JP2016047848A - がん幹細胞マーカーおよびその使用 - Google Patents
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Abstract
Description
腫瘍は、蓄積された変異を通じて無限増殖能を獲得した腫瘍原性がん細胞によって開始される、異常臓器と見なすことができる。このように腫瘍を異常臓器と見なすと、正常幹細胞の生物学の原理を適用して腫瘍が発生および播種する方法をより良好に理解することができる。多くの観察が、正常幹細胞と腫瘍原性細胞との間の類似性が適切であることを示唆している。正常幹細胞および腫瘍原性細胞のどちらも、広範な増殖ポテンシャルおよび新しい(正常または異常な)組織を生じさせる能力を有する。腫瘍原性細胞は、正常幹細胞が経験する臓器形成プロセスに類似した、異常なおよび制御が不十分な臓器形成プロセスを経験する、がん幹細胞(CSC)またはがん開始細胞(CIC−用語CSCおよびCICは本明細書で同義語として使用される)と考えることができる。腫瘍および正常組織はどちらも、異なる表現型の特徴および異なる増殖ポテンシャルを持つ細胞の不均質の組合せで構成されている。
a.上記剤を本発明による細胞組成物と接触させる工程、および
b.上記腫瘍関連炭水化物抗原陽性がん細胞に対する上記剤の有効性を決定する工程、を含む。
特定の実施形態では、例えば以下が提供される:
(項目1)
腫瘍関連炭水化物抗原を発現するがん幹細胞の処置で使用するための、該腫瘍関連炭水化物抗原を特異的に結合する結合剤。
(項目2)
項目1に記載の結合剤であって、ここで、前記腫瘍関連炭水化物抗原がCD176、CD175、CD175s、CD174、CD173、およびCA19−9から成る群より選択される結合剤。
(項目3)
項目1または2に記載の結合剤であって、ここで、前記がん幹細胞が1個以上の以下の特徴:
a)該がん幹細胞が前記腫瘍関連炭水化物抗原を担持する糖タンパク質である、少なくとも1つの幹細胞マーカーを発現すること;
b)該がん幹細胞がCD34、CD44、CD44v6、CD133およびCD164から成る群より選択される1個以上の幹細胞マーカーを発現すること;
c)該腫瘍関連炭水化物抗原が該がん幹細胞によって発現された腫瘍関連糖タンパク質に担持されていること;
d)該腫瘍関連炭水化物抗原が腫瘍特異的であること;および/または
e)該腫瘍関連炭水化物抗原ががん幹細胞で主としてまたは独占的に発現されるが、がん幹細胞ではないがん細胞では発現されないこと;
を有する結合剤。
(項目4)
項目1から3のいずれか一項に記載の結合剤であって、ここで、前記がん幹細胞が1つ以上の以下の特徴:
a)がんが固形腫瘍であること;
b)がんが白血病であること;
c)がんが多発性骨髄腫もしくはリンパ腫であること;
d)がんが上皮起源の腫瘍であること;ならびに/または
e)がんが肺がん、乳がん、肝臓がん、卵巣がん、消化器がん、膵臓がん、前立腺がん、子宮頸がんおよび頭頸部がんから成る群より選択される腫瘍であること;
を有する該がんのがん幹細胞である結合剤。
(項目5)
項目1から4のいずれか一項に記載の結合剤であって、ここで、該結合剤が1つ以上の以下の特徴:
a)該結合剤が抗体または抗体の抗原結合フラグメントもしくは誘導体であること;
b)該結合剤がヒト抗体、マウス抗体、ヒト化抗体、もしくはキメラ抗体またはそれぞれの抗原結合フラグメントもしくは誘導体であること;
c)該結合剤が単鎖抗体フラグメント、マルチボディ、Fabフラグメント、および/またはIgG、IgM、IgA、IgE、IgDアイソタイプの免疫グロブリンおよび/もしくはそのサブクラスであること;
d)該結合剤が抗体または抗体の抗原結合フラグメントもしくは誘導体であって、1つ以上の以下の特徴:
i.それががん細胞のADCCおよび/もしくはCDCを媒介すること;
ii.それががん細胞のアポトーシスを誘起および/もしくは促進すること;
iii.それががん細胞の標的細胞の増殖を抑制すること;
iv.それががん細胞の食作用を誘起および/もしくは促進すること;ならびに/または
v.それが細胞傷害剤の放出を誘起および/または促進する;
を有すること;
e)該結合剤が、腫瘍特異的炭水化物抗原である前記腫瘍関連炭水化物抗原を特異的に結合すること;
f)該結合剤が非がん細胞、非腫瘍細胞、良性がん細胞および/もしくは良性腫瘍細胞で発現される抗原、特に炭水化物抗原を結合しないこと;ならびに/または
g)該結合剤が、がん幹細胞および正常がん細胞で発現される腫瘍関連炭水化物抗原を特異的に結合すること;
