JP7137149B2 - 硬質被覆層が優れた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents

硬質被覆層が優れた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 Download PDF

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Description

本発明は、鋳鉄等の高速断続切削加工に用いても、硬質被覆層が優れた耐チッピング性を備えることにより、長期の使用にわたって優れた切削性能を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具ということがある)に関するものである。
従来、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金等の工具基体の表面に、硬質被覆層として、Ti-Al系の複合炭窒化物層を被覆形成した被覆工具があり、これらは、優れた耐摩耗性を発揮することが知られている。
ただ、前記従来のTi-Al系の複合炭窒化物層を被覆形成した被覆工具は、比較的耐摩耗性に優れるものの、高速断続切削条件等で用いた場合にチッピング等の異常損耗を発生しやすいことから、硬質被覆層の改善についての種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、工具基体に一層又は多層からなる被覆層を設け、該被覆層の少なくとも一層は少なくともチタンとアルミニウムと窒素を含む窒化チタンアルミニウム膜である窒化チタンアルミニウム膜被覆工具において、該窒化チタンアルミニウム膜の結晶構造が立方晶であり、引張り残留応力を有し、かつ含有塩素量が0.01~2質量%であることを特徴とする窒化チタンアルミニウム膜被覆工具が記載されている。
また、例えば、特許文献2には、CVDによって形成された複数のTi1-xAlN層および/またはTi1-xAlC層および/またはTi1-xAlCN層(式中、xは0.65~0.95である)の上にAl層が外層として配置されていることを特徴とする、硬質材料で被覆された被覆工具が記載されている。
さらに、例えば、特許文献3には、複数層として、Ti1-xAlNからなる第1単位層と、Ti1-yAlNからなる第2単位層とが交互に積層された多層構造を含み、前記第1単位層はfcc型結晶構造を有して、0<x<0.65であり、第2単位層はhcp型結晶構造を有して、0.65≦y<1である被膜を有する被覆工具が記載されている。
加えて、例えば、特許文献4には、複数の結晶粒と、前記結晶粒の間の非晶質相と、を含み、前記結晶粒は、それぞれ、fcc構造を有するTi1-xAlN層と、hcp構造を有するTi1-yAlN層とが交互に積層された構造を有しており、0≦x<1、0<y≦1、(y-x)≧0.1の関係を満たし、前記非晶質相は、TiおよびAlの少なくとも一方の炭化物、窒化物または炭窒化物を含む、硬質被膜を有する被覆工具が記載されている。
加えて、例えば、特許文献5には、fcc構造を主体とする窒化チタンアルミニウム皮膜からなる下層と、hcp構造の窒化アルミニウムからなる上層とを有する硬質皮膜であって、前記上層は柱状結晶組織を有し、前記柱状結晶の平均横断面径が0.05~0.6μmであり、前記上層における(100)面のX線回折ピーク値Ia(100)と(002)面のX線回折ピークIa(002)との比が、Ia(002)/Ia(001)≧6の関係を満たす硬質皮膜からなり、前記上層が前記下層の上にエピタキシャル成長していることを特徴とする被覆工具が記載されている。
特開2001-341008号公報 特表2011-516722号公報 特開2015-124407号公報 特開2016-3369号公報 国際特許公開2018/008554号
しかし、特許文献1~4に記載された被覆工具は、鋳鉄等の高速断続切削加工に供した場合には被覆工具のすくい面の皮膜における熱亀裂等の異常損傷が発生し、それを起点としたチッピングが発生しやすく満足する切削性能を発揮するとはいえないものである。
また、特許文献5に記載された被覆工具は、鋳鉄等の高速断続切削加工に供した場合には上部層と下部層の密着性が充分でなく、上部層の剥離と、それを起点としたチッピングが発生しやすく満足する切削性能を発揮するとはいえないものである。
そこで、本発明は、鋳鉄等の高速断続切削加工に用いても、硬質被覆層が優れた耐チッピング性を備えることにより、長期の使用にわたって優れた切削性能を発揮する被覆工具を提供することを目的とする。
本発明者は、硬質被覆層としてのTiとAlとの複合窒化物層または複合炭窒化物層(以下、この複合窒化物層または複合炭窒化物層をTiAlCN層とも表記する)の熱亀裂等の異常損傷に起因するチッピング発生について鋭意検討を行ったところ、耐摩耗性が良好なNaCl型の面心立方構造(立方晶ということがある)のTiAlCN層を工具基体に近い層(工具基体側の層)にして、耐熱亀裂性が良好なTiとAlとBとの複合窒化物層または複合炭窒化物層(以下、この複合窒化物層または複合炭窒化物層をTiAlBCN層とも表記する)のウルツ鉱型の六方晶構造(六方晶ということがある)の層を積層すれば、鋳鉄等の高速断続切削加工において耐チッピング性が向上するという新規な知見を得た。
本発明は、この知見に基づくものであって、
