本発明の特徴は、インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に、油性ボールペン用インキ組成物を収容した油性ボールペンレフィルであって、前記ボール表面の算術平均粗さが、0.1〜15nmであり、前記油性ボールペン用インキ組成物が、着色剤、有機溶剤、樹脂、造塩体を含んでなり、前記造塩体が酸性化合物と芳香環を有するアミンとの造塩体であり、含有量が、インキ組成物全量に対し、0.01〜2.0質量%であることを特徴とする油性ボールペンレフィルとすることである。
本発明で用いる造塩体については、酸性化合物と芳香環を有するアミンとの造塩体を選択することが重要である。芳香環を有するアミンは、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環などの芳香環を有するアミンであり、芳香環を有することで、潤滑性を向上し、書き味やボール座の摩耗抑制を良好とすることが可能となる。これは、芳香環が、金属チップに吸着し易い潤滑膜を形成することで、ボールとチップ本体間の金属接触を抑制する効果があり、潤滑性を向上して、書き味やボール座の摩耗抑制を良好とすると推測する。また、該芳香環を有するアミンを油性インキ中で安定させるために、酸性化合物で中和反応させて造塩体とする。そこで酸性化合物と芳香環を有するアミン間での強いイオン結合力が働いており、油性インキ中において、長期間インキ経時安定性を保つことができると推測できるためである。そのため、本発明では、酸性化合物と芳香環を有するアミンとの造塩体を用いることで、書き味やボール座の摩耗抑制を向上し、インキ経時安定性に優れることが可能となるため、必須とする。
ここで、酸性化合物と芳香環を有するアミンとの造塩体を、単に含有するだけでなく、該酸性化合物と芳香環を有するアミンとの造塩体の含有量が、インキ組成物全量に対し、0.01〜2.0質量%とすることが必須である。これは、前記造塩体の含有量が、上記範囲内だと、理由は定かではないが、潤滑性を特段向上し、従来では得られなかったボール座の摩耗抑制効果が特段に得られる。よりボール座の摩耗抑制効果を考慮すれば、インキ組成物全量に対し、0.01〜1.0質量%が好ましく、より考慮すれば、インキ組成物全量に対し、0.05〜0.5質量%が好ましく、最も好ましくは、インキ組成物全量に対し、0.05〜0.3質量%が好ましい。
さらに、酸性化合物と芳香環を有するアミンとの造塩体を、インキ組成物全量に対し、0.01〜2.0質量%を含んでなることで、ある程度の潤滑性を向上することができるが、より潤滑性を向上し、書き味とボール座の摩耗抑制を向上し、インキ垂れ下がり性能とを向上させるには、樹脂を含む必要がある。
また、本発明で用いるボールペンチップのボール表面の算術平均粗さ(Ra)については、0.1〜15nmとすることが好ましい。これは、算術平均粗さ(Ra)が0.1nm未満だと、ボール表面に十分にインキが載りづらく、筆記時に濃い筆跡が得られづらく、筆跡に線とび、カスレが発生しやすく、算術平均粗さ(Ra)が15nmを越えると、ボール表面が粗すぎて、ボールとボール座の回転抵抗が大きいため、書き味が劣りやすく、さらに、筆跡にカスレ、線とび、線ムラなどの筆記性能に影響が出やすくなるためである。特に、後に記載するポリビニルブチラール樹脂を用いる場合では、前記算術平均粗さ(Ra)が0.1〜10nmのボール表面にインキが載りやすいため、より好ましい。特に、前記ポリビニルブチラール樹脂の平均重合度が200〜2000のものを用いる場合は、本発明で用いる酸性化合物と芳香環を有するアミンとの造塩体とのインキの載りやすくなることを考慮すれば、1〜8nmが好ましく、より好ましくは、2〜7nmである。なお、表面粗さの測定は(セイコーエプソン社製の機種名SPI3800N)で求めることができる。
上記のように、本発明のように、書き味が良好で、ボール座の摩耗を抑制し、インキ経時安定性、インキ垂れ下がり性能が優れ、濃い筆跡とするには、前記ボール表面の算術平均粗さが0.1〜15nmとし、さらに前記油性ボールペン用インキ組成物が、酸性化合物と芳香環を有するアミンとの造塩体、樹脂 を含んでなることが、重要となる。
また、本発明では、より濃い筆跡を得る手段としては、筆記時に紙面にインキを多く吐出することが好ましい。具体的には、油性ボールペンレフィルのインキ消費量については、100mあたりのインキ消費量が30mg未満だと、濃い筆跡や、良好な書き味が得られにくいため、30mg以上が好ましく、100mあたりのインキ消費量が70mgを越えると、ボールとチップ先端の間隙よりインキ垂れ下がりが発生しやすく、泣きボテも発生しやすいため、70mg以下が好ましい。そのため、油性ボールペンレフィルの100mあたりのインキ消費量が30〜70mgが好ましく、より濃い筆跡にするには、40mg以上が好ましく、よりインキ垂れ下がり性能や泣きボテを向上するには、40〜60mgが好ましい。
なお、インキ消費量については、20℃、筆記用紙JIS P3201筆記用紙上に筆記角度70°、筆記荷重200gの条件にて、筆記速度4m/minの速度で、試験サンプル5本を用いて、らせん筆記試験を行い、その100mあたりのインキ消費量の平均値を、100mあたりのインキ消費量と定義する。
また、本発明に用いるボールペンチップのボールの縦軸方向の移動量が、5〜20μmとすることが好ましい。これは、5μm未満であると、100mあたりのインキ消費量が少なくなり、インキ消費量が30mg以上に設定しづらく、濃い筆跡が得られづらくなり、20μmを越えると、インキ消費量が多くなり、インキ消費量が70mg以下に設定しづらく、インキ垂れ下がり性能に影響が出やすくなるためで、よりそのことを考慮すれば、7〜17μmとすることが好ましく、より考慮すれば、10〜16μmとすることが好ましい。
