以下、図を参照しながら、本発明を詳しく説明する。
[1]電極
本発明の電極(2)は、一対の電極(2a、2b)間に固体電解質体(3)が配置された構造を有する全固体型リチウムイオン電池(1)に用いられる電極(2)である。
この電極(2)は、活物質を主成分とする活物質層(21)と、固体電解質を主成分とする固体電解質層(22)と、を備えることを特徴とする(図1参照)。
活物質層21と固体電解質層22とは、通常、互いの主面同士で接して積層されている。互いの広い表面同士で接触することでLiイオンの高い伝導性を得ることができる。
また、活物質層21と固体電解質層22とを備える電極は、どのようにして得られてもよいものの、後述するように電気泳動を利用して得ることができる。この場合には、導電性を有した表面(導電性表面)を備える基材25の導電性表面251に、活物質層21と固体電解質層22とが積層された構造となる。
また、その場合、活物質層21及び固体電解質層22のうちどちらの層が、導電性表面251と接触されてもよいが、活物質層21を導電性表面251と接触させることが好ましい。即ち、基材25の導電性表面251に対して、活物質層21と固体電解質層22とがこの順に積層された構造の電極となる(図1参照)。
この電極2内における具体的な積層形態は特に限定されないが、活物質層21及び固体電解質層22のうちのいずれか一方の層が、他方の層によってサンドイッチ状に挟まれた形態となることが好ましい。従って、活物質層21及び固体電解質層22のうちの少なくとも一方の層を2層以上備えることが好ましい。
即ち、本電極2は、(1)2層の活物質層21の層間に固体電解質層22が介在された積層構造、(2)2層の固体電解質層22の層間に活物質層21が介在された積層構造、のうちの少なくとも一方の積層構造を有することが好ましい。これらの積層構造は、いずれか一方のみを備えてもよいが、両方の積層構造を備えてもよい。両方の積層構造を備える場合とは、即ち、2層以上の活物質層21と、2層以上の固体電解質層22とが交互に積層された積層構造を有する場合が挙げられる。このように、各層厚が制御されつつサンドイッチ状の積層構造体とすることによって、サンドイッチ状の積層構造を有さない場合と比べて、より優れたLiイオンの伝導性を得ることができる。
活物質層21及び固体電解質層22の各々積層数は特に限定されないが、例えば、各々、1層以上50層以下とすることができる。この積層数は、2層以上25層以下とすることが好ましく、2層以上10層以下とすることがより好ましい。
更に、活物質層21と固体電解質層22とは、同じ厚さで積層されてもよいが、異なる厚さで積層することができる。この場合には、活物質層21に比べて固体電解質層22を薄く形成することが好ましい。このように、活物質層21に対して固体電解質層22を薄くした場合には、活物質層21に対して固体電解質層22を厚くした場合に比べて、積層した各活物質層間の距離が縮小することによって、垂直方向の電子伝導性(導電性)を向上させることができる。活物質層21の厚さ(D21)と固体電解質層22の厚さ(D22)との厚さの比(D22/D21)は限定されないが、例えば、0.05以上1以下とすることができる。この比(D22/D21)は、更に、0.05以上0.5以下が好ましく、0.05以上0.2以下がより好ましい。尚、この層厚の比は、全ての層で同じ比率である必要はなく、各層で異なるものであって良い。更には、電極内の層の一部がかかる比率で形成されたものであってよく、全ての層がかかる比率で形成されてものであっても良い。
また、具体的な各々層厚は限定されないが、例えば、活物質層21の厚さD21は0.5μm以上40μm以下とすることができる。この厚さ(D21)は、更に、1μm以上25μm以下が好ましく、4μm以上8μm以下がより好ましい。同様に、例えば、固体電解質層22の厚さD22は0.25μm以上40μm以下とすることができる。この厚さ(D22)は、更に、0.25μm以上25μm以下が好ましく、0.25μm以上8μm以下がより好ましく、特に0.25μm以上0.5μm以下が好ましい。尚、各層は、層厚を基準に設計されたもののみならず、積層される粒子の個数を基準に設計されたものであってもよい。係る場合に、活物質層21に積層される粒子個数は、1個〜4個が好適であり、より好適には1個〜3個であり、特に好適には1個〜2個(粒子1個以上2個以下)である。しかしながら、これに限られるものではない。
尚、活物質層21の厚さ(D21)及び固体電解質層22の厚さ(D22)は、電極断面を電子顕微鏡によって10000倍に拡大した画像において測定するものとする。具体的には、各層の異なる5点において計測される実寸法の平均値を厚さD21又は厚さD22とする。
活物質層21は、活物質を主成分とする層である。活物質を主成分とするとは、活物質層21全体を100質量%とした場合に、活物質を50質量%以上含むことを意味する。この割合は、50質量%以上100質量%以下が好ましく、60質量%以上98質量%以下とすることができ、更には70質量%以上95質量%以下とすることができる。
活物質層に含有され得る活物質以外の他成分としては、固体電解質及び導電助剤等が挙げられる。これらの成分を含有させることにより、電極内にLiイオンの伝導パス(固体電解質による)や、電子伝導パス(導電助剤による)を形成することができる。
これらの他成分は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。他成分が含有される場合、活物質層21全体の総質量を100質量%とすると、他成分の含有割合は50質量%以下である。この含有割合は、2質量%以上40質量%以下とすることができ、更には5質量%以上30質量%以下とすることができる。
尚、固体電解質及び導電助剤については後述する。
活物質は、リチウムイオンの挿入及び脱離、又は、合金化・脱合金化反応が可能な物質である。活物質のうち正極用の活物質(以下、単に「正極活物質」ともいう)としては、リチウムイオンの挿入及び脱離が可能なリチウムを含有する複合酸化物を用いることができる。
具体的には、LiMO2、Li2MO3、LiM2O4等のリチウム複合酸化物や、これらが混合されたリチウム複合酸化物が挙げられる。但し、上記の「M」は、Co、Ni、Mn及びAlのうちの少なくともCo、Ni及びMnから選択される1種の金属元素である。
上述のうち、LiMO2型のリチウム複合酸化物としては、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、Li2MnO3、Li(NixCo1−x)O2{但し、0<x<1である。例えば、Li(Ni0.8Co0.2)O2など}、Li(NixMn1−x)O2{但し、0<x<1である。例えば、Li(Ni0.5Mn0.5)O2など}、Li(NixMnyCo1−x−y)O2{但し、x>0、y>0、x+y<1である。例えば、Li(Ni1/3Mn1/3Co1/3)O2など}、Li(NixCoyAl1−x−y)O2{但し、x>0、y>0、x+y<1である。例えば、Li(Ni0.8Co0.15Al0.05)O2など}等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
また、上述のうち、LiM2O4型のリチウム複合酸化物としては、LiCo2O4、LiNi2O4、LiMn2O4、Li(CoxNi2−x)O4{但し、0<x<2である}、Li(CoxMn2−x)O4{但し、0<x<2である}、Li(AlxMn2−x)O4{但し、0<x<2である}、Li(MnxNi2−x)O4{但し、0<x<2である。例えば、Li(Mn1.5Ni0.5)O4など}等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
上述のなかでは、LiMO2型のリチウム複合酸化物が好ましく、更には、Li(NixMnyCo1−x−y)O2{但し、x>0、y>0、x+y<1である}(以下、単に「NMC」ともいう)が好ましい。
活物質のうち負極用の活物質(以下、単に「負極活物質」ともいう)としては、炭素系材料(負極活物質としての炭素系材料)、各種酸化物、マグネシウム化合物、スズ化合物、アンチモン化合物、金属リチウム等を用いることができる。
このうち、炭素系材料としては、グラファイト、グラフェン、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、リチウム炭素化合物(LixC6)等が挙げられる。酸化物としては、SiO、SnO、SnO2、TiO2、Nb2O5、WO2、MoO2、Li4Ti5O12等が挙げられる。マグネシウム化合物としては、Mg2Si、Mg2Ge、Mg2Sn等挙げられる。スズ化合物としては、SbSn、SnS2、CoSn2、Ni3Sn2、Cu6Sn5、Ag3Sn、LaSn3、La3Co2Sn7、V2Sn3FeSn2等が挙げられる。アンチモン化合物としては、SbSn、Ag3Sb、CeSb3、CoSb3、InSb、Ni2MnSb等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
また、活物質層21に含まれる活物質は粒状とすることができる。即ち、粒状の活物質(以下、単に「粒状活物質」ともいう)を用いることができる。粒状活物質の粒径は特に限定されないが、より大径の粒状活物質とより小径の粒状活物質との少なくとも2種類の異なる粒径の粒状活物質を同時に含むことがより好ましい。これにより、活物質層21の充填性と平滑性とを両立させることができる。より具体的には、0.5μmを超え10μm以下の粒径を有した顆粒状を呈する粒状活物質(大径活物質)と、1nm以上500nm以下の粒径を有する球状を呈する粒状活物質(小径活物質)と、を含むことが好ましい。
更に、活物質層21には、イオン交換樹脂が含まれている。このイオン交換樹脂は、活物質に付着した状態で含まれる。また、後述するように、本電極は、電気泳動を用いて製造することができる。この電気泳動によって活物質、固体電解質を堆積すれば、層厚を高度に制御でき、予め設計した積層構造の本電極を得ることができる。言い換えれば、予め設計した積層構造を精度良く実現するためには電気泳動を用いることが好適であるが、かかる場合には、イオン交換樹脂が活物質に付着していることが要件となる。従って、本電極の活物質層21は、イオン交換樹脂を含むものとなる。
