本発明に係るカチオン染料で染色された立毛調人工皮革の一実施形態をその製造方法の一例に沿って詳しく説明する。
本実施形態の立毛調人工皮革の製造においては、はじめに、平均繊度0.07〜0.9dtexのカチオン染料可染性ポリエステルの極細繊維の繊維絡合体である不織布と、不織布に付与された、架橋構造を有し、且つ、酸基含有量が0.1mmol/g以下であるポリウレタンとを含む人工皮革生機を準備する。このような人工皮革生機は、例えば、次のように製造される。
はじめに、平均繊度0.07〜0.9dtexのカチオン染料可染性ポリエステルの極細繊維を形成可能な極細繊維発生型繊維の繊維絡合体を製造する。
極細繊維発生型繊維の繊維絡合体の製造においては、はじめに、極細繊維発生型繊維のウェブを製造する。ウェブの製造方法としては、例えば、極細繊維発生型繊維を溶融紡糸し、これを意図的に切断することなく長繊維のまま捕集する方法や、ステープルに切断した後、公知の絡合処理を施す方法等が挙げられる。長繊維とは、所定の長さで切断されていない連続繊維またはフィラメントであり、その長さとしては、例えば、100mm以上、さらには、200mm以上であることが繊維密度を充分に高めることができる点から好ましい。長繊維の上限は、特に限定されないが、連続的に紡糸された数m、数百m、数kmあるいはそれ以上の繊維長であってもよい。これらの中では、繊維の素抜けが発生しにくいために、素抜け防止のために含有させるポリウレタンの含有率を低減しやすい点から、長繊維のウェブを製造することが特に好ましい。本実施形態においては、代表例として、長繊維のウェブを製造する場合について詳しく説明する。
カチオン染料可染性ポリエステル繊維を形成可能な極細繊維発生型繊維とは、紡糸後の繊維に化学的な後処理または物理的な後処理を施すことにより、カチオン染料可染性ポリエステル繊維の極細繊維を形成可能な繊維である。その具体例としては、例えば、繊維断面において、マトリクスとなる海成分樹脂中にドメインとなる島成分樹脂としてカチオン染料可染性ポリエステルが分散されており、海成分樹脂を除去することにより、繊維束状のカチオン染料可染性ポリエステルの極細繊維を形成する海島型複合繊維や、物理的処理により繊維束状のカチオン染料可染性ポリエステルの極細繊維を形成する剥離分割型複合繊維、等が挙げられる。海島型複合繊維によれば、後述するニードルパンチ等の絡合処理を行う際に、割れ,折れ,切断等の繊維損傷が抑制される。本実施形態では、代表例として極細繊維発生型繊維として海島型複合繊維を製造する場合について詳しく説明する。
海島型複合繊維の長繊維のウェブは、海島型複合繊維を溶融紡糸し、切断せずに長繊維のままネット上に捕集することにより形成される。
島成分樹脂であるカチオン染料可染性ポリエステルは、酸基等のカチオン染料の染着座を有するポリエステルである。その具体例としては、単量体単位として、例えば、テレフタル酸単位を主成分とするジカルボン酸単位と、エチレングリコール単位を主成分とするジオール単位と、下記式(I)で表されるスルホン酸基等の酸基を有する単量体に由来する、スルホン酸基を有する単量体単位をさらに含むポリエステルが例示される。なお、主成分とするとは、ジカルボン酸単位またはジオール単位のうちの50モル%以上、好ましくは75モル%以上が、とくに好ましくは90モル%以上がテレフタル酸単位またはエチレングリコール単位であることを意味する。
[上記式(I)中、Rは水素、炭素数1〜10個のアルキル基又は2−ヒドロキシエチル基を表し、Xは、4級ホスホニウムイオン、4級アンモニウムイオン、ナトリウムイオン、リチウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属塩を表す。]
式(I)で表される化合物としては、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸,5−エチルトリブチルホスホニウムスルホイソフタル酸等の5−テトラアルキルホスホニウムスルホイソフタル酸や、5−テトラブチルアンモニウムスルホイソフタル酸,5−エチルトリブチルアンモニウムスルホイソフタル酸等の5−テトラアルキルアンモニウムスルホイソフタル酸、スルホイソフタル酸ナトリウム塩等のスルホイソフタル酸アルカリ金属塩等が挙げられる。式(I)で表される化合物は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、Xが4級ホスホニウムイオンまたは4級アンモニウムイオンである化合物、具体的には5−テトラアルキルホスホニウムスルホイソフタル酸や5−テトラアルキルアンモニウムスルホイソフタル酸が高速紡糸性に優れるととともに、繊維強度が高いことにより高い剥離強力が得られる点から好ましい。
カチオン染料可染性ポリエステル中の、酸基を有する単量体単位の割合は1.5〜3モル%、さらには1.6〜2.5モル%であることが好ましい。酸基を有する単量体単位の割合が低すぎる場合には、カチオン染料で染色するときの発色性が低下する傾向があり、高すぎる場合には、高速紡糸性が低下することにより極細繊維が得られにくくなるとともに、極細繊維の機械的特性が低下する傾向がある。
また、カチオン染料による染色性を向上させ、高速紡糸性を向上させ、また、立毛調人工皮革を成形用途に使う場合の賦形性を向上させるために、ガラス転移温度を低下させることを目的として、ジカルボン酸単位として、式(I)で表される単位を除く、その他のジカルボン酸単位を含んでもよい。その他のジカルボン酸単位の具体例としては、例えば、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸や、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等のシクロへキサンジカルボン酸成分や、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分等のその他のジカルボン酸に由来する単位が挙げられる。これらの中では、イソフタル酸、または、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸とアジピン酸との組み合わせを含有することが高い剥離強力を有する立毛調人工皮革が得られる点からとくに好ましい。
その他のジカルボン酸単位の割合は、2〜12モル%、さらには3〜10モル%であることが好ましい。その他のジカルボン酸単位の共重合割合が低すぎる場合には、ガラス転移温度が充分に低下せず、繊維内部における非晶部位の配向度が高くなるために染色性が低下する傾向がある。一方、その他のジカルボン酸単位の共重合割合が高すぎる場合には、ガラス転移温度が低下しすぎて、繊維内部における非晶部位の配向度が低くなるために繊維強度が低下し、またカチオン染料が脱落しやすくなる傾向がある。なお、その他のジカルボン酸単位としてイソフタル酸単位を含有する場合には、ジカルボン酸単位として、イソフタル酸単位が1〜6モル%、さらには2〜5モル%含有することが機械的特性と高速紡糸性に優れる点から好ましい。また、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸とアジピン酸とを含有する場合には、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸及びアジピン酸とをそれぞれ1〜6モル%、さらには2〜5モル%含有することが機械的特性と高速紡糸性に優れる点から好ましい。
カチオン染料可染性ポリエステルのガラス転移温度(Tg)は特に限定されないが、60〜70℃、さらには、60〜65℃であることが好ましい。Tgが高すぎる場合には高速延伸性が低下し、また、得られる立毛調人工皮革を熱成形して用いる場合に、賦形性が低下する傾向がある。
また、カチオン染料可染性ポリエステルは、濃色に着色されたポリエステル繊維を得るために、必要に応じて濃色顔料で着色されていることも好ましい。濃色顔料とは、顔料を添加していないナチュラル色のカチオン染料可染性ポリエステルの明度L*値を低下させることのできる顔料を意味する。このような濃色顔料の具体例としては、カーボンブラック等の黒色顔料、ウルトラマリン青,プロシア青(フェロシアン化鉄カリ)等の青色顔料、鉛丹,酸化鉄赤等の赤色顔料、黄鉛,亜鉛黄(亜鉛黄1種、亜鉛黄2種)等の黄色顔料等の無機顔料や、各色のフタロシアニン系,アントラキノン系,キナクリドン系,ジオキサジン系,イソインドリノン系,イソインドリン系,インジゴ系,キノフタロン系,ジケトピロロピロール系,ペリレン系,ペリノン系等の縮合多環系有機顔料、ベンズイミダゾロン系,縮合アゾ系,アゾメチンアゾ系等の不溶性アゾ系等の有機顔料が挙げられる。これらの中ではカーボンブラックが濃色に着色しやすく、耐光性に優れる点から好ましい。
