JP6130868B2 - 単離されたシート状細胞培養物の製造方法 - Google Patents

単離されたシート状細胞培養物の製造方法 Download PDF

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本発明は、単離されたシート状細胞培養物の製造方法、これにより製造されたシート状細胞培養物、シート状細胞培養物の単離促進方法、シート状細胞培養物の保存方法等に関する。
近年、損傷した組織等の修復のために、種々の細胞を移植する試みが行われている。例えば、狭心症、心筋梗塞などの虚血性心疾患により損傷した心筋組織の修復のために、胎児心筋細胞、骨格筋芽細胞、ES細胞等の利用が試みられている。しかしながら、移植細胞を細胞懸濁液の状態で組織へと投与した場合には、移植細胞の注入効率の低さ、レシピエント組織を穿刺により損傷する危険性、広範囲な組織修復の困難性といった問題が指摘されたため、スキャフォールドを利用して形成した細胞構造物や、細胞をシート状に形成した細胞シートが開発されてきた。細胞シートの治療への応用については、火傷などによる皮膚損傷に対する培養表皮シートの利用、角膜損傷に対する角膜上皮細胞シートの利用、食道ガン内視鏡的切除に対する口腔粘膜細胞シートの利用などの検討が進められている。
細胞シートは、一般に細胞を培養基材上でシート状に培養して形成するが、実際に治療に用いる際には、形成された細胞シートを培養基材から単離する必要がある。具体的な単離手法としては、トリプシンなどのタンパク質分解酵素を利用する手法や、スクレーパーやピペットなどにより機械的に剥離する手法が一般的である。しかしながら、これらの手法では、細胞シートの損傷や、細胞生存率の低下などの問題があったため、培養基材の材質や構造を改変して、細胞シートの単離をより良好に行う試みがなされている。例えば、特許文献1には、温度応答性ポリマーでコーティングされた培養基材の利用が、特許文献2には、表面が複数の微小な凹凸を有する培養基材の利用が、特許文献3には、フィブリンでコーティングされた培養基材の利用がそれぞれ記載されている。しかしながら、温度応答性ポリマーでコーティングされた培養基材や特許文献2に記載の培養基材は高価であり、また、フィブリンでコーティングされた培養基材は、残留するフィブリンによる悪影響が懸念される。したがって、このような問題点を有することなく、簡便かつ高効率に細胞シートを単離できる手法が求められていた。
特表2007-528755号公報 特開2008-11766号公報 特開2009-11322号公報
本発明は、従来技術の問題点を有しない、簡便かつ高効率にシート状細胞培養物を単離する方法の提供を目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行う中で、シート状細胞培養物を培養基材上に付着させたまま凍結させてから、これを解凍することにより、通常の培養基材を用いてもシート状細胞培養物を基材から容易に単離することができ、かつ、得られた単離シート状細胞培養物を構成する細胞の生存率も高いことを見出し、本発明を完成させた。
したがって、本発明は以下の(1)〜(10)に示されるものである。
(1)培養基材上に形成されたシート状細胞培養物を、該培養基材に付着させた状態で凍結する工程、
凍結したシート状細胞培養物を解凍する工程、および
培養基材からシート状細胞培養物を単離する工程、
を含む、単離されたシート状細胞培養物の製造方法。
(2)培養基材上に、実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度で細胞を播種する工程をさらに含む、(1)に記載の方法。
(3)培養基材上で細胞を培養してシート状の細胞培養物を形成する工程をさらに含む、(1)または(2)に記載の方法。
(4)培養液に凍結保存剤を添加する工程、および/または、培養液を凍結保存液に置換する工程をさらに含む、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)培養基材が細胞接着性を有する、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載の方法で製造された、単離されたシート状細胞培養物。
(7)培養基材上に形成されたシート状細胞培養物を、該培養基材に付着させた状態で凍結する工程、および
凍結したシート状細胞培養物を解凍する工程
を含む、シート状細胞培養物の単離促進方法。
(8)培養基材に付着した状態で凍結された、シート状細胞培養物。
(9)基材表面に付着した状態で凍結されたシート状細胞培養物を含む、培養基材。
(10)培養基材上に形成されたシート状細胞培養物を、該培養基材に付着させた状態で凍結する工程を含む、シート状細胞培養物の保存方法。
本発明の方法により、タンパク質分解酵素や、特殊な培養基材を用いることなくシート状細胞培養物を単離することができるため、単離シート状細胞培養物、特に、筋芽細胞などの、細胞間の結合力が弱い細胞から構成されるシート状細胞培養物の取得が効率化されるとともに、得られる単離シート状細胞培養物の品質、安全性、経済性も向上し、シート状細胞培養物を利用した治療が促進される。
また、温度応答性ポリマーでコーティングされた培養基材等を利用する場合、ピペッティング操作を行うことなく、容易にシート状細胞培養物を回収することができるため、従来必要であった室温下での長時間の静置が不要となり、ピペッティング操作によるコンタミやシートの破損を回避できるといった利点がある。
さらに、本発明の方法により、シート状細胞培養物を、高回収率・高バイアビリティーで容易に単離できる状態で長期保存でき、かつ、保管や輸送が容易にできるうえ、簡易に短時間で単離できるため、予めシート状細胞培養物の状態で保存をしておき、必要に応じていつでもシート状細胞培養物の移植が可能になるなど、シート状細胞培養物の利用性が格段に高まる。
図1は、通常の培養基材上で形成したシート状細胞培養物をピペッティングにより単離しようとした結果を示した写真図である。 図2は、温度応答性培養皿で形成したシート状細胞培養物を凍結・解凍して得た単離シート状細胞培養物を示した写真図である。 図3は、通常の培養皿で形成したシート状細胞培養物を凍結・解凍して得た単離シート状細胞培養物を示した写真図である。
本発明は、培養基材上に形成されたシート状細胞培養物を、該培養基材に付着させた状態で凍結する工程、
凍結したシート状細胞培養物を解凍する工程、および
培養基材からシート状細胞培養物を剥離させる工程
を含む、単離したシート状細胞培養物の製造方法に関する。
本発明の製造方法に用いる細胞には、シート状細胞培養物を形成し得る任意の細胞が含まれる。かかる細胞の例としては、限定されずに、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞)、心筋細胞、線維芽細胞、滑膜細胞、上皮細胞、内皮細胞などが含まれる。これらのうち、本発明においては、単層の細胞培養物を形成するもの、例えば、筋芽細胞が好ましい。細胞は、細胞培養物による治療が可能な任意の生物に由来し得る。かかる生物には、限定されずに、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジなどが含まれる。また、本発明の方法に用いる細胞は1種類のみであってもよいが、2種類以上の細胞を用いることもできる。本発明の好ましい態様において、細胞培養物を形成する細胞が2種類以上ある場合、最も多い細胞の比率(純度)は、細胞培養物製造終了時において、65%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上である。
