以下、本発明に係る実施形態を添付図面に従って説明する。なお、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいは、その用途を制限することを意図するものではない。また、図面は模式的なものであり、各距離の比率等は現実のものとは相違している。
図1は、本発明の一実施形態に係るディーゼルエンジンの燃焼室構造を示すもので、このエンジン10の燃焼室11は、シリンダブロック12に形成されたシリンダ12aと、該シリンダ12a内を往復動するピストン13のピストン冠面13aと、吸気ポート14a及び排気ポート14bをそれぞれ開閉する吸気弁15と排気弁16の下面と、吸気弁15及び排気弁16が配設されたシリンダヘッド14の、ピストン冠面13aに対向する下面14cとで構成されている。
また、ピストン冠面13aには、シリンダヘッド14の下面14cから離れる方向に凹となるキャビティ30が凹設されており、この内側空間も燃焼室11を構成している。キャビティ30は、平面視での基本形状が略円形に構成されている。シリンダヘッド14には、燃料噴射弁17が取り付けられている。燃料噴射弁17は、平面視でシリンダ12aの中央に位置しており、先端部が燃焼室に臨むように配置されている。
図2は、シリンダ12aの中心軸X−Xを通る断面上における燃焼室11の断面図であり、図3は、燃焼室11の平面図である。図2及び図3ではいずれも、ピストン13が圧縮上死点に位置する状態が示されており、併せて、燃料噴射弁17から噴射された燃料の噴霧が符号Fにより示されている。キャビティ30は、少なくともピストン13が圧縮上死点又はこの近傍に位置するときに、燃料噴射弁17から噴射された燃料(噴霧F)を受け入れ可能な形状及び大きさに設定されている。
図2に示されるように、キャビティ30は、いわゆるリエントラント型に構成されており、キャビティ開口部31に位置しておりキャビティ30の内部に比して縮径されたリップ部32と、リップ部32からキャビティ30の底部に向かう周辺部33と、周辺部33からキャビティの中央部に向かう中央部34とで構成されている。周辺部33は、リップ部32よりも拡径するように径方向外側へ凹設されている。中央部34は、その中心部上方に位置する燃料噴射弁17に向かって凸となる山状に形成されている。
すなわち、キャビティ30は、キャビティの径方向外側壁部を構成する内周壁面30aが、リップ部32と周辺部33のうち径方向外側部分とにより構成されており、底壁部30bが、中央部34と周辺部33のうち底側部分とにより構成されている。
図3に示されるように、キャビティ開口部31には、複数の切欠き部40が形成されている。切欠き部40は、キャビティ30の内周壁面30aからピストン冠面13aにわたって放射状に凹設されて形成されており、複数の切欠き部40を介して、ピストン冠面13a上の空気流動をキャビティ30の内側に導入させて、キャビティ30内における噴霧Fの流動性を増大させるようになっている。
燃料噴射弁17の先端部の周囲には、複数の噴孔17a…17aが形成されている。燃料噴射弁17は、噴孔17aが、ピストン13が圧縮上死点又はこの近傍に位置するときに、図3に示されるように、放射状に燃料を噴射するように構成されていると共に、図2に示されるように、噴霧Fがキャビティ30のリップ部32と周辺部33との境界部近傍を指向するように構成されている。
本実施形態では、噴孔17aは、周方向に等間隔で10個設けられ、それぞれ同じ大きさに形成されている。図4は、燃料噴射弁17の先端部を拡大して示しており、図4(a)に側面図を示し、図4(b)に図4(a)のB−B線における断面図を示している。
図4(b)に示されるように、噴孔17aは、所定の噴孔径D及び噴孔長Lに形成されている。噴孔17aの噴孔径D及び噴孔長さLは、シリンダ径B(図1参照)との関係で所定の関係を満たすように構成されており、これによって、低負荷域における噴霧Fの低ペネトレーション化を実現してこれによる冷却損失の低減を実現すると共に、中高負荷域におけるスート(煤)の低減を実現するようになっている。
