JP2017057979A - 転がり軸受 - Google Patents
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Abstract
【課題】簡易な手段により、トルクへの悪影響を与えずに、低トルク化を含む潤滑特性の向上を図り得る転がり軸受を提供する。【解決手段】転がり軸受1は、軌道輪である内輪2および外輪3と、内・外輪間に介在する複数の転動体4と、転動体4を保持する保持器5と、軸受内空間に封入されるグリース13とを備えてなり、保持器5は、その内径面および外径面から選ばれる少なくとも一方の面において、内外輪の肩部2b、3bと対向する領域5bを除いた領域5a等に繊維材または多孔質材からなるグリース保持体が形成されており、領域5bにはグリース保持体が形成されていない。【選択図】図1
Description
本発明は、グリースで潤滑される転がり軸受に関する。
転がり軸受は、一般的に内輪、外輪、転動体、および保持器で構成されている。また、外部からの異物の侵入を防ぐためや、内部に封入した潤滑剤の流出を防ぐために、開口端部にシール部材が設けられる場合がある。軸受内部の潤滑は、グリースなどの潤滑剤により行われており、軸受の潤滑特性向上のために種々の工夫がなされている。
例えば、保持器に潤滑被膜を形成することによる潤滑特性向上技術として、特許文献1が提案されている。特許文献1には、高速・高荷重下でのスミアリング、焼付き、摩耗、ピーリングを防止するために、外方部材、内方部材、転動体などの表面に固体潤滑剤による所定の潤滑被膜がショットピーニング処理により形成された転動装置が記載されている(特許文献1参照)。また、潤滑剤や潤滑条件などを変更することによる潤滑特性向上技術として、特許文献2が提案されている。特許文献2には、耐剥離性、グリース漏れ性に優れ、かつ外輪回転軸受で使用しても早期焼付きを抑制できる軸受用グリース組成物として、所定のエステル油とジウレア化合物とを所定配合量で含むものが記載されている(特許文献2参照)。
その他、保持器の形状変更による潤滑特性向上技術として、特許文献3が提案されている。特許文献3には、軸受の回転トルク(以下、単に「トルク」ともいう)の低減を図るものとして、鋼板プレスにより形成された2枚の環状保持板で構成され、多角形状のポケットなどが形成された保持器を備えた深溝玉軸受が記載されている(特許文献3参照)。
しかしながら、特許文献1の転動装置では、該装置を構成する部材における転動接触表面(軌道輪の軌道面や転動体自体の転動面)に潤滑被膜を形成するため、高い精度で該被膜の形成を行なう必要があり、製造コストも高くなる。また、特許文献2は封入グリースの改良により、潤滑特性を改善するものであるが、グリースのような半固体状潤滑剤を使用した場合は、このグリースに起因する攪拌抵抗のためにトルクが大きくなる。近年における自動車や産業用機器などに用いる転がり軸受では、省エネルギー化を図るため、十分な潤滑寿命を確保しつつ、トルクを低減することは重要な課題である。
この課題に対して、特許文献3のような特殊形状の保持器を用いることでトルクの低減を図り得る。また、グリース種を最適化することや、グリース封入量自体を減らすことでもトルクの低減を図り得る。しかし、これらは製造コストの増加や軸受寿命の低下にも繋がるため、軸受形状、グリース種、グリース封入量などを既存品から大きく変更せずに、潤滑特性向上(特にトルクの低減)を図る技術の開発が望まれている。
また、運転中において転動体表面に過多のグリースが付着する場合や、グリース保持構造の改良に起因する部材間の接触などによっても、トルクが大きくなるおそれがある。
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、簡易な手段により、トルクへの悪影響を与えずに、低トルク化を含む潤滑特性の向上を図り得る転がり軸受を提供することを目的とする。
本発明の転がり軸受は、軌道輪である内輪および外輪と、この内・外輪間に介在する複数の転動体と、この転動体を保持する保持器と、軸受内空間に封入されるグリースとを備えてなる転がり軸受であって、上記保持器の内径面および外径面から選ばれる少なくとも一方の面において、上記軌道輪の非軌道部と対向する領域の少なくとも一部を除いた領域Aに、繊維材または多孔質材からなるグリース保持体が形成されており、それ以外の領域Bに、繊維材または多孔質材からなるグリース保持体が形成されていない、または、領域Aのグリース保持体を形成する場合よりも上記軌道輪の非軌道部との摺動抵抗が低減される繊維材または多孔質材からなるグリース保持体が形成されていることを特徴とする。
