以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態のタイヤ部材の設計方法(以下、単に「設計方法」ということがある)は、コンピュータ1を用いて、加硫済タイヤの製造に用いられる未加硫の複数のタイヤ部材のうち少なくとも一つのタイヤ部材の形状を設計するための方法である。
図1は、本実施形態の設計方法を実行するコンピュータ1の一例を示す斜視図である。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dが含まれる。この本体1aには、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリー、磁気ディスクなどの記憶装置及びディスクドライブ装置1a1、1a2などが設けられている。なお、記憶装置には、本実施形態の設計方法を実行するための処理手順(プログラム)が予め記憶されている。
図2は、加硫済タイヤ2の一例を示す断面図である。本実施形態の加硫済タイヤ2は、複数のタイヤ部材3から構成されている。本実施形態のタイヤ部材3は、ビードコア5と、カーカス6と、ベルト層7と、ゴム部材8とを含んでいる。
ビードコア5は、例えば、スチール製のビードワイヤを螺旋巻きにしたものを、ゴム被覆することによって形成される。本実施形態のビードコア5は、断面矩形状に形成されている。
カーカス6は、一対のビード部2c、2c間を跨ってのびている。カーカス6は、少なくとも1枚、本実施形態では2枚のカーカスプライによって構成されている。本実施形態のカーカスプライは、タイヤ赤道Cにおいて、タイヤ半径方向内側に配置される内側カーカスプライ6Aと、内側カーカスプライ6Aのタイヤ半径方向外側に配置される外側カーカスプライ6Bとを含んでいる。
内側カーカスプライ6A及び外側カーカスプライ6Bは、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア5に至る本体部6Aa、6Baと、この本体部6Aa、6Baに連なりビードコア5の廻りを軸方向内側から外側に折り返された折返し部6Ab、6Bbとをそれぞれ含んでいる。内側カーカスプライ6A及び外側カーカスプライ6Bは、タイヤ赤道Cに対して、例えば75〜90度の角度で配列されたカーカスコード(図示省略)を有している。カーカスコードは、トッピングゴム(図示省略)で被覆されている。
ベルト層7は、タイヤ赤道Cにおいて、タイヤ半径方向内側に配置される内側ベルトプライ7Aと、内側ベルトプライ7Aのタイヤ半径方向外側に配置される外側ベルトプライ7Bとを含んで構成されている。
内側ベルトプライ7A及び外側ベルトプライ7Bは、内側カーカスプライ6A及び外側カーカスプライ6Bのタイヤ半径方向外側、かつ、トレッド部2aの内部に配されている。内側ベルトプライ7A及び外側ベルトプライ7Bは、タイヤ周方向に対して、例えば10〜40度の角度で傾斜して配列されたベルトコード(図示省略)が設けられている。ベルトコードは、トッピングゴム(図示省略)で被覆されている。内側ベルトプライ7A及び外側ベルトプライ7Bは、ベルトコードが互いに交差する向きに重ね合されている。
ゴム部材8は、トレッドゴム8a、サイドウォールゴム8b、クリンチゴム8c、ビードエーペックスゴム8d、インナーライナーゴム8e、及び、チェファーゴム8fを含んで構成されている。
トレッドゴム8aは、トレッド部2aにおいて外側ベルトプライ7Bのタイヤ半径方向外側に配されている。サイドウォールゴム8bは、サイドウォール部2bにおいてカーカスプライ6A、6Bの軸方向外側に配されている。クリンチゴム8cは、ビード部2cの軸方向の外側に配されている。ビードエーペックスゴム8dは、ビードコア5からタイヤ半径方向外側にのびている。インナーライナーゴム8eは、内側カーカスプライ6Aの内面に配置されている。チェファーゴム8fは、ビード部2cの半径方向内面に配置されている。
次に、加硫済タイヤの製造方法(以下、単に「製造方法」ということがある。)の一例について説明する。本実施形態の製造方法では、先ず、未加硫の複数のタイヤ部材3を積層した生タイヤが成形される。図3(a)、(b)は、生タイヤ12の成形方法の一例を説明する断面図である。
本実施形態の生タイヤ12の成形は、従来の成形方法と同様の手順で行われる。図3(a)に示されるように、本実施形態の製造方法では、先ず、第1軸心を有する円筒状のドラム(図示省略)に、第1接合体13A、第2接合体13B、及び、第3接合体13Cが、第1軸心回りで巻回されて、互いに積層される。これにより、円筒状のケーシング14(2点鎖線で示す)が形成される。第1接合体13A、第2接合体13B、及び、第3接合体13Cには、複数のタイヤ部材3が境界面15を介して互いに積層されている。
第1接合体13Aは、図2に示した未加硫のインナーライナーゴム8eと、未加硫のチェファーゴム8fと、内側カーカスプライ6Aと、外側カーカスプライ6Bとを積層したものである。第2接合体13Bは、ビードコア5と未加硫のビードエーペックスゴム8dとを積層したものである。第3接合体13Cは、未加硫のクリンチゴム8cと未加硫のサイドウォールゴム8bとを積層したものである。
