JP6452304B2 - 細胞シート培養基材、細胞シート培養基材複合物、及び細胞シート/培養基材複合の製造方法 - Google Patents
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Description
(a)0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した細胞培養支持体上で、ポリマーの水和力が弱い温度域で細胞を培養し、その後、培地をポリマーの水和力が強い状態となる温度に変化させることで細胞を剥離して細胞シートを得る工程;
(b)工程(a)で得られた細胞シートを、前記細胞シート培養基材上に積層する工程;及び
(c)工程(b)で得られた細胞シートを付着させた細胞シート付着培養基材に対し、前記流路に培地を灌流させて、所定時間培養する工程を含む、細胞シート/培養基材複合物の製造方法。
本実験は、正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)(Lonza Inc.,Walkersville,USA)もしくは 緑色蛍光タンパク発現正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(GFP−HUVEC)(Angio−proteomie,Boston,USA)及び正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)(Lonza Inc.,Walkersville,USA)を用いた。温度応答性培養皿(φ=35mm,UpCell(登録商標),CellSeed Inc.,Tokyo,Japan)に総細胞数1×106cells/dishの密度で細胞を播種した。HUVEC:NHDFの比率は1:3,1:4,1:7とした。Endothelial growth medium(EGM−2)(Lonza Inc.,Walkersville,USA)中で37℃、CO2濃度5%環境下で1〜4日培養後、コンフルエントの状態で20℃で20分以上静置し、HUVEC及びNHDFもしくはGFP−HUVEC及びNHDFで構成されたシート状の細胞組織を回収した(S.Sekiya,et al.,Biochemical and biophysical research communications 341,573−582(2006);T.Sasagawa,et al.,Biomaterials 31,1646−1654(2010);N.Asakawa,et al.,Biomaterials 31,3903−3909(2010))。回収したシート状の細胞組織をEGM−2中で37℃、CO2濃度5%環境下で培養すると、血管内皮細胞が管腔構造を有する血管網を形成することを確認した(図1)。
架橋前のハイドロゲルの溶液に細胞懸濁液を混合した後にゲル化し、ハイドロゲルを足場とする細胞組織を作製した。ハイドロゲル中の細胞密度が2−4×106 cells/mLとなる範囲で用いた(B.Carrion,et al.,Biotechnology and bioengineering 107(6),1020−1028(2010);S.Kim,et al.,Lab Chip 13,1489−1500(2013))。細胞の種類は、HUVECもしくはGFP発現HUVECのみ、HUVEC 及びNHDFもしくはGFP発現HUVEC及びNHDFの組み合わせで用いた。ハイドロゲルの種類は、フィブリンゲル、コラーゲンゲルもしくはフィブリンゲルとコラーゲンゲルの混合ゲル用いた(図2)。フィブリンゲルの濃度は1.0、2.5、10、25mg/mLの範囲で用いた。10、25mg/mLのフィブリンゲルでは血管内皮細胞による血管網が形成されにくく、1.0mg/mLのフィブリンゲルでは足場構造の維持が困難なため、2.5mg/mLが最適であった(図3)。ハイドロゲル中に混合した血管内皮細胞が管腔構造を有する血管網を形成することを確認した(図4)。
培養する細胞組織の直下に、貫通孔を介し培養液を灌流するための流路を有する培養基材を設計した。設計(1)の培養基材は、1本の流路を通して培養液を灌流する最も基本的な設計の培養基材である(図5)。設計(2)は、細胞シートへの灌流に不可欠な圧力負荷の大きさを、流量により制御するために改良を加えた設計である(図6−a)。ある断面積及び長さの流路を流体が流れる時、圧力と流量は線形関係を有することを利用したものである。実際に作製した培養基材での測定結果を図6−bに示した。そして、設計(3)は、圧力勾配を形成するために送液系統を2本(圧力の高い動脈側と圧力の低い静脈側)有する設計である(図7)。
エラストマー材料であるシリコーン樹脂(ポリジメチルシロキサン,PDMS)(Sylgard 184,Dow Corning Co.,MI,USA)を用い、直径100〜200μmの範囲かつ高さ50〜250μmの範囲の貫通孔、高さ200〜500μmかつ幅200μm〜10mmの範囲の流路を有する培養基材を作製した(図8及び9)。培養基材の作製方法を図10及び以下に示す。まず、培養基材の部材作製用のマイクロモールドは、一般的なフォトリソグラフィー法により作製した。モールド上に未架橋のシリコーン樹脂(PDMS)を滴下し、スピンコート(800〜1500rpmの範囲、30s)により塗布した。80℃、60分で加温し、シリコーン樹脂を反応させた。50〜200μmの範囲の厚さで、直径100〜200μmの貫通孔を有するシリコーン樹脂シートを作製した(部材(1))。また、同様の方法で、高さ200〜500μmかつ幅200μm〜10mmの範囲の送液用流路を有するシリコーン樹脂を作製した(部材(2))。これら貫通孔付きシリコーン樹脂シート(部材(1))及び送液用流路付きシリコーン樹脂(部材(2))を酸素プラズマ処理(100W,O2 15Pa,10秒)により接合した。そして、作製したデバイスに送液用のチューブもしくはコネクタを接続するための孔(φ=1〜3mm)を形成した。
