JP2018088507A - スピン軌道トルク型磁化反転素子、磁気抵抗効果素子及び磁気メモリ - Google Patents
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この静磁界結合はスピン軌道トルク配線が厚い場合に、それぞれの強磁性金属層から漏れる磁界によって作られる結合である。静磁界結合を大きくするには漏れる磁界を大きくする、すなわち強磁性金属層の体積を大きくすればよい。しかし、漏れ入る強磁性金属層は、その漏れ入る磁界で束縛されるため体積を小さくする必要がある。静磁界結合は、二つの強磁性金属層が互いに束縛し、束縛されるため、体積の増加による結合力の増加は不可能である。そのため、静磁界結合は小さな結合力となってしまい、熱安定性を向上させる効果は小さくなる。
また、この漏れ磁場を利用する限り、隣接する磁気抵抗効果素子からの漏れ磁場の影響も受けることとなり、外部磁場による擾乱を増長する可能性もある。これは高集積化が困難であることも意味している。
スピン軌道トルク型磁化反転素子1Aは、磁気抵抗効果素子1Bとスピン軌道トルク配線14と、第2強磁性金属層15とで構成されたものである。磁気抵抗効果素子部1Bは、第3強磁性金属層11と、非磁性層12と、第1強磁性金属層13で構成されたものである。
図1を含めて以下では、スピン軌道トルク配線が磁気抵抗効果素子部の積層方向に対して交差する方向に延在する構成の例として、直交する方向に延在する構成の場合について説明する。
磁気抵抗効果素子部1Bは、磁化方向が固定された第3強磁性金属層11と、磁化方向が変化する第1強磁性金属層13と、第3強磁性金属層11及び第1強磁性金属層13に挟持された非磁性層12とを有する。
第3強磁性金属層11の磁化が一方向に固定され、第1強磁性金属層13の磁化の向きが相対的に変化することで、磁気抵抗効果素子として機能する。保磁力差型(擬似スピンバルブ型;Pseudo spin valve型)のMRAMに適用する場合には、第3強磁性金属層11の保持力は第1強磁性金属層13の保磁力よりも大きいものであり、また、交換バイアス型(スピンバルブ;spin valve型)のMRAMに適用する場合には、第3強磁性金属層11では反強磁性層との交換結合によって磁化方向が固定される。
また、磁気抵抗効果素子部1Bは、非磁性層12が絶縁体からなる場合は、トンネル磁気抵抗(TMR:Tunneling Magnetoresistance)素子であり、非磁性層12が金属からなる場合は巨大磁気抵抗(GMR:Giant Magnetoresistance)素子である。
第3強磁性金属層11は固定層や参照層、第1強磁性金属層13は自由層や記憶層などと呼ばれる。
例えば、非磁性層12が絶縁体からなる場合(トンネルバリア層である場合)、その材料としては、Al2O3、SiO2、MgO、及び、MgAl2O4等を用いることができる。またこれらの他にも、Al,Si,Mgの一部が、Zn、Be等に置換された材料等も用いることができる。これらの中でも、MgOやMgAl2O4はコヒーレントトンネルが実現できる材料であるため、スピンを効率よく注入できる。
また、非磁性層12が金属からなる場合、その材料としては、Cu、Au、Ag等を用いることができる。また、第3強磁性金属層11、及び第1強磁性金属層13と非磁性層12の間に挿入層を設けてもよい。
スピン軌道トルク配線14は、磁気抵抗効果素子部1Bの積層方向に対して交差する方向に延在する。スピン軌道トルク配線14は、該スピン軌道トルク配線14に磁気抵抗効果素子部1Bの積層方向に対して直交する方向に電流を流す電源に電気的に接続され、その電源と共に、磁気抵抗効果素子に純スピン流を注入するスピン注入手段として機能する。
スピン軌道トルク配線14は、第1強磁性金属層13に直接接続されていてもよいし、他の層を介して接続されていてもよい。
スピンホール効果とは、材料に電流を流した場合にスピン軌道相互作用に基づき、電流の向きに直交する方向に純スピン流が誘起される現象である。
スピン軌道トルク配線中では、上向きスピンS+の電子数と下向きスピンS−の電子数とが等しいので、図中で上方向に向かう上向きスピンS+の電子数と下方向に向かう下向きスピンS−の電子数が等しい。そのため、電荷の正味の流れとしての電流はゼロである。この電流を伴わないスピン流は特に純スピン流と呼ばれる。
図2において、スピン軌道トルク配線14aの上面に強磁性体を接触させると、純スピン流は強磁性体中に拡散して流れ込むことになる。
非特許文献1ではスピン軌道トルク配線の片面にしか強磁性金属層を備えないため、図2における下向きスピンS−のスピンの流れをJ↓を利用していなかった。