「(1)工具基体の表面に、硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具であって、
(a)前記硬質被覆層は、ウルツ鉱型の六方晶構造を有するTiとAlとBの複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒を90面積%以上含むTiAlBCN層αを工具表面側に、NaCl型の面心立方構造を有するTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒を85面積%以上含むTiAlCN層βを前記工具基体側に、それぞれ一層ずつ有する積層構造であり、
(b)前記TiAlBCN層αの組成を組成式:(Ti(1-xα-yα)Alxαyα)(Czα(1-zα))で表した場合、AlのTiとAlとBの合量に占める平均含有割合xα、BのTiとAlとBの合量に占める平均含有割合yαとCのCとNの合量に占める平均含有割合zα(但し、xα、yα、zαはいずれも原子比)が、それぞれ、0.70≦xα+yα≦1.00、0.05≦yα≦0.40、0.000≦zα≦0.015、を満足し、
(c)前記TiAlCN層βの組成を組成式:(Ti(1-xβ)Alxβ)(Czβ(1-zβ))で表した場合、AlのTiとAlの合量に占める平均含有割合xβとCのCとNの合量に占める平均含有割合zβ(但し、xβ、zβはいずれも原子比)が、それぞれ、0.65≦xβ≦0.95、0.000≦zβ≦0.015を満足し、
(d)前記TiAlBCN層αと前記TiAlCN層βは、それぞれの平均層厚をLα、Lβとした場合、0.5μm≦Lα≦10.0μm、1.0μm≦Lβ≦20.0μmを満足する、
ことを特徴とする表面被覆切削工具。
(2)前記xαと前記yαと前記xβは、|xα+yα―xβ|≦0.20を満足することを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3)前記TiAlBCN層αと前記TiAlCN層βとの間にNaCl型の面心立方構造を有するTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒を少なくとも含むTiAlCN層γが存在し、
(a)前記TiAlCN層γの組成を組成式:(Ti(1-xγ)Alxγ)(Czγ(1-zγ))で表した場合、AlのTiとAlの合量に占める平均含有割合xγと、CのCとNの合量に占める平均含有割合zγ(但し、xγ、zγはいずれも原子比)について、
xγが、xα+yα≦xγ<xβまたはxα+yα≧xγ>xβ、
zγが、0.000≦zγ≦0.015、
をそれぞれ満足し、
(b)前記TiAlCN層γは、その平均層厚をLγとした場合、0.1μm≦Lγ≦1.0μmを満たす、
ことを特徴とする前記(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。
(4)前記TiAlBCN層αと前記TiAlCN層βとの間にNaCl型の面心立方構造を有するTiとAlとBの複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒を少なくとも含むTiAlBCN層δが存在し、
(a)前記TiAlBCN層δの組成を組成式:(Ti(1-xδ-yδ)Alxδyδ)(Czδ(1-zδ))で表した場合、AlのTiとAlとBの合量に占める平均含有割合xδ、BのTiとAlとBの合量に占める平均含有割合yδと、CのCとNの合量に占める平均含有割合zδ(但し、xδ、yδ、zδはいずれも原子比)について、
xδが、xα+yα≦xδ+yδ≦xβもしくはxα+yα≧xδ+yδ≧xβ、
yδが、0.03≦yδ≦0.10、
かつ、zδが、0.000≦zδ≦0.015、
をそれぞれ満足し、
(b)前記TiAlBCN層δは、その平均層厚をLδとした場合、0.1μm≦Lδ≦1.0μm、を満たす、
ことを特徴とする前記(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。
(5)前記表面被覆切削工具のすくい面に前記TiAlBCN層αと前記TiAlCN層βとの積層構造を含む前記硬質被覆層を有し、逃げ面の表面に前記TiAlCN層βを含む硬質被覆層を有することを特徴とする前記(1)乃至(4)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。」
である。
本発明の表面被覆切削工具は、逃げ面での耐摩耗性を維持しつつ、すくい面での熱亀裂の発生を防ぐことにより、すくい面から逃げ面に至る損傷を防ぎ、鋳鉄等の高速断続切削であっても長寿命であるという優れた効果を発揮する。
本発明に係る表面被覆切削工具の硬質被覆層の縦断面(工具基体に垂直な断面)の一実施形態あって、TiAlBCN層αとTiAlCN層βの間にTiAlCN層γ、TiAlBCN層δを有しないものの模式図である。 本発明に係る表面被覆切削工具の硬質被覆層の縦断面(工具基体に垂直な断面)の別の実施形態あって、TiAlBCN層αとTiAlCN層βの間にTiAlCN層γまたはTiAlBCN層δを有するものの模式図である。 本発明に係る表面被覆切削工具の硬質被覆層の縦断面(工具基体に垂直な断面)のさらに別の実施形態あって、すくい面にTiAlBCN層αとTiAlCN層βの積層構造を含む硬質被覆層を有し、逃げ面にはTiAlCN層βを有するものの模式図である。
