以下、本発明の強化繊維複合材および強化繊維複合材の製造方法について添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
<強化繊維複合材>
まず、本発明の強化繊維複合材の実施形態について説明する。
図1は、本発明の強化繊維複合材の実施形態を示す斜視図である。
図1に示す強化繊維複合材1は、シート状をなしており、主面の平面視形状は長方形である。図1に示す強化繊維複合材1の互いに表裏の関係にある2つの面のうち、一方の面を第1面11とし、他方の面を第2面12とする。なお、図1(a)は、第1面11が上面になるように強化繊維複合材1を図示したものであり、図1(b)は、図1(a)に示す強化繊維複合材1を表裏反転させ、第2面12が上面になるように強化繊維複合材1を図示したものである。
図1に示す強化繊維複合材1は、樹脂2と、複数の単繊維が束ねられてなる繊維束3と、を含んでいる。そして、繊維束3のうち、幅が単繊維の平均径の5倍以上のものを「第1繊維束31」とし、幅が単繊維の平均径の5倍未満のものを「第2繊維束32」とすると、強化繊維複合材1の互いに表裏の関係にある2つの面のうち、第1面11(一方の面)において相対的に幅が広い第1繊維束31が占める面積率が、第2面12(他方の面)においてこの第1繊維束31が占める面積率より10%以上大きい(図1参照)。
このような強化繊維複合材1では、樹脂2が第1繊維束31や第2繊維束32で補強されているため、軽量であるにもかかわらず高い機械的強度が得られる。
また、第1面11と第2面12とで第1繊維束31が占める面積率が異なっているため、表面の物性も異なっている。例えば、第1面11と第2面12とで熱伝導率や導電率、表面硬度等が異なる強化繊維複合材1が得られる。したがって、強化繊維複合材1は、軽量でかつ機械的強度が高いという特性を活かしつつ、表裏で物性が異なるという付加価値を有するものとなる。
なお、強化繊維複合材1の形状は、互いに表裏の関係にある第1面11と第2面12とを有する形状であれば、シート状に限定されず、任意の立体的形状、棒状等、いかなる形状であってもよい。
以下、強化繊維複合材1を構成する成分について詳述する。
(樹脂)
樹脂2は、強化繊維複合材1に成形性や保形性を付与したり、繊維束3同士を結着するバインダーとして機能したりする。したがって、樹脂2としては、このような機能を有するものであれば特に限定されない。例えば、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、メラミン系樹脂、ポリウレタンのような熱硬化性樹脂、ポリアミド系樹脂(例えばナイロン等)、熱可塑性ウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂(例えばポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリカーボネート、ポリエステル系樹脂(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、フッ素樹脂(例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等)、変性ポリフェニレンエーテル、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリイミドのような熱可塑性樹脂等が挙げられる。なお、樹脂2には、これらのうちの少なくとも1種が含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
樹脂2は、特に熱硬化性樹脂を含むことが好ましい。これにより、強化繊維複合材1の機械的特性および耐熱性をより高めることができる。
また、樹脂2は、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂およびビスマレイミド樹脂のうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。これにより、強化繊維複合材1の機械的特性および耐熱性を特に高めることができる。
フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、アリールアルキレン型ノボラック樹脂のようなノボラック型フェノール樹脂、未変性のレゾールフェノール樹脂、桐油、アマニ油、クルミ油のような変性した油変性レゾールフェノール樹脂等のレゾール型フェノール樹脂等が挙げられる。
これらの中でも、コストおよび成形性の観点から、ノボラック型フェノール樹脂が好ましく用いられる。
フェノール樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、1000〜15000程度であるのが好ましい。なお、フェノール樹脂の重量平均分子量が前記下限値を下回ると、樹脂2の粘度が低くなり過ぎて製造時の成形が難しくなるおそれがある。一方、フェノール樹脂の重量平均分子量が前記上限値を上回ると、樹脂2の粘度が高くなり過ぎて製造時の成形性が低下するおそれがある。
フェノール樹脂の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定されたポリスチレン換算の重量分子量として求めることができる。
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型のようなビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型のようなノボラック型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型、臭素化フェノールノボラック型のような臭素化型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
これらの中でも、高流動性や成形性等の観点から、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂が好ましく用いられる。
また、比較的分子量の低いビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂がより好ましく用いられる。
さらに、耐熱性の観点から、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂がさらに好ましく用いられ、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂が特に好ましく用いられる。
ビスマレイミド樹脂としては、例えば、分子鎖の両末端にマレイミド基を有する樹脂であれば、特に限定されないが、ベンゼン環を有するものが好ましく、下記一般式(1)で表されるものがより好ましく用いられる。
[式中、R
1〜R
4は、置換基を有していてもよい炭素数1〜4の炭化水素基または水素原子を表す。また、R
5は、2価の有機基を表す。]
ただし、ビスマレイミド樹脂は、分子鎖の両末端以外にマレイミド基を有していてもよい。
ここで、有機基とは、炭素原子以外の原子を含んでいてもよい炭化水素基であり、炭素原子以外の原子としてはO、S、N等が挙げられる。
R5は、好ましくはメチレン基と芳香環とエーテル結合(−O−)とが任意の順序で結合した主鎖構造を有し、主鎖上に置換基および側鎖の少なくとも一方を有していてもよい。主鎖構造に含まれるメチレン基と芳香環とエーテル結合との合計数は15個以下である。上記の置換基または側鎖としては、例えば、炭素数3個以下の炭化水素基、マレイミド基、フェニレン基等が挙げられる。
ビスマレイミド樹脂としては、例えば、N,N’−(4,4’−ジフェニルメタン)ビスマレイミド、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、m−フェニレンビスマレイミド、p−フェニレンビスマレイミド、4−メチル−1,3−フェニレンビスマレイミド、N,N’−エチレンジマレイミド、N,N’−ヘキサメチレンジマレイミド等が挙げられる。
