JP2015193682A - 油性ボールペン用インキ組成物及びそれを用いた油性ボールペン - Google Patents

油性ボールペン用インキ組成物及びそれを用いた油性ボールペン Download PDF

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Abstract

【課題】本発明の課題は、インキ垂れ下がり性能、インキ経時安定性、書き味に優れる油性ボールペン用インキ組成物を提供することである。
【解決手段】少なくとも、アゾ骨格酸性染料とトリアリールメタン骨格塩基性染料との造塩染料、ポリビニルブチラール樹脂、芳香族アルコール溶剤からなることを特徴とする油性ボールペン用インキ組成物とする。

【選択図】 図1

Description

本発明は油性ボールペン用インキ組成物及びそれを用いた油性ボールペンに関するものである。
従来の油性ボールペンは、インキ粘度を10000〜30000mPa・s(at20℃)に設定し、インキ垂れ下がりを抑制する設計を施してきた。しかし、インキ粘度が高いため、筆記時のボール回転抵抗が大きくなり、書き味が重く良好とならなかった。
そこで、書き味を向上する目的で、インキ粘度を3000〜5000mPa・sと低くしたものとして、特開昭63−309571号公報や、書き味とインキ垂れ下がり性能を向上する目的で、油性インキ中に剪断減粘性付与剤を含有したものとして、特開平6−313144号公報、特開平7−196972号公報や、また、インキ垂れ下がり性能を向上する目的で、特殊な樹脂などを含有したものとしては、特開2000−53907号公報などが開示されている。
「特開昭63−309571号公報」 「特開平6−313144号公報」 「特開平7−196972号公報」 「特開2003−73604号公報」 「特開平5−320558号公報」 「特開平9−71745号公報」
しかし、特許文献1では、ただ単純にインキ全体の粘度を低下させただけではインキ垂れ下がりを抑制することができず、満足するものは得られなかった。
また、特許文献2、3では、剪断減粘性付与剤を用いて、インキ特性を筆記時のインキ粘度を低粘度とし、筆記していない時のインキ粘度を比較的高粘度としたものとして上記欠点を改善しようとする試みもあるが、実際は書き味などの筆記性能を良好として、かつインキ垂れ下がりを完全に防止することはできなかった。さらに、インキ追従性や、剪断減粘性付与剤と他のインキ成分との相性など、新たな課題が発生する。
また、特許文献4では、ヒドロキシプロピルセルロース樹脂を用いて、ある程度インキ垂れ下がり抑制を試みているが、特殊な樹脂を用いる場合は、着色剤、有機溶剤、界面活性剤などの選定次第では、インキ経時安定性に影響してしまい、染料や界面活性剤との相性が合わないと、析出物が発生してしまい、筆記不良の原因となる問題が発生しやすい。
また、着色剤を特定した技術としては、特許文献5のように、着色剤としてニグロシン系染料を用いた場合は、濃度が濃く、コストが安いという利点があるが、有機溶剤への溶解性が悪いため、インキ経時安定性の点で改良の余地があった。さらに、特許文献6では、着色剤としてトリアリールメタン系塩基性染料とアゾ系黄色酸性染料の造塩染料、脂肪族アルコール、ウレタン変性ケトンホルムアルデヒド樹脂を用いた場合では、溶解安定性が劣り、インキ経時安定性に問題があり、さらに特許文献6のインキはインキジェットやマーカーで使用することを用途しているため、そのままボールペンに用いると、潤滑性が悪く、書き味が劣り、インキ垂れ下がりが発生してしまった。
特許文献4〜6のように、着色剤、有機溶剤、界面活性剤、樹脂などのインキ成分の選定については、それぞれの成分との相性もあり、1つの成分によって、インキ経時安定性、潤滑性などに大きな影響を及ぼすため、非常に重要な構成である。
本発明の目的は、インキ垂れ下がり性能、インキ経時安定性、書き味に優れる油性ボールペン用インキ組成物を提供することである。
本発明は、上記課題を解決するために
「1.少なくとも、アゾ骨格酸性染料とトリアリールメタン骨格塩基性染料との造塩染料、ポリビニルブチラール樹脂、芳香族アルコール溶剤からなることを特徴とする油性ボールペン用インキ組成物。
2.前記ポリビニルブチラール樹脂の含有量が全樹脂の含有量に対して50%以上であることを特徴とする第1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
3.前記油性ボールペン用インキ組成物に、曳糸性付与樹脂を含有し、該曳糸性付与樹脂の含有量が全樹脂の含有量に対して0.1〜20%であることを特徴とする第1項 または第2項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
4.20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度が、15000〜35000mPa・sであることを特徴とする第1項ないし第3項のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
5.前記油性ボールペン用インキ組成物に、リン酸エステル系界面活性剤を含有することを特徴とする第1項ないし第4項のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
6.前記油性ボールペン用インキ組成物に、有機アミンを含有することを特徴とする第1項ないし第5項のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
7.インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを直接又はチップホルダーを介して装着し、前記インキ収容筒内に、第1項ないし第6項のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物を収容してなる油性ボールペンレフィルであって、前記ボールの表面の算術平均粗さが、0.1〜15nmであることを特徴とする油性ボールペンレフィル。
8.前記ボールの軸方向の移動量が、5〜20μmであることを特徴とする第1項ないし第7項のいずれか1項に記載の油性ボールペンレフィル。
9.前記油性ボールペンレフィルを軸筒内に配設したことを特徴とする第1項ないし第8項のいずれか1項に記載の油性ボールペン。
10.前記油性ボールペンレフィルを軸筒内に摺動自在に配設し、前記ボールペンチップのチップ先端部を前記軸筒先端部から出没可能とした出没式の油性ボールペンであることを特徴とする第1項ないし第8項のいずれか1項に記載の油性ボールペン。