上記領域Aは、上記軌道輪の非軌道部である内外輪肩部と対向する領域の少なくとも一部を除いた領域であり、上記領域Bに、繊維材または多孔質材からなるグリース保持体が形成されていないことを特徴とする。特に、上記領域Aは、軌道輪の非軌道部である内外輪肩部と対向する領域全体を除いた領域であることを特徴とする。
上記保持器は、環状の保持器本体上に、軸方向一方側に開口して上記転動体を保持する複数のポケットを有する冠形保持器であり、上記領域Bは、上記保持器本体の上記ポケットの非開口側に位置することを特徴とする。
上記グリース保持体は、上記繊維材である合成樹脂の短繊維を植毛してなることを特徴とする。
本発明の転がり軸受は、保持器の内径面および外径面から選ばれる少なくとも一方の面において、軌道輪の非軌道部と対向する領域の少なくとも一部を除いた領域Aに、繊維材または多孔質材からなるグリース保持体が形成されているので、グリース保持体にグリースや潤滑油が保持され、軸受形状や潤滑剤として既存のものを用いながら潤滑特性の向上が図れる。具体的には、グリースの撹拌およびせん断を抑制できる。また、転動体上に過多なグリースが供給されることも防止できる。これらの結果、本発明の転がり軸受は、低トルクかつ長寿命となる。
さらに、領域A以外の領域、すなわち、軌道輪の非軌道部と対向する領域の少なくとも一部である領域Bに、繊維材または多孔質材からなるグリース保持体が形成されていない、または、領域Aのグリース保持体を形成する場合よりも軌道輪の非軌道部との摺動抵抗が低減される繊維材または多孔質材からなるグリース保持体が形成されているので、保持器のグリース保持体と、軌道輪の非軌道部とが接触することを防止でき、または、接触する場合でも摺動抵抗を低減でき、定常トルクの低減が図れる。
上記領域Aは、軌道輪の非軌道部である内外輪肩部と対向する領域の少なくとも一部(領域B)を除いた領域であり、領域Bに、繊維材または多孔質材からなるグリース保持体が形成されていないので、保持器のグリース保持体と、軌道輪の内外輪肩部との接触を防止でき、定常トルクの低減が図れる。特に、上記領域Aは、内外輪肩部と対向する領域全体(領域B)を除いた領域であり、領域Bに繊維材または多孔質材からなるグリース保持体が形成されていないので、保持器のグリース保持体と、軌道輪の内外輪肩部との接触を完全に防止でき、定常トルクの更なる低減が図れる。
上記グリース保持体は、上記繊維材である合成樹脂の短繊維を植毛してなるので、表面積を増加させやすく、グリースの保持性に優れる。また、グリース中の基油による膨潤や溶解などが生じにくく化学的に安定である。
本発明の転がり軸受の一例を図1に基づき説明する。図1は、転がり軸受として所定の冠形樹脂保持器を組み込んだ深溝玉軸受の一部断面図である。図1に示すように、転がり軸受1は、外周面に軌道面2aを有する内輪2と、内周面に軌道面3aを有する外輪3とが同心に配置される。内輪の軌道面2aと外輪の軌道面3aとの間に複数個の転動体4が介在して配置される。この複数個の転動体4が、冠形の保持器5により保持される。保持器5は、転動体案内形式である。保持器5は、内輪2の軌道面2aまたは外輪3の軌道面3aに近接する領域5aと、内輪2の肩部2bまたは外輪3の肩部3bなどの非軌道部(非軌道面)に近接する領域5bとを有する。また、転がり軸受1は、内・外輪の軸方向両端開口部に設けられた環状のシール部材12を備え、内輪2と外輪3と保持器5とシール部材12とで構成される軸受内空間に封入されたグリース13によって潤滑される。
図2に基づいて保持器5の詳細を説明する。図2(a)はこの保持器の一部斜視図であり、図2(b)はこの保持器の展開図である。図2(a)に示すように、冠形の保持器5は、環状の保持器本体7上に、軸方向一方側に開口して転動体を保持するポケット9と、隣接するポケット間でポケット9の開口側に形成される溝部11とを備える。より詳細には、環状の保持器本体7上に周方向に一定ピッチをおいて対向一対の保持爪8を形成し、その対向する各保持爪8を相互に接近する方向にわん曲させるとともに、その保持爪8間に転動体である玉を保持するポケット9を形成したものである。隣接するポケット9の縁に形成された相互に隣接する保持爪8の背面相互間に、保持爪8の立ち上がり基準面となる平坦部10が形成され、これら保持爪8と平坦部10とで溝部11が構成される。すなわち、保持爪8の背面(ポケット反対側面)が溝部11の内側面を、平坦部10の表面が溝部11の底面を、それぞれ構成する。
