本発明の人工皮革用長繊維不織布は、下記の順次工程により製造することができる。
(1)非捲縮の極細繊維発生型長繊維を用いて長繊維ウェブを製造する工程。
(2)前記長繊維ウェブの片面または両面を熱プレスして表面近傍の極細繊維発生型長繊維を仮融着し、仮融着長繊維ウェブを製造する工程。
(3)前記仮融着長繊維ウェブを、条件を変えて2以上の段階でニードルパンチし、極細繊維発生型長繊維を充分に絡合させると共に仮融着箇所を細分化させ、長繊維不織布を製造する工程。
以下、各工程および各工程で得られる繊維集合体について詳述する。
工程(1)では、非捲縮の極細繊維発生型長繊維(海島型長繊維)を用いて長繊維ウェブを製造する。海島型長繊維は少なくとも2種類のポリマーからなる多成分系複合繊維であって、海成分ポリマー中にこれとは異なる種類の島成分ポリマーが分散した断面を有する。海島型長繊維は、絡合不織布構造体に形成した後、高分子弾性体を含浸させる前または後に海成分ポリマーを抽出または分解して除去することで、残った島成分ポリマーからなる極細長繊維が複数本集まった繊維束に変換される。
島成分ポリマーとしては、特に限定されるものではないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエステルエラストマー等のポリエステル系樹脂またはそれらの変性物;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、芳香族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、ポリアミドエラストマー等のポリアミド系樹脂またはそれらの変性物;ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリエステル系ポリウレタンなどのポリウレタン系樹脂など、公知の繊維形成性の水不溶性熱可塑性ポリマーが挙げられる。これらの中でも、PET、PTT、PBT、これらの変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂は、熱処理により収縮しやすく、充実感のある風合いを有し、耐磨耗性、耐光性、形態安定性などの実用的性能が優れた人工皮革製品が得られる点で特に好ましい。また、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂はポリエステル系樹脂に比べて吸湿性があってしなやかな極細長繊維が得られるので、膨らみ感のある柔らかな風合いを有し、帯電防止性などの実用的性能が良好な人工皮革製品が得られる点で特に好ましい。
島成分ポリマーの融点は160℃以上であるのが好ましく、融点が180〜330℃であり結晶性であるのがより好ましい。融点は後述する方法で求めた。島成分ポリマーには、着色剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、消臭剤、防かび剤、抗菌剤、各種安定剤などが添加されていてもよい。
海島型長繊維を極細長繊維の繊維束に変換する際に、海成分ポリマーは溶剤または分解剤により抽出または分解除去される。従って、海成分ポリマーは溶剤に対する溶解性または分解剤による分解性が島成分ポリマーよりも大きいことが必要である。海島型長繊維の紡糸安定性の点から島成分ポリマーとの親和性が小さく、かつ、紡糸条件において溶融粘度及び/又は表面張力が島成分ポリマーより小さいことが好ましい。このような条件を満たす限り海成分ポリマーは特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−エチレン共重合体、スチレン−アクリル共重合体、ポリビニルアルコール系樹脂などが好ましく用いられる。有機溶剤を用いることなく銀付調人工皮革、スエード調人工皮革などを製造することができるので、海成分ポリマーに水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(水溶性PVA)を用いるのが特に好ましい。
前記水溶性PVAの粘度平均重合度(以下、単に重合度と略記する)は200〜500が好ましく、230〜470がより好ましく、250〜450がさらに好ましい。重合度が200以上であると、溶融粘度が適度で島成分ポリマーとの複合化が容易である。重合度が500以下であると、溶融粘度が高すぎて紡糸ノズルから樹脂を吐出することが困難となる問題を避けることができる。重合度500以下のいわゆる低重合度PVAを用いることにより、熱水で溶解するときに溶解速度が速くなるという利点も有る。水溶性PVAの重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、水溶性PVAを再ケン化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η]から次式により求められる。
P=([η]103/8.29)(1/0.62)
水溶性PVAのケン化度は90〜99.99モル%が好ましく、93〜99.98モル%がより好ましく、94〜99.97モル%がさらに好ましく、96〜99.96モル%が特に好ましい。ケン化度が90モル%以上であると、熱安定性が良く、熱分解やゲル化することなく満足な溶融紡糸を行うことができ、生分解性も良好である。更に後述する共重合モノマーによって水溶性が低下することがなく、極細化が容易になる。ケン化度が99.99モル%よりも大きい水溶性PVAは安定に製造することが難しい。
水溶性PVAの融点(Tm)は、160〜230℃が好ましく、170〜227℃がより好ましく、175〜224℃がさらに好ましく、180〜220℃が特に好ましい。融点が160℃以上であると、結晶性が低下して繊維強度が低くなることがなく、熱安定性が悪くなり繊維化が困難になることも避けることができる。融点が230℃以下であると、PVAの分解温度より低い温度で溶融紡糸することができ、海島型長繊維を安定に製造することができる。
水溶性PVAは、ビニルエステル単位を主体として有する樹脂をケン化することにより得られる。ビニルエステル単位を形成するためのビニル化合物単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられ、これらの中でも水溶性PVAを容易に得る点からは酢酸ビニルが好ましい。
水溶性PVAは、ホモPVAであっても共重合単位を導入した変性PVAであってもよいが、溶融紡糸性、水溶性、繊維物性の観点からは、変性PVAを用いることが好ましい。共重合単量体としては、共重合性、溶融紡糸性および繊維の水溶性の観点から、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数4以下のα−オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類が好ましい。炭素数4以下のα−オレフィン類および/またはビニルエーテル類に由来する単位の量は、変性PVA構成単位の1〜20モル%が好ましく、4〜15モル%がより好ましく、6〜13モル%がさらに好ましい。さらに、共重合単量体がエチレンであると繊維物性が高くなるので、エチレン単位を好ましくは4〜15モル%、より好ましくは6〜13モル%含む変性PVAが好ましい。
