JP6957824B2 - 硬質被覆層が優れた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents

硬質被覆層が優れた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 Download PDF

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Description

本発明は、合金鋼等の高熱発生を伴うとともに、切刃に対して衝撃的な負荷が作用する超高速断続切削加工で、硬質被覆層が優れた耐チッピング性、耐摩耗性を備えることにより、長期の使用にわたって優れた切削性能を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具ということがある)に関するものである。
従来、一般に、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金、炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットあるいは立方晶窒化ホウ素(以下、cBNで示す)基超高圧焼結体で構成された工具基体(以下、これらを総称して工具基体という)の表面に、硬質被覆層として、Ti−Al系の複合窒化物層を物理蒸着法により被覆形成した被覆工具が知られており、これらは、優れた耐摩耗性を発揮することが知られている。
ただ、前記従来のTi−Al系の複合窒化物層を被覆形成した被覆工具は、比較的耐摩耗性に優れるものの、高速断続切削条件で用いた場合にチッピング等の異常損耗を発生しやすいことから、硬質被覆層の改善についての種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、工具基体表面に、NaCl型の面心立方構造を有し組成式:(Ti1−XAl)(C1−Y)で表わされる(但し、原子比で、Alの平均組成Xavgは0.60≦Xavg≦0.95、Cの平均組成Yavgは、0≦Yavg≦0.005)TiAlCN層を少なくとも含む硬質被覆層を形成し、該TiAlCN層について、電子線後方散乱回折装置を用いて、工具基体表面の法線方向に対するTiAlCN結晶粒の{111}面の法線がなす傾斜角を測定して傾斜角度数分布を求めたとき、0〜12度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在し、かつ、0〜12度の範囲内に存在する度数の合計は、前記傾斜角度数分布における度数全体の45%以上であり、さらに、TiAlCN層の層厚方向に垂直な面内で三角形状を有し、該結晶粒の{111}で表される等価な結晶面で形成されたファセットが、該層厚方向に垂直な面内において全体の35%以上の面積割合を占める組織を形成することにより、ステンレス鋼等の高熱発生を伴うとともに、切刃に対して衝撃的な負荷が作用する高速断続切削加工等において硬質被覆層の耐チッピング性を高めた被覆工具が提案されている。
また、特許文献2には、前記特許文献1と同様、ステンレス鋼等の高熱発生を伴うとともに、切刃に対して衝撃的な負荷が作用する高速断続切削加工等において硬質被覆層の耐チッピング性を高めるため、工具基体の表面に、組成式:(Ti1−XAl)(C1−Y)で表わされ(但し、原子比で、Alの平均組成Xavgは0.60≦Xavg≦0.95、Cの平均組成Yavgは、0≦Yavg≦0.005)、かつ、NaCl型の面心立方構造を有するTiAlCN層を少なくとも含む硬質被覆層を形成し、該TiAlCN層について、電子線後方散乱回折装置を用いて、工具基体表面の法線方向に対するTiAlCN結晶粒の{100}面の法線がなす傾斜角を測定して傾斜角度数分布を求めたとき、0〜12度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在し、かつ、0〜12度の範囲内に存在する度数の合計は、前記傾斜角度数分布における度数全体の45%以上であり、さらに、TiAlCN層の層厚方向に垂直な面内で90度未満の角度を有さない多角形状のファセットを有し、該ファセットが結晶粒の{100}で表される等価な結晶面のうちの一つに形成され、該ファセットが層厚方向に垂直な面内において全体の50%以上の面積割合を占める組織を形成した被覆工具が提案されている。
また、前記被覆工具において、TiAlCN層についてXRD解析を行ったとき、立方晶構造に由来するピーク強度Ic{200}と六方晶構造に由来するピーク強度Ih{200}との間に、Ic{200}/Ih{200}≧3.0の関係が成立する場合には、耐摩耗性向上効果がより高まるとされている。
また、特許文献3には、工具の耐摩耗性を改善するために、工具基体上にCVDで形成された3〜25μmの耐摩耗コーティング層を形成し、該コーティング層は、少なくとも、Ti1−xAlで表した場合に、0.70≦x<1、0≦y<0.25および0.75≦z<1.15を満足する1.5〜17μmの層厚を有するTiAlCN層を備え、該層は、150nm未満のラメラ間隔のラメラ構造を有し、刃先は、同一結晶構造を有し、TiとAlが交互に異なった化学量を有するTi1−xAlが周期的に交互に配置されたTi1−xAlで構成され、さらに、Ti1−xAl層は少なくとも90体積%以上が面心立方構造であり、該層のTC値は、TC(111)>1.5を満足し、{111}面のX線回折ピーク強度の半価幅は1度未満である被覆工具が提案されている。