また、より濃い筆跡にするにはインキ消費量を設定するだけではなく、ボール径との関係も重要である。前記油性ボールペンレフィルの100mあたりのインキ消費量をA(mg)、前記ボール径をB(mm)とした場合、40≦A/B≦100の関係とし、従来とは異なる関係とすることで、より濃い筆跡になりやすい。また、40≦A/B≦100の関係については、40>A/Bだと、ボール径に対して、インキ消費量が十分ではなく、濃い筆跡や、良好な書き味が得られにくく、A/B>100だと、ボールとチップ先端の間隙よりインキ垂れ下がりや、泣きボテが発生し、筆跡乾燥性にも影響しやすい。より濃い筆跡とインキ垂れ下がりを考慮すれば、50≦A/B≦80の関係とすることが好ましい。具体的に例を挙げると、ボール径をB(mm)=0.7(mm)の場合、100mあたりのインキ消費量A(mg)は、A=30〜70(mg)とすることで、40≦A/B≦100の関係とすることができる。
また、ボールに用いる材料は、特に限定されるものではないが、タングステンカーバイドを主成分とする超硬合金ボール、ステンレス鋼などの金属ボール、炭化珪素、窒化珪素、アルミナ、シリカ、ジルコニアなどのセラミックスボール、ルビーボールなどが挙げられる。書き味やボール座の摩耗、経時安定性を考慮すればセラミックスボールとすることが好ましい。また、ボールの直径は、特に限定されないが、一般的には0.25mm〜2.0mm程度である。
また、ボ−ルペンチップの材料は、ステンレス鋼、洋白、ブラス(黄銅)、アルミニウム青銅、アルミニウムなどの金属材、ポリカーボネート、ポリアセタール、ABSなどの樹脂材が挙げられるが、書き味や切削等の加工性を考慮すれば洋白製のチップ本体が好ましく、ボール座の摩耗、経時安定性を考慮するとステンレス製のチップ本体とすることが好ましい。
油性ボールペン用インキ組成物に用いる樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、セルロース樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ケトン樹脂、テルペン樹脂、アルキッド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂などが挙げられるが、本発明では、インキ垂れ下がり性能と、書き味、ボール座の摩耗抑制に優れるとともに、酸性染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料とのインキ経時安定性に優れるようにするには、ポリビニルブチラール樹脂を用いることが好ましい。これは、ポリビニルブチラール樹脂は、チップ先端で樹脂皮膜を形成し、ボールとチップ先端の間隙を覆うことで、インキ垂れ下がりを抑制し、さらに、ボールとボール座との間に常に弾力性があるインキ層を形成して、直接接触しづらくするため、前記造塩染料によって形成される金属チップに吸着し易い潤滑膜との相乗効果により、より書き味とボール座の摩耗抑制を向上しやすくすることが可能となるためである。
さらに、ポリビニルブチラール樹脂の含有量については、油性ボールペン組成物中の全樹脂の含有量に対して70%以上とし、主たる樹脂として用いる。これは、ポリビニルブチラール樹脂の含有量が全樹脂の含有量の70%未満となると、その他の樹脂によって、チップ先端の樹脂皮膜の形成を阻害してしまいインキ垂れ下がりを抑制できず、さらに弾力性があるインキ層を形成するのを阻害してしまい、書き味やボール座の摩耗抑制の向上の効果が得られづらくなるためである。よりインキ垂れ下がり性能、書き味やボール座の摩耗を向上する傾向を考慮すれば、ポリビニルブチラール樹脂の含有量は、全樹脂の含有量に対して80%以上が好ましく、よりその傾向を考慮すれば、90%以上が好ましい。さらに、酸性化合物と芳香環を有するアミンとの造塩体とポリビニルブチラール樹脂との相性も良く、ポリビニルブチラール樹脂の含有量が多く、90%以上としても、インキ経時安定性に影響が出にくいため、好ましい。
ポリビニルブチラール樹脂については、ポリビニルアルコール(PVA) をブチルアルデヒド(BA)と反応させたものであり、ブチラール基、アセチル基、水酸基を有した構造であるが、従来技術としては、ポリビニルブチラール樹脂を顔料分散剤として、好適に用いた技術はあるが、本発明では、インキ垂れ下がり性能、書き味やボール座の摩耗を向上することを見出したものである。
また、ポリビニルブチラール樹脂の平均重合度については、前記平均重合度は200以上であると、インキ垂れ下がり性能が向上するとともに、インキの凝集力を高めることができ、ボール表面にインキが載りやすく、ボールにインキが残ることで、ボールとボール座の間にインキが入り込みやすいため、ボールがボール座と直接接触しづらくなるため、書き味を向上しやすい傾向がある。一方、前記平均重合度は2000を超えると、インキ粘度が高くなりすぎて書き味に影響する傾向があるため、前記平均重合度は、200〜2000が好ましい。さらに、前記酸性化合物、特に酸性染料と芳香環を有するアミンとの造塩体との安定性を考慮すれば、前記平均重合度は1500以下であることが好ましく、より書き味を考慮すれば、前記平均重合度は1000以下が好ましい。そのため、前記平均重合度は200〜1500が好ましく、より好ましくは、前記平均重合度は200〜1000が最も好ましい。ここで、平均重合度とは、ポリビニルブチラール樹脂の1分子を構成している基本単位の数をいい、JISK6728(2001年度版)に規定された方法に基づいて測定された値を採用可能である。
