以下、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本開示の一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置、接続形態、ステップ及びステップの順序等は一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
(実施の形態1)
[1−1.コイル部品および磁性コアの構成]
本実施の形態に係るコイル部品1は、磁性材料で形成された磁性コア(ダストコア)と、磁性コアの内部に配置されたコイル部とで構成されている。
図1Aは、本実施の形態に係るコイル部品1の構成を示す概略斜視図である。図1Bは、本実施の形態に係るコイル部品1の構成を示す分解斜視図である。図2は、本実施の形態に係る磁性材料の構成を示す断面図である。
図1Aおよび図1Bに示すように、コイル部品1は、2つの分割磁心12と、導体13と、2つのコイル支持体14とを備えている。2つの分割磁心12により磁性コアが形成され、導体13および2つのコイル支持体14によりコイル部が形成されている。
分割磁心12は、基台12aと、基台12aの一方の面に形成された円筒状の芯部12bとを備えている。また、基台12aを構成する四つの辺のうち対向する二つの辺には、基台12aの縁から立設する壁部12cが形成されている。芯部12bおよび壁部12cは、基台12aの一方の面からの高さが同一である。2つの分割磁心12のそれぞれは、磁性材料が所定の形状に加圧成形された圧粉磁心である。
2つの分割磁心12は、それぞれの芯部12bおよび壁部12cが当接するように配置されている。このとき、芯部12bの周囲を囲むように、導体13が配置される。導体13は、コイル支持体14を介して分割磁心12に組み込まれている。
2つのコイル支持体14は、図1Bに示すように、円環状の基部14aと、円筒部14bとを備えている。円筒部14bの内部に分割磁心12の芯部12bが配置され、円筒部14bの外周に導体13が配置されている。
分割磁心12を構成する磁性材料は、例えばFeおよびSiを主成分とする合金であるFe−Si系の金属磁性材料である。
詳細には、図2に示すように、分割磁心12では、複数の金属磁性粉17が加圧成形されており、各金属磁性粉17の表面には、絶縁材18が形成されている。近接する各金属磁性粉17の表面を覆う絶縁材18は互いに結着している。つまり、各金属磁性粉17の間には絶縁材18が配置され、各金属磁性粉17は互いに絶縁されている。
Fe−Si系の金属磁性粉17は、FeおよびSiを主成分とする金属軟磁性粉末、または、Fe、SiおよびAlを主成分とする金属軟磁性粉末である。金属磁性粉17は、Fe、Si、Al以外に不可避な不純物を含んでいてもよい。本実施の形態における金属磁性粉17において、Siは、軟磁気特性の向上のために用いられている。Siの添加により、金属磁性粉17の磁気異方性および磁歪定数を小さくし、また、電気抵抗を高め渦電流損失を低減させることができる。Siの添加量は、例えば1wt%以上8wt%以下である。Si添加量が1wt%より少ないと軟磁気特性の改善効果に乏しく、8wt%より多いと飽和磁化の低下が大きく直流重畳特性が低下する。この場合、金属磁性粉17において、Si以外の残りの組成はFeである。
本実施の形態に係る金属磁性粉17の作製方法は、特に限定されるものでなく、各種アトマイズ法や各種粉砕法を用いることが可能である。
本実施の形態に係る金属磁性粉17の平均粒径は、1μm以上100μm以下が好ましい。平均粒径が1μmより小さいと成形密度が低くなり、透磁率が低下する。平均粒径が100μmより大きくなると、高周波での渦電流損失が大きくなってしまう。さらに好ましくは、金属磁性粉17の平均粒径は50μm以下とすることがよい。なお、金属磁性粉の平均粒径とは、レーザ回折式粒度分布測定法により求められるものである。例えば、直径10μmの球と同じ回折および散乱光のパターンを示す被測定粒子の粒径は、その形状に関わらず10μmとする。そして、粒径を小さなものからカウントしていき、積算が全体の50%となったときの粒径を平均粒径とする。
絶縁材18は、例えばTi、Zr、およびAlの少なくともいずれかを含んでいる。絶縁材18は、後述するように、製造工程において、絶縁材18を形成するために加えられた添加剤が金属磁性粉17の表面を覆うように形成された被膜である。絶縁材18により、金属磁性粉17は絶縁されている。添加剤は、例えば、Al、Ti、Zr等を含むキレート、オリゴマー、カップリング剤であるアシレート、ポリマー(レジン)等を主成分として含んでいる。
これらの添加剤を用いることにより、金属磁性粉17の表面に絶縁材18として絶縁被膜を生成することができる。添加剤の主成分としてTiを含む材料を用いた場合には、金属磁性粉17の周囲には、絶縁材18としてTiを含む絶縁被膜が配置される。添加剤の主成分としてZrを含む材料を用いた場合には、金属磁性粉17の周囲には、絶縁材18としてZrを含む絶縁被膜が配置される。添加剤の主成分としてAlを含む材料を用いた場合には、金属磁性粉17の周囲には、絶縁材18としてAlを含む絶縁被膜が配置される。
また、これらの添加剤を用いることにより、絶縁材18を塑性変形しやすい構成とすることができるため、磁性コアに含まれる金属磁性粉17の間の絶縁材18の厚さを薄くし、金属磁性粉17同士の距離を近接させることができる。これにより、磁性コアにおける金属磁性粉17の密度を高くすることができる。すなわち、磁性コアにおける金属磁性粉17の充填率を高くすることができる。これにより、当該磁性コアを用いたコイル部品1において、磁気特性を向上することができる。
[1−2.コイル部品の製造方法]
以下、本実施の形態に係る磁性材料およびコイル部品の製造方法について説明する。図3は、本実施の形態に係る磁性材料およびコイル部品1の製造工程を示すフローチャートである。
図3に示すように、本実施の形態に係るコイル部品1の製造工程は、造粒粉製造工程S(ステップS10)と、コア製造工程(ステップS20)と、コイル組み立て工程(ステップS30)とを含んでいる。造粒粉製造工程では、上述した磁性コアを構成する磁性材料を生成する。コア製造工程では、磁性材料を成形することにより、分割磁心12を形成する。コイル組み立て工程では、上述した分割磁心12、13および14を組み立ててコイル部品1を完成させる。以下、各工程について詳細に説明する。
