JP2017025035A - 皮膚真菌症治療剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】皮膚真菌症治療に有効な手段を提供すること。【解決手段】クエン酸三アルカリ金属塩を含む、皮膚真菌症治療用外用剤。【選択図】なし

Description

本発明は、皮膚真菌症の治療剤に関する。
有機酸(カルボン酸)が各種の微生物に対して抗菌作用を示すことは知られており、いくつかのカルボン酸が食品などの保存料として広く使われている。そして、皮膚糸状菌などの病原性真菌によって引き起こされる皮膚真菌症(いわゆる水虫)に対しても数種類のカルボン酸が治癒作用を持つことが知られている。しかし、カルボン酸の塩類が病原性真菌に対する抗菌作用を有することは、あまり知られていない。
クエン酸と水虫との関連については、クエン酸が単独で皮膚糸状菌症に対する治療作用を持つ、と明確に規定している特許情報は公開されておらず、他の抗菌活性物質とクエン酸との混合物が水虫治癒作用を示す、とする特許情報が散見される程度である。例えば、抗菌活性を持つ馬油と15%クエン酸との混合物(特許文献1)、水虫に対する民間療法薬である竹酢液と1%クエン酸との混合物(特許文献2、3)、月桃エキス発酵液とクエン酸を含有するもろみ酢との混合物(特許文献4)、トロロアオイ抽出液とサリチル酸、クエン酸との混合物(特許文献5)、海水塩とクエン酸などを混合した水虫伝搬防止製品(特許文献6)、クエン酸を含有する水虫治療用フィルム製剤(特許文献7)など報告されている。
クエン酸塩類と水虫との関連について述べている特許文献としては、次の2つを挙げることができる。公知の水虫薬であるビホナゾールに助剤(クエン酸ナトリウム、没食子酸ビスマス、次硝酸ビスマス)を加えるとビホナゾールの抗菌活性が上昇することが開示されている(特許文献8、9)。しかし、これらの助剤によりビホナゾールの抗真菌活性が上昇する理由については不明であるとされており、助剤とされるクエン酸ナトリウムの役割についても解明されていない。また、資生堂(株)の商品であるオーデコロン・マッサージジェル「キオラ インナーセラムR(ディスペンサータイプ)」が水虫患者の水虫を完治させるとして、この商品に含まれている11個の構成成分すべてを含む混合物が水虫治療薬として開示されている(特許文献10)。これらの構成成分の一つとしてクエン酸ナトリウムが含まれているが、これらの11個の成分のうちのどの成分が水虫治癒作用を示すのかは不明なままであり、解明されていない。カルボン酸塩類と水虫との関連について述べている特許文献としては、安息香酸、ソルビン酸、エデト酸のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩)が爪水虫、角質増殖型水虫などの難治性水虫を外用で治すことが開示されている(特許文献11)。
カルボン酸が抗菌活性を示すことの大きな要因としては、カルボン酸の酸性に由来するpHの低下が挙げられている。また、イオン化していない非解離のカルボン酸が微生物の菌体内へと取り込まれることによる菌体内のpH低下による障害や、カルボン酸固有の効果も抗菌活性の一因であると考えられている(非特許文献1)。水虫薬として使われているカルボン酸としては、民間療法薬である酢酸(食酢、木酢液、竹酢液)、中国産の水虫薬である華陀膏(安息香酸とサリチル酸とを含有)がある。クエン酸も民間療法薬として知られている(非特許文献2)が、一方ではクエン酸は真菌に対して抗菌作用を示さないとする学術論文がある。松田らは、クエン酸およびクエン酸三ナトリウムが病原性真菌であるカンジダ菌(Candida krusei)とアスペルギルス菌(Aspergillus oryzae)に対する抗菌活性を示さなかったことを報告している(非特許文献3)。抗真菌薬(水虫治療薬)として我が国で認可を得ているカルボン酸としては炭素数11個のウンデシレン酸があるが、臨床上はわずかに使われているだけである(非特許文献4)。クエン酸三ナトリウムがカンジダ菌(Candida albicans)に対して抗菌活性を示したとする論文があるが、そのMIC値はカンジダ症に対して臨床的に使用されている合成抗菌剤のMIC値よりも数万倍以上も弱く、実際のカンジダ症に対する有効性は示されていない(非特許文献5)。上述のように、カルボン酸の抗菌活性は非解離のカルボン酸分子に由来するものと考えられていることから、カルボン酸の塩類に関しては抗菌活性がないものと理解されている。また、カルボン酸の塩類が解離して生じるカルボン酸アニオンは微生物の細胞壁を通過しないものと理解されており、このことからもカルボン酸の塩類は抗菌活性を持たないと考えられている。
特開1992−149129号公報 特開2003−171304号公報 特許第3628647号公報 特開2005−255638号公報 特開1992−76973号公報 特開2003−144535号公報 特開2007−63227号公報 特開1997−194373号公報 特許第3120965号公報 特開2005−263695号公報 特許第5548832号公報
食品危害微生物のターゲット制御、33頁、松田敏生、幸書房、2009年。 クエン酸で医者いらず、114頁、長田正松、小島徹、日東書院、2005年。 有機酸類の抗菌作用−各種pHにおける最少発育阻止濃度の検討−、松田敏生、矢野俊博、丸山昌弘、熊谷英彦、日本食品工業学会誌、41、687(1994)。 E. J.Foley and S. W. Lee, J. Invest. Dermatol., 10, 249 (1948). Yee-Iean Lee, T. Cesario, J. Owens, E. Shanbrom, and L. D. Thrupp, Nutrition, 18, 665-666 (2002).