水溶性PVAは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法で製造される。その中でも、無溶媒あるいはアルコールなどの溶媒中で重合する塊状重合法や溶液重合法が好ましい。溶液重合の溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどの低級アルコールが挙げられる。共重合に使用される開始剤としては、a、a’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシカーボネートなどのアゾ系開始剤または過酸化物系開始剤などの公知の開始剤が挙げられる。重合温度については特に制限はないが、0〜150℃の範囲が適当である。
従来の人工皮革の製造においては、極細繊維発生型長繊維を任意の繊維長にカットして得たステープルにより繊維ウェブを製造していたが、本発明では、スパンボンド法などにより紡糸した海島型長繊維(極細繊維発生型長繊維)をカットすることなく長繊維ウェブにする。海島型長繊維は前記の海成分ポリマーと島成分ポリマーを複合紡糸用口金から押出すことにより溶融紡糸する。紡糸温度(口金温度)は180〜350℃が好ましい。口金から吐出した溶融状態の海島型長繊維を冷却装置により冷却した後、エアジェットノズルなどの吸引装置を用いて、目的の繊度となるように1000〜6000m/分の引取り速度に相当する速度の高速気流により牽引細化し、移動式ネットなどの捕集面上に堆積させて実質的に無延伸、非捲縮の長繊維からなるウェブを形成する。このような長繊維ウェブ製造方法は、従来の短繊維を用いる繊維ウェブ製造方法では必須の原綿供給装置、開繊装置、カード機などの一連の大型設備を必要としないので生産上有利である。また、長繊維ウェブおよびそれを用いて得られる人工皮革は連続性の高い長繊維からなるので、従来一般的であった短繊維ウェブおよびそれを用いて製造した人工皮革に比べて、強度などの物性においても優れている。
本発明において、長繊維とは、繊維長が通常3〜80mm程度である短繊維よりも長い繊維長を有する繊維であり、短繊維のように意図的に切断されていない繊維をいう。例えば、極細化する前の長繊維の繊維長は100mm以上が好ましく、技術的に製造可能であり、かつ、物理的に切れない限り、数m、数百m、数kmあるいはそれ以上の繊維長であってもよい。
海島型長繊維の平均断面積は30〜800μm2、繊度は1.0〜20dtexであるのが好ましい。海島型長繊維の断面において、海成分ポリマーと島成分ポリマーの平均面積比(ポリマー体積比に相当)は5/95〜70/30が好ましく、島数は4〜1000個が好ましい。得られた長繊維ウェブの目付は10〜2000g/m2が好ましい。
工程(2)では、前記長繊維ウェブの片面または両面を熱プレスして表面近傍の極細繊維発生型長繊維を仮融着する。熱プレスは、例えば、長繊維ウェブを好ましくは10〜90℃、より好ましくは20〜80℃、さらに好ましくは30〜59℃のエンボスロールとバックロールの間を通過させ、好ましくは5〜1000kgf/cm、より好ましくは15〜 200kgf/cmの線圧で行う。温度および線圧が上記範囲内であると、表面近傍の極細繊維発生型長繊維の仮融着の程度が適度であり、ウェブの形状が安定化され搬送、ラッピング操作が容易になり、かつ、次工程のニードルパンチにおいて、極細繊維発生型長繊維が厚さ方向に移動し易くなり高度の絡合が得られる。また、極細繊維発生型長繊維同士が必要以上に多くの箇所で仮融着されることを避けることができる。必要以上に多くの箇所で仮融着されると、ニードルパンチ工程において極細繊維発生型長繊維が移動し難く、高度な絡合が得られないし、また、ニードルにより極細繊維発生型長繊維が切断され、あるいは、針折れが起こる。さらに、後述する条件でニードルパンチしても極細繊維発生型長繊維の仮融着箇所が表面近傍に多数残り、天然皮革様の風合い、柔軟性、反発感のないドレープ性、自然な折れ皺、優雅な外観などを有する人工皮革を得ることができない。エンボスパターンは格子状、千鳥状、半円交互千鳥状、ドット状、楕円状、皮革柄、幾何学状などであり、特に制限されないが、長繊維ウェブ表面の5〜30%が熱プレスされるパターンであることが好ましい。
上記のようにして得られる仮融着長繊維ウェブにおいて、表面近傍に存在する、6本以上の極細繊維発生型長繊維が仮融着した箇所は平均10個/cm2以上であるのが好ましく、10〜100個/cm2であるのがより好ましく、15〜100個/cm2であるのがさらに好ましく、20〜100個/cm2であるのが特に好ましい。100個/cm2を越えると長繊維ウェブ全面が実質的に融着した状態になりやすく、また、ニードルパンチ後の長繊維不織布表面近傍に存在する2〜5本の極細繊維発生型長繊維が仮融着した箇所が20個/mm2を越える傾向にある。上記した条件で熱プレスすることにより、仮融着の程度を上記範囲内にすることができる。本発明において“表面近傍”とは、熱プレスにより極細繊維発生型長繊維の仮融着が起こる領域のことである。その厚みは熱プレス温度、線圧、極細繊維発生型長繊維の融着性などに依存して変化するが、通常、仮融着長繊維ウェブまたは長繊維不織布の表面から100μmの深さまでの部分である。仮融着長繊維ウェブの目付は15〜100g/m2であるのが好ましい。
工程(3)では、前記仮融着長繊維ウェブを、必要に応じてクロスラッパー等を用いて複数層(好ましくは2層以上、より好ましくは2〜40層)に重ね合わせた後、両面から同時または交互にニードルパンチして極細繊維発生型長繊維を三次元的に絡合させると共に6本以上の極細繊維発生型長繊維同士が仮融着した融着繊維本数を減少させるとともに仮融着箇所を細分化して本発明の人工皮革用長繊維不織布を得る。
融着繊維本数を減少させるとともに仮融着箇所を細分化するため、極細繊維発生型長繊維の切断を避けるため、絡合度を高くするため、また、ニードルパンチ斑を防止して表面を高品位にするために、初期はスロートデプス(S/D:J値)が大きい針を用いて深い突き刺し深度でニードルパンチし(初期ニードルパンチ)、次いで、S/D及び/又は突き刺し深度を減少させて、1段階または数段階、好ましくは1〜3段階でニードルパンチ(後期ニードルパンチ)する。