本実施形態では、利用していなかったJ↓を利用するために、図1におけるスピン軌道トルク配線14に接合する第1強磁性金属層13の反対側の面に第2強磁性金属層15を備える。
この強い反平行結合よって、それぞれの強磁性金属層に、互いに反平行に磁化方向を保つ強い力が働くことで、第2強磁性金属層1層での熱安定性ではなく、第2強磁性金属層13及び第3強磁性金属層15の2層分の熱安定性を有することとなり、熱安定性が向上する。
さらに、上述したように、第3強磁性金属層にはこれまで利用していなかった下向きスピンS−のスピンの流れをJ↓を利用することができる。第2強磁性金属層を反転するこのJ↓は第1強磁性金属層を反転する効果と同じ向きに働くため、磁化反転電流密度は変わらない。すなわち、第1強磁性金属層13と第2強磁性金属層15がスピン軌道トルク配線14を介したRKKY結合により反平行結合することで、反転電流密度を上げることなく熱安定性を向上することができる。
この場合、非磁性の重金属は最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の原子番号が大きい非磁性金属であることが好ましい。かかる非磁性金属は、スピンホール効果を生じさせるスピン軌道相互作用が大きいからである。スピン軌道トルク配線14は、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の原子番号が大きい非磁性金属だけからなってもよい。
通常、金属に電流を流すとすべての電子はそのスピンの向きに関わりなく、電流とは逆向きに動くのに対して、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号が大きい非磁性金属はスピン軌道相互作用が大きいためにスピンホール効果によって電子の動く方向が電子のスピンの向きに依存し、純スピン流JSが発生しやすい。
ここで、面直磁化とは、強磁性金属層が有する垂直磁気異方性エネルギーが形状磁気異方性エネルギーより大きい磁化状態を指す。これは面内・面直磁化測定をした際に、面直磁化測定時の飽和磁界(磁化が飽和した時の磁界の大きさ)が面内磁化測定時の飽和磁界より小さいことと同じである。強磁性金属層の磁区が単磁区の場合、垂直磁気異方性エネルギーが形状磁気異方性エネルギーより大きい磁化状態を満たせば、磁化の角度が傾いてもよい。
また、上述したL10規則合金など高垂直磁気異方性エネルギーを有する材料を使用すれば、熱安定性を決めるパラメーター(異方性エネルギーK×体積V)の両パラメーターを向上することができ、更なる熱安定性向上を実現できる。
本実施形態に係る磁気メモリ(MRAM)は、上述した磁気抵抗効果素子を複数備えている。
本発明のスピン軌道トルク型磁化反転素子は公知の方法を用いて製造することができる。例えば図5に示すスピン軌道トルク型磁化反転素子5Aはマグネトロンスパッタ装置を用いて形成することができる。酸化物層46、第2強磁性金属層35、スピン軌道トルク配線14、第1強磁性金属層13、非磁性層12、第3強磁性金属層11、酸化防止膜を記載の順に積層する。磁気抵抗効果素子1BがTMR素子の場合、例えば、トンネルバリア層は第1強磁性金属層上に最初に0.4〜2.0nm程度のアルミニウム、及び複数の非磁性元素の二価の陽イオンとなる金属薄膜をスパッタし、プラズマ酸化あるいは酸素導入による自然酸化を行い、その後の熱処理によって形成される。成膜法としてはマグネトロンスパッタ法のほか、蒸着法、レーザアブレーション法、MBE法等の薄膜作成法を用いることができる。
積層した薄膜は、リソグラフィーとイオンミリングによって形成することができる。まず第2強磁性金属層35の素子サイズの大きな形状に形成し、その後第2強磁性金属層15より小さなサイズになるようにレジストをパターニングし、イオンミリングで第1強磁性金属層13まで削る。磁気抵抗効果素子1Bのまわりに層間絶縁層膜を成膜した後、スピン軌道トルク配線14上に電極57a、57bを形成するために、電極になる抵抗率の低い金属薄膜、例えばCuやAuなどを成膜し、電極形状に形成する。
スピン軌道トルク配線14、磁気抵抗効果素子1Bの形状が複雑な場合は、レジストまたは保護膜の形成と、電極57a、57bの成膜を複数回に分けて形成してもよい。
磁化反転方法は、本発明の磁気抵抗効果素子において、スピン軌道トルク配線に流れる電流密度が1×107A/cm2未満とするものである。
