JP2019143242A - Ag合金スパッタリングターゲット、及び、Ag合金スパッタリングターゲットの製造方法 - Google Patents

Ag合金スパッタリングターゲット、及び、Ag合金スパッタリングターゲットの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】プレスパッタ時間を短縮することができ、耐熱性及び耐硫化性に優れたAg合金膜を効率良く成膜することが可能なAg合金スパッタリングターゲットを提供する。【解決手段】InおよびSnのうちの少なくとも1種以上を合計で0.1質量%以上1.5質量%以下の範囲内で含み、残部がAg及び不可避不純物とされた組成を有し、Arガス圧0.1Pa,電流密度1.5W/cm2,積算電力量0.01kWh/cm2の条件でスパッタを実施した後のターゲットスパッタ面の算術平均面粗さRaが7μm以下とされていることを特徴とする。【選択図】なし

Description

本発明は、InおよびSnのうちの少なくとも1種以上を含み、残部がAgと不可避不純物からなるAg合金の薄膜を成膜する際に用いられるAg合金スパッタリングターゲット、及び、このAg合金スパッタリングターゲットの製造方法に関するものである。
一般に、ディスプレイやLED等の反射電極膜、タッチパネル等の配線膜、透明導電膜等には、比抵抗値の低いAg膜が用いられている。例えば、特許文献1には、半導体発光素子の電極の構成材料として、高効率で光を反射するAg膜またはAg合金膜を用いることが開示されている。また、特許文献2には、タッチパネルの引き出し配線として、Ag合金膜を用いることが開示されている。さらに、特許文献3には、有機EL素子の反射電極の構成材料としてAg合金を用いることが開示されている。
これらのAg膜及びAg合金膜は、Ag又はAg合金からなるスパッタリングターゲットによってスパッタリングすることで成膜されている。
近年、有機EL素子製造時のガラス基板の大型化に伴い、反射電極膜を形成する際に使用されるAg合金スパッタリングターゲットも大型化が進展している。
しかし、生産性の向上の観点から、大型化されたAg合金スパッタリングターゲットに高い電力を投入してスパッタリングすると、異常放電が発生すると共に、スプラッシュと呼ばれる現象(溶融した微粒子が基板に付着してしまう現象)が発生してしまう。
上記異常放電やスプラッシュ現象を抑制するために、特許文献4、5においては、合金の結晶粒の平均粒径を規定するとともに、結晶粒の粒径のばらつきを抑制したAg合金スパッタリングターゲットが提案されている。
特開2006−245230号公報 特開2009−031705号公報 特開2012−059576号公報 特開2011−100719号公報 特開2014−173158号公報
ところで、上述のスパッタリングターゲットにおいては、スパッタ成膜を連続して実施していると、チャンバー内部の防着板等の各種部材に付着した膜が厚く形成されて膜応力が上昇し、膜の一部が剥離してパーティクルが発生することがある。そのため、定期的にチャンバーを開放して内部の部材の交換やクリーニングを行う。なお、チャンバーの開放は、クリーニング以外にも、他品種の成膜を行う場合や材料変更の際にも実施される。
上述のように、チャンバーを開放すると、真空雰囲気であったチャンバーが大気雰囲気となり、活性なスパッタリングターゲットの表面層が酸化したり、大気中の化学物質と反応生成物を形成したりするおそれがあった。なお、Ag合金ターゲットの場合には、反応生成物として硫化物を生成するおそれがある。
また、スパッタリングターゲットを大気中で保管した場合においても、ターゲット表面に酸化膜や反応生成物が形成されることがある。
上述のように、ターゲット表面に酸化膜や反応生成物が形成されたスパッタリングターゲットを再度使用する場合、ターゲット表面の酸化物や反応生成物が除去されて、成膜した膜の特性が安定するまで、プレスパッタを実施する必要がある。
最近では、成膜効率を向上させるために、プレスパッタの時間を短縮することが求められている。
