JP2015229169A - 溶接条件導出装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】母材の開先や継手の形状に関する情報に加えて、母材に形成される溶着部に関する情報、トーチに関する情報を考慮してアーク溶接の溶接条件を自動で導出することができる溶接条件導出装置を提供する。
【解決手段】本発明の溶接条件導出装置1は、ウィビング機構を備えたトーチ7を有する溶接機に備えられ、新規母材Waの溶着部の断面形状に応じた溶接条件を導出するものであり、溶接条件データが蓄積されたデータベース2と、新規母材Waの開先・継手形状に対する溶接条件を算出する溶接条件算出部3とを有し、溶接条件算出部3は、新規母材Waの開先・継手形状に類似した過去の溶接条件データと溶接機の仕様に関する入力データとを基に、新規母材Waに形成される溶着部の断面積を考慮し、且つその溶着部のビード高さ、新規母材Waへの入熱量、トーチ7のウィビング条件の少なくとも1つ以上を考慮して、新規母材Waの溶接条件データを導出する。
【選択図】図2

Description

本発明は、自動溶接機または溶接ロボットを用いてアーク溶接を行う際に、溶接条件を自動で導出する溶接条件導出装置に関する。
アーク溶接は、船舶、橋梁などの構造物や建築物、自動車等を製造する際に広く用いられている。
特に、中厚板のアーク溶接においては、対象継手に複数の溶接ビードを重ねる「多層盛り溶接」が用いられている。
「多層盛り溶接」とは、JIS規格(JIS Z 3001)で規定されているように、一つ又はそれ以上のパスからなる溶接金属の層を盛るように溶接することを指し、溶接継手に沿って行う1回の溶接操作のことをパスと呼ぶ。また、そのパスを複数回行ってできた溶接の層をビードと定義されている。
上記した多層盛溶接を行うには、以下に示す項目を含む溶接条件を各パス毎に予め求めておく必要がある。
(1)トーチの位置・姿勢:開先に対する狙い位置、狙い角、前進・後退角等
(2)溶接出力値:溶接電流、ワイヤ送給速度、溶接電圧等
(3)トーチ運棒方法:溶接速度とウィビングパターン等
そして、対象ワークにおける良好な溶接品質を得るためには、予めテストピースを用いて実溶接試験を繰り返し行い、適切な(1)〜(3)の溶接条件を算出する必要がある。
適切な施工条件は、溶接対象(例えば、継手種類(V型、レ型、T型・・・)と板厚、開先角度、対象ワークの材質等)、溶接関連機器(例えば、溶接電源の特性、シールドガスの種類、溶接ワイヤの材質・直径・トーチ先端からの突出し長さ等)毎に異なる。そのため、溶接対象、溶接機器毎に上記した実溶接実験を行う必要がある。
また、近年、溶接工程のロボット化・自動化に伴い、上記の溶接条件は数値化されており、その数値化された溶接条件を別の溶接工程で再度利用できるように、データベースなどに記憶されている。
しかしながら、溶接条件を適切に導出することは、現状では特定溶接技能者しか行えていない。また、溶接対象・溶接関連機器毎に適切な溶接条件を求めることは、膨大な数の実溶接実験を行う必要があり、現実的に不可能である。
上記の問題を解決する技術が、特許文献1〜特許文献3に開示されている。
特許文献1には、溶接トーチ部の溶接速度を制御して所定溶接長の開先部を溶接する自動溶接装置において、前記溶接長を複数の領域に区分して、溶接開始部と溶接終了部における前記開先部の開先底面幅、開先角度及び開先部の高さに基づいて、前記各領域における各溶接層の断面積を算出し、更に該断面積に応じて前記各領域の各溶接層毎に前記溶接トーチ部の溶接速度を算出する算出手段と、該算出手段によって算出された情報を記憶する記憶手段と、該記憶手段から前記各領域の各溶接層毎に情報を読み出して前記溶接トーチ部の溶接速度を制御する速度制御手段とを設けた自動溶接装置が開示されている。
つまり、特許文献1は、溶接対象が建築用の鉄骨部材であり、その鉄骨部材の開先部の高さ・底面幅・開先角度に基づいて、溶接断面をパス毎に分割し、各パス毎の溶着断面積に応じて溶接速度を算出する技術である。また、特許文献1は、対象ワークである鉄骨部材の加工誤差により開先角度が異なっていても、既存条件を自動的に調整することで、溶接層の肉厚を一定にして溶接を行うようになっている。
特許文献2には、所定の教示データによって任意の継手形状のアーク溶接が可能な自動溶接装置を用いてすみ肉継手の多層盛溶接を行う方法において、前記自動溶接装置の制御および多層盛溶接パスプランの自動演算処理を行う演算処理装置を設け、この演算処理装置による前記多層盛溶接パスプランの自動演算に当っては、少なくとも溶接の継手形状、所定の溶着金属を満たすべき溶接脚長、継手部のギャップ、初層から最終層まで同一の溶接電流と溶接トーチのシフト量を初期条件として入力し、この入力値に基づいて、溶接電
圧、ワイヤ溶融速度、溶接脚長を満たすのに必要な全溶着断面積と溶接の層数、初層から最終層までの溶接パス数、溶接速度とパス単位当りの溶着断面積、初層溶接のビード高さと幅、積層溶接に伴う累計ビード高さと幅などをそれぞれ演算し、この演算結果に基づいて初層から最終層まで各溶接パス毎のパス座標と溶接トーチの位置座標とを演算して、これら一連の演算結果を表示するとともに、前記自動演算によって、多層盛溶接に必要な初層から最終層まで各溶接パス毎の最適な溶接条件とパス座標および溶接トーチの位置座標とから構成したパスプランデータを作成し、また、多層盛溶接を行うべきすみ肉継手に対する必要な教示データとしては、初層の溶接線および溶接トーチ位置を前記自動溶接装置に初期条件として入力したのちに前記演算処理装置に送信して、この教示データと前記作成したパスプランデータとにより、初層から最終層まで各パス毎の最適な溶接線および溶接トーチ位置座標と最適溶接条件とを決定して教示する教示パスプランデータを前記演算処理装置で自動作成したのち、前記自動溶接装置に送信し、この教示パスプランデータに基づいて初層から最終層までの各溶接パスを順次実行するすみ肉継手の多層盛溶接方法が開示されている。
