JP2017008296A - 亀裂進展抑制樹脂組成物及び亀裂進展抑制方法 - Google Patents
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Abstract
Description
より詳しくは、本発明は、鋼構造物等に発生した亀裂の進展を抑制する亀裂進展抑制樹脂組成物及びそれを用いた亀裂進展抑制方法に関する。
このため、垂直塗工や天井部への塗工においては自重で垂れてきたり剥がれたりすることのない、軽量で且つ接着性に優れる塗工型材料が望まれている。
本発明の課題は、より具体的には、老朽化した鋼建築構造物等の鋼材に発生した亀裂の進展抑制に対して、簡便で、施工時の作業負担の少ない修復補強工法を可能とする亀裂進展抑制樹脂組成物及びそれを用いた亀裂進展抑制方法を提供することである。
即ち、本発明の発明者は、常温硬化型の熱硬化性樹脂及びフィラーを含有する樹脂組成物であって、前記樹脂組成物は、前記フィラーとして、繊維状フィラー及び非球状粒子フィラーの両方を含有し、前記樹脂組成物は、硬化前粘度が25℃で5〜2000Pa・sであり、常温硬化型の熱硬化性樹脂100重量部に対して繊維状フィラーと非球状粒子フィラーとを式(I)
非球状粒子フィラーの配合量/繊維状フィラーの配合量=1〜10・・・式(I)
の配合比で合計20〜150重量部含有し、非球状粒子フィラーの平均粒子径が1〜80μmである、鋼構造物の亀裂箇所に塗布し硬化させることで前記鋼構造物を補強する亀裂進展抑制樹脂組成物とすることにより、本発明を完成するに至ったのである。
(1) 常温硬化型の熱硬化性樹脂及びフィラーを含有する樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物は、前記フィラーとして、繊維状フィラー及び非球状粒子フィラーの両方を含有し、
前記樹脂組成物は、粘度が25℃で5〜2000Pa・sであり、常温硬化型の熱硬化性樹脂100重量部に対して繊維状フィラーと非球状粒子フィラーとを式(I)
非球状粒子フィラーの配合量/繊維状フィラーの配合量=1〜10・・・式(I)
の配合比で合計20〜150重量部含有し、
非球状粒子フィラーの平均粒子径が1〜80μmである、鋼構造物の亀裂箇所に塗布し硬化させることで前記鋼構造物を補強する亀裂進展抑制樹脂組成物。
(2) 粘度が25℃で50〜2000Pa・sである樹脂組成物である上記(1)に記載の亀裂進展抑制樹脂組成物。
(3) 繊維状フィラーが、繊維長3mm以上の炭素短繊維及び/又はガラス短繊維である上記(1)又は(2)に記載の亀裂進展抑制樹脂組成物。
(4) 非球状粒子フィラーが、ピッチコークス粉砕品、タルク、マイカ及びクレーからなる群から選択される1又は2以上のフィラーからなる上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の亀裂進展抑制樹脂組成物。
(5) 非球状粒子フィラーが石炭系の針状結晶を有するピッチコークス粉砕品である上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の亀裂進展抑制樹脂組成物。
(7) 更にシランカップリング剤を含有する上記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の亀裂進展抑制樹脂組成物。
(8) 亀裂を有する鋼の表面において、亀裂の全部又は一部を覆って厚さ1mm以上で硬化した、上記(1)〜(7)のいずれか1つに記載の亀裂進展抑制樹脂組成物。
(9) 上記(1)〜(8)のいずれか1つに記載の亀裂進展抑制樹脂組成物を、鋼構造物の亀裂箇所に1mm以上の厚さで塗布して鋼構造物の亀裂進展を抑制する亀裂進展抑制方法。
(10) 亀裂進展樹脂組成物と鋼構造物との接面にプライマーを塗布した後、亀裂進展抑制樹脂組成物を塗布する上記(9)の亀裂進展抑制方法。
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、亀裂を有する鋼表面において、亀裂の一部又は全部を覆って一定の厚さで塗布され、硬化することにより亀裂箇所に固着し、鋼材の亀裂が進展することを抑制する力を生じる。
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、同じ組成の樹脂組成物で、鋼材に塗布・盛り付けする厚さ及び形状を変化させることにより、鋼材を補強する部分の断面積及び接着面積等を変化させることができる。従って、同じ組成の樹脂組成物で、異なる鋼材の亀裂が進展する力に抗する力を生じることができる。
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、鋼構造物の亀裂箇所に塗布し、硬化させることで亀裂を有する鋼構造物を補強するために用いる。
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、常温硬化型の熱硬化性樹脂、繊維状フィラー及び非球状粒子フィラーを含有する。後述する通り、繊維状フィラーと、非球状粒子フィラーとの配合比は、所定の値の範囲内のものである。