特開2015−163423号公報 特開2015−163424号公報 国際公開第2015/135802号
近年の切削加工における省力化および省エネ化の要求は強く、これに伴い、切削加工は一段と高速化、高効率化の傾向にあり、被覆工具には、より一層、耐チッピング性、耐欠損性、耐剥離性等の耐異常損傷性が求められるとともに、長期の使用にわたって優れた耐摩耗性が求められている。
しかし、前記特許文献1〜3で提案されている被覆工具では、合金鋼等の高熱発生を伴うとともに、切刃に対して衝撃的な負荷が作用する超高速断続切削加工において、耐チッピング、耐摩耗性が未だ十分ではなく、満足できる切削性能を長期の使用にわたり備えるとはいえない。なお、本明細書における超高速断続切削加工の切削速度は通常の切削速度の2倍以上の速度をいう。
そこで、本発明は前記課題を解決し、合金鋼等の超高速断続切削等に供した場合であっても、長期の使用にわたって優れた耐チッピング性、特に、耐摩耗性を発揮する被覆工具を提供することを目的とする。
本発明者らは、TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物(以下、「TiAlCN」あるいは「(Ti1−xAl)(C1−y)」で示すことがある)層を少なくとも含む硬質被覆層を工具基体表面に設けた被覆工具の耐チッピング性、特に、耐摩耗性の改善をはかるべく、鋭意研究を重ねた結果、次のような知見を得た。
TiAlCN層を構成するTiAlCN結晶粒は、合金鋼等の超高速断続切削加工において、高靱性を有するものの、十分な硬さを備えるものではないため、耐チッピング性と耐摩耗性の両特性を十分に兼ね備え工具を得るためには、TiAlCN層の硬さ、すなわち、耐摩耗性を向上させることが望まれる。
そこで、本発明者らは、TiAlCN層を構成するTiAlCN結晶粒において、所定量のSi、Bの少なくとも一つを含有したものは、硬さが向上すること、
さらには、この所定量のSi、Bの少なくとも一つを含有した結晶粒の各結晶格子における格子歪について鋭意研究したところ、NaCl型の面心立方構造を有する結晶粒を含有し、かつ、該NaCl型の面心立方構造を有する結晶粒についてX線回折を行って、(111)面と(200)面の面間隔を算出し、それぞれをd(111)およびd(200)とした場合、d(111)とd(200)から算出されるそれぞれの格子定数A(111)とA(200)の差の値の絶対値ΔAを0.007〜0.050Åの範囲内とした場合に、所定量のSi、Bの少なくとも一つを含有したTiAlCN層は耐チッピング性を損なうことなく、耐摩耗性がより一層向上することを見出したのである。
すなわち、MeはSi、Bの少なくとも一つを表すものとしたとき、所定量Meを含有した複合窒化物または複合炭窒化物であるTiAlCN層、すなわち、TiAlMeCN層のNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒について測定した前記ΔAが0.007〜0.050Åである場合には、合金鋼等の超高速断続切削加工等において、長期にわたって優れた耐チッピング性と耐摩耗性の両特性を相兼ね備えることを知見したのである。
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであって、
「(1)炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体の表面に、硬質被覆層が設けられた表面被覆切削工具において、
(a)前記硬質被覆層は、平均層厚1.0〜20.0μmのTi、AlおよびMe(但し、MeはSi、Bの少なくとも一つである)の複合窒化物または複合炭窒化物層を少なくとも含み、該複合窒化物または複合炭窒化物を、
組成式:(Ti1−x―yAlMe)(C1−z
で表した場合、AlのTi、AlおよびMeの合量に占める含有割合x、MeのTi、AlおよびMeの合量に占める含有割合y、並びに、CのCとNの合量に占める含有割合z(但し、x、yおよびzはいずれも原子比)は、それぞれ、0.60≦x<0.95、0.005≦y≦0.100、0.60<x+y≦0.95、0.0000≦z≦0.0050を満足し、
(b)前記複合窒化物または複合炭窒化物を構成する原子の合量に占めるClの平均含有割合s(但し、sは原子比)が、0.0001≦s≦0.0040を満足し、
(c)前記複合窒化物または複合炭窒化物層について、X線回折装置を用いて測定した、複合窒化物または複合炭窒化物層内のNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒の(111)面および(200)面のX線回折スペクトルから、それぞれの面間隔d(111)およびd(200)の値を算出し、算出されたd(111)およびd(200)の値から、