次に、本実施形態の製造方法では、例えば、ケーシング14を形成するドラムよりも大きな径を有するドラム(図示省略)に、未加硫のトレッドゴム8a、内側ベルトプライ7A、及び、外側ベルトプライ7Bが互いに接合されて巻回される。これにより、円筒状のトレッドリング16が形成される。
次に、本実施形態の製造方法では、ビードコア5を把持するビード保持部17によって、ビードコア5、5の軸方向距離を減じながら、ケーシング14がトロイド状に膨出(シェーピング)される。ケーシング14の膨出は、例えば、ケーシング14の内腔面を形成するインナーライナーゴム8e側に、高圧空気P1を直接付与することによって実現される。
膨出したケーシング14の外周面には、その半径方向外側に予め待機させたトレッドリング16の内周面が貼り付けられる。次に、図3(b)に示されるように、トレッドリング16の外周面16oに、ステッチングローラ(図示省略)が押し付けられることにより、ケーシング14の外周面14oとトレッドリング16の内周面16iとが密着される。次に、ビードコア5よりもタイヤ軸方向外側にはみ出したはみ出し部分14p(サイドウォールゴム8b及びクリンチゴム8cを含む)が、ビードコア5廻りで巻き上げられる。はみ出し部分14pの巻き上げは、例えば、はみ出し部分14pの内方に配置されたブラダー(図示省略)を膨張させることによって行われる。これにより、図2に示した生タイヤ12が成形される。
加硫工程では、従来の加硫工程と同様の手順で行われる。加硫工程では、外型及びブラダーを含む加硫金型(図示省略)が用いられる。加硫工程では、外型に投入された生タイヤ12が、膨張したブラダーによって、外型の第1成形面へ押圧されて加熱される。これにより、生タイヤ12が加硫成形され、加硫済タイヤ2(図2に示す)が製造される。
加硫済タイヤ2には、タイヤ部材3を積層することによって形成された境界面15を有している。生タイヤ12を加硫成形すると、加硫時の圧力によって、各タイヤ部材3が変形する。このため、各タイヤ部材3の境界面15は、加硫の前後で変化する。一方、加硫済タイヤ2に所望の性能(例えば、転がり抵抗性能等)を発揮させるためには、境界面15が、加硫済タイヤ2の設計時に予め定められた位置(以下、単に「目標位置」ということがある。)42に設けられることが重要である。
本実施形態の設計方法では、加硫済タイヤ2の境界面15が、予め定められた位置に設けられるように、少なくとも一つの未加硫のタイヤ部材3(図3(a)に示す)の形状が設計される。
本実施形態の設計方法では、生タイヤモデル及び擬似加硫済タイヤモデルが作成される。生タイヤモデル及び擬似加硫済タイヤモデルは、加硫済タイヤ2(図2に示す)及び生タイヤ12(図3(b)に示す)の子午線断面について、タイヤ赤道面Csの一方側のみがモデル化される。また、本実施形態の生タイヤモデル及び擬似加硫済タイヤモデルは、タイヤ周方向に厚さを有する三次元モデルである場合が例示される。なお、生タイヤモデル及び擬似加硫済タイヤモデルの厚さについては適宜設定することができ、また、実際の加硫済タイヤ2(図2に示す)及び生タイヤ12(図3(b)に示す)に基づいて、タイヤ周方向に連続するものでもよい。図4は、本実施形態の設計方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の設計方法では、先ず、コンピュータ1に、未加硫のタイヤ部材3をモデル化した複数のタイヤ部材モデルが入力される(第1工程S1)。本実施形態の第1工程S1では、図3(a)に示した全てのタイヤ部材3がモデル化される。図5は、ケーシングモデル及びトレッドリングモデルの一例を示す図である。図6は、図5の部分拡大図である。
本実施形態のタイヤ部材モデル23は、図3(a)に示した未加硫のタイヤ部材3の設計データ(例えば、CADデータ)に基づいて、有限個の要素F(i)でモデル化(離散化)した二次元モデルが、予め定められた角度ピッチでタイヤ周方向に複写される。これにより、第1工程S1では、節点24を有する三次元のタイヤ部材モデル23が設定される。
要素F(i)は、数値解析法により取り扱い可能なものである。数値解析法としては、例えば、有限要素法、有限体積法、差分法、又は、境界要素法を適宜採用することができる。本実施形態では、有限要素法が採用されている。要素F(i)は、節点24を有している。
三次元に展開された要素F(i)としては、三次元のソリッド要素又はビーム要素等として定義されている。また、各要素F(i)には、要素番号、節点24の節点番号、節点24の座標値、及び、材料特性(例えば、密度、引張剛性、圧縮剛性、せん断剛性、曲げ剛性、又は、捩り剛性など)等の数値データが定義される。各節点24は、節点番号によって一意に特定される。
