JP2017074050A - 肝組織細胞機能の長期維持方法 - Google Patents

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一夫 大橋
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Abstract

【課題】肝組織細胞機能の長期維持が可能な生体移植用肝組織細胞シートを提供すること。【解決手段】0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した細胞培養支持体上で、ポリマーの水和力が弱い温度域で肝臓組織から得られた少なくとも肝実質細胞を含む肝組織細胞を培養し、その後、培養液をポリマーの水和力が強い状態となる温度に変化させることで培養した肝組織細胞を剥離させることにより、生体への移植により肝機能を長期発現する移植用肝組織細胞シートが得られる。【選択図】なし

Description

本発明は、生物学、医学、薬学等の分野において有用な肝組織細胞機能の長期維持方法及び当該方法において使用する肝組織細胞機能の長期維持が可能な生体移植用肝組織細胞の製造方法に関するものである。
肝臓とは、糖新生、グリコーゲン貯蔵、脂質代謝、血漿タンパク質の産生、ビリルビン代謝、ホルモン代謝、ビタミン代謝等といった代謝機能の中心的な器官であり、その他にも胆汁の産生、さまざまな酵素による解毒作用、異物に対する生体防御までも行う複雑な機能を有する臓器である。その臓器にひとたび肝炎、肝硬変、肝癌等の疾患が発症すると、前述の機能が損なわれ生体に著しく悪影響をもたらす。そして、疾患が進行するとその機能を代行するような措置を講じなくてはならなくなる。
そのような背景のもと、以前より生体外で肝機能を代行しようとする技術が考えられてきた。そして、その多くは平膜や中空子膜を介して血液中の毒性物質を濾過するという肝機能の一部の機能を代行するだけに過ぎなかった(例えば、特願平6−101775(特開平7−284531号公報)、特願2004−155864(特開2004−358243号公報))。最近になって、複雑な肝機能を少しでも多く代行できるように、前述した濾過装置内に肝細胞を封じ込め、そこへ血液を環流させることで肝機能を代行させようとするハイブリット型人工肝臓の開発が進められている(例えば、特願平8−511686(特表平10−506806号公報)、特願2002−204967(特開2004−41527号公報))。しかしながら、ここでの技術は、体外に循環された血液を介して行われるため効率が悪く、また体外循環可能な時間的な制約により必ずしも満足できる技術ではなかった。また、生体外に取り出された肝細胞の安定性が悪く、使用中に肝細胞の機能が顕著に減衰する問題点があった。
一方、特開平05−192138号公報には、水に対する上限若しくは下限臨界溶解温度が0〜80℃であるポリマーで基材表面を被覆した細胞培養支持体上にて、皮膚細胞を上限臨界溶解温度以下又は下限臨界溶解温度以上で培養し、その後上限臨界溶解温度以上又は下限臨界溶解温度以下にすることにより培養皮膚細胞が剥離されることを特徴とする皮膚細胞培養法が記載されている。この方法においては、温度応答性ポリマーを被覆した培養基材から温度により細胞を剥離させているが、この方法による得られる細胞を用いて長期にわたり機能を維持する肝組織細胞を製造する方法は記載されていなかった。
岡野らは、特開平05−192138号公報の技術を使い、肝実質細胞シートと血管内皮細胞シートを作製し、その2つのシートを積層化させ接着させることで、肝実質細胞と血管内皮細胞との相互に作用させた共培養系を生体外で構築させた。その結果、約40日間にわたり、肝機能の一つの血漿タンパク質であるアルブミンを産生させることに成功した(Journal of Biomedical Material Research,62,464−470(2002))。この方法により、生体外で死滅しやすい肝実質細胞を長期にわたってその細胞活性を維持させられるようになった。しかしながら、機能維持期間をさらに長く継続させる検討は行われておらず、生物学、医学、薬学等の分野において有用な肝組織細胞機能の新規な長期維持技術の確立が切望されていた。
特開平7−284531号公報 特開2004−358243号公報 特表平10−506806号公報 特開2004−41527号公報 特開平05−192138号公報
Journal of Biomedical Material Research,62,464−470(2002)
