状態になる。この状態でインサートナット30の雌ねじ31とボルト22とを利用して締結固定を行うことにより、フレーム部材21とナット部32の端部32Aとが当接した状態(メタルタッチ状態)でフレーム部材21をラジエータサポート20に締結固定することができる。したがって、強固な固定構造を実現することができる。
なお本実施形態では、インサートナット30の雌ねじ31が右ねじになっており、係合凸部52の接触面52Aおよび係合凹部35の接触面35Aが右回りの螺旋面に沿った形状になっている。そのため、インサートナット30の雌ねじ31にボルト22を螺合する際に同インサートナット30に作用する回転力が、係合凸部52の接触面52Aと係合凹部35の接触面35Aとの面圧を高める方向に同インサートナット30を回転させる方向に作用する。そのため、インサートナット30の雌ねじ31にボルト22を螺合する際に同インサートナット30が緩まない構造になっている。
ここで、ラジエータサポート20に固定された状態のフレーム部材21に対して同ラジエータサポート20から離間させる力(具体的には、部品本体50の取付孔51からインサートナット30を引き抜く力)が作用すると、部品本体50は次のように変形する。上記力(引き抜き荷重)は、インサートナット30の係合凹部35の接触面35Aによって部品本体50の係合凸部52の接触面52Aを外方側(図16の上方側)に押圧して同係合凸部52を外方側に倒すように作用するようになる。そのため、引き抜き荷重によって部品本体50は取付孔51の外方側(フレーム部材21側)の開口を開く態様で変形するようになる。こうした引き抜き荷重に対する高い強度を得るためには、上記部品本体50の取付孔51の周縁部分の変形を抑えることが望ましい。
この点、本実施形態では、部品本体50の取付孔51の周縁部分におけるインサートナット30を挿入する方向の前側(図16における下方側)の端部(筒状部55)が同インサートナット30の外面に沿って延びる筒状になっている。そのため、ラジエータサポート20に引き抜き荷重が作用して係合凸部52が外方側に押圧されて倒れるように変形する際に、同係合凸部52に隣接する位置で筒状をなす上記筒状部55がインサートナット30の中央筒部36の外面に突き当たるようになる。これにより、係合凸部52の外方側への変形が抑えられるようになるため、上述した取付孔51の外方側の開口が開く態様での部品本体50の変形が抑えられるようになる。本実施形態によれば、このようにして引き抜き荷重による部品本体50の変形を抑えることができるため、ラジエータサポート20を高い引き抜き荷重に耐えうる構造にすることができる。
また本実施形態では、上述したようにラチェットアーム38の先端部38Bの外方側の面が、部品本体50の外面と略同一平面上において延びている。そのため図17に示すように、ラジエータサポート20にフレーム部材21が締結固定されると、同フレーム部材21がラチェットアーム38の外面に沿って延びる状態になる。したがって、ラチェットアーム38の先端部38Bの外面がフレーム部材21に突き当たることによって、同ラチェットアーム38がラチェット凹部58から離れるように外方に向けて弾性変形することが抑えられるようになる。これにより、ラチェットアーム38とラチェット凹部58との係合が不要に解除されることが抑えられるため、インサートナット30が不要に回転して緩むことを抑えることができる。
図18に示すように、インサートナット30は、取り外し工具23を用いることによって容易に取り外すことができる。この取り外し工具23の先端には側方視で三角形状の凸部23Aが設けられている。インサートナット30を取り外す際には、取り外し工具23の凸部23Aの先端をラチェットアーム38の先端とラチェット凹部58との隙間に入れる。これにより、ラチェットアーム38をラチェット凹部58から離間させる態様(図16に示す態様)で弾性変形させることができる。そして、この状態で、取り外し工具23ともどもインサートナット30を平面視で反時計回り方向に回転させることができる。これにより、ラチェット機構による規制を解除した状態でインサートナット30を回転させて、同インサートナット30を部品本体50の取付孔51から取り外すことができるようになる。
以上説明したように、本実施形態によれば、以下に記載する効果が得られる。
(1)部品本体50の外面に対してインサートナット30のナット部32の端部32Aの外面が若干突出した状態になっており、且つ、同ナット部32の端部32Aが外部に露出した状態になっている。そのため、フレーム部材21とナット部32の端部32Aとが当接したメタルタッチ状態で、フレーム部材21をラジエータサポート20に締結固定することができる。
(2)部品本体50へのインサートナット30の取り付けに際して、部品本体50の取付孔51にインサートナット30を挿入するとともに同インサートナット30を周方向に回転させるようにした。これにより、取付孔51の内周面の係合凸部52とインサートナット30の外周面の係合凹部35とを係合させることができ、インサートナット30を部品本体50に係止することができる。
