JP2017180716A - 転がり軸受 - Google Patents

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Abstract

【課題】油潤滑の転がり軸受として回転トルクを低減しつつ、潤滑油を軸受内部に十分に保持でき、また、その潤滑油を潤滑部位に安定して供給できる転がり軸受を提供する。【解決手段】転がり軸受1は、軌道輪である内輪2および外輪3と、複数の転動体4と、この転動体4を保持する保持器5と、内輪および外輪の軸方向両端開口部に設けられたシール部材12a、12bとを備えてなり、保持器5は、環状の保持器本体上に、軸方向一方側に開口して転動体4を保持する複数のポケットを有し、シール部材のうち保持器5のポケット開口側のシール部材12aにのみ、その軸受内空間側表面に、繊維材または多孔質材からなり、潤滑油が予め保持または含浸されている油保持体6が固定されており、保持器5の内径面および外径面から選ばれる少なくとも一方の面において、軌道輪の非軌道部と対向する領域を除いた部分にも、同様の油保持体6が固定されている。【選択図】図1

Description

本発明は、転がり軸受に関し、特に潤滑油で潤滑される転がり軸受に関する。
転がり軸受は、一般的に内輪、外輪、転動体、および保持器で構成されている。外部からの異物の侵入を防ぐためや、内部に封入した潤滑剤の流出を防ぐために、開口端部にシール部材が設けられる場合がある。軸受内部の潤滑剤には、グリースが用いられることが多い。グリースは、取り扱いが容易で密封装置の設計も簡素化できる。グリースは再供給する必要がなく、メンテナンス性が優れている。しかし、軸受に密封したグリースの攪拌抵抗により、摩擦トルクの増加やそれに伴う熱が発生することが知られている。摩擦トルクなどを低減する技術として、特許文献1〜3のような技術が提案されている。
特許文献1には、潤滑剤や潤滑条件を変更することによる潤滑特性向上技術であり、耐剥離性、グリース漏れ性に優れ、かつ外輪回転軸受で使用しても早期焼付きを抑制できる軸受用グリース組成物として、所定のエステル油とジウレア化合物とを所定配合量で含むものが記載されている(特許文献1参照)。
特許文献2には、保持器の形状変更などにより、軸受の回転トルクの低減を図るものとして、鋼板プレスにより形成された2枚の環状保持板で構成され、多角形状のポケット部などが形成された保持器を備えた深溝玉軸受が記載されている(特許文献2参照)。また、特許文献3には、固形グリースを利用することによる潤滑特性向上技術として、超高分子量ポリエチレンと潤滑グリースとの混合物を加熱融解させた後、冷却して固形化した軸受用潤滑組成物が記載されている(特許文献3参照)。
特許第3330755号公報 特開2007−292195号公報 特公昭63−23209号公報
しかしながら、特許文献1は封入グリースの改良により、潤滑特性を改善するものであるが、グリースのような半固体状潤滑剤を使用した場合は、潤滑剤に起因する攪拌抵抗のためにトルクが大きくなる。近年における自動車や産業用機器などに用いる転がり軸受では、省エネルギー化を図るため、十分な潤滑寿命を確保しつつ、トルクを低減することは重要な課題である。
この課題に対して、特許文献2のような特殊形状の保持器を用いることでトルクの低減を図り得る。また、グリース種を最適化することや、グリース封入量自体を減らすことでもトルクの低減を図り得る。しかし、これらは製造コストの増加や軸受寿命の低下にも繋がる。
特許文献3は、熱固化型グリースを用いることで回転トルクの低減を図っている。しかし、高温条件では油分の流出が多くなり低寿命という欠点がある。また、フルパック仕様においては、冷却固化時に該組成物が収縮して転動体を抱きこんでしまい、トルクが増加するおそれがある。
また、グリースを使用せずに油潤滑とすることで、グリースによるトルク増加などの問題は解消できる。しかしながら、基油を増ちょう剤成分から徐放できるグリース潤滑と比較して油潤滑は潤滑寿命が短い。長寿命化を図るためには、潤滑油の再供給が必須となる。長寿命化を図るためには、通常、潤滑油の再供給が必須となる。このため、再供給を必要としないように軸受内に潤滑油を十分に保持できることが望まれる。また、潤滑性能を長期間にわたり維持するため、潤滑油を十分に保持しつつ、その潤滑油を潤滑を必要とされる部位に適切に供給できることも望まれる。
