以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
<抗炎症性コーティング剤>
本形態に係る抗炎症性コーティング剤は、ブロック共重合体を含む。その他、必要に応じて、溶媒、添加剤等を含んでいてもよい。
[ブロック共重合体]
ブロック共重合体は、重合体ブロック(A)および重合体ブロック(B)を含む。この際、前記ブロック共重合体は、連鎖移動剤由来構造等をさらに含んでいてもよい。
(重合体ブロック(A))
重合体ブロック(A)は、全体として疎水性を示す。なお、本明細書において、重合体ブロックについての「疎水性」とは、重合体ブロックからなる重合体について、水中における25℃での溶解度が0.1g/100mL未満であることを意味する。
重合体ブロック(A)は、少なくとも第1のモノマー由来のモノマー単位を含む。
第1のモノマー
重合体ブロック(A)のモノマー単位として含む第1のモノマーは下記式(1)で表される。
上記式中、R1は水素原子またはメチル基である。
また、R2は炭素数1〜3のアルキル基である。炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。
さらに、Aは炭素数2〜3のアルキレン基である。炭素数2〜3のアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基が挙げられる。
第1のモノマーの具体例としては、1−メトキシエチルアクリレート、1−エトキシエチルアクリレート、1−プロピルオキシエチルアクリレート、1−イソプロピルオキシエチルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、2−プロピルオキシエチルアクリレート、2−イソプロピルオキシエチルアクリレート等のアルコキシエチルアクリレート;1−メトキシプロピルアクリレート、1−エトキシプロピルアクリレート、1−プロピルオキシプロピルアクリレート、1−イソプロピルオキシプロピルアクリレート、2−メトキシプロピルアクリレート、2−エトキシプロピルアクリレート、3−メトキシプロピルアクリレート、3−エトキシプロピルアクリレート等のアルコキシプロピルアクリレート;1−メトキシ−1−メチルエチルアクリレート、1−エトキシ−1−メチルエチルアクリレート、1−プロピル−1−メチルエチルアクリレート、1−プロピルオキシ−1−メチルエチルアクリレート、2−メトキシ−1−メチルエチルアクリレート、2−エトキシ−1−メチルエチルアクリレート、2−プロピル−1−メチルエチルアクリレート、2−プロピルオキシ−1−メチルエチルアクリレート等のアルコキシイソプロピルアクリレート;1−メトキシエチルメタクリレート、1−エトキシエチルメタクリレート、1−プロピルオキシエチルメタクリレート、1−イソプロピルオキシエチルメタクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、2−エトキシエチルメタクリレート、2−プロピルオキシエチルメタクリレート、2−イソプロピルオキシエチルメタクリレート等のアルコキシエチルメタクリレート;1−メトキシプロピルメタクリレート、1−エトキシプロピルメタクリレート、1−プロピルオキシプロピルメタクリレート、1−イソプロピルオキシプロピルメタクリレート、2−メトキシプロピルメタクリレート、2−エトキシプロピルメタクリレート、3−メトキシプロピルメタクリレート、3−エトキシプロピルメタクリレート等のアルコキシプロピルメタクリレート;1−メトキシ−1−メチルエチルメタクリレート、1−エトキシ−1−メチルエチルメタクリレート、1−プロピル−1−メチルエチルメタクリレート、1−プロピルオキシ−1−メチルエチルメタクリレート、2−メトキシ−1−メチルエチルメタクリレート、2−エトキシ−1−メチルエチルメタクリレート、2−プロピル−1−メチルエチルメタクリレート、2−プロピルオキシ−1−メチルエチルメタクリレート等のアルコキシイソプロピルメタクリレート等が挙げられる。
上記第1のモノマーは、アルコキシエチルアクリレート、アルコキシエチルメタクリレートであることが好ましく、2−メトキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、2−エトキシエチルメタクリレートであることがより好ましく、2−メトキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレートであることがさらに好ましい。
上述の第1のモノマーは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
重合体ブロック(A)中の第1のモノマーの含有率は、重合体ブロック(A)に対して、70mol%以上であることが好ましく、95mol%以上であることがより好ましい。第1のモノマーの含有率が70mol%以上であると、基材へのダメージが少ない溶媒との親和性が高くなることから好ましい。
疎水性モノマー
重合体ブロック(A)は、疎水性モノマー由来のモノマー単位をさらに含んでいてもよい。当該疎水性モノマーは、重合体ブロック(A)の性能を調整する機能を有する。
重合体ブロック(A)のモノマー単位として含まれる疎水性モノマーは、疎水性を示すものであれば特に制限されず、上述の第1のモノマーを除く公知のモノマーが使用されうる。なお、本明細書において、モノマーについての「疎水性」とは、そのモノマーについて、水中における25℃での溶解度が10g/100mL未満であることを意味する。
前記疎水性モノマーの具体例としては、アルキル(メタ)アクリレート、不飽和炭素−炭素二重結合を有する炭化水素、炭素数が4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
前記アルキル(メタ)アクリレートとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルタクリレート等が挙げられる。
前記不飽和炭素−炭素二重結合を有する炭化水素としては、スチレン、メチルスチレン、ブタジエン、イソプレン、イソブチレン、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン等が挙げられる。