図2(a)および図2(b)に示すように、保持器5の内径面において、領域5a全体に、網掛け部分で示すグリース保持体6が形成されている。図示されていないが、外径面も同範囲にグリース保持体6が形成されている。内外径面の表面に、グリース保持体6を形成した構造とすることで、該溝部内にグリースが保持され、グリースの撹拌およびせん断や、転動体上に過多なグリースが供給されることを防止でき、定常トルクを低減できる。また、保持器5の内外径面において、領域5bにはグリース保持体6が形成されていない。領域5bにグリース保持体6を形成すると、グリース保持体6と内外輪肩部とが摺動する場合があり、摩擦トルクが増加する。そのため、この形態では、グリース保持体6は、領域5bに形成することなく、領域5aにのみ形成している。
図1において、保持器5の内外径面において、内輪2の肩部2bまたは外輪3の肩部3bなどの非軌道部に近接する領域5bは、これら非軌道部に対向する領域である。また、保持器5の内外径面において、この領域5bを除いた領域が、内輪2の軌道面2aまたは外輪3の軌道面3aに近接する領域5aである。図2に示すように、本発明においては、保持器5の内外径面において、グリース保持体6を形成する領域を領域Aとし、グリース保持体を形成しない等の領域を領域Bとする。図2に示す形態では、軌道輪の非軌道部に対向する領域5b全体を除いた領域(領域5a)が、領域Aとなる。また、領域Bは、保持器本体7のポケット9の非開口側に位置し、軸方向に一定範囲を占めて円周方向に連続した領域であり、ポケット9に一部かかる範囲の領域である。
グリース保持体6は、繊維材または多孔質材からなる。これらを用いることで表面積が増加してグリース保持性が向上する。繊維材としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ナイロンなどのポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンテフタレートなどのポリエステル樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル、ビニロンなどの合成樹脂繊維、カーボン繊維、グラスファイバーなどの無機繊維、レーヨン、アセテートなどの再生繊維や、綿、絹、麻、羊毛などの天然繊維が挙げられる。また、多孔質材としては、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリオレフィン、フェノール、ポリ塩化ビニルなどの合成樹脂や、天然ゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、ニトリルゴム、シリコンゴム、スチレンブタジエンゴムなどのゴムを発泡して得られるフォームが挙げられる。
繊維材からなるグリース保持体は、これら繊維を植毛して形成される。固定は接着剤によりなされる。植毛方法としては、吹き付けや静電植毛を採用できる。エッジ部などにおいても、多量の繊維を短時間で密に植毛できることから、静電植毛を採用することが好ましい。静電植毛方法としては、公知の方法を採用でき、例えば、静電植毛する範囲に接着剤を塗布し、繊維を帯電させて静電気力により上記接着剤塗布面に略垂直に植毛した後、乾燥工程・仕上げ工程などを行なう方法が挙げられる。また、静電吹き付け(ファイバーコート)も採用できる。また、多孔質材からなるグリース保持体は、予め所定形状に形成・加工したものを接着剤などにより接着固定して設けられる。
グリース保持体の接着に用いる接着剤としては、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂などを主成分とする接着剤が挙げられる。例えば、ウレタン樹脂溶剤系接着剤、エポキシ樹脂溶剤系接着剤、酢酸ビニル樹脂溶剤系接着剤、アクリル樹脂系エマルジョン接着剤、アクリル酸エステル−酢酸ビニル共重合体系エマルジョン接着剤、酢酸ビニル系エマルジョン接着剤、ウレタン樹脂系エマルジョン接着剤、エポキシ樹脂系エマルジョン接着剤、ポリエステル系エマルジョン接着剤、エチレン−酢酸ビニル共重合体系接着剤などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
上記の繊維材の中でも、グリース中の基油による膨潤や溶解などが生じにくく化学的に安定であり、均質な繊維を多量に生産することができ、安価に入手することができるため、合成樹脂の短繊維を用いることが好ましい。さらに、合成樹脂の中でも樹脂製の冠形保持器の材料として広く使用されているポリアミド樹脂を使用することで、軸受の使用条件を落とすことなく該軸受を使用することが可能である。