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、硬化前常温において粘度が25℃で5〜2000Pa・sである。本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、好ましくは粘度が25℃で50〜2000Pa・sの状態である。 本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物の粘度が前記範囲であることで、前記樹脂組成物は、塗工時に塗布した前記樹脂組成物が適度に形状を変えることができると同時に型が崩れるまでに一定の時間を要するため、成形が容易になる。
また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、前記樹脂組成物は、2000Pa・sよりも高粘度で、流動性を有さず粘度が測定できないものであっても良い。
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、硬化前に増粘することにより、粘度が25℃で5〜2000Pa・sになるものであってもよい。
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物に係る常温硬化型の熱硬化性樹脂には、常温硬化が可能な熱硬化性樹脂が用いられる。前記熱硬化性樹脂には、例えば、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。
前記熱硬化性樹脂は、塗布面への接着性や硬化物の強度等の条件を満たすのであれば特に制限はない。
前記熱硬化性樹脂は、鋼材である塗布面との接着性及び硬化物の強度の観点から、エポキシ樹脂が好適に用いられる。
前記エポキシ樹脂は、液状であり、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物が好ましい。前記エポキシ樹脂は、例えば、ポリオールから得られるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、活性水素を複数有するアミンより得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、ポリカルボン酸より得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂や、分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化して得られるポリエポキシドなどが用いられる。かかるエポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂、トリグリシジル−p−アミノフェノール、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−メチレンジアニリンなどのグリシジルアミン型エポキシ樹脂、レゾルシンジグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート等を挙げることができるが、性能並びに経済性上、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、クレゾールノボラック型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂等の2官能以上の液状エポキシ樹脂が好ましい。
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、例えば、施工前にエポキシ樹脂に硬化剤を配合する2液型であり、主剤と硬化剤を混合した直後に粘度が25℃で5〜2000Pa・sである。このとき、主剤となる熱硬化性樹脂の粘度は25℃で0.5〜30Pa・sの範囲にあることが望ましく、より好ましくは0.7〜20Pa・sである。粘度が0.5Pa・s以下であると、亀裂進展抑制樹脂組成物としたときに塗工時に垂れやすくなるほか、必要な強度が得られない等の問題がある。また、粘度が30Pa・s以上であるとフィラーの混練がし難くなるほか、亀裂進展抑制樹脂組成物の粘度が高すぎて塗工が出来なくなる問題が起きる。
なお、本発明の実施例に係る亀裂進展抑制樹脂組成物の粘度の測定は、JIS K 7233 エポキシ樹脂及び硬化剤の粘度試験方法に準じて行うことができる。
アミン系硬化剤は、例えば、ジエチレントリアミンといった脂肪族ポリアミンやイソホロンジアミンといった脂環式ポリアミン、ジアミノジフェノルスルフォンといった芳香族アミン、およびこれらの変性物が挙げられる。
アミン系硬化剤としては、特に粘度が0.01〜2Pa・sの範囲にある液状の脂肪族ポリアミンおよびその変性物が、常温で短時間硬化が可能であり、実施工時に容易に混合できるため、好適に用いることができる。また、硬化剤の配合比について特に制限はないが、主剤となるエポキシ樹脂の当量100部に対して、硬化剤の割合が20〜100部になるようなアミン価を有するものが好ましい。
本発明に係る繊維状フィラーは、炭素繊維、ガラス繊維、ロックウールファイバー等の無機繊維、ポリマーから構成される有機繊維を用いることができ、これらの混合物も用いることができる。中でも炭素繊維及びガラス繊維、又はこれらの混合物は、製造時のハンドリングの面でより好ましい。
