JP2018100437A - Ag合金スパッタリングターゲットおよびAg合金膜 - Google Patents
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Description
この配線の微細化および薄膜化にともなって、さらに電気抵抗が低い導電膜が求められており、特許文献1〜5に開示されたAg合金膜を適用することは困難であった。
酸素は、Ag合金スパッタリングターゲット製造用のAg合金インゴットを鋳造により作製する際に、Mgと空気中の酸素とが反応することによって混入するおそれがある元素である。酸素の含有量を100質量ppm未満に制限することによって、この酸素に起因するMg酸化物に電荷が溜まって異常放電が発生することを抑制でき、スパッタ成膜を安定して行うことが可能となる。また、炭素は、Ag合金スパッタリングターゲット製造用のAg合金インゴットを鋳造により作製する際に、Mgと空気中の二酸化炭素とが反応することによって混入するおそれがある元素である。炭素の含有量を50質量ppm未満に制限することによって、この二酸化炭素に起因するMg酸化物に電荷が溜まって異常放電が発生することを抑制でき、スパッタ成膜を安定して行うことが可能となる。
スパッタレートは、結晶方位によって異なることから、スパッタが進行するとスパッタ面に、上述のスパッタレートの違いに起因して凹凸が生じる。スパッタ面のおける結晶粒の粒径が大きいと、この凹凸が大きくなり、凸部に電荷が集中して異常放電が発生しやすくなる。そこで、スパッタ面における平均結晶粒径が100μm以下に制限することで、異常放電の発生をさらに抑制することが可能となる。
この場合、本発明のAg合金膜は、Agが有する低い電気抵抗と優れた光学特性とを維持しつつ、各種の耐久性が向上しているので、上記の用途において長期間にわたって安定して使用することができる。
本実施形態であるAg合金スパッタリングターゲットは、Pd、Pt、Auから選択される1種又は2種以上の元素を合計で1.5原子%以上10.0原子%以下の範囲で含有し、ZnおよびSnのいずれか一方または両方を合計で0.1原子%以上3.0原子%以下の範囲で含有し、更にMgを0.05原子%以上0.20原子%以下の範囲で含有し、残部がAgと不可避不純物とされている。また、本実施形態であるAg合金スパッタリングターゲットは、前記不可避不純物のうち酸素の含有量が100質量ppm未満で、かつ炭素の含有量が50質量ppm未満とされている。さらに、本実施形態であるAg合金スパッタリングターゲットは、平均結晶粒径が100μm以下とされている。
以下に、本実施形態であるAg合金スパッタリングターゲットの組成および平均結晶粒径を上述のように規定した理由について説明する。
Pd、Pt、Auは、Agよりも貴な金属であり(すなわち、標準電極電位がAgより高く、化学物質に対する反応性が低い)、成膜したAg合金膜中に固溶することで、Ag合金膜の反応性(水蒸気、硫黄、塩素などに対する化学反応性)を抑え、かつAgの凝集を抑制する作用効果を有する元素である。
Pd、Pt、Auの合計含有量が少なくなりすぎると、成膜したAg合金膜の耐熱性、耐湿性、耐硫化性、耐塩水性などの各種の耐久性が十分に向上しないおそれがある。一方、Pd、Pt、Auの合計含有量が多くなりすぎると、成膜したAg合金膜の電気抵抗が上昇し、光学特性(反射率,透過率)が低下してしまうおそれがある。また、材料コストが高価になる。
このような理由から、本実施形態では、Pd、Pt、Auの合計含有量を1.5原子%以上10.0原子%以下の範囲に設定している。
Zn、Snは、成膜したAg合金膜表面に濃化し酸化物層を形成することで化学物質に対するバリアとなり、Ag合金膜の反応性を抑え、かつ熱処理中にAg合金膜中から吐き出され表面濃化が促進されることでAgの凝集を抑制する作用効果を有する元素である。
Zn、Snの合計含有量が少なくなりすぎると、成膜したAg合金膜の各種の耐久性が十分に向上しないおそれがある。一方、Zn、Snの合計含有量が多くなりすぎると、成膜したAg合金膜の電気抵抗が上昇し、光学特性(反射率,透過率)が低下してしまうおそれがある。
