上記の特許文献1に記載されているチェーンを用いたチェーン式の無段変速機では、チェーンが破断すると、その破断したチェーンが無段変速機のケースに衝突する可能性がある。例えば、チェーンが引っ張り側の部分で破断した場合には、破断したチェーンのうち、駆動プーリに巻き掛かっている部分が駆動プーリに向けて直線的に移動する。そして、駆動プーリに巻き掛かった時点で遠心力を受けるから、破断して生じた端部が駆動プーリの外側に振り回されてケースの内面に衝突するおそれがあり、ケースを適切に保護する必要がある。
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、チェーンが破断した場合であっても、その破断したチェーンがケースに衝突することを防止もしくは抑制することができる無段変速機を提供することを目的とするものである。
上記の目的を達成するために、この発明は、プライマリプーリと、セカンダリプーリと、前記プライマリプーリおよび前記セカンダリプーリのそれぞれのプーリ溝に巻き掛けられて前記プライマリプーリと前記セカンダリプーリとの間でトルクを伝達する巻掛け伝動部材とがケース内に収容され、前記プーリ溝の溝幅を変化させることによって変速比を変更する無段変速機において、前記プライマリプーリおよび前記セカンダリプーリのうちのいずれか一方である第1プーリと前記ケースの内面との間に配置された遮蔽部材を有し、前記遮蔽部材は、前記プライマリプーリおよび前記セカンダリプーリのうちのいずれか他方である第2プーリとは反対側であり、前記巻掛け伝動部材が前記第1プーリに巻き掛けられた部分の外周を覆う板部を有し、前記板部は、前記巻掛け伝動部材が前記第1プーリに巻き掛かり始める箇所における前記巻掛け伝動部材に対する接線の前記遮蔽部材側への延長線と交わるように構成されていることを特徴とするものである。
この発明においては、前記板部は、前記第1プーリの外周に沿った円弧部を備えていてよい。
この発明においては、前記板部は、前記第1プーリに対する巻き掛け半径が最大の状態で前記巻掛け伝動部材が前記第1プーリに巻き掛かり始める箇所における前記巻掛け伝動部材に対する接線の前記遮蔽部材側への延長線よりも前記第1プーリの半径方向で外周側に位置する第1端部と、前記第1プーリに対する巻き掛け半径が最小の状態で前記巻掛け伝動部材が前記第1プーリに巻き掛かり始める箇所における前記巻掛け伝動部材に対する接線の前記遮蔽部材側への延長線を挟んで前記第1端部とは反対側に位置する第2端部とを有していてよい。
この発明においては、前記第2端部は、前記第1プーリに対する巻き掛け半径が最大の状態で前記巻掛け伝動部材が前記第1プーリから前記第2プーリに向けて離脱する箇所における前記巻掛け伝動部材に対する接線の前記遮蔽部材側への延長線よりも前記第1プーリの半径方向で外周側に位置するように構成されていてよい。
この発明においては、前記第2端部は、前記第1プーリと前記第2プーリとの回転中心軸線を結んだ直線に平行な方向もしくは前記方向よりも前記第2プーリの半径方向で外側に向けた方向に前記巻掛け伝動部材を誘導する向きに形成されていてよい。
この発明においては、前記第1プーリおよび前記第2プーリは、回転中心軸線が水平になるように配置され、前記第2端部は、前記第1プーリの下側に配置され、前記第2端部側の予め定めた長さの範囲には、前記第1プーリの側面に対向するように前記第1プーリの半径方向で内側に延びたフランジ部が形成されて、前記範囲の部分の断面形状がU字状になっていてよい。
この発明においては、前記板部と前記第1プーリの外周縁との間隔が、前記遮蔽部材における前記板部以外の部分と前記第1プーリとの間隔より広くてよい。
