JP6195335B2 - 高分子化合物、及びそれを用いた組成物、医療機器 - Google Patents

高分子化合物、及びそれを用いた組成物、医療機器 Download PDF

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本発明は、生体内組織や血液に接して使用される生体適合性材料に適した高分子化合物及びそれを用いた組成物、医療機器に関するものである。
一般に、医療用材料表面等に血液等の生体成分が接触すると、材料表面が異物として認識され、材料表面への生体組織中のタンパク質の非特異吸着、変性、多層吸着等が生起し、この結果として凝固系、補体系、血小板系等の活性化が起こる。このため、生体との接触界面である医療用材料表面が異物として認識されることを防止するために、生体適合性を付与することが望まれる。具体的には、人工肺装置、透析装置、血液保存バッグ、血小板保存バッグ、血液回路、人工心臓、留置針、カテーテル、ガイドワイヤー、ステント、人工血管、内視鏡などの医療用具では、血液等の生体物質に接触する部位が優れた生体適合性を有することが望まれる。
医療用材料表面における問題の例として、輸血分野に用いられる血液フィルターでは、血液の濾過時に凝固系や補体系の活性化に基づくと考えられる副作用の生じることが問題になっている。このような凝固系および補体系の活性化の代表例であるブラジキニンの産生は、血液フィルター表面への血漿タンパク質である凝固第XII因子の吸着、および変性等の接触活性が引き金になって生じることが知られている。これに対し、血液フィルター表面に対して、血液濾過時に血液フィルター表面への血漿タンパク質の吸着等の血液成分へ与えるダメージを抑制できる生体適合性を付与できれば、血液の活性化(凝固系、補体系、血小板系)を抑制し、輸血時の副作用も低減できると考えられる。
従来より、血液との接触時に、血液成分の粘着が少ない医療用材料として、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)やポリビニルアルコールを主成分とする医療用材料が知られており( 非特許文献1 または非特許文献2 参照。)、ソフトコンタクトレンズのほか、人工硝子体、ドラッグデリバリーシステムの担体として利用されている。また、アクリルアミドを主成分とする高分子材料を表面に有する医療用具が知られている。
また、生体適合性を有する医療用材料として、ポリエチレングリコール(poly(ethylene glycol),PEG)(非特許文献3または非特許文献4参照。)や、ポリプロピレングリコール(poly(propylene glycol),PPG)等のエーテル構造が連続して主鎖を構成するポリエーテルが知られている。PEGは、(C−O)を繰返し単位とする構造を有し、非常に優れた生体適合性を有することから、医療分野への応用研究も多くなされている。しかし、PEG自体は水溶性であるため、医療用材料として使用する場合には耐水溶性を付与する目的で、他のポリマーとのブロック共重合体やグラフト共重合体にして使用する等の必要がある。また、プラズマ活性化を利用して、材料表面をPEG鎖で修飾する方法も知られているが、高度な技術や設備が必要である。また、(C−O)を繰返し単位とするPPGは、PEGと比較して耐水溶性が高い一方で、生体適合性が低下する傾向を有する。
一方、近年、上記HEMAやポリ(2-メトキシエチルアクリレート,PMEA)に代表されるような、主に炭素鎖からなる主鎖に対して、PEG等の構成単位であるエーテル構造(-C2n-O-)を主構成とする側鎖を、エステル結合により結合させた構造を有する一群のポリマーにおいては、PEGが有する生体適合性と、耐水溶性等の医療用材料として使用するための各種特性を両立できる可能性が期待されている。つまり、非特許文献5〜7には、HEMAを含むブロック共重合体やグラフト共重合体が高い生体適合性を示すことが記載されている。また、特許文献1には、PMEAやその共重合体等が高い生体適合性を示すことが記載されている。
また、PMEA等と類似の構造を有するポリマーとして、環状のエーテル構造である環状エーテルを、主に炭素鎖からなる主鎖に対してエステル結合を介して結合させた繰り返し単位を有するポリマーにおいても、上記PMEAと同様に生体適合性と耐水溶性等を両立できることが知られている。例えば、特許文献2には、環状エーテルであるテトラヒドロフランを、主鎖に対してエステル結合を介して結合させたテトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)を含むポリマー(PTHFA)が生体適合性と耐水溶性等を両立できることが記載されている。また、非特許文献8には、一部の水素原子がメチル基等で置換された環状エーテルを主鎖に対してエステル結合を介して結合させた繰り返し単位を含むポリマーが生体適合性と耐水溶性等を両立できることが記載されている。
上記PMEAにおいては、血液細胞の活性化と異物反応が軽微であり、血液中に存在するタンパク質の吸着変性が少なく、吸着タンパク質が脱離しやすい特徴を有しており、医療機器の表面処理剤として実用化されている。また、PMEA等に適宜の原子団を含ませて生体適合性の程度を調整することで、特定の生体物質やタンパク質のみを選択的に吸着できることが分かっており、各種フィルターや検査装置として用いることが検討されている。また、HEMAを主成分とする共重合体においても高い生体適合性が観察され、PMEAと同様に医療機器の表面処理剤として期待されている
上記PMEAやHEMA共重合体、PTHFA等が高い生体適合性を示す直接の理由は、当該材料中においては、「中間水」と呼ばれる特有の挙動を示す水分子が存在するためであると考えられている(特許文献2等)。つまり、生体適合性に優れる生体由来のヒアルロン酸、ヘパリン等の多糖類やゼラチンなどのタンパク質等においては、通常の水分子と比較して低温で結晶形成し、かつ低温融解するといった特異な挙動を示す水分子(中間水)が存在することが明らかになっている。人工的に合成された材料である上記PEG等においてもこの中間水が存在することが確認されており、この中間水の存在が生体適合性と深く関連していることが示唆されている。