本発明において、「シート状細胞培養物」は、細胞が互いに連結してシート状になったものをいい、典型的には1つの細胞層からなるものであるが、2以上の細胞層から構成されるものも含む。細胞同士は、直接および/または介在物質を介して、互いに連結していてもよい。介在物質としては、細胞同士を少なくとも機械的に連結し得る物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞外マトリックスなどが挙げられる。介在物質は、好ましくは細胞由来のもの、特に、細胞培養物を構成する細胞に由来するものである。細胞は少なくとも機械的に連結されるが、さらに機能的、例えば、化学的、電気的に連結されてもよい。
本発明のシート状細胞培養物は、好ましくはスキャフォールド(支持体)を含まない。スキャフォールドは、その表面上および/またはその内部に細胞を付着させ、細胞培養物の物理的一体性を維持するために当該技術分野において用いられることがあり、例えば、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)製の膜等が知られているが、本発明の細胞培養物は、かかるスキャフォールドがなくともその物理的一体性を維持することができる。また、本発明の細胞培養物は、好ましくは、細胞培養物を構成する細胞由来の物質のみからなり、それら以外の物質を含まない。
本発明において、「培養基材」は、細胞がその上で細胞培養物を形成し得るものであれば特に限定されず、例えば、種々の材質の容器、容器中の固形もしくは半固形の表面などを含む。容器は、培養液などの液体を透過させない構造・材料が好ましい。かかる材料としては、限定することなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ナイロン6,6、ポリビニルアルコール、セルロース、シリコン、ポリスチレン、ガラス、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、金属(例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮)等が挙げられる。また、容器は、少なくとも1つの平坦な面を有することが好ましい。かかる容器の例としては、限定することなく、例えば、細胞培養皿、細胞培養ボトルなどが挙げられる。また、容器は、その内部に固形もしくは半固形の表面を有してもよい。固形の表面としては、上記のごとき種々の材料のプレートや容器などが、半固形の表面としては、ゲル、軟質のポリマーマトリクスなどが挙げられる。培養基材は、上記材料を用いて作製してもよいし、市販のものを利用してもよい。好ましい培養基材としては、限定することなく、例えば、シート状細胞培養物の形成に適した、接着性の表面を有する基材が挙げられる。具体的には、親水性の表面を有する基材、例えば、コロナ放電処理したポリスチレン、コラーゲンゲルや親水性ポリマーなどの親水性化合物を該表面にコーティングした基材、さらには、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカンなどの細胞外マトリックスや、カドヘリンファミリー、セレクチンファミリー、インテグリンファミリーなどの細胞接着因子などを表面にコーティングした基材などが挙げられる。また、かかる基材は市販されている(例えば、Corning(R) TC-Treated Culture Dish、Corning製)。
培養基材は、刺激、例えば、温度や光に応答して物性が変化する材料で表面が被覆されていてもよい。かかる材料としては、限定されずに、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、N−エチルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−シクロプロピルアクリルアミド、N−シクロプロピルメタクリルアミド、N−エトキシエチルアクリルアミド、N−エトキシエチルメタクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド等)、N,N−ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−エチルメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド等)、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、1−(1−オキソ−2−プロペニル)−ピロリジン、1−(1−オキソ−2−プロペニル)−ピペリジン、4−(1−オキソ−2−プロペニル)−モルホリン、1−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−ピロリジン、1−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−ピペリジン、4−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−モルホリン等)、またはビニルエーテル誘導体(例えば、メチルビニルエーテル)のホモポリマーまたはコポリマーからなる温度応答性材料、アゾベンゼン基を有する光吸収性高分子、トリフェニルメタンロイコハイドロオキシドのビニル誘導体とアクリルアミド系単量体との共重合体、および、スピロベンゾピランを含むN−イソプロピルアクリルアミドゲル等の光応答性材料などの公知のものを用いることができる(例えば、特開平2-211865、特開2003-33177参照)。これらの材料に所定の刺激を与えることによりその物性、例えば、親水性や疎水性を変化させ、同材料上に付着した細胞培養物の剥離を促進することができる。
上記培養基材は、種々の形状であってもよいが、平坦であることが好ましい。また、その面積は特に限定されないが、典型的には、1〜200cm、好ましくは2〜100cm、より好ましくは3〜50cmである。
培養基材は血清でコート(被覆またはコーティング)されていてもよい。血清でコートされた培養基材を用いることにより、より高密度のシート状細胞培養物を形成することができる。「血清でコートされている」とは、培養基材の表面に血清成分が付着している状態を意味する。かかる状態は、限定されずに、例えば、培養基材を血清と共にインキュベートすることにより得ることができる。インキュベートとは、血清を培養基材に接触させることを含む。血清としては、異種血清および同種血清を用いることができる。異種血清は、細胞培養物を移植に用いる場合、そのレシピエントとは異なる種の生物に由来する血清を意味する。例えば、レシピエントがヒトである場合、ウシやウマに由来する血清、例えば、ウシ胎仔血清(FBS、FCS)、仔ウシ血清(CS)、ウマ血清(HS)などが異種血清に該当する。また、「同種血清」は、レシピエントと同一の種の生物に由来する血清を意味する。例えば、レシピエントがヒトである場合、ヒト血清が同種血清に該当する。同種血清は、自己血清、すなわち、レシピエントに由来する血清、およびレシピエント以外の同種個体に由来する同種他家血清を含む。なお、本明細書中で、自己血清以外の血清、すなわち、異種血清と同種他家血清を非自己血清と総称することもある。
培養基材をコートするための血清は、市販されているか、または、所望の生物から採取した血液から定法により調製することができる。具体的には、例えば、採取した血液を室温で20〜60分程度放置して凝固させ、これを1000〜1200×g程度で遠心分離し、上清を採取する方法などが挙げられる。