初期ニードルパンチのS/Dは極細繊維発生型長繊維の太さの4〜20倍、かつ、60〜120μm(J値)であるのが好ましく、突き刺し深度は針先端から第一バーブまでの距離以上、複数層重ね合わせた仮融着長繊維ウェブを完全に通過するバーブの個数が2〜9個であるのが好ましい。なお、特にカットバーブ系のニードル針の場合、バーブ部に5μ〜50μのキックバック(K値)を有する場合があり、この場合の実質S/Dは、J値+K値とする。後期ニードルパンチのS/Dは初期ニードルパンチのS/Dよりも小さく、極細繊維発生型長繊維の太さの2〜8倍、かつ、20〜80μm(J値+K値)であるのが好ましく、突き刺し深度は初期ニードルパンチの深度以下で、第一バーブが前記仮融着長繊維ウェブ厚みの50%以上であることが好ましく、前記仮融着長繊維ウェブを完全に通過するバーブの個数が0〜5個であるのが好ましい。後期ニードルパンチを多段階で行う場合、S/Dと突き刺し深度はそれぞれ同じであるか順次減少させるのが好ましい。特に、突き刺し深度は上記範囲内で順次減少させるのが好ましい。
ニードルのバーブ数は極細繊維発生型長繊維を切断することなく仮融着箇所を細分化させ、かつ、針折れを起こすことなく充分な絡合が得られるように1〜9個の範囲から選択するのが好ましい。バーブ数もニードルパンチの初期段階から最終段階にかけて減少させるのが好ましい。ニードル先端から第1バーブまでの距離は2.1〜4.2mmであるのが好ましい。
初期ニードルパンチのパンチング密度は、極細繊維発生型長繊維を切断することなく充分に絡合させるために好ましくは50〜5000パンチ/cm2であり、より好ましくは50〜1000パンチ/cm2である。後期ニードルパンチのパンチング密度は、極細繊維発生型長繊維を切断することなくさらに充分な絡合を得ると共に仮融着箇所を細分化させるために50〜5000パンチ/cm2の範囲から選ぶのが好ましい。後期ニードルパンチを数段階で行う場合(通常、2〜3段階)、パンチング密度を高密度から低密度に変化させてもよい。ニードルパンチ終了後の面積収縮率([(処理前の面積−処理後の面積)/処理前の面積]×100)は50〜120%であるのが好ましい。
なお、仮融着長繊維ウェブを複数層に重ね合わせた時、仮融着長繊維ウェブ端面のメクレや、規則的に重ね合わされた仮融着長繊維ウェブのズレを防止するため、初期ニードルパンチの前に搖動タイプのニードルパンチ機や通常のニードルパンチ機、あるいは片面からブラシ中にニードルを打ち込むタイプのニードルパンチ機を使用して、500パンチ/cm2以下の低ストローク条件で仮融着長繊維ウェブを仮固定しても構わない。該仮固定に使用するニードルは、積層された仮融着長繊維ウェブ表面にヒキツレや破れ、シワを引き起こすことなく仮融着長繊維ウェブを軽く縫い付ければ良いので、初期ニードルパンチに使用するニードルとスロートデプスが同じか小さいものを使用しても良い。
仮融着長繊維ウェブにはニードルパンチ前またはニードルパンチ時、または積重前または積重中または積重後にシリコーン、鉱物油からなる針折れ防止油剤、帯電防止油剤、絡合促進油剤などを付与してもよい。
上記条件でニードルパンチすることにより、仮融着長繊維ウェブの表面近傍に存在する6本以上の極細繊維発生型長繊維が仮融着した箇所の融着繊維本数を減少させるとともに得られる長繊維不織布において、表面近傍に存在する、2〜5本の極細繊維発生型長繊維が仮融着した箇所が20個/mm2以下、好ましくは0〜20個/mm2、より好ましくは0〜10個/mm2に細分化する。仮融着箇所が20個/mm2を超えると、得られるスエード調人工皮革の表面立毛部の触感が硬く、かつ、粗くなり、また銀付調人工皮革の銀面が不織布表面から浮くなどの微小欠陥が生じ、さらに、銀面表面には不自然な皺が生じ、天然皮革様の細かく自然な皺は得られない。本発明では、適度な程度に極細繊維発生型長繊維を仮融着しているので、非捲縮であっても極細繊維発生型長繊維がニードルのバーブに引っ掛かり易く、充分かつムラのない絡合が得られる。
本発明の長繊維不織布の目付は200〜2000g/m2であるのが好ましく、見掛け比重は0.10〜0.35であるのが好ましい。また、長繊維不織布を50〜98℃の熱水に20gf/gf(対不織布重量)の荷重下で30〜60秒間浸漬し、乾燥した後の熱水面積収縮率は25〜80%であるのが好ましく、剥離強力は2〜20kg/25mmであるのが好ましく、4〜20kg/25mmであるのがより好ましく、8〜20kg/25mmであるのが最も好ましい。長繊維不織布の表面に露出した極細繊維発生型長繊維の切断端の平均数は0〜30個/mm2であるのが好ましく、0〜20個/mm2であるのがより好ましく、10個/mm2未満(ゼロを含む)であるのがさらに好ましい。
以下、本発明の長繊維不織布を用いて銀付調人工皮革およびスエード調人工皮革を製造する方法を例示する。
上記のようにして得られた本発明の長繊維不織布を、必要に応じて70〜150℃の温水に浸漬するなどの収縮処理によって、絡合状態をより緻密にしてもよい。また、熱プレス処理を行なうことで極細繊維発生型長繊維同士をさらに緻密に集合させ、長繊維不織布の形状を安定にしてもよい。
次いで、海成分ポリマーを除去することにより極細繊維発生型長繊維(海島型長繊維)を極細化して極細長繊維の繊維束からなる絡合不織布(極細長繊維不織布)を製造する。海成分ポリマーを除去する方法としては、島成分ポリマーの非溶剤または非分解剤であり、かつ、海成分ポリマーの溶剤または分解剤で絡合ウェブを処理する方法が本発明においては好ましく採用される。島成分ポリマーがポリアミド系樹脂やポリエステル系樹脂である場合、海成分ポリマーがポリエチレンであればトルエン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなどの有機溶剤が、海成分ポリマー前記水溶性PVAであれば温水が、また、海成分ポリマーが易アルカリ分解性の変性ポリエステルであれば水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性分解剤が使用される。海成分ポリマーの除去は人工皮革分野において従来採用されている方法により行えばよく、特に制限されない。本発明においては、環境負荷が少なく、また、労働衛生上好ましいので、海成分ポリマーとして前記水溶性PVAを使用し、これを有機溶媒を使用することなく85〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理し、除去率が95質量%以上(100%を含む)になるまで抽出除去し、極細繊維発生型長繊維を島成分ポリマーからなる極細長繊維の繊維束に変換するのが好ましい。
必要に応じて、極細繊維発生型長繊維を極細化する前または極細化と同時に、面積収縮率が好ましくは30%以上、より好ましくは30〜75%になるように収縮処理を行って高密度化してもよい。収縮処理により形態保持性がより良好になり、繊維の素抜けも防止される。