石原一彦, 塙 隆夫, 前田瑞夫 編,『 バイオマテリアルの基礎』, 日本医学館( 2011). B.D. Ratner A.S. Hoffman, F.J.Schoen and J.E. Lemons, Biomaterials Science; An introduction to materials in medicine, Academic Press, London (2004). M o r i , Y . ; N a g a o k a , S . ; T a k i g u c h i , T . ; K i k u c h i ,T . ; N o g u c h i , N . ; T a n z a w a , H . ; N o i s h i k i , Y . , A ne w a n t i t h r o m b o g e n i c m a t e r i a l w i t h l o n g po l y e t h y l e n e o x i d e c h a i n s , " J o u r n a l o f A m er i c a n S o c i e t y o f A r t i f i c i a l O r g a n s " , 1 9 8 2, 2 8 , p . 4 5 9 − 4 6 3 H a r r i s J M , e d , P o l y ( e t h y l e n e g l y c o l ) c h e m i st r y , B i o t e c h n i c a l a n d B i o m e d i c a l A p p l i c a ti o n , ( U . S . A . ) , P l e n u m P l e s s , 1 9 9 2 T. Okano, S. Nishiyama, I. Shinohara, T. Akaike, Y. Sakurai, K. Kataoka and T. Tsuruta, J. Biomed. Mater. Res. Vol.15, P.393 (1981). T. Tsuruta, Journal of Biomaterials Science, vol.21, P.1831, (2010) T. Tsuruta, Adv. Polym. Sci. vol.126, P.1 (1996) 岩田幸久、福島和樹、小林慎吾、田中 賢,第61回高分子学会予稿集(2012) 田中賢、林智広、森田成昭,化学, Vol.66, No.5(2012)
特開2002−105136号公報 特開2004−161954号公報
各種物質内に存在する中間水が当該物質の生体適合性に深く関連することが明らかになる一方で、各種物質内に中間水を存在可能とする機構は明らかとされておらず、この結果として、中間水を含有可能な新たな物質の創成は依然として困難である。
これに対し、最近の研究により、上記PMEA等の鎖状のエーテル構造(-C2n-O-)を主構成とする側鎖をエステル結合により主鎖に結合したポリマーにおいては、PEGと同程度の高い分子運動性が観察され、この分子運動性が中間水の生成と関連していることが明らかになりつつある(非特許文献9)。このことは、PEG等の構成単位であるエーテル構造は、ポリマーを成す主鎖に対して側鎖として結合させた場合においても、エーテル構造が鎖状につながった分子であるPEGに含まれる場合と同様の運動性を維持可能であることを示すと理解することができる。
一方、ポリマーを成す主鎖に対してエーテル構造を主構成とする側鎖部分を結合させた高分子化合物において、これまでに生体適合性が見出されているものは、上記に示すように主鎖と側鎖間をエステル結合により結合したものに限定されている。このことは、アルキルオキサイドを主構成とする側鎖部分が潜在的に有する運動性を発揮させるためには、主鎖と側鎖間の結合様式が強く影響し、その選択が重要であることを示すと考えられる。
本発明の解決しようとする課題は、ポリマーを成す主鎖に対してエーテル構造を主構成とする側鎖部分を結合させた高分子化合物において、生体適合性の発現に適した主鎖と側鎖間の結合様式を見出すことによって、生体内組織や血液に接触した際に凝固系、補体系、または血小板系の活性化を抑制可能である高分子化合物の提供、およびそれを使用した組成物および医療機器を提供することである。
上記課題を解決するために種々の構造を有する高分子化合物の生体適合性を検討した結果、ポリマーを成す主鎖に対してエーテル構造を主構成とする側鎖部分をエーテル結合を用いて結合させた繰り返し単位を含む高分子化合物により、主にアルキルオキサイドから構成させるエーテル構造が潜在的に有する生体適合性が阻害されず、医療用途に適した高分子化合物が得られることを見出した。
つまり、本発明は、
<1> ポリマーを成す主鎖に対してエーテル構造を含む側鎖部分をエーテル結合により結合させた繰返し単位を含むことを特徴とする高分子化合物である。
より具体的には、本発明は、鎖状、環状のエーテル構造を側鎖部分に含む繰り返し単位として、それぞれ以下の一般式(A),または(B)で表される繰返し単位を含むことを特徴とする高分子化合物等を提供するものであり、以下の通りである。
<2> 下記の一般式(A)および(B)で表される繰返し単位の少なくても一方を含むことを特徴とする高分子化合物である。
(式中、Rは、C1〜4の直鎖または分岐のアルキル基であり、Rは、H,またはC1〜4の直鎖または分岐のアルキル基であり、mは1〜10の自然数である。)
(式中、Rは、CH,またはCのいずれかから選択され、Rは、3員環から6員環のうちのいずれかの環状エーテルであって、環状エーテルに含まれる酸素原子の数(k)は、k≧1であり、RおよびRに含まれる任意の水素が、−OH,CH,Cのいずれか一つで置換されていても良い。)
<3>一般式(A)において、Rは、CH,C,C,Cのいずれかから選択され、Rは、H,CH,C,C,Cのいずれかから選択される、上記<2>に記載の高分子化合物である。
<4>一般式(A)および/または(B)で表される繰返し単位を30重量%以上の割合で含む、上記<2>または<3>に記載の高分子化合物である。
