以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。各図面を通じて同一もしくは同等の部位や構成要素には、同一もしくは同等の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものとは異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
また、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
図1は、本発明の実施の形態に係るインクジェット印刷装置の構成を示すブロック図である。図2は、図1に示すインクジェット印刷装置の印刷部および圧力生成部の概略構成図である。なお、以下の説明における上下方向は鉛直方向であり、図2における紙面の上下を上下方向とする。
図1に示すように、本実施の形態に係るインクジェット印刷装置1は、4つの印刷部2と、圧力生成部3と、搬送部4と、制御部5とを備える。
印刷部2は、インクを循環させつつ、搬送部4により搬送される用紙にインクを吐出して画像を印刷する。4つの印刷部2は、それぞれ異なる色(例えば、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー)のインクを吐出する。4つの印刷部2は、吐出するインクの色が異なる以外は、同様の構成を有する。
図2に示すように、印刷部2は、インクジェットヘッド11と、インク循環部12と、インク補給部13とを備える。
インクジェットヘッド11は、インク循環部12により供給されるインクを吐出する。インクジェットヘッド11は、複数のヘッドモジュール16からなる。
ヘッドモジュール16は、インクを貯留するインクチャンバ(図示せず)と、インクを吐出する複数のノズル(図示せず)とを有する。インクチャンバ内には、ピエゾ素子(図示せず)が配置されている。ピエゾ素子の駆動により、ノズルからインクが吐出される。
インク循環部12は、インクを循環させつつインクジェットヘッド11にインクを供給する。インク循環部12は、加圧タンク21と、分配器22と、集合器23と、負圧タンク24と、インクポンプ25と、インク温度調整部26と、インク温度センサ27と、インク循環管28〜30とを備える。
加圧タンク21は、インクジェットヘッド11に供給するインクを貯留する。加圧タンク21のインクは、インク循環管28および分配器22を介してインクジェットヘッド11に供給される。加圧タンク21内には、インクの液面上に空気層31が形成されている。加圧タンク21は、後述の加圧側連通管52を介して、後述の加圧共通気室51に連通されている。加圧タンク21は、インクジェットヘッド11より低い位置(下方)に配置されている。なお、空気層31は、後述の加圧空間部83(図3参照)の一部を構成する。
加圧タンク21には、フロート部材32と、加圧タンク液面センサ33と、インクフィルタ34とが設けられている。
フロート部材32は、加圧タンク21内のインクの液面高さが基準高さに達するまで、液面高さに応じて回動するように、加圧タンク21内に支持軸(図示せず)により一端側が軸支されている。フロート部材32の他端には、磁石(図示せず)が設けられている。
加圧タンク液面センサ33は、加圧タンク21内のインクの液面高さが基準高さに達しているか否かを検出するためのものである。基準高さは、加圧タンク21の上端より下方にある。加圧タンク液面センサ33は、磁気センサからなり、液面高さが基準高さに達しているときのフロート部材32の磁石を検出する。加圧タンク液面センサ33は、フロート部材32の磁石を検出している場合、すなわち、加圧タンク21内の液面高さが基準高さ以上である場合、「オン」を示す信号を出力する。加圧タンク液面センサ33は、フロート部材32の磁石を検出していない場合、すなわち、加圧タンク21内の液面高さが基準高さ未満である場合、「オフ」を示す信号を出力する。
インクフィルタ34は、インク内のゴミ等を除去する。
分配器22は、インク循環管28を介して加圧タンク21から供給されるインクを、インクジェットヘッド11の各ヘッドモジュール16に分配する。