ポリビニルブチラール樹脂については、具体的には、積水化学工業(株)製の商品名;エスレックBH−3(水酸基量:34mol%、平均重合度:1700)、同BH−6(水酸基量:30mol%、平均重合度:1300)、同BX−1(水酸基量:33±3mol%、平均重合度:1700)、同BX−5(水酸基量:33±3mol%、平均重合度:2400)、同BM−1(水酸基量:34mol%、平均重合度:650)、同BM−2(水酸基量:31mol%、平均重合度:800)、同BM−5(水酸基量:34mol%、平均重合度:850)、同BL−1(水酸基量:36mol%、平均重合度:300)、同BL−1H(水酸基量:30mol%)、同BL−2(水酸基量:36mol%、平均重合度:450)、同BL−2H(水酸基量:29mol%)、同BL−10(水酸基量:28mol%)などや、クラレ(株)製の商品名;モビタールB20H(水酸基量:26〜31mol%、平均重合度:250〜500)、同30T(水酸基量:33〜38mol%、平均重合度:400〜650)、同30H(水酸基量:26〜31mol%、平均重合度:400〜650)、同30HH(水酸基量:30〜34mol%、平均重合度:400〜650)、同45H(水酸基量:26〜31mol%、平均重合度:600〜850)、同60T(水酸基量:34〜38mol%、平均重合度:750〜1000)、同60H(水酸基量:26〜31mol%、平均重合度:750〜1000)、同75H(水酸基量:26〜31mol%、平均重合度:1500〜1750)などが挙げられる。これらは、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
前記ポリビニルブチラール樹脂の含有量は、インキ組成物全量に対し、3.0質量%より少ないと、樹脂皮膜形成量が足りないおそれがあり、インキ垂れ下がり性能が劣りやすく、40.0質量%を越えると、インキ中で溶解性が劣りやすいため、インキ組成物全量に対し、3.0〜40.0質量%が好ましい。さらに、インキ垂れ下がり性能を考慮すれば、5.0質量%以上が好ましく、30.0質量%を越えると、インキ粘度が高くなりすぎて書き味に影響する傾向があるため、5.0〜30.0質量%が好ましく、より考慮すれば、7.0〜25.0質量%が最も好ましい。
ポリビニルブチラール樹脂以外の樹脂は、インキ粘度調整樹脂や曳糸性付与樹脂を適宜用いてもよい。特に、曳糸性付与樹脂を配合することで、インキの結着性を高め、チップ先端における余剰インキ(泣きボテ)の発生を抑制しやすいため、曳糸性付与樹脂を含有することが好ましい。曳糸性付与樹脂としては、ポリビニルピロリドンが好ましく、具体的には、アイエスピー・ジャパン(株)製の商品名;PVP K−15、PVP K−30、PVP K−90、PVP K−120などが挙げられる。これらは、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
本発明で用いる曳糸性付与樹脂の含有量は、油性ボールペン組成物中の全樹脂の含有量に対して0.1〜20.0%であることが好ましい。これは、曳糸性付与樹脂の含有量が全樹脂の含有量の0.1%未満となると、余剰インキ(泣きボテ)の発生を抑制しにくい傾向があり、20%を越えると、ポリビニルブチラール樹脂の効果を阻害しやすく、具体的には、チップ先端の樹脂皮膜の形成を阻害してしまい、インキ垂れ下がりを抑制しづらくし、さらに弾力性があるインキ層を形成するのを阻害してしまい、書き味向上の効果が得られにくくしやすいためである。より余剰インキを抑制する傾向を考慮すれば、曳糸性付与樹脂の含有量は、全樹脂の含有量に対して1.0〜20.0%が好ましく、インキ垂れ下がり性能や書き味が向上する傾向を考慮すれば、1.0〜10.0%が好ましく、さらにその傾向を考慮すれば、2.0〜7.0%が好ましい。
また、本発明で用いる酸性化合物については、硫黄原子を有する官能基(S、SO、SO2、SO3など)を含むものやカルボキシル基(-COOH)などを有するものが挙げられるが、より潤滑性の向上を考慮すれば、硫黄原子を有する官能基(S、SO、SO2、SO3など)を含む酸性化合物が好ましい。これは、硫黄原子を有する官能基(S、SO、SO2、SO3など)を有すると、ボールとボール座間に強固な潤滑層を形成しやすいため、潤滑性が向上しやすいと考えられ、芳香環を有するアミンと併用することで相乗的な潤滑効果も得られるためである。その中でも、潤滑性を考慮すれば、スルホ基(-SO3H)を有する酸性化合物が好ましい。
また、本発明で用いる酸性化合物としては、酸性染料や、ジアルキルスルホコハク酸、アルキルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸-ホルムアルデヒド縮合物、脂肪酸などの界面活性剤などが挙げられるが、酸性染料を用いれば、着色剤と潤滑剤との効果を併せ持つことが可能となるため、酸性染料と芳香環を有するアミンとの造塩体とすることが好ましく、より潤滑性の向上を考慮すれば、スルホ基
(-SO3H)を有する酸性染料を用いることが好ましい。これは、スルホ基(-SO3H)を有すると、ボールとボール座間に強固な潤滑層を形成しやすいため、潤滑性が向上しやすいと考えられ、芳香環を有するアミンと併用することで相乗的な潤滑効果も得られるためである。
また、酸性染料としては、トリアリルメタン系酸性染料、アゾ系酸性染料、アントラキノン系酸性染料、オキサジン系酸性染料などがあるが、芳香環を有するアミンと安定した造塩体として、長期間インキ経時安定性を保つことを考慮すれば、アゾ系酸性染料を用いることが好ましい。
酸性染料として、具体的には、C.I.アシッドブラック1、2、7、16、17、24、26、28、31、41、48、52、58、60、63、94、107、109、112、118、119、121、122、131、155、156、C.I.アシッドイエロー1、3、4、7、11、12、13、14、17、18、19、23、25、29、34、36、38、40、41、42、44、49、53、55、59、61、71、72、76、78、79、99、111、114、116、122、135、142、161、172、C.I.アシッドオレンジ7、8、10、19、20、24、28、33、41、45、51、56、64、C.I.アシッドレッド1、4、6、8、13、14、15、18、19、21、26、27、30、32、34、35、37、40、42、51、52、54、57、80、82、83、85、87、88、89、92、94、97、106、108、110、111、114、115、119、129、131、133、134、135、143、144、152、154、155、172、176、180、184、186、187、249、254、256、289、317、318、C.I.