JP2018169389A - 貴金属元素の定量方法 - Google Patents
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Abstract
Description
特開2002−372518号公報(特許文献1)には、難融解性の白金族元素であるRh、Os、IrおよびRuを含む測定試料をニッケル粉、硫黄粉、炭酸ナトリウム、ホウ砂及びケイ砂等と混合して坩堝内で加熱融解し、得られた硫化ニッケルボタンに塩酸を加えて加温溶解し、濾別して沈澱を採取し、その沈澱をテルル共存下で塩酸、硝酸及び過酸化水素水を用いて溶解し、得られた水溶液中の貴金属元素濃度を誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)で測定する技術(NiSマット法)が開示されている。
特開2009−128315号公報(特許文献2)には、固体試料に分離処理することなくNa化合物を用いてアルカリ融解し、その融解物を水により加熱浸出し、さらに塩酸を加えて再度加熱溶解した後、得られた水溶液中の貴金属元素濃度をICP−MSにより測定する技術、および、その測定に適したICP−MS装置が開示されている。
乾式試金法では、処理に2日程度の長時間を要する上に、白金族元素が鉛ボタンに完全には吸収されず、またRuやOsが一部酸化物で揮散するため、前記の貴金属元素を一度の処理により一括して捕集することは困難であった。また、乾式試金法の場合には大型の電気炉を必要とする等、作業環境の面でも問題があった。
NiSマット法の場合には、前記の乾式試金法程ではないが、貴金属元素の捕集のための試料の前処理に長時間を要し、大型の電気炉を必要とする等の問題点は乾式試金法と同様である。
特許文献2に開示された定量方法の場合には、貴金属元素の分離のための前処理を行わず、測定試料を直接アルカリ融解するため、試料によっては融解が不十分となる場合があり、また、得られる測定溶液は、アルカリ融解に使用するNa塩を大量に含むことになり、そのNa塩の存在が定量分析の段階で各種の干渉を起こすという欠点があった。
しかし、この技術の場合、加熱温度が1153℃以下と低いため、高融点の白金族元素とFeの合金化に時間がかかるという問題があった。例えば、特許文献3の実施例1では、加熱時間を3時間または6時間とし、得られた合金粉末を塩酸溶液中に懸濁させて塩素化処理を5時間行っている。
[固体試料(対象試料)]
本発明の貴金属元素の定量方法の対象となるのは、前記の様に三元触媒を含むスクラップや、非鉄精錬工程での中間生成物、半導体の製造時に用いられるターゲットやその治具の廃材等、1種または2種以上の種類の貴金属元素を含む固体状態の試料であり、例えば1質量ppm程度から数10質量%程度の貴金属元素を含有するものである。また、対象試料は前記貴金属元素以外に、W、Ti、Cu、Fe、Al等の金属元素、非金属元素などを含んでもよい。
本発明において貴金属元素とは、金(Au)と白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、オスミウム (Os)およびルテニウム(Ru)の白金族元素(金属)を指す。ここでRh、Ir、OsおよびRuは王水に溶解し難いことから、難溶性白金族元素と呼ばれているが、これらの貴金属元素は酸化物の状態で存在することも多い。
Niは、カプセル、板(箔)、塊、または粉末等の形態のものを使用することができる。また、Niの純度は、前記の貴金属元素を含まなければ、98質量%程度の純度のものでも構わないが、99質量%以上の純度の高いものを使用するのが好ましい。なお、ここでNiカプセルとは、鉄鋼材料中の微量気体成分の定量分析等に用いられる、Niを容器状に成型したものを指す。
本発明においてNiは錫(Sn)とともに溶融し、固体試料中に含有される貴金属元素を固溶等の現象を利用し、合金化して抽出するために用いる。Niを単独で用いても貴金属元素を抽出することは可能であるが、その場合、後述するグラファイト容器と反応して難溶解性のNi炭化物が生成し易く、凝固物の取り出しが困難になることがあるので、Niを単独で用いることは好ましくない。
本発明の定量方法において、Niの添加量は貴金属元素を十分に融解するために、質量比で固体試料の0.5〜50倍程度、さらには1〜25倍程度であることが好ましく、Niと後述するSnとの合計の添加量として、質量比で固体試料の1〜100倍程度、さらには2〜50倍程度であることが好ましい。また、凝固物の溶解完了に必要な時間を考慮すると、Ni:Sn比で1〜10:10とすることが好ましく、より好ましくは2〜10:10、さらには4〜10:10とするのが好ましい。
