一般に、フロントエンジン・リヤドライブ方式の自動車(FR車)に搭載される手動変速機の変速機構は、クラッチを介してエンジンの出力軸に連絡された入力軸と、該入力軸に平行に配置されたカウンタシャフトと、入力軸と同じ軸線上に配置され、プロペラシャフトを介して駆動輪側に連絡された出力軸とを有する。入力軸と出力軸は、相対回転可能に相互に嵌合されることでメインシャフトを構成している。
メインシャフトとカウンタシャフトとの間には、複数の前進用ギヤ列、通常は1つのリバース用ギヤ列、及び1つの減速用ギヤ列が設けられる。減速用ギヤ列及び前進用ギヤ列は、一般に常時噛合い式とされており、リバース用ギヤ列は常時噛み合い式又は選択摺動式とされる。
減速用ギヤ列は、メインシャフトとカウンタシャフトとの間で回転を減速させて伝達する一対の固定ギヤからなり、変速段に関係なく常に動力伝達状態とされる。
前進用ギヤ列は、メインシャフト又はカウンタシャフトの一方に固定された固定ギヤと、他方のシャフトに遊嵌されて固定ギヤに常時噛み合う遊嵌ギヤとを備えており、同期装置によって遊嵌ギヤとシャフトの回転が同期されることで、このギヤ列での動力伝達状態が円滑に実現される。なお、入力軸と出力軸を直結させる直結変速段にはギヤ列が設けられず、直結変速段の実現は、同期装置によって入力軸と出力軸の回転が同期されることでなされる。
リバース用ギヤ列は、常時噛み合い式とされる場合、メインシャフト又はカウンタシャフトの一方に設けられた固定ギヤと、他方のシャフトに設けられた遊嵌ギヤと、これらのギヤ間に介在することで回転方向を反転させる反転ギヤとを備え、同期装置によって遊嵌ギヤとシャフトの回転が同期されることで動力伝達状態となる。
以上のギヤ列は軸方向(車体前後方向)に並べて配置されるが、減速用ギヤ列は、通例、最もエンジン側(車体前方側)又は最も駆動輪側(車体後方側)に配置される。減速用ギヤ列が最も前方側に配置された変速機構はインプットリダクションタイプと呼ばれ、このタイプでは、エンジン側から入力軸に入力された回転は、先ず減速用ギヤ列において減速されてカウンタシャフトに伝達され、カウンタシャフトから所望の変速段に対応するギヤ列を介して出力軸に伝達される。一方、減速用ギヤ列が最も後方側に配置された変速機構はアウトプットリダクションタイプと呼ばれ、このタイプでは、入力軸に入力された回転は、先ず所望の変速段に対応するギヤ列を介してカウンタシャフトに伝達されて、カウンタシャフトの回転が減速用ギヤ列において減速されて出力軸に伝達される。また、いずれのタイプにおいても、直結変速段では、入力軸と出力軸が直結されることから、いずれのギヤ列も経由することなく入力軸の回転が出力軸へ直接伝達される。
この種の変速機構に設けられる同期装置は、通常、メインシャフト上又はカウンタシャフト上に配置されたシンクロスリーブを備え、該シンクロスリーブが軸方向の一方側にスライド移動されることで同期装置が作動すると、この一方側に隣接したギヤ列の遊嵌ギヤがシャフトに固定されて、該ギヤ列が動力伝達状態となる。
同期装置は、シャフト上において両側に隣接する2つのギヤ列に兼用されることがあり、例えば、前進6段の手動変速機の場合、1速と2速に兼用される1−2速用、3速と4速に兼用される3−4速用、5速と6速に兼用される5−6速用の各同期装置が設けられることがある。
手動変速機には、上記のような同期装置の作動によって変速を行うための変速操作機構が設けられる。変速操作機構には、通例、チェンジレバーのセレクト操作及びシフト操作に連動して回動及び軸方向移動を行うコントロールロッドが設けられる。
FR車に搭載される手動変速機の変速操作機構では、通例、コントロールロッドが変速機構のメインシャフト及びカウンタシャフトに平行に配設される。この場合、コントロールロッド及びこれに固定されたシフトフィンガは、チェンジレバーのセレクト操作に連動して回動し、シフトフィンガのレバー部は、セレクト操作により選択された変速段に対応するシフトフォークに係合する。この状態でチェンジレバーがシフト操作されると、これに連動して、コントロールロッドがシフトフィンガと共に軸方向に移動し、シフトフィンガのレバー部に係合されたシフトフォークが軸方向に移動する。これにより、該シフトフォークに係合された同期装置のシンクロスリーブがシフトフォークと共に軸方向に移動することで、該同期装置が作動して、所望の変速段のギヤ列が動力伝達状態となる。
チェンジレバーとコントロールロッドを連絡させる方式としては、これらの間にセレクトケーブル及びシフトケーブルを介在させる所謂ケーブル方式と、ケーブルを介在させずにチェンジレバーの下端側を直接的にコントロールロッドに係合させたり、ユニバーサルジョイント等を介してコントロールロッドの後端側に連結されたチェンジロッドにチェンジレバーの下端側を係合させたりする所謂ロッド方式とがある。
