JP2017115121A - 水素化コールタールピッチの製造装置 - Google Patents

水素化コールタールピッチの製造装置 Download PDF

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Abstract

【課題】 熱膨張係数が小さく且つパッフィングが十分に抑制されたピッチ系ニードルコークスが得られる水素化コールタールピッチを、効率良く製造することが可能な装置を提供する。更に、コールタールピッチから水素化コールタールピッチを製造するに際し、水素の消費量を削減し、効率の良い水素化反応を行うことが可能な製造装置、温度を制御して水素化反応を行うことが可能な製造装置を提供する。【解決手段】 原料コールタールピッチを水素化するための水素化処理装置、水素化処理装置から排出される水素化コールタールピッチから軽質油を分離する分離装置、及び、分離装置で分離された軽質油を水素化処理装置に供給するリサイクル回路を備えた水素化コールタールピッチの製造装置。【選択図】図4

Description

本発明は、コールタールピッチを水素化処理して水素化コールタールピッチを製造する装置に関する。より詳しくは、本発明は、コールタールピッチを水素化処理によって脱硫、脱窒素化して水素化コールタールピッチを製造する装置に関する。
石炭乾留時に副生するコールタールは、その大部分が縮合多環芳香族化合物から構成されており、以前から各種の炭素製品用の原料として使用されてきた。コールタール系製品群の構成割合は、約30%が留出油成分から得られるクレオソート油やナフタレン等の製品群、残り70%が非留出分である重質成分のコールタールピッチから得られる製品群である。
これらのうち、コールタールピッチから製造されるニードルコークスは特に付加価値の高い製品として重要な位置を占めており、主に電気製鋼用黒鉛電極の骨材に使用される。黒鉛電極の製造工程においては、まずニードルコークス粒とバインダーピッチとを所定の割合で配合し、加熱捏合した後、押し出し成型して生電極を製造する。この生電極を焼成し、黒鉛化した後、加工することにより黒鉛電極製品が得られる。
この黒鉛電極は過酷な高温条件のもとで使用されるため、極めて高い耐熱衝撃性が要求される。耐熱衝撃性の高い黒鉛電極を製造するためには熱膨張係数(CTE)が小さいニードルコークスが必要とされる。コールタールピッチを原料とするニードルコークス(以下、ピッチ系ニードルコークスと表記する場合がある。)は、あらゆるコークスの中で熱膨張係数が最も小さいので、黒鉛電極の原料として最も好ましいものである。しかしながら、ピッチ系ニードルコ一クスは良品質な黒鉛電極を与える反面、電極を製造する黒鉛化過程で、いわゆるパッフィングと呼ばれる不可逆膨張現象を起こし易く、急速に黒鉛化した場合には製品に亀裂が発生して歩留りが著しく低下するといった欠点をもっている。
このため黒鉛電極の製造にあたっては、黒鉛化のための昇温を長時間かけて行う必要があり、生産性は著しく低いものであった。
このパッフィング現象は、主として黒鉛化過程の1500〜2000℃の領域において、ピッチ系ニードルコークスに含まれるヘテロ化合物から窒素が、同様に2500〜2800℃の領域において硫黄が急激に揮散するための異常膨張と考えられている。
このようなパッフィング現象を解消するため、黒鉛電極の製造工程においていくつかの手法が取られている。例えば、ピッチ系ニードルコークスと粘結材であるバインダーピッチの混合過程において酸化鉄を少量添加することにより、黒鉛化時にコークス中の硫黄分と鉄の安定化合物を形成させてパッフィングを抑制する方法や、成形工程において黒鉛電極の嵩密度を調整して黒鉛化時に発生するガスを揮散し易くする方法がある。ただし、前者の手法は、硫黄に由来する膨張の低減には一定の効果があるものの、窒素に由来する膨張を低減する効果は見られず、後者は、嵩密度の低下による黒鉛電極の機械的強度の低下につながるという問題があった。
上記以外に、ニードルコークスを用いた黒鉛電極の製造時にパッフィングを抑制する様々な方法が提案されている。
特許文献1、2では、1500℃以上でピッチコークスを加熱処理して脱窒素することでパッフィングを低減する方法が提案されている。また、特許文献3では、生コークスを予め酸化処理等の前処理をした後に、通常のか焼温度で熱処理する手法が示されている。これらの方法は、前者は高温加熱に伴うエネルギー消費が大きくなり、後者は従来方法に
比べて工程が複雑化するという課題がある。
ピッチ系ニードルコークスについては、特許文献4では実質的にキノリン不溶分を除去したコールタールピッチと石油系重質油を混合し、この混合物を炭化するニードルコークスの製造方法が開示されている。しかしこの方法では、パッフィングの抑制効果は十分とは言えない。
特許文献5では、石炭系重質油と石油系重質油とを混合して窒素分、硫黄分を共に特定値以下となるように調整配合した原料より生コークスを製造し、この生コークスを2段か焼することによりパッフィングの低いニードルコークスが得られるとしている。しかしこの方法での効果は限定的であり、かつ2段か焼によるコークス歩留の低下、コークスの多孔質化により黒鉛電極の嵩密度が低下するという懸念がある。
特許文献6には、水素化したコールタール系原料を使用するとパッフィングが減少したニードルコークスが得られることが記載されている。これは、コールタール系原料の水素化精製による硫黄及び窒素の除去という直接的な効果に加えて、縮合多環芳香族化合物の構造変化によるニードルコークスの品質改善が期待されるプロセスである。しかしながら、ここで開示されている水素化処理は、石油精製工業における常圧残油を原料油とする水素化脱硫プロセスの反応条件を適用したものであるため製造コストが高く、コークス歩留りも低く、水素化によりピッチ系重質油の特徴である芳香族化合物が減少するといった課題が未だ残されていた。
上記のような状況下、本発明者らは、コールタールピッチを水素化して水素化コールタールピッチを製造するに際し、好適な水素化条件等を明らかにしてきた(特許文献7、8)。更には、このようにして得られたニードルコークスは、CTEが低く、しかもパッフィングが抑制されていることも見出されていた。
特開昭60−33208号公報 特開昭60−208392号公報 特開昭63−135486号公報 特開平3−250090号公報 特開平5−163491号公報 特開昭59−122585号公報 特開2015−166443号公報 特開2015−166444号公報
特許文献7、8においては、水素化する条件を最適化することにより、CTEが低く、しかもパッフィングが抑制されたニードルコークスを得ることができることが見出された。しかしながら、本発明者らが検討したところによれば、これらの文献に記載された方法でコールタールピッチを水素化するためには多大なエネルギーを要し、水素化に要する水素の量も多いことが明らかとなった。更には、高温反応であり、しかも発熱反応である水素化反応において、温度を制御することも困難であるという問題が見出された。
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、熱膨張係数が小さく且つパッフィングが十分に抑制されたピッチ系ニードルコークスが得られる水素化コールタールピッチを、効率良く製造することが可能な装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、コールタールピッチから水素化コールタールピッチを製造するに際し
、水素の消費量を削減し、効率の良い水素化反応を行うことが可能な製造装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、コールタールピッチから水素化コールタールピッチを製造するに際し、温度を制御して水素化反応を行うことが可能な製造装置を提供することを目的とする。