以下、本発明の被覆工具について、より詳細に説明する。なお、本明細書、特許請求の範囲の記載において、数値範囲を「~」を用いて表現する場合、その範囲は上限および下限の数値を含むものである。
I.硬質被覆層の積層構造:
本発明に係る被覆工具は、図1に示すように、ウルツ鉱型の六方晶構造を有するTiとAlとBの複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒を少なくとも含むTiAlBCN層αを工具表面側に、NaCl型の面心立方構造を有するTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒を少なくとも含むTiAlCN層βを工具基体側に、それぞれ、1層ずつ有する積層構造を有している。
この積層構造とする理由は、耐熱亀裂性が良好なTiAlBCN層αを工具表面側に、耐摩耗性が良好であるTiAlCN層βを工具基体側に配置することにより、逃げ面における耐摩耗性を維持しつつ、すくい面における熱亀裂の発生を防止し、さらに、すくい面から逃げ面に至る損傷を防ぐことができ、鋳鉄等の高速断続切削加工においても長期にわたって優れた切削性能を発揮できるためである。
また、TiAlBCN層αは、Bの添加によって、ウルツ鉱型の六方晶構造の形成が確実となり、より低温の条件にて成膜できる。この為、下層(工具基体側)となるTiAlCN層βは、TiAlBCN層α成膜時のアニーリングの影響を受けず、立方晶の割合を高くすることができる。そして、TiAlBCN層αでは、刃先の温度上昇を抑制でき、耐チッピング性が向上する。
さらに、TiAlBCN層αとTiAlCN層βはともにAlを含有しており、両層間の密着性を高めることが出来る。また、図2に示すように、必要に応じて、このTiAlBCN層αとTiAlCN層βの密着性の向上のために、両層の間にNaCl型の面心立方構造を有するTiAlCN層γまたは同構造を有するTiAlBCN層δのいずれかを設けることが好ましい。
以下、各層について詳述する。
1.TiAlBCN層α:
TiAlBCN層αは、耐熱亀裂性(耐熱衝撃性)に優れたウルツ鉱型の六方晶構造を有するTiとAlとBの複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒を少なくとも含む層であって、工具表面側に設けられる。
(1)TiAlBCN層αの組成:
TiAlBCN層αは、組成を組成式:(Ti(1-xα-yα)Alxαyα)(Czα(1-zα))で表した場合、AlのTiとAlとBの合量に占める平均含有割合xα、BのTiとAlとBの合量に占める平均含有割合yαおよびCのCとNの合量に占める平均含有割合zα(但し、xα、yα、zαはいずれも原子比)が、それぞれ、0.70≦xα+yα≦1.00、0.05≦yα≦0.40、0.000≦zα≦0.015を満足することが好ましい。
xα+yαをこの範囲とする理由は、0.70未満になるとウルツ鉱型の六方晶構造が安定的に形成されず、耐熱亀裂性が低下するため好ましくなく、一方、その定義から1が上限となるためである。yαは、0.05未満であると、Bの添加量が少なく、摺動性が改善せず、一方、0.40を超えると、軟質である六方晶BNが多く生成し、硬さが低下して、耐摩耗性が低下してしまう。そして、zαをこの範囲とする理由は、この範囲にあるとき潤滑性が向上して切削時の衝撃を緩和し耐チッピング性が向上し、この範囲を逸脱するとTiAlCN層βとの密着性が低下しまうためである。
(2)TiAlBCN層αの平均層厚:
TiAlBCN層αの平均層厚Lαは、0.5μm~10.0μmが好ましい。この範囲とした理由は、0.5μm未満となると、硬質被覆層がすくい面においても早期に摩滅してしまい、耐熱亀裂性の向上効果が発揮されず、また、10.0μmを超えると、結晶粒が大きくなり層の耐チッピング性が低下するためである。より好ましい平均層厚範囲は、1.0μm~3.0μmである。
(3)TiAlBCN層αのウルツ鉱型六方晶構造を有する結晶粒の面積割合:
TiAlBCN層αのウルツ鉱型六方晶構造を有する結晶粒の面積割合は、90面積%以上とする。90面積%以上でなければ、ウルツ鉱型六方晶構造を有する結晶粒の量が十分ではなく、耐熱亀裂性、耐チッピング性が低下してしまう。より好ましい面積割合は、95面積%以上である。
2.TiAlCN層β:
TiAlCN層βは、耐摩耗性に優れたNaCl型の面心立方構造を有するTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒を少なくとも含む層であって、工具基体側に設けられる。
(1)TiAlCN層βの組成:
TiAlCN層βは、組成を組成式:(Ti(1-xβ)Alxβ)(Czβ(1-zβ))で表した場合、AlのTiとAlの合量に占める平均含有割合xβおよびCのCとNの合量に占める平均含有割合zβ(但し、xβ、zβはいずれも原子比)が、それぞれ、0.65≦xβ≦0.95、0.000≦zβ≦0.015を満足するように組成を制御する。
xβをこの範囲とする理由は、0.65未満であると、TiAlCN層βは硬さに劣るため、耐摩耗性が十分でなく、一方、0.95を超えると、相対的にTiの含有割合が減少するため、ウルツ鉱型の六方晶構造の結晶粒を含有しやすくなり、耐摩耗性の低下を招き好ましくないためである。また、zβはこの範囲にあるとき、TiAlCN層βと工具基体もしくは後述する下部層との密着性が向上し、かつ、潤滑性が向上することによって切削時の衝撃を緩和し、TiAlCN層βの耐チッピング性、耐欠損性が向上し、一方、この範囲を逸脱すると、TiAlBCN層αとの密着性が低下するため好ましくない。
