JP2017055759A - 比重分離を利用した細胞の分離回収方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 目的細胞を含む溶液から、密度勾配遠心などの比重分離を利用して当該目的細胞を分離する方法において、前記溶液中に含まれる目的細胞の数が非常に少ない場合であっても、前記目的細胞を高効率に分離回収する方法を提供すること。【解決手段】 目的細胞を含む溶液に当該目的細胞を安定化させるための安定化剤を含ませ、かつ当該溶液の浸透圧を生理的浸透圧に対し0mOsm/kg・H2Oから−60mOsm/kg・H2Oの範囲内とすることで、前記課題を解決する。【選択図】 なし
Description
本発明は、目的細胞を含む溶液から、密度勾配遠心などの比重分離を利用して当該目的細胞を分離する方法に関する。特に本発明は、溶液中に含まれる目的細胞の数が非常に少ない場合であっても、効率的に当該目的細胞を分離回収可能な方法に関する。
近年、血液などの体液や、臓器などの組織を溶液に懸濁もしくは分散して得られる組織懸濁液や、細胞培養液などから細胞を選択的に分離回収し、当該分離回収した細胞を基礎研究や臨床診断、治療へ応用する研究が進められている。例えば、がん患者より採取した血液から腫瘍細胞(Circulating Tumor Cell、以下CTC)を採取し、当該細胞について形態学的分析、組織型分析や遺伝子分析を行ない、前記分析により得られた知見に基づき治療方針を判断する研究が進められている。
試料中に含まれる細胞を分離回収する方法として、密度勾配遠心などの比重分離を利用した方法が知られている(特許文献1)。特許文献1に記載の方法は、密度勾配を形成した溶液(以下、密度勾配溶液と記載する)の上に細胞懸濁液等の目的細胞を含む溶液を重層して遠心分離後、当該目的細胞を含む層を回収することで、当該溶液中に含まれる不要な細胞や他の成分が除去された細胞画分を得る方法である。
しかしながら、前述した比重分離を利用した目的細胞の分離回収を実施するまでに長い時間を要することがある。そのため溶液中に含まれる細胞が劣化し、当該細胞の形状崩壊ならびにそれに伴う当該細胞内の核酸およびタンパク質の放出や、比重変化が生じるおそれがあり、そのような現象が生じると、目的細胞の回収率の低下や、目的細胞中の核酸やタンパク質の解析能力の低下につながるおそれがあった。
前述した問題を解決するための方法として、特許文献2には、希少細胞を含む血液にホルムアルデヒド等の固定化剤を添加して血液中に含まれる希少細胞を固定化し、当該細胞の劣化を抑制した後、密度勾配遠心を利用して前記希少細胞を分離回収する方法を開示しており、本方法により、長期間保管した血液中に含まれる希少細胞の分離回収を実現している。しかしながら特許文献2に記載の方法を用いても、希少細胞を高効率に分離回収することは困難であった。
本発明の課題は、目的細胞を含む溶液から、密度勾配遠心などの比重分離を利用して当該目的細胞を分離する方法において、前記溶液中に含まれる目的細胞の数が非常に少ない場合であっても、前記目的細胞を高効率に分離回収する方法を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。
すなわち本発明の第一の態様は、目的細胞を含む溶液から比重分離を利用して当該目的細胞を含む画分を分離回収する方法であって、目的細胞を含む溶液には当該目的細胞を安定化させるための安定化剤がさらに含まれており、かつ目的細胞を含む溶液の浸透圧が生理的浸透圧に対し0mOsm/kg・H2Oから−60mOsm/kg・H2Oの範囲内である、前記方法である。
また本発明の第二の態様は、安定化剤としてホルムアルデヒドドナー化合物を少なくとも含む、前記第一の態様に記載の方法である。
また本発明の第三の態様は、ホルムアルデヒドドナー化合物が、0.01%(w/v)から10%(w/v)のイミダゾリジニル尿素である、前記第二の態様に記載の方法である。
また本発明の第四の態様は、安定化剤としてポリエチレングリコールを少なくとも含む、前記第一から第三の態様のいずれかに記載の方法である。
また本発明の第五の態様は、目的細胞を含む溶液が血液試料であり、安定化剤として抗凝固剤を少なくとも含む、前記第一から第四の態様のいずれかに記載の方法である。
さらに本発明の第六の態様は、以下の(1)から(3)の工程を含む、溶液中に含まれる目的細胞の分離回収方法である。
(1)目的細胞を安定化させるための安定化剤を含み、かつ浸透圧が生理的浸透圧に対し0mOsm/kg・H2Oから−60mOsm/kg・H2Oの範囲内である、目的細胞を含む溶液から、密度勾配遠心による比重分離を利用して、当該目的細胞を含む画分を分離回収する工程
(2)(1)で得られた画分を親水性高分子を結合したタンパク質および/または糖を含む溶液に添加する工程
(3)(2)で得られた溶液を遠心分離することで、目的細胞を含むペレットを回収する工程
また本発明の第七の態様は、目的細胞を含む溶液から比重分離を利用して当該目的細胞を含む画分を分離回収し、当該画分を保存容器内で保存する方法であって、目的細胞を含む溶液には当該目的細胞を安定化させるための安定化剤がさらに含まれており、かつ目的細胞を含む溶液の浸透圧が生理的浸透圧に対し0mOsm/kg・H2Oから−60mOsm/kg・H2Oの範囲内である、前記方法である。
(1)目的細胞を安定化させるための安定化剤を含み、かつ浸透圧が生理的浸透圧に対し0mOsm/kg・H2Oから−60mOsm/kg・H2Oの範囲内である、目的細胞を含む溶液から、密度勾配遠心による比重分離を利用して、当該目的細胞を含む画分を分離回収する工程
(2)(1)で得られた画分を親水性高分子を結合したタンパク質および/または糖を含む溶液に添加する工程
(3)(2)で得られた溶液を遠心分離することで、目的細胞を含むペレットを回収する工程
また本発明の第七の態様は、目的細胞を含む溶液から比重分離を利用して当該目的細胞を含む画分を分離回収し、当該画分を保存容器内で保存する方法であって、目的細胞を含む溶液には当該目的細胞を安定化させるための安定化剤がさらに含まれており、かつ目的細胞を含む溶液の浸透圧が生理的浸透圧に対し0mOsm/kg・H2Oから−60mOsm/kg・H2Oの範囲内である、前記方法である。
また本発明の第八の態様は、
比重分離を利用した目的細胞を含む溶液からの当該目的細胞を含む画分の分離回収を、当該比重分離により目的細胞を多く含む画分を収容した部分と目的細胞をほとんど含まない画分を収容した部分とに分離可能な保存容器を用いて行ない、
目的細胞を含む画分の保存を、前記保存容器から目的細胞を多く含む画分を収容した部分を分離して保存する、
前記第七の態様に記載の方法である。
比重分離を利用した目的細胞を含む溶液からの当該目的細胞を含む画分の分離回収を、当該比重分離により目的細胞を多く含む画分を収容した部分と目的細胞をほとんど含まない画分を収容した部分とに分離可能な保存容器を用いて行ない、
目的細胞を含む画分の保存を、前記保存容器から目的細胞を多く含む画分を収容した部分を分離して保存する、
前記第七の態様に記載の方法である。
また本発明の第九の態様は、保存容器のうち、目的細胞を含む画分と接触する部分がタンパク質でコートされている、前記第七または第八の態様のいずれかに記載の方法である。