繊維(短繊維)の形状としては、グリース保持体の形成箇所において、軸受機能に悪影響を与えるような他部材との干渉がない形状であれば特に限定されない。具体的な形状としては、例えば、長さ0.5〜2.0mm、太さ0.5〜50デシテックスのものが好ましく、保持体である植毛部の繊維の密度としては、植毛した面積あたりに繊維の占める割合が1〜40%が好ましい。特に長さについては、0.6〜1.5mmが好ましく、0.6〜1.0mmが特に好ましい。
また、保持器の材質については、金属材料や樹脂材料など、任意の材料を採用できる。図1〜図4に示す冠形保持器などは樹脂製である。例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ナイロン66樹脂、ナイロン46樹脂などのポリアミド樹脂を樹脂母材とし、炭素繊維、ガラス繊維などの強化繊維と、他の添加剤を配合した樹脂組成物を用いて、射出成形により製造される。
本発明におけるグリース保持体は、保持器の内径面および外径面から選ばれる少なくとも一方の面において、軌道輪の非軌道部と対向する領域の少なくとも一部を除いた領域Aに形成されていればよい。領域A以外の領域、すなわち、軌道輪の非軌道部と対向する領域の少なくとも一部である領域Bには、グリース保持体を形成しないことが好ましい。領域Bに、グリース保持体を形成してもよいが、その場合は、軌道輪の非軌道部との接触による摺動抵抗の増加を避けるため、領域Aに形成するグリース保持体とは異なるもの、例えば、領域Aのグリース保持体を形成する場合よりも軌道輪の非軌道部との摺動抵抗が低減されるグリース保持体とする。
摺動抵抗を低減させる構成として、繊維材でグリース保持体を構成する場合は、繊維長を短くしてほぼ接触させないことや、接触する場合では繊維の密度を下げる、繊維を細くする、繊維長を短くする、柔らかい繊維の材質を使う、などの手段が採用できる。この手段により、軌道輪の非軌道部である内外輪肩部との接触が軽接触に抑えられ、摺動抵抗を低減できる。また、多孔質材で構成する場合も同様に、ほぼ接触しない形状とすることや、接触する場合では柔らかい多孔質材を使う、などの手段が採用できる。
また、その他の部分(例えば、図2の溝部11など)に、グリース保持体を形成してもよい。ただし、転動体と直接に接触するポケット表面にはグリース保持体を固定しないことが好ましい。これは、ポケットの形状が崩れ、転動体の拘束や、固定に用いる接着剤と転動体との接触により転動体にキズが発生し得るためである。
図3および図4に基づき、保持器の他の形態としてグリース保持体の形成箇所が異なるものを説明する。図3および図4は、図2と同様に、グリース保持体が形成された冠形樹脂保持器の一部斜視図と展開図である。図3に示す形態の保持器5は、保持器5の内外径面において、軌道輪の非軌道部に対向する領域の一部である領域Bにグリース保持体6が形成されていない。領域B以外の部分である領域Aには、グリース保持体6が形成されている。この形態では、領域Bは、保持器本体7のポケット9の非開口側に位置し、軸方向に一定範囲を占めて円周方向に連続した領域であり、ポケット9にかからない範囲の領域である。
図4に示す形態の保持器5は、保持器5の内外径面において、軌道輪の非軌道部に対向する領域の一部である領域Bにグリース保持体6が形成されていない。領域B以外の部分である領域Aには、グリース保持体6が形成されている。この形態では、領域Bは、保持器本体7のポケット9の非開口側に位置し、円周方向で所定間隔で離間した複数の矩形状の領域である。
また、図2〜図4に示す例は冠形保持器であるが、本発明の転がり軸受では、波形保持器、玉用保持器、ころ用保持器などの保持器にグリース保持体を形成する形態としてもよい。図5に基づいてこれらの態様に用いる保持器を説明する。図5(a)では、波形保持器5’の内外径面のうち、ポケット9を構成する部分の軸方向両端部における円周方向に沿った領域(領域B)には、グリース保持体6が形成されておらず、それ以外の領域(領域A)には、グリース保持体6が形成されている。
図5(b)では、玉用(もみ抜き)保持器5''の内外径面のうち、円環の軸方向両端部における円周方向に沿った領域(領域B)には、グリース保持体6が形成されておらず、それ以外の領域(領域A)には、グリース保持体6が形成されている。領域Bは、ポケット9に一部かかる範囲の領域である。
図5(c)では、ころ用(もみ抜き)保持器5'''の内外径面のうち、円環の軸方向両端部における円周方向に沿った領域(領域B)には、グリース保持体6が形成されておらず、それ以外の領域(領域A)には、グリース保持体6が形成されている。領域Bは、ポケット9にかからない範囲の領域である。