本実施形態のタイヤ部材モデル23は、ビードコア5(図3(a)に示す)をモデル化したビードコアモデル25、カーカスプライ6A、6B(図3(a)に示す)をモデル化したカーカスプライモデル26、ベルトプライ7A、7Bをモデル化したベルトプライモデル27、及び、ゴム部材8(図3(a)に示す)をモデル化したゴム部材モデル28が含まれる。
カーカスプライモデル26には、内側カーカスプライモデル26A及び外側カーカスプライモデル26Bが含まれる。ベルトプライモデル27には、内側ベルトプライモデル27A及び外側ベルトプライモデル27Bが含まれる。ゴム部材モデル28には、トレッドゴムモデル28a、サイドウォールゴムモデル28b、クリンチゴムモデル28c、ビードエーペックスゴムモデル28d、インナーライナーゴムモデル28e、及び、チェファーゴムモデル28fが含まれる。
各タイヤ部材モデル23には、各タイヤ部材3の材料特性等がそれぞれ定義される。なお、未加硫ゴムの材料特性としては、例えば、文献(針間浩、「未加硫ゴムの一定伸長速度下での大変形挙動」、日本レオロジー学会誌、社団法人日本レオロジー学会、1976年、Vol.4、p.3−9)や、文献(戸崎近雄、外3名、「グリーンストレングス指標、降伏応力の粘弾性的取扱い」、日本ゴム協会誌、一般社団法人日本ゴム協会、1969年、第42巻、第6号、p.433−438)等に開示されている。本実施形態では、これらの文献に基づいて、未加硫ゴムの材料特性が定義される。これらのタイヤ部材モデル23を定義する情報(節点24の節点番号等を含む)は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の設計方法は、コンピュータ1が、第1境界面を介して互いに積層された部分を含む生タイヤモデルを設定する(第2工程S2)。第2工程S2では、複数のタイヤ部材モデル23のうち、少なくとも第1タイヤ部材モデル及び第2タイヤ部材モデル(本実施形態では、全てのタイヤ部材モデル23)を変形及び/又は移動させている。これにより、生タイヤモデルが設定される。
第1境界面35は、第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル23Bが積層されることによって形成される。第1境界面35としては、タイヤ部材モデル23が積層された境界面のうち、図2に示した加硫済タイヤ2において、予め定められた位置に設けることが難しい境界面15に対応する境界面が設定されるのが望ましい。本実施形態の第1境界面35としては、クリンチゴム8cとサイドウォールゴム8bとの境界面15に対応する境界面(即ち、クリンチゴムモデル28cと、サイドウォールゴムモデル28bとの境界面)が設定される。従って、第1タイヤ部材モデル23Aとしては、クリンチゴムモデル28cが選択される。また、第2タイヤ部材モデル23Bとしては、サイドウォールゴムモデル28bが選択される。図7は、第2工程S2の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の第2工程S2では、先ず、各タイヤ部材モデル23の外面が壁となるように、接触を定義した境界条件がそれぞれ設定される(工程S21)。接触を定義した境界条件とは、各タイヤ部材モデル23が接触しても、互いにすり抜けるのを防ぐためのものである。境界条件は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の第2工程S2では、コンピュータ1に、ケーシング14(図3(a)に示す)をモデル化したケーシングモデルが設定される(工程S22)。工程S22では、先ず、図5及び図6に示されるように、第1接合体モデル33A、第2接合体モデル33B、及び、第3接合体モデル33Cが設定される。
第1接合体モデル33Aは、第1接合体13A(図3(a)に示す)をモデル化したものである。第1接合体モデル33Aは、例えば、第1接合体13A(図3(a)に示す)の設計データに基づいて、内側カーカスプライモデル26A、外側カーカスプライモデル26B、インナーライナーゴムモデル28e、及び、チェファーゴムモデル28fが結合されている。本明細書において、各タイヤ部材モデル23間の境界面での結合は、各モデル間の要素F(i)の節点24が互いに共有するように、要素F(i)が再定義される。なお、再定義された要素F(i)の節点24には、第1工程S1で定義された節点24の節点番号が維持されている。
第2接合体モデル33Bは、第2接合体13B(図3(a)に示す)をモデル化したものである。第2接合体モデル33Bは、例えば、第2接合体13B(図3(a)に示す)の設計データに基づいて、ビードコアモデル25及びビードエーペックスゴムモデル28dを結合することによって設定される。
第3接合体モデル33Cは、第3接合体13C(図3(a)に示す)をモデル化したものである。第3接合体モデル33Cは、例えば、第3接合体13C(図3(a)に示す)の設計データに基づいて、サイドウォールゴムモデル28b及びクリンチゴムモデル28cを結合することによって設定される。これにより、第1境界面35が設定される。
