JP2014196562A - Ag合金スパッタリングターゲット - Google Patents

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Sohei Nonaka
荘平 野中
小見山 昌三
Shozo Komiyama
昌三 小見山
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Abstract

【課題】異常放電及びスプラッシュの低減を図ることができるAg−In合金スパッタリングターゲットを提供する。さらに、Ag−In合金薄膜を熱処理した後においても、反射率の低下を抑制することができるスパッタリング成膜されたAg−In合金導電膜を提供する。
【解決手段】Ag−In合金膜の成膜に用いるスパッタリングターゲットは、In:0.1〜1.5原子%を含有し、残部がAg及び不可避不純物からなる成分組成を有し、元素:Si、Cr、Fe及びNiの各々の含有量が、30ppm以下であり、さらには、その合計含有量が、90ppm以下である。
【選択図】なし

Description

本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子や発光ダイオード(LED)に用いられる反射電極膜を成膜形成するためのAg合金スパッタリングターゲットに関する。
有機EL表示装置における有機EL素子の光の取り出し方式には、透明基板側から光を取り出すボトムエミッション方式と、基板とは反対側に光を取り出すトップエミッション方式とがあるが、開口率の高いトップエミッション方式が、高輝度化には有利である。従来、トップエミッション方式の有機EL素子では、アノードの金属膜として、Al又はAl合金や、Ag又はAg合金による反射電極膜が用いられており、この反射電極膜と電界発光層との間には、酸化インジウムスズ(ITO)、アルミニウム添加酸化亜鉛(AZO等の透明導電膜が設けられている(例えば、特許文献1を参照)。この透明導電膜は、仕事関数が高いという特性から、正孔を有機EL層に注入するために設けられている。
ここで、反射電極膜は、有機EL層で発光した光を効率よく反射するために、高反射率であることが望ましい。また、電極としても、低抵抗であることが望ましい。そのような材料として、Ag合金及びAl合金が知られているが、より高輝度の有機EL素子を得るものとして、可視光反射率が高いことから、Ag合金が優れている。有機EL素子への反射電極膜の形成には、スパッタリング法が採用されており、銀合金スパッタリングターゲットが用いられている(例えば、特許文献2を参照)。
また、有機EL素子用反射電極膜の他に、タッチパネルの引き出し配線などの導電性膜にも、Ag合金膜が検討されている。このような配線膜として、例えば、純Agを用いるとマイグレーションが生じて短絡不良が発生しやすくなるため、Ag合金膜の採用が検討されている。
例えば、反射電極膜材料として、高反射率と低抵抗を有するAgにInを添加したAg合金を用いることが提案されている。Inの添加により、ターゲット素材の硬さを向上させるので、機械加工時の反りを抑制する。特に、大型のスパッタリングターゲットの場合には、機械加工時の反りを抑制することが重要である。加えて、Inは、スパッタリングにより形成された反射電極膜の耐食性、及び、耐熱性を向上させる効果がある。これは、Inが、反射電極膜中の結晶粒を微細化し、膜の表面粗さを小さくし、また、Agに固溶して結晶粒の強度を高め、結晶粒の再結晶粒化を抑制するので、スパッタリングにより形成された反射電極膜の反射率の低下を抑制することができる。反射電極膜の耐食性、及び、耐熱性の向上は、有機EL素子の高輝度化、長寿命化に寄与する。
特開2006−236839号公報 国際公開第2002/077317号
しかしながら、上記従来の技術においても、以下の課題が残されている。
有機EL素子においてアノードとなるAg合金膜については、反射電極として低抵抗及び高反射率の特性が求められると共に、上層に形成される透明導電膜の健全性を確保するために、表面粗さが小さいことが求められる。即ち、Ag合金膜の表面粗さが大きいと、Ag合金膜の凹凸により、上層の透明導電膜、さらには、後の工程で形成される有機EL層を含む電界発光層に欠陥を生じる。これにより有機ELパネルの生産歩留まりが低下することとなる。また、工程雰囲気中に含まれる硫黄分がAg合金膜を硫化し、硫化された領域が欠陥となり、これも歩留まり低下を生じる原因となる。