図2に戻って、キャビティ30の周辺部33は、燃料噴射弁17から最も離れた第1部分33aと、第1部分33aのリップ部32側に位置する第2部分33bと、第1部分33aの中央部34側に位置する第3部分33cとで構成されている。第1部分33a、第2部分33b、及び第3部分33cはいずれも、キャビティ30の中心側にそれぞれ中心O1、O2、O3を有する円弧で構成されている。
また、本実施形態では、第2部分33bの円弧の半径R2と第3部分の円弧の半径R3とが等しくされていると共に、第1部分33aの円弧の半径R1が、半径R2及びR3よりも小さく設定されている。したがって、周辺部33は、燃料噴射弁17の噴孔17aと、噴孔17aから最も離れた第1部分33aの中心位置とを結ぶ直線Y−Yを軸として、その両側の第2部分33b側と第3部分33c側とが対称形となっている。
周辺部33の第2部分33bに続くリップ部32は、シリンダ12aの中心軸X−Xを含む断面上において、反キャビティ中心側に中心O4を有する円弧で形成されている。
図3において2点鎖線で示されるように、燃焼室11の4隅に、2つの吸気ポート14aと2つの排気ポート14bとが開口している。2つの吸気ポート14aは、ヘリカルポート及び/又はタンジェンシャルポートから構成されており、少なくとも一方の吸気ポート14a(本実施形態では図3の右下に位置するポート)の燃焼室11に開口する部分の軸線が、図3において時計回り方向を指向するように構成されている。
これによって、図3において右下に位置する吸気ポート14aから燃焼室11に導入される新気は、燃焼室11に向かって時計回り方向に導入されやすく、燃焼室11に時計回り方向に流れるスワール流Sが生成される。スワール流Sは、ピストン冠面13a上の他、キャビティ30の内部にも生成される。
また、燃焼室11には、ピストン13が圧縮上死点に向かうにつれて、ピストン冠面13aとシリンダヘッド14の下面14cとの間のスキッシュ部に位置する空気がキャビティ30に流れ込むように、径方向外側から内側へ流れるスキッシュ流Vが生成される。すなわち、本実施形態では、燃焼室11においてスワール流Sとスキッシュ流Vとが生成される。
以下、図5〜図8を併せて参照して、ピストン13のキャビティ開口部31に形成された切欠き部40について詳述する。図5は、ピストン13の斜視断面図であって、キャビティ30を示している。図6は、図5のA矢視による切欠き部40の正面図である。図7は、切欠き部40を拡大して示す平面図である。図8は、切欠き部40を拡大して示す斜視図である。図5に示されるように、切欠き部40は、周方向に等間隔に複数設けられ、それぞれ同じ大きさに形成されている。
切欠き部40は、キャビティ30のキャビティ開口部31に設けられた第1凹部60と、このピストン径方向外端部に連続してピストン冠面13aに設けられた第2凹部70とを含んでおり、凹設された底面を構成する底壁部41とこの周方向両端部から立設された一対の縦壁部42とにより画定されている。一対の縦壁部42は、スワール流の上流側(スワール上流側)に位置する上流側縦壁部42aと、スワール流の下流側(スワール下流側)に位置する下流側縦壁部42bとを含んでいる。
図3を併せて参照して、切欠き部40は、燃料噴射弁17から噴射される噴霧Fを避けた位置に設けられている。換言すれば、隣接する切欠き部40間に位置しており、キャビティ30の基本形状部分(すなわち内周壁面30a)である非切欠き部50に、燃料噴射弁17の噴孔17aが対向するようになっている。ここで、本実施形態では、切欠き部40の数NCは、燃料噴射弁17の噴孔17aの数(以下、噴孔数NHと称する)との関係で、以下の式(1)の関係を満たすように設定されている。
NH/2≦NC≦NH (1)
すなわち、切欠き部40は、噴孔数NHの半分以上、噴孔数NH以下の数で形成されている。換言すれば、キャビティ30の内周壁面30aに到達した噴霧Fの少なくとも周方向の一方側には、切欠き部40が隣接して位置するように構成されている。
なお、本実施形態では、切欠き部40は、燃料噴射弁17の噴孔数NHと同じ数だけ設けられている。すなわち、切欠き部40は、キャビティ開口部31の10箇所に周方向に等間隔で形成されており、非切欠き部50に噴射された各噴霧Fの周方向の両側には、切欠き部40が隣接して位置している。