培養基材上でインキュベートする場合、血清は原液で用いても、希釈して用いてもよい。希釈は、任意の媒体、例えば、限定することなく、水、生理食塩水、種々の緩衝液(例えば、PBS、HBSなど)、種々の液体培地(例えば、DMEM、MEM、F12、DME、RPMI1640、MCDB(MCDB102、104、107、131、153、199など)、L15、SkBM、RITC80−7、DMEM/F12など)等で行うことができる。希釈濃度は、血清成分が培養基材上に付着することができれば特に限定されず、例えば、0.5〜90%(v/v)、好ましくは1〜60%(v/v)、より好ましくは5〜40%(v/v)である。
インキュベート時間も、血清成分が培養基材上に付着することができれば特に限定されず、例えば、1〜72時間、好ましくは4〜48時間、より好ましくは5〜24時間、さらに好ましくは6〜12時間である。インキュベート温度も、血清成分が培養基材上に付着することができれば特に限定されず、例えば、0〜60℃、好ましくは4〜45℃、より好ましくは室温〜40℃である。
インキュベート後に血清を廃棄してもよい。血清の廃棄手法としては、ピペットなどによる吸引や、デカンテーションなどの慣用の液体廃棄手法を用いることができる。本発明の好ましい態様においては、血清廃棄後に、培養基材を無血清洗浄液で洗浄してもよい。無血清洗浄液としては、血清を含まず、培養基材に付着した血清成分に悪影響を与えない液体媒体であれば特に限定されず、例えば、限定することなく、水、生理食塩水、種々の緩衝液(例えば、PBS、HBSなど)、種々の液体培地(例えば、DMEM、MEM、F12、DME、RPMI1640、MCDB(MCDB102、104、107、131、153、199など)、L15、SkBM、RITC80−7、DMEM/F12など)等で行うことができる。洗浄手法としては、慣用の培養基材洗浄手法、例えば、限定することなく、培養基材上に無血清洗浄液を加えて所定時間(例えば、5〜60秒間)撹拌後、廃棄する手法などを用いることができる。
本発明において、培養基材を、成長因子でコートしてもよい。ここで、「成長因子」は、細胞の増殖を、それがない場合に比べて促進する任意の物質を意味し、例えば、上皮細胞成長因子(EGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)などを含む。成長因子による培養基材のコート手法、廃棄手法および洗浄手法は、インキュベーション時の希釈濃度が、例えば、0.0001μg/mL〜1μg/mL、好ましくは0.0005μg/mL〜0.05μg/mL、より好ましくは0.001μg/mL〜0.01μg/mLである以外は、基本的に血清と同じである。
本発明において、培養基材を、ステロイド剤でコートしてもよい。ここで「ステロイド剤成分」は、ステロイド核を有する化合物のうち、生体に、副腎皮質機能不全、クッシング症候群などの悪影響を及ぼし得るものをいう。かかる化合物としては、限定されずに、例えば、コルチゾール、プレドニゾロン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン等が含まれる。ステロイド剤による培養基材のコート手法、廃棄手法および洗浄手法は、インキュベーション時の希釈濃度が、デキサメタゾンとして、例えば、0.1μg/mL〜100μg/mL、好ましくは0.4μg/mL〜40μg/mL、より好ましくは1μg/mL〜10μg/mLである以外は、基本的に血清と同じである。
培養基材は、血清、成長因子およびステロイド剤のいずれか1つでコートしても、これらの任意の組合わせ、すなわち、血清と成長因子、血清とステロイド剤、血清と成長因子とステロイド剤、または、成長因子とステロイド剤の組合わせでコートしてもよい。複数の成分でコートする場合、これらの成分を混合して同時にコートしてもよいし、別々の工程でコートしてもよい。
培養基材は、血清等でコートした後直ちに細胞を播種してもよいし、コートした後に保存しておき、その後細胞を播種することもできる。コートした基材は、例えば4℃以下、好ましくは−20℃以下、より好ましくは−80℃以下に保つことにより長期間保存することができる。
本発明の製造方法において、凍結は、通常の細胞凍結手法により行うことができ、典型的には、例えば、シート状細胞培養物を、培養基材に付着させたまま、凍結手段、例えば、フリーザー、ディープフリーザー、低温の媒体(例えば、液体窒素等)などに供することにより達成されるが、これに限定されない。凍結手段の温度は、シート状細胞培養物の一部、好ましくは全体を凍結させ得る温度であれば特に限定されないが、典型的には0℃以下、好ましくは−20℃以下、より好ましくは−40℃以下、さらに好ましくは−80℃以下である。また、凍結操作における冷却速度は、凍結解凍後の細胞の生存率や機能を大きく損なうものでなければ特に限定されないが、典型的には4℃から冷却を始めて−80℃に達するまで1〜5時間、好ましくは2〜4時間、特に約3時間かける程度の冷却速度である。具体的には、例えば、0.46℃/分の速度で冷却することができる。かかる冷却速度は、所望の温度に設定した凍結手段に、シート状細胞培養物が付着したままの培養基材を直接、または、凍結処理容器に収容して供することにより達成することができる。
凍結操作は、シート状細胞培養物を培養液に浸漬させたまま行ってもよいが、培養液にシート状細胞培養物を構成する細胞を凍結・解凍操作から保護するための凍結保護剤を加えたり、培養液を凍結保護剤を含む凍結保存液と置換したりすることができる。したがって、本発明の製造方法は、培養液に凍結保護剤を添加する工程、または、培養液を凍結保存液に置換する工程をさらに含んでもよい。培養液を凍結保存液に置換する場合、凍結時にシート状細胞培養物が浸漬している液に有効濃度の凍結保護剤が含まれていれば、培養液を実質的に全て除去してから凍結保存液を添加しても、培養液を一部残したまま凍結保存液を添加してもよい。ここで、「有効濃度」とは、凍結保護剤が、毒性を示すことなく、凍結保護効果、例えば、凍結保護剤を用いない場合と比べた、凍結解凍後の細胞の生存率、活力、機能などの低下抑制効果を示す濃度を意味する。
本発明の製造方法に用いる凍結保護剤は、細胞に対して凍結保護作用を示すものであれば特に限定されずに、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、セリシン、プロパンジオール、デキストラン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルデンプン、コンドロイチン硫酸、ポリエチレングリコール、ホルムアミド、アセトアミド、アドニトール、ペルセイトール、ラフィノース、ラクトース、トレハロース、スクロース、マンニトールなどを含む。凍結保護剤は、単独で用いても、2種または3種以上を組み合わせて用いてもよい。
培養液への凍結保護剤の添加濃度、または、凍結保存液中の凍結保護剤の濃度は、上記で定義した有効濃度であれば特に限定されず、典型的には、例えば、培養液または凍結保存液全体に対して2〜20%(v/v)である。しかしながら、この濃度範囲からは外れるが、それぞれの凍結保護剤について知られているか、実験的に決定した代替的な使用濃度を採用することもでき、かかる濃度も本発明の範囲内である。
