JP2015178990A - 質量分析用ペプチド混合物試料の調製方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】質量分析において解析対象のペプチド断片を選択的にイオン化することができ、該ペプチド断片由来のイオンを高感度で検出することができるペプチド混合物試料の調製方法、タンパク質から調製したペプチド混合物試料を質量分析に供して、解析対象のペプチド断片を選択的に検出する方法及び該ペプチド断片のアミノ酸配列を決定する方法を提供する。【解決手段】タンパク質から質量分析に供するペプチド混合物試料を調製するための方法であって、(a)該タンパク質の標的アミノ酸残基を修飾用試薬によって選択的にラベル化する工程、(b)該タンパク質をペプチド断片に切断する工程、及び(c)該タンパク質のアルギニン残基を除去又は改変する工程を含む、ラベル化されたペプチド断片と、その他のペプチド断片とを含むペプチド混合物試料を調製する方法。【選択図】図1

Description

本発明は、タンパク質の構造を解析するための質量分析用ペプチド混合物試料を調製する方法に関するものである。特に、質量分析に供した場合に解析対象のペプチド断片を選択的にイオン化することができるため、該ペプチド断片を高感度で検出することができる、ペプチド混合物試料を調製する方法に関するものである。本発明はまた、前記ペプチド混合物試料を質量分析に供して、解析対象のペプチド断片を選択的に検出する方法、該ペプチド断片の構造解析を行う方法等に関するものである。
タンパク質は、翻訳後に様々な修飾反応・プロセシング(翻訳後修飾)を経て成熟タンパク質となる。このため、生体内で機能している成熟タンパク質のアミノ酸配列は、ゲノム情報から得られる配列とは違っている場合が多く、そのアミノ酸配列の解析法が求められている。
タンパク質の構造及び機能解析手法の一つとして、質量分析が広く用いられている。質量分析によりタンパク質の配列(例えば、C末端又はN末端配列)を調べる場合には、タンパク質を適当な酵素で消化してペプチド断片の混合物とする。このペプチド混合物は、解析対象のペプチド断片とその他のペプチド断片とを含むが、解析対象のペプチド断片をその他のペプチド断片から分離せずに分析に供することができると、分析用試料の調製が容易であることから好ましい。
しかしながら、ペプチド混合物を質量分析に供すると、解析対象のペプチド断片に由来するピークだけでなく、その他のペプチド断片に由来するピークが多数検出される。このため、質量分析によってタンパク質の構造を解析するためには、タンパク質を酵素処理することによって得られる断片化されたペプチド混合物の中から、解析すべきペプチド断片に由来するイオンを選択的に検出できることが重要である。
質量分析において、解析対象のペプチド断片由来のイオンの検出感度を向上させるための方法として、特定のアミノ酸残基をイオン化しやすい化合物等により選択的にラベル化する方法が知られている。例えば非特許文献1には、タンパク質のC末端部分のアミノ酸配列をMALDI−MS(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization Mass Spectrometry)により解析する方法として、タンパク質のC末端のαカルボニル基をトリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム(TMPP)でラベル化した後、酵素消化を行ってタンパク質を断片化し、得られるペプチド混合物を用いてMALDI−MS分析を行う方法が開示されている。この方法によれば、C末端αカルボキシル基をTMPPでラベル化する際に、タンパク質中の全てのリジン残基がホルミル化されるためリジン残基含有ペプチド由来のイオンのピーク強度が低下する。一方、TMPPはイオン化しやすく、TMPPでラベル化されたC末端ペプチドのピーク強度が強くなる。その結果、夾雑ペプチド(この場合には、C末端ペプチド以外のペプチド)のイオン強度が低下し、逆にTMPPでラベル化されたC末端ペプチドのイオン強度が増強されるため、該C末端ペプチドが相対的に高感度に検出される。これにより、解析対象のC末端ペプチド断片由来のイオンの検出が容易となる。
上述したように質量分析において検出感度を向上させるため、解析対象のペプチドをイオン化しやすい基等でラベル化する方法が知られている。しかしながら、アルギニン残基の側鎖上のグアニジノ基は、TMPP等と同様にイオン化しやすい。このため、質量分析に供するペプチド混合物中にアルギニン残基を含むペプチドが存在すると、解析対象のペプチドがTMPP等でラベル化されていても、該ペプチドを高感度化することができない場合がある。また、タンパク質をトリプシン等で消化した場合には、解析対象のペプチド断片の末端がアルギニン残基となる場合があるが、アルギニン残基を有するペプチド断片に由来するイオンをプリカーサーイオンとしてMS/MS解析を行っても、該ペプチド断片由来のフラグメントイオンが出現せず、構造解析を行うことができないという問題もある。
本発明は、質量分析において解析対象のペプチド断片を選択的にイオン化することができ、該ペプチド断片由来のイオンを高感度で検出することができるペプチド混合物試料の調製方法を提供することを主な課題とする。本発明はまた、タンパク質から調製したペプチド混合物試料を質量分析に供して、解析対象のペプチド断片を選択的に検出する方法及び該ペプチド断片のアミノ酸配列を決定する方法を提供することも課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために研究を重ね、以下の知見を得た。
(i)タンパク質を断片化して質量分析用のペプチド混合物試料を調製する際に、該タンパク質の解析対象部位のアミノ酸残基(例えば、N末端又はC末端のアミノ酸残基)を、質量分析において感度を向上させることができる基を有する化合物(例えば、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム(TMPP)化合物)等により選択的(特異的)にラベル化(化学修飾)すると共に、アルギニン残基を除去又は改変すると、質量分析においてラベル化されたアミノ酸残基を含むペプチド断片(ラベル化されたペプチド断片)が選択的にイオン化されるため、ラベル化されたペプチド断片由来のイオンを質量分析で高感度に検出することができる。
(ii)上記の解析対象部位のアミノ酸残基のラベル化と、アルギニン残基の除去又は改変とを組み合わせることにより、解析対象のペプチド断片を高感度で検出することができるため、解析対象のラベル化されたペプチド断片とその他のペプチド断片とを含むペプチド混合物を質量分析に供することができる。つまり、質量分析用試料の調製において、解析対象のペプチド断片とその他のペプチド断片とを分離する必要がない。
(iii)解析対象部位のアミノ酸残基のラベル化と、アルギニン残基の除去又は改変とを組み合わせるペプチド混合物試料の調製方法は、N末端又はC末端の解析だけでなく、末端以外の部位へのラベル化(例えば、システイン残基に対するラベル化、リジン残基に対するラベル化、リン酸化若しくは糖鎖が結合しているセリン又はスレオニン残基の側鎖に対するラベル化)がされたペプチドを選択的にイオン化するための試料の調製方法としても有用である。
(iv)ペプチド混合物試料の調製において、アルギニン残基に加えてリジン残基を除去又は改変すると、質量分析においてラベル化されたペプチド断片をより高感度に検出することができる。
(v)ペプチド断片からアルギニン残基が除去又は改変されることにより、ラベル化されたペプチド断片のMS/MSフラグメントイオン(プロダクトイオン)スペクトル(以下、単に「MS/MSスペクトル」ともいう)において多数のフラグメントイオン(プロダクトイオン)が観察されるようになり、該ペプチド断片の構造解析が可能となる。
(vi)MS/MSスペクトルにおいて、ラベル化に用いた修飾用試薬に対応するm/z値を有するレポーターイオンの存在を検出することにより、プリカーサーイオンとして選択したイオンがラベル化されたペプチド断片に由来するイオンであることを容易に確認することができる。例えばラベル化にTMPP化合物を使用した場合には、ラベル化されたペプチド断片のMS/MSスペクトルにはTMPP特有のピーク(573Da)が出現する。このため、MS/MS分析に供したプリカーサーイオンがTMPPでラベル化されたペプチド由来のイオンであることを確認することができる。
本発明者らは、上記知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下の試料調製方法、ラベル化されたペプチド断片の選択的検出方法などを含む。
(1)タンパク質から質量分析に供するペプチド混合物試料を調製するための方法であって、
(a)該タンパク質の標的アミノ酸残基を修飾用試薬によって選択的にラベル化する工程、
(b)該タンパク質をペプチド断片に切断する工程、及び
(c)該タンパク質のアルギニン残基を除去又は改変する工程
を含むことを特徴とする、ラベル化されたペプチド断片と、その他のペプチド断片とを含むペプチド混合物試料を調製する方法。
(2)前記修飾用試薬が、正電荷を有する化合物又は塩基性基を有する化合物である、前記(1)に記載の方法。
(3)前記正電荷を有する化合物が、第四級ホスホニウム化合物又は第四級アンモニウム化合物である、前記(2)に記載の方法。
(4)前記第四級ホスホニウムが、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウムである、前記(3)に記載の方法。
(5)前記塩基性基が、第三級アミノ基、イミダゾール基又はグアニジノ基である、前記(2)に記載の方法。
(6)工程(b)におけるタンパク質の切断が、アルギニンのC末端切断能を有するエンドプロテイナーゼにより行われる、前記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の方法。
(7)工程(c)におけるアルギニン残基の除去又は改変が、カルボキシペプチダーゼを用いるアルギニン残基の除去、又はペプチジルアルギニンデイミナーゼを用いるグアニジノ基の脱イミン化若しくはグアニジノ基のヒドラジン分解によって行われる、前記(1)〜(6)のいずれか一項に記載の方法。
(8)工程(a)における標的アミノ酸残基のラベル化が、N末端のαアミノ基、C末端のαカルボキシル基、リジン残基の側鎖上のアミノ基、システイン残基の側鎖上のチオール基、又はリン酸基若しくはOグリカンが結合しているセリン又はスレオニン残基の側鎖のラベル化である、前記(1)〜(7)のいずれか一項に記載の方法。
(9)工程(a)における標的アミノ酸残基のラベル化が、N末端のαアミノ基のラベル化である、前記(1)〜(8)のいずれか一項に記載の方法。
(10)工程(a)、工程(b)、及び工程(c)をこの順に行う、前記(9)に記載の方法。
(11)さらに、次の工程を含む、前記(1)に記載の方法。
(d)該タンパク質のリジン残基を除去又は改変する工程