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、油潤滑の転がり軸受として回転トルクを低減しつつ、潤滑油を軸受内部に十分に保持でき、また、その潤滑油を潤滑部位に適切に供給できる転がり軸受を提供することを目的とする。
本発明の転がり軸受は、軌道輪である内輪および外輪と、この内・外輪間に介在する複数の転動体と、この転動体を保持する保持器と、上記内輪および外輪の軸方向両端開口部に設けられたシール部材とを備えてなる転がり軸受であって、上記保持器は、環状の保持器本体上に、軸方向一方側に開口して上記転動体を保持する複数のポケットを有し、上記シール部材のうち上記保持器のポケット開口側のシール部材にのみ、その軸受内空間側表面に、繊維材または多孔質材からなり、潤滑油が予め保持または含浸されている油保持体が固定されていることを特徴とする。
上記保持器の内径面および外径面から選ばれる少なくとも一方の面において、上記軌道輪の非軌道部と対向する領域を除いた部分に、繊維材または多孔質材からなり、潤滑油が予め保持または含浸されている油保持体が固定されていることを特徴とする。また、上記軌道輪の非軌道部と対向する領域は、上記内輪および上記外輪の肩部と対向する領域であり、該領域は上記保持器のポケット非開口側に位置することを特徴とする。
上記油保持体が、上記繊維材である合成樹脂の短繊維からなる植毛部であることを特徴とする。また、上記潤滑油が、添加剤を含んだ状態で上記油保持体に保持または含浸されていることを特徴とする。
本発明の転がり軸受は、軌道輪である内輪および外輪と、この内・外輪間に介在する複数の転動体と、この転動体を保持する保持器と、内輪および外輪の軸方向両端開口部に設けられたシール部材とを備えてなり、上記保持器は、環状の保持器本体上に、軸方向一方側に開口して上記転動体を保持する複数のポケットを有し、上記シール部材のうち保持器のポケット開口側のシール部材にのみ、その軸受内空間側表面に、繊維材または多孔質材からなり、潤滑油が予め保持または含浸されている油保持体が固定されているので、潤滑油を軸受内部(シール部材表面の油保持体)に十分に保持できる。
該構成の保持器は、ポケット非開口側のシール部材との隙間が小さくなり、このシール部材表面に油保持体を設けている場合は、保持器側からシール部材の油保持体側に潤滑に寄与する潤滑油が一部移動してしまうおそれがある。本発明では、ポケット非開口側のシール部材には油保持体を設けないので、潤滑油の移動のおそれがない。これらの結果、本発明の転がり軸受は、潤滑油の再供給なしで長時間連続運転できる。また、グリースを軸受内空間に封入しないので、低トルクとなる。
保持器の内径面および外径面から選ばれる少なくとも一方の面において、軌道輪の非軌道部(内輪および外輪の肩部)と対向する領域を除いた部分に、繊維材または多孔質材からなり、潤滑油が予め保持または含浸されている油保持体が固定されているので、より多くの潤滑油を軸受内部に保持できる。また、内外輪の肩部などの非軌道部と対向する領域には、油保持体を設けないので、保持器の油保持体がこれらと接触し、油保持体に含まれる潤滑油が肩部などを伝わり軸受外部に漏れだすことを防止できる。
植毛部の繊維が合成樹脂の短繊維であるので、油による膨潤や溶解などが生じにくく化学的に安定である。
本発明の一実施例に係る転がり軸受の一部断面図である。 保持器の一形態を示す一部斜視図である。 高温高速寿命試験の結果を示す図である。 トルクの経時変化を示す図である。
本発明の転がり軸受の一例を図1に基づき説明する。図1は、本発明の転がり軸受として植毛部を有する冠形樹脂保持器とシール部材とを組み込んだ深溝玉軸受の一部断面図である。図1に示すように、転がり軸受1は、外周面に転走面2aを有する内輪2と、内周面に転走面3aを有する外輪3とが同心に配置される。内輪の転走面2aと外輪の転走面3aとの間に複数個の転動体4が介在して配置される。この複数個の転動体4が、冠形の保持器5により保持される。また、転がり軸受1は、内・外輪の軸方向両端開口部に設けられた環状のシール部材12a、12bを備えている。冠形の保持器5のポケット開口側がシール部材12aであり、ポケット非開口側がシール部材12bである。内輪2と外輪3と保持器5とシール部材12a、12bとで軸受内空間(軸受内部)が構成され、該空間内に保持された潤滑油により潤滑がなされる。本発明の転がり軸受では、保持器5の内外径面の一部とシール部材12aの軸受内空間側表面に、繊維材からなる植毛部などの油保持体6が接着固定されている。
