JP2017198035A - 鋼矢板壁 - Google Patents

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Abstract

【課題】新設壁部材(組合せ形鋼)の圧縮応力領域側と引張応力領域側の鋼材量・降伏強度バランスを改善することで、十分な剛性や断面耐力が、効率的に得られる鋼矢板壁を提供すること。
【解決手段】U形鋼矢板またはハット形鋼矢板による、凹部と凸部が交互に連続する既設鋼矢板壁の水際側に配置されてなる鋼矢板壁であって、前記鋼矢板壁は、組合せ形鋼の継手部同士を嵌合して形成され、前記組合せ形鋼は、H形鋼の前面側および背面側の両フランジ部に補強板が取り付けられ、かつ、前記前面側の補強板の両端部に継手部を有する分割した形状の直線形鋼矢板を取り付けてなり、前記組合せ形鋼を構成するH形鋼および両フランジ部に取り付けられた補強板は水底地盤に根入れされてなり、前記既設鋼矢板壁の凹部に接触する位置に、または、少し離れた位置に、前記背面側の補強板を配置した、鋼矢板壁。
【選択図】図1

Description

本発明は、鋼矢板壁に関する。さらには、本発明は、経年使用に伴い腐食や破損により劣化した既設の鋼矢板護岸の補修や、耐震性向上などのための補強を目的とする鋼矢板壁に関する。
港湾や河川においては、U形鋼矢板またはハット形鋼矢板などを用いた鋼矢板護岸構造が普及しているが、このような水際においては、鋼材にとっては腐食しやすい環境であることから、鋼矢板が経年劣化し、鋼矢板護岸(既設鋼矢板壁)の構造性能が低下する懸念がある。
経年劣化した既設鋼矢板壁に対する補強対策として、既設鋼矢板壁の水際側(前面側)にさらに新たな壁を構築する方法が一般的である。
新たな壁の構築に関し、一般的な方法として、下記特許文献1図13に示される鋼矢板壁の構築(従来例1)がある。既設鋼矢板壁が腐食や破損により劣化し、所定の性能が損なわれた場合、水際側に同一性能の鋼矢板壁を向かい合う形で打設し、両鋼矢板壁の間は土砂などにより間詰めする。
この特許文献1には、他にも、予め広幅パネル状の鋼矢板とH形鋼などを接合して形成する広幅壁部材を使用して、老朽護岸を補修する方法が提案されている(従来例2、特許文献1図2)。
特開2003−074038号公報
従来例1の方法では、護岸に必要な構造性能を回復できる。しかし、新設する鋼矢板壁が大きく水際側に張り出すため、河川においては川幅を狭めて洪水の危険性が増すおそれがあり、また、港湾では港湾水域を狭めて船の接岸に支障をきたすおそれがある。よって、護岸に必要な構造性能を回復すると同時に、新設する鋼矢板壁の護岸前面への張り出しを極力抑えることが必要となる。
この点、従来例2は広幅パネル状の鋼矢板を組み合わせ、かつ、既設鋼矢板壁と新設鋼矢板壁とを結合しており、新設鋼矢板壁の水際側への張り出しが抑えられている。しかし、従来例2には、以下の改善すべき問題点がある。
従来例2の新設壁部材は、広幅パネル状の鋼矢板とH形鋼(あるいはT鋼)、とを予め組立てるものであるが、その断面形状について、前面側のみに広幅パネル状の鋼矢板を配していることから、前面側と背面側の鋼材量が大きく異なっており、土圧、水圧や地震動などに起因して作用する曲げモーメントに対しては、圧縮応力領域側と引張応力領域側とで吊り合いがとりにくく、十分な剛性や耐力が得られない可能性がある(構造の不合理性)。また、広幅パネル状の鋼矢板の降伏強度についても検討がなされていない。
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものである。新設壁部材(組合せ形鋼)の圧縮応力領域側と引張応力領域側の鋼材量・降伏強度バランスを改善することで、十分な剛性や断面耐力が、効率的に得られる鋼矢板壁を提供することを、本発明の課題とする。