(3)係合凸部52の接触面52Aと係合凹部35の接触面35Aとを、中心線Lを螺旋軸とする仮想螺旋面に沿って延びる形状にした。そして、部品本体50へのインサートナット30の取り付けに際して係合凸部52と係合凹部35とが係合した状態で同インサートナット30を周方向に回転させるようにした。これにより、係合凸部52および係合凹部35の接触面52A,35Aの面圧を高くして、インサートナット30のガタつきを抑えることができる。
(4)係合凹部35の係合溝41の周方向における一方の端部は、同係合凹部35を塞ぐ形状の隔壁部44になっている。そのため、この隔壁部44に部品本体50の係合凸部52が当接することによって、インサートナット30が回転し過ぎることを抑えることができる。しかも、インサートナット30の隔壁部44に部品本体50の係合凸部52が突き当たった状態になったときには、その当接を通じてインサートナット30のガタつきが抑えられるようになる。
(5)ラジエータサポート20は、インサートナット30に一体のラチェットアーム38と部品本体50に設けられたラチェット凹部58とを有するラチェット機構を有している。そのため、インサートナット30を部品本体50に取り付ける際には同インサートナット30を部品本体50に対して平面視で時計回り方向に回転させることができる。しかも、インサートナット30を部品本体50に取り付けた後においては、ラチェット機構の機能により、インサートナット30が不要に平面視で反時計回り方向に回転して緩むことを抑えることができる。
(6)ラチェットアーム38の先端部38Bの外方側の面が部品本体50の外面と略同一平面上において延びている。そのため、ラジエータサポート20にフレーム部材21が締結固定された状態では、ラチェットアーム38の先端部38Bの外面がフレーム部材21に突き当たるようになる。このときラチェットアーム38がラチェット凹部58から離れるように外方に向けて弾性変形することが抑えられるようになる。これにより、ラチェットアーム38とラチェット凹部58との係合が不要に解除されることが抑えられるため、インサートナット30が不要に回転して緩むことを抑えることができる。
(7)部品本体50における取付孔51の周縁部分のうちの内方側の端部(筒状部55)を、取付孔51の内周壁が内方側に延伸される態様で突出する筒状にした。これにより、引き抜き荷重による部品本体50の変形を抑えることができ、ラジエータサポート20を高い引き抜き荷重に耐えうる構造にすることができる。
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・インサートナット30を、ねじ本体部33の外方側の面とナット部32の端部32Aの外方側の面とが同一平面上で延びる構造にしてもよい。
・ラジエータサポート20を、ナット部32の端部32Aの外方側の面と部品本体50の取付孔51の周縁部分における外方側の面とが同一平面上で延びる構造にしてもよい。
・インサートナット30を、ラチェットアーム38の先端部38Bの外方側の面がねじ本体部33(詳しくは、中央筒部36や羽根部37)の外方側の面よりも若干外方側の位置になる構造にしてもよい。またインサートナット30を、ラチェットアーム38の先端部38Bの外方側の面がねじ本体部33(詳しくは、中央筒部36や羽根部37)の外方側の面よりも若干内方側の位置になる構造にしてもよい。
・ラチェットアーム38の係合突起40や、部品本体50の逃げ凹部59および収容凹部60を省略してもよい。
・ラチェットアーム38とラチェット凹部58(ラチェット歯57)とを省略してもよい。
・部品本体50における取付孔51の周縁部分のうちの内方側の部分に、筒状をなす筒状部55を設けることに代えて、中心線Lに沿って延びる壁部を同中心線L回りにおいて等間隔で並ぶように配置するようにしてもよい。また、部品本体50の筒状部55を省略すること等も可能である。
・インサートナット30を、2つの係合凹部35が連通される構造にしてもよい。こうした構成においては、係合凹部35の幅を狭くしたり係合凸部52を厚くしたりして係合凸部52の接触面52Aと係合凹部35の接触面35Aの面圧が高くなる構造にすることが好ましい。これにより、インサートナット30を一定量だけ回転させた場合に同インサートナット30の回転が停止する構造にすることができる。
・係合凸部52の接触面52Aや係合凹部35の接触面35Aを螺旋面に沿って延びる形状にすることに限らず、中心線Lと直交する平面状に形成してもよい。こうした構成においても、係合凸部52の外面と係合凹部35の内面との接触面圧が十分に高くなるようにそれら係合凸部52や係合凹部35の形状を定めることにより、インサートナット30を部品本体50に係止することができる。
・ナット部32として、ローレットナット以外の汎用品のナットを用いたり、独自に設計した専用品を用いたりしてもよい。
・インサート成形によってインサートナット30を製造することに限らず、ねじ本体部とナット部とを別々に用意するとともに、同ねじ本体部にナット部を接着などによって固定することによってインサートナットを製造してもよい。
・上記実施形態の樹脂部品は、インサートナット30が取り付けられる合成樹脂製のラジエータサポート20に限らず、金属材料によって形成されたナット部を有する雌ねじ部材が取り付けられる樹脂部品であれば適用することができる。