A.実施形態:
A1.装置構成:
図1は、本発明の一実施形態としてのセラミック焼結体を適用したセラミックヒータを備えるグロープラグの構成を示す断面図である。図1は、グロープラグ100の軸線C1を含むグロープラグ100の断面を示している。なお、後述するセラミックヒータ4(以下、単に「ヒータ4」と呼ぶ)の断面は、図1では模式的に表わされている。グロープラグ100は、棒状の外観形状を有し、主体金具2と、中軸3と、絶縁部材5と、ピン端子8と、外筒7と、ヒータ4と、電極リング18とを備えている。なお、図1では、グロープラグ100の軸線C1と平行にX軸が設定され、X軸と垂直にY軸およびZ軸が設定されている。以降では、グロープラグ100において軸線C1に沿ってヒータ4が設けられている側(−X方向側)を、「先端側」と呼び、軸線C1に沿って中軸3が配置されている側(+X方向側)を、「後端側」と呼ぶ。
主体金具2は、軸孔9を備えた略円筒状の外観形状を有する金属製の部材である。主体金具2の外周面において、後端に工具係合部12が、中央部分に雄ねじ部11が、それぞれ形成されている。工具係合部12は、所定の工具と係合可能な外観形状(例えば、六角形状)を有しており、グロープラグ100が図示しないエンジンのシリンダヘッド等に取り付けられる際に、所定の工具と係合される。雄ねじ部11は、グロープラグ100が図示しないエンジンのシリンダヘッドに取り付けられる際に、シリンダヘッドに形成されている雌ネジに螺合する。
中軸3は、金属製の丸棒状の部材であり、後端側の一部が主体金具2の後端から突出するように、主体金具2の軸孔9に収容されている。中軸3の先端側には、電極リング18の一端が嵌めこまれている。中軸3は、電極リング18を介してヒータ4と電気的に接続されている。
絶縁部材5は、後端にフランジ部6を有する筒状の外観形状を有し、絶縁性材料により形成されている。絶縁部材5の先端側は、主体金具2の後端側から軸孔9に嵌め込まれており、フランジ部6は、工具係合部12の後端に接している。絶縁部材5の軸孔には、中軸3の後端側の一部が挿入されており、絶縁部材5は、主体金具2の軸線及び中軸3の軸線がいずれもグロープラグ100の軸線C1と一致するように中軸3を固定する。絶縁部材5の後端は、ピン端子8の先端面と接している。絶縁部材5は、主体金具2と中軸3との間、および主体金具2とピン端子8との間を電気的に絶縁する。
ピン端子8は、略円筒状の外観形状を有し、フランジ部6と接した状態で、主体金具2の後端から突出した中軸3の後端部を囲むようにかしめられている。このようにピン端子8がかしめられることにより、中軸3と主体金具2との間に嵌合された絶縁部材5が固定され、中軸3からの絶縁部材5の抜けが防止される。
外筒7は、軸孔10を有する略筒状の外観形状の金属製部材であり、主体金具2の先端に接合されている。外筒7の後端側には、厚肉部15及び係合部16が形成されている。係合部16は、厚肉部15よりも後端側に配置され、外周径が厚肉部15の外周径よりも小さい。係合部16は、主体金具2の軸孔9に嵌められ溶接されている。厚肉部15は、主体金具2の先端に接するように配置されている。外筒7は、ヒータ4の軸線がグロープラグ100の軸線C1と一致するように、軸孔10においてヒータ4を保持する。
ヒータ4は、先端が曲面である円柱状の外観形状を有し、外筒7の軸孔10に嵌め込まれている。ヒータ4の先端側の一部は、外筒7から先端側へ突出して図示しない燃焼室内に露出される。ヒータ4の後端側の一部は、外筒7から突出して主体金具2の軸孔9に収容されている。ヒータ4の詳細構成については後述する。ヒータ4は、窒化珪素を主成分とするセラミック系成形材料により成形されている。電極リング18は、ヒータ4の後端に嵌め込まれている。
図2は、図1に示すヒータを中心としたグロープラグの部分拡大断面図である。なお、図2において図1と同じ構成部には、同じ符号を付してその説明を省略する。ヒータ4は、基体21及び導電部22を備えている。基体21は、絶縁性セラミックにより形成されている。基体21は、軸線C1に沿って延設して先端が曲面である略円柱状の外観形状を有する。基体21の内部には、導電部22が埋設されている。