この発明によれば、プーリのうちのいずれか一方の第1プーリとケースの内面との間に遮蔽部材が配置されている。遮蔽部材は、プーリのうちのいずれか他方の第2プーリとは反対側の外周を覆う板部を備えている。チェーンなどの巻掛け伝動部材が引っ張り側の部分で破断した場合には、破断した巻掛け伝動部材のうち、第2プーリに巻き掛かっている部分が第1プーリに向けて直線的に移動する。そして、第1プーリに巻き掛かった時点で遠心力を受けるから、破断して生じた端部が第1プーリの外側に振り回されてケースに衝突する。それに対して、この発明によれば、上記の遮蔽部材が設けられているため、その破断した巻掛け伝動部材は遮蔽部材の板部に衝突する。したがって、破断した巻掛け伝動部材がケースに衝突することを抑制あるいは回避することができる。
また、この発明によれば、板部は、第1プーリの外周に沿った円弧部を備えている。そのため、破断した巻掛け伝動部材が板部に衝突したときに、その衝突によって板部に生じる衝撃力を分散させることができる。したがって、板部の耐久性を向上させることができる。
また、この発明によれば、板部は、巻掛け伝動部材の第1プーリに対する巻き掛け半径が最大の状態で巻掛け伝動部材が第1プーリに巻き掛かり始める箇所における巻掛け伝動部材に対する接線の遮蔽部材側への延長線よりも第1プーリの半径方向で外周側に位置する第1端部と、巻掛け伝動部材の第1プーリに対する巻き掛け半径が最小の状態で巻掛け伝動部材が第1プーリに巻き掛かり始める箇所における巻掛け伝動部材に対する接線の遮蔽部材側への延長線を挟んで第1端部とは反対側に位置する第2端部とを有する。そのため、上述したように破断した巻掛け伝動部材が移動したときに、変速比の大きさに関わらず、その破断した巻掛け伝動部材がケースに衝突することを抑制することができる。
また、この発明によれば、第2端部は、第1プーリに対する巻き掛け半径が最大の状態で巻掛け伝動部材が第1プーリから第2プーリに向けて離脱する箇所における巻掛け伝動部材に対する接線の遮蔽部材側への延長線よりも第1プーリの半径方向で外周側に位置する。そのため、チェーンが破断したときのプーリの回転方向がいずれの方向であっても、巻掛け伝動部材が破断して生じた端部がケースに衝突することを抑制することができる。
また、この発明によれば、板部の第2端部は、第1プーリと第2プーリとの回転中心軸線を結んだ直線に平行な方向もしくはその方向よりも第2プーリの半径方向で外側に向けた方向に巻掛け伝動部材を誘導する向きに形成されている。そのため、破断した巻掛け伝動部材が、板部に衝突して第2端部側から飛び出した後に、第2プーリのプーリ溝に噛み込まれることを抑制あるいは回避することができる。
また、この発明によれば、第2端部は、第1プーリの鉛直方向下側に配置されている。さらに、第2端部側の予め定めた長さの範囲には、第1プーリの側面に対向するように第1プーリの半径方向で内側に延びたフランジ部が形成されている。そのため、第1プーリは、ケース内に潤滑用のオイルが滞留しているときに、上記の範囲において、フランジ部の第1プーリとは反対側に滞留するオイルの影響を受けることを抑制あるいは回避することができる。
また、この発明によれば、板部と第1プーリの外周縁との間隔が、他の部分と第1プーリとの間隔と比較して、広く形成されている。そのため、巻掛け伝動部材が第1プーリの外周縁と板部との間に挟まれるあるいは噛み込まれることを抑制または回避することができる。
この発明の実施形態における無段変速機(以下、CVTと記す)1の構成の一例を図1に示してある。図1に示すCVT1は、図示しない駆動力源からトルクが伝達される入力軸2、入力軸2と一体に回転するプライマリプーリ3、図示しない駆動軸や駆動輪などの出力部材にトルクを伝達する出力軸4、出力軸4と一体に回転するセカンダリプーリ5、プライマリプーリ3のプーリ溝3aならびにセカンダリプーリ5のプーリ溝5aに巻き掛けられるチェーン6、および、ケース7を備えている。ケース7は、平行かつ水平に配置された入力軸2および出力軸4などを支持し、また、プライマリプーリ3ならびにセカンダリプーリ5、および、チェーン6などを収納している。なお、この実施形態では、図1における左右方向が車両における前後方向に相当し、図1における上下方向が鉛直方向に相当する。また、各プーリ3,5の図1における左回転が、車両が前進するときに回転する方向である。さらに、図1では、プライマリプーリ3に巻き掛けられるチェーン6の巻き掛け半径が最も大きいときと、プライマリプーリ3に巻き掛けられるチェーン6の巻き掛け半径が最も小さいときのいずれも図示している。