カチオン染料可染性ポリエステルの極細繊維が濃色顔料を含有する場合、ポリエステル組成物中の濃色顔料の含有割合としては0.1〜10質量%であることが好ましく、目的とする平均繊度や目標色、顔料の種類に応じて適宜選択される。例えば、平均繊度が0.07〜0.3dtexの場合でL*値≦30に着色するためには0.1〜3質量%、L*値≦20に着色するためには0.1〜10質量%であることが好ましい。また、ポリエステル繊維の平均繊度が0.4〜0.9dtexでL*値≦30に着色するためには0.1〜2質量%、L*値≦20に着色するためには0.1〜8質量%であることが好ましい。ポリエステル組成物中の濃色顔料の含有割合が10質量%を超える場合には、得られるポリエステル繊維の機械的特性や溶融紡糸性が低下する傾向がある。
また、極細繊維を形成するポリエステル組成物中には、濃色顔料とともに、必要に応じて、例えば、亜鉛華,鉛白,リトポン,二酸化チタン,沈降性硫酸バリウム,バライト粉等の白色顔料や、コロイダルシリカ等のシリカを配合してもよい。また、耐候剤、防黴剤、加水分解防止剤、滑剤、微粒子、摩擦抵抗調整剤等を本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、配合してもよい。
海島型複合繊維における海成分樹脂としては、島成分樹脂とは溶剤に対する溶解性または分解剤に対する分解性を異にする熱可塑性樹脂が選ばれる。海成分樹脂の具体例としては、例えば、水溶性ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレンプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、スチレンエチレン樹脂、スチレンアクリル樹脂、等が挙げられる。
海島型複合繊維は、溶融紡糸機の口金から吐出された溶融状態の海島型複合繊維を冷却装置により冷却し、さらに、エアジェットノズル等の吸引装置により目的の繊度となるように牽引細化する溶融紡糸により製造される。牽引細化は、好ましくは1000〜6000m/分、さらに好ましくは2000〜5000m/分の引取速度に相当する高い紡糸速度になるような高速気流により行われる。そして、牽引細化された長繊維を移動式ネット等の捕集面上に堆積させることにより海島型複合繊維の長繊維のウェブが得られる。
海島型複合繊維の平均繊度はとくに限定されないが、0.5〜10dtex、さらには0.7〜5dtexであることが生産性に優れる点から好ましい。また、海島型複合繊維の断面における海成分樹脂と島成分樹脂との平均面積比は5/95〜70/30、さらには10/90〜50/50であることが海島構造を形成しやすい点から好ましい。また、海島型複合繊維の断面における島成分樹脂のドメインの数は特に限定されないが、工業的な生産性の点からは5〜1000個、さらには、10〜300個程度であることが好ましい。
また、必要に応じて、ウェブをプレスして部分的に圧着させることにより形態を安定化させてもよい。このようにして得られる長繊維ウェブの目付はとくに限定されないが、例えば、10〜1000g/m2の範囲であることが好ましい。
次に、得られたウェブに絡合処理を施すことにより海島型複合繊維の絡合ウェブを製造する。ウェブの絡合処理の具体例としては、例えば、ウェブをクロスラッパー等を用いて厚さ方向に複数層重ね合わせた後、その両面から同時または交互に少なくとも1つ以上のバーブが貫通する条件でニードルパンチする処理や水流交絡処理等が挙げられる。また、ウェブには海島型複合繊維の紡糸工程から絡合処理までのいずれかの段階において、油剤や帯電防止剤を付与してもよい。
海島型複合繊維の絡合ウェブは、必要に応じて、長繊維の絡合状態を緻密にするために熱収縮処理が施されてもよい。熱収縮処理の具体例としては、例えば、海島型複合繊維の絡合ウェブを水蒸気に接触させる方法や、海島型複合繊維の絡合ウェブに水を付与した後、水を加熱エアーや赤外線等の電磁波により加熱する方法が挙げられる。熱収縮処理における海島型複合繊維の絡合ウェブの目付の変化としては、収縮処理前の目付に比べて、1.1倍(質量比)以上、さらには、1.3倍以上で、2倍以下、さらには1.6倍以下であることが好ましい。また、海島型複合繊維の絡合ウェブを緻密化するとともに、海島型複合繊維の絡合ウェブの形態を固定化したり、表面を平滑化したりするために熱プレスを施してもよい。このようにして得られる海島型複合繊維の絡合ウェブの目付としては100〜2000g/m2程度の範囲であることが好ましい。なお、絡合状態は、得られる立毛調人工皮革の機械的特性に影響を与える。本実施形態においては、カチオン染料で染色した後の立毛調人工皮革が、厚さ1mm当たりの引裂強力が30N以上、剥離強力が3kg/cm以上、を有するようになる程度に緻密に絡合させることが好ましい。
海島型複合繊維の絡合ウェブから海成分樹脂を除去することにより、平均繊度0.07〜0.9dtexのカチオン染料可染性ポリエステル繊維を含む不織布が得られる。このようにして形成されたカチオン染料可染性ポリエステル繊維は繊維束を形成している。海島型複合繊維から海成分樹脂を除去する方法としては、海成分樹脂のみを選択的に除去しうる溶剤または分解剤で絡合ウェブを処理するような従来から知られた極細繊維の形成方法が特に限定なく用いられうる。具体的には、例えば、海成分樹脂として水溶性PVAを用いる場合には溶剤として熱水が用いられ、海成分樹脂として易アルカリ分解性の変性ポリエステルを用いる場合には、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ性分解剤が用いられる。
このようにして形成される極細繊維の平均繊度は0.07〜0.9dtexであり、好ましくは0.1〜0.3dtexである。このような繊度である場合には、濃色に発色させやすく、また、高品位の立毛調人工皮革が得られる。また、このようにして得られる極細繊維の不織布の目付は、140〜3000g/m2、さらには200〜2000g/m2であることが好ましい。また、極細繊維の不織布の見かけ密度は、0.45g/cm3以上、さらには0.50g/cm3以上であることが、緻密な不織布が形成されることにより、機械的特性に優れ、且つ、充実感のある不織布が得られる点から好ましい。上限は特に限定されないが0.70g/cm3以下であることがしなやかな風合いが得られ、また、生産性にも優れる点から好ましい。
立毛調人工皮革の製造においては、極細繊維発生型繊維を極細繊維化する前後の何れか一方または両方において、立毛調人工皮革の繊維の素抜け防止や剥離強力の向上、立毛調人工皮革に形態安定性や充実感を付与することを目的として、海島型複合繊維の絡合ウェブまたは極細繊維の不織布の、内部空隙にポリウレタンを含浸付与する。このとき、下記のようなポリウレタンを含浸付与することにより、カチオン染料を色移行させにくい立毛調人工皮革が得られる。
本実施形態で用いられる含浸付与されるポリウレタンは、カルボキシル基やスルホン酸基等の酸基を有し、架橋剤の反応による自己架橋構造を形成する自己架橋型の水性ポリウレタンや、ポリウレタンの製造原料に多官能性化合物を含有させた分岐型ウレタンプレポリマーをミセルの内部で鎖伸長させて内部架橋構造を形成する内部架橋型の水性ポリウレタンや、自己架橋型と内部架橋型の架橋により架橋構造を形成する水性ポリウレタンに由来するポリウレタンであって、架橋構造を有し、且つ、酸基含有量が0.1mmol/g以下であるポリウレタンである。
なお、水性ポリウレタンとは、エマルジョンまたはサスペンションに調製されたポリウレタンまたはウレタンプレポリマー(以下、これらをまとめて単にポリウレタンとも称する)に由来するポリウレタンである。エマルジョンまたはサスペンションとしては、例えば、ウレタン骨格に酸基を導入したアニオン性の親水基、ウレタン骨格にアンモニウム基等のイオン性基を導入したカチオン性の親水基、またはウレタン骨格に非イオン性の親水基を導入した自己乳化型ポリウレタンのエマルジョンまたはサスペンション;親水基を有さないポリウレタンを乳化剤で強制乳化したポリウレタンの強制乳化型エマルジョンや、自己乳化型ポリウレタンと強制乳化型ポリウレタンとを併用したポリウレタンのエマルジョンまたはサスペンションが挙げられる。これらの中では、とくに、ウレタン骨格に酸基を導入したアニオン性の親水基を有する自己乳化型ポリウレタンや、親水基を有さないポリウレタンの強制乳化型エマルジョンまたはサスペンションが酸基含有量を調整しやすく、分散安定性に優れる点から好ましい。エマルジョンまたはサスペンションにおける分散粒子の平均粒子径としては、0.01〜1μm、さらには、0.03〜0.5μmであることが好ましい。