導電部22は、2つの延設部31,32と、連結部33と、2つの電極部27,28とを備えている。2つの延設部31,32は、それぞれ導電性セラミックからなる棒状の部材であり、基体21内部に配置されている。2つの延設部31,32は、互いに長手方向が平行となるように、また、それぞれの軸線(軸線)C11,C12がグロープラグ100の軸線C1と平行となるように配置されている。また、2つの延設部31,32は、3つの軸線C1,C11,C12が、1つの仮想平面上に位置するように配置されている。
延設部31は、先端側に位置する先端側部位311と、後端側に位置して先端側部位311に連なる後端側部位312とからなる。先端側部位311の直径は、後端側部位312の直径よりも小さい。後端側部位312の後端寄りの位置には、電極部27が配置されている。電極部27は、後端側部位312と一体形成され、外周方向(+Y方向)に突出して形成されている。電極部27において、後端側部位312に連なる側とは反対側の端部は、基体21の表面に露出して電極リング18の内周面に接している。このようにして、電極リング18と延設部31とが電気的に接続される。
他方の延設部32も、延設部31と同様な構成を有する。すなわち、延設部32は、先端側部位321と後端側部位322とからなり、後端側部位322の後端寄りの位置に、電極部28を備える。電極部28において、後端側部位322に連なる側とは反対側の端部は、基体21の表面に露出して外筒7の内周面に接している。このようにして、外筒7と延設部32とが電気的に接続される。
連結部33は、Y軸方向と略平行な方向に延設し、先端側部位311の先端および先端側部位321の先端に、それぞれ連なる。連結部33の直径は、先端側部位311の直径および先端側部位321の直径と略等しい。
上述の延設部31、延設部32、および連結部33からなる導電部22の構成は、以下のように言い換えることができる。すなわち、導電部22は、2つの後端側部位312,322からなる直径の比較的大きな2つのリード部312,322と、2つの先端側部位311,321および連結部33からなる直径が比較的小さな発熱部35とを備える。以降では、2つのリード部を、2つの後端側部位312,322の符号を用いて、2つのリード部312,322とも呼ぶ。
2つのリード部312,322は、いずれも発熱部35に連なり、発熱部35に電流を導く。上述のように発熱部35の直径は、2つのリード部312,322の直径に比べて小さいため発熱し易く、例えば、1000℃以上まで昇温する。ヒータ4は、ピン端子8、中軸3、および電極リング18を介して供給される電流を、電極部27、リード部312を介して発熱部35に導き、リード部322、電極部28を介して外筒7、主体金具2へ流すことで、発熱部35が発熱して昇温する。発熱部35は、使用時において、例えば1000℃以上の温度まで昇温する。
後述するように、ヒータ4の製造の際に用いられる、基体21の基材であるセラミック材料には、主成分としての窒化珪素に加えて、焼結助剤として希土類元素等が含まれている。そのため、完成品の基体21にも希土類元素等が含まれている。このように焼結助剤を用いることで、セラミック材料を焼結し易くできるので、ホットプレスやHIP等の比較的高価な製造方法を採用せずに、ヒータ4を製造できる。本実施形態において、基体21に含まれる希土類元素は、イッテルビウム(Yb)およびエルビウム(Er)から選ばれる少なくとも1種である。なお、耐酸化性の観点からイッテルビウム(Yb)が好ましい。
基体21は、ミクロ的に見ると、窒化珪素からなる主相と、主相同士の間に存在する粒界相から成る。粒界相は、ガラス相と結晶相とを含む。本実施形態の結晶相は、上述したイッテルビウム(Yb)およびエルビウム(Er)から選ばれる少なくとも1種の希土類元素と、ケイ素(Si)と、アルミニウム(Al)と、酸素と、窒素とを含有する。本実施形態において、結晶相の窒素含有率は、0.5wt%以上2.0wt%以下である。また、粒界相は、IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry)周期表における第2族元素を含有しない。ここで、「第2族元素を含有しない」とは、第2族元素の含有量が0であって全く含まれていないことを意味するだけではなく、電子線マイクロアナライザ(EPMA)による測定で定量できない程度に含まれていることも含む広い意味を有する。