第1凹部60は、キャビティ内周壁面30aよりもピストン外径側へ凹設されて、周方向に所定幅を有する溝状に形成されている。第1凹部60は、径方向に対向して周方向に延びると共に溝底面を構成する第1底壁部61と、この周方向の両端部に立設された周方向に一対の第1縦壁部62とから、構成されている。
図2に破線で示されるように、第1底壁部61は、周方向に延びると共に、ピストン冠面側からキャビティ30の周辺部33に向かって径方向内側へ傾斜している。より具体的には、図2に示す断面図上で、第1底壁部61の下端部61aは、キャビティ30の周辺部33に対して接線連続状に接続されている。したがって、第1底壁部61から周辺部33へ至る経路が、折れ、段差等なく滑らかに接続されている。
本実施形態では、第1底壁部61は、ピストン冠面側から周辺部33に向かってシリンダ12aの中心軸X−Xに対して約30°の傾斜角度αで径方向内側へ傾斜している。なお、第1底壁部61は、周辺部33に向かって径方向外側に傾斜しなければよく、傾斜角度αは、0°(周方向壁部41が中心軸X−Xと平行)に構成したり、傾斜角度αを30°より増大させたり逆に減少させたりしてもよい。好ましくは、傾斜角度αは、0°以上50°以下に構成されている。
傾斜角度αが0°未満の場合、ピストン冠面側から第1凹部60に至る経路が、図2に示す断面において、径方向外側に大きく屈曲することになり、ピストン冠面13a上の空気流動をキャビティ30へ滑らかに導入させにくい。一方、傾斜角度αは大きいほど、ピストン冠面側から第1凹部60に至る経路を、図2に示す断面において滑らかに構成することができ、空気流動をキャビティ30に導入させやすく、その流量を増大させることができる。
しかしながら、傾斜角度αが50°を超える場合、燃焼室11の圧縮比を維持するためにキャビティ30の容積を過度に小さくすることを要する。この場合、図14において点線で示すように、第1底壁部610の傾斜角度αを50°よりも大きくすると共に中央部340を浅くするようにキャビティ30を形成すると、図15に示すように、燃料噴射弁17から噴射された噴霧F0と、内周壁面30aによって向きが変えられて中央部340に沿って案内される噴霧F1とが互いに図中F2で示すように干渉しやすくなり、噴霧Fの流動が阻害されてしまい、空気との混合性の向上効果が低減してしまう。一方、キャビティ開口部31を小さくすると、噴霧Fは、内周壁面30aに到達したときのペネトレーションが相対的に強くなるので冷却損失が増大してしまう。
本実施形態では、第1底壁部61は、傾斜角度αが30°に設定されており、径方向において、上端部61bがピストン冠面側に開口するように位置している。傾斜角度αが小さい場合(例えば0°)、第1底壁部61の上端部61bはリップ部32側に開口するように位置している。
図7に示されるように、周方向に一対の第1縦壁部62は、スワール上流側に位置する上流側第1縦壁部621と、スワール下流側に位置する下流側第1縦壁部622とを含んでいる。上流側第1縦壁部621は、シリンダ12aの中心に対して放射状に延びている。下流側第1縦壁部622は、径方向外側へ向かってスワール上流側へ円弧上に湾曲して延びている。また、図6に示されるように、一対の第1縦壁部62は、シリンダ12aの中心軸X−Xと平行に延びており、ピストン冠面13aに対して直交している。
図6に示されるように、第2凹部70は、ピストン周方向においてスワール下流側に向かってピストン底面側へ傾斜するように、ピストン冠面13aから一段下った面部として構成されており、ピストン冠面13aからピストン底面側へ凹設されている。第2凹部70は、ピストン冠面13aからピストン底面側に傾斜して延びる第2底壁部71と、この周縁部から立設された第2縦壁部72とを含んでいる。
第2底壁部71は、周方向においては正面視でスワール下流側に向かってピストン底面側に傾斜するように延びており、径方向においては径方向に平行に延びている。図8を参照して具体的に説明すると、下流側第1縦壁部622のキャビティ内周壁面30a側の周縁部上に位置する点のうち、最も内径側に位置する(すなわちリップ部32の先端側)点を基準点P0とし、該基準点P0を通る平面であって、シリンダ12aの中心軸X−Xから放射状に延びる直線に対して直交する(すなわち径方向に直交している)平面を仮想平面Q(二点鎖線で示している)と仮定する。
