以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
図1は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の一部が示された断面図である。図1において、上下方向がタイヤ1の半径方向であり、左右方向がタイヤ1の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ1の周方向である。
一点鎖線CLは、タイヤ1の赤道面を示す。実線BLは、ビードベースラインを示す。ビードベースラインBLは、タイヤ1が装着される正規リムのリム径(JATMA参照)を規定する線である。ビードベースラインBLは、軸方向に延びている。
タイヤ1は、トレッド4、一対のサイドウォール6、一対のビード8、少なくとも1枚以上のカーカス10、ベルト12、バンド14、インナーライナー16、及び一対のチェーファー18を備えている。タイヤ1は、チューブレスタイプである。タイヤ1は、自動二輪車の後輪に装着される。タイヤ1の形状は、トレッドパターンを除き、赤道面CLに対して対称である。
トレッド4は、路面と接地するトレッド面20を有する。トレッド4は、半径方向外向きに凸な形状に形成されている。トレッド面20は、軸方向において、一方のトレッド端Peから、他方のトレッド端Pe(不図示)まで延びている。
トレッド4は、軸方向に配置された異なるゴムからなる複数の領域を有する。本実施形態では、トレッド4が有する複数の領域は、センター領域22と、一対のショルダー領域24とを含む。センター領域22は、タイヤ1の軸方向中央に位置している。センター領域22は、一例として、軸方向において赤道面CLを跨ぐ中央に位置している。センター領域22は、例えば、コーナー進入時のブレーキ性能と直進走行時の加速性能とを得るために用いられる。ショルダー領域24は、例えば、旋回走行時のグリップ力と加速性能とを得るために用いられる。
ショルダー領域24は、タイヤ1の軸方向外側に位置している。ショルダー領域24は、一例として、軸方向においてセンター領域22の外側に位置している。言い換えると、トレッド4では、センター領域22の軸方向両側にショルダー領域24が配置されている。センター領域22及びショルダー領域24は、耐摩耗性、耐熱性及びグリップ力に優れた架橋ゴムからなる。タイヤ1では、センター領域22の複素弾性率E*は、ショルダー領域24の複素弾性率E*よりも小さい。
トレッド4の外周面には、溝が刻まれていてもよい。この溝により、トレッドパターンが形成される。トレッド4は、ベース層を備えていてもよい。ベース層は、例えば、センター領域22及び一対のショルダー領域24の半径方向内側に配置される。ベース層は、軸方向一方のショルダー領域24の外端から他方のショルダー領域24の外端まで延びるように配置してもよい。ベース層は、例えば、接着性に優れた架橋ゴムにより構成される。
一対のサイドウォール6は、カーカス10の損傷を防止する。サイドウォール6は、トレッド4の軸方向外端から、半径方向内側に向けて延びている。サイドウォール6の半径方向外側端は、トレッド4と接合されている。サイドウォール6は、耐カット性及び耐候性に優れた架橋ゴムからなる。
一対のビード8は、サイドウォール6の半径方向内側に位置している。ビード8は、コア26と、コア26から半径方向外側に向けて延びるエイペックス28とを有する。コア26は、リング状に形成されている。コア26は、巻回された非伸縮性ワイヤーを含む。当該ワイヤーの典型的な材質は、スチールである。エイペックス28は、半径方向内側から外側に向けて先細りに形成されている。エイペックス28は、高硬度な架橋ゴムからなる。
カーカス10は、バンド14の半径方向内側に配置されている。カーカス10は、カーカスプライ30を有する。カーカスプライ30は、一対のビード8の間に架け渡されている。カーカスプライ30は、トレッド4及びサイドウォール6に沿って配置されている。カーカスプライ30は、コア26の周りにて、軸方向内側から外側に向かって折り返されている。この折り返しにより、カーカスプライ30には、主部30aと折り返し部30bとが形成されている。