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決することを意図してなされたものである。すなわち、本発明は、従来技術と全く異なった発想からの新規な肝組織細胞機能の長期維持方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の角度から検討を加えて、研究開発を行った。その結果、驚くべくことに、0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した細胞培養支持体上で、ポリマーの水和力が弱い温度域で肝組織細胞を培養し、その後、培養液をポリマーの水和力が強い状態となる温度に変化させることで培養した肝組織細胞を剥離させ、得られた肝組織細胞を生体内の所定部位に移植することで肝組織細胞機能を長期にわたって維持できることを見出した。しかも、その生体内に移植された肝組織細胞は人工肝臓としての機能を有することを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明は、0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した細胞培養支持体上で、ポリマーの水和力が弱い温度域で肝組織細胞を培養し、その後、培養液をポリマーの水和力が強い状態となる温度に変化させることで培養した肝組織細胞を剥離させ、得られた肝組織細胞を生体内の所定部位に移植することを特徴とする肝組織細胞機能の長期維持方法を提供する。
また、本発明は、その肝組織細胞機能の長期維持方法を利用した人工肝臓を提供する。
さらに、本発明は、その肝組織細胞機能の長期維持方法を利用した肝組織細胞移植動物を提供する。
さらにまた、本発明は、その肝組織細胞移植動物に対し被検物質を投与し、当該被検物質の肝機能への影響を判定することを特徴とする肝機能評価システムを提供する。
加えて、本発明は、0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した細胞培養支持体上で、ポリマーの水和力が弱い温度域で肝組織細胞を培養し、その後、培養液をポリマーの水和力が強い状態となる温度に変化させることで培養した肝組織細胞を剥離させることを特徴とする肝組織細胞機能の長期維持が可能な生体移植用肝組織細胞の製造方法を提供する。
本発明に記載される肝組織細胞機能の長期維持方法であれば、培養した肝組織細胞の機能を長期間にわたり維持させることができるようになり、肝機能全般に関する長期間にわたる基礎研究が実施できるようになり、さらに長期間にわたる肝機能の発現が求められる人工肝臓、肝組織細胞移植動物が製造できるようになる。
実施例1で移植120日後の移植部組織の切片を示す図である。 実施例1で移植120日後の移植部組織の切片を示す図である。 実施例1で血清中のhAAT量を測定した結果を示す図である。 実施例2で本発明の肝組織細胞シートと従来法で得られたばらばらの肝細胞のhA1AT(human alpha-1 antitrypsin)産生量、アルブミン産生量及びリドカイン(lidocaine)代謝量を示すグラフである。 実施例3で3−MC(3-methylcholantrene)を投与した場合としない場合との薬剤代謝酵素CYP1Aの誘導を示す組織染色図である。 実施例4で血清中のhAAT量を測定した結果を示す図である。
本発明に使用される肝組織細胞は肝臓組織より回収した細胞であり、その中に肝機能を発現する肝実質細胞が含まれていれば良い。その他の細胞は肝臓組織内の肝非実質細胞であっても、それ以外の細胞であっても良く、例えば、類洞内皮細胞、クッパー細胞、星細胞、ピット細胞、胆管上皮細胞、血管内皮細胞、線維芽細胞、間葉系幹細胞等が挙げられるが、特に制約されるものではない。また、それらの細胞は、生体組織から直接採取した細胞、或いは細胞株が挙げられるがその種類は、何ら制約されるものではない。これらの細胞の由来は特に制約されるものではないが、例えば、ヒト、或いはラット、マウス、モルモット、マーモセット、ウサギ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ブタ、チンパンジーあるいはそれらの免疫不全動物等が挙げられるが、本発明の肝組織細胞をヒトの治療に用いる場合はヒト、ブタ、チンパンジー由来の細胞を用いる方が望ましい。本発明における細胞培養のための培地は培養される細胞に対し通常用いられるものを用いれば特に制約されるものではない。
本発明では、培養時に播種する細胞数は使用細胞の動物種によって異なるが、一般的に1×10個/cm以上が良く、好ましくは3×10個/cm以上が良く、さらに好ましくは6×10個/cm以上が好ましい。播種濃度が1×10個/cm以下の場合、肝組織細胞の増殖が悪く、得られる肝組織細胞の機能の発現程度が悪化し、本発明において好ましくない。