この様に、従来技術では、十分な低抵抗と高反射率とを備え、さらに小さい表面粗さ及び高い耐硫化性を有するAg合金膜を得ることができなかった。さらに、導電性膜をLEDの反射膜や反射電極膜等に用いる場合には、LEDの発熱に対して、反射率を良好に維持することができる耐熱性も要求されるが、従来技術によるAg合金膜では、十分な耐熱性が得られないという問題があった。
そこで、この問題点を解消するため、低抵抗かつ高反射率の特性と共に表面粗さが小さく、高い耐硫化性及び耐熱性を兼ね備えた導電性膜を成膜形成できるAg合金スパッタリングターゲットが提案された。この提案されたAg合金スパッタリングターゲットには、Sbが添加されており、成膜されたAg合金膜の表面に、薄いSb酸化物が形成されることによって、低抵抗かつ高反射率の特性を有しながら、小さい表面粗さと高い耐硫化性及び耐熱性とを達成している。
ところで、Ag合金スパッタリングターゲット中に、Agへの固溶度が大きい元素、例えば、Sb、Sn、Mg、Pd、Ga、Znなどが、固溶限以内の濃度で添加されている場合には、スパッタリング中に、異常放電が発生することも、スプラッシュが発生することも少ないので、スパッタリングする上では何ら支障がない。しかしながら、Agへの固溶度が小さい元素が存在していると、この元素が酸化され、スパッタリングターゲット中に、酸化物が形成されやすい。この元素を含有するAg−In合金で構成されたAg合金スパッタリングターゲットの場合には、この酸化物に起因して、大電力でのスパッタリング中に、異常放電が発生し易くなり、スプラッシュが発生し易くなるという問題があり、有機ELパネルの一層の精細化に対応できず、歩留まり向上を図れなかった。
一方、有機ELディスプレイパネルの製造工程においては、ITO/Ag合金/ITOの積層膜を使用した反射電極の成膜後、有機物を主成分とする隔壁層を形成し、これを硬化させるためなどの目的で熱処理が行われる。この様に、積層膜が熱処理工程を経た場合には、Ag合金反射膜の反射率が熱処理前後において、低下してしまうという問題があった。
そこで、本発明は、この問題を解決し、有機ELパネルの一層の精細化と、歩留まり向上という要求に応えることができる、より一層の異常放電及びスプラッシュの低減を図ることができる。さらに、Ag−In合金薄膜を熱処理した後においても、反射率の低下を抑制することができるAg−In合金スパッタリングターゲットを用いてスパッタリング成膜されたAg−In合金導電膜を提供することを目的とする。
Agへの固溶度が大きい元素をAg合金に添加した場合には、異常放電や、スプラッシュが少ないことについては上述したが、本発明者らは、これとは逆に、Agへの固溶度が小さい元素をAg合金に添加した場合には、その元素が結晶粒界などに偏析しやすく、さらには、その元素が溶解雰囲気中の残留酸素などにより酸化されて酸化物となりやすく、これらの酸化物がAg合金組織中に介在することによって、異常放電やスプラッシュの原因になるという知見を得た。そこで、Ag−In合金スパッタリングターゲットを用いて、Ag−In合金により構成された反射電極膜を成膜するとき、スパッタリング時における異常放電やスプラッシュの発生を低減するためには、上記酸化物になりやすい元素、或いは、不純物の含有量を低減することが重要であることが判明した。
そこで、本発明者らは、スパッタリングターゲットを製造するための原料粉末に含まれており、溶解雰囲気中の残留酸素などにより酸化されて酸化物となる可能性のある元素、即ち、Si、Cr、Fe及びNiに着目し、これらのSi、Cr、Fe及びNiの含有量を低減することにより、Ag合金組織中に介在する酸化物の生成を抑制して、スパッタリング時の異常放電やスプラッシュを低減するようにした。さらに、Ag−In合金にSbを適量添加すると、熱処理による反射率の低下を抑制することができる。
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
(1)本発明によるAg−In合金膜は、In:0.1〜1.5原子%を含有し、残部がAg及び不可避不純物からなる成分組成を有するAg−In合金であって、元素:Si、Cr、Fe及びNiの各々の含有量が、30ppm以下であり、かつ、Sb:0.2〜2.0原子%を含有するスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング成膜されたことを特徴とする。
