以下、添付図面を参照しながら、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また以下に記載する構成要素には、当業者が容易に想定できるもの及び実質的に同一のものが含まれる。さらに以下に記載する構成要素は、適宜組み合わせることができる。
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態によるガスセンサ10Aの構成を説明するための上面図である。また、図2は、図1に示すA−A線に沿った断面図である。尚、図面は模式的なものであり、説明の便宜上、厚みと平面寸法との関係、デバイス相互間の厚みの比率などは、本実施形態の効果が得られる範囲内で現実の構造とは異なっていても構わない。
第1の実施形態によるガスセンサ10Aは、検出対象となる可燃性ガスの触媒反応に基づいてガス濃度を検出する接触燃焼式のガスセンサであり、図1及び図2に示すように、2つの検出部20,30と、これら検出部20,30を収容するセラミックパッケージ11を備えている。検出対象となる可燃性ガスの種類については特に限定されないが、CO(一酸化炭素)ガス、H2(水素)ガス、メタンガスなどを対象とすることができる。一例として、以下の説明においては検出対象ガスをCOガスとしている。
セラミックパッケージ11は、上部が開放された箱形のケースであり、上部にはリッド12が設けられている。リッド12は複数の通気口13を有しており、これにより、雰囲気中の検出対象ガスがセラミックパッケージ11内に流入可能とされている。尚、図面の見やすさを考慮して、図1においてはリッド12が省略されている。
検出部20は、基板21と、基板21の下面及び上面にそれぞれ形成された絶縁膜22,23と、絶縁膜23上に設けられた第1のヒータ抵抗MH1と、第1のヒータ抵抗MH1を覆うヒータ保護膜24と、ヒータ保護膜24上に設けられた触媒CTを備える。
基板21は、適度な機械的強度を有し、且つ、エッチングなどの微細加工に適した材質であれば特に限定されるものではなく、シリコン単結晶基板、サファイア単結晶基板、セラミック基板、石英基板、ガラス基板などを用いることができる。基板21には、第1のヒータ抵抗MH1による熱が基板21への伝導するのを抑制するため、平面視で第1のヒータ抵抗MH1と重なる位置にキャビティ21aが設けられている。キャビティ21aにより基板21が取り除かれた部分は、メンブレンと呼ばれる。メンブレンを構成すれば、基板21を薄肉化した分だけ熱容量が小さくなるため、より少ない消費電力で加熱を行うことが可能となる。
絶縁膜22,23は、酸化シリコン又は窒化シリコンなどの絶縁材料からなる。絶縁膜22,23として例えば酸化シリコンを用いる場合には、熱酸化法やCVD(Chemical Vapor Deposition)法などの成膜法を用いればよい。絶縁膜22,23の膜厚は、絶縁性が確保される限り特に限定されず、例えば0.1〜1.0μm程度とすればよい。特に、絶縁膜23は、基板21にキャビティ21aを形成する際のエッチング停止層としても用いられるため、当該機能を果たすのに適した膜厚とすればよい。
第1のヒータ抵抗MH1は、温度によって抵抗率が変化する導電性物質からなり、比較的高融点の材料からなる金属材料、例えば、モリブデン(Mo)、白金(Pt)、金(Au)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)又はこれら何れか2種以上を含む合金などが好適である。また、イオンミリングなどの高精度なドライエッチングが可能である導電材質であることが好ましく、特に、耐腐食性が高いPtを主成分とすることがより好適である。また、絶縁膜23との密着性を向上させるために、Ptの下地にチタン(Ti)などの密着層を形成するのが好ましい。
第1のヒータ抵抗MH1の上部には、ヒータ保護膜24が形成される。ヒータ保護膜24の材料としては、絶縁膜23と同じ材料を用いることが望ましい。第1のヒータ抵抗MH1は、数十度から数百度にまで上昇し、次に常温へ下がるという激しい熱変化を繰り返し生じるため、絶縁膜23及びヒータ保護膜24にも強い熱ストレスがかかり、この熱ストレスを継続的に受けると層間剥離やクラックといった破壊につながる。しかしながら、絶縁膜23とヒータ保護膜24を同じ材料によって構成すれば、両者の材料特性が同じであり、且つ、密着性が強固であることから、異種材料を用いた場合と比べて、層間剥離やクラックといった破壊が生じにくくなる。ヒータ保護膜24の材料として酸化シリコンを用いる場合、熱酸化法やCVD法などの方法により成膜すればよい。ヒータ保護膜24の膜厚は、触媒CTとの絶縁が確保される膜厚であれば特に限定されず、例えば0.1〜3.0μm程度とすればよい。