人や動物の水虫は人獣共通感染症であり、薬物治療を行ってもなかなか完治には至りにくいことが知られている。皮膚の浅い部分に寄生している水虫菌をなぜ殺すことができないのか、その理由は明らかにはされていないが、皮膚科領域で使われているアゾール系抗真菌剤やアリルアミン系抗真菌剤などの合成抗真菌剤が皮膚の中へと透過しにくいことが一つの大きな要因になっているためではないか、と考えられる。これらの抗真菌剤は、in vitroの薬剤感受性試験では皮膚糸状菌に対する強力な抗菌活性を示すが、薬剤が皮膚糸状菌のいる部位まで届かなければ水虫は治らない。この観点から、新規な水虫薬としては皮膚への透過性にすぐれた新しいタイプの薬剤の開発が望ましく、そのような皮膚への浸透性を持つ薬剤は水虫を完治させるだけの効力を備えているものと期待される。また、爪水虫に対しては内服用抗真菌剤を用いる治療法が行われているが、この内服療法では肝障害などの副作用を伴うこともあるので、副作用の少ない外用療法で爪水虫を治すことができる薬剤の開発も望まれている。即ち、本発明は、皮膚や爪に対する浸透性に優れ、皮膚糸状菌症などを効果的に治療することができる皮膚真菌症治療剤等を提供することを目的とする。
上記の課題を解決するためには、従来行われてきた合成抗真菌剤の類縁体を研究する手法とは全く異なる観点から抗真菌剤の研究を行う必要がある。従来の合成抗真菌剤は一般に水に不溶性ないしは難溶性であるが、このことが皮膚への透過性を損なう大きな要因になっているものと考えられる。皮膚への透過性を高めるためには、水溶性の高い化合物を選択することが望ましい。このような概念の元に検討を行った結果、本発明者は安息香酸、ソルビン酸、エデト酸のアルカリ金属塩類が優れた水虫治癒効果を示すことを見出した(特許文献11)。そしてさらに検討を行い、クエン酸三アルカリ金属塩類が優れた水虫治癒効果を持ち、かつ、皮膚刺激性もないことを見出した。このような知見に更なる検討を重ね、下記に代表される発明が完成した。
項1.
クエン酸三アルカリ金属塩を含む、皮膚真菌症治療用外用剤。
項2.
前記クエン酸三アルカリ金属塩が、クエン酸三カリウム又はクエン酸三ナトリウムである、項1に記載の皮膚真菌症治療用外用剤。
項3.
液剤である、項1又は2に記載の皮膚真菌症治療用外用剤。
項4.