アシッドバイオレット7、11、15、17、34、35、41、43、49、51、75、C.I.アシッドブルー1、7、9、15、22、23、25、27、29、40、41、43、45、49、51、53、55、56、59、62、78、80、81、83、90、92、93、102、104、111、113、117、120、124、126、138、145、167、171、175、183、229、234、236、249、C.I.アシッドグリーン3、9、12、16、19、20、25、27、41、44、C.I.アシッドブラウン4、14等が挙げられるなどが挙げられる。また、トリアリルメタン系酸性染料、C.I.アシッドバイオレット17、C.I.アシッドブルー90、C.I.アシッドブルー9、アゾ系酸性染料としては、C.I.アシッドイエロー36、C.I.アシッドイエロー42、C.I.アシッドレッド97等が挙げられ、その中でも、長期間インキ経時安定性を保つことを考慮すれば、C.I.アシッドイエロー36、C.I.アシッドイエロー42が好ましく、より考慮すれば、C.I.アシッドイエロー42が最も好ましい。
また、芳香環を有するアミンとしては、1級アミン、2級アミン、3級アミンや4級アミンなどが挙げられるが、酸性化合物、特に酸性染料を十分に中和反応させ、より安定した造塩体を作成するためには、芳香環を有する4級アミンを用いることが好ましい。
芳香環を有する4級アミンは、ベンゾキソニウム化合物(Benzoxonium)、アルキルジメチルベンジルアンモニウム化合物、アルキルジエチルベンジルアンモニウム化合物などが挙げられ、酸性化合物、特に酸性染料との中和反応性の相性によるインキ経時安定性、書き味を考慮すれば、ベンゾキソニウム化合物(Benzoxonium)が好ましい。具体的には、ベンゾキソニウム化合物(Benzoxonium)として、ベンジルビステトラデシルアンモニウム化合物(Benzylbis(2-hydroxypropyl)tetradecylammonium)、ベンジルドデシルビスアンモニウム化合物(Benzyldodecylbis(2-hydroxypropyl)ammonium)、ベンジルデシルビスアンモニウム化合物(Benzyldecylbis(2-hydroxypropyl)ammonium)などが挙げられ、アルキルジメチルベンジルアンモニウム化合物として、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウム化合物、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウム化合物、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム化合物、ヤシアルキルジメチルベンジルアンモニウム化合物などが挙げられ、アルキルジエチルベンジルアンモニウム化合物としては、ドデシルジエチルベンジルアンモニウム化合物などが挙げられる。これらは、単独または2種以上混合して使用してもよい。
また、着色剤としては、一般的な染料や顔料を用いても良いが、本発明のように、前記造塩体と樹脂を含んでなる場合は、顔料を含んでなることが好ましい。これは、顔料を含んでなることで、ボールとチップ本体の隙間に顔料粒子が入り込むことで、ベアリングのような作用が働き、金属接触を抑制することで、潤滑性を向上することが可能であるためである。そのため、前記顔料は、従来とは異なり、着色剤と潤滑剤との効果を併せ持つことが可能となる。本発明では、樹脂としてポリビニルブチラール樹脂を用いた場合では、前記造塩体と、前記ポリビニルブチラール樹脂と、前記顔料を併用することによって、上述のように、前記造塩体によって形成される金属チップに吸着し易い潤滑膜と、前記ポリビニルブチラール樹脂によって形成される弾力性があるインキ層と、前記顔料によるベアリングのような作用との相互作用により、より書き味とボール座の摩耗抑制を向上しやすくすることが可能となるためである。さらに、顔料を併用することで、前記造塩染料だけでは得られづらかった濃い筆跡が得られ、同時に、耐光性も向上することが可能となる。
また、顔料については、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、DPP系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ジオキサジン系、メタリック顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料等が挙げられる。これら顔料は、チップ本体の隙間に入り込むことで、金属接触を抑制し、潤滑性を向上しやすい。特に、前記造塩体と、前記ポリビニルブチラール樹脂との、相性による経時安定性や潤滑性の向上を考慮すれば、有機顔料を用いることが好ましく、より潤滑性を考慮すれば、ジケトピロロピロール系顔料が好ましい。また、チップ内部の隙間関係を考慮し、平均粒子径は、300nm以下が好ましい。より好ましくは、200nm以下である。ここで、平均粒子径とは、粒度分布計による平均粒子径D50のことである。これらの顔料は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
顔料の含有量は、着色剤としての効果を考慮すれば、インキ組成物全量に対し、0.01〜20質量%が好ましいが、本発明のように、潤滑性を向上するためには、インキ組成物全量に対し、0.01〜8.0質量%が好ましい。これは0.01質量%未満だと、潤滑性が十分ではなく、書き味やボール座の摩耗抑制を向上することが得られにくい傾向があり、8.0質量%を越えると、顔料粒子が多すぎて、潤滑性に影響が出やすいためである。さらに、酸性化合物、特に酸性染料と芳香環を有するアミンとの造塩体と、顔料とを併用した場合では、それぞれの相互作用により、ボール座の摩耗抑制を特段に向上しやすくする効果があり、それを考慮すれば、インキ組成物全量に対し、0.01〜1.2質量%が好ましく、より考慮すれば、インキ組成物全量に対し、0.05〜0.5質量%が好ましく、最も好ましくは、インキ組成物全量に対し、0.05〜0.3質量%が好ましい。