つまり、特許文献2は、溶接対象であるすみ肉継手の形状・脚長・ギャップ長に対して、各パスにおいて「同一の溶接電流」を供給することを前提とし、この前提の基で、初層〜最終層までの各パス毎における溶接トーチの狙い位置座標、パス数、及び溶接電圧などの溶接条件を計算する技術である。
特許文献3には、複数の溶接部を同時に溶接し得る複数の溶接ロボットが設けられた自動溶接装置における溶接方法であって、各溶接部の断面形状に応じて溶接条件を決定する際に、溶接条件が溶接速度および溶接電流に関する場合で且つ各溶接部にコーナ部が含まれている場合であって、各溶接部におけるコーナ部での溶接具の回し半径位置に応じて溶接速度を決定するとともに、各溶接部のコーナ部における回し溶接の開始動作が同期して行われるように、当該各コーナ部手前における直線部での溶接速度を決定し、且つ溶接速度に応じて溶接電流を決定する自動溶接装置における溶接方法が開示されている。
つまり、特許文献3は、溶接部の全体断面積を予め設定された基準断面積にて除算し、溶接パス数を求める技術である。例えば、基準断面積を「1回のパスで溶接し得る断面積」とし、基準の開先より幅が広い開先を用いた場合には、自動的にパス数を増加させるようになっている。
以上、特許文献1〜特許文献3の技術は、各パス毎に溶着断面積を事前に計算し、その各溶着断面積を基に、既存の溶接条件の一部を変更するようになっており、溶接対象である継手などの形状が異なった場合でも、新たな溶接条件を自動計算することができる技術である。
特公平8−15665号公報 特許2806733号公報 特許4242111号公報
しかしながら、上記した特許文献1〜特許文献3の技術は、以下に示す(1)〜(3)の項目が考慮されずに、溶接条件が導出されている。
(1)溶接品質に大きな影響を与える、母材への「入熱量」について、考慮されていない。
特許文献1〜特許文献3の技術は、主に操作する溶接条件が「溶接速度」であり、各パス毎の溶着断面積を所定の目標値にするために溶接速度vを調整(増減)しているが、溶接品質で最も重要となる「溶け込み」の確保に必要とされる項目の一つである母材への入熱量Qが考慮されていない。
具体的には、入熱量Q[J/cm] は、以下に示す式(1)から算出される。
溶接電圧E、溶接電流Iが一定で、且つ溶接速度vが速い場合の入熱量Qは、不足することとなり、「溶け込み」が不良となる虞がある。それ故、融合不良や割れ等の欠陥が発生し、母材の溶接品質が悪化する虞がある。
一方で、溶接電圧E、溶接電流Iが一定で、且つ溶接速度vが遅い場合の入熱量Qは、過多となり、引張強度や耐衝撃性等の機械的特性が劣化する虞がある。
以上より、本願発明者らは、製品として最も重要である溶接品質を保証するための「溶け込み」を確保するためには、溶接速度vの算出及び変更時に、入熱量Qを所定範囲内となるように考慮する必要があると知見した。
(2)トーチのウィビング条件について、考慮されていない。
特許文献1〜特許文献3の技術には、中厚板を溶接する際の溶接条件として必要とされるトーチの「ウィビング条件」の算出方法、及び調整方法について、明確に開示されていない。
溶接対象となる母材の開先形状が異なった場合には、ウィビング振幅Wを変更・調整するだけでなく、溶接速度vに応じたウィビング周波数Fも変更・調整する必要がある。
例えば、過去に溶接した母材の開先と比べて、より幅の狭い開先の場合、その幅狭の開先の両端におけるワイヤの狙い位置を正確に求めるために、幅狭の開先幅に合わせてウィビング幅Wを減少させる必要がある。
さらに、溶着断面積を保つため溶接速度vを増速させた場合には、ウィビング周波数Fも調整が必要である。一般的には、溶接速度vが速いほど、ウィビング周波数Fを高周波にする必要があり、アンダカット、溶込み不足等の溶接欠陥防止および、良好なビード外観を得るためには、溶接速度vとウィビング周波数Fで決定するウィビングピッチdL(=ウィビング1周期で進む距離、すなわちウィビング波の波長)を適切な範囲に調整する必要がある。
また、溶け込みを確保するために、ウィビング幅Wやワイヤ向き(アークの当たる方法)、特にウィビング時の狙い位置+トーチ角度(=アーク方向) などのウィビング条件を考慮する必要がある。
以上より、本願発明者らは、種々の開先形状ごとに溶接条件を導出するためには、ウィビング周波数Fを調整すると共に、ウィビング幅Wを所定範囲内となるように、ウィビング条件を考慮する必要があると知見した。
(3)各パス毎におけるビード高さ(ビード肉厚)について、考慮されていない。
定性的には、各パス毎の溶着断面の高さ(ビード高さd)が所定値以上(ビード高さ大)となると、溶着部の溶融プールが過大となり、アークが不安定となるばかりでなく、アークが直接母材へ届かなくなる。その結果、入熱量が不足となる虞がある。つまり、溶融プール(溶着量)の過多は、「溶融プールの先行現象」を引き起こし、「溶け込み不足」となる。
特許文献1〜特許文献3の技術には、入熱量の不足を解消するため方法、つまりビード高さdを所定値以下にする方法について、明確に開示されていない。
特に、特許文献3においては、幅広の開先幅の場合、パス数を増加させることが開示されているが、パス数を増加させたとき、溶着断面高さ(ビード高さd)が増加することとなり(特許文献3の図4参照)、溶接品質を劣化させる溶接条件を算出する虞がある。
以上より、本願発明者らは、多数の実溶接実験において、熟練の溶接技能者が溶接品質として「良好」と判断した母材を検証し、その母材の大部分が「各パス毎の溶着断面の高
さ(=ビード高さd)」が所定値以内となっていることを見出し、首記ビード肉厚dが溶接品質上、最重要なパラメータの一つであると知見した。
首記ビード肉厚dが適切範囲になるよう考慮されず導出された溶接条件を用いてアーク溶接を行うと、「溶け込み」が不良となったり、溶融プールが過大となったりして、融合不良や割れ等の欠陥が発生し、母材の溶接品質が悪化する問題が生じることとなる。