また本発明の第十の態様は、0.01%(w/v)から10%(w/v)のイミダゾリジニル尿素を少なくとも含み、かつ浸透圧が生理的浸透圧に対し0mOsm/kg・H2Oから−60mOsm/kg・H2Oの範囲内である、細胞保存液である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において目的細胞を含む溶液とは、分離対象である目的細胞を少なくとも含んだ溶液のことをいい、具体的には、血液、希釈血液、血清、血漿、髄液、臍帯血、成分採血液、尿、唾液、精液、糞便、痰、羊水、腹水などの生体試料や、肝臓、肺、脾臓、腎臓、皮膚、腫瘍、リンパ節などの組織の一片を懸濁させた組織懸濁液や、前記生体試料または前記組織懸濁液より分離して得られる、前記生体試料または前記組織由来の細胞を含む画分や、あらかじめ単離した細胞の培養液、などがあげられる。このうち生体試料または組織由来の細胞を含む画分の一例として、生体試料や組織懸濁液を密度勾配形成用媒体の上に重層後、密度勾配遠心することで得られる画分があげられる。
背景技術でも記載したように、目的細胞を含む溶液から、密度勾配遠心といった比重分離を利用して、当該目的細胞を含む画分を分離回収する場合、前述した比重分離を利用した目的細胞の分離回収方法を実施するまでに長い時間を要することがある。そのため溶液中に含まれる細胞が劣化し、当該細胞の形状崩壊ならびにそれに伴う当該細胞内の核酸およびタンパク質の放出や、比重変化が生じるおそれがあり、そのような現象が生じると、目的細胞の回収率の低下や、目的細胞中の核酸やタンパク質の解析能力の低下につながるおそれがある。そこで本発明では目的細胞を安定化させるための安定化剤を目的細胞を含む溶液にさらに含ませることで、当該目的細胞由来のタンパク質が不溶化および/または不活性化し、当該目的細胞が安定化することで、目的細胞の劣化を長時間抑制することができる。本発明で用いる安定化剤としては、アルデヒド類、酸類、脱水剤・有機溶媒類、金属塩類といった、当業者が細胞固定化剤として通常用いる物質の中から適宜選択すればよい。
このうちアルデヒド類を含む安定化剤は、タンパク質の高次構造を変化させたり、ポリペプチド鎖を保持することによってさらなる変性を防いだり、タンパク質構造を安定化するとともに、細胞原形質をゲル化させて酵素活性を抑えることで、細胞を安定化させる。アルデヒド類を含む安定化剤の一例としては、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、グリオキサールがあげられる。また酸類を含む安定化剤は、酸が有する強いタンパク質凝固作用により、細胞を安定化させる。酸類を含む安定化剤の一例として、ピクリン酸、タンニン酸、オスミウム酸、酢酸、氷酢酸、三塩化酢酸(トリクロロ酢酸)、クロム酸またはそれらの塩があげられる。また脱水剤・有機溶媒類を含む安定化剤は、強力な脱水と脂質溶解により細胞タンパク質を不溶化・変性させることで、細胞を安定化させる。脱水剤・有機溶媒類を含む安定化剤の一例として、エタノール、メタノール、アセトン、クロロホルムがあげられる。また金属塩類を含む安定化剤は、金属塩が有する強い酸化作用により細胞を安定化させる。金属塩類を含む安定化剤の一例として、水銀、クロム、マンガン、亜鉛などの塩があげられる。
前述した安定化剤の中で、本発明で用いる安定化剤として好ましいのはアルデヒド類であり、特に好ましいのはホルムアルデヒドドナー化合物である。ホルムアルデヒドドナー化合物は、それ自体は直接細胞に作用しないが、加水分解を受けることでホルムアルデヒドを放出し、細胞を安定化させることが可能な化合物のことをいう。ホルムアルデヒドドナー化合物の具体例として、イミダゾリジニル尿素、ベンジルヘミホルマール(フェニルメトキシメタノール)、5−ブロモ−5−ニトロ−1,3−ジオキサン、ブロノポール(2−ブロモ−2−ニトロプロペイン−1,3−ジオール)、ジアゾリジニル尿素、DMDMヒダントイン(1,3−ジメチロール−5,5−ジメチルヒダントイン)、メセナミン(ヘキサメチレンテトラミン)、クオタニウム−15(メセナミン 3−クロロアリロクロリド)、ヒドロキシメチルグリシンナトリウム、アミンやアミドのメチロール、ヒドロキシメチル誘導体、メチロール、メテンアミン、パラホルムアルデヒドがあげられる。中でもイミダゾリジニル尿素は、ホルムアルデヒドを緩慢に放出できる点で最も好ましい安定化剤の一つといえる。
目的細胞を含む溶液への安定化剤の添加量は、当該安定化剤が有する目的細胞の固定化強度や固定化速度を考慮して適宜決定すればよいが、安定化剤としてホルムアルデヒドドナー化合物の一つであるイミダゾリジニル尿素を用いる場合は、目的細胞を含む溶液中の濃度として0.01%(w/v)から10%(w/v)の間とすればよく、0.25%(w/v)から4%(w/v)の間とすると好ましく、0.3%(w/v)から1.5%(w/v)の間とするとさらに好ましく、0.5%(w/v)から1%(w/v)の間とするとさらにより好ましい。
なお前述した安定化剤の他に、ポリエチレングリコールを安定化剤としてさらに含ませてもよい。ポリエチレングリコールの濃度は、目的細胞を含む溶液中の濃度として0.01%(w/v)から10%(w/v)の間とすればよく、0.02%(w/v)から4%(w/v)の間とすると好ましく、0.05%(w/v)から1.5%(w/v)の間とするとさらに好ましく、0.1%(w/v)から1%(w/v)の間とするとさらにより好ましい。
また目的細胞を含む溶液が血液試料の場合、なお前述した安定化剤の他に、抗凝固剤を安定化剤としてさらに含ませてもよい。なお本発明において血液試料とは、全血、希釈血、血清、血漿、臍帯血、成分採血液といった血液由来成分に限らず、肝臓、肺、脾臓、腎臓、腫瘍、リンパ節といった血液由来成分を含む組織の一片を適切な緩衝液で懸濁させた懸濁液や、尿、羊水、腹水といった血液由来成分を含み得る生体試料も含まれる。またこれらの試料や懸濁液を遠心分離などにより分離回収して得られた、血液由来成分を含む細胞の画分も、本発明における血液試料に含まれる。抗凝固剤の一例としては、血液凝固の要因となるカルシウムイオンを配位することで前記血液凝固を抑制するキレート剤や、血液凝固の要因となるトロンビン活性を抑制する抗トロンビン剤があげられる。具体的には、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)、DCTA(1,2−ジアミノシクロヘキサン四酢酸)、EGTA(エチレングリコールビス−2−アミノエチルエーテル四酢酸)、ヘパリン、ヘパリン硫酸、低分子ヘパリン、クエン酸、シュウ酸、フッ化ナトリウム、ACD(Acid Citrate Dextrose Solution)などがあげられる。
本発明では、安定化剤を含んだ目的細胞を含む溶液の浸透圧を生理的浸透圧に対し0mOsm/kg・H2Oから−60mOsm/kg・H2Oの範囲内とすることを特徴としている。ここで生理的浸透圧とは、浸透圧調整前の目的細胞を含む溶液(例えば血液試料など)が有する浸透圧のことをいい、一般的には275mOsm/kg・H2Oから315mOsm/kg・H2Oまでの範囲に入る。すなわち、生理的浸透圧に対し0mOsm/kg・H2Oから−60mOsm/kg・H2Oの範囲内とは、一般的には浸透圧の値が215mOsm/kg・H2O(275[mOsm/kg・H2O]−60[mOsm/kg・H2O])から315mOsm/kg・H2O(315[mOsm/kg・H2O]−0[mOsm/kg・H2O])までの範囲といえる。
一般に、前述した安定化剤を含んだ目的細胞を含む溶液の浸透圧は、安定化剤を目的細胞内へ効率的に作用させるために、生理的浸透圧より高く(高張)している。しかしながら、目的細胞を含む溶液の浸透圧を生理的浸透圧に対し高く(高張)すると、密度勾配遠心時に目的細胞内の水分が細胞外へ流出し、目的細胞の比重が大きくなるため、目的細胞の回収効率が低下するおそれがある。一方本発明では、目的細胞を含む溶液の浸透圧を、安定化剤を含んだ態様で生理的浸透圧に対し0mOsm/kg・H2O(等張)から−60mOsm/kg・H2Oの範囲内としており、当該範囲であれば、密度勾配遠心による目的細胞の比重の変化は生じないまたはほぼ生じないため、目的細胞を効率的に回収することができる。なお目的細胞を含む溶液の浸透圧を、生理的浸透圧に対し−60mOsm/kg・H2Oより低い浸透圧(低張)とすると、密度勾配遠心により目的細胞内に溶液が流入し、目的細胞の比重が小さくなるため、目的細胞の回収効率が低下する。