カーカスプライ30は、それぞれ並列された多数のカーカスコードとトッピングゴムとからなる。カーカスコードの赤道面CLに対してなす角度の絶対値は、75°以上90°以下の範囲の値に設定されている。これによりカーカス10は、ラジアル構造を有する。
カーカスコードは、有機繊維からなる。好ましい有機繊維としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維及びアラミド繊維を例示できる。なおカーカス10は、2枚以上のカーカスプライから構成されていてもよい。
ベルト12は、タイヤ1の剛性の向上に寄与する。ベルト12は、赤道面CLに対して傾斜して延びるベルトコードを有する。ベルト12は、ベルトコードが延びる方向にトレッド4の剛性を向上させる。ベルト12は、旋回走行の後期の急加速時には、周方向に直交する方向において、トレッド面20の接地幅を小さくする。
またベルト12は、軸方向に間隔をおいて配置される一対のベルト層32を有する。ベルト層32は、トレッド4の半径方向内側に積層されている。ベルト層32は、バンド14の半径方向外側に積層されている。ベルト層32は、半径方向において、トレッド4とバンド14との間に配置されている。
軸方向において、一方のベルト層32は、赤道面CLより軸方向一方側に位置し、他方のベルト層32は、赤道面CLより軸方向他方側に位置している。ベルト層32は、軸方向の内端Piから外端Poまでトレッド4に沿って延びている。
ベルト層32は、並列された多数のベルトコードとトッピングゴムとからなる。ベルトコードの好ましい材質は、有機繊維である。好ましい有機繊維としては、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維及びアラミド繊維を例示できる。
ベルト層32は、センター領域22に積層される中央部34と、ショルダー領域24に積層される側部36とを有する。中央部34におけるベルトコードの密度は、側部40におけるベルトコードの密度より小さい。これらのベルトコードの密度は、ベルト12の軸方向幅5cm当たりのベルトコード打ち込み本数であるエンズとして求められる。
バンド14は、ベルト12と共にカーカス10を補強する。バンド14は、ジョイントレスバンド(JLB)である。バンド14は、カーカス10の半径方向外側に位置している。バンド14は、トレッド4の半径方向内側に配置されている。バンド14は、軸方向において、一方の外端Pbから他方の外端Pbまで、トレッド4に沿って延びている。
バンド14は、バンドコードとトッピングゴムとからなる。バンドコードは、軸方向において、一方端Pbから他方端Pbまで、螺旋状に巻かれている。バンドコードは、実質的に周方向に延びている。周方向に対するバンドコードの傾斜角度は、5°以下の値に設定されている。この傾斜角度としては、2°以下の値に設定されていることが更に好ましい。バンドコードは、有機繊維からなる。好ましい有機繊維としては、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、及びアラミド繊維等を例示できる。
インナーライナー16は、タイヤ1の内圧を保持する。インナーライナー16は、カーカス10の内側に位置している。赤道面CLの近傍において、インナーライナー16は、カーカス10の内面に接合されている。インナーライナー16は、空気遮蔽性に優れた架橋ゴムからなる。インナーライナー16の典型的な基材ゴムは、ブチルゴム又はハロゲン化ブチルゴムである。
チェーファー18は、ビード8の近傍に位置している。チェーファー18は、一例として、布とこの布に含浸したゴムとにより構成される。タイヤ1がリムに組み込まれると、チェーファー18はリムと当接する。この当接により、ビード8の近傍が保護される。チェーファー18は、リムシートに当接するシート面38を備えている。