上述のように、窒素含有率が0.5wt%以上2.0wt%以下の結晶相が存在することにより、低温から高温までの広い温度範囲における基体21の耐酸化性の低下が抑制される。結晶相の窒素含有率を上述の範囲に制御することにより、耐酸化性の低下を抑制できる理由は、以下であるものと推測される。結晶相には、窒素が酸窒化物として含まれている。低温環境下においては、ヒータ4の表面にSiO2やYb2Si2O7等の複合酸化膜が生じないため、窒素の含有量が多い場合(2.0wt%よりも高い場合)には、酸窒化物の酸化が進み易く、酸化に伴う体積膨張に起因してクラックが生じて、その結果さらに内部まで酸化が進んでしまう。他方、窒素含有量が少ない場合(0.5wt%よりも低い場合)には、相対的に酸素の含有量が多くなり、粒界相(結晶相)の融点が低下して、高温環境下において酸化し易くなる。以上より、結晶相の窒素含有率を上述の範囲に制御することにより、低温から高温までの広い温度範囲において耐酸化性の低下を抑制できるものと推測される。本実施形態では、後述するセラミックヒータ4の製造方法によりヒータ4を作製することにより、低温から高温までの広い温度範囲における基体21の耐酸化性の低下を抑制しつつ、基体21の製造コストの増加を抑制するようにしている。
なお、上述の粒界相の任意の位置の断面に含まれる結晶相の全体に対する、イッテルビウム(Yb)およびエルビウム(Er)から選ばれる少なくとも1種の希土類元素と、ケイ素(Si)と、アルミニウム(Al)と、酸素と、0.5wt%以上2.0wt%以下の窒素と、を含有し、且つ、IUPAC周期表における第2族元素を含有しない結晶相の面積割合は35%以上であることが好ましい。高温耐久性に優れた上記結晶相の面積割合を35%以上とすることで、高温耐酸化性をより向上できるからである。
また、本実施形態において、上述の焼結助剤としてアルミニウム(Al)と、イッテルビウム(Yb)およびエルビウム(Er)から選ばれる少なくとも1種と、を含有する構成においては、アルミニウム(Al)の含有率がアルミニウム(Al)の酸化物に換算して1.5wt%以上4.0wt%以下であり、イッテルビウム(Yb)またはエルビウム(Er)の含有率が、イッテルビウム(Yb)の酸化物またはエルビウム(Er)の酸化物に換算して5wt%以上13wt%以下であることが好ましい。アルミニウム(Al)の含有率が大きい場合、基体21の粒界の軟化点が低下し、高温環境下(例えば、1200℃以上の環境下)において酸素が内部に入り込み易くなるために、高温耐酸化性が低下する。そこで、アルミニウム(Al)の含有率を、アルミニウム(Al)の酸化物に換算して4.0wt%以下に抑えることが好ましい。また、希土類(イッテルビウム(Yb)またはエルビウム(Er))の含有率が大きい場合、基体21の粒界における窒素含有率が高くなり、低温耐酸化性が低下する。そこで、イッテルビウム(Yb)またはエルビウム(Er)の含有率を、イッテルビウム(Yb)の酸化物またはエルビウム(Er)の酸化物に換算して13wt%以下に抑えることが好ましい。なお、アルミニウム(Al)の最低含有率と、イッテルビウム(Yb)またはエルビウム(Er)の最低含有率とは、いずれも焼結助剤としての働き、すなわち焼結性を大きく損なわない程度の含有率として定められている。
なお、上述の基体21は、請求項におけるセラミック焼結体の下位概念に相当する。
A2.グロープラグの製造方法:
図3は、グロープラグ100の製造手順を示す工程表である。まず、導電部22の成形材料が作製され(工程P105)、基体21の成形材料が作製される(工程P110)。なお、これら2つの工程P105,P110は、この順序とは逆の順序で実行されてもよい。また、これら2つの工程P105,P110は、同時に実行されてもよい。
本実施形態において、導電部22の成形材料は、セラミックを主成分とするペレットであり、例えば、セラミック(主に、窒化珪素、タングステンカーバイト、焼結助剤)とバインダを、ニーダーを用いて混練し、その後押出し造粒機によってペレット化して作製することができる。なお、窒化珪素に代えて、または、窒化珪素に加えてサイアロンを用いてもよい。また、本実施形態では、バインダは、特に限定されるものではなく、例えば、ポリプロピレン等の可塑性樹脂、ワックス、可塑剤及び分散剤等を、1種又は2種以上を混合して用いることができる。本実施形態において、焼結助剤は、イッテルビウム(Yb)およびエルビウム(Er)から選ばれる少なくとも1種の希土類元素の酸化物又は/及び窒化物や、タングステン(W)の酸化物又は/及び珪化物、アルミニウム(Al)の酸化物又は/及び窒化物、ケイ素(Si)の酸化物を含む。
