JP2010229603A - 銀付調皮革様シートおよびその製造方法 - Google Patents

銀付調皮革様シートおよびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】天然皮革により近い性質を有する銀付調皮革様シート、および、該銀付調皮革用シートを合理的で低コスト、かつ低環境負荷で製造することできる製造方法を提供する。
【解決手段】極細長繊維を複数本含む繊維束が3次元的に交絡した絡合不織布とその内部に含有された高分子弾性体からなる皮革様シート1の表面に該極細長繊維および/または該極細長繊維の繊維束同士が融着してなる融着層を形成していることを特徴とする銀付調皮革様シートであり、かつ前記銀付調皮革様シートの製造方法。
【選択図】図1

Description

本発明は、天然皮革調の銀付調皮革様シートおよびその製造方法に関する。さらに詳しくは、天然皮革に匹敵する低反発性と充実感を兼ね備え、かつ、十分な実用強度を有する銀付調皮革様シート、およびその合理的にして低コスト化が可能で、かつ環境に配慮した製造方法に関するものである。
従来、天然皮革様の柔軟性のある皮革様シートが種々提案されている。例えば、1dtex以下の極細繊維からなる絡合不織布にポリウレタン樹脂を含浸し、湿式凝固させて得た基材に、離型紙上にポリウレタン樹脂を塗布して作成したフィルムを貼り合わせて得られる皮革様シート、前記と同様の基材にポリウレタン溶液を塗布し、湿式凝固させた後、ポリウレタン樹脂着色塗料をグラビアロールコーティングして得られる皮革様シート(例えば特許文献1)、海島繊維からなる絡合不織布にポリウレタン樹脂を含浸し、湿式凝固させた後、海島繊維の一成分を溶剤等で溶出除去し0.1〜0.2de以下の極細繊維からなる極細繊維束とし、該極細繊維束からなる基材に上記の表面仕上げ加工を施すことにより得られる皮革様シートが提案されている(例えば特許文献2、3)。
また、特許文献4には、弾性重合体が含浸された繊維集合体とその表面に形成された被覆層からなり、被覆層が架橋型シリコン変性ポリウレタン樹脂からなる皮革様シートが提案されている。
しかし、これらの皮革様シートは、ポリウレタン樹脂特有のゴムライクな反発感が強い。従って、天然皮革様の低反発性と充実感を兼ね備え、かつ、十分な実用強度を有する皮革様シートは未だ得られていない。
また、上記皮革様シートはいずれも有機溶剤を多用する方法により製造されている。また、該製造方法は工程が複雑なので製造コストの上昇やリードタイムの長期化が避けられない。離型紙法とグラビアロールコーティング法による造面(銀面層の形成)では、水に分散させた高分子弾性体を使用することが可能であるが、絡合不織布中の高分子弾性体との相溶性が不十分である。また、使用する水分散高分子弾性体自体の凝集力が弱いので、絡合不織布と銀面層の界面で剥離しやすく、十分な表面強度が得られない。更に、通常の有機溶剤を使用する製造ラインを、水分散高分子弾性体を使用する製造ラインに援用するとVOC(揮発性有機化合物)が排出される。
従って、VOC排出が抑制された低環境負荷の製造方法にするためには別に新ラインを作る必要があり、初期投資費用が高くなるという問題がある。
一方、弾性繊維を主体とした不織布(A)と非弾性繊維を主体とした不織布(B)が、不織布(A)が表面となるように積層されている繊維質基材、および繊維質基材を構成する少なくとも不織布(B)の内部に高分子弾性体が充填され、さらに表面の弾性繊維が主に溶融し銀面層を形成した銀付き調皮革様シートが提案されている(特許文献5)。
しかし、特許文献5に記載の銀付き調皮革様シートは、ポリウレタン等の弾性ポリマーからなる繊維ウェブとナイロン6等の非弾性ポリマーからなる繊維ウェブを積層し、ニードルパンチにより絡合させるが、各繊維ウェブは、短繊維により形成されている。すなわち、短繊維から繊維ウェブを得るには、例えば、極細繊維発生型繊維を紡糸、延伸、捲縮、熱固定、カット、短繊維を得て、これをカード解繊し、ウェバーを通してランダムウェブまたはクロスウェブとし、それぞれ少なくとも弾性ポリマーからなる繊維のウェブ(Wa)、少なくとも非弾性ポリマーからなる繊維のウェブ(Wb)を形成し、所望の重さ、厚さに積層する必要がある。このため、少なくとも2台以上のカード解繊機を使用する必要がある。
短繊維の製造では、一般的に延伸、捲縮、カットなどの設備能力や生産速度等に伴う効率等から、紡糸に直結して短繊維を製造することは難しく、紡糸と延伸以降の工程が分断されるため、工数を要しコスト高となる。また、ウェブの製造でも、短繊維原綿の開維、カード解繊工程のための高額設備を要する。
さらに、銀面層の形成は、熱溶融によるときは、エンボスロールや平板エンボスなどにより行うことができるが、エンボス温度とプレス圧力の調整によって、弾性繊維の溶融具合を調整するので、完全に溶融させると表面強度の高い、外観の良好な銀面が得られるが、通気・透湿性が低下し、溶融程度を半溶融状態にするとポリウレタン繊維間の隙間が完全には塞がらず、通気性を有する銀付調皮革様シートが得られる等、弾性繊維の密度やエンボス条件によっては、通気性に優れた銀付調皮革様シートを得ることが可能ではあるが、条件の設定が難しく、また、表面の風合いも必ずしも満足できるものではない。
また、特許文献5では、弾性繊維を主体とした不織布(A)と非弾性繊維を主体とした不織布(B)が、不織布(A)が表面となるように積層され、表面の弾性繊維が主に溶融し銀面層を形成しているが、この方法で十分な銀面を得ようとすると、弱いニードルパンチ条件で不織布(B)と不織布(A)を絡合させざるを得ず、その結果、不織布(B)と不織布(A)の界面で剥離を生じやすく、靴やインテリアなど高耐久用途への適用は困難であった。一方、強いニードルパンチ条件で不織布(B)と不織布(A)を絡合させると、最表面付近での弾性繊維を主体とした不織布(A)の存在量が少なくなり、その結果、銀面層の形成が不十分となり、高級な平滑性を発現させることが困難であった。
以上述べたように、環境に配慮した合理的な銀付調人工皮革の製造方法や、生産性がよくコスト低減が可能な銀付調人工皮革の製造方法が求められているが、そのような要望を満足する製造方法は未だ見出されていない。
特公昭63−5518号公報 特開平4−185777号公報 特許3187357号公報 特開2000−248472号公報 特開2005−2481号公報
本発明の目的は、上記問題を解決し、天然皮革により近い性質を有する銀付調皮革様シート、および、該銀付調皮革様シートを合理的で低コスト、かつ低環境負荷で製造することができる製造方法を提供することである。
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、上記目的を達成する銀付調皮革様シートおよび環境負荷が少なく、かつ低コスト化が可能な製造方法を見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、
〔1〕極細長繊維を複数本含む繊維束が3次元的に交絡した絡合不織布とその内部に含有された高分子弾性体からなる皮革様シートの表面に該極細長繊維および/または該極細長繊維の繊維束同士が融着してなる融着層を形成していることを特徴とする銀付調皮革様シート、
〔2〕融着層が、高分子弾性体と極細長繊維および/または極細長繊維の繊維束が融着している前記〔1〕に記載の銀付調皮革様シート、
〔3〕融着層の厚みが、10μm〜2000μmであり、かつ銀付調皮革様シートの全厚みの5〜40%である前記〔1〕または〔2〕に記載の銀付調皮革様シート、
〔4〕融着層が、極細繊維束形成性長繊維に由来する極細長繊維束からなる絡合不織布に高分子弾性体を含浸凝固させた皮革様シートの表面を、非接触加熱による溶融一体化処理により形成されたものであり、長手方向に直交する任意の断面の樹脂充填率が75%以上である前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の銀付調皮革様シート、
〔5〕前記極細長繊維が着色されている前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の銀付調皮革様シート、
〔6〕前記絡合不織布の湿潤時の剥離強力が2kg/10mm以上である前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の銀付調皮革様シート、
〔7〕高分子弾性体が、着色剤を含む前記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の銀付調皮革様シート、
