以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
[シーム疵及びしわ疵抑制のメカニズム]
初めに、図1を参照しながら、後述する第1実施形態、第2実施形態及び第3実施形態を含む本発明に係るスラブの幅圧下方法におけるシーム疵及びしわ疵抑制のメカニズムを述べる。図1は、本発明に係る幅圧下装置を用いてスラブコーナー部を圧下した時のコーナー部近傍の変形メカニズムを示す説明図である。
上記特許文献1の幅圧下方法では、水平圧延後のシーム疵の発生位置を幅方向エッジ側に寄せること(発生したシーム疵の無害化)に主眼を置いて、竪ロールに凸部を設けている。このため、特許文献1の幅圧下方法で、シーム疵の発生が抑制できる訳ではない。
また、上述したように、特許文献2に記載のような幅プレス用金型を用いて大きな幅圧下量で圧下した場合、幅圧下時にスラブのコーナー部近傍の長辺側表面に大きな圧縮ひずみが加わり、しわ疵が発生してしまう。
特許文献2のように、カリバー溝を設けた幅プレス用金型を用いて幅圧下した際にスラブ長辺側に圧縮ひずみが加わりやすいのは、幅圧下の方向とスラブ長辺とが略直交するためである。この幅圧下(幅プレス)時に生じるスラブ長辺側の圧縮ひずみを起因として、しわ疵が発生する。上記幅圧下時の圧縮ひずみの発生と同じ理由で、すなわち、水平圧延時のロール圧下方向とスラブ短辺とが略直交するため、水平圧延時にはスラブ短辺側にひずみが加わりやすい。この水平圧延時に生じるスラブ短辺側のひずみを起因として、シーム疵が発生する。なお、水平圧延時にスラブ短辺側に発生したシーム疵は、水平圧延により鋼板に成形されると鋼板の表面に回り込んでくるため、外観不良の原因となる。そこで、本発明者は、幅圧下段階で、スラブSのコーナー部Cを斜め方向(コーナー部C近傍における短辺方向及び長辺方向から傾斜した方向)から圧下することにより、しわ疵及びシーム疵を生じさせることなくスラブSのコーナー部Cを圧下することが可能であると考えた。
このようにコーナー部C近傍のスラブ長辺側に加わる圧縮ひずみを低減するために、本発明者は以下のような竪ロールを用いた幅圧下方法を見出した。すなわち、本幅圧下方法に用いる幅圧下装置の竪ロールとして、当該竪ロールの平坦な周面の一部にスラブの幅方向に突出した凸部130を有するロール(以下、「中凸ロール」と称する。)と、必要に応じてさらに、竪ロールの周面が平坦な周面のみからなるロール(以下、「フラットロール」と称する。)とを用い、竪ロールの周面に設けられた凸部130により1パス目の幅圧下を行った直後に(すなわち、水平圧延を挟まずに続けて)、竪ロールの平坦な周面により2パス目の幅圧下を行う。1パス目の幅圧下においては、凸部130の底面の鉛直方向長さをスラブ厚より長くすると共に、凸部130の底面に対向する先端面132の鉛直方向長さをスラブ厚よりも短くすることにより、スラブSのコーナー部Cを凸部130の傾斜面131で圧下するようにする。また、2パス目の幅圧下においては、竪ロールの平坦な周面140により、スラブSのコーナー部Cを斜め方向(コーナー部C近傍における短辺方向及び長辺方向から傾斜した方向)から圧下するようにする。
なお、1パス目の幅圧下に用いるロール形状と2パス目の幅圧下に用いるロール形状の変更方法としては、上記凸部130と平坦な周面140とを有する1対の竪ロールをスラブ厚み方向(鉛直方向)に上下動させることにより行ってもよいし、周面の鉛直方向中央部に上記凸部130を有する中凸ロールと、平坦な周面140のみからなるフラットロールの2対の竪ロールを用いてもよい。以下、このような幅圧下方法により、シーム疵及びしわ疵を抑制可能である理由について説明する。
まず、図1(a)に示すように、1パス目の幅圧下において、スラブSのコーナー部Cを凸部130の傾斜面131で圧下することにより、スラブ長辺側がバルジングしやすくなり、コーナー部C近傍のスラブ長辺側に圧縮ひずみが入りにくくなる。加えて、スラブSのコーナー部CをスラブSの幅方向エッジ側(以下、単に「スラブエッジ側」と記載する。)に回転させることができる(図1(a)右図の矢印Rを参照)。コーナー部Cは、最大で、当該コーナー部Cが凸部130の傾斜面131に当接する位置まで回転する。その結果、図1(b)に示すように、スラブSのコーナー部Cがスラブエッジ側に回転し、コーナー部Cの近傍がスラブSの幅方向エッジ(端面)に対して角度αだけ傾斜した状態となる。その後、後続の2パス目の幅圧下において、平坦な周面140により、スラブSのコーナー部Cが斜め方向(コーナー部C近傍における短辺方向及び長辺方向から傾斜した方向)から圧下される。このように、2パス目の幅圧下において、スラブSのコーナー部Cを斜め方向から圧下することにより、ひずみが長辺側に集中することを防ぐことができる。すなわち、コーナー部C近傍の長辺側と短辺側のいずれにおいても大きなひずみを加えることなく(ひずみがコーナー部C近傍の長辺側または短辺側のいずれかに集中せず)、コーナー部Cを平坦な周面140により圧下することが可能となる。その結果、図1(b)の右図に示すように、スラブSの元のコーナー部C近傍が一旦平坦面となる。このようにコーナー部Cを一旦平坦面にすることにより、後続の水平圧延及び幅圧下時にもシーム疵やしわ疵が生じることを抑制することができる。
[第1実施形態]
