以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
図1は、本発明の第1実施形態のガスセンサ100の概略図である。本例のガスセンサ100は、検出対象の酸化性ガスを検出する酸化性ガスセンサである。酸化性ガスとしては、二酸化窒素(以下、NO2)等の窒素酸化物ガス(NOX)、塩素ガスやフッ素ガス等のハロゲン系ガス、および二酸化炭素(以下、CO2)等が挙げられる。
ガスセンサ100は、検知部10と制御装置200とを備える。検知部10は、ガス感知層12およびヒータ14を備える。本例の検知部10は、ヒータ14の温度を測定する温度測定部16を備える。本例と異なり、検知部10は、温度測定部16を備えていなくてもよい。他の例として、ヒータ14と温度測定部16を兼ねても良い。具体的には、ヒータの電気抵抗値の温度依存性を予め取得し、所定の温度になるようにヒータ電圧を調整しても良い。
ガス感知層12の電気特性は、存在するガスの種類および濃度によって異なる。ガス感知層12の電気特性は、ガス感知層12の電気抵抗値であってよい。ガス感知層12の電気特性は、ガス感知層12に電流を流したときのガス感知層12の両端の電圧値であってよく、ガス感知層12に両端に電圧を印加したときにガス感知層12に流れる電流値であってもよい。
ヒータ14は、ガス感知層12を加熱する。ヒータ14は、ガス感知層12を測定温度まで加熱する。測定温度は、対象ガスを検出するためにガス感知層12の電気特性を測定する温度を意味する。ガスセンサ100は、ヒータ14により測定温度に加熱されたガス感知層12の電気特性に基づいて検出対象の酸化性ガスを検出する。本実施形態のガスセンサ100は、ガス感知層12の表面に吸着した酸素を脱離させるためにガス感知層12を予備加熱した後に、ガス感知層12が測定温度に加熱されるようにヒータ14が制御される。
制御装置200は、ガスセンサ100を制御する。本例では、検知部10および制御装置200が共にガスセンサ100に内蔵されている。但し、制御装置200は、ガスセンサ100に外付けされる制御装置であってもよい。制御装置200は、検出部20および加熱制御部30を備える。検出部20は、ヒータ14によって測定温度に加熱されたガス感知層12の電気特性に基づいて検出対象の酸化性ガスを検出する。検出部20は、ガス感知層12の電気特性を取得する。例えば、検出部20は、センサ抵抗であるガス感知層12の電気抵抗値を測定する。ガス感知層12の電気特性は、ガス感知層12の電気抵抗値であってよく、電気抵抗値に対応づけられた電圧または電流であってもよい。
加熱制御部30は、ヒータ14を制御してガス感知層12の温度を制御する。具体的には、加熱制御部30は、ヒータ14に印加する電圧を制御してよい。特に、加熱制御部30は、ヒータ14によってガス感知層12を予備加熱温度T1に予備加熱させる。そして、加熱制御部30は、予備加熱の後に、ガス感知層12が測定温度T2に加熱されるようにヒータ14を制御する。加熱制御部30は、マイクロコンピュータによって構成してよい。予備加熱温度T1および測定温度T2については後述する。
本例の制御装置200は、設定部40および記憶部50を備える。設定部40は、加熱制御部30がヒータ14を制御するために必要な情報またはパラメータを設定する。記憶部は、記憶部50は、加熱制御部30がヒータ14を制御するために必要な情報またはパラメータを記憶する。記憶部50は、予備加熱温度T1、測定温度T2、予備加熱時間t1、および測定温度継続時間t2についての情報を記憶してよい。予備加熱時間t1は、ガス感知層12を予備加熱する時間である。測定温度継続時間t2は、ガス感知層12を測定温度T2に維持する時間である。本例の制御装置200が設定部40および記憶部50を含む場合を説明したが、制御装置200は、この場合に限定されない。制御装置200は、本例と異なり、各部を必ずしも含んでいなくてよい。
