JP2017193606A - ゴム含有グラフト重合体、熱可塑性樹脂組成物及び成形品 - Google Patents

ゴム含有グラフト重合体、熱可塑性樹脂組成物及び成形品 Download PDF

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雅博 上田
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Abstract

【課題】 ポリカーボネート/スチレン系樹脂アロイと混合することで、その耐衝撃性及び難燃性を向上させるゴム含有グラフト重合体を提供する。また、耐衝撃性及び難燃性に優れるポリカーボネート/スチレン系樹脂アロイ樹脂組成物及びその成形品を提供する。【解決手段】 ゴム質重合体を含むコア部分と、グラフト部分とを有するコアシェル型のゴム含有グラフト重合体であって、該グラフト部分は多層で構成され、該グラフト部分の最外層に(メタ)アクリレート単位と芳香族ビニル単量体単位とを含むゴム含有グラフト重合体。【選択図】 図1

Description

本発明は、ゴム含有グラフト重合体、熱可塑性樹脂組成物及び成形品に関する。
ポリカーボネート樹脂と、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂に代表されるスチレン系樹脂とからなる熱可塑性樹脂組成物は、自動車分野、OA機器分野、電気・電子機器分野の材料として、工業的に広く利用されている。これらの材料は、薄肉化、大型化が進んでいるため、より高度な耐衝撃性及び難燃性を有する樹脂材料が求められている。
リン酸エステル化合物によって難燃化された熱可塑性樹脂組成物は、溶融流動性に優れるため、薄肉、大型で難燃化された成形品を得るために一般的に広く使われている。ただし、上記のような組成物は、リン酸エステル化合物を含むことで耐衝撃性が低下するため、ゴム含有グラフト重合体を配合することで、耐衝撃性を向上させる方法が試みられている(例えば特許文献1、2)。
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、ゴム含有グラフト重合体がポリカーボネート/スチレン系樹脂アロイ組成物中のどちらか一方の樹脂やその界面に局在化し、耐衝撃性の向上効果が不十分である可能性がある。
また、特許文献2の方法では、ゴム含有グラフト重合体のグラフト部分が多層で構成されていないため、耐衝撃性の向上効果が不十分である可能性がある。
特開2016−828号公報 国際公開第00/58402号パンフレット
本発明の目的は、ポリカーボネート/スチレン系樹脂アロイと混合することで、その耐衝撃性及び難燃性を向上させるゴム含有グラフト重合体を提供することにある。
本発明の他の目的は、耐衝撃性及び難燃性に優れるポリカーボネート/スチレン系樹脂アロイ樹脂組成物並びにその成形品を提供することにある。
前記課題は以下の本発明[1]〜[8]によって解決される。
[1] ゴム質重合体を含むコア部分と、グラフト部分とを有するコアシェル型のゴム含有グラフト重合体であって、該グラフト部分は多層で構成され、該グラフト部分の最外層に(メタ)アクリレート単位と芳香族ビニル単量体単位とを含むゴム含有グラフト重合体。
[2] 前記グラフト部分の最外層に、最外層の総質量に対し、1〜60質量%の芳香族ビニル単量体単位を含む[1]に記載のゴム含有グラフト重合体。
[3] 前記グラフト部分の最外層に、最外層の総質量に対し、40〜99質量%の(メタ)アクリレート単位を含む[1]又は[2]に記載のゴム含有グラフト重合体。
[4] 前記グラフト部分に含まれる芳香族ビニル単量体単位について、最外層に含まれる芳香族ビニル単量体単位の含有量よりも最外層以外に含まれる芳香族ビニル単量体単位の含有量が少ない[1]〜[3]のいずれか1に記載のゴム含有グラフト重合体。
[5] 前記ゴム質重合体がジエン系ゴムである[1]〜[4]のいずれか1に記載のゴム含有グラフト重合体。
[6] [1]〜[5]のいずれか1に記載のゴム含有グラフト重合体、ポリカーボネート樹脂、及びスチレン系樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物。
[7] リン酸エステル化合物と、テトラフルオロエチレン系重合体とをさらに含む[6]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[8] [6]又は[7]に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
本発明によれば、耐衝撃性及び難燃性に優れるポリカーボネート/スチレン系樹脂アロイ組成物並びにその成形品を提供することができる。
実施例5の熱可塑性樹脂組成物を透過型電子顕微鏡で撮影した写真である。 比較例4の熱可塑性樹脂組成物を透過型電子顕微鏡で撮影した写真である。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
[ゴム含有グラフト重合体]
本発明のゴム含有グラフト重合体は、ゴム質重合体を含むコア部分と、グラフト部分とを有するコアシェル型のゴム含有グラフト重合体である。
[コア部分]
コア部分は、ゴム質重合体を含む。該ゴム質重合体としては、ジエン系ゴム、ジエン−アクリル複合ゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、アクリル−シリコーン複合ゴム、イソブチレン−シリコーン複合ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、ニトリルゴム、エチレン−アクリルゴムが挙げられる。ゴム含有グラフト重合体をポリカーボネート/スチレン系樹脂アロイに配合した際の衝撃強度の観点から、ジエン系ゴム、ジエン−アクリル複合ゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、アクリル−シリコーン複合ゴムが好ましく、ジエン系ゴムがより好ましい。