本実施態様において、基体21の成形材料は、セラミックを主成分とするペレットであり、例えば、セラミック(主に、窒化珪素と焼結助剤)とバインダを、ニーダー(混練機)を用いて混練し、その後押出し造粒機によってペレット化して作製することができる。バインダおよび焼結助剤は、上述した導電部22のバインダおよび焼結助剤と同様である。本実施形態では、基体21の結晶相の窒素含有率を制御する一つの手段として、焼結助剤に用いる窒化物の量を調整する。例えば、焼結助剤として、酸化アルミニウム(Al2O3)と窒化アルミニウム(AlN)とを用いる場合、窒化アルミニウムの量を増加させることにより基体21の結晶相の窒素含有率を増加させ、また、窒化アルミニウムの量を減少させることにより基体21の結晶相の窒素含有率を減少させる。本実施形態において、基体21の成形材料および上述の導電部22の成形材料には、IUPAC周期表における第2族元素を含有していない。第2族元素を含有すると、セラミックヒータ4の製造過程における後述する本焼成の際に、粒界相においてガラス化が生じ易くなり高温耐酸化性が低下する。そこで、高温耐酸化性向上の観点から、本実施形態では、基体21および導電部22の成形材料に第2族元素を含有させないようにしている。
導電部の中間成形体200を、工程P105で得られた成形材料を用いて射出成形にて作製する(工程P115)。本実施形態において、「導電部の中間成形体200」とは、後述する脱脂および焼成工程を経て導電部22となる部材を意味する。なお、射出成形に代えて、粉末プレス成形、および鋳込み成形等の任意の成形方法により、導電部の中間成形体200を作製してもよい。
工程P115で得られた導電部22の中間成形体の片面側に、半割り状の基体21の中間成形体を成形する(工程P120)。導電部22の中間成形体の他方の面側に、基体21の中間成形体の残部を形成して、ヒータ4の中間成形体を得る(工程P125)。工程P120,P125では、いずれも工程P110で得られた成形材料を用いた射出成形により実行される。なお、射出成形に代えて、粉末プレス成形、シート積層成形、および鋳込み成形等の任意の成形方法により作製してもよい。
図4は、工程P120の処理内容を模式的に示す説明図である。図5は、工程P125の処理内容を模式的に示す説明図である。図4に示すように、工程P120では、まず、導電部22の中間成形体200を下金型400に形成されたキャビティ420内に配置し、中間成形体200の上半分を覆うように上金型500を配置する。導電部22の中間成形体200は、導電部22とほぼ相似形の外観形状を有する。すなわち、中間成形体200は、リード部312に対応するリード対応部212と、リード部322に対応するリード対応部222と、発熱部35に対応する発熱対応部235と、2つの電極部27,28に対応する2つの電極対応部227,228とを備えている。2つのリード対応部212,222は、後述する脱脂、焼成、研磨および切断等の工程を経て2つのリード部312,322となる。同様に、発熱対応部235および2つの電極対応部227,228は、それぞれ、後述する脱脂、焼成、研磨および切断等の工程を経て、発熱部35および2つの電極部27,28になる。また、中間成形体200は、後端連結部250を備えている。後端連結部250は、中間成形体200において、発熱対応部335とは反対側において、2つのリード対応部212,222の端部同士を連結する。後端連結部250は、2つのリード対応部212,222の相対的な位置がずれることを抑制して、中間成形体200の取扱いを容易にするために設けられている。
下金型400に形成されたキャビティ420は、導電部22の中間成形体200の下半分が収容可能な形状に形成されている。上金型500は、下金型400との合わせ面側が開口した中空の直方体状の外観形状を有する。上金型500の長手方向の一方の端面Sf5には、成形材料を上金型500の内部に充填するための射出孔が設けられている。上述のように中間成形体200、下金型400、および上金型500を配置した後、上金型500内に工程P110で得られた成形材料を射出して、半割り状の基体21の中間成形体を、導電部22の中間成形体の片側面側(図4における上方面側)に成形する。このようにして、図5に示す中間成形体700が得られる。