凍結操作時の培養液(凍結保護剤を含んでも含まなくてもよい)または凍結保存液の量は、シート状細胞培養物を完全に浸漬でき(すなわち、シート状細胞培養物が付着した培養基材を凍結手段に供したときに、シート状細胞培養物を凍結保存液に完全に覆うことができ)、かつ、所定時間内の解凍が可能な量であれば特に限定されないが、骨格筋芽細胞で形成したシート状細胞培養物であれば、典型的には、例えば、培養面積に対して20〜200μL/cm、および/または、細胞1.0×10個あたり280〜1600μLである。これはまた、凍結操作時の細胞密度が、6.3×10〜3.6×10個/mLであってもよいことを意味する。当業者であれば、所望の細胞で形成したシート状細胞培養物に適した凍結操作時の培養液または凍結保存液の量を、過度の実験を要することなく決定することができる。
本発明の製造方法において、解凍は、通常の細胞解凍手法により行うことができ、典型的には、例えば、培養基材に付着させたまま凍結させたシート状細胞培養物を、解凍手段、例えば、凍結温度より高い温度の固形、液状もしくはガス状の媒体(例えば、水)、ウォーターバス、インキュベーター、恒温器などに供したり、または、培養基材に付着させたまま凍結させたシート状細胞培養物を、凍結温度より高い温度の媒体(例えば、培養液)で浸漬することにより達成されるが、これに限定されない。解凍手段または浸漬媒体の温度は、シート状細胞培養物を所望の時間内に解凍できる温度であれば特に限定されないが、典型的には4〜50℃、好ましくは30℃〜40℃、より好ましくは36〜38℃である。また、解凍時間は、解凍後の細胞の生存率や機能を大きく損なうものでなければ特に限定されないが、筋芽細胞を用いたシート状細胞培養物の場合、典型的には2分以内であり、特に20秒以内とすることで生存率の低下を大幅に抑制することができる。ここで、解凍時間は、典型的には解凍が肉眼的に完了するまでの時間を意味し、解凍の完了は、例えば、凍結時白濁していた細胞培養物が、融解により透明性を帯びてくることなどによって判断できる。解凍時間は、例えば、解凍手段または浸漬媒体の温度、凍結時の培養液または凍結保存液の容量もしくは組成などを変化させて調節することができる。当業者であれば、所望の細胞で形成したシート状細胞培養物に適した解凍時間を、過度の実験を要することなく決定することができる。
本発明の製造方法において、シート状細胞培養物の基材からの単離は、シート状細胞培養物が少なくとも部分的に、シート構造を保ったまま、足場となっている基材から遊離(剥離)できれば特に限定されず、例えば、タンパク質分解酵素(例えばトリプシンなど)による酵素処理および/またはピペッティングなどの機械的処理によって行うことができる。また、細胞を、刺激、例えば、温度や光に応答して物性が変化する材料で表面を被覆した培養基材上で培養して細胞培養物を形成した場合には、所定の刺激を加えることで、非酵素的に遊離することもできる。特に、培養基材が温度応答性のものである場合には、所定の温度条件下での長時間の静置や、ピペッティングなどの機械的処理を行うことなく、解凍操作のみでシート状細胞培養物を単離することができる。
本発明の製造方法は、培養基材上に細胞を播種する工程をさらに含んでもよい。本発明の好ましい態様において、播種は、細胞が実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度で行われる。「細胞が実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度」とは、成長因子を実質的に含まない非増殖系の培養液で培養した場合に、シート状細胞培養物を形成することができる細胞密度を意味する。例えば、骨格筋芽細胞の場合、成長因子を含む培養液を用いる従来法では、シート状細胞培養物を形成するために、約6,500個/cmの密度の細胞をプレートに播種していたが(例えば、特許文献1参照)、かかる密度の細胞を、成長因子を含まない培養液で培養してもシート状の細胞培養物を形成することはできない。したがって、本態様における播種密度は、成長因子を含む培養液を用いる従来法におけるものよりも高いものである。このため、本明細書中では、かかる播種密度を、単に「高密度」と記すこともある。かかる密度は、具体的には、例えば、骨格筋芽細胞について典型的には300,000個/cm以上である。播種密度の上限は、細胞培養物の形成が損なわれず、細胞が分化に移行しなければ特に制限されないが、骨格筋芽細胞については、3.4×10個/cm未満である。
したがって、骨格筋芽細胞における「実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度」は、ある態様では3.0×10〜3.4×10個/cm、別の態様では3.5×10〜3.4×10個/cm、さらに別の態様では1.0×10〜3.4×10個/cm、さらに別の態様では3.0×10〜1.7×10個/cm、別の態様では3.5×10〜1.7×10個/cm、さらに別の態様では1.0×10〜1.7×10個/cmである。上記範囲は、上限が3.4×10個/cm未満である限り、上限および下限の両方、または、そのいずれか一方を含んでもよい。したがって、上記密度は、例えば、3.0×10個/cm以上3.4×10個/cm未満(下限を含み、上限は含まない)、3.5×10個/cm以上3.4×10個/cm未満(下限を含み、上限は含まない)、1.0×10個/cm以上3.4×10個/cm未満(下限を含み、上限は含まない)、1.0×10個/cm超3.4×10個/cm未満(下限も上限も含まない)、1.0×10個/cm超1.7×10個/cm以下(下限は含まないが、上限は含む)であってもよい。当業者であれば、骨格筋芽細胞以外の細胞について、本発明に適した細胞密度を、本明細書の教示に従い、実験により適宜決定することができる。
本態様において、培養期間中、細胞は増殖してもしなくてもよいが、増殖するとしても、細胞の性状が変化する程には増殖しない。例えば、骨格筋芽細胞はコンフルエントになると分化を開始するが、本発明においては、骨格筋芽細胞は、細胞培養物は形成するが、分化に移行しない密度で播種される。本態様において、細胞は計測誤差の範囲を超えて増殖しないことが好ましい。細胞が増殖したか否かは、例えば、播種時の細胞数と、細胞培養物形成後の細胞数とを比較することにより評価することができる。本態様において、細胞培養物形成後の細胞数は、典型的には播種時の細胞数の300%以下、好ましくは200%以下、より好ましくは150%以下、さらに好ましくは125%以下、特に好ましくは100%以下である。
本発明の製造方法は、培養基材上で細胞を培養してシート状の細胞培養物を形成する工程をさらに含んでもよい。細胞の培養は、対象となる細胞がシート状の細胞培養物を形成するのに適した条件で行われる。
本発明の一態様において、細胞の培養は、所定の期間内、好ましくは、細胞が分化に移行しない期間内に行われる。したがって、この態様において、細胞は、培養期間中、未分化の状態に維持される。細胞の分化への移行は、当業者に知られた任意の方法で評価することができる。例えば、骨格筋芽細胞の場合は、MHCの発現、クレアチンキナーゼ(CK)活性、細胞の多核化、筋管の形成などを分化の指標とすることができる。本発明の好ましい態様において、培養期間は48時間以内、より好ましくは40時間以内、さらに好ましくは24時間以内である。
培養に用いる細胞培養液(単に「培養液」もしくは「培地」と呼ぶ場合もある)は、細胞の生存を維持できるものであれば特に限定されないが、典型的には、アミノ酸、ビタミン類、電解質を主成分としたものが利用できる。本発明の一態様において、培養液は、細胞培養用の基礎培地をベースにしたものである。かかる基礎培地には、限定されずに、例えば、DMEM、MEM、F12、DME、RPMI1640、MCDB(MCDB102、104、107、131、153、199など)、L15、SkBM、RITC80−7などが含まれる。これらの基礎培地の多くは市販されており、その組成も公知となっている。一例として、下記表1にMCDB131およびDMEMの組成を示す。