(12)前記(1)〜(11)のいずれか一項に記載の方法により調製されるペプチド混合物試料を質量分析に供し、ラベル化されたペプチド断片に由来するイオンを検出する工程を含むことを特徴とする、ラベル化されたペプチド断片の選択的検出方法。
(13)前記検出工程において、ペプチド混合物試料をイオン化し、生成したイオンの中からイオン強度が最も高いイオンをラベル化されたペプチド断片に由来するイオンとして選択する、前記(12)に記載の方法。
(14)さらに、選択したイオンをフラグメントイオンに解離させて、フラグメントイオンスペクトルを取得し、該フラグメントイオンスペクトルにおいてラベル化に用いた修飾用試薬に対応するm/z値を有するレポーターイオンの存在を検出することにより、該選択したイオンがラベル化されたペプチド断片に由来するイオンであることを確認する、前記(13)に記載の方法。
(15)前記(1)〜(11)のいずれか一項に記載の方法により調製されるペプチド混合物試料を質量分析に供し、ラベル化されたペプチド断片に由来するイオンを検出する工程、及び該ラベル化されたペプチド断片のアミノ酸配列を決定する工程を含むことを特徴とする、ラベル化されたペプチド断片のアミノ酸配列決定方法。
本発明によれば、解析対象のラベル化されたペプチド断片を選択的にイオン化することができる。このため、質量分析において、ラベル化されたペプチド断片由来のイオンを高感度に検出することができ、ラベル化されたペプチド断片をその他のペプチド断片由来から区別して選択的に検出することができる。
また、ラベル化されたペプチド断片由来のイオンについてMS/MS分析を行うと、MS/MSスペクトルにおいて多数のフラグメントイオンが観察されるため、該ペプチド断片の構造解析が可能となる。さらに、ラベル化されたペプチド断片をMS/MS分析に供すると、MS/MSスペクトルにおいて、ラベル化に用いた修飾用試薬に対応するm/z値を有するレポーターイオンが出現するため、MS/MS分析に供したプリカーサーイオンが解析対象のラベル化されたペプチド断片に由来するイオンであることを容易に確認することができる。
本発明の方法は、タンパク質の翻訳後修飾の解析等において有用である。例えば、タンパク質のN末端又はC末端配列の解析、タンパク質中のリジン残基の解析、タンパク質中のシステイン残基の解析、タンパク質のリン酸化部位の解析、タンパク質の糖鎖付加部位の解析のための質量分析用ペプチド混合物試料の調製方法として有用である。
タンパク質のN末端配列を解析するための質量分析用ペプチド混合物試料の調製方法の一例を説明するための模式図である。 タンパク質のシステイン残基を解析するための質量分析用ペプチド混合物試料の調製方法の一例を説明するための模式図である。 タンパク質のリン酸化部位を解析するための質量分析用ペプチド混合物試料の調製方法の一例を説明するための模式図である。 タンパク質の糖鎖結合部位を解析するための質量分析用ペプチド混合物試料の調製方法の一例を説明するための模式図である。 N末端αアミノ基をTMPPでラベル化したタンパク質について、トリプシンによる消化、カルボキシペプチダーゼBによる処理、及びメタロエンドペプチダーゼLysN(LysN)による処理を行って得られた各ペプチド混合物のMALDI−MSスペクトルである。図(a)は、N末端をTMPPでラベル化したウシ血清アルブミン(BSA)をトリプシンで消化したペプチド混合物のMALDI−MSスペクトル、図(b)は、図(a)で用いたペプチド混合物をさらにカルボキシペプチダーゼBで処理した処理物のMALDI−MSスペクトル、図(c)は、図(b)で用いた処理物をさらにLysNで処理した処理物のMALDI−MSスペクトルである。図(d)は、N末端をTMPPでラベル化したトリオースリン酸イソメラーゼ(TPIS)をトリプシンで消化したペプチド混合物のMALDI−MSスペクトル、図(e)は、図(d)で用いたペプチド混合物をさらにカルボキシペプチダーゼBで処理した処理物のMALDI−MSスペクトル、図(f)は、図(e)で用いた処理物をさらにLysNで処理した処理物のMALDI−MSスペクトルである。 図6の上図(a)は、N末端αアミノ基をTMPPでラベル化したTPIS(TMPP−TPIS)をトリプシンで消化したペプチド混合物に含まれるTMPPでラベル化されたN末端ペプチドのMS/MSスペクトルであり、下図(b)は、TMPP−TPISをトリプシンで消化後、さらにカルボキシペプチダーゼBで処理したペプチド混合物に含まれるTMPPでラベル化されたN末端ペプチドのMS/MSスペクトルである。
本発明の方法は、タンパク質から質量分析に供するペプチド混合物試料を調製するための方法である。
本明細書中、「ペプチド断片」とは、後述する工程(b)でタンパク質を切断した断片である。「ペプチド混合物試料」とは、後述するラベル化されたペプチド断片、及びその他のペプチド断片を含むペプチド断片の混合物である。「ラベル化されたペプチド断片」は、後述する工程(a)で選択的にラベル化されたアミノ酸残基を含むペプチド断片である。ラベル化されたペプチド断片は、質量分析における解析対象のペプチド断片である。その他のペプチド断片は、前記のラベル化されたアミノ酸残基を含まないペプチド断片であり、以下、「非ラベル化ペプチド断片」ともいう。ペプチド混合物試料に含まれるその他のペプチド断片は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
本発明の方法においては、タンパク質からペプチド混合物試料を調製する際に下記の(a)〜(c)の工程を行う。
(a)該タンパク質の標的アミノ酸残基を修飾用試薬によって選択的にラベル化する工程、
(b)該タンパク質をペプチド断片に切断する工程、及び
(c)該タンパク質のアルギニン残基を除去又は改変する工程
本発明において試料の調製に用いられるタンパク質は特に限定されないが、通常、少なくとも1個のアルギニン残基を有するものである。タンパク質は、天然から単離したタンパク質であってもよく、遺伝子工学を利用して製造したタンパク質であってもよい。また、有機合成で合成したタンパク質であってもよい。
工程(a)〜(c)を行う順序は、工程(a)におけるラベル化の対象となる標的アミノ酸及び/又は用いる修飾用試薬の種類、工程(b)におけるタンパク質の切断方法、及び工程(c)におけるアルギニン残基を除去又は改変するための方法等に応じて適宜選択することができる。
例えば、工程(a)、工程(b)及び工程(c)の順に操作を行う場合には、まずタンパク質中の標的アミノ酸を修飾用試薬によって選択的にラベル化し(工程(a))、次いで、得られたラベル化されたタンパク質をペプチド断片に切断してペプチド混合物を得て(工程(b))、ペプチド混合物について、アルギニン残基を除去又は改変する操作を行い(工程(c))、解析対象のラベル化されたペプチド断片とその他の断片とを含むペプチド混合物試料を調製することになる。
工程(a)、工程(c)及び工程(b)の順に操作を行う場合には、工程(a)で得られたラベル化されたタンパク質からアルギニン残基を除去又は改変し(工程(c))、得られるアルギニン残基が除去又は改変されたタンパク質を切断して(工程(b))、ペプチド混合物試料を調製することになる。
工程(b)、工程(a)及び工程(c)の順に操作を行う場合には、まずタンパク質をペプチド断片に切断し(工程(b))、得られるペプチド混合物に修飾用試薬を作用させてペプチド断片中の標的アミノ酸残基を選択的にラベル化し(工程(a))、次いで、ラベル化されたペプチド断片を含むペプチド混合物について、アルギニン残基を除去又は改変する操作を行い(工程(c))、ペプチド混合物試料を調製することになる。
工程(b)、工程(c)及び工程(a)の順に操作を行う場合には、工程(b)で得られるペプチド混合物について、アルギニン残基を除去又は改変する操作を行い(工程(c))、次いでアルギニン残基が除去又は改変されたペプチド混合物に修飾用試薬を作用させてペプチド断片中の標的アミノ酸残基を選択的にラベル化し(工程(a))、ペプチド混合物試料を調製することになる。
工程(c)、工程(a)及び工程(b)の順に操作を行う場合には、まずタンパク質からアルギニン残基を除去又は改変し(工程(c))、得られるアルギニン残基が除去又は改変されたタンパク質中の標的アミノ酸残基を修飾用試薬によって選択的にラベル化し(工程(a))、次いでラベル化されたアミノ酸残基を含むタンパク質を切断し(工程(b))、ペプチド混合物試料を調製することになる。
工程(c)、工程(b)及び工程(a)の順に操作を行う場合には、工程(c)で得られるアルギニン残基が除去又は改変されたタンパク質をペプチド断片に切断し(工程(b))、得られるペプチド混合物に修飾用試薬を作用させてペプチド断片中の標的アミノ酸残基をラベル化し(工程(a))、ペプチド混合物試料を調製することになる。
以下に、工程(a)〜(c)について説明する、
<工程(a)>
工程(a)では、タンパク質の標的アミノ酸残基を修飾用試薬によって選択的にラベル化する。
工程(a)において「タンパク質の標的アミノ酸残基を選択的にラベル化する」とは、試料調製に用いたタンパク質中に存在した特定の標的アミノ酸残基を選択的にラベル化することをいう。工程(a)を行うことによって、得られるペプチド混合物試料に含まれるペプチド断片中の前記特定の標的アミノ酸残基は、ラベル化されたものとなる。
より具体的には、工程(a)に供される対象は、工程(a)〜(c)を行う順番によって異なることになり、後述する工程(b)で切断される前のタンパク質、又は該タンパク質を切断したペプチド断片である。また、工程(c)を工程(a)より先に行う場合であれば、アルギニン残基が除去又は改変されたタンパク質(切断前のタンパク質)、又は該タンパク質を切断したペプチド断片中の標的アミノ酸残基が工程(a)に供されてラベル化される。
例えば、本発明において、工程(a)を行った後に工程(b)を行う場合には、切断前のタンパク質に修飾用試薬を作用させて該タンパク質中の標的アミノ酸残基を選択的にラベル化する。また、工程(b)を行った後に工程(a)を行う場合には、タンパク質を切断したペプチド断片に修飾用試薬を作用させて該ペプチド断片中の標的アミノ酸残基を選択的にラベル化することになる。
標的アミノ酸残基は、通常、質量分析における解析対象のアミノ酸残基又は解析対象配列に含まれるアミノ酸残基である。本発明における標的アミノ酸残基は特に限定されないが、例えばN末端配列の解析であれば、N末端アミノ酸残基が好ましい。また、C末端配列の解析であれば、C末端アミノ酸残基が好ましい。また、本発明における標的アミノ酸残基として、例えば、リジン残基、システイン残基、リン酸基若しくはOグリカン(O結合型糖鎖)が結合しているセリン又はスレオニン残基も挙げられる。中でも、N末端アミノ酸残基、又はC末端アミノ酸残基が好適であり、N末端アミノ酸残基がより好適である。
工程(a)における標的アミノ酸残基のラベル化は、例えばN末端配列の解析であれば、N末端のαアミノ基をラベル化することが好ましい。C末端配列の解析であれば、C末端のαカルボキシル基をラベル化することが好ましい。また、リジン残基の解析であれば、リジン残基の側鎖上のアミノ基(εアミノ基)をラベル化することが好ましい。システイン残基の解析であれば、システイン残基の側鎖上のチオール基をラベル化することが好ましい。リン酸化部位又はOグリカン結合部位の解析であれば、リン酸基若しくはOグリカンが結合しているセリン又はスレオニン残基の側鎖をラベル化することが好ましい。