図4は、本実施の形態に係る造粒粉製造工程を示すフローチャートである。図4に示すように、造粒粉製造工程では、はじめに、磁性材料を生成する原材料を準備する(ステップS11)。磁性材料の原材料として、金属磁性粉17と、絶縁材18を形成するための添加剤と、結着材としての樹脂材料と、有機溶剤とを準備する。
金属磁性粉17には、Feを主成分とする磁性体粉を用いる。例えば、金属磁性粉17には、FeとSiの合金、センダスト、パーマロイ等を用いる。FeとSiの合金を用いる場合には、FeとSiの含有率を調整してもよい。金属磁性粉17の粒径は、例えば20μmである。
絶縁材18を形成するための添加剤には、主成分として、Al、Ti、Zr等の金属を含む金属キレート錯体、オリゴマー、カップリング剤であるアシレート、ポリマー(レジン)等を用いる。オリゴマーは、例えば環状アルミニウムオリゴマーを用いてもよい。添加剤の主成分は、アルミニウム有機化合物であってもよい。添加剤の分子量は、例えば300以上1000以下である。なお、添加剤の分子量はこれに限らず、300より小さくてもよいし、1000より大きくてもよい。また、後述する樹脂材料に加える添加剤の量は、後述する樹脂材料に対して重量比率が5%以上40%以下であるとよい。また、分子量が300よりも小さい、他の効果を発揮する添加剤をさらに添加してもよい。
また、分割磁心12を加圧成形するときの結着材(バインダー)には、例えばアクリル樹脂、シリコーン樹脂、ブチラール樹脂等の樹脂材料を用いる。樹脂材料の分子量は、添加剤の分子量よりも大きい。樹脂材料は、常温において液状である熱硬化性材料、または、熱可塑性材料である。
さらに、金属磁性粉17、添加剤および結着材を混錬および分散させやすくするための有機溶剤として、例えばトルエン、キシレン、エタノール等を用いる。
次に、金属磁性粉17、絶縁材18を形成するための添加剤、結着材となる樹脂材料、および、有機溶剤をそれぞれ秤量する。そして、金属磁性粉17、添加剤、樹脂材料および有機溶剤を混錬および分散させる(ステップS12)。混錬および分散は、秤量した金属磁性粉17と、添加剤と、樹脂材料および有機溶剤とを容器に入れ、回転ボールミルで混合し分散させることにより行う。なお、混錬および分散は、回転ボールミルを用いた混錬および分散に限らず、他の混錬および分散方法であってもよい。
次に、金属磁性粉17、添加剤、樹脂材料および有機溶剤を混錬および分散させた後、磁性材料の造粒を行う(ステップS13)。このとき、混錬および分散された金属磁性粉17、添加剤、樹脂材料および有機溶剤を、例えば100℃前後の温度で熱処理することで乾燥させる。このときの熱処理の工程は、第1の熱処理工程である。
熱処理により、混錬および分散された金属磁性粉17、添加剤、樹脂材料および有機溶剤から有機溶剤が除去され、金属磁性粉17と添加剤と樹脂材料とが一体化した中間材料である磁性材料が得られる。当該磁性材料において、金属磁性粉17の表面には絶縁材18が形成されている。絶縁材18の厚さは、例えば、10[nm]程度である。なお、絶縁材18の厚さは、これに限らず、1〜200nmの厚さでもよい。また、絶縁材18は、コア製造工程で加圧成形するときに塑性変形する程度の硬さに形成されている。したがって、コア製造工程で磁性材料を加圧成形するときに、単位体積当たりの磁性材料中に含まれる金属磁性粉17の密度(充填率)を高くすることができる。
さらに、造粒された磁性材料を粉砕し(ステップS14)、粒径を小さくする。この工程は、粉末化工程である。その後、磁性材料を所定の粒径ごとに分級する(ステップS15)。以上により、粉径が100μm〜500μmの磁性材料を得る。
なお、金属磁性粉17の周囲に絶縁材18を形成する方法は、上述した方法に限らず、有機溶剤に金属磁性粉17、添加剤および樹脂材料を混錬および分散させた液状の材料を噴霧し乾燥させるスプレードライ法により行ってもよい。
図5は、本実施の形態に係るコア製造工程を示すフローチャートである。コア製造工程では、磁性材料を成形して磁性コアを作製する。
まず、磁性材料を所定の形状に加圧成形する(ステップS21)。この工程は、第1の成形工程である。具体的には、分級された磁性材料を成形金型に入れて圧縮し、成形体を作製する。このとき、例えば一定圧力10[ton/cm2]で一軸成形を行う。成形体の形状は、例えば、図1Bに示した分割磁心12の形状である。なお、成形体の形状は、これに限らず、例えば、分割磁心12のうち芯部12bが別体で構成された形状であってもよい。
その後、例えばN2ガス等の不活性ガス雰囲気中または大気中において、成形体を200〜450[℃]の温度で加熱し、脱脂を行う(ステップS22)。これにより、成形体に含まれる結着材としての樹脂材料が除去される。なお、使用する結着材の種類および特性により、脱脂の工程を省略してもよい。
さらに、脱脂後の成形体をアニール(熱処理)する(ステップS23)。このときのアニールの工程は、第2の熱処理工程である。成形体のアニールには、例えば雰囲気制御電気炉を用いる。雰囲気制御電気炉としては、例えば、箱型炉、管状炉、ベルト炉等がある。なお、これらの方法に限らず、他の方法を用いてもよい。成形体のアニールは、例えば、所定の酸素分圧において、800[℃]のアニール温度で1時間行う。
なお、アニール温度、およびアニール時間は、上述したものに限らず、例えばアニール温度を600〜1000[℃]、アニール時間を数十分〜数時間としてもよい。アニールを行うことにより、成形体は、一軸成形されるときの圧力により生じていた歪みが緩和される。なお、アニールにより、成形体において絶縁材18の少なくとも一部が分解されていてもよい。
次に、アニールが行われた成形体に、樹脂材料を含浸させる(ステップS24)。樹脂材料としては、例えば、エポキシ樹脂を用いてもよい。樹脂材料を含浸させることにより、成形体の強度を向上することができる。
以上の工程を経ることにより、金属磁性粉17の表面が絶縁材18で覆われ、金属磁性粉17の充填率が高い磁性コアが完成する。なお、ここでは、磁性コアとして分割磁心12が2つ形成されている。2つの分割磁心12とコイル部とを以下のようにして組み立てることにより、コイル部品1を得ることができる。