また、本発明に係る繊維状フィラーとしてさらに好ましくは、引張弾性率の発現性上、3mm以上の長さを有し、且つ1本あたりの繊維直径が30μm未満の炭素繊維、ガラス繊維のチョップドストランド繊維を用いることができる。なお、本発明に係る繊維状フィラーを限定するものではないが、前記繊維状フィラー表面はマトリックス材料との親和性を向上させる表面処理、例えばエポキシ系樹脂サイジング等によるサイジング処理やシランカップリング剤等による表面処理が施されたものが好ましい。
本発明に係る非球状粒子フィラーは、ピッチコークス粉砕品、タルク、マイカ、クレー、炭酸カルシウム、カーボンブラック、黒鉛粉砕物、ワラストナイト、破砕シリカ粉、樹脂系微粒子等を用いることができ、これらの混合物も用いることができる。
中でも、本発明に係る非球状粒子フィラーとしては、ピッチコークス粉砕品、タルク、マイカ等の非球状フィラーはその粒子形状が鱗片状であることから、本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物に必要とする引張弾性率を発現しやすいために好ましい。本発明に係る非球状粒子フィラーは、更に好ましくは、鱗片状を有し、それ自身の弾性率も高く、且つ炭素系元素で構成される樹脂組成物との相溶性に優れるピッチコークス粉砕品である。
特に、石炭系タールを原料とする針状結晶性を有するピッチコークス粉砕品は、粉砕粒子の強度や弾性率が高く、且つその組成のほとんどが炭素であるため、他の無機系フィラーの場合と異なり相溶化剤等を用いなくとも強度や弾性率の発現を得ることができ、また粉砕時に容易に鱗片状になるために、本発明に係る非球状粒子フィラーとして最も好ましい非球状粒子フィラーである。
平均粒子径が1μmより小さな非球状フィラーは熱硬化型樹脂混合物との混合時に著しく粘度を高めてしまうため、塗工が困難となり好ましくない。また、平均粒子径が80μmより大きな非球状フィラーは熱硬化型樹脂混合物の強度が得られず、好ましくない。
なお、本発明における非球状粒子フィラーの平均粒径とは、レーザー回折・散乱式の粒子径分布測定装置によって測定された非球状粒子フィラーのメジアン径(D50)である。
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、常温速硬化型の熱硬化性樹脂100重量部に対して、繊維状フィラーと非球状粒子フィラーが合計で20〜150重量部、好ましくは40〜120重量部配合される。常温で硬化する熱硬化性樹脂100部に対して、繊維状フィラーと非球状粒子フィラーの配合量が20重量部よりも少なくなると、補強効果を得るための引張弾性率が得られず、逆に、配合量が150重量部よりも多くなると、樹脂組成物内に発生する空隙が多くなるため、亀裂進展抑制樹脂組成物自身の強度の低下が生じてしまう。
非球状粒子フィラーの配合量/繊維状フィラーの配合量・・・式(I)
繊維状フィラー及び非球状粒子フィラーの配合量が本発明の範囲内であれば施工上の問題や得られる弾性率や強度等の力学物性には問題は生じないが、前記配合比率に設計することより亀裂進展抑制効果を高めることが可能となる。
本発明に係る実施形態のうちの一つとして、チョップド型の繊維状フィラーと非球状粒子フィラーを、常温硬化できる熱硬化性樹脂に混合することによって、接着剤等を用いることなく、現場で簡単に垂直部への塗工を可能とし、且つ鋼構造物に発生した亀裂の進展を抑制する引張弾性率を発現できる亀裂進展抑制樹脂組成物を実現した。
以下、その実施形態について具体的に説明する。
本発明を限定するものではないが、本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物の製造においては、一般のヘリカルミキサーやヘンシェルミキサー、ダルトン型ミキサー、遠心分離ミキサー等の混合機を使用することが好ましい。これらの混合において減圧すると、混合物に内包される気泡が除去できるため、より好ましい。
施工時の簡便性を考えれば、主剤樹脂ワニスと繊維状フィラーと粒子状フィラーを混合した混合ワニスを準備し、塗工作業直前に硬化剤を混合する方法が好ましい。
一方、硬化剤と繊維状フィラーと非球状粒子フィラーを混合した混合ワニスを準備し、塗工作業直前に主事樹脂ワニスを混合する方法も好適に用いられるが、主体となる混合物を粘度の高いものとし、粘度が低い方を添加する方式の方が実施工上的にはハンドリング性がよいため更に好ましい。
施工現場での混合方法については特に制限するものではないが、ドラム缶装着型の混合機や、ハンディタイプの混合機で混合する方法が、簡便で、施工時の作業負担が少ないという観点から好ましい。ドラム缶装着型の混合機の例としては、清健製マゼール等が、ハンディタイプの混合機の例としては、ハンディタイプの大塚刷毛製マザール等が挙げられる。
また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、前記混合物は、2000Pa・sよりも高粘度で、流動性を有さず粘度が測定できないものであっても良い。
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、熱硬化性樹脂及びフィラーを含有する樹脂組成物であるという性質上、チキソトロピー性(揺変性)を有する場合がある。