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、プレスパッタ時間を短縮することができ、耐熱性及び耐硫化性に優れたAg合金膜を効率良く成膜することが可能なAg合金スパッタリングターゲット、及び、Ag合金スパッタリングターゲットの製造方法を提供することを目的としている。
上記の課題を解決するために、本発明のAg合金スパッタリングターゲットは、InおよびSnのうちの少なくとも1種以上を合計で0.1質量%以上1.5質量%以下の範囲内で含み、残部がAg及び不可避不純物とされた組成を有し、Arガス圧0.1Pa,電流密度1.5W/cm,積算電力量0.01kWh/cmの条件でスパッタを実施した後のターゲットスパッタ面の算術平均粗さRaが7μm以下とされていることを特徴としている。
本発明のAg合金スパッタリングターゲットによれば、Arガス圧0.1Pa,電流密度1.5W/cm,積算電力量0.01kWh/cmの条件でスパッタを実施した後のターゲットスパッタ面の算術平均粗さRaが7μm以下とされているので、スパッタ後におけるターゲットスパッタ面の表面粗さが小さく、ターゲットスパッタ面の酸化物や反応生成物を除去しやすくなるため、プレスパッタ時間を短縮することが可能となる。よって、Ag合金膜の成膜効率を大幅に向上させることができる。
また、InおよびSnのうちの少なくとも1種以上を合計で0.1質量%以上1.5質量%以下の範囲内で含み、残部がAg及び不可避不純物とされた組成とされているので、耐硫化性及び耐熱性に優れ、反射率が高く、電気抵抗の低いAg合金膜を成膜することが可能となる。
さらに、InおよびSnがAgの母相に固溶することで、スパッタリングターゲットにおける結晶粒の成長を抑制できる。また、硬度が向上し、スパッタリングターゲットの反りを抑制することができる。
ここで、本発明のAg合金スパッタリングターゲットにおいては、さらにGeを0.1質量%以上7.5質量%以下の範囲で含有することが好ましい。すなわち、本発明の別の態様であるAg合金スパッタリングターゲットは、InおよびSnのうちの少なくとも1種以上を合計で0.1質量%以上1.5質量%以下の範囲内で含み、さらにGeを0.1質量%以上7.5質量%以下の範囲内で含有し、残部がAg及び不可避不純物とされた組成を有し、Arガス圧0.1Pa、電流密度1.5W/cm、積算電力量0.01kWh/cmの条件でスパッタを実施した後のターゲットスパッタ面の算術平均粗さRaが7μm以下とされていることを特徴としている。
この構成のAg合金スパッタリングターゲットによれば、Arガス圧0.1Pa、電流密度1.5W/cm、積算電力量0.01kWh/cmの条件でスパッタを実施した後のターゲットスパッタ面の算術平均粗さRaが7μm以下とされているので、スパッタ後におけるターゲットスパッタ面の表面粗さが小さく、ターゲットスパッタ面の酸化物や反応生成物を除去しやすくなるため、プレスパッタ時間を短縮することが可能となる。よって、Ag合金膜の成膜効率を大幅に向上させることができる。
また、InおよびSnのうちの少なくとも1種以上を合計で0.1質量%以上1.5質量%以下の範囲内で含み、さらにGeを0.1質量%以上7.5質量%以下の範囲内で含有し、残部がAg及び不可避不純物とされた組成とされているので、耐熱性をより一層向上させ、熱処理後に反射率が低下することを抑制でき、かつ、耐硫化性を有し、反射率が高く、電気抵抗の低いAg合金膜を成膜することが可能となる。
さらに、In、SnおよびGeから選択された添加成分がAgの母相に固溶することで、スパッタリングターゲットにおける結晶粒の成長を抑制できる。また、硬度が向上し、スパッタリングターゲットの反りを抑制することができる。
本発明のAg合金スパッタリングターゲットの製造方法は、上述のAg合金スパッタリングターゲットを製造するAg合金スパッタリングターゲットの製造方法であって、熱間据え込み鍛造工程、熱間圧延工程、冷却工程、冷間圧延工程、熱処理工程、機械加工工程を、この順で実施する構成とされ、前記熱間据え込み鍛造工程では、保持温度を750℃以上850℃以下の範囲内、保持温度での保持時間を1時間以上3時間以下の範囲内の条件で加熱し、鍛錬成型比が1/2以上1/1.2以下の範囲内の鍛造加工を、6回以上20回以下の範囲内で繰り返し実施することを特徴としている。