本発明は上記課題を解決するものであり、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]U形鋼矢板またはハット形鋼矢板による、凹部と凸部が交互に連続する既設鋼矢板壁の水際側に配置されてなる鋼矢板壁であって、
前記鋼矢板壁は、組合せ形鋼の継手部同士を嵌合して形成され、
前記組合せ形鋼は、H形鋼の前面側および背面側の両フランジ部に補強板が取り付けられ、かつ、前記前面側の補強板の両端部に継手部を有する分割した形状の直線形鋼矢板を取り付けてなり、
前記組合せ形鋼を構成するH形鋼および両フランジ部に取り付けられた補強板は水底地盤に根入れされてなり、
前記既設鋼矢板壁の凹部に接触する位置に、または、少し離れた位置に、前記背面側の補強板を配置した、鋼矢板壁。
[2]前記組合せ形鋼において、前面側および背面側の補強板形状が下記式(3)の関係を満足する、[1]に記載の鋼矢板壁。
Figure 2017198035
[3]前記組合せ形鋼同士の継手の嵌合部を前記既設鋼矢板壁の凸部に正対しない位置に配した、[1]または[2]に記載の鋼矢板壁。
[4]前記組合せ形鋼における分割した形状の直線形鋼矢板が水底地盤以浅に配置された、[1]〜[3]のいずれかに記載の鋼矢板壁。
[5]前記組合せ形鋼と前記既設鋼矢板壁との間隙に、さらに充填材が充填されて形成された、[1]〜[4]のいずれかに記載の鋼矢板壁。
本発明では、H形鋼の前面側ならびに背面側の両フランジ部に補強板を取付けることから、新設壁部材(組合せ形鋼)の圧縮応力領域側と引張応力領域側の鋼材量・降伏強度バランスを改善し、鋼矢板壁において十分な剛性や断面耐力を効率的に得ることができる。
また、鋼矢板壁の水際側への張り出しも抑制できることから、周辺への影響も小さくできる。
図1は、本発明の一実施形態を説明する図面である。 図2は、組合せ形鋼の寸法関係を説明する図面である。 図3は、本発明の他の一実施形態を説明する図面である。 図4は、組合せ形鋼の根入れを説明する図面である。 図5は、本発明の他の一実施形態を説明する図面である。 図6は、組合せ形鋼の断面に作用する曲げモーメントを説明する概念図である。 図7は、実施例における発明例1を説明するための概略図である。 図8は、実施例における発明例2を説明するための概略図である。 図9は、実施例における比較例を説明するための概略図である。
以下、本発明の実施形態をその最良の形態も含めて説明する。以降の実施形態の説明において新設する鋼矢板壁の端部の図示は省略している。端部の構造は、施工条件等に鑑み適宜決定すればよい。
図1は、本発明の一実施形態を示したものである。図1に示した実施形態は、U形鋼矢板による凹部と凸部が交互に連続する既設鋼矢板壁10の水際側に配置されてなる鋼矢板壁1であって、鋼矢板壁1は、組合せ形鋼2の継手部同士を嵌合して形成され、組合せ形鋼2は、H形鋼5の前面側および背面側の両フランジ部に補強板3、4が取り付けられ、かつ、前面側の補強板3の両端部に継手部を有する分割した形状の直線形鋼矢板6を取り付けてなり、組合せ形鋼2を構成するH形鋼5および両フランジ部に取り付けられた補強板3、4は水底地盤に根入れされてなり、既設鋼矢板壁10の凹部11に接触する位置、または、少し離れた位置に、背面側の補強板4を配置した、鋼矢板壁1である。既設鋼矢板壁10において、水際側(前面側)への突出を凸、逆側(背後地盤側、背面側)への突出を凹とする。本発明では、通常、組合せ形鋼2を形成した後、鋼矢板壁1を形成する。組合せ形鋼2は、前面側補強板3のみならず背面側補強板4も備えるので、圧縮応力領域側と引張応力領域側の鋼材量バランスが改善され、十分な剛性や断面耐力を効率的に得ることができる。