工程P125では、工程P120で得られた中間成形体700を、上下反転させて図5に示す姿勢として新たな下金型600のキャビティ620内に配置する。次に、中間成形体700の上半分を覆うように上金型500を配置する。下金型600に形成されたキャビティ620は、中間成形体700における基体の中間成形体の部分がちょうど収容可能な形状に形成されている。この上金型500は、図4に示す上金型500と同じである。上述のように中間成形体700、下金型600、および上金型500を配置した後、上金型500内に工程P110で得られた成形材料を射出して、中間成形体700の上半分に基体21の中間成形体の残部を形成する。このようにして、ヒータ4の中間成形体が得られる。本実施形態において、「ヒータ4の中間成形体」とは、後述する脱脂、焼成、研磨および切断等の工程を経てヒータ4となる部材を意味する。
図3に示すように、工程P125においてヒータ4の中間成形体が得られると、ヒータ4の中間成形体の脱脂が実行される(工程P130)。ヒータ4の中間成形体には、バインダが含まれているので、加熱(仮焼成)することにより、かかるバインダが取り除かれる。例えば、ヒータ4の中間形成体を、窒素雰囲気中にて800℃で60分加熱してもよい。
工程P130の後、本焼成が実行される(工程P135)。かかる本焼成では、工程P130のいわゆる仮焼成に比べて、高温で加熱が行なわれる。本実施形態では、本焼成は、焼成炉内を略真空の低い圧力環境として加熱を開始し、その後、焼成炉内に窒素ガスを導入して、窒素ガス雰囲気下で所定期間加熱を行なう。そして、加熱後、ヒータ4の中間形成体を冷ます(降温させる)。焼成圧力は、例えば、2〜9atmとしてもよい。また、降温速度は、例えば、最高到達温度から1000℃までの間において、1〜15℃/分に設定してもよい。
本実施形態では、基体21の結晶相の窒素含有率を制御する一つの手段として、本焼成実行時の最高温度(以下、「焼成最高温度」と呼ぶ)に達した際の焼成炉内の圧力を調整する。具体的には、焼成最高温度における圧力を増加させることにより基体21の結晶相の窒素含有率を増加させ、また、焼成最高温度における圧力を減少させることにより基体21の結晶相の窒素含有率を減少させる。焼成最高温度における焼成炉内は、窒素雰囲気下であり、圧力が大きいほど、基体21に窒素が入り込み易くなる。また、焼成最高温度では、基体21の粒界相が他の温度に比べて軟化しており、窒素が基体21に入り込み易い。したがって、かかる焼成最高温度における圧力は、基体21の結晶相の窒素含有率に大きく影響を与える。換言すると、焼成最高温度における圧力を調整することにより、基体21の結晶相の窒素含有率をより容易に、また、より確実に制御することができる。
また、本実施形態では、基体21の粒界相の結晶化率を制御する一つの手段として、加熱後のヒータ4の中間体を降温させる際の降温速度を調整する。具体的には、降温速度を低減させることにより基体21の粒界相の結晶化率を増加させ、また、降温速度を増加させることにより基体21の粒界相の結晶化率を減少させる。また、この加熱後のヒータ4の中間体を降温させる際の降温速度の調整は、粒界相において、粒界相中の結晶相を増加させることで、前記希土類元素含有結晶相の面積割合を制御する一つの手段として用いられる。具体的には、上述のように、降温速度を低減させることにより粒界における結晶化を促進して結晶相の面積割合を増加させ、また、降温速度を増加させることにより粒界における結晶化を抑制して結晶相の面積割合を低減させる。
本焼成の後、研磨加工及び切断加工が実行される(工程P140)。研磨加工により、電極部27,28が基体21の表面から露出する。また、切断加工により、工程P135により得られた焼成体の後端部、すなわち、後端連結部250に相当する部分が取り除かれる。上述した工程P105〜P140により、ヒータ4が完成する。その後、図1に示すグロープラグ100の各構成部が組みつけられ(工程P145)、グロープラグ100が完成する。なお、主体金具2等の各構成部の製造方法としては、公知の方法を採用できる。上述の工程P105〜P140は、ヒータ4の製造方法に相当する。