」とする。
本発明は、チップ先端で樹脂皮膜を形成し、ボールとチップ先端の間隙を覆うことで、インキ垂れ下がり性能が良好で、インキ経時安定性が良好で、ボールとボール座との間に常に弾力性があるインキ層を形成することで書き味に優れた油性ボールペン用インキ組成物及びそれを用いた油性ボールペンを提供することができた。
本発明におけるボールペンレフィルの縦断面図である。 図1における、一部省略した要部拡大縦断面図である。
本発明の特徴は、油性ボールペン用インキ組成物中に、 ポリビニルブチラール樹脂、アゾ骨格酸性染料とトリアリールメタン骨格塩基性染料との造塩染料、芳香族アルコール溶剤を含有することである。
本発明で用いる樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、セルロース樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ケトン樹脂、テルペン樹脂、アルキッド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂などが挙げられるが、インキ垂れ下がり性能、書き味を向上するために、少なくともポリビニルブチラール樹脂を用いることが重要である。ポリビニルブチラール樹脂については、ポリビニルアルコール(PVA)
をブチルアルデヒド(BA)と反応させたものであり、ブチラール基、アセチル基、水酸基を有した構造であるが、従来技術としては、ポリビニルブチラール樹脂を顔料分散剤として、好適に用いた技術はあるが、本発明では、インキ垂れ下がり性能、書き味を向上することを見出した。
これは、ポリビニルブチラール樹脂は、チップ先端で樹脂皮膜を形成し、ボールとチップ先端の間隙を覆うことで、インキ垂れ下がりを抑制し、さらに、ボールとボール座との間に常に弾力性があるインキ層を形成して、直接接触しづらくするため、書き味を向上しやすくすることが可能となるためである。しかし、ポリビニルブチラール樹脂は、着色剤や溶剤の選定によっては、相性が悪いものもあり、油性インキ中で、溶解安定せず、分離してしまい、本来の効果が得られなくなることが考えられる。
本発明で用いる着色剤については、染料、顔料があるが、染料を用いると濃い瑞々しい筆跡を得られやすく、一方、顔料を用いると顔料分散安定性を得るためには、顔料分散剤の選定などの課題やコスト面の問題があるため、少なくとも染料を用いることが良い。染料の種類については、酸性染料と塩基性染料との造塩染料、有機酸と塩基性染料との造塩染料、酸性染料と有機アミンとの造塩染料などの種類が挙げられるが、少量で濃い筆跡が得られることを考慮して、酸性染料と塩基性染料との造塩染料を用いることが良い。
その中でも、本発明のようにポリビニルブチラール樹脂を含有した場合でも、相性が良く、経時安定性を考慮すれば、アゾ骨格酸性染料とトリアリールメタン骨格塩基性染料との造塩染料を用いる必要がある。さらに、アゾ骨格酸性染料とトリアリールメタン骨格塩基性染料間のイオン結合力が強く、安定した造塩染料となるため、油性インキ中で安定しており、アゾ骨格酸性染料とトリアリールメタン骨格塩基性染料とで中和反応させた造塩染料を用いることが良い。さらに、アゾ骨格酸性染料とトリアリールメタン骨格塩基性染料との造塩染料は、少量で濃い筆跡が得られるため、好ましい。
そのため、インキ垂れ下がり性能、インキ経時安定性、書き味を良好とするためには、油性インキ中に、 ポリビニルブチラール樹脂と、アゾ骨格酸性染料とトリアリールメタン骨格塩基性染料との造塩染料と、を併用する必要とするが、有機溶剤の選定によっては、本来の効果が得られにくくなってしまうが、本願発明者が鋭意検討したところ、芳香族アルコール溶剤を用いることが必要であることが分かった。これは、芳香族アルコール溶剤を用いることで、ポリビニルブチラール樹脂と、前記アゾ骨格酸性染料とトリアリールメタン骨格塩基性染料との造塩染料をそれぞれ溶解安定し、お互い分離することなく、長期間インキ経時安定性が得られ、さらに、チップ先端を大気中に放置した状態にした場合、チップ先端で均一な厚い樹脂皮膜を形成し、ボールとチップ先端の間隙を覆うことで、インキ垂れ下がりをより抑制することが可能となるためである。
一方、脂肪族アルコールなどを用いると、ポリビニルブチラール樹脂と、アゾ骨格酸性染料とトリアリールメタン骨格塩基性染料との造塩染料と、の溶解安定性が劣り、揮発性が高い溶剤もあり、長期間インキ経時安定性を保つのは難しくなる。さらに、芳香族アルコール溶剤は、芳香環を有することで潤滑性を向上しやすいため、好ましい。そのため、芳香族のアルコ−ル溶剤を少なくとも用いる方が好ましい。そのため、本発明では、油性ボールペン用インキ組成物中に、ポリビニルブチラール樹脂、アゾ骨格酸性染料とトリアリールメタン骨格塩基性染料との造塩染料、および芳香族アルコール溶剤を含有することが重要である。
本発明で用いる アゾ骨格酸性染料は、アゾ基(−N=N−)を分子内に有する酸性染料であればよく、ジアゾ骨格酸性染料、モノアゾ骨格酸性染料が挙げられる。その中でも、ジアゾ骨格酸性染料は塩基性染料と結合して、より安定した造塩染料であり、分離して析出しづらく、長期間インキ経時安定性が保てるため好ましく、さらに分子内にアゾ基(−N=N−)が2つあることで、2つの二重結合があり、モノアゾ骨格酸性染料より分離しづらく、安定しているため、好ましい。さらに、潤滑性を考慮すれば、芳香環を有するアゾ骨格酸性染料が好ましい。具体的には、ジアゾ骨格酸性染料としては、C.I.アシッドレッド97、111、114、115などや、C.I.アシッドイエロー38、42、44、モノアゾ骨格酸性染料としては、C.I.アシッドイエロー11、17、25、29、36、76などや、C.I.アシッドレッド1、6、8、9、13、14、18などが挙げられる。この中でも、長期間インキ経時安定性が保つことを考慮すれば、C.I.アシッドレッド97、111、114、115が好ましい。
本発明で用いるトリアリールメタン骨格酸性染料は、同一炭素に3つのフェニル基、ナフチル基などの芳香環を有する塩基性染料であり、具体的には、C.I.ベーシックブルー1、5、7、19、26、C.I.ベーシックバイオレット1、3、4、10、15、C.I.ベーシックグリーン1、4、7などが挙げられる。その中でも、アゾ骨格酸性染料との中和安定を考慮すれば、C.I.ベーシックバイオレット1、3、4、10、15が好ましい。さらに、安全性を考慮すれば、C.I.ベーシックバイオレット4を用いることが好ましく、これは、ミヒラーズケトンを含有しない構造であり、発ガン性のおそれがないためである。さらに、C.I.ベーシックバイオレット4と中和安定することを考慮すれば、C.I.アシッドレッド97とC.I.ベーシックバイオレット4との造塩染料とすることが最も好ましい。