また、樹脂2とともに、必要に応じて硬化剤が併用される。
例えば、樹脂2としてノボラック型フェノール樹脂が用いられる場合、硬化剤としては、通常、ヘキサメチレンテトラミンが用いられる。
また、例えば、樹脂2としてエポキシ樹脂が用いられる場合、硬化剤としては、脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、ジシアミンジアミドのようなアミン化合物、脂環族酸無水物、芳香族酸無水物のような酸無水物、ノボラック型フェノール樹脂のようなポリフェノール化合物、イミダゾール化合物等が用いられる。
これらの中でも、取り扱い性や環境面の観点から、ノボラック型フェノール樹脂が好ましく用いられる。特に、エポキシ樹脂としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、およびトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂を用いる場合、硬化剤としては、硬化物の耐熱性がより向上し易いという観点から、ノボラック型フェノール樹脂が好ましく用いられる。
また、例えば、樹脂2としてビスマレイミド樹脂が用いられる場合、硬化剤としては、イミダゾール化合物が用いられる。
なお、硬化剤としては、上述したもののうちの1種または2種以上が用いられる。
一方、樹脂2は、特に熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。これにより、強化繊維複合材1の成形性を特に高めることができ、より寸法精度が高い強化繊維複合材1が得られる。
さらに、樹脂2は、熱可塑性樹脂の中でもスーパーエンジニアリングプラスチックを含むことが好ましい。これにより、熱可塑性樹脂がもたらす効果に加え、高い機械的特性という効果が付加されることとなる。なお、スーパーエンジニアリングプラスチックとしては、例えば、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、液晶ポリマー、フッ素樹脂等が挙げられる。
樹脂2の融点は、特に限定されないが、200〜400℃であるのが好ましく、210〜390℃であるのがより好ましく、260〜380℃であるのがさらに好ましい。このような樹脂2を用いることにより、強化繊維複合材1の機械的特性および耐熱性を十分に高めることができる。これにより、強化繊維複合材1が例えば輸送機器用内装材等に適用された場合、難燃性に優れた内装材が得られる。
なお、樹脂2の融点が前記下限値を下回ると、強化繊維複合材1の構成によっては、強化繊維複合材1の高温時の寸法精度が低下したり、耐熱性に基づく難燃性が低下したりするおそれがある。一方、樹脂2の融点は前記上限値を上回ってもよいが、それに伴って一部の物性(例えば耐衝撃性等)が低下するおそれがある。
ここで、樹脂2の融点は、原則として結晶融点のことであり、例えば、示差走査熱量計(DSC−2920、TAインスツルメント社製)により測定できる。
また、樹脂2に結晶融点が存在せずガラス転移温度が存在する場合には、本発明における樹脂2の融点はガラス転移温度も含むものとする。このガラス転移温度も、上記の示差走査熱量計により測定可能である。
さらに、樹脂2が熱硬化性樹脂の場合であって結晶融点もガラス転移温度も存在しない場合には、本発明における樹脂2の融点は熱硬化性樹脂の硬化物の耐熱温度も含むものとする。この耐熱温度は、JIS K 6911:1995の熱可塑性プラスチック一般試験方法に規定されている荷重たわみ温度とする。
(第1繊維束および第2繊維束)
第1繊維束31および第2繊維束32は、それぞれ強化繊維複合材1の機械的特性を向上させたり、熱伝導性を高めたりすることに寄与する。
このような第1繊維束31および第2繊維束32としては、それぞれ例えば、長い繊維束を所定の長さに切断したものであって、必要に応じて開繊処理等が施されたものである。
ここで、前述したように、第1繊維束31は、繊維束3のうち幅が単繊維の平均径の5倍以上のものであり、第2繊維束32は、繊維束3のうち幅が単繊維の平均径の5倍未満のものである。このため、第1繊維束31と第2繊維束32とでは、熱的、電気的および機械的な特性が互いに異なる。すなわち、繊維束3の幅は、熱、電子等の伝導性や機械的特性等の物性を左右するので、繊維束3の幅を異ならせることによって、結果的にこれらの特性も異ならせることができる。
そして、強化繊維複合材1では、第1面11(一方の面)において幅が単繊維の平均径の5倍以上の第1繊維束31が占める面積率が、第2面12(他方の面)において第1繊維束31が占める面積率より10%以上大きい。このため、強化繊維複合材1の第1面11では、熱的、電気的および機械的な特性が相対的に高くなる傾向を示す。その結果、これらの特性において分布を有する強化繊維複合材1が得られる。
具体的には、第1面11では、第1繊維束31に由来する物性が第2面12に比べてより強く反映される。このため、第1面11では、熱伝導性、電導性、表面硬度等の物性を、第2面12よりも大きくすることができる。
一方、本実施形態に係る第2面12では、第1繊維束31が占める面積率が第1面11よりも小さい。このため、第2面12では、第1繊維束31に由来する物性が第1面11に比べてあまり反映されない。このため、第2面12では、熱伝導性、電導性、表面硬度等の物性を、第1面11よりも小さくすることができる。
第1面11において第1繊維束31が占める面積率をA1とし、第2面12において第1繊維束31が占める面積率をA2とするとき、A1−A2は10%以上とされるが、10〜90%であるのが好ましく、10〜70%であるのがより好ましく、20〜50%であるのがさらに好ましい。A1−A2は、すなわち、相対的に幅が広い第1繊維束31が占める面積が第1面11と第2面12とでどの程度異なっているかを示す指標(偏在の程度の指標)となり得るが、A1−A2が前記範囲内であることにより、強化繊維複合材1において第1繊維束31が第1面11側に著しく偏在するのを抑制し、ひいては強化繊維複合材1全体の物性のバランスが崩れてしまうのを抑制することができる。
なお、A1−A2が前記下限値を下回ると、面積率の差が小さくなってしまうので、第1面11と第2面12とで物性の差が小さくなり、付加価値が損なわれるおそれがある。一方、A1−A2が前記上限値を上回ると、面積率の差が大きくなり過ぎてしまい、例えば機械的特性のばらつきが大きくなるため、反り等の変形が大きくなるおそれがある。
なお、これらの面積率A1、A2は、第1面11および第2面12を光学顕微鏡または電子顕微鏡で観察し、観察像全体に対する第1繊維束31の面積率を算出することによって求められる。
また、第1繊維束31の幅とは、撮像された観察像に写っている各第1繊維束31の最大幅のことをいう。
なお、観察時の倍率は、観察像内に第1繊維束31が10本以上写る倍率とする。
一方、第1面11において第2繊維束32が占める面積率をB1とし、第2面12において第2繊維束32が占める面積率をB2とするとき、B2>B1であるのが好ましい。また、B2−B1が10〜90%であるのが好ましく、10〜70%であるのがより好ましく、20〜50%であるのがさらに好ましい。B2−B1は、すなわち、相対的に幅が狭い第2繊維束32が占める面積が第1面11と第2面12とでどの程度異なっているかを示す指標(偏在の程度の指標)となり得るが、B1およびB2が前記範囲内であることにより、強化繊維複合材1において第2繊維束32が第2面12側に著しく偏在するのを抑制し、ひいては強化繊維複合材1全体の物性のバランスが崩れてしまうのを抑制することができる。
なお、B2−B1が前記下限値を下回ると、面積率の差が小さくなってしまうので、第1面11と第2面12とで物性の差が小さくなり、付加価値が損なわれるおそれがある。一方、B2−B1が前記上限値を上回ると、面積率の差が大きくなり過ぎてしまい、例えば機械的特性のばらつきが大きくなるため、反り等の変形が大きくなるおそれがある。