(2)本発明によるAg−In合金膜は、In:0.1〜1.5原子%を含有し、残部がAg及び不可避不純物からなる成分組成を有するAg−In合金であって、元素:Si、Cr、Fe及びNiの各々の含有量が、90ppm以下であり、かつ、Sb:0.2〜2.0原子%を含有するスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング成膜されたことを特徴とする。
ここで、本発明に係るAg−In合金膜のスパッタリング成膜に用いるAg−In合金スパッタリングターゲットにおける金属成分元素の含有割合を上記のごとく限定した理由は、以下のとおりである。
(1)In:
Inは、表面粗さを低減すると共に耐硫化性及び耐熱性を高める効果を有するので添加するが、0.1原子%よりも少ないと、この効果が十分発揮されず、一方、Inを、1.5原子%を超えて含有させると、反射電極膜の比抵抗が増大し、反射率も低下してしまうので、好ましくない。したがって、この発明のAg−In合金スパッタリングターゲットに含まれる全金属成分元素に占めるInの含有割合をIn:0.1〜1.5原子%に定めた。
(2)Si、Cr、Fe及びNi:
元素:Si、Cr、Fe及びNiは、Agへの固溶度が小さく、結晶粒界などに偏析しやすい。そのため、溶解雰囲気中の残留酸素などにより酸化されて酸化物になりやすく、その酸化物が、Ag合金組織中に介在するように生成される。この酸化物は、異常放電発生、スプラッシュ発生の原因になるので、各元素の含有量をできる限り低減した。
各元素の含有量を低減するのに、例えば、純度3NレベルのAg原料を硝酸又は硫酸で浸出した後、所定のAg濃度の電解液を用いて電解精製する方法を採用した。この方法によって、Ag原料中に存在する不純物である、Pb,Na,Mg、Al、P、S、Cl、K、Ca、Co、Cu、Pd、Th、Uなどの濃度を低減できる。そこで、この精製方法でこれらの不純物が低減されたAg原料について、ICP法による不純物分析を実施し、Si、Cr、Fe及びNiの濃度(含有量)が、いずれも30ppm以下であるAg原料を、Ag−In合金スパッタリングターゲットの製造原料とした。
ここで、本発明のAg−In合金膜のスパッタリング成膜に用いるスパッタリングターゲットにおいて、Si、Cr、Fe及びNiの含有量を、いずれも30ppm以下とした理由は、各元素の含有量が30ppmを超えると、Ag合金組織中における酸化物が多く介在し、スパッタリング時の異常放電発生、スプラッシュ発生を抑制できなくなるためである。一層好ましくは、10ppm以下である。さらに、各元素の含有量が30ppm以下であっても、各元素の合計含有量が、90ppmを超えると、Ag合金組織中における酸化物が多く介在するのと変わらないことになるため、その合計含有量を90ppm以下とし、より一層好ましくは、60ppm以下である。
(3)Sb:
上記Ag−In合金スパッタリングターゲットによりスパッタリング成膜されたAg−In合金膜では、積層膜形成の過程で熱処理が施されると、その膜表面の粗さが増加する傾向があるので、熱処理後においては、Ag−In合金膜の反射率が、熱処理前に比して低下する。そのため、Ag−In合金スパッタリングターゲットに、さらに、Sb:0.2〜2.0原子%を含有させることにより、熱処理前後における反射率の低下を抑制した。
この熱処理後の反射率低下抑制の効果は、Ag−In合金スパッタリングターゲットへのSbの添加量として、0.2%未満であっても、また、Sbが2.0%を超えて含有させても得られ難いことから、Ag−In合金スパッタリングターゲットへのSbの添加量は、0.2%以上、2.0%以下とした。より一層好ましくは、Sbの範囲は、0.4%以上、1.0%以下である。
以上の様に、本発明のAg−In合金膜のスパッタリング成膜に用いるAg−In合金スパッタリングターゲットは、In:0.1〜1.5原子%を含有し、残部がAg及び不可避不純物からなる成分組成を有し、元素:Si、Cr、Fe及びNiの各々の含有量が、30ppm以下であって、さらには、各元素の合計含有量が、90ppm以下であるため、Ag−In合金で構成された反射電極膜をスパッタリング成膜するとき、より一層の異常放電及びスプラッシュの低減を図れる。また、前記Ag−In合金スパッタリングターゲットにSbを0.2〜2.0原子%添加したので、そのスパッタリングターゲットによりスパッタリング成膜すると、熱処理による反射率の低下を抑制したAg−In合金膜が得られる。そのため、有機ELパネルの一層の精細化と、歩留まり向上という要求に応えることができ、表示装置や、タッチパネルなどの生産性向上に寄与する。