<5>上記<1>〜<4>のいずれかに記載の高分子化合物を含む組成物である。
<6>医療用材料として用いられる、上記<5>の組成物である。
<7>上記<5>または<6>の組成物を少なくとも一部に使用する機器である。
本発明の高分子化合物は、生体内組織や血液に接触した際に凝固系、補体系、または血小板系等の活性化等が抑制可能であり、生体適合性を有する。本発明に係る高分子化合物によれば、人工腎臓用膜、血漿分離膜、カテーテル、人工肺用膜、内視鏡、生体内組織やタンパク質の抽出用フィルター、人工血管等の人工臓器などの医療用に用いられる機器に使用されるものとして極めて有用である組成物が提供される。
以下、本発明に係る高分子化合物、組成物および機器について、詳細に説明する。
(I)高分子化合物
本発明の高分子化合物は、ポリマーを成す主鎖に対してエーテル構造を含む側鎖部分をエーテル結合により結合させた繰り返し単位を有する。エーテル構造とは、置換基を有していても良いポリオキシアルキレン基による構造である。本発明の高分子化合物は、その一形態として下記一般式(A)で表される、側鎖部分に鎖状のアルキルオキサイドである鎖状エーテル、または一般式(B)で表される環状エーテルを有する繰返し単位を構成成分として含有する。
一般式(A)において、RはC1〜4の直鎖または分岐のアルキル基であり、好ましくは、RはCH,C,C,またはCのいずれかを意味する。また、RはH,またはC1〜4の直鎖または分岐のアルキル基であり、好ましくは、RはH,CH,C,C,またはCのいずれかを意味する。mは1〜10の自然数であり、好ましくは 1〜4の範囲内にあり、より好ましくは1または2である。ここで、(R−O)の部分が、PEG等の単位構造であるエーテル構造を示す部分である。
本発明の高分子化合物中には、R,R、及びm値が相互に異なる一般式(A)で表される繰返し単位を含むことができる。つまり、本発明の高分子化合物は、主に炭素から構成される主鎖に対して、末端を水素又はアルキル基で終端したモノエーテル(m=1)、又はポリエーテル(m≧2)が側鎖になるようにエーテル結合により結合した構造を有する。例えば、RがCの場合には、本発明の高分子化合物はアルキル基等で終端されたPEGの構成単位である鎖状エーテル(C-O)を主鎖に対してエーテル結合により結合した構造を有することとなる。
また、一般式(B)においては、RはCH,またはCのいずれかから選択される構造を有する。また、Rは3員環から6員環のうちのいずれかの環状エーテルであって、環状エーテルに含まれる酸素原子の数(k)は、k≧1である。また、本発明においては、R,Rに含まれる任意の水素が−OH,CH,Cの少なくともいずれか一つで置換されたものを含むものとする。つまり、この形態の繰返し単位は、環状エーテルを主鎖に対してエーテル結合により結合した構造を有するものである。
従来から生体適合性材料として知られるPMEAやPHEMA等においては、ポリエーテルであるPEGの構成単位である鎖状エーテル(C-O)を主な構成とする側鎖部分を、不溶性である高分子の主鎖に対してエステル結合により結合し、PEGが有する生体適合性を維持したまま耐水溶性を付与していた。また、PTHFA等においては、環状エーテルを主な構成とする側鎖部分を、不溶性である高分子の主鎖に対してエステル結合により結合し、PEGが有する生体適合性を維持したまま耐水溶性を付与していた。これに対して、本発明の高分子化合物は、当該鎖状エーテル、環状エーテルを主鎖に対して結合させる結合手段としてエーテル結合を用いた点で特徴を有する。
鎖状エーテルや環状エーテル等のエーテル構造を有する側鎖を、主鎖に対してエーテル結合させた繰返し単位を有する高分子化合物が生体適合性を有し得る理由は明らかでないが、エーテル結合により結合された鎖状エーテル、環状エーテルを含む側鎖が、エステル結合で結合された場合と同様に高い運動性を維持可能であることが原因の一つであると考えられる。また、エステル結合は、それ自体がカルボニル結合に起因する極性を有しているために分子に強く拘束された不凍水を生成する原因になっていると考えられていたのに対し、エーテル結合の部分は非極性であるために中間水の割合を増加できる可能性が期待される。
本発明の高分子化合物の主鎖となる部分は、水溶性である側鎖部分を結合すると共に高分子化合物に全体として耐水溶性を付与することで生体適合材料を構成可能とする機能を果たす部分であり、典型的にはアルキル鎖で形成される。一方、医療用材料等として好ましい特性を付加するために、適宜の原子や原子団を導入することも可能である。高分子化合物の主鎖に適宜の原子や原子団を導入する場合には、上記一般式(A),または(B)で表される繰り返し単位を生じるモノマーと当該原子や原子団を含むモノマーを混合して共重合することにより、任意の原子や原子団が主鎖に導入された高分子化合物とすることができる。主鎖に導入される原子、原子団としては、例えば、エーテル結合を構成する酸素原子の他、アミドを構成する窒素等が挙げられる。
本発明の高分子化合物の主鎖となる部分は、線状のアルキル鎖等であるものの他、アルキル鎖に分岐を設けて二次元的な広がりを持つ主鎖とすることも可能である。主鎖を線状とすることで本発明の高分子化合物の流動性を高めることが可能となり、塗布法等により本発明の高分子化合物を用いる場合に便宜である。一方、二次元的な広がりを持つ主鎖とすることで、主鎖同士の絡み合いにより、本発明の高分子化合物を使用する際の強度を高める点で有利となる。
また、ビニル基に側鎖部分を結合したモノマーを重合することで、主鎖を構成する炭素原子の一つおきに側鎖を有する高分子化合物が得られる他、本発明の高分子化合物の用途に応じて、側鎖を設ける密度を変えた構造にすることも可能である。一般に側鎖の密度を高めることで、側鎖部分が有する特徴を強めることができる。一方、側鎖の密度を低くした場合には、全体として疎水性が強まる傾向が見られる。
(II)中間水について