次に、図2〜図10を参照しながら、以上説明したようなシーム疵及びしわ疵抑制のメカニズムに基づいてなされた、本発明の第1実施形態に係るスラブの幅圧下装置100及びこの幅圧下装置100を用いたスラブの幅圧下方法について説明する。図2は、本実施形態に係る幅圧下装置100の配置を示す上面図である。図3は、本実施形態に係る幅圧下装置100が備える竪ロール110の形状の一例を示す縦断面図である。図4は、本実施形態に係る幅圧下装置100が備える竪ロール110の形状の他の例を示す縦断面図である。図5は、本実施形態に係る竪ロール110に設けられた凸部130の断面形状を示す断面図である。図6は、本実施形態に係る凸部130における傾斜面の傾斜角の違いによるコーナー部C近傍の変形メカニズムの違いを示す説明図である。図7は、図6(b)及び(d)におけるコーナー部Cの変形メカニズムの詳細を示す説明図である。図8は、本実施形態に係る凸部130を有する竪ロール110を用い、幅圧下量が小さい場合の1パス目の幅圧下時の変形挙動を示す説明図である。図9は、本実施形態に係る凸部130を有する竪ロール110を用い、凸部130における先端面132の鉛直方向長さD2とスラブSのコーナー部Cを平坦面まで圧下するために必要な幅圧下量を示す説明図である。図10は、本実施形態に係る凸部130を有する竪ロール110を備える幅圧下装置100において、凸部130における先端面132の好適な鉛直方向長さD2の条件を示すグラフである。なお、図5〜図10においては、幅圧下装置100を例示しているが、幅圧下装置200も同様の構成及び作用を有する。
(幅圧下装置の構成及び動作)
図2〜図4に示すように、本実施形態に係る幅圧下装置100は、竪ロール(エッジャーロール)を用いてスラブの幅圧下を行うスラブの幅圧下方法に使用するものであって、通板するスラブSの幅圧下を行う1対の竪ロール110を備える。この竪ロール110は、竪ロール110による2パスの幅圧下の後に引き続いて行われる水平圧延(粗圧延)に使用される水平ロール11よりも、スラブSの通板方向Dの上流側に配置される。また、1対の竪ロール110は、スラブSの幅方向エッジ部Seを圧下可能なように、スラブSの両側のエッジ部Seと対向するように設けられたスラブSの幅方向左右2つの竪ロールからなる。
本実施の形態では、上述したように、1パス目の幅圧下において、スラブSのコーナー部C近傍のスラブ長辺側に加わる圧縮ひずみを低減するため、竪ロール110には、略円筒状の平坦な周面140の一部が突出した凸部130が設けられている。この凸部130は、スラブSの幅圧下時における竪ロール110の水平方向に対して互いに逆向きに傾斜した上下1対の傾斜面131と、1対の傾斜面131の間に位置する先端面(竪ロール110の圧下方向Pdにおける先端面)132とを有する。また、図5に示すように、凸部130の底面(凸部130と平坦な周面140とが接している面)135の鉛直方向長さD1がスラブ厚tよりも大きく(スラブ厚t超であり)、先端面132の鉛直方向長さD2がスラブ厚tよりも小さい(スラブ厚t未満である)。すなわち、D2<スラブ厚t<D1である。
凸部130が以上のような形状及び寸法を有することにより、1パス目の幅圧下において、凸部130の傾斜面131でスラブSのコーナー部Cを圧下することができる。それにより、コーナー部C近傍のスラブ長辺側に圧縮ひずみが入りにくくなり、スラブSのコーナー部C近傍の長辺側に圧縮ひずみをあまり加えることなく、スラブSのコーナー部Cをスラブエッジ側に回転させることができる。
また、本実施形態に係る竪ロール110の平坦な周面140は、2パス目の幅圧下においてスラブSの幅圧下が可能な程度の鉛直方向の長さを有している。本実施形態に係る幅圧下方法では、凸部130及び平坦な周面140を有する1対の竪ロール110のみを用いて、竪ロール110の凸部130により1パス目の幅圧下を行った直後に、竪ロール110の平坦な周面140により2パス目の幅圧下を行う。すなわち、1パス目の幅圧下と2パス目の幅圧下とで同一の竪ロール110が用いられる。これを実現するため、本実施形態に係る竪ロール110は、少なくとも鉛直方向に上下動可能に設けられている。より詳細には、図3に示すように、1パス目の幅圧下時には、スラブSを凸部130により幅圧下できる位置に竪ロール110を移動させ(例えば、図3のように凸部130が竪ロール110の鉛直方向上部に設けられている場合には、凸部130がスラブSを幅圧下できる位置まで鉛直方向下方に移動させて)、2パス目の幅圧下時には、スラブSを平坦な周面140により幅圧下できる位置に竪ロール110を移動させる(例えば、図3のように凸部130が竪ロール110の鉛直方向上部に設けられている場合には、平坦な周面140がスラブSを幅圧下できる位置まで鉛直方向上方に移動させる)。なお、凸部130が設けられる位置は特に制限されず、図3に示すように、竪ロール110の鉛直方向上部に設けられている場合のみならず、竪ロール110の鉛直方向下部に設けられていてもよく、平坦な周面140が、2パス目の幅圧下においてスラブSの幅圧下が可能な程度の鉛直方向の長さを有している限り、竪ロール110の鉛直方向中央部に設けられていてもよい。
また、本実施形態に係る幅圧下装置100を用いた幅圧下の際、1パス目の凸部130による幅圧下時のロール開度H1(左右1対の竪ロール110の凸部130の先端面132間の距離)を、2パス目の平坦な周面140による幅圧下時のロール開度H2と同一にするか、あるいは、ロール開度H2よりも大きく設定する(すなわち、H1≧H2である)必要がある。1パス目の幅圧下時のロール開度H1と2パス目の幅圧下時のロール開度H2とが上述した位置関係になっていることで、2パス目の幅圧下の際に、スラブSのコーナー部C近傍が平坦面となる(図1(b)の右図の状態)まで圧下することができる。一方、1パス目の幅圧下時のロール開度H1が、2パス目の幅圧下時のロール開度H2よりも小さくなっている(すなわち、H1<H2である)場合には、図1(a)の右図におけるEの位置まで平坦な周面140が到達しないため、コーナー部C近傍を平坦面とする(コーナー部Cを押し潰す)ことができず、幅圧下後にコーナー部CがスラブSの幅方向に突出した形で残存してしまう可能性がある。このように、コーナー部Cが幅方向に突出した形で残存してしまうと、水平圧延時にシーム疵となり得るため、本実施形態に係る幅圧下装置100では、1パス目の幅圧下時のロール開度H1が、2パス目の幅圧下時のロール開度H2以上となるようにしている。