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物を限定するものではないが、建築補修用エポキシ樹脂樹脂の規格JIS A 6024:2008における中粘度形のチキソトロピー性(揺変性)のチキソトロピックインデックスが、5±1となっていることから、本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、同規格における測定において、4以上、好ましくは5以上のチキソトロピックインデックスを示すものであっても良い。チキソトロピックインデックスが前記範囲であることで、本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、塗工時に塗布した前記樹脂組成物が型崩れしにくく、塗工・成形が容易になる。
また、本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物の硬化時間は施工作業上、10分〜5時間程度であることが好ましく、30分〜3時間程度であることがより好ましい。また、良好な硬化状態の容易な確認方法として、主剤樹脂ワニスと硬化剤を混合した直後の混合物を水平面に対して20mmの厚さに塗工した後、2時間後の厚さの変化が2mm以内で硬化していることが好ましい。
〔塗工方法〕
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物の塗工方法は、粘度が25℃で5〜2000Pa・sである材料を塗布することができる方法であれば特に制限はなく、一般に用いられている方法を用いることができる。
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、鋼構造物の亀裂箇所に、亀裂を覆うか、又は、亀裂を横断して塗布され、硬化することにより、亀裂進展抑制効果を生じる。
塗布する厚さは、塗工が可能であり、硬化後に十分な強度が保たれる限りにおいて、特に制限がない。本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物を、鋼構造物の亀裂箇所に1mm以上、好ましくは20mm以上の厚さで塗布することにより、鋼構造物の亀裂進展を抑制する効果が高いものとなる。
また、本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物を塗布する厚さを鋼構造物の鋼材に応じて変化させ、硬化後の樹脂組成物の断面積及び形状、接着面の面積を変化させることにより、異なる形状・種類の鋼材の亀裂進展抑制を行うことができる。
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、亀裂を有する鋼構造物の鋼の表面において、亀裂の全部若しくは一部を覆って厚さ1mm以上で硬化するように塗工される。このように塗工されることにより、本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、亀裂が進展する力に抗するための応力を生じることができ、亀裂進展抑制効果を生じる。
硬化方法は、常温硬化が可能であるが、必要に応じて加熱する等、一般的に用いられる方法を用いることができる。
本発明の実施例に係る亀裂進展抑制樹脂組成物の引張曲げ強度及び引張弾性率の測定は、JIS K 7162/1B プラスチック引張特性の試験方法に準じて行った。
本発明の実施例に係る亀裂進展抑制樹脂組成物と一般構造用圧延用鋼材SS400との引張せん断強度による接着強度の評価測定は、JIS K 6850 接着剤−剛性被着材の引張せん断接着強さ試験方法に準じて行った。
中心部に、長さlmmの亀裂が生じた、巾Lmm、長さHmm、厚みtmmのSS400鋼材に対して、巾Lmm、長さ2×hmm、厚み2×tmmの補強塗工を行った塗工修復モデルを作製し(図1)、各材料の引張強度及び引張弾性率、せん断強度の実測値を用いてシミュレーション及び測定を行い、下記条件1〜条件3を満たすものを、亀裂進展抑制効果を有するものとした。下記条件1〜条件3を満たすものであれば、実用上、鋼構造物に発生した亀裂の進展を抑制することができる。
(条件1)
下記参考文献1及び2を参考に、式1の算出値が0.5〜3の範囲に収まる。
(式1)
[(L−l)×SS400の引張弾性率×t]
/[L×塗工材料の引張弾性率×2t]
(条件2)
変形歪み0.1%時の塗工材料に発生する内部応力(=「引張弾性率」×0.001)が塗工材料の引張強度以下である。
(条件3)
塗工材料と鋼材の界面の接着強度が、変形歪み0.1%時の塗工材料に発生する内部応力(=「引張弾性率」×0.001)以上である。
参考文献1 "Bonded repair of aircraft structures", edited by A.A. Baker and R. Jones(Engineering application of fracture mechanics, 7) M. Nijhoff , Distributors for the United States and Canada, Kluwer Academic, 1988
参考文献2 M.Sato et al., Adv. Comp. Mater., Vol.11, No.1, p51−59(2022).