アゾ骨格酸性染料とトリアリールメタン骨格塩基性染料との造塩染料の含有量は、インキ組成物全量に対し、5.0〜30.0質量%が好ましい。これは5.0質量%未満だと、濃い筆跡が得られにくい傾向があり、30.0質量%を越えると、インキ中での溶解性に影響しやすい傾向があるためで、よりその傾向を考慮すれば、7.0〜25.0質量%が好ましく、さらに考慮すれば、10.0〜20.0質量%である。
本発明で用いるポリビニルブチラール樹脂の含有量は、油性ボールペン組成物中の全樹脂の含有量に対して50%以上とし、主たる樹脂として用いることが好ましい。これは、ポリビニルブチラール樹脂の含有量が全樹脂の含有量の50%未満となると、その他の樹脂によって、チップ先端の樹脂皮膜の形成を阻害してしまいインキ垂れ下がりを抑制できず、さらに弾力性があるインキ層を形成するのを阻害してしまい、書き味向上の効果が得られづらくなるためである。よりインキ垂れ下がり性能や書き味が向上する傾向を考慮すれば、ポリビニルブチラール樹脂の含有量は、全樹脂の含有量に対して70%以上が好ましく、さらにその傾向を考慮すれば、90%以上が好ましい。
また、ポリビニルブチラール樹脂は、水酸基量25mol%以上とすることが好ましい。これは、前記した水酸基量25mol%以上のポリビニルブチラール樹脂は、チップ先端を大気中に放置した状態にした場合、チップ先端で厚い樹脂皮膜を形成し、ボールとチップ先端の間隙を覆うことで、インキ垂れ下がりを抑制することが可能となるためである。一方、水酸基量25mol未満のポリビニルブチラール樹脂では、有機溶剤への溶解性が十分でなく、均一な樹脂皮膜ではないため、インキ垂れ下がり抑制の十分な効果が得られにくくなるため、水酸基量25mol%以上のポリビニルブチラール樹脂を用いることが好ましいためである。また、前記水酸基量30mol%以上のポリビニルブチラール樹脂は、書き味が向上しやすくなるため、好ましい。これは、筆記時において、ボールの回転により摩擦熱が発生することで、チップ先端部のインキが温められて、該インキの温度が高くなるが、前記ポリビニルブチラール樹脂は他の樹脂とは違い、インキ温度が高くなっても、インキ粘度を下がりづらくする性質があり、ボールとボール座との間に常に弾力性があるインキ層を形成して、直接接触しづらくするため、書き味を向上しやすい傾向がある。特に、油性ボールペンでは、高筆圧で筆記することも多いため、油性ボールペンでは効果的である。また、前記水酸基量40mol%を越えるポリビニルブチラール樹脂を用いると、吸湿量が多くなりやすく、油性インキ成分との経時安定性に影響が出やすいため、水酸基量40mol%以下のポリビニルブチラール樹脂が好ましい。そのため、水酸基量30〜40mol%のポリビニルブチラール樹脂が好ましく、さらに好ましくは、水酸基量30〜36mol%が好ましい。
なお、前記ポリビニルブチラール樹脂の水酸基量(mol%)とは、ブチラール基(mol%)、アセチル基(mol%)、水酸基(mol%)の 全mol量に対して、水酸基(mol%)の含有率を示すものである。
また、ポリビニルブチラール樹脂の平均重合度については、前記平均重合度は200以上であると、インキ垂れ下がり性能が向上するとともに、インキの凝集力を高めることができ、ボール表面にインキが載りやすく、ボールにインキが残ることで、ボールとボール座の間にインキが入り込みやすいため、ボールがボール座と直接接触しづらくなるため、書き味を向上しやすい傾向がある。一方、前記平均重合度は2500を超えると、インキ粘度が高くなりすぎて書き味に影響する傾向があるため、前記平均重合度は、200〜2500が好ましい。さらに、前記平均重合度は800以上であると、インキが載りやすいことで、紙面へ転写した際、立体的な筆跡を維持しやすく、濃い筆跡を得られやすいため好ましく、より書き味を考慮すれば、前記平均重合度は2000以下が好ましい。そのため、前記平均重合度は800〜2000が好ましく、また、前記平均重合度は1200以上だとインキ垂れ下がり性能を向上しやすい傾向があるため、前記平均重合度は1200〜2000が最も好ましい。ここで、平均重合度とは、ポリビニルブチラール樹脂の1分子を構成している基本単位の数をいい、JISK6728(2001年度版)に規定された方法に基づいて測定された値を採用可能である。
ポリビニルブチラール樹脂については、具体的には、積水化学工業(株)製の商品名;エスレックBH−3(水酸基量:34mol%、平均重合度:1700)、同BH−6(水酸基量:30mol%、平均重合度:1300)、同BX−1(水酸基量:33±3mol%、平均重合度:1700)、同BX−5(水酸基量:33±3mol%、平均重合度:2400)、同BM−1(水酸基量:34mol%、平均重合度:650)、同BM−2(水酸基量:31mol%、平均重合度:800)、同BM−5(水酸基量:34mol%、平均重合度:850)、同BL−1(水酸基量:36mol%、平均重合度:300)、同BL−1H(水酸基量:30mol%)、同BL−2(水酸基量:36mol%、平均重合度:450)、同BL−2H(水酸基量:29mol%)、同BL−10(水酸基量:28mol%)などや、クラレ(株)製の商品名;モビタールB20H(水酸基量:26〜31mol%、平均重合度:250〜500)、同30T(水酸基量:33〜38mol%、平均重合度:400〜650)、同30H(水酸基量:26〜31mol%、平均重合度:400〜650)、同30HH(水酸基量:30〜34mol%、平均重合度:400〜650)、同45H(水酸基量:26〜31mol%、平均重合度:600〜850)、同60T(水酸基量:34〜38mol%、平均重合度:750〜1000)、同60H(水酸基量:26〜31mol%、平均重合度:750〜1000)、同75H(水酸基量:26〜31mol%、平均重合度:1500〜1750)などが挙げられる。これらは、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
前記ポリビニルブチラール樹脂の含有量は、インキ組成物全量に対し、3.0質量%より少ないと、樹脂皮膜形成量が足りないおそれがあり、インキ垂れ下がり性能が劣りやすく、40.0質量%を越えると、インキ中で溶解性が劣りやすいため、インキ組成物全量に対し、3.0〜40.0質量%が好ましい。さらに、インキ垂れ下がり性能を考慮すれば10.0質量%以上が好ましく、30.0質量%を越えると、インキ粘度が高くなりすぎて書き味に影響する傾向があるため、10.0〜30.0質量%が好ましく、より考慮すれば、12.0〜25.0質量%が最も好ましい。