既設鋼矢板壁10はU形鋼矢板を組み合わせた凹部と凸部が交互に連続する構成である。しかし、既設鋼矢板壁10は、ハット形鋼矢板を組み合わせて構成されたものであってもよく、U形鋼矢板を組み合わせてなる部位およびハット形鋼矢板を組み合わせてなる部位を併せもっていてもよい。
図1に示す鋼矢板壁1では、既設鋼矢板壁10の凹部11に正対して背面側補強板4を配しており、既設鋼矢板壁10の凸部12に正対して組合せ形鋼2どうしの継手嵌合部を配している。しかし、実際の施工条件に鑑み、組合せ形鋼2の数や間隔を適宜調整すればよい。分割した形状の直線形鋼矢板6のサイズ(特に幅)によっては、ある凹部11を、組合せ形鋼2が配置されない凹部11とすることもありうる。
既設鋼矢板壁10の凸部12から鋼矢板壁1までの距離(護岸法線直角方向)は、組合せ形鋼2の施工精度のバラツキや、継手形状を考慮して、50mm以上あけておくのが望ましい。一方、鋼矢板壁1の水際側への張り出しを抑制する観点から、既設鋼矢板壁10の凸部12から鋼矢板壁1までの距離は500mm以下が好ましい。
組合せ形鋼2を構成する背面側補強板4と凹部11は、壁構造の剛性の観点から、接触していることが好ましい。しかし、実際の施工においては、背面側補強板4を凹部11から少し離しておいたほうが組合せ形鋼2の打設が容易となる場合がある。この場合、背面側補強板4と凹部11との間隔は施工条件に鑑みて適宜決定すればよいが、あえて一例を挙げると20〜500mmとすることができる。以上のとおり、背面側補強板4が凹部11に接触する実施形態のみならず、背面側補強板4が凹部11から少し離れて配置される実施形態も有効である。
組合せ形鋼2は、H形鋼5の前面側および背面側の両フランジ部に補強板3、4が取り付けられ、かつ、前面側の補強板3の両端部に継手部を有する分割した形状の直線形鋼矢板6を取り付けてなる。なお、鋼矢板壁1の形成では、分割した形状の直線形鋼矢板6の継手部どうしを嵌合する。
組合せ形鋼2の前面側の断面幅(分割した形状の直線形鋼矢板6の継手部間の距離)は背面側の断面幅より大きい。組合せ形鋼2の前面側の断面幅は、既設鋼矢板壁10を構成する鋼矢板のサイズに応じて適宜設定する。しかし、従前の施工機械で対応することを考慮すると、前面側の断面幅は700〜1300mm程度の範囲とするのが好ましい。
組合せ形鋼2は、H形鋼5の一方のフランジ外面に前面側補強板3を、他方のフランジ外面に背面側補強板4を備え、各補強板を溶接またはボルト接合などにより一体化する。通常、その後、分割した形状の直線形鋼矢板6を前面側補強板3の両端部に溶接により取り付ける。
図1に示す組合せ形鋼2は前面側の断面幅のほぼ中央にH形鋼5のウェブが位置している。しかし、打込におけるウォータージェットなどの補助工法との併用を考慮して、H形鋼5のウェブを前面側の断面幅の中央からずらしてもよい。
なお、前面側補強板3および背面側補強板4は、通常、鋼材である。また、前面側補強板3および背面側補強板4の断面形状は、通常、矩形である。凹部11の幅には限りがあり、背面側補強板4の断面幅は、H形鋼5の背面側のフランジと同等以下であることが好ましい。よって、背面側補強板4は前面側補強板3より厚くてよい。
分割した形状の直線形鋼矢板6は、通常、直線形鋼矢板を分割して形成する。この場合、直線形鋼矢板は公知のものを適宜使用可能である。しかし、分割した形状の直線形鋼矢板6は、直線状の板状部分と端部に嵌合可能の継手を有すれば、その製造方法は特に限定されない。
組合せ形鋼2を構成するH形鋼5は、公知のH形鋼を適宜使用可能である。通常、H形鋼の断面は二つのフランジをウェブが繋ぐ形状となっている。好ましくは、H形鋼の断面形状において、フランジ長さ(組合せ形鋼2の幅方向、単位mm)とウェブ長さ(mm)の比(フランジ長さ/ウェブ長さ)が0.3〜1.0のH形鋼である。なお、本発明において、H形鋼5の各フランジの長さは同一であることが好ましいが、各フランジの長さは異なっていてもよい。フランジの長さが異なる場合、H形鋼5の断面形状において、短い方のフランジ長さ/長い方のフランジ長さが0.5以上であることが好ましい。