垂直に立てかけたSS400製の鋼材板の中心に亀裂進展抑制樹脂組成物を塗工し、24時間後の塗工物の下方向へのダレ量を実際に測定することにより評価を行った。
補強塗工の長さの基準となるhは、例えば100mmのものを用いて測定を行った。
本発明に係る非球状粒子フィラーの粒子径は、レーザー回折式粒子径分布測定計(マイクロトラックMT3300EX 日機装社製)により体積基準粒子径の測定を行い、メジアン径(D50)を平均粒子径として求めた。
新日鉄住金化学株式会社製のエポキシ樹脂YD−128(ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂、粘度12Pa・s)と株式会社T&K TOKA製硬化剤FXD821−F(変性脂環式ポリアミン硬化剤、粘度0.065Pa・s)を、100対45で混合した樹脂組成物に対して、繊維状フィラーとして日本グラファイトファイバー株式会社製炭素繊維80NT(繊維長6mmおよび25mm品)または、オーシーヴィー津株式会社製ガラス繊維EC13−3MM995(繊維長3mm)を、非球状粒子フィラーとして新日鉄住金化学株式会社製ピッチコークス粉A(平均粒子径15μm)または、日本タルク株式会社製のタルクK−1(平均粒子径8μm)を表1および表2に示す配合に従い株式会社シンキー製の自転公転型のミキサーを用いて常温条件下で配合し、塗工型の亀裂進展抑制樹脂組成物A〜Iを製造した。製造した塗工型の亀裂進展抑制樹脂組成物A〜Iは、それぞれ引張試験により強度および弾性率を測定するとともに、一般構造用圧延鋼材SS400を用いたせん断接着強度および、塗工後塗工物の実施工性を評価した。
引張試験用の試験片は、亀裂進展抑制樹脂組成物A〜Iをトレーの上で平板上に伸ばして、そのまま常温下で一晩放置して硬化した平板から切削加工にて作製しており、残留応力等の影響を排除して物性試験を行うべく、硬化した平板をそのままの常温条件下で約一晩放置して平準化を行った。
一方、せん断接着強度測定試験片は、亀裂進展抑制樹脂組成物A〜Iを厚さ0.75mmで50mmの長さで塗工した一般構造用圧延鋼材SS400(幅32mm×長さ100mm×厚さ3mm)を2枚重ねとすることにより接着し、引張試験用の平板同様にそのまま常温下で一晩放置することにより試験片を作製した。表1に実施例の、表2に比較例の評価結果を示す。
樹脂組成物A〜Iの亀裂進展抑制効果については、シミュレーションおよび測定から硬化後の樹脂組成物が、引張強度が、30MPa以上、引張弾性率が、5GPa以上、せん断接着強度が、1MPa以上を全て満たす場合を亀裂進展抑制効果:有(○)、これらの何れかの値が満たないものを、亀裂進展抑制効果:無(×)とした。
また、塗工後塗工物の実施工性については、亀裂進展抑制樹脂組成物A〜Iを巾10mm、長さ500mmのSS400製鋼材片の中央部に上下長さ方向100mm、塗工厚み20mmの仕様にて塗工し、塗工後24時間経過時の塗工物のダレ量が20mm以内であれば○、20mm以上で×とした。
新日鉄住金化学株式会社製のエポキシ樹脂YD−128と株式会社T&K TOKA製硬化剤FXD821−Fを100対45で混合した樹脂組成物100重量部に対して、日本グラファイトファイバー株式会社製炭素繊維80NT(繊維長6mm)、新日鉄住金化学株式会社製ピッチコークス粉A〜Cを用いて、表3に示す配合により混合機にて塗工型の亀裂進展抑制樹脂組成物J〜Lを製造し、実施例1〜5、比較例1〜4と同様にしてそれぞれの強度、弾性率及びせん断接着強度を評価した。なお、新日鉄住金化学株式会社製ピッチコークス粉A〜Cとは、その粒子径の効果を確認するため、微粉砕によって3種類の粒度に調整されたピッチコークス粉であり、塊状のピッチコークスを平均粒子径15μmに微粉砕したものをピッチコークス粉A、微粉砕時に粉塵として回収された最大粒子径が1μm未満の微粉分をピッチコークス粉B、粗粉砕程度(平均粒子径500μm程度)に留めたものをピッチコークス粉Cとした。また、亀裂進展抑制用樹脂組成物J〜Lの亀裂進展抑制効果および塗工後塗工物の実施工性については、実施例1〜5、比較例1〜4と同様にして評価を行った。表3に実施例及び比較例の評価結果を示す。