以上説明した第1実施形態のヒータ4では、窒素含有率が0.5wt%以上2.0wt%以下での結晶相が存在するので、低温から高温までの広い温度範囲におけるヒータ4の耐酸化性の低下を抑制できる。より具体的には、結晶相の窒素含有率が0.5wt%以上であるので、結晶相の窒素含有率が0.5wt%よりも低い構成に比べて高温環境下(例えば、1200℃以上の温度環境下)におけるヒータ4の耐酸化性の低下を抑制できる。また、結晶相の窒素含有率が2.0wt%以下であるので、結晶相の窒素含有率が2.0wt%よりも高い構成に比べて低温環境下におけるヒータ4の耐酸化性の低下を抑制できる。また、粒界相に第2族元素を含有せず、且つ希土類元素を含有するので、焼結性を向上しつつ高温環境下における耐酸化性を向上できる。したがって、ホットプレスやHIP等の方法を用いずにセラミック焼結体を作製でき、セラミック焼結体の製造コストの増加を抑制できる。
また、第1実施形態のヒータ4において、粒界相の任意の位置の断面に含まれる結晶相の全体に対する、イッテルビウム(Yb)およびエルビウム(Er)から選ばれる少なくとも1種の希土類元素と、ケイ素(Si)と、アルミニウム(Al)と、酸素と、0.5wt%以上2.0wt%以下の窒素と、を含有し、且つ、IUPAC周期表における第2族元素を含有しない結晶相の面積割合は35%以上であるので、かかる面積割合が35%よりも低い構成に比べて、ガラス相の面積割合を低く抑えることができる。このため、セラミックヒータ4の耐酸化性をより向上できる。
また、第1実施形態のヒータ4によれば、焼結助剤に用いられる希土類として、イッテルビウム(Yb)およびエルビウム(Er)から選ばれる1種を用いている。したがって、他の希土類元素、例えば、Y(イットリウム)等を代わりに含有する構成に比べて、耐酸化性に優れている。また、アルミニウム(Al)の含有率がアルミニウム(Al)の酸化物に換算して1.5wt%以上4.0wt%以下であるので、かかる範囲から外れた構成に比べて、高温環境下における耐酸化性の低下をより確実に抑制できる。また、イッテルビウム(Yb)またはエルビウム(Er)の含有率が、イッテルビウム(Yb)の酸化物またはエルビウム(Er)の酸化物に換算して5wt%以上13wt%以下であるので、かかる範囲から外れた構成に比べて、高温環境下における耐酸化性の低下と、低温環境下における耐酸化性の低下とをいずれもより確実に抑制できる。
B.実施例:
上述の実施形態に従い、9種類のヒータ4(試料1〜9)を作製した。また、比較例として5種類のヒータ(試料10〜14)を作製した。そして、これら合計14種類のヒータ4を対象として、耐酸化性試験を実行した。下記表1は、各試料1〜14の基体の組成と、耐酸化性試験の結果とを示す。
表1では、各試料1〜14の基体の組成として、ケイ素(Si)の含有率(wt%)と、希土類の種類および含有率(wt%)と、タングステン(W)の含有率(wt%)と、アルミニウム(Al)の含有率(wt%)と、第2族元素の含有率(wt%)と、ケイ素(Si)−アルミニウム(Al)−希土類(YbまたはEr)からなる酸窒化物の結晶相の有無、かかる結晶相の粒界相に対する面積比率(%)、およびかかる結晶相における窒素(N)の含有率(wt%)とが示されている。表1において、ケイ素(Si)の含有率は、窒化珪素(Si3N4)に換算した場合の割合を意味する。同様に、タングステン(W)の含有率は酸化タングステン(WO3)に換算した場合の割合を、アルミニウム(Al)の含有率は酸化アルミニウム(Al2O3)に換算した場合の割合を、それぞれ意味する。第2族元素は、後述するように比較例の試料(試料13,14)で用いられている。具体的には、第2族元素として、マグネシウム(Mg)が試料13において用いられ、カルシウム(Ca)が試料14において用いられている。表1では、マグネシウム(Mg)の含有率は、酸化マグネシウム(MgO)に換算した場合の割合を意味する。また、カルシウム(Ca)の含有率は、酸化カルシウム(CaO)に換算した場合の割合を意味する。
上述のケイ素(Si)の含有率、希土類(YbまたはEr)の含有率、タングステン(W)の含有率、アルミニウム(Al)の含有率、および第2族元素(MgOまたはCaO)の含有率は、いずれも、基体21の断面を、電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて分析して求めた。