各ポリウレタンは、例えば、イソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物(A)、高分子ポリオール化合物(B)、鎖伸長剤(C)及び、必要に応じて用いられる多官能性化合物や酸基含有化合物等を含むウレタン原料を反応させることにより生成される。
ポリイソシアネート化合物(A)は、イソシアネート基を2個以上有する化合物である。その具体例としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート,イソホロンジイソシアネート,ノルボルネンジイソシアネート,4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂肪族あるいは脂環族ジイソシアネート等の無黄変型ジイソシアネート;2,4−トリレンジイソシアネート,2,6−トリレンジイソシアネート,4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート,キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;イソシアヌレート型,ビウレット型,アダクト型等の3官能や4官能のイソシアネート等の分岐構造を与える多官能性化合物である、多官能イソシアネートやそのイソシアネートブロック体、等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、機械的特性に優れるポリウレタンが得られる点から、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましく、耐光性や機械的特性に優れるポリウレタンが得られる点から、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の無黄変イソシアネートが好ましい。また、ポリウレタンに内部架橋構造を形成させるための分岐構造を与えるためには、多官能イソシアネートやそのイソシアネートブロック体が好ましい。
また、高分子ポリオール化合物(B)はヒドロキシ基を2個以上有する高分子ポリオール化合物である。その具体例としては、例えば,ポリヘキサメチレンカーボネートジオール,ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンカーボネート)ジオール,ポリペンタメチレンカーボネートジオール,ポリテトラメチレンカーボネートジオール等のポリカーボネート系ジオールまたはそれらの共重合体;ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,ポリテトラメチレングリコール,ポリ(メチルテトラメチレングリコール)等のポリエーテル系ジオールまたはそれらの共重合体;ポリブチレンアジペートジオール,ポリブチレンセバケートジオール,ポリヘキサメチレンアジペートジオール,ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンアジペート)ジオール,ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンセバケート)ジオール,ポリカプロラクトンジオール等のポリエステル系ジオールまたはそれらの共重合体;ポリエステルカーボネートジオール等の高分子ジオールが挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ポリカーボネート系ジオールを60質量%以上含むことが、耐久性と柔軟性と充実感とのバランスにより優れた立毛調人工皮革が得られる点から好ましい。
また、高分子ポリオール化合物(B)には、ポリウレタンに内部架橋構造を形成させるための分岐構造を与えるための多官能性化合物として、トリメチロールプロパン等のトリオール類や、ペンタエリスリトール等のペンタオール類等の多官能低分子ポリオールを配合してもよい。また、高分子ポリオール化合物(B)には、ポリウレタンに自己乳化性を付与するとともに、架橋剤と反応させて自己架橋構造を形成させるための酸基含有化合物として、ポリウレタンの骨格にアニオン性基を導入するための酸基を有する低分子ポリオール化合物を配合してもよい。
酸基を有する低分子ポリオール化合物の具体例としては、例えば、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)ブタン酸、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)ヘプタン酸、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)オクタン酸等のカルボキシル基含有ジオール;3-(2,3-ヒドロキシプロポキシ)-1-プロパンスルホン酸等のスルホン酸基含有ジオール;N,N-ビス(2-ヒドロキシアルキル)スルファミン酸及びそのアルキルエーテル付加物等のスルファミン酸基含有ジオール、等またはこれらの化合物の塩が挙げられる。各化合物の塩としては、例えば、アンモニウム塩,アミン塩,アルカリ金属塩等が特に限定なく用いられる。アミン塩としては、例えば、メチルアミン,エチルアミン,プロピルアミン及びオクチルアミン等の1級モノアミンの塩;ジメチルアミン,ジエチルアミン,ジブチルアミン等の2級モノアミンの塩;トリメチルアミン,トリエチルアミン,トリエタノールアミン,N-メチルジエタノールアミン,N.N-ジメチルエタノールアミン,N-メチルピペリジン,N-メチルモルホリン,ベンジルジメチルアミン,α-メチルベンジルジメチルアミン及びN-ジメチルアニリン等の3級モノアミンの塩等が挙げられ、アルカリ金属塩としては、例えば、ナトリウム,カリウム,リチウム等の塩が挙げられる。酸基を有する低分子ポリオール化合物は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中ではとくに、カルボキシル基含有ジオールが架橋剤との反応性に優れている点から好ましい。
また、鎖伸長剤(C)は水酸基やアミノ基等の活性水素を有する官能基を2個以上有する低分子化合物である。鎖伸長剤(C)の具体例としては、例えば、ヒドラジン,エチレンジアミン,プロピレンジアミン,ヘキサメチレンジアミン,ノナメチレンジアミン,キシリレンジアミン,イソホロンジアミン,ピペラジンおよびそれらの誘導体;アジピン酸ジヒドラジド,イソフタル酸ジヒドラジド等のジアミン類;ジエチレントリアミン等のトリアミン類;トリエチレンテトラミン等のテトラミン類;エチレングリコール,プロピレングリコール,1,4−ブタンジオール,1,6−ヘキサンジオール,1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン,1,4−シクロヘキサンジオール等のジオール類;アミノエチルアルコール,アミノプロピルアルコール等のアミノアルコール類等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ヒドラジン,エチレンジアミン,ヘキサメチレンジアミン,ピペラジン,イソホロンジアミン及びそれらの誘導体;ジエチレントリアミン等のトリアミンが耐光性,機械的特性に優れるポリウレタンが得られる点から好ましい。
また、鎖伸長剤(C)には、ポリウレタンに内部架橋構造を形成させるための分岐構造を与えるための多官能性化合物として、トリメチロールプロパン等のトリオール類;ペンタエリスリトール等のペンタオール類;ジエチレントリアミン等のトリアミン類;トリエチレンテトラミン等のテトラミン類等の多官能低分子ポリオールを配合してもよい。また、鎖伸長剤(C)には、ポリウレタンに自己乳化性を付与するとともに、架橋剤と反応させて自己架橋構造を形成させるための酸基含有化合物として、ウレタン骨格にアニオン性基を導入するための酸基を有する低分子ポリオール化合物を配合してもよい。また、鎖伸長剤(C)とともに、エチルアミン,プロピルアミン,ブチルアミン等のモノアミン類;4-アミノブタン酸,6-アミノヘキサン酸等のカルボキシル基含有モノアミン化合物;メタノール,エタノール,プロパノール,ブタノール等のモノオール類を配合してもよい。