皮膚真菌症の患部が該液剤に浸漬されることを特徴とする、項3に記載の皮膚真菌症治療用外用剤。
クエン酸そのものは自身の持つ酸性のために皮膚への刺激が強く、人の水虫治療には使いにくいが、クエン酸三アルカリ金属塩類は酸性が消失しているので皮膚への刺激が少なく、安心して使える水虫治療剤である。クエン酸は、好気的代謝に関する最も重要な生化学反応経路であるクエン酸回路の一構成物質であり、人体中にも豊富に存在しているため、安全性にも優れる。クエン酸三アルカリ金属塩類は、皮膚真菌症に対して強い治癒作用を持つ、副作用の少ない理想的な水虫治療薬として人類社会に貢献する。
クエン酸三アルカリ金属塩には、クエン酸三カリウムおよびクエン酸三ナトリウムが含まれる。これらのクエン酸三アルカリ金属塩は、いずれも外用で人の水虫を容易に完治させることが判明した。つまり、クエン酸三アルカリ金属塩は水の存在下で三アニオンに解離し、それらの三アニオンが皮膚真菌症患部の皮膚内へと容易に浸透する。そして、クエン酸三アニオンが良好な水虫治癒効果を示すことから、カルボン酸由来の酸性が抗菌作用を示すと解釈する従来の抗菌作用機序とは全く異なる、未知の機構でクエン酸三アニオン類が皮膚糸状菌などの病原性真菌に作用していることは明らかである。クエン酸三アニオンのこの未知の抗菌作用は、クエン酸三アニオンが有するキレート作用により病原性真菌から重要な役割を担う金属イオン(カルシウムイオン、マグネシウムイオン,亜鉛イオン、鉄イオンなど)が奪われて真菌が生存できなくなることに由来すると考えられる。なお、一般的にはイオン類は皮膚を透過しないとされているが、皮膚真菌症の患部では真菌によって角層バリアが破壊されており、このためにクエン酸アニオンが皮膚角層内へと移行すると考えられる。
クエン酸三アルカリ金属塩の水溶液は皮膚や爪への浸透性が良く、これまで治りにくいとされてきた水虫を容易に完治させる。皮膚の水虫に対しては、クエン酸三アルカリ金属塩類を含む薬剤を例えば1日1〜3回水虫患部に適用することにより、病原性真菌を殺すために必要な皮膚内の薬剤濃度が保たれて病原性真菌を消滅させることができ、1週間〜数カ月間の処理により水虫完治を達成することができる。
クエン酸三アルカリ金属塩の水溶液は爪組織への浸透性もよく、爪水虫を外用療法で治すことも可能である。爪の水虫に対しては、クエン酸三アルカリ金属塩を含む薬剤を1日1〜3回爪患部に適用することにより、病原性真菌を殺すために必要な爪患部内の薬剤濃度が保たれて病原性真菌を消滅させることができ、数カ月〜1年半程度の処理により爪水虫完治を達成することができる。爪組織は伸びるのが遅く、爪全体が生え変わるまでには手の爪で3ヶ月程度、足の爪では半年〜1年以上もかかるので、爪水虫の治療には長期間にわたる処理が必要である。爪水虫を治すためには、爪患部の一番奥にいる病原性真菌を殺すこと望ましい。そのため、爪全体をクエン酸三アルカリ金属塩含有液剤に長時間浸漬する方法が有効であり、爪の中に存在する病源性真菌を効果的に殺菌・消滅させることができる。この爪浸漬処理法では、1日1回、1〜5時間あるいは就寝時に処理を行い、この処理を1〜10回程度連続で行えば爪の中の病源性真菌が消失し、そのあとは時間の経過とともに新しい爪が生えてきて健康な爪を回復することができる。爪水虫では爪周辺の皮膚にも真菌感染が起きていることが多いので、この爪全体を薬液に浸漬する処理は数か月間継続することが好ましい。
従来、爪水虫は内服用抗真菌薬の内服療法でしか治せないものであったが、クエン酸三アルカリ金属塩含有液剤を用いれば外用療法で爪水虫を治せることが判明した。クエン酸三アルカリ金属塩は中性に近いpHを持ち、クエン酸由来の酸性による皮膚への刺激がないので、皮膚の炎症を起こしにくいというすぐれた特性も併せ持っている。このように、クエン酸三アルカリ金属塩類は、理想的な皮膚真菌症(いわゆる水虫)治療剤として人類社会に貢献する役割を担えるであろう。
外用剤におけるクエン酸三アルカリ金属塩の薬剤濃度は、皮膚糸状菌などの病原性真菌を殺し得る任意の範囲内の濃度を選択できるが、クエン酸三アニオンを皮膚内へと透過させて長時間その濃度を維持すること好ましい。また、爪水虫では爪の一番奥に潜む真菌の生息部位までクエン酸三アニオンを到達させることが望ましい。このような観点からクエン酸三アルカリ金属塩類の濃度は0.1〜20重量%程度が好ましく、さらに好ましくは0.5〜10重量%である。この薬剤濃度が低すぎると皮膚糸状菌に対する効果が十分でないので、薬剤の投与回数を多くする必要が生じてくる。また、薬剤濃度が高すぎると皮膚に対する刺激が大きくなって皮膚の敏感な部分に炎症が生じかねない。