ここで、図3に示す竪ロール110では、凸部130の先端面132が、平坦な周面140よりもスラブSの幅方向(竪ロール110の圧下方向Pd)において突出している。従って、竪ロール110を単に鉛直方向に上下動させるだけでは、上述したロール開度H1をロール開度H2以上とすることはできない。そこで、竪ロール110のような形状のロールを用いる場合には、2パス目の幅圧下時に、1対の竪ロール110を共にスラブSの幅方向エッジ部Seに近づけるようにスラブSの幅方向(圧下方向Pd)に移動させるようロール開度H2を調整する必要がある。
このようなロール開度H2の調整を省く(あるいは、竪ロール110の移動距離を短くする)ため、例えば、図4(a)に示すように、幅圧下装置100が備える竪ロールとして、平坦な周面140のスラブSの幅方向の位置を、凸部130の先端面132と同じ位置にするか、又は、先端面132よりもスラブSのエッジ部Seに近い位置となるような形状を有する竪ロール110−1を用いてもよい。
また、幅圧下装置100が備える竪ロールとしては、上述した竪ロール110及び竪ロール110−1のような一体型のロールだけでなく、例えば、図4(b)に示すように、凸部130を有する凸状部111と、平坦な周面140を有する略円筒状の平坦部113とが独立して設けられた分離型の竪ロール110−2であってもよい。この竪ロール110−2では、例えば、ロール軸115が凸状部111及び平坦部113の双方の中心を貫通するように設けられており、凸状部111の周面111aの一部(例えば、鉛直方向中央部)に凸部130が設けられている。
また、本実施形態に係る幅圧下装置100では、凸部130における傾斜面131の傾斜角αが45°以上であることが必要である。なお、傾斜面131の傾斜角αとは、図5に示すように、傾斜面131と凸部130の底面135とのなす角(α<90°)のことを意味する。
ここで、図6及び図7を参照しながら、傾斜面131の傾斜角αが45°以上であることが必要な理由を述べる。図6(a)及び(b)に示すように、傾斜面131の傾斜角αが大きい(図6に示すα1が、α1≧45°である)と、凸部130によるスラブSのコーナー部Cの圧下の際に、コーナー部Cがスラブエッジ側に十分に回転する。この場合、平坦な周面140によるスラブSのコーナー部Cの圧下の際に、図7(a)に示すように、コーナー部Cがスラブ短辺側に回り込むように回転するため(図7(a)の矢印R1を参照)、平坦な周面140によるコーナー部Cの圧下後に、図6(b)の右図に示すように、コーナー部C近傍を平坦面とすることができる。
一方、図6(c)及び(d)に示すように、傾斜面131の傾斜角αが小さい(図6に示すα2が、α2<45°である)と、凸部130によるスラブSのコーナー部C’の圧下の際に、コーナー部C’のスラブエッジ側への回転が不十分となる。この場合、平坦な周面140によるスラブSのコーナー部C’の圧下の際に、図7(b)に示すように、コーナー部C’がスラブ長辺側に回り込むように回転するため(図7(b)の矢印R2を参照)、平坦な周面140によるコーナー部C’の圧下後に、図6(d)の右図に示すように、コーナー部C’が、幅圧下前のスラブSのコーナー部の元の位置(又はその近傍)に戻ってしまう。α2が極端に小さい場合には、2パス目の幅圧下で平坦な周面140でスラブSのコーナー部を斜め方向から圧下できなくなる恐れもある。以上述べたように、傾斜面131の傾斜角αが45°未満である場合には、水平圧延時にスラブ短辺側にシーム疵が発生してしまう。従って、本実施形態に係る幅圧下装置100では、傾斜面131の傾斜角αが45°以上であることが必要となる。
また、本実施形態に係る幅圧下装置100では、凸部130における傾斜面131の傾斜角αが90°未満であることが必要である。傾斜面131の傾斜角αが90°を超える場合には、1パス目の幅圧下において、スラブSのコーナー部Cを傾斜面131で圧下することができなくなるからである。
なお、凸部130によるスラブSのコーナー部Cの圧下後に、コーナー部Cがスラブエッジ側に十分に(すなわち、平坦な周面140による圧下後にコーナー部C近傍を平坦面にすることができる程度に)回転していれば、凸部130によるコーナー部Cの圧下時に、コーナー部Cは、必ずしも傾斜面131に当接するまで回転しなくてもよい。
次に、本実施形態に係る幅圧下装置100の形状に関してさらに好ましい形態について述べると、凸部130の先端面132の鉛直方向(スラブ厚方向又は水平圧延時の圧下方向)長さD2が、(スラブ厚t−幅圧下量P)以上であり、かつ、(スラブ厚t−40mm)以下であることが好ましい。以下、この理由を図8〜図10を参照しながら述べる。
スラブSのコーナー部Cの回転角(回転度合い)は、幅圧下量によって影響を受ける。図8(a)に示すように、幅圧下量Pが小さい場合には、凸部130の先端面132の鉛直方向長さD2が小さいと、コーナー部Cの回転角が小さくなる(極端な場合には、コーナー部Cがほとんど回転しない)。幅圧下量Pが小さい場合においてもコーナー部Cの回転角を大きくするためには、図8(b)に示すように、スラブ厚tに対して凸部130の先端面132の鉛直方向長さD2を大きくすることが好ましい。本発明者が、傾斜面131の傾斜角αが45°以上の条件で、コーナー部Cの回転角を大きくするという観点から好ましいD2の範囲を実験により検討した結果(後述する実施例を参照)、D2が(スラブ厚t−幅圧下量P)以上であると、スラブSのコーナー部Cの回転角を十分に大きくすることができる(従って、平坦な周面140によるコーナー部Cの圧下時に、コーナー部C近傍を平坦面にすることができる)ことが分かった。なお、ここでいう幅圧下量Pは、スラブSの幅方向両側における幅圧下量を合計したものを意味する(従って、スラブSの幅方向片側における幅圧下量ではない)。