プライマリプーリ3は、この発明の実施形態における第1プーリに相当し、図2に示すように、固定シーブ8と可動シーブ9とを対向させて配置することにより構成されている。固定シーブ8は、入力軸2と一体に形成されている。可動シーブ9は、入力軸2と一体に回転しかつ軸線方向への移動が可能なように、例えばスプラインなどによって入力軸2に取り付けられている。固定シーブ8のテーパ面8aと可動シーブ9のテーパ面9aとを入力軸2の軸線方向で対向させることにより、それらの間にプーリ溝3aが形成されている。また、可動シーブ9の半径方向外側を囲うように形成された有底円筒状のハウジング11を備えている。そのハウジング11の底面と可動シーブ9aとの間にオイルチャンバ12が形成されている。そのオイルチャンバ12には、入力軸2に形成された油路10を通って図示しないオイルポンプからオイルが供給されるように構成されている。このオイルの供給量を制御することにより、可動シーブ9の軸線方向への移動量が決定される。
セカンダリプーリ5は、この発明の実施形態における第2プーリに相当し、プライマリプーリ3と同様の構成を備えている。具体的には、図示しない固定シーブと可動シーブとを対向させて配置することにより構成されている。固定シーブは、出力軸4と一体に形成されている。可動シーブは、出力軸4と一体に回転しかつ軸線方向への移動が可能なように、例えばスプラインなどによって出力軸4に取り付けられている。固定シーブのテーパ面と可動シーブのテーパ面とを出力軸4の軸線方向で対向させることにより、それらの間にプーリ溝5aが形成されている。また、セカンダリプーリ5にも、可動シーブを軸線方向に押圧するための図示しない油圧アクチュエータが設けられている。
チェーン6は、プライマリプーリ3のプーリ溝3aおよびセカンダリプーリ5のプーリ溝5aに巻き掛けられて、それらプライマリプーリ3とセカンダリプーリ5との間でトルクを伝達する巻掛け伝動部材である。また、チェーン6は、プライマリプーリ3に対する巻き掛け半径が最大の状態で、チェーン6がプライマリプーリ3に巻き掛かり始める箇所である第1部位13とセカンダリプーリ5から離脱する箇所である第2部位14との間である第1弦部6aを備えている。さらに、プライマリプーリに対する巻き掛け半径が最大の状態で、チェーン6がセカンダリプーリ5に巻き掛かり始める部分である第3部位15と、プライマリプーリ3からセカンダリプーリ5に向けて離脱する箇所である第4部位16との間である第2弦部6bとを備えている。この第1弦部6aおよび第2弦部6bは、プライマリプーリ3とセカンダリプーリ5との間で直線状に進行する部分である。チェーン6は、図2に示すように、ピン17によって複数のリンク18を連結することによって構成されている。そのピン17は、各プーリ3,5に挟まれ、プライマリプーリ3から引っ張られることにより、リンク18を介してセカンダリプーリ5にトルクが伝達される。なお、この発明の実施形態における巻掛け伝動部材は、プッシュベルトであってもよく、プッシュベルトは、図示しないが、リングによって結束された複数のエレメントによって構成されている。
上記のようにCVT1は、チェーン6によってプライマリプーリ3とセカンダリプーリ5との間、すなわち、入力軸2と出力軸4との間でトルクを伝達する。また、プーリ溝3aおよびプーリ溝5aの溝幅をそれぞれ変化させることにより、変速比を変更するように構成されている。例えば、プライマリプーリ3の油圧アクチュエータを制御してプーリ溝3aの溝幅を変化させ、プーリ溝3aに巻き掛けられているチェーン6の巻き掛け半径を変化させることにより、変速比が変更される。すなわち変速が行われる。その場合、セカンダリプーリ5側では、チェーン6の周長が一定であることから、プーリ溝3aの溝幅の変化に応じてプーリ溝5aの溝幅が変化する。そして、チェーン6とセカンダリプーリ5との間の滑りを抑制するために、セカンダリプーリ5の油圧アクチュエータを制御してプーリ溝5aにおけるチェーン6の挟圧力が適切な大きさに維持される。