図1に示すように、冠形の保持器5では、ポケット開口側のシール部材12aとポケット非開口側のシール部材12bとの距離が異なり、ポケット非開口側のシール部材12bとの距離の方が近く、その隙間が小さい。軸受内部に保持される潤滑油量を増加させるためには、両シール部材に一律に植毛部などの油保持体を設けることが好ましいと考えられる。しかし、上記のとおり、ポケット非開口側のシール部材と保持器との隙間が小さいことから、このシール部材にも油保持体を設けると、該シール部材の油保持体と保持器とが干渉・接触し、潤滑油移動のおそれがある。本発明では、ポケット非開口側のシール部材については、あえて油保持体を設けない構成とし、上記問題に対処している。なお、図1に示す形態では、油保持体6は、シール部材12aの径方向全範囲に設けられているが、径方向一部に設ける形態としてもよい。また、周方向についても同様に、周方向全範囲または一部範囲に設ける態様とできる。
図2に基づいて保持器5の詳細を説明する。図2(a)はこの保持器の一部斜視図であり、図2(b)はこの保持器の展開図である。図2(a)に示すように、冠形の保持器5は、環状の保持器本体7上に、軸方向一方側に開口して転動体を保持する複数のポケット9と、隣接するポケット間でポケット9の開口側に形成される溝部11とを備える。より詳細には、環状の保持器本体7上に周方向に一定ピッチをおいて対向一対の保持爪8を形成し、その対向する各保持爪8を相互に接近する方向にわん曲させるとともに、その保持爪8間に転動体である玉を保持するポケット9を形成したものである。隣接するポケット9の縁に形成された相互に隣接する保持爪8の背面相互間に、保持爪8の立ち上がり基準面となる平坦部10が形成され、これら保持爪8と平坦部10とで溝部11が構成される。
図1の形態において、保持器5は転動体案内形式であり、その内外径面は軌道輪(内輪2と外輪3)と接触しない面である。図1および図2に示すように、保持器5は、内輪2の軌道面2aまたは外輪3の軌道面3aに近接する領域5aと、内輪2の肩部2bまたは外輪3の肩部3bなどの非軌道部(非軌道面)に近接する領域5bとを有する。保持器5の内径面において、内輪の軌道面に近接する領域5aに油保持体6が形成され、軌道輪の非軌道部である内輪2の肩部2bに対向する領域5bには油保持体が形成されていない。また、保持器5の外径面においても同様に、外輪3の軌道面に近接する領域に油保持体6が形成され、外輪3の肩部3bに対向する領域には油保持体が形成されていない。
図2に示すように、内外輪肩部に対向する領域5bは、保持器本体7のポケット9の非開口側に位置し、軸方向に一定範囲を占めて円周方向に連続した領域であり、ポケット9に一部かかる範囲の領域である。領域5bに油保持体を形成すると、この油保持体と内輪肩部とが摺動する場合がある。この領域5bに油保持体を設けないことで、接触によるトルクの増加や、潤滑油が肩部などを伝わり軸受外部に漏れだすことを防止できる。
保持器のポケット非開口側のシール部材の軸受内空間側表面と、保持器の内外径面の一部に油保持体6を設けることで、潤滑油を軸受内部(上記油保持体)に十分に保持できる。例えば、油保持体が植毛部である場合、運転前に潤滑油を繊維に保持させると、繊維の表面張力や繊維間の毛細管現象により運転中でも油を繊維に保持することができる。シール部材の油保持体に保持された潤滑油は、外輪との接触部から表面張力により外輪肩部などを伝わり軌道面(潤滑面)に供給される。また、保持器は転動体と接触しているため、保持器の油保持体から潤滑油を潤滑面に常に供給することができる。これらの結果、長寿命化が図れる。