本発明者らは前記課題について鋭意検討した結果、原料コールタールピッチを水素化して水素化コールタールピッチを製造する装置において、水素化コールタールピッチから軽質油を分離し、分離した軽質油を水素化処理装置に供給するリサイクル回路を備える装置とすることで、前記課題を解決し得ることを見出し本発明に至った。
すなわち本発明は、以下の[1]〜[11]を要旨とする。
[1] 原料コールタールピッチを水素化するための水素化処理装置、水素化処理装置から排出される水素化コールタールピッチから軽質油を分離する分離装置、及び、分離装置で分離された軽質油を水素化処理装置に供給するリサイクル回路を備えた水素化コールタールピッチの製造装置。
[2] リサイクル回路が、原料コールタールピッチとともに軽質油を水素化処理装置に供給する回路となっている[1]に記載の水素化コールタールピッチの製造装置。
[3] 水素化処理装置に温度センサーを備え、該温度センサーからの温度情報に応じて軽質油を水素化処理装置に供給する量を制御する機能を備えた[1]又は[2]に記載の水素化コールタールピッチの製造装置。
[4] リサイクル回路が、軽質油を水素化処理装置の複数の個所へ供給する回路となっている[1]又は[2]に記載の水素化コールタールピッチの製造装置。
[5] 水素化処理装置に複数の温度センサーを備え、該温度センサーからの温度情報に応じて、軽質油を水素化処理装置に供給する複数の回路の供給量を制御する機能を備えた[4]に記載の水素化コールタールピッチの製造装置。
[6] リサイクル回路に、軽質油を冷却する冷却装置を備えた[1]〜[5]の何れか
に記載の水素化コールタールピッチの製造装置。
[7] 前記冷却装置が熱交換器である[6]に記載の水素化コールタールピッチの製造
装置。
[8] 水素化処理装置が連続固定床反応装置である[1]〜[7]の何れかに記載の水素化コールタールピッチの製造装置。
[9] 分離装置が蒸留塔又は気液分離器である[1]〜[8]の何れかに記載の水素化コールタールピッチの製造装置。
[10] 前記水素化処理装置に原料コールタールピッチと水素とを供給するラインを有し、該ラインがコールタールピッチを供給するラインと水素を供給するラインとが予め合流したものである[1]〜[9]の何れかに記載の水素化コールタールピッチの製造装置。
[11] 前記水素化処理装置が、原料コールタールピッチの供給口と水素の供給口とを有し、少なくとも1つの水素の供給口が、原料コールタールピッチの供給口よりも下流側に備えられている[1]〜[9]の何れかに記載の水素化コールタールピッチの製造装置。
本発明により、熱膨張係数が小さく、且つパッフィングが十分に抑制されたピッチ系ニードルコークスの原料として好適な水素化コールタールピッチを、効率良く製造することが可能な装置を提供することができる。
本発明により、コールタールピッチから水素化コールタールピッチを製造するに際し、水素の消費量を削減し、効率の良い水素化反応を行うことが可能な製造装置を提供することができる。
本発明により、コールタールピッチから水素化コールタールピッチを製造するに際し、温度を制御して水素化反応を行うことが可能な製造装置を提供することができる。
本発明の水素化コールタールピッチの製造装置の一例を示す模式図である。 本発明の水素化コールタールピッチの製造装置の一例を示す模式図である。 本発明の水素化コールタールピッチの製造装置の一例を示す模式図である。 本発明の水素化コールタールピッチの製造装置の一例を示す模式図である。
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。以下において「質量%」と「重量%」、及び「質量部」と「重量部」とは、それぞれ同義である。
なお、本発明において「ピッチ系」と「石炭系」は同義の語として扱うものとする。
本発明でいう「硫黄分」とは、コールタールピッチについてはJIS M8813、石油系油についてはJIS K2541、コークスについてはJIS M8813に従い測定される値を、それぞれ意味する。
本発明でいう「窒素分」とは、コールタールピッチについてはJIS M8819、石油系油についてはJIS K2609、コークスについてはJIS M8819に従い測定される値を、それぞれ意味する。
また、コールタールピッチの比重、キノリン不溶分、トルエン不溶分、360℃以下の留分は何れもJIS K2425に従い測定される値を意味し、粘度はB型回転粘度計で測定した値を意味する。
本発明は、原料コールタールピッチを水素化するための水素化処理装置と、水素化処理装置から排出される水素化コールタールピッチから軽質油を分離する分離装置とを備え、分離装置で分離された軽質油を水素化処理装置に供給する回路を備えた装置である。以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
[1.原料コールタールピッチ]
本発明において、水素化処理装置に供給する原料コールタールピッチは限定されないが、以下の特性を有するものであることが好ましい。
原料コールタールピッチの製造方法(事前調整方法)や製造装置は限定されないが、一般的にはコールタール系重質油から予めキノリン不溶分を実質的に除去するか、コールタール系重質油と石油系重質油とを混合した後にキノリン不溶分を実質的に除去することによって得ることが出来る。
キノリン不溶分を除去する手段としては公知の方法を適用することができるが、例えばコールタール系重質油を、芳香族系油や脂肪族系油で処理する方法が挙げられ、これらの混合溶剤で処理することも好ましい。脂肪族系油としては、シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂環式化合物、アセトン、エーテル等のカルボニル基をもつ化合物、軽油等を使用することが出来る。芳香族系油としては、タール系洗浄油、アントラセン油等を使用することが出来る。ピッチと溶剤を適当な条件にて混合、加熱した後に必要により静置し、その後、この混合物を蒸留して低沸点成分を留去することにより、キノリン不溶分を殆ど含まない原料コールタールピッチとすることが出来る。
上記の原料コールタールピッチはコークス化の過程においてメソフェースと呼ばれる液晶の成長状態が良好であることが好ましい。メソフェースは、原料油の熱処理に伴い熱分解と重縮合が起こることによって生成する中間生成物であり、同一平面に沿って芳香族環の連なりが発達したものである。このメソフェースが大きく成長して一軸方向に配向すればニードルコークスの熱膨張係数を小さくすることができると考えられている。従って、高度に結晶が発達したメソフェースを生成させることが好ましい。
原料コールタールピッチのキノリン不溶分は0.2重量%以下であることが好ましい。原料コールタールピッチのキノリン不溶分が0.2重量%を超えると、コークス化過程におけるメソフェースの成長が抑制されることにより、ニードルコークスの熱膨張係数が大きくなる傾向がある。原料コールタールピッチのキノリン不溶分の下限値は限定されないが、通常0.0001重量%以上である。キノリン不溶分が0.0001重量%未満のものは、これを入手することが困難な上、このような原料コールタールピッチでは軽質油の含有割合が多く、コークス歩留りが低くなる傾向にある。更には、本発明の装置を用いて水素化処理を行う効果が発現しづらくなる傾向にある。また、キノリン不溶分は、前記と同様の理由により0.001〜0.1重量%であることがより好ましい。
原料コールタールピッチの硫黄分は、0.4〜0.8重量%であることが好ましい。原料コールタールピッチの硫黄分が0.8重量%を超えると、本発明の装置を用いて水素化処理した後のピッチ中の硫黄分が十分に下がらないため、ニードルコークスのパッフィングを抑制することができない場合がある。また、硫黄分は、前記と同様の理由により0.7重量%以下であることがより好ましく、0.65重量%以下であることが更に好ましい。