を有する結合剤。
(項目6)
項目5に記載の結合剤であって、ここで、前記抗体または前記抗体の機能的に活性な前記フラグメントもしくは誘導体が:
a)CD176特異的抗体またはその抗原結合フラグメントもしくは誘導体であって、好ましくは少なくとも1つの以下の特徴:
i)それが、配列番号1のアミノ酸配列を有するCDRH1、配列番号2または3のアミノ酸配列を有するCDRH2、および配列番号4または5または6のアミノ酸配列を有するCDRH3から成る群より選択される、少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)、好ましくは少なくとも2つのCDR、さらに好ましくは3つすべてのCDRを含むこと;
ii)それが、配列番号7または8または9のアミノ酸配列を有するCDRL1、配列番号10または11のアミノ酸配列を有するCDRL2、および配列番号12または13のアミノ酸配列を有するCDRL3から成る群より選択される少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)、好ましくは少なくとも2つのCDR、さらに好ましくは3つすべてのCDRを含むこと;
iii)それが、配列番号46から79のうちの任意の1つのアミノ酸配列を含有する重鎖可変領域を含むこと;
iv)それが、配列番号80から94のうちの任意の1つのアミノ酸配列を含有する軽鎖可変領域を含むこと;
v)それが、生理学的条件下でGalα1−3GalNAcα、Galα1−3GalNAcβ、GalNAcα、Neu5Acα2−3Galβ1−3GalNAcα、Galβ1−3(Neu5Acα2−6)GalNAcα、GlcNAcβ1−2Galβ1−3GalNAcα、GlcNAcα1−3Galβ1−3GalNAcα、GalNAcα1−3Galβおよび/または3’−O−Su−Galβ1−3GalNAcαと特異的に相互作用しないこと;
を有する、CD176特異的抗体またはその抗原結合フラグメントもしくは誘導体;
b)(a)で定義された通りの抗体との交差特異性を示す、抗体またはその抗原結合フラグメントもしくは誘導体;
c)CD173特異的抗体またはその抗原結合フラグメントもしくは誘導体;
d)CD174特異的抗体またはその抗原結合フラグメントもしくは誘導体;
e)CD175特異的抗体またはその抗原結合フラグメントもしくは誘導体;
f)CD175s特異的抗体またはその抗原結合フラグメントもしくは誘導体;および/または
g)CA19−9特異的抗体またはその抗原結合フラグメントもしくは誘導体
から成る群より選択される結合剤。
(項目7)
腫瘍関連炭水化物抗原を発現するがん幹細胞の処置で使用するための、該腫瘍関連炭水化物抗原を特異的に結合する結合剤を含む薬学的組成物であって、ここで、該結合剤、該がん幹細胞および該腫瘍関連炭水化物抗原が項目1から6のいずれか一項で定義された通りの特徴の1つ以上を有する薬学的組成物。
(項目8)
項目1から6のいずれか一項に記載の結合剤または項目7に記載の薬学的組成物であって、腫瘍サイズの低減、悪性細胞の排除、転移の防止、再発の防止、播種性がんの低減または死滅、生存の延長および/または腫瘍それぞれがん進行までの時間の延長のための療法で使用するための、結合剤または薬学的組成物。
(項目9)
がん幹細胞に影響を与える処置であって、腫瘍関連炭水化物抗原を特異的に結合する結合剤による処置、に感受性である該がん幹細胞を含むがんを同定する方法であって、該結合剤が特異的である該腫瘍関連炭水化物抗原を発現するがん幹細胞を、患者から取得したがん検体が含むかどうかを決定する工程であって、ここで、がん幹細胞での該腫瘍関連炭水化物抗原の存在が、該腫瘍関連炭水化物抗原を特異的に結合する該結合剤による処置に該がんが感受性であることを示し、該処置が該がん幹細胞に影響を与える工程を含む方法。(項目10)
がんを診断、病期分類および/もしくは予後を判定するならびに/または処置に対する感受性を監視するための方法であって、患者から単離された検体中の細胞での腫瘍関連炭水化物抗原の発現を分析する工程であって、ここで、該腫瘍関連炭水化物抗原を発現する細胞の存在が、該検体中のがん幹細胞の存在を示す工程を含む方法。
(項目11)
項目9または10に記載の方法であって、ここで、前記患者からの前記検体が前記腫瘍関連炭水化物抗原を特異的に結合する結合剤によって染色される方法。
(項目12)
項目9から11のいずれか一項に記載の方法であって、ここで、前記腫瘍関連炭水化物抗原がCD176、CD175、CD175s、CD174、CD173、およびCA19−9から成る群より選択される方法。