極細化前に行う場合、水蒸気雰囲気下で長繊維不織布を収縮処理するのが好ましい。水蒸気による収縮処理は、例えば、絡合ウェブに海成分に対して30〜200質量%の水分を付与し、次いで、相対湿度が70%以上、より好ましくは90%以上、温度が60〜130℃の加熱水蒸気雰囲気下で60〜600秒間加熱処理することが好ましい。上記条件で収縮処理すると、水蒸気で可塑化された海成分ポリマーが島成分ポリマーにより構成される長繊維の収縮力で圧搾・変形するので緻密化が容易になる。次いで、収縮処理した長繊維不織布を85〜100℃、好ましくは90〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理して海成分ポリマーを溶解除去する。また、海成分ポリマーの除去率が95質量%以上になるように、水流抽出処理してもよい。水流の温度は80〜98℃が好ましく、水流速度は2〜100m/分が好ましく、処理時間は1〜20分が好ましい。
収縮処理と極細化を同時に行う方法としては、例えば、長繊維不織布を65〜90℃の熱水中に3〜300秒間浸漬した後、引き続き、85〜100℃、好ましくは90〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理する方法が挙げられる。前段階で、極細繊維発生型長繊維が収縮すると同時に海成分ポリマーが圧搾される。圧搾された海成分ポリマーの一部は繊維から溶出する。そのため、海成分ポリマーの除去により形成される空隙がより小さくなるので、より緻密化した極細長繊維不織布が得られる。
海成分ポリマー除去により、好ましくは140〜3000g/m2の目付および0.25〜0.75の見掛け比重を有する極細長繊維不織布が得られる。前記極細長繊維不織布中の繊維束の平均繊度は0.5〜10dtex、好ましくは0.7〜5dtexである。極細長繊維の平均繊度は0.001〜2dtex、好ましくは0.005〜0.2dtexである。前記範囲内であると、得られる人工皮革の緻密性、その表層部の不織布構造の緻密性が向上する。極細長繊維の平均繊度および繊維束の平均繊度が上記範囲内である限り繊維束中の極細長繊維の本数は特に制限されないが、一般的には5〜1000本である。
前記極細長繊維不織布の湿潤時の剥離強力は4kg/25mm以上であることが好ましく、4〜20kg/25mmであることがより好ましい。剥離強力は極細長繊維の繊維束の三次元絡合の度合いの目安である。上記範囲内であると、極細長繊維不織布および得られる人工皮革の表面摩耗が少なく、形態保持性が良好である。また、充実感に優れた人工皮革が得られる。後述するように、高分子弾性体を付与する前に極細長繊維不織布を分散染料で染色してもよい。湿潤時の剥離強力が上記範囲内であると、染色時の繊維の素抜けやほつれを防止することができる。
前記極細長繊維不織布に高分子弾性体の水分散体または水溶液を付与する前あるいは後に、必要に応じて、極細長繊維不織布を分散染料で染色してもよい。分散染料による染色は過酷な条件(高温、高圧)で行われるため、高分子弾性体を付与する前に染色(先染め)すると極細繊維の破断などが生じることがある。極細繊維が長繊維であるので先染めが可能となる。前記した収縮処理により極細長繊維は高収縮して分散染色条件に十分耐える強度を持つので、先染めする場合には収縮処理することが好ましい。通常、高分子弾性体を含む極細長繊維不織布を染色した場合、高分子弾性体に付着した分散染料を除去して染色堅牢度を向上させるために強アルカリ条件下での還元洗浄工程と中和工程が必要であった。高分子弾性体付与の前に染色することが可能であるので、これらの工程が不要になる。また、染色中に高分子弾性体が脱落するなどの問題があったが、先染めによりこの問題が回避されると共に高分子弾性体の選択範囲が広がる。先染めした場合、余分な染料は湯や中性洗剤液等を使用した洗浄で除去できる。従って、極めてマイルドな条件で染色の摩擦堅牢度、特に、湿摩擦堅牢度を向上させることができる。また、高分子弾性体が染色されていないので、繊維と高分子弾性体との染料吸尽性の違いに起因する色斑を防止することもできる。
使用する分散染料としては、分子量が200〜800の、モノアゾ系、ジスアゾ系、アントラキノン系、ニトロ系、ナフトキノン系、ジフェニルアミン系、複素環系等のポリエステル染色に通常使用される分散染料が好ましく、用途や色相に応じて単独あるいは配合して使用する。染色濃度は要求される色相に応じて異なるが、30%owfを超える高濃度で染色した場合には湿潤時の摩擦堅牢度が悪化するので、30%owf以下が好ましい。浴比は特に制限はないが、1:30以下の低浴比が、コスト、環境への影響の観点で好ましい。染色温度は、水中あるいは湿潤時は70〜130℃が好ましく、95〜120℃がより好ましく、乾燥状態での染色温度(所謂サーモゾル染色)は、140〜240℃が好ましく、160〜200℃がより好ましい。前者の染色時間は30〜90分が好ましく、淡色では30〜60分、濃色では45〜90分がより好ましい。後者(サーモゾル染色)の染色時間は0.1〜10分が好ましく、1〜5分がより好ましい。染色後の還元洗浄は染色濃度が10%owf以上の場合は3g/L以下の低濃度の還元剤を使用しても良いが、中性洗剤を使用して40〜60℃の温水で洗浄するのが好ましい。
必要に応じて、前記極細長繊維不織布に高分子弾性体の水分散体または水溶液を付与してもよい。銀付調人工皮革を製造する場合は、熱を加えながら高分子弾性体を表面および裏面に移行させ、その後、凝固させてもよい。高分子弾性体としては、人工皮革製造に従来用いられているポリウレタンエラストマー、アクリロニトリルエラストマー、オレフィンエラストマー、ポリエステルエラストマー、アクリルエラストマーなどから選ばれる少なくとも1種の弾性体を用いることができるが、ポリウレタンエラストマー及び/又はアクリルエラストマーが特に好ましい。必要に応じて高分子弾性体を付与した後に、必要に応じて、酸性染料で極細長繊維不織布を染色しても良い。
酸性染料とは、例えば、日本化薬(株)製のKayanol(登録商標)シリーズ、カヤノールミーリングシリーズや住友化学工業(株)製のSuminol(登録商標)“等を使用することができる。なかでも、染料分子中にクロム、コバルトなどが配位した含金染料が、より繊維との結合が強いので、堅牢染に適する点で好ましい。