工程(a)における標的アミノ酸残基のラベル化は、N末端のαアミノ基、C末端のαカルボキシル基、リジン残基の側鎖上のアミノ基、システイン残基の側鎖上のチオール基、又はリン酸基若しくはOグリカンが結合しているセリン又はスレオニン残基の側鎖のラベル化であることが好ましく、N末端のαアミノ基又はC末端のαカルボキシル基のラベル化がより好ましく、N末端のαアミノ基のラベル化が特に好ましい。
修飾用試薬は、該試薬によりラベル化されたアミノ酸残基を有するペプチド断片が質量分析に供された場合に、該ペプチド断片由来のイオン種の感度を上げることができるモチーフ又は置換基(以下、前記モチーフ又は置換基を、「修飾基」ともいう)を有する化合物が好ましい。
修飾基として、例えば、正電荷を有する基又は塩基性基が好ましい。すなわち本発明における修飾用試薬は、正電荷を有する化合物又は塩基性基を有する化合物であることが好ましい。このような修飾用試薬によりラベル化されたペプチド断片は、質量分析に供された場合に、該断片が有する正電荷を有する基又は塩基性基により、該断片由来のイオン種の感度を上げることができる。その結果、ラベル化されたペプチド断片を質量分析によって、他のペプチド断片(非ラベル化ペプチド断片)から区別して選択的に検出することが容易となる。
正電荷を有する化合物として、例えば、S、O、N又はPのオニウム塩構造を有する化合物が挙げられる。具体的には、例えば、多置換のスルホニウム化合物、ピリリウム化合物、アンモニウム化合物、又はホスホニウム化合物が好ましい。中でも、第四級ホスホニウム化合物又は第四級アンモニウム化合物がより好ましく、第四級ホスホニウム化合物が更に好ましい。
第四級ホスホニウムとして、例えば、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム(TMPP)、ビニル(2,4,6−トリフェニル)ホスホニウムブロマイド(International Journal of Mass Spectrometry and Ion Processes, Vol. 126, 29 July 1993, Pages 123-136)が挙げられる。中でも、TMPPが好ましい。
第四級アンモニウムとして、例えば、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウムが挙げられる。中でも、トリメチルアンモニウムが好ましい。
塩基性基として、例えば、含窒素塩基性基が挙げられる。含窒素塩基性基として、例えば、第三級アミノ基、グアニジノ基、置換されていてもよい含窒素複素環基が挙げられる。第三級アミノ基として、具体的には、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルエチルアミノ基が挙げられ、好ましくはジエチルアミノ基である。含窒素複素環基としては、例えば、イミダゾール基、ピリジン基、ピペリジン基、ピペラジン基、ピリミジン基、ピリダジン基、ピロール基が挙げられ、好ましくはイミダゾール基である。中でも、本発明における好ましい塩基性基は、第三級アミノ基、イミダゾール基又はグアニジノ基である。
修飾用試薬は、上記のような修飾基を有し、特定の標的アミノ酸残基を選択的(特異的)に修飾できる官能基を有する化合物であればよい。修飾基及び特定の標的アミノ酸残基を選択的に修飾できる官能基は、同一の基であってもよい。また、工程(a)におけるラベル化は、1段階反応であってもよく、多段階反応であってもよい。
ラベル化は、通常溶媒中で修飾用試薬とタンパク質又はペプチド断片とを反応させることにより行われる。溶媒の種類及び反応条件は特に限定されず、標的アミノ酸、修飾用試薬の種類等に応じて適宜選択することができる。修飾用試薬の使用量は、標的アミノ酸の種類、修飾用試薬の種類等に応じて適宜選択することができる。例えば、溶媒として、重炭酸アンモニウム水溶液を使用することができる。修飾用試薬の使用量は、例えば、モル比で、試料調製に用いたタンパク質1に対して、通常1〜1000000であり、100〜10000が好ましい。反応条件は、修飾用試薬の種類により適宜選択することができる。例えば、タンパク質又はペプチド断片、及び修飾用試薬を含む溶媒のpHは通常6〜9であり、pH7〜8に調整することが好ましい。また、反応温度は、通常20〜80℃、好ましくは30〜60℃であり、反応時間は、通常0.1〜2時間、好ましくは0.2〜0.6時間とする。
<工程(b)>
工程(b)に供されるタンパク質、すなわち切断されるタンパク質は、工程(a)〜(c)を行う順番によって異なることになるが、試料の調製に用いられたタンパク質、工程(a)でラベル化されたタンパク質又はこれらのタンパク質から工程(c)によってアルギニン残基を除去又は改変したタンパク質である。
例えば、工程(a)の後に工程(b)を行う場合であれば、標的アミノ残残基がラベル化されたタンパク質をペプチド断片に切断する。また、工程(c)の後に工程(b)を行う場合には、工程(c)によってアルギニン残基が除去又は改変されたタンパク質をペプチド断片に切断する。
タンパク質の切断方法は特に限定されないが、プロテアーゼを用いて行うことが好ましく、エンドプロテイナーゼを用いることがより好ましい。エンドプロテイナーゼとして、例えば、アルギニン等の塩基性アミノ酸のC末端切断能を有するエンドプロテイナーゼ(例えば、トリプシン、エンドプロテイナーゼArgC、リシルエンドペプチダーゼ(例えば、和光純薬社のリシルエンドペプチダーゼ(登録商標))、疎水性アミノ酸を含む配列の切断能を有するエンドプロテイナーゼ(例えば、テモラリシン(Thermolysin))、疎水性アミノ酸を含む配列の切断能を有するエンドプロテイナーゼ(例えば、キモトリプシン)、アスパラギン酸のC末端切断能を有するエンドプロテイナーゼ(例えば、カスパーゼ)が挙げられる。
工程(b)で用いるプロテアーゼの種類は、工程(a)でラベル化する標的アミノ酸残基の種類、工程(c)でアルギニン残基を除去又は改変する方法、工程(a)〜(c)を行う順番等に応じて適宜選択することができる。例えば、後述する工程(c)でアルギニン残基を除去する場合には、工程(b)を行った後、工程(c)を行うことが好ましく、さらに工程(b)においてトリプシン、エンドプロテイナーゼArgC等のアルギニンのC末端切断能を有するエンドプロテイナーゼを用いることが好ましい。また、例えばN末端がアルギニン残基であるタンパク質のN末端配列を解析する場合であれば、アルギニン残基のC末端切断能を有するエンドプロテイナーゼ以外のプロテアーゼを用いることが好ましい。
工程(b)におけるタンパク質の切断は、アルギニンのC末端切断能を有するエンドプロテイナーゼにより行われることが好ましく、中でも、トリプシン又はエンドプロテイナーゼArgCにより行われることがより好ましい。
タンパク質の切断は、通常溶媒中でタンパク質にプロテアーゼを作用させることにより行うことができる。かかる溶媒は特に限定されず、プロテアーゼの種類等により適宜選択することができ、例えば重炭酸ナトリウム水溶液を挙げることができる。プロテアーゼの使用量は、例えば、モル比で、切断するタンパク質1に対して、通常1倍〜1/10000倍であり、1/10倍〜1/1000倍が好ましい。反応条件は、タンパク質、及びプロテアーゼの種類により適宜選択することができる。例えば、タンパク質、及びプロテアーゼを含む溶媒のpHは通常6〜9であり、pH7〜8に調整することが好ましい。また、反応温度は、通常20〜60℃、好ましくは30〜40℃であり、反応時間は、通常1〜24時間、好ましくは2〜8時間とする。
<工程(c)>
工程(c)において「タンパク質のアルギニン残基を除去又は改変する」とは、試料調製に用いたタンパク質中に存在したアルギニン残基を除去又は改変することをいい、これにより本発明の方法により得られるペプチド混合物試料に含まれるペプチド断片は、アルギニン残基を含まないものとなる。
工程(c)に供される対象は、工程(a)〜(c)を行う順番によって異なることになるが、工程(b)で切断される前のタンパク質、及び該タンパク質を切断したペプチド断片である。また、工程(a)を工程(c)より先に行う場合であれば、ラベル化された切断前のタンパク質、又は該タンパク質を切断したペプチド断片を工程(c)に供することになる。
より具体的には、例えば、工程(c)の後で工程(b)を行う場合であれば、タンパク質中のアルギニン残基を除去又は改変する。また、工程(b)の後に工程(c)を行う場合には、ペプチド断片中のアルギニン残基を除去又は改変する。
アルギニン残基を除去する方法は限定されず、公知の方法により行うことができる。工程(c)においてアルギニン残基を除去する場合には、上述したように、工程(b)を行った後工程(c)を行うことが好ましい。また、アルギニン残基を除去する場合、工程(b)におけるタンパク質の切断は、アルギニンのC末端切断能を有するエンドプロテイナーゼにより行われることがより好ましい。
工程(b)においてアルギニンのC末端切断能を有するエンドプロテイナーゼを用いる場合には、C末端にアルギニン残基(トリプシンを用いる場合には、アルギニン又はリジン残基)を有するペプチド断片が生成する。よって、生成したペプチド断片にアルギニン残基のN末端切断能を有する酵素を作用させることにより、ペプチド断片からアルギニン残基を遊離させることができ、アルギニン残基を除去することができる。アルギニンのN末端切断能を有する酵素として、例えば、カルボキシペプチダーゼを使用することができる。カルボキシペプチダーゼとして、例えば、カルボキシペプチダーゼB、カルボキシペプチダーゼAが挙げられ、好ましくはカルボキシペプチダーゼBである。
また、工程(b)で生成するペプチド断片がそのN末端にアルギニン残基を有する場合であれば、アルギニンのC末端切断能を有する酵素により、ペプチド断片からアルギニン残基を遊離させることができる。アルギニン残基のC末端切断能を有する酵素として、例えば、アミノペプチダーゼ、トリプシン、エンドプロテイナーゼArg−Cを使用することができる。好ましくはアミノペプチダーゼ、トリプシンである。
アルギニン残基の除去は、通常溶媒中でアルギニン残基をC末端又はN末端に有するペプチド断片に前記の酵素を作用させることにより行うことができる。かかる溶媒は特に限定されず、例えば、上述した工程(b)でタンパク質の切断の際に使用されるものと同じものを使用することができる。酵素の量は、酵素の種類によって適宜選択することができ、例えばカルボキシペプチダーゼ又はアミノペプチダーゼであれば、モル比で、試料の調製に用いたタンパク質1に対して、通常1倍〜1/1000倍であり、好ましくは1/10倍〜1/100倍である。反応条件は、酵素の種類により適宜選択することができる。例えば、ペプチド断片、及び酵素を含む溶媒のpHは通常6〜9であり、pH7〜8に調整することが好ましい。また、反応温度は、通常20〜50℃、好ましくは30〜40℃であり、反応時間は、通常0.5〜8時間、好ましくは1〜4時間とする。