なお、これらの面積率B1、B2は、第1面11および第2面12を光学顕微鏡または電子顕微鏡で観察し、観察像全体に対する第2繊維束32の面積率を算出することによって求められる。
また、第2繊維束32の幅とは、撮像された観察像に写っている各第2繊維束32の最大幅のことをいう。
また、観察時の倍率は、観察像内に第2繊維束32が10本以上写る倍率とする。
第1繊維束31として用いられる繊維および第2繊維束32として用いられる繊維は、互いに異なる材質の繊維であってもよいが、好ましくは互いに同じ材質の繊維とされる。これにより、繊維束3の幅を制御因子にして物性を制御し易くなるため、目的とする物性を有する強化繊維複合材1をより確実に実現することができる。
第1繊維束31および第2繊維束32として用いられる繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アルミニウム繊維、銅繊維、ステンレス鋼繊維、黄銅繊維、チタン繊維、鋼繊維、リン青銅繊維のような金属繊維、綿繊維、絹繊維、木質繊維のような天然繊維、アルミナ繊維のようなセラミック繊維、全芳香族ポリアミド(アラミド)、全芳香族ポリエステル、全芳香族ポリエステルアミド、全芳香族ポリエーテル、全芳香族ポリカーボネート、全芳香族ポリアゾメチン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリ(パラ−フェニレンベンゾビスチアゾール)(PBZT)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ(パラ−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール)(PBO)のような合成繊維等が挙げられ、これらのうちの少なくとも1種を含むものが用いられる。
なお、第1繊維束31および第2繊維束32は、それぞれ一種類の単繊維のみで構成されるものに限定されず、複数種類の単繊維が束ねられてなるものであってもよい。
そして、第1繊維束31は、前述した範囲の幅のものであれば、有機繊維を含む繊維束であっても無機繊維を含む繊維束であってもよい。換言すれば、第1繊維束31に含まれる単繊維は、有機繊維であっても無機繊維であってもよい。
また、同様に、第2繊維束32も、前述した範囲の幅のものであれば、有機繊維を含む繊維束であっても無機繊維を含む繊維束であってもよい。換言すれば、第2繊維束32に含まれる単繊維は、有機繊維であっても無機繊維であってもよい。
このうち、第1繊維束31および第2繊維束32として有機繊維を用いることにより、強化繊維複合材1の軽量化を図ることができる。また、有機繊維の中には、機械的強度が非常に高いものもあるため、それらを選択することによって軽量化と高強度化との両立を図ることができる。なお、有機繊維としては、例えば、天然繊維、合成繊維等が挙げられる。
一方、第1繊維束31および第2繊維束32として無機繊維を用いることにより、強化繊維複合材1の高強度化を図ることができる。すなわち、無機繊維は、一般に引張強度等の機械的強度が高いため、強化繊維複合材1の高強度化に寄与し易い。また、無機繊維は、熱伝導性、導電性、低膨張性等の特長を有するため、これらの物性を強化繊維複合材1に付加することができる。このため、様々な付加価値を持つ強化繊維複合材1を実現することができる。なお、無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、セラミック繊維等が挙げられる。
なお、強化繊維複合材1には、繊維束3以外に、繊維束3が完全に開繊されてなる単繊維やその他の単繊維が含まれていてもよい。
また、第1繊維束31および第2繊維束32の平均長さは、それぞれ特に限定されないが、5mm以上であるのが好ましく、7mm以上であるのがより好ましく、10mm以上であるのがさらに好ましい。第1繊維束31および第2繊維束32の平均長さを前記範囲内に設定することにより、強化繊維複合材1の機械的特性を十分に高めることができる。特に樹脂2の機械的特性が比較的低い場合であっても、第1繊維束31および第2繊維束32によってそれを十分に補うことができる。その結果、機械的特性が特に良好な強化繊維複合材1が得られる。
なお、第1繊維束31および第2繊維束32の平均長さの上限値は、特に限定されないが、例えば100mm以下であるのが好ましく、50mm以下であるのがより好ましい。これにより、強化繊維複合材1を製造するにあたって第1繊維束31および第2繊維束32を分散媒に分散させるとき、その分散性が良好になる。その結果、最終的に機械的特性に優れた強化繊維複合材1が得られる。
なお、第1繊維束31および第2繊維束32の平均長さとは、強化繊維複合材1の樹脂2を溶解する等して100本以上の第1繊維束31および第2繊維束32を取り出した後、その長さをそれぞれ測定し、平均した値のことをいう。
また、第1繊維束31および第2繊維束32は、それぞれ長さ20mm以上の長繊維を含んでいてもよい。第1繊維束31および第2繊維束32としてこのような非常に長いものを含めることにより、強化繊維複合材1には極めて高い機械的特性が付与される。このため、例えば樹脂2として機械的特性が低いものを使用した場合であっても、第1繊維束31および第2繊維束32によってそれを十分に補うことができる。その結果、樹脂2として目的とする特性に特化したもの、例えば機械的特性は多少劣るものの難燃性に優れたものといった選択をすることが可能になり、様々な特性を有する強化繊維複合材1が得られる。
また、長繊維の長さは、好ましくは25mm以上とされ、より好ましくは30mm以上とされる。
なお、長繊維の長さが前記範囲を下回ると、従来の複合成形体に期待される機械的特性の範囲を超えることができず、例えば金属部品等を置き換え得るほどの優れた機械的特性を獲得する等、長繊維を添加する目的が果たされないおそれがある。
また、長繊維の長さの上限値は、特に限定されないが、200mm以下であるのが好ましく、150mm以下であるのがより好ましい。これにより、強化繊維複合材1を製造するにあたって第1繊維束31および第2繊維束32を分散媒に分散させるとき、その分散性が良好になる。その結果、最終的に機械的特性に優れた強化繊維複合材1が得られる。
このような長繊維は、第1繊維束31および第2繊維束32に少しでも含まれていればよいが、第1繊維束31および第2繊維束32のうち10%以上の割合で含まれているのが好ましく、20〜90%の割合で含まれているのがより好ましい。これにより、長繊維によってもたらされる上述したような効果が、より確実に発現することとなる。すなわち、長繊維が支配的に存在することになるため、強化繊維複合材1の機械的特性においても長繊維の影響が支配的になる。その結果、とりわけ機械的特性が高い強化繊維複合材1を実現することができる。
なお、長繊維の含有量は、強化繊維複合材1の樹脂2を溶解する等して100本以上の第1繊維束31および第2繊維束32を取り出した後、その長さをそれぞれ測定し、長さが20mm以上である第1繊維束31および第2繊維束32の本数の割合として求められる。
また、繊維束3の平均幅は、特に限定されないが、1〜30mm程度であるのが好ましく、3〜20mm程度であるのがより好ましい。繊維束3の平均幅を前記範囲内に設定することにより、強化繊維複合材1全体の機械的強度を高めつつ、繊維束3の分散性が良好になり、強化繊維複合材1を製造するときの成形性を高めることができる。
なお、繊維束3の平均幅とは、強化繊維複合材1の樹脂2を溶解する等して100本以上の繊維束3を取り出した後、その最大幅をそれぞれ測定し、平均した値のことをいう。
また、第1繊維束31および第2繊維束32の幅に対する長さの比(長さ/幅)は、特に限定されないが、5以上であるのが好ましく、10以上であるのがより好ましい。これにより、第1繊維束31および第2繊維束32が上記のような効果をより確実に発揮する。