また、含金染料は金属原子が染料分子に配位結合した錯塩型アゾ染料であり、1個の金属原子と1個の染料分子が配位結合している1:1含金染料と1個の金属原子と2個の染料分子が配位結合している1:2含金染料が知られている。金属は通常クロムである。より高い染色堅牢度を得る場合には、1:2含金染料を用いることが好ましい。1:2含金染料は、住友化学工業(株)の商品名Lanyl(登録商標)シリーズ、日本化薬(株)の商品名Kayalan(登録商標)およびKayalax(登録商標)シリーズ、三井BASF染料(株)の商品名Acidol(登録商標)およびLanafastシリーズ、保土ヶ谷化学工業(株)の商品名Aizen(登録商標)シリーズ、Dystar社の商品名Isolan(登録商標)シリーズ、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社の商品名Irgalan(登録商標)シリーズ、クラリアント(株)の商品名Lanasyn(登録商標)シリーズとして入手することができるが、これら以外の含金染料も使用することができる。以下含金染料を例にあげて説明する。
染色は従来行われている含金染料を用いた繊維、布帛の染色条件に従って行えばよい。例えば、浴比は1:10〜1:100、含金染料使用量は0.0001〜50%owf、染色温度は70〜100℃、染色時間は20〜120分、染浴のpHは弱酸性〜中性の条件で行うのが好ましい。本発明においては、従来の分散染料によるポリエステル繊維の染色と異なり、上記染色を常圧下で穏和な条件で行うことができ、染色処理が容易である。
上記染色は染色助剤の存在下で行ってもよい。染色助剤としては、染色速度を上げる促進剤、均一に染色するための均染剤、染色速度を遅らせてむら染めをなくすための緩染剤、染料の繊維への浸透・拡散を助ける浸透剤、染浴中での染料の溶解性を上げる染料溶解剤、染浴中での染料の分散性を上げる染料分散剤、染着した染料の堅牢度を上げるフィックス剤、繊維保護剤、消泡剤などが挙げられる。これらは従来公知の薬剤から適宜選ぶことができ、従来採用されている量用いる。
染色装置としては通常使われているもの、例えば、液流染色機、ウインス染色機、ビーム染色機、ジッカー染色機等が挙げられる。
ポリウレタンエラストマーとしては、高分子ポリオール、有機ポリイソシアネート、及び、必要に応じて鎖伸長剤を所望の割合で、溶融重合法、塊状重合法、溶液重合法などにより重合して得られる公知の熱可塑性ポリウレタンが好ましい。
高分子ポリオールは用途や必要性能に応じて公知の高分子ポリオールから選択される。例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(メチルテトラメチレングリコール)などのポリエーテル系ポリオール及びその共重合体;ポリブチレンアジペートジオール、ポリブチレンセバケートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレン アジペート)ジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレン セバケート)ジオール、ポリカプロラクトンジオールなどのポリエステル系ポリオール及びその共重合体;ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレン カーボネート)ジオール、ポリペンタメチレンカーボネートジオール、ポリテトラメチレンカーボネートジオールなどのポリカーボネート系ポリオール及びその共重合体;ポリエステルカーボネートポリオールなどが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。高分子ポリオールの平均分子量は500〜3000であるのが好ましい。得られる人工皮革の耐光堅牢性、耐熱堅牢性、耐NOx黄変性、耐汗性、耐加水分解性などの耐久性をより良好にする場合には、2種以上の高分子ポリオールを使用することが好ましい。
有機ジイソシアネートは用途や必要性能に応じて公知のジイソシアネート化合物から選択すればよい。例えば、芳香環を有しない脂肪族あるいは脂環族ジイソシアネート(無黄変型ジイソシアネート)、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどや、芳香環ジイソシアネート、例えば、フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなど挙げることができる。特に、光や熱での黄変が起こりにくいことから、無黄変型ジイソシアネートを使用することが好ましい。
鎖伸長剤は、用途や必要性能に応じて公知のウレタン樹脂の製造に鎖伸長剤として用いられている活性水素原子を2個有する低分子化合物から選択すれば良い。例えば、ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンおよびその誘導体、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドなどのジアミン類;ジエチレントリアミン等のトリアミン類;トリエチレンテトラミン等のテトラミン類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオールなどのジオール類;トリメチロールプロパン等のトリオール類;ペンタエリスリトール等のペンタオール類;アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコールなどのアミノアルコール類などが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。中でも、ヒドラジン、ピペラジン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミンおよびその誘導体、エチレントリアミンなどのトリアミンの中から2〜4種類を併用することが好ましい。特に、ヒドラジン及びその誘導体は酸化防止効果を有するので、耐久性が向上する。また、鎖伸長反応時に、鎖伸長剤とともに、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミンなどのモノアミン類;4−アミノブタン酸、6−アミノヘキサン酸などのカルボキシル基含有モノアミン化合物;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのモノオール類を併用してもよい。
熱可塑性ポリウレタンのソフトセグメント(ポリマージオール)の含有量は90〜15質量%であることが好ましい。
アクリルエラストマーとしては、例えば、軟質成分、架橋形成性成分、硬質成分と前記いずれの成分にも属さないその他の成分からなる水分散性または水溶性のエチレン性不飽和モノマーの重合体が挙げられる。
軟質成分とは、その単独重合体のガラス転移温度(Tg)が−5℃未満、好ましくは−90℃以上で−5℃未満である成分であり、非架橋性(架橋を形成しない)であることが好ましい。軟質成分を形成するモノマーとしては、例えば、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピルなどの(メタ)アクリル酸誘導体などが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。