一般式(A),または(B)で示される繰り返し単位において、側鎖の部分は生体適合性と密接に関係する中間水の保持に関与しているものと考えられる。中間水とは、例えば−100℃程度の低温からの昇温過程で水の低温結晶化に基づくコールドクリスタリゼーション(以下、CCと略す)に由来するシャープな発熱ピークが、典型的には−40℃付近に安定して観測される状態の水である。この低温結晶化は、非晶質の氷から結晶性の氷への転位であり、中間水は、高分子鎖と特定の相互作用により組織化された水であると考えられている。
このような中間水の含有割合に応じて、中間水が多い場合には、生体中のタンパク質や、血小板等の血球、各種体細胞の吸着が防止できる一方で、中間水の量を適宜調整することにより生体内に存在する物質を選択的に吸着可能であることが明らかになりつつある。
非特許文献9に記載されるように、PEG等の構成単位であるエーテル構造を含む高分子鎖による中間水の保持の可否は、高分子鎖の運動性により特徴付けられる傾向が観察されている。本発明に係る高分子化合物が生体適合性を示す理由は明らかでないが、当該化合物においても特にエーテル結合により結合された側鎖部分の運動性が維持されていることが直接の原因であると考えられる。
生体に対して適用される材料の生体適合性と密接に関係する中間水の状態は、材料を構成する分子鎖の運動性の他、生体成分との静電的相互作用と疎水性相互作用によって定まると考えられ、両者を小さくすることで生体内組織や血液中のタンパク質との接触においてタンパク質の吸着変性や活性化が抑制できると考えられている。一方、静電的相互作用や疎水性相互作用を適宜調整することで中間水の状態を調整し、特定のタンパク質や細胞を選択的に吸着するようにすることが可能である。
静電的相互作用は、材料中の分子内に含まれる極性基の種類や密度により定まり、窒素原子を含むアミノ基やイミノ基、カルボキシル基が含まれる場合に静電的相互作用が大きくなる。また、水酸基が存在する場合にも水酸基に起因した水素結合による生体成分との相互作用、吸着タンパク質の変性が観察される。疎水性相互作用は、材料中の分子内に含まれる疎水性基の割合や大きさによって定まると考えられる。特に大きな疎水性基を含まないようにすることで疎水性相互作用が抑制され、適切な親水性を有することになるため、血液と接して使用した場合に血小板の粘着が軽微となり、優れた生体適合性を発現することが可能となる。このため、本発明に係る高分子化合物においては、その使用目的に応じて化合物内に静電的相互作用や疎水性相互作用を示す部位を含ませることにより、高分子化合物が含有する中間水の状態を調整することが可能である。
本発明の高分子化合物においては、PMEA、PTHFA等と比較して、主鎖と側鎖の結合を極性が強いエステル結合をエーテル結合で置き換えることで、PMEA等と比較した場合に中間水の含有割合を高めることができると考えられる。これを利用して、より中間水の含有割合が高い範囲を含めた側鎖部分の分子設計が可能となり、望ましい形態で中間水を含有可能な材料を提供できるものと考えられる。
本発明の高分子化合物は、使用の目的に応じて一般式(A)で表される繰返し単位における側鎖部分を構成するRとして、CH,C,C,またはCを用いることができる。Rを成すアルキル鎖が短いほど親水性が高まる傾向が見られる一方で、RがC10以上の場合には疎水性が高まり中間水の保持が困難になる。また、RとOの結合で構成されるアルキルオキサイドの部分は1単位(m=1)でもよく、複数単位でもよい。Rの構造を一定とした場合、mの値が大きい場合には側鎖部分のポリエーテルとしての性格が強まり、水溶性が高まる傾向が見られる。高分子化合物中における一般式(A)で表される繰返し単位の密度が高い場合には、m≦4程度が好ましいが、当該密度が低い場合にはm≦10程度であれば高分子化合物が充分な耐水溶性を有する。一般式(A)で表される繰返し単位において、m≧2の場合には、それぞれの単位に含まれるRとして異なる長さのアルキル鎖を用いることができる。また、本発明の高分子化合物においては、分子内でm値が相互に異なる繰返し単位を含むことができる。
一般式(A)で表される繰返し単位における側鎖部分を構成するRとしては、H,CH,C,C,またはCを選択することができる。Rは、本発明の高分子化合物の側鎖部分を終端する部分であり、この部分の違いによっても側鎖部分の疎水性などを調整することができる。特にRとして水素を選択し、側鎖の先端をヒドロキシ基とすることで親水性を向上することができる。
重合により得られる高分子化合物においてこれらの一般式(A)の繰返し単位を与えるモノマーとしては、いわゆるアルコキシアルキルビニルエーテルであり、具体的には、例えばメトキシメチルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、メトキシプロピルビニルエーテル、メトキシイソプロピルビニルエーテル、メトキシブチルビニルエーテル、メトキシイソブチルビニルエーテル、エトキシメチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、エトキシプロピルビニルエーテル、エトキシイソプロピルビニルエーテル、エトキシブチルビニルエーテル、エトキシイソブチルビニルエーテル、プロポキシメチルビニルエーテル、イソプロポキシメチルビニルエーテル、プロポキシエチルビニルエーテル、イソプロポキシエチルビニルエーテル、プロポキシプロピルビニルエーテル、プロポキシイソプロピルビニルエーテル、イソプロポキシプロピルビニルエーテル、イソプロポキシイソプロピルビニルエーテル、プロポキシブチルビニルエーテル、イソプロポキシブチルビニルエーテル、メトキシエトキシエチルビニルエーテル、エトキシエトキシエチルビニルエーテル、プロポキシエトキシエチルビニルエーテル、イソプロポキシエトキシエチルビニルエーテル、メトキシエトキシエトキシエチルビニルエーテル、エトキシエトキシエトキシエチルビニルエーテル、プロポキシエトキシエトキシエチルビニルエーテル、イソプロポキシエトキシエトキシエチルビニルエーテル等が挙げられ、このうち経済性や操作性の点からメトキシアルキルビニルエーテルが好ましい。さらに、メトキシエチルビニルエーテルがより好ましい。