次に、本発明のAg−In合金膜のスパッタリング成膜に用いるAg−In合金スパッタリングターゲットについて、第1の実施形態と第2の実施形態とに分けて、具体的に、実施例及び比較例を参照しながら、以下に説明する。なお、第1の実施形態は、Inを含有したAg合金であって、Si、Cr、Fe及びNiの各々の含有量が、30ppm以下であり、その合計含有量が、90ppm以下であるAg−In合金スパッタリングターゲットの場合であり、第2の実施形態は、In及びSbを含有したAg合金であって、Si、Cr、Fe及びNiの各々の含有量が、30ppm以下であり、その合計含有量が、90ppm以下であるAg−In合金スパッタリングターゲットの場合である。
〔第1の実施形態〕
先ず、第1の実施形態によるAg−In合金スパッタリングターゲットを製造するため、原料として、純度99.9質量%(3N)以上のAgを用意した。このAg原料について、上述した精製方法を実施して、Si、Cr、Fe及びNiの含有量が、いずれも30ppm以下であり、さらには、合計含有量が90ppm以下である条件を満たしたAg原料を選別した。この選別したAg原料と、純度99.99質量%以上のIn原料とを所定の組成となるように秤量した。
次に、上記のAg原料を高真空又は不活性ガス雰囲気中で溶解し、得られた溶湯に所定の含有量のIn原料を添加する。その後、真空又は不活性ガス雰囲気中で溶解して、Inを所定の原子%含んだAg合金の溶解鋳造インゴットを作製した。
ここで、Agの溶解では、雰囲気を一度真空にした後、Arで置換した雰囲気で行い、溶解後、Ar雰囲気の中でAgの溶湯にInを添加することが、AgとInとの組成比率を安定に得る観点から好ましい。
得られたインゴットを冷間圧延した後、大気中で例えば600℃、2時間保持の熱処理を施し、次いで、機械加工することにより、所定寸法(直径152.6mm×厚さ6mm)の実施例1〜15及び比較例1〜12のAg−In合金スパッタリングターゲットを作製した。そして、この作製されたスパッタリングターゲットを無酸素銅製のバッキングプレートに半田付けした。このスパッタリングターゲットが、直流マグネトロンスパッタ装置内に装着され、Ag−In合金薄膜の成膜に供された。なお、実施例1〜15及び比較例1〜12のAg−In合金スパッタリングターゲットについて、成分組成分析を行った結果が、表1及び表2に示されている。比較例1〜12のAg−In合金スパッタリングターゲットの製造には、上述の条件で選別をしなかったAg原料を用いており、Si、Cr、Fe及びNiの各々の含有量が、本発明の含有量の範囲外であるか、或いは、各々の合計含有量が、本発明の合計含有量の範囲外である。
次に、真空排気装置にて直流マグネトロンスパッタ装置内を5×10−5Pa以下まで排気した後、Arガスを導入して、スパッタガス圧を0.5Paに調整し、続いて、スパッタリングターゲットに、例えば、250Wの直流スパッタリング電力を印加し、以下の手順で連続放電とその間の異常放電回数の計測を実施した。
上記の装着されたAg−In合金スパッタリングターゲットによるスパッタリング時の異常放電回数を測定するため、先ず、上述の条件で、1時間のプレスパッタリングを実施し、これによりターゲット表面の加工層を除去した。さらに、同条件にて、1時間のスパッタリングを行った。この1時間の間に発生した累積異常放電回数を、使用した直流電源に備えられたアーキングカウント機能を用いて計測した。その測定結果が、表1及び表2の「累積異常放電回数(/h)」欄に示されている。


以上の表1から分かるように、実施例1〜15のAg−In合金スパッタリングターゲットを用いた直流(DC)スパッタリングでは、異常放電回数が低減されており、異常放電が測定された場合でも、実用上、支障がない頻度であることが確認された。これに対して、表2から分かるように、Si、Cr、Fe及びNiのいずれかの含有量が、30ppmを超えているため、その合計含有量が、90ppm以下であっても、異常放電が多発していることが確認された。