図2は、本発明の第1実施形態のガス警報器102の概略図である。本例のガス警報器102は、図1に示されるガスセンサ100の各構成に加えて、警報発生部60を更に備えている。警報発生部60は、ガスセンサ100が検出対象の酸化性ガスを検出したときに、警報を発生させる。具体的には、警報発生部60は、検出部20によるガス感知層12の電気特性の測定に基づいて検出対象の酸化性ガスが検出された場合に警報を発生させる。警報発生部60は、警報音等の音を発する警報音出力部を備えていてもよい。警報音出力部は、スピーカおよびブザー等で構成されてよい。警報発生部60は、LED(発光ダイオード)等を点滅または点灯させて警報状態を表示する警報表示部を備えてもよい。
図3は、検知部10の概略構成の一例を示す断面図である。本例の検知部10は、薄膜半導体式ガスセンサである。本例の検知部10は、シリコン基板2と、熱絶縁支持層3と、ヒータ14として機能するヒータ層と、電気絶縁層4と、ガス感知部5とを備える。シリコン基板2には、貫通孔6が設けられている。貫通孔6は、ダイアフラム構造を構成する。ガス感知部5は、接合層7と、ガス感知層電極8と、ガス感知層12と、触媒層9とを備えてよい。
ガス感知層12は、例えば、SnO2、In2O3、WO3、ZnO、およびTiO2等の金属酸化物を主成分とする感知層として形成される。ガス感知層12は、好ましくは、SnO2またはWO3であり、特に好ましくは、SnO2である。触媒層9は、少なくとも一種の触媒を担持した焼結体であってよい。触媒層9は、検出対象の酸化性ガス以外のガスを選択的に燃焼させる。これにより、ガスセンサ100は、検出対象の酸化性ガスを選択的に検出しやすくなる。但し、触媒層9は省略してもよい。
本例の検知部10においては、MEMS技術を用いたヒータ構造が採用されている。本例のヒータ構造は、開口部を有する空間が形成せれたシリコン基板2を有する。本例では、開口部を有する空間として貫通孔6がシリコン基板2に形成されている。開口部を有する空間上に熱絶縁支持層3が設けられる。本例では、熱絶縁支持層3は、シリコン基板2の貫通孔6の開口部の全体に張られて、ダイアフラム構造が形成されてよい。ヒータ層であるヒータ14は、熱絶縁支持層3によって支持される。
図3に示される検知部10は、例えば、以下のように製造される。両面に熱酸化層が設けられたシリコン基板2上にダイアフラム構造の支持層として、窒化珪素(Si3N4)膜と酸化珪素(SiO2)膜とを順次にプラズマCVD法にて形成する。これにより、熱酸化膜、窒化珪素膜、および酸化珪素膜が、この並び順に積層された熱絶縁支持層3が形成される。
次に、酸化珪素膜上に、白金(Pt)−タングステン(W)をスパッタリング法により形成することによってヒータ14が形成される。ヒータ14を覆うように、SiO2絶縁膜をスパッタリング法にて成膜することで、電気絶縁層4が形成される。電気絶縁層4上に、接合層7が形成される。さらに、RFマグネトロンスパッタリング法によって白金(Pt)等の導電性膜を成膜する。これによって、ガス感知層電極8が形成される。次に、ガス感知層12として、SnO2、In2O3、WO3、ZnO、およびTiO2等の金属酸化物の半導体膜が形成される。シリコン基板2の裏面側には、エッチング等によって貫通孔6が形成される。
以上のようなMEMS技術を用いたヒータ構造により、低消費電力を実現したヒータ14を用いたガスセンサ100が実現される。しかしながら、検知部10の構造は、ダイアフラム構造を有するものに限られない。検知部10は、キャビティ型と呼ばれるヒータ構造を有してよい。
キャビティ型のヒータ構造においては、開口部を有する空間としてキャビティがシリコン基板に形成されている。キャビティは、シリコン基板の上面において開口部を有するが、シリコン基板2の下面側は、開口していない。キャビティは、四角錐または四角錐台形状を有してよい。キャビティ上に熱絶縁支持層が設けられている。熱絶縁支持層は、キャビティ上の中央に位置する中央部と、中央部と周辺部とを繋ぐ複数のブリッジ部とを備えてよい。
図4は、清浄空気中におけるガス感知層12の電気抵抗値の温度特性を示す図である。清浄空気とは、検出対象の酸化性ガス等を含まない空気である。清浄空気は、酸素を含んでいる。薄膜半導体式のガスセンサ100におけるガス感知層12の表面、すなわち、SnO2等の半導体表面には、酸素が負電荷吸着する。酸素が半導体表面に吸着することによって、半導体中のキャリアである電子が酸素に奪われる。これにより、半導体中の電子密度が少なくなり、ガス感知層12の電気抵抗値が高くなる。