組合せ形鋼2を構成するH形鋼5および両フランジ部に取り付けられた補強板3、4は、護岸に作用する荷重に対して十分抵抗できるように、水底地盤に根入れする必要がある(図4参照)。H形鋼5および両フランジ部に取り付けられた補強板3、4の根入れ長は適宜決定すればよい。根入れ長の最大は、例えば、既設鋼矢板壁10の根入れ長と同等程度にできる。図4では、H形鋼5および両フランジ部に取り付けられた補強板3、4を水底地盤に根入れしており、分割した形状の直線形鋼矢板6は根入れされていない。前面側の水底地盤が軟弱な場合は、地盤改良を行って、本発明構造と組合せることで、作用土圧による護岸の変形リスクや地震外力作用時の護岸の変形リスクを抑止できる。
さらに、本発明では、土圧や地震外力に対しては、組合せ形鋼2のうち、断面剛性の高い部分である、H形鋼5およびその両フランジ部に取り付けた補強板で構成される部分の根入れ部の地盤反力により抵抗する。このため、分割した形状の直線形鋼矢板6部分には大きな力は作用しない。したがって、水底地盤への根入れは必ずしも必要ではなく、高い止水性が求められる場合や、特殊な地盤でボイリング現象、ヒービング現象などの恐れがある場合を除いては、分割した形状の直線形鋼矢板6の下端は水底面位置以浅としてもよい。言いかえれば、分割した形状の直線形鋼矢板6の下端は、水底位置まで達するか、それより浅い位置に配置されて良い。
護岸などの抗土水圧を目的とした壁構造では、図6に示すような断面に作用する曲げモーメントが一般的に最も支配的な作用外力となる。曲げモーメントに対しては、その作用断面において、圧縮応力と引張応力とが吊り合うことが好ましいが、組合せ形鋼において、特許文献1に開示された従来例2のように、H形鋼の前面側の一方のみに補強板を取り付ける構造とした場合、組合せ形鋼の前面側と背面側とで大きな鋼材量の差が生じ、その結果、壁断面における圧縮側および引張側の境界部である中立軸が、H形鋼のウェブ中央から鋼材量の多い補強板を取り付けた方に大きくずれて、曲げモーメントに対する抵抗力が効果的には高まらない(図6(a))。
本発明では、H形鋼5の前面側および背面側の両方に補強板を配置することにより、組合せ形鋼2の前面側と背面側とで大きな鋼材量の差が生じることを防止し、壁断面における中立軸の、H形鋼5のウェブ中央からのずれを抑制して、曲げモーメントに対する抵抗力が効果的に高まる構造とした(図6(b))。
圧縮応力と引張応力との吊り合いのバランスをとるためには、背面側の補強板4の断面強度(鋼材量×降伏強度)が、前面側の補強板3の断面強度(鋼材量×降伏強度)以上であること(条件1)が好ましい。
図2に示す組合せ形鋼2の寸法関係から、以下の式(1)が導かれる。
Figure 2017198035
前面側および背面側補強板の材料降伏強度は、その形状、サイズ等に応じて、JISあるいは当該構造物の関連基準類に記載の方法より求めればよい。
また、図1に示す実施形態のように、背面側の補強板4は、既設鋼矢板壁10の凹部11に接触する位置、または、少し離れた位置に配置することから、その幅Pを広げることには限界があり、所定の鋼材量を確保するためには、板厚を増やす方法が考えられる。
一方、補強板が曲げモーメントに対する効果的な抵抗部材として働くためには、接合するH形鋼5のフランジとの十分な一体化がなされる必要がある。一般的に溶接により接合が行われるが、十分な一体化のためには、H形鋼5の頭部から水底までの範囲にわたる溶接部の強度が、背面側補強板の断面強度以上である(条件2)ことが好ましい。H形鋼5のフランジ厚さに比べて、補強板の厚さが大きすぎると、十分な一体化が困難となることが考えられる。