(2)TiAlCN層βの平均層厚:
TiAlCN層βの平均層厚Lβは、1.0μm~20.0μmが好ましい。この範囲とした理由は、1.0μm未満では、層厚が薄いため長期の使用にわたって耐摩耗性を十分確保することができず、一方、20.0μmを超えると、TiAlCN層βの結晶粒が粗大化し易くなり、チッピングを発生しやすくなるため好ましくないためである。より好ましい平均層厚範囲は5.0μm~12.0μmである。
(3)TiAlCN層βのNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒の面積割合:
TiAlCN層βのNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒の面積割合は、85面積%以上とする。85面積%以上でなければ、耐摩耗性が低下し、逃げ面の摩耗が進みやすく、早期に被覆工具としての寿命に至ってしまう。より好ましい面積割合は、90面積%以上である。
(4)TiAlBCN層αのAlの平均含有割合xαおよびBの平均含有割合yαとTiAlCN層βのAlの平均含有割合xβの組成差:
TiAlBCN層αの平均含有割合xαおよびBの平均含有割合yαとTiAlCN層βの平均含有割合xβの組成差は、|xα+yα-xβ|≦0.20であることが好ましい。この範囲にあると、TiAlBCN層αとTiAlCN層βとの密着性がより向上し、熱亀裂発生後のチッピングの防止が容易となる。
3.TiAlCN層γ:
TiAlBCN層αとTiAlCN層βの密着性の向上のために、両層の間にNaCl型の面心立方構造を有するTiAlCN層γを有していることが好ましい。
(1)TiAlCN層γの組成:
TiAlCN層γの組成を組成式:(Ti(1-xγ)Alxγ)(Czγ(1-zγ))で表した場合、AlのTiとAlの合量に占める平均含有割合xγ、および、CのCとNの合量に占める平均含有割合zγ(但し、xγ、zγはいずれも原子比)が、xα+yα≦xγ<xβまたはxα+yα≧xγ>xβを満足し、かつ、0.000≦zγ≦0.015であることが好ましい。この組成のTiAlCN層γを設けることにより、TiAlBCN層αの結晶粒の初期核発生を容易とし、核密度を向上させることができ、TiAlBCN層αとTiAlCN層βとの密着性がより向上して耐チッピング性を高めることができる。
(2)TiAlCN層γの平均層厚:
TiAlCN層γの平均層厚は、0.1~1.0μmとする。この範囲とする理由は、0.1μm未満であるとTiAlCN層γの平均層厚が薄すぎて、TiAlCN層γによって十分に被覆されていないTiAlCN層βの領域が存在することにより、また、1.0μmを超えるとTiAlCN層γの結晶粒が粗大となって、TiAlBCN層αの結晶粒の初期核発生が十分になされず核密度が向上せず、いずれも、TiAlBCN層αとTiAlCN層βの密着性の向上が期待できないためである。
4.TiAlBCN層δ:
TiAlBCN層αとTiAlCN層βの密着性の向上のために、TiAlCN層γに替えて、両層の間にNaCl型の面心立方構造を有するTiAlBCN層δを有していることが好ましい。
(1)TiAlBCN層δの組成:
TiAlBCN層δの組成を組成式:(Ti(1-xδ-yδ)Alxδyδ)(Czδ(1-zδ))で表した場合、AlのTiとAlとBの合量に占める平均含有割合xδ、BのTiとAlとBの合量に占める平均含有割合yδと、CのCとNの合量に占める平均含有割合zδ(但し、xδ、yδ、zδはいずれも原子比)について、
xδが、xα+yα≦xδ+yδ≦xβもしくはxα+yα≧xδ+yδ≧xβ、
yδが、0.03≦yδ≦0.10、
かつ、zδが、0.000≦zδ≦0.015、
をそれぞれ満足していることが好ましい。
(2)TiAlBCN層δの平均層厚:
TiAlBCN層δの平均層厚は、0.1~1.0μmとする。この範囲とする理由は、0.1μm未満であるとTiAlBCN層δの平均層厚が薄すぎて、TiAlBCN層δによって十分に被覆されていないTiAlCN層βの領域が存在することにより、また、1.0μmを超えるとTiAlBCN層δの結晶粒が粗大となって、TiAlBCN層αの結晶粒の初期核発生が十分になされず核密度が高くないことにより、いずれも、TiAlBCN層αとTiAlCN層βの密着性の向上が期待できないためである。
5.TiAlCN層γとTiAlBCN層δのもたらすTiAlBCN層αとTiAlCN層βへの影響
前記組成のTiAlCN層γとTiAlBCN層δを設けることにより、TiAlBCN層αの結晶粒の初期核発生を容易とし、核密度を向上させることができ、TiAlBCN層αとTiAlCN層βとの密着性が向上して耐チッピング性を高めることができる。
6.すくい面にはTiAlBCN層αとTiAlCN層βを含む積層構造の硬質被覆層、逃げ面の表面にはTiAlCN層βを含む硬質被覆層:
図3に示すように、すくい面にはTiAlBCN層αとTiAlCN層βを含む積層構造の硬質被覆層を設け、逃げ面の表面にはTiAlCN層αを含まずTiAlCN層βを含む硬質被覆層を設けることが好ましい。逃げ面にTiAlBCN層αが設けられていてもよいが、被削材ともっとも擦れ合う逃げ面の表面には耐摩耗性が低いTiAlBCN層αが存在しない方が、TiAlBCN層αと一緒にその下部のTiAlCN層βが脱落することを防止でき、工具寿命がより一層向上する。