集合器23は、インクジェットヘッド11で消費されなかったインクを各ヘッドモジュール16から集める。集合器23により集められたインクは、インク循環管29を介して負圧タンク24へと流れる。
負圧タンク24は、インクジェットヘッド11で消費されなかったインクを集合器23から受け取って貯留する。また、負圧タンク24は、後述するインク補給部13のインクカートリッジ46から補給されるインクを貯留する。負圧タンク24内には、インクの液面上に空気層36が形成されている。負圧タンク24は、後述の負圧側連通管59を介して、後述の負圧共通気室58に連通されている。負圧タンク24は、加圧タンク21と同じ高さに配置されている。なお、空気層36は、後述の負圧空間部84(図3参照)の一部を構成する。
負圧タンク24には、フロート部材37と、負圧タンク液面センサ38とが設けられている。
フロート部材37、負圧タンク液面センサ38は、それぞれ加圧タンク21のフロート部材32、加圧タンク液面センサ33と同様のものである。負圧タンク液面センサ38は、フロート部材37の磁石を検出している場合、すなわち、負圧タンク24内の液面高さが基準高さ以上である場合、「オン」を示す信号を出力する。負圧タンク液面センサ38は、フロート部材37の磁石を検出していない場合、すなわち、負圧タンク24内の液面高さが基準高さ未満である場合、「オフ」を示す信号を出力する。基準高さは、負圧タンク24の上端より下方にある。
インクポンプ25は、負圧タンク24から加圧タンク21へインクを送液する。インクポンプ25は、インク循環管30の途中に設けられている。
インク温度調整部26は、インク循環部12におけるインクの温度を調整する。インク温度調整部26は、インク循環管28の途中に設けられている。インク温度調整部26は、ヒータ41と、ヒータ温度センサ42と、ヒートシンク43と、冷却ファン44とを備える。
ヒータ41は、インク循環管28内のインクを加熱する。ヒータ温度センサ42は、ヒータ41の温度を検出する。ヒートシンク43は、放熱によりインク循環管28内のインクを冷却する。冷却ファン44は、ヒートシンク43に冷却風を送る。
インク温度センサ27は、インク循環部12におけるインクの温度を検出する。インク温度センサ27は、インク循環管28の途中に設けられている。
インク循環管28は、加圧タンク21と分配器22とを接続する。インク循環管28の一部は、ヒータ41を経由する部分とヒートシンク43を経由する部分とに分岐している。インク循環管28には、加圧タンク21から分配器22に向かってインクが流れる。インク循環管29は、集合器23と負圧タンク24とを接続する。インク循環管29には、集合器23から負圧タンク24に向かってインクが流れる。インク循環管30は、負圧タンク24と加圧タンク21とを接続する。インク循環管30には、負圧タンク24から加圧タンク21に向かってインクが流れる。インク循環管28〜30と分配器22と集合器23とにより、加圧タンク21とインクジェットヘッド11と負圧タンク24との間でインクを循環させる循環経路が構成される。
インク補給部13は、インク循環部12にインクを補給する。インク補給部13は、インクカートリッジ46と、インク補給弁47と、インク補給管48とを備える。
インクカートリッジ46は、インクジェットヘッド11による印刷に用いるインクを収容している。インクカートリッジ46内のインクは、インク補給管48を介してインク循環部12の負圧タンク24に供給される。
インク補給弁47は、インク補給管48内のインクの流路を開閉する。負圧タンク24へインクを補給する際、インク補給弁47が開かれる。
インク補給管48は、インクカートリッジ46と負圧タンク24とを接続する。インク補給管48には、インクカートリッジ46から負圧タンク24に向かってインクが流れる。
圧力生成部3は、各印刷部2の加圧タンク21および負圧タンク24にインク循環のための圧力を生成する。圧力生成部3は、加圧共通気室51と、4本の加圧側連通管52と、加圧側大気開放弁53と、加圧側大気開放管54と、加圧側圧力調整弁55と、加圧側圧力調整管56と、加圧側圧力センサ57と、負圧共通気室58と、4本の負圧側連通管59と、負圧側大気開放弁60と、負圧側大気開放管61と、負圧側圧力調整弁62と、負圧側圧力調整管63と、負圧側圧力センサ64と、エアポンプ65と、エアポンプ用配管66と、合流管67と、エアフィルタ68と、オーバーフローパン69とを備える。
