以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において、FRは車両の前方を、UPは上方を、INは車幅方向内側をそれぞれ示す。また、以下の説明において、左右方向は車両前方を向いた状態での左右方向を意味する。
図1(a)及び図1(b)に示すように、本実施形態に係る車両の前部構造10は、例えば、キャブ2が概ねエンジン(図示省略)の上方に配置されるキャブオーバー型のトラック(車両)1に適用される。キャブ2は、キャブ2の前面部のフロントガラス22と、フロントガラス22の下方で起立するフロントパネル3と、フロントパネル3に形成される略矩形状のフロント開口(開口)5を開閉するフロントリッド6と、フロント開口5の内部の後方で起立する内部パネル4とを有する。フロントパネル3の前面のうちフロント開口5の上縁の近傍(フロントガラス22の下縁近傍)には、車幅方向に延びる回転軸(図示省略)を有する略コ字状の左右1対のアシストグリップ37が固定される。
フロントリッド6は、上端縁側がフロントパネル3の前面の左右のアシストグリップ37の回転軸を中心としてフロントパネル3に対して回転自在に支持され、フロント開口5を閉止する閉止位置(図1(a)参照)と、前上方へ傾動してフロント開口5を開放する開放位置(図1(b)参照)との間を傾動可能である。通常時のフロントリッド6は、後述する上下のロック装置7,8によって閉止位置にロックされる。なお、以下の説明において、フロントリッド6に関する前後方向及び上下方向は、特に説明のない限り、閉止位置における前後及び上下を示す。
図1(b)及び図2に示すように、フロント開口5の内側の車体側の内部パネル4には、フロントリッド6を閉止位置にロックする車幅方向両側の左右1対の上ロック装置7と、左右の上ロック装置7よりも下方に配置される車幅方向略中央部の下ロック装置8と、左右の上ロック装置7の間に配置されるガススプリング(傾動手段、規制部材)9とが固定される。
ガススプリング9は、シリンダ9aと、シリンダ9aにスライド移動自在に挿入されるロッド9bとによって、伸縮自在に形成される棒状体である。ガススプリング9のロッド9b側(一側)の一端は、車体側の内部パネル4に固定されるブラケット78に回転自在に支持される。ガススプリング9のシリンダ9a側(他側)の他端は、フロントリッド6に固定される後述するブラケット30に回転自在に連結される。ガススプリング9は、フロントリッド6を内部パネル4側(車体側)から前上方の開放位置へ付勢する。すなわち、ガススプリング9は、フロントリッド6に対して開放位置へ向かう傾動力(付勢力)を付与する。ガススプリング9は、開放位置では完全に伸び切って、前上方へのフロントリッド6の傾動範囲を開放位置に規制する。
図3に示すように、左右の上ロック装置7は、内部パネル4に固定されるベースプレート53と、ベースプレート53に回転自在に支持されるロックレバー54とをそれぞれ有する。なお、左右の上ロック装置7は、トラック1の左右に対称的に設けられて、ほぼ同様の構成を有するため、以下では左側について説明し、右側の説明を省略する。
ベースプレート53は、内部パネル4から前方へ離間した位置に配置される前板部53aと、前板部53aの車幅方向両端から後方の内部パネル4側へ曲折する左右1対の横板部53bと、左右の横板部53bのそれぞれの後端から前板部53aとは反対方向へ曲折する左右1対の後板部53cとによって一体形成される。左右1対の後板部53cは、ボルト55によって内部パネル4にそれぞれ固定される。前板部53aは、前後方向に貫通するストライカ挿通孔56と、ワイヤー支持部57とを有する。ストライカ挿通孔56は、後述するフロントリッド6側の上ストライカ11の挿通を許容する。ワイヤー支持部57には、ワイヤー58が挿通するワイヤーチューブ59の端部が固定される。ワイヤー58は、ワイヤーチューブ59の内部を挿通し、一端が運転席側の第1オープンレバー(図示省略)に接続される。