7.その他の層:
本発明の前記積層構造を有する硬質被覆層は、他の層を含んでもよい。例えば、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、0.1~20.0μmの合計平均層厚を有するTi化合物層を含む下部層を工具基体に隣接して設けた場合には、これらの層が奏する効果と相俟って、一層優れた耐摩耗性および熱的安定性を発揮することができる。
ここで、下部層の合計平均層厚が0.1μm未満では、下部層の効果が十分に奏されず、一方、20.0μmを超えると下部層の結晶粒が粗大化しやすくなり、チッピングを発生しやすくなる。
8.TiAlBCN層α、TiAlCN層β、TiAlCN層γ、TiAlBCN層δの各層の境界と平均層厚、組成、結晶構造および面積率の測定法:
TiAlBCN層α、TiAlCN層β、TiAlCN層γ、TiAlBCN層δの各層の境界は、硬質被覆層を集束イオンビーム装置(FIB:Focused Ion Beam system)、クロスセクションポリッシャー(CP:Cross section Polisher)等を用いて、研磨した縦断面(工具基体に垂直な断面)を作成し、この縦断面において、縦方向を硬質被覆層の層厚、横方向を工具基体に平行な100μmの四角形を測定領域とし、電子線後方散乱解析装置(EBSD:Electron Backscatter Diffraction)を用いて、前記測定領域に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流にて、0.01μmの間隔で照射して得られる電子線後方散乱回折像に基づき、個々の結晶粒の結晶構造を解析することにより求める。
解析に当たり、隣接する測定点(ピクセル)間で5度以上の方位差がある箇所を粒界と定義する。ただし、隣接するピクセルすべてと5度以上の方位差がある単独に存在するピクセルは結晶粒とは扱わず、2ピクセル以上連結しているものを結晶粒と扱う。
このようにして、各結晶粒を決定し、その結晶構造を鑑別することにより、前記各層の特定がなされ、各層におけるウルツ鉱型の六方晶構造、NaCl型の面心立方構造の結晶粒の面積率を求めることができる。
前記EBSDを用いた測定により、各層の結晶構造が異なる境界を画定することが出来る。画定した結晶構造が異なる境界をまたぐように、次に示す組成分析を行うことで、結晶構造変化と組成変化から、各層の境界領域間で平均層厚を求めることができる。また、各層のAlの平均含有割合(xα、xβ、xγ、xδ)は、オージェ電子分光法(AES:Auger Electron Spectrometry)を用いて電子線を照射して層厚方向に複数(例えば、5本以上)のライン分析を行って得られる解析結果を平均することにより求めることができる。
さらに、各層のCの平均含有割合(zα、zβ、zγ、zδ)やBの平均含有割合(yα、yδ)は、二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)によって各層毎に求めることができる。すなわち、イオンビームによる面分析とスパッタイオンビームによるエッチングを交互に繰り返すことにより、深さ方向の含有割合測定を行う。具体的には、前記各層において、0.05μm以上侵入した箇所から、0.01μm以下のピッチで少なくとも0.05μmの長さで測定を行った平均値を求め、これを5箇所以上行って、各層のCの平均含有割合、Bの平均含有割合を求める。
II.工具基体:
工具基体は、この種の工具基体として従来公知の基材であれば、本発明の目的を達成することを阻害するものでない限り、いずれのものも使用可能である。一例を挙げるならば、超硬合金(WC基超硬合金、WCの他、Coを含み、あるいはTi、Ta、Nb等の炭窒化物を添加したものも含むもの等)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの等)、セラミックス(炭化チタン、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムなど)、cBN焼結体、またはダイヤモンド焼結体のいずれかであることが好ましい。
III.製造方法:
本発明の各TiAlBCN層、各TiAlCN層は、例えば、工具基体もしくは当該工具基体上にあるTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層の少なくとも一層以上の下部層の上に、例えば、次の組成のガス群Aとガス群Bとからなる2種の反応ガスを所定の位相差で供給することによって得ることができる。
反応ガスのガス組成の一例として、%は容量%(ガス群Aとガス群Bの和を全体としている)として、
(1)TiAlBCN層α形成用の反応ガスα
ガス群A:NH:5.0~10.0%、N:3.0~5.0%、
Ar:1.0~5.0%、H:50~60%
ガス群B:AlCl:0.40~1.10%、BCl:0.07~0.50%
TiCl:0.00~0.30%、N:3.0~12.0%、
HCl:0.00~0.10%、C:0.0~1.0%、H:残
反応雰囲気圧力:4.5~5.0kPa
反応雰囲気温度:700~850℃
供給周期:4.0~12.0秒
1周期当たりのガス供給時間:0.20~0.70秒
ガス群Aとガス群Bの供給の位相差:0.18~0.60秒
(2)TiAlCN層β形成用の反応ガスβ