本発明の分離回収方法において、比重分離を利用した目的細胞を含む溶液からの当該目的細胞を含む画分の分離回収を、当該比重分離により目的細胞を多く含む画分を収容した部分と目的細胞をほとんど含まない画分を収容した部分とに分離可能な保存容器を用いて行なうと、当該目的細胞を含む画分の分離回収を、目的細胞を多く含む画分を収容した部分を保存容器から分離することで容易に行なえるため、好ましい。前記好ましい態様の容器の一例として、図1に示す構造体があげられる(WO2014/192919号参照)。図1に示す構造体100は、
一端が閉塞して底部を形成し、他端が開口している筒状部材10と、
両端が開口し、かつ一端の径が絞られた筒状部材20と、
から構成されており、筒状部材10と筒状部材20の絞られた側の一端21とが、連通開口端30で連結/分離可能な構造となっている。
一端が閉塞して底部を形成し、他端が開口している筒状部材10と、
両端が開口し、かつ一端の径が絞られた筒状部材20と、
から構成されており、筒状部材10と筒状部材20の絞られた側の一端21とが、連通開口端30で連結/分離可能な構造となっている。
図1に示す構造体100を用いて、本発明の目的細胞を含む画分の分離回収を行なうには、筒状部材10と筒状部材20とを連通開口端30を介して連結した後、筒状部材10内空間を密度勾配溶液40で満たし、目的細胞を含む溶液50(当該溶液の浸透圧は生理的浸透圧に対し0mOsm/kg・H2Oから−60mOsm/kg・H2Oの範囲内である)を筒状部材20内空間に添加することで密度勾配溶液40の上に目的細胞を含む溶液50を重層(図2)させた後、密度勾配遠心により比重分離を行なう。比重分離後、目的細胞を含む画分60が筒状部材20内空間に存在する場合は、筒状部材20の絞られていない側の一端の開口部22を蓋71を用いて閉塞し、筒状部材20を筒状部材10から分離した後、蓋71による閉塞を解除し、絞られた側の一端21から目的細胞を含む画分60を別の容器200に移し替えることで目的細胞を含む画分を分離回収することができる(図3)。分離回収した画分に含まれる目的細胞の測定(後述)を速やかに実施しない場合は、筒状部材20を筒状部材10から分離した後、絞られた側の一端21を蓋72で閉塞すればよい(図4)。蓋72の形状としては、凸部を設けない蓋(図5(a))や、円柱状の凸部を設けた蓋(図5(b))や、テーパーを有した円柱状の凸部を設けた蓋(図5(c))が例示できる(図5)。中でも、図5(b)および図5(c)の態様は、筒状部材20の絞られた側の一端21内に設計されている貫通孔を塞ぐための凸部が設けられているため、前記貫通孔を塞ぐことが可能となる。図5(b)および図5(c)で設けられた凸部の形状としては、筒状部材20の絞られた側の一端21内に設計されている貫通孔部の体積に対して、前記凸部で30%以上塞ぐと好ましく、60%以上塞ぐとさらに好ましく、80%以上塞ぐとさらにより好ましい。従って、図5(a)と比較して目的細胞の沈着が抑えられ、当該細胞の損失も抑えられる点で好ましい。筒状部材20内空間に存在する目的細胞を含む画分60が当該目的細胞を安定化させるための安定化剤を含んでおり、かつ当該画分の浸透圧が生理的浸透圧に対し0mOsm/kg・H2Oから−60mOsm/kg・H2Oの範囲内であれば、目的細胞を安定化した状態で一定期間保存することができる。
なお図4に示す態様で保存すると、目的細胞を含む画分を高濃度タンパク雰囲気下で保存でき、目的細胞を長期間安定的に保存できるため好ましい。また別の容器200(図3)や筒状部材20(図4)のうち、内面など目的細胞を含む画分と接触する部分をタンパク質などでコートしても、目的細胞を長期間安定的に保存できるため好ましい。
本発明の方法で目的細胞を含む画分の分離回収を行なった後は、当該画分を遠心分離することで目的細胞を含むペレットを回収することができる。なお遠心分離操作の前に目的細胞を含む画分に、親水性高分子を結合したタンパク質をさらに含ませると試料中に含まれる細胞を効率的に回収できる点で好ましい。親水性高分子は電荷を持たない親水性高分子であればよく、一例としてポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ(ヒドロキシアルキル)メタクリレート、ポリアクリルアミド、ホスホリルコリン基を側鎖に有するポリマー、多糖類、ポリペプチドがあげられる。タンパク質は水溶性を有していればよく、一例として血清由来タンパク質や血漿由来タンパク質などの血液由来タンパク質やカゼインなどの乳由来タンパク質があげられ、さらに具体的な例として当業者が通常用いる血清由来タンパク質である、ウシ血清アルブミン(BSA)があげられる。親水性高分子を結合したタンパク質は、前述した親水性高分子とタンパク質とが一定の割合で結合したタンパク質であり、例えば、タンパク質と結合可能な官能基(例えば、N−ヒドロキシスクシンイミド基)を付与した親水性高分子とタンパク質とを一定のモル比で反応させることで得られる。なお親水性高分子とタンパク質との反応比は、タンパク質に対し親水性高分子を0.01以上のモル比で反応させればよく、0.5以上のモル比で反応させればより好ましく、2以上のモル比で反応させると最も好ましい(一例として、血液由来タンパク質または乳タンパク質に対し親水性高分子を2以上のモル比で反応させると、血液由来タンパク質に対しては親水性高分子が実測モル比1以上で結合し、乳由来タンパク質に対しては親水性高分子が実測モル比0.2以上で結合する)(特開2016−106622号公報参照)。また遠心分離操作の前に目的細胞を含む画分に、糖をさらに含ませると試料中に含まれる細胞へのダメージが少なくなる点で好ましい。糖の一例として、マンニトール、グルコース、スクロースがあげられる。前記溶液に含ませる糖の濃度は等張液となる濃度とすると好ましく、糖としてマンニトールを用いる場合は終濃度で250mMから350mMの間が好ましい範囲といえる。
本発明の方法で分離回収した目的細胞は、例えば、スライドに塗布したり、顕微鏡や光学検出器などで観察したり、フローサイトメトリーを用いて測定すればよい。なお顕微鏡や光学検出器などで観察して細胞の測定を行なう場合、前記細胞を含む懸濁液を、前記細胞を保持可能な保持部を有した細胞保持手段に導入し、前記保持部に前記細胞を保持した後、顕微鏡や光学検出器などで観察するとよい。保持部の例として、前記細胞を収納可能な孔や、前記細胞を固定可能な材料(例えば、ポリ−L−リジン)で覆われた面があげられる。なお保持部の大きさを前記細胞を一つだけ保持可能な大きさとすると、特定細胞の採取および解析(形態学的分析、組織型分析、遺伝子分析など)が容易に行なえる点で好ましい。また細胞を保持部に保持させる際、誘電泳動力を用いると、保持部に細胞を効率的に保持させることができる点で好ましい。誘電泳動力を用いる場合、具体的には、交流電圧を印加することで誘電泳動を発生させ、保持部内へ細胞を導入すればよい。印加する交流電圧は、保持部内の細胞の充放電が周期的に繰り返される波形を有した交流電圧であると好ましく、周波数を100kHzから3MHzの間とし、電界強度を1×105から5×105V/mの間とすると特に好ましい(WO2011/149032号および特開2012−013549号公報参照)。