第1のヒータ抵抗MH1の両端は、ヒータ保護膜24の表面に設けられた電極パッド25a,25bにそれぞれ接続される。電極パッド25a,25bは、ボンディングワイヤ15を介して、セラミックパッケージ11に設けられたパッケージ電極14に接続される。パッケージ電極14は、セラミックパッケージ11の裏面に設けられた外部端子16に接続される。外部端子16は、コントローラや電源などの図示しない外部回路に接続される。
触媒CTは、γアルミナなどに白金(Pt)を担持させたものを、バインダーとともにペースト状にして、塗布・焼成を行ったものを用いることができる。尚、担持させる材料としては、金(Au)又はパラジウム(Pd)などであっても構わない。触媒CTは、第1のヒータ抵抗MH1によって所定の温度に加熱されると、検出対象ガスであるCOガスと雰囲気中のO2ガスの反応(燃焼)を促進させ、CO2ガスに変化させる。その際に生じる反応熱は第1のヒータ抵抗MH1に伝導し、第1のヒータ抵抗MH1の抵抗値を変化させる。
このように、検出部20は、第1のヒータ抵抗MH1と触媒CTが基板21上に積層された構成を有していることから、第1のヒータ抵抗MH1によって生じる熱が触媒CTに効率よく伝わるとともに、触媒CTの反応熱が第1のヒータ抵抗MH1に効率よく伝わる。
検出部30は、基板31と、基板31の下面及び上面にそれぞれ形成された絶縁膜32,33と、絶縁膜33上に設けられた第2のヒータ抵抗MH2と、第2のヒータ抵抗MH2を覆うヒータ保護膜34と、ヒータ保護膜34上に設けられた薄膜サーミスタTH及びサーミスタ電極35と、薄膜サーミスタTH及びサーミスタ電極35を覆うサーミスタ保護膜36を備える。
基板31は、検出部20に用いられる基板21と同様の材料からなるとともに、同様の構成を有している。つまり、平面視で第2のヒータ抵抗MH2と重なる位置にキャビティ31aが設けられ、これにより、第2のヒータ抵抗MH2による熱が基板31へ伝導するのを抑制している。絶縁膜32,33の材料についても絶縁膜22,23と同様であり、酸化シリコン又は窒化シリコンなどの絶縁材料が用いられる。絶縁膜32,33の厚みも絶縁膜22,23と同様である。
第2のヒータ抵抗MH2は、第1のヒータ抵抗MH1と同じ構成を有しているが、本実施形態においては、第1のヒータ抵抗MH1よりも低抵抗に設計されている。また、検出部30においては、第2のヒータ抵抗MH2の上方に薄膜サーミスタTHが形成されるため、第2のヒータ抵抗MH2の材質としては、薄膜サーミスタTHの成膜工程および熱処理工程などのプロセスに耐えうる材料を用いる必要がある。第2のヒータ抵抗MH2の両端は、サーミスタ保護膜36の表面に設けられた電極パッド37a,37bにそれぞれ接続される。電極パッド37a,37bは、ボンディングワイヤ15を介して、セラミックパッケージ11に設けられたパッケージ電極14に接続される。
薄膜サーミスタTHは、複合金属酸化物、アモルファスシリコン、ポリシリコン、ゲルマニウムなどの負の抵抗温度係数を持つ材料からなり、スパッタ法、CVDなどの薄膜プロセスを用いて形成することができる。薄膜サーミスタTHの膜厚は、目標とする抵抗値に応じて調整すればよく、例えばMnNiCo系酸化物を用いて室温での抵抗値(R25)を2MΩ程度に設定するのであれば、一対のサーミスタ電極35間の距離にもよるが0.2〜1μm程度の膜厚に設定すればよい。ここで、感温抵抗素子として薄膜サーミスタTHを用いているのは、また、白金測温体などに比べて抵抗温度係数が大きいことから、大きな検出感度を得ることができるためである。また、薄膜構造であることから、第2のヒータ抵抗MH2の発熱を効率よく検出することも可能となる。
尚、薄膜サーミスタTHと還元性を持つ材料を接触させて高温状態にすると、サーミスタから酸素を奪って還元を引き起こし、サーミスタ特性に影響を与えてしまう。これを防止するためには、サーミスタ保護膜36の材料としては、シリコン酸化膜等の還元性を持たない絶縁性酸化膜であることが望ましい。