そして、仮想平面Q上において、基準点P0を通りシリンダ12aの中心軸X−Xに平行に延びる直線を第1線L1とし、仮想平面Q上に投影された第2底壁部71に沿って延びる直線を第2線L2とし、仮想平面Q上に投影されたピストン冠面13aに沿って延びる直線を第3線L3とする。更に、第1線L1と第3線L3との交点を第1点P1とし、第1線と第2線との交点を第2点P2とし、第2線L2と第3線L3との交点を第3点P3とする。
この場合に、第2点P2の位置は、第1線L1に平行な方向において第1点P1との間の距離Hが2mm以上となり、且つ、第3線L3に平行な方向において第3点P3との間の距離Wが2mm以上となるように、設定されている。更に、第2点P2は、第1底壁部61の下端部61a(すなわち、第1底壁部61と内周壁面30aとの接合部)よりもピストン冠面側に位置している。
第2底壁部71は、スワール上流側に位置する上流側縁部73がピストン冠面13上に位置している。上流側縁部73は、上流側第1縦壁部621の外端部に連続して放射状に延びている。すなわち、第2底壁部71は、上流側縁部73を基軸としてスワール下流側に向かってピストン底面側に傾斜するように構成されている。
図7に示されるように、第2縦壁部72は、下流側第1縦壁部622の外端部に連続して径方向外側に向けてスワール上流側へ円弧状に延びており、上流側縁部73の外端部73aに接続されている。より具体的には、第2縦壁部72は、二点鎖線で示す仮想円C0の円周上に位置している。仮想円C0の円周上には、下流側第1縦壁部622も位置している。すなわち、切欠き部40の下流側縦壁部42bは、下流側第1縦壁部622と第2縦壁部72とによって段差なく連続的に接続された曲面として構成されている。
第1点P1を通り径方向に延びる直線を第4線L4とし、ピストン13の外径側端部から所定量dだけ内径側にオフセットした同芯円を円C1としたとき、仮想円C0は第4線L4と円C1とに接する円として設定されている。より具体的には、仮想円C0は、第1点P1を通る円として設定されている。
すなわち、図7に示す平面視において、切欠き部40の下流側縦壁部42は、上流側縁部73の外端部73aから、スワール下流側に向けて仮想円C0上を延びて基準点P0に至っており、基準点P0においてシリンダ12aの中心軸X−Xを向くようになっている。所定量dは、第2凹部70とピストン13の外周面との間の肉厚が所定量確保されるように適宜設定されている。
第1底壁部61と第2底壁部71との接合部には、R状の面取り部43が形成されている。したがって、切欠き部40の底壁部41は、第1底壁部61と、面取り部43と、第2底壁部71とによって段階的に周方向からキャビティ30に向かうように構成されている。面取り部43は、スワール下流側に向かって径方向内側に傾斜して延びている。図2に示されるように、面取り部43の面取り径r1は2mm以上であって、且つ、仮想円C0の半径r0(図7参照)の半分以下の大きさに設定されている。
また、第2凹部70は、スワール下流側に向かってピストン底面側に傾斜しているので、第2縦壁部72は、スワール下流側に向かって径方向内径側へ円弧状に延びるにしたがって、シリンダ12aの中心軸X−X方向における高さが漸増するようになっている。
図3に戻って、各切欠き部40は、シリンダ12aの中心軸X−X周りにおける所定の角度範囲βに形成されている。なお、切欠き部40は、リップ部32の先端位置において、角度範囲βでキャビティ内周壁面30aに開口しているものの、下流側縦壁部42bが径方向外側へ進むにつれてスワール上流側へ向けて円弧状に延びているため、周方向の幅が漸減している。
角度範囲βは、噴霧Fの噴霧角θ(図3の平面視における広がり)を考慮して、噴霧Fを受ける非切欠き部50が所定の角度範囲(少なくとも15°)確保されるよう設定されている。非切欠き部50が噴霧Fの噴霧角θより広い角度範囲を有するように、切欠き部40の角度範囲βが設定されており、想定される噴孔数(例えば多くても16噴孔)を考慮して、7.5°以上30°以下に設定されている。