A(111)=31/2d(111)、
A(200)=2d(200)
で定義されるA(111)およびA(200)を算出し、A(111)とA(200)の差の絶対値ΔA=|A(111)−A(200)|を求めた場合、
ΔAが、0.007Å〜0.050Åを満足することを特徴とする表面被覆切削工具。
(2)前記複合窒化物または複合炭窒化物層は縦断面方向から観察した場合に、複合窒化物または複合炭窒化物層内のNaCl型の面心立方構造を有する個々の結晶粒の平均粒子幅Wが0.10〜2.00μm、平均アスペクト比Aが2.0〜10.0である柱状組織を有することを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3)前記工具基体と前記Ti、AlおよびMeの複合窒化物または複合炭窒化物層の間に、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、0.1〜20.0μmの合計平均層厚を有するTi化合物層を含む下部層が存在することを特徴とする(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。
(4)前記複合窒化物または複合炭窒化物層の上部に、少なくとも酸化アルミニウム層を含む上部層が1.0〜25.0μmの合計平均層厚で存在することを特徴とする(1)から(3)いずれかに記載の表面被覆切削工具。」
である。
本発明は、工具基体の表面に、硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具において、硬質被覆層として、平均層厚1.0〜20.0μmのTiAlMeCN層を少なくとも含み、該TiAlMeCN層を、組成式:(Ti1−x―yAlMe)(C1−z)で表した場合、AlのTi、AlおよびMeの合量に占める含有割合x、MeのTi、AlおよびMeの合量に占める含有割合y、CのCとNの合量に占める含有割合z、並びに、Clの平均含有割合s(但し、x、y、zおよびsはいずれも原子比)が、それぞれ、0.60≦x<0.95、0.005≦y≦0.100、0.60<x+y≦0.95、0.0000≦z≦0.0050、0.0001≦s≦0.0040を満足し、また、TiAlMeCN層のNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒についてX線回折を行い、(111)面および(200)面の面間隔d(111)およびd(200)を算出して、さらに、A(111)およびA(200)を算出し、A(111)とA(200)の差の絶対値ΔAを求めたとき、ΔAが、0.007Å≦ΔA≦0.050Åを満足する。
したがって、本発明の表面被覆切削工具は、Meを含有するTiAlMeCN層が適度の格子歪(0.007Å≦ΔA≦0.050Å)を備え、高硬度化が図られるため、合金鋼等の高熱発生を伴うとともに、切刃に対して衝撃的な負荷が作用する超高速断続切削加工に供した場合、TiAlMeCN層が優れた耐チッピング性を備えるとともに、長期の使用にわたって優れた耐摩耗性を発揮する。
本発明について、以下に詳細に説明する。
TiAlMeCN層の平均層厚:
本発明の硬質被覆層は、組成式:(Ti1−x―yAlMe)(C1−z)で表されるTiAlMeCN層を少なくとも含む(但し、MeはSi、Bの少なくとも一つである)。このTiAlMeCN層は、硬さが高く、優れた耐摩耗性を有するが、特に平均層厚が1.0〜20.0μmのとき、その効果が際立って発揮される。これは、平均層厚が1.0μm未満では、層厚が薄いため長期の使用にわたっての耐摩耗性を十分確保することができず、一方、その平均層厚が20.0μmを超えると、TiAlMeCN層の結晶粒が粗大化し易くなり、チッピングを発生しやすくなるという理由による。
したがって、その平均層厚を1.0〜20.0μmと定めた。
TiAlMeCN層の平均組成:
本発明におけるTiAlMeCN層は、
AlのTi、AlおよびMeの合量に占める含有割合(以下、「Alの平均含有割合」という)x、
MeのTi、AlおよびMeの合量に占める含有割合(以下、「Meの平均含有割合」という)y、
CのCとNの合量に占める平均含有割合(以下、「Cの平均含有割合」という)zが、
それぞれ、0.60≦x<0.95、0.005≦y≦0.100、0.60<x+y≦0.95、0.0000≦z≦0.0050(但し、x、y、zはいずれも原子比)を満足するように定める。
その理由は、Alの平均含有割合xが0.60未満であると、TiAlMeCN層は硬さに劣るため、合金鋼等の超高速断続切削に供した場合には、耐摩耗性が十分でない。
Meの平均含有割合yが0.005未満であると、Meの添加効果である硬さの向上が十分に発揮されず、また、0.10を超えるとMeの粒界への偏析等が生じ、靱性が低下して耐チッピング性が損なわれる。
さらに、Alの平均含有割合xとMeの平均含有割合yとの和は、0.60を超えることは明らかであり、さらに0.95を超えると、相対的にTiの含有割合が減少するため、脆化を招き、耐チッピング性が低下する。