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、母材の開先や継手の形状に関する情報に加えて、入熱量、ウィビング動作パターン、ビード肉厚d等の溶接品質に影響をする条件を考慮してアーク溶接の溶接条件を自動で導出することができる溶接条件導出装置を提供することを目的とする。
上記の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明にかかる溶接条件導出装置は、ウィビング機構を備えたトーチを用いて自動でアーク溶接を行う溶接機に備えられていて、溶接対象となる新規母材の溶着部の断面形状に応じた溶接条件を自動で導出する溶接条件導出装置において、前記溶接条件導出装置には、「溶接条件データ」が蓄積されたデータベースと、前記新規母材の開先・継手形状に対する溶接条件を算出する溶接条件算出部と、を有していて、前記溶接条件算出部は、前記データベースから抽出された、前記新規母材の開先・継手形状に類似した過去の「溶接条件データ」と、前記溶接機の仕様に関する「入力データ」とを基に、前記新規母材に形成される溶着部の断面積を考慮し、且つ前記新規母材に形成される溶着部のビード高さ、前記新規母材への入熱量、前記トーチのウィビング条件の少なくとも1つ以上を考慮した上で、前記新規母材の「溶接条件データ」を導出することを特徴とする。
好ましくは、前記溶接条件算出部において、前記新規母材に形成される溶着部のビード高さを考慮するに際しては、前記新規母材のビード高さが所定の上限値及び下限値の範囲内なるように設定されているとよい。
好ましくは、前記溶接条件算出部において、前記新規母材への入熱量を考慮するに際しては、前記新規母材への入熱量が所定の上限値及び下限値の範囲内なるように設定されているとよい。
好ましくは、前記溶接条件算出部において、前記ウィビング条件とされる、前記新規母材に対するウィビング振幅及びウィビング波の波長であるウィビングピッチを考慮するに際しては、前記新規母材に対するウィビング振幅及びウィビングピッチが所定の上限値及び下限値の範囲内なるように設定されているとよい。
好ましくは、前記溶接条件算出部は、前記新規母材のビード高さを考慮すべく、前記過去母材の「溶接条件データ」から、前記過去母材のビード高さを抽出し、抽出した前記過去母材のビード高さを前記新規母材のビード高さとし、その上で、前記過去母材の溶着部の断面積を算出し、算出された前記過去母材の溶着部の断面積を用いて、前記新規母材の「溶接条件データ」の一つである溶接速度を導出するとよい。
好ましくは、前記溶接条件算出部は、前記新規母材への入熱量を考慮すべく、導出された前記溶接速度を用いて前記新規母材への入熱量を算出し、算出された前記過去母材への入熱量を用いて、前記新規母材の「溶接条件データ」の一つである溶接電流を導出するとよい。
好ましくは、前記溶接条件算出部は、前記新規母材に対するウィビング振幅を考慮すべく、前記過去母材の「溶接条件データ」から、前記過去母材に対するウィビング振幅、及び前記過去母材におけるビード幅を抽出し、前記過去母材に対するウィビング振幅に、前記過去母材におけるビード幅と前記新規母材におけるビード幅との差分を加算して、前記新規母材の「溶接条件データ」の一つであるウィビング振幅とするとよい。
好ましくは、前記溶接条件算出部は、前記新規母材に対するウィビングピッチを考慮すべく、算出された前記溶接速度を基に、前記ウィビングピッチの上限値及び下限値の範囲内になるようにウィビング周波数を調整して、前記新規母材の「溶接条件データ」の一つであるウィビングピッチを導出するとよい。
好ましくは、前記溶接条件算出部は、前記溶接機の仕様に関する「入力データ」を用い
て、設定された前記新規母材の各「溶接条件データ」の各上限値及び各下限値を再計算するように構成されているとよい。
本発明の溶接条件導出装置によれば、母材の開先や継手の形状に関する情報に加えて、入熱量、ウィビング動作パターン、ビード肉厚d等を考慮する事で、良好な溶接品質となるようなアーク溶接の溶接条件を自動で導出することができる。また、導出した溶接条件は、表示器等に表示可能であり、この溶接条件に基づいて、オペレータへの細かい指示・示唆をすることが可能である。
本発明の溶接条件導出装置が備えられる溶接ロボットシステムを示した図である。 トーチに備えられているウィビング機構の動作を模式的に示した図である。 本発明の溶接条件導出装置の構成をブロック図にて示した図である。 過去母材の開先を模式的に示した図である。 新規母材の開先を模式的に示した図である。 過去母材の開先に形成される溶着部の断面積を算出する方法を示した図である。 新規母材の開先に形成される溶着部の断面積を算出する方法を示した図である。
以下、本発明にかかる溶接条件導出装置について、図面に基づき詳しく説明する。
なお、以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。従って、それらについての詳細な説明は繰返さない。
まず、本発明の溶接条件導出装置1を説明する前に、その溶接条件導出装置1が備えられた垂直多関節型の溶接ロボットシステム4の概要について、図1A、図1Bに基づき説明する。
図1Aは、本発明の溶接条件導出装置1が備えられる溶接ロボットシステム4を示した図である。図1Bは、トーチ7に備えられているウィビング機構の動作を模式的に示した図である。
図1Aに示すように、この溶接ロボットシステム4は、溶接ロボット5と、教示ペンダント9を備えた制御装置8と、パソコン10とを有している。
加えて、本実施形態の溶接ロボットシステム4には、溶接条件導出装置1(詳細は後述)が備えられている。