また、第1繊維束31および第2繊維束32に含まれる単繊維の平均径は、特に限定されないが、1〜100μm程度であるのが好ましく、5〜80μm程度であるのがより好ましい。単繊維の平均径を前記範囲内に設定することにより、強化繊維複合材1の機械的特性を高めつつ、強化繊維複合材1を製造するときの成形性を高めることができる。
なお、単繊維の平均径とは、強化繊維複合材1の樹脂2を溶解する等して100本以上の単繊維を取り出した後、その径をそれぞれ測定し、平均した値のことをいう。
また、第1繊維束31および第2繊維束32には、必要に応じて、カップリング剤処理、界面活性剤処理、紫外線照射処理、電子線照射処理、プラズマ照射処理等の表面処理が施されていてもよい。
このうち、カップリング剤としては、例えば、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシランのようなアミノ基含有アルコキシシラン、およびそれらの加水分解物等が挙げられ、これらのうちの少なくとも1種を含むものが用いられる。
強化繊維複合材1における第1繊維束31の含有量と第2繊維束32の含有量の合計は、特に限定されないが、樹脂2の1〜300体積%程度であるのが好ましく、5〜150体積%程度であるのがより好ましく、10〜120体積%程度であるのがさらに好ましい。第1繊維束31の含有量と第2繊維束32の含有量の合計を前記範囲内に設定することにより、樹脂2と第1繊維束31および第2繊維束32との量的なバランスが最適化されるため、強化繊維複合材1の機械的特性を特に高めることができる。すなわち、第1繊維束31の含有量と第2繊維束32の含有量の合計が前記下限値を下回ると、第1繊維束31および第2繊維束32が相対的に不足するため、樹脂2の組成や第1繊維束31および第2繊維束32の長さ、構成材料等によっては、強化繊維複合材1の機械的特性が低下するおそれがある。一方、第1繊維束31および第2繊維束32が前記上限値を上回ると、樹脂2の含有量が相対的に不足するため、樹脂2の組成や第1繊維束31および第2繊維束32の長さ、構成材料等によっては、強化繊維複合材1の機械的特性が低下するおそれがある。
なお、図1に示す第1繊維束31および第2繊維束32の形状は、一例であり、図示したような直線状には限定されず、いかなる形状、例えばらせん状、蛇行形状等であってもよい。
また、第1繊維束31および第2繊維束32は、強化繊維複合材1中においていかなる方向に配向していてもよいが、好ましくは表面と平行になるように配向しているのが好ましい。これにより、強化繊維複合材1の表面の引張方向において靭性を高めることができる。また、強化繊維複合材1の表面の耐摩耗性や硬度も高くなる。
また、第1繊維束31と第2繊維束32の存在比は、目的とする強化繊維複合材1の物性に応じて適宜設定されるが、第1繊維束31の含有量を100体積部とするとき、第2繊維束32の含有量が10〜1000体積部であるのが好ましく、20〜500体積部であるのがより好ましい。これにより、第1繊維束31と第2繊維束32のうち、一方のみが過剰に存在することなく、バランスよく存在することとなる。このため、反り等の変形が発生するのを抑制することができる。
なお、強化繊維複合材1には、第1繊維束31および第2繊維束32に加えて、任意の開繊度合いを有する別の繊維(第3繊維束)が加えられていてもよい。
(パルプ)
強化繊維複合材1は、必要に応じてパルプを含んでいてもよい。パルプとは、フィブリル構造を有する繊維材料であり、上記第1繊維束31および第2繊維束32とは異なるものである。パルプは、例えば、繊維材料を機械的または化学的にフィブリル化することによって得ることができる。
また、強化繊維複合材1を抄造法によって製造するとき、材料の凝集性を高めることができるので、効率よく安定的に抄造することができる。
パルプとしては、例えば、リンターパルプ、木材パルプのようなセルロース繊維、ケナフ、ジュート、竹のような天然繊維、パラ型全芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)およびその共重合体、芳香族ポリエステル繊維、ポリベンザゾール繊維、メタ型アラミド繊維およびそれらの共重合体、アクリル繊維、アクリロニトリル繊維、ポリイミド繊維、ポリアミド繊維のような有機繊維等をフィブリル化したものが挙げられ、これらのうちの少なくとも1種が用いられる。
また、強化繊維複合材1におけるパルプの含有量は、特に限定されないが、樹脂2の0.5〜10質量%程度であるのが好ましく、1〜8質量%程度であるのがより好ましく、1.5〜5質量%程度であるのがさらに好ましい。これにより、機械的特性や熱伝導性がより良好な強化繊維複合材1を実現することができる。
パルプの平均径は、第1繊維束31および第2繊維束32に含まれる単繊維の平均径より小さいことが好ましく、具体的には0.01〜2μm程度であるのが好ましい。
また、パルプの平均長さは、特に限定されないが、0.1〜100mm程度であるのが好ましく、0.5〜10mm程度であるのがより好ましい。
なお、パルプのフィブリル化の指標としては、BET比表面積が用いられる。パルプのBET比表面積は、特に限定されないが、3〜25m2/g程度であるのが好ましく、5〜20m2/g程度であるのがより好ましい。これにより、パルプ同士あるいはパルプと第1繊維束31および第2繊維束32との絡み合いを十分に確保しつつ、強化繊維複合材1を抄造法によって製造するときには抄造安定性を図ることができる。
(凝集剤)
強化繊維複合材1は、必要に応じて凝集剤を含んでいてもよい。
凝集剤としては、例えば、カチオン性高分子凝集剤、アニオン性高分子凝集剤、ノニオン性高分子凝集剤、両性高分子凝集剤等が挙げられ、これらのうちの少なくとも1種が用いられる。
より具体的には、例えば、カチオン性ポリアクリルアミド、アニオン性ポリアクリルアミド、ホフマンポリアクリルアミド、マンニックポリアクリルアミド、両性共重合ポリアクリルアミド、カチオン化澱粉、両性澱粉、ポリエチレンオキサイド等を挙げられる。
また、強化繊維複合材1における凝集剤の含有量は、特に限定されないが、樹脂2の0.01〜1.5質量%程度であるのが好ましく、0.05〜1質量%程度であるのがより好ましく、0.1〜0.5質量%程度であるのがさらに好ましい。これにより、強化繊維複合材1を例えば抄造法により製造するとき、脱水処理等を容易かつ安定的に行うことができ、最終的に機械的特性に優れた強化繊維複合材1が得られる。
(その他の添加剤)
強化繊維複合材1は、必要に応じてその他の添加剤を含んでいてもよい。
かかる添加剤としては、例えば、充填材、金属粉、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、離型剤、可塑剤、硬化触媒、硬化助剤、顔料、耐光剤、帯電防止剤、抗菌剤、導電剤、分散剤等が挙げられ、これらのうちの少なくとも1種が用いられる。
このうち、硬化助剤としては、例えば、イミダゾール化合物、三級アミン化合物、有機リン化合物、酸化マグネシウム等が挙げられる。
また、充填材には、例えば、無機充填材、有機充填材等が用いられる。具体的な構成材料としては、例えば、酸化チタン、アルミナ、シリカ、ジルコニア、酸化マグネシウム、酸化カルシウムのような酸化物類、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素のような窒化物類、硫酸バリウム、硫酸鉄、硫酸銅のような硫化物類、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムのような水酸化物類、カオリナイト、タルク、天然マイカ、合成マイカのような鉱物類、炭化ケイ素のような炭化物類等が挙げられる。さらに、これらの粉末にカップリング剤処理のような表面処理が施されたものであってもよい。
また、充填材として、金属粉、ガラスビーズ、ミルドカーボン、グラファイト、ポリビニルブチラール、木粉等が用いられてもよい。
また、離型剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。