油保持体は、繊維材または多孔質材からなり、潤滑油が放出可能な状態で予め保持または含浸されている。繊維材の場合は、潤滑油が繊維間に保持され、多孔質材の場合は、潤滑油が連通孔内に含浸される。表面に非連通の独立気泡中等に取り込まれた潤滑油は放出可能といえないが、その場合でも表面連通孔に含まれる分の潤滑油は放出可能である。よって、潤滑油が完全に取り込まれる、または、完全に固形化している等の場合を除き、繊維材の繊維間に保持する場合や多孔質材の連通孔内に含浸する場合は、潤滑油が放出可能な状態で保持または含浸されているといえる。
油保持体に潤滑油を保持し、これをシール部材と保持器に固定(接着など)することで軸受内部に潤滑油を留めておくことができる。油保持体より潤滑油が徐放され、また、過剰な潤滑油は再度、油保持体に保持される。これにより、潤滑油が無駄なく効率的に利用され、外部からの潤滑油の再供給なしでも連続運転が可能となる。本発明の転がり軸受は、この油保持体に含まれるもの以外には初期にグリースや潤滑油が封入されておらず、また、この油保持体以外からは軸受内空間にグリースや潤滑油が供給されない形態とできる。
油保持体は、繊維材または多孔質材からなる。これらを用いることで表面積が増加して油保持性が向上する。繊維材としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ナイロンなどのポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンテフタレートなどのポリエステル樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル、ビニロンなどの合成樹脂繊維、カーボン繊維、グラスファイバーなどの無機繊維、レーヨン、アセテートなどの再生繊維や、綿、絹、麻、羊毛などの天然繊維が挙げられる。また、多孔質材としては、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリオレフィン、フェノール、ポリ塩化ビニルなどの合成樹脂や、天然ゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、ニトリルゴム、シリコンゴム、スチレンブタジエンゴムなどのゴムを発泡して得られるフォームが挙げられる。
繊維材からなる油保持体である植毛部は、これら繊維を植毛して形成される。固定は接着剤によりなされる。植毛方法としては、吹き付けや静電植毛を採用できる。エッジ部などにおいても、多量の繊維を短時間で密に植毛できることから、静電植毛を採用することが好ましい。静電植毛方法としては、公知の方法を採用でき、例えば、静電植毛する範囲に接着剤を塗布し、繊維を帯電させて静電気力により上記接着剤塗布面に略垂直に植毛した後、乾燥工程・仕上げ工程などを行なう方法が挙げられる。また、静電吹き付け(ファイバーコート)も採用できる。また、多孔質材からなる油保持体は、予め所定形状に形成・加工したものを接着剤などにより接着固定して設けられる。
油保持体の接着固定に用いる接着剤としては、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂などを主成分とする接着剤が挙げられる。例えば、ウレタン樹脂溶剤系接着剤、エポキシ樹脂溶剤系接着剤、酢酸ビニル樹脂溶剤系接着剤、アクリル樹脂系エマルジョン接着剤、アクリル酸エステル−酢酸ビニル共重合体系エマルジョン接着剤、酢酸ビニル系エマルジョン接着剤、ウレタン樹脂系エマルジョン接着剤、エポキシ樹脂系エマルジョン接着剤、ポリエステル系エマルジョン接着剤、エチレン−酢酸ビニル共重合体系接着剤などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
上記の繊維材の中でも、油による膨潤や溶解などが生じにくく化学的に安定であり、均質な繊維を多量に生産することができ、安価に入手することができるため、合成樹脂の短繊維を用いることが好ましい。また、保持器として樹脂製保持器を用い、この表面に油保持体を形成する場合では、合成樹脂の中でも樹脂製保持器の材料として広く使用されているポリアミド樹脂を使用することで、軸受の使用条件を落とすことなく該軸受を使用することが可能である。