そして、工程S22では、図5に示されるように、未加硫のケーシング14(図3(a)に示す)の設計データに基づいて、第1接合体モデル33A、第2接合体モデル33B、及び、第3接合体モデル33Cが積層される。これにより、ケーシングモデル34が設定される。ケーシングモデル34は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の第2工程S2では、コンピュータ1に、トレッドリング16(図3(a)に示す)をモデル化したトレッドリングモデルが設定される(工程S23)。トレッドリングモデル36は、未加硫のトレッドリング16の設計データに基づいて、内側ベルトプライモデル27A、外側ベルトプライモデル27B、及び、トレッドゴムモデル28aが結合されている。トレッドリングモデル36は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の第2工程S2では、コンピュータ1が、ケーシングモデル34の外側に、トレッドリングモデル36を配置する(工程S24)。トレッドリングモデル36、及び、ケーシングモデル34の半径方向の位置は、図3(a)に示した実際のトレッドリング16、及び、膨出前のケーシング14の半径方向の位置に基づいて設定される。
次に、本実施形態の第2工程S2では、コンピュータ1が、ケーシングモデル34を半径方向外側に膨出させる変形計算を実施する(工程S25)。図8は、膨出したケーシングモデル34を示す図である。なお、図8は、図6に示した要素F(i)を省略して示している。
工程S25では、先ず、ケーシングモデル34の内面34iに等分布荷重w1が定義される。この等分布荷重w1は、図3(a)に示したケーシング14を膨出させる高圧空気P1の圧力に相当するものである。次に、工程S25では、ケーシングモデル34のビード部34c、34cのタイヤ軸方向の距離が減じるように、ビード部34c、34cをタイヤ軸方向内側に移動させる。ビード部34c、34c間のタイヤ軸方向の距離は、図3(a)に示した膨出したケーシング14のビード部14c、14c間のタイヤ軸方向の距離に基づいて設定される。これにより、工程S25では、ケーシングモデル34を半径方向外側に膨出させる変形計算を実施することができる。このケーシングモデル34の膨出により、ケーシングモデル34の外面34oと、トレッドリングモデル36の内面36iとを接触させることができる。
ケーシングモデル34やトレッドリングモデル36等の変形計算は、図6に示した各要素F(i)の形状及び材料特性などに基づいて、微小時間(単位時間Tx(x=0、1、…))ごとに実施される。このような変形計算は、例えば、JSOL社製のLS-DYNAなどの市販の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて計算することができる。
次に、本実施形態の第2工程S2では、ケーシングモデル34の外面34oと、トレッドリングモデル36の内面36iとが接触した後に、トレッドリングモデル36をケーシングモデル34側に変形させる(工程S26)。図9は、トレッドリングモデル36をケーシングモデル34側に変形させた状態を説明する断面図である。
工程S26では、トレッドリングモデル36の外面36oに、等分布荷重w2がさらに定義される。この等分布荷重w2は、図3(a)に示したトレッドリング16の外周面16oを押し付けるステッチングローラ(図示省略)の圧力に基づいて設定される。これにより、工程S26では、トレッドリングモデル36の内面36iが、ケーシングモデル34の外面34oに沿うように、トレッドリングモデル36の変形計算を実施することができる。また、工程S26では、ケーシングモデル34の外面34oと、トレッドリングモデル36の内面36iとの接触面に、相対移動を防ぐ境界条件が設定される。
次に、本実施形態の第2工程S2では、ビードコアモデル25よりもタイヤ軸方向外側にはみ出したケーシングモデル34のはみ出し部分34pを、ビードコアモデル25の廻りで巻き上げる(工程S27)。
工程S27では、ケーシングモデル34のはみ出し部分34pの内面34sに、等分布荷重w3が定義される。この等分布荷重w3は、図3(b)に示したはみ出し部分14pの内面を押し付けるブラダー(図示省略)の圧力に基づいて設定される。これにより、工程S27では、はみ出し部分34pを巻き上げて、はみ出し部分34pの外面34tが外側カーカスプライモデル26Bの外面又はトレッドゴムモデル28aの外面に沿うように、はみ出し部分34p及びビードエーペックスゴムモデル28dの変形計算を実施することができる。
本実施形態の工程S27では、はみ出し部分34pを、ビードコアモデル25からトレッドゴムモデル28aにかけて順次接触させている。これにより、はみ出し部分34pとビードコアモデル25との間、はみ出し部分34pとビードエーペックスゴムモデル28dとの間、はみ出し部分34pと外側カーカスプライモデル26Bとの間、及び、はみ出し部分34pとトレッドゴムモデル28aとの間に、隙間が形成されるのを防ぐことができる。また、ビードコアモデル25からトレッドゴムモデル28aにかけて順次接触させるために、はみ出し部分34pをタイヤ半径方向外側に湾曲させながら、巻き上げられるのが望ましい。