クエン酸三アルカリ金属塩は、医薬品とするために必要な程度の水溶性を備えている。このため、液剤、クリーム剤、噴霧剤、軟膏剤などの剤型を必要に応じて適宜選択することができる。クエン酸アルカリ金属塩を溶解するための溶媒としては、水、エタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、マクロゴールなどのクエン酸塩が可溶な任意の溶媒を使うことができる。クエン酸アルカリ金属塩類は、既知の合成抗真菌薬と混合して使用してもよく、また、木酢液、竹酢液、酢酸、植物抽出液などの水虫に対する民間伝承薬と任意の割合で混合しても差し支えはないが、これらの既知の薬剤は皮膚への刺激性が強いので併用しないことが好ましい。
皮膚真菌症治療剤の抗菌活性は、主要な病原性真菌の薬剤感受性試験をCLSI(Clinical Laboratory Standards Institute、米国)ガイドラインに準拠して評価し、確認された。病原性真菌としては、トリコフィトン属(T. rubrum, T. mentagrophytes)、ミクロスポルム属(M. gypseum)、エピデルモフィトン属(E. floccosum)、カンジダ属(C. albicans)、アスペルギルス属(A. fumigattus)、クリプトコックス属(C. neoformans)を選定した。試験結果は実施例に示されるが、代表的な皮膚糸状菌であるT. mentagrophytesに対する本発明化合物の抗菌活性(MIC, mg/ml)は次の通りであった:クエン酸三カリウム、 3.1;クエン酸三ナトリウム、6.3。また、マラセチア属菌種(M. furfur)の薬剤感受性試験は、寒天培地希釈法を用いる杉田らの方法に準拠して行った(T. Sugita et al., J. Clinical Microbiology, 43, 2824-2829 (2005))。M. furfurに対する抗菌活性(MIC, mg/ml)は次の通りであった:クエン酸三カリウム、10.0。
これらの薬剤感受性試験では、真菌の分生子(胞子)が発芽成長するために必要なMgイオンとCaイオンが培地に含まれている。有機酸の持つカルボキシル基はこれらのイオンと結合するので、有機酸は真菌の発育に対して競合的な阻害作用を持っている。クエン酸三アルカリ金属塩はこれらのイオンと強固に結合する特性を持っており、試験系内からこれらのイオンを排除することにより、真菌の生育を阻んで抗菌活性を発揮すると考えられる。マグネシウムイオン、カルシウムイオンとの強い結合能を有するクエン酸塩が真菌に対して抗菌活性を示すことは、非解離の有機酸が抗菌活性を示すとする従来の常識を覆す知見である。
なお、クエン酸三アルカリ金属塩は主にMgイオン、Caイオンと結合することによって抗菌活性を発揮するので、これらのイオンが血液中から供給されにくい皮膚角層内で効果的な抗菌作用を発揮する。クエン酸二水素一アルカリ金属塩およびクエン酸一水素二アルカリ金属塩も病原性真菌に対する抗菌活性を有するが、これらの塩類は遊離のカルボキシル基を含んでいるために皮膚への刺激性があり、水虫治癒効果が比較的低い。また、クエン酸回路の一構成物質であるイソクエン酸のアルカリ金属塩も病原性真菌に対する抗菌活性を示す。
上述のCLSIガイドラインに準拠した抗菌活性測定法では、使用するRPMI-1640培地には大過剰のマグネシウムイオンとカルシウムイオンとが添加されている。このため、試験系に加えられるクエン酸三アルカリ金属塩はこれらの大過剰の金属イオン全部と結合することになり、その結果として表示されるMIC値が見かけ上大きくなっている。そこで、この試験系でブランクテストとして用いられている試験液(RPMI-1640培地液にT. mentagrophytesの胞子含有液を加えて培養処理を行った液)と、元のRPMI-1640培地液とに含まれているマグネシウムイオンとカルシウムイオンの含有量をICP分析法で測定し、T. mentagrophytesの胞子が吸収したアルカリ金属イオン量を算出した。この胞子によるアルカリ金属イオン吸収量と結合するだけのクエン酸塩量が実質的なMIC値となる。T. mentagrophytesに対するクエン酸三カリウムの補正したMIC値(mg/ml)は、0.054であった。