前記炭素数が4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリルアミドとしては、N−n−ブチルアクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド、N−オクチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−ラウリルアクリルアミド、N−n−ブチルメタクリルアミド、N−t−ブチルメタクリルアミド、N−オクチルメタクリルアミド、N−フェニルメタクリルアミド、N−ラウリルメタクリルアミド等が挙げられる。
上述の疎水性モノマーは、アルキル(メタ)アクリレートであることが好ましく、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレートであることがより好ましく、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレートであることがさらに好ましい。
上述の疎水性モノマーは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
重合体ブロック(A)中の疎水性モノマーの含有率は、重合体ブロック(A)に対して、30mol%以下であることが好ましく、5〜25mol%であることがより好ましい。疎水性モノマーの含有率が30mol%以下であると、基材へのダメージが少ない溶媒との親和性が高くなることから好ましい。
重合体ブロック(A)の重合度としては、特に制限されないが、30〜3000であることが好ましく、50〜1000であることがより好ましく、100〜500であることがさらに好ましい。重合体ブロック(A)の重合度が30以上であると、ブロック共重合体の基材に対する接着性が優れることから好ましい。一方、重合体ブロック(A)の重合度が3000以下であると、ブロック共重合体を溶媒に溶解した際に、溶液の粘度が低くなり塗工適性が高いことから好ましい。
(重合体ブロック(B))
重合体ブロック(B)は、全体として親水性を示す。なお、本明細書において、重合体ブロックについての「親水性」とは、重合体ブロックからなる重合体について、水中における25℃での溶解度が0.1g/100mL以上であることを意味する。
重合体ブロック(B)は、第2のモノマー由来のモノマー単位および/または第3のモノマー由来のモノマー単位を含む。
第2のモノマー
重合体ブロック(B)のモノマー単位として含む第2のモノマーは下記式(2)で表される。
上記式中、R1は水素原子またはメチル基である。
また、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10アルキル基、炭素数1〜10アルコキシ基、炭素数1〜10アルキルチオ基、炭素数2〜10アルキルカルボニル基、炭素数2〜10アルキルオキシカルボニル基、炭素数6〜20アリール基、炭素数6〜20アリールオキシ基、炭素数6〜20アリールチオ基、炭素数7〜20アリールカルボニル基、−A−N(R5)2、−A−O−R5である。
この際、Aは炭素数2〜3のアルキレン基である。また、R5は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10アルキル基、炭素数1〜10アルコキシ基、炭素数1〜10アルキルカルボニル基、炭素数1〜10アルキルチオ基である。
前記炭素数1〜10アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、デシル基等が挙げられる。
前記炭素数1〜10アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、デシルオキシ基等が挙げられる。
前記炭素数1〜10アルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、ブチルチオ基等が挙げられる。
前記炭素数2〜10アルキルカルボニル基としては、メチルカルボニル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、ブチルカルボニル基等が挙げられる。
前記炭素数2〜10アルキルオキシカルボニル基としては、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、プロピルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基等が挙げられる。
前記炭素数6〜20アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられる。
前記炭素数6〜20アリールオキシ基としては、フェニルオキシ基、ナフチルオキシ基等が挙げられる。
前記炭素数6〜20アリールチオ基としては、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等が挙げられる。
前記炭素数7〜20アリールカルボニル基としては、フェニルカルボニル基、ナフチルカルボニル基等が挙げられる。
前記「−A−N(R5)2」としては、ジメチルアミノエチル基、ジメチルアミノプロピル基、ジエチルアミノエチル基、ジエチルアミノプロピル基、メチルエチルアミノエチル基、ジブチルアミノエチル基等が挙げられる。
前記「−A−O−R5」としては、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、エトキシエチル基、エトキシプロピル基、ブチルオキシエチル基等が挙げられる。
なお、上述の炭素数2〜3のアルキレン基、炭素数1〜10アルキル基、炭素数1〜10アルコキシ基、炭素数1〜10アルキルチオ基、炭素数2〜10アルキルカルボニル基、炭素数2〜10アルキルオキシカルボニル基、炭素数6〜20アリール基、炭素数6〜20アリールオキシ基、炭素数6〜20アリールチオ基、炭素数7〜20アリールカルボニル基を構成する水素原子の少なくとも1つは、置換基で置換されていてもよい。当該置換基としては、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、チオール基、ニトロ基、スルホ基等が挙げられる。
前記R3およびR4は、互いに結合して環構造を形成していてもよい。この際、R3およびR4とともに、R3およびR4が結合する窒素原子が環構造の構成要素となりうる。R3およびR4が互いに結合して環構造を形成する場合の構造を、R3およびR4が結合する窒素原子を含めて下記式(2−1)〜(2−18)に示す。