本発明のAg合金スパッタリングターゲットの製造方法によれば、据え込み鍛造工程を有し、この熱間据え込み鍛造工程では、保持温度を750℃以上850℃以下の範囲内、保持温度での保持時間を1時間以上3時間以下の範囲内の条件で加熱し、鍛錬成型比が1/2以上1/1.2以下の範囲内の鍛造加工を、6回以上20回以下の範囲内で繰り返し実施する構成とされているので、ターゲットスパッタ面の結晶組織において特殊粒界が多く存在することになる。これにより、スパッタ後の表面粗さを小さくすることができる。
本発明によれば、プレスパッタ時間を短縮することができ、耐熱性及び耐硫化性に優れたAg合金膜を効率良く成膜することが可能なAg合金スパッタリングターゲット、及び、Ag合金スパッタリングターゲットの製造方法を提供することができる。
本実施形態であるAg合金スパッタリングターゲットの製造方法の一例を示すフロー図である。 実施例におけるAg合金スパッタリングターゲットのターゲットスパッタ面におけるサンプルの採取位置を示す説明図である。
以下に、本発明の一実施形態であるAg合金スパッタリングターゲットについて説明する。
本実施形態であるAg合金スパッタリングターゲットは、Ag合金膜を成膜する際に用いられるものである。なお、本実施形態においては、成膜されたAg合金膜は、有機EL素子の反射電極膜として使用されるものとされている。
なお、本実施形態であるAg合金スパッタリングターゲットは、ターゲットスパッタ面が矩形状をなす矩形平板型スパッタリングターゲットであってもよいし、ターゲットスパッタ面が円形状をなす円板型スパッタリングターゲットであってもよい。あるいは、ターゲットスパッタ面が円筒面とされた円筒型スパッタリングターゲットであってもよい。
本実施形態であるAg合金スパッタリングターゲットは、InおよびSnのうちの少なくとも1種以上を合計で0.1質量%以上1.5質量%以下の範囲内で含み、残部がAg及び不可避不純物とされた組成のAg合金で構成されている。
また、本実施形態であるAg合金スパッタリングターゲットにおいては、さらに、Geを0.1質量%以上7.5質量%以下の範囲内で含有してもよい。
そして、本実施形態であるAg合金スパッタリングターゲットにおいては、Arガス圧0.1Pa,電流密度1.5W/cm,積算電力量0.01kWh/cmの条件でスパッタを実施した後のターゲットスパッタ面の算術平均粗さRa(JIS B0601:2013)が7μm以下とされている。
以下に、本実施形態であるAg合金スパッタリングターゲットにおいて、組成、及び、スパッタ後のターゲットスパッタ面の算術平均粗さRaを、上述のように規定した理由について説明する。
(InおよびSnのうちの少なくとも1種以上の合計含有量)
InおよびSnは、成膜されたAg合金膜の耐硫化性および耐熱性を向上させる作用効果を有する元素である。また、InおよびSnは、Agに固溶して結晶粒の成長を抑制することができる。また、固溶によって硬度が向上し、反りの発生を抑制することが可能となる。
ここで、InおよびSnのうちの少なくとも1種以上の合計含有量が0.1質量%未満の場合には、上述の作用効果を十分に得られないおそれがある。一方、InおよびSnのうちの少なくとも1種以上の合計含有量が1.5質量%を超える場合には、成膜されたAg合金膜の反射率が低下するとともに、電気抵抗が上昇してしまうおそれがある。
このような理由から、本実施形態においては、InおよびSnのうちの少なくとも1種以上の合計含有量を0.1質量%以上1.5質量%以下の範囲内に設定している。
なお、成膜されたAg合金膜の耐硫化性および耐熱性を確実に向上させるとともに、反りの発生を確実に抑制するためには、InおよびSnのうちの少なくとも1種以上の合計含有量の下限を0.25質量%以上とすることが好ましく、0.5質量%以上とすることがさらに好ましい。