本発明においては、上記細胞を0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した細胞培養支持体上で、ポリマーの水和力の弱い温度域で培養される。その温度とは通常、細胞を培養する温度である37℃が好ましい。本発明に用いる温度応答性高分子はホモポリマー、コポリマーのいずれであってもよい。このような高分子としては、例えば、特開平2−211865号公報に記載されているポリマーが挙げられる。具体的には、例えば、以下のモノマーの単独重合または共重合によって得られる。使用し得るモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、またはビニルエーテル誘導体が挙げられ、コポリマーの場合は、これらの中で任意の2種以上を使用することができる。更には、上記モノマー以外のモノマー類との共重合、ポリマー同士のグラフトまたは共重合、あるいはポリマー、コポリマーの混合物を用いてもよい。また、ポリマー本来の性質を損なわない範囲で架橋することも可能である。各種ポリマーの基材表面への被覆方法は、特に制限されないが、例えば、特開平2−211865号公報に記載されている方法に従ってよい。すなわち、かかる被覆は、基材と上記モノマーまたはポリマーを、電子線照射(EB)、γ線照射、紫外線照射、プラズマ処理、コロナ処理、有機重合反応のいずれかにより、または塗布、混練等の物理的吸着等により行うことができる。細胞付着部における親水性ポリマーの固定化量は移動させたい細胞を付着させられるに十分な量が固定化されていれば良く特に限定されるものではないが、その固定化量は使用する細胞が肝組織細胞であるため0.4μg/cm以上、好ましくは0.8μg/cm以上、さらに好ましくは1.0μg/cm以上である。ポリマーの固定化量の測定は常法に従えば良く、例えばFT−IR−ATRを用いて細胞付着部を直接測る方法、あらかじめラベル化したポリマーを同様な方法で固定化し細胞付着部に固定化されたラベル化ポリマー量より推測する方法などが挙げられるがいずれの方法を用いても良い。
本発明における培養基材の形状は特に制約されるものではないが、例えばディッシュ、マルチプレート、フラスコ、セルインサートのような形態のもの、或いは平膜状のものなどが挙げられる。被覆を施される基材としては、通常細胞培養に用いられるガラス、改質ガラス、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等の化合物を初めとして、一般に形態付与が可能である物質、例えば、上記以外の高分子化合物、セラミックス類など全て用いることができる。
本発明の細胞培養支持体において、基材に被覆されている温度応答性ポリマーは温度を変えることで水和、脱水和を起こすものであり、その温度域は0℃〜80℃、好ましくは10℃〜50℃、さらに好ましくは20℃〜45℃であることが判明した。80℃を越えると肝組織細胞が死滅する可能性があるので好ましくない。また、0℃より低いと一般に細胞増殖速度が極度に低下するか、または肝組織細胞が死滅してしまうため、やはり好ましくない。
本発明の方法において、培養した細胞を支持体材料から剥離回収するには、培養された肝組織細胞を必要に応じてキャリアに密着させ、細胞の付着した支持体材料の温度を支持体基材の被覆ポリマーの水和する温度にすることによって、そのままキャリアとともに剥離することができる。その際に、細胞シートと支持体の間に水流を当て剥離を円滑に行っても良い。なお、シートを剥離することは細胞を培養していた培養液中において行うことも、その他の等張液中において行うことも可能であり、目的に合わせて選択することができる。
本発明における培養肝組織細胞は培養時にディスパーゼ、トリプシン等で代表される蛋白質分解酵素による損傷を受けていないものである。そのため、基材から剥離された肝組織細胞は接着性蛋白質を有し、肝組織細胞をシート状に剥離させた際には細胞−細胞間のデスモソーム構造がある程度保持されたものとなる。このことにより、移植時において患部組織と良好に接着することができ、効率良い移植を実施することができるようになる。一般に蛋白質分解酵素であるディスパーゼに関しては、細胞−細胞間のデスモソーム構造については10〜40%保持した状態で剥離させることができることで知られているが、細胞−基材間の基底膜様蛋白質等を殆ど破壊してしまうため、得られる細胞シートは強度の弱いものとなる。これに対して、本発明の肝組織細胞シートは、デスモソーム構造、基底膜様蛋白質共に60%以上残存された状態のものであり、上述したような種々の効果を得ることができるものである。
本発明における肝組織細胞がシート状の際には、その複数枚が積層化されたものであってもよく、その積層化枚数は特に限定されるのものではない。肝組織細胞シートを積層化するとシート単面積当たりの細胞密度が向上し、肝組織細胞シートとしての機能も向上し好ましい。