すなわち、噴霧Fの噴霧角θを考慮すると非切欠き部は少なくとも15°の角度範囲を要するが、複数の切欠き部40それぞれの角度範囲βを7.5°に設定した場合には、最大16噴孔を有する燃料噴射弁17まで非切欠き部50を15°の角度範囲で確保できる。また、複数の切欠き部40それぞれの角度範囲βを30°に設定した場合には、最大8噴孔を有する燃料噴射弁17まで非切欠き部50を15°の角度範囲で確保できる。
本実施形態では、切欠き部40の角度範囲βは、14°に設定されており、この場合、非切欠き部50は、22°の角度範囲で確保されており、15°より広い。
次に、この実施形態の作用効果を説明する。
図9は、ピストン13が圧縮上死点近傍に位置するときの、燃焼室11における噴霧F及び空気流動Zを模式的に示す斜視図である。本実施形態では、図3を参照して上述したように、燃焼室11には、スワール流Sとスキッシュ流Vとが生成されるようになっており、圧縮上死点近傍に位置するピストン冠面13a上に生成するこれらの水平方向の流れS,Vが、複数の切欠き部40を介して、キャビティ30の内周壁面30aからこの中央部34側へ向かうように導入される。
この場合に生じる空気流動Zは、平面視で時計回りに流動するスワール流Sと、径方向外側から径方向内側へ流動するスキッシュ流Vとが合成されつつ、切欠き部40からキャビティ30の内部に導入されるようになる。このため、図9に示されるように、キャビティに導入された空気流動Zは、スワール流Sに沿って時計回りに流動しつつスキッシュ流Vに沿って径方向内側に向かうように、中央部34の中央に向かって螺旋状に流動することになる。
このとき、切欠き部40は、第1凹部60とこの外径側に連続する第2凹部70とによって構成されており、下流側縦壁部42aが、スワール下流側に向かって径方向内側に延びる円弧状に形成されている。これによって、ピストン冠面13aにおいて周方向に流れるスワール流Sが、第2凹部70の円弧状の第2縦壁部72に沿って径方向内側に緩やかに向きを変えられつつ、第1凹部60に案内される。すなわち、ピストン冠面13aにおける水平方向の流動を、ロスを抑制しつつ第1凹部60に導入できるので、空気流動Zをより効果的に生じさせることができる。
また、第2凹部70は、スワール下流側に向かってピストン底面側に傾斜している。これによって、ピストン冠面13aにおいて水平方向に流れるスワール流Sが、第2凹部70の第2底壁部71に沿ってピストン底面側に向きを変えられつつ、第1凹部60に案内される。すなわち、ピストン冠面13aにおける水平方向の空気流動が、段階的にピストン底面側に向きを変えられるので、ピストン冠面13aから第1凹部60に直接に導入させる場合に比して、空気流動Zの向きを水平方向からピストン底面側へ緩やかに変えることができる。よって、ピストン冠面13aからの空気流動Zを、ロスを抑制しつつキャビティ内に導入させることができる。
さらに、第1凹部60と第2凹部70との接合部にR状の面取り部43が形成されている。これによって、ピストン冠面13aから第2凹部70に導入された空気流動Zを、面取り部43を介して第1凹部60に滑らかに導入させることができる。第1凹部60と第2凹部70との接合部にR状の面取り部が形成されていない場合、第2凹部70から第1凹部60にかけて空気流動Zの向きが急激に変わることになるのでロスが生じ、キャビティ30に導入される空気流動が減少してしまう。
ここで、図10は、低負荷域における燃焼前半部を示している。図10に示されるように、低負荷域において、燃料噴射弁17から噴射された噴霧Fは、内周壁面30aに到達した後、その大部分が周辺部33に沿ってキャビティ30の底側へ向きを変えられる。しかしながら、噴霧Fは、低負荷域においては低ペネトレーションに構成されており、このため、流動性が低く、周辺部33の近傍に滞留することになる。
このとき、図9を併せて参照して、切欠き部40から導入される空気流動Zが、スワール方向下流側に位置する噴霧Fを巻込みつつ、螺旋状に中央部34に向かって流動する。これによって、図10に示されるように、周辺部33において滞留していた噴霧Fの中央部34側への流動が促進されるので、噴霧Fとキャビティ30内の空気との混合性が向上する。