また、成膜されたAg合金膜の反射率の低下及び電気抵抗の上昇を確実に抑制するためには、InおよびSnのうちの少なくとも1種以上の合計含有量の上限を1.25質量%以下とすることが好ましく、1.0質量%以下とすることがさらに好ましい。
(Geの含有量)
Geは、In、Snに加えて含有することによりと同様に成膜されたAg合金膜の耐硫化性および耐熱性をより一層向上させる作用効果を有する元素である。また、Geは、Agに固溶して結晶粒の成長を抑制することができる。また、固溶によって硬度が向上し、反りの発生を抑制することが可能となる。一方、GeはInやSnと比較して、膜中に含有としてスパッタされにくいという特徴がある。膜中のGe含有量はターゲットの組成に対して、2割程度となってしまうため、InやSnと同等の効果を発揮するために、5倍程度の量が必要となる。
そのため、Geの含有量が0.1質量%未満の場合には上述の作用効果を十分に得られないおそれがある。一方、Geの含有量が7.5質量%を超える場合には、成膜されたAg合金膜の反射率が低下するとともに、電気抵抗が上昇してしまうおそれがある。
このような理由から、本実施形態において、Geを添加する場合には、Geの含有量を0.1質量%以上7.5質量%以下の範囲内に設定している。
ここで、Geの添加による上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、Geの含有量の下限を1.25質量%以上にすることが好ましく、2.5質量%以上にすることがさらに好ましい。一方、Geの添加による反射率の低下や電気抵抗の上昇を確実に抑制するためには、Geの含有量の上限を6.25質量%以下とすることが好ましく、5.0質量%以下とすることがさらに好ましい。
なお、Geを意図的に添加することなく不純物として含まれる場合には、Geの含有量が0.1質量%未満であってもよい。
(スパッタ後のターゲットスパッタ面の算術平均粗さRa)
Ag合金スパッタリングターゲットにおいて、スパッタ後のターゲットスパッタ面の表面粗さが小さいと、ターゲットスパッタ面に存在する酸化物や反応生成物を除去しやすくなる。これにより、Ag合金スパッタリングターゲットを再使用する際に、プレスパッタ時間を短縮することが可能となる。
ここで、スパッタ後のターゲットスパッタ面の算術平均粗さRaが7μmを超える場合には、上述の作用効果を奏することができなくなるおそれがある。
このような理由から、本実施形態のスパッタリングターゲットにおいては、Arガス圧0.1Pa,電流密度1.5W/cm,積算電力量0.01kWh/cmの条件でスパッタを実施した後のターゲットスパッタ面の算術平均粗さRaを7μm以下に設定している。
なお、スパッタ後のターゲットスパッタ面の算術平均粗さRaを0.5μm未満とすることは、非常に困難であり、現実的ではない。このため、スパッタ後のターゲットスパッタ面の算術平均粗さRaの下限は、例えば、0.5μmである。また、Ag合金スパッタリングターゲットをさらに容易に製造するためには、スパッタ後のターゲットスパッタ面の算術平均粗さRaの下限を1.0μm以上とすることが好ましく、1.5μm以上とすることがさらに好ましい。
一方、プレスパッタ時間をさらに確実に短縮するためには、上述の条件でスパッタを実施した後のターゲットスパッタ面の算術平均粗さRaの上限を6.5μm以下とすることが好ましく、6μm以下とすることがさらに好ましい。
次に、本実施形態であるAg合金スパッタリングターゲットの製造方法について、図1のフロー図を用いて説明する。
(原料準備工程S01)
まず、溶解原料として、純度99.99質量%以上のAgと、添加元素として純度99.9質量%以上のInおよびSnを準備し、Ag原料と、添加元素を、所定の組成となるように秤量する。
(溶解鋳造工程S02)
次に、溶解炉中において、Agを高真空または不活性ガス雰囲気中で溶解し、得られた溶湯に所定量の添加元素を添加する。その後、真空または不活性ガス雰囲気中で溶解して、InおよびSnのうちの少なくとも1種以上を合計で0.1質量%以上1.5質量%以下含有し、残部がAg及び不可避不純物からなる組成のAg合金インゴット、もしくは、InおよびSnのうちの少なくとも1種以上を合計で0.1質量%以上1.5質量%以下含有し、さらにGeを0.1質量%以上7.5質量%以下含有し、残部がAg及び不可避不純物からなる組成のAg合金インゴットを作製する。