なお、図1に示した符号P1は、トレッド面20におけるセンター領域22とショルダー領域24との境界点を示す。符号P2は、トレッド4の内周面におけるセンター領域22とショルダー領域24との境界点を示す。この境界点P1,P2を通るセンター領域22とショルダー領域24との境界は、半径方向内側から外側に向かって、軸方向外側から内側向きに傾斜して延びている。センター領域22の厚さは、境界点P1から境界点P2に向かって漸減している。ショルダー領域24の厚さは、境界点P2から境界点P1に向かって漸減している。
また、図1に示した片矢印TWは、トレッド幅を示す。トレッド幅TWは、一方のトレッド端Peから、他方のトレッド端Pe(不図示)までのトレッド面20に沿った幅(トレッドペリフェリー)である。両矢印CWは、センター領域22のトレッド4の外周面(トレッド面20)に沿った幅を示す。幅CWは、一方の境界点P1から他方の境界点P1までのトレッド4の外周面(トレッド面20)に沿った距離を示す。
両矢印BWは、一対のベルト層32のベルト12の外周面に沿った間隔を示す。間隔BWは、一対のベルト層32の一方の内端Piから他方の内端Piまでのベルト12の外周面に沿った距離を示す。ベルト層32は、中央部34と側部36とを有する。中央部34は、ベルト層32の内端Piから境界点P2までの部分である。側部36は、ベルト層32の境界点P2から外端Poまでの部分である。
片矢印Rは、赤道面CLにおけるトレッド面20の曲率半径を示す。自動二輪車に装着された状態におけるタイヤ1の曲率半径Rは、四輪自動車のそれに比べて小さい。これにより、旋回走行において、ライダーは自動二輪車を旋回方向内側へ容易に傾斜させることができる。この傾斜によって、自動二輪車の旋回走行がスムーズに実現される。曲率半径Rは、例えば、50mm以上150mm以下の範囲の値に設定される。
タイヤ1は、自動二輪車の後輪に装着される。タイヤ1では、バンド14のバンドコードが周方向に延びているので、高速回転時における径成長(外径成長)が抑制されている。これによりタイヤ1は、径成長による操縦安定性の低下を抑制できる。従ってタイヤ1は高速走行に適している。
タイヤ1を装着した自動二輪車が、高速での直進走行から旋回走行に移行する際、旋回走行の前期には、自動二輪車に大きな制動力が作用する。この大きな制動力によって、前輪には大きな荷重が掛かると共に、後輪に装着されたタイヤ1には比較的小さな荷重が掛かる。一方、高速での旋回走行から直進走行に移行する際、旋回走行の後期には、自動二輪車は急加速する。この急加速によって、後輪に装着されたタイヤ1には比較的大きな荷重が掛かる。
タイヤ1では、直進走行時には主にセンター領域22が接地する。またタイヤ1では、旋回走行時には主にショルダー領域24が接地する。そこでセンター領域22及びショルダー領域24の各ゴムには、上記した旋回走行の前期及び後期のそれぞれに掛かる荷重に適した架橋ゴムを採用できる。これによりタイヤ1は、高速旋回走行において、高い走行性能を発揮できる。
また、曲率半径Rが小さいタイヤ1では、トレッド面20の周長は、赤道面CLに近い側で大きく、トレッド端Peに近い側で小さい。タイヤ1では、周方向に直交する方向において、トレッド面20の接地幅が小さい。よってタイヤ1では、トレッド面20の接地幅において、周長の差によるスリップの発生が抑制される。これによりトレッド面20では、アブレージョンの発生が抑制される。
このようにタイヤ1では、アブレージョンの発生が抑制されるので、ショルダー領域24には従来採用が困難であった架橋ゴムを採用できる。ショルダー領域24には、例えば、高いグリップ力を発揮する架橋ゴムを採用できる。タイヤ1は、ベルト12を備えることで、高速旋回性能を向上できる。
また、ベルトコードの赤道面CLに対してなす角度の絶対値を比較的大きい値に設定することにより、タイヤ1は、軸方向の剛性が向上される。この軸方向の剛性の向上によって、周方向に直交する方向において、トレッド面20の接地幅を小さくすることができる。
ここで、グリップ力の低下を引き起こすアブレージョンは、ラウンドのついた自動二輪車用タイヤにおいて発生し易い。アブレージョンの主な原因としては、タイヤの接地面内の外径差によるスリップの発生が考えられる。ラウンドのついた自動二輪車用タイヤでは、旋回走行時において、接地面内の外径が大きい側に対して、接地面内の外径が小さい側が多く進行する必要があるため、スリップが発生する。旋回走行中に自動二輪車が加速する際、トレッド面20の接地幅は車幅方向に広がり易くなるため、このようなスリップによるアブレージョンが増大するおそれがある。