本実施形態のポリウレタンは上述のようなウレタン原料を反応させて形成されるポリウレタン、またはポリウレタンを架橋剤により架橋させて形成される、架橋構造を有し、且つ、酸基含有量が0.1mmol/g以下であり、好ましくは0.09mmol/g以下、さらに好ましくは0.08mmol/g以下、とくに好ましくは0.06mmol/g以下である。なお、酸基を有さないポリウレタンを反応させて形成される強制乳化型ポリウレタンの酸基含有量は0mmol/gである。また、酸基を有する自己乳化型ポリウレタンの酸基含有量は0〜0.1mmol/gであることが好ましい。さらに、自己乳化型ポリウレタンと強制乳化型ポリウレタンの併用のポリウレタンの酸基含有量は0〜0.1mmol/gであることが好ましい。ポリウレタン中の酸基含有量が0.1mmol/gを超える場合には、カチオン染料で染色された立毛調人工皮革に含まれるポリウレタンの酸基にカチオン染料がイオン結合してポリウレタンがカチオン染料で染色されるため、得られる立毛調人工皮革は、ポリウレタンに存在するカチオン染料が加熱した際に色移行しやすくなる。なお、酸基含有量は、厳密には、立毛調人工皮革の製造の際のカチオン染料で染色する直前の人工皮革生機のポリウレタンの酸基含有量であり、架橋剤を併用する場合は、架橋反応後のポリウレタンの酸基含有量である。
なお、架橋後のポリウレタンは溶剤に溶解しない。そのために、ポリウレタンの酸基含有量は、ポリウレタンを合成する際に用いられる、ポリイソシアネート化合物(A),高分子ポリオール化合物(B)及び鎖伸長剤(C)及び必要に応じて配合される化合物を含むウレタン原料の組成から算出できる。また、エマルジョン中のポリウレタンの酸価から算出することもできる。具体的には、架橋前のポリウレタンのエマルジョンまたはサスペンションを水酸化カリウム(KOH)で中和滴定して酸価を算出し、得られた酸価をKOHの分子量56.11で除することによりポリウレタンの酸基含有量を算出できる。そして、自己架橋構造を有するポリウレタンの場合には、ポリウレタンの酸基含有量と架橋剤の酸基と反応する官能基とのモル当量から、未反応の酸基の量として架橋後のポリウレタンの酸基含有量を算出できる。
架橋構造としては、上述のように、カルボキシル基やスルホン酸基等の酸基を有するポリウレタンの酸基と架橋剤との反応により形成される自己架橋構造や、ウレタン原料に多官能性化合物を配合して製造される分岐型ウレタンプレポリマーをミセルの内部で鎖伸長させて内部架橋構造を形成させた内部架橋型の水性ポリウレタンや、自己架橋構造と内部架橋構造とを併存させた架橋構造が挙げられる。そして、本実施形態の立毛調人工皮革の不織布に付与されるポリウレタンは、架橋構造の種類によらず、酸基含有量が0.1mmol/g以下に調整されている。
自己架橋構造を有するポリウレタンは、代表的には、ポリウレタンを形成するウレタン骨格に導入された酸基と架橋剤との反応による架橋構造を有する。ポリウレタンに残存した酸基には、カチオン染料がイオン結合するために染色されやすくなる。酸基にイオン結合したカチオン染料は脱離して他の物品に色移行しやすい。そのために、本実施形態においては、ウレタン骨格に酸基を導入したポリウレタンを用いる場合には、架橋剤による架橋度を高めることにより、酸基含有量を0.1mmol/g以下に調整する。
架橋剤としては、酸基と反応する分子内に2個以上の官能基を有する架橋剤であればとくに限定なく用いられる。このような架橋剤の具体例としては、例えば、カルボジイミド系架橋剤,エポキシ系架橋剤,オキサゾリン系架橋剤,アジリジン系架橋剤等が挙げられる。ウレタン骨格に導入された酸基を架橋剤と反応させて自己架橋構造を形成させて酸基を消費させることにより、ポリウレタンの酸基含有量を0.1mmol/g以下に調整することができる。
ウレタン骨格に導入される酸基は、上述したような、酸基含有化合物を用いて導入されることが好ましい。ウレタン骨格に導入される酸基としては、カルボキシル基,スルホン酸基,スルファミン酸基、またはそれらの塩が挙げられる。
なお、架橋剤で架橋される前のポリウレタンの酸基含有量は、とくに限定されないが、0.4mmol/g以下、さらには0.25mmol/g以下、とくには0.15mmol/g以下であることが好ましい。
一方、内部架橋構造を有するポリウレタンは、多官能性化合物を配合したウレタン原料を反応させて得られる分岐型ウレタンプレポリマーをミセルの内部で鎖伸長させて形成される。
架橋構造を有するポリウレタンの架橋度は、ウレタン原料中の多官能性化合物や酸基含有化合物や架橋剤の量により調整できる。架橋度に相関するポリウレタンの130℃の熱水膨潤率としては、20%以下、さらには10%以下、とくには5%以下であることが好ましい。なお、ポリウレタンの130℃の熱水膨潤率は、不織布に付与されるポリウレタンの厚さ200±25μmで1辺10cmの正方形のフィルムを130℃の熱水に1時間浸漬したときの重量膨潤率である。ポリウレタンの130℃の熱水膨潤率が高すぎる場合には架橋度が低いことを示し、カチオン染料で染色する際に膨潤しすぎてカチオン染料がポリウレタン中に残存しやすくなる傾向がある。
また、ポリウレタンの架橋度が低い場合には、ジメチルホルムアミドやメチルエチルケトン等のポリウレタンと親和性の高い溶剤に溶解しやすくなる。架橋度に相関するポリウレタンのジメチルホルムアミドに25℃で24時間浸漬した際の重量減少率としては、60質量%以下、好ましくは40質量%以下、さらには20質量%以下であることが好ましい。なお、ポリウレタンのジメチルホルムアミドに25℃で24時間浸漬した際の重量減少率は、不織布に付与されるポリウレタンの厚さ200±25μmで1辺10cmの正方形のフィルムをジメチルホルムアミドに25℃で24時間浸漬したときのポリウレタンの重量減少率である。
さらに、ポリウレタンのフィルムをジメチルホルムアミドに25℃で24時間浸漬した際の重量膨潤率は500%以下、さらには400%以下であることが好ましい。また、ポリウレタンのフィルムをメチルエチルケトンに室温で24時間浸漬した際の重量膨潤率は400%以下、さらには300%以下であることが好ましい。
また、ポリウレタンの架橋度が低い場合には熱軟化温度が低くなる。その場合には、熱によりカチオン染料が移行しやすくなる。そのために、ポリウレタンの熱軟化温度としては、170℃以上、さらには180℃以上であることが好ましい。ポリウレタンの熱軟化温度が低過ぎる場合には、カチオン染料で染色する際にポリウレタンが軟化してポリウレタンにカチオン染料が吸尽されやすくなったり、染色の際にポリウレタンが脱落したりしやすくなったり、熱によりカチオン染料が移行しやすくなったりする傾向がある。
また、ポリウレタンの100%モジュラスは1〜8MPaであることが、しなやかさや充実感に優れた立毛調人工皮革が得られる点から好ましい。ポリウレタンの100%モジュラスが低すぎる場合にはカチオン染料で染色する際に軟化して、カチオン染料で染色されやすくなって色移行性が低下しやすくなる傾向があり、また、外観品位が低下する場合がある。100%モジュラスが高すぎる場合には立毛がザラザラした手触りとなりやすい傾向がある。
ポリウレタンは、本発明の効果を損なわない範囲で、カーボンブラック等の顔料や染料等の着色剤、凝固調節剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、防黴剤、浸透剤、消泡剤、滑剤、撥水剤、撥油剤、増粘剤、増量剤、硬化促進剤、発泡剤、ポリビニルアルコールやカルボキシメチルセルロース等の水溶性高分子化合物、無機微粒子、導電剤等をさらに含有してもよい。なお、ポリウレタンが顔料を含有する場合、0.1〜20質量%、さらには0.1〜10質量%であることが好ましい。ポリウレタン中の顔料の含有割合が高すぎる場合には剥離強力が低下する傾向があり、また、耐色移行性が低下する傾向がある。
海島型複合繊維の絡合ウェブまたは極細繊維の不織布の、内部空隙にポリウレタンのエマルジョンまたはサスペンションを含浸させる方法としては、例えば、ナイフコーター、バーコーター、又はロールコーター、または、ディッピング・ニップによりエマルジョンまたはサスペンションを海島型複合繊維の絡合ウェブまたは極細繊維の不織布に付与し、乾燥することによりポリウレタンを凝固させる方法が挙げられる。乾燥方法としては、50〜200℃の乾燥機中で熱処理する方法や、赤外線加熱の後に乾燥機中で熱処理する方法、スチーム処理した後に乾燥機で熱処理する方法、或いは、超音波加熱の後に乾燥機で熱処理する方法、並びに、これらを組み合わせた方法等が挙げられる。