(熱間据え込み鍛造工程S03)
次に、得られたAg合金インゴットに対して、熱間据え込み鍛造を実施する。この熱間据え込み鍛造工程S03においては、保持温度を750℃以上850℃以下の範囲内、保持温度での保持時間を1時間以上3時間以下の範囲内の条件で加熱し、鍛錬成型比が1/2以上1/1.2以下の範囲内の鍛造加工を、6回以上20回以下の範囲内で繰り返し実施する。
この熱間据え込み鍛造工程S03を実施することにより、特殊粒界を増加させることが可能となる。
なお、熱間据え込み鍛造工程S03においては、自由鍛造とすることが好ましく、例えば、鍛造方向を90°転回しながら、繰り返し実施することが好ましい。
ここで、熱間据え込み鍛造工程S03における繰り返し回数が6回未満では、上述の作用効果を奏することができないおそれがある。一方、繰り返し回数が20回を超えた場合には、特殊粒界のさらなる増加は見込めない。
よって、本実施形態では、熱間据え込み鍛造工程S03における繰り返し回数を6回以上20回以下の範囲内に設定している。
なお、熱間据え込み鍛造工程S03における繰り返し回数の下限は7回以上とすることが好ましく、8回以上とすることがさらに好ましい。一方、熱間据え込み鍛造工程S03における繰り返し回数の上限は18回以下とすることが好ましく、15回以下とすることがさらに好ましい。
また、熱間据え込み鍛造工程S03における保持温度が750℃より低い場合には、割れが生じやすくなる。一方、上述の保持温度が850℃より高い場合には、Ag合金インゴットは軟らかくなりすぎて取り扱いが困難となる。
よって、本実施形態では、熱間据え込み鍛造工程S03における保持温度を750℃以上850℃以下の範囲内に設定している。
なお、熱間据え込み鍛造工程S03における保持温度の下限は760℃以上とすることが好ましく、780℃以上とすることがさらに好ましい。一方、熱間据え込み鍛造工程S03における保持温度の上限は840℃以下とすることが好ましく、820℃以下とすることがさらに好ましい。
さらに、上述の保持温度での保持時間が1時間未満の場合には、Ag合金インゴットの内部に均一に熱が伝わらず、特殊粒界が不均一に存在するおそれがある。一方、上述の保持温度での保持時間が3時間を超えても、さらなる効果は得られない。
よって、本実施形態では、上述の保持温度での保持時間を1時間以上3時間以下の範囲内に設定している。
なお、上述の保持時間での保持温度の下限は1.1時間とすることが好ましく、1.3時間以上とすることがさらに好ましい。一方、上述の保持時間での保持温度の上限は2.5時間以下とすることが好ましく、2.0時間以下とすることがさらに好ましい。
また、熱間据え込み鍛造工程S03における鍛錬成形比が1/2より小さい場合には、割れが生じやすくなる。一方、上述の鍛錬成形比が1/1.2より大きい場合には、特殊粒界を十分に増加させることができないおそれがある。
よって、本実施形態では、熱間据え込み鍛造工程S03における鍛錬成形比を1/2以上1/1.2以下の範囲内に設定している。
なお、熱間据え込み鍛造工程S03における鍛錬成形比の下限は1/1.9以上とすることが好ましく、1/1.8以上とすることがさらに好ましい。一方、熱間据え込み鍛造工程S03における鍛錬成形比の上限は1/1.3以下とすることが好ましく、1/1.4以下とすることがさらに好ましい。
(熱間圧延工程S04)
次に、熱間据え込み鍛造工程S03によって得られた鍛造材に対して、熱間圧延を行い、所定の厚さの熱間圧延材を得る。
ここで、上述の熱間圧延工程S04においては、1パス当たりの圧下率が20%以上35%以下の範囲内、ひずみ速度が3/sec以上10/sec以下の範囲内、パス後の温度が400℃以上650℃以下の範囲内とされた仕上げ熱間圧延パスを1パス以上含んでいることが好ましい。