Snは、カプセル、板(箔)、塊、または粉末等の形態のものを使用することができる。また、Sn純度は、前記の貴金属元素を含まなければ、98質量%程度の純度のものでも構わないが、99質量%以上の純度の高いものを使用するのが好ましい。なお、ここでSnカプセルとは、微量有機物質の定量分析等に用いられる、Snを容器状に成型したものを指す。
本発明においてSnはNiとともに溶融し、固体試料中に含有される貴金属元素を固溶等の現象を利用し、合金化して抽出するために用いる。Snを単独で用いても貴金属元素を抽出することは可能であるが、その場合、溶融物を室温まで冷却した際に、Au以外の貴金属元素がSnと相分離を起こし、Sn固体中で粗大粒子化する傾向があり、後述する溶解工程において酸への溶解速度が低下し、貴金属元素の回収効率が低下するので、Snを単独で用いることは好ましくない。
本発明の定量方法において、Snの添加量は貴金属元素を十分に融解するために、質量比で固体試料の0.5〜50倍程度、さらには1〜25倍程度であることが好ましく、SnとNiの合計の添加量として、前述の様に、質量比で固体試料の1〜100倍程度、さらには2〜50倍程度であることが好ましい。
本発明の貴金属元素の定量方法では、グラファイト容器に貴金属元素を含有する固体試料とNiとSnとを入れ、所定の加熱温度で加熱することにより貴金属元素、NiおよびSnを融解して合金化する。
本発明においてグラファイト容器を使用することには、幾つかの理由がある。すなわち本発明の場合、貴金属元素とNiおよびSnを合金化するための加熱温度が高いので、耐熱性に優れたグラファイト容器を使用する。
また、前記の難溶性白金族元素が酸化物の状態で存在する場合には、高温で加熱した際に、グラファイト容器自体が還元剤として作用し、酸化物を金属状態まで還元することができる。難溶性白金族元素の酸化物は、そのままではNiおよびSnとの合金化がほとんど進行せず、合金を得るためには還元して金属状態にする必要があると考えられる。
なお、本発明において測定対象が廃触媒の場合には、主成分がアルミナ、シリカ、マグネシア、ジルコニア、セリア等の酸化物のものもあるが、このような酸化物主体の試料の場合にも、触媒を構成する酸化物がグラファイトにより全て還元され、NiおよびSnと合金化する。
さらに、合金化のための加熱を高速で実施可能な後記のインパルス加熱で行う場合には、導電性を有するグラファイト容器(坩堝)を使用する必要がある。
なお、前述の様に、貴金属元素を抽出するための金属としてNiのみを用いると、グラファイト容器それ自体がNiと反応し、Niの炭化物が生成するが、抽出金属をNiおよびSnまたはSnのみとした場合には、金属炭化物の生成は起こり難い。
また、本発明の貴金属元素の定量方法においては、貴金属元素の抽出金属として比較的融点の低いSnを含む合金を用いるので、Snの蒸発による飛散が起こり易いので、グラファイト容器としては蓋付きのものを使用することが好ましい。
[融解(合金化)]
本発明の貴金属元素の定量方法においては、貴金属元素を含有する固体試料とNiとSnをグラファイト容器に入れた後、当該試料を所定の加熱温度に加熱して行う。
加熱温度は1800℃以上、より好ましくは1900℃以上、さらに好ましくは2000℃以上である。なお、ここで加熱温度とは(試料の加熱温度とほぼ同じと推測される)グラファイト容器(グラファイト坩堝)の温度を意味する。貴金属元素とNiおよびSnとの合金化、および、容器(坩堝)を構成するグラファイト(カーボン:C)による貴金属元素酸化物および試料が廃触媒などの場合は触媒を構成するSiやAlの酸化物等の還元反応を迅速に行わせるためには、高温で加熱することが好ましい。また加熱温度が低すぎると、貴金属元素によっては(例えばRh、Pd、Ptなど)回収率が悪くなる場合が考えられる。
本発明においては、合金化のための加熱温度の上限は特に規定するものではないが、加熱温度が高くなると試料が飛散する場合があり、また容器(坩堝)を構成するグラファイト(カーボン:C)がNiと反応して炭化物を形成し易くなるので、2600℃以下とすることが好ましく、2500℃以下とすることがさらに好ましい。
前記加熱温度における保持時間は、前記の貴金属元素酸化物および試料が廃触媒などの場合は触媒を構成するSiやAlの酸化物の還元および還元により生成した金属とNiおよびSnとの合金化を完全にするために、1分以上60分以下であることが好ましい。なお、保持時間が長時間になると定量操作に要する時間が長くなるので、10分以下、さらには5分以下としてもよい。