(項目13)
項目9から12のいずれか一項に記載の方法であって、ここで、少なくとも1つの第2のがん幹細胞マーカーを同時発現する細胞の存在が、がん幹細胞の存在を示す方法。
(項目14)
項目9から13のいずれか一項に記載の方法であって、ここで、CD34、CD44、CD44v6、CD133およびCD164から成る群より選択される、少なくとも1つの追加の糖タンパク質がん幹細胞マーカーの同時発現が試験される方法。
(項目15)
項目9から14のいずれか一項に記載の方法であって、ここで、染色パターンの分析ががん幹細胞の相対分布を提供し、該分布によりがんの腫瘍原性(tumorgenicity)を予測する、方法。
(項目16)
哺乳動物がん幹細胞の組成物であって、ここで、少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%の該組成物中の該細胞が、腫瘍関連炭水化物抗原を発現するがん幹細胞である組成物。
(項目17)
項目9から15のいずれか一項に記載の方法で使用するためのキットであって、項目9から15の1つ以上に記載の方法で使用するための、腫瘍関連炭水化物抗原を特異的に結合する結合剤および指示を含むキット。
(項目18)
腫瘍関連炭水化物抗原を発現するがん幹細胞に対する有効性について候補治療剤をスクリーニングする方法であって、該方法は、
a)該剤を項目16に記載の細胞組成物と接触させる工程、および
b)該腫瘍関連炭水化物抗原陽性がん細胞に対する該剤の有効性を決定する工程、
を含む方法。
本明細書で使用する場合、以下の表現は概して、これらが使用される文脈が別途示す範囲を除いて、好ましくは以下で述べる意味を有することを意図する。
本発明は、腫瘍関連炭水化物抗原ががん幹細胞で発現され、そのためがん幹細胞マーカーとして有用であるという発見に基づく。これまで記載されたがん幹細胞マーカーがほぼすべてタンパク質であるため、本発見は驚くべきである。そのため本発明は、好ましくはCD176、CD175、CD175s、CD174、CD173およびCA19−9から、さらに好ましくは(more preferred)CD176、CD175およびCD175sから選択される腫瘍関連、好ましくは腫瘍特異的炭水化物抗原のがん幹細胞マーカーとしての使用に関係する。
a)がんが固形腫瘍である;
b)がんが白血病である;
c)がんが多発性骨髄腫もしくはリンパ腫である;
d)がんが上皮起源の腫瘍である;ならびに/または
e)がんが肺がん、乳がん、肝臓がん、卵巣がん、消化器がん、膵臓がん、前立腺がん、子宮頸がんおよび頭頸部がんから成る群より選択される腫瘍である。
a)それはがん細胞および/もしくは腫瘍細胞、特にがん幹細胞のADCCおよび/またはCDCを媒介する;
b)それはがん細胞および/もしくは腫瘍がん細胞、特にがん幹細胞のアポトーシスを誘起および/または促進する;
c)それは標的のがん細胞および/もしくは腫瘍細胞、特にがん幹細胞の増殖を抑制する;
d)それはがん細胞および/もしくは腫瘍細胞、特にがん幹細胞の食作用を誘起および/もしくは促進する;ならびに/または
e)それは細胞傷害剤の放出を誘起および/または促進する。
256:10967,1981)、および92FRA2(Dako Cytomation、ハンブルク、ドイツ)である。
a)腫瘍関連炭水化物抗原を発現するがん幹細胞を含むまたは含むことが疑われる組成物を、腫瘍関連炭水化物抗原を発現するがん幹細胞を結合するための、上記腫瘍関連炭水化物抗原を特異的に結合する結合剤と接触させる工程;
b)腫瘍関連炭水化物抗原を発現する少なくとも1つのがん幹細胞を残存する組成物から分離する工程。
a)上記剤を本発明による細胞組成物と接触させる工程、および
b)上記腫瘍関連炭水化物抗原に対する上記剤の有効性を決定する工程、
を含む。
1.材料および方法
抗体
適用された抗体は:CD44 mAb(G44−26,BD Biosciences、フランクリンレイクス、NJ、米国)、CD133 mAb(ANC9C5,Ancell、ベイポート、MN、米国、CD176 mAb(NM−TF2,Glycotope GmbH、ベルリン、ドイツ)、MUC1 mAb(PankoMab,Glycotope GmbH)であった。
細胞系および細胞培養