ケイ素(Si)−アルミニウム(Al)−希土類(YbまたはEr)からなる酸窒化物の結晶相の有無、かかる結晶相における窒素(N)の含有率、窒素(N)の含有率が0.5wt%以上2.0wt%以下の範囲内である結晶相の有無、およびかかる結晶相全体に対する窒素(N)の含有率が0.5wt%以上2.0wt%以下の範囲内である結晶相の面積比率は、以下のように求めた。まず、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて、基体21の断面をおよそ2万倍に拡大して撮影した。次に、得られた画像において、大きさのより大きな30箇所の粒界相の画像を特定した。特定された30箇所の粒界相について、エネルギー分散型X線分析(EDS分析)および電子回折パターンによって、その組成の解析と、結晶相/ガラス相(非結晶相)の領域の解析を行なった。次に、画像処理ソフトを用いて粒界相の画像を処理して、主相と粒界相との境界、および結晶相とガラス相との境界を明確化した。そして、かかる画像から、窒素含有率が0.5wt%以上2.0wt%以下の範囲にある結晶相の有無、および分析(解析)した結晶相全体の面積に対する窒素含有率が0.5wt%以上2.0wt%以下の範囲にある結晶相の面積割合を求めた。なお、撮像した単一画像内において分析に適した粒界相が30箇所見つからない場合には、互いに異なる部分を撮像して得られた3枚以内の画像のうちから、分析に適した30箇所を見つけてもよい。表1では、窒素(N)含有率として、分析(解析)した結晶相における窒素の含有率の平均値を示している。
表1に示すように、試料4を除く他の実施例の試料1〜3,5〜9では、いずれも希土類としてイッテルビウム(Yb)が用いられた。試料4では、希土類としてエルビウム(Er)が用いられた。試料1〜3,5〜9は、タングステン(W)の含有率、第2族元素の含有率(0%)、ケイ素(Si)−アルミニウム(Al)−希土類(YbまたはEr)からなる酸窒化物の結晶相の有無(有)において、共通する。また、試料1〜3,5〜9は、希土類の含有率と、アルミニウム(Al)の含有率と、面積比率と、窒素(N)の含有率とのうちの少なくとも1つにおいて互いに異なる。
また、表1に示すように、試料10を除く他の比較例の試料11〜14では、いずれも希土類としてイッテルビウム(Yb)が用いられた。試料10では、希土類としてイットリウム(Y)が用いられた。試料11〜14は、タングステン(W)の含有率において共通する。また、試料11〜14は、希土類の含有率と、アルミニウム(Al)の含有率と、第2元素の含有の有無および種類と、ケイ素(Si)−アルミニウム(Al)−希土類(YbまたはEr)からなる酸窒化物の結晶相の有無と、面積比率と、窒素(N)の含有率とのうちの少なくとも1つにおいて互いに異なる。
耐酸化性試験では、作製された各試料1〜14を、所定温度で所定期間加熱し、その加熱前後での単位面積当たりの重量の変化量(mg/cm2)を求めた。加熱に伴い窒化珪素の酸化が進むと、基体21における単位面積当たりの重量は増加する。したがって、加熱前後での単位面積当たりの重量の変化が大きいほど、窒化珪素の酸化が進んでおり、耐酸化性が低いと評価できる。これに対して、加熱前後での単位面積当たりの重量の変化が小さいほど、窒化珪素の酸化が抑制されており、耐酸化性が高いと評価できる。
表1に示すように、実施例の試料1〜9では比較的低温の800℃で加熱した場合、酸化増量は、0(mg/cm2)以上0.1(mg/cm2)以下の比較的低い範囲内であるのと共に、比較的高温の1300℃で加熱した場合に、酸化増量は0.1(mg/cm2))以上0.2(mg/cm2)以下の比較的低い範囲内であった。これは、試料1〜9では、窒素含有率が0.5wt%以上2.0wt%以下の範囲にある結晶相が存在し、また、第2族元素を含まないため、低温から高温までの広い温度範囲における基体21の耐酸化性の低下を抑制できたためであると推測される。
これに対して、比較例の試料10,12〜14では、1300℃で加熱した場合の酸化増加量は、0.28(mg/cm2)以上と比較的高く、高温耐酸化性が実施例(試料1〜9)よりも低い。試料10は、希土類として重希土類ではなく軽希土類のイットリウム(Y)を含んでいるため、重希土類を含む実施例に比べて高温耐酸化性が劣っているものと推測される。試料12は、そもそもケイ素(Si)−アルミニウム(Al)−希土類(YbまたはEr)からなる酸窒化物の結晶相がなく、粒界相がガラス相のみで構成されているため、実施例に比べて高温耐酸化性が劣っているものと推測される。試料13,14は、第2元素(マグネシウム(Mg)またはカルシウム(Ca))を含有するため、実施例に比べて高温耐酸化性が劣っているものと推測される。