ロックレバー54は、略L字状の板体であって、上部のワイヤー固定部61と、下部のストライカ係止部62とを有し、ベースプレート53の前板部53aの後面側に配置され、ベースプレート53の前板部53aに設けられた軸60を介してベースプレート53に回転自在に支持される。ベースプレート53とロックレバー54とを連結する軸60には、ねじりばね63が設けられる。ねじりばね63は、ロックレバー54のストライカ係止部62をベースプレート53のストライカ挿通孔56の中心側へ向かって付勢する。ワイヤー固定部61には、ワイヤー58の他端が固定され、運転席側の第1オープンレバーが操作されると、ワイヤー58が一側(図3中に矢印で示す方向)へ向かって引かれ、ねじりばね63の付勢力に抗して、ワイヤー固定部61が軸60を中心として回転移動するとともに、ストライカ係止部62がストライカ挿通孔56の中心から離間する方向へ回転移動する。
下ロック装置8は、第2オープンレバー64(図2参照)と、係止部79(図5参照)とを有し、内部パネル4に固定される。下ロック装置8の係止部は、左右の上ロック装置7によるフロントリッド6のロックが解除されてフロントリッド6が前上方へ僅かに傾動した状態で、後述するフロントリッド6側の下ストライカ12を係止する。すなわち、下ロック装置8は、左右の上ロック装置7によるフロントリッド6のロックが解除されても、前上方へのフロントリッド6の傾動を規制するセイフティーロックとして機能する。下ロック装置8は、第2オープンレバー64を手で直接操作することにより、フロントリッド6のロック(下ストライカ12の係止)を解除する。
フロントリッド6は、キャブ2の前方へ露出するアウターパネル13(図1(a)参照)と、アウターパネル13の後方に配置されて外縁部がアウターパネル13に接合されるインナーパネル(板部材)14(図1(b)参照)とを有する。
図1(a)に示すように、アウターパネル13は、下部の車幅方向中央部に配置されて上辺側が長い台形状のアウターラジエータ開口15と、アウターラジエータ開口15よりも上方の車幅方向中央部に配置されて車幅方向に延びる矩形状のアウター中央開口16とを有する。アウターパネル13の前面17には、ラジエータグリル18と、複数の板体によって構成されるフロントグリル19とが固定される。ラジエータグリル18は、前後方向に貫通する複数の通気口20を有し、アウターラジエータ開口15を覆うようにアウターパネル13の前面17に固定される。フロントグリル19は、アウター中央開口16の車幅方向中央部を前後方向に挿通する横筒状部21を有し、フロントグリル19の下縁がラジエータグリル18の上縁に接する状態で、アウターパネル13の前面17のうちアウター中央開口16の周辺の領域を覆うようにアウターパネル13の前面17に固定される。
図4及び図5に示すように、インナーパネル14は、アウターパネル13と略同じ大きさに形成され、アウターラジエータ開口15と略同じ位置に配置されるインナーラジエータ開口24と、アウター中央開口16と相対向して離間する位置に配置されて車幅方向に延びるインナー中央開口25と、前方へ突出する複数のビード26とを有し、閉止位置でフロントパネル3のフロント開口5の後方空間27に前方から臨み、後方空間27の前方を区画する。
図5に示すように、フロントグリル19は、アウター中央開口16とインナー中央開口25との間で延びる貫通孔70の車幅方向中央部を挿通し、インナーパネル14の後方へ突出する横筒状部21を有する。横筒状部21は、上板部66、下板部67、及び左右1対の側板部68(図5には左側の側板部68のみを示す)によって一体形成され、アウターパネル13よりも前方でトラック1の前方へ開口する前端開口46と、インナーパネル14の後方で下方へ開口する後端開口65とを有する。上板部66は、前端開口46の上縁から斜め後下方へ延び、アウター中央開口16及びインナー中央開口25の車幅方向中央部を挿通し、インナー中央開口25の後方で湾曲して下方へ延びる。すなわち、上板部66は、貫通孔70の上縁(アウター中央開口16及びインナー中央開口25の上縁16a,25aを含む)を下方から覆う。上板部66の下端(後端)は、アウター中央開口16の下縁16bの高さ位置よりも上方に配置される。下板部67は、前端開口46の下縁から後方へ延び、アウター中央開口16を挿通し、アウター中央開口16の下縁16bを上方から覆う。下板部67の後端は、アウターパネル13とインナーパネル14との間に配置される。フロントグリル19の横筒状部21の後端開口65側には、延長カバー71が配置される。
図5及び図6に示すように、延長カバー71は、前板部74と後板部75と左右1対の側板部76とによって一体形成されて下方へ向かって先細りする筒状体であって、上端開口72と下端開口73と左右1対の固定板部77とを有する。延長カバー71の上端開口72の近傍は、フロントグリル19の横筒状部21の後端開口65よりも僅かに大きく形成される。延長カバー71の上端開口72側に横筒状部21の後端開口65側が挿入された状態で、延長カバー71の車幅方向両側の左右の固定板部がインナーパネル14の後面28にボルト等(図示省略)によってそれぞれ固定される。