ガス群A:NH:1.0~2.0%、N:1.0~5.0%、Ar:1.0~5.0%、H:50~60%
ガス群B:AlCl:0.60~1.40%、TiCl:0.05~0.50%、
:1.0~5.0%、Ar:0.1~5.0%、
:0.0~1.0%、H:残
反応雰囲気圧力:4.5~5.0kPa
反応雰囲気温度:700~850℃
供給周期:4.0~12.0秒
1周期当たりのガス供給時間:0.20~0.70秒
ガス群Aとガス群Bの供給の位相差:0.18~0.60秒
(3)TiAlCN層γ形成用の反応ガスγ
ガス群A:NH:3.0~4.0%、N:1.0~2.0%、
Ar:1.0~5.0%、H:50~60%
ガス群B:AlCl:0.60~1.20%、TiCl:0.10~0.30%、
:0.0~5.0%、C:0.0~1.0%、H:残
反応雰囲気圧力:4.5~5.0kPa
反応雰囲気温度:700~850℃
供給周期:4.0~12.0秒
1周期当たりのガス供給時間:0.20~0.70秒
ガス群Aとガス群Bの供給の位相差:0.18~0.60秒
(4)TiAlBCN層δ形成用の反応ガスδ
ガス群A:NH:3.0~4.0%、N:1.0~2.0%、
Ar:1.0~5.0%、H:50~60%
ガス群B:AlCl:0.60~1.00%、BCl:0.02~0.10%、
TiCl:0.10~0.30%、N:0.0~5.0%、
:0.0~1.0%、H:残
反応雰囲気圧力:4.5~5.0kPa
反応雰囲気温度:700~850℃
供給周期:4.0~12.0秒
1周期当たりのガス供給時間:0.20~0.70秒
ガス群Aとガス群Bの供給の位相差:0.18~0.60秒
次に、実施例について説明する。
ここでは、本発明被覆工具の具体例として、工具基体としてWC基超硬合金を用いたインサート切削工具に適用したものについて述べるが、工具基体として、他に前述のものを用いた場合であっても同様であるし、ドリル、エンドミル等に適用した場合も同様である。
<実施例1>
原料粉末として、いずれも1~3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr粉末およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、このプレス成形体を5Paの真空中、1370~1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、ISO規格SEEN1203AFSNのインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A~Cをそれぞれ製造した。
次に、これら工具基体A~Cの表面に、表2~5に示される条件によりCVD装置をによる成膜を行うことにより、表8に示される本発明被覆工具1~10を得た。
成膜条件は、表2~5に記載したとおりであるが、概ね、次のとおりである。ガス組成の%は容量%(ガス群Aとガス群Bの和を全体(100容量%)としている)である。
(1)TiAlBCN層α形成用の反応ガスα
ガス群A:NH:5.0~10.0%、N:3.0~5.0%、
Ar:1.0~5.0%、H:50~60%
ガス群B:AlCl:0.40~1.10%、BCl:0.07~0.50%
TiCl:0.00~0.30%、N:3.0~12.0%、
HCl:0.00~0.10%、C:0.0~1.0%、H:残
反応雰囲気圧力:4.5~5.0kPa
反応雰囲気温度:700~850℃
供給周期:4.0~12.0秒
1周期当たりのガス供給時間:0.20~0.70秒
ガス群Aとガス群Bの供給の位相差:0.18~0.60秒
(2)TiAlCN層β形成用の反応ガスβ
ガス群A:NH:1.0~2.0%、N:1.0~5.0%、
Ar:1.0~5.0%、H:50~60%
ガス群B:AlCl:0.60~1.40%、TiCl:0.05~0.50%、
:1.0~5.0%、Ar:0.1~5.0%、
:0.0~1.0%、H:残
反応雰囲気圧力:4.5~5.0kPa
反応雰囲気温度:700~850℃
供給周期:4.0~12.0秒
1周期当たりのガス供給時間:0.20~0.70秒
ガス群Aとガス群Bの供給の位相差:0.18~0.60秒
(3)TiAlCN層γ形成用の反応ガスγ
ガス群A:NH:3.0~4.0%、N:1.0~2.0%、
Ar:1.0~5.0%、H:50~60%
ガス群B:AlCl:0.60~1.20%、TiCl:0.10~0.30%、
:0.0~5.0%、C:0.0~1.0%、H:残
反応雰囲気圧力:4.5~5.0kPa
反応雰囲気温度:700~850℃
供給周期:4.0~12.0秒
1周期当たりのガス供給時間:0.20~0.70秒
ガス群Aとガス群Bの供給の位相差:0.18~0.60秒
(4)TiAlBCN層δ形成用の反応ガスδ
ガス群A:NH:3.0~4.0%、N:1.0~2.0%、
Ar:1.0~5.0%、H:50~60%
ガス群B:AlCl:0.60~1.00%、BCl:0.02~0.10%、
TiCl:0.10~0.30%、N:0.0~5.0%、
:0.0~1.0%、H:残
反応雰囲気圧力:4.5~5.0kPa
反応雰囲気温度:700~850℃
供給周期:4.0~12.0秒
1周期当たりのガス供給時間:0.20~0.70秒
ガス群Aとガス群Bの供給の位相差:0.18~0.60秒
また、逃げ面の硬質被覆層がTiAlCN層βのみの本発明被覆工具は、弾性砥石を使った研磨を行うことで逃げ面のTiAlCN層βを除去したものである。