ジエン系ゴムは、ジエン系単量体と、必要に応じてジエン系単量体と共重合可能なビニル単量体とを(共)重合することにより得られる。ジエン系単量体としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、クロロプレンが挙げられる。これらのうち、ゴム含有グラフト重合体をポリカーボネート/スチレン系樹脂アロイに配合した際の衝撃強度や発色性の観点から、ブタジエンが好ましい。ジエン系単量体と共重合可能なビニル単量体としては、例えば、スチレン、エチレン、アクリロニトリル、アルキル(メタ)アクリレート等の単官能性単量体;ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジアクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等の多官能性単量体が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ジエン系ゴムは、ゴム含有グラフト重合体をポリカーボネート/スチレン系樹脂アロイに配合した際の衝撃強度の観点から、ジエン系単量体に由来する単位を50質量%以上含むことが好ましく、75質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましい。
ゴム質重合体のガラス転移温度は、ゴム含有グラフト重合体をポリカーボネート/スチレン系樹脂アロイに配合した際の衝撃強度の観点から、−10℃以下であることが好ましく、−30℃以下であることがより好ましく、−70℃以下であることがさらに好ましい。
ゴム質重合体を製造する際の重合方法は特に限定されないが、塊状重合、乳化重合、懸濁重合、溶液重合などが挙げられる。これらのうち、ゴム質重合体の粒径制御、コアシェル構造のゴム含有グラフト重合体が得られやすい点で、乳化重合が好ましい。
重合に用いる重合開始剤は特に限定されず、公知の重合開始剤を使用できる。例えば、過硫酸塩、有機過酸化物、アゾ系開始剤、過硫酸塩と還元剤を組合せたレドックス系開始剤、有機過酸化物と還元剤を組合せたレドックス系開始剤を使用することができる。これらの重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。重合開始剤の使用量は、単量体の合計100質量部に対して0.05〜1.0質量部が好ましく、0.1〜0.3質量部がより好ましい。
乳化重合に用いる乳化剤は特に限定されず、公知の乳化剤を使用できる。例えば、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等のノニオン性界面活性剤;アルキルアミン塩等のカチオン性界面活性剤を使用することができる。これらの乳化剤は単独で、あるいは併用して用いることができる。乳化剤の使用量は、特に限定されないが、ゴムラテックス中の樹脂固形分100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましく、0.1〜5質量部がより好ましい。乳化剤の使用量が、0.1質量部以上であると乳化安定性に優れ、10質量部以下であるとゴム含有グラフト重合体のラテックスの凝析が容易になる。
[ゴム質重合体の肥大化]
ゴム質重合体の体積平均粒子径は、通常の乳化重合で製造した場合、約50〜250nmとなるが、ゴム質重合体の肥大化により、100〜1000nmとすることができる。ゴム含有グラフト重合体の体積平均粒子径を後述の好ましい範囲とするため、適宜ゴム質重合体の肥大化を行ってもよい。ゴム質重合体の肥大化は、ゴム質重合体のラテックス(ゴムラテックス)に対して肥大化剤を添加することで行うことができる。肥大化剤は公知のものから任意に選択することができるが、酸基含有共重合体及び/又は酸素酸塩を用いることが好ましい。
酸基含有共重合体としては、不飽和酸、アルキルアクリレート、及び必要に応じて他の共重合可能な単量体を含む単量体混合物を重合して得られる重合体が好ましい。
不飽和酸としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマール酸、ケイヒ酸、ソルビン酸及びp−スチレンスルホン酸が挙げられる。これらの中でも、入手性や取り扱い性の点で、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
アルキルアクリレートとしては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレートが挙げられる。これらの中でも、アルキル基の炭素数が1〜12のアルキルアクリレートが好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
他の共重合可能な単量体としては、不飽和酸やアルキルアクリレートと共重合可能であれば特に制限されないが、例えばα−メチルスチレン等のスチレン誘導体、アルキルメタクリレート、アクリロニトリルが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
酸基含有共重合体の製造に用いる単量体混合物の組成としては、不飽和酸が3〜40質量%、アルキルアクリレートが97〜35質量%、他の共重合可能な単量体が0〜40質量%であることが好ましく、不飽和酸が5〜35質量%、アルキルアクリレートが95〜40質量%、他の共重合可能な単量体が0〜35質量%であることがより好ましい。単量体混合物の組成が上記範囲内であれば、肥大化を行う際のラテックスの安定性が優れ、肥大化して得られるゴム質重合体の粒子径を制御しやすい。
酸基含有共重合体は、前記組成の単量体混合物を、公知の乳化重合法によって重合することにより得ることができる。重合は一段階で行っても多段階で行ってもよい。多段階で重合することによって、2層以上の多層構造を有する酸基含有共重合体を得ることができる。
ゴム質重合体の肥大化の際には、ゴム含有グラフト重合体の性能を妨げない範囲で、酸素酸塩を用いることができる。
酸素酸塩としては、酸素酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩、又は亜鉛、ニッケル、及びアルミニウムの塩の中から選ばれた少なくとも一種の酸素酸塩が好ましい。このような酸素酸塩の例としては、硫酸、硝酸、リン酸等と、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、ニッケル、アルミニウム等との塩が挙げられる。酸素酸塩は、肥大化を行う際の粒子径制御の行いやすさ、入手しやすさ、及び取り扱いやすさの点で、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、リン酸ナトリウム、リン酸マグネシウム等が好ましい。