具体的には、H形鋼5のフランジ厚さT(mm)である場合、溶接部の有効のど厚は最大で「T÷(2)1/2」となる。次に、H形鋼の頭部から水底までの距離をL(mm)、溶接箇所はH形鋼5のフランジ両端部の2箇所、溶接部の材料せん断強度「τ=σ÷(3)1/2」とすると、溶接部の強度F(N)は以下の通りとなる。なお、H形鋼5の材料降伏強度をσ(N/mm)とする。
Figure 2017198035
H形鋼の材料降伏強度は、その形状、サイズ等に応じて、JISあるいは当該構造物の関連基準類に記載の方法より求めればよい。
一方、背面側補強板4の断面強度F(N)は以下の通りとなる。
Figure 2017198035
したがって、Fw≧Fpの関係より、以下の式(2)が導かれる。
Figure 2017198035
式(1)および式(2)より、背面側補強板4の厚さTの適切な範囲として、以下の式(3)が導かれる。
Figure 2017198035
なお、背面側補強板4において、厚さを大きくする代わりに、より高い降伏強度を有する鋼材を用いることでも、曲げモーメントに対する抵抗力を効果的に高めることが可能である。また、実際の溶接性や施工性を考慮すれば、背面側補強板の厚さT2は100mm以下とすることが望ましい。
図3は本発明の他の実施形態を示したものである。組合せ形鋼2の継手嵌合部を、既設鋼矢板壁10の凸部12に正対しない位置に配置することにより、継手嵌合部と凸部12との干渉が無く、組合せ形鋼2を既設鋼矢板10の凸部12に最近接させても施工が可能となる。その結果、鋼矢板壁1の水際側への張り出しさらに抑制できる。なお、本発明において「既設鋼矢板壁10の凸部12に正対しない位置」とは、例えば図3に示すように、鋼矢板壁1側に突出したU形鋼矢板またはハット形鋼矢板の底面位置からずれた位置を指す。
図3に示すような断面において、H形鋼5の中心軸(ウェブ位置)と前面側補強板3の中心軸(中央位置)とをずらして接合することや、前面側補強板3の両端に取り付ける分割した形状の直線形鋼矢板6の幅を変えることにより、上記の状態を形成することができる。
図5は本発明の他の実施形態を示したものである。組合せ形鋼2と、既設鋼矢板壁10との間隙に充填材7を充填することで、より高い断面性能や止水性を得ることができる。
充填材7は適宜選択可能であり、例えば、砂、礫、粘性土、または、コンクリート、ソイルセメント、高流動モルタル材などの経時硬化材料等が挙げられる。また、充填材7として、硬化性薬液を使用することも有効である。例えば、充填材7としてコンクリートを使用する場合、トレミー管を用いて底部から打ち上げつつ、充填する。
充填材7により、組合せ形鋼2と既設鋼矢板壁10との一体化をより強固とする観点から、既設鋼矢板壁10の凹部11と、背面側補強板4との間には、隙間に充填材7が周りこむ程度のクリアランスを確保することが好ましい。なお充填材7として高流動モルタル材を用いる場合は、前記クリアランスを極小とすることが可能である。
また、充填材7と組合せ形鋼2との一体性を高め、強固な壁体を形成するため、組合せ形鋼2や既設鋼矢板壁10に予め、シヤコネクタを設けてもよい(シヤコネクタの図示は省略する)。
なお、シヤコネクタとしては、代表的なもので異形鉄筋やスタッドジベルを用いる方法がある。また、H形鋼5および直線形鋼矢板の圧延成形時において突起形状を設ける方法を用いてもよい。またその他のいずれの定着方法を用いてもよい。
また、組合せ形鋼2の頭部と既設鋼矢板10の頭部とを連結しておくことも、より確実な一体化を行ううえで有効である。なお、頭部とは高さ方向の頂端付近である。例えば、図4ではW.L.よりも上側、背後地盤の表面付近の高さ部分が頭部に該当する。