以下、本発明の分離回収方法の一例として、血液中に含まれる腫瘍細胞(CTC)を分離回収する方法を説明するが、本発明は本説明の内容に限定されるものではない。
(1)がんの疑いのある患者から血液を採取する。なお血液を採取する際、クエン酸、ヘパリン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などの抗凝固剤を添加してもよい。また必要に応じ、採取した血液を生理食塩水などで希釈してもよい。
(2)(1)で採取した血液(または希釈した血液)に、CTCを安定化させるための安定化剤を添加する。安定化剤としてイミダゾリジニル尿素を用いる場合は、後述の密度勾配遠心に供する溶液(希釈血液試料)中の濃度として0.01%(w/v)から10%(w/v)となるよう含ませればよく、0.25%(w/v)から4%(w/v)となるよう含ませると好ましく、0.3%(w/v)から1.5%(w/v)となるよう含ませるとさらに好ましく、0.5%(w/v)から1%(w/v)となるよう含ませるとさらにより好ましい。血液(または希釈した血液)への安定化剤の添加量は、血液(または希釈した血液)1mLあたり0.01mLから10mLの間であればよく、0.04mLから2mLの間であればより好ましい。なお本操作で、溶液の浸透圧を生理的浸透圧に対し0mOsm/kg・H2Oから−60mOsm/kg・H2Oの範囲内となるよう調整する。
(3)安定化剤を含ませ、浸透圧を調製した溶液(希釈血液試料)から、密度勾配遠心を用いて、CTCを含む画分を分離する。密度勾配遠心法は細胞をその比重に基づき分離する方法であり、密度勾配を形成した媒体(密度勾配溶液)上に希釈血液試料を重層した後、遠心分離を行ない、目的とするCTCを含む層(上層)を回収することで、不要な細胞を除去したCTCを含む画分を得る。なお密度勾配遠心を行なう前に、血液または希釈血液に、不要な細胞である赤血球、白血球と結合可能な結合剤(例えば、RosetteSep(StemCell Technologies社製))を添加するとよい。前記結合剤は、赤血球、白血球、および/またはこれら細胞の表面抗原と結合することで細胞凝集体を形成し、これら細胞の密度を大きくすることができるため、密度勾配遠心によるCTCの分離を容易にする。なお得られた画分からのCTCの測定を速やかに行なわない場合は、例えば図4に示す態様で保管すればよい。図4に示す態様の場合、室温で約30日間CTCの保管が可能である。
(4)(3)で得られたCTCを含む画分を遠心分離することで血液成分を除去し、当該CTCをペレット状にした後、適切な溶液を用いてCTCを懸濁させる。なおCTCを懸濁させる溶液に、親水性高分子を結合したタンパク質(例えば、ポリエチレングリコールを結合したBSA)を含ませてもよい。親水性高分子を結合したタンパク質の濃度は、懸濁液でのタンパク質の終濃度として、0.01%(w/v)から25%(w/v)の間であればよく、0.02%(w/v)から5%(w/v)の間であれば好ましく、0.05%(w/v)から2%(w/v)の間であればより好ましい。
(5)(3)で調製したCTCを含む懸濁液を再度遠心分離し、CTCを含むペレットを回収する。なお必要に応じ、前記回収したペレットを親水性高分子を結合したタンパク質を含む溶液に再度懸濁させ、遠心分離する工程を追加してもよい。
(1)がんの疑いのある患者から血液を採取する。なお血液を採取する際、クエン酸、ヘパリン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などの抗凝固剤を添加してもよい。また必要に応じ、採取した血液を生理食塩水などで希釈してもよい。
(2)(1)で採取した血液(または希釈した血液)に、CTCを安定化させるための安定化剤を添加する。安定化剤としてイミダゾリジニル尿素を用いる場合は、後述の密度勾配遠心に供する溶液(希釈血液試料)中の濃度として0.01%(w/v)から10%(w/v)となるよう含ませればよく、0.25%(w/v)から4%(w/v)となるよう含ませると好ましく、0.3%(w/v)から1.5%(w/v)となるよう含ませるとさらに好ましく、0.5%(w/v)から1%(w/v)となるよう含ませるとさらにより好ましい。血液(または希釈した血液)への安定化剤の添加量は、血液(または希釈した血液)1mLあたり0.01mLから10mLの間であればよく、0.04mLから2mLの間であればより好ましい。なお本操作で、溶液の浸透圧を生理的浸透圧に対し0mOsm/kg・H2Oから−60mOsm/kg・H2Oの範囲内となるよう調整する。
(3)安定化剤を含ませ、浸透圧を調製した溶液(希釈血液試料)から、密度勾配遠心を用いて、CTCを含む画分を分離する。密度勾配遠心法は細胞をその比重に基づき分離する方法であり、密度勾配を形成した媒体(密度勾配溶液)上に希釈血液試料を重層した後、遠心分離を行ない、目的とするCTCを含む層(上層)を回収することで、不要な細胞を除去したCTCを含む画分を得る。なお密度勾配遠心を行なう前に、血液または希釈血液に、不要な細胞である赤血球、白血球と結合可能な結合剤(例えば、RosetteSep(StemCell Technologies社製))を添加するとよい。前記結合剤は、赤血球、白血球、および/またはこれら細胞の表面抗原と結合することで細胞凝集体を形成し、これら細胞の密度を大きくすることができるため、密度勾配遠心によるCTCの分離を容易にする。なお得られた画分からのCTCの測定を速やかに行なわない場合は、例えば図4に示す態様で保管すればよい。図4に示す態様の場合、室温で約30日間CTCの保管が可能である。
(4)(3)で得られたCTCを含む画分を遠心分離することで血液成分を除去し、当該CTCをペレット状にした後、適切な溶液を用いてCTCを懸濁させる。なおCTCを懸濁させる溶液に、親水性高分子を結合したタンパク質(例えば、ポリエチレングリコールを結合したBSA)を含ませてもよい。親水性高分子を結合したタンパク質の濃度は、懸濁液でのタンパク質の終濃度として、0.01%(w/v)から25%(w/v)の間であればよく、0.02%(w/v)から5%(w/v)の間であれば好ましく、0.05%(w/v)から2%(w/v)の間であればより好ましい。
(5)(3)で調製したCTCを含む懸濁液を再度遠心分離し、CTCを含むペレットを回収する。なお必要に応じ、前記回収したペレットを親水性高分子を結合したタンパク質を含む溶液に再度懸濁させ、遠心分離する工程を追加してもよい。
本発明の細胞の分離回収方法は、目的細胞を含む溶液から比重分離を利用して当該目的細胞を含む確認を分離回収する際、目的細胞を含む溶液に当該目的細胞を安定化させるための安定化剤をさらに含ませ、かつ目的細胞を含む溶液の浸透圧を生理的浸透圧に対し0mOsm/kg・H2Oから−60mOsm/kg・H2Oの範囲内とすることを特徴としている。本発明により、溶液中に含まれる目的細胞を高効率に分離回収することができる。特に前記溶液中に含まれる目的細胞量が非常に少ない場合に有用な方法である。
一例として本発明を、血液中に含まれる腫瘍細胞(CTC)の分離回収に適用することで、採血量を少なくすることができ、患者への負担を低減させることができる。またがんの診断をCTCの存在により行なう場合、CTCの有無の判断結果に対する信頼性が向上するため、精度高くがんを診断することができる。
なお比重分離を利用した目的細胞を含む画分の分離回収に用いる、当該目的細胞を安定化させるための安定化剤(例えば、目的細胞を含む溶液中の濃度として0.01%(w/v)から10%(w/v)のイミダゾリジニル尿素)を含み、かつ浸透圧を生理的浸透圧に対し0mOsm/kg・H2Oから−60mOsm/kg・H2Oの範囲内とした細胞保存液は、目的細胞の保存に適した溶液であり、前記溶液は目的細胞の室温下での長期間保存を可能にする。