しかも、空気流動Zは、周辺部33において滞留する噴霧Fの向きと略同じ方向を向いているので、噴霧Fの流動を阻害することなく中央部34側へアシストしやすく、より一層噴霧Fの流動性を向上させやすい。また、第1凹部60の第1底壁部61は、接線連続状に周辺部33に接続されているので、切欠き部40から導入される空気流動Zを、滑らかに周辺部33に導入させやすい。これによって、更により一層噴霧Fの流動性を向上させやすい。
さらに、本実施形態では、周辺部33の第2部分33bを構成する円弧の半径R2は比較的大きくされているので、図示のように、噴霧Fが衝突する部位での接線T−T方向と噴霧Fの噴射方向とのなす角度を小さくすることができ、これにより、噴霧Fが内周壁面30aに激しく衝突して周辺に散乱することなく、円滑に第2部分33bに導入されやすい。
また、リップ部32によれば、第2部分33bとの境界近傍でリップ部32側に衝突した噴霧Fも、あまり散乱することなく、第2部分33b側へ滑らかに案内され、噴霧Fの大部分がキャビティ30内にスムーズに導入される。
そして、噴霧Fは、第2部分33bから第1部分33aに移動し、ピストン3の半径方向外側から内側へ流れの方向が変えられ、その際、第1部分33aの半径R1は第2部分33bの半径R2よりも小さいので、噴霧Fの拡散が抑制されると共に、切欠き部40からの空気流動Zによるアシストと相まって、その流れが加速されて、第3部分33cに向かうことになる。
このとき、既に一部の燃料の燃焼が開始されて燃焼ガスが発生し、噴霧Fは燃焼ガスと未燃燃料とが混ざった半燃焼状態となるが、この半燃焼ガスの流れが第1部分33aによって加速されることにより、キャビティ周辺部33の内周壁面30aに付着した燃料が吹き飛ばされ、付着燃料により生じた局部的なリッチ領域で燃焼が行われることによる煤の発生が抑制される。
また、周辺部33は、第1部分33aにおける燃料噴射時に燃料噴射弁17から最も遠くなる位置と該燃料噴射弁17の噴孔17aとを結ぶ直線Y−Yを対称軸とし、その両側の第2部分33b側と第3部分33c側とが対称的に形成されているので、一旦加速された後、減速される半燃焼ガスの流れは、第1部分33aにおける前記最も遠くなる位置を中心として対称的になり、ピストン13の半径方向外側から内側へ、流れの方向が、分散することなく、円滑かつ確実に変化することになる。
次に、ピストン13の半径方向内側へ向きを変えられた半燃焼ガスがキャビティ30の中央部34で多量の空気と混合するまでの燃焼後半部について説明すると、図11に示すように、半燃焼ガスの流れは、周辺部33の第3部分33cにより、該周辺部33から中心部が凸とされたキャビティ30の底部の中央部34に向けて案内されることになる。
その際、周辺部33における第3部分33cの半径R3は、第1部分33aの半径R1より大きくされているから、第3部分33cに導入された噴霧Fが急激にキャビティ開口部31側に向きを変えられることを抑制して、燃料噴射弁17から噴射された噴霧Fと干渉することが避けられる。
その結果、半燃焼ガスの流れは、勢いを維持したまま、分散することなくキャビティ30の中央部34側に向けて流れることになり、燃焼室11の中央部に存在する多量の空気と良好に混合し、均一でリーンな燃焼ガスが生成される。そして、その状態で燃焼が進行することにより、リッチ領域で燃焼することによる煤の発生が抑制されると共に、燃焼ガスの全体が相対的にリーンであることにより、一部で発生した煤も効果的に酸化されることになる。
すなわち、低ペネトレーションとされたためにキャビティの内周壁面30aに滞留しやすい噴霧Fであっても、流動が促進されてキャビティ30における空気との混合性を向上させることができる。
しかも、複数の切欠き部40らキャビティ30に空気流動Zが導入されると共に、この空気流動Zによって、複数の噴孔17aから噴射された噴霧Fをキャビティ30の中央部34側へ流動させることができる。また、噴霧Fは、非切欠き部50に向けて噴射されるので、キャビティ30の内周壁面30aに案内されて向きが変えられた後に、この方向と同じ方向に導入される切欠き部40からの空気流動Zによって中央部34側への流動がより一層促進される。