サーミスタ電極35は、所定の間隔を持った一対の電極であり、一対のサーミスタ電極35間に薄膜サーミスタTHが設けられる。これにより、一対のサーミスタ電極35間における抵抗値は、薄膜サーミスタTHの抵抗値によって決まる。サーミスタ電極35の材料としては、薄膜サーミスタTHの成膜工程および熱処理工程などのプロセスに耐えうる導電性物質であって、比較的高融点の材料、例えば、モリブデン(Mo)、白金(Pt)、金(Au)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)又はこれら何れか2種以上を含む合金などが好適である。一対のサーミスタ電極35は、サーミスタ保護膜36の表面に設けられた電極パッド38a,38bにそれぞれ接続される。電極パッド38a,38bは、ボンディングワイヤ15を介して、セラミックパッケージ11に設けられたパッケージ電極14に接続される。
このように、検出部30は、第2のヒータ抵抗MH2と薄膜サーミスタTHが基板31上に積層された構成を有していることから、第2のヒータ抵抗MH2によって生じる熱が薄膜サーミスタTHに効率よく伝わる。
以上の構成を有する検出部20,30は、いずれもウェハ状態で多数個同時に作製され、ダイシングによって個片化された後、ダイペースト(図示せず)を用いてセラミックパッケージ11に固定される。その後、電極パッド25a,25b,37a,37b,38a,38bと、対応するパッケージ電極14を、ワイヤボンディング装置を用いてボンディングワイヤ15で接続する。ボンディングワイヤ15の材料としては、Au、Al、Cuなど、抵抗の低い金属が好適である。
最後に、接着性樹脂(図示せず)などを用いて、外気との通気口13を有するリッド12をセラミックパッケージ11に固定する。この際、接着性樹脂(図示せず)の硬化加熱時に、接着性樹脂に含まれる物質がガスとなって発生するが、通気口13により容易にパッケージ外へ放出されるため、検出部20,30に影響を与えることはない。
このようにして完成したガスセンサ10Aは、外部端子16を介してコントローラや電源に接続することによって実際に使用することができる。
次に、本実施形態によるガスセンサ10Aの回路構成について説明する。
図3は、ガスセンサ10Aの回路図である。
図3に示すように、本実施形態によるガスセンサ10Aは、バイアス電源41とグランドとの間に直列に接続された第1の固定抵抗51及び薄膜サーミスタTHと、第1電源42とグランドとの間に直列に接続された第1のヒータ抵抗MH1及び第2のヒータ抵抗MH2とを備え、第1の固定抵抗51と薄膜サーミスタTHとの接続点である出力端子43から出力電位Voutが出力される構成を有している。
第1の固定抵抗51は、セラミックパッケージ11内に内蔵しても構わないし、外部抵抗を用いても構わない。例えば、電極パッド38aに対応する外部端子16を出力端子43として用い、この外部端子16をコントローラに接続するとともに、外部に設けられた第1の固定抵抗51を介してバイアス電源41に接続すればよい。また、電極パッド25aに対応する外部端子16を外部の第1電源42に接続し、電極パッド37b,38bに対応する外部端子16を外部のグランド配線に接続し、電極パッド25bと電極パッド37aをセラミックパッケージ11の内部又は外部で短絡すればよい。これにより、図3に示す回路構成を実現することができる。
上述の通り、第1のヒータ抵抗MH1と触媒CTは熱的に結合しており、第2のヒータ抵抗MH2と薄膜サーミスタTHは熱的に結合している。このため、触媒CT上における検出対象ガスの燃焼によって第1のヒータ抵抗MH1が加熱されると、これに応じて第1のヒータ抵抗MH1の抵抗値が変化する。同様に、第2のヒータ抵抗MH2が発熱すると、これに応じて薄膜サーミスタTHの抵抗値が変化する。
図4は、MnNiCo系酸化物からなる薄膜サーミスタTHと白金抵抗体からなる第1のヒータ抵抗MH1の温度特性を示すグラフである。
図4に示すように、白金抵抗体は正の抵抗温度係数を有し、温度に関わらずほぼリニアな抵抗変化を示す。これに対し、MnNiCo系酸化物からなる薄膜サーミスタTHは負の抵抗温度係数を有し、温度が高くなるに従い、急峻に抵抗変化が小さくなる。例えば、0.1degCの温度変化に対する薄膜サーミスタTHの抵抗変化率は、温度が100degCである場合に0.126%であるのに対し、温度が300degCである場合には0.053%に低下する。その反面、加熱温度が低すぎると、環境温度の変化がノイズとなって現れてしまう。このような点を考慮すれば、ガス検知動作時においては、薄膜サーミスタTHを60degCから200degCの範囲に加熱することが好ましい。
図5は、本実施形態によるガスセンサ10Aの動作タイミング図である。