原料コールタールピッチの窒素分は、0.9〜1.5重量%であることが好ましい。原料コールタールピッチの窒素分が1.5重量%を超えると、本発明の装置を用いて水素化処理した後のピッチ中の窒素分が十分に下がらないため、ニードルコークスのパッフィングを抑制することができない場合がある。また、窒素分は、前記と同様の理由により1.3重量%以下であることがより好ましく、1.2重量%以下であることが更に好ましい。
後述する水素化処理装置にて水素化を行なうことにより、コールタールピッチ中の硫黄分及び窒素分を低減することは可能ではあるが、安定的な水素化処理を行なうためには上記の硫黄分、窒素分の範囲内にあるコールタールピッチを原料として水素化を行なうことが好ましい。
コールタールピッチは、大部分が芳香族化合物で構成されているが、芳香族性を示す指標として芳香族指数がある。芳香族指数は大きいほど好ましく、例えば0.9以上であることが好ましい。コールタールピッチにおいては、芳香族指数が小さくなるとメソフェースの成長が不十分となり、水素化コールタールピッチから得られるニードルコークスの熱膨張係数(CTE)の抑制が不十分となる傾向がある。
原料コールタールピッチの360℃以下の留分は、8〜30重量%であることが好ましい。原料コールタールピッチの360℃以下の留分が8重量%未満の場合は、コールタールピッチの粘度が高くなり、均一な水素化反応が起こりにくくなる場合がある。一方、原料コールタールピッチの360℃以下の留分が30重量%を超えると、原料コールタールピッチ中の軽質油成分へ水素化反応が集中して起こるため、結果としてコークス中の硫黄及び窒素の低減が不十分となる傾向にある。また、360℃以下の留分は、前記と同様の理由により、好ましくは9〜20重量%、より好ましくは9.5〜15重量%である。
原料コールタールピッチの100℃における粘度は、30〜300mPa・sであることが好ましい。原料コールタールピッチの100℃における粘度が30mPa・s未満の
場合、原料コールタールピッチ中の軽質油成分へ水素化反応が集中して起こるため、結果としてコークス中の硫黄及び窒素の低減が不十分となる傾向にある。一方、原料コールタールピッチの100℃における粘度が300mPa・sを超えると、コールタールピッチの粘度が高くなり、均一な水素化反応が起こりにくくなる場合がある。また、100℃の粘度は、前記と同様の理由により100〜250mPa・sであることがより好ましい。
原料コールタールピッチは、水素原子数と炭素原子数の比(H/C)が0.5〜0.7であることが好ましい。
原料コールタールピッチのH/Cが0.5未満の場合は、水素化反応において消費される水素量が多くなる傾向がある。一方、原料コールタールピッチのH/Cが0.7を超えると、脂肪族の含有量が多くなり、水素化コールタールピッチから得られるニードルコークスの熱膨張係数(CTE)が大きくなる傾向がある。また、H/Cは、前記と同様の理由により0.55〜0.68であることがより好ましい。
なお、「H/C」はJIS M8819に準拠して測定した値を意味し、後述する実施例に記載した測定方法を採用するものとする。
原料コールタールピッチの15℃における比重は、1.15〜1.4であることが好ましい。ここで15℃における比重とは、4℃の水の密度に対する15℃での密度の比を意味する。
原料コールタールピッチの比重(15℃/4℃)が1.15未満の場合は、コークスの収率が下がる傾向があり、コークスの熱膨張係数が大きくなる傾向がある。一方、原料コールタールピッチの比重(15℃/4℃)が1.4を超えると、原料コールタールピッチに含まれる重質成分の含有率が多くなり、水素化処理後のコールタールピッチのコークス化過程におけるメソフェースの成長速度が大き過ぎることにより、ニードルコークスの熱膨張係数が大きくなる傾向がある。また、比重(15℃/4℃)は、前記と同様の理由により1.15〜1.25であることがより好ましい。
なお、上記した原料コールタールピッチの諸特性は各々独立したものであり、必ずしも全ての特性を兼ね備えている必要は無い。
<コールタールピッチからの軽質油の分離>
本発明では、前記した原料コールタールピッチをそのまま水素化する原料として使用してもよいが、当該コールタールピッチから軽質油を分離し、除去したものを原料コールタールピッチとして使用することもできる(以下、「軽質油分離コールタールピッチ」という場合がある。)。
本発明において、コールタールピッチから軽質油を分離する方法や装置は限定されないが、例えば、遠心分離、溶剤抽出、ストリッピング、水蒸気蒸留、フラッシュ蒸留、薄膜蒸留、常圧蒸留、減圧蒸留等が挙げられる(図示せず)。
本発明における軽質油とは、一般に軽質油(軽油)と呼ばれるものであれば限定されない。軽質油を構成する化合物の炭素数は限定されないが、通常36以下であり、好ましくは24以下である。軽質油は単一の化合物であってもよいが、通常は複数の化合物の混合物である。
なお、上記した蒸留手段により軽質油を分離する場合においては、蒸留装置の上部より得られる物質(軽質留分)を軽質油とする。すなわち、蒸留装置の上部より得られたものであれば、上記で例示した軽質油成分以外の物質を含んだものも「軽質油」という。軽質油を分離する蒸留装置上部の温度は特に限定されないが、常圧蒸留で400℃以下、好ましくは360℃以下、より好ましくは320℃以下である。
一方、本発明における重質油とは、上記で規定した軽質油よりも沸点の高い成分を意味する。重質油を構成する高分子化合物の炭素数は限定されないが、通常24以上であり、好ましくは36以上である。また、上記した蒸留手段により重質油を得る場合、蒸留装置
の下部より得られる物質(重質留分)を重質油とする。重質油を得る温度は特に限定されないが、常圧蒸留で行う場合、前述した軽質油を分離する温度で蒸留することが望ましい。
本発明において、コールタールピッチから分離する軽質油の割合は限定されないが、通常6重量%以上、好ましくは10重量%以上であり、一方、通常40重量%以下、好ましくは30重量%以下である。分離する軽質油の割合が前記下限値未満である場合は、蒸留塔において分離される軽質油の留出量が少なくウィーピングが生じる場合がある。一方、分離する軽質油の割合が前記上限値を超過する場合は、蒸留塔において軽質油を分離するために多くの熱量が必要となり、さらに、蒸留塔の直径を大きくする必要があるため、経済的な面から好ましくない傾向がある。
コールタールピッチから分離された軽質油の使途は限定されないが、燃料として用いられるだけでなく、カーボンブラックやその他の各種化学工業の原料、溶剤、潤滑剤、改質剤、冷媒(冷却オイル)等として有用に用いることができる。
本発明において、軽質油分離コールタールピッチは限定されないが、以下の特性を有するものであることが好ましい。
本発明における軽質油分離コールタールピッチのキノリン不溶分は限定されないが、通常0.02重量%以下であり、好ましくは0.01重量%以下であり、より好ましくは0.008重量%以下である。キノリン不溶分の含有量を上記の範囲とすることによって、これを水素化して得られるピッチ系ニードルコークスが、パッフィングが低い値を示すだけでなく、熱膨張係数も十分に小さい値を示すことができる傾向にある。
なお、本発明における軽質油分離コールタールピッチは、キノリン不溶分の下限値は限定されず、より低い値であることが好ましいが、コールタールを出発原料とする限り0(ゼロ)にすることは困難であるため、通常は0.0001重量%以上である。
本発明における軽質油分離コールタールピッチの硫黄分は限定されないが、通常0.9重量%以下であり、好ましくは0.8重量%以下であり、より好ましくは0.7重量%以下である。硫黄分の含有量を上記の範囲とすることによって、これを水素化して得られるピッチ系ニードルコークスが、パッフィングが低い値を示すだけでなく、熱膨張係数も十分に小さい値を示すことができる傾向にある。
なお、本発明における軽質油分離コールタールピッチは、硫黄分の下限値は限定されず、より低い値であることが好ましいが、コールタールを出発原料とする限り0(ゼロ)にすることは困難であるため、通常は0.05重量%以上である。