作製した培養基材表面への細胞接着性を高める方法として、3つの方法を実施した。一つ目の方法は、培養基材表面を酸素プラズマ(100 W,O2 15Pa,180秒)により親水化処理をした後、ポリエチレンイミン溶液(1wt%)(Wako Pure Chemical Industries,Ltd.,Osaka,Japan)に室温で30分浸漬し、蒸留水で洗浄した(T.G.Vladkova,International Journal of polymer science 2010(2010))。二つ目の方法は、ポリエチレンイミンコート後、グルタルアルデヒド溶液(0.1〜1wt%)(Wako Pure Chemical Industries,Ltd.,Osaka,Japan)に室温で30分浸漬し、蒸留水で洗浄した。そして、コラーゲン溶液(10μg/mL)(KOKEN Co.,Ltd,Tokyo,Japan)に室温で30分浸漬し、蒸留水で洗浄した(Y.Zheng,et al.,Biomaterials 32(23),5391−5401(2011))。培養基材表面よりハイドロゲルの剥離を回避する方法として、ポリエチレンイミンコート後、グルタルアルデヒド溶液(0.1〜1wt%)に室温で30分浸漬し、蒸留水で洗浄した後、コラーゲンゲルを塗布し、ポリエチレンイミンとコラーゲンゲルを架橋する方法が有効であった(図11)。最後に、三つ目の方法は、酸素プラズマ(100W,O2 15Pa,180秒)により親水化処理をした後、FBS溶液に37℃、一晩浸漬し、蒸留水で洗浄した。培養基材は細胞組織培養前に、EOG滅菌法により滅菌した。
培養基材の流路へ安定的に静水圧を負荷するための静水圧負荷用コネクタを作製した。静水圧負荷用コネクタに培養基材を設置した写真を図12に示した。静水圧負荷用コネクタは3Dプリンター(EDEN)(Objet Geometries,Ltd,Billerica,MA, USA)により作製した。液溜めの液面高さにより、培養基材の流路に負荷する静水圧(0〜2mmHg程度の範囲)をコントロールする。2mmHg以上での送液には、シリコーンチューブを介してシリンジポンプを用いた。図12に示すように、設計(3)の培養基材は送液系統を2系統(動脈側・静脈側)有するため、静水圧負荷用コネクタの液溜めは各送液系統の入口及び出口を合わせて4つある。送液系統ごとに赤色(動脈側)及び青色(静脈側)の色素溶液で満たした。
図13aに示すようにHUVEC及びNHDFもしくGFP−HUVEC及びNHDFで構成されたシート状の細胞組織を培養基材上に乗せ、37℃、CO2濃度5%環境下で2時間静置し、細胞組織を培養基材表面に接着させた。その後、細胞組織の剥離防止と管腔構造の形成促進のために細胞組織をコラーゲンで覆った。EGM−2もしくはVEFG(50ng/mL)(R&D Systems,Minneapolis,USA)を添加したEGM−2を用い、37℃、CO2濃度5%環境下で培養した。液溜め及び流路内の培養液は24時間ごとに交換した。3〜5日経過後、シート状の細胞組織内での血管内皮細胞による血管網の形成及び、貫通孔への細胞の遊走が確認された(図13−b,c)。
細胞(HUVECもしくはGFP−HUVEC 3×106cells/mL,NHDF 0.6×106cells/mL)とフィブリンゲル溶液(Fibrinogen 2.5mg/mL,aprotinin 0.15U/mL,thrombin 0.5U/mL)の混合液を作製し、培養基材上に滴下しゲル化した。その後、図14に示すように、流路内にHUVECもしくはGFP−HUVEC細胞を送液し流路内に播種し、37℃、CO2濃度5%環境下で一晩静置した。そして、EGM−2もしくはVEFG(50ng/mL)を添加したEGM−2を用い、37℃、CO2濃度5%環境下で培養した。液溜めの中及び流路内の培養液は24時間ごとに交換した。
液溜め及び流路内に蛍光分子(Rhodamine−dextran,Mw=1×104〜3×106)(Sigma−Aldrich Inc.,St.Louis,MO,USA)を含む溶液を満たし、およそ2mmHgの静水圧がかかるよう液溜めの液面の高さを調整した。蛍光顕微鏡での観察により、シート状の細胞組織中に形成された血管網への蛍光分子の導入が確認された(図15)。このことから、培養基材の流路より細胞組織中の血管網への培養液の灌流が可能であることが示された。
液溜め及び流路内に蛍光分子(Rhodamine−dextran,Mw=1×104〜3×106)もしくは蛍光ビーズ(φ=4μm)を含む溶液を満たし、およそ2mmHgの静水圧がかかるよう液溜めの液面の高さを調整した。蛍光顕微鏡での観察により、ハイドロゲルを足場とする細胞組織中の血管網への蛍光分子(図16−a)及び蛍光ビーズ(図16−b,c)の導入が確認された。さらに、多光子顕微鏡を用いた蛍光分布の3次元計測により、細胞組織部分及び貫通孔部分に血管内皮細胞による管腔構造が形成されていることが確認された(図17)。さらに、貫通孔部分に血管内皮細胞で形成された管腔構造の中を蛍光ビーズが通過して細胞組織の血管網へ運ばれている様子が確認された(図18)。以上のことから、本培養基材を用い、細胞組織中の血管網への培養液の灌流が可能であることが示された。