なお、海島型複合繊維の絡合ウェブまたは極細繊維の不織布の、内部空隙にエマルジョンまたはサスペンションを含浸付与した後、乾燥する場合、エマルジョンまたはサスペンションが海島型複合繊維の絡合ウェブまたは極細繊維の不織布の表層に移行(マイグレーション)することにより、均一な充填状態が得られないことがある。このような場合には、エマルジョンまたはサスペンションの分散粒子径を調整すること;ポリウレタンのイオン性基の種類や量を調整すること;40〜100℃程度の温度によってpHが変わるアンモニウム塩を利用し分散安定性を低下させること;1価または2価のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩、ノニオン系乳化剤、会合型水溶性増粘剤、水溶性シリコーン系化合物等の会合型感熱ゲル化剤、または、水溶性ポリウレタン系化合物を併用することにより、40〜100℃程度における分散安定性を低下させること:等によりマイグレーションを抑制することができる。また、ゲル化、固化、または乾燥後に120〜170℃程度で熱処理するキュア処理を行うことによりカチオン染料で染色するときの膨潤を低減することもできる。
このようにして平均繊度0.07〜0.9dtexのカチオン染料可染性ポリエステルの極細繊維の繊維絡合体である不織布と、不織布に付与された、架橋構造を有し、且つ、酸基含有量が0.1mmol/g以下であるポリウレタンとを含む人工皮革生機が得られる。そして、人工皮革生機を、必要に応じて厚さ方向に垂直な方向に複数枚にスライスしたり、研削したりすることにより厚さ調節し、さらに、少なくとも一面をバフィングすることにより少なくとも一面が立毛面である立毛調人工皮革の生機が得られる。バフィングは、例えば、120〜600番手程度のサンドペーパーやエメリーペーパーを用いて行うことが好ましい。立毛調人工皮革の起毛された繊維の長さは特に限定されないが、1〜500μm、さらには、30〜200μmであることが天然のヌバック調皮革のようなきめ細かな短毛感に立毛面が形成される点から好ましい。
海島型複合繊維を極細繊維化処理した場合、海成分樹脂が除去されることにより繊維束状の極細繊維が形成される。そして、繊維束の内部に空隙が形成される。極細繊維化処理を施した後の極細繊維の不織布にエマルジョンまたはサスペンションを含浸させた場合、エマルジョンまたはサスペンションが毛細管現象により繊維束の内部の空隙に浸透しやすくなり、繊維束状の極細繊維が強く拘束されて極細繊維の素抜けが起こりにくくなり、また、剥離強力も向上する。そのために、立毛調人工皮革の製造においては、海島型複合繊維の絡合ウェブに第1のポリウレタンを付与した後、立毛調人工皮革の生機にさらに第2のポリウレタンを付与することにより、繊維束の内部の空隙にポリウレタンを付与するような工程を経ることがとくに好ましい。第1のポリウレタンと第2のポリウレタンとの比率は、特に限定されない。また第2のポリウレタンは、立毛調人工皮革の生機の表面、裏面、全面の何れに付与しても良い。
立毛調人工皮革の生機はカチオン染料を用いて染色される。カチオン染料を用いて染色を行うと、カチオン染料がイオン結合によりカチオン染料可染性ポリエステルの、例えば式(I)で表される単位中に含まれるスルホニウムイオンのアニオン性基等の染着座に固定されるため、優れた染色堅牢性が得られる。
カチオン染料の具体例としては、C.I.Basic Blue 3,C.I.Basic Blue 6,C.I.Basic Blue 10,C.I.Basic Blue 12,C.I.Basic Blue 75,C.I.Basic Blue 96等のオキサジン系カチオン染料;C.I.Basic Blue 54,C.I.Basic Blue 159,C.I.Basic Red 29,C.I.Basic Red 46等のアゾ系カチオン染料;C.I.Basic Yellow 40等のクマリン系カチオン染料;C.I.Basic Yellow 21等のメチン系カチオン染料;C.I.Basic Yellow 28等のアゾメチン系カチオン染料;C.I.Basic Violet 11 等のキサンテン系バイオレットカチオン染料等が挙げられる。これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。カチオン染料は染料液中で溶解してカチオン性を示す例えば4級アンモニウム基等を有する染料イオンとなってカチオン染料可染性ポリエステルにイオン結合する。
染色方法は特に限定されないが、例えば、液流染色機、ビーム染色機、ジッガー等の染色機を用いて染色する方法が挙げられる。染色加工の条件としては、高圧で染色しても常圧で染色しても良く、染色温度は特に限定されないが、80〜130℃、さらには95〜125℃であることが好ましい。また、染色の際に、酢酸や芒硝のような染色助剤を用いてもよい。
本実施形態においては、カチオン染料により染色された立毛調人工皮革を、アニオン系界面活性剤を含有する湯浴中で洗浄処理することにより、結合力の低いカチオン染料を除去することが好ましい。このような洗浄処理により、とくにポリウレタンに吸収されたカチオン染料が充分に除去されて得られる染色された立毛調人工皮革の色移りを充分に抑制することができる。アニオン系界面活性剤の具体例としては、例えば、日成化成(株)製のソルジンR,センカ(株)製のセンカノールA−900,明成化学工業(株)製のメイサノールKHM等が挙げられる。
アニオン系界面活性剤を含有する湯浴中での洗浄処理は、50〜100℃、さらには60〜80℃の湯浴で行うことが好ましい。また、湯浴の槽としては、染色処理を行った染色機を用いることが製造工程が簡略化できる点から好ましい。
洗浄時間としては、JIS法(JIS L 0846)による水堅牢度の綿汚染の判定が4−5級以上になるような時間であることが好ましく、具体的には、10〜30分間、さらには、15〜20分間程度であることが好ましい。また、この洗浄を2回以上繰り返してもよい。このように染色及び洗浄処理された立毛調人工皮革は乾燥される。なお、上述した洗浄方法等により、カチオン染料中の洗浄可能な塩素を染色された立毛調人工皮革の重量に対して、90ppm以下程度にまで充分に洗浄することにより、カチオン染料の色移りを充分に抑制することができる。
また、立毛調人工皮革の生機は、さらに必要に応じて、各種仕上げ処理が施されてもよい。仕上げ処理としては、揉み柔軟化処理、逆シールのブラッシング処理、防汚処理、親水化処理、滑剤処理、柔軟剤処理、酸化防止剤処理、紫外線吸収剤処理、蛍光剤処理、難燃剤処理、高分子弾性体処理等が挙げられる。また、立毛調人工皮革の生機には、必要に応じて、濃色化処理、例えば、アクリル、シリコーン、フッ素等の低屈折率ポリマー処理、アルカリ減量処理、コロイダルシリカや低造膜性ポリマーを含浸処理、繊維中にコロイダルシリカ等の添加処理、プラズマ等のエッチング処理を行う等によって繊維表面に微細な凹凸を形成する、或いは、透明液状ポリマー処理、例えば、シリコーンオイル、パラフィンオイル、フッ素系オイル等を処理して繊維表面を濡れ状態とする、等も優美さが向上することから好ましい方法として例示される。
立毛調人工皮革は、カチオン染料で染色されており、不織布と不織布の内部に付与されたポリウレタンとを含み、少なくとも一面に立毛面を有する立毛調人工皮革であり、不織布は、平均繊度0.07〜0.9dtexのカチオン染料可染性ポリエステル繊維を含み、ポリウレタンは架橋構造を有し、且つ、酸基含有量が0.1mmol/g以下である。このような立毛調人工皮革によれば、L*値≦30のような濃色に着色した場合にも色移行しにくい立毛調人工皮革が得られる。例えば、湿潤条件及び乾燥条件における,荷重4kPa,180℃,180秒間、の条件におけるポリエステル布帛に対する色移行性評価の色差級数判定が3級以上である立毛調人工皮革を得ることができる。
立毛調人工皮革中のポリウレタンの含有割合としては、0.1〜30質量%、さらには1〜20質量%、とくには5〜15質量%であることが、他物品と高温、例えば、150〜200℃で接触した場合や塩化ビニルフィルム等の高分子弾性体と接着された場合に色移行しにくく、さらには、立毛調人工皮革の立毛性が良好になり、ポリウレタンと不織布との2色感が現れにくく、反発感の少ないしなやかな風合いが得られやすい点から好ましい。
立毛調人工皮革の明度はL*値≦30であり、L*値≦25、さらにはL*値≦23であることが好ましい。
また、立毛調人工皮革の湿潤条件及び乾燥条件で,荷重4kPa,180℃,180秒間、の条件における綿布帛に対する色移行性評価の色差級数判定が3級以上であり、さらには3−4級以上であることが好ましい。
また、荷重750g/cm2,50℃,16時間の条件における塩化ビニルフィルムへの色移行性評価における色移行前後の前記塩化ビニルフィルムの色差が、ΔE*≦2.0であること、さらにはΔE*≦1.5であることが好ましい。