また、カップリング剤としては、例えば、エポキシシランカップリング剤、カチオニックシランカップリング剤、アミノシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤等が挙げられる。
また、難燃剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムのような金属水酸化物、アンチモン化合物、ハロゲン化合物、リン化合物、窒素化合物、ホウ素化合物等が挙げられる。
(空孔)
また、強化繊維複合材1は、内部に空孔を含んでいてもよい。これにより、強化繊維複合材1の密度(比重)を低下させ、軽量化を図ることができる。
空孔は、強化繊維複合材1に内包されている空間のことをいう。この空孔は、その1つ1つまたは複数個が連結したものが系外と隔離されている(樹脂2等によって取り囲まれている)空間(独立気泡)であってもよく、系外と連通している空間(連続気泡)であってもよい。
このうち、特に限定されるものではないが、独立気泡が連続気泡よりも多いことが好ましい。これにより、空孔を含んでいても強化繊維複合材1の機械的特性がより低下し難くなる。これは、独立気泡が圧壊し難いので、それに伴って強化繊維複合材1の機械的強度が低下し難いことによる。
なお、独立気泡が連続気泡より多いとは、強化繊維複合材1の断面を拡大観察したとき、その独立気泡が占める面積の合計が、連続気泡が占める面積の合計より大きい状態をいう。
強化繊維複合材1が空孔として独立気泡を含む場合、空孔の平均径は、特に限定されないが、2〜300μm程度であるのが好ましく、5〜200μm程度であるのがより好ましい。これにより、空孔による強化繊維複合材1の軽量化と、空孔による強化繊維複合材1の機械的特性の低下の抑制と、を両立させることができる。すなわち、空孔の平均径が前記下限値を下回る場合、空孔率によっては、強化繊維複合材1の軽量化が難しくなるおそれがある。一方、空孔の平均径が前記上限値を上回る場合、空孔率によっては、空孔が屈折や亀裂等の起点になり易くなるため、強化繊維複合材1の機械的特性が低下するおそれがある。
なお、空孔の平均径とは、強化繊維複合材1の断面から空孔の面積と同じ面積を持つ円を仮想したとき、その円の直径(円相当径)として求められる。
強化繊維複合材1の空孔率は、特に限定されないが、10〜90%程度であるのが好ましく、15〜87.5%程度であるのがより好ましく、20〜85%程度であるのがさらに好ましい。空孔率を前記範囲内に設定することにより、強化繊維複合材1の軽量化と機械的特性とをバランスよく両立させることができる。すなわち、空孔率が前記下限値を下回ると、樹脂2の組成や第1繊維束31および第2繊維束32の長さ、構成材料等によっては、強化繊維複合材1の軽量化が不十分になるおそれがある。一方、空孔率が前記上限値を上回ると、樹脂2の組成や第1繊維束31および第2繊維束32の長さ、構成材料等によっては、強化繊維複合材1の機械的特性が低下するおそれがある。
なお、空孔が独立気泡を含む場合には、強化繊維複合材1の断熱性が向上する。これにより、強化繊維複合材1における熱伝導性が低下するので、難燃性を高めることができる。
強化繊維複合材1の空孔率は、例えば強化繊維複合材1の断面の面積において、空孔が占める面積の割合(空孔の面積率)として求められる。
また、強化繊維複合材1が空孔を含んでいる場合、前述したようにして第2繊維束32を偏在させた結果として空孔も偏在させることができる。これにより、例えば第1面11では第2繊維束32が偏在して高い硬度が得られる一方、第2面12側には空孔が多く含まれることによって断熱性が付与されている強化繊維複合材1が得られる。このような強化繊維複合材1によれば、表面硬度と断熱性および軽量化とを両立させることができ、付加価値のさらなる向上が図られる。
(製法および用途)
強化繊維複合材1は、いかなる方法で製造されたものであってもよいが、後述するような抄造体であるのが好ましい。抄造体は、繊維を含む分散液を抄きとることによって得られる、繊維が分散した構造体である。このような抄造体によれば、比較的長い繊維同士が絡み合っているため、機械的強度をより高め易い。したがって、繊維の含有量を抑えたり、空孔率を高めたりした場合でも、機械的強度の高い強化繊維複合材1が得られる。
なお、繊維を含む構造体は、抄造体以外(例えば、繊維フィラーを含む組成物の射出成形体、押出成形体等)にも知られているが、特に長い繊維を均一に分散させた構造体を得やすいという観点からも、抄造体が好ましく用いられる。
以上、強化繊維複合材1について説明したが、この強化繊維複合材1はあらゆる構造体に適用可能である。一例として、輸送機器用内装材を例示することができる。具体的には、キャビン天井パネル、キャビン内装パネル、キャビン床面、コックピット天井パネル、コックピット内装パネル、コックピット床面、手荷物ロッカー壁、収納ロッカー壁、ドア内張、窓カバー、機長席、副操縦士席、客室乗務員用座席、乗客座席のような各種座席、化粧室用内装材等の各種航空機用内装材の他、自動車用内装材、船舶用内装材、鉄道用内装材、宇宙船用内装材等が挙げられる。このような輸送機器用内装材は、いずれも、安全性と輸送効率の観点から、軽量であるとともに高い機械的強度が要求される。このため、強化繊維複合材1が特に好適に用いられる。
これらの内装材では、例えば、輸送機器の内側(キャビン側)では耐摩耗性等の観点から十分な表面硬度が必要になる一方、外側ではそのような耐摩耗性を必ずしも必要としない場合がある。このため、例えば強化繊維複合材1のように、第1面11と第2面12とで表面硬度が異なるような部材を用いることにより、軽量で機械的強度が高いという特長を損なうことなく、第1面11側の表面硬度を高め、耐摩耗性を確保することができる。その結果、軽量化と耐摩耗性との両立を図ることができる。換言すれば、強化繊維複合材1全体では繊維の量を増やすことなく、第1面11側に幅が広い第1繊維束31を偏らせることにより、第1面11の表面硬度を部分的に高めることができる。このため、全体の軽量化を損なうことなく、第1面11に特化した表面の高硬度化が図られることとなる。
なお、強化繊維複合材1は、これらの輸送機器用内装材の全体に適用されてもよく、一部のみに適用されてもよい。
また、強化繊維複合材1は、例えば第1面11と第2面12とで異なる電子素子が搭載される実装基板にも適用可能である。このような実装基板は、例えば第1面11側には発熱量の大きい電子素子が搭載される一方、第2面12側には端子間に高い絶縁性を要求される電子素子が搭載されるような場合において、特に有用である。
(物性)
ここで、強化繊維複合材1の曲げ強度は、特に限定されないが、50〜400MPa程度であるのが好ましく、70〜350MPa程度であるのがより好ましく、100〜300MPa程度であるのがさらに好ましい。これにより、十分に機械的特性が高い強化繊維複合材1が得られる。
なお、強化繊維複合材1の曲げ強度は、室温(25℃)において、ISO178:2001に規定されている試験方法に準じて測定される。
また、強化繊維複合材1の比強度は、50〜400MPa・(g/cm3)−1とされる。これにより、軽量化と機械的特性の向上との両立が図られた強化繊維複合材1が得られる。なお、比強度が前記下限値を下回ると、重い割には曲げ強度が小さいといえるので、例えば輸送機器用内装材のように、軽量化と高い機械的特性の双方を求められる分野の構造材料としては不適当になるおそれがある。一方、比強度が前記上限値を上回ると、軽い割には曲げ強度が大きいといえるが、その他の物性とのバランスによっては耐衝撃性が低下したり、製造条件によるバラツキが出やすくなるため、製造歩留まりを高め難くなったりするおそれがある。
また、強化繊維複合材1の比強度は、100〜390MPa・(g/cm3)−1程度であるのがより好ましく、150〜380MPa・(g/cm3)−1程度であるのがさらに好ましい。
なお、強化繊維複合材1の比強度は、曲げ強度(単位:MPa)を密度(単位:g/cm3)で除することによって求められる。