溶接ロボット5は、垂直多関節型の複数軸(例えば、6軸)の産業用ロボットであり、その先端に溶接トーチ7(以降、単にトーチと呼ぶこともある)が備えられている溶接ヘッド6などから構成される溶接ツールが設けられている。加えて、溶接ロボット5には、図示はしないが、電源を供給する溶接電源装置と、トーチ7に溶接ワイヤ11(溶接電極)を送給するワイヤ送給装置と、を有している。なお、この溶接ロボット5は、それ自体を移動させるスライダ(図示せず)に搭載されていてもよい。
図1Bに示すように、この溶接ロボット5には、トーチ7の先端(ノズル)を溶接方向に沿うように一定溶接速度にて動作させ、溶接方向に対してトーチ7をほぼ直角に揺動させるウィビング機構が備えられている。
なお、本実施形態の母材Wの開先・継手の形状としては、様々なものが想定されるが、例えば、図3A、図3Bに例示するように、左右対称のV型(向き合う左右面が共に同じ角度で傾斜)の開先Zaを例に挙げて説明する。
なお、母材Wの開先Zaの形状としては、左右非対称のレ型(向き合う一方側が傾斜面で、他方側が垂直面)、左右非対称のJ型(向き合う一方側が湾曲面で、他方側が垂直面)、左右対称のI型(向き合う左右面が共に垂直面)、左右対称のU型(向き合う左右面が共に湾曲面)、2つ以上の母材Wを垂直に突き合わせたT型(すみ肉溶接)などが挙げら
れ、本実施形態はいずれの開先Zaであっても適用可能である。
ウィビング動作をするトーチ7を用いて、母材W(対象ワーク)に対してアーク溶接を行うにあたっては、制御装置8にて、調整されたトーチ7の位置(以降、トーチ7の狙い位置と呼ぶ)や母材Wa,Wbの開先形状Za,Zbなど、予め教示した溶接条件(プログラム)に従って、溶接ロボット5の制御が行われている。
この溶接条件は、制御装置8に接続された教示ペンダント9を使用して設定される場合や、パソコン10を利用して設定される場合などがある。いずれの場合であっても、この溶接条件は、実際に行われるアーク溶接の前に予め設定される。
上記のようにして設定された溶接条件は、記憶媒体等を介して制御装置8に受渡しされたり、データ通信により制御装置8に転送されたりする。
ところで、溶接条件に基づいて、新たに溶接対象となる母材Waに対して自動溶接を行う指令を出しているが、この新規母材Waの開先形状Zaが過去において溶接を行った実績がある母材Wbと同じ開先形状Zbであれば、溶接ロボットシステム4に備えられたデータベース2などに予め蓄積されている溶接条件のデータから、同一の溶接条件を抽出して、その同一の溶接条件に基づいた自動溶接を行う指令を出せばよい。
しかしながら、実溶接では、新たにアーク溶接の対象となる母材Waの開先形状Zaが、過去に溶接履歴がある母材Wbと類似した開先形状Zb(母材Wbの材質なども含む)であるとは限らない。
このような、前歴のない開先形状Zaを有する新規母材Waに対してアーク溶接を行う場合には、抽出した新規母材Waの開先形状Zaに類似した過去母材Wbの溶接条件を基に、新規母材Waの溶接条件を計算して導出することが必要となる。
そこで、本願発明者らは、新規母材Waの開先形状Zaに類似した過去母材Wbの溶接条件と、新規母材Waの開先形状Zaに関する情報とに加えて、新規母材Waに形成される溶着部に関する情報、トーチ7に関する情報を考慮して、新規母材Waの溶接条件を自動で導出することができる溶接ロボットシステム4の溶接条件導出装置1を開発した。
溶接条件導出装置1は、上記した溶接ロボットシステム4に備えられていて、溶接対象となる新規母材Waの断面形状に応じた溶接条件を自動で導出するものである。
図2は、本発明の溶接条件導出装置1の構成をブロック図にて示した図である。
図2に示すように、溶接条件導出装置1は、「溶接条件データ」が蓄積されたデータベース2と、新規母材Waに対する溶接条件を算出する溶接条件算出部3と、を有している。
データベース2に蓄積された「溶接条件データ」は、過去に溶接履歴がある母材Wbの溶接条件(過去母材Wbの溶接条件)、当該過去母材Wbの溶接条件を基に物理モデル化し、その物理モデルから得られた溶接条件、これまでに導出した経験のある溶接条件(実際に採用された溶接条件、適した条件であるが、何らかの理由で不採用となった溶接条件)などが含まれている。
本発明の特徴である溶接条件算出部3は、データベース2から抽出された、新規母材Waに類似した過去母材Wbの「溶接条件データ」と、溶接ロボット5の仕様に関する「入力データ」とを基に、新規母材Waに形成される溶着部の断面積Sを考慮し、更には新規母材Waに形成される溶着部のビード高さd、新規母材Waへの入熱量Q、トーチ7のウィビング条件の少なくとも1つ以上を考慮した上で、新規母材Waの「溶接条件データ」を導出する。
なお、本実施形態の溶接条件算出部3は、データベース2から抽出された、新規母材Waに類似した過去母材Wbの「溶接条件データ」と、溶接ロボット5の仕様に関する「入力データ」とを基に、新規母材Waへの溶着部の断面積S’のパラメータと、新規母材Waに形成される溶着部のビード高さd’を考慮し、その上で新規母材Waへの入熱量Q’、トーチ7のウィビング条件を考慮して、新規母材Waの「溶接条件データ」を導出するものである。
「入力データ」とは、溶接ロボット5のスペックを基に設定されたデータであり、例えば、溶接電圧E、溶接電流I、溶接ワイヤ11の送給速度V(I)、溶接ワイヤ11の
半径R、ウィビング周波数Fなどである。
詳しくは、この溶接条件算出部3は、新規母材Waのビード高さd’を考慮すべく、過去母材Wbの「溶接条件データ」から、過去母材Wbのビード高さdを抽出し、抽出した過去母材Wbのビード高さdを新規母材Waのビード高さd’とし、その上で、過去母材Wbの溶着部の断面積(開先断面積)Sを算出し、算出された過去母材Wbの溶着部の断面積Sを用いて、新規母材Waの「溶接条件データ」の一つである溶接速度v’を導出する。
また、溶接条件算出部3は、新規母材Waへの入熱量Q’を考慮すべく、導出された溶接速度v’を用いて新規母材Waへの入熱量Q’を算出し、算出された過去母材Wbへの入熱量Qを用いて、新規母材Waの「溶接条件データ」の一つである溶接電流I’を導出する。