工程S27では、はみ出し部分34pとビードコアモデル25との接触面、はみ出し部分34pとビードエーペックスゴムモデル28dとの接触面、はみ出し部分34pと外側カーカスプライモデル26Bとの接触面、及び、はみ出し部分34pとトレッドゴムモデル28aとの接触面に、相対移動を防ぐ境界条件が設定される。図10は、生タイヤモデル32及び金型モデル37の一例を示す図である。なお、図10は、図6に示した要素F(i)を省略して示している。
このように、第2工程S2では、タイヤ部材モデル23(第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル23Bを含む)を変形及び/又は移動させることにより、第1境界面35を介して互いに積層された部分を含む生タイヤモデル32が設定される。本実施形態の第2工程は、図3(a)、(b)に示した実際の生タイヤ12を成形する工程と同様の手順に従って、生タイヤモデル32を設定しているため、生タイヤモデル32の形状を、実際の生タイヤ12(図2に示す)の形状に近似させることができる。生タイヤモデル32は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の設計方法は、コンピュータ1が、生タイヤモデル32を変形させて、擬似的に加硫済のタイヤモデルを得る(第3工程S3)。図11は、第3工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の第3工程S3では、先ず、コンピュータ1に、加硫金型(図示省略)を、有限個の要素(図示省略)でモデル化した金型モデル37が設定される(工程S31)。金型モデル37は、外型モデル38と、ブラダーモデル39とを有している。
本実施形態の外型モデル38は、第1外型モデル38Aと、第2外型モデル38Bとを含んでおり、分解回能に設定されている。第1外型モデル38Aと、第2外型モデル38Bとが連結されることにより、生タイヤモデル32の外面32oを成形するための第1成形面38sが形成される。また、ブラダーモデル39には、生タイヤモデル32の内面32iを成形する第2成形面39sを有している。第1成形面38sと第2成形面39sとが連続することにより、予め定められた加硫済タイヤ2の断面プロファイルが形成される。金型モデル37を構成する要素(図示省略)は、図6に示した要素F(i)と同様に、ソリッド要素が採用されている。この要素F(i)には、例えば、節点(図示省略)の座標値、及び、材料特性等を含む数値データが定義されている。
次に、本実施形態の第3工程S3では、生タイヤモデル32の外面32oよりも外側に、外型モデル38が配置され(工程S32)、生タイヤモデル32の内面32iよりも内側に、ブラダーモデル39が配置される(工程S33)。さらに、第3工程S3では、コンピュータ1に、外型モデル38の第1成形面38sと、ブラダーモデル39の第2成形面39sとが壁となるように、接触を定義した境界条件が設定される(工程S34)。境界条件は、外型モデル38の第1成形面38sと生タイヤモデル32とのすり抜け、及び、ブラダーモデル39の第2成形面39sと生タイヤモデル32とのすり抜けを防ぐためのものである。このような境界条件は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の第3工程S3では、コンピュータ1が、外型モデル38を元の位置に徐々に移動させつつ、ブラダーモデル39を徐々に膨張させる(工程S35)。図12は、金型モデル37を用いて生タイヤモデル32を変形させた状態を示す図である。図12は、図6に示した要素F(i)を省略して示している。
工程S35では、先ず、生タイヤモデル32の外面32oよりも外側に配置されていた第1外型モデル38A及び第2外型モデル38Bを内側に移動させる。そして、第1外型モデル38A及び第2外型モデル38Bが連結され、第1成形面38sが形成される。次に、工程S35では、ブラダーモデル39の内面に、等分布荷重w4が定義される。等分布荷重w4は、実際の加硫工程でブラダー(図示省略)を膨出させる高圧空気の圧力に相当するものである。これにより、生タイヤモデル32の外面32oが、外型モデル38の第1成形面38sに沿って押し付けられるとともに、生タイヤモデル32の内面32iが、ブラダーモデル39の第2成形面39sに沿って押し付けられる。
第3工程S3では、外型モデル38及びブラダーモデル39の押し付けにより、生タイヤモデル32を、加硫済タイヤ2の断面プロファイルに基づいて変形させることができる。これにより、第3工程S3では、擬似的に加硫済のタイヤモデル(以下、単に「擬似加硫済タイヤモデル」ということがある。)22を得ることができる。図13は、擬似加硫済タイヤモデル22の一例を示す図である。図13は、図6に示した要素F(i)を省略して示している。