乳腺癌(MDA231、MDA435、およびMCF−7)、肺がん(SPC−A−1およびGLC−82、肺腺癌;NCIH446、小細胞肺癌腫;801−D、巨細胞肺癌腫)、および肝細胞癌腫(HepG2およびHuH−7)からのがん細胞系を含む、幅広い多様なヒトがん細胞系を本研究で使用した。すべての細胞系を、10%ウシ胎仔血清を含有するダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)で通常どおりに培養した。
免疫細胞化学
培養した細胞を、10%ウシ胎仔血清を含有するDMEM/F12培地中、ポリリシン(Sigma、セントルイス、MO、米国)コートスライド上に一晩蒔いた。その後、上記培地を慎重に吸引して、上記スライドを空気乾燥させた。包んだスライドを−80℃にて使用するまで貯蔵することができた。免疫蛍光二重染色のために、細胞を冷(−20°)アセトンで15分間固定し、リン酸緩衝食塩水(PBS)中の2%ウシ血清アルブミン(BSA)によって30分間ブロッキングして、CD176に対するmAbと一緒に、CD44またはCD133に対する抗体とともに60分間インキュベートした。続いてスライドをフルオレセインイソチオシアネート(FITC)結合体化抗マウスIgM(μ鎖特異的)(F9259,Sigma)およびCy3結合体化ヤギ抗マウスIgG(γ鎖特異的)(#69732,Jackson Laboratories、ウェストグローブ、PA、米国)の混合物とともにインキュベートした。対比染色を4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドールジヒドロクロリド(DAPI)(Beyotime Biotechnology,Jiangsu,中国)を用いて行った。陰性対照は特異的mAbの代わりに培地で行った。上記スライドをグリセロールでマウントし、共焦点顕微鏡法(オリンパス、東京、日本)および蛍光顕微鏡法によって分析した。陽性細胞または二重陽性細胞のパーセンテージをデジタル画像上でカウントした。
フローサイトメトリー分析
細胞系の細胞懸濁物を1×106細胞/100μlにて調製した。細胞を、2%BSAを含有するPBSを用いて2回洗浄し、適切な希釈度の1次抗体によって4℃にて20分間、続いて適切な濃度の抗IgG−Cy3(γ鎖特異的)および抗IgM−FITC(μ鎖特異的)によって4℃にて20分間インキュベートした。フローサイトメトリーをFACScan(BD Biosciences、フランクリンレイクス、NJ、米国)を用いて行った。10,000細胞から収集したデータおよびWinMDIソフトウェアをFCSデータファイルの分析に使用した。
組織および免疫組織化学
21症例の肺癌腫(13症例の腺癌および8症例の扁平上皮癌腫)、15症例の乳癌腫、および21症例の肝細胞癌腫(HCC)の被検物を、最初の手術を受けた患者から取得した。上記検体は、患者の機密保護のため完全にコード化され、すべての参加施設の地域研究倫理委員会によって承認された。
サンドイッチELISA
100万個の細胞をプロテアーゼインヒビタ(#539134,Calbiochem、ダルムシュタット、ドイツ)の混合物を含有する1mlの1%トリトン−100(100mMリン酸ナトリウム、pH7.5、150mM NaCl中)で処理して、振動によって4℃にて30分間ホモジナイズした。遠心分離機で15,000gにて10分間の遠心分離の後、上清を取った。96ウェルのポリスチレンマイクロプレートを、1μg/mlの作業濃度の、CD44に対する捕捉抗体によって4℃にて14時間コートした。残存するタンパク質結合部位を5%BSAによってブロッキングした後、100μlの抗体上清をウェルに添加して、室温にて2時間インキュベートした。次に上記プレートをCD176mAbとともに、続いてペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgM抗体(μ鎖特異的)(SouthernBiotech、バーミングハム、AL、米国)によってインキュベートした。呈色反応を、o−フェニレンジアミンジヒドロクロリド(OPD)溶液によって室温にて生じさせた。上記反応を2.5M硫酸によって停止した。陰性対照は上記mAbsの代わりにPBS中2%BSAで行った。各ウェルの光学密度は、マイクロプレートリーダー(Bio−Rad、ハーキュリーズ、CA、米国)を使用して492nmにて30分以内に決定した。
統計解析
データをカイ2乗検定またはフィッシャーの正確確率検定のどちらかによって分析した。計数データのピアソンの相関分析も行った。P<0.05の値は統計的に有意と見なされた。
2.結果
肺がん、乳がん、および肝臓がん細胞系におけるCD44およびCD133の発現