アルギニン残基を改変するとは、通常、アルギニン残基の側鎖上のグアニジノ基を修飾して、アルギニン残基を他のアミノ酸残基に改変することを意味する。工程(c)においてアルギニン残基を改変する場合、工程(b)及び工程(c)を行う順番は特に限定されない。また、工程(b)で使用されるプロテアーゼの種類も特に限定されないが、工程(c)でアルギニン残基を改変した後、工程(b)を行う場合には、アルギニン残基を認識するプロテアーゼ(例えば、アルギニン残基のN末端又はC末端切断能を有するエンドプロテイナーゼ)以外のプロテアーゼを使用することが好ましい。
アルギニン残基を改変する方法は特に限定されず、公知の方法により行うことができる。例えば、アルギニン残基の側鎖上のグアニジノ基を脱イミン化することによりアルギニン残基をシトルリン残基に改変することができる。グアニジノ基の脱イミン化は、例えば、ペプチジルアルギニンデイミナーゼ等の酵素により行うことができる。また、グアニジノ基をヒドラジン分解することにより、アルギニン残基をオルニチン残基に改変することができる。
グアニジノ基の脱イミン化は、通常溶媒中でタンパク質又はペプチド断片に酵素(好ましくは、ペプチジルアルギニンデイミナーゼ)を作用させることにより行うことが好ましい。かかる溶媒は特に限定されず、例えば、上述した工程(b)でタンパク質の切断の際に使用されるものと同じものを使用することができる。酵素の使用量は、例えば、モル比で、試料の調製に用いたタンパク質1に対して、通常1倍〜1/10000倍であり、好ましくは1/10倍〜1/100倍である。反応条件は特に限定されず、酵素の種類により適宜選択することができる。例えば、タンパク質又はペプチド断片、及びペプチジルアルギニンデイミナーゼを含む溶媒のpHは通常6〜10であり、pH7〜9に調整することが好ましい。また、反応温度は、通常20〜50℃、好ましくは30〜40℃であり、反応時間は、通常2〜10時間、好ましくは4〜8時間とする。
グアニジノ基のヒドラジン分解は、通常溶媒中でタンパク質又はペプチド断片にヒドラジン水溶液等の試薬を作用させて行うことができる。かかる溶媒は特に限定されず、例えば、重炭酸ナトリウム水溶液を使用することができる。重炭酸ナトリウム水溶液の濃度は、通常1〜200mM、好ましくは50mM程度とすることができる。試薬の使用量は、例えば、モル比で、試料の調製に用いたタンパク質1に対して、通常10倍〜1000000倍であり、好ましくは100倍 〜100000倍である。反応条件は、適宜選択することができるが、例えば、タンパク質又はペプチド断片、及び試薬を含む溶媒のpHは通常8〜12であり、pH9〜11に調整することが好ましい。また、反応温度は、通常50〜80℃、好ましくは65〜75℃であり、反応時間は、通常1〜5時間、好ましくは2〜4時間とする。
工程(c)におけるアルギニン残基の除去又は改変は、カルボキシペプチダーゼを用いるアルギニン残基の除去、又はペプチジルアルギニンデイミナーゼを用いるグアニジノ基の脱イミン化若しくはグアニジノ基のヒドラジン分解によって行われることが好ましい。より好ましくは、カルボキシペプチダーゼを用いてアルギニン残基を除去する。
工程(c)においてアルギニン残基を除去又は改変することにより、得られるペプチド混合物試料を質量分析に供した場合に、該試料のイオン強度が全体的に低下するが、一方でラベル化されたペプチド断片は、該ラベル化によって選択的にイオン化される。この結果、ラベル化されたペプチド断片由来のイオンの強度が相対的に強くなり、顕著に検出されるようになる。
<その他の工程>
本発明の方法は、本発明の効果を損なわない限り、工程(a)〜(c)以外の工程を含んでもよい。
例えば、タンパク質のリジン残基を除去又は改変する工程(d)を含むことが好ましい。かかる工程(d)でリジン残基を除去又は改変することにより、リジン残基残基を有していたペプチド断片のプロトンアフィニティが大幅に低下し、質量分析におけるそのイオン強度が低下する。その結果、ラベル化されたペプチド断片のみがより相対的に強い強度でイオン化され、該ペプチド断片由来のイオンをより選択的に検出することが可能となる。
工程(d)において「タンパク質のリジン残基を除去又は改変する」とは、試料調製に用いたタンパク質中に存在したリジン残基を除去又は改変することをいい、これにより得られるペプチド混合物試料に含まれるペプチド断片は、リジン残基を含まないものとなる。
工程(d)に供される対象は、工程(a)〜(d)を行う順番によって異なることになるが、工程(b)で切断される前のタンパク質、及び該タンパク質を切断したペプチド断片である。また、タンパク質は、工程(a)によってラベル化されたものであってもよく、工程(c)によりアルギニン残基が除去又は改変されたものであってもよい。なお、標的アミノ酸残基がリジン残基である場合には、通常工程(d)は行わないことが好ましい。
工程(d)によりリジン残基を除去する場合には、工程(b)及び工程(c)を行った後、工程(d)を行うことが好ましく、工程(a)〜(d)をこの順に行うことがより好ましい。また、工程(b)において、例えば、アルギニン及びリジン残基のC末端又はN末端切断能を有するエンドプロテイナーゼを用いることが好ましく、アルギニン及びリジン残基のC末端切断能を有するエンドプロテイナーゼがより好ましく、トリプシンが特に好ましい。リジン残基を除去する方法は特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、リジン残基がペプチド断片のC末端に存在する場合には、リジン残基のN末端側でペプチド鎖を切断するメタロエンドペプチダーゼLysN等の酵素を用いてリジン残基を遊離させることができる。好ましくは、メタロエンドペプチダーゼLysNを用いる。
リジン残基の除去は、例えば、通常溶媒中でリジン残基をC末端又はN末端に有するペプチド断片に前記の酵素を作用させることにより行うことができる。かかる溶媒は特に限定されず、例えば、上述した工程(b)でタンパク質の切断の際に使用されるものと同じものを使用することができる。酵素の量は、酵素の種類によって適宜選択することができるが、例えば、モル比で、試料の調製に用いたタンパク質1に対して、通常1倍〜1/10000倍であり、好ましくは1/10倍〜1/1000倍である。反応条件は、酵素の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、ペプチド断片、及び酵素を含む溶媒のpHは通常6〜9であり、pH7〜8に調整することが好ましい。また、反応温度は、通常20〜60℃、好ましくは30〜40℃であり、反応時間は、通常0.5〜8時間、好ましくは1〜4時間とする。
リジン残基を改変する場合には、リジン残基の側鎖上のアミノ基を修飾して、リジン残基を他のアミノ酸残基に改変することが好ましい。工程(d)においてリジン残基を改変する場合、工程(a)〜(d)を行う順番は特に限定されない。また、工程(b)で使用されるプロテアーゼの種類も特に限定されないが、工程(d)でリジン残基を改変した後、工程(b)を行う場合には、リジン残基を認識するプロテアーゼ(例えば、リジン残基のN末端又はC末端切断能を有するプロテイナーゼ)以外のプロテアーゼを使用することが好ましい。
リジン残基を改変する方法は特に限定されず、公知の方法により行うことができる。例えば、リジン残基の側鎖上のアミノ基をグアニジノ化する等の方法により、リジン残基を、ホモアルギニン残基に改変することができる。
リジン残基の改変は、例えば、溶媒中でタンパク質又はペプチド断片にオルトメチルイソウレアを作用させることにより行うことができる。オルトメチルイソウレアの使用量は、例えば、モル比で、試料の調製に用いたタンパク質1に対して、通常1倍〜1000000倍であり、好ましくは100倍〜10000倍である。反応条件は、適宜選択することができるが、例えば、タンパク質又はペプチド断片、及びオルトメチルイソウレアを含む溶媒のpHは通常12〜14であり、pH13〜14に調整することが好ましい。また、反応温度は、通常50〜80℃、好ましくは60〜70℃であり、反応時間は、通常0.1〜1時間、好ましくは0.1〜0.5時間とする。
本発明の方法においては、上記の工程以外に、タンパク質の構造解析において通常行われる工程、例えば、タンパク質を変性剤(例えば、尿素、塩酸グアニジン)により変性させる工程、タンパク質中のジスルフィド結合を還元する工程、チオール基を保護する工程、限外ろ過による溶媒置換工程の1又は2以上を行うことができる。また、工程(a)で使用した未反応の修飾用試薬を除く工程等を適宜行うことができる。これらの操作は、常法により行うことができる。また、これらの工程を行う順番も当業者が適宜選択できるものである。例えば、タンパク質を変性させる工程、タンパク質中のジスルフィド結合を還元する工程、チオール基を保護する工程は、工程(a)〜(d)の前に行うことができる。また、例えば工程(a)〜(d)の1又は2以上を変性剤の存在下で行うことにより、工程(a)〜(d)の1又は2以上と変性工程を同時に行うこともできる。変性剤は、尿素を用いることが好ましく、尿素の濃度は通常0.1〜8M、好ましくは0.5〜2Mとすることができる。
本発明の方法により調製されるペプチド混合物試料においては、解析対象のラベル化されたペプチド断片が、質量分析で他のペプチド断片に比べて相対的に強い感度で検出されるため、質量分析に供する際に、解析対象のラベル化されたペプチド断片をその他のペプチド断片(非ラベル化ペプチド断片)から分離する工程を行わなくてもよい。
本発明の方法によりN末端ペプチド、C末端ペプチド、リジン残基、システイン残基の側鎖上のチオール基、又はリン酸基若しくはOグリカンが結合しているセリン又はスレオニン残基を解析するための質量分析用ペプチド混合物試料を調製する場合について、以下に例を挙げて説明する。
<N末端ペプチドを解析するための質量分析用ペプチド混合物試料の調製方法>
本発明の好ましい態様として、質量分析によりN末端ペプチドを解析するためのペプチド混合物試料の調製方法の一例を以下に記載する。N末端ペプチドを解析するためのペプチド混合物試料は、通常、ラベル化されたN末端ペプチド断片、及びその他のペプチド断片を含むものである。
N末端ペプチドを解析するためのペプチド混合物試料を調製する場合には、工程(a)、工程(b)及び工程(c)をこの順に行うことが好ましい。また、上述したようにリジン残基を除去又は改変する工程(d)を行うことが好ましい。工程(d)は、本発明の効果を損なわない限り、工程(a)〜(c)のいずれかの工程の前に行ってもよく、工程(a)〜(c)の後に行ってもよい。