また、本発明の高分子化合物は、使用の目的に応じて一般式(B)で表される繰返し単位における側鎖部分を構成するRとして、CH,Cを用いることができる。Rを介在させずにRで示される環状エーテルを成す炭素原子とのエーテル結合を形成しようとした場合には、エステル結合によりPTHFAを構成する際と同様に、環状エーテルが不安定となって安定な繰返し単位を構成できない傾向がある。一方、Rとして長い炭素鎖を導入した場合には疎水性が高まり、良好な生体適合性の発現が困難になるため、Rとして、CH,Cを用いることが好ましい。また、Rの部分に含まれる任意の水素原子を−OH,CH,Cの少なくともいずれかで置換することにより、親水性/疎水性の程度を調整することができるため、高分子化合物の使用目的に応じて適宜の置換を行うことができる。
一般式(B)で表される繰返し単位の側鎖部分においてRで示される環状エーテル部分は、7員環以上の環状エーテルを用いた場合には構造が不安定になるため、3員環から6員環のいずれか環状エーテルであることが望ましい。環状エーテルに含まれる酸素原子の数や位置は、環状エーテルが安定に存在する範囲内で適宜設定することができる。例えば、3員環の場合には、存在する2個の炭素原子間に1個の酸素原子(k=1)が存在する構造が一意に決定されるが、5員環の場合には、1又は2個の酸素原子(k=1,2)を相互に隣接しない任意の位置に含むことができる。また、Rの部分に含まれる任意の水素原子を−OH,CH,Cで置換することにより、親水性/疎水性の程度を調整することができるため、高分子化合物の使用目的に応じて適宜の置換を行うことができる。
また、本発明の高分子化合物において一般式(B)の繰返し単位を与えるモノマーとしては、3員環の環状エーテルを含むグリシジルビニルエーテル、4員環の環状エーテルを含むオキセタニルビニルエーテル、5員環の環状エーテルを含むテトラヒドロフルフリルビニルエーテル、ジオキサニルビニルエーテル、6員環の環状エーテルを含むテトラヒドロピラニルビニルエーテルなどが挙げられる。合成と安定性の観点から、テトラヒドロフルフリルビニルエーテルが好ましい。
本発明の高分子化合物は、使用目的に応じて一般式(A),(B)で表される少なくとも一方の繰り返し単位を一部に含む重合物であればよく、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上を当該繰り返し単位とすることが望ましい。また、特に高い生体適合性が必要とされる用途においては、一般式(A),または(B)で表される繰り返し単位を70重量%以上、より好ましくは90重量%以上含むことが好ましい。すなわち、一般式(A),(B)により表される一種又は複数種の繰返し単位から構成される重合体・共重合体や、MEA,THFA等の一般式(A),(B)で表される以外の1種または2種以上の繰返し単位を含む共重合体であっても良い。その際に、一般式(A),(B)で表される以外の繰返し単位と、一般式(A),(B)で表される繰返し単位が、ランダムに共重合したものの他、交互に共重合したもの、ブロック共重合したもの、グラフト共重合したものであってもよく、共重合して得られる高分子化合物の用途に応じて適宜重合の形態を選択することができる。
また、一般式(A),または(B)で表される繰返し単位と共重合させるモノマーとして比較的長鎖のアルキル基や脂環式化合物、芳香族性化合物等の疎水性を与えるモノマーを用いることで、所定の生体内組織やタンパク質を吸着可能な高分子化合物とすることができる。また、生体適合性を阻害しない範囲で比較的極性が強いアミノ基やイミノ基、カルボキシル基、水酸基等を含む原子団を用いることでも、所定の生体内組織やタンパク質を吸着する目的で使用することができる。
式(A),または(B)で示される繰返し単位を与えるモノマーと共重合しうる他のモノマーとしては、例えば、アクリルアミド、t−ブチルアクリルアミド、n−ブチルアクリルアミド、i−ブチルアクリルアミド、ヘキシルアクリルアミド、ヘプチルアクリルアミドなどのアルキルアクリルアミド;N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミドなどのジアルキルアクリルアミド;アミノメチルアクリレート、アミノエチルアクリレート、アミノイソプロピルアクリレートなどのアミノアルキルアクリレート;ジアミノメチルアクリレート、ジアミノエチルアクリレート、ジアミノブチルアクリレートなどのジアミノアルキルアクリレート;メタクリルアミド;N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミドなどのN,N−ジアルキルメタクリルアミド;アミノメチルメタクリレート、アミノエチルメタクリレートなどのアミノアルキルメタクリレート;ジアミノメチルメタクリレート、ジアミノエチルメタクリレートなどのジアミノアルキルメタクリレート;メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどのアルキルアクリレート;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、メトキシエチルアクリレートなどのアルキルメタクリレート、メトキシエチルアクリレートなどのアルコキシアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの他のモノマーは、得られる高分子化合物の生体適合性が損なわれない程度の組成比で使用される。
このようにして得られる本発明の高分子化合物は、数平均分子量として、好ましくは10,000〜500,000、さらに好ましくは30,000〜100,000の範囲で用いられる。また、分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.0〜2.5であり、より好ましくは1.0〜1.5の範囲で使用される。つまり、本発明の高分子化合物に含まれる式(A)で示される繰返し単位の側鎖部分が水溶性を示す傾向があるのに対し、高分子化合物全体として耐水溶性を示す程度に重合を行い、主鎖を所定以上の長さとするが望ましい。一方、本発明の高分子化合物を使用する際の流動性等を確保する観点からは、平均分子量を過剰に大きくすることは望ましくない。また、分子量分布を揃えることにより、各種特性のばらつきを防止できる点で望ましい。