〔8〕高分子弾性体と極細長繊維の質量比が0.001〜0.6である前記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の銀付調皮革様シート、
〔9〕前記極細長繊維が、海成分が水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールであり、島成分が水不溶性熱可塑性ポリマーである海島型断面長繊維から該海成分を除去して得られる前記〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の銀付調皮革様シート、
〔10〕高分子弾性体がポリウレタンエラストマー、アクリロニトリルエラストマー、オレフィンエラストマー、ポリエステルエラストマー、およびアクリルエラストマーからなる群から選ばれる少なくとも一種のエラストマーである前記〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の銀付調皮革様シート、
〔11〕下記の順次工程:
(1)極細繊維束形成性長繊維からなる長繊維ウェブを製造する工程、
(2)前記長繊維ウェブに絡合処理を施し、絡合ウェブを製造する工程、
(3)前記絡合ウェブ中の極細繊維束形成性長繊維を平均繊度0.001〜2dtexの極細長繊維を複数本含む平均単繊度0.5〜10dtexの繊維束に変換し、絡合不織布を製造する工程、
(4)高分子弾性体と前記極細長繊維の質量比が0.001〜0.6となるように、前記絡合不織布に前記高分子弾性体の水分散体または水溶液を含浸し、熱を加えて高分子弾性体を前記絡合不織布の両表面に移行させ、凝固して皮革様シートを製造する工程、および
(5)前記皮革様シートの表面を非接触加熱して、極細長繊維および/または極細長繊維の繊維束とを融着させて銀面を形成する工程
を含む銀付調皮革様シートの製造方法、及び
〔12〕前記工程(5)の後または工程(5)で極細長繊維および極細長繊維の繊維束との融着面が形成された直後、極細長繊維および極細長繊維の繊維束との融着面を冷却ロールに接触させて表面に意匠を付与する請求項11に記載の銀付調皮革様シートの製造方法、
を提供する。
本発明の銀付調皮革様シートは、表面が、極細長繊維および/または該極細長繊維の繊維束との融着一体化層(以下、「表面層」または「銀面層」ということもある。)を形成している。このような表面層の極細長繊維同士の融着一体化状態さらには高分子弾性体との融着一体化状態により、本発明の銀付調皮革様シートは、天然皮革に匹敵する低反発性と充実感を兼ね備え、かつ、ある程度の通気性、透湿性および十分な実用強度を有すると共に天然皮革調の細かい折れシワ感を得ることができる。
また、表面層の絡合不織布は融着されており、かつ、表面層と基体層(主に繊維として残る絡合不織布部分)の極細長繊維束は連続しているので、銀付調部分(銀面層)の層間剥離の懸念がない。
本発明の銀付調皮革様シートの製造方法は、極細長繊維からなる連続繊維により直接長繊維ウェブを形成し、これを基に基体層となる絡合不織布を形成し、かつ表面層を融着一体化する合理的な方法なので、従来の短繊維絡合不織布による場合と比較して、高物性かつ低コスト化を図ることができる。
実施例1により得られた本発明の銀付調皮革様シートの長手方向の断面及び表面を示す走査型電子顕微鏡写真(50倍)である。
本発明の銀付調皮革様シートは、極細長繊維を複数本含む繊維束が3次元的に交絡した絡合不織布とその内部に含有された高分子弾性体からなる銀付調皮革様シートであって、銀付調皮革様シートの表面層が、極細長繊維と極細長繊維の繊維束との融着層を形成している。
本発明の銀付調皮革様シートは、下記の順次工程により製造することができる。
(1)海島型長繊維を用いて、極細繊維束形成性長繊維からなる長繊維ウェブを製造する工程、
(2)前記長繊維ウェブに絡合処理を施し、絡合ウェブを製造する工程、
(3)前記絡合ウェブ中の極細繊維束形成性長繊維を平均繊度0.001〜2dtexの極細長繊維を複数本含む平均単繊度0.5〜10dtexの繊維束に変換し、絡合不織布を製造する工程、
(4)高分子弾性体と前記極細長繊維の質量比が0.001〜0.6となるように、前記絡合不織布に前記高分子弾性体の水分散体または水溶液を含浸し、熱を加えて高分子弾性体を前記絡合不織布の両表面に移行させ、凝固して皮革様シートを製造する工程、および
(5)前記皮革様シートの表面を非接触加熱して、極細長繊維および/または極細長繊維の繊維束とを融着させて銀面を形成する工程。
以下、各工程および各工程で得られる繊維構造体について詳述する。
工程(1)では、海島型長繊維等で代表される極細繊維束形成性長繊維からなる長繊維ウェブを製造する。海島型長繊維は少なくとも2種類のポリマーからなる多成分系複合繊維であって、海成分ポリマー中にこれとは異なる種類の島成分ポリマーが分散した断面を有する。海島型長繊維は、絡合不織布構造体に形成した後、高分子弾性体を含浸させる前または後に海成分ポリマーを抽出または分解して除去することで、残った島成分ポリマーからなる極細長繊維が複数本集まった繊維束に変換される。
島成分ポリマーとしては、特に限定されるものではないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエステルエラストマー等のポリエステル系樹脂またはそれらの変性物;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、芳香族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、ポリアミドエラストマー等のポリアミド系樹脂またはそれらの変性物;ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリエステル系ポリウレタンなどのポリウレタン系樹脂など、公知の繊維形成性の水不溶性熱可塑性ポリマーが挙げられる。これらの中でも、PET、PTT、PBT、これらの変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂は、熱処理により収縮しやすく、充実感のある風合いを有し、耐磨耗性、耐光性、形態安定性などの実用的性能が優れた皮革様シート製品が得られる点で特に好ましい。また、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂はポリエステル系樹脂に比べて吸湿性があってしなやかな極細長繊維が得られるので、膨らみ感のある柔らかな風合いを有し、帯電防止性などの実用的性能が良好な皮革様シート製品が得られる点で特に好ましい。
島成分ポリマーの融点は160℃以上であるのが好ましく、融点が180〜330℃であり結晶性であるのがより好ましい。融点は後述する方法で求めた。島成分ポリマーには、着色剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、消臭剤、防かび剤、抗菌剤、各種安定剤などが添加されていてもよい。特に顔料等の着色剤を添加することで、後工程で染色しなくともまたは染色条件を弱めて繊維を着色することができ堅牢度の向上と銀面の着色を容易にすることが可能となる。
海島型長繊維を極細長繊維の繊維束に変換する際に、海成分ポリマーは溶剤または分解剤により抽出または分解除去される。従って、海成分ポリマーは溶剤に対する溶解性または分解剤による分解性が島成分ポリマーよりも大きいことが必要である。海島型長繊維の紡糸安定性の点から島成分ポリマーとの親和性が小さく、かつ、紡糸条件において溶融粘度及び/又は表面張力が島成分ポリマーより小さいことが好ましい。このような条件を満たす限り海成分ポリマーは特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−エチレン共重合体、スチレン−アクリル共重合体、ポリビニルアルコール系樹脂などが好ましく用いられる。有機溶剤を用いることなく銀付調皮革様シートを製造することができるので、海成分ポリマーに水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(水溶性PVA)を用いるのが特に好ましい。
