JP2018164960A - 高耐欠損性を有する被覆超硬合金工具 - Google Patents

高耐欠損性を有する被覆超硬合金工具 Download PDF

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Ryo Ichikawa
龍 市川
大 宮下
Masaru Miyashita
大 宮下
翔太 近藤
Shota KONDO
翔太 近藤
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Abstract

【課題】鋼の切刃に対する衝撃的な高負荷が作用する高速かつ断続の厳しい条件下におけるミーリング加工において、高耐チッピング性、耐欠損性、および、耐酸化性において優れた硬質被覆層を備えた被覆工具を提供する。【解決手段】Coを結合相として有する工具基体の表面に設けられた硬質被覆層は、工具基体と接する平均層厚0.5〜10.0μmのTiCN層と、前記TiCN層に接する平均層厚1.5〜15.0μmのAlTiN層を少なくとも含み、前記TiCN層と前記AlTiN層との総平均層厚は、2.0〜16.0μmであり、前記TiCN層における工具基体表面から深さ0.2μmの位置におけるTiCN粒界上での平均Co濃度が、5at%以上10at%以下であり、前記AlTiN層は、NaCl型の面心立方晶構造を有する結晶粒を少なくとも含み、かつ、AlとTiの合量に対してAlの占める平均含有割合は、0.65以上0.90以下である。【選択図】図1