図6は、本実施の形態に係るコイル組み立て工程を示すフローチャートである。
はじめに、導体13を所定回数巻き回したコイルを形成する(ステップS31)。
次に、分割磁心12、導体13およびコイル支持体14を組み立てる(ステップS32)。図1Bに示したように、2つの分割磁心12の芯部12bの周囲を囲むように、導体13が配置される。このとき、導体13と2つの分割磁心12のそれぞれの芯部12bとの間には、2つのコイル支持体14のそれぞれの円筒部14bが配置される。また、導体13と2つの分割磁心12のそれぞれの基台12aとの間には、2つのコイル支持体14のそれぞれの円環状の基部14aが配置される。このとき、2つのコイル支持体14の円筒部14bの、円環状の基部14aが形成された側と反対側の端部は、互いに当接するように配置される。
また、2つの分割磁心12は、それぞれの芯部12bおよび壁部12cが当接するように配置される。このように、導体13がコイル支持体14を介して分割磁心12に組み込まれることにより、コイル部品1が組み立てられる。これにより、分割磁心12の芯部12bの周りに導体13が巻き回された構成が完成する。つまり、分割磁心12は、芯部12bが導体13を当該導体13の巻回軸方向に貫通した磁性コアとなる。
さらに、組み立てられたコイル部品1を樹脂材料によりモールドする(ステップS33)。これにより、コイル部品1が完成する。
[1−3.コイル部品における磁性材料の充填率および磁気特性]
以下、コイル部品1の磁性コアにおける磁性材料の充填率および磁気特性について説明する。
[1−3−1.絶縁材の種類と成形体の初透磁率および磁気損失]
図7は、本実施の形態の実施例と比較例とに係る磁性コアの添加剤の種類と磁性コアの初透磁率および磁気損失を示す図である。
図7では、実施例1に示す磁性コアは、添加剤としてAlキレート錯体、結着材としてアクリル樹脂を用いて形成した磁性材料を成形した磁性コアである。実施例2に示す磁性コアは、添加剤としてAlキレート錯体、結着材としてシリコーン樹脂を用いて形成した磁性材料を成形した磁性コアである。
また、比較例1に示す磁性コアは、添加剤としてシリコーン樹脂、結着材としてアクリル樹脂を用いて形成した磁性材料を成形した磁性コアである。比較例2に示す磁性コアは、添加剤としてシランカップリング剤、結着材としてアクリル樹脂を用いて形成した磁性材料を成形した磁性コアである。
つまり、本実施の形態に係る実施例1および実施例2の磁性コアは、添加剤としてAlキレート錯体を用いている。これに対し、比較例1および比較例2に係る磁性コアは、添加剤としてAlキレート錯体を用いていない。
なお、実施例1および実施例2、ならびに比較例1および比較例2では、それぞれ添加剤を0.2重量部、結着材を1重量部の割合で混合している。
また、各磁性コアの初透磁率を計測すると、図7に示すように、実施例1では160、実施例2では150、比較例1では120、比較例2では117という結果が得られた。したがって、添加剤としてAlキレート錯体を用いた実施例1および実施例2に係る磁性コアのほうが、添加剤としてAlキレート錯体を用いていない比較例1および比較例2に係る磁性コアよりも、初透磁率が向上することがわかった。
また、実施例1に係る磁性コアと実施例2に係る磁性コアとを比較すると、結着材としてアクリル樹脂を用いた実施例1に係る磁性コアのほうが、実施例2に係る磁性コアよりも初透磁率が向上することがわかった。
また、各磁性コアの磁気損失を計測すると、図7に示すように、実施例1では1240[kW/m3]、実施例2では1230[kW/m3]、比較例1では1300[kW/m3]、比較例2では1420[kW/m3]という結果が得られた。したがって、添加剤としてAlキレートを用いた実施例1および実施例2に係る磁性コアのほうが、添加剤としてAlキレートを用いていない比較例1および比較例2に係る磁性コアよりも、磁気損失が低減することがわかった。
また、実施例1に係る磁性コアと実施例2に係る磁性コアとを比較すると、結着材としてアクリル樹脂を用いた実施例2に係る磁性コアのほうが、実施例1に係る磁性コアよりも磁気損失が若干低下することがわかった。
[1−3−2.添加剤の分子量と成形体における磁性材料の充填率および初透磁率]
次に、添加剤の分子量と成形体における磁性材料の充填率との関係について説明する。
図8Aは、本実施の形態に係る磁性コアの添加剤の種類と磁性コアの密度とを示す図である。図8Bは、本実施の形態に係る磁性コアの添加剤の種類と磁性コアの密度とを示すグラフである。
ここでは、磁性コアのサンプルとして、サンプル1、サンプル2およびサンプル3を用意した。各サンプルに用いられている金属磁性粉17は、Fe−Si系の磁性体粉である。サンプル1は、添加剤としてAlキレート、結着材としてアクリル樹脂を用いた磁性コアである。Alキレートの分子量は、491である。サンプル2は、添加剤としてSiアシレート、結着材としてアクリル樹脂を用いた磁性コアである。Siアシレートの分子量は、179である。サンプル3は、添加剤を添加せず、結着材であるアクリル樹脂のみを用いた磁性コアである。サンプル1、サンプル2およびサンプル3は、混錬後に熱処理温度をそれぞれ80℃、100℃、120℃として熱乾燥を行ったものである。サンプル1、サンプル2およびサンプル3のそれぞれについて、上記熱処理温度の各サンプルの密度を計測した。
図8Aおよび図8Bに示すように、サンプル1では、熱処理温度が80℃、100℃、120℃と上がるにつれて、磁性コア内の磁性材料の密度は6.789[g/cm3]、6.794[g/cm3]、6.809[g/cm3]と高くなっている。これに対し、サンプル2では、熱処理温度が80℃、100℃、120℃と上がるにつれて、磁性コア内の磁性材料の密度は6.706[g/cm3]、6.716[g/cm3]、6.673[g/cm3]となり、熱処理温度が100℃のときに磁性材料の密度が最も高くなっている。同様に、サンプル3についても、熱処理温度が80℃、100℃、120℃と上がるにつれて、磁性コア内の磁性材料の密度は6.748[g/cm3]、6.775[g/cm3]、6.740[g/cm3]となり、熱処理温度が100℃のときに磁性材料の密度が最も高くなっている。
したがって、分子量が491のAlキレートを結着材として用いた場合には、磁性コア内の磁性材料の密度は、熱処理温度に依存して増加することがわかる。