上記式(2−1)は、例えば、R3がメチル基、R4がエチル基である場合において、窒素原子とともにR3およびR4が互いに結合して形成された環構造とみることができる。また、式(2−5)は、例えば、R3がメチルオキシカルボニル基、R4がメチル基である場合において、窒素原子とともにR3およびR4が互いに結合して形成された環構造とみることができる。さらに、式(2−18)は、例えば、R3がメチルカルボニル基、R4がフェニルエチル基である場合において、窒素原子とともにR3およびR4が互いに結合して形成された環構造とみることができる。
第2のモノマーの具体例としては、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、N−メチル−N−エチルメタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド等のアルキルメタクリルアミド;N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−メチル−N−エチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド等のアルキルアクリルアミド;N−メトキシメタクリルアミド、N−エトキシメタクリルアミド、N−エトキシ−N−メチルメタクリルアミド等のアルコキシ含有メタクリルアミド;N−メトキシアクリルアミド、N−エトキシアクリルアミド、N−エトキシ−N−メチルアクリルアミド等のアルコキシ含有アクリルアミド;N−(ジメチルアミノメチル)メタクリルアミド、N−(ジエチルアミノメチル)メタクリルアミド、N−(ジメチルアミノメチル)−N−メチルメタクリルアミド、N−(ジメチルアミノエチル)メタクリルアミド、N−(ジエチルアミノエチル)アクリルアミド等のアルキルアミノアルキレン含有メタクリルアミド;N−(ジメチルアミノメチル)アクリルアミド、N−(ジエチルアミノメチル)アクリルアミド、N−(ジメチルアミノメチル)−N−メチルアクリルアミド、N−(ジメチルアミノエチル)アクリルアミド、N−(ジエチルアミノエチル)アクリルアミド等のアルキルアミノアルキレン含有アクリルアミド;メタクリロイルオキシモルホリン等のモルホリン含有メタクリルアミド;アクリロイルオキシモルホリン等のモルホリン含有アクリルアミド;メタクリロイルオキシピロリジン等のピロリジン含有メタクリルアミド;アクリロイルオキシピロリジン等のピロリジン含有アクリルアミド;メタクリロイルオキシピペリジン等のピペリジン含有メタクリルアミド;アクリロイルオキシピペリジン等のピペリジン含有アクリルアミド;メタクリロイルオキシ−2−オキソピロリジン等の2−オキソピロリジン含有メタクリルアミド;アクリロイルオキシ−2−オキソピロリジン等の2−オキソピロリジン含有アクリルアミド等が挙げられる。
上述の第2のモノマーのうち、アルキルメタクリルアミド、アルキルアクリルアミドであることが好ましく、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミドであることがより好ましく、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミドであることがさらに好ましい。
上述の第2のモノマーは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
重合体ブロック(B)中の第2のモノマーの含有率は、重合体ブロック(B)に対して、50mol%以上であることが好ましく、70〜100mol%であることが好ましく、95〜100mol%であることがより好ましい。第2のモノマーの含有率が50mol%以上であると、重合度の分布が狭くなるとともに、基材にコーティングしたブロック共重合体の塗膜が強固となることから好ましい。
第3のモノマー
重合体ブロック(B)のモノマー単位として含む第3のモノマーは下記式(3)で表される。
上記式中、R1は水素原子またはメチル基である。
また、R5は水素原子または炭素数1〜3のアルキル基である。
さらに、Aは炭素数2〜3のアルキレン基である。
また、nは2〜50の整数、好ましくは3〜20の整数、より好ましくは4〜15の整数である。
第3のモノマーの具体例としては、ジエチレングリコールメタクリレート、ジプロピレングリコールメタクリレート、トリエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート等のヒドロキシポリアルキレンメタクリレート;ジエチレングリコールアクリレート、ジプロピレングリコールアクリレート、トリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート;メトキシポリエチレングリコールアクリレート、エトキシポリエチレングリコールアクリレート等のアルコキシポリエチレングリコールアクリレート;メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、エトキシポリエチレングリコールメタクリレート等のアルコキシポリエチレングリコールアクリレート等のヒドロキシポリアルキレンアクリレート等が挙げられる。
上述の第3のモノマーは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
重合体ブロック(B)中の第3のモノマーの含有率は、重合体ブロック(B)に対して、10mol%以上であることが好ましく、20〜80mol%であることが好ましく、30〜70mol%であることがより好ましい。第3のモノマーの含有率が10mol%以上であると、高い親水性を有することができることから好ましい。
親水性モノマー
重合体ブロック(B)は、親水性モノマー由来のモノマー単位をさらに含んでいてもよい。当該親水性モノマーは、重合体ブロック(B)の性能を調整する機能を有する。
重合体ブロック(B)のモノマー単位として含む親水性モノマーは、親水性を示すものであれば特に制限されず、上述の第2のモノマーおよび第3のモノマーを除く公知のモノマーが使用されうる。なお、本明細書において、モノマーについての「親水性」とは、そのモノマーについて、水中における25℃での溶解度が10g/100mL以上であることを意味する。
前記親水性モノマーの具体例としては、アニオン基含有モノマー、カチオン基含有モノマー、両性イオン性モノマー、水酸基含有モノマーが挙げられる。