本発明における軽質油分離コールタールピッチの窒素分は限定されないが、通常1.4重量%以下であり、好ましくは1.3重量%以下であり、より好ましくは1.2重量%以下である。窒素分の含有量を上記の範囲とすることによって、これを水素化して得られるピッチ系ニードルコークスが、パッフィングが低い値を示すだけでなく、熱膨張係数も十分に小さい値を示すことができる傾向にある。
なお、本発明における軽質油分離コールタールピッチは、窒素分の下限値は限定されず、より低い値であることが好ましいが、コールタールを出発原料とする限り0(ゼロ)にすることは困難であるため、通常は0.20重量%以上である。
本発明における軽質油分離コールタールピッチの360℃以下の留分は限定されないが、9重量%以下であることが好ましい。360℃以下の留分が9重量%を超えると、コークス歩留りが低くなる傾向がある。また、360℃以下の留分は、前記と同様の理由により、7重量%以下であることがより好ましい。一方、360℃以下の留分の下限は0.02重量%以上であることが好ましく、0.5重量%以上であることがより好ましい。36
0℃以下の留分が上記下限値未満であると、メソフェース成長時の液相粘度が上昇し、メソフェースの成長が阻害される傾向がある。
本発明における軽質油分離コールタールピッチの100℃における粘度は500〜3000mPa・sであることが好ましい。100℃における粘度が500mPa・s未満の場合、高粘度の流体を扱うポンプを使用する場合において送液が困難になる傾向があり、また、コールタールピッチに含まれる軽質油が多く、ニードルコークスの熱膨張係数が高くなる傾向がある。一方、100℃における粘度が3000mPa・sを超えると、流動性が極端に低くなるため、配管での輸送が困難になる傾向がある。また、100℃における粘度は、前記と同様の理由により350〜2500mPa・sであることがより好ましい。
本発明における軽質油分離コールタールピッチは、水素原子数と炭素原子数の比(H/C)が0.5〜0.8であることが好ましい。H/Cが0.5未満の場合は、重質な成分の量が多く、メソフェースの成長が妨げられ、得られるニードルコークスの熱膨張係数(CTE)が高くなる傾向がある。一方、H/Cが0.8を超える場合は、脂肪族化合物の含有量が多くなり、得られるニードルコークスの熱膨張係数が大きくなる傾向がある。また、H/Cは、前記と同様の理由により0.55〜0.7であることがより好ましい。
本発明における軽質油分離コールタールピッチの15℃における比重は、1.0〜1.4であることが好ましい。軽質油分離コールタールピッチの比重(15℃/4℃)が1.0未満の場合は、コークス歩留りが低くなる傾向がある。一方、軽質油分離コールタールピッチの比重(15℃/4℃)が1.4を超えると、重質成分の含有量が多く、メソフェースの成長が阻害される傾向がある。また、比重(15℃/4℃)は、前記と同様の理由により1.1〜1.3であることがより好ましい。
なお、上記した軽質油分離コールタールピッチの諸特性は各々独立したものであり、必ずしも全ての特性を兼ね備えている必要は無い。
上記の通り、コールタールピッチから軽質油を分離するための分離装置を備え、軽質油分離コールタールピッチを原料として後述する水素化処理装置を用いた水素化反応を行うことにより、良好な特性を有するニードルコークスが得られる傾向がある。
ニードルコークスは、針状が発達した結晶構造を有することにより、低い熱膨張係数を得ていると考えられている。この発達した針状構造は、メソフェース生成時に生じる芳香族環からのガス、特に水素の発生により形成されると考えられている。このため、コークス化に寄与の低い軽質油を留去し、このガス発生時の粘度を増加させることにより、より効率的にメソフェースの成長を促すことにより、得られるニードルコークスの熱膨張係数を低下させる傾向が高いものと考えられる。
軽質油分離コールタールピッチは、軽質油を分離する前に比べて粘度が高くなり、流動性が低下する。このため、これを原料コールタールピッチとして用いると、水素化処理において触媒との接触効率が低下し、脱硫率、脱窒素率が低下する場合がある。しかしながら本発明では後述する通り、水素化処理装置に供給する原料として、原料コールタールピッチとともに水素化コールタールピッチから分離された軽質油を併用する装置構成とすることにより、上記の問題を解消することができる。このため本発明の装置では、原料コールタールピッチとして軽質油分離コールタールピッチを有効に使用することができる。
<石油系重質油>
本発明では、水素化する原料として、前記の原料コールタールピッチとともに石油系重質油を混合して用いることが可能な装置構成としてもよい。また、原料コールタールピッチと石油系重質油とを混合してから軽質油を分離して水素化する原料となる装置構成とし
てもよい。更には、軽質油分離コールタールピッチと石油系重質油とを混合して水素化する原料となる装置構成としてもよい。
混合して用いる石油系重質油は限定されないが、例えば、流動接触分解油、常圧蒸留残油、減圧蒸留残油、シェールオイル、タールサンドビチューメン、オリノコタール、石炭液化油、エチレンボトム油及びこれらを水素化精製した重質油などが挙げられる。また、上記以外に、直留軽油、減圧軽油、脱硫軽油、脱硫減圧軽油等の比較的軽質な油を更に含有してもよい。これらの中でも特に流動接触分解油、及び常圧蒸留残油は芳香族成分が比較的多く含まれることから好ましい。
石油系重質油の硫黄分は1.0重量%以下であることが好ましく、0.5重量%以下であることがより好ましい。また、石油系重質油の窒素分は0.7重量%以下であることが好ましく、0.4重量%以下であることがより好ましい。混合する石油系重質油の硫黄分や窒素分が前記上限値を超えると、ニードルコークスのパッフィングを十分に抑制することができない場合がある。
石油系重質油の混合割合は限定されず、コールタール又はコールタールピッチ中の窒素分、硫黄分、石油系重質油中の窒素分、硫黄分より計算して適宜最適化されるが、混合油中の硫黄分が1.0重量%以下、窒素分が0.9重量%以下となる割合に混合することが好ましい。混合油中の各成分の下限値は限定されないが、通常、硫黄分が0.3重量%以上、窒素分が0.1重量%以上となる割合に混合することが好ましい。具体的には、コールタール又はコールタールピッチを50〜80重量%、石油系重質油を50〜20重量%の割合に混合することが好ましい。一般に、石油系重質油はコールタールに較べて窒素分は低く、硫黄分は高い傾向にあるが、両者を混合した後の窒素分や硫黄分を上記の範囲となるように配合して用いることにより、本発明の効果を有効に発揮することができる。
上記の石油系重質油中に飽和炭化水素、特に脂肪族成分が多く含まれると、芳香族成分の重合及び重縮合以外に架橋反応が起こるため、三次元構造の結晶が成長してメソフェースが十分に成長せず、その結果、熱膨張係数が大きくなると考えられている。本発明の装置に用いる原料コールタールピッチは、コールタールを原料としていることから芳香族性は極めて高く、ニードルコークスの原料として好適であるが、混合原料油に使用する石油系重質油としては、コールタールより芳香族成分の割合は小さいものの、上述の流動接触分解油及び常圧蒸留残油は芳香族成分が比較的多いことから好ましい。
[2.水素化処理装置]
本発明の装置では、原料コールタールピッチ(前記した通り、石油系重質油を混合して用いる場合を含む。)を、水素化処理装置に装入して水素化処理することにより、水素化コールタールピッチとすることができる(図1参照)。
なお本発明の装置では、原料コールタールピッチとともに、後述する分離装置で分離された軽質油を水素化処理装置に供給する機構を有するが、本特徴については後述する。
また、水素化工程に供給する原料として、上記以外の原料(以下、「その他の原料」と言う場合がある。)を併用してもよい。その他の原料は限定されないが、水素消費量が少ないという観点から、飽和度の高い炭素系化合物や芳香族性の低い炭素系化合物が好適に用いられる。
本発明において水素化処理装置とは、高圧の水素存在下において触媒を用いてピッチ系原料油中の硫黄濃度及び窒素濃度を低減させる装置である。