まず、バイアス電源41をグランドレベルGNDからバイアスレベルVbiasに活性化させ、ガスセンサ10Aをイネーブル状態とする。ガスセンサ10Aがイネーブル状態になると、出力端子43に現れる出力電位Voutは、バイアスレベルVbiasを第1の固定抵抗51の抵抗値R1と薄膜サーミスタTHの抵抗値Rd1で分圧したレベルとなる。但し、常温においては薄膜サーミスタTHの抵抗値Rd1が高抵抗状態(例えば2MΩ)であることから、この状態における出力電位VoutはバイアスレベルVbiasの近傍となる。
その後、図5に示すように、第1電源42の電位を周期的にガス検知レベルVmh1に変化させることによってガス検知動作を行う。第1電源42をガス検知レベルVmh1に維持するパルス期間は、例えば数十msec〜数百msec程度で足りる。第1電源42がガス検知レベルVmh1になると、第1のヒータ抵抗MH1及び第2のヒータ抵抗MH2からなる直列回路には、電流i1が流れる。電流i1の値は、
i1=Vmh1/(Rmh1+Rmh2)
で定義される。ここで、Rmh1は第1のヒータ抵抗MH1の抵抗値であり、Rmh2は第2のヒータ抵抗MH2の抵抗値である。本実施形態においては、抵抗値Rmh1とRmh2の関係は、
Rmh1>Rmh2
である。
このため、第1のヒータ抵抗MH1による発熱の方が第2のヒータ抵抗MH2による発熱よりも大きくなる。一例として、
Rmh1:Rmh2=3:1
であれば、第2のヒータ抵抗MH2に対して第1のヒータ抵抗MH1は、3倍の発熱の生じることになる。
その結果、触媒CT及び薄膜サーミスタTHは、それぞれ異なる温度に加熱される。例えば、触媒CTについては300degC程度に加熱され、薄膜サーミスタTHについては100degC程度に加熱される。実際の加熱温度は、触媒CT及び薄膜サーミスタTHに印加すべき温度に応じて、第1及び第2のヒータ抵抗MH1,MH2の抵抗値、並びに、ガス検知レベルVmh1を適宜変更すればよい。触媒CTに印加すべき温度とは、検出対象ガスの燃焼促進に適した温度である。また、薄膜サーミスタTHに印加すべき温度とは、第2のヒータ抵抗MH2による発熱を高感度に検知可能であり、且つ、環境温度の影響を受けにくい温度である。これらの温度は一般に異なる温度であるが、本実施形態によるガスセンサ10Aでは、触媒CT及び薄膜サーミスタTHをそれぞれ異なるヒータ抵抗MH1,MH2によって加熱していることから、それぞれを最適な温度に加熱することができる。
そして、適温に加熱された触媒CTの近傍に検出対象ガスであるCOガスが存在すると、触媒CT上で酸素ガスとの結合反応が生じる。これにより生じる燃焼熱は、ヒータ保護膜24を介して第1のヒータ抵抗MH1をさらに加熱する。図4を用いて説明したように、第1のヒータ抵抗MH1は正の抵抗温度係数を有していることから、燃焼熱によって第1のヒータ抵抗MH1が加熱されると、第1のヒータ抵抗MH1の抵抗値Rmh1が増加する。その結果、電流i1が減少する。
電流i1が減少すると、第2のヒータ抵抗MH2による発熱量が減少するため、薄膜サーミスタTHの温度が低下する。図4を用いて説明したように、薄膜サーミスタTHは負の抵抗温度係数を有していることから、薄膜サーミスタTHの温度が低下するとその抵抗値Rd1が増加する。その結果、出力電位Voutのレベルが上昇する。したがって、第1電源42のパルスに同期して出力電位Voutのレベルを外部のコントローラに取り込むことによって、雰囲気中における検出対象ガスの濃度を検出することが可能となる。
このようなガス検知動作は、図5に示すように間欠的に行われる。測定周期、つまり、第1電源42のレベルをガス検知レベルVmh1に変化させる周期は、アプリケーションに応じて適宜設定すればよいが、例えば数百msec〜数sec程度である。
ガス検知動作を繰り返し実行すると、触媒CTが炭素やシリコン等で被毒されて触媒CTの燃焼促進効果が低下することがある。これを防止するためには、触媒CTに吸着された炭素やシリコン等を脱離させるリフレッシュ動作を行う必要がある。リフレッシュ動作は、図5に示すように、第1電源42のレベルをリフレッシュレベルVmh2に変化させることにより行う。ここで、ガス検知レベルVmh1とリフレッシュレベルVmh2との関係は、
Vmh1<Vmh2
である。したがって、第1電源42をリフレッシュレベルVmh2に変化させると、電流i1はガス検知動作時よりも大きくなり、第1のヒータ抵抗MH1の発熱がより大きくなる。これにより、触媒CTがより高温に加熱されるため、触媒CTに吸着されていた炭素やシリコン等を脱離させることができる。リフレッシュ動作時における触媒CTの温度は例えば400degCである。この場合、触媒CTが400degCに加熱されるよう、リフレッシュレベルVmh2を設定すればよい。