工程(a)においては、タンパク質のN末端のαアミノ基を選択的にラベル化することが好ましい。このためには、通常、αアミノ基及びεアミノ基の存在下でαアミノ基のみを活性化することが必要である。αアミノ基の選択的な活性化は、通常、タンパク質を含む溶液のpHを7〜8とすることにより行うことができる。このpHでは、εアミノ基はプロトン化されており反応性がきわめて低い。このような条件で、αアミノ基を選択的にラベル化するための修飾試薬を反応させることが好ましい。αアミノ基を選択的にラベル化するための修飾用試薬として、上述した正電荷又は塩基性基を有し、かつαアミノ基の選択的修飾を可能とする官能基、例えば、N−スクシンイミジル基を有する化合物を用いることが好ましい。中でも、正電荷を有し、かつN−スクシンイミジル基を有する化合物が好ましく、TMPP及びN−スクシンイミジル基を有する化合物がより好ましい。具体的には、(N−スクシンイミジルオキシカルボニルメチル)トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウムブロミド等が挙げられる。
前記の修飾用試薬を用いたαアミノ基の選択的修飾方法は、特に限定されず、当業者が適宜決定することができるものである。例えば、Rapid Communications in Mass Spectrometry, Vol. 22, Issue 13, pages 2063-2072, 2008に記載の方法を参照してこの修飾を行うことができる。
例えば、モル比で、試料の調製に用いたタンパク質1に対して、修飾用試薬を通常1倍〜10000倍、好ましくは修飾用試薬を10倍〜1000倍使用する。反応条件は、修飾用試薬の種類により適宜選択することができる。例えば、タンパク質及び修飾用試薬を含む溶媒のpHは通常6〜9とすることができ、pH7〜8に調整することが好ましい。また、反応温度は、通常20〜50℃、好ましくは30〜40℃であり、反応時間は、通常0.1〜1時間、好ましくは0.2〜0.6時間とする。
次いで、工程(b)を行い、工程(a)で得られるN末端のαアミノ基がラベル化されたタンパク質を切断することができる。タンパク質の切断は、アルギニンのC末端切断能を有するエンドプロテイナーゼにより行われることが好ましい。工程(c)におけるアルギニン残基の除去又は改変は、カルボキシペプチダーゼを用いるアルギニン残基の除去、又はペプチジルアルギニンデイミナーゼを用いるグアニジノ基の脱イミン化若しくはグアニジノ基のヒドラジン分解によって行われることが好ましく、カルボキシペプチダーゼ(好ましくはカルボキシペプチダーゼB)を用いるアルギニン残基の除去により行うことがより好ましい。工程(b)、(c)及び(d)における反応条件等は、上述と同様である。
図1に、質量分析によりN末端ペプチドを解析する場合のペプチド混合物試料の調製方法の一例を模式的に示す。図1では、工程(a)における修飾用試薬としてTMPP化合物を使用している。また、図1では、TMPPでN末端をラベル化(修飾)したタンパク質をトリプシンにより切断し(工程(b))、生成するC末端がアルギニン残基であるペプチド断片にカルボキシペプチダーゼを作用させてアルギニン残基を除去している(工程(c))。得られるペプチド混合物試料を後述する質量分析に供すると、その他のペプチド断片由来のイオンに比べて、TMPPでラベル化されたN末端ペプチド由来のイオンが顕著に強い強度で検出されるため、該ペプチド由来のイオンを選択的に検出することができる。
<C末端ペプチドを解析するための質量分析用ペプチド混合物試料の調製方法>
質量分析によりC末端ペプチドを解析するためのペプチド混合物試料の調製方法の一例を以下に記載する。C末端ペプチドを解析するためのペプチド混合物試料は、通常、ラベル化されたC末端ペプチド断片、及びその他のペプチド断片を含むものである。
C末端ペプチドを解析するためのペプチド混合物試料を調製する場合には、工程(a)、工程(b)及び工程(c)をこの順に行うことが好ましい。また、上述したようにリジン残基を除去又は改変する工程(d)を行うことが好ましい。工程(d)は、本発明の効果を損なわない限り、工程(a)〜(c)のいずれかの工程の前に行ってもよく、工程(a)〜(c)の後に行ってもよい。
工程(a)においては、タンパク質のC末端のαカルボキシル基を選択的にラベル化することが好ましい。このためには、例えば、タンパク質のC末端におけるオキサゾロン環形成によりαカルボキシル基を選択的に活性化することが好ましい。オキサゾロン環形成のための試薬としては、例えば、酸無水物が挙げられ、具体的には、無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水安息香酸、オルトスルホ安息香酸無水物、無水プロピオン酸が挙げられる。このような試薬によりオキサゾロン環を形成させ、次いでαカルボキシル基をラベル化するための修飾用試薬を反応させることが好ましい。活性化されたαカルボキシル基をラベル化するための修飾用試薬として、上述した正電荷又は塩基性基を有し、かつαカルボキシル基の選択的修飾を可能とする官能基、例えば、アミノ基を有する化合物を用いることが好ましい。中でも、正電荷を有する基を有し、かつアミノ基を有する化合物が好ましく、TMPP及びアミノ基を有する化合物がより好ましい。具体的には、(アミノプロピル)トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウムブロミド等が挙げられる。
前記の修飾用試薬を用いたαカルボキシル基の選択的修飾方法は、特に限定されず、当業者が適宜決定することができるものである。例えば、Anal Bioanal Chem, 2012, Vol. 404, pp. 125-132に記載の方法を参照してこの修飾を行うことができる。
例えば、モル比で、試料の調製に用いたタンパク質1に対して、修飾用試薬を通常1倍〜100000倍、好ましくは10倍〜10000倍使用する。反応条件は、例えば、タンパク質及び修飾用試薬を含む溶媒のpHを通常8〜12とすることができ、pH9〜11に調整することが好ましい。また、反応温度は、通常40〜80℃、好ましくは55〜65℃であり、反応時間は、通常0.2〜4時間、好ましくは0.5〜2時間とする。
次いで、工程(b)を行い、工程(a)で得られるC末端のαカルボキシル基がラベル化されたタンパク質を切断することができる。タンパク質の切断は、アルギニンのC末端切断能を有するエンドプロテイナーゼにより行われることが好ましい。工程(c)におけるアルギニン残基の除去又は改変の好ましい態様は、上述したN末端ペプチドを解析するための質量分析用ペプチド混合物試料の調製方法におけるものと同じである。工程(b)、(c)及び(d)における反応条件等は、上述と同様である。
<リジン残基を解析するための質量分析用ペプチド混合物試料の調製方法>
質量分析によりタンパク質中のリジン残基を解析するためのペプチド混合物試料の調製方法の一例を以下に記載する。タンパク質中のリジン残基を解析するためのペプチド混合物試料は、通常、リジン残基の側鎖上のアミノ基(εアミノ基)がラベル化されたペプチド断片、及びその他のペプチド断片を含むものである。
工程(a)〜(c)を行う順番は特に限定されない。前記のリジン残基を除去又は改変する工程(d)は行わないことが好ましい
工程(a)においては、リジン残基の側鎖上のεアミノ基を選択的にラベル化することが好ましい。リジン残基の側鎖上のεアミノ基を選択的にラベル化するための修飾用試薬として、上述した正電荷又は塩基性基を有し、かつεアミノ基の選択的修飾を可能とする官能基、例えば、ピリリウムを有する化合物を用いることが好ましい。中でも、ピリリウムを有する化合物が好ましく、具体的には、2,4,6−トリメチルピリリウムテトラフルオロボラート等が挙げられる
前記の修飾用試薬を用いたリジン残基の側鎖上のεアミノ基の選択的修飾方法は、特に限定されず、当業者が適宜決定することができるものである。例えば、市販されているリジン残基を特異的に標識する試薬(例えば、商品名Py−Tag for PROTEINS、大陽日酸社製)を使用することができ、該試薬に添付されている取扱説明書を参照してこの修飾を行うことができる。
例えば、モル比で、試料の調製に用いたタンパク質1に対して、修飾用試薬を通常1倍〜10000倍、好ましくは10倍〜1000倍使用する。反応条件は、例えば、タンパク質及び修飾用試薬を含む溶媒のpHを通常6〜10とすることができ、pH7〜9に調整することが好ましい。また、反応温度は、通常20〜60℃、好ましくは20〜50℃であり、反応時間は、通常0.1〜5時間、好ましくは0.2〜4時間とする。
工程(b)及び(c)における反応条件等は、上述と同様である。
<システイン残基を解析するための質量分析用ペプチド混合物試料の調製方法>
質量分析によりタンパク質中のシステイン残基を解析するためのペプチド混合物試料の調製方法の一例を以下に記載する。タンパク質中のシステイン残基を解析するためのペプチド混合物試料は、通常、システイン残基の側鎖上のチオール基がラベル化されたペプチド断片、及びその他のペプチド断片を含むものである。
工程(a)〜(c)を行う順番は特に限定されないが、上述したように、工程(c)においてアルギニン残基を除去する場合には、工程(b)を行った後、工程(c)を行うことが好ましく、工程(a)〜(c)をこの順番に行うことが好ましい。また、上述したようにリジン残基を除去又は改変する工程(d)を行うことが好ましい。工程(d)は、本発明の効果を損なわない限り、工程(a)〜(c)のいずれかの工程の前に行ってもよく、工程(a)〜(c)の後に行ってもよい。
工程(a)においては、システインの側鎖上のチオール基を選択的にラベル化することが好ましい。チオール基を選択的にラベル化する場合には、工程(a)を行う前に、タンパク質中のジスルフィド結合を還元し、チオール基とすることが好ましい。チオール基を選択的にラベル化するための修飾用試薬として、上述した正電荷又は塩基性基を有し、かつチオール基の選択的修飾を可能とする官能基、例えば、ヨードアセチル基を有する化合物を用いることが好ましい。中でも、正電荷を有し、かつヨードアセチル基を有する化合物が好ましく、具体的には、8−ヨードアセトキシ3,6−ジオキソアルキルトリメチルアンモニウム等が挙げられる。
前記の修飾用試薬を用いたシステイン残基の側鎖上のチオール基の選択的修飾方法は、特に限定されず、当業者が適宜決定することができるものである。例えば、Shimada et al., Analytical Biochemistry, Vol. 421, Issue 2, 15 February 2012, Pages 785-787に記載の方法を参照してこの修飾を行うことができる。
例えば、モル比で、試料の調製に用いたタンパク質1に対して、修飾用試薬を通常1倍〜100000倍、好ましくは10倍〜1000倍使用する。反応条件は、例えば、タンパク質及び修飾用試薬を含む溶媒のpHを通常6〜9とすることができ、pH7〜8に調整することが好ましい。また、反応温度は、通常0〜60℃、好ましくは20〜40℃であり、反応時間は、通常0.1〜1時間、好ましくは0.2〜0.5時間とする。
工程(b)、(c)及び(d)における反応条件等は、上述と同様である。