具体的には、イオン交換樹脂は、イオン交換基が結合した高分子である。このイオン交換樹脂としては、高分子化合物にイオン交換基を導入したものであれば、特に制限はなく、それ自身公知のイオン交換樹脂であってよい。イオン交換樹脂の主骨格となる高分子化合物としては、例えば、ポリスチレン、ポリ(α-メチルスチレン)等のスチレン系ポリマー、ポリビニルトルエン、ポリビニルベンジルクロライド、ポリビニルビフェニル、ポリビニルナフタレン等の芳香族ビニルポリマーやポリ塩化ビニル等のハロゲン化ビニルポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン等のポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン等のハロゲン化ポリオレフィン、ポリアクリロニトリル等のニトリル系ポリマー、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸グリシジル、ポリアクリル酸エチル等の(メタ)アクリル系ポリマー等であるものが挙げられるがこれに限られるものでない。上記ポリマーは、単独のモノマーと架橋剤を共重合させて得られるポリマーでも、複数のモノマーと架橋剤を重合させて得られるポリマーであってもよく、また、二種類以上のポリマーがブレンドされたものであってもよい。
本電極に含まれるイオン交換樹脂は、その主鎖となる高分子が、非極性溶媒に対する親和性を有するものが望ましい。好適には、スチレン由来の単位とオレフィン由来の単位とを有する高分子とされ、特に好適には、ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂とのブロック共重合体とされる。このように主鎖がスチレン由来の単位とオレフィン由来の単位とを有する親油性の重合体であると、非極性溶媒に対する親和性を有し、かかる溶媒に良好な溶解性を備える。尚、ここで、本発明において主鎖とは、イオン交換基以外の部分であって、繰り返し単位を含んでなる高分子構造の骨格となる部分を意味するものである。
このようなイオン交換樹脂を用いることで、活物質が本来備える表面電荷が微弱でも、イオン交換樹脂で予め活物質を処理することによって、非極性溶媒中で活物質の表面電荷を顕著に増大させることができ、当該活物質を電気泳動によって堆積することができる。よって、活物質層と固体電解質層の層構造が良好に形成された本電極を得ることができる。
また、本電極に含まれるイオン交換樹脂は、カチオン(陽イオン)交換樹脂、アニオン(陰イオン)交換樹脂のいずれであってもよい。
上記のイオン交換樹脂に具備されるイオン交換基は、カチオン交換樹脂であれば、スルホン酸基、カルボン酸基、イミノ二酢酸基、リン酸基、リン酸エステル基等のカチオン交換基が例示され、アニオン交換樹脂であれば、四級アンモニウム基、三級アミノ基、二級アミノ基、一級アミノ基、ポリエチレンイミン基、第三スルホニウム基、ホスホニウム基等のアニオン交換基が挙げられる。尚、これらのイオン交換基は、そのイオン交換機能を阻害しない範囲において、置換基を備えていても良い。イオン交換基は、強酸性、強塩基性のものが好適である。かかる強酸性のものとしては、スルホン酸基が例示される。また、強塩基性のものとして、四級アンモニウム基が例示される。
例えば、アニオン交換樹脂の一例として、ポリクオタニウム(Polyquaternium)と総称されるポリカチオンであっても良く、ビニルピロリドン、アクリルアミド、メタクリレート等を繰り返し単位に含むのものが例示できるが、特に、ビニルピロリドンの構造が含まれるものが望ましい。ビニルピロリドン構造を含むポリクオタニウムとしては、例えば、ポリクオタニウム11、ポリクオタニウム16、ポリクオタニウム28、ポリクオタニウム44、ポリクオタニウム46などが例示される。
尚、イオン交換基の内、カチオン交換基であって、対イオンが解離した後にアニオン性となるものが酸性基であり、本実施形態においては、プロトンを有する物のみならず、カチオン交換によって塩型となったもの(酸由来の基)も酸性基に含まれるものとする。例えば、カチオン交換基が、強酸性のスルホン酸基(−SO3H)である場合、−SO3 −が固定イオン、プロトン(H+)が対イオンとなる。この対イオンであるプロトンは、イオン交換処理(イオン交換反応)によって他のカチオンに交換することができる。かかるイオン交換反応によってイオン交換基は塩型にできる。
また、アニオン交換基であって、対イオンが解離した後にカチオン性となるものが塩基性基であり、水酸化物イオンを有する物のみならず、アニオン交換によって塩型となったもの(塩基由来の基)も含まれるものとする。例えば、アニオン交換基が、トリメチルアンモニウム基などの強塩基性の四級アンモニウム基(−R3NOH)であると、−R3N+が固定イオン、水酸化物イオン(OH−)などが対イオンとなる。水酸化物イオン等は、イオン交換処理(イオン交換反応)によって他のアニオンに交換することができる。かかるイオン交換反応によってイオン交換基は塩型にできる。
本発明に含まれるイオン交換樹脂において、有機溶媒(非極性溶媒)中にてイオン交換基から電離するイオンが請求項記載の第一の対イオンに該当する。本発明に含まれるイオン交換樹脂は、好適には、そのイオン交換基の少なくとも一部が、塩型となったものとされる。また、プロトン又は水酸化物イオンを備えたイオン交換基は、イオン交換反応によって塩型とすることができるので、対イオンを適宜交換して所望の対イオンを備えさせることができる。ここで、本発明においては、イオン交換基がアニオン交換基である場合、好適には、リチウム塩の陰イオンを対イオンとする塩型のものが用いられる。また、イオン交換樹脂がポリクオタニウムなどのポリカチオンである場合には、いわゆるアニオン性界面活性剤と称される物質のアニオンを対イオンとした塩型とすることができる。例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−スルホ脂肪酸メチルエステル塩、ジアルキルスルホこはく酸塩、アルキル硫酸エステル塩などが例示される。特に好適には、炭素数10以上のアルキル鎖を持つアニオン性界面活性剤であり、かかるものとしては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムや、スルホこはく酸ビス(2−エチルヘキシル)ナトリウムなどが例示できる。
また、イオン交換基がカチオン交換基である場合、好適には、有機オニウム塩の陽イオンを対イオンとする塩型の物が用いられる。かかる有機オニウム塩としては、ブロモニウム塩、ヨードニウム塩、オキソニウム塩、スルホニウム塩、アルソニウム塩、アンモニウム塩(第四級)、アンモニウムフルオリド(第四級)、アンモニウムクロリド (第四級)、アンモニウムブロミド (第四級)、アンモニウムヨージド (第四級)、アンモニウムヒドロキシド (第四級)、アンモニウムポリハライド、ホスホニウム塩などが例示される。特に、溶解安定性の観点から、第4級塩を用いることが好適であり、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩がより好適である。これにより、電気泳動によって電極を作製する(活物質と固体電解質をそれぞれ堆積する)際に、非極性溶媒中で、イオン交換基から電離した対イオンが溶媒中で安定化するので、活物質に付与する電荷を強めることができると共に、活物質の溶媒中での分散性も良好とすることができる。よって、より一層、安定に電気泳動を実施できるものとなるからである。
これにより、電気泳動によって電極を作製する際に、非極性溶媒や無極性溶媒中で、対イオンがイオン交換基から電離することを容易化でき、活物質に付与する電荷を強めることができる。
固体電解質層22は、固体電解質を主成分とする層である。固体電解質を主成分とするとは、固体電解質層22全体を100質量%とした場合に、固体電解質を50質量%以上含むことを意味する。この割合は、50質量%以上100質量%以下が好ましく、60質量%以上98質量%以下とすることができ、更には70質量%以上95質量%以下とすることができる。
固体電解質層に含有され得る固体電解質以外の他成分としては、活物質及び導電助剤等が挙げられる。これらの他成分は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。他成分が含有される場合、固体電解質層22全体を100質量%とすると、他成分の含有割合は50質量%以下である。この含有割合は、2質量%以上40質量%以下とすることができ、更には5質量%以上30質量%以下とすることができる。
尚、活物質については前述の通りである。また、導電助剤については後述する。
固体電解質は、Liイオンの伝導パスとなることが可能な物質である。具体的には、Li1.07Al0.69Ti1.46(PO4)3、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3、Li3.25Ge0.25P0.75S4、Li10GeP2S12、Li6PS5Cl、30Li2S・26B2S3・44LiI、63Li2S・36SiS2・1Li3PO4、57Li2S・38SiS2・5Li4SiO4、70Li2S・30P2S5、50Li2S・50GeS2、Li3.25P0.95S4、Li3.25Ge0.25P0.75S4、Li3PS4、Li4P3S11、Li7P3S11等の硫化物固体電解質が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
更に、La0.5Li0.5TiO3、La0.51Li0.34TiO2.94、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3、Li7La3Zr2O12、Li5La3Nb2O12、50Li4SiO4・50Li3BO3、Li2.9PO3.3N0.46、Li3.6Si0.6P0.4O4等の非硫化物固体電解質が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