本発明の転がり軸受は、グリースで潤滑される。グリースは軸受内空間に封入され、軌道面などに介在して潤滑がなされる。グリースを構成する基油としては、通常、転がり軸受に用いられるものであれば特に制限なく用いることができる。例えば、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油などの鉱油、ポリブテン油、ポリ−α−オレフィン油、アルキルベンゼン油、アルキルナフタレン油などの炭化水素系合成油、または、天然油脂やポリオールエステル油、りん酸エステル油、ジエステル油、ポリグリコール油、シリコーン油、ポリフェニルエーテル油、アルキルジフェニルエーテル油、フッ素化油などの非炭化水素系合成油などが挙げられる。これらの潤滑油は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。また、グリースを構成する増ちょう剤としては、例えば、アルミニウム石けん、リチウム石けん、ナトリウム石けん、複合リチウム石けん、複合カルシウム石けん、複合アルミニウム石けんなどの金属石けん系増ちょう剤、ジウレア化合物、ポリウレア化合物などのウレア系化合物、PTFE樹脂などのフッ素樹脂粉末が挙げられる。これらの増ちょう剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
また、グリースには、必要に応じて公知の添加剤を添加できる。添加剤としては、例えば、有機亜鉛化合物、有機モリブデン化合物などの極圧剤、アミン系、フェノール系、イオウ系化合物などの酸化防止剤、イオウ系、リン系化合物などの摩耗抑制剤、多価アルコールエステルなどの防錆剤、ポリメタクリレート、ポリスチレンなどの粘度指数向上剤、二硫化モリブデン、グラファイトなどの固体潤滑剤、エステル、アルコールなどの油性剤などが挙げられる。
グリースの封入量は、所望の潤滑特性を確保できる範囲であれば特に限定されないが、軸受内空間における静止空間体積の50%〜80%(体積比率)程度とすることが好ましい。本発明では所定のグリース保持体の配置により、グリースのせん断抵抗の低減が図れるため、グリース封入量を上記範囲としながらも、トルクの低減が図れる。
以上、各図などに基づき本発明の実施形態を説明したが、本発明の転がり軸受はこれらに限定されるものではない。例えば、アンギュラ玉軸受、スラスト玉軸受、円筒ころ軸受、針状ころ軸受、スラスト円筒ころ軸受、スラスト針状ころ軸受、円すいころ軸受、スラスト円すいころ軸受、自動調心玉軸受、自動調心ころ軸受、スラスト自動調心ころ軸受などの任意の転がり軸受に適用できる。また、これらの転がり軸受に対して、シール部材(シールド板)の有無は問わず適用できる。
実施例
6204転がり軸受(深溝玉軸受)に使用可能な図2の形状の樹脂製冠形保持器を射出成形により製造した。樹脂材質は、ポリアミド66樹脂(ガラス繊維25体積%配合)である。この保持器の図2に示す位置(領域A)に接着剤を塗布し、静電植毛により、ポリアミド66樹脂の短繊維(繊維長0.8mm、太さ3.3デシテックス)からなる植毛部(グリース保持体)を形成した。この保持器を6204転がり軸受(深溝玉軸受)に組み込み、軸受内空間にグリース(リチウム石けん+エステル油)を静止空間体積比で70体積%封入し、シールド板で封止して試験軸受とした。得られた試験軸受を下記のトルク測定試験に供し、トルクの経時変化を調べた。
6204転がり軸受(深溝玉軸受)に使用可能な図2の形状の樹脂製冠形保持器を射出成形により製造した。樹脂材質は、ポリアミド66樹脂(ガラス繊維25体積%配合)である。この保持器の図2に示す位置(領域A)に接着剤を塗布し、静電植毛により、ポリアミド66樹脂の短繊維(繊維長0.8mm、太さ3.3デシテックス)からなる植毛部(グリース保持体)を形成した。この保持器を6204転がり軸受(深溝玉軸受)に組み込み、軸受内空間にグリース(リチウム石けん+エステル油)を静止空間体積比で70体積%封入し、シールド板で封止して試験軸受とした。得られた試験軸受を下記のトルク測定試験に供し、トルクの経時変化を調べた。
<トルク測定試験>
試験軸受を固定し、回転数3600rpm、室温(25℃)雰囲気、外輪にアキシャル荷重20Nを負荷してロードセルで拘束し、内輪回転として、軸受で発生するトルク(N・mm)を算出した。
試験軸受を固定し、回転数3600rpm、室温(25℃)雰囲気、外輪にアキシャル荷重20Nを負荷してロードセルで拘束し、内輪回転として、軸受で発生するトルク(N・mm)を算出した。
比較例