したがって、Alの平均含有割合xおよびMeの平均含有割合は、0.60≦x<0.95、0.005≦y≦0.100、0.60<x+y≦0.95と定めた。
加えて、TiAlMeCN層に含まれるCの平均含有割合zは、0.0000≦z≦0.0050の範囲の微量であるとき、TiAlMeCN層と工具基体もしくは下部層との密着性が向上し、かつ、潤滑性が向上することによって切削時の衝撃を緩和し、結果としてTiAlMeCN層の耐チッピング性、耐欠損性が向上する。一方、Cの平均含有割合zが0.0000≦z≦0.0050の範囲を逸脱すると、TiAlMeCN層の靭性が低下するため耐チッピング性、耐欠損性が逆に低下するため好ましくない。
したがって、Cの平均含有割合zは、0.0000≦z≦0.0050と定めた。
また、TiAlMeCN層に含まれるClの平均含有割合s(但し、sは原子比)は、0.0001≦s≦0.0040の範囲であるとき、層の靭性を低下させずに潤滑性を高めることができる。すなわち、平均塩素含有割合が0.0001未満であると潤滑性向上効果は少なく、一方、平均塩素含有割合が0.0040を超えると、耐チッピング性が低下するため好ましくない。
したがって、Clの平均含有割合sは、0.0001≦s≦0.0040と定めた。
TiAlMeCN層を構成するNaCl型の面心立方構造(以下、単に、「立方晶」ともいう)を有するTiAlMeCN結晶粒の格子歪の指標:
本発明では、TiAlMeCN層の立方晶のTiAlMeCN結晶粒内に、Me添加による硬さの向上である格子歪に加えて、別途、成膜条件の制御による格子歪を導入して、TiAlCN層の硬さを向上させる。
この成膜条件の制御による格子歪みの導入は、例えば、TiAlMeCN層の成膜に際し、NHを用いた熱CVD法によることができる。
具体的にいえば、次のとおりである。
用いる化学蒸着装置へは、NHとHからなるガス群Aと、TiCl、AlCl、N、Al(CH、HおよびSiClとBClの少なくとも一つ(以下、「MeCl」で示すことがある。)からなるガス群Bがおのおの別々のガス供給管から反応装置内へ供給され、ガス群Aとガス群Bの反応装置内への供給は、例えば、一定の周期の時間間隔で、その周期よりも短い時間だけガスが流れるように供給し、ガス群Aとガス群Bのガス供給にはガス供給時間よりも短い時間の位相差が生じるようにして、工具基体表面に反応ガスを供給し、さらに、ガス成分であるN、AlCl、Al(CHについて、供給比N/(AlCl+Al(CH)が比較的大きな値となるように各ガス成分の供給量を調整して化学蒸着することによって、所定の格子歪が導入されたTiAlMeCN層を形成することができる。
なお、前記供給比N/(AlCl+Al(CH)が大きくなると、概ねΔAが大きくなる傾向がみられる。
ここで、前記化学蒸着の具体的な条件は、一例として次のとおりである。
反応ガス組成(ガス群Aおよびガス群Bを合わせた全体に対する容量%):
ガス群A: NH:2.0〜6.0%、H:65〜75%、
ガス群B: AlCl:0.50〜0.90%、TiCl:0.2〜0.3%、MeCl:0.10〜0.20%、N:3.0〜12.0%、Al(CH:0.00〜0.10%、H:残、
/(AlCl+Al(CH):3.0〜24.0
反応雰囲気圧力: 4.5〜5.0kPa、
反応雰囲気温度: 700〜900℃、
供給周期: 6.0〜9.0秒、
1周期当たりのガス供給時間: 0.15〜0.25秒、
ガス群Aとガス群Bの供給の位相差: 0.10〜0.20秒
前記で成膜したTiAlMeCN層における立方晶の結晶粒の格子歪は、次のような方法で測定することができ、また、格子歪の指標ΔAは、次のようにして求めることができる。
まず、TiAlMeCN層について、X線回折を行い、TiAlMeCN結晶粒の(111)面および(200)面についてのX線回折スペクトルを求める。
ついで、(111)面および(200)面について測定したX線回折スペクトルから、ブラッグの式:2dsinθ=nλ(なお、dは、格子面間隔、θはブラッグ角、2θは回折角、λは入射X線の波長、nは整数)を用いて、(111)面および(200)面の格子面間隔d(111)およびd(200)を算出する。
次いで、A(111)およびA(200)を、
A(111)=31/2d(111)、
A(200)=2d(200)、
と定義し、前記で算出したd(111)およびd(200)の値から、A(111)とA(200)の値を求める。
そして、格子歪の指標ΔAは、A(111)とA(200)の差の絶対値、即ち、
ΔA=|A(111)−A(200)|
として求めることができる。
そして、ΔAが、0.007Å≦ΔA≦0.050Åを満足する場合に、TiAlMeCN層は高硬度を具備するようになり、その結果、高熱発生を伴い、切刃に対して衝撃的な負荷が作用する超高速断続切削加工に供した場合であっても、優れた耐摩耗性を発揮する。
前記で定めた格子歪みの指標ΔAを備えるTiAlMeCN層は、Me添加による硬さの向上である格子歪に加えて、成膜条件の制御による層内の格子歪の存在により高硬度を示し、その結果、優れた耐摩耗性を発揮するが、ΔAが0.007Å未満では、格子歪が小さいため、硬さ向上効果が十分でなく、一方、ΔAが0.050Åを超えると格子歪が過大になるため、切削加工時の耐欠損性が低下するため、前記ΔAは、0.007Å≦ΔA≦0.050Åの範囲内とする。