Description

本発明は、鋼の高熱発生を伴うとともに、切刃に対して衝撃的な高負荷が作用する高速かつ断続の厳しい条件下におけるミーリング加工において、硬質被覆層がすぐれた高耐チッピング性、耐欠損性、および、耐酸化性を備えることにより、長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を有する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
従来、一般に、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金あるいは炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットで構成された工具基体(以下、これらを総称して工具基体という)の表面に、硬質被覆層として、Ti−Al系の複合窒化物層を物理蒸着法により被覆形成した被覆工具が知られており、これらは、すぐれた耐摩耗性を発揮することが知られている。
しかしながら、従来の前記Ti−Al系の複合窒化物を被覆形成した被覆工具においては、比較的耐摩耗性にはすぐれるものの、高速断続切削条件にて用いた場合には、チッピングや欠損等の異常損傷を発生しやすく、また、被覆層に含有されるAl比率が低いことから、保護膜が十分に形成されず、耐酸化性に劣り早期に寿命に達するという課題を有していた。
これに対して、例えば、特許文献1においては、超硬合金基体上にCVD法により、800〜880℃において、炭窒化チタンの縦長結晶を有する炭窒化チタン層を形成した後、さらに、前記炭窒化チタン層上に、AlTi1−XN(平均組成X≧0.7)層の多層膜を形成することが提案されている。
国際公開第2012/126030号パンフレット
近年の切削加工における省力化および省エネ化の要求は強く、これに伴い、切削加工は一段と高速化、高効率化の傾向にあり、被覆工具には、より一層、耐チッピング性、耐欠損性、および、耐酸化性等の特性が求められるとともに、長期の使用にわたってのすぐれた耐摩耗性が求められている。
しかしながら、前記特許文献1には、特に、鋼の切刃に対する衝撃的な高負荷が作用する高速かつ断続の厳しい条件下におけるミーリング加工において、硬質被覆層が求められる、高耐チッピング性、耐欠損性、および、耐酸化性については、何らの解決手段も示されていない。
本発明者らは、前述の観点から、AlとTiの複合窒化物(以下、「AlTiN」で示すことがある)層およびTiの炭窒化物(以下、「TiCN」で示すことがある)層を含む硬質被覆層を化学蒸着で形成した被覆工具において、チッピング、欠損等の異常損傷を発生することなく、耐酸化性に優れ、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮する被覆工具の硬質被覆層について鋭意研究を重ねた結果、次のような知見を得た。
即ち、本発明者らは、限定された条件で、基体に対し、TiCN層を成膜し、成膜後、前記TiCN層に対し熱処理を行うことにより、基体中に結合相として含まれるCoを、基体と前記TiCN層との境界部よりTiCN層中のTiCN粒界に拡散させ、TiCN層中の所定深さ位置におけるCo濃度を高め、TiCN層の強靭化を図ることにより、チッピングを抑制することができ、また、引き続き、前記TiCN層上に、Alを高濃度にて含有し、NaCl型の面心立方晶構造を有するAlTiN結晶粒を含むAlTiN層を最外層として成膜し、切削時の切削熱により被膜表面にアルミニウム酸化物層を形成させ、該酸化物層を保護膜として機能させることができるため、硬質被覆層として、かかるTiCN層およびAlTiN層を形成した被覆工具は、切刃に対して衝撃的な高負荷が作用する高速かつ断続の厳しい条件下における鋼のミーリング加工において、すぐれた高耐チッピング性、耐欠損性、および、耐酸化性を発揮することを見出したものである。
また、前記AlTiN層において、NaCl型の面心立方晶構造(以下、単に「面心立方晶構造」という場合もある)を有するAlTiN結晶粒について、X線回折測定により回折ピーク強度を求めた際に、(111)面、(200)面、および、(220)面において、(111)面が最大ピークを有し、かつ、(111)面の回折ピーク強度をIfcc(111)とし、(200)面の回折ピーク強度をIfcc(200)とした場合、Ifcc(111)/(Ifcc(111)+Ifcc(200))≧0.5を満足するときに、AlTiN層の耐摩耗性が向上することを見出した。
さらに、前記AlTiN層についてX線回折測定を行い、面心立方晶構造を有するAlTiN結晶粒の(111)面回折ピーク強度Ifcc(111)と六方晶構造を有するAlTiN結晶粒の(100)面回折ピーク強度Ihcp(100)を求めた際に、Ifcc(111)/(Ifcc(111)+Ihcp(100))≧0.9を満足する際には、より一段と耐摩耗性が向上することを見出した。
本発明は、前記の知見に基づいてなされたものであって、
「(1) Coを結合相として有する工具基体の表面に、硬質被覆層が設けられている表面被覆切削工具において、
(a)前記硬質被覆層は、工具基体と接するTiCN層と、前記TiCN層に接するAlTiN層を少なくとも含み、
(b)前記TiCN層の平均層厚は、0.5〜10.0μmであり、前記AlTiN層の平均層厚は、1.5〜15.0μmであり、また、前記TiCN層と前記AlTiN層との総平均層厚は、2.0〜16.0μmであり、
(c)前記TiCN層における工具基体表面から深さ0.2μmの位置におけるTiCN粒界上での平均Co濃度が、5at%以上10at%以下であり、
(d)前記AlTiN層は、NaCl型の面心立方晶構造を有する結晶粒を少なくとも含み、かつ、AlTiNの組成を組成式:(AlTi1−x)Nで表した場合のAlとTiの合量に対してAlが占める平均含有割合Xavg(但し、Xavgは原子比)は、0.65≦Xavg≦0.90の関係を満足することを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 前記AlTiN層において、前記面心立方晶構造を有するAlTiN結晶粒について、X線回折測定により回折ピーク強度を求めた際に、(111)面、(200)面、および、(220)面において、(111)面が最大ピークを有し、