このような理由から、本実施形態では、Pd、Pt、Auの合計含有量を0.1原子%以上3.0原子%以下の範囲に設定している。
Mgは、Ag合金スパッタリングターゲットの結晶粒を微細化し、成膜時での異常放電発生を抑える作用効果を有する。また、Mgは、成膜したAg合金膜中の結晶中に分散し、Ag合金膜中のAgの凝集を抑制して、Ag合金膜の耐熱性を向上させる作用効果を有する。
Mgの含有量が少なくなりすぎると、Ag合金スパッタリングターゲットの結晶粒が微細化せず、成膜時での異常放電発生を抑える作用効果が得られないおそれがある。また、成膜したAg合金膜の耐熱性が十分に向上しないおそれがある。
一方、Mgの含有量が多くなりすぎると、Ag合金スパッタリングターゲットの製造用Ag合金を鋳造により作製すると、得られるAg合金インゴットに巣(空洞)が発生しやすくなるため、Ag合金スパッタリングターゲットの製造が困難となるおそれがある。
このような理由から、本実施形態ではMgの含有量を0.05原子%以上0.20原子%以下の範囲に設定している。
不可避不純物のうち酸素は、Ag合金スパッタリングターゲット製造用のAg合金インゴットを鋳造により作製する際に、Mgと空気中の酸素とが反応することによって混入するおそれがある元素である。
Ag合金スパッタリングターゲットにMgの酸化物が存在すると、スパッタ時に異常放電が発生しやすくなるおそれがある。すなわち酸素が少ないことは、スパッタ時に異常放電発生の原因の一つとなるMgの酸化物の存在量が少ないことを意味する。
このような理由から、本実施形態では酸素の含有量を100質量ppm未満に設定している。
不可避不純物のうち炭素は、Ag合金スパッタリングターゲット製造用のAg合金インゴットを鋳造により作製する際に、下記の式に示すように、Mgと空気中の二酸化炭素とが反応することによって混入するおそれがある元素である。
2Mg+CO2→2MgO+C
Ag合金スパッタリングターゲットにMgOなどのMgの酸化物が存在すると、スパッタ時に異常放電が発生しやすくなるおそれがある。すなわち炭素が少ないことは、スパッタ時に異常放電発生の原因の一つとなるMgの酸化物の存在量が少ないことを意味する。
このような理由から、本実施形態では炭素の含有量を50質量ppm未満に設定している。
Ag合金スパッタリングターゲットの平均結晶径が小さいと、スパッタ時に異常放電が発生しにくくなる。
スパッタレートは、結晶方位によって異なることから、スパッタが進行するとスパッタ面に、上述のスパッタレートの違いに起因して結晶粒に応じた凹凸が生じることになる。
ここで、平均結晶粒径が100μmを超えると、スパッタ面に生じる凹凸が大きくなり、凸部に電荷が集中して異常放電が発生しやすくなる。
このような理由から、本実施形態では平均結晶粒径を100μm以下に設定している。
次に、本実施形態に係るAg合金スパッタリングターゲットの製造方法について説明する。
まず、溶解原料として、純度99.9質量%以上のAgと純度99.9質量%以上のCPd、Pt、Au、Zn、Sn、Mgを準備する。
本実施形態であるAg合金膜は、Pd、Pt、Auから選択される1種又は2種以上の元素を合計で1.5原子%以上10.0原子%以下の範囲で含有し、ZnおよびSnのいずれか一方または両方を合計で0.1原子%以上3.0原子%以下の範囲で含有し、更にMgを0.05原子%以上0.20原子%以下の範囲で含有し、残部がAgと不可避不純物からなる。本実施形態であるAg合金膜の組成を上述のように規定した理由は、前述のAg合金スパッタリングターゲットの場合と同様である。
成膜する基板としては、ガラス板又は箔、金属板又は箔、樹脂板又は樹脂フィルム等を用いることができる。ガラス基板としては、例えば、無アルカリガラス基板(コーニング社製@品番Eagle XG)を用いることができる。樹脂フィルムとしては、例えば東レのPETフィルム(ルミラーT60、厚み100μmt)を用いることができる。また、成膜時の基板の配置については、静止対向方式やインライン方式等を採用することができる。
光学表示装置の例としては、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDを挙げることができる。Ag合金膜は、これら光学表示装置の透明電極もしくは反射電極または配線として利用することができる。