前記アニオン基含有モノマーとしては、アクリルアミドt−ブチルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸、およびこれらの中和物等のスルホン基含有モノマー;アクリル酸、メタクリル酸およびこれらの中和物等のカルボキシ基含有モノマー等が挙げられる。
前記カチオン基含有モノマーとしては、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩、ジメチルアミノエチルメタクリレート塩化メチル4級塩等の第4級アンモニウム基含有モノマー;ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等のアミノ基含有モノマー等が挙げられる。
前記両性イオン性モノマーとしては、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン等の第4級アンモニウム基およびカルボキシ基含有モノマー;2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン等の第4級アンモニウム基およびリン酸基含有モノマー;メタクリロイロキシエチル−N,N−ジメチル3−スルホプロピルアンモニウムハイドロオキサイド等の第4級アンモニウム基およびスルホン酸基含有モノマー等が挙げられる。
前記水酸基含有モノマーとしては、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート等のヒドロキシアルキレンメタクリレート;ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート等のヒドロキシアルキレンアクリレート等が挙げられる。
上述の親水性モノマーは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
重合体ブロック(B)中の親水性モノマーの含有率は、重合体ブロック(B)に対して、50mol%以下であることが好ましく、30mol%以下であることがより好ましい。親水性モノマーの含有率が50mol%以下であると、ブロック共重合体の水溶性が低く、コーティング後の基材からの溶出を抑制できることから好ましい。
重合体ブロック(B)の重合度としては、特に制限されないが、20〜20000であることが好ましく、100〜5000であることがより好ましく、200〜2000であることがさらに好ましい。重合体ブロック(A)の重合度が20以上であると、ブロック共重合体の基材へのコーティングにより得られる塗膜の強度を高くできることから好ましい。一方、重合体ブロック(A)の重合度が20000以下であると、ブロック共重合体の水溶性が低くなり、コーティング剤の溶出を抑制できることから好ましい。
(連鎖移動剤由来構造)
一実施形態において、ブロック共重合体は、後述するように好ましくは精密ラジカル重合により製造される。当該精密ラジカル重合としては、可逆的付加−開裂連鎖移動(RAFT)重合、原子移動ラジカル重合(ATRP)、ニトロキシド媒介重合(NMP)等が挙げられる。これらの重合によりブロック共重合体を製造した場合には、重合に使用される連鎖移動剤に由来する構造が共重合体中に含まれうる。すなわち、ブロック共重合体は、連鎖移動剤由来構造をさらに含みうる。
ブロック共重合体に含有されうるものの具体例としては、RAFT重合に用いられる連鎖移動剤(RAFT剤)が挙げられる。
前記RAFT剤としては、特に制限されないが、ジチオエステル、トリチオカーボネート、ジチオカルバメート、キサンテート等が挙げられる。
前記ジチオエステルとしては、特に制限されないが、下記化合物が挙げられる。
前記トリチオカーボネートとしては、特に制限されないが、下記化合物が挙げられる。
前記ジチオカルバメートとしては、特に制限されないが、下記化合物が挙げられる。
前記キサンテートとしては、特に制限されないが、下記化合物が挙げられる。
上述のRAFT剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、上述のRAFT剤に由来する構造は、RAFT重合のメカニズムからも理解されるように、通常、RAFT剤はブロック共重合体にそのまま含まれることはなく、ブロック共重合体の両末端および主鎖の3つに分かれて含まれる。
なお、連鎖移動剤由来構造は、精密ラジカル重合のメカニズムからも明らかなように、重合体ブロック(A)、重合体ブロック(B)に含まれることもある。すなわち、連鎖移動剤由来構造が重合体ブロック(A)を構成するモノマー単位に挟まれる場合には、連鎖移動剤由来構造は重合体ブロック(A)の構成要素とみなされる。同様に、連鎖移動剤由来構造が重合体ブロック(B)を構成するモノマー単位に挟まれる場合には、連鎖移動剤由来構造は重合体ブロック(B)の構成要素とみなされる。他方、連鎖移動剤由来構造が、重合体ブロック(A)を構成するモノマー単位と、重合体ブロック(B)を構成するモノマー単位とに挟まれる場合、またはブロック共重合体末端に配置される場合には、連鎖移動剤由来構造は独立した構成要素とみなされる。
例を挙げると、連鎖移動剤由来構造(1)−第2のモノマー由来のモノマー単位−連鎖移動剤由来構造(2)−第2のモノマー由来のモノマー単位−連鎖移動剤由来構造(3)を有する場合、第2のモノマー由来のモノマー単位に挟まれる連鎖移動剤由来構造(2)は重合体ブロック(B)の構成要素として理解される。また、末端に配置される連鎖移動剤由来構造(1)および(3)は独立した構成要素として理解される。他方、例えば、連鎖移動剤由来構造(1)−第1のモノマー由来のモノマー単位−連鎖移動剤由来構造(2)−第2のモノマー由来のモノマー単位−連鎖移動剤由来構造(3)の構造を有する場合、連鎖移動由来構造(1)〜(3)はいずれも独立した構成要素として理解される。
<共重合体の構成>
一実施形態において、ブロック共重合体の構成は特に制限されず、種々の構成をとりうる。重合体ブロック(A)−重合体ブロック(B)のジブロック型共重合体であってもよいし、A−B−AまたはB−A−Bのトリブロック型共重合体であってもよいし、A−B−A−Bのテトラブロック型共重合体であってもよいし、(B−A)p−Xまたは(A−B)p−Xの分岐型共重合体であってもよい。この際、前記Xは連鎖移動剤由来構造であり、pは前記Xにより定まる3以上の整数、好ましくは3〜6、より好ましくは4〜5である。これらのうち、ブロック共重合体は、ジブロック型共重合体、トリブロック共重合体であることが好ましく、トリブロック共重合体であることがより好ましく、A−B−Aのトリブロック型共重合体であることがさらに好ましい。なお、抗炎症性コーティング剤中には、ブロック共重合体を単独で含んでいてもよいし、構成が異なる2種以上のブロック共重合体を混合して含んでいてもよい。