これらのうちでは、硫化物固体電解質が好ましい。更には、硫化物ガラス固体電解質、又は、硫化物ガラスセラミックス固体電解質の非結晶性の硫化物固体電解質がより好ましい。非結晶性の硫化物固体電解質としては、30Li2S・26B2S3・44LiI、63Li2S・36SiS2・1Li3PO4、57Li2S・38SiS2・5Li4SiO4、70Li2S・30P2S5、50Li2S・50GeS2、Li3.25P0.95S4、Li3.25Ge0.25P0.75S4、Li3PS4、Li4P3S11、Li7P3S11等が挙げられる。
これらのなかでも、更に、Li、P及びSの各元素を含み、PS4結合を含んだ非結晶性の硫化物固体電解質が好ましい。このような硫化物固体電解質としては、Li3PS4、Li4P3S11、Li7P3S11、70Li2S・30P2S5、Li3.25P0.95S4等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
更には、これらの硫化物固体電解質は、前駆体の状態であってもよい。前駆体で堆積した場合には、堆積後、熱処理等の処理によって固体電解質へ変換される。
また、固体電解質層22に含まれる固体電解質の形態は特に限定されないが、粒状(固形状であることを意味するものであり、球状のみならず、柱状、板状、扁平状、鱗片状なども含む概念である)とすることができる。即ち、粒状の固体電解質(以下、単に「粒状固体電解質」ともいう)を用いることができる。粒状固体電解質の粒径は特に限定されないが、より大径の粒状固体電解質とより小径の粒状固体電解質との少なくとも2種類の異なる粒径の粒状固体電解質を同時に含有できる。これにより、固体電解質層22の充填性と平滑性とを両立させることができる。より具体的には、0.5μmを超え10μm以下の粒径を有した固体電解質(大径固体電解質)と、1nm以上500nm以下の粒径を有する固体電解質(小径固体電解質)と、を含むことが好ましい。尚、固体電解質が板状等や異形状である場合、最も長軸方向の長さを粒径として取り扱う。
導電助剤は、電子伝導パスとなることが可能な物質である。具体的には、導電性を有する粉末状物が好ましい。このような導電助剤を構成する材料は特に限定されないが、炭素系材料(導電助剤としての炭素系材料)、金属、金属化合物等が挙げられ、なかでも、炭素系材料が好ましい。炭素系材料としては、グラファイト、グラフェン、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
本発明の電極が正極であって、導電助剤が含まれる場合、活物質層21及び固体電解質層22のうちのいずれか一方の層のみに含まれてもよいが、これらの両方の層に含まれることが好ましい。
活物質層21に導電助剤が含まれる場合であって、活物質層21の全体を100質量%とした場合、導電助剤の含有割合は0.1質量%以上35質量%以下が好ましく、1質量%以上25質量%以下がより好ましい。
同様に、固体電解質層22に導電助剤が含まれる場合であって、固体電解質層22の全体を100質量%とした場合、導電助剤の含有割合は、0.1質量%以上35質量%以下が好ましく、1質量%以上25質量%以下がより好ましい。
[2]電極の製造方法
全固体型リチウムイオン電池の電極、特に、前述のような活物質層と固体電解質層とが積層された積層構造を有する電極では、目的成分(活物質や固体電解質等)からなる粒子(以下、単に「目的粒子」という)を、所望の厚さに制御しつつ堆積することが好ましい。容量の増加が必要な場合には、活物質量を増加させることが望まれるが、活物質のみが厚く堆積するとイオン伝導性が低下し、外部に取出し可能な電気量が低下してしまう。このため、適切な層厚を設計し、その設計に応じて活物質層と固体電解質とが積層された構造が望まれるのである。
本製造方法によれば、電極内の活物質層と固体電解質層の各層を上述した範囲で形成することができる。具体的には、活物質層の厚さが0.5μm以上40μm以下とすることができ、更に、1μm以上25μm以下とでき、4μm以上8μm以下がより好ましい。同様に、例えば、固体電解質層22の厚さD22は0.25μm以上40μm以下とすることができる。この厚さ(D22)は、更に、0.25μm以上25μm以下が好ましく、0.25μm以上8μm以下がより好ましく、0.25μm以上0.5μm以下が特に好ましい。
また、例えば、実質、略単層(部分的に複層であるとしても全体として非常に薄い層)で堆積してもよい。イオン導電性、電子伝導性を考慮すれば、粒子1個以上3個以下の厚さで堆積できることが好ましく、粒子1個以上2個以下の厚さで堆積できることがより好ましい。薄く堆積させることにより、電極内の活物質層と固体電解質層とを密に接触させることができ、優れた電極特性が得られると考えられるからである。即ち、同じ電極厚さの中で積層数をより多くすることができ、それによって活物質と固体電解質との接触面積をより多くすることができる。このため、本製造方法においては、目的粒子を溶媒に分散させた分散液(粒子を含む液体(以下、単に「粒子含有液」ともいう))を用いて電気泳動により目的粒子を堆積させ、層構造を造形する。これにより、ディッピングやコーティングよりも各目的粒子を薄く、且つ、精度良く堆積させた層を形成できる。
(1)第1の電極の製造方法
本第1の電極の製造方法(以下、単に「第1の製法」ともいう)は、粒子含有液中における電気泳動によって、導電性の基材上に、目的粒子を堆積する堆積工程を備える。
「堆積工程」は、目的粒子が活物質である粒子含有液(活物質含有液)中における電気泳動によって、前記活物質を堆積する第1堆積工程と、目的粒子が固体電解質及び/又はその前駆体である粒子含有液(固体電解質含有液)中における電気泳動によって、固体電解質またはその前駆体を堆積する第2堆積工程とを備える。
尚、「固体電解質の前駆体」とは、分散媒の除去、更には、必要に応じて加熱等の後処理を行うことにより、固体電解質へと変化する固体(粒子)である。ここで、固体電解質前駆体によって形成される層も固体電解質となる層であることから、以下、適宜、固体電解質層と称すことがある。
第1堆積工程を、固体電解質層が形成された後に、更に、活物質層を形成するために行う場合、固体電解質及び/又はその前駆体の貧溶媒でかつ非プロトン性の溶媒が分散媒とされる。かかる場合の活物質には、当該貧溶媒中で電離するイオンを有する上述のイオン交換樹脂が付着したものが用いられる。
通常、電気泳動は、分散媒中に分散させた被泳動物質を電気的に泳動するものであるが、分散媒中で被泳動物質が十分な強度の表面電荷を有するように、分散媒には、極性のより大きな(誘電率のより高い)極性溶媒やプロトン性溶媒を用いるのが一般的である。
ここで、活物質と、固体電解質またはその前駆体とは、溶媒に対する溶解度や、液体中での表面電荷の強弱が相違する。例えば、活物質は、比較的、極性溶媒に対して安定である一方、非極性溶媒中での表面電荷が微弱となりがちである。また、活物質に比べ、固体電解質の方は、極性溶媒に対する親和性(溶解度)がより大きい。このため、既に固体電解質層(その前駆体層を含む)が形成されている場合には、極性溶媒を分散媒に用いて活物質を電気泳動すると固体電解質層が溶解するという事態を生じてしまう。
非プロトン性で、より小さな極性である非極性溶媒(固体電解質又はその前駆体の貧溶媒)を分散媒に用いれば、このような固体電解質層の溶解は防止できるが、活物質の表面電荷が微弱な場合には、その泳動が困難になってしまう。
第1の製法では、固体電解質又はその前駆体の貧溶媒で且つ非プロトン性溶媒中で対イオンを電離するイオン交換基を有するイオン交換樹脂を、活物質に付着させることで、かかる溶媒を用いての電気泳動を可能とし、活物質、固体電解質の両方が電気泳動により交互に堆積された電極を作製できるのである。
そこで、第1堆積工程を、固体電解質またはその前駆体の貧溶媒(非極性溶媒、誘電率の低い溶媒)でかつ非プロトン性の溶媒を、活物質の分散媒として、電気泳動を実施することにより、既に作製された固体電解質層の溶解を抑制できるようにしている。
また、活物質は、かかる溶媒中で電離するイオンを有するイオン交換樹脂が付着した状態にあるため、かかるイオン交換樹脂の作用によって表面電荷が増大し、無極性溶媒等の極性の弱い溶媒を分散媒に用いても、良好に泳動させることができるものとなる。よって、固体電解質層の溶解抑制と、活物質の電気泳動による堆積とを両立でき、固体電解質層またはその前駆体層と、活物質層とが積層した電極を製造することができるのである。このように、いずれの層も、電気泳動によって形成することができるので、各層の層厚が適切に制御された電極構造を作製することができる。
ここで、全ての層を電気泳動にて形成する場合、まず、第1堆積工程を実施し、導電性の基材の上に、活物質が堆積された第1層目の活物質層が形成される。次いで、第2堆積工程が実施され、第1堆積工程で形成された活物質層の上に、固体電解質またはその前駆体が堆積されて第1層目の固体電解質層が形成される。その後、再び、第1堆積工程が実施されて固体電解質層の上に活物質層の第2層目が形成される。このように第1堆積工程と第2堆積工程は繰り返して実行され、n層の活物質層と固体電解質層とが形成される。なお、導電性の基材上に各層が積層され電極が形成されるが活物質層と固体電解質層のいずれの層が基材の導電性表面に積層されていてもよい。すなわち、まず、第2堆積工程を実施し、次いで第1堆積工程を実施してもよい。
また、固体電解質層が形成される前に実施される第1堆積工程は、固定電解質層が溶解する懸念がないため、極性溶媒やプロトン性溶媒を用いて活物質を電気泳動して堆積しても良い。
ここで、上記「基材」は、導電性表面を有するものであり、得られる粒子の堆積層(以下、単に「堆積層」ともいう)に対しては支持体として機能するものである。