前記水溶性PVAの粘度平均重合度(以下、単に重合度と略記する)は200〜500が好ましく、230〜470がより好ましく、250〜450がさらに好ましい。重合度が200以上であると、溶融粘度が適度で島成分ポリマーとの複合化が容易である。重合度が500以下であると、溶融粘度が高すぎて紡糸ノズルから樹脂を吐出することが困難となる問題を避けることができる。重合度500以下のいわゆる低重合度PVAを用いることにより、熱水で溶解するときに溶解速度が速くなるという利点も有る。水溶性PVAの重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、水溶性PVAを再ケン化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η]から次式により求められる。
P=([η]103/8.29)(1/0.62)
水溶性PVAのケン化度は90〜99.99モル%が好ましく、93〜99.98モル%がより好ましく、94〜99.97モル%がさらに好ましく、96〜99.96モル%が特に好ましい。ケン化度が90モル%以上であると、熱安定性が良く、熱分解やゲル化することなく満足な溶融紡糸を行うことができ、生分解性も良好である。更に後述する共重合モノマーによって水溶性が低下することがなく、極細化が容易になる。ケン化度が99.99モル%よりも大きい水溶性PVAは安定に製造することが難しい。
水溶性PVAの融点(Tm)は、160〜230℃が好ましく、170〜227℃がより好ましく、175〜224℃がさらに好ましく、180〜220℃が特に好ましい。融点が160℃以上であると、結晶性が低下して繊維強度が低くなることがなく、熱安定性が悪くなり繊維化が困難になることも避けることができる。融点が230℃以下であると、PVAの分解温度より低い温度で溶融紡糸することができ、海島型長繊維を安定に製造することができる。
水溶性PVAは、ビニルエステル単位を主体として有する樹脂をケン化することにより得られる。ビニルエステル単位を形成するためのビニル化合物単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられ、これらの中でも水溶性PVAを容易に得る点からは酢酸ビニルが好ましい。
水溶性PVAは、ホモPVAであっても共重合単位を導入した変性PVAであってもよいが、溶融紡糸性、水溶性、繊維物性の観点からは、変性PVAを用いることが好ましい。共重合単量体としては、共重合性、溶融紡糸性および繊維の水溶性の観点から、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数4以下のα−オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類が好ましい。炭素数4以下のα−オレフィン類および/またはビニルエーテル類に由来する単位の量は、変性PVA構成単位の1〜20モル%が好ましく、4〜15モル%がより好ましく、6〜13モル%がさらに好ましい。さらに、共重合単量体がエチレンであると繊維物性が高くなるので、エチレン単位を好ましくは4〜15モル%、より好ましくは6〜13モル%含む変性PVAが好ましい。
水溶性PVAは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法で製造される。その中でも、無溶媒あるいはアルコールなどの溶媒中で重合する塊状重合法や溶液重合法が好ましい。溶液重合の溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどの低級アルコールが挙げられる。共重合に使用される開始剤としては、a、a’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシカーボネートなどのアゾ系開始剤または過酸化物系開始剤などの公知の開始剤が挙げられる。重合温度については特に制限はないが、0〜150℃の範囲が適当である。
従来の皮革様シートの製造においては、極細繊維束形成性長繊維を任意の繊維長にカットして得たステープルにより繊維ウェブを製造していたが、本発明では、スパンボンド法などにより紡糸した海島型長繊維(極細繊維束形成性長繊維)をカットすることなく長繊維ウェブにする。海島型長繊維は前記の海成分ポリマーと島成分ポリマーを複合紡糸用口金から押出すことにより溶融紡糸する。紡糸温度(口金温度)は180〜350℃が好ましい。口金から吐出した溶融状態の海島型長繊維を冷却装置により冷却した後、エアジェットノズルなどの吸引装置を用いて、目的の繊度となるように1000〜6000m/分の引取り速度に相当する速度の高速気流により牽引細化し、移動式ネットなどの捕集面上に堆積させて実質的に無延伸の長繊維からなるウェブを形成する。必要に応じて、得られた長繊維ウェブをプレス等により部分的に圧着して形態を安定化させてもよい。このような長繊維ウェブ製造方法は、従来の短繊維を用いる繊維ウェブ製造方法では必須の原綿供給装置、開繊装置、カード機などの一連の大型設備を必要としないので生産上有利である。また、長繊維ウェブおよびそれを用いて得られる皮革様シートは連続性の高い長繊維からなるので、従来一般的であった短繊維ウェブおよびそれを用いて製造した皮革様シートに比べて、強度などの物性においても優れている。
海島型長繊維の平均断面積は30〜800μm2であるのが好ましい。海島型長繊維の断面において、海成分ポリマーと島成分ポリマーの平均面積比(ポリマー体積比に相当)は5/95〜70/30が好ましい。得られた長繊維ウェブの目付は10〜1000g/m2が好ましい。
本発明において、長繊維とは、繊維長が通常3〜80mm程度である短繊維よりも長い繊維長を有する繊維であり、短繊維のように意図的に切断されていない繊維をいう。例えば、極細化する前の長繊維の繊維長は100mm以上が好ましく、技術的に製造可能であり、かつ、物理的に切れない限り、数m、数百m、数kmあるいはそれ以上の繊維長であってもよい。
工程(2)では、前記長繊維ウェブに絡合処理を施して絡合ウェブを得る。前記長繊維ウェブを、必要に応じてクロスラッパー等を用いて厚さ方向に複数層重ね合わせた後、両面から同時または交互に少なくとも1つ以上のバーブが貫通する条件でニードルパンチする。パンチング密度は、300〜6000パンチ/cm2の範囲が好ましく、より好ましくは500〜4500パンチ/cm2の範囲である。上記範囲内であると、充分な絡合が得られ、海島型長繊維のニードルによる損傷が少ない。該絡合処理により、海島型長繊維同士が三次元的に絡合し、厚さ方向に平行な断面において海島型長繊維が平均600〜4000個/mm2の密度で存在する、海島型長繊維が極めて緻密に集合した絡合ウェブが得られる。長繊維ウェブにはその製造から絡合処理までのいずれかの段階で油剤を付与してもよい。必要に応じて、70〜150℃の温水に浸漬するなどの収縮処理によって、長繊維ウェブの絡合状態をより緻密にしてもよい。また、熱プレス処理を行なうことで海島型長繊維同士をさらに緻密に集合させ、長繊維ウェブの形態を安定にしてもよい。絡合ウェブの目付は100〜2000g/m2あるのが好ましい。
工程(3)では、海成分ポリマーを除去することにより極細繊維束形成性長繊維(海島型長繊維)を極細化して極細長繊維の繊維束からなる絡合不織布を製造する。海成分ポリマーを除去する方法としては、島成分ポリマーの非溶剤または非分解剤であり、かつ、海成分ポリマーの溶剤または分解剤で絡合ウェブを処理する方法が本発明においては好ましく採用される。島成分ポリマーがポリアミド系樹脂やポリエステル系樹脂である場合、海成分ポリマーがポリエチレンであればトルエン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなどの有機溶剤が、海成分ポリマー前記水溶性PVAであれば温水が、また、海成分ポリマーが易アルカリ分解性の変性ポリエステルであれば水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性分解剤が使用される。海成分ポリマーの除去は人工皮革分野において従来採用されている方法により行えばよく、特に制限されない。本発明においては、環境負荷が少なく、また、労働衛生上好ましいので、海成分ポリマーとして前記水溶性PVAを使用し、これを有機溶媒を使用することなく85〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理し、除去率が95質量%以上(100%を含む)になるまで抽出除去し、極細繊維束形成性長繊維を島成分ポリマーからなる極細長繊維の繊維束に変換するのが好ましい。
必要に応じて、極細繊維束形成性長繊維を極細化する前または極細化と同時に、下記式:
[(収縮処理前の面積−収縮処理後の面積)/収縮処理前の面積]×100
で表される面積収縮率が好ましくは30%以上、より好ましくは30〜75%になるように収縮処理を行って高密度化してもよい。収縮処理により形態保持性がより良好になり、繊維の素抜けも防止される。
極細化前に行う場合、水蒸気雰囲気下で絡合ウェブを収縮処理するのが好ましい。水蒸気による収縮処理は、例えば、絡合ウェブに海成分に対して30〜200質量%の水分を付与し、次いで、相対湿度が70%以上、より好ましくは90%以上、温度が60〜130℃の加熱水蒸気雰囲気下で60〜600秒間加熱処理することが好ましい。上記条件で収縮処理すると、水蒸気で可塑化された海成分ポリマーが島成分ポリマーにより構成される長繊維の収縮力で圧搾・変形するので緻密化が容易になる。次いで、収縮処理した絡合ウェブを85〜100℃、好ましくは90〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理して海成分ポリマーを溶解除去する。また、海成分ポリマーの除去率が95質量%以上になるように、水流抽出処理してもよい。水流の温度は80〜98℃が好ましく、水流速度は2〜100m/分が好ましく、処理時間は1〜20分が好ましい。
収縮処理と極細化を同時に行う方法としては、例えば、絡合ウェブを65〜90℃の熱水中に3〜300秒間浸漬した後、引き続き、85〜100℃、好ましくは90〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理する方法が挙げられる。前段階で、極細繊維束形成性長繊維が収縮すると同時に海成分ポリマーが圧搾される。圧搾された海成分ポリマーの一部は繊維から溶出する。そのため、海成分ポリマーの除去により形成される空隙がより小さくなるので、より緻密化した絡合不織布が得られる。
任意に行われる収縮処理および海成分ポリマー除去により、好ましくは140〜3000g/m2の目付を有する絡合不織布が得られる。前記絡合不織布中の繊維束の平均繊度は0.5〜10dtex、好ましくは0.7〜5dtexである。極細長繊維の単繊維の平均繊度は0.001〜2dtex、好ましくは0.005〜0.2dtexである。前記範囲内であると、得られる皮革様シートの緻密性、その表層部の不織布構造の緻密性が向上する。極細長繊維の平均繊度および繊維束の平均繊度が上記範囲内である限り繊維束中の極細長繊維の本数は特に制限されないが、一般的には5〜1000本である。
前記絡合不織布の湿潤時の剥離強力は、2kg/10mm以上であることが好ましく、2〜10kg/10mmであることがより好ましい。剥離強力は極細長繊維の繊維束の三次元絡合の度合いの目安である。上記範囲内であると、絡合不織布および得られる銀付調皮革様シートの表面摩耗が少なく、形態保持性が良好である。また、充実感に優れた銀付調皮革様シートが得られる。後述するように、必要に応じて、高分子弾性体を付与する前(前染め)あるいは後(後染め)にポリエステル系極細繊維からなる絡合不織布の場合には、分散染料等で代表される染料で染色してもよい。湿潤時の剥離強力が上記範囲内であると、前染め時の繊維の素抜けやほつれを防止することができる。
前記ポリエステル系極細繊維からなる絡合不織布に高分子弾性体の水分散体または水溶液を付与する工程(4)の前に、必要に応じて、絡合不織布を分散染料等の染料で染色してもよい。特に分散染料による染色は過酷な条件(高温、高圧)で行われるため、高分子弾性体を付与する前に染色(先染め)すると極細繊維の破断などが生じる。本発明では極細繊維が長繊維であるので先染めが可能となる。前記した収縮処理により極細長繊維からなる絡合不織布は、高収縮して分散染色条件に十分耐える強度を持つので、先染めする場合には収縮処理することが好ましい。通常、高分子弾性体を含む絡合不織布を染色した場合、高分子弾性体に付着した分散染料を除去して染色堅牢度を向上させるために強アルカリ条件下での還元洗浄工程と中和工程が必要であった。本発明では、工程(4)(高分子弾性体付与)の前に染色することが可能であるので、これらの工程が不要になる。また、染色中に高分子弾性体が脱落するなどの問題があったが、先染めによりこの問題が回避されると共に高分子弾性体の選択範囲が広がる。先染めした場合、余分な染料は湯や中性洗剤液等を使用した洗浄で除去できる。従って、極めてマイルドな条件で染色の摩擦堅牢度、特に、湿摩擦堅牢度を向上させることができる。また、高分子弾性体が染色されていないので、繊維と高分子弾性体との染料吸尽性の違いに起因する色斑を防止することもできる。
使用する分散染料としては、分子量が200〜800の、モノアゾ系、ジスアゾ系、アントラキノン系、ニトロ系、ナフトキノン系、ジフェニルアミン系、複素環系等のポリエステル染色に通常使用される分散染料が好ましく、用途や色相に応じて単独あるいは配合して使用する。染色濃度は要求される色相に応じて異なるが、30%owfを超える高濃度で染色した場合には湿潤時の摩擦堅牢度が悪化するので、30%owf以下が好ましい。浴比は特に制限はないが、1:30以下の低浴比が、コスト、環境への影響の観点で好ましい。染色温度は、水中あるいは湿潤時は70〜130℃が好ましく、95〜120℃がより好ましく、乾燥状態での染色温度(所謂サーモゾル染色)は、140〜240℃が好ましく、160〜200℃がより好ましい。前者の染色時間は30〜90分が好ましく、淡色では30〜60分、濃色では45〜90分がより好ましい。後者(サーモゾル染色)の染色時間は0.1〜10分が好ましく、1〜5分がより好ましい。染色後の還元洗浄は染色濃度が10%owf以上の場合は3g/L以下の低濃度の還元剤を使用しても良いが、中性洗剤を使用して40〜60℃の温水で洗浄するのが好ましい。
必要に応じて、前記極細長繊維からなる絡合不織布に高分子弾性体の水分散体または水溶液を付与してもよい。
また、必要に応じて高分子弾性体を付与した後に、必要に応じて、酸性染料で極細長繊維不織布を染色しても良い。
酸性染料とは溶液中でイオン化し、有機残基がアニオンの染料のことをいい、塩基性窒素を有する繊維と酸性浴でイオン結合により染着する。絹、羊毛等の蛋白繊維やナイロンの染色に使用できるものであり、上記染料であれば公知の染料を用いることが可能であり、例えば、日本化薬(株)製のKayanol(登録商標)シリーズ、カヤノールミーリングシリーズや住友化学工業(株)製のSuminol(登録商標)“等を使用することができる。なかでも、染料分子中にクロム、コバルトなどが配位した含金染料が、より繊維との結合が強いので、堅牢染に適する点で好ましい。
また、含金染料は金属原子が染料分子に配位結合した錯塩型アゾ染料であり、1個の金属原子と1個の染料分子が配位結合している1:1含金染料と1個の金属原子と2個の染料分子が配位結合している1:2含金染料が知られている。金属は通常クロムである。より高い染色堅牢度を得る場合には、1:2含金染料を用いることが好ましい。1:2含金染料は、住友化学工業(株)の商品名Lanyl(登録商標)シリーズ、日本化薬(株)の商品名Kayalan(登録商標)およびKayalax(登録商標)シリーズ、三井BASF染料(株)の商品名Acidol(登録商標)およびLanafastシリーズ、保土ヶ谷化学工業(株)の商品名Aizen(登録商標)シリーズ、Dystar社の商品名Isolan(登録商標)シリーズ、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社の商品名Irgalan(登録商標)シリーズ、クラリアント(株)の商品名Lanasyn(登録商標)シリーズとして入手することができるが、これら以外の含金染料も使用することができる。以下含金染料を例にあげて説明する。
染色は従来行われている含金染料を用いた繊維、布帛の染色条件に従って行えばよい。例えば、浴比は1:10〜1:100、含金染料使用量は0.0001〜50%owf、染色温度は70〜100℃、染色時間は20〜120分、染浴のpHは弱酸性〜中性の条件で行うのが好ましい。本発明においては、従来の分散染料によるポリエステル繊維の染色と異なり、上記染色を常圧下で穏和な条件で行うことができ、染色処理が容易である。
上記染色は染色助剤の存在下で行ってもよい。染色助剤としては、染色速度を上げる促進剤、均一に染色するための均染剤、染色速度を遅らせてむら染めをなくすための緩染剤、染料の繊維への浸透・拡散を助ける浸透剤、染浴中での染料の溶解性を上げる染料溶解剤、染浴中での染料の分散性を上げる染料分散剤、染着した染料の堅牢度を上げるフィックス剤、繊維保護剤、消泡剤などが挙げられる。これらは従来公知の薬剤から適宜選ぶことができ、従来採用されている量用いる。