結晶組織:
本発明は、前記したとおり、前記TiAlMeCN層を構成する、NaCl型の面心立方構造を有する結晶粒において、X線回折を行い、得られる(111)面および(200)面の面間隔である、d(111)とd(200)から算出されるそれぞれの格子定数A(111)とA(200)の差の絶対値ΔAを所定の範囲に調整することにより、TiAlCN層の硬さを高め、耐摩耗性を向上でき、これを工具に適用すると耐チッピング性と耐摩耗性の両特性にすぐれた被覆工具が得られることを見出したものである。
特に、前記TiAlMeCN層を縦断面方向から観察した際に、複合窒化物または複合炭窒化物層内のNaCl型の面心立方構造を有する個々の結晶粒の平均粒子幅Wが0.10〜2.00μm、平均アスペクト比Aが2.0〜10.0である柱状組織を有する場合には、結晶粒の硬さおよび靭性が向上し、硬質被覆層として前記TiAlCN層が奏する効果と相俟って、より一層の優れた特性を発揮することができる。
すなわち、平均粒子幅Wを0.10μm以上、2.00μm以下とすることにより、被削材との反応性を減少させ、耐摩耗性を発揮させるとともに、靱性の向上を図り、耐チッピング性をより向上させることができる。
よって、平均粒子幅Wを0.10〜2.00μmとすることがより好ましい。
また、平均アスペクト比Aが2.0以上、10.0以下とし、十分な柱状組織を有することにより、小さな等軸結晶の脱落が生じにくく、十分な耐摩耗性を発揮することができ、また、10.0以下では、結晶粒の強度が増すため、耐チッピング性がより向上する。
よって、平均アスペクト比Aは、2.0〜10.0とすることがより好ましい。
なお、本発明では、平均アスペクト比Aとは、走査型電子顕微鏡を用い、幅100μm、高さが硬質被覆層全体を含む範囲で硬質被覆層の縦断面観察を行う際に、工具基体表面と垂直な被覆層断面側(縦断面)から観察し、基体表面と平行な方向の粒子幅w、基体表面に垂直な方向の粒子長さlを測定し、各結晶粒のアスペクト比a(=l/w)を算出するとともに、個々の結晶粒について求めたアスペクト比aの平均値を平均アスペクト比Aとして算出し、また、個々の結晶粒について求めた粒子幅wの平均値を平均粒子幅Wとして算出する。
下部層および上部層:
本発明では、硬質被覆層として前記TiAlMeCN層を設けることによって十分な
耐チッピング性、耐摩耗性を有するが、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、0.1〜20.0μmの合計平均層厚を有するTi化合物層を含む下部層を設けた場合、および/または、少なくとも酸化アルミニウム層を含む上部層が1.0〜25.0μmの合計平均層厚で設けられた場合には、これらの層が奏する効果と相俟って、一層優れた特性を発揮することができる。
Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、0.1〜20.0μmの合計平均層厚を有するTi化合物層を含む下部層を設ける場合、下部層の合計平均層厚が0.1μm未満では、下部層の効果が十分に奏されず、一方、20.0μmを超えると結晶粒が粗大化し易くなり、チッピングを発生しやすくなる。また、酸化アルミニウム層を含む上部層の合計平均層厚が1.0μm未満では、上部層の効果が十分に奏されず、一方、25.0μmを超えると結晶粒が粗大化し易くなり、チッピングを発生しやすくなる。
次に、本発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
なお、以下の実施例では、工具基体として、WC基超硬合金あるいはTiCN基サーメットを用いた場合について説明するが、cBN基超高圧焼結体を工具基体として用いた場合も同様である。
<実施例1>
原料粉末として、いずれも0.1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr粉末およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、ISO規格SEEN1203AFSNのインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A〜Cをそれぞれ製造した。
また、原料粉末として、いずれも0.1〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、WC粉末、Co粉末およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1500℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、ISO規格SEEN1203AFSNのインサート形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体Dを作製した。
次に、これらの工具基体A〜Dの表面に、CVD装置を用い、TiAlMeCN層をCVDにより形成した。