チェンジレバーは、通例、大球部から上側に向かってノブまで延びる上側レバー部と、大球部から下側に向かってコントロールロッド側との係合部まで延びる下側レバー部とを備え、大球部の中心を支点として揺動可能に設けられている。セレクト操作又はシフト操作によってチェンジレバーが揺動するとき、下側レバー部の下端は、上側レバー部上端のノブとは常に反対側に移動する。
そのため、ロッド方式の変速操作機構において、チェンジレバーの下端側に直接的又は間接的に係合されたコントロールロッドは、シフト操作によってチェンジレバー上端のノブが車体前方側又は車体後方側に移動するとき、該ノブとは反対方向に軸方向移動することになる。そして、コントロールロッド上のシフトフィンガに係合されたシフトフォークと、これに係合された同期装置のシンクロスリーブとは、通常、コントロールロッドと同じ方向(シフト操作方向とは反対方向)に移動する。
一方、シフト操作方向は、シフトパターンに従って変速段毎に決まっている。例えば、前進段においては、通常、奇数段への変速は車体前方側へのシフト操作によって行われ、偶数段への変速は車体後方側へのシフト操作によって行われる。
変速機構における各変速段のギヤ列とこれに対応する同期装置の並び順は、シフト操作方向を考慮して決められる。例えば、ロッド方式の変速操作機構が採用された場合において、上記のような1−2速用、3−4速用、5−6速用の同期装置を備えた変速機構では、シフト操作方向のみを考慮すれば、各同期装置に対して、奇数段のギヤ列を車体後方側に配置し、偶数段のギヤ列を車体前方側に配置するようなレイアウトが採用されることになる。
一方で、各変速段のギヤ列及び同期装置のレイアウト設計においては、シフト操作方向の他にも、上述したインプットリダクションタイプ又はアウトプットリダクションタイプの選択に対応させること、変速操作機構のケーブル方式又はロッド方式の選択に対応させること、大きなトルクがかかる低変速段のギヤ列を軸受の近くに配置すること、潤滑のために変速機ケースの底部に溜まったオイルの掻き上げが行われる場所に大径のギヤを配置することなど、種々の条件が考慮される。
例えば、アウトプットリダクションタイプの変速機構では、大きなトルクがかかる1速のギヤ列が、変速機の最前部の軸受に近づけるために最前列に配置されたり、直結変速段が6速である場合に、入力軸と出力軸の連結部が他の全ての変速段のギヤ列よりも車体後方側に配置されたりすることがある。この場合、1速のギヤ列は1−2速用同期装置の車体前方側に位置し、入力軸と出力軸の連結部は5−6速用同期装置の車体後方側に位置することになる。そうすると、ロッド方式を採用した場合には、コントロールロッドが1速や5速のシフト操作時に車体後方側へ軸方向移動し、2速や6速のシフト操作時に車体前方側へ軸方向移動するのに対して、これらのシフト操作時における1−2速用同期装置や5−6速用同期装置のシンクロスリーブの移動方向が、コントロールロッドの移動方向とは反対方向になる。
このようにシフト操作方向に対応しない配置のギヤ列が変速機構に含まれる場合には、例えば特許文献1に開示された変速操作機構のように、所定の変速段のシフト方向を反転させてシンクロスリーブ側へ伝達させる反転機構が設けられることがあり、これにより、シフト操作方向とシンクロスリーブの移動方向との関係を他の変速段に合わせることが可能になる。
具体的に、特許文献1に開示された手動変速機の変速機構では、5速とリバースで同期装置が兼用されていることから、5速への変速時とリバースへの変速時とでは、シンクロスリーブのスライド方向が反対となる。これに対して、シフトパターンは、5速及びリバースへのシフト操作方向がいずれも前方へ向かう方向となるように構成されていることから、いずれか一方のシフト操作方向を反転させてシンクロスリーブへ伝達させる必要がある。
そこで、特許文献1の変速操作機構には、5速へのシフト操作に連動して軸方向に移動する第1シフトロッドと、該第1シフトロッドに平行に配置された第2シフトロッドとの間に、5速へのシフト操作方向を反転させる反転機構が設けられており、第2シフトロッドに固定されたシフトフォークに、5速−リバース用同期装置のシンクロスリーブが係合されている。
具体的に、特許文献1の反転機構は、第1及び第2シフトロッド間にこれらのロッドに直角な方向に延びる支持軸と、該支持軸に回転自在に支持されたレバー部材とを備えている。レバー部材は、支持軸から径方向に延びる第1レバー部と、支持軸から第1レバー部とは反対側に向かって径方向に延びる第2レバー部とを備えており、第1レバー部の先端部は、第1シフトロッドの係合凹部に係合され、第2レバー部の先端部は、第2シフトロッドの係合凹部に係合されている。