生体への埋め込みが可能なサイズ(縦18mm,横11mm,厚さ1mm)の培養基材を試作した(図19)。本発明は、柔軟性を有するシリコーン樹脂を用いており、試作した培養基材自体も柔軟性を有するため、曲率を有する生体組織への埋め込みが可能である。生体への埋め込みに適した材料である生分解性ポリマーであるポリカプロラクトン(PCL)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)や生体適合性ポリマーであるポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)などの材料を用いることも可能だと考えられる。
Claims (15)
- 細胞シートを維持、培養するための液体が流れる流路と、
前記流路の上部に設けた細胞シートが接する培養面と、
前記流路に繋がり、前記流路に前記液体を流入又は流出させる接続部と、
前記流路と前記培養面を繋ぐ複数の貫通路と、
前記貫通路に繋がり、前記流路に沿って配置され、前記培養面の表面に開口した複数の貫通孔
を備えた細胞シート培養基材であって、ここで、前記細胞シート培養基材の材料は、シリコーン樹脂、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、乳酸グリコール酸共重合体、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリビニルアルコール若しくはポリエチレングリコールのいずれか又はこれら2種以上を組合せたものである、細胞シート培養基材。 - 前記流路の途中に、前記細胞シートの大きさ以内に前記貫通孔が分布された流路を設けている、請求項1に記載の細胞シート培養基材。
- 前記流路が2以上の通路からなる、請求項1又は2に記載の細胞シート培養基材。
- 前記貫通孔の直径が100μm〜300μmである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞シート培養基材。
- 隣接した前記貫通孔同士の中心間の距離が100μm〜1mmである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞シート培養基材。
- 前記流路に連結する、前記液体の保持槽を備えている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の細胞シート培養基材。
- 請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞シート培養基材の前記培養面に、細胞シートが付着している細胞シート/培養基材複合物。
- 前記細胞シートが2以上の層からなる、請求項7に記載の細胞シート/培養基材複合物。
- 前記細胞シートが血管内皮細胞を含む、請求項7又は8に記載の細胞シート/培養基材複合物。
- 細胞シート/培養基材複合物を製造する方法であって、
(a)0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した細胞培養支持体上で、ポリマーの水和力が弱い温度域で細胞を培養し、その後、培地をポリマーの水和力が強い状態となる温度に変化させることで細胞を剥離して細胞シートを得る工程;
(b)工程(a)で得られた細胞シートを、細胞シート培養基材上に積層する工程、ここで、前記細胞シート培養基材は、
細胞シートを維持、培養するための液体が流れる流路と、
前記流路の上部に設けた細胞シートが接する培養面と、
前記流路に繋がり、前記流路に前記液体を流入又は流出させる接続部と、
前記流路と前記培養面を繋ぐ複数の貫通路と、
前記貫通路に繋がり、前記流路に沿って配置され、前記培養面の表面に開口した複数の貫通孔
を備え、ここで、前記細胞シート培養基材の材料は、シリコーン樹脂、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、乳酸グリコール酸共重合体、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリビニルアルコール若しくはポリエチレングリコールのいずれか又はこれら2種以上を組合せたものである工程;及び
(c)工程(b)で得られた細胞シートを付着させた細胞シート付着培養基材に対し、前記流路に培地を灌流させて、所定時間培養する工程
を含む細胞シート/培養基材複合物の製造方法。 - 前記工程(b)で得られた細胞シートを積載した細胞シート積載培養基材に、さらに前記工程(a)で得られた細胞シートを積層する工程を1回以上繰り返して、2層以上の細胞シートを付着させた請求項10に記載の細胞シート/培養基材複合物の製造方法。
- 前記工程(b)において、前記細胞シートを前記培養面に付着させる前に、前記培養面にハイドロゲルを被覆する工程をさらに含む、請求項10又は11に記載の細胞シート/培養基材複合物の製造方法。
- 前記工程(a)において、前記ポリマーがポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)である、請求項10〜12のいずれか1項に記載の細胞シート/培養基材複合物の製造方法。
- 前記ハイドロゲルが、フィブリンゲル、ゼラチンゲル、フィブロネクチン、ラミニン、及びコラーゲンからなる群から1種又は2種以上から選択されるものである、請求項12に記載の細胞シート/培養基材複合物の製造方法。
- 前記ハイドロゲルが血管内皮細胞を混合したものである、請求項12に記載の細胞シート/培養基材複合物の製造方法。
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