硬質成分とは、その単独重合体のガラス転移温度(Tg)が50℃を越え、好ましくは50℃を越えて250℃以下である成分であり、非架橋性(架橋を形成しない)であることが好ましい。硬質成分を形成するモノマーとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸誘導体;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミドなどのアクリルアミド類;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸およびそれらの誘導体;ビニルピロリドンなどの複素環式ビニル化合物;塩化ビニル、アクリロニトリル、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルアミドなどのビニル化合物;エチレン、プロピレンなどで代表されるα−オレフィンなどが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。
架橋形成性成分とは、架橋構造を形成し得る単官能または多官能エチレン性不飽和モノマー単位、または、ポリマー鎖に導入されたエチレン性不飽和モノマー単位と反応して架橋構造を形成し得る化合物(架橋剤)である。単官能または多官能エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどのトリ(メタ)アクリレート類;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等などのテトラ(メタ)アクリレート類;ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼンなどの多官能芳香族ビニル化合物;アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸不飽和エステル類;2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレートとヘキサメチレンジイソシアネートの2:1付加反応物、ペンタエリスリトールトリアクリレートとヘキサメチレンジイソシアネートの2:1付加反応物、グリセリンジメタクリレートとトリレンジイソシアネートの2:1付加反応物などの分子量が1500以下のウレタンアクリレート;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピルなどの水酸基を有する(メタ)アクリル酸誘導体;(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミドなどのアクリルアミド類およびそれらの誘導体;グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸誘導体;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのカルボキシル基を有するビニル化合物;ビニルアミドなどのアミド基を有するビニル化合物などが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。
架橋剤としては、例えば、オキサゾリン基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、エポキシ基含有化合物、ヒドラジン誘導体、ヒドラジド誘導体、ポリイソシアネート系化合物、多官能ブロックイソシアネート系化合物などが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。
アクリルエラストマーのその他の成分を形成するモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、グリシジル(メタ)アクリレート、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルなどの(メタ)アクリル酸誘導体が挙げられる。
前記高分子弾性体の融点は130〜240℃であるのが好ましく、130℃での熱水膨潤率は3%以上、好ましくは5〜100%である。一般に、熱水膨潤率が大きい程高分子弾性体は柔軟であるが、分子内の凝集力が弱い為、後の工程や製品の使用時に剥落することが多く、バインダーとしての作用が不十分になる。上記範囲内であるとこのような不都合を避けることができる。融点は、示差走査熱量計(TA3000、メトラー社製)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温からポリマー種類に応じて300〜350℃まで昇温後、直ちに室温まで冷却し、再度直ちに昇温速度10℃/分で300〜350℃まで昇温したときに得られた吸熱ピークのピークトップ温度である。熱水膨潤率は、厚さ200μmの高分子弾性体フィルムを加圧下130℃で60分間熱水処理し、50℃に冷却後取り出したときの浸漬前の重量に対する増加した重量の割合である。
前記高分子弾性体の損失弾性率のピーク温度は10℃以下、好ましくは−80℃〜10℃である。損失弾性率のピーク温度が10℃を超えると、人工皮革の風合いが堅くなり、また、耐屈曲性等の力学的耐久性が悪化する。損失弾性率のピーク温度は、厚さ200μmの高分子弾性体フィルムを、130℃で30分間熱処理し、粘弾性測定装置(レオロジ社製FTレオスペクトラー「DVE−V4」)を用いて周波数11Hz、昇温速度3℃/分で測定を行うことにより求めることができる。
前記高分子弾性体は水溶液または水分散体として前記極細長繊維不織布に含浸させる。水溶液または水分散体中の高分子弾性体含量は0.1〜60質量%が好ましい。高分子弾性体の水溶液または水分散体は、凝固後の高分子弾性体と極細長繊維の質量比が0.005〜0.6、好ましくは0.01〜0.5になるように含浸させる。高分子弾性体の水溶液または水分散体には、得られる人工皮革の性質を損なわない範囲で、浸透剤、消泡剤、滑剤、撥水剤、撥油剤、増粘剤、増量剤、硬化促進剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、防黴剤、発泡剤、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、染料、顔料などを添加してもよい。
高分子弾性体の水溶液または水分散体を極細長繊維不織布に含浸させる方法は特に制限されない。例えば、浸漬などにより極細長繊維不織布内部に均一に含浸する方法、表面と裏面に塗布する方法などが挙げられる。感熱ゲル化剤などを使用して、含浸した高分子弾性体が極細長繊維不織布の表面と裏面に移行(マイグレーション)するのを防止し、高分子弾性体を極細長繊維不織布中で均一に凝固させてもよい。凝固は、50〜200℃の乾燥装置中での熱処理、70〜100℃での熱水処理、70〜200℃でのスチーム処理などにより行うのが好ましい。