以上のことを温度応答性ポリマーとしてポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)を例にとり説明する。ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)は31℃に下限臨界溶解温度を有するポリマーとして知られ、遊離状態であれば、水中で31℃以上の温度で脱水和を起こしポリマー鎖が凝集し、白濁する。逆に31℃以下の温度ではポリマー鎖は水和し、水に溶解した状態となる。本発明では、このポリマーがシャーレなどの基材表面に被覆、固定されたものである。したがって、31℃以上の温度であれば、基材表面のポリマーも同じように脱水和するが、ポリマー鎖が基材表面に被覆、固定されているため、基材表面が疎水性を示すようになる。逆に、31℃以下の温度では、基材表面のポリマーは水和するが、ポリマー鎖が基材表面に被覆、固定されているため、基材表面が親水性を示すようになる。このときの疎水的な表面は細胞が付着、増殖できる適度な表面であり、また、親水的な表面は細胞が付着できないほどの表面となり、培養中の細胞、もしくは細胞シートも冷却するだけで剥離させられることになる。
肝組織細胞、及び肝組織細胞シートを密着させる際に使用するキャリアは、本発明の細胞を保持するための構造物であり、例えば高分子膜または高分子膜から成型された構造物、金属性治具などを使用することができる。例えば、キャリアの材質として高分子を使用する場合、その具体的な材質としてはポリビニリデンジフルオライド(PVDF)、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロース及びその誘導体、紙類、キチン、キトサン、コラーゲン、ウレタン等を挙げることができる。キャリアの形状は、特に限定されるものではない。
本発明では、得られた肝組織細胞、もしくは肝組織細胞シートを生体内の所定部位に移植するものである。その移植部位は生体内のいずれの場所でも良く特に限定されないが、例えば、皮下組織、腹腔内組織、肝臓、筋肉等が挙げられる。その移植部位はあらかじめ血管誘導を施されていても、施されていなくても良く、特に限定されるものではない。ここで、血管誘導を施す方法も特に限定されるものではないが、例えば、血管増殖因子であるFGFをミクロスフィアに包埋し、このミクロスフィアの組成、大きさ、注入範囲を変えながら生体に8〜10日間作用させる方法、ポリエチレンテレフタレートメッシュを任意の大きさに切り、袋状のものを作製し、そのバッグの内側に、高濃度アガロース溶液に溶解させたFGFを入れ、8〜10日間後、そのバッグを除去することにより、血管誘導された空間を作製する方法などが挙げられる。
本発明において移植される肝組織細胞は、基底膜様蛋白質を保持しており、生着性が極めて良好である。移植する際には目的に応じて細胞数を変えれば良く、移植する細胞がシート状の時には、その大きさや形状を変えることで肝機能の総活性度を変えることができる。
ヒトに対し、本発明で示すところの肝組織細胞機能の長期維持方法を利用すれば、移植された肝組織細胞、もしくは肝組織細胞シートはヒトの生体内で肝機能を長期間発現することとなり、そのまま人工肝臓となる。剥離された肝組織細胞がシート状のものであるとき、そのシートの大きさや形状、もしくは両者で機能の発現量を制御できる。このような人工肝臓は、例えば肝酵素欠損症、血友病、凝固異常症、肝不全症、劇症肝炎、慢性肝炎、肝硬変、肝切除患者の治療、感染症等で挙げられる各疾患の本質的な治療、もしくは肝機能の補佐を目的に使用されるが、特に限定されるものではない。ここで血友病について説明すると、血友病の本質的な発病の原因であるヒト血液凝固第8因子 、及び/またはヒト血液凝固第9因子の欠如を本発明で示すところの人工肝臓がそれらの因子を産生し補えることとなる。その際、例えばその産生能を高めるために、従来技術であるヒト血液凝固第8因子 、及び/またはヒト血液凝固第9因子産生に有効な遺伝子を本発明の肝組織細胞シートに導入していても良く、特に限定されるものではない。
動物に対し、本発明で示すところの肝組織細胞機能の長期維持方法を利用すれば、移植された肝組織細胞、もしくは肝組織細胞シートは動物の生体内で肝機能を長期間発現することとなり、すなわちそれはそのまま肝組織細胞移植動物となる。剥離された肝組織細胞がシート状のものであるとき、そのシートの大きさや形状、もしくは両者で機能の発現量を制御できる。ここで使用される動物はラット、マウス、モルモット、マーモセット、ウサギ、イヌ、ブタ、チンパンジーあるいはそれらの免疫不全動物等が挙げられるが特に限定されるものではない。このような肝組織細胞移植動物は、例えば、被検物質をこの肝組織細胞移植動物に投与し、当該被検物質の肝機能への影響を判定する肝機能評価システム等を目的に使用されるが、特に限定されるものではない。
[実施例]
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
[実施例1]