メタン、プロパン、およびブタン等の還元性ガスの検出は、400℃程度の測定温度で実行される。図4に示されるとおり、ガス感知層12の温度が400℃程度になると、ガス感知層12の表面には、酸素イオンO2−が吸着して、ガス感知層12の電気抵抗値が高くなっている。この状態で、メタン、プロパン、およびブタン等の還元性ガスが存在すると、負電荷吸着している酸素と還元性ガスとが反応する。この反応のときに、電子が半導体中に戻って、半導体中の電子密度が高くなる。したがって、ガス感知層12の電気抵抗値が低くなるように変化する。この電気抵抗値の変化の度合いが、ガスに対する感度に対応する。検出対象ガスが還元性ガスの場合は、十分な感度を得やすい。
一方、酸化性ガスが存在する場合には、既に酸素が吸着しているSnO2等の半導体表面に更に酸化性ガスが負電荷吸着して、ガス感知層12の電気抵抗値が高くなる。しかしながら、清浄空気中において酸素が半導体表面に吸着してガス感知層12が既に高抵抗化している。それゆえ、酸化性ガスが更に吸着しても、ガス感知層12の電気抵抗値の変化は小さい。したがって、酸化性ガスを検出する場合は、還元性ガスを検出する場合と比べて感度が低くなる。
図4に示されるとおり、周辺温度から250℃までの温度範囲では、温度が高くなるのにしたがってガス感知層12の電気抵抗値が低くなる。この電気抵抗値の低下過程は、ガス感知層12にはO−(あるいはO2 −)の形態で吸着していた酸素が、温度が高くなるのにしたがって脱離することに起因する。ガス感知層12の温度が250℃を超えると、250℃から400℃の温度範囲において、温度が高くなるのにしたがってガス感知層12の電気抵抗値が高くなる。特に250℃から400℃の温度変化率は、周辺温度から250℃までの温度変化率に比べて高い。この電気抵抗値の増加過程は、ガス感知層12に対して、O2−の形態で酸素が吸着することに起因すると考えられている。ガス感知層12が400℃を過ぎると、ガス感知層12の半導体としての特性として、温度が高くなるにつれて電気抵抗値が低くなる。
以上のとおり、清浄空気中でのガス感知層12の電気抵抗値の温度特性に関して、ガス感知層12の温度が極小値温度Tmin(℃)であるときに、ガス感知層12の電気抵抗値は極小値を呈する。本例のようにガス感知層12がSnO2で形成さている場合、Tmin(℃)は、250℃である。Tmin(℃)は、ガス感知層12に材料に依存する。一方、清浄空気中でのガス感知層12の電気抵抗値の温度特性に関して、ガス感知層12の温度が極大値温度Tmax(℃)であるときに、ガス感知層12の電気抵抗値は極大値を呈する。Tmax(℃)は、400℃である。Tmax(℃)についても、ガス感知層12の材料に依存する。
本例のガスセンサ100において、加熱制御部30は、ガス感知層12の温度が、Tmin−100℃以上Tmin+50℃以下の範囲の予備加熱温度T1となるようにガス感知層12を予備加熱させる。すなわち、加熱制御部30は、予備加熱において、ガス感知層12の温度が、極小値温度Tminから100℃を引いた温度以上、かつ、極小値温度Tminに50℃を加えた温度以下の温度範囲にガス感知層12が加熱されるようにヒータ14を制御する。そして、加熱制御部30は、予備加熱の後に、ガス感知層12が測定温度T2に加熱されるようにヒータ14を制御する。
ガス感知層12が予備加熱されることによって、ガス感知層12の表面に吸着している酸素であるO−およびO2−の吸着量が軽減した状態となる。したがって、ガス感知層12の表面に既に酸素が吸着されている状態に比べて、検出対象の酸化性ガスがガス感知層12の表面に吸着しやすくなる。特に、窒素感化物ガス(NOx)は、酸素より、清浄なガス感知層12の表面に吸着しやすい。