加圧共通気室51は、各印刷部2の加圧タンク21の圧力を等しくするための気室である。加圧共通気室51は、4本の加圧側連通管52を介して4つの印刷部2の加圧タンク21の空気層31と連通されている。これにより、各印刷部2の加圧タンク21どうしが、加圧共通気室51および加圧側連通管52を介して連通されている。加圧共通気室51は、後述の加圧空間部83の一部を構成する。
加圧側連通管52は、加圧共通気室51と加圧タンク21の空気層31とを連通させる。4本の加圧側連通管52は、各印刷部2に1本ずつ対応して設けられている。加圧側連通管52は、一端が加圧共通気室51に接続され、他端が加圧タンク21の空気層31に接続されている。加圧側連通管52は、後述の加圧空間部83の一部を構成する。
加圧側大気開放弁53は、加圧共通気室51を介して加圧タンク21を密閉状態(大気から遮断した状態)と大気開放状態(大気に通じた状態)との間で切り替えるために、加圧側大気開放管54内の空気の流路を開閉する。加圧側大気開放弁53は、加圧側大気開放管54の途中に設けられている。
加圧側大気開放管54は、加圧共通気室51を介して加圧タンク21を大気開放するための空気の流路を形成する。加圧側大気開放管54は、一端が加圧共通気室51に接続され、他端が合流管67に接続されている。加圧側大気開放管54の加圧共通気室51と加圧側大気開放弁53との間の部分は、後述の加圧空間部83の一部を構成する。また、加圧側大気開放管54の加圧側大気開放弁53と合流管67との間の部分は、後述の加圧側大気開放経路81(図3参照)の一部を構成する。
加圧側圧力調整弁55は、加圧共通気室51および加圧タンク21の圧力を調整するために、加圧側圧力調整管56内の空気の流路を開閉する。加圧側圧力調整弁55は、加圧側圧力調整管56の途中に設けられている。
加圧側圧力調整管56は、加圧共通気室51および加圧タンク21の圧力調整のための空気の流路を形成する。加圧側圧力調整管56は、加圧側大気開放管54、負圧側大気開放管61、および合流管67より流路抵抗が大きいパイプからなる。具体的には、加圧側圧力調整管56は、加圧側大気開放管54、負圧側大気開放管61、および合流管67より細いパイプからなる。加圧側圧力調整管56は、一端が加圧共通気室51に接続され、他端が合流管67に接続されている。加圧側圧力調整管56の加圧共通気室51と加圧側圧力調整弁55との間の部分は、後述の加圧空間部83の一部を構成する。
加圧側圧力センサ57は、加圧共通気室51内の圧力を検出する。加圧共通気室51内の圧力は、各印刷部2の加圧タンク21内の圧力と等しい。加圧共通気室51と各印刷部2の加圧タンク21の空気層31とが連通されているためである。
負圧共通気室58は、各印刷部2の負圧タンク24の圧力を等しくするための気室である。負圧共通気室58は、4本の負圧側連通管59を介して4つの印刷部2の負圧タンク24の空気層36と連通されている。これにより、各印刷部2の負圧タンク24どうしが、負圧共通気室58および負圧側連通管59を介して連通されている。負圧共通気室58は、後述の負圧空間部84の一部を構成する。
負圧側連通管59は、負圧共通気室58と負圧タンク24の空気層36とを連通させる。4本の負圧側連通管59は、各印刷部2に1本ずつ対応して設けられている。負圧側連通管59は、一端が負圧共通気室58に接続され、他端が負圧タンク24の空気層36に接続されている。負圧側連通管59は、後述の負圧空間部84の一部を構成する。
負圧側大気開放弁60は、負圧共通気室58を介して負圧タンク24を密閉状態と大気開放状態との間で切り替えるために、負圧側大気開放管61内の空気の流路を開閉する。負圧側大気開放弁60は、負圧側大気開放管61の途中に設けられている。
負圧側大気開放管61は、負圧共通気室58を介して負圧タンク24を大気開放するための空気の流路を形成する。負圧側大気開放管61は、一端が負圧共通気室58に接続され、他端が合流管67に接続されている。負圧側大気開放管61の負圧共通気室58と負圧側大気開放弁60との間の部分は、後述の負圧空間部84の一部を構成する。また、負圧側大気開放管61の負圧側大気開放弁60と合流管67との間の部分は、後述の負圧側大気開放経路82(図3参照)の一部を構成する。