本発明の高分子化合物は、通常の合成方法により合成することができる。例えば、5員環の環状エーテルを含む側鎖をアルキル鎖からなる主鎖に対してエーテル結合により結合した高分子化合物を合成する方法としては、テトラヒドロ−2−フラニルメタノールとビニルエーテルクロライドを縮合反応させることでテトラヒドロフルフリルビニルエーテルモノマーを得ると共に、得られたモノマーを一般的なリビングカチオン重合させることにより、本発明に係る高分子化合物としてのポリ(テトラヒドロフルフリルビニルエーテル)を得ることができる。また、当該重合を行う際に適宜の他のモノマーを混合することで、共重合体とすることができる。
このようにして製造される種々の高分子化合物は、高分子化合物を適宜の有機溶媒に溶解させて単独で使用することもできるし、使用の目的に応じて他の高分子化合物と混合して使用する等、各種の組成物として使用することができる。また、本発明の医療機器は、生体内組織や血液と接して使用される表面の少なくとも一部分に本発明の高分子化合物を有していればよい。つまり、医療機器を成す基材の表面に対して、本発明の高分子化合物を含む組成物を表面処理剤として用いることができる。また、医療機器の少なくとも一部の部材を本発明の高分子化合物、又は、その組成物で構成しても良い。
(II)医療用組成物、医療機器
本発明の組成物は、上記一般式(A),(B)で表される繰返し単位を含む高分子化合物を含む組成物であり、医療用途に好ましく使用される組成物である。本発明の高分子化合物を他の高分子化合物と混合して組成物として使用する場合には、その使用の用途に応じて適宜の混合割合で使用することができる。特に、本発明の高分子化合物の割合を90重量%以上とすることで、本発明の特徴を強く有する組成物とすることができる。その他、使用の用途によっては、本発明の高分子化合物の割合を50〜70重量%とすることで、本発明の特徴を活かしつつ、各種の特性を併せ持つ組成物とすることができる。
また、本発明の医療機器は、本発明の組成物を少なくても表面の一部に有する医療用途に使用される機器である。本発明でいう医療機器の表面とは、例えば、医療機器が使用される際に血液等が接触する医療機器を構成する材料の表面ならびに材料内の孔の表面部分等をいう。
なお、本明細書において、「生体内組織や血液に接して使用され」とは、例えば、生体内に入れられた状態、生体内組織が露出した状態で当該組織や血液と接して使用される形態、および体外循環医用材料において体外に取り出した生体内成分である血液と接して使用される形態などを当然に含むものとする。また、「医療用途に使用され」とは、上記「生体内組織や血液に接して使用され」、又は、それを予定して使用されることを含むものである。
本発明において、医療機器を構成する部材の材質や形状は特に制限されることなく、例えば、多孔質体、繊維、不織布、粒子、フィルム、シート、チューブ、中空糸や粉末等いずれでも良い。その材質としては木錦、麻等の天然高分子、ナイロン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリオレフィン、ハロゲン化ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリ( メタ) アクリレート、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体等の合成高分子あるいはこれらの混合物が挙げられる。また、金属、セラミクスおよびそれらの複合材料等が例示でき、複数の基材より構成されていても構わない。
本発明の高分子化合物は、生体内組織や血液と接して使用される医療機器に用いることができ、体内埋め込み型の人工器官や治療器具、体外循環型の人工臓器類、さらにカテーテル類(血管造影用カテーテル、ガイドワイヤー、PTCA用カテーテル等の循環器用カテーテル、胃管カテーテル、胃腸カテーテル、食道チューブ等の消化器用カテーテル、チューブ、尿道カテーテル、尿菅カテーテル等の泌尿器科用カテーテル) 等の医療機器の血液と接する表面の少なくとも一部, 好ましくは血液と接する表面のほぼ全部に用いられることが望ましい。
本発明の高分子化合物は、止血剤、生体組織の粘着材、組織再生用の補修材、薬物徐放システムの担体、人工すい臓や人工肝臓等のハイブリッド人工臓器、人工血管、塞栓材、細胞工学用の足場のためのマトリックス材料等に用いても良い。
これらの医療器具においては、血管や組織への挿入を容易にして組織を損傷しないため、さらに表面潤滑性を付与してもよい。表面潤滑性を付与する方法としては水溶性高分子を不溶化して材料表面に吸水性のゲル層を形成させる方法が優れている。この方法によれば、生体適合性と表面潤滑性を併せ持つ材料表面を提供できる。
本発明の高分子化合物はそれ自体が生体適合性に優れた材料であるが、様々な生理活性物質をさらに担持させることもできるため、血液フィルターのみならず、血液保存容器、血液回路、留置針、カテーテル、ガイドワイヤー、ステント、人工肺装置、透析装置、内視鏡などの様々な医療機器に用いることができる。
具体的には、本発明の高分子化合物を、血液フィルターを構成する基材表面の少なくとも一部にコーティングしてもよい。また、血液バッグと前記血液バッグに連通するチューブの血液と接する表面の少なくとも一部に本発明の高分子化合物をコーティングしてもよい。また、チューブ、動脈フィルター、遠心ポンプ、ヘモコンセントレーター、カーディオプレギア等からなる器械側血液回路部、チューブ、カテーテル、サッカー等からなる術野側血液回路部から構成される体外循環血液回路の血液と接する表面の少なくとも一部を本発明の高分子化合物でコーティングしてもよい。
また、先端に鋭利な針先を有する内針と、前記内針の基端側に設置された内針ハブと、前記内針が挿入可能な中空の外針と、前記外針の基端側に設置された外針ハブと、前記内針に装着され、かつ前記内針の軸方向に移動可能なプロテクタと、前記外針ハブと前記プロテクタとを連結する連結手段とを備えた留置針組立体の、血液と接する表面の少なくとも一部が本発明の高分子化合物でコーティングされてもよい。また、長尺チューブとその基端(手元側)に接続させたアダプターから構成されるカテーテルの血液と接触する表面の少なくとも一部が本発明の高分子化合物でコーティングされてもよい。