擬似加硫済タイヤモデル22は、生タイヤモデル32の第1境界面35(図6に示す)に対応する第1境界面35を有している。また、擬似加硫済タイヤモデル22を構成する各タイヤ部材モデル23の節点24(図示省略)の節点番号と、図6に示した第1工程S1の各タイヤ部材モデル23の節点24の節点番号とは共通している。このため、擬似加硫済タイヤモデル22の節点24に対応する第1工程S1の各タイヤ部材モデル23の節点24を容易に特定することができる。擬似加硫済タイヤモデル22は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の設計方法では、擬似加硫済タイヤモデル22の第1境界面35が、予め定められた位置(本実施形態では、前記目標位置42)に設けられているか否かが判断される(工程S4)。目標位置42は、例えば、加硫済タイヤ2の設計データ(CADデータ)に基づいて特定される。
工程S4において、第1境界面35が、目標位置42に設けられていると判断された場合(工程S4で、「Y」)、第1工程S1で入力された各タイヤ部材モデル23(図6に示す)の形状に基づいて、タイヤ部材3が製造される(工程S7)。このようなタイヤ部材3が用いられることにより、目標位置42に境界面15が設けられた加硫済タイヤ2を製造することができる。
他方、工程S4において、第1境界面35が、目標位置42に設けられていないと判断された場合(工程S4で、「N」)、工程S1で入力されたタイヤ部材モデル23(図6に示す)の形状に基づいて、タイヤ部材3が形成されたとしても、目標位置42に境界面15が設けられた加硫済タイヤ2を製造することができない。従って、次の第4工程S5及び第5工程S6が実施される。
本実施形態の第4工程S5では、コンピュータ1が、擬似加硫済タイヤモデル22上において、第1境界面35の少なくとも一部の位置を異ならせた第2境界面が定義される。図14(a)は、第2境界面40が定義された擬似加硫済タイヤモデル22を部分的に示す図である。図14(b)は、第2境界面40が定義された第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル24Bを部分的に示す図である。図14(c)は、再定義された第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル24Bを部分的に示す図である。
図14(a)に示されるように、本実施形態の第2境界面40は、目標位置42(図2及び図13に示す)に設けられる境界面(即ち、加硫済タイヤの設計時に予め定められた境界面)として定義される。第2境界面40は、擬似加硫済タイヤモデル22の要素F(i)の節点24を用いて定義される。第2境界面40として定義された節点24は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の第5工程S6では、第2境界面40として定義された節点24を用いて、第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル23Bが再定義される。本実施形態の第5工程S6では、第1工程S1で入力された第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル23B(図6に示す)が再定義される。図15は、第5工程S6の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の第5工程S6では、先ず、擬似加硫済タイヤモデル22の第2境界面40として定義された節点24(図14(a)に示す)に基づいて、図14(b)に示されるように、第1工程S1の第1タイヤ部材モデル23A又は第2タイヤ部材モデル23Bの第2境界面40の節点24が特定される(工程S61)。上述したように、擬似加硫済タイヤモデル22を構成する各タイヤ部材モデル23の節点24(図14(a)に示す)の節点番号と、第1工程S1の各タイヤ部材モデル23の節点24の節点番号とは、共通している。このため、工程S61では、擬似加硫済タイヤモデル22の第2境界面40として定義された節点24の節点番号に基づいて、第1工程S1の第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル23Bでの第2境界面40の節点24を容易に定義することができる。このように、工程S61では、例えば、擬似加硫済タイヤモデル22を生タイヤモデル32に変形計算しなくても、第1工程S1の第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル23Bでの第2境界面40の節点24を定義できるため、計算時間を大幅に短縮することができる。
次に、本実施形態の第5工程S6では、第1工程S1の第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル23Bで特定された節点24(第2境界面40)に基づいて、第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル23Bが再定義される(工程S62)。