また、JIS L0842に準拠した紫外線カーボンアーク灯光に対する耐光堅ろう度試験において、変退色用グレースケールを用いた色差級数判定が4級以上、さらには4−5級以上であることが好ましい。
立毛調人工皮革の厚みは特に限定されないが、0.2〜4mm、さらには、0.5〜2.5mmであることが好ましい。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は実施例により何ら限定されるものではない。
[実施例1]
海成分樹脂としてエチレン変性ポリビニルアルコール、島成分樹脂としてカーボンブラック(CB)を1.0質量%含有するスルホン酸基を有するカチオン染料可染性PETを、それぞれ個別に溶融させた。なお、カチオン染料可染性PETは、スルホイソフタル酸のテトラブチルホスホニウム塩単位1.7モル%,1,4-シクロヘキサンジカルボン酸単位5モル%,アジピン酸単位5モル%を含有し、ガラス転移温度62℃である、カチオン染料可染性ポリエチレンテレフタレートである。
そして、海成分中に均一な断面積の島成分が25個分布した断面を形成しうるような、多数のノズル孔が並列状に配置された複合紡糸用口金に、それぞれの溶融樹脂を供給した。このとき、海成分樹脂と島成分樹脂との質量比が海成分樹脂/島成分樹脂=25/75となるように圧力調整しながら供給した。そして、口金温度260℃に設定されたノズル孔より溶融繊維を吐出させた。そして、ノズル孔から吐出された溶融繊維を平均紡糸速度が3700m/分となるように気流の圧力を調節したエアジェットノズル型の吸引装置で吸引することにより延伸し、長繊維の繊度2.1dtexの海島型複合繊維を高速紡糸した。紡糸された海島型複合繊維は、可動型のネット上に、ネットの裏面から吸引しながら連続的に堆積された。そして、表面の毛羽立ちを抑えるために、ネット上に堆積された海島型複合繊維を42℃の金属ロールで軽く押さえた。そして、海島型複合繊維をネットから剥離し、表面温度75℃の格子柄の金属ロールとバックロールとの間を通過させることにより、線圧200N/mmで熱プレスした。このようにして、表面の繊維が格子状に仮融着された目付32g/m2の長繊維のウェブが得られた。
次に、得られたウェブの表面に、帯電防止剤を混合した油剤をスプレー付与した後、クロスラッパー装置を用いてウェブを12枚重ねて総目付が380g/m2の重ね合せウェブを作成し、さらに、針折れ防止油剤をスプレーした。そして、重ね合せウェブをニードルパンチにより三次元絡合処理して絡合ウェブを得た。具体的には、針先端から第1バーブまでの距離が3.2mmの6バーブ針を用い、針深度8.3mmで積層体の両面から交互に3300パンチ/cm2のパンチ数でニードルパンチした。このニードルパンチによる重ね合せウェブの面積収縮率は18%であり、絡合ウェブの目付は500g/m2であった。さらに、絡合ウェブを巻き取りライン速度10m/分で70℃、50%RH雰囲気下に30秒間通すことで湿熱収縮を生じさせた。湿熱収縮処理による絡合ウェブの面積収縮率は47%であった。
そして、湿熱収縮処理された絡合ウェブに第1のポリウレタンのエマルジョンを含浸付与した後、湿熱によりゲル化させた後、150℃で乾燥させることにより、第1のポリウレタンを付与した。
なお、第1のポリウレタンのエマルジョンは、それぞれ固形分として、非晶性ポリカーボネートであるポリウレタンA15質量%、カルボジイミド1モル当たりの分子量425であるカルボジイミド系架橋剤 0.7質量%、硫酸アンモニウム(ゲル化剤)2.5質量%を、含む自己乳化型エマルジョンであった。ポリウレタンAは、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸(DMPA)の単量体単位を0.75質量%含有し、酸価7.55KOHmg/g、カルボキシ基含有量である酸基含有量が0.135mmol/gであり、内部架橋構造と自己架橋構造を形成する。また、カルボジイミド系架橋剤は、ポリウレタンAに含まれるカルボキシル基に対して0.8モル当量に相当し、架橋後のポリウレタン中の酸基含有量は0.026mmol/gであった。また、第1のポリウレタンの100%モジュラスは、3.0MPaであった。
そして、第1のポリウレタンを付与された絡合ウェブを95℃の熱水中で繰り返しディップニップ処理を行って海島型複合繊維中のPVAを溶解除去することにより、カチオン染料可染性ポリエステル繊維の不織布と、不織布の内部に付与された第1のポリウレタンとを含む人工皮革生機を得た。人工皮革生機は、平均繊度0.2dtexのカチオン染料可染性ポリエステル繊維を12本含む繊維束が3次元的に交絡した不織布を含み、第1のポリウレタンの含有率は9.5質量%であった。
そして、人工皮革生機をスライスして厚み方向に2分割し、一面をバフィングして厚さ0.55mmに調整することにより、目付310g/m2、見掛け密度0.56g/cm3である立毛調人工皮革の生機を得た。
そして、立毛調人工皮革の生機にさらに第2のポリウレタンのエマルジョンを含浸付与した後、130℃で乾燥させることにより第2のポリウレタンを付与した。
なお、第2のポリウレタンのエマルジョンは、それぞれ固形分として、ポリウレタンA1質量%、カルボジイミド1モル当たりの分子量425であるカルボジイミド系架橋剤0.05質量%を含む自己乳化型エマルジョンであった。また、カルボジイミド系架橋剤は、ポリウレタンAに含まれるカルボキシル基に対して0.8モル当量に相当し、架橋後のポリウレタン中の酸基含有量は0.026mmol/gであった。第2のポリウレタンの含有率は0.5質量%であった。また、第2のポリウレタンの100%モジュラスは、3.0MPaであった。そして、第1のポリウレタンと第2のポリウレタンの酸基含有量の総量は、0.026mmol/gであった。
そして、第2のポリウレタンを付与された立毛調人工皮革の生機をカチオン染料で染色することにより、カチオン染料で染色された濃紺の立毛調人工皮革を得た。なお、カチオン染料による染色は次のように行った。
カチオン染料(BLACK8%owf、 RED1%owf、Yellow1%owf)、紫外線吸収剤3%owf、染色助剤として90%酢酸1g/Lを含有する120℃の染色浴に立毛調人工皮革の生機を浴比1:30の割合で40分間浸漬して染色した。そして、同一染色浴で、アニオン系界面活性剤としてソルジンR2g/Lを含有する湯浴を用いて70℃で20分間洗浄する工程を2回繰り返した。そして、洗浄後、乾燥することにより、カチオン染料で染色された濃紺の立毛調人工皮革を得た。
このようにして得られた立毛調人工皮革は、平均繊度0.2dtexの長繊維の不織布を含み、片面に立毛面を有する立毛調人工皮革であった。また、立毛調人工皮革は厚み0.6mmで、目付310g/m2、見掛け密度0.52g/cm3であった。
そして、得られた立毛調人工皮革の各種特性を次のようにして評価した。
(発色性(明度L*値))
分光光度計(ミノルタ(株)製:CM−3700)を用いて、JISZ 8729に準拠して、切り出された染色された立毛調人工皮革の表面のL*a*b*表色系の座標値から明度L*値を求めた。L*値は、試験片から平均的な位置を万遍なく選択して測定された3点の平均値である。
(ポリウレタンの熱軟化温度)
立毛調人工皮革の製造に用いたエマルジョンを用いて厚さ200μmのポリウレタンのキャストフィルムを作成した。そして、ポリウレタンのキャストフィルムを130℃で30分間熱処理した後、粘弾性測定装置(レオロジ社製FTレオスペクトラー「DVE−V4」)を用いて、周波数11Hz、昇温速度3℃/分で加熱し、貯蔵弾性率E‘が1.0MPaとなる温度を熱軟化温度とした。
(ポリウレタンの130℃熱水膨潤率)
立毛調人工皮革の製造に用いたエマルジョンを用いて厚さ200±25μmで1辺10cmの正方形のキャストフィルムを作成した。そして、キャストフィルムを140℃で熱処理した後、25℃、65%RH雰囲気下で1晩放置した後、質量(W0)を測定した。そして、そのキャストフィルムを130℃の熱水に1時間浸漬した後、70℃に降温してキャストフィルムを取り出した。そして、取り出したキャストフィルムの表面に付着した余分な水分を拭き取って、その直後に質量(W)を測定した。そして、下記式に従い熱水膨潤率を算出した。
ポリウレタンの130℃熱水膨潤率(%)=[(W−W0)/W0]×100
(湿潤条件及び乾燥条件における,荷重4kPa,180℃,180秒間、の条件における布帛に対する耐色移行性)