ポリビニルブチラール樹脂以外の樹脂は、インキ粘度調整樹脂や曳糸性付与樹脂を適宜用いてもよい。特に、曳糸性付与樹脂を配合することで、インキの結着性を高め、チップ先端における余剰インキ(泣きボテ)の発生を抑制しやすいため、曳糸性付与樹脂を含有することが好ましい。曳糸性付与樹脂としては、ポリビニルピロリドンなどがあり、具体的には、アイエスピー・ジャパン(株)製の商品名;PVP K−15、PVP K−30、PVP K−90、PVP K−120などが挙げられる。これらは、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
本発明で用いる曳糸性付与樹脂の含有量は、油性ボールペン組成物中の全樹脂の含有量に対して0.1〜20.0%であることが好ましい。これは、曳糸性付与樹脂の含有量が全樹脂の含有量の0.1%未満となると、余剰インキ(泣きボテ)の発生を抑制しにくい傾向があり、20%を越えると、ポリビニルブチラール樹脂の効果を阻害しやすく、具体的には、チップ先端の樹脂皮膜の形成を阻害してしまいインキ垂れ下がりを抑制しづらくし、さらに弾力性があるインキ層を形成するのを阻害してしまい、書き味向上の効果が得られにくくしやすいためである。より余剰インキを抑制する傾向を考慮すれば、曳糸性付与樹脂の含有量は、全樹脂の含有量に対して1.0〜20.0%が好ましく、インキ垂れ下がり性能や書き味が向上する傾向を考慮すれば、1.0〜10.0%が好ましく、さらにその傾向を考慮すれば、2.0〜7.0%が好ましい。
本発明の油性ボールペン用インキ組成物のインキ粘度は、特に限定されるものではないが、20℃、剪断速度5sec−1におけるインキ粘度が5000mPa・s未満の場合では、インキ垂れ下がりを抑制しづらく、また、本発明で用いる前記ポリビニルブチラール樹脂は、20℃、剪断速度5sec−1におけるインキ粘度が50000mPa・sの高粘度でも、インキ層を形成することで潤滑性を維持し、書き味を良好にすることが可能であるため、20℃、剪断速度5sec−1におけるインキ粘度は、5000〜50000mPa・sが好ましい。特に、インキ粘度を5000〜50000mPa・sとするのに加えて、100mあたりのインキ消費量をM(mg)、前記ボール径をR(mm)とした場合、40≦M/R≦100の関係として、従来のボールペンとは異なる関係とすることで、より相乗的にボールの回転抵抗を抑制しやすいため、潤滑性を向上し、書き味を向上しやすい。また、書き味をより向上することを考慮すれば、前記インキ粘度は5000〜35000mPa・sがより好ましく、さらに、よりインキ垂れ下がり性能や書き味を考慮すれば、15000〜35000mPa・sが最も好ましい。
ところで、本発明のようにポリビニルブチラール樹脂を用い、前記ポリビニルブチラール樹脂の含有量が、油性ボールペンインキ組成物中の全樹脂の含有量に対して50%以上とし、前記曳糸性付与樹脂の含有量が、油性ボールペン組成物中の全樹脂の含有量に対して0.1〜20.0%とし、かつ、前記インキ粘度を10000〜50000mPa・sとし、40≦M/R≦100の関係とすることで、インキ垂れ下がり性能を格段に向上する効果があるため、従来のように、チップ本体内にコイルスプリング等で、常時、ボールをチップ先端の内壁面に押圧し、ボールとチップ先端の微少な間隙を閉鎖することで、インキ垂れ下がりを抑制する構造とする必要がなく、インキ垂れ下がり抑制効果が得られるため、チップ本体内にコイルスプリング等を具備しなくてすむので、部品点数の低下に繋がり、出没式及び/又は低価格品に好適に用いることができる。
本発明においては、リン酸エステル系界面活性剤を用いるのが好ましい。これは、リン酸エステル系界面活性剤において、リン酸基が金属表面に吸着しやすく、ボールとチップ本体との間の潤滑性を保ち、書き味がより向上しやすいためである。特に、本発明では、上述のように、前記ボリビニルブチラールによって形成するインキ層とリン酸基によって、より潤滑性を向上しやすいためより好ましい。
リン酸エステル系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸トリエステル、アルキルリン酸エステル、アルキルエーテルリン酸エステル或いはその誘導体等が挙げられ、前記リン酸エステル系界面活性剤のアルキル基は、スチレン化フェノール系、ノニルフェノール系、ラウリルアルコール系、トリデシルアルコール系、オクチルフェノール系などが挙げられる。これらのリン酸エステル系界面活性剤は、単独又は2種以上混合して使用してもよい。その中でも、潤滑性を考慮すれば、アルキル基に含まれる炭素数が5〜18であることが好ましく、さらに考慮すれば、前記炭素数が10〜18であることがより好ましく、最も好ましくは、インキ経時安定性を考慮すれば、前記炭素数12〜18である。アルキル基の炭素数が過度に少ないと、潤滑性が不足しやすい傾向があり、炭素数が過度に多いと、インキ経時安定性に影響が出やすい傾向があるので注意が必要である。
さらに、リン酸エステル系界面活性剤は、形成される皮膜を柔らかくする傾向があり、ドライアップ時の書き出し性能を改良できることがある。本発明で用いる前記ポリビニルブチラール樹脂は、形成された皮膜によって、ドライアップ時の書き出し性能が劣りやすく、リン酸エステル系界面活性剤を用いると、形成された皮膜を和らげて、書き出しを向上しやすいため、好ましい。特に、ノック式筆記具や回転繰り出し式筆記具等の出没式筆記具においては、キャップ式筆記具とは異なり、常時ペン先が外部に露出した状態であるため、ドライアップ時の書き出し性能に影響しやすいため、リン酸エステル系界面活性剤を用いることはより好ましい。
また、リン酸エステル系界面活性剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1〜5.0質量%がより好ましい。これは、0.1質量%より少ないと、所望の潤滑性が得られにくい傾向があり、5.0質量%を越えると、インキ経時が不安定性になりやすい傾向があるためであり、その傾向を考慮すれば、インキ組成物全量に対し、0.3〜3.0質量%が好ましく、より考慮すれば、0.5〜3.0質量%が、最も好ましい。