また、図1(b)に示したように、幅圧下後には、スラブSのコーナー部Cが平坦面となるまで塑性変形させることになるが、そのためには、コーナー部Cを十分に幅圧下装置100の竪ロール110側に突出させることにより、コーナー部Cの変形量を増やすことが好ましい。すなわち、図1(a)の段階において、スラブSの厚み方向中央部に対するコーナー部Cの竪ロール110側への突出量Prを大きくすることが好ましい。具体的には、図9(a)に示すように、凸部130の先端面132の鉛直方向長さD2が大きく、コーナー部Cの竪ロール110側への突出量Prが小さい状態よりも、図9(b)に示すように、凸部130の先端面132の鉛直方向長さD2が小さく、コーナー部Cの竪ロール110側への突出量Prが大きい状態の方が好ましい。本発明者が、傾斜面131の傾斜角αが45°以上の条件で、コーナー部Cの竪ロール110側への突出量を大きくするという観点から好ましいD2の範囲を実験により検討した結果(後述する実施例を参照)、D2が(スラブ厚t−40mm)以下であると(すなわち、図9(b)に示す(G1+G2)が40mm以上であると)、コーナー部Cの竪ロール110側への突出量を十分に大きくすることができる(従って、平坦な周面140によるコーナー部Cの圧下時に、コーナー部C近傍を平坦面にすることができる)ことが分かった。
以上述べた本発明者の検討結果をまとめると、図10に示すように、凸部130の先端面132の鉛直方向長さD2の、コーナー部Cの回転角を大きくするために好ましい条件は矢印F1で示す範囲となり、コーナー部Cの幅圧下装置100の竪ロール110側への突出量を大きくするために好ましい条件は矢印F2で示す範囲となる。従って、コーナー部Cの回転角を大きくし、かつ、コーナー部Cの竪ロール110側への突出量を大きくする最も好ましい長さD2の条件は、図10において斜線で示した範囲内となる。
(幅圧下方法)
次に、上述した幅圧下装置100を用いてスラブの幅圧下を行う、本実施形態に係る幅圧下方法について説明する。本実施形態に係るスラブの幅圧下方法は、竪ロール110を用いてスラブの幅圧下を行う方法である。この幅圧下方法では、竪ロール110の平坦な周面140に設けられた凸部130により1パス目の幅圧下を行った直後に、竪ロール110の平坦な周面140により2パス目の幅圧下を行う。ここで、「(1パス目の幅圧下を行った)直後」とは、1パス目の幅圧下と2パス目の幅圧下との間に水平圧延(粗圧延)を挟まずに、1パス目の幅圧下と2パス目の幅圧下を連続して行うことを意味する(以下の第2実施形態でも同様である)。
本実施形態に係るスラブの幅圧下方法は、典型的には、薄板の熱間圧延プロセスにおいて、粗圧延(水平圧延)の直前に幅成形をするために用いられる方法であり、この方法によれば、コイルのエッジ近傍に発生する表面疵(シーム疵及びしわ疵)を抑制することができる。ただし、本実施形態に係るスラブの幅圧下方法は、薄板の熱間圧延プロセス(熱間圧延ライン)で用いられる場合に限られず、例えば、鋳造直後に本実施形態に係る幅圧下を行ってもよい。以下、本実施形態に係る幅圧下方法の詳細を述べる。
本実施形態に係る幅圧下方法では、鋳造後のスラブSが幅圧下装置100の入側に搬送されると、まず、竪ロール110のロール開度が設定開度H1に一致するよう、竪ロール110の開度を調節する。その後、スラブSが搬送方向Dに搬送され、スラブSのエッジ部Seを圧下し、幅圧下する(1パス目)。この際、1パス目の幅圧下では、竪ロール110の周面140の一部に設けられた凸部130の傾斜面131が、スラブSのコーナー部Cを圧下できる位置まで、竪ロール110が鉛直方向上方又は下方に移動する。スラブSの所定範囲について1パス目の幅圧下が行われると、スラブSは、水平ロール11がある位置まで搬送される前に、一旦搬送方向Dと逆向きに搬送され、1パス目の幅圧下が行われる直前の位置まで戻る。その後、再び、スラブSが搬送方向Dに搬送されると、竪ロール110のロール開度をH2に調整し、スラブSのエッジ部Seを幅圧下する(2パス目)。この際、2パス目の幅圧下では、竪ロール110の平坦な周面140が、スラブSのコーナー部Cを圧下できる位置まで、竪ロール110が鉛直方向上方又は下方に移動する。なお、2パス目の幅圧下は、幅圧下装置100の出側から幅圧下装置100の入側に搬送される際(逆転時)に行ってもよい。
以上のようにして1パス目及び2パス目の幅圧下が行われた後、スラブSは、さらに搬送方向Dに搬送され、水平ロール11による水平圧延(粗圧延)が行われる。このような操作を行うことで、スラブSの全長を所望の幅寸法に幅圧下することができる。
以上の実施の形態によれば、凸部130の底面135の鉛直方向長さD1がスラブ厚tよりも大きく、先端面132の鉛直方向長さD2がスラブ厚tよりも小さいことにより、1パス目の幅圧下において、スラブSのコーナー部を凸部130の傾斜面131で圧下することができる。したがって、スラブSのコーナー部C近傍のスラブ長辺側がバルジングしやすくなり、その結果スラブSのコーナー部C近傍の長辺側に圧縮ひずみをあまり加えることなく、スラブSのコーナー部Cをスラブエッジ側に回転させることができる。その結果、2パス目の幅圧下において、平坦な周面140により、スラブSのコーナー部Cを斜め方向から圧下することができるため、スラブSのコーナー部Cにかかる力をスラブ長辺側とスラブ短辺側に分散させることができ、コーナー部C近傍の長辺側と短辺側のいずれにおいても大きなひずみを加えることなくコーナー部Cを圧下することが可能となる。このような作用により、以上の実施の形態によれば、幅圧下装置100を用いた幅圧下方法において、幅圧下後の水平圧延時に発生するシーム疵の発生を抑制すると同時に、幅圧下時に発生するしわ疵をも抑制することができる。