前記の貴金属元素とNiおよびSnの合金化のための加熱は、インパルス加熱により行うことが好ましい。本発明のインパルス加熱とは、グラファイト坩堝に直接通電してそれ自体を発熱体とする加熱方法で、数秒で所定の加熱温度(例えば1350℃〜2600℃程度)まで昇温することができる。例えばJIS G1239:2014「鉄及び鋼−酸素定量方法−不活性ガス融解−赤外線吸収法」では以下の様に定義されている。
「3.9 インパルス加熱
黒鉛坩堝に直接通電し、坩堝を数秒間で2000−2800℃に昇温する加熱方式。
3.10 インパルス炉
固定された上部水冷銅電極及び上下に移動ができる下部水冷銅電極で構成し、両電極の間に挟んだ黒鉛坩堝のインパルス加熱が可能な炉。」
インパルス加熱を用いると、短時間で合金化温度まで昇温することが可能となるので、貴金属元素の定量に要する時間を大幅に短縮することができる。なお、市販のインパルス炉の場合、グラファイト坩堝を2500℃以上(3400℃程度)まで加熱することが可能である。また、インパルス炉の場合、黒鉛(グラファイト)坩堝が水冷電極で冷却されているので、加熱保持温度から室温までの冷却速度が非常に大きいのも特徴である。
本発明の貴金属元素の定量方法においては、貴金属元素とNiおよびSnとの合金化のための加熱は、前記の難溶性白金族元素の酸化を防止するために、非酸化性の雰囲気下で行う。非酸化性雰囲気とするために、炉内をHe、Ar、窒素等の不活性ガスでパージするが、合金との反応性の低いHeまたはArを用いることが好ましい。
本発明の貴金属元素の定量方法においては、前記の加熱により融解した試料を所定の加熱温度で一定時間保持した後、加熱温度から室温(1〜30℃)まで冷却して凝固させ凝固物(合金等)を得る。この場合、Niとグラファイト容器の反応がほとんど起こらないので、冷却速度は特に規定されず、徐冷(冷却速度0.5℃/秒〜2.5℃/秒程度)および急冷(冷却速度10℃/秒〜50℃/秒程度)のいずれでも構わない。
前記までの工程で得られた貴金属元素とNiとSnとの合金が凝固した凝固物をグラファイト容器から取り出し、王水で不溶性残渣を残して凝固物を完全に溶解する。このとき溶解を容易にするため、好ましくは100〜200℃に加温して10〜240分かけて溶解を実施する。
なお、本発明の貴金属元素の定量方法では、前記の王水溶解速度を速めるために、適当な粉砕手段を用いて、凝固物を粉砕しても構わない。なお、貴金属元素含有試料にNiを単独で添加した場合は、グラファイト容器と反応して難溶解性のNi炭化物が生成し易く、凝固物の取り出しが困難になることがあり、また凝固物とともにグラファイト容器に付着した成分を集めるためにグラファイト容器ごと粉砕した後に溶解する必要があり、粉砕の手間や時間が必要となる。よって本発明ではNiとSnの両元素を添加する。
また、本発明の貴金属元素の定量方法では、貴金属元素の回収効率(分析精度)を向上させるために、グラファイト容器の内壁面および蓋付きの場合には蓋の内壁面を王水で酸洗いし、その洗浄液を前記の凝固物の溶解液に加えることが好ましい。
凝固物を王水で溶解した後、ろ過などで固液分離し、得られた貴金属元素を含む王水の水溶液を供試試料として、希釈・定容等の操作の後、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)や誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)等の分析装置を用いて、貴金属元素量を定量する。定量操作に当たっては、検量線法または内部標準法を用いることが出来る。なお、固体試料中の貴金属元素の含有量が少ない場合には、分析装置として分析感度の高いICP−MSを用いることが好ましい。
供試試料の定量分析は以下の手順で行った。
試料の秤量→NiおよびSnの添加→融解→冷却→(凝固物の粉砕)→王水で酸溶解(坩堝の酸洗を含む)→濾過→定容→希釈→ICP−AES測定、もしくは、ICP−MS測定。
本発明の貴金属元素の定量法による貴金属元素の回収率(%)を、以下の手順で確認した。
[供試試料]
Au(添川理化学株式会社製、純度99.99%以上)、Pt(エコシステムリサイクリング株式会社製、純度99.9%)、Pd(小島化学薬品株式会社製、純度99.9%)、Rh(和光純薬工業株式会社製、純度99.9%)、Ir(株式会社フルヤ金属社製、純度99.9307%)およびRu(エコシステムリサイクリング株式会社、純度98.63%)の6元素の標準物質を用い、模擬的な供試試料(固体試料)を作製した。これらの標準物質について、それぞれ表1の実施例1〜3および比較例1、2に示される量を秤量し、蓋付きのグラファイト坩堝に入れ、供試試料とした。