タッチパネル用として、Ag合金膜はタッチパネルのパネル面周縁部に形成される配線や、透明導電膜として静電容量方式タッチセンサーなどとして利用できる。
太陽電池用として、Ag合金膜は太陽電池の透明導電膜あるいは反射膜として利用できる。
遮熱材の例としては、フィルムやガラスなどの基材とその基材の表面に形成された赤外線反射層とを有する遮熱板(遮熱フィルム、遮熱ガラス)を挙げることができる。Ag合金膜は、これら遮熱材の赤外光反射層として利用することができる。
例えば、Ag合金スパッタリングターゲットは、その形状に特に限定はなく、円板状あるいは矩形平板状をなしていてもよいし、円筒形状をなしていてもよい。また、スパッタ面の面積についても上述の範囲に限定されることはない。Ag合金膜の厚み、基板および成膜方法は、本実施形態で例示したものに限定されることはなく、用途に合わせて適宜変更してもよい。
<Ag合金膜成形用スパッタリングターゲット>
Ag原料として、純度99.9質量%のAgと、純度99.99質量%以上のAgとを用意し、添加原料として、純度99.9質量%以上のPd、Au、Pt、Sn、Zn、Mgの各金属を準備した。
なお、純度99.99質量%以上のAgは、純度99.9質量%のAgを硝酸で浸出した後、電解精製することによって得た。純度99.99質量%以上のAgは、酸素濃度が100質量ppm以下、炭素濃度が50質量ppm以下であった。純度99.9質量%のAgは、酸素濃度が300質量ppm、炭素濃度が100質量ppmであった。
その後、機械加工を実施することにより、直径152.4mm、厚さ6mm寸法を有するAg合金スパッタリングターゲットを製造した。
鋳造後のAg合金インゴットより分析用サンプルを採取し、そのサンプルをICP発光分光分析法により分析した。なお、下記のAg合金膜についても、Ag合金スパッタリングターゲットと同様に組成を測定し、Ag合金スパッタリングターゲットと同様の組成となることを確認した。
熱処理後のAg合金インゴットより切断片(サイズ:縦30mm、横30mm、厚さ10mm)を採取し、スパッタ面に表面研磨を行って結晶粒径測定用サンプルを作製した。そのサンプルのスパッタ面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、電子線後方散乱回折分析装置(EBSD)を用いて結晶粒の粒径を測定し平均値を求めた(測定範囲:約3mm×約1mm)。
上述の本発明例1〜20及び比較例1〜11のAg合金スパッタリングターゲットを、無酸素銅製のバッキングプレートにインジウム半田を用いて半田付けしてターゲット複合体を作製した。
通常のマグネトロンスパッタ装置に、上述のターゲット複合体を取り付け、5×10−5Paまで排気した後、Arガス圧:0.5Pa、投入電力:直流1000W、ターゲット/基板間距離:70mmの条件でスパッタを実施した。スパッタ時の異常放電回数は、MKSインスツルメント社製DC電源(RPDG−50A)のアークカウント機能により、放電開始から6時間の異常放電回数として計測した。
上述の本発明例1〜20及び比較例1〜11のAg合金スパッタリングターゲットをスパッタ装置に装着し、下記の条件でスパッタリング成膜を実施して、Ag合金膜を成膜した。なお、Ag合金膜は、反射導電膜用途を想定した膜厚100nmのAg合金膜と、半透過導電膜用途を想定した膜厚15nmのAg合金膜の2種類を成膜した。
基板:無アルカリガラス基板(コーニング社製イーグルXG)
到達真空度:5×10−5Pa以下
使用ガス:Ar
ガス圧:0.5Pa
電力:直流200W
ターゲット/基板間距離:70mm
成膜直後のAg合金膜のシート抵抗を、ロレスタ(三菱化学製)を用いた四探針法で測定した。その結果を表2に示す。
成膜直後のAg合金膜の光学特性を、分光光度計(日立ハイテク社 U−4100)を用いて評価した。膜厚100nmのAg合金膜は反射率を測定した。膜厚15nmのAg合金膜は透過率を測定した。その結果を表2に示す。なお、表2には、波長550nmの光における値を記載した。