基礎培地は、標準的な組成のまま(例えば、市販されたままの状態で)用いてもよいし、細胞種や細胞条件に応じてその組成を適宜変更してもよい。したがって、本発明に用いる基礎培地は、公知の組成のものに限定されず、1または2以上の成分が追加、除去、増量もしくは減量されたものを含む。
基礎培地に含まれるアミノ酸としては、限定されずに、例えば、L−アルギニン、L−シスチン、L−グルタミン、グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−セリン、L−トレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン、L−バリンなどが、ビタミン類としては、限定されずに、例えば、D−パントテン酸カルシウム、塩化コリン、葉酸、i−イノシトール、ナイアシンアミド、リボフラビン、チアミン、ピリドキシン、ビオチン、リポ酸、ビタミンB12、アデニン、チミジンなどが、そして、電解質としては、限定されずに、例えば、CaCl、KCl、MgSO、NaCl、NaHPO、NaHCO、Fe(NO、FeSO、CuSO、MnSO、NaSiO、(NH)6Mo24、NaVO、NiCl、ZnSOなどがそれぞれ含まれる。基礎培地には、これらの成分のほか、D−グルコースなどの糖類、ピルビン酸ナトリウム、フェノールレッドなどのpH指示薬、プトレシンなどを含んでもよい。
本発明の一態様において、基礎培地に含まれるアミノ酸の濃度は、L−アルギニン:63.2〜84mg/L、L−シスチン:35〜63mg/L、L−グルタミン:4.4〜584mg/L、グリシン:2.3〜30mg/L、L−ヒスチジン:42mg/L、L−イソロイシン:66〜105mg/L、L−ロイシン:105〜131mg/L、L−リジン:146〜182mg/L、L−メチオニン:15〜30mg/L、L−フェニルアラニン:33〜66mg/L、L−セリン:32〜42mg/L、L−トレオニン:12〜95mg/L、L−トリプトファン:4.1〜16mg/L、L−チロシン:18.1〜104mg/L、L−バリン:94〜117mg/Lである。
また、本発明の一態様において、基礎培地に含まれるビタミン剤の濃度は、D−パントテン酸カルシウム:4〜12mg/L、塩化コリン:4〜14mg/L、葉酸:0.6〜4mg/L、i−イノシトール:7.2mg/L、ナイアシンアミド:4〜6.1mg/L、リボフラビン:0.0038〜0.4mg/L、チアミン:3.4〜4mg/L、ピリドキシン:2.1〜4mg/Lである。
細胞培養液は、上記のほか、血清、成長因子、ステロイド剤成分、セレン成分などの1種または2種以上の添加物を含んでもよい。しかし、これらの成分は臨床においてはレシピエントに対するアナフィラキシーショック等の副作用要因となり得ることが否定できない製造工程由来不純物であり、臨床への適用にあたっては排除すべき成分である。したがって、本発明の好ましい態様において、細胞培養液は、これらの添加物の少なくとも1種の有効量を含まない。また、本発明のより好ましい態様において、細胞培養液は、これらの添加物の少なくとも1種を実質的に含まない。さらに、本発明の特に好ましい態様において、細胞培養液は、添加物を実質的に含まない。したがって、細胞培養液は、基礎培地のみを含んでもよい。
細胞培養液に含まれる血清としては、異種血清および同種血清が挙げられるが、移植時の副作用を回避するために、同種血清が好ましく、自己血清がさらに好ましい。
本発明の一態様において、細胞培養液は血清を実質的に含まない。血清を実質的に含まない細胞培養液のことを、本明細書中で「無血清培地」と呼ぶこともある。ここで、「血清を実質的に含まない」とは、培養液における血清の含量が、細胞培養物を生体に適用した場合に悪影響を及ぼさない程度(例えば、細胞培養物中の血清アルブミン含量が50ng未満となる量)であること、好ましくは、培養液にこれらの物質を積極的に添加しないことを意味する。本発明においては、移植時の副作用を回避するために、細胞培養液は異種血清を実質的に含まないことが好ましく、非自己血清を実質的に含まないことがさらに好ましい。
本発明の一態様において、細胞培養液は有効量の成長因子を含まない。ここで、「成長因子」は、細胞の増殖を、それがない場合に比べて促進する任意の物質を意味し、例えば、上皮細胞成長因子(EGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)などを含む。また、「有効量の成長因子」とは、細胞の増殖を、成長因子がない場合に比べて、有意に促進する成長因子の量、または、便宜的に、当該技術分野において細胞の増殖を目的として通常添加する量を意味する。細胞増殖促進の有意性は、例えば、当該技術分野で知られた任意の統計学的手法、例えば、t検定などにより適宜評価することができ、また、通常の添加量は当該技術分野の種々の公知文献から知ることができる。具体的には、骨格筋芽細胞の培養におけるEGFの有効量は、例えば0.005μg/mL以上である。
したがって、「有効量の成長因子を含まない」とは、本発明における培養液における成長因子の濃度がかかる有効量未満であることを意味する。例えば、骨格筋芽細胞の培養におけるEGFの培養液中の濃度は、好ましくは0.005μg/mL未満、より好ましくは0.001μg/mL未満である。本発明の好ましい態様においては、培養液における成長因子の濃度は、生体における通常の濃度未満である。かかる態様においては、例えば、骨格筋芽細胞の培養におけるEGFの培養液中の濃度は、好ましくは5.5ng/mL未満、より好ましくは1.3ng/mL未満、さらに好ましくは、0.5ng/mL未満である。さらに好ましい態様において、本発明における培養液は、成長因子を実質的に含まない。ここで、実質的に含まないとは、培養液中の成長因子の含量が、細胞培養物を生体に適用した場合に悪影響を及ぼさない程度であること、好ましくは、培養液に成長因子を積極的に添加しないことを意味する。したがって、この態様においては、培養液は、その中の他の成分、例えば血清などに含まれる以上の濃度の成長因子を含まない。
本発明の一態様において、細胞培養液は、ステロイド剤成分を実質的に含まない。ここで「ステロイド剤成分」は、ステロイド核を有する化合物のうち、生体に、副腎皮質機能不全、クッシング症候群などの悪影響を及ぼし得るものをいう。かかる化合物としては、限定されずに、例えば、コルチゾール、プレドニゾロン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン等が含まれる。したがって、「ステロイド剤成分を実質的に含まない」とは、培養液におけるこれらの化合物の含量が、細胞培養物を生体に適用した場合に悪影響を及ぼさない程度であること、好ましくは、培養液にこれらの化合物を積極的に添加しないこと、すなわち、培養液が、その中の他の成分、例えば血清などに含まれる以上の濃度のステロイド剤成分を含まないことを意味する。
本発明の一態様において、細胞培養液は、セレン成分を実質的に含まない。ここで「セレン成分」は、セレン分子、およびセレン含有化合物、特に、生体内でセレン分子を遊離し得るセレン含有化合物、例えば、亜セレン酸などを含む。したがって、「セレン成分を実質的に含まない」とは、培養液におけるこれらの物質の含量が、細胞培養物を生体に適用した場合に悪影響を及ぼさない程度であること、好ましくは、培養液にこれらの物質を積極的に添加しないこと、すなわち、培養液が、その中の他の成分、例えば血清などに含まれる以上の濃度のセレン成分を含まないことを意味する。具体的には、例えば、ヒトの場合、培養液中のセレン濃度は、ヒト血清中の正常値(例えば、10.6〜17.4μg/dL)に、培地中に含まれるヒト血清の割合を乗じた値よりも低い(すなわち、ヒト血清の含量が10%であれば、セレン濃度は、例えば、1.0〜1.7μg/dL未満である)。