リフレッシュ動作時においては、ガス検知動作時に比べて電流i1が増加することから、第2のヒータ抵抗MH2の発熱も増加し、薄膜サーミスタTHがガス検知動作時よりも高温に加熱される。しかしながら、第2のヒータ抵抗MH2の抵抗値Rmh2は、第1のヒータ抵抗MH1の抵抗値Rmh1よりも低いことから、薄膜サーミスタTHが触媒CTと同じ温度に加熱されることはない。例えば、リフレッシュ動作時において触媒CTが400degCに加熱される場合、薄膜サーミスタTHの温度は150degC程度に抑えられる。このように、リフレッシュ動作時においても、薄膜サーミスタTHが触媒CTと同じ高温に晒されることないため、薄膜サーミスタTHの経時変化を抑制することが可能となる。
図6は、薄膜サーミスタTHの温度と抵抗値の経時変化との関係を説明するためのグラフであり、薄膜サーミスタTHの材料としてMnNiCo系酸化物を用いた場合を示している。
図6に示すように、MnNiCo系酸化物からなる薄膜サーミスタTHは、加熱温度が150degCであれば1000時間が経過しても抵抗値の経時変化は、0.1%以下であるが、加熱温度が300degCでは3%以上の抵抗値の経時変化が生じている。つまり、ガス検知動作時において薄膜サーミスタTHを触媒CTと同じ温度(300degC)に加熱すると無視できない経時変化が生じるのに対し、本実施形態においては、ガス検知動作時における薄膜サーミスタTHの加熱温度が100degC程度に抑えられることから、経時変化を抑制することが可能となる。
以上説明したように、本実施形態によるガスセンサ10Aは、触媒CTを加熱する第1のヒータ抵抗MH1と、薄膜サーミスタTHを加熱する第2のヒータ抵抗MH2を備えていることから、触媒CT及び薄膜サーミスタTHをそれぞれ最適な温度に加熱することができる。これにより、薄膜サーミスタTHの経時変化を抑制することが可能となる。また、第1のヒータ抵抗MH1と第2のヒータ抵抗MH2が直列に接続されていることから、検出対象ガスの燃焼によって第1のヒータ抵抗MH1の抵抗値Rmh1が変化すると、第2のヒータ抵抗MH2の発熱量が変化することから、薄膜サーミスタTHの抵抗値Rd1も変化する。ここで、薄膜サーミスタTHの抵抗温度係数は、第1のヒータ抵抗MH1を構成する白金抵抗体よりも十分に大きいことから、出力端子43に現れる出力電位Voutを大きく変化させることができ、検出感度を高めることができる。
<第2の実施形態>
図7は、本発明の第2の実施形態によるガスセンサ10Bの回路図である。
図7に示すように、第2の実施形態によるガスセンサ10Bは、第1のヒータ抵抗MH1と第2のヒータ抵抗MH2との間に第1のスイッチSW1が設けられている。第1のスイッチSW1の接続状態は、制御端子44から入力される切替信号Col1によって切り替えられる。その他の構成は、上述した第1の実施形態によるガスセンサ10Aと同一であることから、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
第1のスイッチSW1は、ノードN1〜N3を有している。そして、切替信号Col1が第1のレベル(例えばハイレベル)になるとノードN1とN2が接続される第1の接続状態となり、切替信号Col1が第2のレベル(例えばローレベル)になるとノードN1とN3が接続される第2の接続状態となる。尚、第1のスイッチSW1は、セラミックパッケージ11内に収容しても構わないし、外部回路を用いても構わない。外部回路を用いる場合、電極パッド25bに対応する外部端子16と電極パッド37aに対応する外部端子16との間に第1のスイッチSW1を挿入すればよい。
ガス検知動作時においては、切替信号Col1が第1のレベルに設定され、これにより第1のスイッチSW1は、ノードN1とN2が接続される第1の接続状態となる。この状態は、上述した第1の実施形態と同じ接続状態であり、したがって、上述したガス検知動作を行うことができる。
一方、リフレッシュ動作時においては、切替信号Col1が第2のレベルに設定され、これにより第1のスイッチSW1は、ノードN1とN3が接続される第2の接続状態となる。これにより、第1のヒータ抵抗MH1と第2のヒータ抵抗MH2が切り離され、第1のヒータ抵抗MH1の一端はグランドに直接接続されることになる。この状態で、第1電源42をリフレッシュレベルVmh2に設定すれば、薄膜サーミスタTHを加熱することなく、触媒CTだけを選択的に加熱することができる。