負圧側圧力調整弁62は、負圧共通気室58および負圧タンク24の圧力を調整するために、負圧側圧力調整管63内の空気の流路を開閉する。負圧側圧力調整弁62は、負圧側圧力調整管63の途中に設けられている。
負圧側圧力調整管63は、負圧共通気室58および負圧タンク24の圧力調整のための空気の流路を形成する。負圧側圧力調整管63は、加圧側大気開放管54、負圧側大気開放管61、および合流管67より流路抵抗が大きいパイプからなる。具体的には、負圧側圧力調整管63は、加圧側大気開放管54、負圧側大気開放管61、および合流管67より細いパイプからなる。負圧側圧力調整管63は、一端が負圧共通気室58に接続され、他端が合流管67に接続されている。負圧側圧力調整管63の負圧共通気室58と負圧側圧力調整弁62との間の部分は、後述の負圧空間部84の一部を構成する。
負圧側圧力センサ64は、負圧共通気室58内の圧力を検出する。負圧共通気室58内の圧力は、各印刷部2の負圧タンク24内の圧力と等しい。負圧共通気室58と各印刷部2の負圧タンク24の空気層36とが連通されているためである。
エアポンプ65は、負圧共通気室58を介して各印刷部2の負圧タンク24から空気を吸引するとともに、加圧共通気室51を介して各印刷部2の加圧タンク21へ空気を送る。エアポンプ65は、エアポンプ用配管66の途中に設けられている。
エアポンプ用配管66は、エアポンプ65により負圧共通気室58から加圧共通気室51へ送られる空気の流路を形成する。エアポンプ用配管66は、一端が加圧共通気室51に接続され、他端が負圧共通気室58に接続されている。エアポンプ用配管66の加圧共通気室51とエアポンプ65との間の部分は、後述の加圧空間部83の一部を構成する。また、エアポンプ用配管66の負圧共通気室58とエアポンプ65との間の部分は、後述の負圧空間部84の一部を構成する。
合流管67は、一端がオーバーフローパン69に接続され、他端(上端)がエアフィルタ68を介して大気に通じている。合流管67のオーバーフローパン69側の端は、通常時は、後述のオーバーフローボール71により閉鎖されている。合流管67には、加圧側大気開放管54、加圧側圧力調整管56、負圧側大気開放管61、および負圧側圧力調整管63が接続されている。これにより、加圧側大気開放管54、加圧側圧力調整管56、負圧側大気開放管61、および負圧側圧力調整管63が大気に連通される。合流管67の一部は、後述の加圧側大気開放経路81の一部を構成する。また、合流管67の一部は、後述の負圧側大気開放経路82の一部を構成する。
エアフィルタ68は、合流管67への空気中のゴミ等の進入を防止する。エアフィルタ68は、合流管67の上端に設置されている。
オーバーフローパン69は、例えばインク補給弁47の異常により、加圧タンク21、負圧タンク24からインクが溢れ、さらに加圧共通気室51、負圧共通気室58からもインクが溢れ出た場合に、合流管67を流れてくるインクを受け取る。
オーバーフローパン69には、オーバーフローボール71が設けられている。オーバーフローボール71は、オーバーフローパン69にインクがない場合に、オーバーフローパン69の底面に開口する合流管67の端を閉鎖し、合流管67への外部の空気の流入を防ぐものである。合流管67からオーバーフローパン69へインクが流れてくると、オーバーフローボール71は浮き上がり、オーバーフローパン69にインクが流入できる。
また、オーバーフローパン69には、フロート部材72と、オーバーフロー液面センサ73とが設けられている。フロート部材72、オーバーフロー液面センサ73は、それぞれ加圧タンク21のフロート部材32、加圧タンク液面センサ33と同様のものである。
オーバーフローパン69は、廃液タンク(図示せず)に接続されており、オーバーフロー液面センサ73がオンになると、廃液タンクへインクが排出されるようになっている。
搬送部4は、給紙台(図示せず)から用紙を取り出し、その用紙を搬送経路に沿って搬送する。搬送部4は、用紙を搬送するためのローラ、ローラを駆動させるモータ(いずれも図示せず)等を有する。