図2に、質量分析によりシステイン残基を解析する場合のペプチド混合物試料の調製方法の一例として、工程(a)〜(c)をこの順に行う場合を模式的に示す。図2中の「Label」の記載は、正電荷を有する基を示す。図2に示す方法では、タンパク質のジスルフィド結合(S−S結合)を還元した後、工程(a)によりシステイン残基の側鎖上のチオール基をラベル化し、次いでラベル化されたタンパク質をトリプシンにより切断し(工程(b))、生成するC末端がアルギニン残基であるペプチド断片にカルボキシペプチダーゼを作用させてアルギニン残基を除去している(工程(c))。得られるペプチド混合物試料を後述する質量分析に供すると、その他のペプチド断片由来のイオンに比べて、ラベル化されたシステイン残基を含むペプチド由来のイオンが顕著に強い強度で検出されるため、該ペプチド由来のイオンを選択的に検出することができる。
<リン酸化部位又は糖鎖結合部位を解析するための質量分析用ペプチド混合物試料の調製方法>
質量分析によりタンパク質のリン酸化部位又は糖鎖(Oグリカン)結合部位を解析するためのペプチド混合物試料の調製方法の一例を以下に記載する。リン酸化部位を解析するためのペプチド混合物試料は、通常、リン酸基が結合していたセリン又はスレオニン残基の側鎖がラベル化されたペプチド断片、及びその他のペプチド断片を含む。Oグリカン結合部位を解析するためのペプチド混合物試料は、通常、Oグリカンが結合していたセリン又はスレオニン残基の側鎖がラベル化されたペプチド断片、及びその他のペプチド断片を含む。
工程(a)〜(c)を行う順番は特に限定されない。例えば、上述したように工程(c)においてアルギニン残基を除去する場合には、工程(b)を行った後、工程(c)を行うことが好ましい。また、上述したようにリジン残基を除去又は改変する工程(d)を行うことが好ましい。工程(d)は、本発明の効果を損なわない限り、工程(a)〜(c)のいずれかの工程の前に行ってもよく、工程(a)〜(c)の後に行ってもよい。
工程(a)においては、リン酸基若しくはOグリカンが結合しているセリン又はスレオニン残基の側鎖を選択的にラベル化することが好ましい。リン酸基若しくはOグリカンが結合しているセリン又はスレオニン残基の側鎖を選択的にラベル化する方法は特に限定されないが、例えば、まずリン酸基又はOグリカンをβ脱離により脱離させてリン酸化部位又はOグリカン結合部位に二重結合を形成させ、次いで該二重結合に対するマイケル付加反応を行うにより、該セリン又はスレオニン残基の側鎖を選択的にラベル化することができる。
β脱離の反応条件等は特に限定されず、当業者が適宜決定することができるものである。例えば、タンパク質又はペプチド断片を含む溶媒のpHを通常13〜15とすることができ、pH13.5〜14に調整することが好ましい。また、反応温度は、通常20〜50℃、好ましくは30〜40℃であり、反応時間は、通常0.5〜4時間、好ましくは1〜3時間とする。
マイケル付加に用いる修飾用試薬は特に限定されず、上述した正電荷又は塩基性基(好ましくは塩基性基、より好ましくは三級アミノ基)を有し、かつ求核基を有する化合物を用いることができる。求核基として、例えばチオール基が挙げられる。具体的な修飾用試薬として、例えば、2−ジメチルアミノエタンチオールが挙げられる。
前記の修飾用試薬を用いたマイケル付加反応の反応条件等は、特に限定されず、当業者が適宜決定することができるものである。
例えば、モル比で、試料調製に用いたタンパク質1に対して、修飾用試薬を通常1倍〜1000000倍、好ましくは100倍〜10000倍使用する。反応条件は、例えば、タンパク質及び修飾用試薬を含む溶媒のpHを通常1〜14とすることができ、pH7〜14に調整することが好ましい。また、反応温度は、通常20〜50℃、好ましくは30〜40℃であり、反応時間は、通常0.5〜4時間、好ましくは1〜3時間とする。
工程(b)、工程(c)及び工程(d)における反応条件等は、上述と同様である。
質量分析によりリン酸化部位を解析する場合のペプチド混合物試料の調製方法の一例として、工程(b)、工程(a)及び工程(c)の順に操作を行う場合の例を、図3に模式的に示す。また、Oグリカン結合部位を解析する場合のペプチド混合物試料の調製方法の一例として、工程(b)、工程(a)及び工程(c)の順に操作を行う場合の例を、図4に模式的に示す。図3及び図4においては、タンパク質又はペプチド断片中の側鎖がリン酸化されているスレオニン残基(図3)、又はOグリカンが結合しているスレオニン残基(図4)を、模式的に「T」と示している。例えば図3中では、スレオニン残基(T)の側鎖に結合しているリン酸基を、「P」で表している。図3及び図4に示す方法では、まずタンパク質をトリプシンにより切断して(工程(b))、C末端がアルギニン残基又はリジン残基であるペプチド断片の混合物を得、該ペプチド断片からリン酸基又はOグリカンをβ脱離させて二重結合を形成させた後、該二重結合に修飾用試薬を作用させてマイケル付加によりスレオニン残基の側鎖をラベル化し(工程(a))、次いでペプチド断片にカルボキシペプチダーゼBを作用させてC末端のアルギニン残基を除去している(工程(c))。得られるペプチド混合物試料を後述する質量分析に供すると、その他のペプチド断片由来のイオンに比べて、ラベル化されたスレオニン残基を含むペプチド断片由来のイオンが顕著に強い強度で検出されるため、該ペプチド由来のイオンを選択的に検出することができる。図3及び4では、スレオニン残基の側鎖にリン酸基又はOグリカンが結合している場合を例として示しているが、セリン残基の側鎖にリン酸基又はOグリカンが結合している場合についても、同様の方法で試料を調製することができる。
<質量分析>
上記の方法によって得られたペプチド混合物試料は、質量分析に供される。
本発明は、前記の方法により調製されるペプチド混合物試料を質量分析に供し、ラベル化されたペプチド断片に由来するイオンを検出する工程を含む、ラベル化されたペプチド断片の選択的検出方法も包含する。
上記の方法で調製されたペプチド混合物試料は、解析対象のラベル化されたペプチド断片及びその他のペプチド断片を含むが、解析対象のペプチド断片には、解析対象のペプチド断片の質量分析における検出感度を向上させる効果を有する修飾基(例えば、正電荷を有する基又は塩基性基)が結合している。
例えば、工程(a)においてTMPPを有する修飾用試薬を用いた場合には、解析対象のペプチド断片には強い正電荷を有するTMPPが結合していることになる。さらに、ペプチド混合物試料中にはアルギニン残基が存在しない。このため本発明によれば、解析対象のペプチド断片を質量分析において選択的にイオン化することが可能となる。
前記検出工程においては、ペプチド混合物試料をイオン化し、生成したイオンの中からイオン強度が相対的に高いイオンをラベル化されたペプチド断片に由来するイオンとして検出することができる。また、本発明においては、ペプチド混合物試料をイオン化し、生成したイオンの中からイオン強度が最も高いイオンをラベル化されたペプチド断片に由来するイオンとして選択することが好ましい。本発明においては、通常、前記で選択されたイオン強度が最も高いイオンを、ラベル化されたペプチド断片に由来するイオンとして検出することができる。このような質量分析の工程を、「第一の質量分析工程」ともいう。
質量分析におけるイオン化法としては、具体的には、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization; MALDI)法、エレクトロスプレーイオン化(Electrospray ionization; ESI)法等が挙げられる。好ましくは、MALDI法によりイオン化を行う。
質量分析は、MALDI法を利用した質量分析装置による質量分析(MALDI−MS)により行われることが好ましい。MALDI−MSは、マトリックスにペプチド混合物試料を混合して、公知の方法により行うことができる。測定モードは、ラベル化に用いた修飾用試薬が有する修飾基により選択することができる。正電荷又は塩基性基を有する修飾用試薬を用いた場合には、ポジティブモードとすることが好ましい。マトリックスは特に限定されず、例えば、α−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸(CHCA)、2,4,6−トリヒドロキシアセトフェノン、2,5−ジヒドロキシ安息香酸等を使用することができる。
本発明においては、該ペプチド混合物試料をMS/MS分析に供することが好ましく、これにより、前記で検出又は選択されたイオンが解析対象のペプチド断片に由来するイオンであることを確認することができる。また、MS/MS分析を行うことにより、後述するように解析対象のペプチド断片のアミノ酸配列を決定することができる。
より具体的には、第一の質量分析工程で選択(検出)したイオンをフラグメントイオンに解離させてさらに質量分析に供し、フラグメントイオンスペクトルを取得することが好ましい。このような質量分析の工程を、「第二の質量分析工程」ともいう。前記フラグメントイオンスペクトルにおいてラベル化に用いた修飾用試薬に対応するm/z値を有するレポーターイオンの存在を検出することにより、該選択(検出)したイオンがラベル化されたペプチド断片に由来するイオンであることを確認することができる。
レポーターイオンのm/z値は、修飾用試薬に応じて異なるが、例えば、TMPPを有する修飾用試薬を用いた場合には、TMPP特有のピーク(573Da)が出現する。従って、MS/MSに供したプリカーサーイオンがラベル化されたペプチド由来のイオンであることを容易に確認することができる。
前記質量分析(好ましくはMALDI−MS/MS)におけるイオンの解離方法(開裂操作方法)としては、ポストソース型を採用することができる。イオン化法に応じて当業者によって適宜選択されるが、より具体的には、ポストソース分解(Post Source Decay; PSD)によるもの、衝突誘起解離(Collision Induced Dissociation; CID)、赤外多光子解離(IRMPD)、及び光誘起解離(UV−PD)のいずれかによるものが挙げられる。特に、ポストソース分解によるものが好ましい。
例えば、前述した第一の質量分析工程、及び第二の質量分析工程を行うことにより、ラベル化されたペプチド断片のアミノ酸配列を決定することができる。
本発明は、前記方法により調製されるペプチド混合物試料を質量分析に供し、ラベル化されたペプチド断片に由来するイオンを検出する工程、及び該ラベル化されたペプチド断片のアミノ酸配列を決定する工程を含む、ラベル化されたペプチド断片のアミノ酸配列決定方法も包含する。
検出工程の好ましい態様等は、上述した通りである。前記第一の質量分析工程において検出した解析対象のペプチド断片由来のイオンをプリカーサーイオンとしてMS/MS解析に供すると、フラグメントイオンを検出することができるため、その配列を決定することができる。また、アミノ酸配列の決定に用いるMS/MS解析方法としては、ESI法を利用した質量分析装置によるMS/MS解析、MALDI−TOF型質量分析装置によるPSD解析、CID解析等の方法から当業者が適宜選択することができ、好ましくはPSD解析を用いる。