本実施形態の工程S62では、図14(c)に示されるように、第1タイヤ部材モデル23Aと第2タイヤ部材モデル23Bとの第1境界面35が、第2境界面40に変更される。これにより、第5工程S6では、第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル23Bの新たな形状が定義される。なお、第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル23Bは、第2境界面40に基づいて、新たに離散化されてもよい。第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル23Bは、コンピュータ1に記憶される。
本実施形態の設計方法では、第5工程S6の後、タイヤ部材3を製造する工程S7が実施される。工程S7では、再定義された第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル23Bを含むタイヤ部材モデル23の形状に基づいて、タイヤ部材3(図3(a)に示す)が形成される。これらのタイヤ部材3が用いられることにより、第2境界面40(本実施形態では、目標位置42に設けられた境界面)と近似する境界面15を有する加硫済タイヤ2(図2に示す)を製造することができる。
このように、本実施形態の設計方法では、加硫済タイヤ2(図2に示す)を実際に試作しなくても、コンピュータ1を用いて、上記のような目標位置42に設けられた境界面15を有する加硫済タイヤ2を製造しうるタイヤ部材3を設計することができる。従って、本実施形態の設計方法は、従来の設計方法のように、境界面15が目標位置42に設けられるまで、加硫前のタイヤ部材3の形状を異ならせて、加硫済タイヤ2の試作を繰り返す必要がない。従って、本実施形態の設計方法は、タイヤの設計コストを大幅に低減することができる。
さらに、本実施形態の第5工程S6では、第1工程S1で入力された第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル23Bを再定義している。これらの再定義された1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル23Bに基づいて、未加硫のタイヤ部材3の設計データ(例えば、CADデータ)を直接変更することができるため、タイヤ部材3の設計変更を容易にすることができる。
本実施形態の第5工程S6では、第1工程S1で入力された第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル23Bを再定義する工程が説明されたが、このような態様に限定されない。第5工程S6では、擬似加硫済タイヤモデル22において、第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル23Bが再定義されてもよい。
図16は、本発明の他の実施形態の第5工程S6の一例を示すフローチャートである。図17(a)は、本発明の他の実施形態の第2境界面40が定義された擬似加硫済タイヤモデル22を部分的に示す図である。図17(b)は、再定義された第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル24Bを部分的に示す図である。図17(c)は、第2境界面40が定義された第1工程の第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル24Bを部分的に示す図である。この実施形態において、前実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
図17(a)、(b)に示されるように、この実施形態の第5工程S6では、先ず、コンピュータ1が、擬似加硫済タイヤモデル22上に定義された第2境界面40(図14(b)に示す)に基づいて、擬似加硫済タイヤモデル22の第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル23Bが再定義される(工程S64)。
本実施形態の工程S64では、擬似加硫済タイヤモデル22において、第1タイヤ部材モデル23Aと第2タイヤ部材モデル23Bとの境界面(分割面)が、第1境界面35から第2境界面40に変更される。これにより、第5工程S6では、擬似加硫済タイヤモデル22において、第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル23Bの新たな形状が定義される。なお、第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル23Bが、第2境界面40に基づいて、新たに離散化されてもよい。再定義された第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル23Bは、コンピュータ1に記憶される。