以下、実施例および比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は当該例に限定されるものではない。
実施例1
(1)一方の末端がメトキシ基であり、もう一方の末端がN−ヒドロオキシスクシンイミドエステル基である、分子量5000のポリエチレングリコール(mPEG−NHS)と、ウシ血清アルブミン(BSA)(300mg、0.3mmol/L)とを、炭酸水素ナトリウム緩衝液(0.1M、15mL)に溶解させ、当該溶液を室温で3時間撹拌することでポリエチレングリコールを結合したBSA(PEG−BSA)を調製した。なお調製する際、mPEG−NHSとBSAとのモル比(mPEG−NHS/BSA)を2となるようにした。調製後、分画分子量10000の透析膜を用いて、純水への溶液置換を3日間行なった。
(2)イミダゾリジニル尿素2g、分子量6000のポリエチレングリコール(PEG)2g、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)100mg、および塩化ナトリウムを、超純水100mLに溶解し、得られた溶液を安定化剤として用いた。なお調製する際、塩化ナトリウムの添加量を変えることで、浸透圧の異なる安定化剤を調製した。
(3)ヒト乳がん細胞(SKBR3)を、5%CO2環境下、10%FBSを含むRPMI−1640培地を用いて37℃で24から96時間培養後、0.25%トリプシン/1mM EDTAを用いて培地から細胞を剥離し、蛍光染色色素(CFSE、同仁化学研究所社製)で標識した。蛍光標識されたSKBR3細胞を目的とする細胞とした。
(4)インフォームドコンセントを得た健常人から血液をEDTA−2K採血管(VP−DK050K、テルモ社製)に3mL採血後、前記採血管に(2)で調製した安定化剤3mL、および(3)で蛍光標識したSKBR3細胞約100個を添加し、得られた溶液を保存処理した希釈血液試料とした。なお浸透圧の異なる安定化剤を添加することで、保存処理した希釈血液試料の浸透圧を、生理的浸透圧(ここでは採取した血液の浸透圧のことをいう、以下同じ)と同じ(等張)または生理的浸透圧より−30mOsm/kg・H2Oもしくは−60mOsm/kg・H2Oとなるよう調製した。
(5)保存処理した希釈血液試料を室温で10分放置し、75μLの白血球・赤血球結合剤(RosetteSep、StemCell Technologies社製)を添加した後、図1に示す構造体の筒状部材20の位置に添加し、室温で2000×gで10分間遠心した。なお図1に示す構造体の筒状部材10内空間はあらかじめ密度1.091g/mLの密度勾配溶液で満たしており、保存処理した希釈血液試料は当該密度勾配溶液上に重層された形(図2)となっている。
(6)遠心後、筒状部材20の絞られていない側の一端22の開口部を蓋71を用いて閉塞し、筒状部材20を筒状部材10から分離した後、蓋71による閉塞を解除し、目的細胞を含む画分を含む溶液をタンパク質をコーティングしていない50mL容量の容器200に回収した(図3)。
(7)回収後数分以内に0.9%(w/v)塩化アンモニウムと0.1%(w/v)炭酸水素カリウムとを含む溶血液で30mLまでメスアップ後、300×gで10分間、室温で遠心分離した。当該操作により上清に混入した赤血球が破壊され、分離回収したSKBR3細胞の観察が良好になる。
(8)遠心後の上清を除去した後、SKBR3細胞を含むペレットを、(1)に記載の方法で調製したPEG−BSA(BSAとして0.1%(w/v))および300mMマンニトールを含む溶液30mLで再懸濁した。
(9)再懸濁液を300×gで5分間、室温で遠心分離後、上清を除去し、再度、SKBR3細胞を含むペレットを、PEG−BSA(BSAとして0.1%(w/v))および300mMマンニトールを含む溶液30mLで再懸濁した。当該操作は、血液成分を除去し、目的とするSKBR3細胞を濃縮するための操作である。
(10)(9)で上清を除去したSKBR3細胞を含む懸濁液を細胞診断チップに導入し、交流電圧を3分間印加することで前記チップが有する保持部にSKBR3細胞を保持させた。本実施例で用いた細胞診断チップは、直径30μmで深さ30μmの微細孔からなる微細孔を複数有した絶縁体と前記絶縁体と下部電極基板の間に設置した遮光性のクロム膜とからなる保持部を、厚さ1mmのスペーサーと下部電極基板とで挟んだ構造であり、前記スペーサーを上部電極基板と下部電極基板とで挟んだ構造である。
(11)細胞診断チップに保持されたSKBR3細胞数を計測し、(4)で添加したSKBR3細胞数で除することで回収率を算出した。
(1)一方の末端がメトキシ基であり、もう一方の末端がN−ヒドロオキシスクシンイミドエステル基である、分子量5000のポリエチレングリコール(mPEG−NHS)と、ウシ血清アルブミン(BSA)(300mg、0.3mmol/L)とを、炭酸水素ナトリウム緩衝液(0.1M、15mL)に溶解させ、当該溶液を室温で3時間撹拌することでポリエチレングリコールを結合したBSA(PEG−BSA)を調製した。なお調製する際、mPEG−NHSとBSAとのモル比(mPEG−NHS/BSA)を2となるようにした。調製後、分画分子量10000の透析膜を用いて、純水への溶液置換を3日間行なった。
(2)イミダゾリジニル尿素2g、分子量6000のポリエチレングリコール(PEG)2g、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)100mg、および塩化ナトリウムを、超純水100mLに溶解し、得られた溶液を安定化剤として用いた。なお調製する際、塩化ナトリウムの添加量を変えることで、浸透圧の異なる安定化剤を調製した。
(3)ヒト乳がん細胞(SKBR3)を、5%CO2環境下、10%FBSを含むRPMI−1640培地を用いて37℃で24から96時間培養後、0.25%トリプシン/1mM EDTAを用いて培地から細胞を剥離し、蛍光染色色素(CFSE、同仁化学研究所社製)で標識した。蛍光標識されたSKBR3細胞を目的とする細胞とした。
(4)インフォームドコンセントを得た健常人から血液をEDTA−2K採血管(VP−DK050K、テルモ社製)に3mL採血後、前記採血管に(2)で調製した安定化剤3mL、および(3)で蛍光標識したSKBR3細胞約100個を添加し、得られた溶液を保存処理した希釈血液試料とした。なお浸透圧の異なる安定化剤を添加することで、保存処理した希釈血液試料の浸透圧を、生理的浸透圧(ここでは採取した血液の浸透圧のことをいう、以下同じ)と同じ(等張)または生理的浸透圧より−30mOsm/kg・H2Oもしくは−60mOsm/kg・H2Oとなるよう調製した。
(5)保存処理した希釈血液試料を室温で10分放置し、75μLの白血球・赤血球結合剤(RosetteSep、StemCell Technologies社製)を添加した後、図1に示す構造体の筒状部材20の位置に添加し、室温で2000×gで10分間遠心した。なお図1に示す構造体の筒状部材10内空間はあらかじめ密度1.091g/mLの密度勾配溶液で満たしており、保存処理した希釈血液試料は当該密度勾配溶液上に重層された形(図2)となっている。
(6)遠心後、筒状部材20の絞られていない側の一端22の開口部を蓋71を用いて閉塞し、筒状部材20を筒状部材10から分離した後、蓋71による閉塞を解除し、目的細胞を含む画分を含む溶液をタンパク質をコーティングしていない50mL容量の容器200に回収した(図3)。