上述のように、本発明では、解析対象のペプチド断片が質量分析において検出感度を向上させる効果を有する修飾基等で修飾されていることと、ペプチド断片からアルギニン残基を除去又は改変することによって、質量分析において解析対象のラベル化されたペプチド断片由来のイオンのピークを他のペプチド断片由来のイオンのピークと明確に区別することができる。このため、タンパク質から質量分析用の試料を調製する際に、ペプチド混合物から解析すべきペプチド断片を分離精製する必要がなく、解析すべきペプチド断片とその他のペプチド断片との混合物を質量分析に供することができる。さらに、質量分析で検出した解析対象のペプチド断片由来のイオンをプリカーサーイオンとしてMS/MS解析に供すると、フラグメントイオンを検出することができるため、その配列を決定することができる。例えばタンパク質の配列が未知である場合は、de novoシーケンシングを実行してアミノ酸配列を決定することができる。
本発明は、質量分析によるタンパク質の構造解析において有用であり、例えば、プロテオミクスにおける末端配列解析、医薬品等に用いるタンパク質(組換えタンパク質)の品質管理、リン酸化ペプチドのショットガンプロテオミクス、Oグリカン結合ペプチドのショットガンプロテオミクス等に利用することができる。
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら制限されるものではない。
<実施例1>
1.試薬
アセトニトリル、及び重炭酸ナトリウムは和光純薬社製のものを使用した。α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(CHCA)は、島津GLC社製のものを使用した。メチレンジホスホン酸(MDPNA)、トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、ヨードアセトアミド、(N−スクシンイミジルオキシカルボニルメチル)トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウムブロミド(実施例中、「TMPP」という)、ウシ血清アルブミン(BSA)、及びトリオースリン酸イソメラーゼ(TPIS)(ウサギ由来)は、シグマ・アルドリッチ社製のものを使用した。トリプシンは、プロメガ社より購入した。メタロプロテイナーゼLys−N(以下、単に「Lys−N」という)はU-Protein Express BV社(ユトレヒト、オランダ)のものを使用した。カルボキシペプチダーゼBは、Worthington Biomedical Corp.より購入した。SDS−PAGEには、インビトロジェン社のNu−PAGE(登録商標)キットを使用した(Life technologies)。CBB染色液は、ナカライテスク社より購入した。
BSA、及びTPISの各タンパク質について、以下の処理を行った。
2.タンパク質の還元アルキル化
タンパク質100pmol(BSAの場合には、7μg、TPISの場合には、2.7μg)を、100μLの78mM NaHCO/1.2M 尿素溶液に溶解させた。これに1μLの0.1M TCEP溶液を添加して、37℃で1時間反応させた。この溶液に2.7μLの0.55M ヨードアセトアミド溶液を添加し、暗所条件で15分間反応させた。
3.タンパク質N末端のTMPPラベル化
還元アルキル化を行ったタンパク質の混合物に対して、200mM TMPP溶液を1μL添加した。この溶液に対し5分間超音波処理を行った後、50℃で30分間反応させてN末端のαアミノ基をTMPPで修飾した。反応させた溶液について、下記の4.に記載の方法でSDS−PAGEによりTMPPの未反応物などの不純物を除去した後、酵素処理を行った。
4.SDS−PAGEによる残存試薬の除去
上記の3.で得られたTMPPでラベル化したタンパク質の溶液にSample bufferと還元剤(1M DTT)溶液を加えて混合し、70℃で10分間反応させた。このサンプルを遠心処理した後、ビスアクリルアミドゲルに搭載してMOPSバッファー(50mM MOPS、2.5mM Tris−base、0.1% SDS、及び1mM EDTA)を用いて50分間電気泳動を行った。泳動を行ったゲルをCBB染色でバンドを確認した後、ゲルを切り出した。切り出したゲルについて脱色液(50mM NaHCO、50% アクリルアミド溶液)で脱染色処理を行った後、In−gelで酵素消化を行った。
5.タンパク質のトリプシン消化及びカルボキシペプチダーゼB消化、並びにLysN消化
SDS−PAGEによる精製を行ったタンパク質に対し、トリプシンを添加して37℃で一晩反応させた。ゲルから消化物ペプチドを回収した後、次にこの溶液にカルボキシペプチダーゼB溶液を添加し、37℃で1時間再び反応させた。さらにこの溶液にLysN溶液を添加し、1時間反応させた。反応させた溶液について、Zip−Tip(登録商標、ミリポア社製)を用いて脱塩処理を行って、サンプル溶液とした。このサンプル溶液を、後述するマトリックス溶液と混合してMALDI−MS解析を行った。
5.質量分析
CHCAを、0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)と10mg/mL MDPNAとを含む50%アセトニトリル溶液に、2mg/mLの濃度になるように溶解しマトリックス溶液とした。サンプル溶液0.5μLとマトリックス溶液0.5μLとをMALDIプレート上で混合し、自然乾燥させた。サンプルプレートには、μFocus MALDIプレート(μfocus MALDI plate(登録商標) 700μm、Hudson Surface Technology)を使用した。ラベル化ペプチドのMS及びMS/MSスペクトルの計測には、MALDI−QIT−TOF MS(AXIMA−Resonance、Shimadzu/Kratos、UK)のPositiveモードを使用した。
6.結果
上述したように、BSA及びTPISのN末端をTMPPでラベル化した後、1)トリプシンによる断片化、2)カルボキシペプチダーゼBによるアルギニン残基とリジン残基の除去、3)切れ残ったリジン残基のLysNによる除去を行った。1)の操作、1)及び2)の操作、1)〜3)の操作を行って得られた各ペプチド混合物のMALDI−MSスペクトルを、図5に示す。
TMPPでラベル化したペプチドについては、アルギニン残基が含まれる場合、MS/MSでのフラグメントイオンが出現しなくなる問題が報告されている(Anal. Chem., 2005, 77 (7), pp 2085-2096)。そこで、サンプルについてトリプシン消化を行った。トリプシン消化を行うと、得られるペプチド消化物に含まれるペプチド断片は、C末端にアルギニン残基又はリジン残基を有するものとなる。トリプシン消化によって得られるN末端ペプチド断片の配列は、BSAの場合はAsp-Thr-His-Lys(配列番号1)であり、TPISの場合はAla-Pro-Ser-Arg(配列番号2)である。このサンプルに対するMALDI−MSスペクトルでは、TMPPでラベル化されたペプチドが優位に検出されているが、他のペプチドも同程度の強度で出現しており識別はやや困難であった(図5の(a)及び(d))。次に、カルボキシペプチダーゼBを用いて、ペプチド断片のC末端のアルギニン残基の除去を行ったところ、TMPPでラベル化したペプチド断片が相対的に強く検出されるようになった(図5の(b)及び(e)、特に図5の(e))。図5の(a)〜(f)中、矢印で示すピークが、TMPPでラベル化されたN末端ペプチド由来のイオンのピークである。矢印で示すピークについてさらにMS/MS分析を行い、決定したTMPPラベル化ペプチドのアミノ酸配列(一文字表記)も、図5の(a)〜(f)中に示す。
さらに、検出したTMPPでラベル化したペプチド断片のMS/MSスペクトルを取得すると、カルボキシペプチダーゼB処理前のサンプル、すなわちTMPPでラベル化されたTPISのN末端断片がアルギニン残基を有する場合(Ala-Pro-Ser-Arg(配列番号2))には、ペプチド断片のフラグメントイオンがほとんど出現しなかった(図6の(a))。
一方、カルボキシペプチダーゼB処理によりペプチド断片からアルギニン残基を除去することで(アルギニン除去後のアミノ酸配列:Ala-Pro-Ser)、本来のTMPPラベル化ペプチドで出現するピークが検出されるようになり、より多くのイオン種が確認された(図6の(b))。
図6の(a)及び(b)中に示されるアミノ酸配列(一文字表記)は、MS/MS分析に供したTMPPでラベル化したペプチド断片のアミノ酸配列である。
また、リジン残基はカルボキシペプチダーゼBではあまり除去されていない傾向が見られている。これはカルボキシペプチダーゼBによるリジン残基への反応が遅いためであることが推測され、先行文献(Anal. Chem., 2007, 79 (4), pp 1583-1590)でもリジン残基の残ったペプチドが検出されている。そこで、カルボキシペプチダーゼB処理の後にLysNによってリジン残基のN末端側で切断する工程を加えると、ペプチド鎖からアルギニン残基及びリジン残基が除去され、ラベル化したペプチドをより選択的に検出できた(図5の(c)及び(f))。
末端配列の解析において、1)TMPPで末端をラベル化し、2)トリプシン消化、3)カルボキシペプチダーゼB消化を行い、4)MALDI−MS解析を行うと、様々なN末端又はC末端ペプチドの、MALDI−MS及びMALDI−MS/MS解析において有効なアプローチとなることが示された。また、このような方法によれば、ラベル化したペプチド断片を選択的にイオン化することができるため、末端ペプチド以外にも、システイン残基に対するラベル化、リン酸又はO−グリカンが結合しているセリン又はスレオニン残基から該リン酸又はO−グリカンを脱離させることによって生じる二重結合に対するマイケル付加反応によるラベル化等の、ペプチドに対する様々なラベル化反応にも適用可能である。
以下に、本発明の実施態様の例を示す。なお、本発明は、これらの各実施態様に何ら限定されるものではなく、請求項に記載される範囲で種々の変更が可能である。
<例1>
<N末端解析プロトコール>
タンパク質に、100mM NaHCO溶液16μLと8M 尿素溶液3μLを添加し溶解させる。ここに100mM TCEP溶液を2μL添加して、37℃で1時間反応させる。この後100mM ヨードアセトアミド溶液を2μL添加し、室温で1時間反応させる。この溶液に氷冷したアセトンを100μL添加した後、氷中で1時間沈殿させる。1時間後にアセトンを取り除き、再び100μLのアセトンを加えて再び1時間沈殿させる。この溶液に対して遠心分離をしてから溶液を除去した後、遠心エバポレーターを用いてアセトンを完全に除去する。ここに10mM (N−スクシンイミジルオキシカルボニルメチル)トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウムブロミド(TMPP−Ac−OSu)溶液(20%アセトニトリル/水)を20μL添加した後、超音波処理を5分間行った後、55℃で30分間反応させる。この反応液に氷冷したアセトンを再び100μL添加し、1時間沈殿させた後にアセトンを除去し、再度100μLのアセトンを加えて1時間沈殿させる。この溶液に対して遠心分離をしてから溶液を除去した後、遠心エバポレーターを用いてアセトンを完全に除去した後、100mM NaHCO溶液を20μL添加する。ここに1pmolのトリプシンを添加した後、37℃で一晩反応させる。ここにさらに1pmolのカルボキシペプチダーゼB溶液を添加して37℃で1時間反応させる。この溶液を10倍希釈した後、CHCAとMDPNAの等量溶液と混合し、MALDI−TOF MSを用いた解析を実施する。