[NiおよびSnの添加]
実施例1〜3の場合には、Niカプセルに供試試料を添加し、Niカプセルの口を閉じた後、これをSnペレットとともにグラファイト坩堝に添加した。比較例1ではNiカプセルに供試試料を添加し、さらにもう一つのNiカプセルをつぶしたものとともにグラファイト坩堝に添加した。比較例2ではSnカプセルに供試試料を添加し、Snペレットとともにグラファイト坩堝に添加した。すなわち、比較例1は貴金属元素の抽出金属がNiのみの場合、比較例2はSnのみの場合である。
供試試料とNiおよびSnを融解するため加熱炉としてインパルス炉を使用した。インパルス炉は酸素・窒素・水素分析装置(LECO社製ONH836)に備えられたものを用いた。加熱温度については、坩堝への印加電力と坩堝の温度の関係を図1の曲線に示すように予め求めておき、実際の操作では印加電力を変更することで加熱温度を設定した。なお、図1はLECO社の装置マニュアルに記載されたものを引用している。
上記グラファイト(黒鉛)坩堝には、上記酸素・窒素・水素分析装置用の二重坩堝(LECO社製;Part No. 780-890(アウター用)、780-892(カバー)、775-431(インナー用))を用いた。
各供試試料について、印加電力4000W(約2040℃:坩堝の温度、以下同じ。)でHeガス雰囲気下、180s(秒)間加熱した後、急冷した。
なお、融解の際の酸素発生ピークを観察したところ、Niのみの場合には0〜60s(秒)に、Snのみの場合には0〜90s(秒)に、NiおよびSnの場合には0〜100s(秒)にピークが現れ脱酸素を確認できたので、180s(秒)で融解時間は十分と考えられる。
[溶解、定量分析]
その後凝固物(合金)を坩堝から取り出し、王水(体積比で硝酸:塩酸=1:3)に凝固物を入れ約190℃まで加温し240分間かけて溶解し、室温まで冷却した後、ろ紙(No.5A)を用いてろ過を行い、ろ液をメスフラスコで定容、希釈操作を経てICP−AESを用いて各貴金属元素(成分)特有の波長を用いて定量した。なお、比較例1のみNiとグラファイト坩堝が反応して凝固物を坩堝から取り出すことが出来なかったため、凝固物を坩堝ごと粉砕した後に定量分析の操作を行った。
[誘導結合プラズマ発光分光分析;ICP−AES]
ICP−AES(株式会社日立ハイテクサイエンス社製(型式SPS5100))を用い、JIS K0116:2014「発光分光分析通則」に従い、誘導結合プラズマ発光分光分析による貴金属元素の定量分析を行った。
各元素の回収率は以下の式で求めた。
回収率(%)=(定量分析値から算出した供試試料中の貴金属元素量(g)÷秤量した供試試料中の貴金属元素量(g))×100
測定結果を表1に併せて示す。
本発明の実施例の場合、各元素の回収率は96.0〜102.6%であり、極めて良好な結果が得られた。
金属元素の抽出金属がNiのみの比較例1の場合、各元素の回収率は94.4〜99.0%と良好であったが、Niとグラファイト坩堝が反応して凝固物を坩堝から取り出すことが出来なかったため、凝固物を坩堝ごと粉砕した後に定量分析の操作を行う必要があった。
金属元素の抽出金属がSnのみの比較例2の場合、Auを除く貴金属元素は、240min間加温溶解しても完全に溶解しないため、回収率が26.4〜81.7%になった。比較例2で得られた凝固物の断面を波長分散型X線分析装置(WDX)で観察したところ、Auは凝固物内に均一に分布していたが、他の貴金属元素は局所的に偏在していることが観察された。
本発明の貴金属の定量法に用いるNi:Snの質量比が、凝固物の酸溶解完了時間に及ぼす影響を検討した。
[供試試料]
Rh、PdおよびPtをそれぞれ数100ppm〜数1000ppm担持した廃触媒の粉末を供試試料とした。廃触媒の主成分はアルミナ、シリカ、マグネシア、ジルコニア、セリア等の酸化物(それぞれ数%〜数10%)である。
[NiおよびSnの添加]
実施例4〜12の場合には、Snカプセルに供試試料を添加し、Ni粉末およびSn粉末とともにグラファイト坩堝に添加した。比較例3ではNiカプセルに供試試料を添加しグラファイト坩堝に添加した。比較例4ではSnカプセルに供試試料を添加し、Sn粉末とともにグラファイト坩堝に添加した。
NiとSnの添加量は表2に示す。
[融解、冷却]