CD44は、大半の上記がん細胞系において、60%を超える細胞で検出された。1つの細胞系HuH−7(HCC)は、低いパーセンテージのCD44陽性細胞を示した。CD133+細胞は、801−D(巨細胞肺癌腫)およびHuH−7(HCC)を除く本研究で使用した細胞系(上記細胞の1%未満)にて、ごく小さい亜集団を表した。これらの細胞系は常に、CD133を上記細胞のうちの15%および6%の表面でそれぞれ発現した。
肺がん、乳がん、および肝臓がん細胞系におけるCD176の発現
mAb NM−TF2を用いたフローサイトメトリーおよび免疫細胞化学分析を通じて、本発明者らはCD176が上記細胞の表面および細胞質に局在することを見出した。上記細胞系は、CD176をさまざまな強度で発現した:MDA231、MDA435(乳腺癌)、およびHuH−7(HCC)は5%から30%の陽性細胞を含有した;SPC−A−1(肺腺癌)、801−D(巨細胞肺癌腫)、およびHepG2(HCC)は30%から60%の陽性細胞を明らかにした;GLC−82(肺腺癌)、NCIH446(小細胞肺癌腫)、およびMCF−7(乳腺癌)は、60%超の陽性細胞を有した。
肺がん、乳がん、および肝臓がん細胞系におけるCD176、CD44、CD133の同時発現
CD44およびCD133は、がん開始細胞の認められたマーカーであるため(Chuら、2009;Baoら、2006;Ponnusamy and Batra 2008)、本発明者らは一方または両方がCD176と同時発現されるかどうかを調べた。細胞系における二重免疫蛍光染色実験は、CD44およびCD176が細胞表面に局在して、単一細胞または細胞クラスタの同時発現を呈することを実証した(図1.1、a−i)。フローサイトメトリー実験は、以下の同時発現データを明らかにした。MCF−7(乳腺癌)は約7%のCD44+/CD176+細胞を含有して、SPC−A−1、801−DおよびHepG2は、30%から60%のCD44+/CD176+細胞を含有し、GLC−82およびNCIH446は60%を超えるCD44+/CD176+細胞を有した(表1.1、図1.1、1.2を参照)。
肺癌腫組織におけるCD176の発現
本研究において、mAb NM−TF2を採用して肺癌腫組織におけるCD176の発現を調査した。21名の患者から調べた組織は、13名の腺癌および8名の扁平上皮細胞癌腫を含んでいた。CD176は細胞表面および細胞質中に分布していた。例を図1.1のjとkに示す。肺癌腫におけるCD176−陽性細胞のパーセンテージを表3に示す。肺癌腫の4症例が50%超の陽性細胞を明らかにした。これらのデータは、同時発現実験の前提である以前の論文(Tomaら、1999)とは対照的に、肺がん組織におけるCD176の発現を確認している。CD176発現は、統計解析を使って臨床病理学的特徴と比較された。>5%の陽性細胞を示す症例は、陽性と定義された。その結果は、CD176の状態(status)と腫瘍悪性度ならびに肺癌腫を持つ患者における転移との間の相関を示す(P<0.05)。しかし、CD176の発現と患者の年齢、性別、または組織学的サブタイプ(腺癌または扁平上皮細胞癌腫)を含む他の臨床病理学的特徴との間に統計的に有意な相関はなかった。
肺癌腫組織、乳癌腫組織、および肝細胞癌腫組織におけるCD176とCD44またはCD133との同時発現
問題の組織におけるCD44、CD133およびCD176発現についての免疫組織化学データを表1.3に示す。上記がん細胞系と同様に、CD44はすべての癌腫において、高い(60%を超える)パーセンテージで強くおよび散在して発現された。CD133+細胞は、所与の癌腫組織のうちで細胞の亜集団(全がん細胞の10%未満)のみを除いて、大半の症例で見出された。肺癌腫の2症例、乳癌腫の3症例およびHCCの1症例はCD133を全く発現しなかった。CD133+細胞は、散乱パターンまたはクラスタ化された形態で存在した。CD133発現は肺癌腫において、性別、年齢または組織学的サブタイプとのいずれの統計的に有意な相関も示さなかった。
複数の癌腫細胞系において、CD176の潜在的糖タンパク質キャリア分子をサンドイッチELISAによって分析した。本発明者らは捕捉抗体としてのCD44でコートしたポリスチレンマイクロプレートを使用して、CD44糖タンパク質を細胞全体の溶解物から収集した。上記プレートを次に検出抗体としてのNM−TF2(CD176)とともにインキュベートした。表1.5に示すように、捕捉されたCD44は、すべての(4)肺および(2)肝臓がん細胞系ならびに3つの乳がん細胞系のうちの2つにおいてCD176mAbと反応することが見出され、これらの症例において、CD44が明白にCD176のキャリアであることが示された。