延長カバー71の前板部74は、フロントグリル19の横筒状部21の下板部67の後端から後方へ延びてインナー中央開口25を挿通し、インナー中央開口25の下縁25bを上方から覆う第1領域74aと、インナーパネル14の後方で第1領域74aの後端から曲折して略鉛直下方へ延びる第2領域74bとを有する。前板部74の第2領域74bの前面は、インナーパネル14の後面28に接触している。すなわち、前板部74の第1領域74aがフロントグリル19の横筒状部21の下板部67と共に、貫通孔70の下縁(アウター中央開口16及びインナー中央開口25の下縁16b,25bを含む)を上方から覆い、前板部74の第2領域74bがインナーパネル14の後面28を後方から覆う。延長カバー71の後板部75は、内部パネル4に固定されるガススプリング9のブラケット78よりも前方で、フロントグリル19の横筒状部21の上板部66の下端(後端)の近傍から連続して斜め前下方へ延びる。左右の側板部76は、上端開口72側から下端開口73側へ向かって車幅方向内側へ傾斜する。すなわち、後板部75と左右の側板部76とが傾斜することによって延長カバー71が下方へ向かって先細りする。
フロントグリル19の横筒状部21及び延長カバー71は、作業者がバンパ23(図1a参照)等に足を掛けてキャブ2の前面へ昇る際に、フロントグリル19の前端開口46から手を挿入して把持するグリップとして機能する。
図4に示すように、インナーパネル14の複数のビード26は、インナーパネル14の上端縁に沿ってインナーパネル14の上端縁部で車幅方向に延びる上ビード(ビード)31と、インナーパネル14の下端縁部で車幅方向に延びる下ビード32と、車幅方向の両端縁部で上下方向に延びる左右1対の横ビード33と、上ビード31とインナー中央開口25との間で車幅方向に延びる中ビード34とを含む。上ビード31、下ビード32、及び左右1対の横ビード33は、インナーパネル14とアウターパネル13との接合部であるフロントリッド6の外縁部を補強する。中ビード34は、車幅方向に延びて、上ビード31、下ビード32、及び左右1対の横ビード33の内側を補強する。インナーパネル14の前面42のうち中ビード34の前面には、中ビード34に沿って車幅方向に延びるように接着剤43が塗着され、該接着剤43によってインナーパネル14の前面42(中ビード34の前面)がアウターパネル13の後面44に接着される(図8参照)。すなわち、フロントリッド6は、インナーパネル14の前面42(中ビード34の前面)及びアウターパネル13の後面44に、インナーパネル14とアウターパネル13とが相互に接着される接着領域を有する。なお、接着剤43をインナーパネル14の前面42(中ビード34の前面)に相対向するアウターパネル13の後面44に塗着してもよい。
インナーパネル14の後面28には、上端縁部に配置される左右1対の取付部材29と、ガススプリング9とインナーパネル14とを連結するブラケット30と、インナー中央開口25の下縁25bの近傍の車幅方向両側に配置される左右1対の上ストライカ11と、インナーラジエータ開口24の上端縁の車幅方向中央部の下方突出部35に配置される下ストライカ12とが固定される。左右の取付部材29は、インナーパネル14の上端縁よりも上方へ突出する突出板部29aをそれぞれ有し、突出板部29aの上端部がフロントパネル3の前面の左右のアシストグリップ37の回転軸に回転自在に支持される。
図7及び図8に示すように、ブラケット30は、上下方向に延びる板体であって、上端側の上固定部(固定部)38と、下端側の下固定部39と、上固定部38と下固定部39との間の連結部41とを有し、インナーパネル14の後面28のうち車幅方向中央よりも僅かに車幅方向右側に配置される。ブラケット30の上固定部38及び下固定部39は、インナーパネル14の後面28にボルト40によって固定される。ブラケット30の車幅方向両端縁は、後方へ向かってそれぞれ曲折している。上固定部38は、インナーパネル14の上ビード31と中ビード34との間の領域に固定される。上固定部38の上方の近傍には、上ビード31が配置されて車幅方向に延び、上固定部38の下方の近傍には、中ビード34が配置されて車幅方向に延びる。