なお、本発明被覆工具4~6、8~10は、表6に示された成膜条件により表7に示された下部層を形成した。
比較の目的で、工具基体A~Cの表面に、表2~5に示される条件によりCVD装置による成膜を行うことにより、表8に示される比較被覆工具1~10を製造した。
なお、比較被覆工具4~6、8~10は、表6に示された成膜条件により表7に示された下部層を形成した。
本発明被覆工具1~10および比較被覆工具1~10について、前述した方法により、各TiAlBCN層および各TiAlCN層の組成、平均層厚、ウルツ鉱型の六方晶構造の結晶粒の面積率、NaCl型の面心立方構造の結晶粒の面積率を求め、結果を表8に示す。
Figure 0007137149000001
Figure 0007137149000002
Figure 0007137149000003
Figure 0007137149000004
Figure 0007137149000005
Figure 0007137149000006
Figure 0007137149000007
Figure 0007137149000008
次に、前記本発明被覆工具1~10および比較被覆工具1~10について、次の切削試験を行った。
前記各種の被覆工具をカッタ径85mmの合金鋼製カッタ先端部に固定治具にてクランプした状態で、以下に示す、鋳鉄の乾式高速正面フライス、センターカット切削加工試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。表9に、切削試験の結果を示す。なお、比較被覆工具1~10については、チッピング発生が原因で寿命に至ったため、寿命に至るまでの時間を示す。
切削試験:乾式高速正面フライス、センターカット切削試験
カッタ径:85mm
被削材:JIS・FCD800 幅60mm、長さ400mmのブロック材
回転速度:1123min-1
切削速度:300m/min
切り込み:2.0mm
一刃送り量:0.1mm/刃
切削時間:8分
(通常の切削速度は、200m/min)
Figure 0007137149000009
<実施例2>
原料粉末として、いずれも1~3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末、TiN粉末およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表10に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した。その後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370~1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結した。焼結後、切刃部にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO規格CNMG120412のインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体α~γをそれぞれ製造した。
次に、これらの工具基体α~γの表面に、実施例1と同様の方法により表2~5に示される条件によりCVD装置による成膜を行うことにより、TiAlBCN層α、TiAlCN層β、TiAlCN層γとTiAlBCN層δを形成し、表12に示される本発明被覆工具11~20を得た。
なお、本発明被覆工具14~16、18、19は、表6に記載された成膜条件により、表11に示された下部層を形成した。
また、実施例1と同様に、比較の目的で、工具基体α~γの表面に、表2~5に示される条件によりCVD装置による成膜を行うことにより、表12に示されるTiAlCN層を含む硬質被覆層を蒸着形成して比較被覆工具11~20を製造した。
なお、比較被覆工具14~16、18、19については、表6に示される形成条件により、表11に示された下部層を形成した。
また、実施例1と同様に、前記本発明被覆工具11~20、比較被覆工具11~20の硬質被覆層について、前述した方法を用いて、各TiAlBCN層および各TiAlCN層の組成、平均層厚、ウルツ鉱型の六方晶構造の結晶粒の面積率、NaCl型の面心立方構造の結晶粒の面積率を求めた。これらの結果を表12にまとめた。
Figure 0007137149000010
Figure 0007137149000011
Figure 0007137149000012
次に、前記各種の被覆工具をいずれも合金鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆工具11~20、比較被覆工具11~20について、以下に示す、乾式断続切削試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。その結果を表13に示す。なお、比較被覆工具11~20については、チッピング発生が原因で寿命に至ったため、寿命に至るまでの時間を示す。
切削試験:乾式高速断続切削加工
被削材:JIS・FCD800 長さ方向等間隔8本縦溝入り丸棒
切削速度:300m/min
切り込み:2.0mm
送り:0.1mm/rev
切削時間:5分
(通常の切削速度は、200m/min)
Figure 0007137149000013