染色装置としては通常使われているもの、例えば、液流染色機、ウインス染色機、ビーム染色機、ジッカー染色機等が挙げられる。
工程(4)では、前記絡合不織布に高分子弾性体の水分散体または水溶液を付与し、熱を加えながら高分子弾性体を表面および裏面に移行させ、その後、凝固させて皮革様シートを製造する。高分子弾性体としては、人工皮革製造に従来用いられているポリウレタンエラストマー、アクリロニトリルエラストマー、オレフィンエラストマー、ポリエステルエラストマー、アクリルエラストマーなどから選ばれる少なくとも1種の弾性体を用いることができるが、ポリウレタンエラストマー及び/又はアクリルエラストマーが特に好ましい。
ポリウレタンエラストマーとしては、高分子ポリオール、有機ポリイソシアネート、及び、必要に応じて鎖伸長剤を所望の割合で、溶融重合法、塊状重合法、溶液重合法などにより重合して得られる公知の熱可塑性ポリウレタンが好ましい。
高分子ポリオールは用途や必要性能に応じて公知の高分子ポリオールから選択される。例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(メチルテトラメチレングリコール)などのポリエーテル系ポリオール及びその共重合体;ポリブチレンアジペートジオール、ポリブチレンセバケートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレン アジペート)ジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレン セバケート)ジオール、ポリカプロラクトンジオールなどのポリエステル系ポリオール及びその共重合体;ポリヘキシレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレン カーボネート)ジオール、ポリペンタメチレンカーボネートジオール、ポリテトラメチレンカーボネートジオールなどのポリカーボネート系ポリオール及びその共重合体;ポリエステルカーボネートポリオール、ポリメチレンペンタンジオールなどが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。高分子ポリオールの平均分子量は500〜3000であるのが好ましい。得られる銀付調皮革様シートの耐光堅牢性、耐熱堅牢性、耐NOx黄変性、耐汗性、耐加水分解性などの耐久性をより良好にする場合には、2種以上の高分子ポリオールを使用することが好ましい。
有機ジイソシアネートは用途や必要性能に応じて公知のジイソシアネート化合物から選択すればよい。例えば、芳香環を有しない脂肪族あるいは脂環族ジイソシアネート(無黄変型ジイソシアネート)、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添メチレンジイソシアネート)などや、芳香環ジイソシアネート、例えば、フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなど挙げることができる。特に、光や熱での黄変が起こりにくいことから、無黄変型ジイソシアネートを使用することが好ましい。
鎖伸長剤は、用途や必要性能に応じて公知のウレタン樹脂の製造に鎖伸長剤として用いられている活性水素原子を2個有する低分子化合物から選択すれば良い。例えば、ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンおよびその誘導体、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドなどのジアミン類;ジエチレントリアミン等のトリアミン類;トリエチレンテトラミン等のテトラミン類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオールなどのジオール類;トリメチロールプロパン等のトリオール類;ペンタエリスリトール等のペンタオール類;アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコールなどのアミノアルコール類などが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。中でも、ヒドラジン、ピペラジン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミンおよびその誘導体、エチレントリアミンなどのトリアミンの中から2〜4種類を併用することが好ましい。特に、ヒドラジン及びその誘導体は酸化防止効果を有するので、耐久性が向上する。また、鎖伸長反応時に、鎖伸長剤とともに、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミンなどのモノアミン類;4−アミノブタン酸、6−アミノヘキサン酸などのカルボキシル基含有モノアミン化合物;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのモノオール類を併用してもよい。
熱可塑性ポリウレタンのソフトセグメント(ポリマージオール)の含有量は90〜15質量%であることが好ましい。
アクリルエラストマーとしては、例えば、軟質成分、架橋形成性成分、硬質成分と前記いずれの成分にも属さないその他の成分からなる水分散性または水溶性のエチレン性不飽和モノマーの重合体が挙げられる。
軟質成分とは、その単独重合体のガラス転移温度(Tg)が−5℃未満、好ましくは−90℃以上で−5℃未満である成分であり、非架橋性(架橋を形成しない)であることが好ましい。軟質成分を形成するモノマーとしては、例えば、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピルなどの(メタ)アクリル酸誘導体などが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。
硬質成分とは、その単独重合体のガラス転移温度(Tg)が50℃を越え、好ましくは50℃を越えて250℃以下である成分であり、非架橋性(架橋を形成しない)であることが好ましい。硬質成分を形成するモノマーとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸誘導体;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミドなどのアクリルアミド類;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸およびそれらの誘導体;ビニルピロリドンなどの複素環式ビニル化合物;塩化ビニル、アクリロニトリル、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルアミドなどのビニル化合物;エチレン、プロピレンなどで代表されるα−オレフィンなどが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。
架橋形成性成分とは、架橋構造を形成し得る単官能または多官能エチレン性不飽和モノマー単位、または、ポリマー鎖に導入されたエチレン性不飽和モノマー単位と反応して架橋構造を形成し得る化合物(架橋剤)である。単官能または多官能エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどのトリ(メタ)アクリレート類;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等などのテトラ(メタ)アクリレート類;ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼンなどの多官能芳香族ビニル化合物;アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸不飽和エステル類;2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレートとヘキサメチレンジイソシアネートの2:1付加反応物、ペンタエリスリトールトリアクリレートとヘキサメチレンジイソシアネートの2:1付加反応物、グリセリンジメタクリレートとトリレンジイソシアネートの2:1付加反応物などの分子量が1500以下のウレタンアクリレート;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピルなどの水酸基を有する(メタ)アクリル酸誘導体;(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミドなどのアクリルアミド類およびそれらの誘導体;グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸誘導体;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのカルボキシル基を有するビニル化合物;ビニルアミドなどのアミド基を有するビニル化合物などが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。