そして、リバースへのシフト操作が行われるときは、これにより生じるシフト運動が第1シフトロッドを介することなく直接第2シフトロッドに伝達されて、該第2シフトロッドと共にシフトフォークが軸方向の一方側へスライドされることで、同期装置のシンクロスリーブが同じ方向にスライドされて、リバースのギヤ列が動力伝達状態となる。
一方、5速へのシフト操作が行われるときは、シフト運動が先ず第1シフトロッドに伝達されて、該第1シフトロッドが軸方向の前記一方側へスライドされると共に、該第1シフトロッドに係合された反転機構のレバー部材が支持軸周りに回動することで、該レバー部材に係合された第2シフトロッドと共にシフトフォークが軸方向の他方側へスライドされる。これにより、同期装置のシンクロスリーブがリバースへの変速時とは反対側へスライドされて、5速のギヤ列が動力伝達状態となる。
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係る変速機の変速操作機構について実施形態毎に説明する。
本実施形態に係る変速機の変速操作機構60は、例えばFRタイプのSUVに搭載される縦置き式の手動変速機に設けられたものである。該手動変速機は、例えば前進6段、後退1段の変速段を有し、図1に示す変速機構4を備えている。
[変速機構]
図1に示すように、変速機構4は、車体前後方向に延びるメインシャフト5と、該メインシャフト5に平行に配置されたカウンタシャフト8とを備えている。カウンタシャフト8は、軸方向から見てメインシャフト5の斜め下方に配置されている。
メインシャフト5は、クラッチ199を介してエンジン出力軸198に連絡された入力軸6と、該入力軸6の車体後方側において入力軸6と同一軸線上に配置されて、駆動輪側に連絡された出力軸7とを備えている。出力軸7の前端部には、入力軸6の後端部に回転自在に嵌合された嵌合部7aが設けられている。
メインシャフト5とカウンタシャフト8との間には、常時噛み合い式の複数のギヤ列G0,G1,G2,G3,G4,G5,GRが設けられている。具体的に、メインシャフト5の入力軸6とカウンタシャフト8との間に、リバース用ギヤ列GR、1速用ギヤ列G1、2速用ギヤ列G2、3速用ギヤ列G3、4速用ギヤ列G4、5速用ギヤ列G5が車体前方側からこの順で設けられ、メインシャフト5の出力軸7とカウンタシャフト8との間に減速用ギヤ列G0が設けられている。
なお、変速機構4は6速直結タイプとされており、直結変速段では入力軸6と出力軸7が直結されることから、6速用ギヤ列は設けられていない。
上記のように減速用ギヤ列G0は出力軸7側に設けられており、これにより、所謂アウトプットリダクションタイプの変速機構4が構成されている。減速用ギヤ列G0は、カウンタシャフト8に固定されたドライブギヤ26と、出力軸7に固定されたドリブンギヤ16とを備えている。ドリブンギヤ16はドライブギヤ26よりも大径であり、これにより、直結変速段以外の変速段において、カウンタシャフト8の回転は、減速用ギヤ列G0を介して減速されて出力軸7に伝達される。
1速用及び2速用のギヤ列G1,G2は、入力軸6に固定されたドライブギヤ11,12と、カウンタシャフト8に遊嵌されたドリブンギヤ21,22とを備えている。3速用、4速用及び5速用のギヤ列G3,G4,G5は、入力軸6に遊嵌されたドライブギヤ13,14,15と、カウンタシャフト8に固定されたドリブンギヤ23,24,25とを備えている。
リバース用ギヤ列GRは、入力軸6に固定されたドライブギヤ10と、カウンタシャフト8に遊嵌されたドリブンギヤ20と、入力軸6及びカウンタシャフト8に平行に配置されたリバースシャフト9に遊嵌された中間ギヤ30とを備えている。リバース用ギヤ列GRでは、ドライブギヤ10とドリブンギヤ20との間に中間ギヤ30が介在することにより、前進時とは反対方向の回転がカウンタシャフト8及び出力軸7に伝達される。
また、カウンタシャフト8には、1速用、2速用及びリバース用のギヤ列G1,G2,GRのドリブンギヤ20,21,22とカウンタシャフト8の回転の同期を行う同期装置31,32が設けられ、入力軸6には、3速用、4速用及び5速用のギヤ列G3,G4,G5のドライブギヤ13,14,15又は出力軸7と、入力軸6との回転の同期を行う同期装置33,34が設けられている。
具体的には、カウンタシャフト8上において、後退変速段の形成に用いられるリバース用同期装置31が、リバース用ギヤ列GRのドリブンギヤ20の例えば車体前方側に隣接して設けられ、1速と2速の形成に兼用される1−2速用同期装置32が、1速用ギヤ列G1及び2速用ギヤ列G2のドリブンギヤ21,22間に設けられている。また、入力軸6上には、3速と4速の形成に兼用される3−4速用同期装置33が、3速用ギヤ列G3及び4速用ギヤ列G4のドライブギヤ13,14間に設けられ、5速と6速の形成に兼用される5−6速用同期装置34が、5速用ギヤ列G5のドライブギヤ15と出力軸7の嵌合部7aとの間に設けられている。