また、ガイドワイヤーの血液と接触する表面の少なくとも一部が本発明の高分子化合物でコーティングされてもよい。また、金属材料や高分子材料よりなる中空管状体の側面に細孔を設けたものや金属材料のワイヤや高分子材料の繊維を編み上げて円筒形に成形したもの等、様々な形状のステントの血液と接触する表面の少なくとも一部が本発明の高分子化合物でコーティングされてもよい。
また、多数のガス交換用多孔質中空糸膜をハウジングに収納し、中空糸膜の外面側に血液が流れ、中空糸膜の内部に酸素含有ガスが流れるタイプの中空糸膜外部血液灌流型人工肺の、中空糸膜の外面もしくは外面層に、本発明の高分子化合物が被覆されている人工肺としてもよい。
また、透析液が充填された少なくとも一つの透析液容器と、透析液を回収する少なくとも一つの排液容器とを含む透析液回路と、前記透析液容器を起点とし、または、前記排液容器を終点として、透析液を送液する送液手段とを有する透析装置であって、その血液と接する表面の少なくとも一部が本発明の高分子でコーティングされてもよい。
本発明の高分子化合物を製造するための重合反応には特別の制限はなく、ラジカル重合やイオン重合や光重合、マクロマーを利用した重合等の公知の方法で重合される。なお、マクロマーとは、末端に重合性官能基、特に二重結合を有するオリゴマーを指す。
本発明の高分子化合物を含む組成物を医療用機器等の表面に保持させる方法としては、コーティング法、放射線、電子線および紫外線によるグラフト重合、基材の官能基との化学反応を利用して導入する方法等の公知の方法が挙げられる。この中でも特にコーティング法は製造操作が容易であるため、実用上好ましい。さらにコーティング方法についても、塗布法、スプレー法、ディップ法等があるが、特に制限なくいずれも適用できる。その膜厚は、好ましくは、0.1μm〜1mmである。例えば、本発明の高分子化合物を含む組成物の塗布法によるコーティング処理は、適当な溶媒に本発明の高分子化合物を含む組成物を溶解したコーティング溶液に、コーティングを行う部材を浸漬した後、余分な溶液を除き、ついで風乾させるなどの簡単な操作で実施できる。また、コーティングを行う部材に本発明の高分子化合物をより強固に固定化させるために、コーティング後に熱を加え、本発明の高分子化合物との接着性を更に高めることもできる。また、表面を架橋することで固定化しても良い。架橋する方法として、コモノマー成分として架橋性モノマーを導入しても良い。また、電子線、γ線、光照射によって架橋しても良い。
架橋性モノマーとしては、メチレンビスアクリルアミド、トリメチロールプロパンジアクリレート、トリアリルイソシアネート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート等のビニル基またはアリル基を1分子中に複数個有する化合物のほかに、ポリエチレングリコールジアクリレートがあげられる。このうち、ポリエチレングリコールジアクリレートを用いて、種々の官能基を導入した場合が、官能基を有する化合物の導入率が高く、更にポリエチレングリコール鎖を導入して親水性化できることにより、上記のように目的以外の細胞やタンパク質等の非特異的吸着が抑制されるので好ましい。この場合のポリエチレングリコール鎖の分子量は好ましくは100〜10000、さらに好ましくは500〜6000である。
以上のように本発明の高分子化合物を含む組成物を、医療機器の血液と接触する表面の少なくとも一部に導入すると、凝固系、補体系、血小板系の活性化等を抑制することが可能であり、優れた生体適合性を付与することができる。
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
[実施例]
ポリメトキシエチルビニルエーテル材を以下の方法で作製した。2−メトキシエチルビニルエーテルモノマー10gを、乾燥酢酸エチル10g、重合開始剤としての1−ブトキシエチルアセテート40mMトルエン溶液10mL、乾燥トルエン120mL中でアルゴン気流下、0℃に冷却した後、撹拌しながらEt1.5AlCl1.5の1Mトルエン溶液2.5mLを添加した。これを0℃で30分撹拌後、反応液にエタノールを15mL添加し反応停止後、反応液をトルエンで希釈して洗浄し、有機相から溶媒を留去し生成物を得た。次いで、80℃の温水で3回洗浄を行った。一昼夜減圧乾燥し7.2gのポリマーを得た。得られたポリマーの構造は、1H‐NMRによって確認した。GPCの分子量分析の結果から、数平均分子量(Mn)が29,000であり分子量分布(Mw/Mn)は1.2であった。
[参考例]
参考例として、ポリ(2−メトキシエチルアクリレート,PMEA)材を以下の方法で作製した。2−メトキシエチルアクリレート15gを1,4−ジオキサン60g中でアゾビスイソブチロニトリル(0.1重量%)を開始剤として、窒素バブリングしながら75℃で10時間重合を行った。重合反応終了後、n−ヘキサンに滴下し沈殿させ、生成物を単離した。生成物をテトラヒドロフランに溶解し、さらに2回n−ヘキサンを用いて精製を行った。精製物を一昼夜減圧乾燥した。無色透明で水飴状のポリマーが得られた。収量(収率)は12.3g(82.0%)であった。得られたポリマー構造は、H−NMRによって確認した。GPCの分子量分析の結果から、数平均分子量(Mn)が26,000であり分子量分布(Mw/Mn)は3.27であった。
1,血液適合性試験
血液適合性を調べるために、上記実施例、参考例に係るポリマーで表面被覆したポリエチレンテレフタレート(PET)板、及び、比較例として、ポリアクリルアミド(比較例1)で表面被覆したPET板、表面処理されていないポリプロピレンシート(比較例2)表面処理されていないPET板(比較例3)について、血小板の粘着テストを行った。
実施例に係るポリマーによるPET板の表面被覆は、上記実施例で得られたポリマーのメタノール溶液をPET板表面に塗布し、溶媒を蒸発乾固して、ポリメトキシエチルビニルエーテルを構成成分とした膜を得た後、60Coを放射線源として、80kGy(10kGy/hで8時間)のγ線を照射して架橋させることにより行った。参考例に係るポリマーによるPET板の表面被覆は、上記参考例で得られたPMEAポリマーのメタノール溶液をPET板表面に塗布し、溶媒を蒸発乾固することで行った。