また、図1に示すように、この発明の実施形態におけるCVT1には、この発明の実施形態における遮蔽部材に相当するバッフルプレート19が設けられている。このバッフルプレート19について、図1ないし図3を参照して具体的に説明する。バッフルプレート19は、図1に示すように、プライマリプーリ3とケース7の内面との間に配置されている。また、バッフルプレート19の材質は、アルミや鉄などの安価で高強度な金属材料や、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics=炭素繊維強化プラスチック)などの軽量で高強度な樹脂系材料によって構成されている。さらに、バッフルプレート19は、図2に示すように、ボルト20によってケース7に取り付けられている。
また、バッフルプレート19は、プライマリプーリ3のセカンダリプーリ5とは反対側であり、チェーン6がプライマリプーリ3に巻き掛けられた部分の外周を覆う外周壁21を有している。この外周壁21は、この発明の実施形態における板部に相当し、プライマリプーリ3の外周に沿った円弧部32を備えている。具体的には、外周壁21は、チェーン6のプライマリプーリ3に対する巻き掛け半径が最大の状態でチェーン6の第1部位13における接線22のケース7側への延長線よりもプライマリプーリ3の半径方向で外周側に位置する第1端部21aを備えている。言い換えれば、外周壁21は、チェーン6が第1部位13におけるチェーン6に対する接線22のバッフルプレート19側への延長線と交わるように構成されている。図示の例では、更に、この第1端部21aは、チェーン6の巻き掛け半径が最大のときにおける第1部位13の半径方向外側を覆うように構成されている。また、外周壁21は、第1端部21aからチェーン6の第4部位16よりプライマリプーリ3の半径方向で外周側であって、かつプライマリプーリ3の下側に位置する第2端部21bを備えている。図示の例では、更に、この第2端部21bは、チェーン6の巻き掛け半径が最大のときにおける第4部位16の半径方向外側を覆うように構成されている。なお、この実施形態における第2端部21bは、チェーン6のプライマリプーリ3に対する巻き掛け半径が最大の状態でチェーン6の第4部位16における接線23よりもプライマリプーリ3の半径方向で外周側に位置している。
また、外周壁21の第2端部21bは、プライマリプーリ3の外周と離間するように形成されている。具体的には、第2端部21bにおける接線24が、入力軸2の回転中心軸線と出力軸4の回転中心軸線とを結んだ直線25と平行に形成されている。なお、このような構成に限らず、直線25に平行な方向よりもセカンダリプーリ5の半径方向で外側に向けた方向にチェーン6を誘導する向きに形成されていればよい。
さらに、バッフルプレート19は、第2端部21bの予め定めた長さの範囲に、プライマリプーリ3の側面に対向するようにプライマリプーリ3の半径方向で内側に延びたフランジ部26が形成されている。そのため、その範囲の部分の断面形状はU字状になっている。この実施形態のフランジ部26は、第2端部21bから第1端部21aまでを予め定めた長さとしている。また、図1に示すように、フランジ部26は、ケース7の下部に滞留しているオイル27の油面より高くなるように形成されている。また、フランジ部26は、図2に示すように、プライマリプーリ3の軸線方向における外面との間に、所定の間隔28を形成するように構成されている。この間隔28は、車両の走行中などプライマリプーリ3が回転しているときに接触しない程度の広さを有していて、上記の空間29より狭く形成されている。なお、この実施形態では、上記のフランジ部26の半径方向外側に延出した部分30が、ボルト20によってバッフルプレート19をケース7に止めるための座面として作用している。