ブロック共重合体の重量平均分子量は、特に制限されないが、10000〜1000000であることが好ましく、100000〜500000であることがさらに好ましい。ブロック共重合体の重量平均分子量が10000以上であると、コーティングを行う基材への接着性を高くできることから好ましい。一方、ブロック共重合体の重量平均分子量が1000000以下であると、ブロック共重合体を溶媒に溶解したときの粘度が低く、取り扱いを容易にできることから好ましい。なお、本明細書において、「重量平均分子量」の値は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)で測定した標準ポリメチルメタクリレート換算値を意味するものとする。
ブロック共重合体中の重合体ブロック(B)に対する重合体ブロック(A)のモル比(A/B)が、0.01〜100であることが好ましく、0.05〜20であることがより好ましく、0.1〜10であることがさらに好ましい。重合体ブロック(B)に対する重合体ブロック(A)のモル比(A/B)が0.01以上であると、ブロック共重合体の基材への接着性を高くできることから好ましい。一方、重合体ブロック(B)に対する重合体ブロック(A)のモル比(A/B)が100以下であると、ブロック共重合体を基材にコーティングして得られる塗膜の強度を高くできることから好ましい。
上述のブロック共重合体が抗炎症性を示す理由は必ずしも明らかではないが、本形態に係るブロック共重合体の生体適合性が顕著に高いために生体が異物として認識しにくく、血小板の吸着、及び炎症反応に寄与するマクロファージ、多核巨細胞、リンパ球等の浸潤が生じにくいからであると推測される。
なお、上述のブロック共重合体は、全体として親水性を示す重合体ブロック(B)を有することから、抗血栓性を有しうる。血栓のもととなる血漿タンパク質は比較的高い疎水性表面に吸着する性質があるが、重合体ブロック(B)の存在により、血漿タンパク質およびブロック共重合体の疎水性−疎水性相互作用を抑制または防止することができるため、ブロック共重合体の血漿タンパク質の吸着を防止し、これによって生じる血栓形成を防止することができる。
また、上述のブロック共重合体は、全体として疎水性を示す重合体ブロック(A)を有することから、高い基材接着性を示す。基材との接着性は、基材およびブロック共重合体の疎水性−疎水性相互作用に相関するから、重合体ブロック(A)の存在により、高い基材接着性を実現することができる。さらに、重合体ブロック(A)は、低タンパク質吸着性を有しており、重合体ブロック(B)と同様の性能を有している。
したがって、本形態のブロック共重合体については、重合体ブロック(A)に第1のモノマーを、重合体ブロック(B)に第2のモノマーおよび/または第3のモノマーを採用し、高い生体適合性を実現することにより抗炎症性に優れるコーティング剤を得ることができる。また、上記構成により、血漿タンパク質との疎水性−疎水性相互作用を抑制または防止しつつ、基材との疎水性−疎水性相互作用を保持することで、優れた抗血栓性とともに、高い基材接着性を両立することができるのである。
なお、基材接着性に優れるブロック共重合体を用いる場合には、さらに有利な効果を示しうる。具体的には、基材接着性に優れる抗炎症性コーティング剤を、後述するように基材に塗布してブロック共重合体層を形成する場合、基材と接着しやすいため、得られるブロック共重合体層は均一かつ平坦な構成を有する。また、ブロック共重合体層中にブロック共重合体は密に配置される。そうすると、より高い抗炎症性および抗血栓性が実現できる。さらに、基材と強固に接着するため、ブロック共重合体の溶出を抑制または防止することができ、高い安全性を実現することができる。
また、第1のモノマー、並びに第2のモノマーおよび/または第3のモノマーを採用することにより、得られるブロック共重合体は水やアルコール系溶媒に対して特に良好な溶解性、分散性を示すため、好適に塗布することができ、上記効果はいっそう高いものとなりうる。
[溶媒]
抗炎症性コーティング剤に含有されうる溶媒としては、特に制限されず公知のものが使用されうる。
溶媒の具体例としては、水または有機溶媒が挙げられる。
前記有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール系溶媒;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド;ジオキシラン;ピロリドン等が挙げられる。これらのうち、有機溶媒としてはアルコール系溶媒を用いることが好ましく、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールを用いることがより好ましい。
上述のうち、溶媒は、水、アルコール系溶媒であることが好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールであることがより好ましい。
上述の溶媒は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
抗炎症性コーティング剤中の溶媒の含有率は、10〜99.99質量%であることが好ましく、50〜99.9質量%であることがより好ましく、80〜99.5質量%であることがさらに好ましい。溶媒の含有率が10質量%以上であると、抗炎症性に優れた塗膜を得ることができることから好ましい。一方、溶媒の含有率が99.99質量%以下であると、コーティング剤溶液の粘度が低くなるため、塗工適正に優れることから好ましい。
[添加剤]
抗炎症性コーティング剤は、使用目的に応じて添加剤を含有してもよい。
当該添加剤としては、特に制限されず、公知のものが使用されうる。具体的には、界面活性剤、可塑剤、消泡剤、顔料、抗酸化剤、抗生物質、紫外線吸収剤、結晶核剤、結晶化促進剤、安定化剤、抗菌剤等が挙げられる。これらの添加剤は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
<抗炎症性コーティング剤の製造方法>
抗炎症性コーティング剤の製造方法は、特に制限されず、公知の方法を採用することができる。一実施形態によれば、抗炎症性コーティング剤は、ブロック共重合体を製造する工程(1)と、前記ブロック共重合体を溶媒に溶解する工程(2)と、を含む。