基材の材質は特に限定されず、導電性表面を形成できる導電材を広く利用できる。導電材としては、金、白金、インジウム、銅、亜鉛、ニッケル、スズ、アルミニウム、ステンレス、これら金属の合金、及び、これら金属を含んだ導電性化合物(ITO)等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合には、積層して利用できる。
導電材の形態も特に限定されず、例えば、板状体、箔状体、網目状体等を適宜用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
例えば、基材としては、前述の導電材からなる板状体をそのまま利用することができる。また、非導電材(樹脂等)からなる板状体の表面に、前述の導電材からなる箔状体を被覆した複合体を全体として基材として利用することができる。
この基材は、全固体型リチウムイオン電池においては、そのまま集電体として利用することができる。
目的粒子を分散媒に分散させた分散液(粒子含有液)の状態は特に限定されず、サスペンジョン(懸濁液)、エマルジョン、コロイド液等のいずれであってもよい。
この分散液中の分散質である粒子は、電気泳動によって堆積させることができるように調整された粒子である。粒子を構成する材料は特に限定されず、電極に配合される各種の成分を電気泳動可能なように粒状化して適宜用いることができる。具体的には、前述した活物質、固体電解質またはその前駆体からなる粒子、導電助剤等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
粒子の形状は特に限定されず、略球形状、顆粒形状(より小さな粒子が寄り集まった形状)、塊状、フレーク形状(鱗片形状)、針状、不定形状、ワイヤー状、チューブ状等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
粒子の粒径(最大長さ)は特に限定されないが、通常、7μm以下である。7μmを超える粒径の粒子に対し、非対称信号を有する印加電圧を用いて電気泳動を行ってもよいが、このような大きな粒径の粒子では、非対称信号を用いることの効果が得られ難い。即ち、例えば、直流電圧のみを用いても、比較的容易に単層膜を形成することが可能である。
これに対し、7μm以下(特に4μm以下)の粒径を有する粒子では、粒径が小さくなるに従い、直流電圧のみを用いた電気泳動や、通常の交流電圧(即ち、正極側と負極側とで対称な波形の信号を有する電圧)を用いた電気泳動では、単層膜を形成することが困難になることがある。その場合、非対称信号を用いることで、粒子の堆積速度を増大させつつ、粒子が比較的均一に配置された(粒子同士が積み重ならない)積層体が得られるようになる。
このようなことから、粒子含有液の粒子として、粒径7μm以下の粒子を含むことが好ましく、粒径4μm以下であることがより好ましく、粒径1μm以下であることが特に好ましい。粒径の下限は特に限定されないが、例えば、50nmとすることができる。
一方、粒子含有液を構成する分散媒は、非プロトン性であること、分散媒中の粒子や既に堆積した層を溶解するといった影響を及ぼさないこと、分散媒中の粒子(活物質の場合は付着するイオン交換樹脂)に親和性を有することの要件を満たすものであって、各種の溶媒を利用することができる。
具体的には、かかる溶媒としては、例えば直鎖状又は分岐状の脂肪族炭化水素、脂肪族不飽和炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、これらのハロゲン化物(ハロゲン化炭化水素)等の非極性溶媒が挙げられる。脂肪族炭化水素またはハロゲン化炭化水素としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、イソドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、クロロホルム、塩化メチレン等が挙げられる。脂肪族不飽和炭化水素としては、ドデセン、トリデセン、テトラデセン、ペンタデセン、ヘキサデセン、ヘプタデセン、オクタデセン、等が挙げられる。芳香族炭化水素としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン等が挙げられる。この他、脂環式炭化水素としては、炭素数3以上のシクロアルカン(シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン等)やテトラヒドロフラン等の脂環式エーテルも使用できる。また、エーテル類としては、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン等が例示でき、エステル類としては、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル等などが例示できる。これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
ここで、分散媒には好適には、非極性溶媒(極性の小さい溶媒)が選択される。尚、非極性溶媒は、疎水性に分類される低極性の溶媒である。固体電解質やその前駆体は、非極性溶媒に対しては溶解性が小さいため貧溶媒となる。溶媒の極性の指標としては、溶媒の誘電率が挙げられる。本製造方法においては、誘電率が15以下であることを指標として溶媒が選定される。
また、上記の要件を満たす限り、固体電解質又はその前駆体を溶解しない範囲で、誘電率15を超える溶媒が混合されていても良い。更には、活物質と固体電解質(又はその前駆体)とに対する親和性は異なることから、活物質と固体電解質等とに対して、異なる溶媒を分散媒としても良い。
目的粒子が活物質の場合、上記溶媒のなかから活物質に親和性を有するものが分散媒として選択され、好適には塩化メチレン、ジメトキシエタン,テトラヒドロフランが選択される。また、目的物質が固体電解質またはその前駆体である場合、これらに親和性を有するものが分散媒として選択され、好適にはプロピオン酸エチル、酢酸エチルが選択される。
粒子含有液中に含まれる粒子の濃度は特に限定されないが、粒子(分散質)と分散媒との合計を100質量%とした場合に、粒子の含有割合は、0.1質量%以上30質量%以下とすることができる。この割合は、0.5質量%以上25質量%以下が好ましく、1質量%以上20質量%以下がより好ましく、1質量%以上15質量%以下が特に好ましい。
第1の製法では、直流電圧を用いて各目的粒子を泳動する。尚、電気泳動時における電流密度は、限定されないが、活物質を泳動する場合には、10μAcm−2〜1mAcm−2の電流密度が適用でき、好適には、20μAcm−2〜500μAcm−2近傍で泳動することが望ましく、好適には30μAcm−2〜300μAcm−2、更に好適には30μAcm−2〜200μAcm−2である。固体電解質を泳動する場合は、数μAcm−2近傍で泳動することが好ましく、好適には1μAcm−2〜50μAcm−2、更に好適には3μAcm−2〜20μAcm−2である。
ここで、直流電圧を用いて電気泳動を行った場合に、極短時間で目的粒子が堆積され、厚い堆積層が形成されてしまうことがある。即ち、目的粒子が略単層に積層された堆積層ではなく、目的粒子が複数積み重なった堆積層が形成されてしまう。一方で、印加する直流電圧の電流密度を下げることによって、堆積速度を抑制し、膜厚制御をより平易にする(略単層に積層する)ことは可能となるが、得られる堆積層の表面粗さが大きくなってしまう。即ち、直流電圧を用いた電気泳動では、得られる堆積層の膜厚と表面粗さとがトレードオフの関係にあり、膜厚及び表面粗さを両立させた略単層で且つ表面粗さの小さい堆積層を得ることが困難になることがある。
そこで、本発明者らは、電気泳動において交流電圧の利用を試みた。その結果、堆積速度を低下させながら、得られる堆積層の表面粗さを抑制できることを知見した。しかしながら、交流電圧を用いると、堆積速度が過度に低下されることが分かった。そして、析出時間を延長してもある程度以上の膜厚を形成できない等の問題があることが分かった。
そこで、更に、本発明者らは、直流電圧と交流電圧とを併用することを試みた。その結果、堆積速度を実用的な範囲に制御しながら、表面粗さを抑えて、所望の膜厚の堆積層を得ることができることに想到した(特願2015−242721号。但し、本願出願時において未公知)。この方法によれば、直流電圧と交流電圧との併用により、正極側と負極側とで対称な波形を有する交流信号に対してバイアスが掛かることとなり、結果として、正極側と負極側とで非対称な波形(以下、単に「非対称波形」ともいう)を有する信号(以下、単に「非対称信号」ともいう)が形成される(図2〜図6参照)。このように、非対称信号を有する印加電圧を利用することで、上述のように、堆積速度を実用的な範囲に制御しながら、表面粗さを抑え、所望の膜厚の堆積層を得ることができることが分かった。
上記知見に基づいて、本製造方法においては、直流電圧を印加して目的物質を電気泳動する手法のみならず、直流電圧と交流電圧とを併用し、非対称信号を有する電圧を印加する電気泳動によって各層の形成を行っても良い。
かかる非対称波形を用いた電気泳動は、分散媒の極性が強くなるほど、また、粒子が小さくなるほど、印加電圧に対する粒子の追従性が向上し、その堆積状態を制御することが容易となる。分散媒の極性が弱くなると、印加電圧に対する被泳動粒子の追従性が低下するものの、被泳動粒子が微細な場合には有用に作用する。このため、作業者は、分散媒の極性と被泳動粒子の粒径に基づき、直流電圧を用いるか、直流と交流との重畳電圧を用いるかを選択することができる。
この正極側と負極側とで非対称な波形を有するとは、0Vを境とした正極側の信号波形と、0Vを境とした負極側の信号波形と、が対称となっていないことを意味する。即ち、非対称信号としては、具体的には、(1)正極側と負極側とでピークの絶対値が異なる信号、(2)正極側と負極側とで印加時間が異なる信号、が挙げられる。当然ながら、正極側と負極側とでピークの絶対値が異なり、且つ、正極側と負極側とで印加時間が異なる信号も含まれる。