なお、仕上げ熱間圧延とは、圧延後の板材の結晶粒径に強く影響を及ぼす圧延パスであり、最終圧延パスを含み、必要に応じて、最終圧延パスから2回前までのパスであると考えてよい。
なお、ひずみ速度ε(sec−1)は、次式で与えられる。以下の式において、H:圧延ロールに対する入側での板厚(mm)、n:圧延ロール回転速度(rpm)、R:圧延ロール半径(mm)、r:圧下率(%)であり、r’=r/100である。
Figure 2019143242
(冷却工程S05)
次に、熱間圧延材を冷却する。この冷却工程S05においては、100℃/min以上1000℃/min以下の冷却速度で、200℃以下にまで冷却することが好ましい。
(冷間圧延工程S06)
次に、冷却工程S05後に冷間圧延を実施する。この冷間圧延工程S06においては、1パス当たりの圧下率の全圧延パスの平均値を10%以上30%以下の範囲内とすることが好ましい。また、ひずみ速度の全圧延パスの平均値を3/sec以上10/sec以下の範囲内とすることが好ましい。さらに、総圧下率を40%以上80%以下の範囲内とすることが好ましい。
(熱処理工程S07)
冷間圧延工程S06後に、熱処理を実施する。この熱処理工程S07においては、保持温度を350℃以上550℃以下の範囲内、保持温度における保持時間を1時間以上2時間以下の範囲内とすることが好ましい。
(機械加工工程S08)
次に、熱処理工程S07後に、切断、研削等の機械加工を行う。これにより、所定のサイズのAg合金スパッタリングターゲットを製造する。
以上のようにして、本実施形態であるAg合金スパッタリングターゲットが製造されることになる。
以上のような構成とされた本実施形態であるAg合金スパッタリングターゲットによれば、Arガス圧0.1Pa,電流密度1.5W/cm,積算電力量0.01kWh/cmの条件でスパッタを実施した後のターゲットスパッタ面の算術平均粗さRaが7μm以下とされているので、スパッタ後におけるターゲットスパッタ面の表面粗さが小さく、ターゲットスパッタ面の酸化物や反応生成物を除去しやすくなるため、プレスパッタ時間を短縮することが可能となる。よって、Ag合金膜の成膜効率を大幅に向上させることができる。
また、InおよびSnのうちの少なくとも1種以上を合計で0.1質量%以上1.5質量%以下の範囲内で含み、残部がAg及び不可避不純物とされた組成とされているので、耐硫化性及び耐熱性に優れ、反射率が高く、電気抵抗の低いAg合金膜を成膜することが可能となる。
さらに、InおよびSnがAgに固溶することで、スパッタリングターゲットにおける結晶粒の成長を抑制できる。また、硬度が向上し、スパッタリングターゲットの反りを抑制することができる。
また、本実施形態であるAg合金スパッタリングターゲットにおいて、さらにGeを0.1質量%以上7.5質量%以下の範囲で含有する場合には、より一層耐熱性に優れており、耐硫化性にも優れ、反射率が高く、電気抵抗の低いAg合金膜を成膜することが可能となる。さらに、In、およびSnおよびGeから選択された添加成分がAgに固溶することで、スパッタリングターゲットにおける結晶粒の成長を抑制できる。また、硬度が向上し、スパッタリングターゲットの反りを抑制することができる。
さらに、本実施形態であるAg合金スパッタリングターゲットの製造方法によれば、据え込み鍛造工程S03を有し、この熱間据え込み鍛造工程S03では、保持温度を750℃以上850℃以下の範囲内、保持温度での保持時間を1時間以上3時間以下の範囲内の条件で加熱し、鍛錬成型比が1/2以上1/1.2以下の範囲内の鍛造加工を、6回以上20回以下の範囲内で繰り返し実施する構成とされているので、ターゲットスパッタ面の結晶組織において特殊粒界が多く存在することになる。これにより、スパッタ後の表面粗さを小さくすることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、有機EL素子の反射電極膜として使用されるAg合金膜を成膜するものとして説明したが、これに限定されることはなく、例えばタッチパネルや太陽電池等の電子デバイスの導電膜及び配線膜として使用されるものでもよく、その他の用途に用いてもよい。