また、その他の着色剤としては、染料としては、油溶性染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料などや、それらの各種造塩タイプの染料等を採用しても良い。その中でも、酸性化合物と芳香環を有するアミンとの造塩体との相性により経時安定性や潤滑性を考慮すれば、更に塩基性染料と有機酸との造塩染料を含んでなることが好ましく、より考慮すれば、塩基性染料とアルキルベンゼンスルホン酸との造塩染料を含んでなることが好ましい。染料について、具体的には、バリファーストブラック1802、バリファーストブラック1805、バリファーストブラック1807、バリファーストバイオレット1701、バリファーストブルー1601、バリファーストブルー1605、バリファーストブルー1621、バリファーストレッド1320、バリファーストレッド1355、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1101、バリファーストイエロー1151、ニグロシンベースEXBP、ニグロシンベースEX、BASE OF BASIC DYES ROB−B、BASE OF BASIC DYES RO6G−B、BASE OF BASIC DYES VPB−B、BASE OF BASIC DYES VB−B、BASEOF BASIC DYES MVB−3(以上、オリエント化学工業(株)製)、アイゼンスピロンブラック GMH−スペシャル、アイゼンスピロンバイオレット C−RH、アイゼンスピロンブルー GNH、アイゼンスピロンブルー 2BNH、アイゼンスピロンブルー C−RH、アイゼンスピロンレッド C−GH、アイゼンスピロンレッド C−BH、アイゼンスピロンイエロー C−GNH、アイゼンスピロンイエロー C−2GH、S.P.T.ブルー111、S.P.T.ブルーGLSH−スペシャル、S.P.T.レッド533、S.P.T.オレンジ6、S.B.N.バイオレット510、S.B.N.イエロー530、S.R.C−BH(以上、保土谷化学工業(株)製)等が挙げられる。
その他の着色剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、1.0〜30.0質量%が好ましい。これは1.0質量%未満だと、濃い筆跡が得られにくい傾向があり、30.0質量%を越えると、インキ中で凝集しやすい傾向があるためであり、よりその傾向を考慮すれば、3.0〜15.0質量%が最も好ましい。
さらに、高筆圧下(筆記荷重400gf)においても潤滑性を保ち、ボール座の摩耗を抑制するには、リン酸エステル系界面活性剤を用いることが好ましい。これは、リン酸エステル系界面活性剤において、リン酸基が金属表面に吸着しやすく、ボールとチップ本体との間の潤滑性を保ち、書き味がより向上しやすいためである。特に、本発明では、上述のように、前記ボリビニルブチラールによって形成するインキ層とリン酸基によって、より潤滑性を向上しやすいためより好ましく、さらに、前記酸性化合物と芳香環を有するアミンとの造塩体によって形成される潤滑膜とによって、より金属接触を抑制することで、高筆圧下(筆記荷重400gf)においても潤滑性を保ちやすくなる。
リン酸エステル系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸トリエステル、アルキルリン酸エステル、アルキルエーテルリン酸エステル或いはその誘導体等が挙げられ、前記リン酸エステル系界面活性剤のアルキル基は、スチレン化フェノール系、ノニルフェノール系、ラウリルアルコール系、トリデシルアルコール系、オクチルフェノール系などが挙げられる。これらのリン酸エステル系界面活性剤は、単独又は2種以上混合して使用してもよい。その中でも、潤滑性を考慮すれば、アルキル基に含まれる炭素数が5〜18であることが好ましく、さらに考慮すれば、前記炭素数が10〜18であることがより好ましく、前記酸性化合物と芳香環を有するアミンとの造塩体との安定性を考慮すれば、前記炭素数12〜18が好ましい。アルキル基の炭素数が過度に少ないと、潤滑性が不足しやすい傾向があり、炭素数が過度に多いと、インキ経時安定性に影響が出やすい傾向があるので注意が必要である。
さらに、リン酸エステル系界面活性剤は、形成される皮膜を柔らかくする傾向があり、ドライアップ時の書き出し性能を改良できることがある。本発明で用いる前記ポリビニルブチラール樹脂は、形成された皮膜によって、ドライアップ時の書き出し性能が劣りやすく、リン酸エステル系界面活性剤を用いると、形成された皮膜を和らげて、書き出しを向上しやすいため、好ましく、その中でもアルキル基に含まれる炭素数が12〜18であることが好ましく、さらに考慮すれば、前記炭素数が12〜15であることがより好ましい。特に、ノック式筆記具や回転繰り出し式筆記具等の出没式筆記具においては、キャップ式筆記具とは異なり、常時ペン先が外部に露出した状態であるため、ドライアップ時の書き出し性能に影響しやすいため、リン酸エステル系界面活性剤を用いることはより好ましい。
また、リン酸エステル系界面活性剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1〜5.0質量%がより好ましい。これは、0.1質量%より少ないと、所望の潤滑性が得られにくい傾向があり、5.0質量%を越えると、インキ経時が不安定性になりやすい傾向があるためであり、その傾向を考慮すれば、インキ組成物全量に対し、0.3〜3.0質量%が好ましく、より考慮すれば、0.5〜3.0質量%が、最も好ましい。