多数の刊行物によって、すべてではないにしても大半の腫瘍種の開始、維持、および分散が、がん開始細胞またはがん幹細胞と呼ばれる細胞の小集団に本質的に起因するという見解が一般に受け入れられるようになった(Chuら、2009;Baoら、2006)。
1.材料および方法
細胞系および細胞培養
本研究では、乳腺癌細胞系MDA−MB−231、MDA−MB−435、およびMCF−7を使用した。これらの細胞系を、10%ウシ胎仔血清を含有するダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)で通常どおりに培養した。上記細胞を37℃にて、5%CO2/95%空気の、100%相対湿度に近い雰囲気中で成長させた。
免疫細胞化学
上記細胞を培養培地中のポリリシン(Sigma、セントルイス、MO、米国)コートスライド上に一晩蒔いた。その後、上記培地を慎重に吸引して、上記スライドを空気乾燥させた。包んだスライドを−80℃にて使用するまで貯蔵することができた。免疫細胞化学では、細胞を冷(−20℃)アセトンで15分間固定して、2%ウシ血清アルブミン(BSA)で30分間ブロッキングし、CD44 mAb(G44−26、マウスIgG2b,BD Biosciences、フランクリンレイクス、NJ、米国)とともに、どちらもGlycotope GmbH(ベルリン、ドイツ)からのmAb CD173(A46−B/B10、マウスIgM、Karsten 1988)またはCD174(A70−C/C8、マウスIgM)と一緒に60分間インキュベートした。加えて上記CD133抗体(ANC9C5,Ancell、ベイポート、MN、米国)を使用した。上記スライドを続いて、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)結合体化抗マウスIgM(μ鎖特異的)(F9259,Sigma)およびCy3結合体化ヤギ抗マウスIgG(γ鎖特異的)(#69732,Jackson Laboratories、ウェストグローブ、PA、米国)の混合物とともにインキュベートした。対比染色を4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドールジヒドロクロリド(DAPI)(Beyotime
Biotechnology,Jiangsu、中国)を用いて行った。陰性対照は、特異的mAbの代わりにマウス血清とともにインキュベートした。上記スライドをグリセロールでマウントし、蛍光顕微鏡法によって分析した。
フローサイトメトリー分析
確立された細胞系からの細胞懸濁物を1×106細胞/100μlの密度で調製した。これらを2%BSAを含有するリン酸緩衝食塩水(PBS)で2回洗浄し、1次抗体とともに4℃にて20分間、続いて適切な濃度の抗IgG−Cy3(γ鎖特異的)および抗IgM−FITC(μ鎖特異的)によって4℃にて20分間インキュベートした。フローサイトメトリーをFACScan(BD Biosciences、フランクリンレイクス、NJ、米国)で行った。10,000細胞から収集したデータおよびWinMDIソフトウェアをFACSデータファイルの分析に使用した。
免疫沈降
100万個の細胞をプロテアーゼインヒビタ(#539134,Calbiochem、ダルムシュタット、ドイツ)の混合物を含有する、50mM Tris−HCl pH8.0、150mM NaCl中の1%トリトン100 1mlで処理して、振動によって4℃にて30分間ホモジナイズした。15,000gにて10分間の遠心分離の後、上清を取った。プロテインGアガロースビーズ(#P−4691,Sigma)を事前に浄化して非特異的結合物質を除去し、次に振とう機上で抗CD44抗体と共に4℃にて4時間インキュベートした。上記プロテインGアガロースビーズを上清に添加して、転倒型ミキサーで4℃にて一晩インキュベートした。上記ビーズを遠心分離によって収集して、洗浄した。そのペレットをSDS−ポリアクリルアミド(polycacrylamide)ゲル電気泳動(PAGE)検体緩衝液に再懸濁させて、5分間煮沸させた。免疫沈降物を続いてポリアクリルアミドゲル(8%)上で分離して、ウェスタンブロッティングで抗CD173および抗CD174抗体を使用してプローブした。
サンドイッチELISA
96ウェルのポリスチレンマイクロプレートを、PBS中1μg/mlの、CD44に対する捕捉抗体を用いて4℃にて14時間コートした。5%BSAによってブロッキングした後、上に記載したように調製した上清100μlをウェルに添加して、室温にて2時間インキュベートした。次にプレートをCD173またはCD174mAbとともに、続いてペルオキシダーゼ−標識ヤギ抗マウスIgM抗体(μ鎖特異的)(Southern