以下に実施例の説明をする。本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されない。
図7〜9は実施例を説明するための組合せ形鋼の断面の概略図である。なお、分割した形状の直線形鋼矢板の図示は省略する。図7は発明例1、図8は発明例2、図9は比較例の断面図を示す。実施例の説明において、図面は概略図であり、各部材の縮尺は必ずしも正確なものではない。
組合せ形鋼のH形鋼5はH350×250×9(ウェブ厚)×14(フランジ厚)mm(σ=325N/mm)とした。H形鋼5の頭部から水底までの距離Lは1500mmである。
比較例では、幅400mm、厚さ19mmの前面側補強板(σy1=325N/mm)のみを備えたものを使用した。
発明例1では、幅400mm、厚さ19mmの前面側補強板3(σy1=325N/mm)と、幅250mm、厚さ19mmの背面側補強板4(σy2=325N/mm)を備えたものを使用した。
発明例2では、幅400mm、厚さ19mmの前面側補強板3(σy1=325N/mm)と、幅250mm、厚さ25mmの背面側補強板4(σy2=400N/mm)を備えたものを使用した。
以下の表1に、比較例ならびに発明例1〜2の比較結果を記載した。
Figure 2017198035
なお、前面側と背面側の断面強度比は以下の通りであった。
比較例: 前面側:背面側=1:0
発明例1: 前面側:背面側=1:0.6
発明例2: 前面側:背面側=1:1
比較例に比べて、発明例1〜2では、背面側補強板4を備えたことで、断面耐力Mは確実に大きくなっている。また、断面耐力Mを断面積Aで除した耐力−面積比M/A(単位面積あたりの断面耐力)に着目すると、発明例1では比較例の1.25倍に、発明例2では比較例の1.37倍に増加しており、使用する鋼材量に対して効果的に断面耐力が高まっていることがわかる。
発明例1〜2について、図1、3、5に示した実施形態の鋼矢板壁を形成し、十分な剛性、断面耐力を効率的に得ることができた。なお、いずれの発明例も、組合せ形鋼2の前面側の断面幅は700〜1300mmの範囲内とした。
1 鋼矢板壁
2 組合せ形鋼
3 前面側補強板
4 背面側補強板
5 H形鋼
6 分割した形状の直線形鋼矢板
7 充填材
10 既設鋼矢板壁
11 凹部
12 凸部

Claims (5)

  1. U形鋼矢板またはハット形鋼矢板による、凹部と凸部が交互に連続する既設鋼矢板壁の水際側に配置されてなる鋼矢板壁であって、
    前記鋼矢板壁は、組合せ形鋼の継手部同士を嵌合して形成され、
    前記組合せ形鋼は、H形鋼の前面側および背面側の両フランジ部に補強板が取り付けられ、かつ、前記前面側の補強板の両端部に継手部を有する分割した形状の直線形鋼矢板を取り付けてなり、
    前記組合せ形鋼を構成するH形鋼および両フランジ部に取り付けられた補強板は水底地盤に根入れされてなり、
    前記既設鋼矢板壁の凹部に接触する位置に、または、少し離れた位置に、前記背面側の補強板を配置した、鋼矢板壁。
  2. 前記組合せ形鋼において、前面側および背面側の補強板形状が下記式(3)の関係を満足する、請求項1に記載の鋼矢板壁。
    Figure 2017198035
  3. 前記組合せ形鋼同士の継手の嵌合部を前記既設鋼矢板壁の凸部に正対しない位置に配した、請求項1または2に記載の鋼矢板壁。
  4. 前記組合せ形鋼における分割した形状の直線形鋼矢板が水底地盤以浅に配置された、請求項1〜3のいずれかに記載の鋼矢板壁。
  5. 前記組合せ形鋼と前記既設鋼矢板壁との間隙に、さらに充填材が充填されて形成された、請求項1〜4のいずれかに記載の鋼矢板壁。
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