また、含浸した高分子弾性体を極細長繊維不織布の表面と裏面に移行(マイグレーション)させ、その後凝固させて、高分子弾性体の存在量を厚み方向に略連続的に勾配させ、高分子弾性体を厚み方向中央部では疎に、両表層部では密に存在させてもよい。このような分布勾配を得るためには、高分子弾性体の水溶液または水分散体を含浸させた後、マイグレーション防止手段を講じることなく、極細長繊維不織布の表面と裏面を好ましくは110〜150℃で、好ましくは0.5〜30分間加熱する。このような加熱により水分が表面と裏面から蒸散し、それに伴って高分子弾性体を含む水分が両表層部に移行し、高分子弾性体が表面と裏面近傍で凝固する。マイグレーションのための加熱は、乾燥装置中などにおいて熱風を表面および裏面に吹き付けることにより行うのが好ましい。
上述のように、高分子弾性体は極細長繊維不織布に付与することが望ましいが、必要に応じて、極細化処理を行う前に長繊維不織布に付与しても構わない。この場合、使用する高分子弾性体の種類には特に制限は無いが、130℃での熱水膨潤率が2%〜50%の高分子弾性体を使用することが好ましい。
上記のようにして得られた高分子弾性体を含まない極細長繊維不織布および高分子弾性体を含浸した極細長繊維不織布は人工皮革の基材として用いられる。
上記基材の少なくとも一方の表面に高分子弾性体の水溶液または水分散体を塗布し乾燥する方法、高分子弾性体の水溶液または水分散体を剥離紙に塗布して高分子弾性体フィルムを作製し、これを基材表面に接着する方法などにより基材表面に銀面を形成し銀付調人工皮革を製造することができる。
上記のように極細長繊維不織布内部の高分子弾性体存在量を厚み方向に略連続的に勾配させた場合には、極細長繊維不織布の表面と裏面を、前記海島型長繊維の紡糸温度よりも50℃以上低く、かつ、前記高分子弾性体の融点以下の温度で熱プレスすることにより銀面を形成してもよい。銀面が形成される限り特に限定されないが、加熱温度は130℃以上であるのが好ましい。熱プレスは、例えば、加熱した金属ロールによって行われ、1〜1000N/mmの線圧で熱プレスするのが好ましい。
上記基材の少なくとも一方の表面をバフィングなどの公知の起毛処理により極細長繊維の立毛面を形成することによりスエード調人工皮革が得られる。必要に応じて揉みなどの柔軟化処理、逆シールブラッシングなどの整毛処理を行ってもよい。
上記のようにして得られる人工皮革の厚さは0.2〜3mmであることが好ましい。本発明の長繊維不織布は切断などの繊維損傷が少なく、高度かつ均一に絡合されているので高い剥離強力を示す。そのため、これを用いて得られた人工皮革も充分な実用強度を有し、また、反発感のないドレープ性、自然な折れ皺(銀付調人工皮革)、優雅な外観(スエード調人工皮革)を有するので、衣料、靴、バッグ、家具、カーシート、手袋、鞄、カーテンなど広い用途に好適に利用される。
以下、実施例により、本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例中で記載される部および%は、特にことわりのない限り質量基準である。なお各特性は以下の方法で測定した。
(1)極細長繊維の平均繊度
極細長繊維不織布を形成している極細長繊維(20個)の断面積を走査型電子顕微鏡(倍率:数百倍〜数千倍程度)により測定し平均断面積を求めた。この平均断面積と繊維を形成するポリマーの密度から平均繊度を計算した。
(2)繊維束の平均繊度
極細長繊維不織布を形成している繊維束の中から選び出した平均的な繊維束(20個)を走査型電子顕微鏡(倍率:数百倍〜数千倍程度)で観察し、その外接円の半径を測定して平均断面積を求めた。この平均断面積が繊維を形成するポリマーで充填されているとし、該ポリマーの密度から繊維束の平均繊度を計算した。
(3)仮融着箇所数
仮融着長繊維ウェブの任意の表面を走査型電子顕微鏡で撮影した(20倍)。得られた表面写真上で、タテ4mm X 横 6mmの長方形の中に存在する長繊維が6本以上仮融着している仮融着個数を数え、1cm2あたりに換算して、仮融着個数(個/cm2)を算出した。同様に、ニードルパンチ後の長繊維不織布の表面を走査型電子顕微鏡で撮影した(30〜50倍)。得られた表面写真上で、タテ4mm X 横 6mmの長方形の中に存在する長繊維が2〜5本仮融着している仮融着個数を数え、1mm2あたりに換算して、仮融着個数(個/mm2)を算出した。
(4)湿潤時の剥離強力
たて15cm、幅2.7cm、厚さ4mmのゴム板の表面を240番のサンドペーパーでバフ掛けし、表面を十分に粗くした。溶剤系の接着剤(US−44)と架橋剤(ディスモジュールRE)の100:5の混合液を該ゴム板の粗面とたて(シート長さ方向)25cm、幅2.5cmの試験片の片面に12cmの長さにガラス棒で塗布し、100℃の乾燥機中で4分間乾燥した。その後、ゴム板と試験片の接着剤塗布部分同士を貼り合わせ、プレスローラーで圧着し、20℃で24時間キュアリングした。蒸留水に10分浸漬した後に、ゴム板と試験片の端をそれぞれチャックで挟み、引張試験機で引張速度50mm/分で剥離した。得られた応力−ひずみ曲線(SS曲線)の平坦部分から湿潤時の平均剥離強力を求めた。結果は、試験片3個の平均値で表した。
(5)見掛け比重
長繊維不織布を縦10cm、横10cmに切り出し、重量を小数点2桁まで測定した。次に荷重50g/m2の厚み測定器を使用して5点の厚さの平均を算出し、見掛け比重(g/cm3)を求めた
(6)繊維切断端数
長繊維不織布の表面を走査型電子顕微鏡で撮影した(50倍)。得られた写真上で0.5mm×0.5mmの正方形を任意に10個選び、各正方形の面積当たりの切断端数を求め、その平均値を算出した。
製造例
水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系樹脂の製造
攪拌機、窒素導入口、エチレン導入口および開始剤添加口を備えた100L加圧反応槽に、酢酸ビニル29.0kgおよびメタノール31.0kgを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで反応槽圧力が5.9kgf/cm2となるようにエチレンを導入した。2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(開始剤)をメタノールに溶解して濃度2.8g/Lの開始剤溶液を調整し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記の重合槽内温を60℃に調整した後、上記の開始剤溶液170mLを注入し重合を開始した。重合中、エチレンを導入して反応槽圧力を5.9kgf/cm2に、重合温度を60℃に維持し、上記の開始剤溶液を610mL/hrで連続添加した。10時間後に重合率が70%となったところで冷却して重合を停止した。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。