この観点から、ベルトコードの赤道面CLに対してなす角度の絶対値は、70°以上90°以下の範囲の値に設定されている。これにより、旋回走行中にタイヤ1に掛かる力(遠心力)の方向に対して、トレッド面20の接地幅の広がりがベルトコードにより抑制され、アブレージョンが改善される。更に、タイヤ1がスライドする方向にベルトコードが引っ張られることでタイヤ1の接地圧が維持され、タイヤ1の急なスライドが抑制される。
ベルトコードの赤道面CLに対してなす角度の絶対値としては、80°以上90°以下の範囲の値が更に好ましい。なお、ベルトコードの赤道面CLに対してなす角度の絶対値が70°未満であると、トレッド面20の接地幅の広がりを抑制することが困難となり、アブレージョンを防止しにくくなる。
また、周方向に垂直な方向の剛性を向上させる観点から、中央部34と側部36とにおけるベルトコードの密度は、20(本/5cm)以上の値に設定されていることが好ましく、30(本/5cm)以上の値に設定されていることが、更に好ましい。一方、ベルトコードのの密度が小さいタイヤ1は、過渡特性に優れている。この観点から、中央部34と側部36とにおけるベルトコードの密度は、55(本/5cm)以下の値に設定されていることが好ましく、45(本/5cm)以下の値に設定されていることが、更に好ましい。
また、センター領域22の幅CWが大きいタイヤ1では、直進走行時において、センター領域22が接地し易い。このため直進走行時には、センター領域22における架橋ゴムの性能が発揮される。例えば、複素弾性率E*が小さいセンター領域22を有するタイヤ1は、高速直進走行での急制動において比較的小さな荷重が負荷された場合においても、路面に対して良好に接地できる。また、複素弾性率E*が大きいセンター領域22を有するタイヤ1は、転がり抵抗が低減されると共に、耐久性が向上する。
センター領域22における架橋ゴムの性能を十分に発揮させる観点から、トレッド幅TWに対するセンター領域22の幅CWの比(CW/TW)は、5%以上の値に設定されていることが好ましく、10%以上の値に設定されていることが、更に好ましい。
また、センター領域22の幅CWが小さいタイヤ1では、旋回走行時において、ショルダー領域24が接地し易い。このため旋回走行時には、ショルダー領域24における架橋ゴムの性能が発揮される。例えば、複素弾性率E*が大きいショルダー領域24を有するタイヤ1は、高速旋回走行での急加速において大きな荷重が掛かった場合でも十分な剛性を発揮できる。また、複素弾性率E*が小さいショルダー領域24を有するタイヤ1は、高いグリップ性能を発揮できる。
ショルダー領域24における架橋ゴムの性能を十分に発揮させる観点から、トレッド幅TWに対するセンター領域22の幅CWの比(CW/TW)は、30%以下の値に設定されていることが好ましく、20%以下の値に設定されていることが、更に好ましい。本実施形態では、センター領域22の幅CWは、トレッド4の幅TWの5%以上30%以内の範囲の値に設定されている。
なお、センター領域22の幅CWが、トレッド4の幅TWの5%未満であると、ショルダー領域24の軸方向内端とベルト層32の軸方向内端Piとが離れて、タイヤ1に剛性差のある部分が増大し、過渡特性が優れなくなるおそれがある。またサーキットやコーナーによっては、ブレーキングは、自動二輪車の車体を路面に対して20°以下まで傾斜させて行われる場合があるため、センター領域22の幅CWは、トレッド4の幅TWの30%以下の値に設定されていることが好ましい。
またタイヤ1では、一対のベルト層32が、間隔BWを空けて配置されている。一対のベルト層32は、赤道面CLを挟んで配置されている。よって、間隔BWが存在する領域では、ベルト12は、トレッド面20の接地性を阻害しない。タイヤ1は、高速旋回走行の前期における接地性に優れている。