リバース用同期装置31の作動によってシンクロスリーブ31aが車体前方側へスライドされると、ドリブンギヤ20とカウンタシャフト8の回転が同期されて、後退変速段が形成される。また、1−2速用同期装置32の作動によって、シンクロスリーブ32aが車体前方側にスライドされると1速が形成され、車体後方側にスライドされると2速が形成される。
同様に、3−4速用同期装置33のシンクロスリーブ33aが車体前方側へスライドされると3速が形成され、車体後方側へスライドされると4速が形成される。また、5−6速用同期装置34のシンクロスリーブ34aが車体前方側へスライドされると5速が形成され、車体後方側へスライドされると、入力軸6と出力軸7の回転が同期されて、直結変速段である6速が形成される。
6速以外の変速段が形成されたときは、入力軸6から、動力伝達状態となったギヤ列G1,G2,G3,G4,G5,GRを介してカウンタシャフト8に動力が伝達されると共に、カウンタシャフト8から、減速用ギヤ列G0を介して出力軸7に動力が伝達される。6速が形成されたときは、入力軸6からカウンタシャフト8を経由することなく直接出力軸7に動力が伝達される。
[シフトパターン]
図2の平面図に示すように、チェンジレバー62のセレクト操作及びシフト操作は、所定のシフトパターン202に従って行われる。
図2に示されるシフトパターン202は、車体幅方向に延びるセレクトレーンLS、該セレクトレーンLSから車体前方側へ車体前後方向に延びるリバースシフトレーンLR、セレクトレーンLSから車体前方側及び車体後方側へ車体前後方向に延びる1−2速シフトレーンL12、3−4速シフトレーンL34、5−6速シフトレーンL56を備えている。このシフトパターン202におけるニュートラル位置は、セレクトレーンLSと3−4速シフトレーンL34とが交差する位置とされている。
このシフトパターン202によれば、チェンジレバー62のセレクト操作は、セレクトレーンLSに沿って車体幅方向右側又は左側に向かう方向へ行われ、シフト操作は、対応するシフトレーンLR,L12,L34,L56に沿って車体前方側又は車体後方側に向かう方向へ行われる。具体的に、リバース、1速、3速及び5速へのシフト操作方向は、車体前方側に向かう方向であり、2速、4速及び6速へのシフト操作方向は、車体後方側に向かう方向である。
[変速操作機構]
以下、変速操作機構60について説明する。
図3に示すように、変速操作機構60のチェンジレバー62は、チェンジレバーケーシング(以下、「ケーシング」という)43に収容された大球部64と、大球部64から上側へ延びる上側レバー部66と、大球部64から下側に延びる下側レバー部70とを備え、上側レバー部66の上端部に、運転者に握られるノブ68が設けられている。
ケーシング43は、ブロック状の第1ケーシング部材44と、第1ケーシング部材44の下面に固定されたプレート状の第2ケーシング部材48とを備えている。
第1ケーシング部材44は、車体のフロアトンネル上に設置されたセンターコンソール42に収容されている。第1ケーシング部材44の上面には、蓋部材46が固定されている。なお、蓋部材46には、チェンジレバー62の上側レバー部66との干渉を避けるための開口部(図示せず)が設けられている。
第2ケーシング部材48は、第1ケーシング部材44から水平方向に張り出すように設けられ、該張り出し部において、フロアトンネルを構成するフロア部材40の下面に重ねられ、該フロア部材40に例えばボルトにより固定されている。また、第2ケーシング部材48は、車体前後方向に延びるアーム部材50を介して変速機ケース1に支持されている。アーム部材50の前端部は、車体幅方向に延びる支軸2を介して回動自在に変速機ケース1に取り付けられており、アーム部材50の後端部は、第2ケーシング部材48の下面に固定されている。
ケーシング43の一部は、後述する反転機構80の一部を構成しているが、これに関連する構成については、反転機構80の説明と併せて後に説明する。
チェンジレバー62は、車体前後方向に延びるチェンジロッド90を介してコントロールロッド100に連絡されている。
コントロールロッド100は、その大部分が変速機ケース1内に収容されているが、コントロールロッド100の後端部は、変速機ケース1から車体後方側に突出して配置されている。コントロールロッド100は、セレクト操作に連動して回動することで、変速機ケース1内に設けられた複数のシフトフォーク(図示せず)に選択的に係合され、シフト操作に連動して軸方向移動を行うことで、係合されたシフトフォークを軸方向に移動させて、対応する同期装置31,32,33,34(図1参照)を作動させる。これにより、図1に示すように、対応するギヤ列G1,G2,G3,G4,G5,GRが動力伝達状態となるか、又は、6速への変速時には入力軸6と出力軸7が直結されることで、所望の変速段が実現される。