立毛調人工皮革から10cm×4cmの試験片を切りだした。そして、JIS L0850ホットプレッシングに対する染色堅ろう度試験方法のA−3法に準じて、試験台の上に湿潤または乾燥させた布帛(ポリエステル編布、綿編布)を載せ、その上に湿潤または乾燥させた試験片を載せ、さらにその上に湿潤または乾燥させた編布を載せ、180±1℃×180秒、4kPaの条件で乾熱乾燥機に放置し、取り出した。そして、各々の編布で級数判定した。
(塩化ビニルフィルムへの耐色移行性)
立毛調人工皮革から3cm×5cmの試験片を切りだした。そして、切り出された立毛調人工皮革の表面に厚さ0.8mmの塩化ビニルフィルム(白色)を重ね、荷重が750g/cm2となるように均一に圧力をかけた。そして、50℃、相対湿度15%の雰囲気下で16時間放置した。そして、色移り前の塩化ビニルフィルムと色移り後の塩化ビニルフィルムとの色差ΔEを、分光光度計を用いて測定し、以下の基準で判定した。
5級 :0.0≦ΔE*≦0.2
4−5級:0.2<ΔE*≦1.4
4級 :1.4<ΔE*≦2.0
3−4級:2.0<ΔE*≦3.0
3級 :3.0<ΔE*≦3.8
2−3級:3.8<ΔE*≦5.8
2級 :5.8<ΔE*≦7.8
1−2級:7.8<ΔE*≦11.4
1級 :11.4<ΔE*
(紫外線カーボンアーク灯光に対する耐光堅ろう度)
JIS L0842に基づき、スエード調人工皮革の表面に、紫外線フェードメーター(スガ試験機(株)製U48)を照射し、20時間毎に試験片を取り出して、変退色用グレースケールと比較し、最長100時間として、4号色差が生じるまでの時間からJIS級数判定した。
(品位〈2色感及び触感〉)
立毛調人工皮革から20cm×20cmの試験片を切りだした。そして、試験片の表面を目視したときの外観と表面の触感を以下の基準で判定した。
A:目視したときに繊維と高分子弾性体の2色感がなく、さらっとした触感であった。
B:目視したときに繊維と高分子弾性体の色が異なって2色感が認められ、優美さに劣った。
C:表面がザラザラとした触感であって表面タッチに劣っていた。
D:色が薄く、外観の優美さに劣っていた。
E:ラフな立毛で、外観の優美さに劣っていた。
結果を下記表1に示す。
[実施例2]
島成分の島数を36島として平均繊度を0.08dtexとし、島成分に含有させたカーボンブラックの含有割合を5質量%とし、また、第1のポリウレタン及び第2のポリウレタンを付与するためのエマルジョンを下記のエマルジョンに変更した以外は実施例1と同様にして立毛調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
(第1のポリウレタンのエマルジョン)
それぞれ固形分として、非晶性ポリカーボネートウレタンを形成するポリウレタンB 15質量%、エポキシ1モル当たりの分子量173であるエポキシ系架橋剤0.7質量%、硫酸アンモニウム 3.0質量%を、含む自己乳化型エマルジョンを用いた。ポリウレタンBは、DMPAの単量体単位を1.2質量%含み、酸価12.1KOHmg/g、酸基含有量が0.22mmol/gであり、内部架橋構造と自己架橋構造とを形成する。また、エポキシ系架橋剤は、ポリウレタンBに含まれるカルボキシル基に対して1.2モル当量に相当し、架橋後のポリウレタン中の酸基含有量は0mmol/gであった。第1のポリウレタンの含有率は9.5質量%であった。また、ポリウレタンは、100%モジュラスが4.0MPaであった。
(第2のポリウレタンのエマルジョン)
それぞれ固形分として、ポリウレタンB 1質量%、エポキシ系架橋剤 0.05質量%を含む自己乳化型エマルジョンを用いた。なお、エポキシ系架橋剤は、ポリウレタンBに含まれるカルボキシル基に対して1.2当量に相当し、架橋後の酸基含有量は0mmol/gであった。第2のポリウレタンの含有率は0.5質量%であった。また、第2のポリウレタンの100%モジュラスは、4.0MPaであった。そして、第1のポリウレタンと第2のポリウレタンの酸基含有量の総量は、0mmol/gであった。
[実施例3]
島成分の島数を5島として平均繊度を0.5dtexとし、島成分に含有させたカーボンブラックの含有割合を2.5質量%とし、また、第1のポリウレタン及び第2のポリウレタンを付与するためのエマルジョンを下記のエマルジョンに変更した以外は実施例1と同様にして立毛調人工皮革を得た。そして、得られた立毛調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
(第1のポリウレタンのエマルジョン)
それぞれ固形分として、非晶性ポリカーボネートウレタンを形成するポリウレタンC 15質量%、オキサゾリン1モル当たりの分子量550であるオキサゾリン系架橋剤0.18質量%、硫酸アンモニウム 1.0質量%を、含む自己乳化型エマルジョンを用いた。ポリウレタンCは、DMPAの単量体単位を0.6質量%含み、酸価6.2KOHmg/g、酸基含有量が0.11mmol/gであり、内部架橋構造と自己架橋構造を形成する。また、オキサゾリン系架橋剤は、ポリウレタンCに含まれるカルボキシル基に対して0.2モル当量に相当し、架橋後のポリウレタン中の酸基含有量は0.088mmol/gであった。第1のポリウレタンの含有率は9.5質量%であった。また、第1のポリウレタンの100%モジュラスは、2.5MPaであった。
(第2のポリウレタンのエマルジョン)
固形分として、ポリウレタンC 1質量%を含む自己乳化型のエマルジョンを用いた。なお、架橋剤は併用しなかった。ポリウレタン中の酸基含有量は0.11mmol/gであった。第2のポリウレタンの含有率は0.5質量%であった。また、第2のポリウレタンの100%モジュラスは、2.4MPaであった。そして、第1のポリウレタンと第2のポリウレタンの酸基含有量の総量は、0.089mmol/gであった。
[実施例4]
島成分に含有させたカーボンブラックの含有割合を3.5質量%とし、また、第1のポリウレタン及び第2のポリウレタンを付与するためのエマルジョンを下記のエマルジョンに変更した以外は実施例1と同様にして立毛調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
(第1のポリウレタンのエマルジョン)
それぞれ固形分として、酸基を含有しない非晶性ポリカーボネートウレタンを形成するポリウレタンD 15質量%、硫酸アンモニウム 2.0質量%を、含む強制乳化型エマルジョンを用いた。ポリウレタンDは、トリオール基を有する単量体に由来する単量体単位を0.2質量%、トリアミン基を有する単量体に由来する単量体単位を1.8質量%含み、酸価0KOHmg/g、酸基含有量が0mmol/gであり、内部架橋構造のみを形成し、架橋剤の反応による自己架橋構造を形成しない。架橋後の酸基含有量は0mmol/gである。第1のポリウレタンの含有率は9.5質量%であった。また、第1のポリウレタンの100%モジュラスは、3.0MPaであった。
(第2のポリウレタンのエマルジョン)
固形分として、ポリウレタンD 3質量%を含む強制乳化型エマルジョンを用いた。第2のポリウレタンの含有率は0.5質量%であった。また、第2のポリウレタンの100%モジュラスは、3.0MPaであった。そして、第1のポリウレタンと第2のポリウレタンの酸基含有量の総量は、0mmol/gであった。
[実施例5]
第1のポリウレタン及び第2のポリウレタンを付与するためのエマルジョンを下記のエマルジョンに変更した以外は実施例1と同様にして立毛調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
(第1のポリウレタンのエマルジョン)
それぞれ固形分として、非晶性ポリカーボネートウレタンを形成するポリウレタンE 25質量%、カルボジイミド1モル当たりの分子量425であるカルボジイミド系架橋剤0.9質量%、硫酸アンモニウム 1.0質量%を、含む強制乳化自己乳化併用型エマルジョンを用いた。ポリウレタンEは、DMPAの単量体単位を0.6質量%含み、酸価7.6KOHmg/g、酸基含有量が0.135mmol/gであり、自己架橋構造のみを形成する。また、エポキシ系架橋剤は、ポリウレタンEに含まれるカルボキシル基に対して1.0モル当量に相当し、架橋後の酸基含有量は0mmol/gであった。第1のポリウレタンの含有率は14質量%であった。また、第1のポリウレタンの100%モジュラスは、3.0MPaであった。
(第2のポリウレタンのエマルジョン)
それぞれ固形分として、ポリウレタンE 2質量%、カルボジイミド1モル当たりの分子量425であるカルボジイミド系架橋剤 0.1質量%を含む強制乳化自己乳化併用型エマルジョンを用いた。なお、カルボジイミド系架橋剤は、ポリウレタンEに含まれるカルボキシル基に対して1.0モル当量に相当し、架橋後の酸基含有量は0mmol/gであった。第2のポリウレタンの含有率は1.0質量%であった。また、第2のポリウレタンの100%モジュラスは、3.0MPaであった。そして、第1のポリウレタンと第2のポリウレタンの酸基含有量の総量は、0mmol/gであった。