Ag合金膜を、恒温恒湿器(エスペック社製)に投入して、85℃−85%RHの条件で500時間保持した。保持後のAg合金膜の光学特性(反射率,透過率)を測定し、下記の式より、光学特性変化量を算出した。その結果を、表2に示す。
光学特性変化量=恒温恒湿試験後の光学特性−成膜直後の光学特性
Ag合金膜を、赤外線イメージ炉に投入し、大気中250℃の温度1時間で熱処理した。熱処理後のAg合金膜の光学特性(反射率,透過率)を測定し、下記の式より、光学特性変化量を算出した。その結果を、表2に示す。
光学特性変化量=熱処理試験後の光学特性−成膜直後の光学特性
Ag合金膜を、濃度0.01質量%の硫化ナトリウム水溶液(液温:25℃)中に投入して、1時間保持した。保持前後のAg合金膜のシート抵抗と、光学特性(反射率,透過率)とを測定した。下記の式より、シート抵抗変化率と光学特性変化量を算出した。その結果を、表2に示す。なお、硫化試験は、膜厚100nmのAg合金膜についてのみ実施した。
シート抵抗変化率:(硫化試験後のシート抵抗−成膜直後のシート抵抗)/(成膜直後のシート抵抗)×100
光学特性変化量:硫化試験後の光学特性−成膜直後の光学特性
Ag合金膜を、濃度5質量%の塩化ナトリウム水溶液(液温:25℃)中に投入して、12時間保持した。保持後のAg合金膜のシート抵抗と、光学特性(反射率,透過率)とを測定した。下記の式より、シート抵抗変化率と光学特性変化量を算出した。その結果を、表2に示す。なお、塩水試験は、膜厚100nmのAg合金膜についてのみ実施した。
シート抵抗変化率:(塩化試験後のシート抵抗−成膜直後のシート抵抗)/(成膜直後のシート抵抗)×100
光学特性変化量:塩化試験後の光学特性−成膜直後の光学特性
Pd、Au、Ptの合計含有量が本発明の範囲よりも多い比較例2、4、6においては、成膜直後のAg合金膜のシート抵抗が高く、また光学特性(反射率,透過率)が低くなった。
Zn、Sn合計含有量が本発明の範囲よりも多い比較例8、10においては、成膜直後のAg合金膜は、シート抵抗が高く、光学特性(反射率,透過率)が低くなった。
Mgの含有量が本発明の範囲よりも多い比較例12においては、鋳造によって作製したAg合金インゴットに巣が多数発生した。このため、Ag合金スパッタリングターゲットを製造できなかった。
また、Ag合金スパッタリングターゲットの酸素の含有量が100質量ppm未満で、かつ炭素の含有量が50質量ppm未満であり、さらに平均結晶粒径が100μm以下とされた本発明例1〜17においては、Ag合金スパッタリングターゲットのスパッタ時の異常放電回数が顕著に少なくなった。
Claims (8)
- Pd、Pt、Auから選択される1種又は2種以上の元素を合計で1.5原子%以上10.0原子%以下の範囲で含有し、ZnおよびSnのいずれか一方または両方を合計で0.1原子%以上3.0原子%以下の範囲で含有し、更にMgを0.05原子%以上0.20原子%以下の範囲で含有し、残部がAgと不可避不純物からなることを特徴とするAg合金スパッタリングターゲット。
- 前記不可避不純物のうち酸素の含有量が100質量ppm未満で、かつ炭素の含有量が50質量ppm未満であることを特徴とする請求項1に記載のAg合金スパッタリングターゲット。
- 平均結晶粒径が100μm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のAg合金スパッタリングターゲット。
- Pd、Pt、Auから選択される1種又は2種以上の元素を合計で1.5原子%以上10.0原子%以下の範囲で含有し、ZnおよびSnのいずれか一方または両方を合計で0.1原子%以上3.0原子%以下の範囲で含有し、更にMgを0.05原子%以上0.20原子%以下の範囲で含有し、残部がAgと不可避不純物からなることを特徴とするAg合金膜。
- 光学表示装置用であることを特徴とする請求項4に記載のAg合金膜。
- タッチパネル用であることを特徴とする請求項4に記載のAg合金膜。
- 太陽電池用であることを特徴とする請求項4に記載のAg合金膜。
- 遮熱材用であることを特徴とする請求項4に記載のAg合金膜。
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