このような非対称信号は、どのように形成してもよい。即ち、非対称信号を適宜設計してもよいし、直流電圧と交流電圧とを重畳させることで形成してもよい。直流電圧と交流電圧とを重畳させる場合には、交流電圧の信号としては、1種の周波数の信号を用いてもよいし、2種の異なる周波数の信号を併用してもよい。
この非対称信号としては、例えば、図2〜図6に示す信号の形態を挙げることができる。これらの非対称信号は、1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
上記のうち、図2の非対称信号は、正極側ピーク絶対値(V+)と負極側ピーク絶対値(V−)とが異なり、正極側印加時間(T+)と負極側印加時間(T−)とが同じである三角波によって形成された非対称信号である。このような非対称信号は、例えば、三角波の対称信号(交流信号)に対して正極側へバイアスを掛けることで形成することができる。即ち、交流電圧と直流電圧とを重畳させることにより形成することができる。
図3の非対称信号は、正極側ピーク絶対値(V+)と負極側ピーク絶対値(V−)とが異なり、正極側印加時間(T+)と負極側印加時間(T−)とが異なる矩形波によって形成された非対称信号である。この矩形波は、正極側においても負極側においても、一定のピーク絶対値(V+又はV−)が一定時間維持される信号形態を有する。
図4の非対称信号は、正極側ピーク絶対値(V+)と負極側ピーク絶対値(V−)とが異なり、正極側印加時間(T+)と負極側印加時間(T−)とが異なる三角波によって形成された非対称信号である。
図5の非対称信号は、正極側ピーク絶対値(V+)と負極側ピーク絶対値(V−)とが異なり、正極側印加時間(T+)と負極側印加時間(T−)とが異なる放物線によって表される非対称信号である。
図6の非対称信号は、正極側ピーク絶対値(V+)と負極側ピーク絶対値(V−)とが異なり、正極側印加時間(T+)と負極側印加時間(T−)とが異なる矩形波によって形成された非対称信号である。この矩形波は、正極側においても負極側においても、経時的に印加電圧が変化するとともに、ピークトップを経て瞬時に逆電場に切り替わる信号形態を有する。
本発明の電極の製造方法では、直流電圧を用いた電気泳動に対し、これらの非対称信号を用いた場合の方が目的粒子を良好に堆積できる場合には、適宜、非対称信号を用いてよく、様々な非対称信号を利用できる。
また、非対称信号は、正極側のピーク(0Vからピーク端までの振幅)の絶対値をV+とし、負極側のピーク(0Vからピーク端までの振幅)の絶対値をV−とすると(図2〜図6参照)、その比(V+/V−)は、0.02≦V+/V−≦50であることが好ましい。この範囲では、正極側と負極側とでピークの絶対値が異なる信号を用いることによる効果が特に良好に得られる。
この比(V+/V−)は、特に正極側へ泳動する作用を強くする場合、1<V+/V−≦50がより好ましく、1.01≦V+/V−≦30が更に好ましく、1.3≦V+/V−≦10が特に好ましく、1.5≦V+/V−≦5がとりわけ好ましい。
逆に、特に負極側へ泳動する作用を強くする場合、0.02≦V+/V−<1がより好ましく、0.03≦V+/V−≦0.99が更に好ましく、0.1≦V+/V−≦0.7が特に好ましく、0.2≦V+/V−≦0.5がとりわけ好ましい。
また、正極側の印加時間(0Vを基準として正極側への振幅を示している時間)をT+とし、負極側の印加時間(0Vを基準として負極側への振幅を示している時間)をT−とすると(図2〜図6参照)、その比(T+/T−)は、0.02≦T+/T−≦50であることが好ましい。この範囲では、正極側と負極側とで印加時間が異なる信号を用いることによる効果が特に良好に得られる。
この比(T+/T−)は、特に正極側へ泳動する作用を強くする場合、1<T+/T−≦50がより好ましく、1.01≦T+/T−≦30が更に好ましく、1.3≦T+/T−≦10が特に好ましく、1.5≦T+/T−≦5がとりわけ好ましい。
逆に、特に負極側へ泳動する作用を強くする場合、0.02≦T+/T−<1がより好ましく、0.03≦T+/T−≦0.99が更に好ましく、0.1≦T+/T−≦0.7が特に好ましく、0.2≦T+/T−≦0.5がとりわけ好ましい。
更に、比{(V+×T+)/(V−×T−)}についても、0.02≦{(V+×T+)/(V−×T−)}≦50であることが好ましい。
この比{(V+×T+)/(V−×T−)}は、特に正極側へ泳動する作用を強くする場合、1<{(V+×T+)/(V−×T−)}≦50がより好ましく、1.01≦{(V+×T+)/(V−×T−)}≦30が更に好ましく、1.3≦{(V+×T+)/(V−×T−)}≦10が特に好ましく、1.5≦{(V+×T+)/(V−×T−)}≦5がとりわけ好ましい。
逆に、特に負極側へ泳動する作用を強くする場合、0.02≦{(V+×T+)/(V−×T−)}<1がより好ましく、0.03≦{(V+×T+)/(V−×T−)}≦0.99が更に好ましく、0.1≦{(V+×T+)/(V−×T−)}≦0.7が特に好ましく、0.2≦{(V+×T+)/(V−×T−)}≦0.5がとりわけ好ましい。
前述したように、直流電圧のみを用いると、電流密度が高い場合(例えば、活物質の場合1mA/cm2以上、固体電解質の場合数100μA/cm2以上)には、堆積速度が大きく、得られる粒子堆積層(例えば、活物質層や固体電解質層)の膜厚が短時間に過度に厚くなってしまい、膜厚のコントロールができない場合がある。一方、電流密度が小さいと、堆積速度を小さくできるものの、得られる粒子堆積層の表面粗さが大きくなってしまうという問題が生じる場合がある。
かかる場合において、表面粗さの大きな粒子堆積層を観察すると、粒子同士の積層が認められる。導電性表面の所望領域に粒子が単層で堆積されたモノレイヤーが理想的な粒子堆積層であるところ、表面粗さの大きな粒子堆積層は、導電性表面のうち、ある箇所では粒子の堆積がほとんど認められず、他の箇所では粒子が2層以上に堆積される、というように堆積厚さのバラツキが大きくなった結果、表面粗さが大きくなっている傾向が認められる。
即ち、例えば、6個の粒子52を、基材51の導電性表面に堆積させる場合に、図8に例示されるように、粒子52同士の積層を生じると、粒子52同士が堆積されて膜厚が大きくなった箇所や、粒子52が全く堆積されない箇所を生じることとなり、得られる堆積層の表面粗さは大きくなる。これに対し、図7に例示されるように、例えば、すべての粒子52を1層に堆積することができれば、堆積された粒子数は、図8の場合と同じであっても、図8の堆積層に比べて、図7では表面粗さの小さな堆積層を得ることができる。そして、これらの操作を繰り返すことができれば、図9に示すように、種類の異なる粒子(粒子521と粒子522)を規則的に堆積させて、互いの接触面積を大きくすることができる。
この点、非対称信号を用いると、表面粗さが小さく、粒子の粒径に対して堆積厚さが十分に小さい粒子堆積層を得ることができる。即ち、図7や図9に例示されるような、理想的な粒子堆積を得ることができる。このような非対称信号を用いることで、粒子分布を制御できる理由は定かではない。更に、より小さい粒径の粒子に対して、非対称信号を用いる効果が現れる理由も定かではない。しかしながら、これまでの実験等の経緯から、泳動する粒子の質量差(慣性)が影響していると考える。
そして、基板側へ泳動する電場の作用を強くする時間(例えば、正極側の印加時間)が長くなると、堆積量が過度に大きく(略単層の膜であることを超えて堆積される)なる可能性があるため、基板側へ泳動する電場の作用を強くする時間は、前述のように短時間に抑えることが好ましい。即ち、基板側への泳動作用を強く(ピークの絶対値を大きく)且つ短く(印加時間を短く)することが好ましい。加えて、逆方向への電場は弱く(ピークの絶対値を小さく)長時間(印加時間を長く)作用する波形とすることで、堆積する粒子を適度に分散させることができると考えられる。
尚、上述のような理由から、電気泳動による粒子の堆積は1回のみ行うこともできるが、必要に応じて複数回に分けて行うことができる。言い換えれば、第1堆積工程(第2堆積工程)において、複数回の電気泳動を1セットにして1層の活物質層または固体電解質層を形成できる。特に、粒径が異なる(即ち、質量が異なる)複数種類の粒子を用いる場合には、各々の粒子に適した非対称信号を用いることにより、より制御性よく略単層であり、表面粗さの小さい粒子堆積層を得ることができる。また、非対称信号と、直流電圧のみの電圧印加とを組み合わせて電気泳動を行っても良い。
具体的には、大径粒子を含んだ第1の粒子含有液と、小径粒子を含んだ第2の粒子含有液と、を利用する場合が挙げられる。即ち、各々の粒子を、異なる粒子含有液に含有させ、各々電気泳動において適した非対称信号を用いて堆積させることができる。とりわけ、第1の粒子含有液中で電気泳動を行い、大径粒子を堆積させた後、第2の粒子含有液中で電気泳動を行い、小径粒子を、大径粒子が堆積され、大径粒子同士に形成された間隙に、小径粒子を充填するように堆積させることができる。
このように、粒径群が異なる粒子を各々異なった粒子含有液に分散させ、粒径の大きな粒子含有液で電気泳動を行った後、次第に粒径の小さな粒子含有液で電気泳動を行うことによって、緻密で表面平滑性に優れた粒子堆積層を形成できる。
更に、粒径に応じ、印加電圧の周波数を制御することで、より単層化された堆積を得ることができる。即ち、より単層を形成し易い周波数を積極的に選択することができる。具体的には、堆積させる粒径やその粒度分布に応じ、適切な周波数を予めサーチし、その周波数を用いて電圧印加を行う(電気泳動する)ことで、第2層以上の堆積を抑制し、第1層(単層)のみによる堆積領域を選択的に多くすることができる。
印加電圧の周波数は、例えば、5Hz以上13Hz以下とすることができ、6Hz以上13Hz以下が好ましく、7Hz以上12Hz以下がより好ましく、7Hz以上11Hz以下が特に好ましい。この周波数のどのような粒径の粒子に対しても利用できるが、特に、平均粒径0.5μm以上7μm以下(特に0.7μm以上6μm以下)の粒子に対して好適である。
(2)第2の電極の製造方法