次いで減圧下に未反応酢酸ビニルモノマーを除去しエチレン変性ポリ酢酸ビニル(変性PVAc)のメタノール溶液を得た。該溶液にメタノールを加えて調製した変性PVAcの50%メタノール溶液200gに、NaOHの10%メタノール溶液46.5gを添加してケン化を行った(NaOH/酢酸ビニル単位=0.10/1(モル比))。NaOH添加後約2分で系がゲル化した。ゲル化物を粉砕器にて粉砕し、60℃で1時間放置してケン化を更に進行させた後、酢酸メチル1000gを加えて残存するNaOHを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和したことを確認後、濾別して白色固体を得た。白色固体にメタノール1000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液し、乾燥機中70℃で2日間放置乾燥してエチレン変性ポリビニルアルコール(変性PVA)を得た。得られた変性PVAのケン化度は98.4モル%であった。また該変性PVAを灰化した後、酸に溶解して得た試料を原子吸光光度計により分析した。ナトリウムの含有量は、変性PVA100質量部に対して0.03質量部であった。
また、上記変性PVAcのメタノール溶液に、n−ヘキサンを加え、次いで、アセトンを加える沈殿−溶解操作を3回繰り返した後、80℃で3日間減圧乾燥を行って精製変性PVAcを得た。該変性PVAcをd6−DMSOに溶解し、80℃で500MHzプロトンNMR(JEOL GX−500)を用いて分析したところ、エチレン単位の含有量は10モル%であった。上記の変性PVAcをケン化した後(NaOH/酢酸ビニル単位=0.5(モル比))、粉砕し、60℃で5時間放置して更にケン化を進行させた。ケン化物を3日間メタノールソックスレー抽出し、抽出物を80℃で3日間減圧乾燥を行って精製変性PVAを得た。該変性PVAの平均重合度をJIS K6726に準じて測定したところ330であった。該精製変性PVAを5000MHzプロトンNMR(JEOL GX−500)により分析したところ、1,2−グリコール結合量は1.50モル%および3連鎖水酸基の含有量は83%であった。さらに該精製変性PVAの5%水溶液から厚み10μmのキャストフィルムを作成した。該フィルムを80℃で1日間減圧乾燥した後に、前述の方法により融点を測定したところ206℃であった。
実施例1
上記変性PVA(水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール:海成分)と、変性度6モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレ−ト(島成分)を、海成分/島成分が25/75(質量比)となるように260℃で溶融複合紡糸用口金(島数:25島/繊維)より吐出した。紡糸速度が3700m/minとなるようにエジェクター圧力を調整し、平均繊度が2.1デシテックス(dtex)、非捲縮の海島型長繊維をネット上に捕集した。ついで、表面温度42℃の金属ロールでネット上の海島型長繊維ウェブを15kgf/cmの線圧で押さえ、表面の毛羽立ちを抑えた。ネットから剥離したウェブを表面温度60℃の金属ロール(格子柄)とバックロール間で70kgf/cmの線圧で熱プレスして表面繊維が格子状に仮融着した目付31g/m2の仮融着長繊維ウェブを得た。図1に示すように、表面近傍の海島型長繊維が6本以上数カ所で仮融着されており、仮融着箇所の平均個数は32個/cm2であった。
上記長繊維ウェブに油剤および帯電防止剤を付与し、クロスラッピングにより8枚重ねて総目付が250g/m2の重ね合わせウェブを作製し、更に針折れ防止油剤をスプレーした。次いで、揺動タイプのニードル機で仮固定を行った。次いで針先端から第1バーブまでの距離が3.2mmでスロートデプスが80μmの9バーブ針を用い、突き刺し深度8.3mmにて両面から交互に450パンチ/cm2でニードルパンチした(初期ニードルパンチ)。初期ニードルパンチ後の表面の電子顕微鏡写真を図2と3に示す。次いで先端から第1バーブまでの距離が3.2mmでスロートデプスが60μmの6バーブ針を用い、後期ニードルパンチを突き刺し深度8.3mmにて両面から交互に2090パンチ/cm2、突き刺し深度5.0mmで両面から交互に450パンチ/cm2、さらに突き刺し深度深度2.5mmで両面から交互に450パンチ/cm2の3段階で行い、長繊維不織布を作成した。このニードルパンチ処理による面積収縮率は68%であった。得られた長繊維不織布の表面の電子顕微鏡写真を図4と5に示す。図4と5から、ニードルパンチにより海島型長繊維が充分に絡合し、海島型長繊維6本以上の仮融着箇所が細分化されるとともに2〜5本融着した仮融着箇所も減少したことが分かる。また、ニードルパンチ処理による糸割れに起因する糸玉は1個/100m以下(製造ラインのMD方向100m当たりの個数)と工程安定性に優れるものであった。長繊維不織布の各物性値を以下に示す。
目付:320g/m2
見掛け比重:0.18
融着箇所数:2個/mm2
繊維切断端数:0個/mm2
剥離強力:12kg/25mm
得られた長繊維不織布を巻き取りライン速度10m/分で70℃熱水中に14秒間浸漬して面積収縮を生じさせた。ついで95℃の熱水中で繰り返しディップニップ処理して変性PVAを溶解除去し、極細長繊維を25本含む、平均繊度2.5デシテックスの繊維束が3次元的に絡合した極細長繊維不織布を作成した。乾燥後に測定した面積収縮率は52%であった。得られた極細長繊維不織布の各物性値を以下に示す。また、各測定結果を表1に示した。
目付:480g/m2
見掛け比重:0.52
湿潤時の剥離強力:4.2kg/25mm
実施例2
仮融着長繊維ウェブの目付を変更した以外は、実施例1と同様に処理を行った。各測定結果を表1に示した。
比較例1
金属ロールの温度を変更した以外は、実施例1と同様に処理を行った。各測定結果を表1に示した。
比較例2
仮融着長繊維ウェブの目付、重ね枚数および金属ロールの温度を変更した以外は、実施例1と同様に処理を行った。各測定結果を表1に示した。
比較例3
金属ロールの温度を変更した以外は、実施例1と同様に処理を行った。各測定結果を表1に示した。
実施例3
島成分として6‐ナイロン(NY)を用い、仮融着長繊維ウェブの目付、重ね枚数および金属ロールの温度を変更した以外は、実施例1と同様に処理を行った。各測定結果を表1に示した。
実施例4
島成分としてポリプロピレン(PP)を用い、ウェブの重ね枚数および金属ロールの温度を変更した以外は、実施例1と同様に処理を行った。各測定結果を表1に示した。