本発明の上記好ましい態様においては、生体に適用する細胞培養物を作製する場合に従来必要であった、成長因子、ステロイド剤成分、異種血清成分などの製造工程由来不純物を、洗浄などにより除去する工程が不要となる。したがって、本発明の方法の一態様は、この製造工程由来不純物を除去する工程を含まない。
ここで、「製造工程由来不純物」とは、典型的には、製造各工程に由来する以下に列挙するものが含まれる。すなわち、細胞基材に由来するもの(例えば、宿主細胞由来タンパク質、宿主細胞由来DNA)、細胞培養液に由来するもの(例えば、インデューサー、抗生物質、培地成分)、あるいは細胞培養以降の工程である目的物質の抽出、分離、加工、精製工程に由来するものなどである(例えば、医薬審発第571号参照)。
細胞の培養は、当該技術分野で通常なされている条件で行うことができる。例えば、典型的な培養条件としては、37℃、5%COでの培養が挙げられる。培養期間は、細胞培養物の十分な形成、および、細胞分化防止の観点から、好ましくは48時間以内、より好ましくは40時間以内、さらに好ましくは24時間以内である。培養は任意の大きさおよび形状の容器で行うことができる。本発明の方法において、細胞は実質的に増殖しないため、従来の方法のように細胞培養物が所望の大きさに成長するのを待つことなく、所望の大きさおよび形状の細胞培養物を短期間で得ることが可能となる。細胞培養物の大きさや形状は、培養容器の細胞付着面の大きさ・形状を調整すること、または、培養容器の細胞付着面に、所望の大きさ・形状の型枠を設置し、その内部で細胞を培養することなどにより任意に調節することができる。
本発明の方法は、細胞の採取から、細胞の増殖および細胞培養物の作製を経て、細胞培養物の適用に至る、再生治療の一工程として位置づけることもできる。したがって、本発明は、
(i)対象から採取した組織または生体液から所望の細胞を単離する工程、
(ii)単離した細胞を増殖させる工程、
(iii)培養基材上で細胞を培養してシート状の細胞培養物を形成する工程、および
(iv)形成されたシート状細胞培養物を、該培養基材に付着させた状態で凍結する工程
(v)凍結したシート状細胞培養物を解凍する工程
(vi)培養基材からシート状細胞培養物を単離する工程、および任意に
(vii)単離したシート状細胞培養物を洗浄する工程
を含む、再生治療用シート状細胞培養物の製造方法にも関する。
本発明はまた、上記製造方法によって作製されたシート状細胞培養物に関する。
好ましい態様において、本発明のシート状細胞培養物は、浸漬撹拌などの洗浄操作や、取出し、保持、移送などの移植操作に対して十分な物理的強度を有する。十分な物理的強度を有するとは、上記操作を施しても細胞培養物のシート状構造が損なわれないことを意味し、これは、例えば、得られたシート状細胞培養物に実際に上記操作を施し、シート状構造が保たれていることを肉眼的または顕微鏡的に調査することにより確認することができる。シート状細胞培養物を血清でコートした培養基材上で形成すれば、通常かかる十分な物理的強度を有する。
本発明の細胞培養物の好ましい態様において、細胞培養物は非自己血清、成長因子、ステロイド剤および/またはセレン成分を実質的に含まない。より好ましい態様において、本発明の細胞培養物は、上記成分を含む製造工程由来不純物を実質的に含まない。この細胞培養物は、細胞を、非自己血清、成長因子、ステロイド剤および/またはセレン成分を実質的に含まない培養液で培養して、細胞培養物を形成させることにより作製することができる。ここで、細胞培養物が非自己血清、成長因子、ステロイド剤および/またはセレン成分を実質的に含まないとは、細胞培養物が、これらの成分を、レシピエントに悪影響を与える濃度で含まないことを少なくとも意味するが、細胞培養物の形成を、非自己血清、成長因子、ステロイド剤および/またはセレン成分を実質的に含まない培養液で行うことにより、かかる条件を充足することができる。さらに好ましい態様において、本発明の細胞培養物は、製造工程由来不純物のほか、自己血清も実質的に含まない。ここで、「実質的に含まない」の意味は、上記と同様である。
本発明の細胞培養物の好ましい態様において、細胞培養物は炎症性サイトカインが低減されている。炎症性サイトカインとは、炎症に伴い産生されるサイトカインの総称であり、例えば、限定することなく、TNF−α、IL−1、IL−4、IL−5、IL−6、IL−13などが挙げられる。したがって、「炎症性サイトカインが低減されている」とは、これらのサイトカインの存在量または産生量(分泌量)が、分化した細胞培養物に比べて、低減していることを意味する。したがって、サイトカインは、遺伝子の転写からタンパク質の分泌に至る過程のいずれにおける形態で存在してもよく、例えば、mRNAなどの転写物の形態や、タンパク質の形態で存在していてもよい。低減の程度は、誤差の範囲を超えるものであれば特に限定されないが、例えば、分化した細胞培養物に比べて15%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上の低減である。
サイトカインの量は、遺伝子レベルでは、例えば、ノーザンブロッティング法、サザンブロッティング法、RNaseプロテクションアッセイ、RT−PCR、リアルタイムPCR等のPCR法、in situハイブリダイゼーション法、in vitro転写法等の任意の公知の遺伝子発現解析法により、また、タンパク質レベルでは、免疫沈降法、ウェスタンブロッティング法、EIA、ELISA、RIA、免役組織化学法、免疫細胞化学法等の任意の公知のタンパク質検出法により検出することができる。検体としては、細胞培養物が含浸された培地や、細胞培養物の一部などを用いることができる。
かかる好ましい細胞培養物は、骨格筋芽細胞を用いたものであれば、例えば、血清で被覆された培養基材上に、実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度の細胞を播種して培養することにより得ることができる。
本発明の好ましい態様において、細胞培養物は治療上有用な生理活性物質を含む。かかる物質は、治療上何らかの有用性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、血管新生、細胞死の抑制、組織リモデリング、心臓発生、幹細胞の誘導等に関与する物質を含み、より具体的には、限定されずに、例えば、VEGF、PIGF、アンギオゲニン、アンギオポエチン、HGF、PDGF(PDGF−AB、PDGF−BBなど)、BAG−1、BCL−2、MMP(MMP−2、MMP−3、MMP−9、MMP−10など)、TIMP、TNNT2、TNNC1などが挙げられる。
これらの物質を「含む」とは、これらの存在量または産生量(分泌量)が細胞培養物において検出できることを意味する。本発明の好ましい態様において、細胞培養物は、これらの物質を分化した細胞培養物よりも多く含む。増大の程度は、誤差の範囲を超えるものであれば特に限定されないが、例えば、分化した細胞培養物に比べて1.2倍以上、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、さらに好ましくは3倍以上である。これらの物質は、遺伝子の転写からタンパク質の分泌に至る過程のいずれにおける形態で存在してもよく、例えば、mRNAなどの転写物の形態や、タンパク質の形態で存在していてもよい。これらの物質の存在は、上記のサイトカインと同様に検出および/または定量できる。