加熱当初からガス感知層12が測定温度T2に加熱されるようにヒータ14を制御する場合に比べて、予備加熱を経た後に、ガス感知層12が測定温度T2に加熱されるようにヒータ14が制御される方が、検出対象の酸化性ガスに対する感度が高くなる。すなわち、予め定められた予備加熱時間にわたって予備加熱した後に、ガス感知層12が測定温度T2に加熱されるようにヒータ14を制御する方が、予備加熱を経ずに、ガス感知層12の温度が測定温度T2に加熱されるようにヒータ14が制御する場合に比べて、検出対象の酸化性ガスの濃度に応じてガス感知層12の電気抵抗値の上昇変化が大きくなる。
本例においては、測定温度T2は、予備加熱温度T1よりも高い。測定温度T2は、検出対象の酸化性ガスの吸着開始温度より高い。一方、測定温度T2は、極大値温度Tmax(℃)より低くてよい。より好ましくは、測定温度T2は、Tmin+50℃以下であってよい。加熱制御部30は、ガス感知層12の温度が、極小値温度Tminに50℃を加えた温度以下の温度範囲にガス感知層12が加熱されるようにヒータ14を制御してよい。極大値温度Tmax(℃)以上の温度でガス感知層12の電気特性を測定する場合には、ガス感知層12の表面に酸素(O2−)が十分に吸着されており、酸化性ガスが吸着しにくい。一方、極大値温度Tmax(℃)より低い温度、より好ましくは、Tmin+50℃以下の温度でガス感知層12の電気特性を測定する場合には、空気中の酸素に加えて、検出対象の酸化性ガスが存在することによって、ガス感知層12の電気抵抗値が高くなりやすい。
図5は、ヒータ14の間欠駆動の一例を示す図である。図5の縦軸は、ガス感知層12の温度を示し、横軸は時間を示している。加熱制御部30は、周期的にヒータ14をパルス駆動してよい。すなわち、加熱制御部30は、ヒータ14に対してヒータ駆動電圧としてパルス状の電圧を周期的に印加する。
加熱制御部30は、30秒以上24時間以下の周期tcでパルス状の電圧をヒータ14に印加してよい。周期tcは、ガスセンサ100の用途によって決定される。空調機器または植物工場等において二酸化炭素を検出して濃度を測定する場合には、検出頻度が重視され、周期tcは、例えば、5分以下である。一方、環境測定用途において窒素酸化物を検出して濃度を測定する場合には、周期tcは、例えば、1時間以上としてよい。図5に示されるとおり、加熱制御部30は、予備加熱温度T1になるようにガス感知層12を予備加熱させた後に、ガス感知層12が測定温度T2となるようにヒータ14を制御する。
図6は、本発明の第1実施形態のガスセンサ100におけるヒータ駆動パターンの一例を示す図である。図6は、図5に示される一つのパルス状の部分を拡大した波形を示している。図6の縦軸は、ガス感知層12の温度を示し、横軸は時間を示している。図6に示されるとおり、周辺温度から予備加熱温度T1までガス感知層12をヒータ14によって予備加熱させる。予備加熱温度T1は、Tmin−100℃以上Tmin+50℃の範囲で予め定められてよい。ガス感知層12の材料がSnO2である場合は、Tminは250℃である。したがって、予備加熱温度T1は、150℃以上300℃の範囲であってよい。
予備加熱温度T1が150°より小さいと、ガス感知層12の表面が水分の影響を受ける。したがって、予備加熱温度T1は、150℃以上であることが望ましい。予備加熱時間t1は、予め定められてよい。予備加熱時間t1は、10秒以上10分以下であってよい。温度を安定させるためには、予備加熱時間t1が長い方が望ましい。一方、検出対象の酸化性ガスを迅速に検出するためには、予備加熱時間t1が短い方が望ましい。加熱制御部30は、予備加熱時間t1の経過後に、ガス感知層12が測定温度T2となるようにヒータ14を制御する。
測定温度T2は、極大値温度Tmax以下であってよい。また、測定温度T2は、Tmin+50℃以下であってよい。ガス感知層12の材料がSnO2である場合は、Tminは250℃であり、Tmaxは400℃である。したがって、ガス感知層12の材料がSnO2である場合は、測定温度T2は、400℃以下であってよく、より好ましくは350℃以下であってよく、更に好ましくは250℃より高く320℃以下であってよい。測定温度継続時間t2は、予備加熱時間t1より短くてよい。一例において、測定温度継続時間t2は、0.1秒以上60秒以下であってよい。