[工程(1)]
工程(1)は、ブロック共重合体を製造する工程である。
ブロック共重合体の製造方法は、特に制限されず、公知の方法を採用することができる。このうち、精密ラジカル重合であることが好ましく、可逆的付加−開裂連鎖移動(RAFT)重合、原子移動ラジカル重合(ATRP)、ニトロキシド媒介重合(NMP)であることがより好ましく、RAFT重合であることがさらに好ましい。
以下、RAFT重合によりブロック共重合体を合成する場合について詳細に説明する。
一実施形態において、ブロック共重合体は、第1のモノマー、RAFT剤、重合開始剤、および溶媒を含む第1の溶液を重合して第1の反応液を得る工程と、第1の反応液中に第2のモノマーおよび/または第3のモノマーを添加して重合する工程と、を含む。これにより、A−Bのジブロック型共重合体および/またはB−A−Bのトリブロック型共重合体を製造することができる。
なお、使用するRAFT剤の種類に応じて、(B−A)p−Xの分岐型共重合体を製造することもできる。
また、第1のモノマーの添加量、第2のモノマーおよび/または第3のモノマーの添加量等を適宜調節することにより、ブロック共重合体の分子量、重合体ブロック(A)および重合体ブロック(B)の構造、重合度等を制御することができる。
さらに、第1の溶液に疎水性モノマーをさらに添加することにより、重合体ブロック(A)の構造を制御することができる。
また、第1の反応液に親水性モノマーをさらに添加することにより、重合体ブロック(B)の構造を制御することができる。
別の一実施形態において、ブロック共重合体は、第2のモノマーおよび/または第3のモノマー、RAFT剤、重合開始剤、並びに溶媒を含む第2の溶液を重合して第2の反応液を得る工程と、第2の反応液中に第1のモノマーを添加し、重合して第2の反応液を得る工程と、を含む。これにより、A−Bのジブロック型共重合体および/またはA−B−Aのトリブロック型共重合体を製造することができる。また、使用するRAFT剤の種類に応じて、(A−B)p−Xの分岐型共重合体を製造することもできる。
上述と同様に、第1のモノマー、第2のモノマー、第3のモノマーの添加量等を調整することにより、ブロック共重合体の分子量、重合体ブロック(A)および重合体ブロック(B)の構造、重合度等を制御することができる。また、第2の溶液に親水性モノマーを、第2の反応液に疎水性モノマーをさらに添加することにより、それぞれ重合体ブロック(A)および重合体ブロック(B)の構造を制御することができる。
別の一実施形態において、トリブロック型共重合体にさらにRAFT重合を繰り返し行うことで、テトラブロック型共重合体、ペンタブロック型共重合体等を製造することができる。
通常、RAFT重合後は、溶媒抽出、カラムクロマトグラフィ等によって製造したブロック共重合体を精製する。
[工程(2)]
工程(2)は、工程(1)で製造したブロック共重合体を溶媒に溶解する工程である。
また、本工程ではさらに添加剤を添加することもできる。
この際、使用する溶媒および添加剤は、上述したものが用いられる。
<抗炎症性材料>
抗炎症性材料は、基材と、前記基材上に配置されるブロック共重合体層と、を含む。
[基材]
用いられうる基材は、特に制限されないが、医療用具に使用されるものが好ましい。
基材の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリカーボネート;ポリスルホン;ポリウレタン;ポリアミド;ポリイミド;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素ポリマー;エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK);ガラス;セラミック;金属等が挙げられる。
上述の基材は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、基材は積層されたものであってもよい。
基材の形状も特に制限されず、板状、シート状、チューブ状、繊維状、球状、不織布、多孔質状等が挙げられる。
[ブロック共重合体層]
ブロック共重合体層は、上述のブロック共重合体を含む。必要に応じて、添加剤を含んでいてもよい。なお、ブロック共重合体および添加剤は上述したものが用いられうることからここでは説明を省略する。
ブロック共重合体層の膜厚は、特に制限されないが、0.001〜1000μmであることが好ましく、0.001〜100μmであることがより好ましい。ブロック共重合体層の膜厚が0.001μm以上であると、基材の形態や使用中の形状変化に追従できることから好ましい。一方、ブロック共重合体層の膜厚が1000μm以下であると、透明性の高い塗膜を得ることができることから好ましい。
ブロック共重合体層の基材からの溶出量は0.001g/cm2以下であることが好ましく、0.0005g/cm2以下であることがより好ましく、0.0001g/cm2以下であることがさらに好ましい。溶出量が0.001g/cm2以下であると、高い安全性が得られうることから好ましい。なお、本明細書において、「ブロック共重合体層の基材からの溶出量」の値は、塩化ビニル板(10cm×10cm)の全面に膜厚0.05mmでブロック共重合体層を形成した積層体を、1000mLの純水に37℃で24時間浸漬した後の純水中のブロック共重合体の溶出量の値を意味するものとする。
<抗炎症性材料の製造方法>
抗炎症性材料は、特に制限されず、公知の方法で製造することができる。
一実施形態において、抗炎症性材料の製造方法は、基材上に抗炎症性コーティング剤を塗布する工程を含む。
前記塗布方法については特に制限はなく、スプレーコート法、フローコート法、浸漬法等が挙げられる。
また、基材がチューブ状である場合には、抗炎症性コーティング剤を通液させる方法等が挙げられる。この際、通液後は、通常、溶媒を通液させてチューブ内部の余分な抗炎症性コーティング剤を除去する。
なお、塗布により得られた塗膜は、通常、乾燥することでブロック共重合体層が形成される。この際の乾燥条件は特に制限されず、自然乾燥であっても加熱乾燥であってもよい。加熱乾燥である場合の乾燥温度は、使用する抗炎症性コーティング剤によっても異なるが、30〜70℃であることが好ましく、40〜60℃であることがより好ましい。
<医療用具>
本発明の一実施形態によれば、上述の抗炎症性材料を含む医療用具が提供される。