CVD条件は、次のとおりである。
表4、表5に示される形成条件A〜J、すなわち、NHとHからなるガス群Aと、TiCl、AlCl、MeCl、Al(CH、N、Hからなるガス群B、および、おのおのガスの供給方法として、反応ガス組成(ガス群Aおよびガス群Bを合わせた全体に対する容量%)を、ガス群AとしてNH:2.0〜6.0%、H:65〜75%、ガス群BとしてAlCl:0.50〜0.90%、TiCl:0.2〜0.3%、MeCl:0.10〜0.20%、N:3.0〜12.0%、Al(CH:0.00〜0.10%、H:残、反応雰囲気圧力:4.5〜5.0kPa、反応雰囲気温度:700〜900℃、供給周期6.0〜9.0秒、1周期当たりのガス供給時間0.15〜0.25秒、ガス群Aとガス群Bの供給の位相差0.10〜0.20秒とし、また、N、AlCl、Al(CHの供給比N/(AlCl+Al(CH)を3.0〜24.0として、所定時間、熱CVD法による蒸着形成を行った。
前記の条件でTiAlMeCN層を形成することにより、表7に示す平均層厚、Alの平均含有割合x、Meの平均含有割合y、Cの平均含有割合z、Clの平均含有割合sを有する本発明被覆工具1〜15を製造した。
なお、本発明被覆工具4〜11については、表3に示される形成条件で、表6に示される下部層および/または上部層を形成した。
また、比較の目的で、工具基体A〜Dの表面に、表4、表5に示される形成条件A’〜H’で化学蒸着を行うことにより、表8に示される平均層厚(μm)を有し、少なくともTiAlMeCN層またはTiAlCNを含む硬質被覆層を蒸着形成して比較被覆工具1〜15を製造した。
なお、本発明被覆工具4〜11と同様に、比較被覆工具4〜11については、表3に示される形成条件で、表6に示される下部層および/または上部層を形成した。
また、本発明被覆工具1〜15、比較被覆工具1〜15の各構成層の工具基体に垂直な方向の断面(縦断面)を、走査型電子顕微鏡(倍率5000倍)を用いて測定し、観察視野内の5点の層厚を測って平均して平均層厚を求めたところ、いずれも表7および表8に示される平均層厚であった。
さらに、TiAlMeCN層、TiAlCN層(yが0.0001未満のもの)のAlの平均含有割合x、Meの平均含有割合y、Clの平均含有割合sについては、電子線マイクロアナライザ(Electron−Probe−Micro−Analyser:EPMA)を用い、表面を研磨した試料において、電子線を試料表面側から照射し、得られた特性X線の解析結果の10点平均からAl、MeおよびClの平均含有割合x、yおよびsを求めた。
Cの平均含有割合zについては、二次イオン質量分析(Secondary−Ion−Mass−Spectroscopy:SIMS)により求めた。イオンビームを試料表面側から70μm×70μmの範囲に照射し、スパッタリング作用によって放出された成分について深さ方向の濃度測定を行った。Cの平均含有割合zはTiAlMeCN層またはTiAlCN層についての深さ方向の平均値を示す。
ただし、Cの含有割合には、意図的にガス原料としてCを含むガスを用いなくても含まれる不可避的なCの含有割合を除外している。
表7、表8に、前記で求めたx、y、z、および、sの値を示す(x、y、z、および、sは、いずれも原子比)。
加えて、TiAlMeCN層またはTiAlCN層の縦断面に垂直な方向から、X線回折を行い、立方晶構造の結晶粒の(111)面および(200)面のX線回折スペクトルから、ブラッグの式:2dsinθ=nλに基づき、それぞれの格子面間隔d(111)とd(200)を算出した。
ここで、前記d(111)とd(200)から、格子定数に相当するA(111)およびA(200)を次の式から算出した。
A(111)=31/2d(111)、
A(200)=2d(200)、
次いで、前記A(111)とA(200)の差の絶対値を、格子歪の指標ΔAとして求めた。
表7、表8に、前記で求めたd(111)、d(200)、A(111)、A(200)およびΔAの値を示す。
なお、X線回折は、測定条件: Cu−Kα線(λ=1.5418Å)を線源として、測定範囲(2θ):30〜50度、スキャンステップ:0.013度、1ステップ辺り測定時間:0.48sec/stepという条件で測定した。
また、本発明被覆工具1〜15および比較被覆工具1〜15について、工具基体に垂直な方向の断面方向から走査型電子顕微鏡(倍率5000倍及び20000倍)を用いて、工具基体表面と水平方向に長さ100μmの範囲に存在する複合窒化物または複合炭窒化物層を構成する(Ti1−x―yAlMe)(C1−z)層中のNaCl型の面心立方構造を有する個々の結晶粒について、工具基体表面と垂直な皮膜断面側から観察し、基体表面と平行な方向の粒子幅w、基体表面に垂直な方向の粒子長さlを測定し、各結晶粒のアスペクト比a(=l/w)を算出するとともに、個々の結晶粒について求めたアスペクト比aの平均値を平均アスペクト比Aとして算出し、また、個々の結晶粒について求めた粒子幅wの平均値を平均粒子幅Wとして算出した。表7、表8に、前記で求めたWおよびAの値を示す。
Figure 0006957824