(7)回収後数分以内に0.9%(w/v)塩化アンモニウムと0.1%(w/v)炭酸水素カリウムとを含む溶血液で30mLまでメスアップ後、300×gで10分間、室温で遠心分離した。当該操作により上清に混入した赤血球が破壊され、分離回収したSKBR3細胞の観察が良好になる。
(8)遠心後の上清を除去した後、SKBR3細胞を含むペレットを、(1)に記載の方法で調製したPEG−BSA(BSAとして0.1%(w/v))および300mMマンニトールを含む溶液30mLで再懸濁した。
(9)再懸濁液を300×gで5分間、室温で遠心分離後、上清を除去し、再度、SKBR3細胞を含むペレットを、PEG−BSA(BSAとして0.1%(w/v))および300mMマンニトールを含む溶液30mLで再懸濁した。当該操作は、血液成分を除去し、目的とするSKBR3細胞を濃縮するための操作である。
(10)(9)で上清を除去したSKBR3細胞を含む懸濁液を細胞診断チップに導入し、交流電圧を3分間印加することで前記チップが有する保持部にSKBR3細胞を保持させた。本実施例で用いた細胞診断チップは、直径30μmで深さ30μmの微細孔からなる微細孔を複数有した絶縁体と前記絶縁体と下部電極基板の間に設置した遮光性のクロム膜とからなる保持部を、厚さ1mmのスペーサーと下部電極基板とで挟んだ構造であり、前記スペーサーを上部電極基板と下部電極基板とで挟んだ構造である。
(11)細胞診断チップに保持されたSKBR3細胞数を計測し、(4)で添加したSKBR3細胞数で除することで回収率を算出した。
比較例1
実施例1(4)において、採取した血液3mLが入った採血管に生理食塩水3mL、および(3)で蛍光標識したSKBR3細胞約100個を添加して、希釈血液試料を調製した他は、実施例1と同様な方法で、SKBR3細胞の分離回収および回収率の算出を行なった。なお希釈血液試料の浸透圧は生理的浸透圧と等張である。
実施例1(4)において、採取した血液3mLが入った採血管に生理食塩水3mL、および(3)で蛍光標識したSKBR3細胞約100個を添加して、希釈血液試料を調製した他は、実施例1と同様な方法で、SKBR3細胞の分離回収および回収率の算出を行なった。なお希釈血液試料の浸透圧は生理的浸透圧と等張である。
比較例2
実施例1(4)で添加する安定化剤を、保存処理した希釈血液試料の浸透圧が生理的浸透圧に対し+20mOsm/kg・H2O、+110mOsm/kg・H2O、−90mOsm/kg・H2Oまたは−120mOsm/kg・H2Oとなるような安定化剤とした他は、実施例1と同様な方法で、SKBR3細胞の分離回収および回収率の算出を行なった。
実施例1(4)で添加する安定化剤を、保存処理した希釈血液試料の浸透圧が生理的浸透圧に対し+20mOsm/kg・H2O、+110mOsm/kg・H2O、−90mOsm/kg・H2Oまたは−120mOsm/kg・H2Oとなるような安定化剤とした他は、実施例1と同様な方法で、SKBR3細胞の分離回収および回収率の算出を行なった。
実施例1ならびに比較例1および2での回収率の結果をまとめて表1に示す。なお表1において浸透圧は、実施例1(4)で採取した血液の浸透圧を生理的浸透圧とし、その値を基準としたときの差で表している。また表1において「安定化剤添加無し」は安定化剤の代わりに生理食塩水を添加して調製した希釈血液試料(比較例1)のことを指す。目的細胞の分離回収工程において、実施例1の条件で保存処理した希釈血液試料を用いたときの細胞の回収率は99%前後と、安定化剤による保存処理を行なったにもかかわらず、保存処理をしない希釈血液試料(比較例1)を用いたとき(99.3%)と同等の回収率となった。一方、比較例2の条件で保存処理した希釈血液試料を用いたときは、回収率が低下し、特に生理的浸透圧に対し−90mOsm/kg・H2Oおよび−120mOsm/kg・H2Oである保存処理した希釈血液試料では、密度勾配遠心時に不要細胞である赤血球が除去できず、回収率測定ができなかった。このことから安定化剤による保存処理を行なっても、実施例1の条件、すなわち浸透圧を生理的浸透圧に対し0mOsm/kg・H2Oから−60mOsm/kg・H2Oの範囲内とすることで、保存処理をしない希釈血液試料(比較例1)を用いたときと同等の高い回収率で目的細胞を分離回収できることがわかる。
(1)イミダゾリジニル尿素2gと、EDTA100mgと、塩化ナトリウム600mgとを、超純水100mLに溶解し、さらに分子量6000のPEGを保存処理した希釈血液試料中の濃度として0%(w/v)、0.1%(w/v)、0.5%(w/v)、1%(w/v)、2%(w/v)となるよう添加することで、本実施例で用いる安定化剤を調製した。
(2)実施例1(4)で添加する安定化剤として、(1)に記載の安定化剤を用いた他は、実施例1と同様な方法で、SKBR3細胞の分離回収および回収率の算出を行なった。なお、本操作で得られた保存処理した希釈血液試料の浸透圧は、生理的浸透圧に対し0mOsm/kg・H2O(等張)から−60mOsm/kg・H2Oの範囲内であることを浸透圧計で確認している。
実施例2での回収率の結果を表2に示す。目的細胞の分離回収工程において、保存処理した希釈血液試料中の濃度としてPEGを0.1%(w/v)から1%(w/v)添加すると、未添加時(91.8%)と比較し回収率が向上(92.2%から98.4%)していることがわかる。特にPEGを0.5%(w/v)から1%(w/v)添加したときは約95%以上と極めて高い回収率となっている。
(1)EDTA100mgと、分子量6000のPEG2gと、塩化ナトリウムとを、超純水100mLに溶解し、さらにイミダゾリジニル尿素を保存処理した希釈血液試料中の濃度として0.25%(w/v)、0.5%(w/v)、1%(w/v)、2%(w/v)、4%(w/v)となるよう添加することで、本実施例で用いる安定化剤を調製した。
(2)実施例1(4)で添加する安定化剤として(1)に記載の安定化剤を用い、実施例1(5)における保存処理した希釈血液試料の室温での放置時間を8時間とした他は、実施例1と同様な方法で、SKBR3細胞の分離回収および回収率の算出を行なった。なお、本操作で得られた保存処理した希釈血液試料の浸透圧は、生理的浸透圧に対し0mOsm/kg・H2O(等張)から−60mOsm/kg・H2Oの範囲内であることを浸透圧計で確認している。
比較例3
実施例3(1)でイミダゾリジニル尿素を添加しない(0%(w/v))他は、実施例3と同様な方法で、SKBR3細胞の分離回収および回収率の算出を行なった。
実施例3(1)でイミダゾリジニル尿素を添加しない(0%(w/v))他は、実施例3と同様な方法で、SKBR3細胞の分離回収および回収率の算出を行なった。
実施例3および比較例3での回収率の結果を表3に示す。目的細胞の分離回収工程において、イミダゾリジニル尿素を添加しないとき(比較例3)は、8時間の室温放置により回収率が62.7%に低下した。一方、イミダゾリジニル尿素を安定化剤として添加する(実施例3)ことで、回収率が74.6%から89.7%と、未添加時(比較例3)(62.7%)と比較し、向上していることがわかる。特に保存処理した希釈血液試料中の濃度としてイミダゾリジニル尿素を0.25%(w/v)から1%(w/v)添加したときは85%以上と極めて高い回収率となっている。
(1)イミダゾリジニル尿素2gと、分子量6000のPEG2gと、EDTA100mgと、塩化ナトリウム600mgとを、超純水100mLに溶解することで、本実施例で用いる安定化剤を調製した。
(2)インフォームドコンセントを得た健常人から血液をEDTA−2K採血管(VP−DK050K、テルモ社製)に3mL採血後、前記採血管に(1)で調製した安定化剤3mL、および実施例1(3)で蛍光標識したSKBR3細胞約100個を添加することで、保存処理した希釈血液試料を調製した。なお、本操作で得られた保存処理した希釈血液試料の浸透圧は、生理的浸透圧に対し0mOsm/kg・H2O(等張)から−60mOsm/kg・H2Oの範囲内である。