また、添加剤の分子量と成形体における磁性材料の初透磁率との関係について説明する。
図9Aは、本実施の形態に係る磁性コアの添加剤の種類と磁性コアの初透磁率とを示す図である。図9Bは、本実施の形態に係る磁性コアの添加剤の種類と磁性コアの初透磁率とを示すグラフである。
なお、磁性コアのサンプルは、上述したサンプル1、サンプル2およびサンプル3であり、それぞれ80℃、100℃、120℃で熱処理を行ったものの初透磁率を計測した。
図9Aおよび図9Bに示すように、サンプル1では、熱処理温度が80℃、100℃、120℃と上がるにつれて、磁性コア内の磁性材料の初透磁率は156、161、168と高くなっている。これに対し、サンプル2では、熱処理温度が80℃、100℃、120℃と上がるにつれて、磁性コア内の磁性材料の初透磁率は136、134、133と低くなっている。同様に、サンプル3についても、熱処理温度が80℃、100℃、120℃と上がるにつれて、磁性コア内の磁性材料の初透磁率は149、149、146と低くなっている。
したがって、分子量が491のAlキレートを結着材として用いた場合にのみ、磁性コア内の磁性材料の初透磁率は、熱処理温度に依存して増加することがわかる。
ここで、金属磁性粉17および添加剤の種類を変更した場合の、添加剤の分子量と磁性コアの初透磁率との関係について説明する。
図10A〜図10Cは、本実施の形態に係る磁性コアにおける磁性材料の分子量と初透磁率を示す図である。
図10Aは、金属磁性粉17としてFe−Si系の磁性粉、添加剤として異なる種類のAlキレート錯体を主成分とする材料を用いた磁性コアの初透磁率について示している。図10Aでは、Alキレート錯体を主成分とする添加剤を用いた磁性コアとして、サンプル名が「Alキレート1」、「Alキレート2」、「Alキレート3」、「Alキレート4」、「Alキレート5」の5種類の磁性コアを用意した。「Alキレート1」、「Alキレート2」、「Alキレート3」、「Alキレート4」、「Alキレート5」に使用したキレート錯体は、それぞれ、(i−C3H7O)2Al(C6H9O3)、Al(C6H9O3)2(C5H7O2)、Al(C6H9O3)3、(i−C3H7O)2Al(C22H39O3)、Al(C22H39O3)2(C5H7O2)である。「Alキレート1」、「Alキレート2」、「Alキレート3」、「Alキレート4」、「Alキレート5」の各磁性コアに使用した添加剤の分子量は、274、384、414、491、829である。
また、Alキレート錯体を主成分とする添加剤を使用した磁性コアとの比較のため、サンプル名が「Siアシレート」および「アクリル樹脂のみ」の磁性コアについても透磁率を示した。サンプル名が「Siアシレート」の磁性コアは、Siアシレートを主成分とする添加剤を用いた磁性コアである。Siアシレートの分子量は179である。サンプル名が「アクリル樹脂のみ」の磁性コアは、添加剤を用いずアクリル樹脂(C5O2H8)nのみで形成された磁性コアである。アクリル樹脂の分子量は、添加剤よりも高く、例えば44万である。また、各磁性コアは、混錬後に熱処理温度をそれぞれ90℃および120℃として熱乾燥を行ったものである。各磁性コアについて、初透磁率を計測した。
熱処理温度を90℃とした場合、図10Aに示すように、「アクリル樹脂のみ」の磁性コアでは、初透磁率は149であった。これに対し、Alキレート錯体を主成分とする添加剤を用いた「Alキレート1」、「Alキレート2」、「Alキレート3」、「Alキレート4」、「Alキレート5」の磁性コアでは、初透磁率はそれぞれ156、154、152、178、166であった。一方、Siアシレートを主成分とする添加剤を用いた「Siアシレート」の磁性コアでは、初透磁率は136であった。
したがって、熱処理温度を90℃とした場合、Alキレートを主成分とする添加剤を用いた場合の初透磁率は、添加剤を用いない場合と比べて高くなるが、Siアシレートを主成分とする添加剤を用いた場合の初透磁率は、添加剤を用いない場合と比べて低くなることがわかった。
同様に、熱処理温度を120℃とした場合、図10Aに示すように、「アクリル樹脂のみ」の磁性コアでは、初透磁率は146であった。これに対し、Alキレート錯体を主成分とする添加剤を用いた「Alキレート1」、「Alキレート2」、「Alキレート3」、「Alキレート4」、「Alキレート5」の磁性コアでは、初透磁率はそれぞれ149、160、162、181、172であった。一方、Siアシレートを主成分とする添加剤を用いた「Siアシレート」の磁性コアでは、初透磁率は133であった。
したがって、熱処理温度を120℃とした場合も、Alキレート錯体を主成分とする添加剤を用いた場合の初透磁率は、添加剤を用いない場合と比べて向上し、Siアシレートを主成分とする添加剤を用いた場合の初透磁率は、添加剤を用いない場合と比べて向上しないことがわかった。
なお、図10Aでは、判定結果として、「アクリル樹脂のみ」の場合と比較して初透磁率が高いものを〇、低いものを×で示している。図10Aより、分子量が179と低いSiアシレートを主成分とする添加剤を用いた場合には、初透磁率は向上しないが、分子量が274以上のAlキレート錯体を主成分とする添加剤を用いた場合には、初透磁率が向上することがわかった。
図10Bは、金属磁性粉17としてFe−Si系の磁性粉、添加剤としてAlキレート、Tiキレート、Zrキレート、Tiアシレート、Tiオリゴマーを主成分とする材料を用いた磁性コアの初透磁率について示している。
図10Bでは、Alキレート錯体を主成分とする添加剤を用いた磁性コアとして、サンプル名が「Alキレート6」の磁性コアを用意した。「Alキレート6」に使用したAlキレート錯体は、Al(C5H7O2)3である。
また、Tiキレート錯体を主成分とする添加剤を用いた磁性コアとして、サンプル名が「Tiキレート1」、「Tiキレート2」、「Tiキレート3」の磁性コアを用意した。「Tiキレート1」、「Tiキレート2」、「Tiキレート3」に使用したTiキレート錯体は、(i−C3H7O)2Ti(C5H7O2)2、Ti(C5H7O2)4、(C8H17O)2Ti(O2C8H17)2である。