また、強化繊維複合材1の比弾性率は、特に限定されないが、2〜30GPa・(g/cm3)−1程度であるのが好ましく、3〜25GPa・(g/cm3)−1程度であるのがより好ましく、4〜20GPa・(g/cm3)−1程度であるのがさらに好ましい。これにより、軽量化と機械的特性の向上との両立が図られた強化繊維複合材1が得られる。
なお、強化繊維複合材1の比弾性率は、曲げ弾性率(単位:GPa)を密度(単位:g/cm3)で除することによって求められる。そして、曲げ弾性率は、室温(25℃)において、ISO178:2001に規定されている試験方法に準じて測定される。
また、強化繊維複合材1の密度は、特に限定されないが、0.05〜1.6g/cm3程度であるのが好ましく、0.1〜1.55g/cm3程度であるのがより好ましく、0.2〜1.5g/cm3程度であるのがさらに好ましい。これにより、軽量化と機械的特性の向上とを両立させた強化繊維複合材1が得られる。
なお、密度は、JIS K 7112:1999にA法として規定されている試験方法に準じて測定される。
<強化繊維複合材の製造方法>
次に、本発明の強化繊維複合材の製造方法の実施形態について説明する。
図2〜6は、それぞれ図1に示す強化繊維複合材を製造する方法の一例(抄造法)を説明するための図である。
強化繊維複合材1の製造方法は、樹脂2と第1繊維束31(低開繊繊維束)および第2繊維束32(高開繊繊維束)とを含む分散液6を調製する工程と、分散液6において第2繊維束32を沈降させつつ分散液6から素形体10を抄造する工程と、素形体10を加熱しつつ加圧成形することにより、樹脂2の少なくとも一部を溶融させ、強化繊維複合材1(抄造成形体)を得る工程と、を有する。以下、各工程について順次説明する。
[1]まず、図2に示すように、樹脂2と第1繊維束31および第2繊維束32とこれらを分散させる分散媒5とを含む分散液6を調製する。調製した分散液6は、十分に撹拌、混合される。なお、分散液6には、必要に応じて、前述した凝集剤やパルプ、その他の添加剤等が添加されていてもよい。
本工程における樹脂2の形状は、特に限定されず、例えば、略球形粒子状、薄膜粒子状等の粒子状(粉状)または繊維状とされる。これにより、後述する抄造において、第1繊維束31および第2繊維束32とともに樹脂2を抄きとることができる。その結果、樹脂2と第1繊維束31および第2繊維束32とを絡み合わせることができ、強固な強化繊維複合材1を製造可能な素形体10が得られる。
なお、樹脂2が熱硬化性樹脂を含む場合、その熱硬化性樹脂は半硬化状態であることが好ましい。半硬化の熱硬化性樹脂は、素形体10を製造後、加熱、加圧によって所望の形状に成形されて硬化に至る。これにより、熱硬化性樹脂の特性を生かした強化繊維複合材1が得られることとなる。
一方、第1繊維束31および第2繊維束32としては、例えば樹脂2よりも融点が高い繊維が用いられる。このような第1繊維束31および第2繊維束32を用いることにより、後述する工程において素形体10を加熱しつつ加圧成形するとき、樹脂2のみを選択的に溶融させることができる。これにより、樹脂2を第1繊維束31および第2繊維束32の周辺で溶融、分散させることができ、強固な強化繊維複合材1が得られる。
第1繊維束31および第2繊維束32の融点は、樹脂2の融点よりも高ければよいが、その差が10℃以上であるのが好ましく、50℃以上であるのがより好ましい。
ここで、第1繊維束31および第2繊維束32は、それぞれ原料となる繊維束に開繊処理を施し、開繊率を異ならせることによって製造されたものであってもよい。すなわち、開繊率とは、原料となる繊維束を解して例えば帯状に広げる開繊処理において、繊維束から分離する単繊維の数の割合に相当するが、この開繊率を異ならせることによって、開繊処理後の繊維束3の幅を異ならせることができる。したがって、同一の原料から第1繊維束31および第2繊維束32をそれぞれ製造することができる。換言すれば、開繊処理における処理量を変えることにより、繊維束3の幅を変化させ、繊維束3における第1繊維束31や第2繊維束32の含有率を調整することができる。
このような開繊処理の結果、幅を単繊維の平均径の5倍以上に留まる程度に開繊率を抑えた低開繊繊維束を第1繊維束31とすることができ、幅が単繊維の平均径の5倍未満に至る程度まで開繊率を高めた高開繊繊維束を第2繊維束32とすることができる。
開繊処理としては、特に限定されないものの、例えば、ロール開繊法、静電気法、空気開繊法等が挙げられる。
開繊処理後、目的とする長さに切断されることにより、第1繊維束31および第2繊維束32が得られる。
また、分散媒5としては、樹脂2や第1繊維束31および第2繊維束32を溶解させ難く、かつ、樹脂2や第1繊維束31および第2繊維束32を分散させる過程において揮発し難いものが好ましく用いられる。また、脱溶媒させ易いものが好ましく用いられる。かかる観点から、分散媒5の沸点は50〜200℃程度であるのが好ましい。
分散媒5としては、例えば、水、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、エチレングリコールのようなアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、2−ヘプタノン、シクロヘキサノンのようなケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸メチルのようなエステル類、テトラヒドロフラン、イソプロピルエーテル、ジオキサン、フルフラールのようなエーテル類等が挙げられ、これらのうちの少なくとも1種が用いられる。
これらの中でも、水が好ましく用いられる。水は、入手が容易であり、環境負荷が低く安全性も高いことから、分散媒5として有用である。
また、分散液6における分散媒5の含有量は、特に限定されないが、固形分総量に対して10質量倍以上1000質量倍以下程度であるのが好ましい。
また、強化繊維複合材1に空孔を形成する場合には、分散液6に熱膨張性を有するマイクロカプセルを添加するようにしてもよい。このマイクロカプセルは、加熱されたときに膨張し、空孔となる。
この熱膨張性を有するマイクロカプセルとは、揮発性の液体発泡剤を、ガスバリア性を有する熱可塑性シェルポリマーによりマイクロカプセル化した粒子である。このようなマイクロカプセルは、次のようなメカニズムにより、発泡剤として機能するものである。マイクロカプセルが加熱されると、カプセルの外殻が軟化しつつ、カプセルに内包した液体発泡剤が気化し圧力が増加する。その結果、カプセルが膨張し、中空球状粒子が形成される。この中空球状粒子は、加圧成形後においても残存するため、結果的に空孔の形成に寄与する。
液体発泡剤としては、例えば、イソペンタン、イソブタン、イソプロパン等といった低沸点の炭化水素が挙げられる。
熱可塑性シェルポリマーとしては、例えば、ポリアクリロニトリル、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニリデン−メチルメタクリレート共重合体、塩化ビニリデン−エチルメタクリレート、アクリロニトリル−メチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル−エチルメタクリレート等が挙げられ、これらを単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いるようにしてもよい。
マイクロカプセルとしては、例えば、エクスパンセル(日本フェライト社製)、マイクロスフェアーF50、マイクロスフェアーF60(以上、松本油脂製薬社製)、アドバンセルEM(積水化学工業社製)といった市販品を用いることができる。
マイクロカプセルの添加量は、樹脂2の0.05〜10質量%程度とするのが好ましく、0.1〜5質量%程度とするのがより好ましい。
[2]続いて、調製した分散液6から素形体10を抄造する。これにより、強化繊維複合材1を製造するための素形体10を得る(図5参照)。