<例2>
<C末端解析プロトコール>
タンパク質に、100mM NaHCO溶液16μLと8M 尿素溶液3μLを添加し溶解させる。ここに100mM TCEP溶液を2μL添加して、37℃で1時間反応させる。この後100mM ヨードアセトアミド溶液を2μL添加し、室温で1時間反応させる。この溶液に氷冷したアセトンを100μL添加した後、氷中で1時間沈殿させる。1時間後にアセトンを取り除き、再び100μLのアセトンを加えて再び1時間沈殿させる。この溶液に対して遠心分離をしてから溶液を除去した後、遠心エバポレーターを用いてアセトンを完全に除去する。この乾燥したサンプルにギ酸・無水酢酸・2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール(Pfp−OH)の混合溶液(1:1:1)を12μL添加する。このサンプルを遠心エバポレーター内部で60℃で20分間反応させる。この手順を2回繰り返した後、トルエン・Pfp−OH混合溶液(5:2)を14μL添加し、遠心エバポレーターによる溶媒除去を行う。乾燥したサンプルに、1umol/μLのTMPP−プロピルアミンを2μLと、トリエチルアミン・メタノール混合溶液(1:1)を4μL添加する。この溶液に対して5分間超音波処理を行った後、60℃で1時間反応させる。この混合液を、遠心エバポレーターを用いて溶媒除去を行った後、10μLのMilliQ水に溶解する。この反応液に氷冷したアセトンを再び100μL添加し、1時間沈殿させた後にアセトンを除去し、再度100μLのアセトンを加えて1時間沈殿させる。遠心分離を行った後にアセトンを再び除去して遠心エバポレーターを用いてアセトンを完全に除去した後、100mM NaHCO溶液を20μL添加する。ここに1pmolのトリプシンを添加した後、37℃で一晩反応させる。ここにさらに1pmolのカルボキシペプチダーゼB溶液を添加して37℃で1時間反応させる。この溶液を10倍希釈した後、CHCAとMDPNAの等量溶液と混合し、MALDI−TOF MSを用いた解析を実施する。
<例3>
<システイン解析プロトコール>
タンパク質に、100mM NaHCO溶液16μLと8M 尿素溶液3μLを添加し溶解させる。ここに100mM TCEP溶液を2μL添加して、37℃で1時間反応させる。この後100mM TE−IAA(3−ヨードアセトアミドプロピルトリエチルアンモニウムヨージド)溶液を2μL添加し、室温で1時間反応させる。この溶液に氷冷したアセトンを100μL添加した後、氷中で1時間沈殿させる。1時間後にアセトンを取り除き、再び100μLのアセトンを加えて再び1時間沈殿させる。この溶液に対して遠心分離をしてから溶液を除去した後、遠心エバポレーターを用いてアセトンを完全に除去する。このサンプルに100mM NaHCO溶液を20μL添加する。ここに1pmolのトリプシンを添加した後、37℃で一晩反応させる。ここにさらに1pmolのカルボキシペプチダーゼB溶液を添加して37℃で1時間反応させる。この溶液を10倍希釈した後、CHCAとMDPNAの等量溶液と混合し、MALDI−TOF MSを用いた解析を実施する。
<例4>
<リン酸化解析プロトコール>
タンパク質に、100mM NaHCO溶液16μLと8M 尿素溶液3μLを添加し溶解させる。ここに100mM TCEP溶液を2μL添加して、37℃で1時間反応させる。この後100mMヨードアセトアミド溶液を2μL添加し、室温で1時間反応させる。この溶液に氷冷したアセトンを100μL添加した後、氷中で1時間沈殿させる。1時間後にアセトンを取り除き、再び100μLのアセトンを加えて再び1時間沈殿させる。この溶液に対して遠心分離をしてから溶液を除去した後、遠心エバポレーターを用いてアセトンを完全に除去する。このサンプルを100mM NaHCO溶液を20μL添加する。ここに1pmolのトリプシンを添加した後、37℃で一晩反応させる。ここにさらに1pmolのカルボキシペプチダーゼB溶液を添加して37℃で1時間反応させる。この反応液を、遠心エバポレーターを用いて溶媒を除去した後、Ba(OH)飽和溶液を20μL添加する。さらに200mMのN−(2−メルカプトエチル)−6−メチルニコチンアミド溶液(50%アセトニトリル/水)を20μL添加して、37℃で2時間反応させる。反応後は10% TFA水溶液を10μL添加した後、MilliQ水を150μL添加する。この溶液をZip−Tip(登録商標、ミリポア社製)で脱塩処理を行った後、CHCAとMDPNAの等量溶液と混合し、MALDI−TOF MSを用いた解析を実施する。
<例5>
<Oグリカン結合ペプチド解析プロトコール>
タンパク質を100mM NaHCO溶液16μLと8M 尿素溶液3μLを添加し溶解させる。ここに100mM TCEP溶液を2μL添加して、37℃で1時間反応させる。この後100mMヨードアセトアミド溶液を2μL添加し、室温で1時間反応させる。この溶液に氷冷したアセトンを100μL添加した後、氷中で1時間沈殿させる。1時間後にアセトンを取り除き、再び100μLのアセトンを加えて再び1時間沈殿させる。この溶液に対して遠心分離をしてから溶液を除去した後、遠心エバポレーターを用いてアセトンを完全に除去する。このサンプルを100mM NaHCO溶液を20μL添加する。ここに1pmolのトリプシンを添加した後、37℃で一晩反応させる。ここにさらに1pmolのカルボキシペプチダーゼB溶液を添加して37℃で1時間反応させる。この反応液を、遠心エバポレーターを用いて溶媒を除去した後、1% トリエチルアミン、0.1% NaOH、20% エタノール混合溶液20μLを添加する。さらに200mMのN−(2−メルカプトエチル)−6−メチルニコチンアミド溶液(50%アセトニトリル/水)を20μL添加して、50℃で2.5時間反応させる。反応後は10% TFA水溶液を10μL添加した後、MilliQ水を150μL添加する。この溶液をZip−Tip(登録商標、ミリポア社製)で脱塩処理を行った後、CHCAとMDPNAの等量溶液と混合し、MALDI−TOF MSを用いた解析を実施する。
本発明は、質量分析によるタンパク質の構造解析において有用である。本発明は、例えば、プロテオミクスにおける末端配列解析、タンパク質医薬品等における末端配列の品質管理、リン酸化ペプチドのショットガンプロテオミクス、Oグリカン結合ペプチドのショットガンプロテオミクス等に使用することができる。

Claims (15)

  1. タンパク質から質量分析に供するペプチド混合物試料を調製するための方法であって、
    (a)該タンパク質の標的アミノ酸残基を修飾用試薬によって選択的にラベル化する工程、
    (b)該タンパク質をペプチド断片に切断する工程、及び
    (c)該タンパク質のアルギニン残基を除去又は改変する工程
    を含むことを特徴とする、ラベル化されたペプチド断片と、その他のペプチド断片とを含むペプチド混合物試料を調製する方法。
  2. 前記修飾用試薬が、正電荷を有する化合物又は塩基性基を有する化合物である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記正電荷を有する化合物が、第四級ホスホニウム化合物又は第四級アンモニウム化合物である、請求項2に記載の方法。
  4. 前記第四級ホスホニウムが、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウムである、請求項3に記載の方法。
  5. 前記塩基性基が、第三級アミノ基、イミダゾール基又はグアニジノ基である、請求項2に記載の方法。
  6. 工程(b)におけるタンパク質の切断が、アルギニンのC末端切断能を有するエンドプロテイナーゼにより行われる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
  7. 工程(c)におけるアルギニン残基の除去又は改変が、カルボキシペプチダーゼを用いるアルギニン残基の除去、又はペプチジルアルギニンデイミナーゼを用いるグアニジノ基の脱イミン化若しくはグアニジノ基のヒドラジン分解によって行われる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
  8. 工程(a)における標的アミノ酸残基のラベル化が、N末端のαアミノ基、C末端のαカルボキシル基、リジン残基の側鎖上のアミノ基、システイン残基の側鎖上のチオール基、又はリン酸基若しくはOグリカンが結合しているセリン又はスレオニン残基の側鎖のラベル化である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
  9. 工程(a)における標的アミノ酸残基のラベル化が、N末端のαアミノ基のラベル化である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
  10. 工程(a)、工程(b)、及び工程(c)をこの順に行う、請求項9に記載の方法。
  11. さらに、次の工程を含む、請求項1に記載の方法。
    (d)該タンパク質のリジン残基を除去又は改変する工程
  12. 請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法により調製されるペプチド混合物試料を質量分析に供し、ラベル化されたペプチド断片に由来するイオンを検出する工程を含むことを特徴とする、ラベル化されたペプチド断片の選択的検出方法。
  13. 前記検出工程において、ペプチド混合物試料をイオン化し、生成したイオンの中からイオン強度が最も高いイオンをラベル化されたペプチド断片に由来するイオンとして選択する、請求項12に記載の方法。
  14. さらに、選択したイオンをフラグメントイオンに解離させて、フラグメントイオンスペクトルを取得し、該フラグメントイオンスペクトルにおいてラベル化に用いた修飾用試薬に対応するm/z値を有するレポーターイオンの存在を検出することにより、該選択したイオンがラベル化されたペプチド断片に由来するイオンであることを確認する、請求項13に記載の方法。
  15. 請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法により調製されるペプチド混合物試料を質量分析に供し、ラベル化されたペプチド断片に由来するイオンを検出する工程、及び該ラベル化されたペプチド断片のアミノ酸配列を決定する工程を含むことを特徴とする、ラベル化されたペプチド断片のアミノ酸配列決定方法。
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