リン酸エステル系界面活性剤の具体例としては、プライサーフシリーズ(第一工業製薬(株))の中から、プライサーフA217E(アルキル基:炭素数14、酸価:45〜58)、同A219B(アルキル基:炭素数12、酸価:44〜58)、同A215C(アルキル基:炭素数12、酸価:80〜95)、同A208B(アルキル基:炭素数12、酸価:135〜155)、同A208N(アルキル基:炭素数12と13の混合物、酸価:160〜185)、フォスファノールシリーズ(東邦化学工業(株)製)の中から、フォスファノールRB410(アルキル基:炭素数18、酸価:80〜90)、同RS−610(アルキル基:炭素数13、酸価:75〜90)、同RS−710(アルキル基:炭素数13、酸価:55〜75)等が挙げられる。これらの界面活性剤は単独又は2種以上混合して使用してもよい。
なお、酸価については、試料1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表すものとする。
本発明に用いる有機溶剤については、芳香族アルコール溶剤以外としては、グリコールエーテル系溶剤を用いると、吸湿しやすいため、前記ポリビニルブチラール樹脂によって、形成された皮膜を和らげ、ドライアップ時の書き出し性能も向上しやすいため、好ましい。そのため、本発明では、グリコールエーテル系溶剤と芳香族アルコール溶剤を少なくとも併用して用いる方が好ましい。特に、潤滑性を向上することを考慮すれば、芳香環を有する方が好ましいので、芳香族グリコールエーテル溶剤と芳香族アルコール溶剤を少なくとも併用して用いる方が好ましい。
また、有機溶剤の含有量は、芳香族アルコール溶剤が多すぎても、ドライアップ時の書き出し性能に影響しやすく、一方、グリコールエーテル系溶剤が多すぎても、水分を吸湿し過ぎて、樹脂皮膜が柔らかくなりインキ垂れ下がり性能や、インキ経時安定性にも影響しやすい。そのため、ドライアップ時の書き出し性能、インキ経時安定性のバランスを考慮すれば、芳香族アルコール溶剤の含有量をA、グリコールエーテル系溶剤の含有量をBとした場合、1≦A/B≦10が好ましく、より考慮すれば、1≦A/B≦5が好ましい。
芳香族アルコール溶剤の具体例としては、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、メチルフェニルカルビノール、フタリルアルコールがあげられる。また、グリコールエーテル系溶剤の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、3−メトキシブタノール、3−メトキシ−3−メチルブタノール等が挙げられ、これらの有機溶剤は、1種又は2種以上用いることができる。
さらに、本発明の油性ボールペン用インキ組成物に、リン酸エステル系界面活性剤などを中和する目的で有機アミンを用いるのが好ましい。有機アミンについては、オキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン等や、ラウリルアミン、ステアリルアミン、ジステアリルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジメチルオクチルアミン等のアルキルアミン等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
本発明で用いる有機アミンについては、該有機アミンの全アミン価は、70〜300(mgKOH/g)の範囲が好ましい。これは、300を超えると、反応性が強いため、インキ中の他成分と反応し易いため、インキ経時安定性が劣りやすい。また、全アミン価が、70未満であると、リン酸エステル系界面活性剤に対する中和が不十分になり、インキ経時安定性に影響が出やすく、さらに、ボールやチップ本体などの金属類の吸着性が劣りやすく、潤滑性能が得られにくい。より上記のようなインキ経時安定性や潤滑性をより考慮すれば、150〜300(mgKOH/g)の範囲が好ましく、アルキルベンゼンスルホン酸とトリアリールメタン系塩基性染料との造塩染料との安定性を考慮すれば、200〜300(mgKOH/g)が好ましく、最も考慮すれば、230〜270(mgKOH/g)が好ましい。なお、全アミン価については、1級、2級、3級アミンの総量を示すもので、試料1gを中和するのに要する塩酸に当量の水酸化カリウムのmg数で表すものとする。
オキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンとしては、具体的には、ナイミーンL−201(全アミン価:232〜246、2級アミン)、同L−202(全アミン価:192〜212、3級アミン)、同L−207(全アミン価:107〜119、3級アミン)、同S−202(全アミン価:152〜166、3級アミン)、同S−204(全アミン価:120〜134、3級アミン)、同S−210(全アミン価:75〜85、3級アミン)、同DT−208(全アミン価:146〜180、3級アミン)(日本油脂(株)社製)等が挙げられる。アルキルアミンとしては、具体的には、ファーミン80(全アミン価:204〜210、1級アミン)、ファーミンD86(全アミン価:110〜119、2級アミン)、ファーミンDM2098(全アミン価:254〜265、3級アミン)、ファーミンDM8680(全アミン価:186〜197、3級アミン)(花王(株))等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
前記有機アミンの含有量は、潤滑性や経時安定性を考慮すると、インキ組成物全量に対し、0.1〜10.0質量%が好ましく、より好ましくは、0.5〜5.0質量%である。
また、前記有機アミンの全アミン価をX、前記リン酸エステル系界面活性剤の酸価をYとした場合、0.1≦Y/X≦2.0である方が好ましい。これは、Y/X>2.0、または、Y/X<0.10であると、金属類からなるボール材やチップ本体のイオンの影響で経時的な析出を促進し易く、析出物による筆記不良の原因になりやすいためである。より上記理由を考慮すれば、0.1≦Y/X≦1.0が好ましく、さらにより考慮すれば0.2≦Y/X≦0.8が最も好ましい。
本発明に用いる着色剤については、前記アゾ骨格酸性染料とトリアリールメタン骨格塩基性染料との造塩染料以外として、ポリビニルブチラール樹脂と芳香族アルコール溶剤との間で、溶解安定するものである着色剤(染料、顔料)であれば用いても良い。染料については、油溶性染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料、直接染料などや、それらの各種造塩タイプの染料として、酸性染料と塩基性染料との造塩染料、有機酸と塩基性染料との造塩染料、酸性染料と有機アミンとの造塩染料などが採用可能である。顔料については、無機、有機、加工顔料などが挙げられる。これらの染料及び顔料は、2種以上組み合わせて使用することが可能である。