さらには、溶接条件算出部3は、新規母材Waに対するウィビング振幅W’を考慮すべく、過去母材Wbの「溶接条件データ」から、過去母材Wbに対するウィビング振幅W、及び過去母材Wbにおけるビード幅(脚長)Aを抽出し、過去母材Wbに対するウィビング振幅Wに、過去母材Wbにおけるビード幅Aと新規母材Waにおけるビード幅A’との差分(ビード幅A’の増加分)ΔWを加算して、新規母材Waの「溶接条件データ」の一つであるウィビング振幅W’とする(W’=W+ΔW)。
また、溶接条件算出部3は、新規母材Waに対するウィビングピッチ(=ウィビング端点間の距離)dL’を考慮すべく、算出された溶接速度v’を基に、ウィビングピッチ dL’の上限値及び下限値の範囲[P±ΔP(n=1)]内になるようにウィビング周波数F’を調整して、新規母材Waの「溶接条件データ」の一つであるウィビングピッチdL’を導出する。
以上まとめると、溶接条件算出部3は、入力条件の溶接速度vとワイヤ送給速度Vとから、溶着部の断面積S’を算出し、算出された断面積S’を用いて、ビード高さd’、入熱量Q’を算出する。
そして、算出された各パス毎のビード高さd’と入熱量Q’とが、過去母材Wbの溶接条件のビード高さd、 入熱量Qから大きく変化しないように、つまり、ビード高さd’を(d±Δd)の範囲内に、且つ入熱量Q’を(Q±ΔQ)の範囲内となるように調整する。
続いて、その調整されたビード高さd’を用いて、新たな溶接速度v’を導出すると共に、調整された入熱量Q’を用いて、新たなワイヤ送給速度V’(=溶接電流I’)を導出する。
なお、上記した溶接条件算出部3は、溶接ロボット5の仕様に関する「入力データ」を用いて、設定された新規母材Waの各「溶接条件データ」の上限値及び各下限値を再計算するように構成されていてもよい。
次に、本発明の溶接条件導出装置1を用いて、新規母材Waの溶接条件を導出する方法、すなわち本発明の特徴である溶接条件算出部3の動作(溶接条件の導出過程)について、V型開先Zaの「多層盛り溶接」を例に挙げて詳細に説明する。
図3Aは、過去母材Wbの開先Zbを模式的に示した図であり、図3Bは、新規母材Waの開先Zaを模式的に示した図である。また、図4Aは、過去母材Wbの開先Zbに形成される溶着部の断面積を算出する方法を示した図である。図4Bは、新規母材Waの開先Zaに形成される溶着部の断面積を算出する方法を示した図である。
図3A、図3Bに示すように、本実施形態では、新たにアーク溶接を行う対象をV型の開先Zaを有する新規母材Waとする。また、過去母材Wbの開先角度をθとし、ギャップ幅をgとする。一方、新規母材Waの開先角度をθ’とし、ギャップ幅をg’とする。
なお、開先角度については、(θ>θ’)とし、ギャップ幅については、(g>g’)とする。つまり、新規母材Waの開先角度θ’及びギャップ幅g’のほうが、過去母材Wbのそれ(θ、g)より、狭いものであるとする。
また、図3A、図3Bに示すように、本実施形態の「多層盛り溶接」では、アーク溶接のパス数を5パスとし、層数を4層としている。
まず、本実施形態の溶接条件導出装置1(溶接ロボット5)には、以下に示す溶接条件、
1)パス数:n(n=1,2・・・)
2)各パス毎に、
・溶接ロボット5への出力指令として、溶接電流I、溶接電圧E
・トーチ7の先端の狙い位置P、狙い角度・前進角 、溶接時の速度v
・ウィビング動作(正弦波)パラメータ:振幅W・周波数F
が教示データとして、データベース2に記憶されているとする。
また、本実施形態の溶接条件導出装置1には、予め行った実溶接実験にて、良好な溶接品質となることが確認された溶接条件(過去母材Wbの溶接条件)を、データベース2に記憶させてあるとする。
表1に、過去母材Wbの溶接条件の一例を示す。
また、表2に示すように、溶接条件導出装置1には、本実施形態にて使用する溶接電源Iや、溶接ワイヤ11の種類(例えば、半径R)や、溶接ロボット5の性能限界で決定する特性(例えば、溶接ワイヤ11の送給速度V(I)、標準電圧値E(I)、ウィビング周波数Fなど)などがデータベース2に記憶されている。
また、表3に示すように、本実施形態において溶接品質を確保するための溶接条件の制限値として、溶接条件導出装置1には、過去母材Wbの入熱量Q、ビード高さd、トーチ7のウィビング条件(例えば振幅W、ピッチdL)などもデータベース2に記憶されている。
なお、上記した溶接条件の各制限値は、所定の上限値及び下限値の範囲内なるように設定されている。
例えば、溶接条件算出部3において、新規母材Waへの入熱量Q’を考慮するに際しては、過去母材Wbへの入熱量Qより、新規母材Waへの入熱量Q’が所定の上限値Qmax及び下限値Qminの範囲内となるように設定されている。
また、溶接条件算出部3において、新規母材Waに形成される溶着部のビード高さd’を考慮するに際しては、過去母材Wbのビード高さdより、新規母材Waのビード高さd’が所定の上限値dmax及び下限値dminの範囲内となるように設定されている。
さらには、溶接条件算出部3において、ウィビング条件とされる、新規母材Waに対するウィビング振幅W’を考慮するに際しては、過去母材Wbに対するウィビング振幅Wより、新規母材Waに対するウィビング振幅W’が所定の上限値Wmax及び下限値Wminの範囲内なるように設定されている。また、ウィビングピッチ (=ウィビング波の波長)dL’を考慮するに際しては、過去母材Wbに対するウィビングピッチdLより、ウィビングピッチdL’が所定の上限値dLmax及び下限値dLminの範囲内なるように設定されている。
なお、本実施形態では、オペレータは、溶接ロボット5に備えられた教示ペンダント9を用いて、データベース2に、上記した各種データの設定や教示データの記憶、並びに新規母材Waの溶接条件の設定(詳細は後述)などを行っている。