かつ、(111)面の回折ピーク強度をIfcc(111)とし、(200)面の回折ピーク強度をIfcc(200)とした場合、Ifcc(111)/(Ifcc(111)+Ifcc(200))≧0.5を満足し、
また、前記AlTiN層において、六方晶構造を有するAlTiN結晶粒について、(100)面回折ピーク強度をIhcp(100)として求めた際に、Ifcc(111)/(Ifcc(111)+Ihcp(100))≧0.9を満足することを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
本発明について、以下に詳細に説明する。
AlTiN層、TiCN層、および、全硬質被覆層の平均層厚:
AlTiN層は、高硬度にて、すぐれた耐摩耗性を有するが、特に平均層厚が1.5μm以上15.0μm以下のとき、その効果が際立って発揮される。その理由は、平均層厚が1.5μm未満では、層厚が薄いため、長期の使用に亘っての耐摩耗性を十分確保することができず、一方、その平均層厚が15.0μmを越えると、AlTiN層の結晶粒が粗大化し易くなり、チッピングを発生しやすくなるためである。
また、TiCN層の膜厚については、0.5μm未満では層厚が薄いため、長期の使用に亘っての耐摩耗性を十分確保することができず、10.0μmを超えるとTiCN層の結晶粒が粗大化し、チッピングの発生が生じる可能性があるため、その平均層厚を0.5μm以上10.0μm以下と定めた。
そして、全硬質被覆層の総平均層厚については、2.0μm未満では、耐摩耗性が不十分であり、16.0μmを超える場合には、耐チッピング性が不十分となるため、2.0μm以上16.0μm以下と定めた。
TiCN層における平均Co濃度:
TiCN層中の工具基体表面から深さ0.2μmの位置におけるTiCN粒界上での平均Co濃度が、5at%以上10at%以下であるとき、TiCN層を強靭化できることを見出した。
平均Co濃度が5at%未満である場合は、所望の強靭化効果を実現することはできず、一方、平均Co濃度が10at%を超えると、TiCN層の耐摩耗性が低下することから、
5at%以上10at%以下と規定した。
Co濃度の測定は、オージェ電子分光分析により測定を行った。
具体的には、TiCN層について工具基体表面からTiCN層の内部深さ0.2μmまでの範囲において、オージェ電子分光分析器を用いて、複数個所(10箇所)におけるCo成分の濃度を測定し、得られた複数の測定値(10箇所の測定値)を平均することによって、平均Co含有割合(原子%)を求めた。(表5、表6を参照。)
AlTiN層の結晶構造:
本発明のAlTiN層の面心立方晶構造を有するAlTiN結晶粒について、X線回折により(111)面の回折ピーク強度Ifcc(111)と、(200)面の回折ピーク強度Ifcc(200)を求めた場合、Ifcc(111)/(Ifcc(111)+Ifcc(200))≧0.5の関係を満足する場合には、稠密面である(111)配向性が高いために、AlTiN層の耐摩耗性が飛躍的に向上する。
また、本発明のAlTiN層についてX線回折を行い、面心立方晶構造を有する結晶粒の(111)面の回折ピーク強度Ifcc(111)と、六方晶構造を有する結晶粒の(100)面の回折ピーク強度Ihcp(100)を求めた時、Ifcc(111)/(Ifcc(111)+Ihcp(100))≧0.9の関係を満足することが好ましい。
この場合、AlTiN層は面心立方晶構造のAlTiN結晶粒を主体として構成されているため、より一層耐摩耗性が向上する。一方、Ifcc(111)/(Ifcc(111)+Ihcp(100))<0.9になると、AlTiN層中に六方晶構造を有する結晶相が増加するため、耐摩耗性の低下がみられる。
AlTiN層の組成:
本発明のAlTiN層は、AlのTiとAlの合量に占める平均含有割合Xavg(但し、Xavgは原子比)が、0.65≦Xavg≦0.90を満足するように制御する。
その理由は、Alの平均含有割合Xavgが0.65未満であると、AlTiN層は耐酸化性に劣るため、鋼を高速断続切削加工に供した場合に、耐摩耗性が十分でない。一方、Alの平均含有割合Xavgが0.90を超えると、硬さに劣る六方晶の析出量が増大し硬さが低下するため、耐摩耗性が低下する。
また、本発明では、AlTiN層中のAlの平均含有割合Xavgは、0.65≦Xavg≦0.90であって、AlTiN層中のAlの含有量が高いため、切削加工時の発熱によってAlTiN層表面にはAlリッチな酸化物層が形成され、これが保護層として働き、AlTiN層中のクラックの発生・進展を抑制する作用が期待される。
したがって、Alの平均含有割合Xavgは、0.65≦Xavg≦0.90と定めた。
超硬基材とTiCN層、および、AlTiN層の関係:
図1は、本発明に係る超硬基材とTiCN層、および、AlTiN層の関係の一例を示す部分拡大模式図である。
図1では、超硬母材にMT(Moderate Temperature)-CVD法を用いて超硬母材上に700〜900℃にてTiCN層を成膜した後、1000℃前後の温度に加熱し、超硬母材に結合相として含まれるCoをTiCN層の結晶粒界に拡散させ、TiCN膜の強靭化を図る様子を示した模式図である。
本発明のTiCN層、および、AlTiN層の成膜方法:
本発明で規定する成分組成、配向性を備えたTiCN層、および、AlTiN層は、以下に示す成膜条件にて化学蒸着法を用いることにより形成することができる。
[成膜条件]
TiCN層の成膜条件
成膜方法:CVD
反応ガス組成(容量%):
TiCl:1.0〜4.0%、CHCN:0.1〜1.0%、
:0.0〜25.0%、H:残、
反応雰囲気圧力:4.0〜5.0kPa、
反応雰囲気温度:700〜900℃、