水素化処理装置の具体的な方式は限定されないが、反応性と生産性の観点から連続反応式装置であることが好ましい。触媒層は流動床、固定床、またはこれらを組み合わせたもののいずれも適用出来るが、長期運転のし易いこと、建設費用等の経済性の観点から固定
床式が好ましい。すなわち連続固定床式水素化処理装置が本発明には好適である。回分式反応装置は水素化反応率が小さい等の理由により好ましくない場合がある。
水素化処理装置の形状や材質は、水素を含む高温反応に耐え得るように設計されたものであれば限定されない。
通常、原料コールタールピッチは、100〜280℃程度の温度で移送されてくる。一方、水素化処理装置による水素化反応は、後述する通り、通常300〜450℃程度の温度で行われる。このため、原料コールタールピッチと水素は、水素化反応が開始する温度以上の温度に加熱して水素化処理装置へ供給する必要がある。従って、水素化処理装置へ供給する原料を加熱する装置(図示せず。以下、「加熱装置」と言う場合がある。)を備えた装置とすることが好ましい。加熱装置の種類は限定されないが、例えば、熱媒オイルや蒸気を熱源とする熱交換器や加熱炉等が挙げられる。
一方、後述する通り、分離装置によって分離される軽質油は、通常250〜400℃程度の高温で排出される。このため、上記熱交換器の熱媒として、分離装置によって分離された軽質油を用いることも好ましい。
更には、原料コールタールピッチと高温状態でリサイクルされる軽質油とを混合することにより、原料を加熱することも好ましい。この方式により、加熱装置の代替あるいは加熱装置の機能を補完する手段とすることが出来る。また、この方式の場合は、図1における冷却装置を用いない、或いは小規模化する態様としてもよい。
水素の供給方法は、限定されないが、原料コールタールピッチの流れと同じ方向に供給する場合は、1個所からの供給であってもよいし、複数個所に分けて供給してもよい。さらに、水素の一部を原料コールタールピッチと混合し、残りの水素を反応途中の原料コールタールピッチが流れる水素化処理装置に供給してもよいが、原料コールタールピッチに水素を予め混合した状態で水素化処理装置に供給することが望ましい。より具体的には、図1のように、本発明の水素化コールタールピッチの製造装置において、前記水素化処理装置に原料コールタールピッチと水素とを供給するラインを有し、該ラインがコールタールピッチを供給するラインと水素を供給するラインとが予め合流したものであることが好ましく、このような装置であると、エントレイメントやフラッディング(供給された原料コールタールピッチが反応器内の下側から上昇する水素及び反応により生じたガスの流れにより水素化処理装置の上側にもち上げられる現象)を防ぐ観点から好ましい。
さらに、水素は図2のように原料コールタールピッチの流れと逆向きに供給してもよく、水素化処理装置の出口付近から供給することもできる。この場合、水素の供給個所は、1個所であってもよいし、複数個所に分けて供給してもよい。水素の一部を水素化処理装置の出口から供給し、残りの水素を反応途中の原料コールタールピッチが流れる水素化処理装置に供給してもよいし、水素化処理装置の出口から払出される水素化されたコールタールピッチと水素を混合し、水素のみを水素化処理装置に供給することもできるが、水素化されたコールタールピッチの逆流を防止するため、水素化処理装置の出口付近から水素を供給することが望ましい。より具体的には、本発明の水素化コールタールピッチの製造装置において、前記水素化処理装置が原料コールタールピッチの供給口と水素の供給口とを有し、少なくとも1つの水素の供給口が、原料コールタールピッチの供給口よりも下流側に備えられているものが好ましく、このような装置であると、水素化処理装置内において、水素化反応をより良好に進行させることができるために好ましい。
原料コールタールピッチと水素の混合方法は限定されず、これらを独立して水素化処理装置へ供給してもよいし、予め混合した状態で水素化処理装置へ供給してもよいが、後者の方が好ましい。
原料コールタールピッチと水素を独立して水素化処理装置へ供給する場合は、高温状態
の原料コールタールピッチに低温の水素が混合されると、原料コールタールピッチの温度が低下するため、水素化反応の反応性が低下したり、水素化処理装置への原料コールタールピッチの供給が困難になる場合がある。このため、水素も加熱して供給することが好ましい。
一方、原料コールタールピッチと水素を予め混合した状態で水素化処理装置へ供給する場合は、上記のような問題を解消することができる。この方式の場合、加熱装置又は水素化処理装置の直前で原料コールタールピッチと水素を混合することが望ましい。なお、水素供給配管と原料コールタールピッチ供給配管を接続させるのみで両流体を混合する場合は、上記理由のため、両流体を混合した場所から加熱装置又は水素化処理装置までの配管の長さをできる限り短くすることが望ましい。
原料コールタールピッチを水素化処理装置に装入する配管の材質は、原料コールタールピッチによって腐食が生じないものであれば限定されず、適宜選択して用いることが出来る。一方、水素を水素化処理装置に装入する配管は、水素による腐食に耐え、水素の透過が生じない材質を選択する必要がある。また、原料コールタールピッチと水素を混合して水素化処理装置に装入する場合は、その範囲の配管の材質についても水素を移送する配管に準ずることが好ましい。
本発明において、水素化処理装置を用いて原料コールタールピッチを水素化する方法は限定されないが、具体的な方法を以下に説明する。
水素化処理に用いられる触媒としては、Ni−Mo系触媒、Co−Mo系触媒、Ni−Co−Mo系触媒、或いはこれらを組合せた触媒などが挙げられ、これらは市販品を用いてもよい。これらの中でも、脱硫及び脱窒素の活性が高く、水素消費量が抑えられるという点でNi−Mo系触媒が好ましい。
水素化処理の温度は限定されないが、通常300〜450℃で行われる。水素化処理の温度が300℃未満の場合は脱硫率及び脱窒素率が低下し、ニードルコークスのパッフィングの抑制が不十分になる傾向がある。一方、450℃を超えると触媒寿命が低下する等の問題が発生する傾向がある。また、水素化処理の温度は、上記と同様の理由により、好ましくは350〜420℃、より好ましくは360℃〜400℃である。
水素化処理における水素/ピッチ流量比は限定されないが、ピッチ1m当たり通常100〜700Nm/mで行われる。水素/ピッチ流量比が100Nm/m未満になると、十分な水素化が行われないことにより、脱硫率、脱窒素率が低下し、ニードルコークスのパッフィングの抑制が不十分になる傾向がある。更にはメソフェースの成長が不十分となるため、ニードルコークスのCTEが高くなる傾向がある。一方、水素/ピッチ流量比が700Nm/mを超えると、水素化が過度に進行し、軽質化が進み、コークスの歩留りが低下する傾向がある。また、水素化処理における水素/ピッチ流量比は、上記の理由により、好ましくは200〜600Nm/m、より好ましくは250〜500Nm/mある。
水素化処理における水素分圧は限定されないが、通常5〜20MPaで行われる。水素分圧が5MPa未満であると、水素化反応による脱硫率及び脱窒素率が小さいため、結果としてニードルコークスのパッフィング抑制が不十分となる傾向がある。また、水素分圧が20MPaを超過する場合はピッチ系原料油の分解が進行し過ぎるため、コークス化した際のコークスの収率が低下するだけでなく、コークスの熱膨張係数が大きくなる傾向がある。
水素化処理における水素分圧は、上記と同様の理由により、好ましくは8MPa以上、より好ましくは10MPa以上、更に好ましくは12MPa以上であり、好ましくは18
MPa以下、より好ましくは16MPa以下である。