測定温度継続時間t2の終了する直前のタイミングにおいて、検出部20は、ガス感知層12の電気特性を取得してよい。検出部20は、ヒータ14によって測定温度に加熱されたガス感知層12の電気特性に基づいて検出対象の酸化性ガスを検出する。具体的には、ガス感知層12の両端に既知の電圧を印加したときにガス感知層12に流れる電流を測定し、ガス感知層12の両端の電圧と電流とからガス感知層12の電気抵抗値を取得してよい。記憶部50には、電気抵抗値等の電気特性値と酸化性ガス濃度との関係とを示すルックアップテーブルが記憶されていてよい。検出部20は、取得した電気特性値についてルックアップテーブルを参照して対応するガス濃度を検出してよい。
次に、以上のように構成される第1実施形態のガスセンサ100の効果について、比較例を参照しつつ説明する。図7は、比較例のガスセンサにおけるヒータ駆動パターンの一例を示す図である。図7の縦軸は、ガス感知層12の温度を示し、横軸は時間を示している。比較例のガスセンサの構造は、ヒータ駆動パターンの違いを除いて、図1から図3に示される第1実施形態のガスセンサ100の構造と同様である。
比較例のガスセンサにおいては、加熱制御部30は、ガス感知層12を予備加熱することなく、ガス感知層12を直接的に測定温度T2に加熱するようにヒータ14を制御する。表1に、実施例1のガスセンサ100と比較例1のガスセンサとのセンサ感度の比較結果を示す。実施例1は、図6に示される第1実施形態において、予備加熱温度T1が250℃、予備加熱時間t1が30秒、測定温度が300℃、測定温度継続時間t2が0.3秒である場合である。比較例1は、図7に示される比較例において、予備加熱を実行せず、測定温度が300℃であり、測定温度継続時間t2が30秒である場合である。実施例1および比較例1において、検出対象の酸化性ガスはNO2とし、NO2の濃度は4ppmとした。
ガス感度は、同じヒータ駆動条件において加熱した場合における清浄空気中のガス感知層12の電気抵抗値をRairとし、4ppmのNO2ガスの雰囲気中のガス感知層12の電気抵抗値をRgasとした場合に、RgasとRairの比率、具体的には、Rgas/Rairとして算出される。表1に示されるとおり、実施例1と比較例1とは、測定温度T2が同じであるにも関わらず、実施例1のガスセンサの方が、ガス感度が高くなることがわかった。実施例1においては、十分なガス感度が得られることがわかった。
図8は、本発明の第1実施形態のガスセンサ100による処理内容の一例を示すフローチャートである。図8は、ガスセンサ100の制御方法を示す。加熱制御部30は、ガス感知層12が予備加熱温度T1に加熱されるようにヒータ14を制御する(ステップS101)。予備加熱時間t1が経過するのを待って(ステップS102:YES)、加熱制御部30は、ガス感知層12が測定温度T2に加熱されるようにヒータ14を制御する(ステップS103)。ステップS101からステップS103は、ガス感知層12の温度がTmin−100℃以上Tmin+50℃以下の範囲となるようにガス感知層12をヒータ14によって予備加熱させた後に、ガス感知層12が測定温度に加熱されるようにヒータ14を制御する制御段階に対応する。
ガス感知層12が測定温度T2に加熱された状態において、予め定められた時間が経過するのを待って(ステップS104:YES)、検出部20は、ガス感知層12の電気特性を取得する(ステップS105)。予め定められた時間は、測定温度継続時間t2であってもよく、測定温度継続時間t2より短くてもよい。検出部20は、取得した電気特性に基づいて、検出対象の酸化性ガスを検出する(ステップS106)。具体的には、本例においては、検出対象の酸化性ガスの濃度が高くなるにつれて、ガス感知層12の電気抵抗値が高くなる。ステップS104からステップS106は、ヒータ14によって測定温度T2に加熱されたガス感知層12の電気特性に基づいて検出対象の酸化性ガスを検出する検出段階に対応する。