皮膚真菌症に対するクエン酸三アルカリ金属塩の治癒作用は、人の水虫に対する治療効果の有無で判定した。試験に使用した水虫の症例は、皮膚の小水泡型水虫、趾間型水虫、角質増殖型水虫、体部水虫、および爪水虫などの各種の水虫を選定した。実施例3〜実施例13に示すように、クエン酸三アルカリ金属塩を含有する薬剤は皮膚の水虫を簡単に完治させる優れた効果を示し、さらに、爪水虫を外用療法で完治させた。これらの症例において、薬剤による皮膚刺激性は全く認められなかった。実施例に記載した多くの症例では病原性真菌として白癬菌を分離同定しており、また、カンジダ菌を分離同定した症例を実施例10に示し、アスペルギルス菌を分離同定した症例を実施例11に示した。クエン酸三アルカリ金属塩含有物が皮膚糸状菌症などの皮膚真菌症を治すことはこれまで全く知られておらず、本発明により初めて明らかにされたのである。
人の水虫に対するクエン酸三アルカリ金属塩の治癒作用を検討する過程で、クエン酸三アルカリ金属塩が皮下にある真菌の胞子を発芽させる作用を発揮することが判明した。体部の紅色小丘疹に対してクエン酸三カリウム5%液を塗布すると丘疹が平板になり、1日後あたりに症状が再燃して色素沈着化を伴い、そのまま完治する、という現象が数多く観察された。この症状の再燃は胞子の発芽によって引き起こされたものであり、クエン酸三カリウムが胞子の発芽を誘導したと考えられる.皮膚真菌症が治りにくいものであることの最大の要因は胞子の存在であり、薬剤処理しても胞子が残ると発芽して皮膚真菌症が再発することになる。クエン酸三アルカリ金属塩類は胞子を発芽させて効率的に殺してしまうので、理想的な皮膚真菌症治療剤になると考えられる。これまで、皮下にある胞子を発芽させる作用を持つ薬剤は知られていない。
以下、実施例により本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
[実施例1]
クエン酸三カリウム及びクエン酸三ナトリウムの抗真菌活性を、各種病原性真菌の薬剤感受性試験を行って評価した。試験方法は微量液体希釈法を用いて、CLSI(Clinical Laboratory Standards Institute、米国)のガイドラインに準拠して行った。クエン酸三カリウムの各種病原性真菌に対する抗菌活性は下記の通りであった。下記では、真菌名、菌番号とMIC(mg/ml)を併記する。
T. rubrum IFM59814, 12.5;
T. mentagrophytes IFM59813, 3.1
M. gypseum IFM58916, 12.5
E. floccosum IFM53345, 1.6;
C. albicans IFM5740, 25
A. fumigatus IFM4942, 6.3
C. neoformans IFM5807, 0.39
クエン酸三ナトリウムのT. mentagrophytes IFM59813に対する抗菌活性(MIC(mg/ml))は、6.3であった。対照薬として用いたアムホテリシンBのT. mentagrophytes IFM59813に対する抗菌活性(MIC(mg/ml))は、2.0であった。なお、T. mentagrophytes IFM59813の胞子が吸収したアルカリ金属イオン量を測定して補正したクエン酸三カリウムのMIC値(mg/ml)は、0.054であった。
[実施例2]
クエン酸三カリウムのマラセチア属菌種に対する抗菌活性を、Sugita et al.(2005)の方法に準じてヒト関連マラセチア菌種の薬剤感受性試験を実施し、評価した。24-wellマイクロタイタープレートのwellに、被験薬とmLNA培地を加えて全量を2 mLとした。約1 x 104cell/ml濃度の菌懸濁液50μLを培地に加え、32℃で7日間好気的に培養した。コントロール(被験薬なし)に比べて、増殖が完全に阻止された濃度を最小発育阻止濃度(MIC)とした。M. furfurに対するクエン酸三カリウムの抗菌活性(MIC値、mg/ml)は、10.0であった。
[実施例3]
クエン酸三カリウム1水和物5.3gに20%エタノールを加えて1000gとし、0.5%試験液を調製した。足裏の土ふまず部分に広くできている角質増殖型水虫に対して、0.5%試験液をスプレーで1日3回噴霧した。約3カ月間の処理により、難治性で再発を繰り返してきた角質増殖型水虫が消滅し、きれいな皮膚を回復した。この水虫患部から白癬菌の一種であるトリコフィトン・メンタグロフィテスを分離・確認した。