また、以上の実施の形態によれば、上述したように、凸部130による1パス目の幅圧下時のロール開度H1が、平坦な周面140による2パス目の幅圧下時のロール開度H2以上となるように設定されていることから、図1(b)の右図に示すように、スラブSのコーナー部Cを平坦面まで圧下することができる。
[第2実施形態]
続いて、図11及び図12を参照しながら、以上説明したようなシーム疵及びしわ疵抑制のメカニズムに基づいてなされた、本発明の第2実施形態に係るスラブの幅圧下装置200及びこの幅圧下装置200を用いたスラブの幅圧下方法について説明する。図11は、本実施形態に係る幅圧下装置200の配置を示す上面図である。図12は、本実施形態に係る幅圧下装置200が備える竪ロール210、220の形状の一例を示す縦断面図であり、(a)は、竪ロール210の形状を示し、(b)は、竪ロール220の形状を示している。
(幅圧下装置の構成及び動作)
図11及び図12に示すように、本実施形態に係る幅圧下装置200は、竪ロール(エッジャーロール)を用いてスラブの幅圧下を行うスラブの幅圧下方法に使用するものであって、スラブSの搬送方向Dの上流側及び下流側に搬送方向Dに沿って設けられ、通板するスラブSの幅圧下を行う2対の竪ロール(すなわち、1対の竪ロール210及び1対の竪ロール220)を備える。通板方向Dの上流側の竪ロール210及び下流側の竪ロール220はともに、粗圧延ラインにおいて、竪ロール210及び竪ロール220による2パスの幅圧下の後に引き続いて行われる水平圧延(粗圧延)に使用される水平ロール11よりも、スラブSの通板方向Dの上流側に配置される。また、2対の竪ロール210及び竪ロール220は、それぞれ、スラブSの幅方向エッジ部Seを圧下可能なように、スラブSの両側のエッジ部Seと対向するように設けられた水平方向(スラブSの幅方向)左右2つの竪ロールからなる。
本実施の形態では、上述したように、1パス目の幅圧下において、スラブSのコーナー部C近傍のスラブ長辺側に加わる圧縮ひずみを低減するため、1パス目の幅圧下に使用される竪ロール(中凸ロール)210は、略円筒状の周面210aの一部(例えば、周面210aの鉛直方向中央部)に、スラブSのエッジ部Se方向に突出した凸部230を有している。この凸部230は、スラブSの幅圧下時における竪ロール210の水平方向に対して互いに逆向きに傾斜した上下1対の傾斜面231と、1対の傾斜面231の間に位置する先端面(竪ロール210の圧下方向Pdにおける先端面)232とを有する。その他、凸部230の形状及びサイズ、並びに当該形状及びサイズにより生じる作用効果に関しては、上述した第1実施形態に係る凸部130と同様であるので、詳細な説明を省略する。
凸部230が以上のような形状及び寸法を有することにより、1パス目の幅圧下において、凸部230の傾斜面231でスラブSのコーナー部Cを圧下することができる。それにより、コーナー部C近傍のスラブ長辺側に圧縮ひずみが入りにくくなり、スラブSのコーナー部C近傍の長辺側に圧縮ひずみをあまり加えることなく、スラブSのコーナー部Cをスラブエッジ側に回転させることができる。
また、本実施形態において、2パス目の幅圧下に使用される竪ロール(フラットロール)220は、略円筒状の平坦な周面240のみからなるロールである。本実施形態に係る幅圧下方法では、凸部230を有する竪ロール210及び平坦な周面240を有する竪ロール210という2対の竪ロールを用いて、竪ロール210の凸部230により1パス目の幅圧下を行った直後に、竪ロール220の平坦な周面240により2パス目の幅圧下を行う。
また、本実施形態に係る幅圧下装置200を用いた幅圧下の際にも、上述した第1実施形態に係る幅圧下装置100と同様の理由で、1パス目の凸部230を有する竪ロール210による幅圧下時のロール開度H1(左右1対の竪ロール210の凸部230の先端面232間の距離)を、2パス目の平坦な周面240を有する竪ロール220による幅圧下時のロール開度H2と同一にするか、あるいは、ロール開度H2よりも大きく設定する(すなわち、H1≧H2である)必要がある。
なお、2パス目の幅圧下で使用する竪ロール220(フラットロール)は、以降のパスでのスラブSの幅制御に使用することもできる。
(幅圧下方法)
次に、上述した幅圧下装置200を用いてスラブの幅圧下を行う、本実施形態に係る幅圧下方法について説明する。本実施形態に係るスラブの幅圧下方法は、共に水平ロール11のスラブSの通板方向上流側に配置された竪ロール210及び竪ロール220を用いてスラブの幅圧下を行う方法である。この幅圧下方法では、竪ロール210の周面210aに設けられた凸部230により1パス目の幅圧下を行った直後に、竪ロール220の平坦な周面240により2パス目の幅圧下を行う。
本実施形態に係るスラブの幅圧下方法は、典型的には、薄板の熱間圧延プロセスにおいて、粗圧延(水平圧延)の直前に幅成形をするために用いられる方法であり、この方法によれば、コイルのエッジ近傍に発生する表面疵(シーム疵及びしわ疵)を抑制することができる。ただし、本実施形態に係るスラブの幅圧下方法は、薄板の熱間圧延プロセス(熱間圧延ライン)で用いられる場合に限られず、例えば、厚板の熱間圧延や鋳造直後の圧延において本実施形態に係る幅圧下を行ってもよい。以下、本実施形態に係る幅圧下方法の詳細を述べる。
本実施形態に係る幅圧下方法では、鋳造後のスラブSが幅圧下装置200の入側に搬送されると、まず、竪ロール210および竪ロール220のロール開度が設定開度H1およびH2にそれぞれ一致するよう、竪ロール210および竪ロール220の開度を調節する。その後、スラブSが搬送方向Dに搬送され、竪ロール210の凸部230が、スラブSのエッジ部Seを圧下し、幅圧下する(1パス目)。さらに、引き続き搬送方向Dに搬送され、竪ロール220の平坦な周面240が、所定の圧力でスラブSのエッジ部Seを圧下し、幅圧下する(2パス目)。なお、竪ロール210および竪ロール220は、搬送方向Dに距離を近接させて、スラブSを竪ロール210と竪ロール220で同時に幅圧下するタンデム方式としてもよいし、竪ロール210と竪ロール220の距離を遠ざけてそれぞれ独立で幅圧下する方式としてもよい。