検出対象の酸化性ガスが存在する場合、空気中の酸素と共に検出対象の酸化性ガスがガス感知層12の表面に吸着するため、空気中の酸素のみがガス感知層12の表面に吸着する場合に比べて、ガス感知層12の電気抵抗値が高くなる。特に、本例では予備加熱によってガス感知層12の表面が清浄になるため、酸化性ガスが吸着しやすい。検出部20は、取得した電気抵抗値等の電気特性値について、ルックアップテーブル等を参照して対応するガス濃度を検出してよい。また、検出部20は、ガス感知層12の電気抵抗値と、記憶部50に記憶された一または複数の閾値とを比較してよい。検出部20は、ガス感知層12の電気抵抗値が閾値より高ければ、検出対象の酸化性ガスが存在すると判断してよい。
また、検出対象の酸化性ガスがNO2ガスの場合には、酸素よりNO2ガスの方がガス感知層12の表面に吸着されやすい。したがって、空気中の酸素がガス感知層12の表面に吸着する場合に比べて、空気中の酸素のみならず、NO2ガスがガス感知層12の表面に吸着する方が電気抵抗値の上昇が早期に生じやすい。それゆえ、検出部20は、ガス感知層12を測定温度T2に加熱し始めてから、電気抵抗値が所定値に到達するまでの時間が短い場合に、NO2ガスが存在すると判断してよい。また、検出部20は、電気抵抗値が所定値に到達するまでの時間が短いほど、NO2ガスの濃度が高くなると判断してよい。
検出部20が、検出対象の酸化性ガスを検出した場合には(ステップS106:YES)、制御装置200はガス検出信号を生成する(ステップS107)。例えば、図2に示されるようなガス警報器102においては、警報発生部60が、検出対象の酸化性ガスが検出された旨の警報を発報する。次いで、加熱制御部30は、予備加熱時間t1と測定時間継続時間t2とを合計した加熱時間が経過するのを待って、ヒータ14への通電を停止してよい(ステップS108)。加熱制御部30は、周期的にヒータ14をパルス駆動してよい。したがって、加熱制御部30は、ヒータ駆動の周期tcが経過するのを待って(ステップS109:YES)、ガス感知層12が予備加熱温度T1に加熱されるようにヒータ14を制御する(ステップS101)。
以上のように、本実施形態のガスセンサ100によれば、清浄空気中でのガス感知層12の電気抵抗値が極小値を呈する極小値温度をTmin℃の前後の温度範囲においてガス感知層12を予備加熱する。予備加熱によって、ガス感知層12に吸着している酸素の量が低減されて、ガス感知層12の表面が清浄状態となる。このように予備加熱を経た後に、ガス感知層12が測定温度T2に加熱されるようにヒータ14を制御することで、検出対象の酸化性ガスに対するセンサ感度を高めることができる。
図9は、本発明の第2実施形態のガスセンサ100におけるヒータ駆動パターンの一例を示す図である。第2実施形態のガスセンサ100の構造は、ヒータ駆動パターンの違いを除いて第1実施形態のガスセンサ100の構造と同様である。したがって、共通する部分についての繰返しの説明は省略される。図9は、第1実施形態における図6と同様に、図5に示されるような一つのパルス状の部分を拡大した波形を示している。図9の縦軸は、ガス感知層12の温度を示し、横軸は時間を示している。
図9に示されるとおり、加熱制御部30は、予備加熱温度T1への予備加熱に先だって、測定温度T2より高い初期加熱温度T0にガス感知層12を加熱するようにヒータ14を制御する。より好ましくは、初期加熱温度T0は、極大値温度Tmax以上であってよい。初期加熱温度T0は、検出対象ガスがガス感知層12から脱離する温度であってよい。例えば、検出対象ガスがNO2ガスである場合、初期加熱温度T0は、400℃以上470℃以下であってよく、より好ましくは420℃以上460℃以下であってよい。初期加熱温度継続時間t0は、予備加熱時間t1より短くてよい。一例において、初期加熱温度継続時間t0は、0.1秒以上60秒以下であってよい。
初期加熱後は、図6に示される第1実施形態の場合と同様のヒータ駆動パターンが実行されてよい。本例によれば、加熱制御部30は、予備加熱温度T1への予備加熱に先だって、測定温度T2より高い初期加熱温度T0にガス感知層12が加熱される。したがって、一旦、ガス感知層12の表面に吸着した検出対象の酸化性ガスを離脱させることができる。それゆえ、ガス感知層12の表面が清浄となる。したがって、ガス感知層12の表面に、検出対象の酸化性ガスが吸着しやすくなるので、検出対象の酸化性ガスに対するセンサ感度を高めることができる。