間隔BWが大きいタイヤ1は、トレッド面20の接地性に優れている。一方、間隔BWが小さいタイヤ1では、直進走行と旋回走行との間の過渡特性に優れている。この過渡特性の観点から、間隔BWは、センター領域22の幅CWより小さいことが好ましい。
また、トレッド4においては、センター領域22、ショルダー領域24の軸方向内側(ミドル領域)、及びショルダー領域24の軸方向外側に掛かる荷重は、それぞれ異なっている。センター領域22では、ブレーキング時には、接地面積をできるだけ大きくして制動性を向上することが望ましい反面、トラクション時には、剛性を有することが求められる。
そこで、センター領域22の振幅±2.5%、100℃における複素弾性率E*は、一例として、2.0MPa以上4.0MPa以内の範囲の値に設定されていることが好ましい。この複素弾性率E*が2.0MPa未満であると、トラクション時にセンター領域22の捻じり剛性が低下し、ムービングを生じるおそれがある。また、この複素弾性率E*が4.0MPaよりも高いと、ブレーキング時の接地面積が小さくなり、制動性が低下するおそれがある。
また、タイヤ1のグリップ指標の一つである、振幅±2.5%、センター領域22の100℃における正接損失tanδは、0.2MPa以上0.4MPa以内の範囲の値に設定されていることが好ましい。この正接損失tanδが0.2MPa未満であると、グリップ力が低くなってブレーキング時の制動性が低下するおそれがある。また、この正接損失tanδが0.4MPaより高くなると、センター領域22の発熱及び蓄熱が増大し、ブローを生じるおそれがある。
以上説明したように、タイヤ1では、ベルト12の外周面に沿った一対のベルト層32の間隔BWが、トレッド4の外周面に沿ったセンター領域22の幅CWよりも大きいので、トレッド4のセンター領域22と一対のベルト層32との半径方向の重なりを低減できる。これにより、自動二輪車においてブレーキング等によりタイヤ1に比較的小さい荷重が掛かった場合、タイヤ1の路面に対する接地面積を広く確保でき、適切にブレーキングできる。
また、トレッド4とバンド14との間に、ベルトコードの赤道面となす角度の絶対値が上記所定範囲の値に設定されたベルトコードを有するベルト12を配置したことにより、タイヤ1がスリップする方向における接地圧がベルトコードにより維持され、グリップ力の低下が防止される。これにより、タイヤ1の耐摩耗性の低下によりアブレージョンが生じるのを防止できる。
また、ベルト12の半径方向外側にバンド14を配置したことにより、タイヤ1の内部プライの中立軸よりもトレッド4の外周面側の圧縮域において、トレッド面20に近い位置にバンド14を配置できる。これにより、バンド14により奏される効果を高めることができる。
即ちタイヤ1では、ベルト12の半径方向外側において、タイヤ1がスライドする方向に一対のベルト層32が配列している。このため、仮にタイヤ1がスライドした場合、タイヤ1の接地面内の外径が大きい側を圧縮させ、小さい側を延びるように良好に変形させることができる。従って、ベルトの半径方向内側にバンドを配置した場合に比べて、タイヤの圧縮変形を促すと共にタイヤの不要な剛性を抑制でき、タイヤの変形応力の吸収性を高めることができる。
また一般に、コーナー進入時にブレーキングを行った場合、自動二輪車では、前側に掛かる荷重が大きくなり、後側に掛かる荷重が小さくなる。このとき、後輪側のタイヤに掛かる荷重は、乗車時に掛かる荷重(1G)よりも小さくなる場合がある。このような低荷重時には、仮にセンター領域とベルトとの重なりが大きいと、タイヤの撓みが減少して接地面積が小さくなり、ブレーキ性能が低下する。これに対してタイヤ1では、センター領域22とベルト12との半径方向の重なりが低減されているので、タイヤ1の撓みの減少を防止して接地面積を確保でき、良好なブレーキ性能を得ることができる。
また一般に、旋回走行中は、路面に対してセンター領域がタイヤの一方側に位置し、タイヤの中立軸よりもトレッド面側の部分が伸び側となる。これに対してタイヤ1では、センター領域22とベルト12との半径方向の重なりが低減されているので、旋回走行時におけるセンター領域22の撓みの減少を防止でき、旋回走行時のタイヤ1の変形応力の吸収性を高めることができる。