Figure 0006957824

Figure 0006957824

Figure 0006957824

Figure 0006957824

Figure 0006957824

Figure 0006957824

Figure 0006957824
次に、前記各種の被覆工具をいずれもカッタ径125mmの工具鋼製カッタ先端部に固定治具にてクランプした状態で、本発明被覆工具1〜15、比較被覆工具1〜15について、以下に示す、合金鋼の超高速断続切削の一種である乾式高速正面フライス、センターカット切削加工試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
工具基体:WC基超硬合金、TiCN基サーメット、
切削試験:乾式高速正面フライス、センターカット切削加工、
被削材:JIS・SCM415幅100mm、長さ400mmのブロック材、
回転速度:1146 min−1
切削速度:450 m/min、
切り込み:1.5mm、
一刃送り量:0.1 mm/刃、
切削時間:8分、
(通常の切削速度:200 m/min)
表9に、その結果を示す。
Figure 0006957824

<実施例2>
原料粉末として、いずれも0.1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末、TiN粉末およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表10に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO規格CNMG120412のインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体α〜γをそれぞれ製造した。
Figure 0006957824

また、原料粉末として、いずれも0.1〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、NbC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表11に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1500℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.09mmのホーニング加工を施すことによりISO規格・CNMG120412のインサート形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体δを形成した。
Figure 0006957824

次に、これらの工具基体α〜γおよび工具基体δの表面に、化学蒸着装置を用い、表4、表5に示される形成条件A〜J、すなわち、NHとHからなるガス群Aと、TiCl、AlCl、MeCl、N、Hからなるガス群B、および、おのおのガスの供給方法として、反応ガス組成(ガス群Aおよびガス群Bを合わせた全体に対する容量%)を、ガス群AとしてNH:2.0〜6.0%、H:65〜75%、ガス群BとしてAlCl:0.50〜0.90%、TiCl:0.2〜0.3%、MeCl:0.10〜0.20%、N:3.0〜12.0%、Al(CH:0.0〜0.1%、H:残、反応雰囲気圧力:4.5〜5.0kPa、反応雰囲気温度:700〜900℃、供給周期6.0〜9.0秒、1周期当たりのガス供給時間0.15〜0.25秒、ガス群Aとガス群Bの位相差0.10〜0.20秒とし、また、N、AlCl、Al(CHの供給比N/(AlCl+Al(CH)を3.0〜24.0として、所定時間、熱CVD法による蒸着形成を行った。
前記の条件でTiAlMeCN層を形成することにより、表13に示す平均層厚、Alの平均含有割合x、Meの平均含有割合y、Cの平均含有割合z、Clの平均含有割合sを有する本発明被覆工具16〜30を製造した。
なお、本発明被覆工具19〜26については、表3に示される形成条件で、表12に示される下部層および/または上部層を形成した。
また、比較の目的で、同じく工具基体α〜γおよび工具基体δの表面に、CVD装置を用い、表4および表5に示される形成条件A’〜H’かつ表14に示される平均層厚で本発明被覆工具と同様に硬質被覆層を蒸着形成することにより、表14に示される比較被覆工具16〜30を製造した。
なお、本発明被覆工具19〜26と同様に、比較被覆工具19〜26については、表3に示される形成条件で、表12に示される下部層および/または上部層を形成した。
本発明被覆工具16〜30、比較被覆工具16〜30の各構成層の断面を、走査電子顕微鏡(倍率5000倍)を用いて測定し、観察視野内の5点の層厚を測って平均して平均層厚を求めたところ、いずれも表13および表14に示される平均層厚を示した。
また、前記本発明被覆工具16〜30、比較被覆工具16〜30のTiAlMeCN層、TiAlCN層について、実施例1に示される方法と同様の方法を用いて、x、y、z、s、d(111)、d(200)、A(111)、A(200)、ΔA、結晶粒の平均粒子幅Wおよび平均アスペクト比Aを求めた。
表13および表14に、その結果を示す。
Figure 0006957824