リン酸エステル系界面活性剤の具体例としては、プライサーフシリーズ(第一工業製薬(株))の中から、プライサーフA217E(アルキル基:炭素数14、酸価:45〜58)、同A219B(アルキル基:炭素数12、酸価:44〜58)、同A215C(アルキル基:炭素数12、酸価:80〜95)、同A208B(アルキル基:炭素数12、酸価:135〜155)、同A208N(アルキル基:炭素数12と13の混合物、酸価:160〜185)、フォスファノールシリーズ(東邦化学工業(株)製)の中から、フォスファノールRB410(アルキル基:炭素数18、酸価:80〜90)、同RS−610(アルキル基:炭素数13、酸価:75〜90)、同RS−710(アルキル基:炭素数13、酸価:55〜75)等が挙げられる。これらの界面活性剤は単独又は2種以上混合して使用してもよい。
なお、酸価については、試料1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表すものとする。
本発明に用いる有機溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、3−メトキシブタノール、3−メトキシ−3−メチルブタノール等のグリコールエーテル溶剤、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコール等のグリコール溶剤、ベンジルアルコール、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t−ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3−メチル−1−ブチン−3−オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコール等のアルコール溶剤など、油性ボールペン用インキとして一般的に用いられる有機溶剤が例示できる。これらの有機溶剤は、1種又は2種以上用いることができる。
これら有機溶剤の中でも、ボールに対してインキが載りやすく、筆跡カスレや中抜けなどに有利に働き、筆記性能を向上し、さらにボール座の摩耗抑制を考慮すれば、グリコールエーテル溶剤を用いることが好ましい。特に、グリコールエーテル溶剤と、前記酸性化合物と芳香環を有するアミンとの造塩体と、前記ポリビニルブチラール樹脂と、を溶解安定させて、よりボール座の摩耗抑制をしやすくすることが可能であり、特に、水酸基量30mol%以上のポリビニルブチラール樹脂を用いる場合では、好ましい。また、アルコ−ル溶剤は、揮発しやすく、チップ先端での乾燥をしやすく、樹脂皮膜形成が速くなりやすく、インキ垂れ下がり性能を向上しやすいため、好ましい。そのため、本発明では、グリコールエーテル溶剤とアルコ−ル溶剤を少なくとも併用して用いることが好ましい。さらに、芳香族アルコール溶剤を用いることで、前記ポリビニルブチラール樹脂と、前記酸性化合物と芳香環を有するアミンとの造塩体をそれぞれ溶解安定し、お互い分離することなく、長期間インキ経時安定性が得られるため、好ましい。さらに、潤滑性を向上することを考慮すれば、芳香環を有することが好ましいので、芳香族のグリコールエーテル溶剤と芳香族のアルコ−ル溶剤を少なくとも併用して用いることが好ましい。
また、有機溶剤の含有量は、溶解性、筆跡乾燥性、にじみ等を向上することを考慮すると、インキ組成物全量に対し、3.0〜70.0質量%が好ましい。また、グリコールエーテル溶剤の含有量は、前記ポリビニルブチラール樹脂との溶解安定性を考慮すれば、インキ組成物全量に対して、3.0〜20.0質量%が好ましく、より好ましくは5.0〜12.0質量%である。また、アルコ−ル溶剤の含有量は、チップ先端での乾燥性を考慮すれば、インキ組成物全量に対して、40.0〜85.0質量%が好ましく、より好ましくは50.0〜75.0質量%である。
さらに、有機溶剤の含有量は、前記ポリビニルブチラール樹脂と、前記酸性化合物と芳香環を有するアミンとの造塩体をそれぞれ長期間溶解安定することや、インキ垂れ下がり性能、筆記性能、ボール座の摩耗抑制とのバランスを考慮すれば、グリコールエーテル溶剤の含有量に対するアルコ−ル溶剤の含有量との比率は、1:5〜1:30が好ましく、より好ましくは、1:7〜1:25である。
また、本発明のように、酸性化合物と芳香環を有するアミンとの造塩体、ポリビニルブチラール樹脂を含んでなる油性ボールペン用インキ組成物では、潤滑性をより向上させるために、微粒子を用いてもよい。これは、微粒子が、ボールとボール座の隙間に入り込むことで、金属接触を抑制することで、潤滑性を向上することが可能であるためである。微粒子は具体的には、アクリル系、シリコーン系、ポリエチレン系等の樹脂微粒子やアルミナ微粒子、シリカ微粒子などが挙げられる。その中でも、球状のシリカ微粒子が好ましい。また、微粒子は、潤滑性を考慮すれば、平均粒子径が5〜100nmの微粒子が好ましく、平均粒子径はメジアン径であり、遠心沈降式やレーザー回折式、BET法等によって求めるこができる。
さらに、本発明の油性ボールペン用インキに、芳香環を有するアミンとは別にエチレンオキサイド (CH2CH2O)を有する有機アミンをさらに併用すると、より潤滑効果が得られ易い。そのため、エチレンオキサイド (CH2CH2O)を有するオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンを用いることが好ましい。これ等は、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
オキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンとしては、具体的には、ナイミーンL−201、同L−202、同L−207、同S−202、同S−204、同S−210、同T2 -206、同S−210、同DT−203、同DT−208、同L−207、同T2 -206、同DT−208(日本油脂(株)社製)等が挙げられる。前記オキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンの含有量は、潤滑性や経時安定性を考慮すると、インキ組成物全量に対し、0.1〜10.0質量%が好ましく、より好ましくは、1.0〜5.0質量%である。
