JP2017000998A - ファウリング抑制剤、水処理用多孔質濾過膜、およびその製造方法 - Google Patents
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Description
ファウリングとは、原水に含まれるファウラントと呼ばれる原因物質、例えば、難溶性成分や、蛋白質、多糖類などの高分子の溶質、コロイド、微小固形物、微生物などが膜に沈着して透過流速を低下させる現象であり、膜性能低下の主要原因として知られている。
一方、水処理分野の場合は、経済性の点で多孔質濾過膜の繰り返し使用は必須であり、水処理の現場では、ファウリング発生時に次亜塩素酸ナトリウムなどの薬品による洗浄を実施して膜性能の回復を図っている。すなわち、濾過膜に対する負荷が大きいだけでなく、多孔質濾過膜に付着させたポリマーが薬品洗浄によって溶出せず、ファウリング抑制効果が継続して発揮されることが必要という、血液浄化には想定されない異なる課題の解決が必要となる。
よって、血液浄化分野での知見が水処理分野に適用できるか否かについてはこれまで何ら注目も検討もなされていない。
さらに、ファウリング抑制および耐薬品洗浄性に優れ、繰返しの薬品洗浄後も十分なファウリング抑制効果を有する水処理用多孔質濾過膜、およびその製造方法を提供することにある。
〔1〕下記式(1)の構成単位[A]を10〜80モル%と、下記式(2)の構成単位[B]を20〜90モル%と、を有する重量平均分子量が20,000〜150,000の共重合体からなる多孔質濾過膜用のファウリング抑制剤。
前記接触の後、前記ファウリング抑制剤が付着した多孔質濾過膜を乾燥させる工程と、を含む、
前記ファウリング抑制剤が付着している水処理用多孔質濾過膜の製造方法。
さらに、本発明の水処理用多孔質濾過膜は、付着したファウリング抑制剤が長期間脱離し難いので、繰り返しの薬品洗浄にも耐性が高く、長期にわたって高いファウリング抑制効果を維持することができる。また、本発明の製造方法により、ファウリングを効果的に抑制することが可能であり、ファウリングが生じた時に使用するアルカリ等の薬品に対する耐薬品性が付与された水処理用多孔質濾過膜を製造することができる。
本発明のファウリング抑制剤は、上記式(1)および(2)に示す構成単位[A]および[B]を有する共重合体であり、例えば、アルコキシポリ(オキシエチレン)(メタ)アクリレート(以後、PEGモノマーと称する場合がある)10〜80モル%と、n−ブチルメタクリレート(以後、BMAと略称する場合がある)20〜90モル%とを含むモノマー組成物を共重合させた、重量平均分子量(Mw)が20,000〜150,000の共重合体である。好ましくは、PEGモノマーおよびBMAからなる共重合体である。
BMAは共重合体の疎水性部を形成し、多孔質濾過膜との親和性が高く、共重合体中のBMA部分で多孔質濾過膜に付着する。
なお、共重合体を形成した後の構成単位[A]および[B]はもはやモノマーではないが、便宜上、各構成単位を各モノマー名で称することとする。
一方、PEGモノマーの共重合モル比が80モル%を超え、BMAの共重合モル比が20モル%未満の場合には、多孔質濾過膜に吸着し得るBMAが少なくなるために、やはり十分なファウリング抑制効果を示さないおそれがある。
また、その重合方法としては、溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合等公知の方法を用いることができる。
また、重合反応に用いる開始剤としては、通常の開始剤ならばいずれを用いてもよく、例えば、ラジカル重合の場合は脂肪族アゾ化合物や有機過酸化物を用いることができる。