以上の様に、実施例1〜15のAg−In合金スパッタリングターゲットによれば、Si、Cr、Fe及びNiの各々の含有量が、30ppm以下であり、さらには、その合計含有量が90ppm以下であるので、異常放電の発生を低減できることが確認され、有機ELパネルの一層の精細化と、歩留まり向上に貢献できるものである。
〔第2の実施形態〕
次に、第2の実施形態によるAg−In合金スパッタリングターゲットを製造する場合について、以下に説明する。
第1の実施形態の場合と同様に、ターゲット製造のための原料として、純度99.9質量%(3N)以上のAgを用意し、このAg原料について、上述した精製方法を実施して、Si、Cr、Fe及びNiの含有量が、いずれも30ppm以下であり、さらには、合計含有量が90ppm以下である条件を満たしたAg原料を選別した。この選別したAg原料と、純度99.99質量%以上のIn原料及びSb原料とを所定の組成となるように秤量した。
次に、上記のAg原料を高真空又は不活性ガス雰囲気中で溶解し、得られた溶湯に所定の含有量のIn原料及びSb原料を添加する。その後、真空又は不活性ガス雰囲気中で溶解して、In及びSbを所定の原子%含んだAg合金の溶解鋳造インゴットを作製した。
得られたインゴットを冷間圧延した後、大気中で例えば600℃、2時間保持の熱処理を施し、次いで、機械加工することにより、所定寸法(直径152.6mm×厚さ6mm)の実施例16〜32及び比較例13〜16のSb含有Ag−In合金スパッタリングターゲットを作製した。そして、この作製されたスパッタリングターゲットを無酸素銅製のバッキングプレートに半田付けした。このスパッタリングターゲットが、直流マグネトロンスパッタ装置内に装着され、Ag−In−Sb合金薄膜の成膜に供された。なお、実施例16〜32及び比較例13〜16のSb含有Ag−In合金スパッタリングターゲットについて、成分組成分析を行った結果が、表3及び表4に示されている。比較例13〜16のSb含有Ag−In合金スパッタリングターゲットの製造には、上述の条件で選別をしなかったAg原料を用いており、Si、Cr、Fe及びNiの各々の含有量が、本発明の含有量の範囲外であるか、或いは、各々の合計含有量が、本発明の合計含有量の範囲外である。
次に、真空排気装置にて直流マグネトロンスパッタ装置内を5×10−5Pa以下まで排気した後、Arガスを導入して、スパッタガス圧を0.5Paに調整し、続いて、スパッタリングターゲットに、例えば、250Wの直流スパッタリング電力を印加し、以下の手順で連続放電とその間の異常放電回数の計測を実施した。
上記の装着されたSb含有Ag−In合金スパッタリングターゲットによるスパッタリング時の異常放電回数を測定するため、先ず、上述の条件で、1時間のプレスパッタリングを実施し、これによりターゲット表面の加工層を除去した。さらに、同条件にて、1時間のスパッタリングを行った。この1時間の間に発生した累積異常放電回数を、使用した直流電源に備えられたアーキングカウント機能を用いて計測した。その測定結果が、表3及び表4の「累積以上放電回数(/h)」欄に示されている。
さらに、実施例1〜15及び比較例1〜12のAg−In合金スパッタリングターゲットと、実施例16〜32及び比較例13〜16のSb含有Ag−In合金スパッタリングターゲットとについて、熱処理前後の反射率の変化を測定した。
上記熱処理試験を行うにあたり、実施例1〜32及び比較例1〜16のAg合金スパッタリングターゲットならびに市販の直径152.4mm×直径6mmのITOターゲットを、直流マグネトロンスパッタ装置のチャンバー内に装着して、ITO膜/Ag−In合金膜/ITO膜及びITO膜/Ag−In−Sb合金膜/ITO膜の積層構造をスパッタリングにより作製した。
具体的には、真空排気装置にて上記のスパッタ装置内を5×10−5Pa以下まで排気した後、上記スパッタリングターゲットと平行に配置した50mm角の洗浄済みガラス基板(コーニング社製イーグルXG)に対し、以下に示すスパッタ条件にて、成膜した。その成膜は、ITO膜、Ag−In合金膜又はAg−In−Sb合金膜、ITO膜の順で行われ、真空を破らずに連続で成膜した。ITO膜、Ag−In合金膜、Ag−In−Sb合金膜の成膜条件は次のとおりとした。
<ITO膜>
電力:直流50W