Biotech、バーミングハム、AL、米国)によってインキュベートした。呈色反応を、o−フェニレンジアミンジヒドロクロリド(OPD)溶液を用いて室温にて生じさせた。上記反応を2.5M硫酸によって停止した。陰性対照は上記mAbの代わりに2%BSAを用いて行った。各ウェルの光学密度は、マイクロプレートリーダー(Bio−Rad、ハーキュリーズ、CA、米国)を使用して492nmにて30分以内に決定した。組織および免疫組織化学
15症例の乳癌腫被検物を最初の手術を受けた患者から取得した。上記検体は、患者の機密保護のため完全にコード化され、本研究および研究プロトコルはすべての参加施設の地域研究倫理委員会によって承認された。
統計解析
統計解析は、対応のないt検定、フィッシャーの正確確率検定、またはスペアマン相関検定を使用して行った。データは平均値±平均値の標準誤差(SEM)として表された。P<0.05は統計的に有意と見なされた。
2.結果
乳がん細胞系でのCD173およびCD174の発現
フローサイトメトリー分析および免疫組織学的染色は、CD173およびCD174が細胞表面に局在することを明らかにした(図2.1a)。上記乳がん細胞系(breast cell line)は、頻繁なCD173およびCD174発現を示した:MDA−MB−231、MDA−MB−435およびMCF−7は、約27%、92%および80%のCD173陽性細胞、ならびに約44%、57%および72%のCD174陽性細胞をそれぞれ含有していた。
乳がん細胞系でのCD44とCD173またはCD174との同時発現
免疫細胞学的染色実験は、乳がん細胞でのCD173またはCD174とCD44との同時発現を調査するために行った。本発明者らは多くの細胞において、CD44染色とCD173およびCD174とのオーバーレイを観察した;例を図1a−cに与える。フローサイトメトリー実験からの半定量的データを図2.2Aに示し、表2.1にまとめる。
乳癌腫組織におけるCD44またはCD133とCD173またはCD174との同時発現
調べた15の乳癌腫組織のうち、CD44、CD173およびCD174染色も主として細胞膜にて観察された。CD44、CD173およびCD174陽性細胞は、散乱パターンまたはクラスタ化パターンで存在し、そのパターンは個人間で変わった。CD173およびCD174陽性細胞は、大半の症例で見出された。CD173およびCD174陽性細胞の平均パーセンテージは、全がん細胞のそれぞれ51%および52%であった。CD44はすべての症例で、強い免疫反応性を示した(陽性染色癌腫細胞は53%に達した)。興味深いことに、増加したCD173およびCD174発現を持つ症例は、上昇したCD44発現と相関していた(P<0.05)。最も重要なことに、95%を超えるCD173およびCD174陽性細胞はそれぞれCD44抗原を同時発現した(図2.1、d〜i)。
乳房腺管内癌腫(intraductal breast carcinoma)の基底細胞でのCD173の発現
3症例の乳房腺管内癌腫において、CD173mAbは残存する管壁の基底細胞を染色した(図2.3)。同じ切片の移行組織の正常な管において、周囲管(主に基底)細胞層は、CD173に対して時折陽性であるのみであった。これらの細胞におけるCD173の発現は、個人のABH血液型タイプおよび分泌型の状態(status)から独立していた(データを示さず)。
CD173またはCD174を担持するCD44についての証拠
CD173またはCD174を担持する潜在的糖タンパク質は、3つの乳癌腫細胞系において免疫沈降によりおよびサンドイッチELISAで分析された。3つの細胞系の溶解物からのCD44免疫沈降物は、mAb CD173およびCD174を使用する免疫ブロット分析を施された。どちらの抗体もCD44バンドを染色した(図2.4)。
がん開始細胞の現存は、脳がん、肺がんおよび乳がんにおいて十分に文書記録されている(Tirino,2008)。それらは多系統分化できる、自己再生する、静止したおよび多分化能の細胞として機能的に定義されている。がん幹細胞の理論によると、がんの再発および転移はがん開始細胞に依存する(Gilbert,2009)。がん開始細胞またはがん幹細胞は、上記腫瘍塊の細胞の大部分とは明確に異なるので、がん開始細胞での表面分子の発現および機能を研究することは、腫瘍生物学の重要な側面である。