スピン軌道トルク配線に流す電流の電流密度が大きすぎると、スピン軌道トルク配線に流れる電流によって熱が生じる。熱が第1強磁性金属層に加わると、第2強磁性金属層、及び第3強磁性金属層の磁化の熱安定性が失われ、想定外の磁化反転等が生じる場合がある。このような想定外の磁化反転が生じると、記録した情報が書き換わるという問題が生じる。すなわち、想定外の磁化反転を避けるためには、スピン軌道トルク配線に流す電流の電流密度が大きくなりすぎないようにすることが好ましい。スピン軌道トルク配線に流す電流の電流密度は1×107A/cm2未満であれば、少なくとも発生する熱により磁化反転が生じることを避けることができる。
Claims (13)
- 磁化方向が変化する第1強磁性金属層と、
スピン軌道トルク配線と、第2強磁性金属層と、が記載された順に積層され、
前記スピン軌道トルク配線を介して、前記第1強磁性金属層の磁化方向と前記第2強磁性金属層の磁化方向が反平行であり、第1強磁性金属層の飽和磁界が0.1T以上となるスピン軌道トルク型磁化反転素子。 - 磁化方向が変化する第1強磁性金属層と、スピン軌道トルク配線と、第2強磁性金属層と、が記載された順に積層され、
前記スピン軌道トルク配線を介したRKKY結合により、前記第1強磁性金属層の磁化方向と前記第2強磁性金属層の磁化方向が反平行となるスピン軌道トルク型磁化反転素子。 - 磁化方向が変化する第1強磁性金属層と、スピン軌道トルク配線と、第2強磁性金属層と、が記載された順に積層され、
前記第1強磁性金属層の容易軸が積層面に対して垂直であり、前記スピン軌道トルク配線を介して、前記第1強磁性金属層の磁化方向と前記第2強磁性金属層の磁化方向が反平行となるスピン軌道トルク型磁化反転素子。 - 前記スピン軌道トルク配線は、膜厚が0.7nm〜0.9nmであるRuを用いた請求項1〜3のいずれか一項に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子。
- 前記スピン軌道トルク配線は、膜厚が0.7nm〜0.9nm、あるいは1.4nm〜1.6nmであるRhを用いた請求項1〜3のいずれか一項に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子。
- 前記スピン軌道トルク配線は、d電子またはf電子を有する原子番号39番以上の非磁性金属を含む請求項1〜5のいずれか一項に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子。
- 前記第2強磁性金属層は、垂直磁気異方性エネルギーが1×106erg/cc以上のL10規則層合金を含む強磁性金属層であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子。
- 前記第2強磁性金属層の体積が、前記第1強磁性金属層の体積より大きい請求項1〜7のいずれか一項に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子。
- 前記第2強磁性金属層の垂直磁気異方性エネルギーと体積の積が、前記第1強磁性金属層の垂直磁気異方性エネルギーと体積の積より大きい請求項1〜8のいずれか一項に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子。
- 前記第2強磁性金属層の、前記スピン軌道トルク配線と接合する反対側の面に接合する酸化物層をさらに備える請求項1〜9のいずれか一項に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子。
- 前記第2強磁性金属層の、前記スピン軌道トルク配線と接合する反対側の面に接合するTi、Mo、Ru、Pd、Ta、W、Ir、Pt、Au、からなる群から選択される金属及びこれらの金属を1種以上含む合金からなる金属下地層を備える請求項1〜9のいずれか一項に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子。
- 前記第1強磁性金属層の、前記スピン軌道トルク配線と接合する反対側の面に接合する非磁性層と、前記非磁性層の、前記第1強磁性金属層と接合する反対側の面に接合する、磁化方向が固定された第3強磁性金属層とを有した請求項1〜11のいずれか一項に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子を用いた磁気抵抗効果素子。
- 前記金属下地層と、前記第3強磁性金属層間の抵抗値から記録情報を読み取る請求項1〜9、及び12のいずれか一項に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子を用いた磁気メモリ。
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