水素化処理における液空間速度(LHSV)は限定されないが、通常0.1〜2.0h−1で行われる。液空間速度(LHSV)が2.0h−1を超えると十分な水素化が行われないことにより、脱硫率、脱窒素率が低下し、ニードルコークスのパッフィングの抑制が不十分になる傾向がある。更にはメソフェースの成長が不十分となるため、ニードルコークスのCTEが高くなる傾向がある。一方、液空間速度(LHSV)が0.1h−1未満になると水素化が過度に進行し、軽質化が進み、コークスの歩留りが低下する傾向がある。また、水素化処理における液空間速度は、上記と同様の理由により、好ましくは0.3〜1.6h−1、より好ましくは0.3〜1.3h−1、さらに好ましくは0.5〜1.0h−1である。
なお、上記した水素化処理の条件は各々独立したものであり、必ずしも全ての条件を兼ね備えている必要は無い。
本発明の水素化処理装置を用い、反応温度、水素/ピッチ流量比、水素分圧、液空間速度(LHSV)を上記範囲内とすることにより最適な水素化が進行し、十分にパッフィングが抑制されたニードルコークスが得られる程度の脱硫率、脱窒素率になり、さらに、低い熱膨張係数のニードルコークスを得るに十分なメソフェースの成長を促すことができる。
[3.分離装置]
本発明では、水素化処理装置で水素化されたコールタールピッチを、分離装置によって水素化コールタールピッチと軽質油に分離する。なお、本発明において、水素化処理装置で水素化されたコールタールピッチから分離された軽質油を「水素化油」という場合がある。
分離装置の具体的な方式は限定されないが、遠心分離、溶剤抽出、ストリッピング、水蒸気蒸留、フラッシュ蒸留、薄膜蒸留、常圧蒸留、減圧蒸留等が挙げられる。これらの方式に応じて分離装置は適宜選択され、具体的には、遠心分離器、抽出器、気液分離器、水蒸気蒸留塔や常圧蒸留塔等の各種蒸留塔、薄膜蒸留器等が用いられる。中でも、蒸留塔又は気液分離器が好ましい。
本発明において、分離装置を用いて水素化コールタールピッチと水素化油に分離する方法は限定されないが、具体的な方法を以下に説明する。
常圧蒸留により水素化油を分離する場合、蒸留装置(蒸留塔)の上部温度は限定されないが、通常400℃以下、好ましくは380℃以下、より好ましくは360℃以下である。
水素化処理して得られたコールタールピッチから分離する水素化油の割合は限定されないが、通常2重量%以上、好ましくは10重量%以上であり、一方、通常40重量%以下、好ましくは35重量%以下である。分離する水素化油の割合が前記下限値未満であると、水素化処理装置へリサイクルする水素化油が減少するため、原料コールタールピッチの粘度を下げる効果や、水素化反応における反応熱を除去する効果など、本発明の効果が十分に発揮出来ない場合がある。一方、分離する水素化油の割合が前記上限値を超える場合は、水素化コールタールピッチの生産効率が低下する傾向にある。
分離装置において、水素化処理して得られたコールタールピッチから水素化油を分離するだけでなく、水素化反応により生じた反応ガスや未反応の水素を分離することもできる。分離装置の設置数は、特に限定されないが、反応ガスや未反応の水素が多い場合は、分離装置を複数設置し、分離装置の圧力を段階的に変化させることにより、前述のガスと水素化油を分けて水素化油を得ることが望ましい。この場合、前述のガスのみを排出するガス排出回路を備えてもよい。
分離装置によって水素化油を分離することにより得られる水素化コールタールピッチをコークス化することにより、パッフィングが十分に抑制され且つ熱膨張係数の小さいニードルコークスを得ることが出来る。
<水素化油>
分離装置で分離された水素化油の諸特性は限定されないが、後述する通り、水素化処理装置にリサイクルすることにより、原料コールタールピッチの粘度を下げる効果や、水素化反応における反応熱を除去する効果を奏することから、以下の諸特性を有することが望ましい。
なお、水素化油は、その全量を後述するリサイクル工程に使用する必要は無く、一部を抜き出して他の用途に用いることも出来る。具体的には、水素化油は冷媒(冷却オイル)、各種化学工業の原料、溶剤、潤滑剤、改質剤、燃料等としても有用に用いることができる。水素化油の一部を抜き出して排出する回路については後述する。
水素化油の硫黄含有率は0.6重量%以下であることが好ましく、0.3重量%以下であることがより好ましい。水素化油に含まれる硫黄含有率が0.6重量%を超えると、水素化処理装置で生じる脱硫反応が過度になり、水素化油に消費される水素量が増加する傾向がある。
水素化油の窒素含有率は0.7重量%以下であることが好ましく、0.4重量%以下であることがより好ましい。水素化油に含まれる窒素含有率が0.7重量%を超えると、水素化処理装置で生じる脱窒素反応が過度になり、水素化油に消費される水素量が増加する傾向がある。
水素化油は、水素原子数と炭素原子数の比(H/C)が0.8以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましい。水素化油のH/Cが0.8未満の場合、水素化油の水素化に使われる水素量が増加し、反応の効率が低下する傾向がある。
水素化油の100℃における粘度は6mPa・s以下であることが好ましく、2mPa・s以下であることがより好ましい。
水素化油の100℃における粘度が6mPa・sを超えると、原料コールタールピッチと混合しにくくなる傾向がある。このため、原料コールタールピッチの粘度を下げる目的で使用する場合には、充分に粘度を下げられない傾向があり、また、水素化反応における冷媒として用いる場合には、水素化処理装置内を流れる反応液(原料コールタールピッチ又は水素化コールタールピッチ)と充分に混合されず、水素化処理装置の均一な冷却が行われない傾向がある。
水素化油の15℃における比重は0.8〜1.2であることが好ましい。
水素化油を原料コールタールピッチの粘度を下げる目的で使用する場合において、水素化油の比重が0.8未満、或いは1.2を超える場合には、原料コールタールピッチとの比重差が大きく、原料コールタールピッチと混合しにくい傾向がある。そのため、原料コールタールピッチに水素化油が充分に混合されず、原料コールタールピッチの粘度を充分に下げられない傾向がある。
また、水素化油を水素化反応における冷媒として用いる場合において、水素化油の比重が0.8未満の場合は、軽沸点成分が多く、水素化処理装置内で気化が生じ、均一な冷却が行われない傾向があり、一方、水素化油の比重が1.2以上の場合は、重質な成分が多く、水素化処理装置内を流れる反応液(原料コールタールピッチ又は水素化コールタールピッチ)と充分に混合されず、水素化処理装置の均一な冷却が行われない傾向がある。
[4.リサイクル回路]
本発明では、分離装置で分離された軽質油(水素化油)を水素化処理装置に供給するリ
サイクル回路を有する。すなわち、少なくとも原料コールタールピッチ及び水素化油が水素化処理装置に供給される。
水素化油を水素化処理装置に供給することにより、原料コールタールピッチの粘度を低下させる効果を奏するとともに、発熱反応である水素化工程の反応温度を制御する効果を奏する。水素化油は既に水素化処理された軽質油であるため、これを再度水素化処理装置に供しても反応活性が低い。しかも、目的物である水素化コールタールピッチに対する異物でもないため、循環回路とすることの問題も生じない。このため、分離装置及びリサイクル回路を設けることは、水素の消費量を抑えつつ上記の2つの効果を発現させるために効果的である。
リサイクル回路を構成する配管の材質は、水素化油によって腐食が生じないものであれば限定されず、適宜選択して用いることが出来る。
水素化油を水素化工程に供給する方法や供給箇所は限定されない。従って、リサイクル回路のライン構成は限定されない。
リサイクル回路は、水素化油を原料コールタールピッチと混合して水素化処理装置に供給する構造であってもよいし、これらを独立して水素化処理装置に供給する構造であってもよい。原料コールタールピッチと水素化油とを混合して水素化処理装置に供給する場合の機構も限定されず、撹拌槽等の混合手段であってもよいし、ライン(配管)を合流させるのみの構造であってもよい。更には、水素化油を水素化処理装置の途中、すなわち水素化反応の途中段階で供給する構造であってもよい。
リサイクル回路は、軽質油を水素化処理装置の複数の個所へ供給する回路としてもよい。