これらの酸基含有共重合体及び酸素酸塩は、それぞれ1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。酸基含有共重合体及び酸素酸塩を各々単独で用いる場合、酸基含有共重合体の添加量は、ポリマー固形分として、ゴムラテックスの樹脂固形分100質量部に対して、0.1〜5質量部が好ましく、0.5〜4質量部がより好ましく、0.5〜3質量部がさらに好ましい。また、酸素酸塩の添加量は、ゴムラテックスの樹脂固形分100質量部に対して、0.1〜5質量部が好ましく、0.1〜4質量部がより好ましい。酸基含有共重合体及び酸素酸塩をこれらの範囲内で添加することでゴムラテックス中のゴム質重合体の肥大化がより効率的に行われ、得られる肥大化ゴムラテックスの安定性も大幅に向上する。
なお、酸基含有共重合体を用いて肥大化処理を行う場合、ゴムラテックスのpHは7以上であることが好ましい。pHが酸性側にある場合には、酸基含有共重合体を添加しても肥大化効率が低い場合がある。ゴムラテックスのpHは、ゴムラテックスの製造中に調製してもよく、また、肥大化処理の前に別途行ってもよい。
[グラフト部分]
ゴム質重合体のラテックス(ゴムラテックス)の存在下でビニル単量体を重合することにより、ゴム含有グラフト重合体のラテックスが得られる。このビニル単量体に由来する単位からなる部分をグラフト部分という。
グラフト部分用のビニル単量体としては、(メタ)アクリレート、芳香族ビニル単量体、及びこれらと共重合可能なその他の単量体を用いることができる。
(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらのうち、ゴム含有グラフト重合体のポリカーボネート/スチレン系樹脂アロイへの分散性の観点から、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレートが好ましく、メチル(メタ)アクリレートがより好ましい。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、重合率を高めやすく、屈折率がポリカーボネート樹脂に近くなることから、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレンが好ましく、スチレンがより好ましい。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
その他の単量体としては、例えば以下のものが挙げられる。(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル単量体;安息香酸ビニル、酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニル単量体;エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィン類。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
グラフト部分は多層で構成される。グラフト部分を多層とすることで、グラフト部分の最外層以外の成分がゴム内部へ含浸しにくくなり、ゴム含有グラフト重合体をポリカーボネート/スチレン系樹脂アロイに配合した際の配置を最外層の成分により制御することができる。その結果、得られる樹脂組成物の衝撃強度が優れる。グラフト部は、2〜4層であることが好ましく、2〜3層であることがより好ましい。
グラフト部分を多層にする方法としては、例えば、ゴムラテックスの存在下でビニル単量体を重合した後、別のビニル単量体を重合する方法が挙げられる。このとき、グラフト部分を構成するビニル単量体を連続滴下することが、コア部分へのグラフト結合のしやすさから好ましい。
本発明のゴム含有グラフト重合体は、グラフト部分の最外層に(メタ)アクリレート単位と芳香族ビニル単量体単位とを含む。最外層に(メタ)アクリレート単位と芳香族ビニル単量体とを含むことで、ポリカーボネート/スチレン系樹脂アロイに配合した際に、ゴム含有グラフト重合体がどちらか片方の樹脂やその界面に局在化しにくくなり、衝撃強度が向上しやすい。
グラフト部分の最外層に含まれる(メタ)アクリレート単位の含有率は、グラフト部分の最外層の総質量に対し、40〜99質量%であることが好ましく、45〜95質量%であることがより好ましい。該範囲とすることにより、ゴム含有グラフト重合体をポリカーボネート/スチレン系樹脂アロイに配合した際の衝撃強度向上効果が優れる。
グラフト部分の最外層に含まれる芳香族ビニル単量体単位の含有率は、グラフト部分の最外層の総質量に対し、1〜60質量%であることが好ましく、5〜55質量%であることがより好ましい。該範囲とすることにより、ゴム含有グラフト重合体をポリカーボネート/スチレン系樹脂アロイに配合した際の衝撃強度向上効果が優れる。
グラフト部分の最外層に含まれるその他の単量体単位の含有率は、グラフト部分の最外層の総質量に対し、0〜20質量%であることが好ましく、0〜10質量%であることがより好ましく、0〜5質量%であることがさらに好ましい。
また、グラフト部分に含まれる芳香族ビニル単量体単位について、最外層に含まれる芳香族ビニル単量体単位の含有量よりも、最外層以外に含まれる芳香族ビニル単量体単位の含有量が少ないことが好ましい。最外層以外に含まれる芳香族ビニル単量体単位の含有量が少なければ、グラフト重合時に芳香族ビニル単量体の一部がゴムの内部に含浸しにくく、ゴム含有グラフト重合体をポリカーボネート/スチレン系樹脂アロイに配合した場合に十分な衝撃強度の向上効果が得られる。グラフト部分の最外層以外に含まれる芳香族ビニル単量体単位の含有率は、グラフト部分の最外層以外の総質量に対し、55〜0質量%であることが好ましく、30〜0質量%であることがより好ましく、10〜0質量%であることがさらに好ましい。
最外層以外のグラフト部分は、ゴムの内部への含浸しにくさ及びゴム含有グラフト重合体のポリカーボネート/スチレン系樹脂アロイへの分散性の観点から、(メタ)アクリレート単位を含むことが好ましい。グラフト部分の最外層以外に含まれる(メタ)アクリレート単位の含有率は、ゴム内部への含浸しにくさから、グラフト部分の最外層以外の総質量に対し、45〜100質量%であることが好ましく、70〜100質量%であることがより好ましく、90〜100質量%であることがさらに好ましい。
グラフト部分の最外層以外に含まれるその他の単量体単位の含有率は、グラフト部分の最外層以外の総質量に対し、0〜20質量%であることが好ましい。
グラフト部分の重合の方法は特に限定されないが、塊状重合、乳化重合、懸濁重合、溶液重合などが挙げられる。これらのうち、ゴム質重合体の粒径制御、コアシェル構造のゴム含有グラフト重合体が得られやすい点で、乳化重合が好ましい。
グラフト重合に用いる重合開始剤は、ゴムラテックスを重合する際の重合開始剤と同じものを使用することができる。