かかる好ましい細胞培養物は、骨格筋芽細胞を用いたものであれば、例えば、血清で被覆された培養基材上に、実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度の細胞を播種して培養することにより得ることができる。
本発明の好ましい態様において、細胞培養物は未分化の状態である。細胞の分化への移行は、当業者に知られた任意の方法で評価することができる。例えば、骨格筋芽細胞の場合は、MHCの発現、クレアチンキナーゼ(CK)活性、細胞の多核化などを分化の指標とすることができる。また、未分化細胞では、分化細胞に比べて炎症性サイトカインが少なく、治療上有用な生理活性物質が多いことから、これを指標に分化の有無を判断することもできる。未分化の状態の細胞培養物を得る手法としては、例えば、培養基材上に、実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度の細胞を播種して、48時間以内、より好ましくは40時間以内、さらに好ましくは24時間以内の期間培養することが挙げられる。
本発明の細胞培養物は、対象の疾病、傷病の治療に用いることができる。例えば、骨格筋芽細胞による細胞培養物は、心疾患、例えば、心筋梗塞、拡張型心筋症などに、移植片などの形態で用いることができる。したがって、本発明の別の態様は、上記細胞培養物を含む移植片に関する。
本発明はまた、培養基材上に形成されたシート状細胞培養物を、該培養基材に付着させた状態で凍結する工程、および
凍結したシート状細胞培養物を解凍する工程
を含む、シート状細胞培養物の単離促進方法に関する。
本方法における各工程の詳細は、本発明の製造方法について上述したとおりである。「単離が促進される」とは、培養基材上に形成された凍結解凍工程を経ていないシート状細胞培養物と比較して、単離が容易になったことを意味し、例えば、単離時間が短縮したこと、単離時の損傷が少ないこと、単離したシート状細胞培養物における細胞回収率、すなわち、播種した細胞数に対する、単離シート状細胞培養物を構成する細胞数の比率が高いこと、単離シート状細胞培養物における細胞の生存率が高いこと、剥離に要する機械的処理および/または酵素処理の強度が低下したことなどにより評価することができる。
また、本方法は、培養基材上に細胞を播種する工程をさらに含んでもよい。本発明の好ましい態様において、播種は、細胞が実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度で行われる。本方法はまた、培養基材上で細胞を培養してシート状の細胞培養物を形成する工程をさらに含んでもよい。本方法はさらに、培養液に凍結保護剤を添加する、または、培養液を凍結保存液に置換する工程をさらに含でもよい。なお、これらの工程の詳細は、本発明の製造方法について上述したとおりである。
本発明はまた、培養基材に付着した状態で凍結されたシート状細胞培養物に関する。本発明における各用語の詳細は、本発明の製造方法について上述したとおりである。かかるシート状細胞培養物は、培養基材に付着しているため、単離したシート状細胞培養物を凍結させたものよりも作製、保管、移動が容易であり、解凍後の細胞生存率も高い。本発明の凍結シート状細胞培養物は、培養基材上に形成したシート状細胞培養物を、該培養基材に付着させた状態で凍結することにより得ることができる。また、本発明の凍結シート状細胞培養物は、凍結保護剤を含む培養液または凍結保存液に浸漬した状態で凍結していてもよい。シート状細胞培養物の形成方法、凍結方法、解凍方法、単離方法、凍結保護剤および凍結保存液については、本発明の製造方法について上述したとおりである。
本発明の凍結シート状細胞培養物は、長期間凍結保存することが可能であるため、いつ生じるか予測できない疾病や傷害に備えて、事前に作製して保存しておき、必要に応じて解凍して使用することができる。拒絶反応の回避のためには自己細胞を用いたシート状細胞培養物の使用が有利であるため、希望する対象から採取した細胞で凍結シート状細胞培養物を作製し、これをどの対象由来のものかが分かるようにして保存しておけば、当該対象は、必要に応じていつでも自己シート状細胞培養物による治療を受けることが可能となる。このように、本発明の凍結シート状細胞培養物により、複数の対象からのシート状細胞培養物を保存する、シート状細胞培養物バンクを構築することが可能となる。
本発明はまた、基材表面に付着した状態で凍結されたシート状細胞培養物を含む、培養基材に関する。本発明における各用語の詳細は、本発明の製造方法について上述したとおりである。かかる培養基材は、そのまま凍結シート状細胞培養物の収容容器として利用することができる。
本発明はまた、培養基材上に形成されたシート状細胞培養物を、該培養基材に付着させた状態で凍結する工程を含む、シート状細胞培養物の保存方法に関する。かかる工程の詳細は、本発明の製造方法について上述したとおりである。シート状細胞培養物は、これが付着した培養基材を直接、または、保存容器に収容した状態で保存することができる。保存手法は、凍結状態を維持できれば特に限定されないが、典型的には、シート状細胞培養物が付着した培養基材またはこれを収容した保存容器を、凍結保存手段、例えば、フリーザーやディープフリーザーなどに収容することなどが挙げられる。保存温度は、解凍後の細胞の生存率や機能を大きく損なうものでなければ特に限定されないが、典型的には0℃以下、好ましくは−20℃以下、より好ましくは−40℃以下、さらに好ましくは−80℃以下である。本方法により、シート状細胞培養物を長期間、例えば、3ヶ月以上、6ヶ月以上、1年以上、さらには2年以上、実用に耐える細胞生存率および機能性を保ったまま保存することができる。
以下に、本発明を実施例に基づいてさらに説明するが、かかる実施例は、本発明の例示であり、本発明を限定するものではない。
比較例1
20%のウシ胎仔由来血清(Invitrogen製)、0.01μg/mLの上皮成長因子(Invitrogen製)、4μg/mLのリン酸デキサメタゾンナトリウム(シェリング・プラウ製)を含有するMCDB131培地(Invitrogen製)(以下、継代増殖用培地)1.5mLに、ヒト骨格筋芽細胞(Lonza製)3.6×10または9.0×10個を懸濁させ、Φ3.5cmの細胞培養皿(Corning(R) 35mm TC-Treated Culture Dish、Corning製)に播種した。播種後、インキュベーター内で37℃、5%COの条件で18時間培養した。培養後、インキュベーターから取り出し、室温で約60分間静置後、シート状細胞培養物の確認を行った。その結果、シート状細胞培養物の形成は認められたものの、培養皿から剥離させるためにピペッティング操作をしたところ、シート状細胞培養物は破れ、回収することができなかった(図1)。このように、通常の細胞接着性を有する培養基材上で形成されたシートは、細胞間の接着よりも、培養基材に対する接着のほうが強力であるため、シート状細胞培養物を培養基材から剥離させる際に加わる圧力に、細胞間の接着が耐えられず、破れてしまうことが明らかとなった。
比較例2
従来のシート状細胞培養物の製造方法に従い、継代増殖用培地1.5mLに、ヒト骨格筋芽細胞を懸濁させ、Φ3.5cm温度応答性培養皿(UPCELL(R)、セルシード製)に9.0×10個のヒト骨格筋芽細胞を播種した。播種後、37℃、5%COの条件で18時間培養した。培養後、インキュベーターから取り出し、室温で約60分間静置後、シート状細胞培養物の確認を行った。培養面上にシート状細胞培養物の形成が認められ、ピペッティング操作によって温度応答性培養皿からシート状細胞培養物を回収することができた。