本第2の電極の製造方法(以下、単に「第2の製法」ともいう)は、上述の第1の製法に加え、活物質にイオン交換樹脂を付着させる前処理工程を備えて構成される。この前処理工程では、常法に従って、イオン交換反応を実施する。具体的には、所定量のイオン交換樹脂を溶解させた後、所定量の活物質を投入して撹拌して活物質にイオン交換樹脂を付着させる。そして、活物質を回収して洗浄を行う。次いで、塩を溶かした溶液中に、回収した活物質を添加し、活物質に付着させたイオン交換樹脂のイオン交換基の対イオンを、イオン交換反応によって塩のイオンと置換する。イオン交換基の対イオンがカチオンであれば、塩のカチオンと置換され、イオン交換基の対イオンがアニオンであれば、塩のアニオンと置換される。イオン交換樹脂や塩を溶解する溶媒には、水やアルコールなどの極性溶媒が好適に用いられる。
例えば、イオン交換樹脂のイオン交換基がスルホン酸基、塩が有機オニウム塩である場合には、スルホン酸基のプロトンが、有機オニウム塩のカチオン(陽イオン)と置換される。これにより、イオン交換樹脂のイオン交換基は塩の態様(塩型)となる。
尚、イオン交換基の対イオンは、初期の対イオン(H+やOH−)を、一度のイオン交換反応で目的とする対イオン(第一の対イオン)としても良く、別の対イオンに交換した後、更にイオン交換を行って目的とする対イオン(第一の対イオン)としても良い。また、出発物質のイオン交換樹脂に、イオン交換が行われて塩型となっているものを用いても良い。
ここで、イオン交換樹脂が、主鎖にスチレン由来の単位とオレフィン由来の単位とを有する重合体であると、かかる主鎖の部分が無極性溶媒などの極性の低い溶媒に対して親和性を有する。このため、活物質含有液の分散媒に無極性溶媒などの極性の低い溶媒を用いる場合において、活物質を分散媒中に安定に分散させる方向に作用する。また、イオン交換基の対イオンの電離を促進するように作用すると推定される。
イオン交換基が、強酸性基であるスルホン酸基(又はスルホン酸由来の基、スルホン酸塩型の基)である場合には、そのプロトンと、目的の他のカチオンとが比較的容易にイオン交換され得る。このため、有機オニウム塩の陽イオンで置換(カチオン交換)されたイオン交換樹脂を簡便に得ることができる。イオン交換反応によってイオン交換基の少なくとも一部を、任意の対イオンとすることができ、元のイオン交換樹脂よりも、より対イオンが電離容易な構造に変更することができる。これにより、第1堆積工程を実施する際に、非極性溶媒中で、対イオンがイオン交換基から電離することを容易化でき、活物質に付与する電荷を強めることができる。
かかる有機オニウム塩としては、上記したように、ブロモニウム塩、ヨードニウム塩、オキソニウム塩、スルホニウム塩、アルソニウム塩、アンモニウム塩(第四級)、アンモニウムフルオリド(第四級)、アンモニウムクロリド (第四級)、アンモニウムブロミド (第四級)、アンモニウムヨージド (第四級)、アンモニウムヒドロキシド (第四級)、アンモニウムポリハライド、ホスホニウム塩などが例示される。特に、溶解安定性の観点から、第4級塩を用いることが好適であり、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩がより好適である。これにより、上記の第1堆積工程において、電気泳動によって活物質を積層する際に、非極性溶媒中でイオン交換基から電離した対イオンが溶媒中で安定化するので、活物質に付与する電荷を強めることができると共に、対イオンの再結合が抑制され、活物質の溶媒中での分散性、泳動性を良好に維持することができる。よって、より一層、安定に電気泳動を実施できるものとなる。
ここで、第2の製法においては、イオン交換基がカチオン交換基であり、有機オニウム塩の陽イオンを対イオンとする塩型の物を用いて説明したが、イオン交換基は、アニオン交換基であってもよい。かかる場合には、強塩基性のイオン交換基が好適である。また、上記したカチオン交換基の場合と同様の作用を得るため、イオン交換基は塩型とすることが望ましく、かかる場合の対イオンとしては、リチウム塩の陰イオンが望ましい。また、リチウム塩の陰イオン以外にも、アニオン界面活性剤のアニオンとイオン交換をして対イオンとしても良い。
そして、前処理工程終了後は、前処理工程で処理をした活物質を用いて、上記の第1堆積工程を実施し、第1の製法と同様の工程によって電極を作製する。
(3)第3の電極の製造方法
本第3の電極の製造方法(以下、単に「第3の製法」ともいう)は、活物質を主成分とする活物質層と、固体電解質またはその前駆体を主成分とする固体電解質層と、を備えた電極の製造方法であって、固体電解質層を硫化物固体電解質またはその前駆体で形成するものである。活物質含有液中における電気泳動によって、活物質を堆積し、活物質層を形成する第1堆積工程を備え、活物質含有液は、分散媒に塩化メチレンを含むことを特徴とする。また、活物質含有液に含まれる活物質には、分散媒(塩化メチレン)中で電離する対イオン(第一の対イオン)を有する上述のイオン交換樹脂が付着したものが用いられる。
更に、第3の製法では、第1堆積工程の前工程又は後工程として、固体電解質及び/又はその前駆体を含んだ固体電解質含有液中における電気泳動によって、固体電解質及び/又はその前駆体を活物質層に隣接するように堆積し、固体電解質層又はその前駆体層を形成する第2堆積工程を備える。そしてこの時、固体電解質が、硫化物固体電解質またはその前駆体である。
この場合、固体電解質含有液の分散媒は、特に限定されないものの、飽和脂肪酸エステル化合物が好ましい。飽和脂肪酸エステル化合物を分散媒とすることにより、粒子として特に固体電解質として、硫化物固体電解質を用いることができる。飽和脂肪酸エステル化合物としては、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらなかでは、プロピオン酸エチルが特に好ましい。
また、第3の製法においても、前述と同様に、電気泳動において、非対称信号を用いることができる。
本第3の製法における上記の各々の記載については、既に第1の製法において、各々説明した通りである。
[3]電池の製造方法
本発明の全固体型リチウムイオン電池(1)は、本発明に記載の電極(2)を備えることを特徴とする。
即ち、全固体型リチウムイオン電池(1)は、一対の電極(2a、2b)間に固体電解質体(3)が配置された構造を有する。このうち、一対の電極のうちの一方は正極として機能され、他方は負極として機能される。各々の電極については前述の通りである。
更に、固体電解質体(3)は、固体電解質を含むLiイオン伝導体である。その形状、大きさ等は特に限定されず適宜のものとすることができる。また、固体電解質体(3)を構成する固体電解質としては、電極(2)に利用できる固体電解質として前述したものをそのまま利用できる。但し、電極(2)に含まれる固体電解質と、固体電解質体(3)に含まれる固体電解質とは、同じものであることが好ましい。
本発明の全固体型リチウムイオン電池(1)は、上述した以外にも、例えば、セパレータ等、必要に応じて公知の構成を備えることができる。
以下に、本発明の電極および電極の製造方法に加えて、上述した各種実施形態に含まれる各種発明の概念を示す。
一対の電極間に固体電解質体が配置された構造を有する全固体型リチウムイオン電池に用いられる前記電極であって、活物質を主成分とする活物質層と、固体電解質を主成分とする固体電解質層と、を備えることを特徴とする電極A1。
電極A1によれば、活物質を主成分とする活物質層と、固体電解質を主成分とする固体電解質層と、を備える。即ち、活物質及び固体電解質の各成分の分布が層状に制御されて形成された電極である。この構成により、活物質層に任意の層構造を導入することができる。このため、活物質層から固体電解質層に至るまでのイオンの移動経路を予め設計した構造を実現できる。
なお、電極A1の各層を電気泳動によって形成すれば、層厚を制御しつつ各層を形成することができるが、必ずしも各層を電気泳動で形成する必要はなく、適宜、ディップやコーティングによって形成されたものであってもよい。また、かかる方法と電気泳動とを組み合わせて形成されたものであっても良い。
電極A1において、前記活物質層は、イオン交換基を有する樹脂であって該イオン交換基の全部または一部に、前記固体電解質又はその前駆体の貧溶媒で且つ非プロトン性溶媒中で電離する対イオンがイオン結合するイオン交換樹脂を含んでおり、前記活物質層に比べて、前記固体電解質層が薄く形成されていることを特徴とする電極A2。
電極A2によれば、活物質層に比べて、固体電解質層が薄く形成されているので、電極内の活物質の充填量を増大させ、電池容量の向上を図ることができる。
電極A1またはA2において、前記活物質層及び前記固体電解質層の両層が、導電助剤を含むことを特徴とする電極A3。電極内部で生じた電子を外部に取出すため、一般に、電極は導電性の集電体上に形成される。このため、電極内の各層に導電助剤が含まれることで、電極内部で発生した電子を円滑且つ効率的に集電体まで伝導することができる。
活物質を含んだ活物質含有液中における電気泳動によって、前記活物質を堆積して前記活物質層を形成する第1堆積工程と、固体電解質及び/又はその前駆体を含んだ固体電解質含有液中における電気泳動によって、前記固体電解質及び/又はその前駆体を堆積し、前記第1堆積工程で形成される前記活物質層に隣接する固体電解質層又はその前駆体層を形成する第2堆積工程とを備え、前記第1堆積工程は、前記固体電解質層が形成された後に前記活物質層を形成する場合、前記固体電解質又はその前駆体の貧溶媒で且つ非プロトン性溶媒を分散媒とした活物質含有液において、当該分散媒中で電離するイオンを有するイオン交換樹脂が付着した状態で前記活物質を電気泳動するものであり、前記第2堆積工程の前記電気泳動において、印加する電圧の信号として、正極側と負極側とで非対称な波形を有する信号を用いることを特徴とする電極の製造方法B1。
電極の製造方法B2において、前記信号は、正極側と負極側とでピークの絶対値が異なる信号であることを特徴とする電極の製造方法B3。
電極の製造方法B2またはB3において、前記信号は、正極側と負極側とで印加時間が異なる信号であることを特徴とする電極の製造方法B4。