また、図2に示すように、バッフルプレート19は、外周壁21とプライマリプーリ3の外周縁3bとの間隔(空間)29が、バッフルプレート19における外周壁21以外の部分とプライマリプーリ3との間隔28より広く形成されている。すなわち、外周壁21におけるチェーン6に対向する部分に空間29が形成されている。この間隔28とは、フランジ部26とハウジング11との間隔28、あるいはフランジ部26と固定シーブ8の軸線方向における外面との間隔28、または、外周壁21とハウジング11との間隔28である。すなわち、バッフルプレート19は、外周壁21とチェーン6との対向する部分に、この間隔28と比較して広い空間29が形成されている。この空間29は、チェーン6の幅よりも広く、かつチェーン6の厚さよりも大きいことが好ましい。
上記のようなバッフルプレート19を設けることにより、チェーン6が破断した場合であっても、その破断したチェーン6とケース7とが衝突することを防止もしくは抑制することができる。以下、バッフルプレート19による作用および効果について説明する。
プライマリプーリ3が図1における左回転した場合には、チェーン6の第2弦部6bより第1弦部6aに作用する張力のほうが高いため、チェーン6が破断するとすれば第1弦部6aで破断が生じる可能性が高い。そのように、第1弦部6aが破断する場合には、第1部位13もしくは第2部位14で破断が生じる可能性が高い。第1弦部6aにおける第2部位14の近傍でチェーン6が破断した場合には、その破断したチェーン6の破断端側の端部がケース7の内面に衝突する可能性がある。具体的には、その破断したチェーン6は、慣性力とプライマリプーリ3から引っ張られる力とにより、第1部位13に向けて直線的に移動する。その後、プライマリプーリ3に巻き掛かった時点で遠心力を受けるから、破断して生じた端部がプライマリプーリ3の外側に振り回されてケース7の内面に向かう。このとき、バッフルプレート19が上述したように設けられているため、破断したチェーン6は、外周壁21に衝突する。したがって、破断したチェーン6が、ケース7の内面に衝突することを抑制あるいは回避することができる。
また、バッフルプレート19の外周壁21は、第1部位13の接線22および第4部位16の23よりプライマリプーリ3の半径方向外側まで延びている。そのため、上記のような要因によってチェーン6が破断したときに、そのときの変速比あるいは巻掛け半径に関わらず、破断したチェーン6がケース7に衝突することを抑制あるいは回避することができる。さらに、外周壁21は、円弧部32を備えている。そのため、破断したチェーン6が板部に衝突したときに、その衝突によって外周壁21に生じる衝撃力を分散させることができる。したがって、外周壁21の耐久性を向上させることができる。
上記のように破断したチェーン6は、外周壁21に衝突した後、その外周壁21に沿うように鉛直方向下側へ移動する。また、チェーン6が破断したときにプライマリプーリ3に挟まれていた部分は、セカンダリプーリ5の回転によって第2弦部6b側から引き抜かれる。そのため、破断したチェーン6は、外周壁21に沿って落下するように移動した後、第2端部21bを通過してセカンダリプーリ5に向けて飛翔する。このとき、その第2端部21bは、入力軸2の回転中心軸線と出力軸4の回転中心軸線とを結んだ直線25に平行な方向を向いて形成されているため、破断したチェーン6は、セカンダリプーリ5の上下方向における下端より鉛直方向下側に向かって飛翔する。すなわち、破断したチェーン6が、セカンダリプーリ5のプーリ溝5aに向かって移動することを抑制あるいは回避することができる。そのため、破断したチェーン6の端部が、セカンダリプーリ5のプーリ溝5aに挟まることを抑制あるいは回避することができる。