繊維(短繊維)の形状としては、油保持体の形成箇所において、軸受機能に悪影響を与えるような他部材との干渉がない形状であれば特に限定されない。具体的な形状としては、例えば、長さ0.5〜2.0mm、太さ0.5〜50デシテックスのものが好ましく、保持体である植毛部の繊維の密度としては、植毛した面積あたりに繊維の占める割合が1〜40%が好ましい。また、短繊維の形状としては、ストレートとベンド(繊維の先端が曲がっている)タイプのものがあり、また、断面形状は円状と多角断面状のものがある。ベンドタイプの繊維はストレートに比べ、潤滑油を保持する能力が高い。また、多角断面形状の繊維は、円状断面に比べ、表面積が大きいことから潤滑油を保持する能力が高い。
本発明の転がり軸受は、油保持体に保持された潤滑油により潤滑される。ここで、油保持体に潤滑油を保持・含浸させる際に、グリース化した潤滑油を保持・含浸させてもよい。この場合は、グリースが油保持体から脱離しないように保持・含浸させる。潤滑油としては、通常、転がり軸受に用いられるものであれば特に制限なく用いることができる。例えば、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油などの鉱油、ポリブテン油、ポリ−α−オレフィン油、アルキルベンゼン油、アルキルナフタレン油などの炭化水素系合成油、または、天然油脂やポリオールエステル油、りん酸エステル油、ジエステル油、ポリグリコール油、シリコーン油、ポリフェニルエーテル油、アルキルジフェニルエーテル油、フッ素化油などの非炭化水素系合成油などが挙げられる。これらの潤滑油は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。また、上述のようにグリース化する際の増ちょう剤は、通常、転がり軸受の潤滑剤に使用される増ちょう剤(金属石けん、ウレア化合物など)であれば特に制限なく用いることができる。
また、潤滑油には、必要に応じて公知の添加剤を添加できる。この場合、添加剤を含んだ状態の潤滑油を油保持体に保持・含浸させる。添加剤としては、例えば、有機亜鉛化合物、有機モリブデン化合物などの極圧剤、アミン系、フェノール系、イオウ系化合物などの酸化防止剤、イオウ系、リン系化合物などの摩耗抑制剤、多価アルコールエステルなどの防錆剤、ポリメタクリレート、ポリスチレンなどの粘度指数向上剤、二硫化モリブデン、グラファイトなどの固体潤滑剤、エステル、アルコールなどの油性剤などが挙げられる。特に、酸化防止剤を添加しておくことで、潤滑油の劣化を抑制し、長寿命化が図れる。
以上、各図などに基づき本発明の実施形態を説明したが、本発明の転がり軸受はこれらに限定されるものではなく、シール部材を有する種々の軸受形式に適用できる。また、保持器の材質については、金属材料や樹脂材料など、任意の材料を採用できる。保持器材質、短繊維材質などに合わせて上記接着剤種などを決定する。図2の冠形保持器は樹脂製である。例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ナイロン66樹脂、ナイロン46樹脂などのポリアミド樹脂を樹脂母材とし、炭素繊維、ガラス繊維などの強化繊維と、他の添加剤を配合した樹脂組成物を用いて、射出成形により製造される。
実施例1
6204転がり軸受(深溝玉軸受)に使用可能な図1、図2の形状の樹脂製冠形保持器を射出成形により製造した。樹脂材質は、ポリアミド66樹脂(ガラス繊維25体積%配合)である。実施例1は、この保持器の図1、図2に示す位置に接着剤を塗布し、静電吹き付け植毛により、ポリアミド66樹脂の短繊維(繊維長0.8mm、太さ3.3デシテックス)からなる植毛部を形成した。この植毛部の繊維に油(エステル油)を保持させた。この保持器を6204転がり軸受(深溝玉軸受)に組み込み、シールド板で封止して試験軸受(図1参照)とした。得られた試験軸受を下記の高温高速寿命試験とトルク測定試験に供した。なお、試験軸受は、試験毎に用意した。
比較例1および比較例2
潤滑条件と植毛部を形成しないこと以外は同構成の試験軸受を用意した。比較例1は、試験前に軸受内空間に油(実施例1と同種)を封入し、比較例2は、試験前に軸受内空間にグリース(実施例1と同じ油を基油とし、リチウム石けんを増ちょう剤とするもの)を封入して試験軸受とした。得られた試験軸受を実施例1と同じ下記の高温高速寿命試験とトルク測定試験に供した。