原料コールタールピッチの粘度を低下させることを目的として水素化油をリサイクルする場合は、ライン(配管)を合流させるのみの構造で原料コールタールピッチと水素化油を混合する方法が望ましい(図1参照)。更には、これらを合流させた後の流体が乱流となるように配管等が設計されていることが望ましい。また、混合する機構の設置場所は限定されないが、水素化処理装置の直前であることが望ましい。
一方、水素化油を水素化工程の反応温度を制御(調整)することを目的としてリサイクルする場合は、原料コールタールピッチとともに水素化処理装置の入口で供給する構造のみならず、水素化処理装置の途中段階で供給する構造とすることも好ましい(図3参照)。
前述の通り、水素化処理装置による水素化反応は非常に高温であり、しかも発熱反応であるため、反応熱の除去(冷却)が必要となる場合がある。このため水素化処理装置の途中段階で、当該箇所での反応温度よりも低温に調整した水素化油を供給する構造とすることにより、効率的に冷却し、反応温度や反応速度を制御することが出来る。水素化油を供給する水素化処理装置の位置は限定されないが、例えば、棚段状に触媒層が設置されている装置であれば、当該触媒層の位置に水素化油を装入する構造が挙げられる。水素化油は装置中の1個所に装入する構造であってもよいし、2個所以上から装入する構造としてもよい。
本発明の装置は、水素化処理装置に温度センサーを備え、該温度センサーからの温度情報に応じて水素化油を水素化処理装置に供給する量を制御する機能を備えていてもよい(図示せず)。この機能は、特に水素化油を水素化工程の反応温度を制御する目的でリサイクルする場合に好ましい態様である。本発明の装置に当該機能を有することにより、水素化反応の温度を効率的に制御することが可能となるため好ましい。なお、リサイクル回路を分岐することにより、水素化油を水素化処理装置の複数の個所に供給する場合には、水素化処理装置に複数の温度センサーを備え、該複数の温度センサーからの温度情報に応じて、各々の供給量を制御する機能としてもよい。
なお、水素化反応の熱を除去する(冷却する)ために、上記のリサイクル回路以外の手段を併用することも出来る。具体的には、水素化油以外の冷媒(以下、「その他の冷媒」と言う場合がある。)を水素化処理装置に供給する装置構成を付加してもよい。その他の冷媒は限定されず、水素ガスやその他のリサイクルガス、炭化水素等が挙げられる。その他の冷媒として炭化水素を用いる場合は、水素化反応を受けにくい点で飽和炭化水素が好ましい。
リサイクル回路には、冷却装置を設けてもよい。リサイクル回路に冷却装置を設けることにより、水素化油を冷却して水素化処理装置に供給することが出来る。水素化油を水素化処理装置に供給する回路が複数ある場合は、それぞれの回路に冷却装置を設けてもよいし、リサイクル回路が分岐する前の位置に設けてもよい。冷却装置の方式や構造は限定されないが、例えば冷媒を用いた熱交換器や流体を熱源とする水管ボイラー等が挙げられる。
リサイクル回路に冷却装置を設けることにより、低温の水素化油を水素化処理装置に供給することが可能となるため、特に水素化油を水素化工程の反応温度を制御する目的でリサイクルする場合は効果的である。この場合、水素化油をより低温に冷却するほど、水素化油のリサイクル量を減らすことができるので望ましい。
更には図4に示すリサイクル回路としてもよい。すなわちリサイクル回路を分岐し、原料コールタールピッチの粘度を低下させることを目的とする回路には冷却装置を用いない(或いは小規模化する)態様とし、水素化工程の反応温度を制御することを目的とする回路には冷却装置を設ける態様としてもよい。
[5.排出回路]
前述の通り本発明では、分離装置で分離された水素化油の全量を水素化処理装置に供給する必要は無く、水素化油の一部を抜き出して排出する回路を設けてもよい(図1参照)。水素化油を排出する方法は限定されないが、リサイクル回路を流れる水素化油の圧力が十分に高ければ、配管等の流路を分岐させるだけでよい。リサイクル回路を流れる水素化油の圧力が十分には高くない場合は、移送ポンプ等で昇圧してもよいし、一端タンク等の容器に排出してもよい。また、3方弁、4方弁、閉止弁等を用い、水素化油の供給先を切り替えることが可能な方式としてもよい。ここで弁の形式は限定されず、例えば、ボールバルブ、ゲートバルブ、グローブバルブ、バタフライバルブ、ダイヤフラムバルブ等が挙げられる。更には、水素化油の供給先として、水素化処理装置と排出回路への分配を制御できる構造としてもよい。このような制御を行う場合は、それぞれの装置への排出流量を監視しながら、それぞれの装置への水素化油の供給量を調整するバルブの開閉又は開度調整を行う自動弁、水素化処理装置の温度を監視しながら水素化油をリサイクル回路から排出するバルブの開閉又は開度を調整する自動弁、又は一定の圧力で開閉する背圧弁等を設ければよい。
なお、排出回路から排出された水素化油の供給先は任意であり、貯蔵タンクであってもよいし、製造設備であってもよい。また、排出回路は、分離装置で分離された水素化反応で生じた反応ガスや未反応の水素ガスを排出してもよいし、これらのガスのみを排出するガス排出回路を設けて、水素化油と前述のガスを分けて排出してもよい。
[6.水素化コールタールピッチ]
上記の様に分離装置で水素化油から分離されて得られた水素化コールタールピッチの諸特性は限定されないが、以下の特性をもつものであることが好ましい。これらの値である水素化コールタールピッチを原料として得られるピッチ系ニードルコークスは、パッフィングが低い値を示すだけでなく、熱膨張係数も十分に小さい値を示すため好ましい。
本発明の製造装置で得られる水素化コールタールピッチは、キノリン不溶分が好ましくは0.02重量%以下であり、より好ましくは0.01重量%以下であり、更に好ましくは0.005重量%以下であり、特に好ましくは0.003重量%以下である。キノリン不溶分の含有量を上記の範囲とすることによって、これを原料として得られるピッチ系ニードルコークスが、パッフィングが低い値を示すだけでなく、熱膨張係数も十分に小さい値を示すことができる。
なお、本発明の製造装置で得られる水素化コールタールピッチは、キノリン不溶分の下限値は限定されず、より低い値であることが好ましいが、コールタールピッチを原料とする限り0(ゼロ)にすることは困難であるため、通常は0.0001重量%以上である。
本発明の製造装置で得られる水素化コールタールピッチは、硫黄分が好ましくは0.3重量%以下であり、より好ましくは0.25重量%以下である。硫黄分の含有量を上記の範囲とすることによって、これを原料として得られるピッチ系ニードルコークスが、パッフィングが低い値を示すだけでなく、熱膨張係数も十分に小さい値を示すことができる。
なお、本発明の製造装置で得られる水素化コールタールピッチは、硫黄分の下限値は限定されず、より低い値であることが好ましいが、コールタールピッチを原料とする限り0(ゼロ)にすることは困難であるため、通常は0.05重量%以上である。
本発明の製造装置で得られる水素化コールタールピッチは、窒素分が好ましくは0.90重量%以下であり、より好ましくは0.85重量%以下であり、更に好ましくは0.80重量%以下であり、特に好ましくは0.75重量%以下である。窒素分の含有量を上記の範囲とすることによって、これを原料として得られるピッチ系ニードルコークスが、パッフィングが低い値を示すだけでなく、熱膨張係数も十分に小さい値を示すことができる。
なお、本発明の製造装置で得られる水素化コールタールピッチは、窒素分の下限値は限定されず、より低い値であることが好ましいが、コールタールピッチを原料とする限り0(ゼロ)にすることは困難であるため、通常は0.20重量%以上である。