以下に、前述した本発明のAg合金スパッタリングターゲットについて評価した評価試験の結果について説明する。
まず、溶解原料として、純度99.99質量%以上のAg原料と、純度99.9質量%以上のIn原料、Sn原料およびGe原料を準備した。これらの溶解原料を、表1に示す配合組成となるように秤量した。
次に、黒鉛坩堝を有する高周波誘導加熱炉によって、Agを真空排気後不活性ガス雰囲気下で溶解し、得られたAg溶湯に、In、SnおよびGeを適宜添加し、真空または不活性ガス雰囲気中で溶解した。
Ag合金溶湯を、誘導加熱による撹拌効果によって十分に撹拌した後、鋳鉄製の鋳型に鋳造した。得られた鋳塊の引け巣部分を切除するとともに、鋳塊の表面を研削し、直方体状のAg合金インゴットを得た。
得られたAg合金インゴットに対して、表1に示す条件で、熱間据え込み鍛造工程を実施した。
次に、表1に示す条件の仕上げ熱間圧延パスを有する熱間圧延工程を実施し、その後、表1に示す冷却速度で150℃まで冷却する冷却工程を実施した。
次に、1パス当たりの圧下率の全圧延パスの平均値、ひずみ速度の全圧延パスの平均値、及び、総圧下率が表1に示す条件となるように冷間圧延工程を実施した。
その後、表1に示す条件で熱処理工程を実施し、機械加工を行い、直径152.4mm×厚さ6mmのAg合金スパッタリングターゲットを作製した。
上述のようにして得られたAg合金スパッタリングターゲットについて、成分組成、スパッタ前後のターゲットスパッタ面の算術平均粗さRa、成膜したAg合金膜の反射率、Ag合金膜の耐熱性および耐硫化性を、以下のようにして評価した。評価結果を表2に示す。
(成分組成)
得られたAg合金スパッタリングターゲットから測定試料を採取し、これを酸で前処理した後、ICP分析を実施した。
その結果、本発明例及び比較例のAg合金スパッタリングターゲットにおけるIn、SnおよびGeの含有量については、配合組成と略同等であることを確認した。
(算術平均粗さRa)
Mitutoyo社製サーフテストSV−3000H4を用いて、Ag合金スパッタリングターゲットのターゲットスパッタ面の算術平均粗さRaを測定した。測定は、図2に示すように、1サンプルについて4か所で実施し、その平均値を表2に記載した。
ターゲットスパッタ面の算術平均粗さRaについては、スパッタ実施前と、Arガス圧0.1Pa,電流密度1.5W/cm,積算電力量0.01kWh/cmの条件でスパッタを実施した後で、それぞれ測定した。評価結果を表2に示す。
(Ag合金膜の反射率)
スパッタ実施後のRa測定後(チャンバーを大気開放後)、再度スパッタ装置にターゲットを装着し、DC300WでAr50sccm、0.4Paの条件でプレスパッタを実施し、プレスパッタを5分実施するたびに、30分以降は10分実施するたびに、成膜レートを測定し、目標膜厚100nmでAg合金膜を成膜した。
成膜したAg合金膜について、それぞれ分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社 U−4100)を用いて反射率を測定することで、反射率が安定するまでのプレスパッタ時間を調べた。なお、プレスパッタ中はチャンバーを大気に開放せずに、スパッタ装置の基板搬送機能を使って、成膜したAg合金膜をスパッタ装置外に搬出し成膜レートを測定し、基板毎に目標膜厚100nmのAg合金膜を成膜した。
(Ag合金膜の耐熱性)
30分のプレスパッタを実施した後に成膜した目標膜厚100nmのAg合金膜について、大気雰囲気下で250℃×1.5時間の熱処理を実施し、熱処理後の反射率を、上述のように測定した。評価結果を表2に示す。なお、表2には、波長400〜700nmの平均反射率を記載した。
(Ag合金膜の耐硫化性)
30分のプレスパッタを実施した後に成膜した目標膜厚100nmのAg合金膜について、硫化水素試験機(山崎精機研究所製GH−180−M)を用いて25℃、75%RH、硫化水素3質量ppmの雰囲気に1時間暴露した。暴露後の反射率を、上述のように測定した。評価結果を表2に示す。なお、表2には、波長400〜700nmの平均反射率を記載した。