さらに、バッフルプレート19にはフランジ部26が設けられている。このフランジ部26により、ケース7の下部に滞留するオイル27とプライマリプーリ3とを隔てることができる。そのため、プライマリプーリ3は、潤滑用のオイル27が滞留していても、フランジ部26のプライマリプーリ3とは反対側に滞留するオイル27の影響を受けることを抑制あるいは回避することができる。具体的には、プライマリプーリ3は、プライマリプーリ3とバッフルプレート19との間に介在するオイルを撹拌する。したがって、撹拌するオイルの量が限られるから、オイルの撹拌に消費するエネルギ量、すなわち動力損失を低減させることができる。また、ケース7の内面の形状には、凹凸が多く含まれる。そのため、ケース7の内部に滞留したオイル27をプライマリプーリ3が撹拌すると、その凹凸によってオイル27に乱流が生じやすくなり、動力損失が発生する。それに対して、この実施形態では、第2端部21bおよびフランジ部26の高さが、ケース7の内部に滞留しているオイル27の高さよりも高くなるように構成されている。そのため、プライマリプーリ3は、バッフルプレート19の内部に滞留したオイルを撹拌することになる。さらに、バッフルプレート19の内面は、ケース7の内面と比較して滑らかに形成されている。したがって、ケース7の内部に滞留したオイル27を撹拌する場合と比較して、オイルに乱流が生じることを抑制することができる。すなわち、プライマリプーリ3がオイルを撹拌したときの動力損失を低減させることができる。
また、フランジ部26によって、バッフルプレート19の強度を向上させるとともに、破断したチェーン6が車両の左右方向に飛び出すことを抑制することができる。したがって、破断したチェーン6がケース7の内面に衝突することをさらに抑制することができる。さらに、上述した実施形態では、フランジ部がハウジング11および固定シーブ8の側面に沿って形成されているため、バッフルプレート19内へのオイルの侵入を抑制することができる。そのため、プライマリプーリ3が撹拌するオイルの量を低減することができ、動力損失を低減することができる。
また、バッフルプレート19には、外周壁21におけるチェーン6と対向する部分に、他の部分と比較して広い空間29が形成されている。そのため、破断したチェーン6が外周壁21に衝突しながら、あるいはガイドされながら移動しているときに、可動シーブ9あるいは固定シーブ8と外周壁21との間に挟まれることを抑制することができる。
つぎに、この発明におけるバッフルプレート19の他の実施形態について説明する。以下の説明において、上述した実施形態で説明した部材と同じ部材には同様の符号を付して説明する。図4に示すように、他の実施形態におけるバッフルプレート19は、フランジ部26が鉛直方向における所定の高さまで設けられている。所定の高さは、第2端部21bより鉛直方向で高い位置である。言い換えれば、他の実施形態におけるバッフルプレート19は、フランジ部26における第1端部21a側に開口部26aが設けられている。この実施形態では、フランジ部26の開口部26a側における端部が、水平方向に延びるように形成されている。すなわち、他の実施形態におけるフランジ部26は、ケース7の下部に滞留したオイル27とバッフルプレート19の内部に滞留したオイルとを隔離できる程度の高さまで形成されている。
さらに、この発明におけるバッフルプレート19のさらに他の実施形態について説明する。以下の説明において、上述した実施形態で説明した部材と同じ部材には同様の符号を付して説明する。図5に示すように、さらに他の実施形態におけるバッフルプレート19は、フランジ部26における第1端部21a側が、外周部26bと内周部26cとに分けられ、かつその内周部26cと外周部26bとをつなぐ支持部材31が設けられている。すなわち、この支持部材31は、外周部26bと内周部26cとをつなぐ、いわゆるスポークとして作用している。言い換えれば、さらに他の実施形態におけるバッフルプレート19は、フランジ部26の第1端部21a側に、軸線方向に貫通した貫通孔31aが、円周方向に所定の間隔を空けて設けられている。なお、この実施形態でも、上記の他の実施形態におけるバッフルプレート19と同様に、鉛直方向における所定の高さまでは、貫通孔31aが設けられておらず、プレート状のフランジ部26が形成されている。このように形成されたフランジ部26によって、バッフルプレート19は、上記の他の実施形態のバッフルプレート19と比較して強度を向上させることができる。