ガス全圧:0.67Pa
ガス:Arガス及びOガス
Ar/O2流量比:50/1
ターゲットと基板との距離:70mm
基板加熱:なし
膜厚:10nm
<Ag−In合金膜及びAg−In−Sb合金膜>
電力:直流250W
ガス全圧:0.3Pa
ガス:Arガス
ターゲットと基板との距離:70mm
基板加熱:なし
膜厚:350nm
ここで、成膜された実施例1〜15及び比較例1〜12のAg−In合金膜の組成については、表1及び表2に示す。また、実施例16〜32及び比較例13〜16のAg−In−Sb合金膜の組成については、表3及び表4に示す。
<反射率測定>
分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製 U−4100)により波長380nm〜800nmの範囲で、実施例1〜15及び比較例1〜12のITO膜/Ag−In合金膜/ITO積層膜(以下、Ag−In合金積層膜という)と、実施例16〜30及び比較例13〜16のITO膜/Ag−In−Sb合金膜/ITO積層膜(以下、Ag−In−Sb合金積層膜という)とについて、熱処理試験を実施する前と、実施した後とにおける反射率をそれぞれ測定した。ここで、熱処理試験は、大気中において250℃で1時間の熱処理をすることにより行われ、反射率の測定には、可視光(380nm〜800nm)の代表的な波長として波長550nmを選択した。測定された反射率は、実施例1〜15のAg−In合金積層膜に関して、表1の「熱処理試験前膜反射率(%)」欄及び「熱処理試験前膜反射率(%)」欄に、そして、比較例1〜12のAg−In合金積層膜に関して、表2の「熱処理試験前膜反射率(%)」欄にそれぞれ示されている。また、実施例16〜32のAg−In−Sb合金積層膜に関して、表3の「熱処理試験前膜反射率(%)」欄及び「熱処理試験前膜反射率(%)」欄に、そして、比較例13〜16のAg−In−Sb合金積層膜に関して、表4の「熱処理試験前膜反射率(%)」欄にそれぞれ示されている。


以上の表3から分かるように、実施例16〜32のSb含有Ag−In合金スパッタリングターゲットを用いた直流(DC)スパッタリングでは、異常放電回数が低減されており、異常放電が測定された場合でも、実用上、支障がない頻度であることが確認された。このことに加えて、実施例16〜32のSb含有Ag−In合金スパッタリングターゲットにより成膜されたAg−In−Sb合金積層膜に関して、熱処理試験前後で反射率低下を抑制できることが確認された。なお、表1に示されるように、Sbを含有していないAg−In合金スパッタリングターゲットの場合には、熱処理試験前後で反射率が低下した。また、表4から分かるように、比較例13〜16のSb含有Ag−In合金スパッタリングターゲットでは、Si、Cr、Fe及びNiのいずれかの含有量が、30ppmを超え、その合計含有量も、90ppmを超えており、異常放電が多発していることが確認された。
以上の様に、第1の実施形態の場合と同様に、実施例16〜32のSb含有Ag−In合金スパッタリングターゲットによれば、Si、Cr、Fe及びNiの各々の含有量が、30ppm以下であり、さらには、その合計含有量が90ppm以下であるので、異常放電の発生を低減できることが確認され、有機ELパネルの一層の精細化と、歩留まり向上に貢献できるものである。



Claims (2)

  1. In:0.1〜1.5原子%を含有し、残部がAg及び不可避不純物からなる成分組成を有するAg−In合金であって、元素:Si、Cr、Fe及びNiの各々の含有量が、30ppm以下であり、かつ、Sb:0.2〜2.0原子%を含有するスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング成膜されたことを特徴とするAg−In合金膜。
  2. In:0.1〜1.5原子%を含有し、残部がAg及び不可避不純物からなる成分組成を有するAg−In合金であって、元素:Si、Cr、Fe及びNiの各々の含有量が、90ppm以下であり、かつ、Sb:0.2〜2.0原子%を含有するスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング成膜されたことを特徴とするAg−In合金膜。



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