Figure 2019143242
Figure 2019143242
Arガス圧0.1Pa,電流密度1.5W/cm、積算電力量0.01kWh/cmの条件でスパッタを実施した後のターゲットスパッタ面の算術平均面粗さRaが7.2μmと本発明の範囲よりも大きい比較例1においては、プレスパッタ時間25分まで平均反射率が安定しなかった。
InおよびSnのうちの少なくとも1種以上の合計含有量が1.6質量%と本発明の範囲よりも多い比較例2、および、Geの含有量が7.6質量%と本発明の範囲よりも多い比較例6においては、プレスパッタ後の反射率が95%未満と低かった。
InおよびSnのうちの少なくとも1種以上の合計含有量が0.05質量%と本発明の範囲よりも少ない比較例3においては、熱処理後の反射率、及び、硫化試験後の反射率が低下している。成膜したAg合金膜において、耐熱性、耐硫化性が不十分であることが確認された。
熱間据え込み鍛造工程における保持時間が0.5時間と本発明の範囲よりも短い比較例4においては、Arガス圧0.1Pa、電流密度1.5W/cm、積算電力量0.01kWh/cmの条件でスパッタを実施した後のターゲットスパッタ面の算術平均面粗さRaが8.3μmと本発明の範囲よりも大きく、プレスパッタ時間25分まで平均反射率が安定しなかった。
熱間据え込み鍛造工程における鍛錬成形比が1/1.1と本発明の範囲よりも大きい比較例5においては、Arガス圧0.1Pa、電流密度1.5W/cm、積算電力量0.01kWh/cmの条件でスパッタを実施した後のターゲットスパッタ面の算術平均面粗さRaが8.1μmと本発明の範囲よりも大きく、プレスパッタ時間25分まで平均反射率が安定しなかった。
これに対して、InおよびSnのうちの少なくとも1種以上の合計含有量、Geの含有量、および、Arガス圧0.1Pa、電流密度1.5W/cm、積算電力量0.01kWh/cmの条件でスパッタを実施した後のターゲットスパッタ面の算術平均面粗さRaが本発明の範囲内とされた本発明例によれば、プレスパッタ時間15分で平均反射率が安定し、プレスパッタ時間を短くすることができた。また、耐熱性、耐硫化性に優れたAg合金膜を成膜可能であることが確認された。また、それらのうちGeを本発明の範囲内で添加した本発明例8、9においては耐熱性がより一層優れたAg合金膜であることが確認された。
以上のことから、本発明例によれば、プレスパッタ時間を短縮することができ、耐熱性及び耐硫化性に優れたAg合金膜を効率良く成膜することが可能なAg合金スパッタリングターゲットを提供可能であることが確認された。
S03 熱間据え込み鍛造工程
S04 熱間圧延工程
S05 冷却工程
S06 冷間圧延工程
S07 熱処理工程
S08 機械加工工程

Claims (3)

  1. InおよびSnのうちの少なくとも1種以上を合計で0.1質量%以上1.5質量%以下の範囲内で含み、残部がAg及び不可避不純物とされた組成を有し、
    Arガス圧0.1Pa,電流密度1.5W/cm,積算電力量0.01kWh/cmの条件でスパッタを実施した後のターゲットスパッタ面の算術平均面粗さRaが7μm以下とされていることを特徴とするAg合金スパッタリングターゲット。
  2. さらに、Geを0.1質量%以上7.5質量%以上の範囲で含むことを特徴とする請求項1に記載のAg合金スパッタリングターゲット。
  3. 請求項1又は請求項2に記載のAg合金スパッタリングターゲットを製造するAg合金スパッタリングターゲットの製造方法であって、
    熱間据え込み鍛造工程、熱間圧延工程、冷却工程、冷間圧延工程、熱処理工程、機械加工工程を、この順で実施する構成とされ、
    前記熱間据え込み鍛造工程では、保持温度を750℃以上850℃以下の範囲内、保持温度での保持時間を1時間以上3時間以下の範囲内の条件で加熱し、鍛錬成型比が1/2以上1/1.2以下の範囲内の鍛造加工を、6回以上20回以下の範囲内で繰り返し実施することを特徴とするAg合金スパッタリングターゲットの製造方法。
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