次に、この実施形態の第5工程S6では、コンピュータ1が、擬似加硫済タイヤモデル22上に定義された第2境界面40と第1境界面35との差分41を計算する(工程S65)。この実施形態において、差分41は、第2境界面40として定義された節点24の座標と、第1境界面35として定義された節点24の座標との差(即ち、節点間の長さ)である。差分41は、第1境界面35として定義された全ての節点24において計算される。差分41は、コンピュータ1に記憶される。
次に、この実施形態の第5工程S6では、コンピュータ1が、差分41に基づいて、第1工程S1で入力された第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル23B(図6に示す)の第2境界面40が求められる(工程S66)。図17(c)に示されるように、工程S66では、第1工程S1の第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル23Bの第1境界面35として定義された各節点24の座標に、差分41を加算して、境界面の新たな座標が求められる。これにより、第1工程S1の第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル23Bについて、第2境界面40の節点24の座標値が求められる。この第2境界面40の節点24の座標値に基づいて、第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル23Bの新たな形状を特定することができる。なお、前実施形態と同様に、第2境界面40に基づいて、第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル23Bが再定義されてもよい。第2境界面40の節点24の座標値は、コンピュータ1に記憶される。
第5工程S6後に実施される工程S7では、第1工程S1の第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル23Bの新たな形状に基づいて、タイヤ部材3が形成される。これらのタイヤ部材3が用いられることにより、第2境界面40(本実施形態では、目標位置42に設けられた境界面)と近似する境界面15を有する加硫済タイヤ2(図2に示す)を製造することができる。
このように、この実施形態の第5工程S6では、擬似加硫済タイヤモデル22において、第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル23Bを再定義し、第2境界面40と第1境界面35との差分41を計算することで、第2境界面40(本実施形態では、目標位置42に設けられた境界面)と近似する境界面15を有する加硫済タイヤ2を製造することができる。従って、この実施形態の設計方法は、従来の設計方法のように、加硫済タイヤ2の試作を繰り返す必要がないため、タイヤの設計コストを大幅に低減することができる。
また、この実施形態の設計方法では、図17(b)に示されるように、擬似加硫済タイヤモデル22において、第1タイヤ部材モデル23A及び第2タイヤ部材モデル23Bが再定義されている。このため、この実施形態では、再定義された擬似加硫済タイヤモデル22を用いて、加硫済タイヤ2のシミュレーションを実施することが可能となる。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
図4に示した処理手順に従って、複数のタイヤ部材モデルが入力され、第1境界面を有する擬似加硫済タイヤモデルが設定された(実施例)。そして、実施例の擬似加硫済タイヤモデル上に、第2境界面が定義され(第4工程)、第2境界面として定義された節点を用いて、第1タイヤ部材モデル及び第2タイヤ部材モデルが再定義された。第2境界面は、加硫済タイヤの設計時に予め定められた境界面(目標位置に設けられた境界面)である。
次に、再定義された第1タイヤ部材モデル及び第2タイヤ部材モデルを含むタイヤ部材モデルに基づいて、タイヤ部材が実際に作成され、加硫済タイヤが製造された。そして、加硫済タイヤの第1境界面が、第2境界面(目標位置に設けられた境界面)に近似するか否かが確認された。
また、比較のために、加硫済タイヤの第1境界面が、第2境界面に近似するまで、加硫前のタイヤ部材の形状を異ならせて、加硫済タイヤの試作が繰り返された(比較例)。共通仕様は、次のとおりである。
タイヤサイズ:215/55R17
第1タイヤ部材モデル:クリンチゴムモデル
第2タイヤ部材モデル:サイドウォールゴムモデル
第1境界面:クリンチゴムモデルとサイドウォールゴムモデルとの境界面
テストの結果、実施例では、加硫済タイヤの第1境界面を、1回の試作で、第2境界面に近似させることができた。他方、比較例では、5回の試作が必要であった。従って、実施例のタイヤ部材の設計方法は、比較例の従来の方法に比べて、タイヤの設計コストを低減させることができた。