このように、本実施形態によるガスセンサ10Bは、リフレッシュ動作時において薄膜サーミスタTHに熱負荷がかからないことから、上述した第1の実施形態によるガスセンサ10Aによる効果に加え、薄膜サーミスタTHの経時変化をよりいっそう抑制することが可能となる。しかも、リフレッシュ動作時においては、リフレッシュレベルVmh2を第1の実施形態よりも低く設定することができ、消費電力の低減にも寄与する。
<第3の実施形態>
図8は、本発明の第3の実施形態によるガスセンサ10Cの回路図である。
図8に示すように、第3の実施形態によるガスセンサ10Cは、第1のスイッチSW1がノードN1,N2,N4を備え、ノードN4が第2電源45に接続されている。その他の構成は、上述した第2の実施形態によるガスセンサ10Bと同一であることから、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
第1のスイッチSW1は、切替信号Col1が第1のレベル(例えばハイレベル)になるとノードN1とN2が接続される第1の接続状態となり、切替信号Col1が第2のレベル(例えばローレベル)になるとノードN2とN4が接続される第3の接続状態となる。
切替信号Col1は、COガスなどを対象とした接触燃焼式検知を行う際には第1のレベルに設定され、CO2ガスなどを対象とした熱伝導式検知を行う際には第2のレベルに設定される。まず、切替信号Col1が第1のレベルに設定されると、第1のスイッチSW1は、ノードN1とN2が接続される第1の接続状態となる。この状態は、上述した第1及び第2の実施形態と同じ接続状態であり、したがって、上述したガス検知動作を行うことができる。
一方、切替信号Col1が第2のレベルに設定されると、第1のスイッチSW1は、ノードN2とN4が接続される第3の接続状態となる。これにより、第2のヒータ抵抗MH2には、第2電源45からガス検知電位Vmh3が供給され、電流i2が流れる。電流i2の値は、ガス検知電位Vmh3のレベルと第2のヒータ抵抗MH2の抵抗値によって決まり、第1のヒータ抵抗MH1の抵抗値とは無関係である。
第2のヒータ抵抗MH2に電流i2が流れると、これに応じて薄膜サーミスタTHが加熱され、出力端子43には所定レベルの出力電位Voutが現れる。そして、雰囲気中のCO2ガス濃度が変化すると、薄膜サーミスタTHの放熱特性が変化するため、薄膜サーミスタTHの温度が変化し、これに応じて出力電位Voutのレベルも変化する。
つまり、CO2ガスは、大気の大部分を構成するN2ガス(窒素ガス)やO2ガス(酸素ガス)に比べて熱伝導率が低いことから、雰囲気中のCO2ガス濃度が高くなるほど薄膜サーミスタTHの放熱性が低下し、薄膜サーミスタTHの温度が上昇する。これにより、薄膜サーミスタTHの抵抗値が低下することから、出力端子43に現れる出力電位Voutのレベルも低下する。したがって、切替信号Col1を第2のレベルに設定した状態で出力電位Voutのレベルをコントローラに取り込むことによって、雰囲気中のCO2ガスの濃度を検出することが可能となる。
このように、本実施形態によるガスセンサ10Cは、上述した第1の実施形態によるガスセンサ10Aによる効果に加え、1つの薄膜サーミスタTHによって2種類のガスの濃度を検知することが可能となる。熱伝導式検知が可能なガスとしては、CO2ガスの他、エタノール、酢酸などが挙げられる。また、雰囲気中の水分によっても薄膜サーミスタTHの放熱特性が変化することから、湿度の測定も可能である。
<第4の実施形態>
図9は、本発明の第4の実施形態によるガスセンサ10Dの回路図である。
図9に示すように、第4の実施形態によるガスセンサ10Dは、第1のスイッチSW1がノードN1〜N5を備えている点において、上述した第2及び第3の実施形態によるガスセンサ10B,10Cと相違している。その他の構成は、上述した第2及び第3の実施形態によるガスセンサ10B、10Cと同一であることから、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
第1のスイッチSW1は2連スイッチであり、切替信号Col1が第1のレベル(例えばハイレベル)になるとノードN1とN2が接続されるとともに、ノードN3とN5が接続され、切替信号Col1が第2のレベル(例えばローレベル)になるとノードN1とN3が接続されるとともに、ノードN2とN4が接続される。