[実施例6]
島成分の島数を4島として平均繊度を0.9dtexとし、島成分に含有させたカーボンブラックの含有割合を0.2質量%とし、また、第1のポリウレタン及び第2のポリウレタンを付与するためのエマルジョンを下記のエマルジョンに変更した以外は実施例1と同様にして立毛調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
(第1のポリウレタンのエマルジョン)
それぞれ固形分として、非晶性ポリカーボネートウレタンを形成するポリウレタンF 25質量%、アジリジン1モル当たりの分子量168であるアジリジン系架橋剤0.22質量%、硫酸アンモニウム 2.5質量%を、含む自己乳化型エマルジョンを用いた。ポリウレタンFは、DMPAの単量体単位を0.75質量%含み、酸価7.55KOHmg/g、酸基含有量が0.135mmol/gであり、内部架橋構造と自己架橋構造を形成する。また、アジリジン系架橋剤は、ポリウレタンFに含まれるカルボキシル基に対して0.65モル当量に相当し、架橋後の酸基含有量は0.05mmol/gであった。第1のポリウレタンの含有率は9.5質量%であった。また、第1のポリウレタンの100%モジュラスは、3.0MPaであった。
(第2のポリウレタンのエマルジョン)
固形分として、非晶性ポリカーボネートウレタンを形成するポリウレタンG 1質量%の、強制乳化自己乳化併用型エマルジョンを用いた。ポリウレタンGは、DMPAの単量体単位を0.4質量%含み、酸価5.0KOHmg/g、酸基含有量が0.09mmol/gであり、自己架橋構造のみを形成する。架橋後の酸基含有量は0.09mmol/gである。第2のポリウレタンの含有率は0.5質量%であった。また、第2のポリウレタンの100%モジュラスは、3.0MPaであった。そして、第1のポリウレタンと第2のポリウレタンの酸基含有量の総量は、0.05mmol/gであった。
[比較例1]
島成分樹脂としてカチオン染料可染性PETを用いた代わりに、酸基を有しない、カーボンブラック1.0質量%を含有する6モル%のイソフタル酸を単量体単位として含有する変性ポリエチレンテレフタレ−トを用い、さらに、カチオン染料で染色する代わりに、分散染料で染色し、アルカリ還元、酸洗浄、水洗処理を行うことにより染色した以外は実施例1と同様にして立毛調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
[比較例2]
島成分の島数を64島として平均繊度を0.05dtexとし、また、第2のポリウレタンを付与する工程を省略した以外は実施例1と同様にして立毛調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
[比較例3]
第1のポリウレタン及び第2のポリウレタンを付与するために用いたエマルジョンとして、ポリウレタン中に架橋構造を有しておらず、また、架橋剤を配合していない下記のエマルジョンに変更した以外は実施例1と同様にして立毛調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
(第1のポリウレタンのエマルジョン)
固形分として、非晶性ポリカーボネートウレタンを形成するポリウレタンH 15質量%、硫酸アンモニウム 2.5質量%を、含む自己乳化型エマルジョンを用いた。ポリウレタンHは、DMPAの単量体単位を0.75質量%含み、酸価7.55KOHmg/g、酸基含有量が0.135mmol/gであり、架橋構造を形成しない。第1のポリウレタンの含有率は9.5質量%であった。また、第1のポリウレタンの100%モジュラスは、2.5MPaであった。
(第2のポリウレタンのエマルジョン)
固形分として、ポリウレタンH 1質量%を含む自己乳化型エマルジョンであった。第2のポリウレタンの含有率は0.5質量%であった。また、第2のポリウレタンの100%モジュラスは、100%モジュラスが2.5MPaであった。そして、第1のポリウレタンと第2のポリウレタンの酸基含有量の総量は、0.135mmol/gであった。
[比較例4]
実施例1で用いた第1のポリウレタン及び第2のポリウレタンを付与するためのエマルジョンとして、架橋剤を減量して架橋度を低下させた下記のエマルジョンに変更した以外は実施例1と同様にして立毛調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
(第1のポリウレタンのエマルジョン)
それぞれ固形分として、非晶性ポリカーボネートウレタンを形成するポリウレタンI 15質量%、カルボジイミド1モル当たりの分子量425であるカルボジイミド系架橋剤0.09質量%、硫酸アンモニウム 2.5質量%を、含む自己乳化型エマルジョンを用いた。ポリウレタンIは、DMPAの単量体単位を0.75質量%含み、酸価7.55KOHmg/g、酸基含有量が0.135mmol/gであり、内部架橋構造と自己架橋構造を形成する。また、カルボジイミド系架橋剤は、ポリウレタンIに含まれるカルボキシル基に対して0.1モル当量に相当し、架橋後の酸基含有量は0.12mmol/gであった。第1のポリウレタンの含有率は9.5質量%であった。また、第1のポリウレタンの100%モジュラスは、100%モジュラスが2.8MPaであった。
(第2のポリウレタンのエマルジョン)
それぞれ固形分として、ポリウレタンI 1質量%、カルボジイミド1モル当たりの分子量425であるカルボジイミド系架橋剤0.006質量%を、含む自己乳化型エマルジョンを用いた。カルボジイミド系架橋剤は、ポリウレタンIに含まれるカルボキシル基に対して0.1モル当量に相当し、架橋後の酸基含有量は0.12mmol/gであった。第2のポリウレタンの含有率は0.5質量%であった。また、第2のポリウレタンの100%モジュラスは、2.8MPaであった。そして、第1のポリウレタンと第2のポリウレタンの酸基含有量の総量は、0.122mmol/gであった。
[比較例5]
島成分にカーボンブラックを配合せず、また、第1のポリウレタン及び第2のポリウレタンを付与するためのエマルジョンを下記のエマルジョンに変更した以外は実施例1と同様にして立毛調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
(第1のポリウレタンのエマルジョン)
それぞれ固形分として、非晶性ポリカーボネートウレタンを形成するポリウレタンJ 15質量%、イソシアネート系架橋剤 1.5質量%、硫酸アンモニウム2.5質量%を、含む自己乳化型エマルジョンを用いた。ポリウレタンJは、DMPAの単量体単位を0.75質量%含み、酸価7.55KOHmg/g、酸基含有量が0.135mmol/gであり、内部架橋構造を形成する。なお、イソシアネート系架橋剤は、カルボキシル基と反応せず、架橋後の酸基含有量は0.135mmol/gであった。第1のポリウレタンの含有率は9.5質量%であった。また、第1のポリウレタンの100%モジュラスは、3.0MPaであった。
(第2のポリウレタンのエマルジョン)
それぞれ固形分として、ポリウレタンJ 1質量%、イソシアネート系架橋剤0.1質量%を、含む自己乳化型のエマルジョンを用いた。第2のポリウレタンの含有率は0.5質量%であった。また、第2のポリウレタンの100%モジュラスは、3.0MPaであった。そして、第1のポリウレタンと第2のポリウレタンの酸基含有量の総量は、0.135mmol/gであった。
表1を参照すれば、本発明に係る実施例1〜6の立毛調人工皮革は何れも、L*値が25以下と濃色であって、耐光堅ろう度が4級以上、熱プレスでのポリエステル布帛、綿布帛への耐色移行性は乾燥、湿潤条件の何れも4級以上、塩化ビニルフィルム耐色移行性も4級以上であって、品位にも優れていた。
一方、分散染料で染色された比較例1の立毛調人工皮革は、熱プレスでの耐色移行性が低かった。また、平均繊度が低い比較例2の立毛調人工皮革は、発色しにくく、耐光堅ろう度、熱プレスでの耐色移行性が劣り、また、黒度が不足して品位も劣っていた。酸基含有量が多く、架橋構造も有さないポリウレタンを含む比較例3の立毛調人工皮革は、耐光堅ろう度、耐色移行性、品位が劣っていた。また、架橋構造は有するが酸基含有量が多い比較例4の立毛調人工皮革は、耐光堅ろう度、耐色移行性、品位が劣っていた。繊維に顔料を添加せず、カチオン染料だけで染色し、酸基含有量も多い比較例5の立毛調人工皮革は、耐光堅ろう度、耐色移行性、品位が劣っていた。