実施例1
継代増殖用培地1.5mLにヒト骨格筋芽細胞を懸濁させ、Φ3.5cm温度応答性培養皿(UPCELL(R)、セルシード製)に9.0×10個ずつ播種した。播種後、37℃、5%COの条件で18時間培養した。培養後、培養面上にシート状細胞培養物の形成を確認してから、継代増殖用培地を温度応答性培養皿から廃棄し、4℃に冷蔵した凍結保存液(ウシ胎仔由来血清20%、上皮成長因子0.01μg/mLおよびリン酸デキサメタゾンナトリウム4μg/mLを含有するMCDB131培地(継代増殖用培地)とDMSO(ジメチルスルフォキシド、純正化学製)とを9:1の割合で混合したもの)を1000μLずつ加え、2〜8℃で20分間静置した。続いて、温度応答性培養皿から凍結保存液を廃棄し、新しい凍結保存液を500μL(シート1)または1000μL(シート2)加えた。シート状細胞培養物が付着した温度応答性培養皿を凍結保存用容器(BICELL(R)、日本フリーザー製)に入れた後、凍結保存用容器を−85℃に設定した超低温フリーザーに入れ、シート状細胞培養物を凍結した。24時間後、超低温フリーザーから温度応答性培養皿を取り出し、37℃に加温した継代増殖用培地を温度応答性培養皿に加えることで、凍結したシート状細胞培養物を急速に解凍した。その結果、ピペッティング操作をすることなく、容易に温度応答性培養皿からシート状細胞培養物を回収することができた(図2)。
得られたシート状細胞培養物をトリプシン様タンパク質分解酵素(TrypLE Select、Invitrogen製)で解離させた後、セルカウントおよび細胞生存率の測定を行った。細胞生存率の測定は、次のように行った。すなわち、解離後の細胞を、同量のTrypan Blue Stain0.4%液(Invitrogen製)を加え混和した後、細胞浮遊液を細胞が沈まないうちに10μLずつ採取し、血球計算盤(エルマ製)に注入した。注入後、直ちに倒立型光学顕微鏡(オリンパス製)にて、血球計算盤の2つのチャンバーの9mm枠全体に観察される細胞数の計測を行った。計測後、2つのチャンバーの生死細胞数の平均を求め、染色された細胞を含む全細胞数に対する無染色細胞の割合を算出した。この結果、細胞生存率は、シート1で97.2%、シート2で96.5%、播種細胞数に対する回収細胞数の割合(以下、回収率)は、シート1で97.6%、シート2で94.4%と、いずれも高いものであった。また、凍結保存液の量が少なくなるほど細胞生存率、回収率とも向上する傾向にあった。
実施例2
継代増殖用培地1.5mLにヒト骨格筋芽細胞を懸濁させ、Φ3.5cmの細胞培養皿(Corning(R) 35mm TC-Treated Culture Dish、Corning製)に9.0×10個ずつヒト骨格筋芽細胞を播種した。播種後、インキュベーター内で37℃、5%COの条件で18時間培養した。培養後、培養面上にシート状細胞培養物の形成を確認してから、継代増殖用培地を細胞培養皿から廃棄し、4℃に冷蔵した凍結保存液を1000μLずつ加え、2〜8℃で20分間静置した。続いて、細胞培養皿から凍結保存液を廃棄し、新しい凍結保存液を1000μL(シート3)または1500μL(シート4)加えた。細胞培養皿を凍結保存用容器に入れた後、凍結保存用容器を−85℃に設定した超低温フリーザーに入れ、シート状細胞培養物を凍結した。24時間後、超低温フリーザーから細胞培養皿を取り出し、37℃に加温した継代増殖用培地を細胞培養皿に加えることで、凍結したシート状細胞培養物を急速に解凍した。解凍後直にピペッティング操作を行ったところ、細胞培養皿からシート状細胞培養物を回収することができた。また、得られたシート状細胞培養物をトリプシン様タンパク質分解酵素で解離させた後、セルカウントを行ったところ、細胞生存率はシート3で94.8%、シート4で91.0%、回収率は、シート3で85.4%、シート4で70.2%と、いずれも実用に耐える高いものであった。
実施例3
継代増殖用培地1.5mLにヒト骨格筋芽細胞を懸濁させ、Φ3.5cmの細胞培養皿(Corning(R) 35mm TC-Treated Culture Dish、Corning製)2枚に3.6×10個のヒト骨格筋芽細胞を播種した。播種後、インキュベーター内で37℃、5%COの条件で18時間培養した。培養後、培養面上にシート状細胞培養物の形成を確認してから、継代増殖用培地を細胞培養皿から廃棄し、4℃に冷蔵した凍結保存液を1000μLずつ加え、2〜8℃で20分間静置した。続いて、細胞培養皿から凍結保存液を廃棄し、新しい凍結保存液を1000μLずつ加えた。細胞培養皿を凍結保存用容器に入れた後、凍結保存用容器を−85℃に設定した超低温フリーザーに入れ、シート状細胞培養物を凍結保存した。1枚の細胞培養皿は24時間後に超低温フリーザーから取り出し、37℃に加温した継代増殖用培地を細胞培養皿に加えることで、凍結したシート状細胞培養物を急速に解凍した。解凍後にピペッティング操作をすることでシート状細胞培養物を回収することができた。また、もう1枚の細胞培養皿は3ヶ月後に超低温フリーザーから取り出し、37℃に加温した継代増殖用培地を細胞培養皿に加えることで、凍結したシート状細胞培養物を急速に解凍した。解凍後にピペッティング操作をすることでシート状細胞培養物を回収することができた。
このことから、本方法を用いることで、長期間のシート状細胞培養物の保存が可能であることが明らかとなった。

Claims (8)

  1. 培養基材上に播種した細胞を24時間以内の期間培養して形成されたシート状細胞培養物を、該培養基材に付着させた状態で、−80℃以下の温度で24時間以内の期間凍結する工程、
    凍結したシート状細胞培養物を、30℃〜50℃の媒体で浸漬することにより20秒以内で解凍する工程、および
    培養基材からシート状細胞培養物を単離する工程、
    を含む、単離されたシート状細胞培養物の製造方法。
  2. 培養基材からシート状細胞培養物を単離する工程が、ピペッティング操作なしで行われる、請求項1に記載の製造方法。
  3. 培養基材上に、実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度で細胞を播種する工程をさらに含み、前記密度が、前記細胞がコンフルエントに達する密度またはそれ以上である、請求項1または2に記載の方法。
  4. 培養基材上で細胞を24時間以内の期間培養してシート状の細胞培養物を形成する工程をさらに含む、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
  5. 培養液に凍結保存剤を添加する工程、および/または、培養液を凍結保存液に置換する工程をさらに含む、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
  6. 培養基材が細胞接着性を有する、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
  7. 細胞が骨格筋芽細胞である、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
  8. 培養基材上に播種した細胞を24時間以内の期間培養して形成されたシート状細胞培養物を、該培養基材に付着させた状態で、−80℃以下の温度で24時間以内の期間凍結する工程、および
    凍結したシート状細胞培養物を、30℃〜50℃の媒体で浸漬することにより20秒以内で解凍する工程
    を含む、シート状細胞培養物の単離促進方法。
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