TiCN層の成膜後の熱処理条件
雰囲気:H
雰囲気圧力:26〜40kPa
熱処理温度:1050℃〜1100℃
熱処理時間:30分〜80分

AlTiNの成膜条件
成膜方法:CVD
反応ガス組成(容量%):
ガス群A:NH:0.8〜1.6%、H:45〜55%、
ガス群B:AlCl:0.5〜0.7%、TiCl:0.1〜0.3%、
:0.0〜10%、H:残、
反応雰囲気圧力:4.0〜5.0kPa、
反応雰囲気温度:700〜900℃、
供給周期 :1〜5秒、
1周期当たりのガス供給時間:0.15〜0.25秒、
ガス群Aの供給とガス群Bの供給の位相差:0.10〜0.20秒
本発明は、工具基体の表面に硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具であって、工具基体の表面に、TiCN層を成膜し、成膜後、前記TiCN層に対し熱処理を行うことにより、基体中に結合相として含まれるCoを前記TiCN層のTiCN粒界に拡散させ、TiCN層の強靭化を図り、チッピングを抑制することができ、また、引き続き、前記TiCN層上に、Al高含有のAlTiN層を成膜し、切削時の切削熱により被膜表面にアルミニウム酸化物層を形成させ、該酸化物層を保護膜として機能させることができるため、切刃に対して衝撃的な高負荷が作用する高速かつ断続の厳しい条件下における鋼のミーリング加工において、すぐれた高耐チッピング性、耐欠損性、および、耐酸化性を発揮するものである。
また、本発明は、前記AlTiN層の面心立方晶構造を有するAlTiN結晶粒について、X線回折により(111)面の回折ピーク強度Ifcc(111)と、(200)面の回折ピーク強度Ifcc(200)を求めた場合、Ifcc(111)/(Ifcc(111)+Ifcc(200))≧0.5の関係を満足する場合には、稠密面である(111)配向性が高いために、AlTiN層の耐摩耗性が飛躍的に向上する。
また、さらに、本発明のAlTiN層についてX線回折を行い、面心立方晶構造を有する結晶粒の(111)面の回折ピーク強度Ifcc(111)と、六方晶構造を有する結晶粒の(100)面の回折ピーク強度Ihcp(100)を求めた時、Ifcc(111)/(Ifcc(111)+Ihcp(100))≧0.9の関係を満足する場合には、AlTiN層は面心立方晶構造のAlTiN結晶粒を主体として構成されているため、より一層耐摩耗性が向上する。
超硬母材に結合相として含まれるCoがTiCN層の結晶粒界に拡散し、TiCN膜の強靭化が図られるメカニズムを示す模式図である。
つぎに、本発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、ISO・SEEN1203AFSNのインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A,Bをそれぞれ製造した。
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、NbC粉末、WC粉末、Co粉末およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1500℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、ISO・SEEN1203AFSNのインサート形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体Cを作製した。
つぎに、これらの工具基体A〜Cの表面に、化学蒸着装置を用い、表3に示される形成条件A〜G、すなわち、TiCl、CHCN、NおよびHからなる反応ガス組成を、TiCl:1.0〜4.0%、CHCN:0.1〜1.0%、N:0.0〜25.0%,H:残とし、反応雰囲気圧力:4.0〜5.0kPa、反応雰囲気温度:700〜900℃として、所定時間、MT(Moderate Temperature)−CVD法を用いTiCN層を成膜し、次いで、表3に示される成膜後の熱処理条件にて熱処理を行った後、表4に示される形成条件A〜G、すなわち、NHおよびHからなるガス群Aと、AlCl、TiCl、NおよびHからなるガス群B、および、おのおのガスの供給方法として、反応ガス組成(ガス群Aおよびガス群Bを合わせた全体に対する容量%)をガス群Aとして、NH:0.8〜1.6%、H:45〜55%、ガス群Bとして、AlCl:0.5〜0.7%、TiCl:0.1〜0.3%、N:0.0〜10%、H:残、反応雰囲気圧力:4.0〜5.0kPa、反応雰囲気温度700〜900℃、供給周期1〜5秒、1周期当たりのガス供給時間0.15〜0.25秒、ガス群Aの供給とガス群Bの供給の位相差を0.10〜0.20秒として、所定時間、通常の熱CVD法を用い、AlTiN層を成膜することにより、表5に示されるTiCN層およびAlTiN層を有する本発明被覆工具1〜12を製造した。
また、比較の目的で、前記工具基体A〜Cの表面に、表3および表4に示される比較成膜工程の条件で、表6に示される目標層厚(μm)で本発明被覆工具1〜12と同様に、TiCN層および/またはAlTiN層を含む硬質被覆層を蒸着形成し比較例被覆工具1〜12を製造した。この時には、AlTiN層の成膜工程中に、工具基体表面における反応ガス組成が時間的に変化しない様に硬質被覆層を形成することにより比較例被覆工具1〜12を製造した。
ついで、本発明被覆工具1〜12、比較例被覆工具1〜12の各構成層の工具基体に垂直な方向の断面を、走査型電子顕微鏡(倍率5000倍)を用いて測定し、観察視野内の5点の層厚を測って平均して平均層厚を求めたところ、いずれも表5および表6に示される目標平均層厚と実質的に同じ平均層厚を示した。
また、AlTiN層の平均Al含有割合Xavgについては、電子線マイクロアナライザ(EPMA,Electron−Probe−Micro−Analyser)を用い、表面を研磨した試料において、電子線を試料表面側から照射し、得られた特性X線の解析結果の10点平均からAlの平均Al含有割合Xavgを求めた。
表5および表6に、Xavgの値を示す。
また、AlTiN層について、Cr管球を用いたX線回折によって、面心立方晶構造のAlTiN結晶粒の(111)面の回折ピーク強度Ifcc(111)、(200)面の回折ピーク強度Ifcc(200)および六方晶構造のAlTiN結晶粒の(100)面の回折ピーク強度Ihcp(100)を測定するとともに、Ifcc(111)/{Ifcc(111)+Ifcc(200)}の値およびIfcc(111)/{Ifcc(111)+Ihcp(100)}の値を算出した。
表5および表6に、これらの値を示す。