前記医療用具としては、特に制限されないが、血液と直接接触する医療用具であることが好ましい。具体的な医療用具としては、カテーテル、マルチルーメンカテーテル、バルーンカテーテル、ガイドワイヤー等のカテーテル、人工血管、血管バイパスチューブ、人工弁、血液フィルタ、血漿分離装置、人工肺、人工腎臓、人工心臓等の人工臓器、輸血用具、血液の体外循環回路、血液バック、癒着防止膜、創傷被覆材等が挙げられる。
[実施例1]
(工程(1))
A−B−A型ブロック共重合体を製造した。
より詳細には、第1のモノマーである2−メトキシエチルアクリレート(東亞合成株式会社製)2.92gと、RFAT剤である下記式で表される2−(1−カルボキシ−1−メチルエチルスルファニルチオカルボニルスルファニル)−2−メチルプロピオン酸0.0127gと、重合開始剤である2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.0007gと、溶媒である1,4−ジオキサン10mLと、を混合し、窒素バブリングした後、70℃で13時間撹拌して重合反応を行った。次いで、得られた反応液に、第2のモノマーであるN,N−ジメチルアクリルアミド(株式会社興人製)6.66gと、溶媒である1,4−ジオキサン10mLとを含む溶液を添加した後、70℃で13時間撹拌して重合反応を行った。反応終了後、反応液をジエチルエーテル100mLに投入し、上澄みを除去した後、さらにジエチルエーテル20mlを加えてスパチュラで樹脂分散体を粉砕しながら撹拌して、上澄みを除去することにより洗浄した。このような洗浄操作を3回繰り返した後、最後に真空乾燥することで、A−B−A型ブロック共重合体を製造した。
なお、上記RAFT剤は、Macromolecules, 35, 6754 (2002)に従い合成した。
また、第1のモノマーおよび第2のモノマーのモル比は、500/1500(第1のモノマー/第2のモノマー)である。
得られた反応液を1H−NMR(JNM−LA300、日本電子株式会社製)にて測定を行った。その結果、第1のモノマー転化率は100%であり、第2のモノマーの転化率は99.5%であった。また、A−B−A型ブロック共重合体の構造は以下のとおりであった。
なお、転化率を用いて下記数式により、重合体ブロック(A)、重合体ブロック(B)、およびブロック共重合体の理論分子量(Mn)を算出した。その結果、重合体ブロック(A)の理論分子量(Mn)は32500(250mol)であり、重合体ブロック(B)の理論分子量(Mn)は148000(1480mol)であり、ブロック共重合体の理論分子量(Mn)は213000であった。
(工程(2))
上記で製造したブロック共重合体0.1gをエタノール10gに投入し、撹拌することで、コーティング剤を製造した。
[比較例1]
(工程(1))
ランダム共重合体を製造した。
より詳細には、第1のモノマーである2−メトキシエチルアクリレート(東亞合成株式会社製)2.92gと、第2のモノマーであるN,N−ジメチルアクリルアミド(株式会社興人製)6.66gと、重合開始剤である2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.0007gと、溶媒である1,4−ジオキサン10mLと、を混合し、窒素バブリングした後、70℃で24時間撹拌して重合反応を行った。反応終了後、反応液をジエチルエーテル100mLに投入し、上澄みを除去した後、さらにジエチルエーテル20mlを加えてスパチュラで樹脂分散体を粉砕しながら撹拌して、上澄みを除去することにより洗浄した。このような洗浄操作を3回繰り返した後、最後に真空乾燥することで、ランダム共重合体を製造した。
なお、第1のモノマーおよび第2のモノマーのモル比は、5000/1500(第1のモノマー/第2のモノマー)である。
(工程(2))
上記で製造したランダム共重合体0.1gをエタノール10gに投入し、撹拌することで、コーティング剤を製造した。
<評価>
抗炎症性、抗血栓性、およびタンパク吸着性についての評価を行った。
[抗炎症性]
(医療用具の製造)
ポリプロピレン中空糸を充填した内部灌流型ポリカーボネート製小型モジュールと、前記モジュールの両端に接続した塩化ビニル製チューブ(内径0.5cm、長さ60cm)と、を含む医療用具に、コーティング剤を室温で灌流させた。その後、50℃乾燥器内で1時間乾燥させることにより、共重合体を基材に接着させた。次に50℃に加温した純水を前記モジュール及び塩化ビニル製チューブに灌流させて、洗浄を行った。さらにその後、50℃乾燥器内で1時間乾燥させることにより、共重合体がコーティングされたモジュールおよび回路を有する医療用具を製造した。
(抗炎症性の評価)
上記で製造した医療用具を実験用SD(Sprague Dawley)ラットに適用して抗炎症性の評価を行った。
より詳細には、実験用SDラットを麻酔導入し、頸部正中切開を行い、送脱血管に医療用具を挿入することで、体外循環を実施した。体外循環の開始30分後、60分後、および120分後のそれぞれについて、血液1mLを採取し、炎症因子であるIL−6(インターロイキン−6)およびTNF−αの血中濃度については、ELISA測定キット(R&D Systems社製)を用いて、血小板数(PLT)については、パーティクルカウンターPCE−1170(株式会社シー・アイ・エス製)を用いてそれぞれ測定した(PLTについては開始0分後も測定した)。
得られた結果を下記表1に示す。なお、表1には、コーティング未処理の参考例も併せて示す。
[抗血栓性]
血栓形成性、血小板数、血液凝固弾性、およびインピーダンス変化について評価を行った。
これらの評価に先立ち、抗炎症性材料としてコーティングチューブおよびコーティングコネクタを製造した。
(コーティングチューブの製造)
直径3/8インチ、長さ30cmのポリ塩化ビニル製チューブ(メラエクセライン、泉工医科工業株式会社製)を用いた。チューブを横に静置し、コーティング剤をチューブ内部に3mL注入し、チューブ内部全体にコーティング剤が塗布されるように1分間軽く振盪した。この状態を5分間維持することで、チューブ内部に共重合体層を形成した。チューブ内を、熱風乾燥器を用いて50℃で15分間乾燥した。次いで、チューブを50℃の滅菌水に10分間浸漬してチューブを洗浄した。最後に、熱風乾燥器を用いて50℃で1時間再度乾燥することで、コーティングチューブを製造した。
なお、チューブ内部を目視および顕微鏡にて観察したところ、塗膜は均一であり、高い透明性を有していることが確認された。