架橋剤としては、例えば、オキサゾリン基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、エポキシ基含有化合物、ヒドラジン誘導体、ヒドラジド誘導体、ポリイソシアネート系化合物、多官能ブロックイソシアネート系化合物などが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。
アクリルエラストマーのその他の成分を形成するモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、グリシジル(メタ)アクリレート、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルなどの(メタ)アクリル酸誘導体が挙げられる。
前記高分子弾性体の融点は130〜240℃であるのが好ましく、130℃での熱水膨潤率は10%以上、好ましくは10〜100%である。一般に、熱水膨潤率が大きい程高分子弾性体は柔軟であるが、分子内の凝集力が弱い為、後の工程や製品の使用時に剥落することが多く、バインダーとしての作用が不十分になる。上記範囲内であるとこのような不都合を避けることができる。熱水膨潤率は後述する方法により求めた。
前記高分子弾性体の損失弾性率のピーク温度は10℃以下、好ましくは−80℃〜10℃である。損失弾性率のピーク温度が10℃を超えると、銀付調皮革様シートの風合いが堅くなり、また、耐屈曲性等の力学的耐久性が悪化する。損失弾性率は後述する方法で求めた。
前記高分子弾性体は水溶液または水分散体として前記絡合不織布に含浸させる。水溶液または水分散体中の高分子弾性体含量は0.1〜60質量%が好ましい。高分子弾性体の水溶液または水分散体は、凝固後の高分子弾性体と極細長繊維の質量比が0.001〜0.6、好ましくは0.01〜0.5になるように含浸させる。高分子弾性体の水溶液または水分散体には、得られる銀付調皮革様シートの性質を損なわない範囲で、浸透剤、消泡剤、滑剤、撥水剤、撥油剤、増粘剤、増量剤、硬化促進剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、防黴剤、発泡剤、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、染料、顔料などで代表される着色剤を添加してもよい。着色剤を添加することで、銀面の着色がより行いやすくなる。
高分子弾性体の水溶液または水分散体を絡合不織布に含浸させる方法は特に制限されないが、例えば、浸漬などにより絡合不織布内部に均一に含浸する方法などが挙げられる。
また、高分子弾性体は極細長繊維不織布に付与することが望ましいが、必要に応じて、極細化処理を行う前に長繊維不織布に付与しても構わない。この場合、使用する高分子弾性体の種類には特に制限は無いが、130℃での熱水膨潤率が2%〜50%の高分子弾性体を使用することが好ましい。
工程(5)では、工程(4)で得た皮革様シート(凝固した高分子弾性体を含有する絡合不織布)の表面を非接触加熱して、極細長繊維および/または該極細長繊維の繊維束とを融着させて銀面を形成する。さらには極細長繊維および/または該極細長繊維の繊維束と高分子弾性体と融着させて銀面を形成する。
本発明において、非接触加熱とは、被処理対象物を加熱ローラーや熱板等に直接接触させることなく、非接触状態で被処理対象物を加熱処理することを言う。非接触加熱の具体的方法としては、火炎バーナー、電気ヒーター等を用いて、熱処理する方法を挙げることができる。
火炎バーナーを用いる場合の可燃性ガスとしては、都市ガス、プロパンガス、LPGガス等を使用できる。ガスバーナーとしては、繊維織物表面の毛焼等に使用される工業用バーナーあるいは、フォームをラミネートする際に使用されるフレームラミバーナーを利用できる。また、電熱ヒーターとしては、高温用熱風ヒーター、遠赤外線ヒーター、熱反射型電気ヒーター等を挙げることができる。
このようにして銀面層を形成することにより、銀面層と基体層とは、元々、同一の極細長繊維の同一繊維束によって連続状に形成されているので、銀面層と基体層とが剥離するという懸念がない。
銀面層の厚みは、非接触加熱装置、例えば火炎バーナー装置や電熱ヒーター装置の大きさ(バーナーまたはヒーターの設置列数)、温度、熱源との距離、処理速度等により調整できる。加熱装置としては、皮革様シートを複数のロール間に走行させつつ、近傍に設置された火炎バーナー装置もしくは電熱ヒーター装置等の非接触加熱により、皮革様シートを加熱溶融することが好ましい。
溶融した表面層は、要求される表面の性状に応じて、直ちに、または表面層がある程度冷却固化してからエンボスローラやフラットローラによって処理することによって、平面的な表面にしたり、あるいは冷却を促進しつつ銀付調皮革シートの表面層の厚みや全体厚みを調整したりすることができる。
特に前記工程(5)の後または工程(5)で極細長繊維および極細長繊維の繊維束との融着面が形成された直後、極細長繊維および極細長繊維の繊維束との融着面を軟化状態で冷却エンボスローラやフラットローラで代表される冷却ロールに接触させて表面に意匠を付与することが連続的に銀面を形成する点で好ましい。
このように本発明の銀面(層)の形成方法は、高分子弾性体を含浸後の絡合不織布表面に高分子弾性体をさらに塗布し凝固する方法または高分子弾性体のフィルムを貼付する従来の方法とは異なる。すなわち、本発明においては、絡合不織布に高分子弾性体の水溶液または水分散体を含浸させた後凝固し、次いで、火炎バーナーもしくは電熱ヒーターで代表される非接触加熱手段を用いて加熱して、極細長繊維および/または該極細長繊維の繊維束とを融着させて銀面(層)を形成する。さらには極細長繊維および/または該極細長繊維の繊維束と高分子弾性体と融着させて銀面(層)を形成する。この方法によれば、銀面(層)を基体でもある絡合不織布と一体的に形成することができる。塗布または貼付により形成した銀面はプラスチック感、ゴム感が強く立体感に乏しいが、本発明の方法により得られた銀面(層)は天然皮革用の外観、低反発性、充実感を有する。上記のようにして得られた銀付調皮革様シートの厚さは、100μm〜6mmであることが好ましい。
銀面層の厚みは、10μm〜2000μmであり、かつ銀付調皮革様シートの全厚みの5〜40%が好ましく、10〜30%がより好ましく、15〜25%が特に好ましい。5〜40%の範囲であれば、銀付調皮革様シートの摩耗強度、折れシワ、風合いの点で好ましい。
図1に示すように、上記方法により製造された銀付調皮革様シートの表層部では、高分子弾性体と極細長繊維の繊維束とが融着一体化して表面層(銀面層)を形成している。
そして、本発明の銀付調皮革様シートの銀面層は、皮革様シート(凝固した高分子弾性体を含有する絡合不織布)の表面を非接触加熱して高分子弾性体と極細長繊維の繊維束とを溶融させることにより、空隙の少ない、緻密化された溶融一体化層を形成し、しかる後冷却固化させた層であって、長手方向に直交する任意の断面の樹脂充填率が75%以上であることが好ましい。銀面層の樹脂充填率は、75%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上である。樹脂充填率が75%以上であれば、天然皮革に匹敵する低反発性と充実感に優れた風合いを発現できる。
銀面層の厚み及び樹脂充填率は、火炎バーナー装置や電熱ヒーター装置等の非接触加熱装置の大きさ(例えば、バーナーまたはヒーターの設置列数)、温度、熱源との距離、処理速度等、加熱溶融処理後の冷却条件やローラー圧接等により調整できる。