次に、図3Bに示すように、オペレータは、今回の溶接対象である「新規母材Wa(新たな継手)」の開先形状Zaのパラメータ(開先角度θ’、ギャップ幅g’)を入力して、溶接条件算出部3(溶接条件の自動算出機能)を起動させる。
溶接条件算出部3は、溶接ロボット制御用CPUにより、以下に示す処理ステップ(ステップ1、ステップ2)を行う。
まず、ステップ1において、過去母材Wbの溶接条件からビード形状と入熱量を求める。
具体的には、表1に示す[過去母材Wbの溶接条件データ]、表2に示す[入力条件(溶接ロボット5のスペック)]から、過去母材Wbの溶接条件で形成されるビードの積層図(図4A参照)における各パス毎の溶着部の断面形状パラメータ、および、各パスの溶着部への入熱量Qを算出する。
なお、本実施形態においては、各パス毎のビード断面を「台形」状と見なし、例えば、nパス目(n=1,2・・・)のビード幅をA、ビード(開先Zb)の断面積をS、ビード高さをd、入熱量をQとする。
図4Aに示すように、過去母材Wbの溶接条件のnパス目(本実施形態では、n=1〜5)の条件、すなわち溶接電流E[V]、溶接電圧I[A]、速度v[mm/s]、トーチ7の狙い位置P、ウィビング振幅W[mm]、周波数F[Hz]などから、nパス目における開先Zbの断面積S[mm]、溶着部のビード幅A[mm]、
ビード高さd[mm]、nパス目の入熱量Q[J/mm]を算出する。
まず、1パス目〜3パス目(n=1〜3)の過去母材Wbの溶接条件について、導出する。
溶接ワイヤ11の溶着量を基に、1パス目〜3パス目における各溶着部の断面積(ビード断面積)S[mm]を、以下に示す式(2)より算出する。
そして、1パス目〜3パス目におけるビード高さdを、式(3)を式(4)に変形して算出する。
さらに、1パス目〜3パス目におけるビード幅An[mm]を、以下に示す式(5)より算出する。
続いて、1パス目〜3パス目における入熱量Q[J/mm]を、以下に示す式(6)より算出する。
次に、4パス目、5パス目(n=4,5)の過去母材Wbの溶接条件について、導出する。
4パス目、5パス目における各ビード断面積Sを、以下に示す式(7)より算出する。
そして、4パス目、5パス目における各ビード高さdを、式(8)を式(9)に変形して算出する。
さらに、4パス目、5パス目におけるビード幅An[mm]を、以下に示す式(10)より算出する。
続いて、4パス目、5パス目における入熱量Q[J/mm]を、以下に示す式(11)より算出する。
なお、本実施形態では、計算によって、過去母材Wbにおけるビード断面積S、ビード幅A、ビード高さd、入熱量Qを算出したが、実溶接実験時に各パス毎にビード形状や実電流・電圧等を計測し、それら計測結果をアーク溶接の実データとして、データベース2に記憶しておいてもよい。
次に、ステップ2において、過去母材Wbの溶接条件から、新規母材Wa(新たな溶接継手)のビード形状(断面積S’及びビード高さd’など)のパラメータと、新規母材Waへの入熱量Q’を算出し、算出された新規母材Waのビード形状のパラメータと、入熱量Q’とを基に、新規母材Waの溶接条件を導出する。
なお、図4A、図4Bに示すように、新規母材Waの開先角度をθ’とし、ギャップ幅をg’とし、過去母材Wbの開先角度をθとし、ギャップ幅をgとしている。また、開先角度を(θ>θ’)とし、ギャップ幅gを(g>g’) としている。
まず、新規母材Waへの1層目(1パス目)のアーク溶接に対する溶接条件を導出する。
なお、本実施形態では、ビード高さ(厚み)d’が過去母材Wbの溶接条件からでき
るだけ変化しない、すなわち過去母材Wbの溶接条件に略類似するように、新規母材Waの溶接条件を導出する。その理由としては、「発明が解決しようとする課題」で詳説したように、本願発明者らが、溶接品質にビード高さd’が大きく影響するとの知見をしたからである。
具体的には、1パス目のビード高さd’が過去母材Wbの溶接条件における1パス目のビード高さdと一致する(d’=d)ように、溶接速度v’を調整する。
まず、1パス目におけるビード断面積S’[mm]を、以下に示す式(12)より算出する。
そして、新たな溶接速度v’を、以下に示す式(13)より算出する。
なお、本実施形態においては、新規母材Waの開先形状Zaが過去母材Wbの開先形状Zbより狭くなった場合であるので、新規母材Waの溶接速度v’は過去母材Wbの溶接速度vより遅くなる(v’<v)。一方で、新規母材Waへの入熱量Q’は、過去母材Wbへの入熱量Qより増加することとなる(Q’>Q)。
そして、新規母材Waへの入熱量Q’を算出するに際し、その算出された新規母材Waへの入熱量Q’を所定範囲になるように調整を行う。
このときに用いる各閾値は、表3に示す[溶接条件の制限値]、
・入熱量Q 下限値 Qmin[J/mm]、上限値 Qmax[J/mm]
調整時の許容変化閾値 ΔQ[J/mm]
・ビード高さd 下限値 dmin[mm]、上限値 dmax[mm]
調整時の許容変化閾値 Δd[mm]
を用いる。なお、これら上限値及び下限値は、予め求められている設計値、あるいは、溶接施工時のノウハウとして算出されるものである。
新規母材Waへの入熱量Q’が上限値Qmaxを上回った場合(Q’>Qmax)、あるいは、新規母材Waへの入熱量Q’と過去母材Wbへの入熱量Qとの差が、調整時の許容変化閾値ΔQより上回った場合(Q’−Q >ΔQ)、新規母材Waへの入熱量Q’が上限値Qmaxとなる、あるいは、新規母材Waへの入熱量Q’が過去母材Wbへの入熱量Qに調整時の許容変化閾値ΔQを加算した値(Q+ΔQ)となるように、以下に示す式(14)より算出し、溶接電流I’を、以下に示す式(15)より算出する。
算出された新規母材Waへの入熱量Q’を基に、溶接電流I’を調整した(本実施形態においては、溶接電流I’を減少させることになった)結果、新規母材Waへの溶着量が変化するので、新規母材Waのビード高さd’も変化するようになる。
新規母材Waのビード高さd’は、以下に示す式(16)、 式(17)より算出す