また、その他として、潤滑性を向上させるために、界面活性剤として、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤や、粘度調整剤として、ケトン樹脂、テルペン樹脂、アルキッド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル等の樹脂や水添ヒマシ油などの擬塑性付与剤を、また、着色剤安定剤、可塑剤、キレート剤、水などを適宜用いても良い。これらは、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
さらに、本発明のように油性ボールペン用インキ組成物に新たに酸性化合物と芳香環を有するアミンとの造塩体、ポリビニルブチラール樹脂を含有する場合に、インキ経時安定性を保つには、製造時や経時による吸湿等によって、油性インキ中に水を含有するため、pH値についても着目することが好ましい。
本発明の油性ボールペン用インキ組成物のインキ経時安定性、潤滑性を保つには、pH値が3.0〜10.0とすることが好ましい。これは、pH値が3.0未満だと、チップ本体内の金属イオンが溶出し易いため、前記造塩体とで金属塩析出物が発生し易く、pH値が10.0を越えると、前記造塩体のイオン結合が離れやすくなるため、インキ経時安定性、潤滑性、色調に影響が出やすい傾向があり、さらに顔料分散安定性が得られなくなってしまうためである。さらに、よりインキ経時安定性を考慮すれば、pH値が3.0〜9.0が好ましく、より考慮すれば、pH値が3.5〜8.0が好ましい。
尚、本発明におけるpH値は、油性ボールペン用インキ組成物の測定方法においては、油性インキを容器に採取し、イオン交換水を加えて、攪拌しながら加温し、加温後放冷し、蒸発した水分量を補充後、濾紙を用いて濾過する。その濾過したろ液の上層を用いて、pH測定は東亜ディーケーケー社製IM−40S型pHメーターを用いて、20℃にて測定した値を示すものである。
本発明の油性ボールペン用インキ組成物のインキ粘度は、特に限定されるものではないが、20℃、剪断速度5sec−1におけるインキ粘度は10〜5000mPa・sとすることが好ましい。特に、インキ粘度を10〜5000mPa・sとするのに加えて、100mあたりのインキ消費量をA(mg)、前記ボール径をB(mm)とした場合、40≦A/B≦100の関係として、従来のボールペンとは異なる関係とすることで、より相乗的にボールの回転抵抗を抑制しやすいため、潤滑性を向上し、書き味を向上しやすい。また、20℃、剪断速度5sec−1におけるインキ粘度が500mPa・s未満の場合では、インキ垂れ下がりを抑制しづらいため、インキ粘度は500〜5000mPa・s、が好ましい。また、書き味やインキ垂れ下がり抑制をより向上することを考慮すれば、前記インキ粘度は1000〜4000mPa・sがより好ましく、さらに、より考慮すれば、1500〜3500mPa・sが最も好ましい。
本発明で用いるインキ収容筒としては、耐薬品性、水分透過性、空気透過性等の観点から採用可能な材料に制限がある。その点、従来からポリプロピレンを材料として用いることが、好ましい。しかし、酸性染料と芳香環を有するアミンとの造塩体と、ポリビニルブチラール樹脂を用いた場合、ポリプロピレンのインキ収容筒と非常に親和性が強く、インキ収容筒内をインキが移動する際、インキが内壁に付着しやすく、インキ残量が分かりづらい。そのため、ポリプロピレンをインキ収容筒とする場合はそのインキ収容筒内壁をシリコーンで処理することが好ましい。これは、シリコーンをインキ収容筒内壁に塗布することで、収容筒材料であるポリプロピレンとインキとが直接接することなく、あくまでもシリコーンを中間に介在させた関係を維持し、インキが移動する際において収容筒内壁への付着防止することが可能ある。
シリコーンの材料としては、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、メチル水素シリコーン、アルキルアラルキルシリコーン、ポリエーテルシリコーン、高脂肪酸エステル脂肪酸シリコーンなどが挙げられ、その中でも、付着防止性が優れ、非反応性であるため、油性インキ成分に対しても安定性を考慮すれば、アルキルアラルキルシリコーンが好ましい。塗布の方法は押出成形時において内壁に同時に均一に塗布することが最も効果的である。
次に図面を参照しながら、本発明のボールペンの実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
実施例1
図1に示す実施例1のボールペンレフィル1は、インキ収容筒2の先端に、ボール表面の算術平均粗さ(Ra)3nmのボール3(φ0.7mm)を回転自在に抱時し、前記ボール3をコイルスプリング6によりチップ先端縁の内壁に押圧したボールペンチップ4(ボールの縦軸方向の移動量:12μm)を有するとともに、インキ収容筒2内に、実施例1の油性ボールペン用インキ組成物10(0.4g)及びグリース状のインキ追従体5を、を直に収容してボールペンレフィル1を得ている。
次に造塩体の作成方法を説明する。
配合例1
まず、ビーカーに水を1000g、Acid Yellow42(アゾ系酸性染料(スルホ基あり))を30g秤量し、加温した後、ディスパー攪拌機を用いて溶解させた後、ベンゾキソニウム化合物(芳香環を有するアミン)60gを秤量し、攪拌後、濾紙を用い濾過を行って、濾紙上の残渣を乾燥させ造塩体(造塩染料)を得た。
配合例2〜3
表1に示すように、各成分を変更した以外は、配合例1と同様な方法で配合例2、3の造塩体(造塩染料)を作成し、実施例と比較例に用いた。
次に、実施例を示して本発明を説明する。
実施例1の油性ボールペン用インキ組成物は、着色剤として配合例1、2の造塩体(造塩染料)、顔料分散体、有機溶剤としてアルコール溶剤、グリコールエーテル溶剤、樹脂としてポリビニルブチラール樹脂、潤滑剤としてリン酸エステル系界面活性剤、曳糸性付与樹脂としてポリビニルピロリドンを採用し、これを所定量秤量して、60℃に加温した後、ディスパー攪拌機を用いて完全溶解させて油性ボールペン用インキ組成物を得た。具体的な配合量は下記の通りである。