また、Zrキレート錯体を主成分とする添加剤を用いた磁性コアとして、サンプル名が「Zrキレート1」、「Zrキレート2」、「Zrキレート3」の磁性コアを用意した。「Zrキレート1」、「Zrキレート2」、「Zrキレート3」に使用したZrキレート錯体は、(n−C4H9O)3Zr(C5H7O2)、(n−C4H9O)2Zr(C6H9O3)2、Zr(C5H7O2)4である。
また、Tiアシレートを主成分とする添加剤を用いた磁性コアとして、サンプル名が「Tiアシレート」の磁性コアを用意した。Tiオリゴマーを主成分とする添加剤を用いた磁性コアとして、サンプル名が「Tiオリゴマー」の磁性コアを用意した。
「Alキレート6」、「Tiキレート1」、「Tiキレート2」、「Tiキレート3」、「Zrキレート1」、「Zrキレート2」、「Zrキレート3」、「Tiアシレート」、「Tiオリゴマー」の各磁性コアに使用した添加剤の分子量は、324、364、444、596、409、452、487、957、数千である。また、比較のため、添加剤を用いずアクリル樹脂のみで形成された、サンプル名が「アクリル樹脂のみ」の磁性コアを用意した。各磁性コアの熱処理温度は、90℃である。
図10Bに示すように、「Alキレート6」、「Tiキレート1」、「Tiキレート2」、「Tiキレート3」、「Zrキレート1」、「Zrキレート2」、「Zrキレート3」、「Tiアシレート」、「Tiオリゴマー」のそれぞれの初透磁率は、135、142、148、129、147、139、144、152、131であった。これに対し、「アクリル樹脂のみ」の磁性コアの初透磁率は128であった。
したがって、Alキレート錯体、Tiキレート錯体、Zrキレート錯体、Tiアシレート、Tiオリゴマーを主成分とする添加剤を用いた磁性コアの初透磁率は、いずれの場合も添加剤を用いない場合と比べて高くなっていることがわかる。
なお、図10Bでは、判定結果として、「アクリル樹脂のみ」の場合と比較して初透磁率が高いものを〇、低いものを×で示している。図10Bより、分子量が324以上の添加剤を用いた場合には、初透磁率が向上することがわかった。
図10Cは、金属磁性粉17としてFe−Si−Al系の磁性粉、添加剤としてオリゴマーおよびポリマーを主成分とする材料を用いた磁性コアの初透磁率について示している。
図10Cでは、環状アルミニウムオリゴマー(アルゴマー)を主成分とする添加剤を用いた磁性コアとして、サンプル名が「アルゴマー1」、「アルゴマー2」、「アルゴマー3」の磁性コアを用意した。また、Si系のポリマー(レジン)を主成分とする添加剤を用いた磁性コアとして、サンプル名が「ポリマー」の磁性コアを用意した。「アルゴマー1」、「アルゴマー2」、「アルゴマー3」、「ポリマー」の各磁性コアに使用した添加剤の分子量は、306、559、979、数万である。また、比較のため、添加剤を用いずアクリル樹脂のみで形成された、サンプル名が「アクリル樹脂のみ」の磁性コアを用意した。各磁性コアの熱処理温度は、90℃である。
図10Cに示すように、「アルゴマー1」、「アルゴマー2」、「アルゴマー3」、「ポリマー」のそれぞれの初透磁率は、83、116、111、79であった。これに対し、「アクリル樹脂のみ」の磁性コアの初透磁率は82であった。
したがって、アルゴマーを主成分とする添加剤を用いた磁性コアの初透磁率は、いずれの場合も添加剤を用いない場合と比べて高くなっていることがわかる。
なお、図10Cでは、判定結果として、「アクリル樹脂のみ」の場合と比較して初透磁率が高いものを〇、低いものを×で示している。図10Cより、分子量が306以上979以下の添加剤を用いた場合には、初透磁率が向上することがわかった。
図11Aおよび図11Bは、本実施の形態に係る磁性コアにおける磁性材料の分子量と初透磁率および充填率を示す図である。
図11Aは、金属磁性粉17としてFe−Si系の磁性粉、添加剤として異なる種類のAlキレート錯体を主成分とする添加剤を用いた磁性コアの充填率について示している。充填率とは、単位体積当たりの磁性コアに含まれる金属磁性粉17の割合をいう。
図11Aに示す磁性コアは、図10Aに示したサンプル名が「Alキレート1」、「Alキレート2」、「Alキレート3」、「Alキレート4」、「Alキレート5」の5種類の磁性コアである。また、比較のため、サンプル名が「Siアシレート」および「アクリル樹脂のみ」の磁性コアについても充填率を示した。各磁性コアにおける熱処理温度は、90℃および120℃である。また、充填率と初透磁率との関係を示すため、各磁性コアの初透磁率も示した。
熱処理温度を90℃とした場合、図11Aに示すように、「アクリル樹脂のみ」の磁性コアでは、充填率は89.9%であった。これに対し、Alキレート錯体を主成分とする添加剤を用いた「Alキレート1」、「Alキレート2」、「Alキレート3」、「Alキレート4」、「Alキレート5」の磁性コアでは、充填率はそれぞれ90.7%、90.3%、90.4%、90.8%、90.7%であった。一方、Siアシレートを主成分とする添加剤を用いた「Siアシレート」の磁性コアでは、充填率は89.2%であった。
したがって、熱処理温度を90℃とした場合、Alキレート錯体を主成分とする添加剤を用いた場合の充填率は、添加剤を用いない場合と比べて高くなるが、Siアシレートを主成分とする添加剤を用いた場合の充填率は、添加剤を用いない場合と比べて低くなることがわかった。
同様に、熱処理温度を120℃とした場合、図11Aに示すように、「アクリル樹脂のみ」の磁性コアでは、充填率は89.6%であった。これに対し、Alキレート錯体を主成分とする添加剤を用いた「Alキレート1」、「Alキレート2」、「Alキレート3」、「Alキレート4」、「Alキレート5」の磁性コアでは、充填率はそれぞれ90.6%、90.3%、90.7%、91.1%、90.8%であった。一方、Siアシレートを主成分とする添加剤を用いた「Siアシレート」の磁性コアでは、充填率は88.7%であった。
したがって、熱処理温度を120℃とした場合も、Alキレート錯体を主成分とする添加剤を用いた場合の充填率は、添加剤を用いない場合と比べて向上し、Siアシレートを主成分とする添加剤を用いた場合の充填率は、添加剤を用いない場合と比べて向上しないことがわかった。よって、Fe−Si系の磁性粉を金属磁性粉17として磁性コアを形成するとき、分子量が179と低いSiアシレートを添加剤として用いた場合には、充填率は向上しないが、分子量が274以上のAlキレート錯体を添加剤として用いた場合には、充填率が向上することがわかった。この場合の充填率は、例えば90%以上、初透磁率は例えば149以上である。