る。
本実施形態では、算出した新規母材Waのビード高さd’と過去母材Wbの溶接条件のビード高さdとの差の絶対値が、調整時の許容変化閾値Δd以下、すなわち以下に示す式(18)を満たすか否かを確認する。
例えば、仮に、以下に示す式(19)のように、算出された新規母材Waのビード高さd’と過去母材Wbの溶接条件のビード高さdとの差の絶対値が、調整時の許容変化閾値Δd以上、すなわち式(18)を満たさない場合、ビード高さd’が大きく変化したこととなる。
このように、ビード高さd’が大きく変化した(閾値以上となった)場合、教示ペンダント9を介してオペレータに通達してもよい。
以上のようにして算出された溶接電流I’を用いて、1層目のビード幅A’1を、以下に示す式(20)より算出する。
算出された1層目のビード幅A’1を、2パス目(2層目)の溶接条件の導出に用いる。
以降、上記した新規母材Waの溶接条件の導出を、最終層(4層目の5パス目)まで繰り返し行う。
特に、4層目の4パス目、5パス目においては、最終ビードが開先Za全域を埋めるように、ビード高さd’(=d’)を、以下に示す式(21)のようにする。
ビード断面積S’を、以下に示す式(22)より計算する。
そして、算出されたビード断面積S’を用いて、式(23) より溶接速度v’を算出する。続いて、その算出された溶接速度v’を用いて、式(24)より溶接電流I’を計算する。
そして、オペレータは、上記のように本発明の溶接条件導出装置1により導出され、教示ペンダント9に表示された新規母材Waの溶接条件を参照して、新規母材Waの溶接条件を設定する。
以上述べたように、新規母材Waに類似した過去母材Wbの「溶接条件データ」と、溶接ロボット5の仕様に関する「入力データ」とを基に、新規母材Waに形成される溶着部の断面積S’を考慮し、且つ新規母材Waに形成される溶着部のビード高さd’、新規母材Waへの入熱量Q’、トーチ7のウィビング条件(振幅W’、ピッチdL’など)の少なくとも1つ以上を考慮することで、アーク溶接に関する情報が十分に満足した状態で、これまで溶接実績のない新規母材Waの溶接条件を導出することができる。
また、本発明の溶接条件導出装置1は、過去実績のある溶接条件に対する入熱量Qの変化が適正範囲になることを最優先に、新規母材Waの溶接条件を自動的に調整することにより、入熱量Q’の不足乃至は過多による融合不良や機械的特性の劣化等の溶接欠陥を防止することができる。
また、本発明の溶接条件導出装置1は、上記した新規母材Waの溶接条件の導出過程を経る、特にビード高さd’が所定値の範囲(dmax〜dmin)内となる、すなわちビード高さd’をdからできるだけ変化させないようにすることで、「溶け込み」不足を防止することができる。
また、本発明の溶接条件導出装置1は、溶接速度v’に加えて、溶接ワイヤ11の送給速度V(I)(=溶接電流I)なども調整対象とすることで、新規母材Waの溶接条件を導出する際の調整可能範囲をより広範囲とすることができ、種々の開先形状Za,Zbの新規母材Waに対応することができる。
また、前述のように、新規母材Waの溶接条件を導出する際の調整可能範囲を広範囲としているので、予めデータベース2に蓄積しておく過去母材Wbの溶接条件を必要最小限にすることができる。それ故、予めデータベース2に蓄積しておくための過去母材Wbの溶接条件を導出する実溶接実験の回数も少なくすることができる。
また、アーク溶接に使用する溶接ロボット5の特性・性能限界(入熱量Q’/ビード高さd’等、溶接施工での「限界値」だけでなく、その溶接ロボット5の限界値(ワイヤ送給速度V(I)の上限値、溶接ロボット5の溶接速度vの限界、ウィビング周波数F毎の振幅W上限値など)を考慮して新規母材Waの溶接条件を導出していることから、算出された新規模材の溶接条件は確実に溶接ロボット5にて実行することできる。それ故、溶接条件変更後における溶接ロボット5の事前の確認運転が不要となる。
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。
例えば、本実施形態においては、溶接条件導出装置1により導出された新規母材Waの溶接条件を基に、オペレータが教示ペンダント9を用いて、新規母材Waの溶接条件の設定操作を行う説明を行ったが、溶接条件導出装置1により導出された新規母材Waの溶接条件をパソコン10などの表示器(モニタ)に表示し、キーボードまたはマウスなど入力装置を用いて、新規母材Waの溶接条件を設定してもよい。
また、本実施形態では、自動でアーク溶接を行う溶接機として、トーチ7をウィビング動作させる多関節の溶接ロボット5を例に挙げて説明したが、この多関節の溶接ロボット5は一つの例であり、自動溶接が行えるウィビング動作が可能な溶接機であれば特に限定しない。例えば、ウィビング機能を有する直線移動型の簡易自動溶接機であってもよい。
また、本実施形態は、アーク溶接を行う方法として、対象継手に複数の溶接ビードを重ねる「多層盛り溶接」を例に挙げて説明したが、「一層、1パスの溶接」でも適用可能である。また、本発明は、「すみ肉継手溶接」にも適用可能である。
特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
1 溶接条件導出装置
2 データベース
3 溶接条件算出部
4 溶接ロボットシステム
5 溶接ロボット
6 溶接ヘッド
7 トーチ
8 制御装置
9 教示ペンダント
10 パソコン
11 溶接ワイヤ(溶接電極)
Wa 新規母材(対象ワーク)
Wb 過去母材
Za 新規母材の開先(開先形状)
Zb 過去母材の開先(開先形状)
好ましくは、前記溶接条件算出部は、前記新規母材に対するウィビングピッチを考慮すべく、算出された前記溶接速度を基に、前記ウィビングピッチの上限値及び下限値の範囲内になるようにウィビング周波数を調整して、前記新規母材の「溶接条件データ」の一つであるウィビングピッチを導出するとよい。