<高温高速寿命試験>
軸受外輪外径部温度150℃、ラジアル荷重67N、アキシャル荷重67Nの下で10000min−1の回転速度で運転し、焼き付きに至るまでの時間(h)を測定した。油は、上記のとおり軸受運転前に保持または封入後、再供給はなしとした。
<トルク測定試験>
試験軸受を固定し、回転数3600rpm、室温(25℃)雰囲気、外輪にアキシャル荷重20Nを負荷してロードセルで拘束し、内輪回転として、軸受で発生するトルク(N・mm)を算出した。なお、試験は、実施例1と比較例2で同等な寿命結果が得られた封入量で行なった。実施例1は、上記油を0.52g保持させた軸受、比較例2は上記グリースを1.61g封入した軸受である。
図3に高温高速寿命試験の結果を示す。なお、図3において、横軸は油の封入量(g)を縦軸は寿命時間(時間(h))をそれぞれ示す。図3に示すように、油0.5g封入時の寿命時間は、実施例1は700h程度の寿命結果であった。実施例1では繊維が油を軸受内部に保持し、比較例1と比べ6倍以上の寿命結果が得られた。また、実施例1で封入量を増やすと長寿命化する理由は、油を軸受外部に漏らすことなく植毛部で保持していたためと考えられる。実施例1の0.5g封入時と比較例2の1.6g封入時の寿命時間が同等である。この結果より、実施例1は、低封入量で長寿命化が図れることが分かる。実施例1と比較例2の差は主に以下の2点である。すなわち、(1)比較例2は、潤滑剤であるグリースが運転中に軌道面から離れたシール部材に付着すると、その部分でグリースが存在し続けその後潤滑に寄与しない。(2)実施例1は、シール部材で保持された油が外輪との接触部から表面張力により軌道面まで浸み出し、すべての油が潤滑に寄与し続ける。
トルク試験結果を図4に示す。図4に示すように、実施例1は、比較例2と比較し、すべての速度域でトルクが小さい。これは、油潤滑の場合にはグリース攪拌抵抗が存在しないためである。
本発明の転がり軸受は、油潤滑の転がり軸受として回転トルクを低減しつつ、潤滑油を軸受内部に十分に保持でき、また、その潤滑油を潤滑部位に適切に供給できるので、種々の用途における転がり軸受として広く利用できる。
1 転がり軸受
2 内輪
3 外輪
4 転動体
5 保持器
6 油保持体
7 保持器本体
8 保持爪
9 ポケット
10 平坦部
11 溝部
12a、12b シール部材

Claims (5)

  1. 軌道輪である内輪および外輪と、この内・外輪間に介在する複数の転動体と、この転動体を保持する保持器と、前記内輪および外輪の軸方向両端開口部に設けられたシール部材とを備えてなる転がり軸受であって、
    前記保持器は、環状の保持器本体上に、軸方向一方側に開口して前記転動体を保持する複数のポケットを有し、
    前記シール部材のうち前記保持器のポケット開口側のシール部材にのみ、その軸受内空間側表面に、繊維材または多孔質材からなり、潤滑油が予め保持または含浸されている油保持体が固定されていることを特徴とする転がり軸受。
  2. 前記保持器の内径面および外径面から選ばれる少なくとも一方の面において、前記軌道輪の非軌道部と対向する領域を除いた部分に、繊維材または多孔質材からなり、潤滑油が予め保持または含浸されている油保持体が固定されていることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受。
  3. 前記軌道輪の非軌道部と対向する領域は、前記内輪および前記外輪の肩部と対向する領域であり、該領域は前記保持器のポケット非開口側に位置することを特徴とする請求項2記載の転がり軸受。
  4. 前記油保持体が、前記繊維材である合成樹脂の短繊維からなる植毛部であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の転がり軸受。
  5. 前記潤滑油が、添加剤を含んだ状態で前記油保持体に保持または含浸されていることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項記載の転がり軸受。
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