図11Bは、金属磁性粉17としてFe−Si−Al系の磁性粉、添加剤としてオリゴマーおよびポリマーを主成分とする材料を用いた磁性コアの充填率について示している。
図11Bに示す磁性コアは、図10Cに示したサンプル名が「アルゴマー1」、「アルゴマー2」、「アルゴマー3」の磁性コアである。また、比較のため、サンプル名が「ポリマー」の磁性コアについても充填率を示した。各磁性コアの熱処理温度は、90℃である。
図11Bに示すように、「アルゴマー1」、「アルゴマー2」、「アルゴマー3」、「ポリマー」のそれぞれの充填率は、81.3%、82.3%、83.0%、81.0%であった。これに対し、「アクリル樹脂のみ」の磁性コアの充填率は81.0%であった。
したがって、アルゴマーを主成分とする添加剤を用いた磁性コアの充填率は、いずれの場合も添加剤を用いない場合と比べて高くなっていることがわかった。また、添加剤としてポリマーを主成分とする添加剤を用いた磁性コアの充填率は、「アクリル樹脂のみ」の磁性コアの充填率と同等であり、アルゴマーを主成分とする添加剤を用いた磁性コアよりも充填率が低いことがわかった。以上より、分子量が306以上979以下の添加剤を用いた場合には、充填率が向上することがわかった。この場合の充填率は、例えば81%以上、初透磁率は例えば83以上である。
ここで、添加剤の分子量と充填率および初透磁率について説明する。上述したように、分子量が179のSiアシレートを主成分とする添加剤を用いた場合には、添加剤を用いない場合と比較して充填率および初透磁率は向上しないが、分子量が274以上のAlキレート錯体を主成分とする添加剤を用いた場合には、添加剤を用いない場合よりも充填率および初透磁率は向上する。したがって、分子量が274以上の添加剤を用いることにより、磁性コアの充填率および初透磁率を向上させることができるといえる。より確実には、分子量が300以上の添加剤を用いることにより、磁性コアの充填率および初透磁率を向上させることができるといえる。
また、分子量が数万のポリマーを主成分とする添加剤を用いた場合には、添加剤を用いない場合と比較して充填率および初透磁率は向上しないが、分子量が数千のTiオリゴマーを主成分とする添加剤を用いた場合には、添加剤を用いない場合よりも充填率および初透磁率は向上する。したがって、分子量が数千以下の添加剤を用いることにより、磁性コアの充填率および初透磁率を向上させることができるといえる。より確実には、分子量が1000以下の添加剤を用いることにより、磁性コアの充填率および初透磁率を向上させることができるといえる。
分子量が300以上1000以下の上述した材料は、耐熱性が高く、熱処理後でも可塑効果が持続する性質を有する。したがって、これらの材料を添加剤としてFe系の金属磁性粉に添加して磁性コアを作製することにより、分子量が添加剤よりも高い結着材(樹脂材料)を軟化させて、磁性コア内に金属磁性粉17をより近接させた状態で保持することができる。これにより、磁性コアにおける金属磁性粉17の充填率を向上することができる。このように、分子量が300以上1000以下の添加剤を用いることにより、金属磁性粉17の充填率を向上し、透磁率を向上することができる。
また、Alキレート錯体を主成分とする添加剤を用いた磁性コアについて、「Alキレート1」と「Alキレート4」とを比較すると、図11Aに示したように、「Alキレート4」のほうが「Alキレート1」よりも初透磁率が高く、充填率が高くなっている。
この理由は、以下のとおりである。図12は、無機粉体とキレート錯体との反応機構を説明するための図である。
「Alキレート1」は、キレート錯体におけるアルキルアセト酢酸基(キレート化剤)のアルキル部分にエチル基(C2H5)を有している。これに対し、「Alキレート4」は、キレート化剤のアルキル部分にオレイル基(C18H35)を有している。オレイル基は、エチル基よりも炭素鎖長が長い炭化水素である。
一般に、キレート錯体は、親水基となるアルコキシル基(RO)と疎水基となるアルキルアセト酢酸基とを有しており、図12に示すように、親水基と無機粉体の表面に存在する水酸基、カルボキシル基、吸着水等とが反応する。したがって、無機粉体は、キレート錯体が備えるアルキルアセト酢酸基のアルキル部分における炭化水素に被覆された構成となっている。これにより、アルキル部分における炭化水素に被覆された無機粉体は、有機物との親和性を有する。
また、キレート錯体は、アルキル部分における炭化水素によって無機粉体を被覆することにより、無機粉体の表面エネルギーを低下させ、アクリル樹脂などの有機樹脂に対する無機粉体の濡れ性および分散性を顕著に向上することができる。また、キレート錯体は、アルキル部分における炭化水素が有機樹脂と溶相し絡み合うことによって、界面にかかる応力およびひずみを緩和させ、かつ、有機樹脂を可塑化させる。このとき、アルキル部分における炭化水素の炭素鎖長が長いほど、キレート錯体は無機粉体の表面エネルギーをより低下させ、界面にかかる応力およびひずみをより緩和させる。また、アルキル部分における炭化水素の炭素鎖長が長いほど、キレート錯体は有機樹脂をより可塑化させる。
したがって、アルキル部分に長鎖のオレイル基を有する「Alキレート4」を用いる場合には、アルキル部分に短鎖のエチル基を有する「Alキレート1」を用いる場合よりも、無機粉体の表面エネルギーを著しく低下させ、界面にかかる応力およびひずみをより緩和させ、かつ、有機樹脂をより可塑化させることができる。これにより、造粒粉の粘度を低下させ、成形性を向上することができるため、磁性材料の高充填化を実現することができる。
また、Alキレート錯体、Tiキレート錯体およびZrキレート錯体を主成分とする添加剤を用いた磁性コアについて、熱処理温度が90℃のときの初透磁率を比較すると、図10Bに示した磁性コアのうち、アセチルアセトンキレートを主成分とする添加剤を用いた「Tiキレート2」が最も初透磁率が高く、グリコールキレートを主成分とする添加剤を用いた「Tiキレート3」が最も初透磁率が低くなっていることがわかる。