[実施例4]
クエン酸三カリウム1水和物63.6gにグリセリン(84-87%水溶液)20mlを加え、さらに15%エタノールを加えて2Lとし、3%試験液を調製した。左足土踏まず部に広くできている小水泡型水虫群に対してこの3%試験液を1日2回噴霧塗布した。約1ヶ月後に皮膚症状がほぼ消失し、さらに1ヶ月ほど処理を継続することにより、この水虫が完治した。
[実施例5]
臀部の左半分を広く覆っている体部水虫に対して、実施例4と同様にして調製したクエン酸三カリウムの3%試験液を1日2回噴霧した。約2ヶ月後に水虫が消滅して健康な皮膚を回復した。治癒後の皮膚には薄茶色の色素沈着が生じていたが、時間の経過とともに着色は薄れて目立たなくなった。
[実施例6]
左右足裏の爪先部分に広くできている薄い角質増殖型水虫に対して、実施例4と同様にして調製した3%試験液を1日1回噴霧した。薄い角質増殖皮膚が徐々にはがれて、約1ヶ月後にはピンク色の健康な皮膚を回復した。この皮膚患部からはトリコフィトン・ルブルムを分離・確認した。
[実施例7]
両足の趾間を広く覆っている趾間水虫に対して、実施例4と同様にして調製した3%試験液を1日1回噴霧した。約2ヶ月後には皮膚症状が消失して健康な皮膚を回復した。
[実施例8]
左足の第4爪以外の4本の爪全体が水虫になっている症例において、実施例4と同様にして調製した3%試験液に足全体を1日1時間浸漬処理した。処理の進行とともに爪根元から新しい爪が伸長し、半年後にはすべての爪が完治して健康な爪を回復した。
[実施例9]
クエン酸三カリウム1水和物106gにグリセリン(84-87%水溶液)20mlを加え、さらに15%エタノールを加えて2Lとし、5%試験液を調製した。この試験液を市販の巻指サック(Mサイズ)に約2ml入れ、その中に爪右端部と周辺の皮膚が爪先から根元まで水虫になっている右手中指を浸して2日に1回5時間浸漬処理した。この処理を3カ月間行ったところ、健康な爪と皮膚を回復した。この症例の爪標本から白癬菌を分離し、遺伝子解析を行ってトリコフィトン・ルブルムであることを確認した。
[実施例10]
右手薬指爪の先端部分にできた爪水虫に対して、実施例9と同様にして調製したクエン酸三カリウムの5%液を1日1回十分に噴霧した。1ヶ月半後には爪患部が爪先へと排出され、爪切りで切り取って爪水虫が完治した。この患部の爪標本からカンジダ菌を分離し、遺伝子解析を行ってClavispora lusitaniae(Candida lusitaniaeの有性型)であることを確認した。
[実施例11]
左胸部にできた紅色小丘疹に対して、実施例9と同様にして調製したクエン酸三カリウムの5%液を1日1回噴霧塗布した。患部の紅色小丘疹はすぐに縮小し、1週間後には色素沈着化・瘢痕化した。この紅色小丘疹からは体液を採取して病原菌を培養し、遺伝子解析を行ってAspergillus tubingensisであることを確認した。
[実施例12]
クエン酸三カリウムの10%水溶液を調製し、爪全体が爪水虫になっている右手親指爪に対してこの10%試験液を1日1回噴霧した。処理の進行とともに爪根元から健康な爪が伸びてきて、半年後には健康な爪を回復した。
[実施例13]
実施例4と同様の操作で、クエン酸三ナトリウムの3%試験液を調製した。左太ももにできた紅色小丘疹に対して、この5%試験液を1日1回噴霧した。患部の紅色小丘疹はすぐに縮小し、2週間後には瘢痕化・色素沈着化した。
日本で数多くの患者が存在するといわれている皮膚真菌症(いわゆる水虫)の治療剤が提供される。これまで水虫は完治しにくいものであったが、本発明の皮膚真菌症治療剤を用いることにより水虫は容易に完治できる。また、従来内服薬療法でしか治らないとされている爪水虫を外用療法で完治させる道がひらかれた。よって、本発明は、水虫という厄災から人類を救済し得るものであり、産業上の利用可能性は極めて大きい。

Claims (4)

  1. クエン酸三アルカリ金属塩を含む、皮膚真菌症治療用外用剤。
  2. 前記クエン酸三アルカリ金属塩が、クエン酸三カリウム又はクエン酸三ナトリウムである、請求項1に記載の皮膚真菌症治療用外用剤。
  3. 液剤である、請求項1又は2に記載の皮膚真菌症治療用外用剤。
  4. 皮膚真菌症の患部が該液剤に浸漬されることを特徴とする、請求項3に記載の皮膚真菌症治療用外用剤。
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