一方、銀面層に連なる基体層の樹脂充填率は、概ね20〜60%であることが銀付調皮革様シートとしてのバランスから好ましい。基体層の樹脂充填率が概ね30〜60%の範囲内であれば、天然皮革に匹敵する低反発性と充実感を兼ね備え、天然皮革調の細かい折れシワ感を有する銀付調皮革様シートを得ることができる。
なお、下記基体層の樹脂充填率の算出では、極細繊維束内に点状に存在する、面積2μm2以下の非連続空隙には樹脂が充填されていると仮定して計算した。
基体層の樹脂充填率は、極細長繊維束からなる絡合不織布の密度、高分子弾性体の含量及び含浸時の経熱などの条件により調整できる。
なお、本発明において、樹脂充填率は、銀付調皮革シートの長手方向(製造時に走行する方向=MD方向)と直交する任意断面を電子顕微鏡で50倍に拡大観察し、算出したものである。
(1)銀面層のシート断面積及び樹脂断面積の算出
(i) 断面写真において、銀付調皮革様シートの厚さ方向に幅方向1mmの間隔で2本の線を引き測定領域を選ぶ。
(ii) 測定領域において、表面の凹凸の谷部を順次折れ線で結ぶ。
(iii) 基体層と銀面層の界面の凹凸の山部を順次折れ線で結ぶ。
(iv) 2本の折れ線に挟まれた部分を実質的な銀面層とみなしてその2線間と、幅方向の2本の線で囲まれる断面積S1と、当該部分の樹脂断面積の総和S1pを基に下記の式から算出した。
(2)基体層のシート断面積及び樹脂断面積の算出
(i) 断面写真において、銀付調皮革様シートの厚さ方向に幅方向1mmの間隔で2本の線を引き測定領域を選ぶ。
(ii) 測定領域において、銀面層との界面の凹凸の谷部を順次折れ線で結ぶ。
(iii) 基体層と最下面の凹凸の山部を順次折れ線で結ぶ。
(iv) 2本の折れ線に挟まれた部分を実質的な基体層とみなしてその2線間と、(i)で引いた幅方向の2本の線で囲まれる断面積S2と、当該部分の樹脂断面積の総和S2pを基に下記の式から算出した。
(2)樹脂充填率の算出
以下の式により銀面層及び基体層の樹脂充填率を算出した。
・銀面層の充填率(%)=[S1p/S1]×100
・基体層の充填率(%)=[S2p/S2]×100
本発明の銀付調皮革様シートは、天然皮革に匹敵する低反発性と充実感を兼ね備え、かつ表面摩耗性や表面引っ掻き性に十分な実用強度を有するので、野球ボールやバスケットボール、衣料、靴、バッグ、家具、カーシート、手袋、鞄、カーテンなど広い用途に適用し得る物性を有している。
以下、実施例により、本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例中で記載される部および%は、特にことわりのない限り質量基準である。なお各特性は以下の方法で測定した。
(1)極細長繊維の平均繊度
皮革様シートを形成している極細長繊維(20個)の断面積を走査型電子顕微鏡(倍率:数百倍〜数千倍程度)により測定し平均断面積を求めた。この平均断面積と繊維を形成するポリマーの密度から平均繊度を計算した。
(2)繊維束の平均繊度
絡合不織布を形成している繊維束の中から選び出した平均的な繊維束(20個)を走査型電子顕微鏡(倍率:数百倍〜数千倍程度)で観察し、その外接円の半径を測定して平均断面積を求めた。この平均断面積が繊維を形成するポリマーで充填されているとし、該ポリマーの密度から繊維束の平均繊度を計算した。
(3)融点
示差走査熱量計(TA3000、メトラー社製)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温からポリマー種類に応じて300〜350℃まで昇温後、直ちに室温まで冷却し、再度直ちに昇温速度10℃/分で300〜350℃まで昇温したときに得られた吸熱ピークのピークトップ温度を求めた。
(4)損失弾性率のピーク温度
厚さ200μmの高分子弾性体フィルムを、130℃で30分間熱処理し、粘弾性測定装置(レオロジ社製FTレオスペクトラー「DVE−V4」)を用いて周波数11Hz、昇温速度3℃/分で測定を行い、損失弾性率のピーク温度を求めた。
(5)130℃での熱水膨潤率
厚さ200μmの高分子弾性体フィルムを加圧下130℃で60分間熱水処理し、50℃に冷却後、ピンセットで取り出した。過剰な水をろ紙でふき取り、重量を測定した。浸漬前の重量に対する増加した重量の割合を熱水膨潤率とした。
(6)湿摩擦堅牢性
JIS L0801に準じて、ウエット状態で測定し級判定にて評価した。
(7)湿潤時の剥離強力
たて15cm、幅1.2cm、厚さ4mmのゴム板の表面を240番のサンドペーパーでバフ掛けし、表面を十分に粗くした。溶剤系の接着剤(US−44)と架橋剤(ディスモジュールRE)の100:5の混合液を該ゴム板の粗面とたて(シート長さ方向)25cm、幅1.0cmの試験片の片面に12cmの長さにガラス棒で塗布し、100℃の乾燥機中で4分間乾燥した。その後、ゴム板と試験片の接着剤塗布部分同士を貼り合わせ、プレスローラーで圧着し、20℃で24時間キュアリングした。蒸留水に10分浸漬した後に、ゴム板と試験片の端をそれぞれチャックで挟み、引張試験機で引張速度50mm/分で剥離した。得られた応力−ひずみ曲線(SS曲線)の平坦部分から湿潤時の平均剥離強力を求めた。結果は、試験片3個の平均値で表した。
製造例1
水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系樹脂の製造
攪拌機、窒素導入口、エチレン導入口および開始剤添加口を備えた100L加圧反応槽に、酢酸ビニル29.0kgおよびメタノール31.0kgを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで反応槽圧力が5.9kgf/cm2となるようにエチレンを導入した。2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(開始剤)をメタノールに溶解して濃度2.8g/Lの開始剤溶液を調整し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記の重合槽内温を60℃に調整した後、上記の開始剤溶液170mLを注入し重合を開始した。重合中、エチレンを導入して反応槽圧力を5.9kgf/cm2に、重合温度を60℃に維持し、上記の開始剤溶液を610mL/hrで連続添加した。10時間後に重合率が70%となったところで冷却して重合を停止した。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。
次いで減圧下に未反応酢酸ビニルモノマーを除去しエチレン変性ポリ酢酸ビニル(変性PVAc)のメタノール溶液を得た。該溶液にメタノールを加えて調製した変性PVAcの50%メタノール溶液200gに、NaOHの10%メタノール溶液46.5gを添加してケン化を行った(NaOH/酢酸ビニル単位=0.10/1(モル比))。NaOH添加後約2分で系がゲル化した。ゲル化物を粉砕器にて粉砕し、60℃で1時間放置してケン化を更に進行させた後、酢酸メチル1000gを加えて残存するNaOHを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和したことを確認後、濾別して白色固体を得た。白色固体にメタノール1000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液し、乾燥機中70℃で2日間放置乾燥してエチレン変性ポリビニルアルコール(変性PVA)を得た。得られた変性PVAのケン化度は98.4モル%であった。また該変性PVAを灰化した後、酸に溶解して得た試料を原子吸光光度計により分析した。ナトリウムの含有量は、変性PVA100質量部に対して0.03質量部であった。
また、上記変性PVAcのメタノール溶液に、n−ヘキサンを加え、次いで、アセトンを加える沈殿−溶解操作を3回繰り返した後、80℃で3日間減圧乾燥を行って精製変性PVAcを得た。該変性PVAcをd6−DMSOに溶解し、80℃で500MHzプロトンNMR(JEOL GX−500)を用いて分析したところ、エチレン単位の含有量は10モル%であった。上記の変性PVAcをケン化した後(NaOH/酢酸ビニル単位=0.5(モル比))、粉砕し、60℃で5時間放置して更にケン化を進行させた。ケン化物を3日間メタノールソックスレー抽出し、抽出物を80℃で3日間減圧乾燥を行って精製変性PVAを得た。該変性PVAの平均重合度をJIS K6726に準じて測定したところ330であった。該精製変性PVAを5000MHzプロトンNMR(JEOL GX−500)により分析したところ、1,2−グリコール結合量は1.50モル%および3連鎖水酸基の含有量は83%であった。さらに該精製変性PVAの5%水溶液から厚み10μmのキャストフィルムを作成した。該フィルムを80℃で1日間減圧乾燥した後に、前述の方法により融点を測定したところ206℃であった。
