図1は、捩り振動低減装置の実施形態の一例における一部を示す断面図であり、図2は、捩り振動低減装置の実施形態の一例における一部を拡大して示す図である。この捩り振動低減装置は、制振対象に取り付けられる回転体1を備えている。その回転体1は円盤状の部材であって、回転体1の回転中心から半径方向に外れた箇所に、円周方向に長いガイド孔2が回転体1を板厚方向に貫通して形成されている。このガイド孔2は回転体1の円周方向に予め定めた間隔をあけて形成されており、一例として8つ形成されている。
各ガイド孔2の内部に、回転体1に伝達されるトルクが変動した場合に慣性力で往復動する転動体3が配置されている。その転動体3は、回転体1が回転した場合に遠心力によってガイド孔2の内面のうち回転体1の半径方向で外側の内面に押し付けられ、その内面に沿って転動する。以下の説明では、このガイド孔2の内面のうち回転体1の半径方向で外側の内面をガイド面4と記す。また転動体3のうちガイド面4に接触する部分は、断面が円形となっている。したがって、転動体3は、図1に示すように、単純な円盤状もしくは円柱状の部材であってよい。また、図3に示すように、ガイド孔2からその軸線方向に抜け出ないように断面が「H」形に形成されていてもよい。すなわち、円盤状もしくは円柱状の本体部3aの両端部に、当該本体部の外径より大きい外径の円盤状のフランジ部3b,3cが設けられていて、それらのフランジ部3b,3cが回転体1の側面に引っ掛かるようになっていてもよい。これらの回転体1および転動体3は、それらに要求される強度や質量などを満たすため、金属材料によって形成されることが好ましい。
各転動体3は、連結部材5によってガイド面4上を往復動可能に互いに連結されている。この連結部材5は転動体3の往復動を阻害しないために例えば合成樹脂材料によって形成されることが好ましい。上記の連結部材5は環状の支持部6を備え、この支持部6は回転体1の側面に沿って配置されている。この支持部6の円周方向であってガイド孔2に対応する位置に転動体3を保持する収容部7が設けられている。例えば支持部6の円周方向に8つの収容部7が設けられている。この収容部7は、図1に示す例では、支持部6に対して回転体1の軸線方向にずれて形成されており、ガイド孔2内に配置されている。またこの収容部7は、転動体3の重心gを通りかつ回転体1の軸線方向に垂直な平面内で転動体3を保持するように構成されている。具体的には、伝達されるトルクの変動によって転動体3が往復動する際に当該転動体3が回転体1の軸線方向に移動する場合がある。この軸線方向への転動体3の移動を、以下の説明では、前後動と記す。つまりガイド面4上における転動体3の重心gの位置は前記軸線方向に変化する。前記軸線方向での収容部7の幅7wは、この軸線方向における転動体3の重心gの移動長さglと同じかそれより幅広に形成されている。また収容部7は、転動体3の外周面3sのうち前記重心gの移動長さglを含む範囲を外周面3s側から保持するようにガイド孔2内に配置されている。こうすることにより、トルクの変動によって回転体1の円周方向に往復動し、また回転体1の軸線方向に前後動する転動体3の重心gを支持するようになっている。
さらに各収容部7は、図2に示すように、回転体1の半径方向で外側に開口したほぼ半円状に形成されており、この収容部7内に転動体3が嵌め込まれる。つまり転動体3は、その外周面3s側から保持される。前記半径方向で外側に開口する開口部7aから転動体3の外周面3sの一部が露出するようになっている。こうすることにより遠心力によって転動体3が回転体1の半径方向で外側に移動した場合に、開口部7aから転動体3の外周面3sの一部が露出し、その露出した外周面3sがガイド面4に押しつけられる。
収容部7の内面のうち回転体1の半径方向で外側の部分すなわち回転体1の円周方向で開口部7aの両端部は、ここに示す例では、転動体3の外周面3sに線接触または点接触するように、転動体3の曲率より大きい曲率の円弧面となっている。この両端部がこの発明における接触部となっている。以下の説明では、開口部7aの両端部を接触部7b,7cと記す。また、上記の収容部7は、遠心力によって転動体3がガイド孔2における回転体1の中心から最も遠い箇所に移動させられた場合に、回転体1の半径方向で転動体3の重心gより外側であって、回転体1の円周方向で前記重心gの両側に各接触部7b,7cが配置されるように形成されている。こうすることにより回転体1の半径方向で外側に連結部材5の収容部7から転動体3がはずれ、そのはずれた転動体3がガイド孔2の内面に衝突して異音が生じることを抑制できるようになっている。そして、転動体3が往復動した場合に、転動体3の外周面3sに対して接触部7b,7cが交互に線接触または点接触する。なお、図3に示す断面が「H」形の転動体3を使用する場合には、連結部材5の収容部7によって転動体3における本体部の外周面3sを保持する。