比較例5では混合物の粘度が高すぎ、試験片を作製できなかった。
比較例6では容易に破断してしまい、弾性率の測定ができなかった。
実施例4の亀裂進展抑制樹脂組成物を、試験片にエポキシ樹脂系プライマーを塗布した以外は、実施例1〜6、比較例1〜6と同様にしてせん断接着強度と塗工後塗工物の実施工性の状況評価を行った。表4にその評価結果を示す。
実施例4の亀裂進展抑制樹脂組成物にモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製グリシジル系シランカップリング剤A−187を樹脂組成物100重量部に対して1重量部を添加したこと以外は、実施例1〜6、比較例1〜6と同様にしてせん断接着強度と塗工後塗工物の実施工性の状況評価を行った。表4にその評価結果を示す。
Claims (10)
- 常温硬化型の熱硬化性樹脂及びフィラーを含有する樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物は、前記フィラーとして、繊維状フィラー及び非球状粒子フィラーの両方を含有し、
前記樹脂組成物は、粘度が25℃で5〜2000Pa・sであり、常温硬化型の熱硬化性樹脂100重量部に対して繊維状フィラーと非球状粒子フィラーとを式(I)
非球状粒子フィラーの配合量/繊維状フィラーの配合量=1〜10・・・式(I)
の配合比で合計20〜150重量部含有し、
非球状粒子フィラーの平均粒子径が1〜80μmである、鋼構造物の亀裂箇所に塗布し硬化させることで前記鋼構造物を補強する亀裂進展抑制樹脂組成物。 - 粘度が25℃で50〜2000Pa・sである樹脂組成物である請求項1に記載の亀裂進展抑制樹脂組成物。
- 繊維状フィラーが、繊維長3mm以上の炭素短繊維及び/又はガラス短繊維である請求項1又は請求項2に記載の亀裂進展抑制樹脂組成物。
- 非球状粒子フィラーが、ピッチコークス粉砕品、タルク、マイカ及びクレーからなる群から選択される1又は2以上のフィラーからなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の亀裂進展抑制樹脂組成物。
- 非球状粒子フィラーが石炭系の針状結晶を有するピッチコークス粉砕品である請求項1〜4のいずれか1項に記載の亀裂進展抑制樹脂組成物。
- 常温硬化型の熱硬化性樹脂が、常温硬化可能な2液混合型のエポキシ系樹脂である請求項1〜5のいずれか1項に記載の亀裂進展抑制樹脂組成物。
- 更にシランカップリング剤を含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の亀裂進展抑制樹脂組成物。
- 亀裂を有する鋼の表面において、亀裂の全部又は一部を覆って厚さ1mm以上で硬化した、請求項1〜7のいずれか1項に記載の亀裂進展抑制樹脂組成物。
- 請求項1〜8のいずれか1項に記載の亀裂進展抑制樹脂組成物を、鋼構造物の亀裂箇所に1mm以上の厚さで塗布して鋼構造物の亀裂進展を抑制する亀裂進展抑制方法。
- 亀裂進展樹脂組成物と鋼構造物との接面にプライマーを塗布した後、亀裂進展抑制樹脂組成物を塗布する請求項9の亀裂進展抑制方法。
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