なお、上述した構成は、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、この発明を限定するものではない。また、特許請求の範囲に記載された発明の要旨の範囲内で種々の変更が可能である。例えば、外周壁21は、チェーン6がプライマリプーリ3に巻き掛かり始める箇所におけるチェーン6に対する接線22のバッフルプレート19側への延長線と交わるように構成されていればよい。そして、前記箇所は、第1部位13であるとよい。第1部位13は、プライマリプーリ3に対する巻き掛け半径が最大の状態、つまり変速比が最も小さく車速が速い状態のときに、チェーン6がプライマリプーリ3に巻き掛かり始める箇所である。そのため、車速が速い状態で上述したようにチェーン6が破断した場合、つまりプライマリプーリが図1における左回転している状態で第2部位14近傍でチェーンが破断した場合には、その破断したチェーン6がケース7に衝突したときの衝撃が比較的大きくなる。これに対して、外周壁21が第1部位13におけるチェーン6に対する接線22のバッフルプレート19側への延長線と交わるように構成されていれば、車速が速い状態でチェーン6が破断した時に生じる端部が上述したように移動したときに、その端部が移動した先には外周壁21が設けられていることになる。したがって、車速の速い状態で破断したチェーン6がケース7に衝突することにより、比較的大きな衝撃がケース7に作用することを抑制あるいは回避することができる。
また、第1端部21aは、第1部位13におけるチェーン6に対する接線22のバッフルプレート19側への延長線よりもプライマリプーリ3の半径方向で外周側に位置し、第2端部21bは、プライマリプーリ3に対する巻き掛け半径が最小の状態でチェーン6がプライマリプーリ3に巻き掛かり始める第5部位33におけるチェーン6に対する接線34のバッフルプレート19側への延長線を挟んで第1端部21aとは反対側に位置するように構成されているとよい。このように構成されていれば、破断したチェーン6を、その破断が生じたときの変速比に関わらず外周壁21に衝突させることができるので、その破断したチェーン6がケース7に衝突することを抑制することができる。さらに、第2端部21bは、第4部位16におけるチェーン6に対する接線のバッフルプレート19側への延長線よりもプライマリプーリ3の半径方向で外周側に位置しているとよい。このように構成されていれば、チェーン6が破断したときのプライマリプーリ3の回転方向が図1における左回転もしくは右回転のいずれの回転であっても、破断したチェーン6が慣性力あるいは遠心力によって移動する方向に外周壁21があるので、破断したチェーン6がケース7に衝突することを抑制することができる。
また、上述した実施形態では、セカンダリプーリ5のプライマリプーリ3とは反対側のケース7の内面の形状が、セカンダリプーリ5のプライマリプーリ3とは反対側の外周の形状に沿うように形成されているため、バッフルプレート19を設けていない。しかしながら、必要に応じてセカンダリプーリ5側にも上述したようなバッフルプレート19を設けるように構成してもよい。さらに、第2端部の向きは、プーリ3,5のうち破断した巻掛け伝動部材が向かう側のプーリのプーリ溝に向かわないように構成されていればよい。例えば、ケース7の下部に向けて誘導するように構成されていてもよい。また、巻掛け伝動部材の種類は、チェーンに限らず、プッシュベルトなどの他の巻掛け伝動部材であってもよい。