(3)保存処理した希釈血液試料を室温で10分放置し、75μLの白血球・赤血球結合剤(RosetteSep、StemCell Technologies社製)を添加した後、図1に示す構造体の筒状部材20の位置に添加し、室温で2000×gで10分間遠心した。なお図1に示す構造体の筒状部材10内空間はあらかじめ密度1.091g/mLの密度勾配溶液で満たされており、保存処理した希釈血液試料は当該密度勾配溶液上に重層された形(図2)となっている。
(4)遠心後、筒状部材20の絞られていない側の一端22の開口部を蓋71を用いて閉塞し、筒状部材20を筒状部材10から分離した後、蓋71による閉塞を解除し、目的細胞を含む画分を含む溶液をタンパク質でコートしていない50mL容量の容器200に回収し(図3)、遮光した状態で5日間室温で放置した。
(5)5日間放置後、0.9%(w/v)塩化アンモニウムと0.1%(w/v)炭酸水素カリウムとを含む溶血液で30mLまでメスアップし、300×gで10分間、室温で遠心分離した。
(6)実施例1(8)から(11)と同様な操作を行ない、SKBR3細胞の分離回収および回収率の算出を行なった。
実施例5
(1)50mL容量の容器に、1%(w/v)BSAを含む超純水を添加し、容器内全面を前記添加溶液で濡らした後、容器内を超純水で洗浄し、乾燥させることで、BSAでコーティングした容器を作成した。
(2)目的細胞を含む画分を回収する容器として、(1)に記載の容器を用いた他は、実施例4と同様な方法で、SKBR3細胞の分離回収および回収率の算出を行なった。
(1)50mL容量の容器に、1%(w/v)BSAを含む超純水を添加し、容器内全面を前記添加溶液で濡らした後、容器内を超純水で洗浄し、乾燥させることで、BSAでコーティングした容器を作成した。
(2)目的細胞を含む画分を回収する容器として、(1)に記載の容器を用いた他は、実施例4と同様な方法で、SKBR3細胞の分離回収および回収率の算出を行なった。
比較例4
実施例4(2)に示す工程で、実施例4(1)で調製した安定化剤の代わりに、比較例3で用いたイミダゾリジニル尿素を添加しない(0%(w/v))安定化剤3mLを添加した他は、実施例4と同様な方法で、SKBR3細胞の分離回収および回収率の算出を行なった。
実施例4(2)に示す工程で、実施例4(1)で調製した安定化剤の代わりに、比較例3で用いたイミダゾリジニル尿素を添加しない(0%(w/v))安定化剤3mLを添加した他は、実施例4と同様な方法で、SKBR3細胞の分離回収および回収率の算出を行なった。
実施例6
(1)実施例4(1)から(3)と同様な方法で、保存処理した希釈血液試料を密度勾配遠心した。
(2)遠心後、筒状部材20の絞られていない側の一端22の開口部を蓋71を用いて閉塞し、筒状部材20を筒状部材10から分離した後、絞られた側の一端21を図5(b)に示す蓋72を用いて閉塞し(図4)、遮光した状態で5日間室温で放置した。
(3)5日間放置後、0.9%(w/v)塩化アンモニウムと0.1%(w/v)炭酸水素カリウムとを含む溶血液で30mLまでメスアップし、300×gで10分間、室温で遠心分離した。
(4)実施例1(8)から(11)と同様な操作を行ない、SKBR3細胞の分離回収および回収率の算出を行なった。
(1)実施例4(1)から(3)と同様な方法で、保存処理した希釈血液試料を密度勾配遠心した。
(2)遠心後、筒状部材20の絞られていない側の一端22の開口部を蓋71を用いて閉塞し、筒状部材20を筒状部材10から分離した後、絞られた側の一端21を図5(b)に示す蓋72を用いて閉塞し(図4)、遮光した状態で5日間室温で放置した。
(3)5日間放置後、0.9%(w/v)塩化アンモニウムと0.1%(w/v)炭酸水素カリウムとを含む溶血液で30mLまでメスアップし、300×gで10分間、室温で遠心分離した。
(4)実施例1(8)から(11)と同様な操作を行ない、SKBR3細胞の分離回収および回収率の算出を行なった。
実施例7
(1)図1に示す構造体100に、1%(w/v)BSAを含む超純水を添加し、構造体を構成する筒状部材10・20内面の全てを前記添加溶液で濡らした後、容器内を超純水で洗浄し、乾燥させることで、BSAでコーティングした構造体100を作成した。
(2)目的細胞を含む画分を分離回収する容器として、(1)に記載の容器を用いた他は、実施例6と同様な方法で、SKBR3細胞の分離回収および回収率の算出を行なった。
(1)図1に示す構造体100に、1%(w/v)BSAを含む超純水を添加し、構造体を構成する筒状部材10・20内面の全てを前記添加溶液で濡らした後、容器内を超純水で洗浄し、乾燥させることで、BSAでコーティングした構造体100を作成した。
(2)目的細胞を含む画分を分離回収する容器として、(1)に記載の容器を用いた他は、実施例6と同様な方法で、SKBR3細胞の分離回収および回収率の算出を行なった。
実施例4から7および比較例4での回収率の結果をまとめて表4に示す。なお表4において「イミダゾリジニル尿素添加無し」はイミダゾリジニル尿素を含まない安定化剤を添加して調製した希釈血液試料(比較例4)のことを指す。目的細胞の分離回収工程において、イミダゾリジニル尿素を添加しないとき(比較例4)は、5日間の室温放置により回収率が56.3%に低下した。一方、安定化剤を添加する(実施例4から7)ことで、回収率が83.1%から96.0%と、未添加時(比較例4)(56.3%)と比較し、向上していることがわかる。また目的細胞を含む画分の保存容器として、タンパク質であるBSAをコートすることで回収率が向上していることがわかる(実施例4と5との間、および実施例6と7との間での比較)。さらに目的細胞を含む画分の保存容器として、図4に示す容器を用いることで、別の容器を準備する場合と比較して回収率が向上していることがわかる(実施例4と6との間、および実施例5と7との間での比較)。
実施例6(2)で筒状部材20を筒状部材10から分離した後、絞られた側の一端21内に設計されている直径2mmであり高さ8mmの円柱状の貫通孔を閉塞する蓋72として、図5(a)に示す蓋、図5(b)に示す直径1.85mmであり高さ8mmの円柱状の凸部が設けられた蓋および図5(c)に示す蓋底部に接続されている一端が直径2mmであり他端が直径1.85mmであるテーパーを有した高さ8mmの円柱状の凸部が設けられた蓋のいずれかを用いた他は、実施例6と同様な方法でSKBR3細胞の分離回収および回収率の算出を行なった。
実施例8での回収率および筒状部材20の絞られた側の一端21への血球沈着の結果を表5に示す。なお表5において血球沈着の有無の評価は、筒状部材20の端部21を目視で観察し、血球の存在が確認できたか否かで行なっている。図5(a)から(c)に示すいずれの蓋72を用いても、回収率は高い値(回収率81.4%から82.2%)を示した。一方、血球沈着の有無を評価すると、筒状部材20の絞られた側の一端21内に設計されている貫通孔部の体積に対して86%塞ぐことのできる凸部を設けた図5(b)および前記貫通孔部の体積に対して93%塞ぐことのできる凸部を設けた図5(c)に示す蓋72では血球沈着は確認できなかったが、前記貫通孔部を塞ぐことのできない凸部を設けない図5(a)に示す蓋72では血球沈着を確認した。このことから蓋72には、図5(b)および図5(c)に示すような凸部を設けると好ましいことがわかる。その理由として、筒状部材20の絞られた側の一端21内に設計されている貫通孔を塞ぐための凸部が図5(b)および図5(c)には設けられているため、前記貫通孔を塞ぐことが可能であることが考えられる。従って、図5(a)と比較して図5(b)および図5(c)に示すような凸部を設けることで目的細胞の沈着が抑えられることにより、当該細胞の損失も抑えられる点でも好ましいことがわかる。