コントロールロッド100の後端部は、継手94を介してチェンジロッド90の前端部に連結されている。継手94は、互いに直角な方向に延びる一対の支軸96,97を有する十字継手である。一対の支軸96,97は、ホルダ95に支持されている。一方の支軸96は、チェンジロッド90に直角な方向に沿って配置されており、チェンジロッド90の前端部92を貫通している。他方の支軸97は、コントロールロッド100に直角な方向に沿って配置されており、コントロールロッド100の後端部を貫通している。
チェンジロッド90の前端部92は、一方の支軸96の軸心周りに回転可能とされ、コントロールロッド100の後端部は、他方の支軸97の軸心周りに回転可能とされている。このような継手94を介した連結により、コントロールロッド100の軸心に対するチェンジロッド90の傾きを許容しつつ、チェンジロッド90からコントロールロッド100への回転運動及び並進運動の伝達が可能となっている。
チェンジロッド90の後端部91は、チェンジレバー62の真下に配置されており、後述の反転機構80を介してチェンジレバー62に連絡されている。
本実施形態の変速操作機構60は、一般的な車両に比べて高い位置に運転席のシートが設置されたSUVに搭載されたものであり、チェンジレバー62は、シートの高さに合わせて、一般的な車両のものに比べて高い位置に配設されている。これにより、チェンジレバー62の下方には比較的広いスペースが生じており、該スペースを利用して反転機構80が配設されている。以下、反転機構80及びこれに関連する構成について説明する。
図4及び図5に示すように、反転機構80は、ケーシング43の一部、チェンジレバー62の下端部72、チェンジレバー62の大球部64を支持するサポート部材74、サポート部材74に取り付けられた支軸81、及び、上端側においてチェンジレバー62に連絡されて下端側においてチェンジロッド90に連絡された反転レバー82で構成されている。
ケーシング43の第1ケーシング部材44は、上面側に開放した凹部45を備えており、該凹部45にチェンジレバー62の大球部64が収容されている。凹部45の底部は半球状に形成されている。凹部45の上端開口は、蓋部材46によって塞がれている。
第1ケーシング部材44の底部及び第2ケーシング部材48には開口部45a,49がそれぞれ設けられており、該開口部45a,49に、チェンジレバー62の下側レバー部70及び後述するサポート部材74のアーム部78,79が挿通されることで、下側レバー部70及びアーム部78,79がケーシング43に干渉することが回避されている。
第1ケーシング部材44の開口部45aは、凹部45の内部空間に連通している。第1ケーシング部材44と第2ケーシング部材48との合わせ面において、これらの部材44,48に設けられた開口部45a,49は、周縁部同士が重なり合うように位置合わせされている。
図6の平面図に示すように、第2ケーシング部材48の開口部49の形状は例えば四角形であり、開口部49の周縁は、車体幅方向に平行な一対の第1縁部49a,49bと、車体前後方向に平行な一対の第2縁部49c,49dとを有する。第1縁部49a,49bは、シフト操作時におけるサポート部材74のアーム部78,79の移動を規制する規制部とされている。
図4及び図5に示すように、サポート部材74は、ケーシング43の凹部45に収容されてチェンジレバー62の大球部64を下側から受けるボウル部76と、該ボウル部76から下方に延びる一対のアーム部78,79とを備えている。
ボウル部76は、半球状とされている。ボウル部76は、凹部45の半球状の底部と大球部64との間に介在される。ボウル部76の外径は、凹部45の底部の内径に等しく、ボウル部76は、凹部45の底部全体でケーシング43に支持されている。ボウル部76の内径は、大球部64の外径に等しく、大球部64の下半部は、ボウル部76の内面全体に支持される。このように、大球部64は、ボウル部76を介してケーシング43に回転可能に支持されている。
図5及び図6に示すように、ボウル部76の底部には、例えば四角形の開口部77が設けられており、該開口部77に、大球部64の下端部及び下側レバー部70が挿通される。なお、開口部77の大きさは、組み付けにあたって、下側レバー部70の下端部72を挿通可能な大きさとされている。また、開口部77の車体前後方向寸法は、シフト操作時に車体前後方向に揺動する下側レバー部70が開口部77の周縁に干渉しないような大きさとされている。
一対のアーム部78,79は、車体幅方向において相互に間隔を空けて配置されている。各アーム部78,79は、車体幅方向において、開口部77よりも外側に配置されている。各アーム部78,79は、車体幅方向に直角に配置されたプレート部である。一対のアーム部78,79は、車体幅方向に延びる支軸81を支持している。