次に、以上のように構成される第2実施形態のガスセンサ100の効果について、図7に示した比較例を参照しつつ説明する。表2に、実施例2のガスセンサ100と比較例1のガスセンサとのセンサ感度の比較結果を示す。実施例2は、図9に示される第2実施形態において、初期加熱温度T0が450℃、初期加熱温度継続時間t0が0.3秒、予備加熱温度T1が250℃、予備加熱時間t1が30秒、測定温度が300℃、測定温度継続時間t2が0.3秒である場合である。比較例1は、図7に示される比較例において、初期加熱および予備加熱を実行せず、測定温度T2が300℃であり、測定温度継続時間t2が30秒である場合である。実施例2および比較例1において、検出対象の酸化性ガスはNO2とし、NO2の濃度は4ppmとした。
表2に示されるとおり、実施例2と比較例1とは、測定温度T2が同じであるにも関わらず、実施例2のガスセンサの方が、比較例1のガスセンサに比べて高いガス感度を奏することがわかった。実施例2においては、十分なガス感度が得られることがわかった。第1実施形態において表1の実施例1の場合には、ガス感度が2.0であるのに対し、第2実施形態において表2の実施例2の場合には、ガス感度が5.0である。
図10は、本発明の第2実施形態のガスセンサ100による処理内容の一例を示すフローチャートである。加熱制御部30は、ガス感知層12が初期加熱温度T0に加熱されるようにヒータ14を制御する(ステップS201)。初期加熱温度継続時間t0が経過するのを待って(ステップS202:YES)、加熱制御部30は、ガス感知層12を予備加熱温度T1に加熱するようにヒータ14を制御する(ステップS203)。ステップS203からステップS211の処理内容は、図8におけるステップS101からステップS109の処理内容と同様である。したがって、繰り返しの説明が省略される。
以上のように、本実施形態のガスセンサ100によれば、予備加熱温度T1への予備加熱に先だって、測定温度T2より高い初期加熱温度T0にガス感知層12が加熱される。次いで、本実施形態のガスセンサ100は、清浄空気中でのガス感知層12の電気抵抗値が極小値を呈する極小値温度をTmin℃の前後の温度範囲においてガス感知層12を予備加熱する。これによって、ガス感知層12に吸着している酸素の量を低減して、ガス感知層12の表面を清浄状態となる。このように初期加熱および予備加熱を経た後に、ガス感知層12が測定温度T2に加熱されるようにヒータ14を制御することで、検出対象の酸化性ガスに対するセンサ感度を高めることができる。
図11は、本発明の第3実施形態のガスセンサ100におけるヒータ駆動パターンの一例を示す図である。第3実施形態のガスセンサ100の構造は、ヒータ駆動パターンの違いを除いて第1または第2実施形態のガスセンサ100の構造と同様である。したがって、共通する部分についての繰返しの説明は省略される。図11は、第1実施形態における図6と同様に、図5に示されるような一つのパルス状の部分を拡大した波形を示している。図11の縦軸は、ガス感知層12の温度を示し、横軸は時間を示している。
図11に示されるとおり、第3実施形態のガスセンサ100において、予備加熱時間t1が可変である。本例では、当初のヒータ駆動においては予備加熱時間t11であるのに対し、後続するヒータ駆動においては予備加熱時間t12である。予備加熱時間t12は、予備加熱時間t11より長い。予備加熱時間は長いほど、温度が安定して検出精度が高まる。一方、予備加熱時間は長いほど、検出頻度が低下する。
本例においては、検出頻度を考慮して、予備加熱時間が設定される。そして、検出部20がガス感知層12の電気抵抗値を取得する。ガス感知層12の電気抵抗値が、予め定められた第1抵抗値以上の場合には、検出対象の酸化性ガスが存在している蓋然性がある。したがって、ガス感知層12の電気抵抗値が、予め定められた第1抵抗値以上の場合には、加熱制御部30は、検出精度を考慮して、予備加熱時間を長くするように変更する。検出部20は、予備加熱時間t12が長く変更された予備加熱の後に、測定温度に加熱されたガス感知層12の電気特性に基づいて、検出部20は、検出対象の酸化性ガスを検出する。