また、複数の切欠き部40はそれぞれ、平面視でシリンダ12aの中心軸X−X周りの7.5°以上30°以下の角度範囲に形成されている。この結果、非切欠き部50を所定の角度範囲で確保して噴霧Fをより内周壁面30aに案内させることができると共に、切欠き部40による空気流動Zをより効果的に生じさせることができる。すなわち、切欠き部40を7.5°未満の角度範囲βに形成すると、切欠き部40の容積が相対的に小さくなるため、切欠き部40により導入される空気流動の運動量が少なく、噴霧の流動を促進する効果が少ない。
また、切欠き部40を30°を超える角度範囲βに形成すると、切欠き部40による噴霧Fの流動促進効果が略一定値に収束しやすく向上代が少なくなる一方で、切欠き部40の容積が過度に大きくなれば、燃焼室11の圧縮比を維持するためにキャビティ30の容積を過度に小さくすることを要する。この場合、図14,15を参照して上述したように燃焼室11を浅くすると、燃料噴射弁17から噴射された噴霧が互いに干渉しやすくなり空気との混合性の向上効果が低減してしまう。一方、キャビティ開口部31を小さくすると、噴霧Fは、内周壁面30aに到達したときのペネトレーションが相対的に強くなるので冷却損失が増大してしまう。
また、図8に示すように、仮想平面Q上において、第2点P2の位置は、第1線L1に平行な方向において第1点P1との間の距離Hが2mm以上となり、且つ、第3線L3に平行な方向において第3点P3との間の距離Wが2mm以上となるように、設定されている。本構成によれば、第1凹部60と第2凹部70との接合部に少なくとも2mmの面取り径を有する面取り部43を形成しつつも、第1凹部60の形状が消失することを防止できる。
すなわち、面取り部43の面取り径が2mmである場合に、第2点P2と第3点P3との間の距離Wが2mm未満であると、第1凹部60が面取り部43によって消失してしまう場合がある。また、第1点P1と第2点P2との間の距離Hが2mm以上であるので、第2凹部70を、所定深さを有するように構成でき、これにより第2凹部70によるスキッシュ流の第1凹部60への案内作用を効果的に発揮させることができるようになっている。
また、第2点P2は、第1底壁部61の下端部61aよりもピストン冠面側に位置している。本構成によれば、また、第2凹部70が直接にキャビティ内周壁面30aに表れることを防止できる。よって、ピストン冠面13aにおける水平方向の流動が、第2凹部70から直接にキャビティ30に導入されることがなく、第2凹部70と第1凹部60とを順に介して段階的にピストン底面側に向きを変えられるようになっている。
また、面取り部43の面取り径r1は、2mm以上に設定されている。本構成によれば、面取り部43に沿って、第2凹部70から第1凹部60へ空気流動Zを案内させやすい。面取り部43の面取り径が2mm未満である場合、第2凹部70から第1凹部60にかけて空気流動Zの向きを緩やかに変える効果が低減する。
また、面取り部43の面取り径r1は、仮想円C0の半径r0の半分以下の大きさに設定されている。本構成によれば、面取り部43によって、第2凹部70が消失することを防止できる。
図11〜図13に、燃焼室11の平面図であって、切欠き部40の数NCを燃料噴射弁17の噴孔数NHの半分とした変形例を示している。図11に示されるように、噴孔数NHは10であり、切欠き部40の数NCは5であり、燃料噴射弁17から噴射される各噴霧Fは、周方向の一方側において切欠き部40に隣接しており、他方側において噴霧Fに隣接している。
この場合、燃焼室11にスワール流Sが生成される場合、図12に示されるように、空気流動Zは、スワール方向Sの上流側(図12において反時計回り側)に隣接する噴霧F1を低下した圧力により引き込みつつ、スワール方向Sの下流側(図12において時計回り側)に隣接する噴霧F2を巻込んで、キャビティ30の中央部34側へ流動させるように作用する。