6204転がり軸受(深溝玉軸受)に使用可能な図6の形状の樹脂製冠形保持器を射出成形により製造した。図6に示すように、保持器5の内外径面の全面に、網掛け部分で示すグリース保持体6が形成されている。この保持器は、内外径面の全体に植毛部を形成している以外の構成は、実施例と同じである。この保持器を6204転がり軸受(深溝玉軸受)に組み込み、軸受内空間にグリース(リチウム石けん+エステル油)を静止空間体積比で70体積%封入し、シールド板で封止して試験軸受とした。得られた試験軸受を実施例1と同じトルク測定試験に供し、トルクの経時変化を調べた。
6204転がり軸受(深溝玉軸受)に使用可能な図6の形状の樹脂製冠形保持器を射出成形により製造した。図6に示すように、保持器5の内外径面の全面に、網掛け部分で示すグリース保持体6が形成されている。この保持器は、内外径面の全体に植毛部を形成している以外の構成は、実施例と同じである。この保持器を6204転がり軸受(深溝玉軸受)に組み込み、軸受内空間にグリース(リチウム石けん+エステル油)を静止空間体積比で70体積%封入し、シールド板で封止して試験軸受とした。得られた試験軸受を実施例1と同じトルク測定試験に供し、トルクの経時変化を調べた。
図7にトルク測定試験の結果をそれぞれ示す。なお、図7において、横軸は運転時間(時間(h))を縦軸はトルク(N・mm)をそれぞれ示す。
図7に示すように、比較例は内外輪肩部とグリース保持体である植毛部とが接触しており、定常トルクが約4N・mmであった。一方、実施例では、内外輪肩部と接触していた植毛部を取り除いたことで、定常トルクを約2N・mmと低減できた。
本発明の転がり軸受は、軸受形状として既存のものを用いながら、簡易な手段により、トルクへの悪影響を与えずに、低トルク化を含む潤滑特性の向上を図れるので、種々の用途における転がり軸受として広く利用できる。
1 転がり軸受
2 内輪
3 外輪
4 転動体
5 保持器
6 グリース保持体
7 保持器本体
8 保持爪
9 ポケット
10 平坦部
11 溝部
12 シール部材
13 グリース
2 内輪
3 外輪
4 転動体
5 保持器
6 グリース保持体
7 保持器本体
8 保持爪
9 ポケット
10 平坦部
11 溝部
12 シール部材
13 グリース
Claims (5)
- 軌道輪である内輪および外輪と、この内・外輪間に介在する複数の転動体と、この転動体を保持する保持器と、軸受内空間に封入されるグリースとを備えてなる転がり軸受であって、
前記保持器の内径面および外径面から選ばれる少なくとも一方の面において、
前記軌道輪の非軌道部と対向する領域の少なくとも一部を除いた領域Aに、繊維材または多孔質材からなるグリース保持体が形成されており、
それ以外の領域Bに、繊維材または多孔質材からなるグリース保持体が形成されていない、または、領域Aのグリース保持体を固定する場合よりも前記軌道輪の非軌道部との摺動抵抗が低減される繊維材または多孔質材からなるグリース保持体が形成されていることを特徴とする転がり軸受。 - 前記領域Aは、前記軌道輪の非軌道部である内外輪肩部と対向する領域の少なくとも一部を除いた領域であり、
前記領域Bに、繊維材または多孔質材からなるグリース保持体が形成されていないことを特徴とする請求項1記載の転がり軸受。 - 前記領域Aは、前記軌道輪の非軌道部である内外輪肩部と対向する領域全体を除いた領域であることを特徴とする請求項2記載の転がり軸受。
- 前記保持器は、環状の保持器本体上に、軸方向一方側に開口して前記転動体を保持する複数のポケットを有する冠形保持器であり、
前記領域Bは、前記保持器本体の前記ポケットの非開口側に位置することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の転がり軸受。 - 前記グリース保持体は、前記繊維材である合成樹脂の短繊維を植毛してなることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項記載の転がり軸受。
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ID=58389700
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2015185210A Pending JP2017057979A (ja) | 2015-09-18 | 2015-09-18 | 転がり軸受 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2017057979A (ja) |
-
2015
- 2015-09-18 JP JP2015185210A patent/JP2017057979A/ja active Pending
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