また、他の磁性コアについても、アセチルアセトンキレートを配位子として有する添加剤を用いた磁性コアは初透磁率が高い傾向にある。また、アセト酢酸エチルキレートを配位子として有する添加剤を用いた磁性コアの初透磁率は、グリコールキレートを配位子として有する添加剤を用いた磁性コアよりも初透磁率は高くなっている。
一般に、キレートの反応速度はアルコキシドの反応速度と比較して遅く、配位子の種類により反応速度を比較すると、アセチルアセトンキレート、アセト酢酸エチルキレート、グリコールキレートのうちでは、アセチルアセトンキレートの反応速度が最も遅く、グリコールキレートの反応速度が最も早い。このことより、金属キレート錯体の中でも反応速度が遅い配位子を持つものを主成分とする添加剤を用いることにより、結着材である樹脂材料を軟化して、磁性コアにおける金属磁性粉17の充填率を高くすることができるといえる。したがって、反応速度が遅い金属キレート錯体を主成分とする添加剤を用いることにより、磁性コアの初透磁率を向上することができる。
なお、添加剤の主成分としては、金属キレート錯体に限らず、分子量が300以上1000以下の材料であれば、環状アルミニウムオリゴマー、または、その他の材料であってもよい。
[1−4.効果等]
以上、本実施の形態にかかる磁性材料の製造方法は、有機溶剤と、鉄を主成分とする磁性体粉と、樹脂材料と、添加剤と、を含む混合物を加熱して前記有機溶剤を除去することで、前記磁性体粉と前記樹脂材料と前記添加剤とが一体化した中間材料を得る第1の熱処理工程と、前記第1の熱処理工程によって得られた前記中間材料を粉末にする粉末化工程とを含み、前記樹脂材料の分子量は、前記添加剤の分子量よりも大きく、前記添加剤の分子量は、300以上1000以下である。
この構成によれば、分子量が300以上1000以下の材料を添加剤としてFe系の金属磁性粉に添加して磁性材料を作製することにより、分子量が添加剤よりも高い樹脂材料を軟化させて、磁性材料内に金属磁性粉を近接させた状態で保持することができる。これにより、磁性材料における金属磁性粉の充填率を向上することができる。したがって、磁性材料の透磁率を向上することができる。
また、前記添加剤の主成分は、金属キレート錯体または環状アルミニウムオリゴマーであってもよい。
この構成によれば、磁性材料における金属磁性粉の充填率をより向上し、磁性材料の透磁率をより向上することができる。
また、前記添加剤の主成分は、アルミニウム有機化合物であってもよい。
この構成によれば、磁性材料における金属磁性粉の充填率をより向上し、磁性材料の透磁率をより向上することができる。
また、前記樹脂材料に対する前記添加剤の重量比率は、5%以上40%以下であってもよい。
この構成によれば、金属磁性粉、磁性材料および添加剤の種類に応じて添加剤の重量比率を変更することにより、樹脂材料の軟度を変更することができる。したがって、磁性材料における金属磁性粉の充填率を向上し、磁性材料の透磁率を向上することができる。
また、前記樹脂材料は、常温において液状の熱硬化性材料であってもよい。
この構成によれば、常温において金属磁性粉、樹脂材料および添加剤を混錬分散しやすく、かつ、熱処理により成形体を形成しやすいため、製造工程を容易にすることができる。
また、前記樹脂材料は、熱可塑性材料であってもよい。
この構成によれば、磁性材料の粉体を圧粉した磁性コアを形成するときに、金属磁性粉の充填率をより向上し、磁性材料の透磁率を向上することができる。
また、本実施の形態にかかる圧粉磁心(磁性コア)の製造方法は、上述した特徴を有する製造方法で得られた磁性材料を粉体成形する第1の成形工程と、前記第1の成形工程で得られた成形体を加熱する第2の熱処理工程とを含む。
この構成によれば、磁性材料の粉体を圧粉することにより、磁性コアを容易に形成することができる。
また、本実施の形態にかかる圧粉磁心は、Fe−Siからなる磁性材料を含み、前記磁性材料の充填率は90%以上であり、初透磁率は149以上である。
この構成によれば、Fe−Siからなる磁性材料を用いた磁性コアにおいて、金属磁性粉の充填率を向上し、磁性材料の透磁率を向上することができる。
また、Fe−Si−Alからなる磁性材料を含み、前記磁性材料の充填率は81%以上であり、初透磁率は83以上であってもよい。
この構成によれば、Fe−Si−Alからなる磁性材料を用いた磁性コアにおいて、金属磁性粉の充填率を向上し、磁性材料の透磁率を向上することができる。
また、前記磁性材料の周囲に、Tiを含む絶縁被膜が配置されていてもよい。
この構成によれば、金属磁性粉の周囲にTiを含む絶縁膜が形成された磁性コアにおいて、金属磁性粉の充填率を向上し、磁性材料の透磁率を向上することができる。
また、前記磁性材料の周囲に、Zrを含む絶縁被膜が配置されていてもよい。
この構成によれば、金属磁性粉の周囲にZrを含む絶縁膜が形成された磁性コアにおいて、金属磁性粉の充填率を向上し、磁性材料の透磁率を向上することができる。
また、前記磁性材料の周囲に、Alを含む絶縁被膜が配置されていてもよい。
この構成によれば、金属磁性粉の周囲にAlを含む絶縁膜が形成された磁性コアにおいて、金属磁性粉の充填率を向上し、磁性材料の透磁率を向上することができる。
また、本実施の形態にかかるコイル部品は、上述した特徴を有する圧粉磁心を備える。
この構成によれば、上述した特徴を有する磁性コアを備えるコイル部品を提供することができる。
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。実施の形態1に係るコイル部品1は、磁性コアとしていわゆるダストコアを用いたコイル部品であったが、本実施の形態に係るコイル部品2は、製造工程においてコイルが磁性コアに組み込まれたメタルコンポジット型のコイル部品である。
[2−1.磁性体粉の構成]
図13Aは、本実施の形態に係るコイル部品2の構成を示す概略斜視図である。図13Bは、本実施の形態に係るコイル部品2の構成を示す断面図である。図13Bは、図13AにおけるXIIB−XIIB線における断面を示している。
図13Aおよび図13Bに示すように、コイル部品2は、メタルコンポジット材で構成される磁性コア部22と、コイル部23とを備えている。
磁性コア部22は、平面視したときの中央付近に、円柱状の芯部22aを有している。磁性コア部22を構成する磁性材料は、実施の形態1に係るコイル部品1の分割磁心12と同様、例えばFeおよびSiを主成分とする合金であるFe−Si系の金属磁性材料である。なお、当該磁性材料については、実施の形態1に示した磁性材料と同様であるため詳細な説明は省略する。磁性コア部22の円柱状の芯部22aの周囲には、コイル部23が配置されている。