制御部5は、インクジェット印刷装置1の各部の動作を制御する。制御部5は、CPU、RAM、ROM、ハードディスク等を備えて構成される。
制御部5は、インク循環動作を行いつつ、インクジェットヘッド11からインクを吐出させて印刷を行う。インク循環動作は、圧力生成部3により加圧タンク21、負圧タンク24にそれぞれ正圧、負圧を付与し、加圧タンク21および負圧タンク24の液面高さに応じてインクポンプ25の駆動を制御することで、循環経路に沿ってインクを循環させる動作である。インク循環動作を終了する際、制御部5は、加圧側大気開放弁53および負圧側大気開放弁60を同時に開放するよう制御する。
次に、インクジェット印刷装置1の大気開放系のエア経路について説明する。図3は、インクジェット印刷装置1における大気開放系の流体回路モデル図である。
図3に示すように、大気開放系のエア経路は、加圧側大気開放経路81と、負圧側大気開放経路82とからなる。
加圧側大気開放経路81は、一端が後述の加圧空間部83に接続され、他端が大気に通じる経路である。具体的には、加圧側大気開放経路81は、図2に示す加圧側大気開放管54の加圧側大気開放弁53と合流管67との間の部分と、合流管67の加圧側大気開放管54との合流地点より上側の部分とからなる。したがって、加圧側大気開放経路81は、エアフィルタ68を介して大気に通じている。
負圧側大気開放経路82は、一端が後述の負圧空間部84に接続され、他端が大気に通じる経路である。具体的には、負圧側大気開放経路82は、図2に示す負圧側大気開放管61の負圧側大気開放弁60と合流管67との間の部分と、合流管67の負圧側大気開放管61との合流地点より上側の部分とからなる。したがって、負圧側大気開放経路82は、エアフィルタ68を介して大気に通じている。
図3および上記の説明からわかるように、加圧側大気開放経路81と負圧側大気開放経路82とは、エアフィルタ68を介して大気に通じる上端を含む合流管67の一部を共有するように接続され、互いに連通されている。
加圧空間部83は、インク循環部12の循環経路に沿ってインクを循環させるための正圧が付与される部分である。具体的には、加圧空間部83は、図2に示す加圧タンク21の空気層31、加圧共通気室51、加圧側連通管52、加圧側大気開放管54の加圧共通気室51と加圧側大気開放弁53との間の部分、加圧側圧力調整管56の加圧共通気室51と加圧側圧力調整弁55との間の部分、およびエアポンプ用配管66の加圧共通気室51とエアポンプ65との間の部分からなる。加圧空間部83は、加圧側大気開放弁53の開放、閉鎖により、加圧側大気開放経路81に対して開放、閉鎖される。
負圧空間部84は、インク循環部12の循環経路に沿ってインクを循環させるための負圧が付与される部分である。具体的には、負圧空間部84は、図2に示す負圧タンク24の空気層36、負圧共通気室58、負圧側連通管59、負圧側大気開放管61の負圧共通気室58と負圧側大気開放弁60との間の部分、負圧側圧力調整管63の負圧共通気室58と負圧側圧力調整弁62との間の部分、およびエアポンプ用配管66の負圧共通気室58とエアポンプ65との間の部分からなる。負圧空間部84は、負圧側大気開放弁60の開放、閉鎖により、負圧側大気開放経路82に対して開放、閉鎖される。
図3におけるRkは、加圧側大気開放管54の加圧側大気開放弁53と合流管67との間の部分の流路抵抗である。Rfは、負圧側大気開放管61の負圧側大気開放弁60と合流管67との間の部分の流路抵抗である。Rmは、合流管67の加圧側大気開放管54との合流地点と、負圧側大気開放管61との合流地点との間の部分の流路抵抗である。Rtは、合流管67の負圧側大気開放管61との合流地点より上側の部分の流路抵抗である。流路抵抗Rtは、エアフィルタ68の流路抵抗を含む。エアフィルタ68は配管より流路抵抗が大きいため、流路抵抗Rtは、流路抵抗Rk,Rf,Rmより大きい。
図3におけるCkは、加圧空間部83のエア容量である。加圧空間部83のエア容量Ckは、加圧空間部83を構成する各部のエア容量の合計である。ここで、加圧タンク21の空気層31のエア容量は、加圧タンク21におけるインク液面の基準高さ以上の部分の体積に相当する。