希釈用の水は、通常、水道水や精製水等を用いることができる。また、本発明の効果を損なわない程度で有機溶媒を混合してもよい。用いられる有機溶媒としてはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのアルコール類がある。
本発明の水処理用多孔質濾過膜は、多孔質濾過膜に本発明のファウリング抑制剤が付着されているものである。本発明に用いる多孔質濾過膜としては、ポリフッ化ビニリデン製多孔質濾過膜、ポリスルホン製多孔質濾過膜、ポリエーテルスルホン製多孔質濾過膜などを挙げることができる。
これら多孔質濾過膜は、親水性ポリマーなどの親水化剤があらかじめコートされていても良い。また、多孔質濾過膜の形態は、中空糸状、チューブ状、フィルム(膜)状等どのような形態でも良い。このような形態の多孔質濾過膜の製造は、公知の方法により行うことができる。
前記接触によってファウリング抑制剤を前記多孔質膜に付着させる方法としては、例えば、液状ファウリング抑制剤組成物もしくはその水希釈物に多孔質濾過膜を浸漬する方法、または多孔質濾過膜を濾過機に固定し、液状ファウリング抑制剤組成物もしくはその水希釈物を多孔質濾過膜に通液して濾過する方法が挙げられる。あるいは、水処理場の設備を使用して液状ファウリング抑制剤組成物もしくはその水希釈物を接触させてもよい。以後、特に断らない限り、液状ファウリング抑制剤組成物と称した場合、必要に応じてその水希釈物も含むものとする。
上記接触処理後のファウリング抑制剤が付着した多孔質濾過膜を、例えば、通風下、40〜70℃で1〜18時間乾燥させることにより、本発明の水処理用多孔質濾過膜を製造することができる。
まず、ファウリング抑制剤である共重合体の合成例を以下に示す。
合成例1;共重合体P1
PEGモノマーとして、nが約9である、メトキシポリ(オキシエチレン)メタクリレート[ブレンマー(登録商標)PME−400、日油(株)製]16.78g(0.0338モル)、およびn−ブチルメタクリレート(BMA)11.22g(0.0789モル)をエタノール252.00gに溶解し、4つ口フラスコに入れ、30分間窒素を吹き込んだ。続いて、重合開始剤としてパーブチル(登録商標)−ND[日油(株)製]0.01gを添加し、60℃で3時間、70℃で2時間重合した。重合終了後、エタノールを良溶媒として、アセトンを貧溶媒として再沈精製し、加熱乾燥させ、共重合体P1を得た。P1のMwを以下に示す方法で測定した。
PEGモノマーおよびP1の構成、重合条件、並びにP1のMwを表1に示す。
合成によって得られた共重合体水溶液を1.0w/v%になるよう20mMリン酸バッファー(pH7.4)で希釈し、この溶液を0.45μmのメンブランフィルターで濾過して試験溶液とし、GPCによりMwを測定・算出した。なお、GPC分析の測定条件は次のとおりである。
<GPC分析の測定条件>
カラム;G3000PWXLおよびG6000PWXLを直列に配列(東ソー(株)製)、溶離溶媒;20mMリン酸バッファー(pH7.4)、標準物質;ポリ(オキシエチレン)(Polymer Laboratories Ltd.製)、検出;示差屈折計RI−8020(東ソー(株)製)、流速;0.5mL/分、試料溶液使用量;10μL、カラム温度;45℃。
表1に示すPEGモノマー、PEGモノマー/BMA共重合比、および重合条件とした以外は、合成例1と同様にして共重合反応を行い、共重合体P2〜P7を得た。また、P1と同様にしてMwを測定した。結果を表1に示す。
なお、表1中のPEGモノマーにおいて、ブレンマー(登録商標)シリーズは日油(株)製、ライトエステルBCおよびライトアクリレートEC−Aは共栄社化学(株)製である。
表2に示すPEGモノマー、PEGモノマー/BMA共重合比、および重合条件とした以外は、合成例1と同様にして共重合反応を行い、共重合体Q1〜Q5を得た。また、P1と同様にしてMwを測定した。結果を表2に示す。