[ゴム含有グラフト重合体]
ゴム含有グラフト重合体100質量%中のゴム質重合体の割合は70〜90質量%が好ましい。70質量%以上であれば、衝撃強度に優れ、90質量%以下であれば、ポリカーボネート/スチレン系樹脂アロイへの分散性に優れる。
ゴム含有グラフト重合体の体積平均粒子径は100〜1000nmであることが好ましく、100〜500nmであることがより好ましく、150〜350nmであることがさらに好ましい。該範囲とすることにより、ゴム含有グラフト重合体をポリカーボネート/スチレン系樹脂アロイに配合した際の衝撃強度向上効果が優れる。
ゴム含有グラフト重合体の体積平均粒子径は、ゴム含有グラフト重合体ラテックスを動的光散乱法によって測定される。
[ゴム含有グラフト重合体の回収]
ゴム含有グラフト重合体は、上記のようにして得られるゴム含有グラフト重合体ラテックスから噴霧回収、又はゴム含有グラフト重合体ラテックスを凝析して粉体として回収することにより得られる。これらのうち、凝析法がゴム含有グラフト重合体中に乳化剤や開始剤等の重合助剤が残存しにくく好ましい。本発明において、粉体を得るために用いるゴム含有グラフト重合体のラテックスは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ゴム含有グラフト重合体ラテックスの凝析法は、例えば、ゴム含有グラフト重合体ラテックスを、凝析剤を溶解させた熱水と接触させ、攪拌しながら重合体を凝析させてスラリーとし、生成した析出物を洗浄、脱水、乾燥する方法が挙げられる。
凝析剤としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸等の無機酸;蟻酸、酢酸等の有機酸;硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム等の塩が挙げられる。これらのうち、ゴム含有グラフト重合体をポリカーボネート/スチレン系樹脂アロイに配合した際の難燃性を損ないにくいことから、塩が好ましく、塩化カルシウム、酢酸カルシウムがより好ましい。
ゴム含有グラフト重合体ラテックスを凝析する際の凝析剤の使用量は、ラテックスを十分に凝析させる量であれば特に限定されないが、ゴム含有グラフト重合体ラテックス中の樹脂固形分100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましく、0.5〜10質量部がより好ましく、1〜5質量部がさらに好ましい。凝析剤の使用量が0.1質量部以上であると、ゴム含有グラフト重合体の粉体回収性及び粉体取り扱い性が良好である。一方、凝析剤の使用量が20質量部以下であると、得られたゴム含有グラフト重合体を熱可塑性樹脂に配合した熱可塑性樹脂組成物は難燃性が良好である。
凝析法によって得られた凝析物の洗浄方法としては特に限定されるものではないが、洗浄効率を高めるために、水、又はメタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの炭素原子数4以下のアルコールで洗浄することが好ましく、特に水及び/又はメタノールで洗浄することが好ましい。
[酸化防止剤]
ゴム含有グラフト重合体には、酸化防止の目的で、通常知られた酸化防止剤の1種又は2種以上を添加することができる。ゴム含有グラフト重合体への酸化防止剤の添加方法は特に限定されるものではないが、数百μmの粒子径を有する粉体や錠剤として、又は水に分散させた状態(ディスパージョン)で添加する方法などが挙げられる。本発明においては、ゴム含有グラフト重合体ラテックスに酸化防止剤をディスパージョンにて添加する方法がもっとも好ましく、酸化防止剤が添加されたゴム含有グラフト重合体ラテックスを上述した凝析又は噴霧回収することで、酸化防止剤が添加されたゴム含有グラフト重合体が得られる。酸化防止剤をディスパージョンで添加することで、酸化防止剤をゴム含有グラフト重合体に近く、より均一に添加することができるため、ブタジエンゴム等のゴム質重合体の酸化劣化を抑制し、より優れた耐熱着色性が得られる。
酸化防止剤の添加量は、ゴム含有グラフト重合体100質量部に対し、0.0001〜10質量部が好ましく、その下限量は0.001質量部以上がより好ましく、0.01質量部以上がさらに好ましく、その上限量は6質量部以下がより好ましく、3質量部以下がさらに好ましい。酸化防止剤の添加量が上記下限値以上であると成形時の着色の抑制効果が良好となる傾向がある。一方、酸化防止剤の含有量が上記上限値以下であると射出成形時における金型への付着物が抑制されることにより、表面外観が良好な成形品を得ることができる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、及びホスファイト系酸化防止剤からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましく、フェノール系酸化防止剤及び/又はチオエーテル系酸化防止剤がより好ましい。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−m−クレゾール)、3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル、ペンタエリスリトール−テトラキス{3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ビス[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオン酸][エチレンビス(オキシエチレン)]が挙げられる。これらの中でも、3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル、ペンタエリスリトール−テトラキス{3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。
チオエーテル系酸化防止剤としては、例えばジラウリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ラウリルステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ビス[2−メチル−4−(3−ラウリルチオプロピオニルオキシ)−5−tert−ブチルフェニル]スルフィド、オクタデシルジスルフィド、メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプト−6−メチルベンズイミダゾール、1,1’−チオビス(2−ナフトール)(ビス[3−(ドデシルチオ)プロピオン酸]2,2−ビス[[3−(ドデシルチオ)−1−オキソプロピルオキシ]メチル]−1,3−プロパンジイル)が挙げられる。これらの中でも、(ビス[3−(ドデシルチオ)プロピオン酸]2,2−ビス[[3−(ドデシルチオ)−1−オキソプロピルオキシ]メチル]−1,3−プロパンジイル)が好ましい。