また、比較例の試料11の高温耐酸化性(1300℃)は、実施例の各試料1〜10の高温耐酸化性と同等以上であるのに対して、試料11の低温耐酸化性(800℃)は、酸化増量が0.5(mg/cm2)であり、実施例の各試料1〜10の低温耐酸化性に比べて非常に低い。これは、試料11は、ケイ素(Si)−アルミニウム(Al)−希土類(YbまたはEr)からなる酸窒化物の結晶相が形成されているものの、結晶相に含まれる窒素の含有率が、0.5wt%以上2.0wt%以下の範囲になく、最小値で5.1wt%(表1では数値省略)と高いため、ケイ素(Si)−アルミニウム(Al)−希土類(YbまたはEr)からなる酸窒化物の酸化が進み、酸化に伴う体積膨張に起因してクラックが生じて酸化が促進され、酸化増量が増大したものと推測される。
ここで、実施例の試料1〜9について考察する。試料5の1300℃での酸化増量は0.18(mg/cm2)であり、その高温耐酸化性は実施例のすべての試料1〜9の中でも比較的低い値である。試料5については、希土類の含有率が4wt%と低いために高温耐酸化性が低下したものと推測される。また、試料6の800℃での酸化増量は0.1(mg/cm2)であり、その低温耐酸化性は、実施例のすべての試料1〜9の中でも比較的に比べて低い値である。これは、希土類の含有率が15wt%と高いために低温耐酸化性が低下したものと推測される。以上の試験結果および考察より、セラミック焼結体における希土類(イッテルビウム(Yb)またはエルビウム(Er))の含有率が、酸化物に換算して5wt%以上13wt%以下であることにより、低温耐酸化性と高温耐酸化性とをより確実に向上できることが分かる。
また、試料7の1300℃での酸化増量は0.2(mg/cm2)であり、800℃での酸化増量は0.09(mg/cm2)であり、いずれも比較的高い。すなわち、試料7の高温耐酸化性および低温耐酸化性は、いずれも比較的低い。これは、アルミニウム(Al)の含有率が1.3wt%と低いために、焼結性が低下し、その結果生じた微細なポア等から酸素が入り込んだためであるものと推測される。また、試料8,9の1300℃での酸化増量はいずれも0.17(mg/cm2)以上であり、比較的高い。これは、アルミニウム(Al)の含有率が5.0wt%以上と高いために、基体21の軟化点が低下し、高温環境下において酸素が内部に入り込み易くなったためであるものと推測される。以上の試験結果および考察より、結晶相におけるアルミニウム(Al)の含有率が、酸化物に換算して1.5wt%以上4.0wt%以下であることにより、低温耐酸化性と高温耐酸化性とをより確実に向上できることが分かる。加えて、粒界相に存在する結晶相全体に対する前記希土類元素含有結晶相(窒素含有率:0.5wt%以上2.0wt%以下)の面積比率が35%以上であることにより高温耐酸化性をより確実に向上できることが分かる。
また、試料2と試料4とを比較すると、希土類の含有率およびアルミニウム(Al)の含有率は互いに等しく、面積比率も10%程度の差であり同程度と評価できる。しかしながら、高温耐酸化性および低温耐酸化性のいずれにおいても、試料2の方が優れている。このことより、用いる希土類としては、耐酸化性の観点から、イッテルビウム(Yb)の方が、エルビウム(Er)に比べて優れている。
C.変形例:
C1.変形例1:
上記実施形態および実施例では、導電部22の成形材料における導電性材料は、タングステンカーバイドであったが、これに代えて、珪化モリブデンや珪化タングステン等の、任意の導電性材料を用いることができる。
C2.変形例2:
上記実施形態では、ヒータ4は、グロープラグ100に用いられるセラミックヒータであったが、グロープラグ100に代えて、バーナーの着火用のヒータ、ガスセンサの加熱用ヒータ、DPF(Diesel particulate filter)に使用されるセラミックヒータであってもよい。また、セラミックヒータに限らず、任意の用途に用いられるセラミック焼結体に本発明を適用することができる。
本発明は、上述の実施形態、実施例および変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する本実施形態、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。