Figure 0006957824

Figure 0006957824

次に、前記各種の被覆工具をいずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆工具16〜30、比較被覆工具16〜30について、以下に示す、炭素鋼・鋳鉄の湿式超高速断続切削試験を実施し、いずれも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
切削条件1:
被削材:JIS・S35Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:450 m/min、
切り込み:1.0 mm、
送り:0.15mm/rev、
切削時間:5 分、
(通常の切削速度は、220m/min)、
切削条件2:
被削材:JIS・FCD450の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:400 m/min、
切り込み:1.0 mm、
送り:0.20 mm/rev、
切削時間:5 分、
(通常の切削速度は、180m/min)、
表15に、前記切削試験の結果を示す。
Figure 0006957824

表9および表15に示される結果から、本発明の被覆工具は、TiAlMeCN層の立方晶の結晶粒が所定のAl含有割合、Me含有割合、C含有割合、Cl含有割合を有し、かつ、0.007Å≦ΔA≦0.050Åを満足する格子歪が形成されていることから高硬度であり、その結果、高熱発生を伴い、かつ、切れ刃に断続的・衝撃的高負荷が作用する超高速断続切削加工に用いた場合でも、チッピング、欠損の発生もなく、長期の使用にわたって優れた耐摩耗性を発揮する。
これに対して、TiAlMeCN層およびTiAlCN層を構成する立方晶の結晶粒において、所定のAl含有割合、Me含有割合、C含有割合、Cl含有割合、0.007Å≦ΔA≦0.050Åを満足する格子歪が形成されていない比較被覆工具は、超高速断続切削加工において、チッピング等の異常損傷の発生、あるいは、摩耗進行により、短時間で寿命に至ることが明らかである。
前述のように、本発明の被覆工具は、合金鋼の超高速断続切削加工ばかりでなく、各種の被削材の被覆工具として用いることができ、しかも、長期の使用にわたって優れた切削性能を発揮するものであるから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分に満足する対応ができるものである。

Claims (4)

  1. 炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体の表面に、硬質被覆層が設けられた表面被覆切削工具において、
    (a)前記硬質被覆層は、平均層厚1.0〜20.0μmのTi、AlおよびMe(但し、MeはSi、Bの少なくとも一つである)の複合窒化物または複合炭窒化物層を少なくとも含み、該複合窒化物または複合炭窒化物を、
    組成式:(Ti1−x―yAlMe)(C1−z
    で表した場合、AlのTi、AlおよびMeの合量に占める含有割合x、MeのTi、AlおよびMeの合量に占める含有割合y、並びに、CのCとNの合量に占める含有割合z(但し、x、yおよびzはいずれも原子比)は、それぞれ、0.60≦x<0.95、0.005≦y≦0.100、0.60<x+y≦0.95、0.0000≦z≦0.0050を満足し、
    (b)前記複合窒化物または複合炭窒化物を構成する原子の合量に占めるClの平均含有割合s(但し、sは原子比)が、0.0001≦s≦0.0040を満足し、
    (c)前記複合窒化物または複合炭窒化物層について、X線回折装置を用いて測定した、複合窒化物または複合炭窒化物層内のNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒の(111)面および(200)面のX線回折スペクトルから、それぞれの面間隔d(111)およびd(200)の値を算出し、算出されたd(111)およびd(200)の値から、
    A(111)=31/2d(111)、
    A(200)=2d(200)
    で定義されるA(111)およびA(200)を算出し、A(111)とA(200)の差の絶対値ΔA=|A(111)−A(200)|を求めた場合、
    ΔAが、0.007Å〜0.050Åを満足することを特徴とする表面被覆切削工具。
  2. 前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、縦断面方向から観察した場合に、複合窒化物または複合炭窒化物層内のNaCl型の面心立方構造を有する個々の結晶粒の平均粒子幅Wが0.10〜2.00μm、平均アスペクト比Aが2.0〜10.0である柱状組織を有することを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
  3. 前記工具基体と前記Ti、AlおよびMeの複合窒化物または複合炭窒化物層の間に、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、0.1〜20.0μmの合計平均層厚を有するTi化合物層を含む下部層が存在することを特徴とする請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
  4. 前記複合窒化物または複合炭窒化物層の上部に、少なくとも酸化アルミニウム層を含む上部層が1.0〜25.0μmの合計平均層厚で存在することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
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