これにより、COガスなどの可燃性ガスを接触燃焼式で検知する場合には、切替信号Col1を第1のレベルに設定し、リフレッシュ動作を行う場合、並びに、CO2ガスなどを熱伝導式で検知する場合には、切替信号Col1を第2のレベルに設定すればよい。
したがって、本実施形態によるガスセンサ10Dは、第2の実施形態によるガスセンサ10Bによる効果と、第3の実施形態によるガスセンサ10Cによる効果の両方を得ることができる。
<第5の実施形態>
図10は、本発明の第5の実施形態によるガスセンサ10Eの回路図である。
図10に示すように、第5の実施形態によるガスセンサ10Eは、第1の固定抵抗51に対して並列に接続された第2の固定抵抗52と、第1及び第2の固定抵抗51,52と薄膜サーミスタTHとの間に接続された第2のスイッチSW2を備える点において、上述した第4の実施形態によるガスセンサ10Dと相違している。その他の構成は、上述した第4の実施形態によるガスセンサ10Dと同一であることから、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
第1の固定抵抗51の抵抗値R1と第2の固定抵抗52の抵抗値R2との関係は、
R1<R2
に設定される。ここで、抵抗値R1はガス検知動作時における薄膜サーミスタTHの抵抗値Rd1と概ね同レベルに設定され、抵抗値R2はキャリブレーション動作(後述)時における薄膜サーミスタTHの抵抗値Rd1と概ね同レベルに設定される。つまり、ガス検知動作時においては、薄膜サーミスタTHが第2のヒータ抵抗MH2によって加熱されるため、その抵抗値は例えば数百kΩ程度となる。したがって、第1の固定抵抗51の抵抗値R1については、例えば数百kΩ程度に設定すればよい。これに対し、キャリブレーション動作時においては、薄膜サーミスタTHが常温であり、その抵抗値は例えば数MΩ程度となる。したがって、第2の固定抵抗52の抵抗値R2についても例えば数MΩ程度に設定すればよい。
キャリブレーション動作とは、第2のヒータ抵抗MH2による加熱を停止した状態で薄膜サーミスタTHによる温度測定を行うことにより環境温度を測定する動作であり、環境温度と出力電位Voutのレベルの関係を定期的に検証することによって、薄膜サーミスタTHの経時変化による出力電位Voutのレベルのずれを算出する動作である。実際の算出動作は、外部のコントローラによって行われる。
第2のスイッチSW2は、ノードN6〜N8を有している。そして、切替信号Col2が第1のレベル(例えばハイレベル)になるとノードN6とN7が接続される第4の接続状態となり、切替信号Col2が第2のレベル(例えばローレベル)になるとノードN6とN8が接続される第5の接続状態となる。第2のスイッチSW2は、セラミックパッケージ11内に収容しても構わないし、外部回路を用いても構わない。
ガス検知動作時においては、切替信号Col2が第1のレベルに設定され、これにより第2のスイッチSW2は、ノードN6とN7が接続される第4の接続状態となる。この状態は、上述した第1〜第4の実施形態と同じ接続状態であり、第1の固定抵抗51の抵抗値R1と薄膜サーミスタTHの抵抗値Rd1がほぼ同レベルとなることから、検出対象ガスの濃度を高感度に検出することができる。
一方、キャリブレーション動作時においては、切替信号Col2が第2のレベルに設定され、これにより第2のスイッチSW2は、ノードN6とN8が接続される第5の接続状態となる。これにより、薄膜サーミスタTHが第2の固定抵抗52に接続されるとともに、その抵抗値Rd1が第2の固定抵抗52の抵抗値R2とほぼ同レベルとなることから、環境温度を高感度に検出することができる。
このように、本実施形態によるガスセンサ10Eは、上述した第4の実施形態によるガスセンサ10Dによる効果に加え、環境温度を高感度に測定することが可能となる。
<第6の実施形態>
図11は、本発明の第6の実施形態によるガスセンサ10Fの構成を説明するための上面図である。
図11に示すように、第6の実施形態によるガスセンサ10Fは、同じ基板60上に2つの検出部20,30が集積されている点において、上述した第1の実施形態によるガスセンサ10Aと相違している。その他の構成は、第1の実施形態によるガスセンサ10Aと同一であることから、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
基板60には、検出部20,30が隣接して配置されている。そして、平面視で検出部20,30と重なる部分には、共通のキャビティ60aが設けられており、これによって基板60の熱容量が低減されている。