表9、表13に示される結果から、本発明被覆工具1~20は、いずれも硬質被覆層が優れた耐チッピング性を有しているため、鋳鉄等の高速断続切削加工に用いた場合であってもチッピングの発生がなく、長期にわたって優れた耐摩耗性を発揮する。これに対して、本発明の被覆工具に規定される事項を一つでも満足していない比較被覆工具1~20は、鋳鉄等の高速断続切削加工に用いた場合チッピングが発生し、短時間で使用寿命に至っている。
前述のように、本発明の被覆工具は、鋳鉄等の高速断続切削加工の被覆工具としても用いることができ、しかも、長期にわたって優れた耐摩耗性を発揮するものであるから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらには低コスト化に十分に満足できる対応が可能である。

Claims (5)

  1. 工具基体の表面に、硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具であって、
    (a)前記硬質被覆層は、ウルツ鉱型の六方晶構造を有するTiとAlとBの複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒を90面積%以上含むTiAlBCN層αを工具表面側に、NaCl型の面心立方構造を有するTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒を85面積%以上含むTiAlCN層βを前記工具基体側に、それぞれ一層ずつ有する積層構造であり、
    (b)前記TiAlBCN層αの組成を組成式:(Ti(1-xα-yα)Alxαyα)(Czα(1-zα))で表した場合、AlのTiとAlとBの合量に占める平均含有割合xα、BのTiとAlとBの合量に占める平均含有割合yαとCのCとNの合量に占める平均含有割合zα(但し、xα、yα、zαはいずれも原子比)が、それぞれ、0.70≦xα+yα≦1.00、0.05≦yα≦0.40、0.000≦zα≦0.015、を満足し、
    (c)前記TiAlCN層βの組成を組成式:(Ti(1-xβ)Alxβ)(Czβ(1-zβ))で表した場合、AlのTiとAlの合量に占める平均含有割合xβとCのCとNの合量に占める平均含有割合zβ(但し、xβ、zβはいずれも原子比)が、それぞれ、0.65≦xβ≦0.95、0.000≦zβ≦0.015を満足し、
    (d)前記TiAlBCN層αと前記TiAlCN層βは、それぞれの平均層厚をLα、Lβとした場合、0.5μm≦Lα≦10.0μm、1.0μm≦Lβ≦20.0μmを満足する、
    ことを特徴とする表面被覆切削工具。
  2. 前記xαと前記yαと前記xβは、|xα+yα―xβ|≦0.20を満足することを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
  3. 前記TiAlBCN層αと前記TiAlCN層βとの間にNaCl型の面心立方構造を有するTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒を少なくとも含むTiAlCN層γが存在し、
    (a)前記TiAlCN層γの組成を組成式:(Ti(1-xγ)Alxγ)(Czγ(1-zγ))で表した場合、AlのTiとAlの合量に占める平均含有割合xγと、CのCとNの合量に占める平均含有割合zγ(但し、xγ、zγはいずれも原子比)について、
    xγが、xα+yα≦xγ<xβまたはxα+yα≧xγ>xβ、
    zγが、0.000≦zγ≦0.015、
    をそれぞれ満足し、
    (b)前記TiAlCN層γは、その平均層厚をLγとした場合、0.1μm≦Lγ≦1.0μmを満たす、
    ことを特徴とする請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
  4. 前記TiAlBCN層αと前記TiAlCN層βとの間にNaCl型の面心立方構造を有するTiとAlとBの複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒を少なくとも含むTiAlBCN層δが存在し、
    (a)前記TiAlBCN層δの組成を組成式:(Ti(1-xδ-yδ)Alxδyδ)(Czδ(1-zδ))で表した場合、AlのTiとAlとBの合量に占める平均含有割合xδ、BのTiとAlとBの合量に占める平均含有割合yδと、CのCとNの合量に占める平均含有割合zδ(但し、xδ、yδ、zδはいずれも原子比)について、
    xδが、xα+yα≦xδ+yδ≦xβもしくはxα+yα≧xδ+yδ≧xβ、
    yδが、0.03≦yδ≦0.10、
    かつ、zδが、0.000≦zδ≦0.015、
    をそれぞれ満足し、
    (b)前記TiAlBCN層δは、その平均層厚をLδとした場合、0.1μm≦Lδ≦1.0μm、を満たす、
    ことを特徴とする請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
  5. 前記表面被覆切削工具のすくい面に前記TiAlBCN層αと前記TiAlCN層βとの積層構造を含む前記硬質被覆層を有し、逃げ面の表面に前記TiAlCN層βを有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
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