なお、支軸81の抜け止めは、例えば、その一端に設けられた頭部と他端に装着されたスナップリングによって果たされるが、支軸81をボルトで構成し、先端にナットを締め付けることでアーム部78,79に固定してもよい。
図6に示すように、車体前後方向に関して、各アーム部78,79の寸法は、開口部49の寸法と同じか又は僅かに小さい。各アーム部78,79の車体前後方向両端部は、開口部49の各第1縁部49a,49bに対して、僅かなクリアランスを空けて配向配置されている。これにより、アーム部78,79の車体前後方向への移動は第1縁部49a,49bによって規制されている。
図4及び図5に示すように、反転レバー82は、支軸81に嵌合された筒状部83と、筒状部83から上側へ延びる第1レバー部84と、筒状部83から下側へ延びる第2レバー部86とを備えている。
筒状部83は、支軸81に回動自在に支持されており、これにより、反転レバー82が支軸81の軸心周りに回転可能となっている。ただし、筒状部83は、支軸81に固定されて該支軸81と共に回動するように設けられてもよい。筒状部83は、サポート部材74の一対のアーム部78,79に挟み込まれることで支軸81の軸方向への移動が規制されている。
第1レバー部84の上端部は、チェンジレバー62の下端部72に係合される第1係合部85とされている。チェンジレバー62の下端部72は、例えば、下向きに開放したコ字状部とされており、この下端部72には、支軸81に平行な上側連絡軸88が取り付けられている。チェンジレバー62の下端部72には、上側連絡軸88が挿通された挿通穴73が設けられている。挿通穴73は、上下方向に延びる長穴で構成されている。なお、上側連絡軸88の抜け止めは、例えば、その一端に設けられた頭部と他端に装着されたスナップリングによって果たされる。
反転レバー82の第1係合部85は、上側連絡軸88に嵌合された筒状部であり、上側連絡軸88に回動自在に支持されている。これにより、第1係合部85は、上側連絡軸88の軸心周りに回動可能に該上側連絡軸88に支持されている。なお、第1係合部85は、上側連絡軸88に固定されて該上側連絡軸88と共に回動するように設けられてもよい。
ただし、第1レバー部84の上端部とチェンジレバー62の下端部とを係合させる構成はこれに限定されるものでなく、例えば、第1レバー部84の上端部に上側連絡軸88が設けられ、チェンジレバー62の下端部が上側連絡軸88の軸心周りに回動可能に該上側連絡軸88に支持されるようにしてもよい。
第2レバー部86の下端部は、チェンジロッド90の後端部91に係合される第2係合部87とされている。チェンジロッド90の後端部91は、例えば、車体後方側に開放したコ字状部とされており、この後端部91には、支軸81に平行な下側連絡軸89が取り付けられている。
なお、下側連絡軸89の抜け止めは、例えば、その一端に設けられた頭部と他端に装着されたスナップリングによって果たされるが、下側連絡軸89をボルトで構成し、先端にナットを締め付けることでチェンジロッド90の後端部91に固定してもよい。
反転レバー82の第2係合部87は、下側連絡軸89に嵌合された筒状部であり、下側連絡軸89に回動自在に支持されている。これにより、第2係合部87は、下側連絡軸89の軸心周りに回動可能に該下側連絡軸89に支持されている。なお、第2係合部87は、下側連絡軸89に固定されて該下側連絡軸89と共に回動するように設けられてもよい。
ただし、第2レバー部86の下端部とチェンジロッド90の後端部とを係合させる構成はこれに限定されるものでなく、例えば、第2レバー部86の下端部に下側連絡軸89が設けられ、チェンジロッド90の後端部が下側連絡軸89の軸心周りに回動可能に該下側連絡軸89に支持されるようにしてもよい。
以上のように、反転レバー82は、上端側においてチェンジレバー62に連結されるとともに、下端側においてチェンジロッド90に連結されており、該チェンジロッド90を介してコントロールロッド100に連絡されている。
図4に示すように、ニュートラル状態において、チェンジレバー62の大球部64の中心、反転レバー82の支軸81、上側連絡軸88及び下側連絡軸89の各軸心は、車体側方から見て同一直線L1上に配置されている。また、図5に示すように、チェンジレバー62の上側レバー部66及び下側レバー部70、並びに、反転レバー82の第1レバー部84及び第2レバー部86は、車体前後方向から見て同一直線L2上に配置されている。
以上のように構成された変速操作機構60は、チェンジレバー62のセレクト操作及びシフト操作に連動して、以下のような動作を行う。