また、噴孔数NHの関数として、切欠き部40の角度範囲βを設定してもよい。この場合、燃料噴射弁17の噴孔数NH、切欠き部40の角度範囲βが、以下の式(2)の関係を満たすように設定する。
(360°×0.1)/NH≦β≦(360°−NH×15°)/NH (2)
すなわち、下限値によれば、全ての切欠き部40の角度範囲βの合計が、ピストン冠面13aの周部における10%は少なくとも確保されることになり、切欠き部40を介してキャビティ30に導入される空気流動の流量を確保できる。また、上限値によれば、非切欠き部50を少なくとも15°の角度範囲で確保することができるので、噴霧Fを非切欠き部50で受けつつ、内周壁面30aに沿ってキャビティ30に案内できる。
上記実施形態では、リエントラント型のキャビティを有するピストンを例にとって説明したが、浅底型又はトロイダル型等種々のキャビティを有するピストンにも適用してもよい。
また、上記実施形態では、切欠き部40を、キャビティ開口部31に複数設けたが、これに限らない。すなわち、1箇所のみ設けてもよい。これによっても、切欠き部40からキャビティ30へ空気流動を導入させることができる。
実施例1〜3のピストン13について、キャビティ30内における空気流動Zを、CAE解析により評価した。表1に示されるように、実施例1〜3は、切欠き部40の角度範囲βのみ異なっており、その他は同一である。すなわち、各切欠き部40は、第1点P1と第2点P2との間の距離Hは5mmに設定されており、第1底壁部61の傾斜角度はいずれも0°に設定されている。
実施例1に係る切欠き部40は、角度範囲βが20°であり、実施例2、3では、角度範囲βが14°、10°と順に小さくなるように構成されている。すなわち、第2凹部の底壁部71は、実施例1〜3の順に、スワール下流側に向かってピストン底面側へ傾斜する傾斜角度が大きくなるようになっている。実施例1〜3に係る切欠き部40を有するピストン13の低速域における空気流動Zをそれぞれ最高流速により評価し、表1に、実施例1における空気流動Zの最高流速を100として、実施例2、3の最高流速をそれぞれ指数で示している。
表1から明らかなように、第2底壁部71の上記傾斜角度が大きくなるにしたがって、空気流動Zの最大流速は増大するようになっている。したがって、第2底壁部71をスワール下流側に向かってピストン底面側に傾斜させるほど、空気流動Zの最大流速を増大させることができ、これによりキャビティ30における噴霧Fの流動性を効果的に高めることができる。
[参考実施例]
実施例4〜7のピストン13について、キャビティ30内における空気流動Zを、CAE解析により評価した。表2に示されるように、実施例4〜7は、切欠き部40の周方向壁部41の傾斜角度αのみ異なっており、その他は同一である。すなわち、各切欠き部40は、燃料噴射弁17の噴孔数NHは10であり、同様に切欠き部40の数NCも10であり、周方向における角度範囲βが14°で形成されている。参考実施例においては、切欠き部40は、第1凹部60のみで構成されており、第2凹部70は有していない。
実施例4に係る切欠き部40は、傾斜角度αが0°であり、実施例5〜7では、周方向壁部41の傾斜角度αが、20°、30°、45°と順に大きくなるように構成されている。実施例4〜7に係る切欠き部40を有するピストン13の低速域における空気流動Zをそれぞれの最高流速により評価し、表2に、実施例4における空気流動の最高流速を100として、実施例5〜7の最高流速をそれぞれ指数で示している。
表2から明らかなように、切欠き部40の傾斜角度αが0°から増大するにしたがって、空気流動Zの最大流速は増大する。特に、実施例5において傾斜角度αが20°より大きくなると顕著に空気流動Zの最大流速は増大する。一方で、実施例6及び7から判るように、傾斜角度αが大きくなるにしたがって、最大流速の上昇代が収束するようになっている。
したがって、切欠き部40の傾斜角度αを0°以上に設定することにより、空気流動Zの最大流速を上昇させることができ、これによりキャビティ30における噴霧Fの流動性を高めることができる。一方で、切欠き部40の傾斜角度αは50°以下に設定することによって、切欠き部40を過大に形成することを抑制しつつ噴霧Fの流動性を効果的に高めることができる。