(1)EDTA100mgと、分子量6000のPEG2gと、塩化ナトリウムとを、超純水100mLに溶解し、さらにイミダゾリジニル尿素を保存処理した希釈血液試料中の濃度として0.25%(w/v)、0.5%(w/v)、1%(w/v)、2%(w/v)、4%(w/v)となるよう添加することで、本実施例で用いる安定化剤を調製した。
(2)インフォームドコンセントを得た健常人から血液をEDTA−2K採血管(VP−DK050K、テルモ社製)に3mL採血後、前記採血管に(1)で調製した安定化剤3mL、および実施例1(3)で蛍光標識したSKBR3細胞約100個を添加することで、保存処理した希釈血液試料を調製した。なお、本操作で得られた保存処理した希釈血液試料の浸透圧は、生理的浸透圧に対し0mOsm/kg・H2O(等張)から−60mOsm/kg・H2Oの範囲内である。
(3)保存処理した希釈血液試料を室温で10分放置し、75μLの白血球・赤血球結合剤(RosetteSep、StemCell Technologies社製)を添加した後、図1に示す構造体の筒状部材20の位置に添加し、室温で2000×gで10分間遠心した。なお図1に示す構造体の筒状部材10内空間はあらかじめ密度1.091g/mLの密度勾配溶液で満たされており、保存処理した希釈血液試料は当該密度勾配溶液上に重層された形(図2)となっている。
(4)遠心後、筒状部材20の絞られていない側の一端22の開口部を蓋71を用いて閉塞し、筒状部材20を筒状部材10から分離させた後、絞られた側の一端21を図5(b)に示す蓋72を用いて閉塞し(図4)、遮光した状態で7日間室温で放置した。
(5)7日間放置後、0.9%(w/v)塩化アンモニウムと0.1%(w/v)炭酸水素カリウムとを含む溶血液で30mLまでメスアップし、300×gで10分間、室温で遠心分離した。
(6)実施例1(8)から(11)と同様な操作を行ない、SKBR3細胞の分離回収および回収率の算出を行なった。
比較例5
実施例9(1)でイミダゾリジニル尿素を添加しない(0%(w/v))他は、実施例9と同様な方法で、SKBR3細胞の分離回収および回収率の算出を行なった。
実施例9(1)でイミダゾリジニル尿素を添加しない(0%(w/v))他は、実施例9と同様な方法で、SKBR3細胞の分離回収および回収率の算出を行なった。
実施例9および比較例5での回収率の結果を表6に示す。目的細胞の分離回収工程において、イミダゾリジニル尿素を添加しないとき(比較例5)は、7日間の室温放置により回収率が66.7%に低下した。一方、イミダゾリジニル尿素を安定化剤として添加(実施例9)することで、回収率が84.2%から93.4%と、未添加時(比較例5)(66.7%)と比較し、向上していることがわかる。特に保存処理した希釈血液試料中の濃度としてイミダゾリジニル尿素を0.5%(w/v)から4%(w/v)添加したときは90%以上と高い回収率となっている。
(1)イミダゾリジニル尿素2gと、分子量6000のPEG2gと、EDTA100mgと、塩化ナトリウム600mgとを、超純水100mLに溶解することで、本実施例で用いる安定化剤を調製した。
(2)実施例9(2)で添加する安定化剤として(1)に記載の安定化剤を用い、実施例8(4)の放置期間を3分、15日または30日とした他は、実施例9(2)から(6)と同様な操作を行ない、SKBR3細胞の分離回収および回収率の算出を行なった。なお本実施例において、イミダゾリジニル尿素の濃度は、保存処理した希釈血液試料中の濃度として1%(w/v)となる。また保存処理した希釈血液試料の浸透圧は、生理的浸透圧に対し0mOsm/kg・H2O(等張)から−60mOsm/kg・H2Oの範囲内である。
実施例10での回収率の結果を表7に示す。目的細胞を含む画分を得た後、速やかに分離操作を行なったとき(97.5%)と比較し、7日間(実施例9)、15日間または30日間保存した画分を分離操作したときの回収率はやや低下しているものの、90%以上の回収率は維持(7日間:93.4%(表6の1%(w/v)の結果参照)、15日間:91.1%、30日間:90.8%)しており、実用上十分といえる。
100:構造体
10・20:筒状部材
21・22:筒状部材20の端部
30:連通開口端
40:密度勾配溶液
50:目的細胞を含む溶液
60:目的細胞を含む画分
71・72:蓋
200:回収容器
10・20:筒状部材
21・22:筒状部材20の端部
30:連通開口端
40:密度勾配溶液
50:目的細胞を含む溶液
60:目的細胞を含む画分
71・72:蓋
200:回収容器
Claims (10)
- 目的細胞を含む溶液から比重分離を利用して当該目的細胞を含む画分を分離回収する方法であって、目的細胞を含む溶液には当該目的細胞を安定化させるための安定化剤がさらに含まれており、かつ目的細胞を含む溶液の浸透圧が生理的浸透圧に対し0mOsm/kg・H2Oから−60mOsm/kg・H2Oの範囲内である、前記方法。
- 安定化剤としてホルムアルデヒドドナー化合物を少なくとも含む、請求項1に記載の方法。
- ホルムアルデヒドドナー化合物が、0.01%(w/v)から10%(w/v)のイミダゾリジニル尿素である、請求項2に記載の方法。
- 安定化剤としてポリエチレングリコールを少なくとも含む、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
- 目的細胞を含む溶液が血液試料であり、安定化剤として抗凝固剤を少なくとも含む、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
- 以下の(1)から(3)の工程を含む、溶液中に含まれる目的細胞の分離回収方法。
(1)目的細胞を安定化させるための安定化剤を含み、かつ浸透圧が生理的浸透圧に対し0mOsm/kg・H2Oから−60mOsm/kg・H2Oの範囲内である、目的細胞を含む溶液から、密度勾配遠心による比重分離を利用して、当該目的細胞を含む画分を分離回収する工程
(2)(1)で得られた画分を親水性高分子を結合したタンパク質および/または糖を含む溶液に添加する工程
(3)(2)で得られた溶液を遠心分離することで、目的細胞を含むペレットを回収する工程 - 目的細胞を含む溶液から比重分離を利用して当該目的細胞を含む画分を分離回収し、当該画分を保存容器内で保存する方法であって、
目的細胞を含む溶液には当該目的細胞を安定化させるための安定化剤がさらに含まれており、かつ目的細胞を含む溶液の浸透圧が生理的浸透圧に対し0mOsm/kg・H2Oから−60mOsm/kg・H2Oの範囲内である、前記方法。 - 比重分離を利用した目的細胞を含む溶液からの当該目的細胞を含む画分の分離回収を、当該比重分離により目的細胞を多く含む画分を収容した部分と目的細胞をほとんど含まない画分を収容した部分とに分離可能な保存容器を用いて行ない、
目的細胞を含む画分の保存を、前記保存容器から目的細胞を多く含む画分を収容した部分を分離して保存する、
請求項7に記載の方法。 - 保存容器のうち、目的細胞を含む画分と接触する部分がタンパク質でコートされている、請求項7または8に記載の方法。
- 0.01%(w/v)から10%(w/v)のイミダゾリジニル尿素を少なくとも含み、かつ浸透圧が生理的浸透圧に対し0mOsm/kg・H2Oから−60mOsm/kg・H2Oの範囲内である、細胞保存液。
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