比較例1に係るポリアクリルアミドポリマーによるPET板の表面被覆は、ポリアクリルアミドのエタノール溶液をPET板表面に塗布し、溶媒を蒸発乾固して皮膜を得た後、60Coを放射線源として、80kGy(10kGy/hで8時間)のγ線を照射して架橋させることにより行った。
次に、上記で作成した実施例、参考例、比較例1〜3に係る各表面に、クエン酸ナトリウムで抗凝固した人新鮮多血小板血漿を37℃、120分間接触させた後、リン酸緩衝溶液でリンスし、グルタルアルデヒドで固定し、サンプル表面1×10μmあたりに粘着した血小板数を電子顕微鏡で観察した。血小板の粘着形態変化の進行度により、I(正常)、II(偽足形成)、III(伸展)型に分類して血液との適合性の評価を行い、PET板(比較例3)に粘着した全血小板数を1000とした場合の粘着血小板の相対数を調査した。
当該調査の結果を表1に示す。実施例に係るポリメトキシエチルビニルエーテルを構成成分とするポリマーで被覆された表面では、各比較例と比較して血小板粘着数が少なく、更に、粘着した血小板において形態変化(偽足形成や伸展)した割合が小さいことが示された。また、本願発明の実施例に係る表面では、生体適合性材料として実用化されているPMEA(参考例)と比較した場合でも血小板粘着数が同等以下であって、血小板を活性化させる程度が小さいことが示された。
2,ブラジキニン産生量試験、C3a産生量試験
各材料表面における凝固系および補体系の活性化の程度を調査するため、各材料表面におけるブラジキニン産生量の調査、及び、補体化性のマーカーであるC3a産生量の調査を行った。
実施例及び参考例で調整したポリマーのそれぞれのメタノール溶液に、ポリウレタン多孔質体を浸漬した後、60℃の温水で4時間シャワー洗浄を行った後に多孔質体を乾燥させて各ポリマーをコーティングした。その後、厚さ0.6mm、直径55mmに打ち抜き、血液フィルターとし、血液回路に組み込んで試料とした。
比較例のため、コーティングを施さない未処理のウレタン多孔質体を用いて上記と同様に血液フィルターに成形し、血液回路に組み込んで比較例4とした。また、ポリアクリルアミドのエタノール溶液を用いて、上記実施例と同様の方法でポリウレタン多孔質体にポリアクリルアミドをコーティングしたものを同様に血液フィルターとし、血液回路に組み込んで比較例5とした。
実施例、参考例、及び比較例4,5によりヒト血液を濾過し、その際の血液中におけるブラジキニンの産生量、及び、C3aの産生量の調査を行った。ブラジキニンの産生量の測定は、以下のように行った。すなわち、濾過後の血液にブラジキニン分解抑制剤である1,10−フェナントロリン(東京化成)を5mM添加した後、遠心分離により血漿分離を行い、凍結保存して、RIA−PEG法によりブラジキニンの含有量を測定した。C3aの産生量の測定は、ヒト血液中の血漿成分に含まれる量をELISA法による比色定量により行った。
上記方法により観察された、各血液フィルターでのヒト血液濾過時のブラジキニン産生量とC3a産生量を、コーティングを施さない未処理のウレタン多孔質体からなる血液フィルター(比較例4)を使用した場合の各成分の産生量を基準(1.00)として、表2に示す。
表2から明らかなように、本発明の実施例に係る材料表面においては、濾過時のブラジキニンの産生量が未処理フィルター(比較例4)と比較して約1/3に抑制されたのに対し、ポリアクリルアミドをコーティングした場合(比較例5)では、ブラジキニンの産生量の低下は見られなかった。また、本発明の実施例に係る材料表面においては、PMEAでコーティングした場合(参考例)と比較した場合においても、大きなブラジキニン産生量の低下が見られた。
また、本発明に係る材料表面においては、C3a産生量についても未処理フィルター(比較例4)と比較して低下することが観察された。特に、現在、生体適合性材料として使用されているPMEA表面においてもC3aの産生を抑制することが困難であり、補体化の抑制が困難であると考えられるのに対して、本発明に係る材料表面においては、C3a産生の抑制が可能であることが示されている。

Claims (5)

  1. ポリマーを成す主鎖に対してエーテル構造を含む側鎖部分をエーテル結合により結合させた繰返し単位であって、下記の一般式(A)および(B)で表される繰返し単位の少なくても一方を含む高分子化合物を含む組成物であって、
    血液フィルター、人工血管、ステント又は体外循環医療用材料において体外に取り出した生体内成分である血液と接して使用される部材に使用されることを特徴とする組成物
    (式中、Rは、C1〜4の直鎖または分岐のアルキレン基であり、Rは、H,またはC1〜4の直鎖または分岐のアルキル基であり、mは1〜10の自然数である。)
    (式中、Rは、CH,またはCのいずれかから選択され、Rは、3員環から6員環のうちのいずれかの環状エーテルであって、環状エーテルに含まれる酸素原子の数(k)は、k≧1であり、RおよびRに含まれる任意の水素が、−OH,CH,Cの少なくともいずれか一つで置換されていても良い。)
  2. 前記体外循環医療用材料において体外に取り出した生体内成分である血液と接して使用される部材は、外部血液灌流型人工肺、又は透析装置において体外に取り出した生体内成分である血液と接して使用される部材であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
  3. 一般式(A)において、Rは、CH,C,C,Cのいずれかから選択され、Rは、H,CH,C,C,Cのいずれかから選択される、請求項1または2に記載の組成物
  4. 前記高分子化合物は、前記一般式(A)および/または(B)で表される繰返し単位を30重量%以上の割合で含むことを特徴とする、請求項1からのいずれかに記載の組成物
  5. 請求項1から4のいずれかに記載の組成物を少なくとも一部に使用することを特徴とする機器。
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