このように、本実施形態によるガスセンサ10Fは、同じ基板60上に2つの検出部20,30を形成していることから、部品点数の削減やガスセンサ全体の小型化を実現することが可能となる。尚、本実施形態においては、同じ基板60上で検出部20,30が隣接することから、両者間における熱干渉が懸念されるが、図5を用いて説明したように、第1電源42の波形はパルス状であり、パルス期間が非常に短い(例えば数十msec〜数百msec程度)ことから、実際にはほとんど熱干渉は生じない。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
例えば、上述した各実施形態においては、第1のヒータ抵抗MH1の抵抗値Rmh1が第2のヒータ抵抗MH2の抵抗値Rmh2よりも高い場合を例に説明したが、本発明がこれに限定されるものではない。
また、上述した各実施形態においては、感熱抵抗素子として薄膜サーミスタTHを用いているが、本発明においてサーミスタが薄膜構成であることは必須でない。
図1及び図2に示したガスセンサ10Aを実際に作製し、COガスの濃度変化に応じて第2のヒータ抵抗MH2に印加される電圧、電流i1及び薄膜サーミスタTHの抵抗値Rd1がどのように変化するのか測定を行った。具体的には、Air(純空気)雰囲気中にCO(一酸化炭素)ガスを間欠的に混入させ、その際に得られる各種値の変化を測定した。測定の結果を図12に示す。
図12(a)は、ガス検知レベルVmh1及び第2のヒータ抵抗MH2に印加される電圧VMH2の変化を示すグラフであり、図12(b)は、電流i1及び薄膜サーミスタTHの抵抗値Rd1の変化を示すグラフであある。図12(a)及び(b)の時間軸は同期しており、いずれも期間T2においてCOガス濃度を100ppmとし、期間T4においてCOガス濃度を300ppmとしている。他の期間T1,T3,T5におけるCOガス濃度はゼロである。
また、第1のヒータ抵抗MH1及び第2のヒータ抵抗MH2の常温における抵抗値は、いずれも約150Ωに設定した。第1のヒータ抵抗MH1と第2のヒータ抵抗MH2の抵抗値を同じ値としたのは、COガスの検知が可能であることを簡易的に示すためであり、本発明がこれに限定されないことは言うまでもない。
図12(a)に示すように、ガス検知レベルVmh1は約3.5Vに固定されており、これにより、第1のヒータ抵抗MH1及び第2のヒータ抵抗MH2は、いずれも約200degCに加熱される。このため、触媒CT及び薄膜サーミスタTHも同様の温度で加熱されることになる。
期間T1,T3,T5においては、COガス濃度がゼロであることから、それぞれの値に変化はない。そして、期間T2においてCOガス濃度が100ppmになると、触媒CTの燃焼熱により第1のヒータ抵抗MH1が加熱され、その抵抗値が大きくなる。その結果、電流i1が減少し、第2のヒータ抵抗MH2に印加される電圧VMH2が低下する。これにより、第2のヒータ抵抗MH2による発熱量が減少することから、薄膜サーミスタTHの抵抗値Rd1が上昇する。本実施例では、抵抗値Rd1が約22015Ωから約22040Ωに変化している。このような抵抗値Rd1の上昇は、出力電位Voutのレベル上昇となって現れる。
さらに、期間T4においてCOガス濃度が300ppmになると、触媒CTの燃焼熱が増加することから第1のヒータ抵抗MH1がより加熱され、その抵抗値がより大きくなる。その結果、電流i1がさらに減少し、第2のヒータ抵抗MH2に印加される電圧VMH2がさらに低下する。これにより、第2のヒータ抵抗MH2による発熱量がさらに減少することから、薄膜サーミスタTHの抵抗値Rd1がさらに上昇する。本実施例では、抵抗値Rd1が約22015Ωから約22090Ωに変化している。このような抵抗値Rd1の上昇は、出力電位Voutのレベル上昇となって現れる。
このように、ガスセンサ10Aを用いれば、COガス濃度に応じて薄膜サーミスタTHの抵抗値Rd1が明確に変化することが確認された。抵抗値Rd1の変化をCOガスに対する薄膜サーミスタTHの感度に置き換えると、約20μV/ppmとなる。本実施例では、第1のヒータ抵抗MH1と第2のヒータ抵抗MH2の抵抗値が同じ値であるため、薄膜サーミスタTHが触媒CTと同じ約200degCに加熱されているが、薄膜サーミスタTHの加熱温度が約100degCとなるよう、第2のヒータ抵抗MH2の抵抗値を設定すれば、COガスに対する薄膜サーミスタTHの感度は、約50%向上するものと予想される。