また、回転体1の半径方向での中間部から外周端に到る部分が、図1および図3に示すように、ケーシング8によって囲われており、そのケーシング8の中空部に、上述したガイド孔2および転動体3ならびに連結部材5が配置されている。上記のケーシング8は、例えば、軸線方向に凹んでおりかつ全体として環状に形成された第1ケース部材8aと第2ケース部材8bとによって構成されている。各ケース部材8a,8bの内周側部分は互いに接近して回転体1の内周部分を挟み付け、回転体1と一体化されている。また、第1ケース部材8aの外周側の端部は、回転体1の外周端面を覆って第2ケース部材8b側に延びており、かつ、各ケース部材8a,8bの外周端部同士が一体化されている。
上述した構成の捩り振動低減装置の作用・効果について説明する。回転体1が回転すると、遠心力によって転動体3はガイド孔2のうち回転体1の中心から最も遠い箇所に移動させられる。回転体1のトルクが変動すると、転動体3は慣性力によってガイド孔2の内部ですなわちガイド面4に押し付けられた状態で往復動する。このような転動体3の往復動によって回転体1の捩り振動が低減させられる。連結部材5は転動体3の往復動に伴って往復動する。また、トルクの変動が大きくなると、それに伴って転動体3の振幅も大きくなり、転動体3が回転体1の円周方向でのガイド孔2の内面に接近する可能性がある。しかしながら、上述した構成では、転動体3を保持する収容部7がガイド孔2内に配置されているため、転動体3とガイド面4以外のガイド孔2の内面とが直接接触もしくは衝突することが抑制されており、それらが接触もしくは衝突することによる異音の発生を抑制できる。ここで、上述したように回転体1および転動体3を金属材料によって形成し、連結部材5を合成樹脂材料によって形成するとすれば、金属同士の接触による異音の発生を防止できるとともに、連結部材5を緩衝材として機能させることができ、より効果的に異音の発生を抑制できる。またこうすることにより、転動体3およびガイド孔2の耐久性の悪化を抑制できる。
また、上述したように、転動体3が往復動する際に、転動体3が回転体1の軸線方向に移動する場合がある。連結部材5の収容部7は、転動体3の外周面3sのうち前記軸線方向への転動体3の重心gの移動長さglを含む範囲を保持するように構成されている。そのため、ガイド面4に沿って転動体3が往復動する際に前記軸線方向に前後動したとしても、転動体3の重心gは収容部7によって支持される。したがって、転動体3の外周面3sと連結部材5の各接触部7b,7cとの接触に伴う荷重は転動体3の軸線方向での中央部すなわち重心gに作用する。そのため、前記接触に伴う荷重が転動体3に作用するとしても、転動体3の往復動方向に対して転動体3を回転させるヨーモーメントが生じにくく、転動体3が往復動する際に傾くことを抑制できる。また、各接触部7b,7cは、転動体3の外周面3sに対して線接触または点接触する。したがって、転動体3の側面に沿って連結部材5を配置することによりそれらが面接触する場合に比較して転動体3と連結部材5との接触面積を低減でき、これらの間の摺動摩擦を抑制できる。その摺動摩擦が抵抗となって転動体3の往復動が阻害されることを抑制できる。これらの結果、安定して転動体3を往復動させることができ、制振性能を向上できる。
一方、回転体1の回転速度の低下に伴って転動体3に生じる遠心力が小さくなり、その遠心力が転動体3に作用する重力より小さくなると、重力によって転動体3はガイド孔2の下方に移動しようとする。各転動体3は連結部材5の収容部7に保持されており、回転体1の回転中心軸線を対称の中心として点対称に前記収容部7に保持された転動体3同士がバランスする。そのため、ガイド孔3の下方への転動体3の移動が緩慢になったり、連結部材5を介して転動体3とガイド孔2の内面とが接触する際の荷重が小さくなったりする。また上述したように転動体3の外周面3sは、ガイド面4以外のガイド孔2の内面に対して直接接触しにくくなっている。それらの結果、転動体3とガイド孔2の内面との接触に伴う異音の発生を抑制できる。またこれにより転動体3やガイド面4の耐久性を向上できる。