ホスファイト系酸化防止剤としては、例えばトリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。これらの中でも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトがより好ましい。
[熱可塑性樹脂組成物]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂と、スチレン系樹脂と、ゴム含有グラフト重合体とを含有する。
本発明において、ポリカーボネート樹脂は、従来公知の任意のものを使用することができる。即ち本発明では、ポリカーボネート樹脂として、芳香族ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂、芳香族−脂肪族ポリカーボネート樹脂を使用できる。これらの中でも、衝撃強度や熱安定性に優れることから、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
芳香族ポリカーボネート樹脂は、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、又はジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸エステルとを反応させるエステル交換法等によって得られる重合体である。代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネートが挙げられる。
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、以下のものが挙げられる。ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン等。これらは単独で又は2種類以上を混合して使用される。
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、10000〜40000であることが好ましく、15000〜30000であることがより好ましい。ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が10000以上であれば、耐衝撃性及び難燃性に優れる。また、粘度平均分子量が40000以下であれば、得られる熱可塑性樹脂組成物は溶融流動性に優れる。
なお、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、ウベローデ粘度計を用いて、0.5g/dLのメチレンクロライド溶液について、25℃の極限粘度[η]を測定し、以下の式より求めた値である。
[η]=1.23×10−4Mv0.83
スチレン系樹脂としては、芳香族ビニル単量体単位、シアン化ビニル単量体単位、ジエン系ゴム質重合体単位及びその他の単量体単位からなるABS樹脂、ポリスチレン樹脂、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル−エチレンプロピレン系ゴム−スチレン共重合体(AES樹脂)などが挙げられる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂の配合割合は、質量比で50:50〜90:10が好ましく、60:40〜85:15がより好ましい。ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂との合計100質量%に対して、ポリカーボネート樹脂の含有量が50質量%以上であると耐衝撃性及び難燃性に優れ、90質量%以下であると溶融流動性に優れる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、ポリカーボネート/スチレン系樹脂アロイが本来有する優れた耐熱性、耐衝撃性、難燃性、溶融流動性等を損なわない範囲で他の樹脂を配合することができる。具体的にはポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂との合計100質量部に対して50質量部以下の範囲で下記の樹脂を配合することができる。ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂;ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;6−ナイロン、6,6−ナイロン等のナイロン系樹脂;エラストマー、ポリフェニレンエーテル、ポリアリレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール等。
本発明の熱可塑性樹脂とゴム含有グラフト重合体の配合割合は、所望の物性等に応じて適宜決定すればよく、特に制限されないが、ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂との合計100質量部に対して、ゴム含有グラフト重合体の含有量が0.1〜40質量部であることが好ましく、0.5〜20質量部であることがより好ましく、1〜15質量部であることがさらに好ましく、2〜10質量部であることが最も好ましい。ゴム質重合体の含有量が0.1質量部以上であれば、良好な耐衝撃性が得られ、40質量部以下であれば熱可塑性樹脂組成物の耐熱性を損ないにくい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、下記式(1)で表されるリン酸エステル化合物を含有することができる。
(式(1)中、R、R、R及びRは、それぞれ、炭素数1〜6のアルキル基又はアルキル基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基を示し、p、q、r及びsは、それぞれ0又は1であり、kは0から5の整数であり、Xはアリーレン基を示す。)
は、二価のアリーレン基を示し、例えばレゾルシノール、ハイドロキノン、ビスフェノールA、2,2’−ジヒドロキシビフェニル、2,3’−ジヒドロキシビフェニル、2,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、1,8−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシ化合物から誘導される二価の基である。