電極の製造方法B1からB4のいずれかによれば、電気泳動時に液体中の粒子の動きをより高度に制御することができる。
本発明について、次に実施例を示し更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
[1]実施例1
〈1〉活物質含有液(分散液)の調製
カチオン交換樹脂として、下記式(1)に示すポリスチレン-block-ポリ(エチレン-ran-ブチレン)-block-ポリスチレンスルホン酸溶液(Sigma-Aldrich社製、溶媒組成1,2―ジクロロエタン 5〜10%、1―プロパノール 80〜90%、THF3〜10%)に0.1 Mの水酸化ナトリウを滴下して中和し,ナトリウム塩として沈殿させた。その後遠心分離を行い、得られた分散液の上層を除去して下層を回収し,その沈殿にイオン交換水を加えることでナトリウム塩としたイオン交換樹脂の水溶液を調製した。
次いで、この水溶液に、粒状活物質として、Li(NixMnyCoz)O2で表されるLi含有複酸化物の粉末(以下、単に、「NMC粉末」と略すことがある。)、平均粒径5μmのものを添加し、超音波洗浄機を用いて30分間、分散させた。その後、分散液を、遠心分離処理し、得られた分離液の上層を除去して下層を回収した。回収物にイオン交換水を加え、超音波洗浄機にて再度分散させた後、遠心分離にて回収する処理を5回繰り返すことで洗浄し、余剰のイオン交換樹脂を除去した。
続いて、有機オニウム塩として、テトラフェニルホスホニウムブロミド(東京化成工業社製)を、上記NMC−イオン交換樹脂分散液から沈殿が生じるまで当該分散液に添加、溶解させ、先に行ったイオン交換反応によりイオン交換樹脂に導入されたナトリウムイオンを、ホスホニウムカチオンに置換した。これにより、活物質に付着するイオン交換樹脂のイオン交換基(スルホン酸基)の対イオンが、ホスホニウムカチオンとなる塩の態様とせしめた。
その後、上記懸濁液から、遠心分離によって活物質を回収し、イオン交換水にて洗浄を行った後、100℃、6時間で真空乾燥をした。脱水した塩化メチレン50mlに、乾燥した活物質1.33gを加え、超音波洗浄機にて30分間分散処理を行って固形濃度2質量%の活物質含有液を得た。
〈2〉固体電解質含有液(分散液)の調製
モル比3:1となるように、硫化リチウム粉体と、五硫化二リン粉体とを秤量し、メノウ乳鉢で混合した。得られた混合物と、プロピオン酸エチルと、ジルコニアボール(直径4mm)とを、樹脂製容器に投入し、温度24℃、振幅約1cm、及び、約1500回/分の条件で振とうし、接触反応させた。24時間後、樹脂製容器からジルコニアボールを除去して、固体電解質の前駆体(平均粒径1μm)が分散された分散液(サスペンジョン、固形分濃度 1.1質量%)である固体電解質含有液を得た。尚、本分散液は固体電解質前駆体が分散されたものであるが、説明を簡単にするために便宜上、固体電解質含有液と称す。
尚、硫化リチウム(Li2S)粉末は、株式会社ミツワ化学製、純度99%、平均粒径53μmを用いた。また、五硫化二リン(P2S5)粉末は、Sigma-Aldrich社製、純度99%、平均粒径100μmを用いた。
〈3〉電気泳動
上記〈1〉で得られた活物質含有液を泳動槽に投入し、この活物質含有液内に、5mmの間隔を空けて正電極及び負電極を対向させた。正電極及び負電極には、各々、ITO(酸化インジウムスズ)からなる導電性表面を有する基材(ITO基板)を用いた。
そして、上記の正電極と負電極との間に、直流で電流密度30μA cm-2で15秒、30秒、45秒間印加して電気泳動を行った。上記泳動時間を経過した正電極(カソード)は、それぞれ泳動槽から引き上げた後、自然乾燥を行った。これにより、ITO基板の導電性表面に形成された活物質層を得た。
また、上記〈2〉で得られた固体電解質含有液を泳動槽に投入し、この固体電解質含有液内に、5mmの間隔を空けて正電極及び負電極を対向させた。正電極及び負電極には、各々、ITO(酸化インジウムスズ)からなる導電性表面を有する基材(ITO基板)を用いた。そして、上記の正電極と負電極との間に、直流で電流密度5.0μA cm-2で、15秒、30秒、45秒間印加し、固体電解質前駆体の電気泳動を行った。上記泳動時間を経過した負電極は、それぞれ泳動槽から引き上げた後、自然乾燥を行った。これにより、ITO基板の導電性表面に形成された固体電解質層を得た。
上記で得られた活物質層および固体電解質層の層厚を、堆積物の重量に基づき算出した。具体的には、泳動前後のITO基板の重量の差分から堆積重量を算出すると共に、堆積面積と比重とから層厚に換算した。結果を図10に示す。
図10は、NMC粉末および固体電解質の前駆体の堆積重量と泳動時間との関係を示した図である。横軸は泳動時間(秒)、縦軸は1平方センチ当たりの堆積重量(mg)である。図10中において、黒塗りの四角にてNMC粉末の堆積量が、白抜きの三角にて固体電解質前駆体の堆積量が示されている。また、括弧書きの数値にて堆積重量から換算した層厚を示す。
図10からもわかるように、電気泳動時間に応じて、活物質層および固体電解質層はそれぞれ層厚が厚膜化することが示されており、電気泳動時間によって適切に層厚を制御できることが明らかとなった。
[2]実施例2(活物質層と固体電解質層との積層)
実施例1の〈1〉と同様にして、活物質含有液(分散液、固形分濃度2質量%)を作製し、更に、実施例1の〈2〉と同様にして固体電解質含有液(分散液、固形分濃度1.1質量%)を得た。
上記で得られた活物質含有液を泳動槽に投入し、この活物質含有液内に、5mmの間隔を空けて正電極及び負電極を対向させた。正電極及び負電極には、各々、ITO(酸化インジウムスズ)からなる導電性表面を有する基材(ITO基板)を用いた。そして、上記の正電極と負電極との間に、直流で電流密度30μA cm-2で15秒印加し電気泳動を行った。その後、正電極(カソード)を泳動槽から引き上げた後、自然乾燥を行って、ITO基板の導電性表面に形成された活物質層を得た。
上記の操作によって得られた固体電解質含有液を泳動槽に投入し、この固体電解質含有液内に、5mmの間隔を空けて正電極及び負電極を対向させた。このうち、負電極には、上記において活物質層が積層されたITO基板を用いた。一方、正電極には、ITO(酸化インジウムスズ)からなる導電性表面を有するITO基板を用いた。そして、上記の正電極と負電極との間に、直流で電流密度5.0μA cm-2で30秒間、印加して電気泳動を行った。その後、正電極(カソード)を泳動槽から引き上げた後、自然乾燥を行って、ITO基板の導電性表面に形成された活物質層及び固体電解質層がこの順に積層された積層体(電極、正極)を得た。
その後、同様の操作を繰り返して、活物質含有液と固体電解質含有液内での電気泳動を交互に行い、3層の活物質層と、3層の固体電解質層とが交互に形成された積層体を得た。得られた積層体(電極)を図11に示す。
図11は、実施例2で形成した電極の断面顕微鏡写真である。図11には、実施例2で形成した積層体を積層方向に直線的に割り、その破断面を露出させ、破断面が露出した試料を、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、型式「S−4800」)の試料台にカーボンテープを用いて貼り付けて上記破断面を20倍に拡大して観察した結果が示されている。
図11において、紙面下方側がITO基板である。また、黒い粒状物はNMC粉末であり、このNMC粉末が層状になっていること(NMC layer)が認められた。また、白い物質は固体電解質前駆体(LPS precursorlayer)であり、この前駆体が層状になっていることが認められた。尚、LPSとは、75モル:25モルとなる比率で原料の硫化リチウム(Li2S)と、五硫化二リン(P2S5)とが混合されて生成した固体電解質であってその構造中にLi3PS4が含まれるものである。また、LPS precursorlayerとは、このLPSの前駆体であり、例えば、加熱工程などの処理を経てLPSへと変換されるものをいう。このように、実施例2では、ITO基板(Substrate)上に、厚さ約4μm〜10μmで堆積された活物質層、厚さ約4μm〜7μmで堆積された固体電解質層が、交互に積層された電極構造物が得られたことが図11から分かる。
[3]実施例3(全固体型リチウムイオン電池)
アルミニウム製基板(直径10mm)を、ITO基板の代わりに用い、活物質含有液の泳動において直流電圧を300μAcm-2、泳動時間を5秒、固体電解質含有液の泳動において直流電圧を10μAcm-2、泳動時間を5秒、とした以外は、前述の実施例2と同様にして、アルミニウム製基板上に、まずLPS前駆体層(固体電解質の前駆体層)を形成し、次いで活物質層を形成して、3層の固体電解質層と2層の活物質層とが交互に積層された積層体を得た。積層体の最上層は固体電解質層とした。得られた積層体は、室温で30分間予備乾燥させた後、170℃の真空環境下で3時間掛けて真空乾燥を行い、固体電解質の前駆体を、固体電解質(LPS)に変化させた。これにより、正極を得た。
80mgのLPSを加圧成形して得られた、厚さ1000μmの固体電解質体を、作製した正極の固体電解質層の表面に圧着した。
得られた積層体(正極と固体電解質体との積層体)の固体電解質体の表面に厚さ100μmのインジウム箔を圧着して、全固体型リチウムイオン電池を得た。
即ち、実施例3の全固体型リチウムイオン電池は、アルミニウム製基板からなる基材(集電体)、その導電性表面に積層された固体電解質(固体電解質粒子)を含んだ固体電解質層、活物質(活物質粒子)を含んだ活物質層を交互に備えた正極を有する。更に、正極の最上層(表面)の固体電解質層に積層された固体電解質体を有する。そして、固体電解質体の表面に積層された負極を有する。そして、この全固体型リチウムイオン電池において、(株)ナガノ製、BTS−2004Hで充電試験を行ったところ、二時間の充電時間で充電容量約2mAhg-1を示し僅かながら充電を示す結果が得られた。
参考例1(全固体型リチウムイオン電池)
〈1〉活物質含有液(分散液)の調製
下記の粒状活物質を用い、下記の手順により活物質含有液(分散液)を調製した。