コイル部23は、導体が複数回巻き回された巻き回し部23aと、磁性コア部22の外側に形成された配線部23bとを有している。巻き回し部23aの巻き回された導体の巻回軸として磁性コア部22の芯部22aが配置されている。導体は、例えば銅で構成されている。導体は、コイル部品2の形成時に加えられた熱により破壊されない材料で構成されている。
コイル部23は、磁性コア部22と一体に形成されている。コイル部23巻き回し部23aは磁性コア内に埋められており、配線部23bは磁性コア部22の外側に配置されている。
[2−2.コイル部品の製造方法]
以下、本実施の形態にかかるコイル部品2の製造方法について説明する。図14は、本実施の形態に係るコイル部品2の製造工程を示すフローチャートである。
図14に示すように、コイル部品2の製造工程は、造粒粉製造工程S(ステップS10)と、コア製造およびコイル組み立て工程(ステップS40)とを含んでいる。造粒粉製造工程では、上述した磁性コアを構成する磁性材料を生成する。コア製造工程では、磁性材料を成形した磁性コア部22とコイル部23とを形成し、磁性コア部22とコイル部23とを組み立てることによりコイル部品2を完成させる。
なお、コイル部品2の製造工程における造粒粉製造工程は、実施の形態1に示した造粒粉製造工程と同様であるため、説明を省略する。
以下、コア製造およびコイル組み立て工程について詳細に説明する。図15は、本実施の形態に係るコア製造およびコイル組み立て工程を示すフローチャートである。
図15に示すように、はじめにコイル部23を形成する(ステップS41)。コイル部23は、実施の形態1に示した導体13と同様、例えば銅等の金属からなる導体を所定回数巻き回すことにより、巻き回し部23aを形成する。
次に、磁性コア部22とコイル部23とを一体に成形する(ステップS42)。ステップS42は、第2の成形工程である。磁性コア部22の材料としては、造粒粉製造工程において製造された磁性材料を用いる。まず、造粒粉製造工程において分級された磁性材料を成形金型に入れる。このとき、コイル部23の導体の巻き回し部23aの端部以外が磁性材料に覆われるように、コイル部23と磁性材料とを成形金型に入れる。
続けて、例えば一定圧力4〜5[ton/cm2]で一軸成形を行い、成形体を作製する。このときの圧力は、実施の形態1に示したコイル部品1のコア製造工程における一軸成形の圧力よりも低い圧力である。これにより、磁性材料とともに成形されるコイル部23が成形時に破壊されるのを抑制することができる。
成形体の形状は、例えば、図13Aおよび図13Bに示した磁性コア部22の形状である。なお、成形体の形状は、これに限らず、他の形状としてもよい。
さらに、脱脂後の成形体を熱硬化する(ステップS43)。この工程は、第3の熱処理工程である。成形体の熱硬化には、例えば雰囲気制御電気炉を用いる。なお、成形体の熱硬化には、他の方法を用いてもよい。
成形体の熱硬化は、例えば、所定の酸素分圧において、200[℃]の温度で1時間行う。このときの温度は、実施の形態1に示したコイル部品1の成形体のアニール温度よりも低い。これにより、成形体の熱硬化中にコイル部23が破壊されるのを抑制することができる。
さらに、成形体の熱硬化の後、コイル部23の巻き回し部23aの端部に、磁性コア部22の外側に配置される配線部23bを接続してもよい。
以上の工程を経ることにより、磁性コア部22とコイル部23とが一体となったコイル部品2が完成する。
[2−3.効果等]
以上、本実施の形態にかかるコイル部品の製造方法は、上述した特徴を有する製造方法で得られた磁性材料とコイルとを粉体成形により一体化させる第2の成形工程と、前記成形工程で得られた成形体を加熱する第3の熱処理工程とを含む。
この構成によれば、圧粉磁心とコイルとを一体化させたコイル部品を容易に形成することができる。
また、分子量が300以上1000以下の材料を添加剤としてFe系の金属磁性粉に添加して磁性材料を作製することにより、分子量が添加剤よりも高い樹脂材料を軟化させて、磁性材料内に金属磁性粉を近接させた状態で保持することができる。これにより、磁性材料における金属磁性粉の充填率を向上することができる。したがって、磁性材料の透磁率を向上することができる。
(その他の実施の形態等)
以上、本開示の実施の形態および変形例に係る磁性材料および磁性体粉について説明したが、本開示は、この実施の形態に限定されるものではない。
例えば、上述した磁性材料を用いたコイル部品についても、本発明に含まれる。コイル部品としては、例えば、高周波用のリアクトル、インダクタ、トランス等のインダクタンス部品等が挙げられる。また、上述したコイル部品を備えた電源装置についても、本発明に含まれる。
また、金属磁性粉は、Fe−Si系およびFe−Si−Al系の磁性材料に限らず、Feを主成分とする他の磁性材料であってもよい。
また、添加剤の主成分は、Alキレート錯体以外のキレート錯体であってもよいし、その他の金属を含むキレート錯体であってもよい。また、キレート錯体以外に、オリゴマー、アシレート、ポリマー等を主成分として含んでもよい。
また、樹脂材料は、上述したアクリル樹脂であってもよいし、シリコーン樹脂、ブチラール樹脂またはその他の樹脂材料であってもよい。また、有機溶剤についても、上述したトルエン、キシレン、エタノール等に限らず、他の有機溶剤を用いてもよい。
また、Fe−Si系の金属磁性材料の混錬・分散の方法、および、金属磁性粉、添加剤、樹脂材料および有機溶剤等の混合の方法は、上述した回転ボールミルによる混錬・分散に限らず、他の混合方法を用いてもよい。
また、第1の熱処理工程、第2の熱処理工程および第3の熱処理工程における熱処理の方法については、上述した方法に限らず、他の方法を用いてもよい。また、上述した各ステップにおける圧力、温度および時間は一例であって、他の圧力、温度および時間を採用してもよい。
また、本開示は、この実施の形態に限定されるものではない。本開示の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、一つまたは複数の態様の範囲内に含まれてもよい。