式(1)中のkの値は、熱可塑性樹脂組成物に配合した際の機械物性を低下させにくく、低揮発性であることから、1〜5であることが好ましい。
式(1)で表されるリン酸エステル化合物の具体例としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、2−ナフチルジフェニルホスフェート、トリス−(t−ブチルフェニル)ホスフェート、レゾルシノールビス−ジフェニルホスフェート、レゾルシノールビス−ジキシレニルホスフェート、ビスフェノールAビス−ジフェニルホスフェートが挙げられる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物中のリン酸エステル化合物の含有量は、ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂との合計100質量部に対して、5〜25質量部が好ましく、10〜20質量部がより好ましく、12〜18質量部がさらに好ましい。リン酸エステル化合物の含有量が5質量部以上であると、難燃性や溶融流動性に優れ、25質量部以下であると、耐熱性や耐衝撃性に優れる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、テトラフルオロエチレン系重合体を含むことができる。かかるテトラフルオロエチレン系重合体を上記リン酸エステル化合物と併用することにより、より良好な難燃性を得ることができる。
本発明において使用されるテトラフルオロエチレン系重合体は、テトラフルオロエチレン単量体単位のみからなる単独重合体、又は、テトラフルオロエチレン単量体単位と他の単量体単位からなる共重合体である。テトラフルオロエチレンと共重合される他の単量体としては、例えば、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、フルオロアルキルエチレン等の含フッ素オレフィン;パーフルオロアルキル(メタ)アクリレート等の含フッ素アルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの他の単量体は、樹脂組成物の溶融張力を向上させるというポリテトラフルオロエチレンの特性を損なわない範囲で用いることができ、テトラフルオロエチレン系重合体100質量%中に占める他の単量体単位の含有量は10質量%以下であることが好ましい。
テトラフルオロエチレン系重合体は、固体形状の他、水性分散液形態のものも使用可能である。また、熱可塑性樹脂への分散性を高めるために、テトラフルオロエチレン系重合体と、それ以外の有機重合体の混合物を使用することも可能である。
本発明の熱可塑性樹脂組成物中のテトラフルオロエチレン系重合体の含有量は、ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂との合計100質量部に対して、0.01〜2質量部が好ましく、0.1〜1.5質量部がより好ましく、0.1〜1.0質量部がさらに好ましい。
さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、成形品に種々の機能付与や特性改善のために、公知の添加物を配合してもよい。かかる添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、離型剤、滑剤、摺動剤、着色剤、蛍光増白剤、蓄光顔料、蛍光染料、帯電防止剤が挙げられる。また、成形品の強度、剛性、難燃性を向上させるために、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維等の充填剤を配合してもよい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、粉体の混合物として、又は溶融混練物として調整される。その際、例えば、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、2本ロール、ニーダー、ブラベンダー等が使用される。
[成形品]
本発明の成形品は、上記の熱可塑性樹脂組成物を成形したものである。その成形方法としては、例えば、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形、ブロー成形、真空成形、押出し成形、積層成形、カレンダー成形が挙げられる。
本発明の成形品は、雑貨、家庭用電気製品、OA機器、電気・電子機器、建材、自動車部品をはじめ、広い分野に使用することができる。
以下、実施例により本発明を説明する。なお、以下の説明において、特に断りがない限り「部」は質量部を意味し、「%」は質量%を意味する。まず、評価方法について説明する。
[体積平均粒子径]
ゴム含有グラフト重合体ラテックスを濃厚系粒径アナライザー(大塚電子製、機種名FPAR−1000)を用いて体積平均粒子径を測定した。
[試験片の作製]
表7に従って各材料を混合して、熱可塑性樹脂組成物を得た。これらの各熱可塑性樹脂組成物を、バレル温度260℃に加熱した同方向二軸押出機(池貝社製、機種名「PCM−30」)にてスクリュー回転数150rpmの条件で溶融混練して熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。なお、表7中に記載の略号は、表2記載の化合物を意味する。
得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを、熱風乾燥機を用いて70℃で12時間乾燥した後、100t射出成形機(住友重機械工業社製、機種名「SE−100DU」)にて、シリンダー温度260℃及び金型温度80℃の条件で成形して短冊状の試験片1(長さ80mm、幅8mm、厚み4mm)と、試験片2(長さ120mm、幅12.7mm、厚み1.6mm)と、試験片3(長さ100mm、幅50mm、厚み2mm)を得た。
[シャルピー衝撃強度]
前記「試験片1」を用いてJIS K7111に準じ、23℃でノッチ付シャルピー衝撃強度を測定した。
[難燃性]
前記「試験片2」を用いてアンダーライターズラボラトリーズインコーポレイテッドのUL94規格に従って、垂直型燃焼試験を実施した。5本の試験片3を用いて垂直型燃焼試験を実施した。難燃性の判定はUL94Vに従い、表1に示す基準でV−0、V−1、V−2に分類した(V−0が最も難燃性が高いことを示す)。総燃焼時間は、5本の合計燃焼時間(第一接炎時、第二接炎時の燃焼時間を含む)である。
[ゴム含有グラフト重合体の配置]