(1)下記の活物質を、ポリ塩化ジアリルジメチルアンモニウム(カチオン性界面活性剤)の10質量%水溶液に投入し、超音波処理を行って分散させた。
(2)上記(1)の分散液に、イオン交換水を加えて遠心分離処理し、得られた分離液の上層を除去して下層を回収した。
(3)上記(2)の液体(回収した下層)に、イソプロピルアルコールを投入し、遠心分離処理を行い、得られた分離液の上層を除去して下層を回収する操作を3回繰り繰り返し、液中から水を除去することによって分散媒をイソプロピルアルコールへと置換した。このようにして、活物質を分散質とし、イソプロピルアルコールを分散媒とし、ポリ塩化ジアリルジメチルアンモニウムを分散剤として、活物質が分散された活物質含有液(分散液、固形分濃度3質量%)を得た。
活物質:Li(NixMnyCoz)O2で表されるLi含有複酸化物の粉末、平均粒径5μm
〈2〉活物質層の積層
上記〈1〉で得られた活物質含有液を泳動槽に投入し、この活物質含有液内に、10mmの間隔を空けて正電極及び負電極を対向させた。このうち、正電極にアルミニウム製基板、負電極にアルミニウム製基板(直径10mm)を用いた。そして、上記の正電極と負電極との間に、非対称信号を有する電圧を45秒間印加して、電気泳動を行った。
その後、上記泳動時間を経過した負電極を泳動槽から引き上げた後、自然乾燥を行って、アルミニウム製基板の導電性表面に形成された活物質層が積層された積層体を得た。
また、上記非対称信号として、三角波(90V)からなる対称信号を有する交流電圧と、10Vの直流電圧とを重畳させて得られた非対称信号を用いた。この非対称信号は図2で示される。但し、V+=100V、V−=100V、T+=0.02秒、T−=0.02秒、周波数20Hz)である。
〈3〉固体電解質含有液(分散液)の調製
前述の実施例1〈2〉の固体電解質含有液(分散液)の調製と同様にして、固体電解質の前駆体が分散された分散液(サスペンジョン、固形分濃度10mg/mL)である固体電解質含有液を得た。
〈4〉固体電解質層の形成
上記〈3〉で得られた固体電解質含有液を泳動槽に投入し、この固体電解質含有液内に、5mmの間隔を空けて正電極及び負電極を対向させた。正電極には、アルミニウム製基板を用い、負極には、上記〈2〉で得られた導電性表面に活物質層が堆積されたアルミニウム製基板を用いた。そして、上記の正電極と負電極との間に、電圧25Vで直流電圧を10秒間印加して電気泳動を行った。
その後、上記泳動時間を経過した負電極を泳動槽から引き上げた後、室温で30分間予備乾燥させた後、170℃の真空環境下で3時間掛けて真空乾燥を行い、アルミニウム製基板(直径10mm)の導電性表面に活物質層と固体電解質層とがこの順に積層された積層体を得た。
〈5〉固体電解質体の積層
80mgのLPS(75Li2S・25P2S5)を加圧成形して得られた、厚さ1000μmの固体電解質体を、上記〈4〉までに得られた積層体(電極)の固体電解質層の表面に圧着した。
〈6〉リチウムイオン電池の形成
上記〈5〉までに得られた積層体(電極と固体電解質体との積層体)の固体電解質体の表面に厚さ100μmのインジウム箔を圧着して、全固体型リチウムイオン電池を得た。
即ち、参考例1の全固体型リチウムイオン電池1は、アルミニウム製基板からなる基材(集電体)、その導電性表面に積層された活物質(活物質粒子)を含んだ活物質層、この活物質層の表面に積層された固体電解質(固体電解質粒子)を含んだ固体電解質層、を備えた正極を有する。更に、正極の最上層(表面)は固体電解質層が形成されており、これに固体電解質体が積層されている。更に、固体電解質体の表面に積層された負極を有する。
〈7〉充放電の確認
上記〈6〉までに得られた全固体型リチウムイオン電池を収めた治具を、ガラス容器に封入し、ガラス容器内の気体をアルゴンガスに置換して、測定セルを得た。得られた測定セルの充放電の可否を、電気化学測定装置(Solartron社製、型式「SI 1287」)を用いて定電流・定電圧・充電法により観察した。具体的には、3.8 V vs.In−Liまでレート0.01 Cで定電流充電を行い、その後、100時間経過するまで定電圧充電を行った。その直後に1.6 V vs. In−Liの電位までレート0.01 Cで放電を行った。その結果、0.133mAh/g程度の放電容量を得ることができた。即ち、電気泳動によって活物質と固体電解質とを積層した電極(正極)が正極として機能し、これを備えた全固体リチウムイオン電池が、充電及び放電が可能であることが示された。
尚、上記治具は、図12に示す治具70を用いた。即ち、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製の筒状体74の貫通孔74a内に、上記参考例1で得られた全固体型リチウムイオン電池1を収容した。一方、ステンレス製の凸型ブロックとステンレス製のネジによって組み立てた押さえピン72を一対(正極側及び負極側)を用意した。そして、全固体型リチウムイオン電池1の上下を挟むように、貫通孔74a内に押さえピン72を挿入した。更に、これらの押さえピン72を締め付けるために、ステンレス製の一対の押さえ板71(正極側及び負極側)と、押さえ板を締め付けるステンレス製の3本の締付けネジ73を用意し、各押さえピン72を上下を押さえ板71で挟み、これらの押さえ板71を締付けネジ73で締め付けて(ネジの拘束圧:9N・m)、全固体型リチウムイオン電池1を治具70内に収容した。各種通電は、押さえピン72の凸部(図12上で符号72を付している箇所)より行う。
[4]実施例4
〈1〉活物質含有液(分散液)の調製
アニオン交換樹脂として、下記の式(2)のカチオン性ポリマー(ポリクオタニウム11,Polyquaternium−11)水溶液に、粒状活物質としてNMC粉末(平均粒径5μm)を添加し、超音波洗浄機を用いて30分間、分散させた。その後、分散液を、遠心分離処理し、得られた分離液の上層を除去して下層を回収した。回収物にイオン交換水を加え、超音波洗浄機にて再度分散させた後、遠心分離にて回収する処理を5回繰り返すことで洗浄し、余剰のイオン交換樹脂を除去した
続いて、対イオン供給源となる下記式(3)のアニオン界面活性剤のスルホこはく酸ビス(2−エチルヘキシル)ナトリウム(キシダ化学社製、商品名Aerosol OT)を上記NMC−イオン交換樹脂分散液から沈殿が生じるまで添加し、イオン交換反応によってポリクオタニウム11に起因するエチルスルホン酸イオンを、スルホこはく酸ビス(2−エチルヘキシル)ナトリウムに起因するアニオンに置換した。これにより、イオン交換基(第四級アンモニウム基)の対イオンが、より親油性の高いスルホン酸基由来のアニオンとなり、活物質に付着するイオン交換樹脂を塩の態様とせしめた。その後は、実施例1と同様に、活物質を回収し、分散媒を塩化メチレンとした固形濃度2質量%の活物質含有液を得た。
〈2〉電気泳動
本実施例の〈1〉で得られた活物質含有液と、実施例1の〈2〉と同様にして得られた固体電解質含有液とにより、実施例2と同様の手法で電気泳動を行い、基板上に固体電解質層および活物質層を順次形成した。電気泳動は、活物質および固体電解質前駆体のそれぞれについて複数回行った。また、泳動時間は45秒および15秒で行った。活物質層の形成は、直流100V、電流密度30μA cm-2で行った。固体電解質層の形成は直流100V、電流密度5μA cm-2で行った。
図13は、実施例4によって作製した積層体(正極)を示した図である。図11と同様に、紙面下方側が基板である。また、黒い粒状物はNMC粉末であり、白い物質は固体電解質前駆体(LPS precursorlayer)である。図13(a)には、各層を45秒間の電気泳動によって形成した積層体を示しており、図13(b)には、各層を15秒間の電気泳動によって形成した積層体を示している。図13からもわかるように、45秒間の電気泳動を複数回(活物質層3回、固体電解質層3回)行うことにより、活物質層および固体電解質層それぞれが約8μmの層厚で複数層形成された全膜厚48μmの積層体が得られた。また、電気泳動時間を15秒間とすることにより、層厚を薄くすることができ、活物質層および固体電解質層それぞれが約4μm〜5μm程度の層厚で複数層形成された全膜厚52μmの積層体を得られることが示された。
参考例2(全固体型リチウムイオン電池)
実施例4の〈1〉で作製した活物質含有液と実施例1の〈2〉と同様にして得られた固体電解質含有液とを用いて、電気泳動によりアルミニウム製基板(直径10mm)上に、5μm厚の活物質層と10μm厚の固体電解質層とがこの順に積層された積層体を得た。次いで、この積層体を用いて参考例1と同様に電池を形成し、充放電の可否を定電流・定電圧・充電法により観察した。具体的には、3.8 V vs.In−Liまでレート0.01 Cで定電流充電を行い、その後、100時間経過するまで定電圧充電を行った。その直後に1.6 V vs. In−Liの電位までレート0.01 Cで放電を行った。その結果を図14に示した。図14は、本参考例で作製した電池の充放電曲線を示した図である。横軸は容量(Capasity)、縦軸は電圧(Voltage)を示している。実線は充電曲線、破線は放電曲線である。これからもわかるように、数mAhg−1の充放電容量を観測した。
比較例1
上記実施例1の〈2〉で得られた固体電解質含有液を泳動槽に投入し、この固体電解質含有液内に、5mmの間隔を空けて正電極及び負電極を対向させた。正電極及び負電極には、各々、ITO(酸化インジウムスズ)からなる導電性表面を有する基材(ITO基板)を用いた。そして、上記の正電極と負電極との間に、直流で電流密度5.0μA cm-2で、45秒間印加し、固体電解質前駆体の電気泳動を行った。上記泳動時間を経過した負電極は、それぞれ泳動槽から引き上げた後、自然乾燥を行った。これにより、ITO基板の導電性表面に形成された固体電解質層を得た。
極性溶媒(非プロトン性)である炭酸エチレン(誘電率90)、炭酸プロピレン(誘電率65)、アセトニトリル(誘電率37.5)をそれぞれ準備し、上記得られた固体電解質層を浸漬したところ、瞬時に溶解した。