なお、表2中のPEGモノマーにおいて、ブレンマー(登録商標)シリーズは日油(株)製、ライトエステル 041MAは共栄社化学(株)製である。
液状ファウリング抑制剤組成物として、共重合体P1を精製水に0.5質量%濃度で溶解したP1水溶液(pH6.80)を調製した。このP1水溶液に、自製したポリフッ化ビニリデン製の中空糸状多孔質濾過膜(内径/外径:0.8/1.2mm、空孔率70%)を室温で1時間浸漬した。余剰の共重合体を除去するために、浸漬後の多孔質濾過膜を10分間純水で洗浄し、通風下、50℃で1時間乾燥させ、P1が付着した中空糸状水処理用多孔質濾過膜(以後、単に水処理用多孔質濾過膜と称する。)を調製した。得られた水処理用多孔質濾過膜を用いて以下に示す2つのファウリング抑制試験を行った。
ラボ評価装置の概略図を図1に示す。調製した水処理用多孔質濾過膜1にBOD500mg/Lの活性汚泥槽水(高負荷の汚染原水)2を、クロスフロー方式、圧力0.5atm、流速16mL/min、液温15℃で3時間送液して通過させ、透水開始時の透水量F0(L)と透水開始から3時間経過後の透水量F3(L)から透水量低下率(%)を算出した。
薬品洗浄前透水量低下率(%)=[(F0−F3)/F0]×100
結果を表3に示した。
(1)の薬品洗浄前のファウリング抑制試験後、0.6%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に、該試験後の水処理用多孔質濾過膜1を浸漬させて18時間放置し、その後純水を30分間通水させることにより、薬品洗浄処理を行った。洗浄後の水処理用多孔質濾過膜1に、(1)と同様に汚染原水2を送液して通過させ、透水開始時の透水量F0(L)と透水開始から3時間経過後の透水量F3’(L)から、以下の式で薬品洗浄後透水量低下率(%)を算出した。
薬品洗浄後透水量低下率(%)=[(F0―F3’)/F0]×100
結果を表3に示した。
各々共重合体P2〜P7を使用した以外は実施例1と同様にして、それぞれP2〜P7が付着した水処理用多孔質濾過膜1を調製し、実施例1と同様に(1)および(2)のファウリング抑制試験を行った。
結果を表3に示した。
ファウリング抑制剤が付着していない自製のポリフッ化ビニリデン製の中空糸状多孔質濾過膜を使用した以外は、実施例1と同様にして(1)および(2)のファウリング抑制試験を行った。
結果を表3に示した。
各々共重合体Q1〜Q5を使用した以外は実施例1と同様にして、それぞれQ1〜Q5が付着した比較例の水処理用多孔質濾過膜1を調製し、実施例1と同様に(1)および(2)のファウリング抑制試験を行った。
結果を表3に示した。
一方で、比較例1においては、多孔質濾過膜が如何なる処理もされていないため、ファウラントの吸着防止及び除去が不十分であり、薬品洗浄前後ともに透水量低下率は実施例に比べて大きかった。また、比較例2〜6においては、比較例用の共重合体では実施例の共重合体と比較してファウリング抑制効果が低いものであった。
液状ファウリング抑制剤組成物として、共重合体P1を精製水に0.5質量%濃度で溶解したP1水溶液(pH6.80)を調製した。このP1水溶液に、自製したポリフッ化ビニリデン製の平膜状多孔質濾過膜(孔径0.3μm)を室温で1時間浸漬した。余剰の共重合体を除去するために10分間純水で洗浄し、通風下、50℃で1時間乾燥させ、P1が付着した平膜状水処理用多孔質濾過膜を調製した。得られた平膜状水処理用多孔質濾過膜を用いて以下に示すMBR評価装置でのファウリング抑制試験を行った。
MBR評価装置の概略図を図2に示す。調製した平膜状水処理用多孔質濾過膜を、塩化ビニル製の板の両面に貼り付け膜モジュール3を作製した。容量が0.05m3のMBR評価装置内に2枚の膜モジュール3を設置した。なお、図2では2枚の膜モジュールを簡略化して一つの直方体で表した。