試験片3を四酸化オスミウムで染色した後、ミクロトームを用いて切削し、超薄切片を切り出した。さらに、得られた超薄切片を四酸化ルテニウムで再染色し、透過型電子顕微鏡で観察及び写真撮影した。
以下の実施例及び比較例で用いた化合物の略号を表2に示す。
[ゴム含有グラフト重合体の製造]
(ゴムラテックス(H−1)の製造)
表3中の成分(1)を容量70Lのオートクレーブ中に仕込み、昇温して内温が50℃となった時点で、表3中の成分(2)のレドックス系開始剤をオートクレーブ内に添加し、重合を開始した後、さらに60℃まで昇温し、7時間反応させた。次いで、表3中の成分(3)及び成分(4)を8時間かけて滴下した。滴下終了後、内温を80℃に昇温し、表3中の成分(5)を添加し、10時間反応させ、ブタジエン系ゴム質重合体を含むラテックス(ゴムラテックス(H−1))を得た。
(ゴムラテックス(H−2)の製造)
表4中の成分(1)を容量70Lのオートクレーブ中に仕込み、昇温して43℃となった時点で、表4中の成分(2)からなるレドックス系開始剤をオートクレーブ内に添加し、重合を開始した後、さらに60℃まで昇温した。重合開始から8時間反応させて、ブタジエン系ゴム質重合体を含むラテックス(ゴムラテックス(H−2))を得た。
(酸基含有共重合体ラテックス(K−1)の製造)
表5中の成分(3)の欄に示す6種類の材料を反応容器内に仕込み、内温を60℃に昇温した後、表3中の成分(4)の欄に示す3種類の材料からなる混合物を、2時間にわたり連続滴下で投入して重合させた。さらに2時間撹拌を続け、酸基含有共重合体ラテックス(K−1)を得た。
(肥大化ゴムラテックス(H−2’)の製造)
製造したゴムラテックス(H−2)をポリマー固形分として100質量部フラスコに反応容器に仕込み、内温50℃にてポリマー固形分として2質量部の酸基含有共重合体ラテックス(K−1)を加えて30分間保持してゴムラテックス(H−2)中のゴム質重合体を肥大化させた。次いで、固形分として0.4部のアルケニルコハク酸ジカリウム(花王製、商品名ラテムルASK)を添加して安定化させ、(肥大化ゴムラテックス(H−2’)を得た。
(ゴム含有グラフト重合体(A−1)の製造)
反応容器に、ゴムラテックス(H−1)をポリマー固形分として77部仕込み、内温を70℃に昇温した後、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3部を脱イオン水10部に溶解させた水溶液を添加した。内温を70℃に保ちながら、以下の混合物を30分かけて滴下した後、30分間保持して1段目のグラフト重合を行った。
メチルメタクリレート 4.14部
n−ブチルアクリレート 0.46部
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.017部
次いで、以下の混合物を150分かけて滴下した後、60分間保持して2段目のグラフト重合を行い、ゴム含有グラフト重合体ラテックスを得た。
メチルメタクリレート 15.64部
n−ブチルアクリレート 0.92部
スチレン 1.84部
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.069部
得られたゴム含有グラフト重合体ラテックスに、フェノール系酸化防止剤Irg245を0.25部と、チオエーテル系酸化防止剤DLTDPを0.75質量部添加した。これを酢酸カルシウム5質量部が入った脱イオン水460質量部に添加して重合物を凝析し、脱イオン水で洗浄し、脱水、乾燥してゴム含有グラフト重合体(A−1)を得た。
(ゴム含有グラフト重合体(A−2)の製造)
2段目のグラフト重合で滴下した混合物を下記に変更した以外は、A−1と同様にして、ゴム含有グラフト重合体ラテックスを得た。
メチルメタクリレート 11.96部
n−ブチルアクリレート 0.92部
スチレン 5.52部
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.069部
続いて、A−1と同様に、酸化防止剤を添加した後に凝析、水洗、脱水、乾燥して、ゴム含有グラフト重合体(A−2)を得た。
(ゴム含有グラフト重合体(A−3)の製造)
2段目のグラフト重合で滴下した混合物を下記に変更した以外は、A−1と同様にして、ゴム含有グラフト重合体ラテックスを得た。
メチルメタクリレート 8.28部
n−ブチルアクリレート 0.92部
スチレン 9.2部
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.069部
続いて、A−1と同様に、酸化防止剤を添加した後に凝析、水洗、脱水、乾燥して、ゴム含有グラフト重合体(A−3)を得た。
(ゴム含有グラフト重合体(A−4)の製造)
反応容器に、ゴムラテックス(H−2’)をポリマー固形分として75部仕込み、内温を70℃に昇温した後、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3部を脱イオン水10部に溶解させた水溶液を添加した。内温を70℃に保ちながら、以下の混合物を30分かけて滴下した後、30分間保持して1段目のグラフト重合を行った。
メチルメタクリレート 4.5部
n−ブチルアクリレート 0.5部
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.019部
次いで、以下の混合物を150分かけて滴下した後、60分間保持して2段目のグラフト重合を行い、ゴム含有グラフト重合体ラテックスを得た。
メチルメタクリレート 17部
n−ブチルアクリレート 1部
スチレン 2部
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.075部
続いて、A−1と同様に、酸化防止剤を添加した後に凝析、水洗、脱水、乾燥して、ゴム含有グラフト重合体(A−4)を得た。
(ゴム含有グラフト重合体(A−5)の製造)
反応容器に、ゴムラテックス(H−1)をポリマー固形分として77部仕込み、内温を70℃に昇温した後、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3部を脱イオン水10部に溶解させた水溶液を添加した。内温を70℃に保ちながら、以下の混合物を90分かけて滴下した後、30分間保持して1段目のグラフト重合を行った。
メチルメタクリレート 16.33部
n−ブチルアクリレート 2.07部
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.069部