チェンジレバー62のセレクト操作及びシフト操作は、図2に示すシフトパターン202に従って行われる。該シフトパターン202に従って、ノブ68を車体右側又は左側に倒すようなセレクト操作、或いは、ノブ68を車体前方側又は後方側に倒すようなシフト操作が行われると、チェンジレバー62は、ケーシング43に支持された大球部64の中心を支点として揺動される。このとき、チェンジレバー62の下端部72は、常にノブ68とは反対側へ移動する。
例えば、図7に示すように、ノブ68が車体前方側へ倒されるように3速へのシフト操作が行われると、チェンジレバー62の下端部72は車体後方側へ移動する。このとき、上側連絡軸88を介してチェンジレバー62の下端部72に係合された反転レバー82の第1係合部85は、チェンジレバー62の下端部72と共に車体後方側へ移動する。
このとき、図8に示すように、チェンジレバー62の下側レバー部70は車体後方側へ移動するのに対して、サポート部材74のアーム部78,79の車体後方側への移動は、ケーシング43の開口部49における車体後方側の第1縁部49bによって規制されるため、アーム部78,79及びこれらに支持された支軸81は車体前後方向に変位しない。
したがって、図7に示すように、反転レバー82は、車体前後方向への移動が規制された支軸81の軸心周りに図7の時計回り方向に揺動する。このとき、反転レバー82は、支軸81の軸心周りの揺動を行いながら、車体後方側へ移動する上側連絡軸88の軸心周りに図7の時計回り方向に回転すると共に、車体前方側へ移動する下側連絡軸89の軸心周りに図7の時計回り方向に回転する。
なお、このとき、上側連絡軸88は長穴73に沿って下方へ相対移動し、これにより、上側連絡軸88を介したチェンジレバー62と反転レバー82の連結が維持されつつ、チェンジレバー62及び反転レバー82の揺動が許容される。
このように反転レバー82が揺動されると、反転レバー82の第2係合部87は第1係合部85とは反対側、すなわち車体前方側へ移動する。これにより、第2係合部87に係合されたチェンジロッド90は、第2係合部87と共に車体前方側へ移動する。このチェンジロッド90の並進運動が継手94を介してコントロールロッド100に伝達されることで(図3参照)、コントロールロッド100は車体前方側へ軸方向に移動する。
上記のように支軸81の軸心周りに反転レバー82が回転することで、コントロールロッド100の移動方向は、チェンジレバー62の下端部72の移動方向に対して反転される。これにより、3−4速用同期装置33は、シンクロスリーブ33aが車体前方側へ移動するように作動されて、3速用のギヤ列G3が動力伝達状態となる(図1参照)。
他の変速段へのシフト操作時にも、変速操作機構60は同様の動作を行う。いずれのシフト操作時にも、コントロールロッド100の移動方向は、反転機構80によって、チェンジレバー62の下端部72の移動方向に対して反転され、これにより、対応する同期装置31,32,33,34が適正に作動して、所望の変速段が実現される。
図9に示すように、ノブ68が車体左側へ倒されるように1−2速セレクト操作が行われたときは、チェンジレバー62の下端部72は車体右側へ移動する。このとき、上側連絡軸88を介してチェンジレバー62の下端部72に係合された反転レバー82は、全体的に、チェンジレバー62の下端部72と共に車体右側へ移動するように、チェンジレバー62の大球部64の中心を支点としてチェンジレバー62と共に揺動する。
このとき、図10に示すように、サポート部材74のアーム部78,79は、ケーシング43の開口部49の第2縁部49c,49dとの間に車体幅方向に十分な間隔が設けられている。このように開口部49が形成されていることにより、セレクト操作時におけるアーム部78,79の車体幅方向への移動が許容されている。
したがって、図9に示すように、上記のようにチェンジレバー62と共に反転レバー82が揺動するとき、反転レバー82を支持する支軸81、及び、該支軸81を支持する一対のアーム部78,79も、ケーシング43に干渉することなく、チェンジレバー62と一体的に揺動する。
このようにしてセレクト操作に連動して反転レバー82がチェンジレバー62と共に揺動されることで、反転レバー82の第2係合部87が車体右側へ移動すると、該第2係合部87に後端部91が係合されたチェンジロッド90は、後端部91を第2係合部87と共に車体右側へ移動させながら、該ロッド90の軸心周りに車体後方側から見て反時計回り方向に回動する。そして、このチェンジロッド90の回転運動が継手94を介してコントロールロッド100に伝達されることで(図3参照)、コントロールロッド100はその軸心周りにチェンジロッド90と同じ方向に回動する。
この回動により、コントロールロッド100は、1−2速用のシフトフォーク(図示せず)に係合され、この係合状態で更に1速又は2速へのシフト操作が行われると、上記のようにコントロールロッド100が軸方向に移動することで、1−2速用のシフトフォークと共に1−2速用同期装置32のシンクロスリーブ32aが車体前方側又は後方側へ摺動されて、1速又は2速用ギヤ列G1,G2が動力伝達状態となる(図1参照)。