すなわち、上固定部38が固定されるインナーパネル14の上側の被固定領域(被固定領域)の下方の近傍で中ビード34に沿ってフロントリッド6の接着領域が車幅方向に延びる。下固定部39は、インナーパネル14の中ビード34とインナー中央開口25との間に固定される。上下方向に延びるブラケット30は、車幅方向に延びる中ビード34と交叉する。連結部41は、ブラケット30の車幅方向内側面から車幅方向内側へ突出する円柱状の軸体であって、上固定部38と下固定部39との間の中央部よりも上固定部38側(本実施形態では、中ビード34の上端縁と略同じ位置)に配置される。連結部41には、ガススプリング9の他端が回転自在に連結される。なお、ブラケット30は、上下方向に延びる板体でなくてもよく、例えば、上固定部と下固定部とを有する円形の板体であってもよい。
左右の上ストライカ11は、インナーパネル14の後面28のうち、インナー中央開口25の下縁25bから下方へ延びる下縁25bの近傍の中央開口下方領域47の車幅方向両側の左右の被固定部45に固定される(図4参照)。なお、左右の上ストライカ11は、トラック1の左右に対称的に設けられて、ほぼ同様の構成を有するため、以下では左側について説明し、右側の説明を省略する。
図9及び図11に示すように、上ストライカ11は、ボルト軸48と受け皿部49とコイルスプリング50とを有する。ボルト軸48は、一端側に形成される雄ネジ48aと、他端側の略円錐状の頭部48bとを有し、雄ネジ48aをインナーパネル14の貫通孔に挿通させて、インナーパネル14の後面28に対して略垂直になるように、インナーパネル14及びインナーパネル14の後方に配置される補強板36を2つのナット51で挟み込んで締結固定される。受け皿部49は、ボルト軸48の頭部48bよりも小さな貫通孔を中心部に有する円盤状に形成され、受け皿部49の貫通孔には、ボルト軸48が挿通する。コイルスプリング50は、その内部をボルト軸48が挿通した状態で、インナーパネル14の後面28と受け皿部49の前面との間に配置され、インナーパネル14の後面28側からボルト軸48の頭部48b側へ受け皿部49を付勢する。
下ストライカ12は、略U字状に形成される棒状体であって、その両端が上下方向に並んで配置された状態でインナーパネル14の後面28にボルト52a及びナット52bによって締結固定され、インナーパネル14の後面28から後方へ突出する(図5参照)。
図5及び図10に示すように、インナーパネル14とアウターパネル13との間の間隙(以下、パネル間隙と称する)は、左右の上ストライカ11が固定される左右の被固定部45の車幅方向外側である左右のストライカ外側領域69(図4参照)におけるパネル間隙よりも、インナーパネル14の中央開口下方領域47と左右の被固定部45とを含むストライカ内側領域84(図4参照)におけるパネル間隙の方が広く設定される。
閉止位置におけるフロントリッド6は、左右の上ストライカ11が左右の上ロック装置7に強固にロックされた閉止状態となる。図11に示すように、閉止状態では、左右の上ストライカ11の受け皿部49の後面が左右の上ロック装置7のベースプレート53の前板部53aの前面に密接した状態で、左右の上ストライカ11のボルト軸48の頭部48bが、コイルスプリング50の付勢力に抗して左右の上ロック装置7のベースプレート53のストライカ挿通孔56を挿通し、左右の上ロック装置7のロックレバー54がねじりばね63(図3参照)に付勢されてボルト軸48の頭部48bを係止し、ストライカ挿通孔56からのボルト軸48の頭部48bの抜け出しを禁止する。また、図5に示すように、閉止状態の下ストライカ12の後端側は、下ロック装置8の係止部79との間に間隙を設けた状態で、下ロック装置8の係止部79に係止される位置よりもさらに内部パネル4側に配置される。
次に、本実施形態に係る車両の前部構造10のフロントリッド6を閉止状態から前上方の開放位置へ傾動させた開放状態にする際の動きについて説明する。