細胞培養器材に温度応答性ポリマーであるポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)を2.0μg/cm被覆し、肝組織細胞(細胞播種数2×10個/cm、37℃、5%CO)を培養した。3日後、培養基材上の肝組織細胞がコンフルエントになったことを確認した後、パーチメント紙(SS−25)を培養細胞を移動するためのキャリアに選び、培養細胞シート上に静置させた。SS−25に培養肝組織細胞を接着させて、細胞培養器材を20℃で60分間冷却した。冷却後、剥離させた細胞シートはキャリアから採取し、以下に示す肝組織細胞シートの移植方法に従って、肝細胞シートをマウス皮下に移植した。
(肝細胞シートの移植方法)
(1)全身麻酔をかける。マウスの皮下にbFGFをアガロースに溶解させた徐放デバイスを挿入し、10日間で血管誘導させる。
(2)肝細胞を分離し、3日間培養してコンフルエントの状態にする。
(3)コンフルエントになった肝細胞の周囲をピペットの先で剥離する。
(4)20分後ぐらい(ディッシュのロットによって異なります)にわずかにメディウムで湿らせておいたシートより少し小さく切ったSS25をシートの上に置き、30秒静置する。
(5)SS25の外側の肝細胞シートを一部のみSS25に折り返して、そこから慎重に肝細胞シートを剥がしていく。
(6)全身麻酔をかける。deviceを取り除き、血管誘導させたマウスの皮下空間に、SS25の付いた状態で剥離させた肝細胞シートをのせて、約20秒待ちSS25を肝細胞シートから慎重に剥がしていく。
(7)傷口を閉じる。
移植120日後の移植部組織の切片を図1、2に示す。図1中の拡大写真は、図中の四角内を拡大したものである。また、図2にその部分をHE染色したもの、その部分のhAATを染色、アルブミンを染色したものを示す。肝機能の確認は、常法に従ってマウスの血清中のhAAT量を測定することで行った。得られた結果を図3に示す。本発明の示す技術であれば、bFGFにより血管誘導させた部位へ移植された肝組織細胞シートは長期にわたり肝機能を発現していることが分かる。
[比較例1]
マウスの皮下にbFGFをアガロースに溶解させた徐放デバイスを挿入せず、血管誘導させなかったこと以外は実施例1と同様な実験を行った。得られた結果を図3に示す。
[実施例2、比較例2]
細胞培養器材に温度応答性ポリマーであるポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)を1.9μg/cm被覆し、肝組織細胞(細胞播種数2×10個/cm、37℃、5%CO)を培養した。培養3日後、培養器材温度を20℃とし15分間冷却することにより、肝組織細胞シートを回収した。その肝細胞シートを新しい培養皿に貼布し、再培養することで、hepatic tissue sheet(肝組織細胞シート)群(図4a)を作製した(実施例2)。また、同条件で培養した細胞を同時期に蛋白質加水分解酵素であるコラゲナーゼで処理することで細胞をばらばらにした状態で回収した後、同じく新たな培養皿に培養してindividual hepatocyte群(図4a)を作製した(比較例2)。再培養後24時間の間に培養液中に産生されるhuman alpha-1 antitrypsin量(図4a)、及びアルブミン量(図4b)について両群で比較することで評価した。図4cについては、再培養24時間後に培養液にlidocaineを1mg添加し、添加4時間後に培養液に残存するlidocaine量を測定することで、両群の培養細胞が代謝したlidocaine量を測定することで評価した。それぞれの値は、再培養細胞1×10個当りで表記している。a〜cの何れの評価においてもhepatic tissue sheet群の方が有意(P<0.01)に良好な結果が得られた。本発明の示す技術であれば、肝組織細胞シートは長期にわたり肝機能を発現していることが分かる。
[実施例3、比較例3]
実施例1で得られたマウス肝組織細胞シートを実施例1に示す肝細胞シートの移植方法に従いマウス皮下の血管網誘導部位に貼布移植した。移植120日後に3-methylcholantrene (Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)を1日一度、3日間連続で腹腔内投与し、最終投与の24時間後にマウスを屠殺し、作製肝組織の組織染色を行った(実施例3)。 3-methylcholantrene非投与マウスの皮下作製肝組織(比較例3)では、薬剤代謝酵素であるCYP1Aは誘導されないが、3-methylcholantrene投与マウスの皮下作製肝組織では、CYP1Aが強く誘導された。本発明の示す技術であれば、肝組織細胞シートは長期にわたり肝機能を発現していることが分かる。なお、CYP1Aはシップ1A活性を意味する。
[実施例4]