以上のようにして1パス目及び2パス目の幅圧下が行われた後、スラブSは、さらに搬送方向Dに搬送され、水平ロール11による水平圧延(粗圧延)が行われる。このような操作を行うことで、スラブSの全長を所望の幅寸法に幅圧下することができる。
このように、本実施形態に係る幅圧下装置200を用いたスラブの幅圧下方法では、第1実施形態と異なり、スラブSを通板方向Dの逆向きに一旦移動させたり、スラブSの通板を停止したりすることなく、連続的にスラブSの幅圧下を行うことができる。そのため、幅圧下装置200を用いた幅圧下方法によれば、良好な生産性を維持することができる。
また、本実施形態においても、上述した第1実施形態と同様、1パス目の幅圧下において、スラブSのコーナー部を凸部230の傾斜面231で圧下することができる。したがって、スラブSのコーナー部C近傍のスラブ長辺側がバルジングしやすくなり、その結果スラブSのコーナー部C近傍の長辺側に圧縮ひずみをあまり加えることなく、スラブSのコーナー部Cをスラブエッジ側に回転させることができる。その結果、2パス目の幅圧下において、平坦な周面240により、スラブSのコーナー部Cを斜め方向から圧下することができるため、スラブSのコーナー部Cにかかる力をスラブ長辺側とスラブ短辺側に分散させることができ、コーナー部C近傍の長辺側と短辺側のいずれにおいても大きなひずみを加えることなくコーナー部Cを圧下することが可能となる。このような作用により、以上の実施の形態によれば、幅圧下装置200を用いた幅圧下方法において、幅圧下後の水平圧延時に発生するシーム疵の発生を抑制すると同時に、幅圧下時に発生するしわ疵をも抑制することができる。
また、以上の実施の形態によれば、上述したように、凸部230を有する竪ロール210による1パス目の幅圧下時のロール開度H1が、平坦な周面140を有する竪ロール220による2パス目の幅圧下時のロール開度H2以上となるように設定されていることから、図1(b)の右図に示すように、スラブSのコーナー部Cを平坦面まで圧下することができる。
[第3実施形態]
次に図14〜図16を参照しながら、本発明の第3実施形態に係るスラブの幅圧下装置300及びこの幅圧下装置300を用いたスラブの幅圧下方法について説明する。図14は、本実施形態に係る幅圧下装置300の配置を示す上面図、図15は、この幅圧下装置300が備える幅プレス機310の金型の斜視図である。図16は、幅圧下装置300の幅プレス機310による幅圧下の進行状態を示す説明図である。
(幅圧下装置の構成及び動作)
第3実施形態に係るスラブの幅圧下装置300は、基本的には、先に説明した第2実施形態に係るスラブの幅圧下装置200において、1対の竪ロール210の搬送方向Dの下流側に位置している1対の竪ロール220に代えて、幅プレス機310を設置した構成を有している。したがって1対の竪ロール210の構成及び動作は、いずれも第2実施形態に係るスラブの幅圧下装置200の竪ロール210と同一であるので、詳細な説明は省略する。
幅プレス機310は、1対の対向配置された金型320、330を有している。金型320、330は、押圧機構(図示せず)によって、幅圧下対象となるスラブのエッジ部Seを水平方向から対向して圧下することが可能である。金型320、330は、幅プレス機310の金型取付部(図示せず)に取り付けられている。金型320、330は左右対称形である。例えば一方の金型320について説明すると、図15にも示したように、この金型320は、連続した2つの押圧部(押圧面)を有している。一の押圧部はスラブの入側に形成された傾斜部321であり、他の押圧部は、傾斜部321から続いてスラブの搬送方向Dの下流側に形成された、搬送方向Dと平行に設定されている平坦部322である。金型330においても、傾斜部331と平坦部332が形成されている。
傾斜部321、331が、スラブSの長辺と成す角度、すなわち傾斜部321が平坦部322と成す角度θ、傾斜部331が平坦部332と成す角度θは、例えば10°〜20°に設定されている。そして金型320、330のプレス終点、すなわち金型320と金型330が最接近した際には、対向する金型320、330の各平坦部322、332との間の距離となる設定開度H3は、上述した第2実施形態における2パス目の幅圧下時のロール開度H2と同一になるように設定されている。
この第3実施形態にかかる幅圧下装置300においては、上述したように、1対の竪ロール210の構成及び動作は、いずれも第2実施形態に係るスラブの幅圧下装置200の竪ロール210と同一であるから、1パス目の幅圧下において、凸部230の傾斜面231でスラブSのコーナー部Cを圧下することができる。それにより、コーナー部C近傍のスラブ長辺側に圧縮ひずみが入りにくくなり、スラブSのコーナー部C近傍の長辺側に圧縮ひずみをあまり加えることなく、スラブSのコーナー部Cをスラブエッジ側に回転させることができる。
そして2パス目の幅圧下においては、幅プレス機310が備える、1対の対向配置された金型320、330による、幅圧下が行なわれる。この場合も、第2の実施形態と同様、1パス目の凸部230を有する竪ロール210による幅圧下時のロール開度H1(左右1対の竪ロール210の凸部230の先端面232間の距離)を、2パス目の幅プレス機310における金型320、330による幅圧下時の各平坦部322、332間の設定開度H3と同一にするか、あるいは、当該設定開度H3よりも大きく設定する(すなわち、H1≧H3である)必要がある。
(幅圧下方法)