インパルス炉の出力を5000W(約2280℃)とした以外は、前記の実施例1〜3と同じ条件で試料を融解した。
[溶解、定量分析]
その後坩堝から取り出した凝固物(合金)を王水に入れて約190℃まで加温して溶解し、また坩堝(蓋を含む)も同様に加温した王水に入れて酸洗いし、これらの貴金属を含む王水を合わせて室温まで冷却した後、ろ紙(No.5A)を用いてろ過を行い、また定量分析をICP−MSにより行った以外は、前記の実施例1〜3と同じ条件で溶解、定量分析を実施した。
[誘導結合プラズマ質量分析;ICP−MS]
ICP−MS(アジレント・テクノロジー社製(型式Agilent7900ICP−MS))を用い、誘導結合プラズマ質量分析による貴金属元素の定量分析を行った。定量に用いた各元素の質量数は103Rh、105Pdおよび195Ptであり、定量に際しては内部標準法を用いた。
[凝固物の溶解完了時間]
凝固物の溶解完了に必要な時間は、凝固物から泡が発生しなくなった時点を終了時間と判断して判定した。
[貴金属元素の回収率]
参考例として、実施例4〜12と同一の供試試料について、NiSマット法を用いて貴金属元素濃度を測定し、得られた貴金属元素濃度から供試試料中の各貴金属元素量を算出したものを100%とした本実施例の貴金属元素の回収率を求めた。
各元素の回収率は以下の式で求めた。
回収率(%)=(定量分析値から算出した供試試料中の貴金属元素量(g)÷NiSマット法で測定し算出した供試試料中の貴金属元素量(g))×100
得られた溶解時間と貴金属元素の回収率を表2に示す。本実施例の場合、溶解完了に必要な時間はいずれも240min以内であった。
また、実施例4〜12のRhの回収率は90.4〜96.5%、Pdの回収率は96.3〜101.9%、Ptの回収率は93.5〜95.5%であり、定量分析に適用できるレベルと考えられる。実施例からは、Snの量(質量)10に対してNiの量(質量)を4〜10とする比で添加するのがより好ましいと考えられる。
一方、比較例3のRhの回収率は67.1%、Pdの回収率は93.3%、Ptの回収率は71.9%であり、比較例4のRhの回収率は40.3%、Pdの回収率は92.5%、Ptの回収率は64.9%であり、いずれもRh、Ptの回収率が実施例4〜12と比べ大きく劣り、定量分析には不適である。
なお、NiSマット法でのICP分析用のサンプル作製には960分を要した。
供試材として実施例4〜12と同一の供試試料を用い、Snカプセル(0.18g)に供試試料(0.05g)を添加し、Ni粉末(0.25g)およびSn粉末(0.32g、SnカプセルとSn粉末を合計したSnの量は0.5g)とともにグラファイト坩堝に添加し、酸溶解時間を30minとし、実施例13についてはインパルス炉の出力を4500W(約2160℃)、実施例14についてはインパルス炉の出力を5500W約2380℃)とした以外は実施例4〜12と同じ条件で貴金属元素の定量分析を行った。また、参考例として、実施例13、14と同一の供試試料を供試材として、NiSマット法を用いて供試材の貴金属元素濃度を測定し、参考例で得られた貴金属元素濃度を100%とした回収率を求めた。測定結果を表3に示す。本実施例の場合、貴金属元素の回収率は96.8〜100.9%であり、本発明の微量貴金属元素の定量方法の信頼性が確認できた。
Claims (5)
- 貴金属元素を含有する固体試料、ニッケルおよび錫をグラファイト容器に入れ、非酸化性雰囲気下で加熱して融解する融解工程、
前記の融解工程で得られた融解物を室温まで冷却して凝固させる凝固工程、
前記の凝固工程で得られた凝固物に王水を添加して溶解する溶解工程、
前記の溶解工程で得られた貴金属元素を含有する王水中の貴金属元素の濃度を測定する定量工程、
を含む、貴金属元素の定量方法。 - 前記の貴金属元素が金および白金族元素の中から選ばれる1種または2種以上である、請求項1に記載の貴金属元素の定量方法。
- 前記の融解工程における加熱手段がインパルス加熱である、請求項1または2に記載の貴金属元素の定量方法。
- 前記グラファイト容器がグラファイト坩堝である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の貴金属元素の定量方法。
- 前記融解工程の加熱温度が1800℃以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の貴金属元素の定量方法。
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