III.抗CD176抗体の治療活性
以下の例は、以下の相補性決定領域のセットを有するIgM型またはIgG1型のモノクローナル抗CD176抗体を使用して行った:
腫瘍関連炭水化物抗原CD176を発現するがん細胞の細胞増殖を抑制する抗CD176抗体の性能を実証するために、抗CD176 IgM抗体がCD176陽性がん細胞系の増殖細胞に添加された。がん細胞増殖の抑制は、ブロモデオキシウリジン細胞増殖ELISAを使用して測定された。簡潔には、CD176陽性骨髄性白血病細胞系NM−D4の細胞(WO 05/017130に記載)を、5%FCSおよび1%グルタミンを補ったRPMIを含む96ウェルプレートに播種した(2,000細胞/ウェル)。細胞を抗CD176 IgM抗体(J鎖を持つまたは持たない)または無関係なアイソタイプ対照(ChromPure hIgM,Jackson Immuno Research)によって処理した。架橋2次抗体Fab2ヤギ抗ヒトIgM(Fc5μ)(Jackson Immuno Research)を最終濃度10μg/mlまで添加した。無処理対照細胞と比較したパーセント増殖は、培養の5日後にBrdU細胞増殖ELISA(Roche)によって測定した。
2.細胞アポトーシスの誘起
アネキシンVアッセイを使用して、CD176を発現するがん細胞においてアポトーシスを誘起する抗CD176抗体の能力を試験した。急性骨髄性白血病細胞系KG−1のCD176陽性およびCD176陰性(対照)亜系統を、1%FCSを補充したRPMIを含む96ウェルプレート(1.5×105細胞/ウェル)に播種した。抗CD176 IgM抗体(J鎖を持つまたは持たない)または無関係なアイソタイプ対照(ChromPure hIgM,Jackson Immuno Research)を最終濃度10μg/mlまで添加した。24時間後、アポトーシスの早期マーカーとしてホスファチジルセリン露出を分析した。細胞をアネキシンV−APC(BD Biosciences)およびSytoxグリーン(標識死細胞)によって15分間染色して、フローサイトメトリーによって分析した。
3.がん細胞に対するCDCの誘起
CD176を発現するがん細胞の溶解を生じる補体依存性細胞傷害(CDC)を誘起する抗CD176抗体の性能を、以下のCDCアッセイによって実証した。急性骨髄性白血病細胞系KG−1(CD176陽性)の細胞に電気穿孔によりユウロピウムを負荷し、その細胞を、異なる濃度の抗CD176 IgM抗体(J鎖を持つまたは持たない)または無関係なアイソタイプ対照(ChromPure hIgM,Jackson Immuno Research)とともに96ウェルプレート中でインキュベートした。幼齢ウサギ補体(Cedarlane)を最終濃度0.8%で添加した。4時間後、25μlの上清を200μlの増強溶液(Delfia)中に移して、蛍光プレートリーダーInfinite F200(Tecan)を使用してユウロピウム放出を定量化した。最大放出(トリトンX−100による標的細胞)、自発放出(標的細胞)および基底放出(標的細胞の上清)は、特異的細胞傷害を計算するための対照として機能した。
4.がん細胞に対するADCCの誘起
CD176を発現するがん細胞の溶解を生じる抗体依存性細胞傷害(ADCC)を誘起する抗CD176抗体の性能を、以下のADCCアッセイによって実証した。膵臓癌腫細胞系PANC−1の細胞に電気穿孔によりユウロピウムを負荷し、その細胞を、異なる濃度の抗CD176 IgG1抗体または無関係なアイソタイプ対照(hIgG1,Sigma Aldrich)とともに96ウェルプレート中でインキュベートした。初代ヒト末梢血単核細胞(PBMC)を100:1のエフェクタ対標的細胞比で添加した。6時間後、25μlの上清を200μlの増強溶液(Delfia)中に移して、蛍光プレートリーダーInfinite F200(Tecan)を使用してユウロピウム放出を定量化した。最大放出(トリトンX−100による標的細胞)、自発放出(標的細胞)および基底放出(標的細胞の上清)は、特異的細胞傷害を計算するための対照として機能した。
5.概要
上の実験は、CD176に対する抗体が上記腫瘍関連炭水化物抗原CD176を発現する細胞において、細胞増殖を抑制すること、アポトーシスを誘起すること、ならびにCDCおよび/またはADCCを誘起することが可能であることを実証した。そのため抗CD176抗体は、CD176を発現するがん幹細胞に対して強力な治療剤であることが示された。
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