図3におけるCfは、負圧空間部84のエア容量である。負圧空間部84のエア容量Cfは、負圧空間部84を構成する各部のエア容量の合計である。ここで、負圧タンク24の空気層36のエア容量は、負圧タンク24におけるインク液面の基準高さ以上の部分の体積に相当する。
インクジェット印刷装置1では、インク循環動作を終了する際、加圧側大気開放弁53および負圧側大気開放弁60が同時に開放される。加圧側大気開放弁53および負圧側大気開放弁60が開放されると、まず、主に、加圧側大気開放管54、合流管67、負圧側大気開放管61を介した加圧空間部83から負圧空間部84への空気の移動が行われる。その後、合流管67の上部およびエアフィルタ68を介した空気の移動により、加圧空間部83および負圧空間部84が大気開放される。このような大気開放の際、加圧空間部83および負圧空間部84の圧力は、指数関数的な振る舞いで大気圧へと推移する。
すなわち、大気開放時の加圧空間部83の圧力Pk、負圧空間部84の圧力Pfは、それぞれ下記の式(1)、式(2)で表される。
Pk=Pk0exp(−t/τk) …(1)
Pf=Pf0exp(−t/τf) …(2)
ここで、Pk0はインク循環時の加圧側の設定圧である。Pf0はインク循環時の負圧側の設定圧である。tは時間である。τkは、加圧側大気開放弁53および負圧側大気開放弁60の開放後における加圧空間部83の圧力変化の時定数である。τfは、加圧側大気開放弁53および負圧側大気開放弁60の開放後における負圧空間部84の圧力変化の時定数である。
インクジェット印刷装置1では、負圧空間部84の圧力変化の時定数τfが、加圧空間部83の圧力変化の時定数τk以上になっている。時定数τk,τfは、流路抵抗Rt,Rk,Rf,Rmおよびエア容量Ck,Cfによって決まる。したがって、時定数τkより時定数τfの方が大きくなるように、流路抵抗Rt,Rk,Rf,Rmおよびエア容量Ck,Cfが設計されている。
具体的には、例えば、加圧側大気開放管54、負圧側大気開放管61、および合流管67の流路断面積や、加圧共通気室51および負圧共通気室58の容量が、時定数τfが時定数τk以上となるように設計されている。時定数τk,τfは、例えば、実験的に決定することができる。
また、時定数τk,τfは、加圧側大気開放弁53および負圧側大気開放弁60が開放されてから、加圧空間部83および負圧空間部84が大気圧になるまで、インクジェットヘッド11のノズル圧Pnがメニスカス破壊圧Pn_maxを超えないように決定されている。
ここで、ノズル圧Pnは、加圧空間部83の圧力Pkおよび負圧空間部84の圧力Pfによって決まるものであり、下記の式(3)で表される。
Pn=(Pk+Pf)/2 …(3)
ノズル圧Pnがメニスカス破壊圧Pn_maxを超えないため、下記の式(4)が満たされる。
|Pn|<Pn_max …(4)
メニスカス破壊圧Pn_maxは、ノズルの径およびインクの表面張力によって決まる値である。
次に、インクジェット印刷装置1の動作について説明する。
図4は、インクジェット印刷装置1の動作を説明するためのフローチャートである。図4のフローチャートの処理は、インクジェット印刷装置1に印刷ジョブが入力されることにより開始となる。
図4のステップS1において、制御部5は、液面維持制御を開始する。液面維持制御は、加圧タンク21および負圧タンク24の液面を基準高さ付近に維持するための、加圧タンク21および負圧タンク24の液面高さに応じたインクポンプ25およびインク補給弁47の制御である。
具体的には、図5に示すように、加圧タンク液面センサ33および負圧タンク液面センサ38がともにオンの状態では、制御部5は、インクポンプ25をオフとし、インク補給弁47を閉鎖する。加圧タンク液面センサ33がオンで負圧タンク液面センサ38がオフの状態でも同様に、制御部5は、インクポンプ25をオフとし、インク補給弁47を閉鎖する。
加圧タンク液面センサ33がオフで負圧タンク液面センサ38がオンの状態では、制御部5は、インクポンプ25をオンとし、インク補給弁47を閉鎖する。
加圧タンク液面センサ33および負圧タンク液面センサ38がともにオフの状態では、制御部5は、インクポンプ25をオフとし、インク補給弁47を開放する。