(コーティングコネクタの製造)
上記コーティングチューブに使用される、凹凸部のあるポリカーボネート製コネクタ(メラ人工肺用コネクタ、泉工医科工業株式会社製)を、コーティング剤に浸漬した。5分後、コーティング剤からコネクタを取り出し、熱風乾燥器を用いて50℃で15分間乾燥した。次いで、コネクタを50℃の滅菌水に10分間浸漬することで、コネクタを洗浄した。最後に、熱風乾燥器を用いて50℃で15分間再度乾燥することで、コーティングコネクタを製造した。
(血栓形成性の評価)
ウシ新鮮血灌流試験により血栓形成性評価を行った。
より詳細には、注射器を用いてオス成ウシより静脈血5mLを採血した。これを直ちにコーティングチューブに充填し、コーティングコネクタを用いて、ループ状のチューブになるように両端を接続した。得られたループ状チューブを37℃恒温水槽に浸漬し、100rpmの回転速度で血液をチューブ内に灌流させた。15分後、装置の回転を止め、チューブを恒温水槽から取り出した。ループ状のチューブの両端からコネクタを取り外し、内部に充填してあったウシ血液を回収した。次いで、血液回収後のコーティングチューブ表面を生理食塩水で洗浄した。洗浄したコーティングチューブを2cm切り取り、2%グルタルアルデヒド水溶液に浸漬した。1時間後に取り出し、生理食塩水で洗浄することによりグルタルアルデヒドを除去した。最後に室温にて乾燥させ、走査型電子顕微鏡VE−8800(株式会社キーエンス製)を用いてコーティングチューブ内面のSEM観察を行い、以下の基準に準拠して血栓形成性を評価した。
◎:コーティングチューブ内面に血栓が観察されない
○:コーティングチューブ内面に5個/5mm2未満の血栓が観察される
×:コーティングチューブ内面に5個/5mm2以上の血栓が観察される
得られた結果を下記表1に示す。なお、表1には、コーティング未処理の参考例も併せて示す。
(血小板数の評価)
注射器を用いて上記ウシ新鮮血灌流試験のオス成ウシより静脈血1mLを採血した。採取した血液(ウシ新鮮血灌流試験前の血液)の血小板数を、血球測定装置Laser Cite(IDEXX Laboratories製)を用いて測定した。
また、注射器を用いて上記ウシ新鮮血灌流試験で回収したウシ血液1mLを採血した。採取した血液(ウシ新鮮血灌流試験後の血液)の血小板数を上記と同様の方法で測定した。
ウシ新鮮血灌流試験前の血液とウシ新鮮血灌流試験後の血液との差を算出し、ウシ新鮮血灌流試験により減少した血小板数(使用血小板数)を求めた。
得られた結果を下記表1に示す。なお、表1には、コーティング未処理の参考例も併せて示す。
(血液凝固弾性の評価)
全血凝固線溶分析装置トロンボエラストメトリー(ROTEM(登録商標):フィガルリンク)を用いて、血液の凝固による弾性変化を測定した。
はじめに、ROTEM測定用カップとピンそれぞれの外面に共重合体をコーティングした。より詳細には、ROTEM測定用カップとピンに、コーティング剤を注入した。5分後、コーティング剤を除去して、熱風乾燥器を用いて50℃で15分間乾燥した。次いで、カップおよびピンを50℃の滅菌水に10分間浸漬することで洗浄した。最後に、熱風乾燥器を用いて50℃で15分間再度乾燥することで、コーティングカップおよびコーティングピンを製造した。
次に、上記で製造したコーティングカップおよびコーティングピンを全血凝固線溶分析装置にセットした。また、ボランティアより提供された健常者のヒト新鮮血1mLに、血液凝固促進薬添加することで、試料を調製した。全血凝固線溶分析装置を用いて、調製した試料を30分間測定し、クロットの最大堅固(MCF)を測定した。なお、測定後、カップ内部において、血液が凝固していることを確認した。
得られた結果を下記表1に示す。なお、表1には、コーティング未処理の参考例も併せて示す。
(インピーダンス変化の評価)
血小板凝集測定装置(Multiplate:Verum)を用いてインピーダンス法による血小板の凝集能を測定した。
はじめに、Multiplate用の金属電極を含むポリプロピレン製測定カップおよびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)撹拌子に共重合体をコーティングした。より詳細には、Multiplate用カップと撹拌子をコーティング剤に浸漬した。5分後、コーティング剤からカップおよび撹拌子を取り出し、熱風乾燥器を用いて50℃で15分間乾燥した。次いで、カップおよび撹拌子を50℃の滅菌水に10分間浸漬することで洗浄した。最後に、熱風乾燥器を用いて50℃で15分間再度乾燥することで、コーティングカップおよびコーティング撹拌子を製造した。
次に、上記で製造したコーティングカップおよびコーティング撹拌子を血小板凝集測定装置にセットした。次に、ボランティアより提供された健常者のヒト新鮮血及び測定機器に付属の血小板活性化試薬をカップに注入して試料を調製した。この試料を血小板凝集測定装置に取り付け15分間インピーダンスの変化を測定した。
得られた結果を下記表1に示す。なお、表1には、コーティング未処理の参考例も併せて示す。
[タンパク吸着性]
血液中タンパク質吸着測定試験によりタンパク吸着性を評価した。
より詳細には、注射器を用いてオス成ウシより静脈血5mLを採血した。これにヘパリンナトリウム注射液(ヘパリンナトリウム注1万単位「タナベ」:田辺三菱製薬株式会社製)100μLを直ちに加えて、抗凝固処理を行った。抗血栓性の「コーティングチューブの製造」において製造したコーティングチューブを3cmの長さに切断し、抗凝固処理血液1mLを充填して、両端を密封した。次いで、37℃恒温器内で振とうしながら、30分間保持した。その後、コーティングチューブ内の血液を廃棄し、生理食塩水で洗浄した。次いで、コーティングチューブを2%グルタルアルデヒド水溶液に浸漬し、室温にて1時間保持した。その後、コーティングチューブを取り出して、1cmの長さに切断した。この切断したコーティングチューブ1内面のタンパク質吸着量を、Micro BCA Protein Assay Kit(Thermo SCIENTIFIC製)を用いて測定した。
得られた結果を下記表1に示す。なお、表1には、コーティング未処理の参考例も併せて示す。
表1の結果からも明らかなように、所定のブロック共重合体を用いた実施例1ではIL−6、TNF−α、およびPLTの値が優位に小さく、抗炎症性を有することが分かる。
また、抗血栓性および低タンパク吸着性も併せて有することが分かる。