尚、ティー・エイ・インスツルメント株式会社製AR−G2(ステンレス製 40mm 2°ローター)を用いて20℃の環境下で、剪断速度5sec−1にてインキ粘度を測定したところ、2000mPa・sであった。
また、pH値を測定したところ、pH=4.0であった。
また、実施例1の100mあたりのインキ消費量(A)は、ボール径(B)0.7mmのボールペンレフィルでらせん筆記試験を行ったところ、45mg/100mで、A/B=64であった。
また、実施例2の100mあたりのインキ消費量(A)は、ボール径(B)0.5mmのボールペンレフィルでらせん筆記試験を行ったところ、38mg/100mで、A/B=76であった。
実施例1
配合例 1の造塩体 0.2質量%
配合例 2の造塩体 5.0質量%
顔料分散体(顔料分20%) 0.5質量%
アルコール溶剤(ベンジルアルコール) 71.8質量%
グリコールエーテル溶剤(エチレングリコールモノフェニルエーテル)5.0質量%
ポリビニルブチラール樹脂
(エスレックBL−1、水酸基量:36mol%、平均重合度:300)15.0質量%
潤滑剤(リン酸エステル系界面活性剤) 2.0質量%
曳糸性付与樹脂(ポリビニルピロリドン) 0.5質量%
実施例2〜12
表2、3に示すように、インキ組成物の各成分とチップ仕様を変更した以外は、実施例1と同様な手順で実施例2〜12の油性ボールペン用インキ組成物を得た。
比較例1〜10
表4、5に示すように、インキ組成物の各成分とチップ仕様を変更した以外は、実施例1と同様の手順で、配合し、比較例1〜10の油性ボールペン用インキ組成物を得た。
試験及び評価
実施例1〜12及び比較例1〜10で作製した油性ボールペンレフィル1を(株)パイロットコーポレーション製の油性ボールペン(商品名:アクロボール)に配設して、油性ボールペンを作製し、筆記試験用紙として筆記用紙JIS P3201を用いて以下の試験及び評価を行った。
書き味:手書きによる官能試験を行い評価した。
非常に滑らかなもの ・・・◎
滑らかなもの ・・・○
やや重いもの ・・・△
重いもの ・・・×
耐摩耗試験:荷重200gf、筆記角度70°、4m/minの走行試験機にて筆記試験後のボール座の摩耗を測定した。
ボール座の摩耗が2μm未満のもの ・・・◎◎
ボール座の摩耗が5μm未満のもの ・・・◎
ボール座の摩耗が5μm以上、10μm未満であるもの ・・・○
ボール座の摩耗が10μm以上、20μm未満であるが、筆記可能であるもの・・・△
ボール座の摩耗がひどく、筆記不良になってしまうのもの ・・・×
インキ経時試験:チップ本体内のインキを顕微鏡観察した。
析出物がなく、良好のもの ・・・◎
析出物が微少に発生したもの ・・・○
析出物が発生したが、実用上問題のないもの ・・・△
析出物が発生し、カスレや筆記不良などの原因になるもの ・・・×
インキ垂れ下がり性能試験:30℃、85%RHの環境下にペン先下向きで7日放置し、チップ先端からのインキ漏れを確認した。
チップ先端のインキ滴がないもの ・・・◎
チップ先端のインキ滴がテーパー部の1/4以内のもの ・・・○
チップ先端のインキ滴がテーパー部の1/4以上、1/2以内のもの・・・△
チップ先端のインキ滴がテーパー部の1/2以上のもの ・・・×
実施例1〜12では、書き味、耐摩耗試験、インキ経時試験、インキ垂れ下がり性能ともに良好な性能が得られた。さらに、書き味試験・耐摩耗試験での筆跡を確認したところ、筆跡の濃さも良好であった。
比較例1〜3、6では、酸性化合物と芳香環を有するアミンとの造塩体を用いていないため、潤滑性が悪く、書き味が劣り、ボール座の摩耗がひどく、筆記不良になってしまうものがあった。
比較例4、5では、酸性化合物と芳香環を有するアミンとの造塩体の含有量が多すぎて、潤滑性が悪く、書き味が劣り、ボール座の摩耗がひどく、筆記不良になってしまうものがあった。
比較例7、8では、酸性染料と脂肪族アミンとの造塩体及び酸性染料と塩基性染料との造塩体を用いたため、析出物が発生し、インキ経時安定性が悪かった。
比較例9、10では、ボール表面の算術平均粗さ(Ra)22nm、17nmのボールを用いたため、書き味が劣ってしまい、耐摩耗試験においてもボール座の摩耗も劣ってしまった。
さらに、ボール径が0.5mm以下のボールを用いたボールペンは、ボールとボール座の接触面積が小さく、単位面積に掛かる荷重が高くなることによる書き味やボール座の摩耗に影響がでやすいため、本発明の効果は顕著である。
本発明のように、書き味を向上するために、20℃、剪断速度5sec−1におけるインキ粘度を、10〜5000mPa・sの範囲に設定する場合には、インキの垂れ下がりを防止するため、ボールペンチップ先端に回転自在に抱持したボールを、コイルスプリングにより直接又は押圧体を介してチップ先端縁の内壁に押圧して、筆記時の押圧力によりチップ先端縁の内壁とボールに間隙を与えインキを流出させる弁機構を具備し、チップ先端の微少な間隙も非使用時に閉鎖することが好ましい。
本発明では、ボールの表面及び/又は当接面の表面に潤滑被膜層を設けることで、潤滑被膜層と前記したインキ層による流体潤滑又は混合潤滑との相乗効果によって、ボールとチップ内壁との接触抵抗を著しく軽減しやすく、当接面の耐摩耗性及び筆感を著しく向上しやすくなるため、好ましい。
尚、本発明に用いる潤滑被膜層としては、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、二硫化タングステン(WS2)、二硫化モリブデン(MoS2)やグラファイト、四フッ化エチレン(PTFE)等の含フッ素高分子、シリコーン樹脂等、従来から知られている固体潤滑剤などを適宜用いることができる。また、潤滑被膜層を被覆する方法は、特に制限されず、真空蒸着、イオン蒸着、物理的蒸着、化学的蒸着、真空アーク蒸着などが挙げられ、直接又は前記した潤滑剤を含有した被膜層であってもよい。特に前記した潤滑剤の中でも、耐摩耗性及び潤滑性を考慮してダイヤモンドライクカーボン(DLC)を用いることが最も好ましい。