好ましくは、前記溶接条件算出部は、前記溶接機の仕様に関する「入力データ」を用いて、設定された前記新規母材の各「溶接条件データ」の各上限値及び各下限値を再計算するように構成されているとよい。
なお、本発明の溶接条件導出装置の最も好ましい形態は、ウィビング機構を備えたトーチを用いて自動でアーク溶接を行う溶接機に備えられていて、溶接対象となる新規母材の溶着部の断面形状に応じた溶接条件をオフラインで導出する溶接条件導出装置において、前記溶接条件導出装置には、「溶接条件データ」が蓄積されたデータベースと、前記新規母材の開先・継手形状に対する溶接条件を算出する溶接条件算出部と、を有していて、前記溶接条件算出部は、前記データベースから抽出された、前記新規母材の開先・継手形状に類似した過去の「溶接条件データ」と、前記溶接機の仕様に関する「入力データ」とを基に、前記新規母材に形成される溶着部の断面積を考慮し、且つ前記新規母材に形成される溶着部のビード高さ、前記新規母材への入熱量、前記トーチのウィビング条件の少なくとも1つ以上を考慮した上で、前記新規母材の「溶接条件データ」を導出し、前記溶接条件算出部において、前記新規母材に形成される溶着部のビード高さを考慮するに際しては、前記新規母材のビード高さが所定の上限値及び下限値の範囲内なるように設定されてい
て、前記溶接条件算出部は、前記新規母材のビード高さを考慮すべく、前記過去母材の「溶接条件データ」から、前記過去母材のビード高さを抽出し、抽出した前記過去母材のビード高さを前記新規母材のビード高さとし、その上で、前記過去母材の溶着部の断面積を算出し、算出された前記過去母材の溶着部の断面積を用いて、前記新規母材の「溶接条件データ」の一つである溶接速度を導出することを特徴とする。

Claims (9)

  1. ウィビング機構を備えたトーチを用いて自動でアーク溶接を行う溶接機に備えられていて、溶接対象となる新規母材の溶着部の断面形状に応じた溶接条件を自動で導出する溶接条件導出装置において、
    前記溶接条件導出装置には、「溶接条件データ」が蓄積されたデータベースと、前記新規母材の開先・継手形状に対する溶接条件を算出する溶接条件算出部と、を有していて、
    前記溶接条件算出部は、前記データベースから抽出された、前記新規母材の開先・継手形状に類似した過去の「溶接条件データ」と、前記溶接機の仕様に関する「入力データ」とを基に、前記新規母材に形成される溶着部の断面積を考慮し、且つ前記新規母材に形成される溶着部のビード高さ、前記新規母材への入熱量、前記トーチのウィビング条件の少なくとも1つ以上を考慮した上で、前記新規母材の「溶接条件データ」を導出する
    ことを特徴とする溶接条件導出装置。
  2. 前記溶接条件算出部において、前記新規母材に形成される溶着部のビード高さを考慮するに際しては、前記新規母材のビード高さが所定の上限値及び下限値の範囲内なるように設定されている
    ことを特徴とする請求項1に記載の溶接条件導出装置。
  3. 前記溶接条件算出部において、前記新規母材への入熱量を考慮するに際しては、前記新規母材への入熱量が所定の上限値及び下限値の範囲内なるように設定されている
    ことを特徴とする請求項1又は2に記載の溶接条件導出装置。
  4. 前記溶接条件算出部において、前記ウィビング条件とされる、前記新規母材に対するウィビング振幅及びウィビング波の波長であるウィビングピッチを考慮するに際しては、前記新規母材に対するウィビング振幅及びウィビングピッチが所定の上限値及び下限値の範囲内なるように設定されている
    ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の溶接条件導出装置。
  5. 前記溶接条件算出部は、前記新規母材のビード高さを考慮すべく、前記過去母材の「溶接条件データ」から、前記過去母材のビード高さを抽出し、抽出した前記過去母材のビード高さを前記新規母材のビード高さとし、その上で、前記過去母材の溶着部の断面積を算出し、
    算出された前記過去母材の溶着部の断面積を用いて、前記新規母材の「溶接条件データ」の一つである溶接速度を導出する
    ことを特徴とする請求項1又は2に記載の溶接条件導出装置。
  6. 前記溶接条件算出部は、前記新規母材への入熱量を考慮すべく、導出された前記溶接速度を用いて前記新規母材への入熱量を算出し、
    算出された前記過去母材への入熱量を用いて、前記新規母材の「溶接条件データ」の一つである溶接電流を導出する
    ことを特徴とする請求項5に記載の溶接条件導出装置。
  7. 前記溶接条件算出部は、前記新規母材に対するウィビング振幅を考慮すべく、前記過去母材の「溶接条件データ」から、前記過去母材に対するウィビング振幅、及び前記過去母材におけるビード幅を抽出し、
    前記過去母材に対するウィビング振幅に、前記過去母材におけるビード幅と前記新規母材におけるビード幅との差分を加算して、前記新規母材の「溶接条件データ」の一つであるウィビング振幅とする
    ことを特徴とする請求項1又は4に記載の溶接条件導出装置。
  8. 前記溶接条件算出部は、前記新規母材に対するウィビングピッチを考慮すべく、算出された前記溶接速度を基に、前記ウィビングピッチの上限値及び下限値の範囲内になるようにウィビング周波数を調整して、前記新規母材の「溶接条件データ」の一つであるウィビングピッチを導出する
    ことを特徴とする請求項5に記載の溶接条件導出装置。
  9. 前記溶接条件算出部は、前記溶接機の仕様に関する「入力データ」を用いて、設定された前記新規母材の各「溶接条件データ」の各上限値及び各下限値を再計算するように構成されている
    ことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の溶接条件導出装置。
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