具体的には、まず、図3に示すように、底面にフィルター71が設けられた容器70を用意する。
次に、容器70内に分散液6を供給する。そして、分散液6中の分散媒5を、フィルター71を介して容器70の底面から外部へ排出する。これにより、分散液6中の分散質である樹脂2と第1繊維束31および第2繊維束32とがフィルター71上に残存する(抄造)。この残存物を乾燥させることにより、素形体10を得る。
このとき、フィルター71の形状を適宜選択することにより、所望の形状を有する素形体10を製造することができる。
また、分散液6中には第1繊維束31および第2繊維束32が分散しているが、分散液6の粘度を調整することによって、第1繊維束31と第2繊維束32とで沈降度合いに差を設けることができる。すなわち、それぞれの幅の差(開繊度合いの差)に基づく沈降速度の差を利用して第1繊維束31よりも第2繊維束32を先に沈降させることにより、分散液6中で第1繊維束31や第2繊維束32をそれぞれ偏在させることができる。これにより、フィルター71側(図3では下側)に第2繊維束32が偏在し、フィルター71側とは反対側(図3では上側)に第1繊維束31が偏在してなる素形体10が得られる(図5参照)。
このような素形体10が後述する工程に供されることにより、前述したように、第1面11において第1繊維束31が占める面積率が、第2面12において第1繊維束31が占める面積率より大きくなっている強化繊維複合材1が得られる。
なお、この沈降度合いの差は、分散液6を静置する時間が長くなるほど大きくなるため、静置時間を調整することによっても制御される。静置時間を調整する際には、必要に応じてフィルター71の目開きを変更することによって、分散液6の濾過に要する時間を変更することができ、結果的に静置時間を調整することができる。
そして、例えば分散液6の粘度を小さくしたり静置する時間を長くしたりすることにより、沈降度合いの差を大きくすることができる。一方、分散液6の粘度を大きくしたり静置する時間を短くしたりすることにより、沈降度合いの差を小さくすることができる。
また、分散液6の粘度は、前述した凝集剤(定着剤)の濃度を適宜設定することによって調整可能である。例えば、分散液6中に添加される凝集剤の濃度は、質量比で50〜1000ppmであるのが好ましく、100〜500ppmであるのがより好ましい。これにより、分散液6の粘度が最適化され、分散液6において第1繊維束31および第2繊維束32を均一に分散させつつ、分散液6を静置することによって第2繊維束32を先に沈降させることができる。
なお、分散液6における凝集剤の濃度が前記下限値を下回ると、分散液6の粘度が低くなり過ぎるため、第1繊維束31および第2繊維束32が凝集したり、沈降速度が速すぎて繊維の偏在が大きくなり過ぎたりするおそれがある。一方、分散液6における凝集剤の濃度が前記上限値を上回ると、分散液6の粘度が高くなり過ぎるため、第1繊維束31と第2繊維束32との間で沈降速度の差が生じ難くなり、偏在状態を形成することができなくなるおそれがある。
このようにして得られた素形体10は、分散媒5を含んでいても、含んでいなくてもよい。
また、素形体10の形成後、必要に応じて、図4に示すように、プレス型72とプレス型73との間に素形体10を配置し、プレス型72とプレス型73との間に形成される図示しないキャビティーによって素形体10を圧縮する。例えば、プレス型72を矢印Pのように降下させることにより、プレス型72とプレス型73との間で素形体10が圧縮される。これにより、素形体10に残存していた分散媒5を十分に排出し、素形体10を乾燥させることができる。
なお、必要に応じて、さらに乾燥機等で乾燥させるようにしてもよい。
また、樹脂2として特に繊維状のものを用いた場合には、見かけ密度が特に小さい素形体10を得ることができる。このような素形体10は、後述する加圧成形においてその条件を適宜設定することにより、密度が小さい強化繊維複合材1の製造を可能にする。すなわち、十分な軽量化が図られた強化繊維複合材1が得られる。
繊維状をなす樹脂2の平均長さは、特に限定されないが、1mm以上であるのが好ましく、2mm以上であるのがより好ましく、4mm以上であるのがさらに好ましい。繊維状をなす樹脂2の平均長さを前記範囲内に設定することにより、繊維状をなす樹脂2と第1繊維束31および第2繊維束32との絡み合いの程度がさらに大きくなる。これにより、製造される強化繊維複合材1において実現可能な空孔率の幅をより広くとることができる。
なお、繊維状をなす樹脂2の平均長さの上限値は、特に限定されないが、例えば100mm以下であるのが好ましく、50mm以下であるのがより好ましい。これにより、強化繊維複合材1を製造するにあたって繊維状をなす樹脂2を分散媒5に分散させるとき、その分散性が良好になる。その結果、最終的に機械的特性に優れた強化繊維複合材1が得られる。
なお、繊維状をなす樹脂2の平均長さとは、任意の100本以上の繊維状をなす樹脂2について、その長さを測定し、平均した値のことをいう。
また、繊維状をなす樹脂2の平均長さは、第1繊維束31および第2繊維束32の平均長さの10〜1000%程度であるのが好ましく、20〜500%程度であるのがより好ましい。これにより、繊維状をなす樹脂2と第1繊維束31および第2繊維束32との絡まり合いの程度がより顕著になるため、素形体10の保形性がより良好になるとともに、より幅広い範囲の空孔率の強化繊維複合材1を容易に製造可能な素形体10が得られる。
また、繊維状をなす樹脂2の平均径は、特に限定されないが、1〜100μm程度であるのが好ましく、5〜80μm程度であるのがより好ましい。繊維状をなす樹脂2の平均径を前記範囲内に設定することにより、繊維状をなす樹脂2自体がある程度の機械的強度を有するものとなるため、素形体10において繊維状をなす樹脂2が均一に分散した状態を維持し易くなる。その結果、製造される強化繊維複合材1において実現可能な空孔率の幅をより広くとることができる。
なお、繊維状をなす樹脂2の平均径とは、任意の100本以上の繊維状をなす樹脂2について、その径を測定し、平均した値のことをいう。
また、繊維状をなす樹脂2の径に対する長さの比(長さ/径)は、10以上であるのが好ましく、100以上であるのがより好ましい。これにより、繊維状をなす樹脂2が上記のような効果をより確実に発揮する。
また、素形体10には、さらに、融点が200℃未満である熱可塑性樹脂(以下、「低融点樹脂」という。)が含まれていてもよい。この低融点樹脂が含まれることにより、素形体10の保形性をより高めることができる。すなわち、素形体10が加圧成形における加熱温度よりも低温で加熱されたとき(例えば乾燥等)、低融点樹脂が溶融して第1繊維束31や第2繊維束32等の繊維同士、樹脂2同士または繊維と樹脂2との間を結着する。これにより、素形体10はその形状を維持し易くなる。その結果、最終的に得られる強化繊維複合材1についても、目的とする空孔率が得られ易くなるとともに、寸法精度や機械的特性についても低下し難くなる。また、素形体10が型崩れし難くなるため、素形体10を把持し易くなり、可搬性が高くなる。これにより、素形体10を梱包したり、搬送したりする作業をより容易に行うことができる。
溶融する前の低融点樹脂の形状は、特に限定されず、略球形粒子状、薄膜粒子状等の粒子状(粉状)をなしていてもよく、繊維状をなしていてもよい。
また、素形体10における低融点樹脂の含有量は、特に限定されないが、0.5〜30体積%程度であるのが好ましく、1〜20体積%程度であるのがより好ましく、2〜10体積%程度であるのがさらに好ましい。これにより、前述した効果を損なうことなく、低融点樹脂を添加することによる素形体10の保形性を高めるという効果が必要かつ十分に確保される。