フロントリッド6を開放状態にする場合、先ず、作業者は、運転席側から第1オープンレバー(図示省略)を操作する。第1オープンレバーが操作されると、ワイヤー58が一側(第1オープンレバー側)へ向かって引かれ、左右の上ロック装置7のロックレバー54のストライカ係止部62が、ねじりばね63の付勢力に抗して、ベースプレート53のストライカ挿通孔56の中心から離間する方向へ回転移動する。ロックレバー54のストライカ係止部62がベースプレート53のストライカ挿通孔56の中心から離間する方向へ回転移動すると、左右の上ストライカ11のボルト軸48の頭部48bは、ロックレバー54のストライカ係止部62による係止が解除され、左右の上ストライカ11のコイルスプリング50の付勢力によって前方へ移動し、ストライカ挿通孔56から前方へ抜け出る。これにより、左右の上ロック装置7による左右の上ストライカ11のロックが解除される。左右の上ロック装置7による左右の上ストライカ11のロックが解除されると、ガススプリング9の付勢力によってフロントリッド6が前上方へ傾動するとともに、下ストライカ12が前方へ移動して下ロック装置8の係止部79に係止され、フロントリッド6が僅かに開いた状態で前上方へのフロントリッド6の傾動が規制された半開放状態となる。半開放状態では、フロントリッド6とフロント開口5との間に、手を挿入可能な間隙が生じる。
次に、作業者は、運転席からキャブ2の前面側へ移動し、半開放状態のフロントリッド6とフロント開口5との間の間隙からフロント開口5の後方空間27へ手を挿入し、下ロック装置8の第2オープンレバー64(図2参照)を操作して下ロック装置8の係止部79による下ストライカ12の係止を解除する。この下ストライカ12の係止の解除により、フロントリッド6のロックが完全に解除される。
フロントリッド6のロックが完全に解除されると、ガススプリング9の付勢力によってフロントリッド6が前上方へ傾動する。ガススプリング9が完全に伸び切ると、前上方へのフロントリッド6の傾動が規制され、フロントリッド6が開放位置に到達した開放状態となる。
上記のように構成された車両の前部構造10では、ガススプリング9がフロントリッド6を開放位置へ付勢することにより開放位置への傾動力を付与するので、ガススプリング9が完全に伸び切って前上方へのフロントリッド6の傾動を規制する傾動規制時には、フロントリッド6に開方向への慣性力が作用する。ガススプリング9の一端が車体側の内部パネル4に対して支持され、他端がフロントリッド6に連結されるので、傾動規制時には、ガススプリング9がフロントリッド6を開方向とは反対方向(閉方向)へ引っ張る状態となり、ガススプリング9からブラケット30を介してフロントリッド6のインナーパネル14に閉方向への力が作用する。
上下方向に延びるブラケット30がインナーパネル14の後面28に固定されるので、インナーパネル14のうちブラケット30が固定されるブラケット被固定領域(ブラケット30の上固定部38と下固定部39とが固定される上下の被固定領域を含む)が上下方向に延びるブラケット30によって補強される。また、インナーパネル14が車幅方向に延びる中ビード34を有し、ブラケット30が中ビード34と交叉する状態でインナーパネル14の後面28に固定されるので、ブラケット被固定領域が、車幅方向に延びる中ビード34によって補強される。従って、インナーパネル14のブラケット被固定領域が上下方向及び車幅方向に補強されるので、傾動規制時にガススプリング9からブラケット30を介してインナーパネル14に閉方向への力が作用してもインナーパネル14が変形し難く、フロントリッド6の変形を防止することができる。
また、インナーパネル14の上端縁部で車幅方向に延びる上ビード31がブラケット30の上固定部38の上方の近傍に配置されるので、インナーパネル14のブラケット被固定領域(上側の被固定領域)の上方の近傍が上ビード31によって補強される。このため、傾動規制時にガススプリング9からブラケット30を介してインナーパネル14に作用する閉方向への力に対してインナーパネル14がさらに変形し難く、フロントリッド6の変形をさらに防止することができる。
また、インナーパネル14の前面42のうち中ビード34の前面には、中ビード34に沿って車幅方向に延びるように接着剤43が塗着され、該接着剤43によって中ビード34の前面がアウターパネル13の後面44に接着される。このため、傾動規制時にインナーパネル14のブラケット被固定領域に作用する閉方向への力によるインナーパネル14の変形をアウターパネル13によっても抑制することができ、フロントリッド6の変形をさらに好適に防止することができる。
また、ブラケット30の上固定部38が固定されるインナーパネル14の上側の被固定領域は、上方の近傍が上ビード31に補強され、下方の近傍が接着剤を介してアウターパネル13に固定されるので、傾動規制時にインナーパネル14の上側の被固定領域に作用する閉方向への力によるインナーパネル14の変形を抑制することができる。