以上で説明した本実施形態によれば、上述の反転機構80によって、シフト操作時におけるチェンジレバー62の下端部72の移動方向に対してコントロールロッド100の移動方向が反転される。
これにより、図2に示すシフトパターン202に従って車体前方側へのシフト操作が行われる1速、3速、5速、リバースへの変速操作時には、対応するシンクロスリーブ31a,32a,33a,34a(図1参照)も車体前方側へ移動することで、所望の変速段のギヤ列G1,G3,G5,GR(図1参照)を動力伝達状態とすることができる。
一方、車体後方側へのシフト操作が行われる2速、4速、6速への変速操作時には、対応するシンクロスリーブ32a,33a,34a(図1参照)が車体後方側へ移動することで、所望の変速段のギヤ列G2,G4,G6(図1参照)を動力伝達状態とすることができる。
したがって、上記のように反転機構80が設けられた変速操作機構60によって、図1に示すような並び順でギヤ列G0,G1,G2,G3,G4,G5,GR及び同期装置31,32,33,34が配置された変速機構4の変速を適正に実行できる。そして、このように変速機構4が構成されることで、最も大きなトルクがかかる1速用ギヤ列G1を2速用ギヤ列G2に比べて軸受17,27に近づけて配置できたり、直結変速段である6速のときに入力軸6に直結される出力軸7の嵌合部7aを他の全ての変速段のギヤ列G1,G2,G3,G4,G5,GRよりも車体後方側に配置できたり、これにより、使用頻度の高い6速を直結変速段としたアウトプットリダクションタイプの変速機構4を構築できたりするなどといった利点が得られる。
そして、上記の反転機構80によれば、全てのシンクロスリーブ31a,32a,33a,34aの移動方向を1つの反転レバー82によって反転させることができるため、仮に変速機ケース1内に複数の反転レバーを設ける場合に比べて、反転レバー及びこれに付随する部品の点数を削減できると共に、変速操作機構60の構成の簡素化及び軽量化を図ることができる。
また、反転レバー82を支持する支軸81は、チェンジレバー62の大球部64を受けるサポート部材74に取り付けられているため、仮に変速機ケース1や車体に支軸81を取り付ける場合に比べて、簡素な構成で反転レバー82を支持することができる。
さらに、上記の反転機構80は、チェンジレバー62とチェンジロッド90との間でシフト操作時の移動方向を反転させる機能に加えて、これらの間でセレクト運動の伝達を行う機能を兼ね備えているため、セレクト専用の伝達機構が省略されることで、部品点数の削減、並びに変速操作機構60の構成の簡素化、コンパクト化及び軽量化を図ることができる。
そして、反転レバー82はチェンジレバー62の下側に配設されるため、反転レバー82の設置スペース分だけチェンジレバー62の下端部72を高い位置に設けることができる。そのため、運転席のシートが高い位置に設けられたSUVのような車両において、チェンジレバー62の長さを延長させなくても、チェンジレバー62のノブ68をシートの高さに合わせて高く配設させやすい。そして、チェンジレバー62の延長が抑制されることにより、特にシフト操作時において、チェンジレバー62の操作距離が長くなったり操作角度が縮小されたりすることが抑制されるため、良好な操作性を得ることができる。
また、本実施形態において、チェンジロッド90に係合される反転レバー82の第2係合部87は、チェンジロッド90の前端部92と略同じ高さに配設されている。そのため、一般的な車両と同様に、コントロールロッド100の軸心に対するチェンジロッド90の傾きを抑制できる。そのため、特にシフト操作時において、チェンジロッド90からコントロールロッド100へ操作荷重を効率よく伝達させることができ、これによっても、操作性の向上が図られる。
さらに、上記のようにチェンジレバー62が高く設置されることによって該チェンジレバー62の下側に生じたスペースを利用して、上記の反転レバー82が設けられるため、良好なレイアウト性が得られる。
また、反転機構80は変速機ケース1の外側に設けられているため、仮に変速機ケース1内に反転機構が設けられる場合に比べて、変速機ケース1内での変速操作機構60の構成を簡素化できると共に、変速機ケース1内における変速操作機構60の占有スペースの縮小が図られることで、変速機のコンパクト化を実現できる。
以上、上述の実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、反転レバーがチェンジロッドを介して間接的にコントロールロッドに連絡される例を説明したが、本発明は、コントロールロッドに直接連結される構成を妨げるものでない。