低融点樹脂の融点は、樹脂2の融点から10〜250℃程度低いのが好ましく、50〜200℃程度低いのがより好ましい。このような融点の差があることにより、低融点樹脂が乾燥等の工程において溶融するとともに、加圧成形の際には熱分解して除去され易くなる。このため、低融点樹脂が持つ機能を最大限に発揮させることができる。すなわち、素形体10においては低融点樹脂がその形状を維持させるように働き、強化繊維複合材1においては低融点樹脂が多く存在することによる機械的特性の低下を抑制することができる。
素形体10における第1繊維束31の含有量と第2繊維束32の含有量の合計は、特に限定されないが、樹脂2の20〜300体積%程度であるのが好ましく、30〜150体積%程度であるのがより好ましく、40〜90体積%程度であるのがさらに好ましい。第1繊維束31および第2繊維束32の含有量を前記範囲内に設定することにより、樹脂2と第1繊維束31および第2繊維束32との量的なバランスが最適化されるため、素形体10の保形性を高めつつ、さらには、より幅広い範囲の空孔率を実現可能な強化繊維複合材1を製造することができる素形体10が得られる。
[3]次に、素形体10を加熱しつつ加圧成形する。これにより、素形体10中の樹脂2の少なくとも一部を溶融させ、強化繊維複合材1(抄造成形体)が得られる。
具体的には、図6に示すように、成形型74と成形型75との間に素形体10を配置し、成形型74と成形型75との間に形成される図示しないキャビティーによって素形体10を加圧成形する。
例えば、成形型74を矢印Pのように降下させることにより、成形型74と成形型75との間で素形体10が圧縮される。このとき、素形体10は同時に加熱されるため、樹脂2の少なくとも一部が溶融し、第1繊維束31や第2繊維束32の間に流れ込み、これらを結着するバインダーとして機能する。その後、樹脂2が硬化することにより、樹脂2によって繊維同士が結着される。これにより、素形体10から強化繊維複合材1が得られる。
このときの加熱温度は、樹脂2の組成等に応じて適宜設定されるが、一例として150〜350℃程度であるのが好ましく、160〜300℃程度であるのがより好ましい。
また、このときの加熱時間は、加熱温度に応じて適宜設定されるが、1〜180分程度であるのが好ましく、5〜60分程度であるのがより好ましい。
また、このときの加圧力は、加熱温度や加熱時間に応じて適宜設定されるが、0.05〜80MPa程度であるのが好ましく、0.1〜60MPa程度であるのがより好ましい。
なお、本工程における条件を適宜変更することにより、強化繊維複合材1の空孔率を調整することが可能である。例えば、加熱温度を低くしたり、加熱時間を短くしたり、加圧力を小さくしたりしたときには、比較的空孔率の大きい強化繊維複合材1を得ることができる。一方、加熱温度を高くしたり、加熱時間を長くしたり、加圧力を大きくしたりしたときには、比較的空孔率の小さい強化繊維複合材1を得ることができる。
以上、本発明の強化繊維複合材および強化繊維複合材の製造方法を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、本発明の強化繊維複合材は、前記実施形態に任意の要素が付加されたものであってもよい。
また、本発明の強化繊維複合材の製造方法は、前記実施形態に任意の工程を付加したものであってもよく、前記実施形態の各工程の順序を入れ替えたものであってもよい。
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.強化繊維複合材の製造
(実施例1)
[1]まず、以下の原料を水に加え、ディスパーザーで20分間撹拌した。これにより、固形分濃度0.6質量%の分散液を得た。なお、各原料の詳細、配合比は表1に示す通りである。
・レゾール型フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製、品番PR−51723)
・低開繊率炭素繊維(第1繊維束、PAN系炭素繊維)
・高開繊率炭素繊維(第2繊維束、PAN系炭素繊維)
・アラミドパルプ(デュポン社製、品番パラアラミドパルプ)
[2]次に、得られた分散液に、あらかじめ水に溶解させた凝集剤(ポリエチレンオキシド、分子量1000000)を、上述した固形分に対して0.2質量%の割合で添加し、固形分を凝集させた。
[3]次に、分散液を、30メッシュの金属網(スクリーン)でろ過し、凝集物を圧力3MPaで脱水プレスして水を除去した。
次に、脱水した凝集物を、70℃で3時間乾燥させて、素形体を得た。
[4]次に、成形型のキャビティー内に、素形体を配置した。
次に、成形型を加熱しつつ、素形体を4mmの厚さに加圧成形した。このときの加熱温度を180℃、加圧力を2MPa、加圧時間を10分間とした。
以上により、強化繊維複合材を得た。
[5]次に、製造した強化繊維複合材(縦50mm×横50mm)の第1面および第2面を光学顕微鏡で観察し、観察像を得た。なお、この第2面は、抄造の際に金属網(スクリーン)に接していた面であり、第1面は、第2面とは反対の面である。続いて、観察像において第1繊維束および第2繊維束を特定するとともに、それぞれの面積率を算出した。
そして、第1面において低開繊率炭素繊維(第1繊維束)が占める面積率をA1とし、第2面において低開繊率炭素繊維(第1繊維束)が占める面積率をA2とするとき、相対的に幅が広い炭素繊維がどの程度偏在しているのかを示す指標としてA1−A2を算出した。
また、第1面において高開繊率炭素繊維(第2繊維束)が占める面積率をB1とし、第2面において高開繊率炭素繊維(第2繊維束)が占める面積率をB2とするとき、相対的に幅が狭い炭素繊維がどの程度偏在しているのかを示す指標としてB2−B1を算出した。
なお、観察範囲は、強化繊維複合材(縦50mm×横50mm)の第1面の全面および第2面の全面であり、上記各面積率は、縦50mm×横50mmにおいて各繊維束が占める面積の割合として算出した。
(実施例2〜8)
強化繊維複合材の製造条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして強化繊維複合材を得た。
なお、表1における略称は、以下の意味である。
PPS:ポリフェニレンサルファイド
PEI:ポリエーテルイミド
SUS:ステンレス鋼(SUS316L)
(比較例1〜4)
強化繊維複合材の製造条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして強化繊維複合材を得た。
2.強化繊維複合材の評価
2.1 電気的特性の差の評価
各実施例および各比較例の強化繊維複合材について、JIS K 6911:1995に規定された熱硬化性プラスチック一般試験方法に準拠して、第1面および第2面の表面抵抗をそれぞれ求めた。
次いで、各表面の表面抵抗の差(抵抗差)を算出するとともに、第1面の表面抵抗に対する抵抗差の割合を算出した。そして、求めた割合を、以下の評価基準に照らして評価した。
<表面抵抗の評価基準>
◎:抵抗差が第1面の表面抵抗の10%以上である
○:抵抗差が第1面の表面抵抗の3%以上10%未満である
△:抵抗差が第1面の表面抵抗の1%以上3%未満である
×:抵抗差が第1面の表面抵抗の1%未満である
評価結果を表1に示す。
2.2 曲げ弾性率の評価
各実施例および各比較例の強化繊維複合材について、ISO178:2001に準拠した方法により、曲げ弾性率を25℃において測定した。
次いで、測定した曲げ弾性率を、以下の評価基準に照らして評価した。
<曲げ弾性率の評価基準>
◎:曲げ弾性率が5GPa以上である
○:曲げ弾性率が3GPa以上5GPa未満である
△:曲げ弾性率が1GPa以上3GPa未満である
×:曲げ弾性率が1GPa未満である
評価結果を表1に示す。
表1から明らかなように、各実施例の強化繊維複合材は、第1面および第2面の間で、電気的特性に有意差が認められた。一方、曲げ弾性率等の機械的特性は良好であった。よって、本発明によれば、機械的特性が高いという強化繊維複合材の利点を維持しつつ、第1面と第2面とで物性が異なるという付加価値を有する強化繊維複合材を実現することができる。
なお、表には示していないものの、各実施例の強化繊維複合材では、いずれも、第1面と第2面とで耐摩耗性にも有意差が認められた。