図12は、本発明の第3実施形態のガスセンサ100による処理内容の一例を示すフローチャートである。ステップS301からステップS304までの処理は、ステップS101からステップS104までの処理と同様である。次いで、検出部20は、ガス感知層12の電気抵抗値を取得する(ステップS305)。そして、検出部20は、ガス感知層12の電気抵抗値が、第1閾値(第1抵抗値)以上であるかを判断する(ステップS306)。ガス感知層12が第1閾値以上である場合には(ステップS306:YES)、加熱制御部30は、予備加熱時間t1を既に変更済みであるかを判断する(ステップS307)。
予備加熱時間t1がまだ変更済みでない場合には(ステップS307:NO)、予備加熱時間t1を長くするように変更する(ステップS308)。一方、既に、予備加熱時間t1が変更済みである場合には(ステップS307:YES)、検出対象の酸化性ガスが検出されたとして、ガス検出信号を生成する(ステップS309)。ステップS310およびステップS311については、図8のステップS108およびステップS109と同様である。したがって、繰返しの説明は省略する。
図13は、本発明の第4実施形態のガスセンサ100におけるヒータ駆動パターンの一例を示す図である。本例のガスセンサ100は、第1酸化性ガスおよび第2酸化性ガスという複数種類の酸化性ガスを検出する。本例においては、測定温度T2として、酸化性ガスの種類に対応して第1測定温度T21および第2測定温度T22が定められている。検出部20は、ヒータ14によって第1測定温度T21に加熱されたガス感知層12の電気特性に基づいて検出対象の第1酸化性ガスを検出する。検出部20は、ヒータ14によって第2測定温度に加熱されたガス感知層12の電気特性に基づいて検出対象の第2酸化性ガスを検出する。
図13に示されているとおり、ヒータ14の駆動パターンにおいて、周期が変わるごとに測定温度を第1測定温度T21および第2測定温度T22の間で切り替えてよい。図14は、本発明の第4実施形態のガスセンサ100による処理内容の一例を示すフローチャートである。図14において、ステップS401からS405の処理は、図8のステップS101からステップS105の処理と同様である。但し、ステップS403において、測定温度が第1測定温度T21の場合もあり、第2測定温度T22の場合もある。
ステップS403において、測定温度T2が第1測定温度T21である場合には、検出部20は、第1酸化性ガスを検出する(ステップS406)。一方、ステップS403において、測定温度T2が第2測定温度T22である場合には、検出部20は、第2酸化性ガスを検出する(ステップS406)。検出部20が、検出対象の酸化性ガスを検出した場合には(ステップS406:YES)、制御装置200は、検出された酸化性ガスの種類に応じたガス検出信号を生成する(ステップS407)。ステップS408およびステップS409の処理は、図8におけるステップS108およびステップS109の処理と同様である。ステップS410において、測定温度T2が第1測定温度T21および第2測定温度T22のどちらかに切り替える。
本例によれば、測定温度として複数の測定温度が準備されている。したがって、各測定温度に対応して複数種類の酸化性ガスを検出することができる。
図15は、本発明の第4実施形態のガスセンサ100におけるヒータ駆動パターンの他の例を示す図である。図13に示される例では、周期が変わるごとに測定温度が第1測定温度T21と第2測定温度T22との間で切り替える場合を説明した。しかしながら、1つの周期中で、測定温度を第1測定温度T21および第2測定温度T22に順次に切り替えてもよい。
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順序で実施することが必須であることを意味するものではない。