着色剤の中でも、染料を用いると、前記アゾ骨格酸性染料とトリアリールメタン骨格塩基性染料との造塩染料とのインキ経時安定性や、濃い瑞々しい筆跡を得られやすく、一方、顔料を用いると顔料分散安定性を得るためには、顔料分散剤の選定などの課題やコスト面の問題があるため、着色剤としては、染料のみを用いることが好ましい。さらに、染料の中でも、有機酸と塩基性染料との造塩染料を用いると、前記アゾ骨格酸性染料とトリアリールメタン骨格塩基性染料との造塩染料、ポリビニルブチラール樹脂、芳香族アルコール溶剤との間で、相互溶解安定しやすく、長期間経時安定性を保ちやすいため、好ましく、より長期間経時安定性を考慮すれば、アルキルベンゼン酸と塩基性染料との造塩染料を併用して用いることが好ましい。
また、本発明によるインキ組成物には、その他の添加剤として、潤滑性やインキ経時安定性を向上させるために、(i)界面活性剤、例えばフッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、脂肪酸アルカノールアミド、脂肪酸、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤や、陰イオン性界面活性剤及び/または陽イオン性界面活性剤の造塩体を、(ii)粘度調整剤、例えば脂肪酸アマイド、水添ヒマシ油などの擬塑性付与剤、また、(iii)着色剤安定剤、(iv)可塑剤、(v)キレート剤、または(vi)助溶剤としての水などを適宜用いても良い。これらは、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
また、濃い筆跡にするにはインキ消費量を増やすだけではなく、着色剤の選定とボール径との関係も重要である。アゾ骨格酸性染料と塩基性染料との造塩染料を用いて、かつ、前記油性ボールペンレフィルの100mあたりのインキ消費量をM(mg)、前記ボール径をR(mm)とした場合、40≦M/R≦100の関係とし、従来とは異なる関係とすることで、より濃い筆跡になりやすい。特に、前記アゾ骨格酸性染料と塩基性染料との造塩染料を用いて、40≦M/R≦100の関係とすることで、より濃い筆跡が得られやすい。また、40≦M/R≦100の関係については、40>M/Rだと、ボール径に対して、インキ消費量が十分ではなく、濃い筆跡や、良好な書き味が得られにくく、前記アゾ骨格酸性染料と塩基性染料との造塩染料の十分な効果が得られ、M/R>100だと、ボールとチップ先端の間隙よりインキ垂れ下がりや、泣きボテが発生し、筆跡乾燥性にも影響しやすい。より濃い筆跡とインキ垂れ下がりを考慮すれば、50≦M/R≦70の関係となることが好ましい。具体的に例を挙げると、ボール径をR(mm)=1.0(mm)の場合、100mあたりのインキ消費量M(mg)は、M=30〜100(mg)とすることで、40≦M/R≦100の関係とすることができる。
また、インキ消費量については、100mあたりのインキ消費量が30mg未満だと、濃い筆跡や、良好な書き味が得られにくいため、30mg以上が好ましい。また、100mあたりのインキ消費量が100mgを越えると、ボールとチップ先端の間隙よりインキ垂れ下がりが発生しやすく、泣きボテも発生しやすいため、100mg以下が好ましい。より好ましくは、40〜70mgである、これは、より濃い筆跡にするには、40mg以上が好ましく、よりインキ垂れ下がり性能や泣きボテを向上することを考慮すれば70mg以下が好ましいためである。
なお、インキ消費量については、20℃、筆記用紙JIS P3201筆記用紙上に筆記角度70°、筆記荷重200gの条件にて、筆記速度4m/minの速度で、試験サンプル5本を用いて、らせん筆記試験を行い、その100mあたりのインキ消費量の平均値を、100mあたりのインキ消費量と定義する。
また、ボール径については、特に限定されないが、一般的には0.2〜2.0(mm)程度のボールを用いる。
また、本発明に用いるボールペンチップのボールの軸方向の移動量が、5〜20μmとするのが好ましい。これは、5μm未満であると、40≦M/Rの関係に設定しづらくなり、濃い筆跡や良好な書き味が得られづらくなり、20μmを越えると、M/R≦100の関係に設定しづらくなり、インキ垂れ下がり性能に影響が出やすくなるためで、よりそのことを考慮すれば、7〜16μmとするのが好ましい。
また、本発明で用いるボール表面の算術平均粗さ(Ra)については、0.1〜15nmとするのが好ましい。これは、算術平均粗さ(Ra)が0.1nm未満だと、ボール表面に十分にインキが載りづらく、筆記時に濃い筆跡が得られづらく、筆跡に線とび、カスレが発生しやすく、算術平均粗さ(Ra)が15nmを越えると、ボール表面が粗すぎて、ボールとボール座の回転抵抗が大きいため、書き味が劣りやすく、さらに、筆跡にカスレ、線とび、線ムラなどの筆記性能に影響が出やすくなるためである。特に、前記ポリビニルブチラール樹脂の前記平均重合度は1200〜2000と平均重合度の高いものでは、インキの凝集力が高くなりやすいため、前記算術平均粗さ(Ra)が1〜15nmのボール表面にインキが載りやすいためより好ましい。よりそのことを考慮すれば、3〜13nmが好ましく、より好ましくは、3〜10nmである。
なお、表面粗さの測定は(セイコーエプソン社製の機種名SPI3800N)で求めることができる。
また、ボールに用いる材料は、特に限定されるものではないが、タングステンカーバイドを主成分とする超硬合金ボール、ステンレス鋼などの金属ボール、炭化珪素、窒化珪素、アルミナ、シリカ、ジルコニアなどのセラミックスボール、ルビーボールなどが挙げられる。書き味やボール座の摩耗、経時安定性を考慮してセラミックスボールとすることが好ましい。また、ボールの直径は、特に限定されないが、一般的には0.25mm〜2.0mm程度である。
また、ボ−ルペンチップの材料は、ステンレス鋼、洋白、ブラス(黄銅)、アルミニウム青銅、アルミニウムなどの金属材、ポリカーボネート、ポリアセタール、 ABSなどの樹脂材が挙げられるが、書き味や切削等の加工性を考慮すれば洋白製のチップ本体が好ましく、ボール座の摩耗、経時安定性を考慮するとステンレス製のチップ本体とすることが好ましい。