次に、上述した幅圧下装置300を用いてスラブの幅圧下を行う、本実施形態に係る幅圧下方法について説明する。本実施形態に係るスラブの幅圧下方法は、水平ロール11のスラブSの通板方向上流側に配置された竪ロール210及び幅プレス機310を用いてスラブの幅圧下を行う方法である。この幅圧下方法では、竪ロール210の周面210aに設けられた凸部230により1パス目の幅圧下を行った後に、幅プレス機310による幅圧下が行なわれるエリアにて2パス目の幅圧下が行なわれる。
本実施形態に係る幅圧下方法では、既述した第2実施形態と同様、鋳造後のスラブSが幅圧下装置200の入側に搬送されると、竪ロール210の開度が、設定開度H1に設定され、幅プレス機310における金型320、330の各平坦部322、332のプレス終点時の距離が、設定開度H3となるように調整される。
その後、スラブSが搬送方向Dに搬送され、竪ロール210の凸部230が、スラブSのエッジ部Seを圧下し、幅圧下する(1パス目)。その後、幅プレス機310による幅圧下エリアまでスラブSが搬送されると、幅プレス機310による幅圧下が開始される。
幅プレス機310による幅圧下は、スラブSが搬送方向Dに、図示しない搬送ローラなどによって、一定のピッチ(スラブ搬送ピッチTP)で搬送されて順次なされる。すなわち、最初の幅圧下位置まで、スラブSが搬送されると、搬送が停止される。次いで金型320、330が図14中の矢印Pに示したように、スラブSに向かって移動し、これにより、スラブSのプレスによる幅圧下が行われる。その後、金型310、320がスラブSから離間するように後退すると共に、スラブSが再び搬送方向Dに一定のスラブ搬送ピッチTPで搬送される。このような操作を図16に示したように、スラブSの全長に亘って繰り返すことにより、スラブSの全長を所望の幅寸法に幅圧下することができる。
なお上記した説明では、金型320、330が離間している間に、図示しないローラ等によりスラブSを搬送方向Dにスラブ搬送ピッチTPで搬送するようにしているが、金型320、330によりスラブSをプレスしながら金型320、330によってスラブSを搬送方向Dに搬送するようにしてもよい。
以上のようにして、幅プレス機310による幅圧下がスラブSの全長に亘って行われると、スラブSは搬送方向Dの下流側に位置する水平ロール11によって水平圧延(粗圧延)が行われる。このような操作を行うことで、スラブSの全長を所望の幅寸法に幅圧下することができる。
このように、本実施形態に係る幅圧下装置300を用いたスラブの幅圧下方法では、第2実施形態で2パス目の幅圧下で採用していた竪ロール220に代えて、幅プレス機310によるスラブSの幅圧下を行うようにしているが、第2実施形態に係る幅圧下方法と比較すると、幅圧下効率を高めることができる。
また後述するように、このような幅プレス機310による幅プレスによって幅圧下を行っても、第2実施形態にかかる幅圧下方法と同様の効果が得られることが確認されている。したがって幅圧延機もしくは幅プレス機のようなスラブ幅圧下装置を既に有する熱延ラインに対しては、幅端部を成形するための荷重容量が小さい竪ロール210を新設することで、本発明を実施することが可能となる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
以下、本発明の実施例について説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明を更に具体的に説明するためのものであって、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、以下の実験例1及び2においては、幅圧下装置として第2実施形態に係る幅圧下装置200と同じ構造を有する幅圧下装置を使用して実験したが、第1実施形態に係る幅圧下装置100と同じ構造を有する幅圧下装置を使用した場合でも、同様の結果が得られるものと推測される。
(実験例1)
本実験例では、各幅圧下装置の使用時におけるシーム疵及び幅圧下に起因したしわ疵の発生状況を検証した。具体的には、実施例1及び実施例2の幅圧下装置として、上述した第2実施形態に係る幅圧下装置200と同じ構造を有し、かつ、凸部230の傾斜面231の傾斜角α、先端面232の鉛直方向長さD2、及び凸部230による幅圧下時のロール開度H1と平坦な周面240による幅圧下時のロール開度H2との差(H1−H2)を以下の表1に示す値に変えたものを用いて、スラブ(スラブ厚:250mm)の幅圧下を実施した。全ての実施例における凸部の底面の鉛直方向長さは300mm、平坦な周面の鉛直方向長さは500mm、凸部の先端面の鉛直方向長さは150mm、とした。
比較例1では、幅圧下で用いる竪ロールの周面に図13に示すようなカリバー溝(側壁面の傾斜角β=20°、底面の鉛直方向長さD3=150mm、開口部の鉛直方向長さD4=300mm)を設けた幅圧下装置を用い、幅圧下を1パスのみ行った。また、比較例2では、1パス目の幅圧下で用いる竪ロールの周面の鉛直方向(スラブ厚み方向)中央部に凸部(傾斜面の傾斜角α=45°、凸部の底面の鉛直方向長さD1=200mm、先端面の鉛直方向長さD2=150mm)を設け、2パス目の幅圧下で用いる竪ロールとして平坦な周面のみからなるフラットロールを用いた(ロール開度差H1−H2=0mm)。したがって、比較例2の凸部の底面の長さは、スラブ厚(=250mm)より小さい。また、比較例3では、1パス目の幅圧下で用いる竪ロールの周面の鉛直方向(スラブ厚み方向)中央部に凸部(傾斜面の傾斜角α=45°、凸部の底面の鉛直方向長さD1=200mm、先端面の鉛直方向長さD2=150mm)を設け、2パス目の幅圧下で用いる竪ロールの周面に、図13に示すようなカリバー溝(側壁面の傾斜角β=20°、底面の鉛直方向長さD3=150mm、開口部の鉛直方向長さD4=300mm)を設けた。したがって、比較例3の凸部の底面の長さも、スラブ厚(=250mm)より小さい。また、比較例4では、凸部の傾斜面の傾斜角αが45°未満の例として、1パス目の幅圧下で用いる竪ロールの周面の鉛直方向(スラブ厚み方向)中央部に凸部(傾斜面の傾斜角α=20°)を設け、2パス目の幅圧下で用いる竪ロールとして平坦な周面のみからなるフラットロールを用いた(ロール開度差H1−H2=0mm)。また、比較例5では、1パス目と2パス目の幅圧下時のロール開度差H1−H2が0未満の場合(すなわち、1パス目のロール開度H1よりも2パス目のロール開度H2の方が大きい場合)の例として、1パス目の幅圧下で用いる竪ロールの周面の鉛直方向(スラブ厚み方向)中央部に凸部(傾斜面の傾斜角α=45°)を設け、2パス目の幅圧下で用いる竪ロールの周面として平坦な周面のみからなるフラットロールを用い、ロール開度差H1−H2=−10mmとした。なお、比較例の条件で特に説明がないものについては、実施例1と同様とした。