実施例1に示す方法に従い、マウス肝組織細胞シートを移植時に積層することにより大きな肝組織シートを作製した。具体的には、マウス皮下の血管網誘導部位にマウス肝細胞シートを1枚移植した群(図6中の△印)並びに2枚移植した群(図6中の○印)を作製した。両群に対し、移植後140日まで、移植マウスの血中human alpha-1 antitrypsinb濃度を測定し、移植組織の安定性と組織量の変化を調べることを評価した。肝組織細胞シートを2枚移植した群は、1枚群と比較し、有意に大きな組織が作製され、さらにその組織は安定して存在していることが分かった。
本発明で示される肝組織細胞機能の長期維持方法を利用すれば、培養した肝組織細胞の機能を長期間にわたり維持させられるようになり、肝機能に関する長期間にわたる基礎研究の実施ができるようになり、また長期間にわたる肝機能の発現が求められる人工肝臓、肝組織細胞移植動物が製造できるようになる。

Claims (18)

  1. 生体内の所定部位に移植することで肝機能を長期発現することのできる、肝臓組織から得られた少なくとも肝実質細胞を含む、細胞培養支持体から剥離された移植用肝組織細胞シート。
  2. 移植用肝組織細胞シートの大きさを変えることで、当該細胞シート内の細胞数を変え、当該細胞シートの機能の発現量を制御することのできる、請求項1記載の移植用肝組織細胞シート。
  3. ヒト血液凝固第8因子 、ヒト血液凝固第9因子、ヒューマン・アルファー1・アンチ
    トリプシン、アルブミンのいずれか1つ以上を産生することを特徴とする、請求項1、2のいずれか1項記載の移植用肝組織細胞シート。
  4. 肝酵素欠損症、血友病、凝固異常症、肝不全症、劇症肝炎、慢性肝炎、肝硬変、肝切除患者の治療、感染症もしくは肝機能補佐を目的とすることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の移植用肝組織細胞シート。
  5. 遺伝子導入技術により肝機能が強化された、請求項1〜4のいずれか1項記載の移植用肝組織細胞シート。
  6. 0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した細胞培養支持体上で、ポリマーの水和力が弱い温度域で肝臓組織から得られた少なくとも肝実質細胞を含む肝組織細胞を培養し、その後、培養液をポリマーの水和力が強い状態となる温度に変化させることで培養した肝組織細胞を剥離させることを特徴とする、生体への移植により肝機能を長期発現する移植用肝組織細胞シートの製造方法。
  7. 剥離された移植用肝組織細胞シートが積層化されたものである、請求項6記載の移植用肝組織細胞シートの製造方法。
  8. 剥離方法が蛋白質分解酵素による処理を施されることなく細胞培養支持体から剥離されたものである、請求項6、7のいずれか1項記載の移植用肝組織細胞シートの製造方法。
  9. 剥離方法が培養終了時に培養細胞上にキャリアを密着させ、キャリアと共に剥離する方法である、請求項6〜8のいずれか1項記載の移植用肝組織細胞シートの製造方法。
  10. 移植部位が生体内の皮下組織、腹腔内組織、肝臓、筋肉である、請求項6〜10のいずれか1項記載の移植用肝組織細胞シートの製造方法。
  11. 移植部位があらかじめ血管誘導を施した部位である、請求項6〜10のいずれか1項記載の移植用肝組織細胞シートの製造方法。
  12. 血管誘導法が、長期間にわたるFGF処理による方法である、請求項11記載の移植用肝組織細胞シートの製造方法。
  13. 培養時に播種する細胞数が1×10個/cm以上である、請求項6〜12のいずれか1項記載の移植用肝組織細胞シートの製造方法。
  14. 0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーがポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)である、請求項6〜12のいずれか1項記載の移植用肝組織細胞シートの製造方
    法。
  15. 請求項1〜5のいずれか1項記載の移植用肝組織細胞シートを利用したヒトを除く肝組織細胞移植動物。
  16. 細胞シートの大きさを変えることで、当該細胞シート内の細胞数を変え、当該細胞シートの機能の発現量を制御する、請求項15記載の肝組織細胞移植動物。
  17. 動物がラット、マウス、モルモット、マーモセット、ウサギ、イヌ、ブタ、チンパンジーあるいはそれらの免疫不全動物であることを特徴とする、請求項15、16のいずれか1記載の肝組織細胞移植動物。
  18. 請求項15〜17のいずれか1項記載の肝組織細胞移植動物に対し被検物質を投与し、当該被検物質の肝機能への影響を判定することを特徴とする肝機能評価システム。
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