本発明で用いるインキ収容筒としては、耐薬品性、水分透過性、空気透過性等の観点から採用可能な材料に制限がある。その点、従来からポリプロピレンを材料として用いることが、好ましい。しかし、本発明で用いるアゾ骨格酸性染料とトリアリールメタン骨格塩基性染料との造塩染料と、ポリビニルブチラール樹脂を用いた場合、ポリプロピレンのインキ収容筒と非常に親和性が強く、インキ収容筒内をインキが移動する際、インキが内壁に付着しやすく、インキ残量が分かりづらい。そのため、ポリプロピレンをインキ収容筒とする場合はそのインキ収容筒内壁をシリコーンで処理することが好ましい。これは、シリコーンをインキ収容筒内壁に塗布することで、収容筒材料であるポリプロピレンとインキとが直接接することなく、あくまでもシリコーンを中間に介在させた関係を維持し、インキが移動する際において収容筒内壁への付着防止することが可能ある。
シリコーンの材料としては、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、メチル水素シリコーン、アルキルアラルキルシリコーン、ポリエーテルシリコーン、高脂肪酸エステル脂肪酸シリコーンなどが挙げられ、その中でも、付着防止性が優れ、非反応性であるため、油性インキ成分に対しても安定性を考慮すれば、アルキルアラルキルシリコーンが好ましい。塗布の方法は押出成形時において内壁に同時に均一に塗布することが最も効果的である。
次に実施例を示して本発明を説明する。
実施例1の油性ボールペン用インキ組成物は、着色剤として染料、有機溶剤として芳香族アルコール溶剤、グリコールエーテル系溶剤、ポリビニルブチラール樹脂、潤滑剤としてリン酸エステル系界面活性剤、有機アミンとしてオキシエチレンアルキルアミン、曳糸性付与樹脂としてポリビニルピロリドンを採用し、これを所定量秤量して、60℃に加温した後、ディスパー攪拌機を用いて完全溶解させて油性ボールペン用インキ組成物を得た。具体的な配合量は下記の通りである。
尚、ブルックフィールド株式会社製粘度計 ビスコメーターRVDVII+Pro CP-52スピンドルを使用して20℃の環境下で剪断速度5sec−1(回転数2.5
rpm)にて実施例1のインキ粘度を測定したところ、インキ粘度=23000mPa・sであった。
また、実施例1で、前記有機アミンの全アミン価をX、前記リン酸エステル系界面活性剤の酸価をYとした場合、Y/X=0.32〜0.39の範囲であった。
また、実施例1の100mあたりのインキ消費量(M)は、ボール径(R)0.7mmのボールペンレフィルでらせん筆記試験を行ったところ、45mg/100mで、M/R=64であった。
実施例1
着色剤(染料、アゾ骨格酸性染料とトリアリールメタン骨格塩基性染料との造塩染料)
18.0質量%
芳香族アルコール溶剤(ベンジルアルコール) 53.0質量%
グリコールエーテル系溶剤(エチレングリコールモノフェニルエーテル)16.5質量%
ポリビニルブチラール樹脂
(エスレックBH−3、水酸基量:34mol%、平均重合度:1700)9.0質量%
潤滑剤(リン酸エステル系界面活性剤) 1.0質量%
有機アミン(オキシエチレンアルキルアミン) 1.0質量%
曳糸性付与樹脂(ポリビニルピロリドン樹脂) 0.5質量%
実施例2〜16
表に示すように、各成分を変更した以外は、実施例1と同様な手順でインキ配実施例2〜16の油性ボールペン用インキ組成物を得た。表に測定、評価結果を示す。
また、実施例2〜16で、前記有機アミンの全アミン価をX、前記リン酸エステル系界面活性剤の酸価をYとした場合、Y/X=0.2〜0.8の範囲であった。
Figure 2015193682
Figure 2015193682
Figure 2015193682
比較例1〜7
表に示すように、各成分を変更した以外は、実施例1と同様の手順で、比較例1〜7の油性ボールペン用インキ組成物を得た。表に測定、評価結果を示す。
Figure 2015193682
試験及び評価
実施例1〜16及び比較例1〜7で作製した油性ボールペン用インキ組成物を、シリコーンでインキ収容筒(ポリプロピレン製)内壁に塗布したインキ収容筒2の先端に、ボール径がボール表面の算術平均粗さ(Ra)6nmのボール3(φ0.7mm)を回転自在に抱時したボールペンチップ4を装着するとともに、インキ収容筒2内に、実施例1の油性ボールペン用インキ10(0.2g)を直に収容してボールペンレフィル1を(株)パイロットコーポレーション製の油性ボールペン(商品名:スーパーグリップ)に配設して、油性ボールペンを作製し筆記試験用紙として筆記用紙JIS P3201を用いて以下の試験及び評価を行った。
具体的には、ボールペンチップ4は、φ2.3mm、硬度が230Hv〜280Hvのステンレス鋼線材を所望の長さに切断し、ボール抱持室6、インキ流通孔7と、インキ流通孔7から放射状に伸びるインキ流通溝8を作製後、ボール抱持室6の底壁に、略円弧面状のボール座9を形成してある。その後、窒化珪素材のボール3をボール座9に載置し、チップ先端部5を内側へかしめる。
また、ボール3が、ボール座9に載置している状態のチップ先端より臨出するボール出Hは、ボール径の30.0%、かしめ角度αは70度、ボール3の縦方向のクリアランスは15μm、ボール抱持室の内径は、ボール径の104.0%、ボール座9の径は、ボール径の86.0%としてある。
インキ垂れ下がり性能試験:30℃、85%RHの環境下にペン先下向きで7日放置し、チップ先端からのインキ漏れを確認した。
チップ先端のインキ滴がないもの ・・・◎
チップ先端のインキ滴がテーパー部の1/4以内のもの ・・・○
チップ先端のインキ滴がテーパー部の1/4以上、1/2以内のもの・・・△
チップ先端のインキ滴がテーパー部の1/2以上のもの ・・・×
インキ経時試験:直径15mmの密開閉ガラス試験管に各油性ボールペン用インキ組成物を入れて、常温にて1か月放置後、適量採取し、インキを顕微鏡観察した。
溶解安定しており、分離や、析出物がなく良好のもの ・・・◎
分離や、析出物が微少に発生したが、良好なもの ・・・○
分離や、析出物が発生したが、実用上問題のないもの ・・・△
分離や、析出物が発生し、インキ化できない、または筆記不良の原因になるもの・・・×
書き味:手書きによる官能試験を行い評価した。
非常に滑らかなもの ・・・◎
滑らかであるもの ・・・○
実用上問題ないレベルの滑らかさであるもの ・・・△
重いもの ・・・×
ドライアップ性能試験:ペン先を出したまま、50℃で2週間放置した後、手書き筆記した際の筆跡の状態を評価した。
筆跡にカスレがなく、筆跡が良好のもの ・・・◎
筆跡に若干カスレが出るが、問題ないもの ・・・○
筆跡にカスレが出るもの ・・・△
筆跡にカスレがひどかったもの ・・・×
実施例1〜16では、インキ垂れ下がり試験、インキ経時試験、書き味、ドライアップ性能試験ともに良好な性能が得られた。さらに、実施例15〜16では、着色剤として有機酸と塩基性染料との造塩染料を併用したため、インキ経時試験において、最も安定して良好であった。