また、上記構成の捩り振動低減装置では、連結部材5は、回転体1の半径方向で転動体3の内側にオーバーラップして配置されているため、連結部材5を転動体3の側面に沿って配置する場合に比較して捩り振動低減装置の軸長の増大を抑制できる。さらに、連結部材5の収容部7は、ガイド孔2内に配置され、かつ、転動体3の外周面3sを保持するため、回転体1の半径方向でのガイド孔2内のスペースを縮小することができる。つまりガイド孔2内での転動体3の自由な移動を制限でき、これによっても上述した異音の発生を抑制できる。また、複数の転動体3を連結するために転動体3の形状を変更する必要が無く、転動体3の設計や製造、加工などが容易になり、その分、転動体3にかかるコストを抑制できる。
図4は、捩り振動低減装置の実施形態の他の例における一部を示す断面図であり、ここに示す例は、回転体1の半径方向での内側部分に対してガイド面4が形成される外側部分を回転体1の軸線方向にずれた位置に形成した例である。一方、連結部材5は平板の円盤状に形成されている。すなわち支持部6は平板環状に形成されており、その支持部6の円周方向であってガイド孔2に応じた位置に図1に示す構成と同様に収容部7がそれぞれ形成されている。また、転動体3は図4に示す例では、単純な円盤状もしくは円柱状に形成されている。
図5は、図4に示す単純な円盤状もしくは円柱状の転動体3に替えて、断面が「H」形の転動体3をガイド孔2に配置した例であり、図5に示す連結部材5の収容部7は、転動体3における本体部の外周面3sを保持している。
図4および図5に示す構成であっても、連結部材5の収容部7は、転動体3の外周面3sのうち前記軸線方向への重心gの移動長さglを含む範囲を保持する。そのため、ガイド面4に沿って転動体3が往復動する際に前記軸線方向に前後動したとしても、転動体3の重心gは収容部7によって支持される。また、転動体3が往復動する際に、転動体3の外周面3sに対して連結部材5の各接触部7b,7cが線接触または点接触する。そのため、図4および図5に示す構成であっても、図1および図3に示す例と同様の作用・効果を得ることができる。
図6は、捩り振動低減装置の実施形態の更に他の例における一部を示す断面図であり、ここに示す例は、上記の連結部材5を、同一形状の2枚の環状の部材によって構成した例である。具体的には、第1環状部材501および第2環状部材502の各板厚は上記の連結部材5の板厚より薄く形成されている。したがって、支持部601,602は薄い平板環状に形成されており、それら支持部601,602の円周方向で上記のガイド孔2に応じた位置に、同様に板厚が薄い収容部701,702がそれぞれ設けられている。各収容部701,702は、図6に示す例では、支持部601,602に対して回転体1の軸線方向にずれて形成されており、こうすることによりガイド孔2内に配置されるようになっている。また、各収容部701,702は、それらの板厚が図1および図3に示す収容部7の板厚より薄くなっている以外は、図1および図3に示す収容部7と同様に構成されている。
そして図6における回転体1の両側に、つまり回転体1を挟んで第1環状部材501と第2環状部材502とを対称に配置する。この場合に、収容部701と収容部702とを互いに重なり合うように接近させ、それら収容部701と収容部702との間の間隔7wを上述した転動体3の重心gの移動長さglと同じかそれより幅広にする。また、各環状部材501,502同士を図示しないピンによって互いに連結する。つまり各収容部701,702によって転動体3の重心gを支持するようになっている。また、転動体3は図6に示す例では、単純な円盤状もしくは円柱状に形成されているが、これに替えて、図3や図5に示すように断面が「H」形の転動体3であってもよい。その場合、断面が「H」形の転動体3の本体部3aの外周面3sを収容部701,702によって保持する。
上述した図6に示す構成であっても、各収容部701,702は、転動体3の外周面3sのうち転動体3の重心gの移動長さglを含む範囲を保持する。そのため、ガイド面4に沿って転動体3が往復動する際に前記軸線方向に前後動したとしても、転動体3の重心gは収容部7によって支持される。また、転動体3が往復動する際に、転動体3の外周面3sに対して連結部材5の各接触部7b,7cが線接触または点接触する。そのため、図6に示す構成であっても、図1および図3ないし図5に示す例と同様の作用・効果を得ることができる。
なお、ガイド面4は回転体1の円周方向に連続的に形成されていてもよい。具体的には、回転体1の板厚方向に貫通した中空部が回転体1の全周に亘って形成され、その環状の中空部の内面のうち回転体1の半径方向で外側の内面を回転体1の半径方向に連続して凹凸に変化する曲面として形成する。また、前記中空部の内面のうち回転体1の半径方向で内側の内面を単純な円弧面として形成する。これら外周側の内面と内周側の内面との間隔が狭い部分の間によって区画された部分を転動体3が挿入されるガイド孔2とし、また、前記外周側の内面をガイド面4としてもよい。