実施例1
上記変性PVA(水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール:海成分)と、変性度6モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレ−ト(島成分)を、海成分/島成分が25/75(質量比)となるように260℃で溶融複合紡糸用口金(島数:25島/繊維)より吐出した。紡糸速度が3700m/minとなるようにエジェクター圧力を調整し、平均繊度が2.1デシテックスの海島型長繊維をネット上に捕集した。次いで、表面温度42℃の金属ロールでネット上の海島型長繊維シートを軽く押さえ、表面の毛羽立ちを軽く抑えてネットから剥離し、表面温度75℃の金属ロール(格子柄)とバックロール間で200N/mmの線圧で熱プレスして表面繊維が格子状に仮融着した目付31g/m2の長繊維ウェブを得た。
上記長繊維ウェブに油剤及び帯電防止剤を付与し、クロスラッピングにより8枚重ねて総目付が250g/m2の重ね合わせウェブを作製し、更に針折れ防止油剤をスプレーした。次いで、針先端から第1バーブまでの距離が3.2mmの6バーブ針を用い、針深度8.3mmにて両面から交互に3300パンチ/cm2でニードルパンチし、絡合ウェブを作成した。このニードルパンチ処理による面積収縮率は68%であり、ニードルパンチ後の絡合ウェブの目付は320g/m2であった。
絡合ウェブを巻き取りライン速度10m/分で70℃熱水中に14秒間浸漬して面積収縮を生じさせた。次いで95℃の熱水中で繰り返しディップニップ処理を実施して変性PVAを溶解除去し、極細長繊維を25本含む、平均繊度2.5デシテックスの繊維束が3次元的に交絡した絡合不織布を作成した。乾燥後に測定した面積収縮率は52%であり、目付は480g/m2、見掛け密度は0.52g/cm3であった。また、剥離強力は、4.2kg/10mmであった。
該絡合不織布をバフィングにより厚みを0.82mmに調整後、ソフトセグメントがポリへキシレンカーボネートジオールとポリメチルペンタンジオールの70:30の混合物からなり、ハードセグメントが主として水添メチレンジイソシアネートからなるポリウレタン(融点が180〜190℃、損失弾性率のピーク温度が−15℃、130℃での熱水膨潤率が35%の高分子弾性体)を0.2%付与し、5%owfの分散染料により茶色に染色した。工程通過性(染色時の繊維の素抜けやほつれ、バフィング時の繊維の抜け等がない)は良好で、発色の良好な極細長繊維からなる絡合不織布を得た。
ソフトセグメントがポリへキシレンカーボネートジオールとポリメチルペンタンジオールの70:30の混合物からなり、ハードセグメントが主として水添メチレンジイソシアネートからなるポリウレタン(融点が180〜190℃、損失弾性率のピーク温度が−15℃、130℃での熱水膨潤率が35%の高分子弾性体)を用いて固形分濃度が10質量%の水分散体を調製した。この水分散体を高分子弾性体と極細長繊維の質量比が12:88となるように上記の染色された絡合不織布に含浸した後、120℃の熱風を表面および裏面から吹きつけて乾燥すると同時に高分子弾性体を表面および裏面に移行させ、凝固させた。
得られた皮革様シートの表面を熱源が都市ガスのガスバーナーで熱し、高分子弾性体や極細長繊維および極細長繊維の繊維束同士が融着した直後、金属ロールでプレスして表面が高分子弾性体と溶融繊維の混合体からなる銀付調皮革様シートを作製した。
得られた銀付調皮革様シートは、全厚みが0.83mm、銀面層の厚みが0.17mm(全厚みの20.5%)で、樹脂充填率が91%、基体層の樹脂充填率は43.5%であり、強固な表面強度と天然皮革ライクな低反発性、充実感および柔軟性を有しており、また、折り曲げたときに生じる折れシワ感が細かく天然皮革と見間違うほどであった。また、湿摩擦堅牢性は4級であり、野球ボールやバスケットボール、およびインテリアやカーシート用途に適用し得る十分な物性を有していた。
本発明の銀付調皮革様シートは、強固な表面強度と天然皮革ライクな低反発性、充実感および柔軟性を有しており、また、折り曲げたときに生じる折れシワ感が細かく天然皮革と近いので、野球ボールやバスケットボール、およびインテリアやカーシート用途に有効に利用できる。
本発明の銀付調皮革様シートの製造方法は、本発明の銀付調皮革様シートを合理的に低コストで製造できる方法として有効に利用できる。
1 銀付調皮革様シート
2 表面層(銀面層)
3 基体層(絡合不織布層)

Claims (12)

  1. 極細長繊維を複数本含む繊維束が3次元的に交絡した絡合不織布とその内部に含有された高分子弾性体からなる皮革様シートの表面に該極細長繊維および/または該極細長繊維の繊維束同士が融着してなる融着層を形成していることを特徴とする銀付調皮革様シート。
  2. 融着層が、高分子弾性体と極細長繊維および/または極細長繊維の繊維束が融着している請求項1に記載の銀付調皮革様シート。
  3. 融着層の厚みが、10μm〜2000μmであり、かつ銀付調皮革様シートの全厚みの5〜40%である請求項1または2に記載の銀付調皮革様シート。
  4. 融着層が、極細繊維束形成性長繊維に由来する極細長繊維束からなる絡合不織布に高分子弾性体を含浸凝固させた皮革様シートの表面を、非接触加熱による溶融一体化処理により形成されたものであり、長手方向に直交する任意の断面の樹脂充填率が75%以上である請求項1〜3のいずれかに記載の銀付調皮革様シート。
  5. 前記極細長繊維が着色されている請求項1〜4のいずれかに記載の銀付調皮革様シート。
  6. 前記絡合不織布の湿潤時の剥離強力が2kg/10mm以上である請求項1〜5のいずれかに記載の銀付調皮革様シート。
  7. 高分子弾性体が、着色剤を含む請求項1〜6のいずれかに記載の銀付調皮革様シート。
  8. 高分子弾性体と極細長繊維の質量比が0.001〜0.6である請求項1〜7のいずれかに記載の銀付調皮革様シート。
  9. 前記極細長繊維が、海成分が水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールであり、島成分が水不溶性熱可塑性ポリマーである海島型断面長繊維から該海成分を除去して得られる請求項1〜8のいずれかに記載の銀付調皮革様シート。
  10. 高分子弾性体がポリウレタンエラストマー、アクリロニトリルエラストマー、オレフィンエラストマー、ポリエステルエラストマー、およびアクリルエラストマーからなる群から選ばれる少なくとも一種のエラストマーである請求項1〜9のいずれかに記載の銀付調皮革様シート。
  11. 下記の順次工程:
    (1)極細繊維束形成性長繊維からなる長繊維ウェブを製造する工程、
    (2)前記長繊維ウェブに絡合処理を施し、絡合ウェブを製造する工程、
    (3)前記絡合ウェブ中の極細繊維束形成性長繊維を平均繊度0.001〜2dtexの極細長繊維を複数本含む平均単繊度0.5〜10dtexの繊維束に変換し、絡合不織布を製造する工程、
    (4)高分子弾性体と前記極細長繊維の質量比が0.001〜0.6となるように、前記絡合不織布に前記高分子弾性体の水分散体または水溶液を含浸し、熱を加えて高分子弾性体を前記絡合不織布の両表面に移行させ、凝固して皮革様シートを製造する工程、および
    (5)前記皮革様シートの表面を非接触加熱して、極細長繊維および/または極細長繊維の繊維束とを融着させて銀面を形成する工程、
    を含む銀付調皮革様シートの製造方法。
  12. 前記工程(5)の後または工程(5)で極細長繊維および極細長繊維の繊維束との融着面が形成された直後、極細長繊維および極細長繊維の繊維束との融着面を冷却ロールに接触させて表面に意匠を付与する請求項11に記載の銀付調皮革様シートの製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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KR101680535B1 (ko) * 2011-03-31 2016-11-30 코오롱인더스트리 주식회사 향상된 내광성을 갖는 인공피혁 및 그 제조방법

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