図4に戻り、ステップS1に続いて、ステップS2において、制御部5は、加圧側大気開放弁53および負圧側大気開放弁60を閉鎖する。これにより、図3に示す加圧空間部83および負圧空間部84が密閉状態となる。すなわち、図2における各印刷部2の加圧タンク21が加圧共通気室51等を介して密閉状態となり、負圧タンク24が負圧共通気室58等を介して密閉状態となる。
なお、インクジェット印刷装置1が動作しない待機中は、加圧側大気開放弁53および負圧側大気開放弁60は開放され、加圧側圧力調整弁55および負圧側圧力調整弁62は閉鎖されている。
次いで、ステップS3において、制御部5は、圧力制御を開始する。圧力制御は、加圧タンク21、負圧タンク24に正圧である設定圧Pk0、負圧である設定圧Pf0をそれぞれ付与し、それらを維持するための、エアポンプ65、加圧側圧力調整弁55、および負圧側圧力調整弁62の制御である。
具体的には、制御部5は、圧力制御を開始すると、エアポンプ65を起動する。これにより、負圧共通気室58から加圧共通気室51へ空気が送られることで、負圧空間部84が減圧され、加圧空間部83が加圧される。これにより、加圧タンク21からインクジェットヘッド11へ向けてインクが流れる。
制御部5は、加圧側圧力センサ57の検出値(加圧側圧力)、負圧側圧力センサ64の検出値(負圧側圧力)が、それぞれ設定圧Pk0,Pf0になると、エアポンプ65を停止する。設定圧Pk0,Pf0は、インクを循環させつつ、インクジェットヘッド11のノズル圧Pnを適正値にするための圧力値として予め設定されたものである。ここで、制御部5は、加圧側圧力および負圧側圧力をそれぞれの設定圧Pk0,Pf0にするために、加圧側圧力センサ57および負圧側圧力センサ64の検出値に応じて加圧側圧力調整弁55および負圧側圧力調整弁62の開閉を制御し、加圧側圧力および負圧側圧力を調整する。
また、圧力制御の開始後は、一度加圧側圧力および負圧側圧力がそれぞれの設定圧Pk0,Pf0になった後も、それを維持するように、制御部5は、加圧側圧力センサ57および負圧側圧力センサ64の検出値に応じて、エアポンプ65の駆動、加圧側圧力調整弁55および負圧側圧力調整弁62の開閉を適宜行う。
圧力制御の開始後、ステップS4において、制御部5は、加圧側圧力および負圧側圧力がそれぞれの設定圧Pk0,Pf0になったか否かを判断する。加圧側圧力および負圧側圧力がそれぞれの設定圧Pk0,Pf0になっていないと判断した場合(ステップS4:NO)、制御部5は、ステップS4を繰り返す。
加圧側圧力および負圧側圧力がそれぞれの設定圧Pk0,Pf0になったと判断した場合(ステップS4:YES)、ステップS5において、制御部5は、印刷ジョブの実行を開始する。具体的には、制御部5は、印刷ジョブに基づき、搬送部4により搬送される用紙にインクジェットヘッド11からインクを吐出させて画像を印刷させる。
印刷ジョブの実行中は、加圧タンク21からインクジェットヘッド11へインクが供給され、インクジェットヘッド11で消費されなかったインクが負圧タンク24に回収される。加圧タンク液面センサ33がオフで負圧タンク液面センサ38がオンの状態になると、液面維持制御により、インクポンプ25が負圧タンク24から加圧タンク21へインクを送る。このようにしてインクが循環されつつ、印刷が行われる。
また、制御部5は、インク循環時には、インク温度センサ27の検出温度が適正温度範囲内を維持するように、インク温度調整部26を制御してインク温度の調整を行う。
印刷ジョブの実行開始後、ステップS6において、制御部5は、印刷ジョブが終了したか否かを判断する。印刷ジョブが終了していないと判断した場合(ステップS6:NO)、制御部5は、ステップS6を繰り返す。
印刷ジョブが終了したと判断した場合(ステップS6:YES)、ステップS7において、制御部5は、圧力制御を終了する。ここで、エアポンプ65が駆動されている場合、制御部5は、それを停止する。また、加圧側圧力調整弁55、負圧側圧力調整弁62が開放されている場合、制御部5は、それらを閉鎖する。
次いで、ステップS8において、制御部5は、加圧側大気開放弁53および負圧側大気開放弁60を同時に開放する。これにより、図3に示す加圧空間部83および負圧空間部84が大気開放される。すなわち、図2における各印刷部2の加圧タンク21が加圧共通気室51等を介して大気開放され、負圧タンク24が負圧共通気室58等を介して大気開放される。