また、インナーパネル14の前面42(中ビード34の前面)及びアウターパネル13の後面44の接着領域が中ビード34に沿って車幅方向に延びるので、傾動規制時にインナーパネル14のブラケット被固定領域に作用する閉方向への力が車幅方向に分散されて接着領域に作用する。このため、例えば、アウターパネル13とインナーパネル14とが点状の接着領域をそれぞれ有する場合に比べて、傾動規制時にインナーパネル14及びアウターパネル13の所定の箇所への集中的な力の入力を防止することができるので、傾動規制時にインナーパネル14のブラケット被固定領域に作用する閉方向への力によるフロントリッド6の変形を防止することができる。
また、ブラケット30及び複数のビード26によって補強されるインナーパネル14がアウターパネル13に接合されるので、インナーパネル14によってアウターパネル13を補強することができ、傾動規制時のアウターパネル13の変形を防止することができる。
また、ブラケット30の上固定部38をインナーパネル14の上端縁部を補強する上ビード31の下方の近傍に固定するので、インナーパネル14とアウターパネル13との接合部である外縁部(上端縁部)を補強するための上ビード31を利用してインナーパネル14の上側の被固定領域の上部の近傍を補強することができる。
従って、本実施形態によれば、ガススプリング9からフロントリッド6に付与される傾動力に起因したフロントリッド6の変形を防止することができる。
以上、本発明について、上記実施形態に基づいて説明を行ったが、本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではなく、当然に本発明を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論である。
例えば、フロントリッド6に対して開放位置へ向かう傾動力を付与する傾動手段、及び、前上方へのフロントリッド6の傾動範囲を開放位置に規制する規制部材は、ガススプリング9に限定されない。例えば、傾動手段は、フロントリッド6の左右1対の取付部材29と、フロントパネル3の前面の左右のアシストグリップ37とを連結する回転軸に、ねじりばね等の付勢部材を設けて該付勢部材によってフロントリッド6に傾動力を付与したり、或いはモーター等を設けてバッテリからの電力によってフロントリッド6に傾動力を付与したりしてもよい。また、規制部材は、フロント開口5の内側の車体側の内部パネル4と、インナーパネル14に固定されるブラケット30とを連結するチェーンやワイヤー等の紐状体であってもよい。
また、上記実施形態では、ブラケット30が上固定部38と下固定部39とを有したが、下固定部39を有さなくてもよい。例えば、ブラケットは、上ビード31の下方の近傍に固定される固定部と、上ビード31の下方の近傍に配置される連結部とを備えるブラケット等であってもよい。
また、上記実施形態では、ブラケット30の上固定部38の上方の近傍に、上ビード31が配置されて車幅方向に延び、上固定部38の下方の近傍に、中ビード34が配置されて車幅方向に延びたが、これに限定されるものではなく、上固定部38が上ビード31と中ビード34との間の領域に固定されていればよく、上ビード31及び中ビード34が上固定部38の近傍に配置されなくてもよい。この場合、車幅方向に延びる他のビードをブラケット30の上固定部38の上方の近傍、又は下固定部39の下方の近傍の少なくとも一方に設けてもよい。
また、上記実施形態では、フロントリッド6の板部材をフロントリッド6のインナーパネル14に適用したが、これに限定されるものではなく、フロントリッド6を構成し、フロント開口5の後方空間27に前方から臨む他のパネル部材に適用してもよい。例えば、インナーパネル14よりもさらに後方に配置されてアウターパネル13に対して固定され、フロント開口5の後方空間27に前方から臨むパネル部材などに適用してもよい。
また、フロントリッド6のアウターパネル13とインナーパネル14とは、中ビード34に沿って車幅方向に塗着される接着剤43によって接着されなくてもよい。すなわち、フロントリッド6は、ブラケット30の上固定部38が固定されるインナーパネル14の上側の被固定領域の下方の近傍で車幅方向に延びる接着領域を有さなくてもよい。