つぎに、前記本発明被覆工具1〜12、比較例被覆工具1〜12について、以下に示す、高速切削断続加工試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
その結果を表7に示す。
なお、比較例被覆工具1〜12については、熱亀裂の伝播・進展を原因として、チッピング発生により工具寿命に至ったものについては、寿命に至るまでの切削時間(分)を記載している。
切削試験 :乾式高速正面フライス、センターカット切削加工、
被削材 :JIS・SCM440幅100mm、長さ400mmのブロック材、
回転速度 :968min−1
切削速度 :380m/min、
切り込み :1.5mm、
一刃送り量:0.4mm/刃、
切削時間 :5分

表7に示されるように、本発明にかかる被覆工具は、鋼の高速、断続切削条件下においても、長期の使用に亘ってすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮するものである。
他方、TiCN層またはAlTiN層の形成条件を満たさず、目的とする膜厚や、平均Co濃度、Al平均含有割合が得られなかったものでは、チッピングや欠損等がみられ、短時間で寿命に至るものであった。
本発明の被覆工具は、鋼の高熱発生を伴い、また、切刃に対して衝撃的な高負荷が作用する高速かつ断続の厳しい条件下においても、すぐれた耐チッピング性、耐欠損性、および、耐酸化性を備え長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を有するものであるから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。





Claims (2)

  1. Coを結合相として有する工具基体の表面に、硬質被覆層が設けられている表面被覆切削工具において、
    (a)前記硬質被覆層は、工具基体と接するTiCN層と、前記TiCN層に接するAlTiN層を少なくとも含み、
    (b)前記TiCN層の平均層厚は、0.5〜10.0μmであり、前記AlTiN層の平均層厚は、1.5〜15.0μmであり、また、前記TiCN層と前記AlTiN層との総平均膜厚は、2.0〜16.0μmであり、
    (c)前記TiCN層における工具基体表面から深さ0.2μmの位置におけるTiCN粒界上での平均Co濃度が、5at%以上10at%以下であり、
    (d)前記AlTiN層は、NaCl型の面心立方晶構造を有する結晶粒を少なくとも含み、かつ、AlTiNの組成を組成式:(AlTi1−x)Nで表した場合のAlとTiの合量に対してAlの占める平均含有割合Xavg(但し、Xavgは原子比)は、0.65≦Xavg≦0.90の関係を満足することを特徴とする表面被覆切削工具。
  2. 前記AlTiN層を構成する前記面心立方晶構造を有するAlTiN結晶粒について、X線回折測定による回折ピーク強度を求めた際に、(111)面、(200)面、および、(220)面において、(111)面が最大ピークを示し、
    かつ、(111)面の回折ピーク強度をIfcc(111)とし、(200)面の回折ピーク強度をIfcc(200)とした場合、Ifcc(111)/(Ifcc(111)+Ifcc(200))≧0.5を満足し、
    また、前記AlTiN層において、六方晶構造を有するAlTiN結晶粒について、(100)面回折ピーク強度をIhcp(100)として求めた際に、Ifcc(111)/(Ifcc(111)+Ihcp(100))≧0.9を満足することを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。」

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