次いで、ステップS9において、制御部5は、液面維持制御を終了する。これによりインク循環動作が終了し、インクジェット印刷装置1が待機状態となる。
次に、上述した図4のステップS8で加圧側大気開放弁53および負圧側大気開放弁60を開放した後のノズル圧Pnの推移について説明する。
図6は、大気開放時の加圧空間部83の圧力Pk、負圧空間部84の圧力Pf、およびノズル圧Pnの推移を示す図である。なお、圧力はゲージ圧表記である。また、時刻t0が、加圧側大気開放弁53と負圧側大気開放弁60とが同時に開放されたタイミングである。
前述のように、加圧側大気開放弁53および負圧側大気開放弁60が開放されると、主に加圧空間部83と負圧空間部84との間で空気の移動が行われた後、合流管67の上部およびエアフィルタ68を介した空気の移動により、加圧空間部83および負圧空間部84が大気開放される。この際、図6に示すように、加圧空間部83の圧力Pkおよび負圧空間部84の圧力Pfは、指数関数的に大気圧(0kPa)へ移行する。
そして、前述のように、インクジェット印刷装置1では、負圧空間部84の指数関数的な圧力変化の時定数τfが、加圧空間部83の指数関数的な圧力変化の時定数τk以上になっている。すなわち、図6に示すように、加圧側大気開放弁53および負圧側大気開放弁60が開放されてから、負圧空間部84が大気圧になるまでの時間が、加圧空間部83が大気圧になるまでの時間以上となる。
このような加圧空間部83の圧力Pkおよび負圧空間部84の圧力Pfの推移により、ノズル圧Pnは、図6に示すように、加圧側大気開放弁53および負圧側大気開放弁60の開放後、負圧であるインク循環時のノズル圧Pn0から、負圧を維持したまま大気圧へ移行する。
ここで、本実施の形態とは異なり、負圧空間部84の圧力変化の時定数τfが加圧空間部83の圧力変化の時定数τkより小さい場合、例えば、図7のように、ノズル圧Pnが正圧となることがある。そして、ノズル圧Pnが正圧となった場合において、そのノズル圧Pnがメニスカス破壊圧Pn_maxを超えると、ノズルからのインク漏れが生じる。インク漏れが生じると、インクの無駄や装置内の汚染等が生じる。
これに対し、本実施の形態では、上述のようにノズル圧Pnが負圧を維持することで、ノズルからのインク漏れが抑えられる。
以上説明したように、インクジェット印刷装置1では、インク循環の終了時において、制御部5が、加圧側大気開放弁53および負圧側大気開放弁60を同時に開放する。そして、その後の負圧空間部84の圧力変化の時定数τfが、加圧空間部83の圧力変化の時定数τk以上である。このため、加圧空間部83および負圧空間部84が大気圧になるまで、加圧空間部83の圧力Pkおよび負圧空間部84の圧力Pfによって決まるノズル圧Pnが、負圧を維持する。これにより、ノズルからのインク漏れを低減できる。
また、インクジェット印刷装置1では、加圧側大気開放経路81と負圧側大気開放経路82とが接続されているので、インク循環終了時の大気開放時に加圧空間部83と負圧空間部84との間での空気の移動が行われる。このため、加圧空間部83および負圧空間部84の大気開放に要する時間を短縮できる。
また、インクジェット印刷装置1では、加圧側大気開放弁53および負圧側大気開放弁60の開放後、加圧空間部83および負圧空間部84が大気圧になるまで、ノズル圧Pnがメニスカス破壊圧Pn_maxを超えないようになっている。上述のように、インクジェット印刷装置1では、インク循環終了時の大気開放時において、ノズル圧Pnは負圧を維持するが、その負圧の大きさがメニスカス破壊圧Pn_maxを超えると、メニスカスが破壊されてノズルが空気を吸い込む。しかし、インクジェット印刷装置1では、加圧空間部83および負圧空間部84が大気圧になるまでノズル圧Pnがメニスカス破壊圧Pn_maxを超えないため、ノズルが空気を吸い込むことを防止できる。
なお、上記実施の形態では、加圧側大気開放経路81と負圧側大気開放経路82とが、一部を共有して接続されている構成を示したが、加圧側大気開放経路と負圧側大気開放経路とが接続されずに独立した構成でもよい。
本発明は上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。