次いで、以下の混合物を30分かけて滴下した後、60分間保持して2段目のグラフト重合を行い、ゴム含有グラフト重合体ラテックスを得た。
メチルメタクリレート 4.14部
n−ブチルアクリレート 0.46部
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.017部
続いて、A−1と同様に、酸化防止剤を添加した後に凝析、水洗、脱水、乾燥して、ゴム含有グラフト重合体(A−5)を得た。
(ゴム含有グラフト重合体(A−6)の製造)
反応容器に、ゴムラテックス(H−2’)をポリマー固形分として75部仕込み、内温を70℃に昇温した後、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3部を脱イオン水10部に溶解させた水溶液を添加した。内温を70℃に保ちながら、以下の混合物を240分かけて滴下した後、60分間保持してグラフト重合を行った。
メチルメタクリレート 17.5部
n−ブチルアクリレート 1.25部
スチレン 6.25部
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.094部
続いて、A−1と同様に、酸化防止剤を添加した後に凝析、水洗、脱水、乾燥して、ゴム含有グラフト重合体(A−6)を得た。
(ゴム含有グラフト重合体(A−7)の製造)
反応容器に、ゴムラテックス(H−2’)をポリマー固形分として75部仕込み、内温を70℃に昇温した後、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3部を脱イオン水10部に溶解させた水溶液を添加した。内温を70℃に保ちながら、以下の混合物を30分かけて滴下した後、40分間保持して1段目のグラフト重合を行った。
メチルメタクリレート 9部
n−ブチルアクリレート 1部
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.038部
次いで、以下の混合物を30分かけて滴下した後、60分間保持して2段目のグラフト重合を行った。
スチレン 12.5部
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.047部
次いで、以下の混合物を10分かけて滴下した後、120分間保持して3段目のグラフト重合を行い、ゴム含有グラフト重合体ラテックスを得た。
メチルメタクリレート 2.5部
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.0094部
続いて、A−1と同様に、酸化防止剤を添加した後に凝析、水洗、脱水、乾燥して、ゴム含有グラフト重合体(A−7)を得た。
製造したゴム含有グラフト重合体を表6にまとめた。
前記試験片の作製方法に従って試験片1〜2を作製し、シャルピー衝撃強度と難燃性を前記評価方法に従って評価した。各配合と、その評価結果を表7に示す。
表7の結果より、本発明のゴム含有グラフト重合体を配合した熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性及び難燃性に優れた。比較例1のゴム含有グラフト重合体は、グラフト部分の最外層に芳香族ビニル単量体単位を含まないため、それを配合した比較例4の熱可塑性樹脂組成物は耐衝撃性に劣った。比較例2のゴム含有グラフト重合体は、グラフト部分が多層で構成されていないため、それを配合した比較例5の熱可塑性樹脂組成物は耐衝撃性に劣った。比較例3のゴム含有グラフト重合体は、グラフト部分の最外層に芳香族ビニル単量体単位を含まないため、それを配合した比較例6の熱可塑性樹脂組成物は耐衝撃性に劣った。
図1及び図2は、それぞれ実施例5及び比較例4の熱可塑性樹脂組成物を透過型電子顕微鏡で撮影した写真である。図中の連続相がポリカーボネート樹脂を示し、分散相がAS樹脂を示す。また、ABS及びゴム含有グラフト重合体を矢印でマークを付けている。比較例4に含まれるゴム含有グラフト重合体(A−5)は、AS樹脂中と界面に位置するものが多かった。一方で、実施例5に含まれるゴム含有グラフト重合体(A−2)は、ポリカーボネート樹脂、AS樹脂、界面に比較的均等に位置していた。本発明のゴム含有グラフト重合体は、樹脂組成物中で局在化しにくく、耐衝撃性に優れた。
本発明によれば、耐衝撃性、難燃性に優れる熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を提供することができる。
本発明の成形品は、雑貨、家庭用電気製品、OA機器、電気・電子機器、建材、自動車部品をはじめ、広い分野において有用である。

Claims (8)

  1. ゴム質重合体を含むコア部分と、グラフト部分とを有するコアシェル型のゴム含有グラフト重合体であって、該グラフト部分は多層で構成され、該グラフト部分の最外層に(メタ)アクリレート単位と芳香族ビニル単量体単位とを含むゴム含有グラフト重合体。
  2. 前記グラフト部分の最外層に、最外層の総質量に対し、1〜60質量%の芳香族ビニル単量体単位を含む請求項1に記載のゴム含有グラフト重合体。
  3. 前記グラフト部分の最外層に、最外層の総質量に対し、40〜99質量%の(メタ)アクリレート単位を含む請求項1又は2に記載のゴム含有グラフト重合体。
  4. 前記グラフト部分に含まれる芳香族ビニル単量体単位について、最外層に含まれる芳香族ビニル単量体単位の含有量よりも最外層以外に含まれる芳香族ビニル単量体単位の含有量が少ない請求項1〜3のいずれか1項に記載のゴム含有グラフト重合体。
  5. 前記ゴム質重合体がジエン系ゴムである請求項1〜4のいずれか1項に記載のゴム含有グラフト重合体。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載のゴム含有グラフト重合体、ポリカーボネート樹脂、及びスチレン系樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物。
  7. リン酸エステル化合物と、テトラフルオロエチレン系重合体とをさらに含む請求項6に記載の熱可塑性樹脂組成物。
  8. 請求項6又は7に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
JP2016083272A 2016-04-19 2016-04-19 ゴム含有グラフト重合体、熱可塑性樹脂組成物及び成形品 Pending JP2017193606A (ja)

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