本発明の製造装置で得られる水素化コールタールピッチの360℃以下の留分は、40重量%以下であることが好ましい。水素化コールタールピッチの360℃以下の留分が40重量%を超えると、コークス歩留りが低くなる傾向がある。また、360℃以下の留分は、前記と同様の理由により、上限は35重量%以下であることがより好ましい。一方、水素化コールタールピッチの360℃以下の留分の下限は2重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましく、15重量%以上であることが更に好ましい。360℃以下の留分が上記下限値未満であると、メソフェース成長時の液相粘度が上昇し、メソフェースの成長が阻害される傾向がある。
本発明の製造装置で得られる水素化コールタールピッチの100℃における粘度は50〜500mPa・sであることが好ましい。水素化コールタールピッチの100℃における粘度が、50mPa・s未満の場合、水素化コールタールピッチに含まれる軽質油が多く、ニードルコークスの熱膨張係数が高くなる傾向がある。一方、水素化コールタールピッチの100℃における粘度が500mPa・sを超えると、メソフェーズの成長時の液相粘度が高く、メソフェースの成長が阻害され、熱膨張係数が高くなる傾向がある。また、100℃の粘度は、前記と同様の理由により80〜200mPa・sであることがより好ましい。
本発明の製造装置で得られる水素化コールタールピッチは、水素原子数と炭素原子数の比(H/C)が0.8以上であることが好ましい。水素化コールタールピッチのH/Cが0.8未満の場合は、ナフテン環の生成が少なく、メソフェース成長時の液相粘度が高くなり、得られるニードルコークスの熱膨張係数(CTE)が高くなる傾向がある。また、
H/Cの上限は、1.2以下であることが好ましい。
本発明の製造装置で得られる水素化コールタールピッチの15℃における比重は、1.0〜1.2であることが好ましい。水素化コールタールピッチの比重(15℃/4℃)が1.0未満の場合は、コークス歩留りが低くなる傾向がある。一方、水素化コールタールピッチの比重(15℃/4℃)が1.2を超えると、重質成分の含有量が多く、メソフェースの成長が阻害される傾向がある。また、比重(15℃/4℃)は、前記と同様の理由により1.08〜1.19であることがより好ましい。
従来は、コールタールピッチを原料とする限り、上記のような諸特性の範囲内であるコールタールを得ることは極めて困難であったが、本発明においては前記の通り、水素化処理装置、分離装置及びリサイクル回路を備えた装置構成とすることにより、上記の諸特性を満たす水素化コールタールピッチを得ることができる。
なお、上記した水素化コールタールピッチの諸特性は各々独立したものであり、必ずしも全ての特性を兼ね備えている必要は無い。
[7.コークス化]
本発明の製造装置で得られた水素化コールタールピッチは、コークス化することによって、熱膨張係数が小さく且つパッフィングが十分に抑制されたピッチ系ニードルコークスを得ることが出来る。以下に、ニードルコークスの製造について説明する。
本発明の製造装置で得られた水素化コールタールピッチをコークス化する方法は限定されないが、ディレードコーキング法、ビスブレーキング法、フレキシコーキング法、ユリカプロセスなどが挙げられ、これらの中でも、得られるコークスの生産性や品質安定性の点からディレードコーキング法が好ましい。
ディレードコーキング法においては、水素化コールタールピッチが加熱管中を加熱されながら急速に通過し、コークドラムに導入されてコーキングが起こる。コーキング条件は特に制限されないが、温度は好ましくは400〜600℃、より好ましくは450〜550℃である。コーキング時間は好ましくは18〜72時間、より好ましくは20〜40時間である。
また、このようにして得られるコークスをロータリーキルン、シャフト炉等でか焼することが好ましい。か焼の際の温度は1000〜1500℃が好ましく、時間は1〜6時間が好ましい。
なお、コークス化に用いる原料としては、本発明の製造装置で得られる水素化コールタールピッチとともに他の原料を併用してもよい。このような原料は限定されないが、例えば石油系重質油が挙げられる。水素化コールタールピッチと併用して用いる石油系重質油は限定されないが、例えば、前記した水素化処理時に原料コールタールピッチとともに用いることの出来る石油系重質油として例示したものが挙げられ、中でも特に流動接触分解油、常圧蒸留残油が好ましい。
水素化コールタールピッチと他の原料との混合割合は限定されないが、水素化コールタールピッチを通常50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上となる割合で用いることが好ましい。
本発明の製造装置で得られた水素化コールタールピッチを用い、上記のようにして得られたピッチ系ニードルコークスは、硫黄分及び窒素分の含有割合が低いため、熱膨張係数が小さく且つパッフィングが十分に抑制されたピッチ系ニードルコークスとすることが出来る。具体的には、ピッチ系ニードルコークスの硫黄分は0.3重量%以下、更には0.15重量%以下とすることが出来、窒素分は0.8重量%以下、更には0.6重量%以下とすることが出来る。
また、得られるピッチ系ニードルコークスは、熱膨張係数(CTE)が3.4×10-7
/℃以下、更には3.2×10-7/℃以下であり、パッフィングが3.4%以下、更には
3.0%以下とすることができる。ここでパッフィングの値は、室温から2600℃迄を昇温速度20℃/分にて昇温した際の、試験片の寸法の伸びを意味する。
このため、得られるピッチ系ニードルコークスは、電炉製鋼用黒鉛電極の骨材として好適に使用することが出来る。得られるピッチ系ニードルコークスを用いて黒鉛電極製品を製造する方法としては、ニードルコークスにバインダーピッチを適当量添加した原料を加熱捏合した後、成型して得られた生電極を焼成し、黒鉛化した後、加工する方法が挙げられる。

Claims (11)

  1. 原料コールタールピッチを水素化するための水素化処理装置、水素化処理装置から排出される水素化コールタールピッチから軽質油を分離する分離装置、及び、分離装置で分離された軽質油を水素化処理装置に供給するリサイクル回路を備えた水素化コールタールピッチの製造装置。
  2. リサイクル回路が、原料コールタールピッチとともに軽質油を水素化処理装置に供給する回路となっている請求項1に記載の水素化コールタールピッチの製造装置。
  3. 水素化処理装置に温度センサーを備え、該温度センサーからの温度情報に応じて軽質油を水素化処理装置に供給する量を制御する機能を備えた請求項1又は2に記載の水素化コールタールピッチの製造装置。
  4. リサイクル回路が、軽質油を水素化処理装置の複数の個所へ供給する回路となっている請求項1又は2に記載の水素化コールタールピッチの製造装置。
  5. 水素化処理装置に複数の温度センサーを備え、該温度センサーからの温度情報に応じて、軽質油を水素化処理装置に供給する複数の回路の供給量を制御する機能を備えた請求項4に記載の水素化コールタールピッチの製造装置。
  6. リサイクル回路に、軽質油を冷却する冷却装置を備えた請求項1〜5の何れか1項に記載の水素化コールタールピッチの製造装置。
  7. 前記冷却装置が熱交換器である請求項6に記載の水素化コールタールピッチの製造装置。
  8. 水素化処理装置が連続固定床反応装置である請求項1〜7の何れか1項に記載の水素化コールタールピッチの製造装置。
  9. 分離装置が蒸留塔又は気液分離器である請求項1〜8の何れか1項に記載の水素化コールタールピッチの製造装置。
  10. 前記水素化処理装置に原料コールタールピッチと水素とを供給するラインを有し、該ラインがコールタールピッチを供給するラインと水素を供給するラインとが予め合流したものである請求項1〜9の何れか1項に記載の水素化コールタールピッチの製造装置。
  11. 前記水素化処理装置が原料コールタールピッチの供給口と水素の供給口とを有し、少なくとも1つの水素の供給口が、原料コールタールピッチの供給口よりも下流側に備えられている請求項1〜9の何れか1項に記載の水素化コールタールピッチの製造装置。
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