比較例1〜3では、ポリビニルブチラール樹脂を用いなかったため、書き味が重く、インキ垂れ下がりも良くなかった。
比較例4、5では、芳香族アルコール溶剤を用いなかったため、ポリビニルブチラール樹脂、アゾ骨格酸性染料とトリアリールメタン骨格塩基性染料との造塩染料が、溶解安定せずに、分離してしまった。
比較例6、7では、アゾ骨格酸性染料とトリアリールメタン骨格塩基性染料との造塩染料を用いなかったため、ポリビニルブチラール樹脂、アゾ骨格酸性染料とトリアリールメタン骨格塩基性染料との造塩染料が、溶解安定せずに、分離してしまった。
比較例8
表には記載していないが、各実施例及び比較例のボールペンは、筆記試験を行った時に、インキの消費にともないインキがインキ収容筒を移動するが、その際、シリコーンでインキ収容筒(ポリプロピレン製)内壁に塗布しているため、インキがインキ収容筒の内壁に付着しないので、インキ残量が明確に確認できた。一方、比較例8として、実施例1の油性ボールペン用インキ組成物を用いて、シリコーンでインキ収容筒(ポリプロピレン製)内壁に塗布しないボールペンで筆記試験を行ったところ、インキがインキ収容筒の内壁に付着してしまい、インキ残量が分からなかった。
また、ノック式油性ボールペンや回転繰り出し式油性ボールペン等の出没式油性ボールペンを用いた場合では、インキ垂れ下がり性能が最も重要な性能の 1つであるため、本発明のようにチップ先端で樹脂皮膜を形成し、ボールとチップ先端の間隙を覆うことで、インキ垂れ下がり性能を良好とすることが可能である油性ボールペンを用いると効果的である。
また、本実施例では、便宜上、軸筒内に、油性ボールペン用インキ組成物を直に収容した油性ボールペンレフィルを収容した油性ボールペンを例示しているが、本発明の油性ボールペンは、軸筒をインキ収容筒とし、軸筒内に、油性ボールペン用インキ組成物を直に収容した直詰め式の油性ボールペンであってもよい。また、本実施例では便宜上、線材を切削によって形成したボールペンチップを例示しているが、パイプ材を押圧加工によって形成するボールペンチップであってもよい。
また、本実施例では、ボールペンチップのかしめ角度として70度としてあるが、かしめ角度が大きすぎると、紙当たり角度が小さくなる傾向となるため、90度以下、好ましくは80度以下とすることが好ましい。かしめ角度を50度以下とすると、ボール9とチップ先端縁の間にインキを溜める空間が小さくなる傾向となり、インキリターンし難く、インキの這い上がりを抑制し難くなるので、かしめ角度は、50度〜90度することが好ましい。
また、ボール出、ボール抱持室の内径は、特に限定されるものではないが、前記油性ボールペンレフィルの100mあたりのインキ消費量をM(mg)、前記ボール径をR(mm)とした場合、40≦M/R≦100の関係とするためには、ボール出は、ボール径の10.0〜30.0%、ボール抱持室の内径は、ボール径の100.0〜110.0%、ボール座径は、ボール径の70〜95%とすることが好ましい。
本発明は油性ボールペンとして利用でき、さらに詳細としては、該油性ボールペン用インキ組成物を充填した、キャップ式、ノック式等の油性ボールペンとして広く利用することができる。さらに、実施例のボールペンに限らず、マーキングペン、万年筆、サインペン、プレートペン等に好適に使用してもよい。
1 ボールペンレフィル
2 インキ収容筒
3 ボール
4 ボールペンチップ
5 チップ先端部
6 ボール抱持室
7 インキ流通孔
8 インキ流通溝
9 ボール座
10 油性ボールペン用インキ
H ボール出
α カシメ角度

Claims (10)

  1. 少なくとも、アゾ骨格酸性染料とトリアリールメタン骨格塩基性染料との造塩染料、ポリビニルブチラール樹脂、芳香族アルコール溶剤からなることを特徴とする油性ボールペン用インキ組成物。
  2. 前記ポリビニルブチラール樹脂の含有量が全樹脂の含有量に対して50%以上であることを特徴とする請求項1に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
  3. 前記油性ボールペン用インキ組成物に、曳糸性付与樹脂を含有し、 該曳糸性付与樹脂の含有量が全樹脂の含有量に対して0.1〜20%であることを特徴とする請求項1または2に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
  4. 20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度が、15000〜35000mPa・sであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
  5. 前記油性ボールペン用インキ組成物に、リン酸エステル系界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
  6. 前記油性ボールペン用インキ組成物に、有機アミンを含有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
  7. インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを直接又はチップホルダーを介して装着し、前記インキ収容筒内に、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物を収容してなる油性ボールペンレフィルであって、前記ボールの表面の算術平均粗さが、0.1〜15nmであることを特徴とする油性ボールペンレフィル。
  8. 前記ボールの軸方向の移動量が、5〜20μmであることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の油性ボールペンレフィル。
  9. 前記油性ボールペンレフィルを軸筒内に配設したことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の油性ボールペン。
  10. 前記油性ボールペンレフィルを軸筒内に摺動自在に配設し、前記ボールペンチップのチップ先端部を前記軸筒先端部から出没可能とした出没式の油性ボールペンであることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の油性ボールペン。
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