次に、MBR評価装置内にMLSS(Mixed Liquor Suspended Solids)が10,000mg/L程度の汚泥を投入した。次いで、MBR評価装置下部よりブロワーを用いて50L/minの空気を送風させながら、BOD負荷500mg/Lの原水をMBR評価装置上部より容積負荷量0.9(kg/m3・日)で滴下した。続いて、膜モジュール3の膜処理流量が0.8m/日となるようクロスフロー式に吸引ポンプで吸引し、膜モジュールの膜間差圧の経時変化を60日間測定した。
このようにして薬品洗浄処理した平膜状水処理用多孔質濾過膜を、再びMBR評価装置に設置して上記試験を繰り返した。また、膜間差圧が10kPaに到達する毎に薬品洗浄処理を行った。
膜間差圧(膜モジュール2枚の平均値)の経時変化を図3と図4に示す。
ファウリング抑制剤が付着していない自製のポリフッ化ビニリデン製の平膜状多孔質濾過膜を張り付けた膜モジュール4を使用した以外は、実施例8と同様にしてMBR評価装置でのファウリング抑制試験を行った。なお、図2に示すように比較例7及び次の比較例8は実施例8と同時に当該ファウリング抑制試験を行った。
比較例7の膜間差圧(膜モジュール2枚の平均値)の経時変化を図3に示す。
共重合体Q3を使用した以外は実施例8と同様にして、Q3が付着した比較例の平膜状水処理用多孔質濾過膜、および膜モジュール5を調製し、実施例8と同様にしてMBR評価装置でのファウリング抑制試験を行った。
比較例8の膜間差圧(膜モジュール2枚の平均値)の経時変化を図4に示す。
また、実施例8の平膜状水処理用多孔質濾過膜は、適切な薬品洗浄により、60日間にわたり膜間差圧の上昇を抑制できた。60日間の全濾過処理量から単位膜面積あたりの積算処理量を計算すると、48m3/m2となった。
なお、血液浄化の分野においては、濾過膜の濾過処理量は約0.02〜0.03m3/m2が一般的であることが知られており、当該量の処理後には廃棄されている。
よって、本発明の平膜状水処理用多孔質濾過膜3は、血液浄化の分野の標準的な単回処理量の約1600〜2400倍の処理に対する耐久性が証明された。
さらに、図4から、実施例8の平膜状水処理用多孔質濾過膜を用いた膜モジュール3は、比較例8の膜モジュール5と比べて薬品洗浄後の膜間差圧の上昇が少なく、耐薬品性に優れていることが認められた。
2 活性汚泥槽水(汚染原水)
3 実施例8の膜モジュール
4 比較例7の膜モジュール
5 比較例8の膜モジュール
Claims (5)
- 下記式(1)の構成単位[A]を10〜80モル%と、下記式(2)の構成単位[B]を20〜90モル%と、を有する重量平均分子量が20,000〜150,000の共重合体からなる多孔質濾過膜用のファウリング抑制剤。
- 前記共重合体が、下記式(3)のアルコキシポリ(オキシエチレン)(メタ)アクリレート10〜80モル%と、n−ブチルメタクリレート20〜90モル%とを含むモノマー組成物を共重合させた共重合体である請求項1に記載のファウリング抑制剤。
- 請求項1又は2に記載のファウリング抑制剤および水を含有する液状ファウリング抑制剤組成物。
- 請求項1又は2に記載のファウリング抑制剤が多孔質濾過膜に付着している水処理用多孔質濾過膜。
- 請求項3に記載の液状ファウリング抑制剤組成物と多孔質濾過膜とを接触させて、ファウリング抑制剤を前記多孔質濾過膜に付着させる工程と、
前記接触の後、前記ファウリング抑制剤が付着した多孔質濾過膜を乾燥させる工程と、を含む、
前記ファウリング抑制剤が付着している水処理用多孔質濾過膜の製造方法。
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