以上の実施例1〜4及び比較例1〜5について、水平圧延後のシーム疵の発生状況及び幅圧下を起因とするしわ疵の発生状況を観察し、以下の基準で評価した。その結果を表1に併せて示す。
<シーム疵及びしわ疵の評価基準>
◎:全く疵が見られない
○:品質上問題にならない程度の軽度の疵を確認
×:品質上問題ある疵が発生
<総合評価の評価基準>
◎:シーム疵、しわ疵の評価がいずれも◎
○:シーム疵、しわ疵の評価がいずれも×ではなく、少なくとも1つの評価が○
×:シーム疵、しわ疵の評価の少なくとも1つの評価が×
表1に示すように、実施例1〜4の幅圧下装置を用いてスラブの幅圧下を実施した場合には、シーム疵発生及びしわ疵発生の両方が抑制されることがわかった。
一方、凸部を設けずカリバー溝のみを設けた竪ロールを用いた比較例1と、1パス目の幅圧下で用いる竪ロールに凸部を設けているものの、底面長さがスラブ厚未満であり、かつ2パス目の幅圧下で用いる竪ロールにカリバー溝を設けた比較例3では、しわ疵発生を抑制することができていなかった。また、1パス目の幅圧下で用いる竪ロールに凸部を設けているものの、底面長さがスラブ厚未満である比較例2、1パス目の幅圧下で用いる竪ロールに凸部を設けているものの、凸部の傾斜面の傾斜角αが45°未満である比較例4、及び1パス目と2パス目のロール開度差H1−H2が0未満である比較例5は、シーム疵発生を抑制することができていなかった。
(実験例2)
本実験例では、凸部230の先端面232の鉛直方向長さD2のより好ましい条件を検討した。具体的には、実施例5〜13の幅圧下装置として、上述した実施例1の幅圧下装置と同じ構造を有し、かつ、凸部230の傾斜面231の傾斜角α、先端面232の鉛直方向長さD2を以下の表2に示す値に変えたものを用い、幅圧下量を表2に示す値に変えた以外は、実施例1と同様にしてスラブ(スラブ厚:250mm)の幅圧下を実施した。
以上の実施例5〜13について、水平圧延後のシーム疵の発生状況及び幅圧下を起因とするしわ疵の発生状況を観察し、実験例1と同様の基準で評価した。その結果を表2に併せて示す。
表2に示すように、実施例5〜13の幅圧下装置を用いてスラブの幅圧下を実施した場合は、いずれも、シーム疵発生及びしわ疵発生の両方が抑制されることがわかった。特に、凸部の先端面の鉛直方向長さD2が、図10の斜線部で示す領域に含まれる実施例7、8、10〜13の幅圧下装置を用いてスラブの幅圧下を実施した場合には、しわ疵発生とシーム疵発生の両方の抑制効果に非常に優れていた。一方、凸部の先端面の鉛直方向長さD2が、(スラブ厚−40mm)を超える実施例5、並びに、凸部の先端面の鉛直方向長さD2が、(スラブ厚−幅圧下量)未満の実施例6及び9の幅圧下装置を用いてスラブの幅圧下を実施した場合は、D2≦(スラブ厚−40mm)かつD2≧(スラブ厚−幅圧下量)である実施例7、8、10〜13の幅プレス用金型を用いてスラブの幅圧下を実施した場合よりも、シーム疵発生の抑制効果は低下する傾向にあった。
(実験例3)
本実験例3では、各幅圧下装置の使用時におけるシーム疵及び幅圧下に起因したしわ疵の発生状況を検証した。具体的には、実施例14〜17の幅圧下装置として、上述した第3実施形態に係る幅圧下装置300と同じ構造を有し、かつ、凸部230の傾斜面231の傾斜角α、先端面232の鉛直方向長さD2、及び凸部230による幅圧下時のロール開度H1と、幅プレス機310の金型320、330各平坦部322、332のプレス終点時の距離である設定開度H3との差H1−H3を以下の表3に示す値に変えたものを用いて、スラブ(スラブ厚:250mm)の幅圧下を実施した。全ての実施例における竪ロールの凸部230の底面の鉛直方向長さは300mm、金型320、330の各平坦部322、332の鉛直方向長さは500mm、搬送方向Dの長さは400mmとした。なおシーム疵及びしわ疵の評価基準は上述の実験例1における表1と同じである。
また比較例6、8、9は、それぞれ上述した表1中の比較例2、4、5における2パス目の幅圧下を実施例14〜17と同様のフラット金型を有する幅プレス機で実施した条件である。比較例7は上述した表1中の比較例3における2パス目の幅圧下を、比較例3と同様のカリバー溝を設けた金型を有する幅プレス機で実施した条件である。
表3に示したように、実施例14〜17の幅プレス機310を有する幅圧下装置300を用いてスラブの幅圧下を実施した場合には、シーム疵発生及びしわ疵発生の両方が抑制されることがわかった。
(実験例4)
以上の実験例1〜3の結果から、2パス目の圧下を、第2実施形態に係る幅圧下装置200と、第3実施形態に係る幅圧下装置300と、で各々実施した場合の、評価を表4に示した。なおこの表4中、水平圧延起因のシーム疵、幅圧延起因のしわ疵に対する評価、及び総合評価については、実験例1と同様の基準で評価した。
この表4の結果からわかるように、2パス目の幅圧下の際に、第2実施形態に係る幅圧下装置200で採用した竪ロール220を用いた場合(実施例5〜13)と、第3実施形態に係る幅圧下装置300で採用した幅プレス機310を用いた場合(実施例18〜26)とでは、評価に差がないことが確認できた。