またトレッド4は、センター領域22の軸方向両側にショルダー領域24が配置され、トレッド4の外周面に沿ったセンター領域22の幅CWは、トレッド4の外周面に沿ったトレッド4の幅TWの5%以上30%以内の範囲の値に設定されている。
これにより、トレッド4のセンター領域22と一対のベルト層32との半径方向の重なりを適切に低減できる。よって、自動二輪車のブレーキング時における制動性が一層高められるとともに、車体を比較的大きく傾斜(バンク)させた状態で旋回走行する場合でも、タイヤ1の路面に対するグリップ力を向上させて、良好な走行性能を得ることができる。
なお本実施形態においては、トレッド4は、センター領域22と一対のショルダー領域24との3領域を有する構造としたが、トレッド4の構造はこれに限定されない。トレッド4は、軸方向に配置された複数の領域毎に適した架橋ゴムが採用されればよいため、軸方向に配置された4領域以上を有していてもよい。
また、タイヤ1が備える各部材の寸法及び角度は、タイヤ1が正規リムに組み込まれ、正規内圧となる様にタイヤ1に空気が充填された状態で測定される。測定時には、タイヤ1には荷重が掛けられない。
本明細書において正規リムとは、タイヤが依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
本明細書において正規内圧とは、タイヤが依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITSAT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
表1に示す実施例1〜5及び比較例1〜3のタイヤをそれぞれ作製した。タイヤのサイズは、前輪側タイヤを120/70R17とし、後輪側タイヤを200/60R17とした。実施例1〜5及び比較例1〜3のタイヤは、後輪側タイヤとして用い、前輪側タイヤとしては、市販品を用いた。
作成した実施例1〜5及び比較例1〜3の各タイヤについて、操縦安定性に関する複数項目(走行性能、制動性、及び耐アブレージョン性能)の評価を行った。この評価は、テストライダーによる官能評価により行った。耐アブレージョン性能の評価は、走行後のタイヤの外観を目視検査することにより行った。この評価は、10点法に基づくものであり、点数が大きいほど性能が良好であることを示す。
上記評価は、路面がアスファルトであるサーキットコースを走行することにより行った。この走行に際し、内圧は、ホットウォーマーを使用した状態において、前輪側タイヤを240kPaとし、後輪側タイヤを180kPaとした。自動二輪車として、排気量が1000ccの4サイクル車を用いた。
表1において、「トレッド分割数」とは、トレッドの軸方向に配置された異なるゴムからなる領域の数を示す。「CW(%)」とは、センター領域の幅CWに対するトレッド幅TWの割合((CW/TW)×100)を示す。「BW(%)」とは、間隔BWに対するトレッド幅TWの割合((BW/TW)×100)を示す。
実施例1は、図1に示したタイヤ1に相当し、表1に示す構成を有する。実施例2は、BW(%)が実施例1よりも大きいこと以外は、実施例1と同様の構成を有する。実施例3は、CW(%)が実施例1よりも小さく、BW(%)が実施例1よりも大きいこと以外は、実施例1と同様の構成を有する。実施例4は、ベルトコードの赤道面となす角度が70°に設定されていること以外は、実施例1と同様の構成を有する。実施例5は、CW(%)とBW(%)とが実施例1よりも大きいこと以外は、実施例1と同様の構成を有する。
比較例1は、バンドの半径方向内側にベルトが配置されていること以外は、実施例1と同様の構成を有する。比較例2は、軸方向に配置された異なるゴムからなる複数の領域を持たない(単一領域からなる)トレッドを備えること以外は、実施例1と同様の構成を有する。比較例3は、従来品に相当し、ベルト層を備えていないこと以外は実施例1と同様の構成を有する。評価結果を表1に示す。
表1に示されるように、実施例1〜5のタイヤは、比較例1〜3のタイヤに比べていずれも総合評価が高かった。この結果から、本発明の優位性は明らかである。